官報資料版 平成15年8月20日




                  ▽環境白書のあらまし………………環 境 省

                  ▽家計収支(四月)…………………総 務 省

                  ▽毎月勤労統計調査(五月)………厚生労働省











環境白書のあらまし


環 境 省


 平成十五年版環境白書(「平成十四年度環境の状況に関する年次報告」及び「平成十五年度において講じようとする環境の保全に関する施策」)が、五月三十日に閣議決定の後、国会に報告、公表されました。第一部の総説のあらましは、以下のとおりです。

総説 地域社会から始まる持続可能な社会への変革

序章 地球環境の現状と足元からの取組の展開

第1節 地球環境の現状と社会

1 社会経済の変化
 一九九〇年代、企業の国境を越えた事業活動の活発化、国際的な交通の発達、情報通信技術の著しい発達など、経済、社会のグローバル化は急速に進展し、世界は以前にも増してずっと小さなものになり、世界の相互依存性は以前にも増して高まっています。他方、世界人口は一九九〇(平成二)年から二〇〇〇(平成十二)年の間に約八億人増加し、UNEP(United Nations Environment Programme 国連環境計画)の報告によれば、世界の富裕層五分の一が世界全体のGDPの八六%を占めているのに対して、貧困層五分の一はわずか一%程度しか占めていないなど、貧富の差も拡大しています。

2 地球環境の状況
 こうした社会経済の変化の中、地球環境は深刻な状況になっています。
 地球温暖化についてみると、二〇〇二(平成十四)年の世界平均気温は、観測史上二番目に高い値となっており、一九八〇年代中頃から高い状態が続いています。現在の生活を続けていけば、私たちの将来の生活にも影響を及ぼすおそれがあり、わが国への影響に関する研究をまとめた報告書「地球温暖化の日本への影響二〇〇一」によると、一メートルの海面上昇が起こった場合、わが国においては、平均満潮位以下の土地は現在の約二・七倍となり、そこに居住する人口は二百万人から四百十万人へ、資産は五十四兆円から百九兆円に増大すると予測されています。
 森林については、大規模な森林火災、薪炭材の過剰収穫、過放牧、商業伐採等により、一九九〇(平成二)年から二〇〇〇(平成十二)年までの間に、世界の各地域で約九百四十万ヘクタール(中国・四国・九州地方の総面積に匹敵)が失われています。
 土壌の劣化が、気候的要因だけでなく、農業、放牧、森林減少につながる不適切な伐採活動等の人間活動によって進んでおり、UNEPの報告によれば、地球の陸地面積の約一五%がその影響を受けています。
 また、近年、中国をはじめとする北東アジア地域では、黄砂の発生・移動頻度が増加しています。新聞報道によれば、二〇〇二(平成十四)年に発生した大規模な黄砂は、中国では隣のビルが見えないほどの猛威をふるい、韓国では空港・学校等が閉鎖され、わが国でも、九州で交通機関に影響が出たということです。
 また、今日、世界の多くの国々では、水に関するさまざまな問題に直面しており、一九九八(平成十)年の中国長江流域洪水では、三千人以上が死亡し、二〇〇二(平成十四)年の南部アフリカにおける十年に一度といわれる干ばつでは、約一千三百万人が深刻な食料危機に見舞われました。

3 地球規模での社会、経済との関わりからみた環境の状況
 地球規模での環境に対する負荷の増大は、社会、経済と複雑に関わりあっています。
 例えば、経済のグローバル化は、環境に配慮した製品や技術の普及などを世界各国にもたらす一方、国際間の物流移動に伴うエネルギーの増大や有害廃棄物の越境問題を発生させるおそれなどももたらします。また、開発途上国における過耕作、過放牧、森林の再生能力を超えた伐採等による環境劣化は、十分な資源や食料の確保を困難にし、貧困に拍車をかけるばかりでなく、紛争の原因になったり、環境難民の発生をもたらしたりすることにもなります。
 人口増加と水問題の関係をみてみると、国連「世界水発展報告書」によると、人口増加に伴い、水需要が増加し一人当たり水供給量が明らかに減少しているとされていますが、開発途上国における人口増加と貧困を背景とした都市への人口集中が問題をより深刻なものとしており、都市では約一億七千万人、地方では約九億二千万人もの人々が安全な水供給を受けることができない状況にあります。安全な水が供給されず健康が損なわれると、生産性の低下、所得の減少をまねき貧困につながります。二〇一五(平成二十七)年までに世界人口は、約十一億人増加し、その八八%が都市に居住するようになると予測されており、特に都市における水供給体制の整備が必要になるとされています。
 環境、社会、経済が複雑に関わっている中で人類が生存していくには、地球の有限性を考えて社会経済システムに環境配慮を織り込む必要がありますが、人々の資源消費と自然の生産能力とを比較したWWF(World Wide Fund for Nature 世界自然保護基金)の試算によれば、世界全体の人々の資源消費は既に一九七〇年代に自然の生産能力を上回っているとされています。これを踏まえると、日本人が地球の環境容量の中で生活するには、現在の資源消費量を半分以下にする必要があります。私たちは、持続可能な社会の構築に向けて実効ある取組を着実に進めていくことが必要です。

第2節 足元からの持続可能な社会の構築

1 ヨハネスブルグサミット
 環境、社会、経済の密接な関わりの中、地球規模の環境問題は結局、地域の人間の営み、さらに個人レベルの活動に根を持っています。このような視点に立ったとき、足元からの持続可能な社会の構築に向けた取組が非常に重要となります。
 ヨハネスブルグサミットでは、国だけでなく国際機関、地方公共団体、NGO(Nongovernmental organization 非政府組織)、企業などが同じ立場の参加主体として関わり、それぞれ自主的に持続可能な開発のための具体的なプロジェクトの実行を宣言しました。そして、これらを取りまとめた「約束文書」が作成され、今後、こうした成果を受け、各主体が宣言した取組を具体的に実行していくことが重要となっています。このように、国際的にも、足元からの取組が既に始まっています。

2 個別の環境問題における足元からの取組の動き
 わが国では、地球サミットと時期をほぼ同じくして、一九九三(平成五)年に環境基本法が制定されて以来、地球温暖化の防止、生物多様性の保全、循環型社会の構築などそれぞれの分野において、持続可能な社会の構築に向けた枠組みづくりが進められてきました。今日、これらの枠組みの下、各主体には役割に応じた取組を進めていくことが期待されていますが、今日の環境問題の性格と状況を踏まえると、求められる取組はもとより、それぞれが自発的・積極的に取組を進めていくことが重要となっています。

