官報資料版 平成15年7月23日




                  ▽平成十四年度食料・農業・農村白書のあらまし…………農林水産省

                  ▽法人企業統計季報(平成十五年一〜三月期調査)………財 務 省











平成14年度


食料・農業・農村白書のあらまし


―食料・農業・農村の動向に関する年次報告―


農林水産省


 「平成十四年度食料・農業・農村の動向に関する年次報告」(食料・農業・農村白書)は、十五年五月二十日閣議決定のうえ、国会に提出、公表された。
 十四年度の白書は、食料・農業・農村が国民のみなさんに身近なものとなるよう冒頭にトピックスを設け、この一年間の特徴的な出来事を紹介している。また、消費者の支持があってはじめて我が国の農業生産、食料供給が成立すること、我が国の農業構造が脆弱化するなか、構造改革を推し進めていかなければならないこと、農村の役割を積極的に評価し、関係者が一体となった内発的な取組みを推進していく必要があることなどを基本認識として、現下の課題を浮き彫りにしながら、その解決に向けた取組みを多様な事例等を用いて紹介し、今後の施策の展開方向やその必要性について国民的な理解を深めることを作成のねらいとしている。
 本報告のあらましは、次のとおりである。

トピックス

(1) 食品の安全性確保とリスク分析
 今日の多様化する「食」の安全性をめぐる諸問題に適切に対処し、国民の健康保護を確保していくためには、食品に「絶対安全」はあり得ないということを前提にして食品のリスクに着目し、国民の意見の反映に配慮しつつ科学的知見に基づいて健康への悪影響を防止・抑制していくことが必要である。こうした考え方はリスク分析と呼ばれる手法を用いて実践される。
 リスク分析は、リスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションという三つの独立かつ統合した要素からなる手法で、食品の安全に関係する分野以外にも金融、環境等の様々な分野で取り入れられている考え方である。
 なお、食品のリスクとは、食品中に危害が存在する結果として生じる健康への悪影響の起こる確率と程度の大きさのことである。

(2) デフレと食料消費等の関係
 十一年から四年連続で消費者物価が下落するなか、食料品価格については、国内卸売価格がほぼ横ばいで推移しているのに対し、消費者価格は下落している。さらに、農家等の農産物の販売価格は消費者価格を大きく上回って下落している。このように、食料品の消費者価格の下落は、農業生産に大きく影響している。

(3) 米政策改革大綱〜改革の理念と特徴〜
 近年、稲作農家の収入が減少するとともに、三十年余にわたり実施されてきた生産調整に対する限界感・不公平感が増大するなど、我が国の水田農業はまさに閉塞状況ともいうべき事態に立ち至っている。
 農林水産省では、水田農業の未来を切り拓くため、十四年十二月三日に「米政策改革大綱」を決定し、今後、この大綱を踏まえ、水田農業政策・米政策の大転換を図ることとしている。
 米政策改革は、今までの米政策・水田農業政策の問題点を踏まえ、「メッセージが明瞭で分かりやすい政策」、「効率的で無駄のない政策」、そして「決定と運用の全てのプロセスについて透明性が確保された政策」を目指すことを基本理念とするとともに、@「米づくりのあるべき姿」への円滑な移行(ソフトランディング)、A課題ごとの改革すべき内容と目標年次の明確化、B農業者や流通業者等の創意工夫が活かされる条件整備、C需給調整、流通、構造政策・経営政策、生産対策のパッケージ性という四つの特徴がある。
 「米づくりのあるべき姿」の実現のためには、農業者・農業者団体はもちろん、行政関係者、流通業者、消費者等の関係者が、この米政策改革大綱の趣旨を踏まえ、一丸となって取り組んでいくことがきわめて重要である。

(4) イネゲノムの解読
 日本が中心となり国際協力のもと進められてきたイネゲノム(イネの全遺伝情報)の解読について、重要部分の解読が終了し、十四年十二月に小泉首相が世界へ向けて解読終了宣言を行った。この解読は九九・九九%の精度で行われたが、主要穀物でこのような高精度での解読は世界初の快挙であり、我が国はその解読の五五%を担当するなど主導的役割を担い、世界に貢献した。
 今後、収量や耐病性等を制御する有用遺伝子の解明や、それを活かした品種改良等の研究の活発化により食料問題の解決等に貢献することが期待される。

(5) バイオマス・ニッポン総合戦略
 バイオマスとは家畜排せつ物、生ごみ等の廃棄物や稲わら、間伐材等の未利用部分をはじめとする動植物が太陽エネルギーを利用して持続的に生み出す資源のことである。この資源の有効活用を目指し政府は十四年十二月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定した(第1図参照)。
 今後、国民一人ひとりがバイオマスを有用な資源として捉え、生ごみの分別を徹底するなど具体的な行動をとるとともに、バイオマス由来の製品を購入するなど地域の様々な関係者と協力しながらバイオマスの積極的な利活用を推進することが望まれる。

(6) 「水と食と農」大臣会議の開催
 世界的に淡水資源の利用可能量は限られており、今後の人口増加に対応して食料の増産を図るためには水資源の持続的な開発と適切な管理を行うことが不可欠になっている。このようななかで、十五年三月に我が国で第三回世界水フォーラムが開催され、農林水産省はFAO(国連食糧農業機関)とともに「水と食と農」大臣会議を開催した。
 五十に及ぶ国と国際機関が参加した同会議では、@食料の安全保障と貧困軽減、A持続可能な水利用、Bパートナーシップの三つの課題に対する今後の行動計画を勧告文として採択した。世界水フォーラムにおける閣僚級国際会議では、この勧告文等を踏まえ、世界の水問題の解決に必要な行動を「閣僚宣言」として取りまとめた。今後、世界各国で水問題の解決に向けた具体的な行動が期待される。

(7) WTO農業交渉
 WTO(世界貿易機関)農業交渉は、「輸出競争」、「市場アクセス」、「国内支持」の主要三分野について交渉が重ねられ、二〇〇三年三月末までのモダリティ(交渉の大枠)確立を目指していたが、過大な要求をしている輸出国側が歩み寄りをみせず、我が国やEU等の連携国との間の溝が埋まらなかったことから、期限内に確立できなかった。

第T章 食料の安定供給システムの構築

第一節 「食」の安全と安心の確保

(1) 食品安全行政の改革
 政府は、「BSE問題に関する調査検討委員会」報告(十四年四月)での提言を受け、リスク評価機関である「食品安全委員会」の設置や「食品安全基本法」の制定を決定した。同法案は、国民の健康保護が最も重要であるとの基本的認識のもと、リスク分析手法を施策の策定にかかる基本方針に位置付けたもので、十五年の通常国会に提出された。
 また、リスク管理のあり方についても見直しが必要となるなか、農林水産省はBSE(牛海綿状脳症)や食品の不正表示問題に対応して、十四年四月に「「食」と「農」の再生プラン」を発表するなど消費者を重視した農林水産行政の確立に向けて大胆な改革を進めている。その一環として、十五年度には、消費者行政とリスク管理業務を担う新局を設置して、リスク管理部門の産業振興部門からの分離・強化を行うこととしている(第2図参照)。

