官報資料版 平成15年12月3日




                  ▽防衛白書のあらまし…………………防 衛 庁

                  ▽毎月勤労統計調査(八月)…………厚生労働省

                  ▽天皇誕生日一般参賀について………宮 内 庁











防衛白書のあらまし


防 衛 庁


 平成十五年版「日本の防衛」(防衛白書)は去る八月五日の閣議で了承され、公表された。
 白書のあらましは次のとおりである。

第1章 国際軍事情勢

概 観

 今日における安全保障環境の変化として、国家ばかりでなく、テロ組織などの特定の困難な非国家主体が脅威の主体として注目されている。また、テロ活動などが安全保障に及ぼす影響も重視されるようになっている。ある国で生じた安全保障上の問題が、瞬く間に国境を越え世界中に広まる可能性があるなど、安全保障問題はグローバル化している。
 誰が、いつ、どこで、なぜ、脅威を与え、攻撃してくるのかさらに予測が困難になっており、予測困難で複雑・多様な脅威の常態化が今日の安全保障環境の大きな特徴となっている。
 こうした中、軍事力の役割は、従来の「国の防衛」に加えて、「域内の秩序維持」「世界規模での協調」などの分野にも拡大している。欧米主要国をはじめとする各国は、軍事力の新しい役割も含め、協調して多様な事態へと対処することのできる軍事能力を確保するための変革努力を行っている。
 米国は、唯一の超大国として、軍事力、科学技術力などで国際社会に対する優位を維持している。圧倒的な国力を背景として、国際社会は米国を中心として新たなものとなりつつあり、本年のイラクに対する軍事作戦などを通じて、この動きはさらに加速されている。
 他方、米国のみでは解決できないテロや大量破壊兵器の拡散などの問題もあり、米国も国際問題の解決に際しての関係国との協力や国際的協調の重要性も認識している。国連は、国際の平和と安全を維持する役割を発揮することが期待されているが、国連がその役割を発揮するためには多くの問題があることも同時に明らかになっており、今後の課題となっている。

第1節 国際社会の課題

1 テロとの闘い
 二〇〇一年九月十一日の米国同時多発テロは、従来その危険性が指摘されていたテロが二十一世紀を迎えた国際社会において現実の脅威になっていることを改めて示した。米国をはじめとする各国は、反テロリズムの国際的連帯を形成し、すべての国際テロ組織を打破すべくテロとの闘いを行っている。
 現在、アフガニスタン国内においては、米軍を中心として残党の追跡・掃討、陸路を通じた逃亡の阻止が実施され、アラビア海などにおいては各国の艦艇により残党の海路を通じた各地への逃亡とアフガニスタンのテロリズムの拡散防止の努力が続けられている。
 各国による全世界的な努力にもかかわらず、国際テロ組織はなお世界各地にその網をめぐらせており、テロ攻撃が拡散する可能性は減じていない。米国をはじめとする各国は国際テロ組織の打倒のための協力を実施しているほか、それぞれの国内においてもテロとの闘いを続けている。

2 大量破壊兵器などの移転・拡散など
 近年、大量破壊兵器やその運搬手段である弾道ミサイルについて、特に大量破壊兵器の使用に対する抑止が働きにくい国家に対する移転・拡散が進んでおり、同時にテロリストなどの非国家主体が大量破壊兵器などを取得、使用する懸念も高まっている。

3 米国などによるイラクに対する軍事作戦
 イラクは、湾岸戦争から昨年に至るまで、少なくとも十六の安保理決議に反して、大量破壊兵器の査察を拒み続けた。
 昨年十一月、イラクは安保理決議第一四四一号を受け入れたが、国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)と国際原子力機関(IAEA)の査察活動に対してのイラクの協力は不十分であった。米英などはイラクの大量破壊兵器の脅威をこれ以上放置できないとし、本年三月二十日から軍事作戦を開始、四月十四日にはイラクのほぼ全域を掌握し、五月一日にブッシュ大統領はイラクにおける主要な軍事作戦は終了したと宣言した。
 この軍事作戦が、短い期間と少ない米軍の損害で収束したのは、米軍の圧倒的な軍事力によるものであり、その要因としては、@米軍の展開や進攻におけるスピード、A状況に応じて作戦や任務を切り替えるという戦略面や戦術面での柔軟性、B戦場における敵、味方部隊についての正確な情報収集・分析、C攻撃の効率性を高め、少数の航空機による複数目標への攻撃を可能にした精密誘導攻撃、の四点が挙げられる。
 また、今回の作戦にあたって、直接戦闘に参加した国に加え、米国を支持した国などによるコアリション(連合)が形成されたことは、単独主義によらず、イラクの大量破壊兵器の脅威に対応する意思をもった国との協力により軍事作戦の目的を達成するという米国の姿勢の表れとみられる。

4 複雑で多様な地域紛争
 冷戦終結後も国家間の武力紛争が依然として発生し、民族や宗教、資源などに起因する内戦も数多く起こっている。

第2節 主要国の国防政策と国際社会の安定化への対応など

1 米国の国防政策
 米国は、昨年九月に公表した国家安全保障戦略において、テロリストによる攻撃と大量破壊兵器の拡散を最大の脅威として捉えており、ならず者国家やテロリストは、米国に対して、テロや大量破壊兵器による攻撃を行うことになるとしている。大量破壊兵器とテロがもたらす脅威に対しては、脅威が大きいほどこれに対して行動しない危険は大きく、時として先制することも必要であるとしている。
 米国防省が二〇〇一年十月公表した「四年毎の国防計画の見直し」(QDR)では、ほぼ同時に生起する二つの大規模戦域戦争において敵を決定的に打破できる戦力を維持するという従来のアプローチを放棄し、@国土防衛、A前方抑止、B同時に二つの戦域において敵を迅速に打破し、うち一つにおいて決定的に打破、C限定的な数の小規模緊急事態への対処、という四つの目的のために戦力を構成することとしている。また、海外展開については、前方展開戦力を維持するとともに、その能力を強化する必要があるとしている。
 米国防省は、国防を全うするためには、軍の変革が必要であるとし、CISR、統合作戦、緊急展開能力、長距離での戦力投射能力、ステルス性、精密誘導兵器、地中貫徹爆弾、無人機、ミサイル防衛、核・生物・化学物質(NBC)対処、テロ対処などを重視している。
 核戦略については、昨年一月の「核態勢の見直し」(NPR)では、抑止態勢を今後、@核戦力と通常戦力からなる攻撃能力、A防衛システム、B国防基盤という新たな三本柱に移行するとしている。ミサイル防衛や通常戦力も重視することにより、核兵器への依存を低下させるとともに、大量破壊兵器が拡散している中で抑止力の向上を図っている。
 ブッシュ政権は、ミサイル防衛の開発を積極的に進めており、昨年十二月、二〇〇四年から二〇〇五年にかけて、初期的なミサイル防衛システムの配備を決定した。

2 その他の主要国の国防政策
 ロシアは、二〇〇〇年、「安全保障コンセプト」を改定するとともに、「軍事ドクトリン」を策定し、一極支配と多極化推進という趨勢が発生しているとする国際情勢やロシアに対する国内外の脅威についての認識と、通常兵器を使用した大規模侵攻に対する報復などのため核を使用できるとの認識を示した。
 昨年十月のモスクワ市劇場占拠事件後、プーチン大統領はテロリスト対策を重視した新たな国家安全保障コンセプト策定を命ずるとともに、チェチェン共和国における武装勢力掃討作戦を徹底し、独立国家共同体(CIS)・北大西洋条約機構(NATO)などとの対テロ協力を推進している。
 ロシア軍では、二〇〇五年末までに、軍の兵員が百万人にまで削減される予定である。また、軍人の質的向上を図り練度の高い軍を維持するため、契約勤務制度の導入の検討が開始され、昨年九月から既に一部で導入実験が開始されている。軍は現在、国内外の脅威に対処するため、これまで後回しにされてきた即応態勢の立て直しも進めている。
 核戦力について、戦略核兵器削減条約は本年六月に正式に発効し、米露両国は二〇一二年末までに核弾頭を一千七百〜二千二百発まで削減することとなった。
 欧州主要国においては、地域紛争の発生など新たな安全保障上の問題に対応できるよう、既存の安全保障の枠組を強化・拡大するとともに、戦力の再編・合理化を進めている。また、紛争予防・危機管理・平和維持などの分野で、欧州諸国の主体性を強化する動きがみられる。NATOの加盟国拡大について、昨年十一月、七か国の加盟招請が決定された。
 各国は、多様な事態への対応を念頭に、総じて紛争予防・危機管理などの国土防衛以外の任務を重視する傾向にあり、防衛力の整備においても、NATOなどにおける役割を考慮しつつ、部隊展開のための輸送能力強化などに努めてきている。

