官報資料版 平成15年8月13日




                  ▽国民生活白書のあらまし………………………………内 閣 府

                  ▽平成十四年平均消費者物価地域差指数の概況………総 務 省











国民生活白書のあらまし


デフレと生活―若年フリーターの現在(いま)―


内 閣 府


【国民生活白書について】

 国民生活白書は、国民生活の現状や過去の動向を国際比較、地域比較、所得階層比較などの方法を用いて総合的に調査分析することにより、その実態と問題点を明らかにし、もって国民生活の安定向上を図るための政策の企画立案に資することを目的として、昭和三十一年度から国民生活白書を作成し、三十八年度からは閣議に配布した後、公表している。また、今回の平成十五年度で四十六回目となる。
 平成十五年版国民生活白書は、「デフレと生活―若年フリーターの現在(いま)―」という副題の下、デフレ下での国民生活、特に若年の働き方や家庭生活の変化を考察しており、去る五月三十日(金)の閣議に配布し、同日、公表した。

分析の視点

 以下の三つの視点から、デフレ(物価水準の下落)が国民生活に与える影響を考察している。

1 長期化するデフレは自分の生活にどのような影響を与えているのだろうか。一方では、海外に比べて高いモノの値段が下がり、今までよりもモノがたくさん買えるようになるのでデフレは良いことだと言う人がいる。他方では、経済が長期にわたって低迷し、知人が失業したり自分の給料が下がったりするのはデフレのせいだと言う人もいる。デフレに対していろいろな見方がある中、第1章では、デフレが私達の生活にどのような影響を及ぼしているのかを整理しわかりやすく示す。

2 デフレが進行し、経済の低迷が長引くとともに、若年の就業環境は厳しさを増している。失業者が増加しているほか、正社員が減少しパート・アルバイトとして働く人が増加している。そのため、若年の職業能力や給与水準が高まらず、若年本人の暮らしが不安定になり、社会不安や生産性の低下が生じるのではないかと懸念する人がいる。一方、若年の失業やパート・アルバイト労働は、若年自らの希望によるものだから問題ないという人もいる。若年雇用問題はどの程度深刻な問題なのだろうか。第2章では、若年雇用の悪化の現状と要因、その問題点と対策を検討する。

3 デフレ下の経済の低迷で若年の雇用は悪化し、その経済基盤が弱くなっている。かつては結婚し、親から自立して暮らすのが一般的であったが、所得が低下しているために経済的に自立することが難しくなっている。そのため、結婚して無理に自立するよりは、結婚せずにできる限り親に頼り豊かな生活をすることを選ぶ若年が増えている。また、家計を助けるために夫婦で働くケースも増えており、既婚女性の家事や育児の負担が高まっている。第3章では、若年の雇用の悪化が、消費、結婚、出産などの面で若年の家庭生活にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにする。

第1章 デフレ下の国民生活

 デフレが生活に及ぼす影響について、私たちは、次のような漠然としたイメージを持っている。
@海外に比べて高いといわれるモノやサービスの値段が安くなる。
A景気がなかなか回復しない理由としてデフレの影響が大きいらしい。
B物価が下がれば当然消費も増えるだろう。
C地価の下がった今こそ住宅の買い時だ。
D低金利や資産価値の低下がこれ以上続くと老後の生活が不安だ。
 これらのイメージについて検証することを通じて、デフレが生活に与える影響について考察した。

1 内外価格差縮小とデフレは別の話
 デフレ(物価水準の下落)は、@需要の弱さ、A供給面の効率化、B金融仲介機能の低下によって生じている。また、内外価格差が縮小している(第1図参照)のは、規制緩和、IT化の進展等による技術革新などによって、これまで非効率であった部門が効率化し、その部門の価格が下落しているためである。
 海外に比べ物価が高いと、購買力が低く消費者が豊かさを感じられないとか、生産コストが高く企業の競争力が弱まるといった問題が生じるので、内外価格差が縮小することは望ましい。もっとも、非効率であった部門が効率化し、内外価格差が縮小することはデフレでなくとも起こり得るし、デフレでも非効率な部門の効率化がなされなければ価格が下がって内外価格差が縮小するとは限らない。したがって、デフレと内外価格差の縮小とは別の問題としてとらえるべきである。