(2) 「食」の情報提供と安全・安心の確保に向けた取組み
 リスク評価機関、リスク管理機関、消費者、生産者、流通関係者等の間で相互に意見交換を実施し合意形成を図るリスクコミュニケーションはリスク分析の中核をなす手段である。この過程では、情報を公開・提供していく行政等の透明性の確保とともに、消費者や生産者の積極的な参画が重要である。こうして十分な情報提供、意見交換等を行いながら食品の安全性を脅かす個別の危害に対処していく必要がある。
 さらに、食品の生産・流通等の履歴を明らかにし消費者の安心を確保するなどの観点から、食品の履歴情報を遡って確認することができるトレーサビリティ・システムの導入が有効である。しかしながら、消費者の同システムについての認知度は低く、今後の普及活動が必要である。
 農林水産省は、牛肉のトレーサビリティ・システムを構築するための法律案を十五年の通常国会に提出した。地方公共団体、民間企業等も食品の生産行程履歴に関する情報の提供に取り組んでおり、これらの取組みを通じて、消費者と生産者の結び付きの強化、「食」と「農」の距離の縮小が期待される。

(3) 無登録農薬問題への対応
 我が国では、農薬取締法により無登録農薬の販売を禁止することで不正な農薬の流通・使用を防止していたが、十四年七月及び八月、無登録農薬を販売していた業者が相次いで逮捕される事件が起きた。また、四十四都道府県において無登録農薬の販売、購入が確認され、無登録農薬であることを知りつつ使用した農家の存在も判明した。
 この事態を招いた一因として、無登録農薬の輸入や使用を禁止していない農薬取締法の不備が指摘され、十四年十二月、同法は緊急に改正された。改正農薬取締法では、製造、輸入、使用の禁止規定の設置とともに罰則を強化した。今後は無登録農薬の流通防止のため、国と地方等行政組織との連携強化や、農薬使用者への適正な農薬の使用についての指導が重要となっている。また、生産者は、消費者に対して安全な農産物を供給する責務があり、農薬の適正使用に努めることが求められる。

(4) 食品表示等の信頼性の回復
 十四年一月以降、食肉の原産地偽装等食品の不正表示事件が全国各地で多数報告され、国民の食品表示に対する信頼度は大きく低下した。そこで政府は、消費者への情報提供及び法律の実効性を確保するため、十四年六月にJAS法を改正し、違反業者名等の公表の迅速化及び罰則の強化を図った。
 こうしたことに加え、消費者自らの判断による適切な商品選択を可能とする食品表示の適正化が重要である。しかしながら、販売店における生鮮食品の原産地等表示については、一割以上が実施しておらず、専門店に至っては不適正割合が五割を超えている状況にあり、今後とも、表示制度の普及・啓発、表示状況の実態調査や店舗に対する指導が重要である。
 また、厚生労働省と農林水産省の連携のもと設置された「食品の表示に関する共同会議」で食品の表示基準全般についての調査審議が行われるなど、わかりやすい食品表示の実現に向けた取組みが進められている。
 さらに、食品の安全性を確保するためには、個々の事業者が消費者重視を基本として法令を遵守することが求められる。
 以上のことを踏まえ、「食」に携わるすべての者は、原点に立ち返り、不断の努力をもって消費者の信頼を回復し獲得していく必要がある。

第二節 食料消費をめぐる動き

(1) 最近の食料消費の動向
 十三年度には食料品価格はほとんどの品目で下落し、食料品全体で前年度比一・四%減、非農家世帯の世帯員一人当たり実質食料消費支出(食料費)は同〇・五%減となった。十四年四〜十二月期では、食料品価格は引き続き下落(同〇・一%減)しているものの、実質食料費支出は増加(同一・一%増)した。
 このようななかで、アンケート調査によると十三年と十四年を比較した食事摂取構成割合は、朝食はほとんど変化していないが、昼食は外食が減少し家庭弁当などの内食や市販弁当、調理食品などの中食が増加、夕食はわずかに家庭内食が増加した。

(2) 我が国の食生活の現状
 我が国の食料消費は、高度経済成長以降に所得の向上を背景として量的に大きく変化し、近年は多様化志向、健康・安全性志向等、質的に大きく変化している。このようななかで、食生活については、ライフスタイルの変化等や多様化する消費者ニーズに対応して食料品の消費・購入形態が変化した結果、長期的には「食」の外部化が進展した。
 以上のような食料消費や食生活の量的・質的な変化の過程で、栄養素摂取のバランスの崩れや過不足といった栄養面での問題が発生している。健康維持のため、必要な栄養素について多様な食品を適切に組み合わせ、食事全体からバランス良く摂取することが必要である。

(3) 食育の推進
 「食」と「農」の距離が拡大するなかで、近年は若い世代ほど「食」に対する知識が低く、健全な食生活が実践されていない状況にあることから、「食」に関する知識の習得と実践を通じた能力・資質の向上に向けた取組みが重要である。この際、地域社会におけるコミュニケーションが低下するなかで「食」に関する理解を深める機会が失われてきたことを踏まえ、家庭や学校教育等の様々な場面で望ましい食習慣の実現や地域の食文化等について、情報の交流や体験の場の提供に取り組むことが求められる。
 こうしたなか、文部科学省、厚生労働省、農林水産省は、三省連携による食育推進連絡会議を十四年十一月に設置し、食生活の改善や食品の安全性に関する情報提供等を内容とする「食育」を推進しており、農林水産省では、毎年一月を「食を考える月間」とし、各種の取組みを実施している。これらの取組みの推進により、食育への取組みが国民的運動になることが期待される。
 一方、近年、いわゆる「地産地消」や「スローフード」への取組みが広がりはじめており、多様な食材を活かしバランスのとれた「日本型食生活」の実践や食料自給率の向上への貢献が期待されている。

(4) 食料産業の動向
 「食」を提供する農業、食品産業等のいわゆる食料産業は、全産業の国内総生産の一〇・一%(十二年度)を占める「一割産業」であるほか、全就業者数の二割が携わる雇用の場となるなど地域経済にとって重要な地位を占めている。このうち、食品産業については、厳しい経済情勢やデフレのなか、家計の外食支出や外食単価の減少により外食産業の市場規模(売上高)は十年以降縮小傾向にある一方、弁当、おにぎり、惣菜といった中食の市場規模は増加傾向にある。
 こうしたなか、食品産業は商品の低価格化だけでなく、国産農産物を使用することによる商品の差別化を図り、農業者は食品産業のニーズに積極的にこたえるなど、農業と食品産業が連携し互いに継続的に収益を上げられるような取組みの推進が必要である。