3 国際連合などによる国際社会の安定化のための努力
 冷戦後、国連の平和維持活動の任務は、幅広い分野にわたるようになり、活動の規模も拡大した。しかしながら、与えられる任務に必要な要員や機材を確保できるかといった問題も抱えており、国連平和維持活動などに携わる要員の早急な安全確保も望まれている。
 兵器の移転・拡散問題への対応は、国際社会の抱える緊急の課題となっており、大量破壊兵器の移転・拡散を防止する努力、通常兵器や関連汎用品・技術に関する輸出管理が行われている。

4 軍事科学技術の動向
 米国を代表とするハイテク型軍隊を擁する国々は、兵器の破壊力の向上に加え、精密誘導技術やCISR技術を含む情報関連技術、無人化技術(無人機など)関連の研究開発を重視している。今後、先進諸国は先端的な軍事科学技術をさらに高度化していくであろうが、テロ攻撃やサイバー攻撃など非対称的な脅威に対抗するための先端技術に関する研究開発も重要なものと認識されつつある。

第3節 アジア太平洋地域の軍事情勢

1 全般情勢
 アジア太平洋地域は、地理、人口、宗教、民族、政治体制、安全保障観など様々であり、欧州地域などとは明らかに異なる多様性と複雑さを有している。この地域において対立関係にあった二国間関係も、九〇年代以降、関係が正常化するなどの変化がみられ、近年では、経済面を中心として二国・多国間の連携・協力関係の充実が図られている。
 経済がこの地域の安全保障に与える影響は大きい。改革・開放政策を推進する中国は政治的・経済的にもこの地域の大国として成長を続けており、軍事面においても地域がその動向を注目する存在である。他方、九七年の金融・通貨危機により、経済上だけでなく政治上の混乱を生じた国も少なくない。政治・社会上の不安定から脱却するためガバナンス(統治能力)の向上に努めている国も存在する。ガバナンスの向上は、治安維持能力の強化だけで得られるものではなく、均衡のとれた安定的な経済成長が地域の多様性から本来的に生じやすい「格差」を補う一つの鍵となっている。豊かさの格差の拡大は地域の国家間及び国内の安定にとってマイナスであり、国家間の対立やテロリストの温床などにつながるものである。この問題は特に東南アジアの諸国において重要である。
 アジア太平洋地域にはインドネシア国内の分離・独立運動などの領土問題や、朝鮮半島における統一問題といった従来の問題も残されている。
 北朝鮮による核問題に対して国際社会の懸念が再び高まっているほか、工作船事案や日本人拉致問題などの懸案も存在している。拉致問題は、わが国の国民の生命と安全に大きな脅威をもたらすことから、テロともいうべきものである。この問題については、昨年九月、小泉総理が訪朝し、日朝首脳会談を行った際に、強く抗議したのに対し、金正日国防委員会委員長は日本人拉致問題や工作船事案を認め、再発防止を約束した。翌十月には、拉致被害者五人が帰国したが、北朝鮮に残っている拉致被害者家族の帰国問題や、安否が確認されていない拉致被害者の問題を含め、今回帰国が実現した五人以外の被害者に関するさらなる情報提供など問題が残っている。
 アジア太平洋地域の状況は、ユーラシア大陸の中東から北東アジアに至る「不安定の弧」の一部としてとらえ、軍事的紛争の起こりやすい地域ととらえられている。このような戦略環境の下で、米国を中心とする二国間の同盟・友好関係とこれに基づく米軍の存在がこの地域の平和と安定に引き続き重要な役割を果たしているが、米軍の世界的な戦力展開態勢の中で、この地域の米軍のプレゼンスは他の重要な地域と比べて必ずしも十分ではないと認識されている。

2 朝鮮半島
 北朝鮮は、「強盛大国」建設を国家の基本政策として標榜し、その実現に向けて「先軍政治」という政治方式をとっている。金正日総書記が国防委員会委員長として、国家の運営において、軍事を重視し、かつ、軍事に依存することは、今後も継続すると考えられる。
 深刻な経済困難に直面しているにもかかわらず、依然として軍事面に資源を重点的に配分し、戦力・即応態勢の維持・強化に努めていると考えられる。また、北朝鮮は大量破壊兵器や弾道ミサイル、大規模な特殊部隊を保持するなどし、いわゆる非対称的な軍事能力を依然として維持・強化していると考えられる。
 北朝鮮の核問題は、わが国の安全に影響を及ぼす問題であるのみならず、大量破壊兵器の不拡散の観点から国際社会全体にとっても重要な問題である。北朝鮮が使用済燃料棒を再処理し、プルトニウムを抽出することが懸念される。一方、過去の核兵器開発疑惑が解明されていないことに加え、最近の一連の行動を考えれば、既に北朝鮮の核兵器計画が相当進んでいる可能性も排除できない。
 弾道ミサイルは、ノドンの配備が進んでいると考えられる。また、弾道ミサイルの長射程化のための研究開発を行っていると考えられ、弾道ミサイル本体ないし関連技術の北朝鮮からの移転・拡散の動きも指摘されており、北朝鮮も「外貨稼ぎを目的」に弾道ミサイルを輸出していると認めている。北朝鮮の弾道ミサイル開発・配備などの問題は、核問題とあいまって、国際社会全体に不安定をもたらす要因となっており、その動向が強く懸念される。
 北朝鮮による最近の動きとしては、本年二月には北朝鮮軍のMiG―19がNLLを越境し、三月には日本海上空を飛行中の米軍機を北朝鮮軍のMiG―29などが接近、追跡した。また、二〇〇一年十二月の九州南西海域で発見された不審船は北朝鮮の工作船と特定された。
 北朝鮮では経済面での様々な困難に対し、限定的ながら現実的な改善策や一部の経済管理システムの変更も試みているが、北朝鮮は計画経済の考え方を堅持することを表明している。こうした改善策が社会にどのような影響を与えるかにも注目する必要がある。
 昨年一月に発足したブッシュ政権は、北朝鮮に「前提条件なし」で話し合いを行う旨、繰り返し呼び掛けた。そして昨年十月、ケリー国務次官補が訪朝したが、米国はこの訪朝時に北朝鮮が核兵器用ウラン濃縮計画を認めたと発表した。米国は検証可能な方法での核兵器計画の撤廃を求めたが、北朝鮮はこれに応じず、米国との「不可侵条約」を求めるとともに核不拡散条約(NPT)の脱退を再び宣言した。米国は北朝鮮の核問題は国際的な問題であることを明確にしている。なお米国は、北朝鮮の弾道ミサイルや大量破壊兵器に関する懸念も繰り返し表明しており、また北朝鮮をテロ支援国家に指定している。
 南北関係について、経済面や人道面における交流は進展しているが、軍事的な分野では、本格的な信頼譲成措置はいまだ実現していない。
 本年四月の米中朝協議で、北朝鮮は既に核兵器を保有していると発言したと言われている。北朝鮮の核問題の解決に向けて各国が協調して努力していく必要がある。同時に核問題以外の安全保障の懸念も忘れてはならず、朝鮮半島における軍事的対峙や北朝鮮の弾道ミサイルの開発・配備・拡散などの動きにも注目する必要がある。
 韓国について、本年二月に就任した盧武鉉大統領は、対北朝鮮政策について、金大中前政権で進められた融和政策である「包容政策」の考え方を継承する「平和繁栄政策」を掲げている。
 在韓米軍について、現在、米韓両国間で今後の米韓同盟のあり方について議論がなされている。本年五月の米韓首脳会談で、両首脳は、在韓米軍を統合し、ソウル中心部の龍山基地を早期に移転することに合意した。本年六月、両国は、ソウル以北の在韓米軍基地の再配置を数年にわたり二段階で進めることに合意した。
 本年五月、韓国国防部と在韓米軍司令部は、二〇〇六年までに百十億ドルを投入して在韓米軍の戦力を補強する計画を発表した。