第1章 持続可能な社会の構築に向けた一人ひとりの取組

第1節 一人ひとりの行動に影響を及ぼす社会経済の変化

1 日本の戦後における社会経済と環境問題の変遷
 戦後の経済復興を優先した昭和三十〜四十年代、生産活動の拡大、所得の増加に伴い、電気洗濯機、電気冷蔵庫、白黒テレビの「三種の神器」など、さまざまな製品が日常生活へと普及しました。こうした中、公害問題による被害地域が日本全国に広がるとともに、身近な自然の破壊、干潟や浅瀬の埋め立てなど、自然破壊が全国的な規模で進行しました。
 経済が安定成長へと移行した昭和五十年代、単身世帯の増加、女性の社会進出に伴い、外食やレトルト食品等の加工食品が増加し、宅配等の新たなサービスも登場しました。この時期、二度にわたる石油危機等を背景とし、省エネルギー化が進んだにもかかわらず、通常の事業活動や日常生活に伴う環境負荷が増大し、都市・生活型公害が顕在化しました。
 バブル経済期の昭和六十年代以降、テレビや乗用車など一家に二台目以上の耐久消費財、余暇やレジャーといったサービス分野の支出が大きな伸びをみせています。また、経済活動のグローバル化とともに大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムが地球規模で拡大をみせ、地球環境問題が顕在化してきました。

2 近年の社会経済、日常生活と環境との関わり
 近年の社会経済の変化は、さまざまな形で環境に正負両面の影響を与えています。
 少子高齢化と世帯数の増加は、一つの世帯が生活の最小単位として保有することが必要とされる住宅や台所、風呂等の設備、洗濯機、冷蔵庫等の耐久消費財をその分だけ増加させ、それに伴いエネルギー消費量や水の使用量も増加させることになります。
 また、情報通信技術の革新は、テレワーク、SOHOと呼ばれる勤務形態、適切かつ迅速な環境情報の提供により環境負荷の低減が期待される一方で、情報通信機器の増加や必要以上の情報交換はエネルギー消費の増加につながることになります。
 さらに、機器の個人所有化、生活の二十四時間化などのライフスタイルは、日常生活からの環境負荷を増大させるおそれを有している一方、自然とのふれあいへの志向やボランティア活動への参加志向が強まる傾向は、環境保全のための取組意識を高める可能性を有しています。
 このように、社会経済の変化による環境への正負の影響は、多くの場合、日常生活を通じて与えられます。したがって今日の環境問題へは、それが社会経済の変化や日常生活の営みと相互に深く関わりあう一連の問題であることを十分認識し、対応する必要があります。

3 日常生活による環境負荷の増大
 社会経済の変化により、特に日常生活からの環境負荷が増大してきています。
 地球温暖化の主要な原因物質である二酸化炭素は、私たちの生産活動や消費活動のあらゆる場面から排出されています。わが国の民生(家庭)部門からの排出は二〇〇〇(平成十二)年度において一九九〇(平成二)年度比で二〇・四%の増加となっており、前年度比四・一%の増加となっています。
 また、平成十二年度におけるわが国の物質収支をみると、投入された約二十一億三千万トンの資源のうち、五割程度がそのまま消費、廃棄され、資源として再利用されているものは約一割程度にすぎません。一般家庭の日常生活から生じる「家庭ごみ」を含む一般廃棄物をみてみると、一人一日当たりのごみの排出量は近年高いレベルで推移しています。
 さらに、閉鎖性水域における水質汚濁の原因としては生活排水の占める割合が大きく、特に東京湾においては、CODでみてみると、生活排水が汚濁負荷の七割近くを占めています。

第2節 一人ひとりの日常生活からの環境負荷と取組の効果

1 日常生活がもたらす環境負荷
 私たちの日常生活が与える環境負荷は、家電製品の利用、上水道の使用、使い捨て製品の購入等によるエネルギーや資源の消費といったように、私たち自身が目に見える形で与える環境負荷にとどまらず、製品やサービスを使用し廃棄に至るまでの、原材料や製品を加工、輸送する際の環境負荷も含め、全体としてとらえることが重要です。
 ライフサイクルエネルギー(製品の一生涯で使用するエネルギー量)に着目し、日常生活における一年分の環境負荷をみてみると、冷暖房、照明の使用や自動車の運転等、製品の使用によって消費されるエネルギーが大きな割合を占めています。製品の製造段階で大きなエネルギーを要するものもありますが、耐用年数を考えて一年間当たりにすると小さなエネルギー消費量となる一方で、電気や洗剤等の使用等は一日におけるエネルギー消費量としては小さなものですが、一年分にすると大きくなります。
 また、昭和五十四年と平成六年のライフサイクルエネルギーを比較すると、工場等の省エネルギー化により製造時のエネルギー消費量は二四%減少していますが、家庭での電気・ガス・石油の使用量が大幅に増加したことにより、全体で約五・五%増加しています。
 また、輸送に伴う環境汚染を考え、食料の生産地から食卓までの距離に着目した「フード・マイレージ(単位:トン・キロメートル)」という指標をみてみると、諸外国に比べて食料自給率の低いわが国は、食料輸入による環境負荷が大きくなっています。
 こうした私たちの生活の場から離れたところでの負荷を含め、日常生活からの環境負荷が地球規模での環境問題の原因になっていることを考えると、私たちは、日常生活の中で意識的に環境に配慮した行動をとっていく必要があります。

2 日常生活における環境負荷の低減と具体的な効果
 私たちの日常生活の中で行える環境配慮行動にはさまざまなものがあります。
 例えば、衣食住においては、適切な冷暖房温度の設定、こまめな節電といった省エネルギーに向けた取組や、ごみの減量化やリサイクルといった省資源に向けた取組に加え、環境配慮型製品やサービスを選択する取組があります。また、余暇活動においても、エコツーリズム、環境ボランティア活動への参加といった豊かな環境の保全、創造につながる取組をすることができます。
 これらの取組の効果はさまざまですが、例えば、効果が小さくてもわが国の全世帯で十の取組を実施すると、わが国全体で約三千四百七十万トンの二酸化炭素が削減され、これは京都議定書の規定による基準年の排出量の二・八%に相当する量が削減されることになり、日常生活の何気ない行動の積み重ねが大きな効果を生み出すことになります。しかしながら、民生(家庭)部門からの二酸化炭素排出量が増加していることを考えると、二酸化炭素の削減に向けた日常生活における取組は十分な成果を得られているとはいえず、身近にできることから取組を始めることがますます重要となっています。