第三節 世界の農産物需給と食料自給率

(1) 穀物等の国際需給動向と我が国の国際協力の取組み
 世界の穀物等の需給は、二〇〇二年に入り、主要生産国での干ばつ等を要因に引き締まり傾向にある。中長期的にはひっ迫する可能性も指摘されており、世界の人口増加が需要拡大の大きな要因となっている。また、開発途上国において、所得水準の上昇等に伴い飼料用を含む穀物需要が大幅に増加する可能性もある。一方、一人当たりの穀物生産量の減少や新たな水資源の確保の困難性等が供給面での不安定要因として懸念される。
 以上に加え、食料の生産地と消費地の地理的偏在や食料購入のための富の偏在も世界全体の食料需給に影響を及ぼし得る要素である。栄養不足人口が集中するアジアやアフリカ等の開発途上国に対し、我が国は食料の確保に資する農村開発等の支援を行っており、引き続き非政府組織(NGO)等の活動と連携を図りながら各種支援を推進していく必要がある。
 また、世界の食料需給をみるうえで、世界人口の約二割を占める中国の動向が注目される。需要面についてみると、人口の増加や生活水準の向上に伴い食肉消費が増加しているほか、国内での食用油脂の需要増加により、近年大豆輸入が急増している。一方、供給面では、主に内陸部において、風や水による浸食といった自然の要因に加え、人口の急増を背景とした過放牧・過耕作等の人為的な要因による砂漠化が進行している。

(2) 我が国の農産物貿易の動向
 我が国の農産物輸入(金額ベース)は、国民所得の増加に伴う食生活の多様化・高度化の進行により、素材型の農産物の割合が徐々に低下し、付加価値や単価の高い加工品や半加工品の割合が増加した。さらに近年は、より安価な原材料等を求める食品産業のニーズの増大や輸送技術の進歩等により生鮮品の割合が増加している。このため、生鮮野菜の我が国への最大の輸出国である中国への依存度が増大している。
 世界最大の農産物純輸入国である我が国は、こうした輸入に食料の六割(カロリーベース)を依存している。これは、世界中で砂漠化の進行や異常気象による農業への被害等の問題が発生しているなか、我が国が海外の農地や水資源に多くを依存していることを意味する。また、その輸送のために多くの二酸化炭素を排出しており、輸入への過度の依存は、地球的規模での環境悪化の要因となる可能性もある。

(3) 食料自給率の動向
 十三年度の食料消費は、米や肉類が減少したが、魚介類は増加した。国内生産は、大豆、果実、小麦は増加したが、野菜、肉類、魚介類で減少した。これらの結果、カロリーベースの総合食料自給率は十年度以降四年連続で四〇%となり、主要先進国の中で最低の水準となっている。
 一方、我が国は、食料・農業・農村基本計画(十二年三月閣議決定)において、種々の課題の解決を前提に二十二年度までにカロリーベースの総合食料自給率を四五%とする目標を定めている。これを達成するため、消費面では、「食生活指針」の理解と実践の促進等による食生活の見直し、生産面では、基本計画で示された品目ごとの生産性や品質の向上等の課題の解決に向けた取組みについて、国のみならず、消費者、食品産業事業者及び農業者等の関係者全体で努力することが重要である。

第四節 諸外国の農業政策とWTO等をめぐる動き

(1) 諸外国の農政をめぐる動き
 米国では、二〇〇二年五月に成立した新農業法において新たに価格変動対応型支払い制度等を導入した。この改正により、小麦、とうもろこし、大豆等の主要作物の生産者の所得は、過去の生産面積を基準として保証されることとなった。
 EUでは、共通農業政策(CAP)について、価格支持から生産刺激的でない直接支払いへの切替え等を内容とする改革を推進しており、二〇〇三年一月にはCAPの中間見直しの改訂案を公表し、加盟国間で議論している。

(2) WTO農業交渉の動向
 WTO農業交渉において、米国やオーストラリア等の輸出国は、すべての関税を五年間で一律二五%未満に削減すること、アクセス数量の一律拡大を図ること、緑の政策以外の国内支持は一定の期間内で一律に一定水準まで削減した後にそれぞれ将来的に撤廃すること等を主張している。これに対し、我が国やEU等は、ウルグァイ・ラウンド方式による関税引下げ、総合AMS方式による国内支持の削減等、非貿易的関心事項を反映させるための品目ごとの柔軟性を確保し得る方式を主張している。
 二〇〇三年二月にWTO農業委員会特別会合議長が提示したモダリティ一次案は、現実的なモダリティを確立するために必要な「柔軟性」、「継続性」、「バランス」が確保されておらず、我が国としては総体として受け入れ難い内容であった。
 同年三月に一次案の改定版が提示されたが、非貿易的関心事項への配慮、各国間の負担の公平性等に欠けているうえ、全体として一定の輸出国に特に有利な内容となっていることから、我が国としては一次案と同様、総体として受け入れ難い内容であった。一方、米国やケアンズ諸国は、一律かつ一層大幅な関税等の削減が必要であり、提案は不十分であると主張した。
 二〇〇三年三月の期限までにモダリティは確立できなかったが、我が国としては、引き続きEU等のフレンズ国等と十分に連携しながら、我が国の主張に対する各国のさらなる理解を得る努力を粘り強く継続し、「多様な農業の共存」を基本とする十分にバランスのとれた現実的な合意が形成されるよう最善を尽くすこととしている。

(3) 各国との経済連携強化等への取組み
 自由貿易協定では主要セクターを完全に対象外とすることは認められない一方、これまでの自由貿易協定には例外品目が設けられているものがある。こうしたことを踏まえつつ、自由貿易協定における我が国の農産物の取扱いに関しては、国内農業の構造改革への影響、我が国の食料安全保障の観点、既存の輸出国と新たな貿易摩擦を誘発する可能性に留意が必要である。
 また、近年、先進国サミット等において開発途上国への支援が重要課題として取りあげられていることを踏まえ、我が国は、十五年度関税改正において農産物の特恵関税措置を大幅に拡充することとした。

第U章 構造改革を通じた農業の持続的な発展

第一節 農業経済の動向

(1) 農業総産出額の推移
 十三年の我が国の農業総産出額は、約八兆九千億円となり、ピーク時(昭和五十九年)に比べ約二兆九千億円、二四%減少した。農産物生産者価格指数は過去十年間で約二割低下しており、近年の農業総産出額の減少は、農産物価格の連続的な下落が大きく影響している。