3 中 国
 中国は、「富強」、「民主」、「文明」の社会主義国を建設することを目標に、経済建設を最重要課題として改革・開放路線を推進してきており、その前提となる国内外の安定的な環境を維持するため、内政の安定と団結、特に、社会的安定を重視するとともに、対外的には、先進諸国との関係の改善、周辺諸国との良好な協力関係の維持促進を基本としつつ、国防面では、国防力の近代化・強化に努めている。
 本年三月、第十期全国人民代表大会第一回会議が開催され、党・国・軍の指導部が交代し、党・国家の基本方針が示された。胡錦涛党総書記が国家主席に就任したが、江沢民前党総書記・前国家主席は党・国家の中央軍事委員会主席に留任し、政治的影響力を残す形となった。
 経済面では、ここ十年のGDPの成長率が年平均七%以上であり、GDPの規模では世界第六位になるなど、急速な発展を継続しており、さらに二〇二〇年までにGDPを二〇〇〇年の四倍とするという目標が打ち出された。一方で、急速な経済成長に伴う地域格差の拡大や国有企業改革などに伴う失業者の増大などの様々な問題が顕在化しつつある。
 中国と台湾との関係は、経済関係及び人的交流が深まっている一方で、中国は、台湾は中国の一部であり、台湾問題は中国の内政問題であるとの原則を堅持している。中台間には基本的立場になお隔たりがあることから、公式対話は途絶えたまま膠着状態が継続している。
 米中関係は二〇〇一年の米中軍用機接触事故で緊張したが、関係は改善がみられる。中国は、米国の「一極化」への動きを警戒しつつも、経済建設を進める上で必須となる安定的な米中関係を望んでいる。昨年は、二度の首脳会談も行われ、これらを踏まえ米中軍用機事故以降停滞していた米中軍事交流も本格再開した。
 中国は軍事力について「量」から「質」への転換を図り、近代戦に対応できる正規戦主体の態勢へ移行しつつある。このような基本方針に従い、これまで陸軍を中心とした兵員の削減と核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした全軍の近代化が行われている。また、九一年の湾岸戦争後は、ハイテク条件下の局地戦に勝利するための軍事作戦能力の向上を図る方針がとられている。
 中国は、「積極的防御」を軍事戦略方針としており、また、国防建設と経済建設を協調して発展させるようにするとしている。
 中国の国防費は、本年の全人代において、一千八百五十三億元で伸び率は九・六%と発表された。昨年発表された伸び率(一七・六%)に比べ、伸び率は抑制されているものの、依然高い水準にある。近年の国防予算の伸びはGDPの伸びを大幅に上回っていることと合わせてみれば、中国は今後も軍事力の近代化を推進していくものと考えられる。中国は、従来、国防費の内訳の詳細について公表していない。また、中国が国防費として公表している額は、中国が実際に軍事目的に支出している額の一部にすぎないとみられていることも留意する必要がある(第1図参照)。
 核戦力は、一九五〇年代半ばごろから独自の開発努力が続けられている。弾道ミサイルについては、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や、わが国を含むアジア地域を射程に収める中距離弾道ミサイルを保有しているほか、台湾対岸における短距離弾道ミサイル配備数の増加の動きがみられる。
 中国は、核・ミサイル戦力や海・空軍力の近代化を推進している。近代化の目標が、中国の防衛に必要な範囲を超えるものではないのか慎重に判断されるべきであり、このような動向について今後とも注目していく必要がある。
 中国軍は、近年、運用面においても近代化を図ることなどを目的として、陸・海・空軍間の協同演習や上陸演習などを含む大規模な演習を行っている。昨年から、新軍事訓練大綱が施行され、ハイテク条件下の局地戦に勝利することを目標とし、科学技術を主導とした訓練や、全軍の統合作戦能力強化を図った訓練を行うとしている。
 わが国の近海においては、主としてわが国の排他的経済水域において、近年、中国の海洋調査船により、海洋調査とみられる活動が行われている。また、わが国の近海における中国海軍艦艇の航行も行われている。
 中台の軍事力については単なる量的比較だけではなく、様々な要素から判断されるべきであるが、一般的特徴は、次のように考えられる。
 @ 陸軍力については、中国が圧倒的な兵力を有しているが、台湾本島への着上陸侵攻能力は限定的である。
 A 海・空軍力については、中国が量的には圧倒しているが、質では台湾が優位である。
 B ミサイル攻撃力については、中国は台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルを保有している。
 中国の軍事力の近代化は急速に進んでおり、近い将来にも中台の軍事バランスにおける台湾の質的優位に大きな変化を生じさせる可能性があり得る。

4 極東ロシア
 極東地域のロシア軍の戦力は、九〇年以降縮小傾向がみられ始め、現在も、ピーク時に比べ大幅に削減された状態にあるが、依然として核戦力を含む相当規模の戦力が存在している。厳しい財政事情から、極東地域のロシア軍の活動は、全般的に低調であったが、一部復調の兆しがみられる。
 北方領土のロシア軍の駐留は依然として継続しており、ロシア軍が早期に完全撤退することが必要である。わが国周辺におけるロシア軍の活動は演習・訓練を含め依然として全般的には低調であるが、復調の兆しもみられる。

5 東南アジア
 地域の経済の回復基調に伴い、多くの国で危機によって生じた混乱が徐々に収拾され、統治能力も向上にむかっている。
 米国同時多発テロ以降、この地域における国際テロ組織が問題となっている。東南アジア諸国はテロ対策の充実を図っており、テロへの取組について、地域の関係国間で様々な協議を行っている。また、関係国のテロ対処能力の向上のため、米軍による協力の事例もみられる。
 昨年七月から八月にかけて、ASEAN外相会議やASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会合など一連の会議でテロ対策などが協議され、この中でASEANと米国との間では対テロ宣言が調印された。また、昨年十一月のASEAN首脳会議においても、新たな対テロ宣言が採択された。さらに、本年六月に行われたASEAN外相会議やARF閣僚会合など一連の会議においてもテロ対策における国際協力の重要性が確認され、ARF閣僚会合においては、「海賊行為及び海上保安への脅威に対する協力に関する声明」及び「国境管理に対するテロ対策協力声明」が採択された。
 南沙諸島問題については、昨年十一月、ASEANと中国の首脳会談で領有権問題の平和的解決に向けた「南シナ海における関係国の行動宣言」が署名された。
 インドネシアは国内に民族上の対立などを抱えており、地方で分離・独立を求める動きがみられている。

6 その他の地域
 オーストラリアは、例えば東ティモール問題への対応にみられるように、地域の安全保障問題の解決に積極的に参画しようとしている。
 インドは、核政策について、本年一月、生物・化学兵器による攻撃を受けた際は核による報復の選択肢を保持するなどの核戦略の見直しを行った。対外関係では、従来友好関係にあるロシアのほかに、米国及び中国との関係において進展がみられる。
 パキスタンは、イスラム諸国との友好関係を重視する一方、テロとの闘いにおいて米国への協力を行っている。一方、国内には反米的な勢力もあり、テロとの闘いで米国に協力するムシャラフ政権に対する反発もみられる。
 中央アジアは、近年、イスラム原理主義運動とこれを信奉する組織によるテロ事件が頻発している。また、米国同時多発テロ後のアフガニスタンに対する対テロ作戦の後方基地として重要な役割を果たしている。

7 アジア太平洋地域の米軍
 太平洋国家の側面を有する米国は、アジア太平洋地域の平和と安定のために、引き続き重要な役割を果たしている。二〇〇一年十月に米国防省から公表されたQDRにおいても、四つの重要な地域(欧州、北東アジア、東アジア沿岸部、中東・南西アジア)における前方抑止態勢の強化を重視している。米国は現在、世界各地に展開している米軍の態勢について検討を着手しており、今後それがアジア太平洋地域の安全保障にいかなる影響を及ぼし得るのか注目することが必要である。

8 アジア太平洋地域の安定化努力
 近年、二国間の軍事交流などの機会の増加や地域的な安全保障に関する多国間の対話の努力が行われている。このような努力が域内の安全保障上の諸問題に対して具体的にいかなる寄与を行うことができるかはこれからの課題となっている。

第2章 わが国の防衛政策

第1節 防衛の基本的考え方

1 わが国の安全保障を確保する方策
 わが国は、平和と安全を確保するため、外交努力による国際的な安全保障環境の安定の確保及び国内社会の安定による安全保障基盤の確立に努めている。しかし、こうした努力のみでは国の安全を確保することは困難であることから、防衛力の適切な整備、維持及び運用を図るとともに、日米安保体制を堅持し、その信頼性を向上させて隙のない防衛態勢をとることとしている。

2 憲法と自衛権
 日本国憲法は、主権国家としてのわが国固有の自衛権を否定するものではなく、自衛のための必要最小限度の実力を保持することは認めている。自衛権の発動は、いわゆる自衛権発動の三要件に該当する場合に限られ、また、集団的自衛権の行使は憲法上許されないなどの政府見解が示されている。

3 防衛政策の基本
 国防の基本方針において、平和への努力の促進などによる安全保障基盤の確立や、効率的な防衛力の整備と日米安保体制を基調とすることを掲げている。その他の基本政策として、専守防衛、軍事大国とならないこと、非核三原則、文民統制の確保などがある。

第2節 防衛計画の大綱

1 防衛大綱が前提としている国際情勢
 わが国周辺地域では、依然として大規模な軍事力が存在するとともにその拡充・近代化など不透明・不確実な要素が残っている。

2 わが国の安全保障と防衛力の役割
 基盤的防衛力構想を基本的に踏襲するとともに、防衛力の規模及び機能の見直しを行い、その合理化・効率化・コンパクト化を一層進める。日米安保体制の重要性を再確認する。また、防衛力の役割として、わが国の防衛、大規模災害など各種の事態への対応、より安定した安全保障環境の構築への貢献を掲げている。

3 わが国が保有すべき防衛力の内容
 各自衛隊の体制を明示し、基幹となる部隊や主要装備の具体的な規模などを示している。

4 防衛力の整備、維持と運用における留意事項
 中長期的な見通しの下での適切な経費配分、効率的な調達補給態勢の整備への配意、技術研究開発の態勢の充実に努めることとしている。