第3節 一人ひとりの取組が持つ大きな可能性

1 環境問題に対する意識と行動の隔たり
 環境問題を自分自身の問題とする人や環境保全に重要な役割を担う主体として「国民」を挙げる人が増えており、環境問題に対する一人ひとりの意識は高くなっています。
 それに対し行動の実施状況をみると、「ごみの分別」、「新聞、雑誌の古紙回収」等、ルール化された環境保全行動や「節電」、「冷暖房の省エネ」等、実施することにより直接の経済的メリットのある環境保全行動はよく行われている一方で、「環境保護団体への寄付」や「地域の緑化活動」、「地域の美化活動」、「環境保護団体の活動」等への参加といった直接、個人が効果を実感できない行動に関しては、相対的に低くなっています。環境問題に対する意識の高まりが能動的な環境保全行動につながらない状況であることがわかります。
 また、環境問題に関する国際共同調査の結果によると、意識の高まりが能動的な環境保全行動につながらない要因として、個人レベルの取組では解決に向けて大した力にならないという意識が挙げられています。

2 行動に至る個人の変化
 一人ひとりが環境保全に向けた具体的な行動に至るまでには、まず、環境問題に気づき、関心を持つ段階、次に、環境問題と自分たちの生活行動との密接な因果関係を理解する段階、そして、自ら実践できるさまざまな対策があることを認識し、問題解決能力を育成する段階があり、各段階のステップアップには、環境教育・環境学習や環境情報が重要な役割を果たします。
 環境教育・環境学習の具体的施策の推進方策について、八つの項目が中央環境審議会の答申で示されています。その中でも特に、@推進の原動力として知識・技能を備えた多彩な人材が育つ仕組みを整備する「人材育成」、A具体的行動に結びつく活動の場、テーマに応じた「プログラム整備」、B環境教育の基盤となる情報の整備と各主体が有する情報を体系的に整備する「情報提供」、C実践的体験活動を行うことのできる「場や機会の拡大」の四つの視点からの施策の展開が、実践や体験を重視した環境教育・環境学習の推進につながるとされています。環境教育・環境学習は持続可能な社会の実現に向けた行動を促すための重要な手段であり、その実効性を確保していくことがますます重要となっています。
 環境情報については、情報源の数、充足している環境情報の数が多いほど、環境保全活動につながりやすく、環境ラベリングやグリーン購入に関する情報等、環境情報が必要なときに必要な形で入手できるような体制を整えていくことが重要となっています。

3 一人ひとりの取組の波及が大きな力になる
 アメリカの社会学者であるエベレット・ロジャースは、新たな技術や製品、行動等(イノベーション)が市場に普及したり社会に取り入れられたりする過程の一般化された理論モデルを提唱しました。このロジャースの普及モデルはハイブリッド自動車や洗剤等の詰替・付替用製品等の環境配慮型製品の購入といった環境保全の取組にも当てはめることが可能であり、その製品が「環境保全効果が明らか」、「従来品に比べ同等の経済性・機能性」、「容易な使用法」、「試行使用が可能」、「効果が視認可能」といった普及のための要素を満たしている場合には、時間の経過とともに取り組む人数が増加していきます。こうして一人の取組が他の人にも広がり普及過程が終了することにより多人数の効果が生み出され、その取組がその人の標準的な行動様式になることによる継続の効果が組みあわされ、大きな効果が生み出されることになります。
 環境配慮型製品の普及率をみるとその多くは、まだ、最終的な普及への途上にあります。これらをさらに普及させ、一人ひとりが継続的に選択するようになるためには、企業の新たな技術開発、環境に配慮した製品設計の実施、行政による一人ひとりの取組を促進する枠組みの構築や制度面の整備等が必要となります。一人ひとりの自主的積極的な行動は、こうした企業や行政等の取組を呼び起こす原点であり、各主体がお互いを刺激し、環境保全の取組が一層行いやすい社会環境を整えていくことにより、結果として環境保全の取組がわが国全体に波及し、大きな力を持つことになります。

第4節 一人ひとりとその他の主体との関わりを通じた社会経済システムの変革

1 一人ひとりと企業との相互関係
 近年の環境保全意識の高まりは、企業に対しても環境問題への対応を求めてきており、企業においても、環境分野の社会貢献活動が活発化しているのみならず、環境に関する経営方針の策定や環境に関する具体的な目標の設定など、より積極的に企業活動の中に環境配慮を取り込んでいく動きが強まっています。また、環境ビジネスも成長してきています。平成十二年の市場規模は二十九兆九千億円、平成二十二年には四十七兆二千億円、さらに、平成三十二年には五十八兆四千億円に達すると見込まれ、雇用規模はその間、七十六万九千人から平成二十二年には百十一万九千人、平成三十二年には百二十三万六千人に増加するという推計が出されています。
 こうした状況の変化を背景とする、企業による環境配慮型製品の供給やサービスの提供、環境情報の提供、環境教育・環境学習などの取組は、一人ひとりの取組を支える企業の積極的な取組としてとらえることができます。
 例えば、製品に関する環境負荷全体を購入者ができる限り考慮できるようにする手法として、エコマークに代表される環境ラベリングは購入者が環境負荷の少ない製品やサービスを選択する際の重要な情報源になっており、グリーン購入・調達の急速な広がりに伴ってこのような環境ラベルを表示する製品等の数も増加しつつあります。
 また、製品の持つ「機能の取得」を目的に「製品を購入」する場合が多い点に着目し、製品の機能を提供するサービサイジングというビジネスモデルが広がっています。例えば、会員が共同して自動車を利用するカーシェアリングの事業化が各地で進んでおり、これは、直接的な環境負荷低減にとどまらず、家計支出の大きな部分を占める自動車の所有や使用のあり方の見直しを通し、生活全般の見直しに目が向けられることも期待されます。
 さらに、企業は、企業を取り巻くさまざまな利害関係者から環境配慮の面も含めて企業評価されます。企業側でも、環境コミュニケーションの重要性が認識されつつあり、インターネットによる情報発信、環境報告書の作成・公表、環境会計への取組などを進める企業数が増加しています。
 一方、一人ひとりによる企業への能動的な働きかけは、企業の取組をさらに積極的なものとします。例えば、近年、環境に配慮した商品の購入意欲が高まっているほか、こうした消費者のニーズの高まりに対応したネットワークの形成も進んでいます。また、企業が行う優れた環境保全のための取組等の表彰、エコファンドの登場とあいまった環境の観点からの企業の評価、格付け、就職情報誌への企業の環境経営度に関する情報の掲載などの動きもあります。こうした動きの積み重ねが企業の行動を変え、最終的には社会経済システムを環境に配慮したものへと変えていくことにつながっていきます。