(2) 最近の農業生産の動向
 十三年の農業生産(数量)は、果実、豆類、麦類等が増加したものの、米、野菜、畜産物等が減少し、前年比一・七%減となった。農産物生産者価格は、野菜、畜産物は上昇したものの、その他の品目が下落したことから同〇・二%減となった。農業生産資材価格は、飼料や光熱動力等が上昇し、同〇・四%増となった。
 また、農業の交易条件指数は悪化が続いており、前年に比べ一・六ポイント低下した。資材供給面からの交易条件の改善には、農業生産資材の流通等の合理化とコスト低減が必要であり、特に、流通の大宗を担う農協系統の取組みが重要である。

(3) 農家経済の動向
 十三年の販売農家一戸当たり農業所得は百三万四千円(前年比四・六%減)となった。農外所得も前年より減少したため、農家総所得は八百二万二千円(同三・一%減)で九年以降連続しての減少となった。農家総所得から家計費や租税公課諸負担を控除した農家経済余剰も減少傾向で推移した。また、農家総所得の減少率は拡大傾向にあるが、近年のこうした傾向は、農業所得の減少に加え、農外所得の大幅な減少によってもたらされており、農家総所得の六割を占める農外所得の増減が農家経済に大きく影響している。
 こうしたなか、農家経済の悪化により農業投資は減少傾向で推移しており、規模拡大等新たな経営展開の動きに悪影響をもたらすことが懸念される。

(4) 農家・農業労働力の動向
ア 農家戸数及び農家人口
 十四年の総農家戸数は三百三万戸である。このうち販売農家は二百二十五万戸で、農業所得への依存度が低い副業的農家が過半を占める一方、主業農家や準主業農家の割合は低下傾向にある。特に、稲作経営においては、農産物価格の低迷等を背景に七〜十二年にかけての主業農家の減少割合が都府県で六八%となるなど顕著である。
 十四年の農家人口(農家世帯員)は、農家戸数の減少や核家族化の進行により前年に比べ二十七万人減少し九百九十万人となった。このうち、六十五歳以上の者が三〇%を占めるなど、高齢化は著しく進行している。
イ 新規就農者の動向
 非農家出身者の農業に対する関心の高まり等から新規就農者は増加傾向にある。このため、農業法人への就職就農等多様化する就農経路等に応じたきめ細かな支援が重要である。
ウ 女性農業者の動向
 女性は農業就業人口の約六割を占め、起業活動等を通じて農業や農村の活性化に大きく貢献している。今後とも、出産・育児期の支援等を通じて女性の社会参画や農業経営への参画を促進していくことが重要である。

第二節 我が国農業の生産構造の現状と構造改革の加速化

(1) 農業の構造改革の現状と課題
ア 農業構造の動向
 昭和五十年以降、総農家戸数及び経営耕地面積はともに減少を続けているものの、前者の減少率が後者のそれを上回って推移していることから、農家一戸当たりの経営耕地面積はわずかながら拡大を続けている。
 しかしながら、近年、耕作放棄地が急増していることや自給的農家の「滞留傾向」が強まっていることを背景に、経営耕地面積の減少率は総農家戸数の減少率に近づく傾向がみられ、規模拡大の動きが鈍化している。
イ 経営部門別の農業構造の進捗状況
 酪農単一経営では、九割を占める主業農家に経営耕地、農業固定資本のほとんどが集積されているのに対し、稲作単一経営では、主業農家は七%しか存在せず、これら主業農家の占める経営耕地、農業固定資本はわずか二割程度にすぎない(第3図参照)。また、農業産出額における主業農家の帰属割合も、米(三六%)では、他品目(七〜九割)を大きく下回る状況にある。
 以上のように、稲作部門においては、構造改革が著しく遅れている状況にあり、意欲と能力のある農業経営に農地、資本等の農業生産資源を集中させ、構造改革を進めていくことが特に重要である。
ウ 農業の構造改革に向けた課題
 大規模経営への農地の利用集積は着実に進展しているが、大規模経営の農家戸数の増加率は低下してきており、規模拡大の鈍化がみられる。経営規模別に農家の階層移動の状況(七〜十二年)をみると、全体的に下位階層へ分化する傾向にある。また、農業労働力の高齢化は著しく進行し、大規模経営においても基幹的農業従事者に占める六十五歳以上の者の割合は、二〜十二年に二倍以上増加した(一〇・五%→二三・一%)。こうした動きは、農業の構造改革の後退的な動きをもたらすものとして懸念される。
 このような情勢のなかで、農業の構造改革の着実な歩みを一層加速化させることが重要であり、意欲のある経営体が躍進するための環境条件の見直しをはじめとする制度・政策改革を的確かつ機動的に行っていくことが喫緊の課題である。

(2) 効率的かつ安定的な農業経営の育成
ア 認定農業者の育成
 認定農業者数は十四年十二月現在で十六万七千人に到達した。目標所得の達成等に向け、認定農業者制度の十分な検証や見直しと併せ、思い切った施策の集中化・重点化が必要である。
イ 法人化の推進
 法人化は多角化等新たな経営展開に有効である。このため、農外企業との提携の促進等、企業的農業経営の展開に向けてさらなる環境整備が必要である。また、構造改革特区の導入により、多様な形態の参入促進も期待される。
ウ 育成すべき農業経営の新たな展開
 「米政策改革大綱」において、集落営農のうち一定の要件を満たすものを「集落型経営体」として、新たに、育成すべき農業経営として位置付けた。これを法人化していく取組み等を通じ、多様な担い手の確保と農地の利用集積の促進による水田農業の構造改革の加速化が期待される。
エ 大規模経営の現状と課題〜効率的かつ安定的な農業経営の一例として〜
 稲作経営では、経営規模が大きいほど農地、農業機械等を十分に活用し効率的な農業経営を実現している。しかしながら、近年の農産物価格の下落が、収益力の低下という形で農家全体の経営を悪化させており、その影響は大規模経営にも及びつつある。
 こうしたなかで、農産物の生産だけではなく、農産物加工、小売店や消費者への直接販売、契約生産等経営の多角化に取り組む経営体もみられ、大規模ほどその取組割合が高い。これらの経営体は、多角化に取り組んでいない農家に比べ単位面積当たりの農産物販売金額が高く、より付加価値の高い農業生産を実現している。
オ 担い手の経営安定のための施策
 需給事情や品質評価を適切に反映して農産物価格が形成されるという状況下において、価格の著しい変動による農業収入または所得の変動を軽減するためのセーフティネットを整備することが求められている。
 このため、水田農業においては、「米政策改革大綱」に基づき、生産調整を実施している者であって米価下落による稲作収入の減少の影響が大きい担い手を対象とした「担い手経営安定対策」の実施に向けた検討が始まっている。