5 防衛力のあり方の検討
 防衛庁長官を長とする「防衛力の在り方検討会議」で所要の検討を行っている。

第3節 防衛力の整備

1 中期防衛力整備計画
○計画の方針
 「中期防衛力整備計画(平成十三〜十七年度)」(中期防)では、引き続き防衛大綱に従い、@防衛力の合理化・効率化・コンパクト化の推進などA日米安保体制の信頼性の向上Bより安定した安全保障環境の構築への貢献C節度ある防衛力の整備、を計画の方針として掲げ、適切な防衛力の整備に努めることとしている。
○基幹部隊の見直しなど
 ・ 陸上自衛隊は、中期防期間末には十個師団・四個旅団・一個混成団などを基幹部隊とする十六万六千人程度の体制とする。
 ・ 海上自衛隊は、中期防期間中に、護衛艦部隊のうち地方隊の一個護衛隊を廃止して基幹部隊の体制移行を完了する。
 ・ 航空自衛隊は、中期防期間中に、八個警戒群を警戒隊に改編して基幹部隊の体制移行を完了する。
○所要経費
 計画期間中における防衛関係費の総額の限度は、将来における予見しがたい事象への対応、より安定した安全保障環境構築への貢献など特に必要があると認める場合に安全保障会議の承認を得て措置することができる一千五百億円程度を含め、平成十二年度価格でおおむね二十五兆一千六百億円程度をめどとしている。
 さらに、この計画については、三年後には、その時点における国際情勢、情報通信技術をはじめとする技術的水準の動向、経済財政事情など内外諸情勢を勘案し、二十五兆一千六百億円の範囲内において必要に応じ見直しを行うこととしている。
 なお、沖縄に関する特別行動委員会(SACO)関連事業は着実に行い、その所要経費は別途明らかにする。
○検討課題
 将来の防衛力のあり方や防衛力整備の進め方について検討を行う。

2 平成十五年度の防衛力整備
 中期防の三年目として、防衛大綱に定める体制への移行、防衛力の合理化・効率化・コンパクト化を図りつつ、必要な機能の充実と防衛力の質的向上を行い、防衛力整備の着実な進捗を図ることを基本とする。その際、現下の厳しい財政事情の下、昨年六月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針二〇〇二」の趣旨を十分に踏まえ、一層の効率化・合理化を図る。本年度の防衛力整備における主要事項は、@ゲリラや特殊部隊の侵入対処、不審船対処、A生物兵器による攻撃への対処、B各種災害に適切に対処し得る態勢の整備、C情報機能の強化、D統合運用態勢の充実、E高度情報通信ネットワークの構築、F軍事科学技術の進展への対応、弾道ミサイル防衛に関する日米共同技術研究などの実施、G人事施策、教育・部隊訓練の充実、Hより安定した安全保障環境の構築への貢献、I環境対策など、J着実な体制転換、K着実な防衛力整備、などである。
 平成十五年度の防衛力整備のうち、主なものとして、新中距離地対空誘導弾の整備とイージス・システム搭載護衛艦の整備がある。

3 防衛関係費
 平成十五年度の防衛関係費の総額は、四兆九千二百六十五億円であり、前年度より百三十億円(〇・三%)減(SACO関係経費を除く)となっている。なお、平成十五年度予算においては、SACO関係経費について二百六十五億円が予算措置されており、これを含めた防衛関係費の総額も、対前年度比〇・一%減の四兆九千五百三十億円となる。

第4節 日米安全保障体制

1 日米安全保障体制の意義
 わが国は米国との二国間の同盟関係を継続し、その抑止力を機能させることで、適切な防衛力の保持と合わせて、わが国の安全を確保する。

2 日米安全保障共同宣言
 日米安保条約を基調とする日米同盟関係が、二十一世紀に向けてアジア太平洋地域で安定的で繁栄した情勢を維持するための基礎であり続けることを再確認した上で、わが国防衛のための効果的な枠組は日米両国間の緊密な防衛協力であることや、米国が約十万人の前方展開兵力を維持することなどを改めて確認した。
 宣言後、指針の実効性を確保するための措置を講じることで、日米安保体制の信頼性は一層向上した。日米両国は、国際テロなどの新たな課題に適切に対応するため、各レベルで緊密な協議を続けている。

第5節 日米安全保障体制に関連する諸施策

1 日米防衛協力のための指針(指針)
 指針は、より効果的かつ信頼性のある日米協力を行うための堅固な基礎を構築することなどを目的としている。
 指針及びその下で行われる取組は、日米同盟関係の基本的な枠組は変更されないこと、わが国のすべての行為は憲法上の制約の範囲内でわが国の基本的な方針に従って行われることなどの基本的な前提及び考え方に従って行われる。

2 指針の実効性を確保するための諸施策
 九九年から二〇〇〇年にかけて、周辺事態安全確保法、日米物品役務相互提供協定を改正する協定、自衛隊法の一部を改正する法律、船舶検査活動法が成立・承認された。

3 平素から行っている協力
 政策の協議・情報交換、日米共同訓練、装備・技術面での相互交流などを行っている。

4 弾道ミサイル防衛に関する日米共同技術研究
 弾道ミサイル防衛(BMD)は専守防衛を旨とするわが国の防衛政策上の重要な課題である。また、BMDは純粋に防御的なシステムであり、専守防衛という政策に適することから、わが国の主体的取組が必要であるとの認識の下、これまで検討を行ってきた。
 九九年に閣議決定がなされ、防衛庁と米国防省との間で了解覚書を締結し、共同技術研究を開始した。

5 在日米軍の駐留を円滑にするための施策など
 わが国は、日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を確保するため、財政事情などにも十分配慮しつつ、地位協定の範囲内で、あるいは特別協定に基づき、できる限りの努力を払ってきた。また、政府は、在日米軍施設・区域に関する諸施策について、日米安保条約の目的達成と周辺地域社会の要望との調和を図るため努力を重ねている。

第3章 緊急事態への対応

第1節 わが国の防衛

1 警戒監視活動など
 自衛隊は、平素から周辺海域での警戒監視や対領空侵犯措置、軍事情報の収集などの活動を行っている。

2 陸・海・空自衛隊による各種作戦
 万一、外部からの武力攻撃が生じた場合、自衛隊は、防空のための作戦、周辺海域の防衛のための作戦、わが国領土の防衛のための作戦、海上交通の安全確保のための作戦、を行う。

第2節 各種の事態への対応

1 不審船・武装工作員などへの対応
(1) 不審船への対処
 不審船には警察機関である海上保安庁が第一義的に対処するが、海上保安庁では対処することが不可能又は著しく困難と認められる場合には、機を失することなく海上警備行動などを下令し、自衛隊が海上保安庁と連携しつつ対処する。
(2) 武装工作員などへの対処
 武装工作員などによる不法行為には、警察が第一義的に対処するが、自衛隊は、生起した事案の様相に応じ、基本的に次のように対応する。
○ 侵入者の実態や生起している事案の状況が不明確な場合には、状況の把握に努め、自衛隊施設の警備強化などを行うとともに、必要に応じ、警察官の輸送、各種資器材の提供などにより、警察機関に協力する。
○ 生起している事案が明確となり、一般の警察力をもっては治安を維持できないと認められる場合には、輸送支援、各種資器材の提供に加え、治安出動により警察機関と協力し、武装工作員などの鎮圧、防護対象の警備などを行う。
 なお、陸上自衛隊の師団などと全都道府県警察との間で、共同図上訓練が開始された。

2 事態が外部からの武力攻撃に該当する場合の対応
 武装工作員などによる活動が、外部からの組織的・計画的な武力行使と認められる場合には防衛出動により対処する。
 このようなゲリラや特殊部隊による攻撃に対しては、速やかに情報収集態勢を確立し、ゲリラや特殊部隊を早期に発見して捕獲又は撃破するとともに、攻撃による被害を最小限にして事態を早期に収拾する。

3 同時多発テロを踏まえた対処態勢の整備
 防衛庁・自衛隊は新たな任務である警護出動の実効性を確保するため、様々な取組を行っている。例えば、警護出動時に米軍や関係機関との連携を確保するためには、平素から意思疎通を確保することが必要であり、在日米軍、警察、海上保安庁と警護出動に関する意見交換を行っている。

4 核・生物・化学兵器への対応
 わが国でNBCテロが発生し、これが外部からの武力攻撃に該当する場合、防衛出動によりわが国を防衛するために必要な対処や被災者の救援などを行う。
 また、テロ攻撃が発生し、一般の警察力で治安を維持することができない緊急事態に該当する場合、自衛隊は、治安出動により関係機関と連携してテロ攻撃を行う者の鎮圧などの対処や被災者の救援を行う。
 前記によらない場合、被害発生後に必要な被災者の救助、被害の拡大防止などの観点から、自衛隊は、災害派遣などにより、被害状況などに関する情報収集、除染活動、傷病者の搬送、医療活動などについて関係機関を支援する。
(1) 生物兵器への対処
 被害の発生に際して、患者の治療などについては医療機関が対応し、自衛隊は、消毒などの除染活動、患者などの輸送、医療を行う。
(2) 化学兵器への対処
 陸上自衛隊に配備されている化学防護衣や化学防護車で防護が可能であり、災害派遣により派遣された陸上自衛隊の化学防護部隊などが、汚染地域で、化学検知器材による化学剤の検知、傷病者の搬送、除染、医療を行う。
(3) 核兵器に関連する物質への対処
 防護マスクと防護衣を保有している自衛隊は関係機関と連携しつつ、汚染状況の測定、傷病者の搬送などを行う。