2 デフレで企業が困ると、そこで働いている人も困る
 デフレは、企業の売上や収益に悪影響を及ぼしている。製品の値段が下がっているために売上高が減少しているし、コストを下げようと思っても、債務額はそのままだし、働いている人を辞めさせたり、給与を引き下げたりするのも難しいからだ。売上の減少や収益の悪化により、人件費の重荷に耐え切れなくなった企業は、やむを得ず働いている人を解雇したり、給料を下げたりするようになっており、私たち、労働者の雇用や所得に悪影響を及ぼしている。

3 デフレになるとモノを買わなくなる
 モノの値段が下がることで、私たちは同じ所得でより多くのモノを買えるようになっているが、こうしたメリットは表面には出にくいようだ(第2図参照)。デフレが続いているので、失業したり給料が下がったりしてモノが買えなくなったし、住宅ローンの債務も重荷だ(第3図参照)。また、自分が失業しないまでも、周りの失業した人をみていると「明日はわが身」と感じ、不安でモノを買うのをやめ、将来に備えて貯蓄をしている。このように、デフレ下では、人々はモノを買わなくなっている。

4 住み替えたいけど、昔買った住宅が売れない
 地価や住宅建設コストが低下し、住宅ローンの金利も低いことから、今まで手が届かなかったいい物件を買いやすくなったり、住宅を入手することが難しかった若い人も住宅を買えるようになっている。
 しかし、バブル期に高い値段で家を買った人などは、給料は減るのに住宅ローンの債務負担が大きいままだし、今の家を売ろうにも値段が下がっているため借金が残ってしまうので、住宅の買い換えが難しくなっている(第4図参照)。

5 低金利のため老後の生活が心配
 貯蓄で定年後の生活を考えている人にとっては、物価が下落しているので、貯蓄の実質的な価値が高まっている。しかし、将来不安が高まっている中では、この点をメリットとして認識している人は少なく、逆に、デフレ下で低金利が続いているため、手取りの金利収入が減少し、そのことを痛手と思っている人が多い。
 また、景気の回復が遅れる中で、人々は将来に不安を感じ、貯蓄に励んできたが、消費の抑制にも限界がみえはじめている。特に、近年、五十代以上の比較的年齢の高い世代で貯蓄を取り崩す人が増えている(第5図参照)。

6 デフレの克服に向けて
 このように、デフレはモノが安く買えるといったプラスの面もあるものの、総合的にみると、所得の減少や失業の増大、債務負担の高まりなどを通じて私たちの生活に悪影響を及ぼしている。
 デフレで、消費や投資が減少すると、景気が悪化し、物価のさらなる下落をもたらす。また景気の悪化は、不良債権問題を深刻化させ、それが金融仲介機能を弱め、さらに景気を冷え込ませる。デフレはこのような悪循環をもたらすため、デフレを克服し、この悪循環を断つことは私たちの生活を守る上で最も重要な政策課題である。
 デフレ克服のためには、構造改革を進め、民間需要が持続的に創出される環境を整えることが不可欠である。政府としては、不良債権処理の加速等の金融システム改革によって金融仲介機能の回復を図るほか、税制改革や規制改革などによって経済活性化を進めるとともに、行財政改革などの歳出改革を進め、国民の将来不安を払拭することが重要である。これらの改革の中には痛みやコストがともなうものもあるが、それに対するセーフティネットの整備も必要である。
 また、金融面では、日本銀行においても、量的緩和などさまざまな努力を行ってきたところであるが、デフレの現状を踏まえ、さらに実効性ある対応を実施することが期待される。

 国民生活を向上していくために、デフレの弊害を十分に理解し、国民の支持の下、政府・日銀が一体となってデフレ克服に取り組むことが重要である。

第2章 デフレ下で厳しさを増す若年雇用

 若年の就業環境は厳しさを増しており、若年の就業を促進することが必要である。

1 新卒就業の問題
 卒業後進学せず、正社員として働いていないフリーターが大幅に増加している。近年の経済の低迷や企業の雇用戦略の見直しを受け、企業は既に働いている正社員を減らすのは難しいので、新卒正社員採用を厳しく抑制することで雇用調整を行っているためだ(第6図参照)。一方で、希望どおりの就職ができなかった若年は、働く意欲を失っており、そのことが、さらなる企業の採用意欲の減退につながっている。