(3) 農地の確保と有効利用
 耕地面積は、昭和三十六年から平成十四年までに二割減少した(六百九万ヘクタール→四百七十六万ヘクタール)。かい廃要因をみると、近年、転用は減少傾向にある一方、耕作放棄地は増加傾向にある。また、耕地利用率は長期的には低下傾向にある(十三年九四・三%)。食料・農業・農村基本計画において二十二年に見込んでいる農地面積(四百七十万ヘクタール)、耕地利用率(一〇五%)を実現するため、不作付け地の解消や転作田の有効活用等を加速化していく必要がある。
 こうしたなか、傾斜地や未整備のほ場が多いことなどから耕作放棄が進行している中山間地域においては、「中山間地域等直接支払制度」のもと、十三年度までに七千ヘクタールの農地が新たに農振農用地区域に編入されるなど、同制度が耕作放棄の抑制に一定の役割を発揮している。
 他方、農地の権利移動面積は貸借を中心に増加している。しかしながら、近年、農産物価格の低迷や生産調整の強化等から、認定農業者への集積のテンポは漸減傾向にある。このため、農地利用集積の各対策の推進と認定農業者等への施策の集中化等、一層の取組みの強化が求められる。

(4) 農協の現状と課題
 農協は、農産物価格の低迷や消費者ニーズの多様化等、農協を取り巻く環境の変化に十分に対応しきれておらず、合併効果の発現も不十分で大規模農家を中心に農協離れの傾向もみられる。
 また、比較的収益性の高い共済・信用事業への依存が、農協本来の役割である地域農業振興への取組みをおろそかにし、営農・経済事業等赤字部門の改革を阻害している側面がある。このため、農協系統においては、生産資材コストを削減する等、経済事業を中心とした一層の改革を主体的かつ速やかに実践し、農協改革に対する農業者や消費者等国民各層の支持と理解を得ていく必要がある。

第三節 米政策の改革と農産物需給の動向

(1) 米政策の改革
 米の消費量が減少傾向で推移するなかで、過剰基調の継続により米価が低下し、担い手を中心に水田農業経営が困難な状況になっている。加えて、耕作放棄地の増加、農業労働力の高齢化の進行などを背景に水田農業の構造改革が重要な課題となっている。さらに、ニーズの多様化に対応した安定供給の必要性が高まっている。このため、水田農業政策・米政策の大転換を目指して、十四年十二月に「米政策改革大綱」が策定された。
ア 米政策の改革の視点
 水田農業の再構築に当たっては、@農業者の主体的な経営判断の尊重、A需要に見合った米づくり、B関係者の創意工夫、C地域の特色ある農業の展開、D水田農業の構造改革の促進、E公平・不公平の問題についての対応、Fセーフティネットの整備、といった視点に立った検討が重要である。
イ 米政策の改革方向
 米政策改革大綱には、メッセージが明瞭で分かりやすい政策、効率的で無駄のない政策、決定と運用のすべての過程について透明性が確保された政策の三つの理念と、円滑な移行(ソフトランディング)、目標の明確化、関係者の創意工夫(主体的判断)、政策全体の一体性の確保の四つの大きな特徴がある。
ウ 米政策の改革の具体的内容
 @需給調整では、遅くとも二十年度には農業者・農業者団体が主役となる仕組みの構築、当面の需給調整を生産数量により調整する方式への転換、助成金体系の全国一律の方式から地域の創意工夫を活かした方式への転換、A流通制度では、規制を必要最小限にすることによる創意工夫ある米流通の実現、B関連対策では、経営政策・構造政策の構築等を実施することとしている。

(2) 主な品目の需給動向等
ア 米
 近年の米の需給は、大幅な緩和基調で推移している。一方、「食」の外部化、簡便化を背景に外食産業における米の使用量や無洗米、加工米飯の生産量が増加している。
 米の消費拡大は、健全な食生活の実現、食料自給率の向上にもつながる重要な取組みであり、国民運動的な展開を図ることが必要で、特に子ども達への伝統的な食文化の継承等の役割を担う米飯学校給食の機会増加、食育の充実等の取組みが必要である。
イ 麦、大豆
 麦・大豆の生産は拡大基調で推移している。しかしながら、品質向上等の伴わない生産量の急増により需給のミスマッチが拡大しており、品質の向上・安定を図ることが必要である。また、消費面でも地産地消等の取組みを推進することが重要である。
ウ 野菜、果実
 野菜の生産量は近年減少傾向にある。増加傾向にあった輸入量は、十四年は前年に比べ減少した。国際競争に対応するため、生産・流通両面にわたる構造改革の推進を通じ消費者等から選好される品質・価格での供給を実現する必要がある。
 十三年産の果実全体の生産量は前年に比べ増加した。果実については、健康機能性等についての知識の浸透と消費拡大に向け「毎日くだもの二百グラム運動」の推進が求められる。
エ 畜産
 BSE発生(十三年九月)直後に減退した牛肉消費量は、と畜場における全頭検査体制の確立(同年十月)等を境に回復に向かい、それに伴い生産量や枝肉価格も回復してきた。しかし、発生当初の畜産物価格の下落により肉用牛肥育経営等の収益性は悪化したため、各種対策が実施された。今後は、十四年七月に施行されたBSE対策特別措置法に基づき、食肉等の安全確保や畜産農家の経営安定に万全を期すこととしている。
 また、畜産においては、自給飼料増産の推進が重要な課題であり、水田での飼料作物生産や耕作放棄地での放牧など農地の畜産的利用の推進が求められる。こうしたなか、水田を有効に活用できる稲発酵粗飼料の作付けが近年増加しているなど、耕種農家と畜産農家の連携が始まっている。

第V章 活力ある美しい農村と循環型社会の実現

第一節 農業の自然循環機能の維持増進

(1) 地球環境と農業
 農業は自然の循環過程のなかで営まれ、環境と相互に影響し合うことから、地球温暖化問題をはじめ地球環境問題の解決のためにも、環境と調和した持続的な農業の展開を通じて、循環型社会を構築していくことが重要となっている。
 他方、世界の食料生産の動向を不透明にする地球温暖化問題への対応が急務となっており、その解決に向けて、先進国と開発途上国がともに自らの責務を自覚し、協力のもと諸対策を実行していくことが求められる。こうした観点からも、「京都議定書」の発効に向けて、世界最大の二酸化炭素排出国である米国に対し、主体的な取組みを求めていくことは重要である。

(2) 農業の自然循環機能を活用した生産方式の普及・定着
 農業の自然循環機能の維持増進を図り、良好な環境を形成するため、環境保全型農業の普及・定着が必要となるなか、エコファーマーや有機JAS認証制度による認証農家は着実に増加している。
 環境保全型農業の取組状況をみると、大規模層ほどその取組割合が高い、また、取組農家の多くが契約生産を実施しているなど、活力のある生産者が積極的に取り組み、消費者のニーズに対応している。一方、有機JAS認証制度については、生産者の同制度の存在や利点への理解がいまだ不十分な面もあり、同制度の一層の普及・啓発が急務となっている。