2 一人ひとりと行政との相互関係
 行政も社会経済システムの枠組みを作り、基盤を整備する主体として、一人ひとりの行動を促していく役割を担っています。地方公共団体においては、最近、地域環境基本計画の中に住民一人ひとりの役割として、ライフスタイルを変革し、環境に配慮した生活を進める必要があることなどを盛り込むようになっているほか、法定外目的税制度の創設を契機に、自然環境の保全に配慮した行動や買い物時に受け取るレジ袋の削減など、日常生活におけるさまざまな場面における環境配慮を促すため、環境に関する税を導入する動きもみられます。また、日常生活での自動車交通需要の高まりに伴う環境負荷の増大に対応し、自転車を利用しやすい環境の整備、パーク・アンド・ライドシステムなどの社会資本の整備が進められています。さらに、一人ひとりに専門的な知識や豊富な経験を提供することのできる人材の育成、使いやすく整備された環境情報の提供や広報活動も進められています。
 一方で、特に地方公共団体においては、一人ひとりが積極的に環境保全施策の策定に参画することが可能となっており、一人ひとりの取組が行政を動かし、住民と行政の協働により施策が実施される例もみられつつあります。

3 その他の主体との関わり
 一人ひとりの取組を支える担い手は、企業や行政に限りません。
 例えば、環境問題に取り組むNPO(Non Profit Organization)の活動は、一人ひとりの日常生活と密接に関連した分野で活動の場を提供する機能を果たしています。個人が日常生活の問題意識からNPOの活動に参加することで、地域の取組や他の主体の取組が促進されることが期待されます。また、マスメディアから発信されるさまざまな情報は、環境意識の高揚や日常の行動様式の方向付けを促すとともに、日常生活の取組の輪を社会に広げていくことにもつながります。さらに、一人ひとりは、近隣の人々、知人・友人、家族等身の回りの人々との関係の中で生活をしていることを踏まえれば、身の回りの人々との情報交換により、日常生活の取組について、意識を高めたり自分自身の行動につなげたりしていくことが可能となります。
 このように、一人ひとりの環境保全の取組の広がりが、他の主体の取組を促し、それがさらに一人ひとりの取組を刺激するなど波及のサイクルを生み出します。こうした一連の動きが、最終的にはそれぞれのライフスタイルの変革を加速させることになり得るのです。

第5節 持続可能な社会に向けた新たな展開

1 持続可能な社会の構築の手がかり
 高度経済成長期以後、「物の豊かさ」より「心の豊かさ」を求める人が一貫して増加し、また、耐久消費財よりも、レジャーや余暇活動、自己啓発や能力向上等に今後の生活の比重が置かれ、生活全体が豊かでゆとりがあることを重視する傾向が見受けられます。また、耐久消費財の買い換えまでの使用年数が長期化しています。
 こうした変化を背景に、最近、いくつかの新しいライフスタイルが実践されています。
 例えば、「シンプルライフ」という言葉が、心の豊かさを取り戻すライフスタイルを示すものとして広がりをみせています。具体的には、@吟味したものに囲まれて生活する、A環境への配慮や長期間にわたる使用可能性などを考え、物の価値に見合った値段を払う、B修理やリサイクル等を活用し少しだけ手間をかけて丁寧に生活する、といった生活像の提案がみられます。こうした傾向をさらに社会に広げるためには、一人ひとりがこうしたライフスタイルを「おしゃれでかっこいい」といった観点でとらえていくことも必要です。
 また、一九八六年にイタリアで始まった「スローフード」と呼ばれる現代人の食生活を見直す運動がわが国でも広がっています。近年の食生活の変化は、野菜などを旬の時期を外して収穫するために加温したり工場で大量に作られた食材を遠く離れた消費地まで輸送したりするなど、環境負荷の増大につながっています。古来からの米食や地方の郷土食を改めて見直すスローフード運動の広がりは、環境負荷の低減にも結びつくものといえます。

2 持続可能な社会への歩み
 一人ひとりが持続可能な方向に沿ったライフスタイルを選択していこうとする場合、これを容易にする社会経済システムが整っていることが必要です。こうした社会経済システムの変革と一人ひとりの意識・行動の変革とが、同時並行的に進められることが重要です。誰しもが目的に向けて一歩を踏み出せているわけではありません。意識・行動の変化が社会を変える原動力となることを認識し、確実な歩みを進めていく必要があります。

第2章 地域行動から持続可能な社会を目指して

第1節 地域社会における環境保全活動

1 地域で活発化する環境保全活動
 心の豊かさを重視し、社会に貢献したいという意識が高まる中、環境の分野でも、単に日常生活の中での行動を通じて環境の保全に取り組んでいくにとどまらず、ボランティア活動やNPOの活動への参加、町内会や自治会などによる活動への参加などを通じ、より積極的にさまざまな環境保全活動に取り組んでいこうとする動きが拡大の兆しをみせています。こうした環境保全活動は、まず、地域に根ざし自分の周りを良くしていこう、自分の周りで活動しようとする性格のものが多いと考えられます。
 一方、事業者や事業者団体、生協、農協等の団体においても、地域社会への関心は高くなっており、自らの事業活動による環境負荷の低減を目指すことはもとより、社会的責任を果たすことが自らの社会的評価を高めることになるという観点などから、環境保全活動に自発的に取り組もうとする例が数多くみられるようになっています。
 このように、近年、各主体が地域発の環境保全活動に取り組むことが多くなっています。