2 若年就業構造の変化の影響
 若年失業者は大幅に増加し、失業期間が長期化している。その背景として、親から援助を受けることが可能で就業意欲が高まらない親同居未婚者の存在が大きい。失業者は、正社員になりたいと思っている人が多いが、実際には正社員になれる人は少なく、正社員にこだわっていると就職できないまま、いつまでたっても失業していることになってしまう(第7図参照)。また、失業期間が長くなると、働く意欲を失って仕事を探すことすらやめてしまう人が多い。
 働いている若年をみると、正社員が減少する一方でパート・アルバイトが大幅に増え、正社員とパート・アルバイトとに二極化している。少数になった正社員は、長時間働かされているが、給料は高く、職業教育を受ける機会もある。一方、パート・アルバイトは、低い賃金で短い時間しか働かず、技能の身につきにくい業務を担当している場合も多い(第1表参照)。
 また、転職する人が増加し、若年雇用者の四割が転職を経験しているが、転職後正社員になるのは難しくなっている(第8図参照)。転職者が増加しているため、終身雇用を前提とした企業独自の技能習得を目的とした企業内教育訓練だけでは、企業横断的な若年の技能を高めていくことが困難になっている。

3 フリーターの状況
 フリーターは、一九九〇年の百八十三万人から二〇〇一年の四百十七万人へと大幅に増加している。最近では三十代前半でもフリーターのままの若年が多い。
 フリーターが増加してきた背景としては、若年の就業意欲や職業能力が低下してきていることなど、若年自身に問題があることは否めない。しかし、正社員になりたかったにもかかわらずフリーターになった人が七割を超える現実(第9図参照)を踏まえると、経済の低迷による労働需要の減少や企業の採用行動の変化によるところが大きいと考えられる。
 フリーターになると、本人が不利益を被ったり、不安を感じたりすることが多くなるだけでなく、今後の日本経済を担うべき若年の職業能力が高まらないため(第10図参照)、経済全体の生産性が低下して経済成長の制約になるおそれがあると考えられる。また、犯罪の増加などの社会不安が生じたり、フリーターの経済基盤は弱いため、未婚化、晩婚化、少子化などを深刻化させる懸念もある。

4 若年の就労に向けて
 若年の雇用問題は現在進行形であり、若年の意識や若年を取り巻く経済環境の変化、中長期的な働き方を含めたライフスタイルの変化などを踏まえ、早急に対策を実施していく必要があろう。具体的には、
@新卒フリーターとならないよう、高校や大学の教育内容を見直したり、学業と就業を並行して行ったりするなど企業と学校が連携することによって、就業に向けた意欲や能力を高める、
A失業期間が長期化しないよう、失業後早期に積極的に職業紹介や職業訓練を受けさせる、
B非労働力化しないよう、インセンティブをつけて職業紹介・訓練施設を訪問させ、就職活動を続けさせる、
C失業者の職業能力が高まるよう、失業者が雇用される環境を作り、就業経験を積ませる、
Dライフスタイルにあわせて働き方を選べるよう、正社員とパート・アルバイトとの間で処遇を公正なものとし、職業訓練の機会や職種等の面でパート・アルバイトが不利でないようにする、
といった対策が考えられる。

第3章 デフレ下で変わる若年の家庭生活

 デフレ下で、若年の雇用は悪化しており、若年の暮らし向きも苦しくなっている。そのため、結婚や出産を控える人も出てきている。

1 デフレ下で苦しくなる若年の暮らし
 若年の暮らしぶりをみると、未婚者では、収入は親同居者より親非同居者のほうが多いが、支出も親非同居者のほうが多いため、自由に使えるお金の額は同程度であり、両者の経済的なゆとりに大きな差はない。また、既婚者では、共働き世帯、妻パート世帯、専業主婦世帯の順で収入と自由に使えるお金の額が多く、経済的なゆとりも大きい。ただし、未婚者に比べれば、経済的なゆとりは小さい(第2表第3表参照)。
 若年の暮らし向きの変化をみると、未婚者では、親同居者はパート・アルバイトや無職の人が多いため、経済の低迷による影響を受けやすく、親非同居者に比べて暮らし向きが苦しくなっている。また、既婚者は未婚者よりも暮らし向きが悪化しているが、特に専業主婦世帯は、収入の減少に加えて子育ての負担が重く、暮らし向きの悪化が著しい。