(3) 農業の有する多面的機能の内容
 農村での適切な農業生産活動により生じる多面的機能には、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等様々なものがあり、これらの機能は、国民生活や国民経済にとって重要な役割を果たしている。
 多面的機能の発揮は、住民の共同作業による生産活動や水路維持等により維持されている一方、集落の消滅等で農地が荒廃し多面的機能が失われれば、損失は膨大なものとなる。このため、多面的機能に対する国民の理解を一層深める必要があり、子ども達の農業体験や都市農村交流を通じた啓発等の推進が求められる。

第二節 バイオマスの持続的活用に向けた農山漁村の役割

(1) バイオマス利活用の意義
 バイオマスは、利活用の過程で大気中の二酸化炭素を実質上増加させない。また、農林漁業との関連が強く、農山漁村に豊富に存在する。このため、その利活用は地球温暖化防止、循環型社会の形成、農林漁業の自然循環機能の維持増進、持続的な農山漁村の発展に貢献する。さらに、エネルギーや工業製品の供給等農林漁業に新たな役割を付与することも期待される。
 以上のことを踏まえると、今後、生産から利用までの各段階での積極的な取組みが必要であり、「バイオマス・ニッポン総合戦略」(十四年十二月閣議決定)に基づき、二十二年度までにバイオマスの利活用促進にかかわる環境整備等が集中的・計画的に実施されることとなった。

(2) 我が国のバイオマス利活用の現状
 現時点では、経済性等の観点から家畜排せつ物等の廃棄物系バイオマスの利活用が進展している。これに対し、収集コストの問題から未利用資源の利用やエネルギー等を得ることを目的とした資源作物の栽培等は低調である。これらについても今後効率の高い収集技術の開発・実用化等を進め、経済性の向上を図ることが重要である。

(3) バイオマスの持続的活用に果たす都市と農山漁村の現状と展望
 廃棄物系バイオマスの利活用に際しては、効率的な収集・輸送システムの構築とともに、製品原料、エネルギー原料等への利活用も視野に入れて、まず経済性等を有する農山漁村とその近郊都市等との間で連携を始めることが必要である。
 こうしたなか、廃棄物の増大等を背景に、都市と農村が連携し廃棄物系バイオマスの利活用を図る先進事例も現れている。

第三節 活力ある農村の実現に向けた振興方策

(1) 農村の現状
 我が国では、地方から三大都市圏への人口移動が長期的に続いている。近年は、特に東京圏への人口集中傾向が強まる一方、地方圏における人口減少は続いている(第4図参照)。農業地域類型別にみても、都市的地域を除く全地域で人口は減少している。
 また、農家世帯構成の推移をみると、二十四歳以下の世帯員が減少する一方、六十五歳以上の高齢者世帯員は増加を続けている。さらに、農業集落数も減少が続いており、特に農家率の高い集落は大幅に減少している。農家人口が少ない集落ほど年間寄合回数が少ないといった傾向がみられ、集落活動の停滞が懸念される状況にある。
 なお、現下の経済状況の影響は農村にも及んでおり、過去十年間で完全失業率が約二倍に上昇(二年二・四%→十二年三・九%)し、また近年、地方圏における高校卒業者の求人倍率の低下が顕著となっている。

(2) 活力ある農村の実現に向けて
ア 魅力にあふれる地域づくり
 人々の意識が「ものの豊かさ」から「心の豊かさ」重視に変化しているなか、アンケート調査によると、七割近くの都市住民が農村に自然や文化など多くの魅力が残っていると感じている。また、農村を訪問する際には農村の生活や農作業に触れられる活動が最も望まれるのに対し、農村に定住する際には地域づくりや自然環境の保全活動が望まれるなど、都市住民が農村とのかかわりを深めるほど能動的な活動が期待される。
 こうしたなか、農村には、優れた建築物や伝統芸能等をはじめ農業にかかる有形・無形の財産が存在しており、都市と農村の積極的な交流を通じてこれらを新たな資源として再評価することが重要となっている。
イ 農村の内発的な活性化の推進
 近年、健康増進や安心できる農作物の栽培等を目的に都市住民の市民農園への要望が高まっている。それに対応して、地方公共団体による開設が増加しており、滞在型市民農園は全国に四十九地区開設されている(十四年三月末)。ここでは利用者は「周辺住民との挨拶」から「援農」まで幅広く交流しており、施設を核に都市住民と地域づくりを行う体制の構築が期待される。
 また、新たな産業創出への期待を受け、グリーン・ツーリズムの推進が求められている。こうしたなか、多くの地方公共団体等から「構造改革特区」での農家民宿の開業等に関する規制緩和が提案された。今後、諸規制の緩和の措置状況、許認可等の手続きの積極的な情報提供等による開業への条件整備が必要である。
 なお、農業生産や社会活動だけでなく新産業の担い手としても高齢者は重要な役割を果たしている。高齢者が農業生産や販売等へ携わることにより、地域の連携や人とのふれあい等がはぐくまれ、さらに地域活動を通じ若い世代へ伝統文化が伝承されている。他方、高齢者介護への対応が課題となるなか、家族介護中心の農家世帯では、家族の負担を軽減するため短期的に介護施設を利用しているとみられる。今後、過疎化の進行に伴い、農協等の地元組織が連携して地域の医療・福祉を担っていくことが重要である。
ウ 農村の社会基盤の整備
 市町村農政担当者に対するアンケート調査によると、「活力を有する」と回答した一割強の市町村のうち、九割の市町村が五年程度前に実施した公共事業が役立っていると認識している。しかしながら、町村部の基礎的な生活環境施設の整備は依然低水準にあり、今後の活性化のためには、商業施設、汚水処理施設等の生活基盤の整備が必要である。また、農村における情報通信基盤についても、農村と県庁所在地とのインターネット利用率に依然格差が存在している状況のもと、新たな格差が生じないようにするためにも、整備を推進する必要がある。これは、農村と都市との間で双方向に情報が行き交う循環型社会を形成するうえでも重要である。
 一方、社会基盤を整備する際、効率優先の事業による生態系等の悪化を防止するため、専門家等の意見等に基づき環境に配慮した事業地域等を将来構想に位置付け、地域住民等との合意形成を図りつつ継続的に監視したり、NPO等と連携して積極的に自然再生を図っていかなければならない。
 こうしたなか、一部の市町村では、優良農地等の個別的な転用といった、計画的な土地利用や地域の景観上問題となる事案に対応するため、土地利用に関する条例を制定し、これに基づき地域特性に応じた土地利用計画や土地利用調整に取り組んでおり、こうした取組みの広がりが期待される。あわせて、地域住民等が主体的に目標とすべき農村像を明確化し、土地利用を含め計画段階から関連事業や施策を一体的に実施することが求められており、各府省が連携して地方公共団体等に対し、計画立案や調整に関する助言等を行うことが必要となっている。