2 地域における環境保全活動の歴史的変遷
 明治中期から昭和初期、鉱害問題などへの対応は、被害者との示談や和解、被害者側の移転等に限られ、限定された地域的な問題として扱われました。
 昭和二十〜四十年代、公害の全国的な広がりとともに、個々の地域の反対運動が連携することもみられるようになり、経済成長の一方で抜本的な公害対策が必要であることを日本全体が認識するようになりました。この時代、地方公共団体が国に先駆けて公害防止条例を制定するなど、地域における取組は公害対策における先導的役割を担いました。
 都市・生活型公害が顕在化してきた昭和五十年代、産業と地域住民の対立の構図が変化し、例えば、琵琶湖周辺における粉石けん使用運動のように、住民が自ら環境に与えている負荷を見直す運動が起こりました。この頃の日本の状況は、公害を防止するだけでなく、地域における環境の快適さ(アメニティ)を積極的に高めていく必要性があるとされました。また、この時期、自然環境の破壊に対しては、募金活動等を通じ広く国民の参加を得て保護すべき土地を買い取るなどするイギリス起源のナショナルトラスト活動が行われるようになりました。
 廃棄物・リサイクル問題や地球環境問題に大きな関心が集まるようになった昭和六十年代以降、環境問題の原因や解決策は一人ひとりの生活に直結するものであるため、地域に根ざした自主的な取組が重要との認識が高まるとともに、地域の各主体が一体となった廃棄物・リサイクルへの取組が急増しました。物質循環を媒介とした都市と農村の連携も生まれてきています。また、持続可能な社会の構築に向け、より良い環境を積極的に打ち出そうとする取組も活発化してきています。
 このように、わが国の地域における環境保全の取組の歴史を振り返ると、地域の取組は、わが国全体の環境保全の取組において重要な役割を果たしてきています。

3 国際的にも求められる地域での取組(「ローカルアジェンダ」から「ローカルアクション」へ)
 一九九二(平成四)年の地球サミットで合意されたアジェンダ21は、地方公共団体に対し、持続可能な社会づくりのための行動計画としてローカルアジェンダ21の策定を求めています。二〇〇二(平成十四)年のヨハネスブルグサミットでは、このローカルアジェンダ21で進められてきた取組をより具体的な行動に移していくことなどを目的とする「ローカルアクション21」を推進していくことが宣言されました。このように、国際的にも、地域という、より一人ひとりに身近なレベルでの実際の行動を行っていくことの重要性が認識されています。

第2節 地域を構成する基盤と主体による地域特性

1 地域における基盤の構成と地域特性
 地域を構成しているものは、気候、地理、動植物、水など自然由来のものと、人口、土地利用、交通基盤、公共施設、伝統や風土など社会的なものに分類できます。地域によりこれらの構成基盤と環境との関わりは異なります。例えば、大都市の世帯人員が少ない傾向は、エネルギー消費や水使用の増加につながります。他方、農山村は、その豊かな森林資源が木材の供給、二酸化炭素の吸収・固定など多面的機能を有しているほか、一人一日当たりごみ収集量が少ない傾向がみられます。こうした違いにより、目指すべき地域の将来像も多様となります。例えば、都市に関しては、都市機能を一定範囲内に適度な密度で配置、職住近接などを目指した「コンパクトシティ」という考え方が提唱されており、他方、農山村に関しては、農山村の持続可能性を保っていくため、環境との共生、地域物質循環、自律を基調とした「エコビレッジ」と呼ばれる地域社会の形成の考え方が提唱されています。

2 地域を構成する主体とその役割
 地域社会は、地域の自然的基盤、社会的基盤の上で、個人、家庭、近隣、学校、企業、地方公共団体、NPOなど多様な主体が社会的・経済的活動を営むことによって成り立っています。これらの主体は環境との関わりあいにおいてその立場と状況に応じて、環境に負荷を与える主体、環境を利用する主体、環境を保全または創出していく主体、環境について学んでいく主体など、さまざまな関わり方を有しており、それぞれの主体相互の間で環境コミュニケーションがなされています。
 その中で今日、NPOが公益を実現する担い手として不可欠の存在となりつつあります。NPOは、行政や企業に期待できない多様な活動を即応的に地域密着型で展開できるという特性を持っており、環境の分野でもその役割はますます大きいものとなりつつあります。

3 地域の多様性を踏まえた環境保全の展開
 地域ごとに行われる環境保全の取組は、これまでみてきたような、地域によって異なる自然的・社会的基盤と主体がダイナミックに関係しあって行われることになります。したがって、目指すべき地域づくりの方向性や取組の内容、進め方も、地域によって多種多様となるはずです。このように地域の個性をさまざまな主体が協力しあって有用に活用していくことで、一人では成し得なかった新たな環境保全の展開を期待できるといえます。

第3節 地域資源の把握と主体の連携による地域環境力の醸成

1 地域での環境保全活動のきっかけ
 地域において環境保全の取組を進めていくきっかけとしては、一つは、地域において既に顕在化している課題に着目し、これを乗り越えることから始める「地域課題着目型」があります。また二つ目に、より良い地域づくりのために、地域の特性を見つけ出し、これを活用することから始める「地域特性活用型」があります。いずれの場合も、身近なきっかけに気づき、それをどれだけ実際の行動につなげていくことができるかが地域での取組の入り口となるといえます。

2 地域資源の把握
 地域資源(地域の自然的・社会的基盤と主体)を効果的に環境保全の取組に活用していくためには、その前提として地域資源を的確に把握することが必要となります。
 熊本県水俣市では、地元に目を向けて地元を知ること、自然と人、人と人との関係の再生を基本に、「地元学」と呼ばれる取組で、地域の活性化と環境保全型の地域づくりを推進しています。そこではまず、水俣川流域の住民自身による調査を基に地域のさまざまな情報が整備され、これを活用して、市の総合計画や環境基本計画の策定、地区環境協定の締結、地場産業の振興、エコツーリズムの推進などを展開しています。このように地元学の取組は、地域を住民自身が調査し、地域の風土と生活文化を掘り起こし、これを活用して生活様式の転換を図るとともに、地域活性化、環境保全型の地域づくりを進めるものです。
 こうした取組を踏まえると、地域を的確に把握するためには、まず、自分自身でその地域を歩き、地域の有り様を、五感を駆使してとらえるという方法が考えられます。現場に即した活動の中で面白さを育むとともに、主体的に動くことで地域に愛着が沸き、行動にもつながります。また、その地域をよく知る人々に話を聞いてみるという方法もあります。
 このようにして一人ひとりが知り得た情報などを持ち寄ることは、地域全体の姿を把握していくために有効です。また、他の地域と比較したり、地域外の専門家などの指摘を受け、地域を再発見することも重要です。
 地域資源を的確に把握した結果、利用されてこなかった地域資源が再認識され、環境保全型の地域づくりへと活用される可能性もあります。例えば山形県立川町では、地域の厄介者ととらえられてきた強風を逆手に風力発電に取り組み、地域活性化を図っています。