2 経済が低迷する中で進む未婚化、晩婚化
 若年の生活満足度をみると、既婚者は未婚者よりも高いが、未婚化、晩婚化が進んでいる。若年が結婚しない理由として、自由に使えるお金が減ってしまうことや、やりたいことが制約されることをあげる人が多い(第11図参照)。
 長期化するデフレの下で経済の低迷が続き、若年の雇用は悪化しており、失業者やパート・アルバイトが増えている。このように若年は経済基盤が弱くなっているので、経済的に自立することが難しく、やむを得ず親と同居している人が多い(第12図参照)。親と同居していれば、家賃や食費、家事などの負担をしないである程度快適な生活を楽しむことができるからだ。しかし、金銭的に余裕のない若年は、結婚をして無理に自立すると、親から有形無形の援助がもらえなくなって生活水準が下がってしまうので、結婚しなくなってしまう。
 また、働く女性が増え、共働きも多いが、最近では家計を助けるためにパートとして働く女性も増えている。しかし、夫婦で働くと家事や育児の負担が女性に重くのしかかるのが現実だ。仕事と家庭を両立するためには、自分のやりたいことが制約されてしまうと考え、結婚をためらっている女性も多い。

3 経済が低迷する中で進む少子化
 出生率が低下してきているのは、未婚化、晩婚化に加え、夫婦が結婚しても子どもを産み控えるようになっているからだ。社会全体が豊かになるにつれて、「かわいい子ども」のためにより多くのお金と時間をかけるようになってきており、子育てにかかるコストが増大してきている。そのため、子育ての心理的負担に加え経済的負担も大きく、子どもを育てるのにお金がかかるからという理由で子どもを産み控える人が多い(第13図参照)。若年の雇用が悪化し、経済基盤が弱くなってきているため、子育ての経済的な負担感がますます高まり、少子化がさらに進むことが懸念される。

4 経済が低迷する中での少子化対策
 二〇〇七年には人口は減少に転じると予想されており、未婚化、晩婚化が今後とも続いて少子化がますます進むと、社会全体の活力の低下、経済成長の鈍化、将来世代の社会保障負担の増大といったさまざまな問題が顕在化してくる可能性がある。
 結婚や出産はあくまでも個人の選択であり、なんら強制されるべきものではないが、結婚や出産を妨げている社会経済的・心理的要因を取り除き、その結果として、未婚化、晩婚化、少子化に歯止めをかけることが重要だ。
 そのためには、保育サービスの充実などによって子育てと仕事の両立を支援するだけでなく、男女の役割分担や男性の働き方の見直し、地域の高齢者や子育て経験のある人を活用した子育て支援など、国・自治体・企業が一体となったより多角的な対策を進めることが重要である。このような支援体制を整備し、子育てをしているすべての人が、「いつでも、誰でも」当たり前のこととして支援を受けられるよう、「育児の社会化」を推進していく必要があろう。
 また、若年の雇用の悪化が、結婚や出産を妨げている面もあることから、経済を活性化して雇用を拡大することによって、少子化を加速しないようにすることも重要だ。

おわりに

(デフレの弊害)
 「失われた十年」が過ぎ、二十一世紀に入ってからも、日本経済はデフレの下で低迷を続けている。日本経済に必要なのは、まず何よりもデフレからの脱却だ。なぜデフレが悪いのかを正確に理解すること、それが経済の低迷から抜け出すための第一歩である。
 私達の暮らしという観点からみると、デフレは決して悪いことばかりではない。給料が今までと同じであれば、デフレでモノの値段が下がると、今までよりもたくさんのモノを買えるようになるからだ。しかし、デフレはメリットをもたらすものの、それを上回るデメリットももたらしている。デフレは私達一人ひとりの生活にとっても悪いことなのだ。それは、デフレが景気回復の足かせとなって、私達の給料が下がったり、場合によっては失業の憂き目にあったりするからだ。