歳時記


雲海

 最近は登山ブームなので、雲海と聞くと、山の頂上に立って眺めた雄大な風景を思い出して、今年の夏もぜひ見たいと思う方も多いことでしょう。
 雲海というのは、二千メートル以上くらいの高い山から見る、雲が海のようにいっぱいに広がった風景のことです。高層雲が一面に広がり、その上が平ら、または波立つようになって海のように見えるのです。
 雲海は夏の季語になっていますが、夏は登山しやすい季節で、この現象を見ることが多いからでしょう。
 しかし、雲海を詠んだ句は少ないようです。昔はレジャーより、信仰のために山に登る人が多く、一句詠むという余裕がなかったのでしょうか。現在は登山道、登山自動車道などが整備され、ロープウエーやケーブルカーも利用でき、昔に比べて山頂近くまで行くことは用意であることを思えば、隔世の感を覚えます。
 山で最も感動的なのが、雲海などから太陽が上る、ご来光(らいこう)の瞬間です。ご来迎(らいごう)ともいいますが、日の出や日の入りのとき、高山で雲に映った自分の影や光の環(わ)が見える様子“ブロッケン現象”を、ご来迎と呼ぶこともあります。
 登山に限らず、夏は野外活動のベストシーズンです。七月は「自然に親しむ運動」として、自然保護思想の啓蒙および、自然教育の推進のために全国の国立公園で、自然観察会などの行事が行われます。この機会にもっと自然に親しみたいものです。




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法人企業統計季報


平成十五年一〜三月期調査


財 務 省


 法人企業統計調査は、統計法(昭和二十二年法律第十八号)に基づく指定統計第百十号として、我が国における金融・保険業を除く資本金一千万円以上の営利法人を対象に、企業活動の短期動向を把握することを目的として、四半期ごとの仮決算計数を調査しているものである。
 本調査結果については、国民所得統計の推計をはじめ、景気判断の基礎資料等として広く利用されている。
 この調査は標本調査であり、標本法人は層別無作為抽出法により抽出し、回収した調査票は業種別、資本金階層別に集計を行い、これを母集団に拡大して推計値を算定した。
 なお、平成十三年十〜十二月期調査から売上高、経常利益及び設備投資の三項目(業種については、全業種、製造業及び非製造業の三系列とし、資本金規模はそれぞれ全規模のみ)について、参考値として、季節調整済前期比増加率を公表している(詳細は最後尾を参照)。
 以下は、平成十五年六月五日に発表した平成十五年一〜三月期における調査結果の概要である。
 今回の調査対象法人数等は次のとおりである。
  調査対象法人  一、二〇六、七二七社
  標本法人数      二三、〇五五社
  回答法人数      一八、一二八社
  回答率          七八・六%
 当調査結果から平成十五年一〜三月期の経営動向をみると、売上高については、製造業は引き続き増収となり、非製造業は引き続き減収となった。経常利益については、製造業は引き続き増益となり、非製造業は引き続き減益となった。また、設備投資については、製造業は引き続き減少となり、非製造業は減少に転じた。

一 売上高と利益の動向第1図第2図参照

(1) 売上高第1表参照
 売上高は、三百二十七兆二千四百四十二億円で、対前年同期(三百三十一兆八千一億円)を四兆五千五百五十九億円下回り、前年同期増加率(以下「増加率」という)は△一・四%(前期△五・〇%)となった。
 業種別にみると、製造業では、食料品、電気機械などが減収となったものの、化学、輸送用機械、出版・印刷などの業種で増収となったことから、製造業全体では三・六%(同二・六%)の増収となった。一方、非製造業では、不動産業などで増収となったものの、サービス業、卸・小売業、建設業などの業種で減収となったことから、非製造業全体では△三・三%(同△八・〇%)の減収となった。
 資本金階層別の増加率をみると、資本金十億円以上の階層は二・二%(同〇・九%)、資本金一億円以上十億円未満の階層は三・〇%(同三・四%)、資本金一千万円以上一億円未満の階層は△六・三%(同△一二・五%)となった。

(2) 経常利益第2表参照
 経常利益は、十兆三千二百七十七億円で、前年同期(九兆三千八百八十一億円)を九千三百九十六億円上回り、増加率は一〇・〇%(前期二二・七%)となった。
 業種別にみると、製造業では、食料品、輸送用機械などで減益となったものの、電気機械、金属製品、化学などで増益となったことから、製造業全体では三六・六%(同七二・七%)の増益となった。一方、非製造業では、不動産業、運輸・通信業などで増益となったものの、卸・小売業、サービス業、電気業などで減益となったことから、非製造業全体では△一・二%(同△一・七%)の減益となった。
 資本金階層別の増加率をみると、資本金十億円以上の階層は二二・五%(同五一・四%)、資本金一億円以上十億円未満の階層は一二・七%(同三九・一%)、資本金一千万円以上一億円未満の階層は△一・七%(同△一五・四%)となった。

(3) 利益率第3表参照
 売上高経常利益率は、三・二%(前年同期二・八%、前期二・九%)となった。
 業種別にみると、製造業は三・九%(前年同期三・〇%、前期四・四%)、非製造業は二・八%(前年同期二・八%、前期二・二%)となった。

二 投資の動向第3図参照

(1) 設備投資第4表参照
 設備投資額は、十兆七千二百三十億円で、対前年同期増加率は△三・〇%(前期△一・八%)となった。
 業種別にみると、製造業は、輸送用機械、化学などが増加したものの、電気機械、金属製品、出版・印刷などで減少したことから、製造業全体では△五・五%(同△一〇・八%)の減少となった。一方、非製造業では、サービス業、運輸・通信業などで増加したものの、卸・小売業、電気業、建設業などの業種で減少したことから、非製造業全体では△一・九%(同二・四%)の減少となった。
 資本金階層別の増加率をみると、資本金十億円以上の階層は△三・六%(同△一・三%)、資本金一億円以上十億円未満の階層は△三・三%(同一・三%)、資本金一千万円以上一億円未満の階層は△一・二%(同△四・七%)となった。
 なお、ソフトウェア投資額は八千六百二十五億円となり、ソフトウェア投資を含んだ設備投資額は十一兆五千八百五十五億円で、増加率は△一・七%となった。

(2) 在庫投資第5表参照
 在庫投資額(期末棚卸資産から期首棚卸資産を控除した額)は、△十二兆一千三百十八億円 (前年同期△十四兆五千百三十六億円)となった。
 業種別にみると、製造業の投資額は△三兆二千百十五億円(同△三兆八千八百四十一億円)、非製造業の投資額は△八兆九千二百四億円(同△十兆六千二百九十五億円)となった。
 また、在庫率は七・七%(同八・〇%)となった。