3 主体間の連携
 地域には環境問題以外にもさまざまな社会や経済の問題が存在しています。社会が高度化・複雑化して、それぞれの主体の専門性が高まっており、また、環境問題そのものに関わる主体も増大している今日、より良い地域づくりに取り組んでいくためには、さまざまな主体の意見や目的を融合してより良い方向性にしていくことが必要となっています。そのため、地域の各主体が幅広く連携していくことが重要となります。
 静岡県三島市では、イギリスのグラウンドワークの手法を導入して、市民が主役となり、そこに行政と企業を取り込み、三者による地域総参加の体制の下、地下水の汲み上げや開発などで損なわれた美しい水辺環境を取り戻す取組が進められています。グラウンドワークとは、地域を構成する住民、企業、行政の三者が協力してトラストと呼ばれる専門組織を作り、この組織の下、パートナーシップをとりながら、地域の環境保全活動に取り組んでいくものです。イギリスでは、トラストは環境問題に関心の高い人たちや女性、中高年者の就職の場になるだけでなく、人々の生きがい、やりがい、社会貢献の場にもなっています。三島市では、行政、地域住民、子どもたちなどがそれぞれ役割を担って取組を進めるとともに、財政的には、参加市民団体、企業、行政からの資金拠出などが収入源となっており、また、さまざまな現物支援も得られています。こうした協力関係からお互いの信頼関係が生まれ、まちづくりも目に見えて活性化されてきています。
 このように主体間が連携を図っていくことで、各主体が個別に取り組む以上の相乗効果を期待することができます。また、連携して取組を進めていくことには、活動の認知度や社会的信用の向上、財政的な安定などのメリットがあり、地域の人々の支援を得ていくきっかけになると見込まれます。

4 情報の発信・共有
 地域の的確な把握のためにも、各主体の効果的な連携のためにも、環境の状況や地域の取組に関する情報、人材に関する情報などは、重要となります。これらの環境に関わる情報は、各主体が積極的に環境保全に取り組もうとする動機を持つ上での前提でもあります。地域において環境に関わる情報を持っている者や取組を進めようとする者は、その情報を積極的に発信・共有していくことが重要です。その結果、取組をより専門的に進化させることができるだけでなく、地域資源の活用の可能性を広げることにもなります。

5 「地域環境力」の醸成のための取組
 これまでみたように地域資源の把握と主体間の連携を行っていくことで、地域が一つの方向性を共有し、各主体がより良い環境、より良い地域を創っていこうとする意識・能力―これを「地域環境力」と呼びます―が高まっていきます。そして、この地域環境力が、環境、社会、経済のあらゆる側面から統合的に地域をとらえていくことを可能とし、地域全体として真に持続可能な地域づくりを効果的に進めていくことにつながっていきます。

第4節 地域環境力を活用した取組の広がりと効果

1 環境保全活動の継続
 取組を継続していくためには、活動を効率的・効果的に実施できる仕組みを整えることにより、常に地域の把握が行われ、適切な目標が設定され、達成に向けた取組意識と能力、すなわち地域環境力を維持しておくことが重要です。
 また、リーダーや参加メンバーを確保することも重要となります。具体的には、リーダーとして、取組に参加する各主体を啓発しつつ、それぞれの役割を調整する能力を有する人材が不可欠であり、取組の中でこうした人材を育成していくことが重要です。また、リーダー以外にも、実際に活動に携わる人材、会費等で支える人材、助言・指導できる人材など取組を支える幅広い人材が必要であり、こうした人材が揃うことで、活動メンバーが自らの能力の発揮に集中できる環境が整い、責任と誇りをもった活動が可能となります。
 さらに、取組を継続していくためには、地域環境力と取組を結びつける仕組みとして、活動資金や活動拠点の確保が必要となります。例えば環境保全活動団体の年間の財政規模は、百万円以下の団体が四六%と、その多くが資金の不足により活動の拡大や継続に苦労している実態があります。また、市民活動団体が求める行政支援の内容として四九・七%の団体が活動や情報交換の拠点となる場所の確保・整備をあげています。今後、こうした地域の活動資金や活動拠点をいかに充実させていくかが課題となっています。

2 地域環境力による地域活性化とその効果
 今日、環境保全型の地域開発の重要性が認識されるようになっています。平成十四年十二月に成立した自然再生推進法は、地域のさまざまな主体の参加により自然再生事業を行うための枠組みを定めるものです。釧路湿原や埼玉県くぬぎ山地区などで既に始まっている取組は、地域の発展と環境保全を両立・統合させていく取組と位置付けられます。
 また、地域環境力を備えた取組のためには地域の独自性の発見や地域一丸となった対応が求められます。このため、地域の環境保全とともに、結果的に経済的効果や地域活性化を呼び起こすこととなり、地域の発展と環境保全とがともに達成された社会の構築に役立ちます。
 例えば、リゾート開発型の観光に対して、サスティナブルツーリズムという考え方が注目されています。地域にある、自然、文化、歴史遺産を活用し、時には新たなアイディアの導入により、環境の保全、地域コミュニティの維持、長期的な経済的利益を同時に達成することに特徴があります。大分県湯布院町は、豊かな環境を維持しつつ年間三百万人以上の観光客が訪れており、この考え方を具現化した町といえます。
 また、環境保全型コミュニティビジネスの振興により地域主導の社会経済づくりを進める動きもみられます。滋賀県の琵琶湖地域における菜の花プロジェクトは、菜の花の栽培、なたね油の採油と利用、廃油や油かすの利用を地域内で事業展開するもので、環境保全・資源循環型の活動とビジネス活動が両立した取組となっています。
 このように地域環境力を備えた取組は、地域の人々の生きがい、自己実現、心の豊かさなどにつながるとともに、地域内の人的交流が活発になることで地域に共同体意識をもたらし、地域づくり活動への参加へと相乗的な効果をもたらします。また、地域の良いところが内外に発信されれば、地域外の人々との交流も生まれ、定住人口や企業・事業所等が増えていくことにもつながっていきます。