5 サイバー攻撃への対応
 防衛庁・自衛隊は、サイバー攻撃の脅威に的確に対応するため、情報セキュリティの基盤を整備するとともに、サイバー攻撃に対する防御・対処能力や体制を確保する必要がある。このため、サイバー攻撃への対処手法の研究、システム保全管理機能の充実、人的基盤の整備、などの施策を行っている。

6 その他の対応
(1) 在外邦人などの輸送態勢の整備
 事態に応じた自衛隊の能力の活用ができるように、各自衛隊は輸送などのための態勢を整えている。
(2) 周辺事態への対応
 日米防衛協力のための指針の実効性を確保するために、九九年に周辺事態安全確保法などが成立し、承認され、二〇〇〇年には船舶検査活動法が成立した。今後、これらに基づいて対応することとなる。
(3) 弾道ミサイルへの対応
 弾道ミサイルは、大量破壊兵器の運搬手段となり得ることから、その拡散は深刻な国際的課題となっている。
 わが国に対し弾道ミサイルが発射された際における対応については、その状況に応じ個別に判断することとなるが、それがわが国に対する組織的・計画的な武力の行使であると判断された場合は、防衛出動により対処することとなる。
 一方、わが国に対する組織的・計画的な武力の行使であると判断できない場合、弾道ミサイルの着弾又は落下により生じた被害を最小限に留めるという観点から、災害派遣を行うとともに、情報収集態勢をさらに強化し、事態の把握に努めることとなる。
 わが国は、現在、弾道ミサイルに対する有効な防御手段は有していないが、こうした弾道ミサイル攻撃の危険性への現時点における対応については、日米防衛協力のための指針を踏まえ、「自衛隊及び米軍は弾道ミサイル攻撃に対応するために密接に協力し調整する。米軍は、日本に対し必要な情報を提供するとともに、必要に応じ、打撃力を有する部隊の使用を考慮する」こととされている。

第3節 国家の緊急事態への対処にかかる取組など

1 武力攻撃事態などへの対応に関する法制への取組
(1) 法整備の意義など
 わが国に対する武力攻撃事態など、国や国民の平和と安全にとって最も重大な事態への対処について、国家として基本的な体制の整備を図ることは極めて重要である。中でも関連する法制は国家として当然整備すべきものであり、また、わが国の長年の課題でもある。
 さらに、このような法制の整備は、わが国に対する武力攻撃事態などの未然防止に資するほか、武力攻撃事態などにおけるシビリアン・コントロールの確保の観点からも重要である。
(2) 法整備などにかかるこれまでの取組
 本年一月、小泉総理は、第百五十六回通常国会の施政方針演説で、「武装不審船、大規模テロを含む国家の緊急事態への対処態勢を充実し、継続審査となっている有事関連法案の今国会における成立を期します」と述べた。
 また、政府は、衆議院の武力攻撃事態対処特別委員会で、地方公共団体や関係する民間機関などの意見を踏まえ、いわゆる国民の保護のための法制の概要を提示し、政府案に対する理解を求めた。
 野党の民主党は、政府原案に対して、「緊急事態への対処及びその未然の防止に関する基本法案」など、政府原案への対案と修正案を提出し、与党三党と民主党との間で協議した結果、政府原案に対する修正合意が成立した。
 この修正合意を踏まえ、五月十五日、与野党を含む約九割の賛成多数で衆議院本会議を通過、六月六日、参議院本会議においても同様の賛成多数で武力攻撃事態対処関連三法が可決、成立した。
(3) 武力攻撃事態対処関連三法の概要
○武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(武力攻撃事態対処法)
 武力攻撃事態とは、わが国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいい、また、武力攻撃予測事態とは、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。
 本法は、武力攻撃事態等への対処について、基本理念、国、地方公共団体などの責務、国民の協力その他の基本となる事項を定め、武力攻撃事態等への対処のための態勢を整備し、併せて武力攻撃事態等への対処に関して必要となる法制の整備に関する事項を定め、もってわが国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的としている(第2図参照)。
○安全保障会議設置法の一部を改正する法律
・ 安全保障会議の諮問事項に、@武力攻撃事態への対処に関する基本的な方針、A武力攻撃事態等への対処に関する重要事項、B重大緊急事態への対処に関する重要事項、を追加する。
・ そのほかに、安全保障会議の議員を改正し、安全保障会議を専門的に補佐する組織(事態対処専門委員会)を置く。
○自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律
・自衛隊法の一部改正
 防衛出動時における物資の収容などにかかわる規定、防衛出動下令前の防御施設構築の措置などにかかわる規定、防衛出動時における自衛隊の緊急通行にかかわる規定、取扱物資の保管命令に従わなかったものなどに対する罰則及び関係法令の防衛出動時などにおける特例を整備若しくは新設する。
 なお、武力攻撃事態対処法により、武力攻撃事態に至ったときの対処基本方針にかかわる国会承認などの手続が新設されることに伴い、自衛隊法七十六条の規定により内閣総理大臣が防衛出動を命ずる際の手続については武力攻撃事態対処法によることとする。
・防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部改正
 防衛出動を命ぜられた職員に対する防衛出動手当の支給にかかわる規定を新設する。
(4) 武力攻撃事態対処関連三法成立の意義
 与野党の幅広い合意を得て武力攻撃事態対処関連三法が成立したが、その審議における活発な議論を通じ国民の理解はより深まったと考えられる。これら三法の成立は、活発な議論を通じ国民の理解の深まりを受け、与野党の幅広い合意が形成されたという点で、わが国の防衛政策にとって歴史的転換点であるといえよう。また、これら三法の内容としては、武力攻撃事態における自衛隊の行動の円滑化のみならず、政府全体としての取組の仕組みを定め、さらに、国民の保護のための法制などをはじめとして、今後整備すべきもののプログラムを示しているという点で、緊急事態への対処に関する制度の基礎が確立したことになる。
 したがって、今後は、事態対処法制の整備、さらには運用面での態勢の整備などを行うこととなることから、防衛庁としては、引き続き関係省庁と緊密に協力しながら精力的に整備を進めていく必要があると考えている。
(5) 今後取り組むべき分野
○国民の保護のための法制
 国民の保護のための法制については、国民の権利・義務とも関係を有し、検討事項も多岐に及ぶことから、地方公共団体や関係する民間機関などの意見を聴き、十分な国民の理解を得つつ整備を進めていくべきものである。そのため、武力攻撃事態対処法の成立後、早急に関係する団体や機関との本格的な調整を進めることとしている。
○その他の法制
 武力攻撃事態対処法に定められた枠組の中、自衛隊の電波利用の円滑化、船舶・航空機の航行に関する措置などに関する自衛隊の行動の円滑化のための法制、米軍が実施する日米安保条約に従って武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に行われるための措置のほか、捕虜の取扱いに関する法制及び武力紛争時における非人道的行為の処罰に関する法制についても、今後、検討していく必要がある。

2 部隊行動基準の策定に向けた取組
 自衛隊の部隊行動に際しては、文民統制の下、法令などを遵守しつつ、それぞれの部隊がその時々の情勢や現場の実情に応じて的確な行動をとることが必要である。不審船や武装工作員などへの対応が求められる中、法令などの範囲内で部隊などがとり得る対処行動の限度を明確に示し、もって部隊行動を適切に律することが一層重要となってきており、防衛庁では、「部隊行動基準」を作成している。

第4節 災害への対応

○ 災害派遣などの形態には、災害派遣、地震防災派遣、原子力災害派遣がある。
○ 自衛隊では、迅速な災害派遣を効果的に行うため、初動に対処できる部隊を指定している。本年六月現在、陸上自衛隊は、災害派遣に即応できる部隊として全国に人員約二千七百名、車両約四百十両、ヘリコプター約三十機を指定している。海上自衛隊は、応急的に出動できる艦艇を各基地ごとに指定しているほか、航空機の待機態勢を整えている。航空自衛隊は、航空機の待機態勢などを整えている。
○ 昨年度の災害派遣は、急患輸送、消火支援、捜索救難、自然災害への対応が主であった(第1表参照)。
○ 自衛隊が、災害派遣活動を迅速かつ的確に行うためには地方公共団体などの協力が必要不可欠であり、情報連絡体制の充実や防災計画の整合、地方公共団体が行う防災訓練への積極的な参加など、自衛隊と地方公共団体などとの間で日ごろから連携強化を図り、自衛隊の活動をより有効なものとする必要がある。
 また、関係行政機関と地方公共団体とが緊密に連携して訓練を行うことは、大規模な災害に効果的に対処する上で必要不可欠との観点から、自衛隊は、災害派遣に備えて訓練を行い、地方公共団体の行う防災訓練に協力するなどして災害への対策の強化に努めてきた。昨年度も、全国すべての都道府県主催の総合防災訓練に自衛隊の部隊などが参加した。