(悪化する若年雇用)
 デフレに苦しむ企業はさまざまな方法でコストの削減を行っている。賃金コストの高い中高年のリストラもそのひとつだ。しかし、長期雇用制度の下で中高年の雇用は保障されており、リストラを進めるのは難しい。そのため、企業は新卒採用を大幅に抑制することによって雇用調整を行っている。さらに、賃金コストの高い正社員をできるだけ減らし、パート・アルバイト、派遣社員などを増やすことで人件費を抑えている。
 こうした企業の動きは、若年の雇用に深刻な影響を与えている。就職の機会が大幅に減少したために、学校を卒業しても就職できずに失業する人が急増した。また、厳しい就職事情に直面して、正社員になるのをあきらめてフリーターになる人や、そもそも働く意欲を失ってしまう人も多い。運良く正社員になれた人も気楽ではない。自分の勤めている会社が倒産して失業することも多いし、新卒者の採用人数が減った分、仕事が若い人に集中するようになり、サービス残業や休日出勤も増えている。

(やる気を失う若年)
 このように若年の雇用が悪化する中で、若年は「やる気」を失っている。
 新卒者への求人が減少しているので、学校を卒業しても自分の望みや適性にあった仕事に就くのは難しい。苦労をしてようやく内定を得ることができた会社で勤め始めてはみたものの、自分がやりたいと思っていた仕事ではないので、何か嫌なことがあると耐え切れなくなってしまう。そして、「本当にやりたい仕事」を見つけるためにせっかく就職した会社を辞めてしまうのだ。
 「本当にやりたい仕事」に就けなかった新卒者の中には、いずれは正社員になりたいと思いながらも、とりあえずパートやアルバイトをしている人が多い。確かに、「夢を追いかけているフリーター」もいるが、それはごく一部にすぎない。ところが、一度フリーターになってしまうと、仕事を通じて自分の能力を高めていくことはできず、正社員になるのはますます難しくなってしまう。「本当にやりたい仕事」への道は遠い。
 日本的雇用慣行の見直しも、若年がやる気を失う原因の一つだ。中高年のリストラを目の当たりにし、基本給やボーナスの引下げを経験した若年は、サービス残業をし、休日返上で働いても、昇給や昇進、雇用が保障されているわけではないことを知っている。会社の上司は「若いときの苦労は買ってでもしろ」と言う。確かに、一生懸命地道に働けば、将来、それなりの地位や収入が得られるという希望があった時代であれば、若いうちは給料が安くても下積みの苦労に耐えようと思うであろう。しかし、いまどきの若年は時代が変わったことを知っているのだ。そんな若年が下積みの苦労を厭うようになったとしても無理はない。

(デフレ下で変化する若年の暮らし)
 若年の雇用環境の悪化は、若年の家庭生活にも影響を及ぼしている。
 若年雇用が悪化し、失業者や正社員として働いていないパート・アルバイトなど、経済基盤が弱く将来の生活設計が立たない若年が増えている。また、正社員といっても、能力主義の下で高収入とキャリアアップを約束された有能な正社員もいるが、終身雇用や年功序列の見直しなどで長期的に安定した収入を得る見通しが立たなくなっている正社員も多い。若年の経済基盤は単に弱くなっているだけでなく、その格差も拡大しているのだ。
 また、近年、予想以上に急激な出生率の低下がみられるが、若年の経済状況の悪化は、未婚化や晩婚化や少子化にも影響を与えている。多くの人は、ある程度の経済的な余裕ができ、将来の収入に対する見通しが立って初めて結婚して子どもを持とうとする。しかし、パートやアルバイトとして働いている人や、リストラの不安を抱えている人は、経済的な余裕がないから結婚を遅らせているし、子育てにお金をかける余裕がないから子どもを産むのを控えている。結婚したくない、子どもを産みたくないという人が急に増えたわけではない。
 自立できない若年が豊かに暮らしていけるのは、経済的に豊かな親がいるからだ。高度成長期までは子どもの数が多く、親に経済的なゆとりはなかった。しかし、最近では、子どもの数が少なくなり、親の所得も高くなったので、以前よりもたくさんの時間やお金をかけて一人ひとりの子どもを育てるようになっている。子どもが成人して大学を卒業しても、子どもはいつまでも子どものままかわいくいてくれたほうが楽しいと思う親も多い。経済基盤が弱いために自立できない子どもは、それに安住して親のすねをかじり続け、ますます自立する気持ちをなくしていく。