3 外部と連携した地域環境力の充実
 地域環境力を備えた取組は、地域の枠を越えて連携して進められることもあります。
 例えば、地域内だけの取組では地域資源の有効活用が難しい場合、他の地域との連携により取組が効果的なものとなります。東京都北区と群馬県甘楽町では、北区の小中学校の給食から出る生ゴミで作られるたい肥を甘楽町の有機農業に活用し、その収穫物を北区の学校給食に活用するなどの連携をとることで相互に役割を補完しあいながら、両者がそれまで抱えていた課題を解決していこうとしています。この取組により、北区の各小中学校では、給食の食べ残しの量が減少するといった効果も表れています。
 また、課題が社会経済活動や自然の営みが行われている圏域全体をとらえなければ効果的に対応できないものである場合、圏域全体での連携による地域環境力の醸成が不可欠です。矢部川(熊本県)の上流の矢部町と下流の熊本市は、森林の水源かん養機能に着目し、地下水保全に役立てるため、森林整備協定を締結しています。双方の住民が育林作業に参加することで、相互交流の促進や海と山との関連を学ぶ場としても期待が寄せられています。
 さらに、同じ課題を抱えている地域同士が情報交換や共同研究などの連携をとることで、取組を充実させている例もみられます。
 さらに視野を広げ、自らの公害経験を活かして、公害対策を中心とした環境協力を途上国に対して進め、地域から世界全体の環境改善へ向けて取組を行っている事例もあります。北九州市では、地域資源として持っている公害克服の経験、国際協力の実績及び公害防止技術を体系的に整理することにより人材の活用体制や研修教材などを整備し、中国大連市等との間で、共同事業や人材育成を中心とした支援が進められています。

4 地域外への取組の波及
 地域環境力を備え地域内で効果を上げた取組は、国内外の他の地域に伝えられることでさまざまな地域の活性化を誘発し、社会全体の大きな流れとなる可能性を有しています。
 例えば、琵琶湖における粉石けん使用運動などの市民運動の展開や行政による琵琶湖の環境保全の積極的な取組は、滋賀県の呼びかけによる「世界湖沼会議」の開催へとつながりました。この会議は、地方公共団体のイニシアティブによって湖沼環境保全を巡る世界的な交流・波及の場を生んだ先例といえます。

5 地域環境力からの持続可能な社会づくりを目指して
 これまでみたように、地域環境力は環境保全と地域活性化という二つの意味で持続可能な地域づくりに役立ちます。地域環境力を備えた取組の推進は容易ではありませんが、それぞれの取組が地域の発展と環境保全との統合を図る上での有効なモデルとして波及していく可能性を有しており、持続可能な社会の構築に向けた変革の大きな原動力となるのです。今、各地域で、地域環境力を醸成、充実させることが必要となっています。

むすび

 環境制約が日常生活に迫りつつあることを考えると、一人ひとりが取組の主人公である自覚を持ち、この困難な問題に早急に対処していくことが必要です。「ことを起こせ!」がヨハネスブルグサミットのテーマであったように、日常生活や地域など足元からの自発的な行動を起こすことが持続可能な社会への変革の確実な第一歩となり得るのです。




目次へ戻る


消費支出(全世帯)は実質一・二%の減少


―平成十五年四月分家計収支―


総 務 省


◇全世帯の家計

 前年同月比でみると、全世帯の一世帯当たりの消費支出は、平成十四年五月に実質減少となった後、六月以降四か月連続の実質増加となり、十月は同水準となったが、十一月以降六か月連続の実質減少となった。
 内訳をみると、家具・家事用品、被服及び履物、教養娯楽などが実質減少となった。

◇勤労者世帯の家計

 前年同月比でみると、勤労者世帯の実収入は、平成十三年十二月に実質減少となった後、十四年一月以降三か月連続の実質増加となったが、四月以降十三か月連続の実質減少となった。
 また、消費支出は、平成十四年八月に実質減少となった後、九月は実質増加となったが、十月以降七か月連続の実質減少となった。

◇勤労者以外の世帯の家計

 勤労者以外の世帯の消費支出は、一世帯当たり二十七万九千四百七十五円となり、前年同月に比べ、名目一・五%の減少、実質一・五%の減少となった。

◇季節調整値の推移(全世帯・勤労者世帯)

 季節調整値でみると、全世帯の消費支出は前月に比べ実質一・九%の増加となった。
 勤労者世帯の消費支出は前月に比べ実質一・五%の増加となった。












目次へ戻る


賃金、労働時間、雇用の動き


毎月勤労統計調査平成十五年五月分結果速報


厚生労働省


 「毎月勤労統計調査」平成十五年五月分結果の主な特徴点は次のとおりである。

◇賃金の動き

 五月の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は二十八万千八百六十二円、前年同月比〇・五%増であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十七万七千六百六十九円、前年同月比〇・五%増であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十五万九千六百九十円、前年同月比〇・三%増、所定外給与は一万七千九百七十九円、前年同月比は四・五%増であった。
 また、特別に支払われた給与は四千百九十三円、前年同月比は七・三%減であった。
 実質賃金は、〇・七%増であった。
 きまって支給する給与の動きを産業別に前年同月比によってみると、伸びの高い順に不動産業四・〇%増、卸売・小売業,飲食店二・〇%増、製造業一・四%増、建設業一・一%増、金融・保険業一・〇%増、運輸・通信業〇・一%減、サービス業〇・八%減、電気・ガス・熱供給・水道業二・六%減、鉱業八・四%減であった。

◇労働時間の動き

 五月の調査産業計の常用労働者一人平均月間総実労働時間は百五十一・六時間、前年同月比二・〇%増であった。
 総実労働時間のうち、所定内労働時間は百四十二・〇時間、前年同月比一・七%増、所定外労働時間は九・六時間、前年同月比五・五%増、所定外労働時間の季節調整値の前月比は二・〇%増であった。
 製造業の所定外労働時間は十三・九時間、前年同月比一〇・三%増、季節調整値の前月比は二・五%増であった。

◇雇用の動き

 五月の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・七%減、常用労働者のうち一般労働者では一・〇%減、パートタイム労働者では〇・五%増であった。
 常用労働者全体の雇用の動きを産業別に前年同月比によってみると、前年同月を上回ったものは鉱業二・七%増、サービス業一・〇%増、運輸・通信業〇・五%増であった。前年同月を下回ったものは卸売・小売業,飲食店〇・七%減、不動産業〇・八%減、建設業二・一%減、製造業二・三%減、金融・保険業二・四%減、電気・ガス・熱供給・水道業四・一%減であった。
 主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者二・六%減、パートタイム労働者一・二%減、卸売・小売業,飲食店では一般労働者〇・四%減、パートタイム労働者一・〇%減、サービス業では一般労働者〇・一%減、パートタイム労働者四・八%増であった。