第4章 より安定した安全保障環境の構築への貢献

第1節 イラク問題へのわが国の対応

1 イラクへの武力行使などに関連するわが国の対応
(1) 武力行使直後のわが国の対応
 本年三月二十日、米英を中心とする国連加盟国によるイラクへの武力行使が行われ、小泉総理は、同日緊急記者会見を行い、米国の武力行使開始を理解し、支持する旨を表明した。防衛庁は、同日、長官を本部長とするイラク関連事案等緊急対策本部を設置し、第一回の会議では、長官が、情報収集態勢、艦艇・航空機による警戒監視態勢、駐屯地警備などの強化などの指示を行った。
(2) イラク難民救援国際平和協力業務など
 政府は、国連難民・高等弁務官事務所(UNHCR)からの要請を受け、国際平和協力法に基づいて人道救援活動上緊急に必要な物資(テント)を無償で譲渡すること、これらをヨルダンへ輸送することについて、三月二十八日に閣議決定を行い、三月三十日、航空自衛隊は、政府専用機によって物資を輸送し、UNHCRに引き渡した。

2 わが国のイラクの国家再建に向けた取組への協力
 イラク国内は、電力、通信などのライフラインの機能が十分機能していない上、医療・教育などの行政インフラがいまだ不十分であり、人道面や生活インフラの面で厳しい環境にある。また、治安状況については改善の方向に向かっているが、いまだ安定していない。各国軍隊への期待は、輸送、補給など様々なものがあるが、このような環境下において効果的な活動を遂行できる自己完結性を備えた自衛隊の能力を活用することが必要である。
 政府は、このような状況や、安保理決議第一四八三号を踏まえ、イラクの復興などに対し、わが国にふさわしい貢献として、自衛隊と文民による人道復興支援などのための活動を行うことが必要との結論に至り、本年六月十三日、このための法案として「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法(イラク人道復興支援特措法)案」を通常国会に提出し、同法案は七月二十六日に参議院で可決、成立した。
(1) イラク人道復興支援特措法の概要
 安保理決議第六七八号、第六八七号及び第一四四一号並びにこれらに関連する安保理決議に基づき国連加盟国によりイラクに対して行われた武力行使並びにこれに引き続く事態を受けて、国家の速やかな再建を図るためにイラクで行われている国民生活の安定と向上、民主的な手段による統治組織の設立などに向けたイラクの国民による自主的な努力を支援・促進しようとする国際社会の取組に関し、わが国がこれに主体的かつ積極的に寄与するため、安保理決議第一四八三号を踏まえ、人道復興支援活動及び安全確保支援活動を行うこととし、もってイラクの国家の再建を通じてわが国を含む国際社会の平和と安全の確保に資する。
(2) イラク被災民救援国際平和協力業務
○実施計画の概要
 安保理決議第一四八三号を受け、イラク周辺国において国連などの関係機関などが行っている人道的な国際救援活動のための物資などの輸送を行うこととする。このため、イラク被災民救援国際平和協力隊を設置し、自衛隊の部隊などにより、輸送分野における国際平和協力業務を行うこととする。
○航空自衛隊派遣部隊の状況
 航空自衛隊は、実施計画及び実施要領に基づき、本年七月七日、人員百四十四名、C―130H輸送機三機などからなるイラク被災民救援空輸隊などを編成し、七月十日、C―130H輸送機二機が空自小牧基地を出発した。
 空輸隊は、欧州からイラク周辺国までの間などにおいて、国連などの関係機関が行っている人道的な国際救援活動のための物資などの空輸を行っている。

第2節 テロ対応のための活動(インド洋などでの活動)

1 初期におけるインド洋での自衛隊の活動など
 情報収集のための派遣、アフガニスタン難民救援国際平和協力業務のほか、海上自衛隊が、被災民救援活動として生活関連物資の輸送を、協力支援活動として米海軍艦艇への洋上補給を実施し、航空自衛隊が、協力支援活動として国内・国外輸送を行った。

2 基本計画の変更
 国際テロ活動を取り巻く状況を踏まえ、インド洋での各国の活動は一年半以上にわたって行われ、さらにこの活動は、当面の間継続することが見込まれている。政府は、各国の活動状況などを踏まえ、わが国としての主体的な判断に基づき、三度にわたり基本計画を変更した。

3 最近における自衛隊の活動など
 海上・航空自衛隊は協力支援活動を引き続き行っている。なお、海上自衛隊は、内閣総理大臣の承認を得て、イージス艦を派遣するとともに、艦船用燃料の提供については、米英軍の他にドイツ、ニュージーランド、フランス、イタリア、オランダ、スペイン、カナダ、ギリシャまで対象を拡大した。

4 現場の具体的な活動など
 補給を行っている周辺海域では、すぐには国籍が確認できない船舶や航空機が航行しており、作業中の隊員は、常時、不測の事態に対応できる態勢を維持しなければならず、極度の緊張を強いられている。また、最高気温が四十度を超えるなど、厳しい環境の下で、隊員は忍耐強く任務を遂行している。

5 日本の貢献に対する評価
 これらの活動に対して、海外から多くの評価や感謝の表明がなされている。

6 テロ対策特措法の有効期間の延長のための法改正
 政府は、本年六月十三日、テロ対策特措法の一部改正に関する法案を第百五十六回通常国会に提出し、継続審査の扱いとなった。

第3節 「PKO十年」の歩み

1 わが国の国際平和協力の軌跡
(1) 国際平和協力業務の幕開け
 九二年六月に国際平和協力法が制定され、同年九月から、自衛隊としてはじめての国連平和維持活動への参加となるカンボジアに施設部隊を派遣した。
(2) 様々な分野での活動
 九三年にモザンビーク、九四年にザイールへそれぞれ部隊及び司令部要員を派遣した。また、武器使用の一層の適正を確保するため、九八年、国際平和協力法が改正された。
(3) 国際平和協力業務に対する国民の意識の変化(世論調査より)
 平成五年度と十四年度の内閣府作成の「世論調査」を比較すると、国連平和維持活動への参加に対する肯定的意見が大幅に増加している。
 このような国民の意識変化は、国連カンボジア暫定機構(UNTAC)への参加から十年を経て、国民の国際平和協力に対する理解が深まったことに加え、自衛隊が真摯な態度で業務を遂行し、その能力の高さが内外に認められた結果であると考えられる。
 今や、自衛隊の国際平和協力は国民から十分に理解され、かつ期待されている活動であり、自衛隊の主要な活動の一つになったといえる。
(4) 国際平和協力の本格的な取組への体制作り(国連平和維持隊(PKF)本体業務の凍結解除)
 わが国として、さらに積極的に国際平和協力を実施すべきとの国内外の期待が高まったことを受け、二〇〇一年、国際平和協力法が改正された。

2 国際平和協力業務に参加する自衛隊の派遣態勢・体制の改善
(1) 派遣態勢の改善
 @幹部自衛官などに対する平素からの教育において国際平和協力業務の課目を新設、A北欧諸国などの国連平和維持活動(PKO)関連の教育機関などへの派遣候補者の派遣、B幹部自衛官などを対象に英語能力検定の受験機会の付与、CPKOをテーマとした安全保障協議、国外訓練への参加、など。
(2) 派遣体制の改善
 @装備品に関する質的・量的な充実(例えば、野外炊具、浄水セット、天幕、野外手術システムなど)、A部隊派遣に併せての司令部要員の派遣、B派遣隊員の留守家族への各種の支援業務の充実、など。

3 わが国の国際平和協力の今後の課題
 自衛隊の国際平和協力への取組は、いわゆる「若葉マーク」を卒業する時期にきており、今後、自衛隊が国際平和協力を行うにあたっては、より一層自衛隊の特性を活かし、今まで以上に困難な任務を的確に遂行することが求められているということを自覚すべき時期に来たと考えられる。
 防衛庁・自衛隊は、わが国の国際平和協力のための様々な取組の中で、人的な貢献の主体となるべきと認識しており、より効果的な国際平和協力業務を行うため、国内外の情勢を見極めつつ、今後のあり方について検討することが必要であると考えている。

第4節 国際平和協力への現在の取組

1 東ティモール国際平和協力業務などへの参加
○ 国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)及びその後継である国連東ティモール支援団(UNMISET)に対して、昨年三月から第一次東ティモール派遣施設群などが派遣され、道路・橋などの維持補修など後方支援業務を実施し、現在、第三次施設群などが派遣されている。
 業務実施上様々な制約を受けているものの、東ティモール復興に向けた現地での活動を支援するため、各隊員は旺盛な責任感をもって日夜努力している。
○ 九六年に、第一次ゴラン高原派遣輸送隊がカナダの輸送部隊と交代して以来、約六か月交代で部隊を派遣している。現在、第十五次派遣輸送隊が日常生活物資などの輸送や道路の補修などの後方支援業務を行っている。
○ 昨年、防衛庁派遣職員処遇法により、陸上自衛官一名が国連PKO局軍事部軍事計画課に派遣された。派遣された自衛官は同局で方針や計画の策定などの業務に従事している。