三 資金事情第6表参照

 受取手形・売掛金は、二百五兆八千五百十億円(増加率△二・一%)、支払手形・買掛金は百六十八兆百四十三億円(同△三・六%)となった。
 短期借入金は百九十二兆七千九百二十億円(同四・二%)、長期借入金は二百四十九兆七千二百六十五億円(同△六・〇%)となった。
 現金・預金は百二十六兆五千八百三十二億円(同〇・六%)、有価証券は十四兆一千八百九十七億円(同△二・三%)となった。
 また、手元流動性は一〇・七%(前年同期一〇・五%)となった。

四 自己資本比率第7表第4図参照

 自己資本比率は、二七・七%(前年同期二六・三%)となった。

<参考>

◇四半期別法人企業統計調査の季節調整方法について

一 採用した季節調整法

(1) 法人企業統計の季節調整法
 法人企業統計における季節調整では、米国商務省センサス局で開発しているX−12−ARIMA(2002)(Version0.2.9)を用いて季節調整系列を作成している。
(2) Reg−ARIMAモデルの選択
 X−12−ARIMAの中のReg−ARIMAモデルにおける階差次数・季節階差次数はそれぞれ一に固定し、他の次数は二以下の範囲内でAIC(赤池情報量規準)の最小化により定めている。
(3) 選択されたReg−ARIMAモデル
 対象項目、業種ごとに参考表のReg−ARIMAモデル対応表のスペックを使用している。
 変化点・異常値分析の結果、売上高と経常利益の非製造業については、平成元年一〜三月期、四〜六月期及び平成九年一〜三月期を変化時点として消費税効果モデルに取り入れている。また、曜日効果については取り入れていない。
 データ利用期間は昭和六十年四〜六月期以降、先行き予測期間は四期(一年分)としている。

二 季節調整法を採用した対象項目

(1) 対象項目は売上高、経常利益、設備投資の三項目としている。
(2) 業種については、全産業、製造業、非製造業の三系列とし、資本金規模はそれぞれ全規模のみとしている。
  全産業については、製造業と非製造業の季節調整値の合計によっている。

三 季節調整済前期比増加率の公表方法

 毎四半期ごとに、新たなデータを追加してReg−ARIMAモデルによる推定を行い、当該調査期の季節調整済前期比増加率を公表する。また、過去の季節調整済前期比増加率の改訂は、毎年の季報発表時に遡及して行われる。
     ※  ※  ※
 なお、次回の調査は平成十五年四〜六月期について実施し、法人からの調査票の提出期限は平成十五年八月十日、結果の公表は平成十五年九月四日の予定である。



にせ税務職員などによる被害の未然防止


税務職員を装った不審な電話にご注意!

 「税務署の者ですが、還付金をお返ししたいので、ご家族の銀行口座と連絡先を教えてほしい」―最近、税務職員を装ってこうした内容の電話をかけ、勤務先や銀行口座、携帯電話の番号などの情報を聞き出したり、税務調査などと偽り、現金や財産を持ち去ったりするなどの悪質な事件が全国で発生しています。

◆税務職員を装った不審な電話が増えています
 税務署の職員が納税者に対して電話で問い合わせをするときは、すでに提出されている申告書などを基に、まず本人の確認を行ったうえで、その内容について本人に直接問い合わせることを原則としています。
 本人の銀行口座などについて本人以外の家族に電話で問い合わせがあった場合には、その場で返事をせずに、税務職員の所属と氏名などを確認し、必ず本人に相談のうえで、折り返し電話するなど改めて回答をするようにしましょう。

◆訪問時には身分証明書をチェック
 税務職員が税務調査などを行う場合には「顔写真つきの身分証明書」と「質問検査章」を、また、滞納整理などを行う場合には、「身分証明書」と「徴収職員証票」を携帯しています。
 税務調査があった場合には、まず、身分証明書などで所属と氏名を確認するようにしましょう。また、通常の税務調査は、税務署の業務時間内に行われるため、土日や祝日、早朝、深夜などに行われることはありません。
 こうした税務調査の際には、帳簿書類を預かることはあっても、現金やその他の財産を差し押さえることはありません。また、徴収担当の職員が現金を受領する場合には、必ず領収証書を交付します。税務調査と偽って金庫などを開けさせ、現金などを持ち去る事件も発生していることから、十分な注意が必要です。

◆ほかにもあります、税務署の関係者を装った事件
 このほかにも、税務署や国税局の関係者を装って税務関係の講習会の受講や会報の購読などを持ちかけ、法外な料金を請求したり、ダイレクトメールなどで「あなたの税金を安くします」などと持ちかけて、金銭をだまし取る悪質な事件も発生しています。
 税務職員がこうした勧誘を行うことはありません。併せてご注意ください。
 不審な点があるときには、その場で税務署または国税局にお問い合わせください。
関連ホームページ
■国税庁「にせ税務職員などにご注意ください」
(http://www.nta.go.jp/category/topics/data/h14/nise/01.htm)
■国税庁「税務署の所在地及び管轄区域」
(http://www.nta.go.jp/category/syoukai/syozaiti.htm)
(Web版広報通信七月号)


知っておきたい国際・外交キーワード


OPEC=石油輸出国機構

 OPEC(Organization of the Petroleum Exporting Countries:石油輸出国機構)は、国際石油資本(メジャーズ)による中東原油価格の一方的な値下げをきっかけに、産油国が共同行動によって自らの利益を守るため、一九六〇年に設立した協議機関です。
 OPECの主な目的は、次の三点とされています。(1) 加盟国の石油政策の調整 (2) 国際石油市場における価格の安定の確保 (3) 生産国の着実な収入、消費国への安定的な石油供給の確保。
 これらの目的を達成するため、OPECでは加盟各国に生産枠を設定し、生産量を調整することにより、原油価格の安定を目指しています。加盟国はその生産枠を守る義務があります。
 原油価格の高騰は産油国の収入増をもたらしますが、その半面、輸入国の需要の定価と代替エネルギーへの需要促進という効果を伴います。また、原油価格の低迷は、産油国の収入源を招きます。
 世界で利用されるエネルギーのうち石油は約四割、その原油の約四割がOPEC加盟国で算出されています。日本では、石油はエネルギー全体の約五割を占め、そのほとんどすべてを海外、特にOPEC加盟国からの輸入に依存しています。世界のエネルギー倉庫でもあるOPECの動向に、世界が注目しています。





    <7月30日号の主な予定>

 ▽防災白書のあらまし………………内 閣 府 

 ▽景気予測調査(五月調査)………財 務 省 

 ▽消費者物価指数(六月)…………総 務 省 




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