言葉の履歴書


ジャガイモ

 「肉ジャガ」などに使われるジャガイモはジャガタライモの略。「ジャガタラ」はインドネシアの首都ジャカルタの古名で、日本ではジャワ島を指すことも多く、ジャワからの輸入品の総称として用いられました。
 ジャガイモは慶長三年(一五九八年)に初めてオランダ船によってジャカルタから長崎に入ってきたもので、ジャガタライモの名は、そのことに由来します。
 また、ジャガイモは「馬鈴薯(ばれいしよ)」とも言いますが、これは駅馬の鈴と関係があります。
 駅鈴は奈良・平安時代、官吏が諸国に公務出張する際に朝廷から支給された鈴。それを鳴らして宿駅の馬を徴発しました。
 その駅鈴のような形にジャガイモの実が成るところから、「馬鈴薯」の名が生まれています。
 ジャガイモには多くの異称がありますが、北陸地方の「ジャンガライモ」は、馬鈴のジャンガラという音からついた名前。ジャガタライモと発音が似ていますが、意味は異なるもののようです。



歳時記


鵜飼

  おもしろうて やがてかなしき 鵜舟(うぶね)かな
                   芭蕉
 この芭蕉の句は、華やかな鵜飼が終わって、かがり火が消えていく風情を詠んでいるのでしょうか。
 昔、鵜使いは「献上鮎(あゆ)」のため、領主の手厚い保護を受けていました。鵜飼は、鵜使いがよく飼いならした鵜を使って川で鮎を取らせる漁法で、古くから各地で行われていました。しかし、現在は、観光用以外はほとんど見ることができません。
 有名な岐阜県長良川の鵜飼の期間は五月十一日から十月十五日までですが、俳句の季語として、「鵜飼」は夏となっています。
 鵜匠は夜に漁を行い、かがり火をたいて鮎を誘い寄せ、あらかじめ飲み込まないようにしてある、手縄(たなわ)を首に巻いた鵜に鮎を取らせて、吐き出させます。
 観光客は「観覧船」という屋形船に乗って酒をたしなみ、鮎料理に舌つづみをうちながら見物します。最近では、薬膳料理など、工夫されているようです。
 鵜飼は川で行い、涼しさを感じることができますが、夏は川で遊ぶのに適した季節でもあります。しかし、それだけに川辺のキャンプは指定された所で行い、水量などに十分注意することが必要です。また、山岳事故も増える時期です。装備を十分準備し、登山計画書を家族や警察などに提出しておきましょう。



災害への備え

地震 そのとき どこにいる?出先での地震から身を守る

 「グラッときたら、まず落ち着いて身の安全を確保する」……大きな被害をもたらす地震災害は、あるとき突然襲ってきます。こうした災害に遭ったとき、私たちは常に自宅にいるとは限りません。自宅や身近な地域と異なり、繁華街やデパートなどの外出先では、身を守るためのより一層の注意が必要です。

◆屋外では落下物から頭を守る
 屋外で地震に遭った場合、まず注意しなければならないのが落下物です。住宅街では、屋根かわらやブロック塀、また、市街地では、窓ガラスや看板などが、落ちてきたり倒れてきたりする恐れがあります。鞄などの手荷物で頭を守りながら、なるべく広い場所に避難するようにしましょう。
 また、電線などが切れて垂れ下がっている場合があります。絶対に触らないようにしてください。

◆買い物中は棚に注意
 ビルなどの建物の高層階は、地上よりも揺れが大きい場合があり、デパートなどの商店の入ったビルでは、商品の棚や大型の家具が倒れてきたり、ショーウインドーや照明器具などのガラスが割れ落ちてきたりする危険があります。これらの周りからは、なるべく離れるようにしましょう。
 地下街や地下鉄の駅などの施設の場合、地上よりも揺れが少なく、比較的安全です。しかし、火災などが起こった際には、地上の施設よりも煙の充満が早いので、注意が必要です。ハンカチなどで鼻と口を覆い、体を低くして、誘導灯などに従って、速やかに地上に避難するようにしてください。
 また、こうした建物や施設内では、避難する人が出口に殺到すると、パニックになる恐れがあり大変危険です。店員などの指示に従って、落ち着いて避難するようにしましょう。

◆車外への飛び出しは厳禁
 バスや電車などの公共交通機関に乗っていた場合、車外に飛び出すのは危険です。特に地下鉄では、軌道敷に走っている高圧線に感電する危険性があります。乗務員の指示に従って、落ち着いて避難するようにしてください。

◆車は停車、キーはつけたままに
 車に乗っていると、揺れに気がつきにくく、また、車の動作も極端に悪くなるため、避難が遅れがちです。
 運転中に地震に遭った場合、落ち着いてハンドルをしっかりと握り、徐々に速度を落として左側に停車してください。車から降りて避難するときは、消火活動などの妨げにならないよう、ドアのロックはせず、車の鍵はつけたままにしましょう。
 また、地震などによる大きな災害が起こった場合、主要な幹線道路では、救急活動などの交通路確保のため、交通規制が行われ、緊急車両以外の車両での移動が制限されます。ご注意ください。

◆正しい情報で避難してください
 いち早く避難するためには、正しい情報が必要です。災害被害の状況や避難場所などについては、テレビやラジオ、防災行政無線など公的な放送などを頼りに、デマやうわさに振り回されないようにしましょう。
 また、各都道府県のホームページなどでは、避難場所の情報などが掲載されています。自宅の周りだけでなく、地域の中心市街地などの避難場所も、同時に確認するようにしましょう。

無事を伝えるメッセージ〜一七一番災害用伝言ダイヤル〜

 災害が発生した地域では、家族や知人の安否を確認する電話などが集中し、一時的に電話のかかりにくい状態になることがあります。「一七一番災害用伝言ダイヤル」は、こうした災害が発生したときに、電話による音声メッセージを録音・保存し、被災地内外から、再生できるようにするものです。公衆電話や携帯電話からも利用ができるので、自宅の電話が使えなくなってしまった場合にも、利用することができます。
 毎年、八月三十日〜九月五日の「防災週間」の間は、災害伝言ダイヤルが開放され、体験利用ができるようになります。いざというときの連絡手段について、家族や親類などの間で確認しておくようにしましょう。

(1) 一七一番をダイヤル
    ↓
<録音する>
(2) 音声に従い「録音」を選ぶ
(3) 被災地からは自宅の電話番号を、その他の地域からは、連絡を取りたい相手の電話番号を市外局番から入力
(4) メッセージを吹き込む

(1) 一七一番をダイヤル
    ↓
<再生する>
(2) 音声に従い「再生」を選ぶ
(3) 被災地からは自宅の電話番号を、その他の地域からは、連絡を取りたい相手の電話番号を市外局番から入力
(4) メッセージが再生される
          (Web版広報通信八月号)



    <8月27日号の主な予定>

 ▽首都圏白書のあらまし……………国土交通省 

 ▽労働経済動向調査(五月)………厚生労働省 




目次へ戻る