2 国際緊急援助活動への取組
 防衛庁・自衛隊は、人道的な貢献やより安定した安全保障環境の構築の見地から、国際緊急援助活動に積極的に取り組むこととしている。

第5節 国際社会における信頼関係増進への取組

1 安全保障対話・防衛交流
 わが国の安全を確保するためには、適切な防衛力を保持し、日米安保体制を堅持するとともに、より安定した安全保障環境を国際社会、特に、アジア太平洋地域において構築していくことが重要である。このため防衛庁は、この地域における関係諸国(韓国、ロシア、中国、東南アジアなど)との二国間交流やARFなどの多国間の安全保障対話・交流などを重視し、積極的に取り組んでいる。

2 多国間共同訓練
 防衛庁としては、多国間共同訓練に参加することやこれを主催することは、自衛隊の各種技量の向上はもとより、関係国間の各種調整や意見交換を通じ、相互理解の促進や信頼関係の増進に寄与するものと考えており、引き続き、積極的に取り組んでいくこととしている。

3 軍備管理・軍縮分野への協力
○ イラクの大量破壊兵器などの破棄に関する国連の活動への協力、国連軍備管理登録制度への参加、国連軍事支出報告制度への協力、軍縮関連条約への協力、対人地雷問題への対応、兵器の不拡散への取組、などを行っている。

第5章 国民と防衛

第1節 防衛力を支える基盤

1 自衛隊の組織と人
○ 自衛隊は、各自衛隊を中心に、防衛大学校、防衛医科大学校、防衛研究所、技術研究本部、契約本部、防衛施設庁など、様々な組織で構成されている。
○ 省移行を巡る議論については、行政改革会議の最終報告(九七年)において、政治の場で議論すべき課題とされており、その後、国会で活発な議論が行われている。二〇〇一年六月には、防衛省設置法案が議員提出され、継続審査の扱いとなっている。防衛庁としては、防衛省設置法の早期成立を望んでいる。
○ 隊員は、自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補と事務官、技官、教官などからなる。
 また、多様な事態に対して有効に対応し得る防衛力を整備し、同時に事態の推移にも円滑に対応できるように適切な弾力性を確保し得るものとすることが適当であることから、自衛官の定数については、平素は必要最小限で対応しつつ、有事などには、その所要を早急に満たせるように、日頃から予備の自衛官を保持することが重要である。

2 教育訓練
 自衛隊は、種々の制約の中、事故防止など安全確保に細心の注意を払いつつ、隊員の教育や部隊の訓練などを行い、精強な隊員及び部隊を練成するとともに、即応態勢の維持・向上に努めている。

3 情報通信技術(IT)革命への対応
○ ITの発展と普及は、社会のあらゆる分野に変革をもたらすものと考えられ、防衛庁ではIT革命に対応するため「防衛庁・自衛隊における情報通信技術革命への対応に係る総合的施策の推進要項(IT要綱)」を発表し、また、各種施策を推進している。
○ IT要綱における中核となる三つの施策
・ 情報の共有による自衛隊の統合的かつ有機的な運用態勢を強化するため、全自衛隊共通のネットワークである防衛情報通信基盤(DII)のオープン系の運用を開始するとともに、昨年度からクローズ系の設計に着手している。
・ 統合幕僚会議事務局にDIIネットワークの稼働状況やセキュリティの常時監視などの業務を行う防衛情報通信基盤(DII)管理運営室を新設した。
・ 昨年度から、コンピュータ・システム共通運用基盤(COE)の設計・構築を開始するとともに、COEの管理・更新などのために、本年度、統合幕僚会議事務局にCOEの管理組織を新設する。

4 防衛生産・技術基盤の充実強化
 国の安全保障を最終的に担保し、他に代替する手段のない防衛力を適切に整備し、運用していくためには、装備の面においてもそれを支える基盤を充実強化していくことが不可欠である。

5 透明・公正かつ効率的な調達
 防衛庁は、競争原理の強化、ライフサイクルコストの低減などにより、防衛調達のさらなる透明性・公正性の確保に努めるとともに、効率的な調達補給態勢の整備を図っていく。

6 秘密保全に対する取組
 二〇〇〇年の秘密漏えい事件の発生を受け、防衛庁では、同種事案の再発防止策を取りまとめ、秘密漏えい防止のための取扱環境の整備、服務指導などの徹底、組織の新編、整備などを行ってきた。また、防衛秘密の漏えいにかかわる罰則を強化することを内容とする自衛隊法改正案が昨年十一月に施行された。
 このように、防衛庁は、秘密保全に万全を期し、国民の信頼を高め、その期待に応えるよう、全力を挙げて取り組んでいる。

第2節 国民と自衛隊を結ぶ活動

1 市民生活の中での活動
 自衛隊は、災害派遣のほかに、危険物の処理、医療面での活動、運動競技会に対する協力、国家的行事での礼式、教育訓練の受託、輸送業務、国家的行事での礼式、南極地域観測への協力などを通じて国民生活の安定に役立っている。

2 様々な広報活動
 防衛庁・自衛隊の広報も変化する国民の意識やニーズを踏まえつつ、自衛隊の実態がより理解されるよう、マスメディアによる広報、イベント・施設などによる広報、体験による広報、隊員による広報などといった様々な活動を行っている。

3 情報公開制度などの適切な運用
 行政機関情報公開法は、行政機関の保有する情報の一層の公開を図ることで政府の諸活動を国民に説明するとともに、国民の的確な理解と批判の下に公正で民主的な行政の推進に資することを目的としており、防衛庁・自衛隊は、この趣旨を踏まえて業務を行っている。
 また、自衛官の募集のための適齢者情報の取扱いにおいて、個人情報の適切な管理に努めていくこととしている。
 昨年五月の情報公開開示請求者リスト事案では、大半の職員の個人情報保護に対する認識の低さとチェックの甘さ、また、情報公開室勤務者に対する行政機関電算処理個人情報保護法を含む個人情報保護に関する教育研修が十分に行われていなかったことが反省事項とされた。このため、防衛庁・自衛隊は、個人情報に関する教育研修などリスト事案の再発防止に取り組んでいる。

第3節 防衛庁・自衛隊と地域社会とのかかわり

1 地方公共団体などによる協力
 自衛官の募集・就職援護や自衛隊の活動などに対する、地方公共団体や関係機関などによる様々な支援・協力は不可欠である。

2 防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策
 防衛庁は、以前から、住宅防音工事への助成をはじめとする生活環境の整備などの施策を重点的に講じてきている。また、「飛行場周辺における環境整備の在り方懇談会」からの報告書における提言を踏まえ、@太陽光発電システムに対する設置助成、A住宅の外郭防音工事、Bまちづくり支援事業、C既存公共施設の改修事業、D飛行場周辺の周辺財産の利活用といった新たな施策の充実に努めることとしている。

3 環境保全への取組など
 防衛庁では、「地球温暖化対策実行推進・点検委員会」を設置し、政府の実行計画に定められた取組の円滑な推進と取組実績の集計や分析などの点検を行うこととしている。在日米軍施設・区域をめぐる環境問題について、政府は、日米合同委員会の枠組などを通じ、米側と十分協議の上、わが国の公共の安全や市民生活に妥当な考慮が払われるよう対処している。

4 在日米軍施設・区域に関する諸施策
 従来、岩国飛行場滑走路移設事業や空母艦載機の着陸訓練場の確保に関する施策などを行ってきている。

第4節 沖縄に所在する在日米軍施設・区域

1 SACO設置以前における整理・統合・縮小への取組
 日米両国は、地元の要望の強い事案を中心に、整理・統合・縮小の努力を継続的に行ってきた。

2 SACO設置以降の在日米軍施設・区域にかかわる問題解決への取組
○ SACO最終報告の内容は、土地の返還(普天間飛行場など計六施設の全部返還、北部訓練場など五施設の一部返還)、訓練や運用の方法の調整(県道一〇四号線越え実弾射撃訓練の本土演習場での分散実施など)、騒音軽減、地位協定の運用改善である。
○ 土地の返還については、十一事案のうち九事案が着実に進捗している。また、土地の返還以外の案件についても、そのほとんどが実現している。
 特に、普天間飛行場の返還については、昨年七月、「普天間飛行場代替施設の基本計画」が策定され、また、代替施設について、地域の住民生活と自然環境に著しい影響を及ぼすことのないよう最大限の努力を行いつつその円滑な建設を推進することを目的として、政府、沖縄県、地元地方公共団体との間で協議を行う「代替施設建設協議会」が本年一月設置された。防衛庁は、普天間飛行場の移設・返還の早期実現に向け、「代替施設建設協議会」での議論も踏まえながら、所要の手続などを進め、代替施設の基本計画の着実な実施に取り組んでいく考えである。