(若年の自立に向けて)
 これまでは、学校を卒業して就職すると、親から経済的に自立し、やがて結婚して子どもを産むのが当たり前だと考えられてきた。しかし、こうした生き方が揺らいできている。それを成り立たせていた雇用の基盤が崩れてきたからだ。特に、若年がその影響を集中的に受けている。
 若年の雇用基盤が崩れてきたのは、デフレ下での経済の低迷によるところが大きい。したがって、問題を解決するためには、構造改革を進めて経済を活性化し、若年の雇用を創出することが不可欠だ。また、若年に対して、就業意識の向上、職業紹介や職業訓練の充実などのための施策を講じ、若年が「自分のやりたい仕事」に就けるよう支援していく必要がある。若年の雇用問題は現在進行形であり、早急な対策の実施が求められている。
 もっとも、景気が本格的に回復すれば若年の雇用問題がすべて解決するというわけではない。なぜなら、若年の雇用基盤は長期雇用、年功賃金を中心としたいわゆる日本的雇用システムの変化とも密接に関係しているからだ。日本的雇用システムの見直しを迫られている企業は、パート・アルバイトや中途採用の活用、成果主義の導入などを進めている。今後とも、正社員の減少とパート・アルバイトの増加、転職の活発化、年功賃金の見直しなどが進むであろう。こうした日本的雇用システムの変化は、若年の雇用や賃金の安定を損なう面を持っており、若年の雇用基盤を揺るがしているのだ。
 しかし、日本的雇用システムの変化は、一方で、自らのライフスタイルにあわせて自分らしい生き方、働き方を選ぶチャンスを与えている。このチャンスを生かすためには、たくさんの魅力的な働き方の選択肢の中から、働く人が自分にふさわしい働き方を選べるようにしていかなければならない。現状では、パート・アルバイトという働き方は正社員という働き方に比べて不利なものとなっており、そのことが働き方の選択肢を制約している。そのため、賃金、社会保険、昇進などの面で、パート・アルバイトの処遇と正社員の処遇を公正なものに見直し、柔軟で多様な働き方を実現していく必要がある。また、自らの責任で能力開発やキャリア形成を行うことができるような制度の整備も重要だ。
 日本でも、最近、若年の雇用問題に対する関心が高まっており、若年雇用対策も拡充されつつある。将来の日本を担う若年は輝きを秘めた原石だ。若年の就業機会を確保し、その能力の蓄積を促すことは、将来の活力ある社会への投資にほかならない。若年が自立できるような経済的基盤と社会的基盤を再構築していくことが求められている。


目次へ戻る


平成14年平均


消費者物価地域差指数の概況


総 務 省


1 地方別の物価水準
 平成十四年平均消費者物価地域差指数(全国平均=一〇〇)を地方別にみると、持家の帰属家賃を除く総合指数は、北海道が一〇三・一と最も高く、次いで関東が一〇二・七、近畿が一〇一・七となっている。
 一方、最も低いのは、沖縄の九四・七で、次いで九州が九七・〇、四国が九七・六となっている。

2 都市階級別の物価水準
 都市階級別にみると、大都市が一〇四・五、中都市が一〇〇・〇、小都市Aが九八・四、小都市Bが九七・一、町村が九七・五となっており、大都市の指数は町村に比べ七・二%高くなっている。

3 都道府県庁所在市別の物価水準
 都道府県庁所在市別にみると、東京都区部が一〇九・八と最も高く、次いで横浜市が一〇八・六、大阪市が一〇六・八、京都市が一〇四・九、名古屋市が一〇四・八の順に続いている。
 一方、最も低いのは、那覇市の九七・〇で、東京都区部に比べ一三・二%低くなっており、次いで松山市が九七・七、宮崎市が九八・四、徳島市が九九・〇の順に続いている。







    <8月20日号の主な予定>

 ▽環境白書のあらまし………………環 境 省 

 ▽家計収支(四月)…………………総 務 省 

 ▽毎月勤労統計調査(五月)………厚生労働省 




目次へ戻る