第6章 今後の防衛庁・自衛隊のあり方

第1節 防衛力のあり方検討

1 あり方検討の意義
 防衛政策は「国を守る」という国家の根本政策であり、その実効性を確保していくためには、防衛力のあり方について、その時々の状況に応じて不断に見直しを行うことが必要である。
 本年の通常国会では、武力攻撃事態対処関連三法が成立したが、引き続きわが国として、「危機に強い国家」、「国民が安全・安心に暮らせる国家」を作ることは重要であると考えられる。
 さらに、同国会では、イラク人道復興支援特措法が成立し、テロ対策特措法の一部改正案が提出されたが、その基本的意義は、わが国として国際社会において責務を果たし、世界から信頼される国家を作ることにある。わが国としては、今後、より積極的・能動的に国際社会の平和と安定のための責務を果たすことが重要である。
 このような考え方の下、防衛力のあり方について十分な検討を行うため、「防衛力の在り方検討会議」を設置し、検討を開始した。

2 あり方検討における主な考慮事項
(1) 防衛大綱策定後の国際情勢の変化
 注目すべき様々な事態が生起している。例えば、米露関係については、新たな協力・信頼関係にあり、防衛大綱策定当時と比べて両国関係は大きく変化してきている。さらに、米国における同時多発テロにより、国際社会の焦点はテロとの闘いへと大きく変化したが、この際、ロシア、中国、中東諸国、CIS諸国を含む広範な反テロの国際的連帯が形成された。
 他方、脅威・不安定要因については、特に地域紛争は、その解決が一層困難になっている。また、大量破壊兵器やミサイルの拡散などの危険についての国際社会の関心がより増大している。
(2) IT・軍事科学技術への対応
 情報通信技術などの進歩は、わが国の防衛戦略にも大きな変化をもたらすものと考えられ、防衛力整備の進め方を、国際情勢や技術水準が急速に変化し得るという時代の趨勢に適したものとする必要がある。
 一方、米軍との技術格差が増大し、周辺諸国の軍事力の近代化が進められる中で、戦術面も含めて飛躍的に進歩を遂げている軍事科学技術にいかに対応するかが大きな課題である。
(3) 日米防衛協力関係の一層の実効性の向上
 この七年間に日米両国は、指針の見直し、周辺事態安全確保法の策定など、日米間の防衛協力にとっての課題の多くを実現してきたが、この間の国際情勢の変化や軍事科学技術の急速な進展を考慮しつつ、今後の日米防衛協力のあり方について検討していく必要がある。
(4) 諸制約の下での効率的な防衛力の構築
 防衛力のあり方検討を進めるに際しては、わが国の防衛力をめぐる財政面、人的要因、状況の変化などの現実的な諸制約を十分に見据えた上で、より現実的・実効的・効率的な防衛力の構築を追求していくことが重要である。

3 今後の防衛力の役割とそのあり方
 安全保障上の不安定要因に的確に対応していくためには、まず総合的な対応が一層必要になると考えられる。同時に、最近の国際社会では、多様な段階・局面で軍事力が重要な手段として活用される機会が増大しており、その役割も「抑止と対処」の時代から「予防から復興まで」と広がっていることから、自衛隊の役割を考える場合にも、このような傾向についての配慮が必要となろう。
(1) 「新たな脅威」や多様な事態への対応
 最近の防衛力整備においては、新たな脅威や多様な事態への対応を重視しているところであるが、今後は、これらも含め、国際テロやミサイル攻撃などの非対称的な攻撃、さらに、非国家主体による攻撃や不法行動などにも十分考慮した対応能力の充実・強化を図っていく必要がある。
(2) 国際的な安全保障環境の安定化などのための積極的・能動的な取組
 今後の軍事力の役割は、単に脅威に対して防衛するだけでなく、平和や安定のために積極的に働きかけることが求められるとともに、自衛隊の国際的な努力・活動を国連や関係国との協力の下で、タイムリーかつ柔軟に行う重要性は引き続き高まっていくものと考えられる。自衛隊は存在することで脅威に対する抑止効果を果たすだけでなく、実際に、いかに積極的にその任務を果たすのかということが問われるようになってきている。
(3) 国家の存立を脅かす本格的な侵略事態への備え
 現在の周辺諸国の状況にかんがみれば、近い将来、わが国に対する大がかりな準備を伴う着上陸侵攻の可能性は低いと考えられる。しかし、防衛力の整備は一朝一夕にはなし得ないものであることから、将来の予測し難い情勢変化への備えを保持しておくことも必要である。また、万一周辺国が現有の軍事能力を十分に活用した侵略事態を企図する場合には、それに適切に対処し得る能力を保有し、侵略事態の未然防止に努めることがこれまでと同様に重要である。

4 今後の課題
 防衛力のあり方検討については、以上のような議論をさらに深めつつ、さらに、新たな防衛力の役割を実現していくための、防衛力の整備・維持・運用の方向性や各自衛隊の具体的な組織・体制、統合運用、情報、指揮通信、人事教育、研究開発、防衛生産・技術基盤、調達のあり方や防衛関係費の構造見直しなどの防衛力整備の改革や進め方といった多様な事項について検討を進めていく必要があると考えている。

第2節 陸・海・空自衛隊の統合運用のあり方

 自衛隊を取り巻く環境は変化し、役割は拡大している。これら多様化する役割などに速やかに対応し、将来にわたり自衛隊の任務を迅速・効果的に遂行するためには、平素から各自衛隊を有機的かつ一体的に運用できる態勢が必要である。このような問題認識から、統幕・各幕により「統合運用に関する検討」が行われ、成果報告書が提出された。

1 統合運用の態勢強化の必要性
(1) 陸・海・空自衛隊の一体的運用による迅速かつ効果的な対応
 わが国に対する侵略事態などに対処する場合、迅速性・適時性の観点から、平素から自衛隊が有機的に連携し、迅速・効果的に任務を遂行し得る統合運用の態勢を確立しておくことが必要である。
 また、現在の作戦環境下では、情報通信技術を駆使し得るか否かが作戦の成否を左右することとなり、自衛隊の運用にあたって進展する軍事科学技術を最大限活用するためにも、統合運用の態勢を整備することが必要である。
(2) 軍事専門的見地からの長官の補佐の一元化
 迅速・効果的な事態対処のためには、自衛隊の運用に際して、内局の行う政策的見地からの補佐との密接な連携を保持する観点からも、軍事専門的見地からの補佐を一元化することが必要である。
(3) 日米安全保障体制の実効性の向上
 統合軍である米軍と共同作戦を円滑に行うため、自衛隊の運用の態勢を米軍との共同が容易な統合運用の態勢とし、平素から米軍との調整を円滑に行い得る態勢を構築することが必要である。

2 新たな統合運用態勢の方向性など
(1) 新たな統合運用の態勢の考え方
 統合幕僚長(仮称)が、自衛隊の運用に関し、各自衛隊を代表して一元的に長官を補佐する。
 自衛隊の運用に関し、自衛隊に対する長官の指揮は統合幕僚長(仮称)を通じて行う。
 このための幕僚機関として統合幕僚組織を設置するとともに、自衛隊の部隊を統合運用に適合し得る態勢とする。
(2) 中央組織における統合運用態勢の強化
 自衛隊の運用に関する長官の補佐は、統合幕僚長(仮称)が一元的に行い、各幕僚長は運用を除く隊務に関して長官を補佐する。自衛隊の運用に関し軍事専門的見地から一元的に長官を補佐するため、統合幕僚組織を創設する。
(3) 各自衛隊の部隊における統合運用態勢強化
 各自衛隊の主要部隊指揮官は、指定された他自衛隊の部隊を指揮・統制して各種の事態に対処する統合任務部隊指揮官に指定される。長官は平素から統合任務を付与し、計画の作成、部隊訓練などを準備させる。
(4) 統合運用に必要な基盤整備
 人事・監理、教育、情報、訓練、後方補給、防衛・研究、通信電子の各種の機能を充実させる。
(5) 統合運用の観点からの関係省庁などとの有機的な協力関係
 主として政策的見地からの連絡調整は内局が、主として軍事専門的見地からの連絡調整は統合幕僚組織が内局と連携を図り実施する。

第3節 弾道ミサイル防衛

 現在、国際社会において急速に弾道ミサイルの拡散が進み、アジアでも多数の弾道ミサイルが配備され、わが国を射程に収めるものもあると考えられる状況の中、わが国としても、弾道ミサイルへの脅威にいかに対処するかが重要な課題となっている。

1 米国のミサイル防衛
 現在のブッシュ政権は、ポスト冷戦の安全保障環境の変化を強く意識して、ミサイル防衛を国防政策の重要課題として位置付け、昨年六月には対弾道ミサイル・システム制限条約からも脱退し、ミサイル防衛体制の構築を推進している。

2 わが国の取組
 わが国は弾道ミサイル対処を想定した有効な防衛システムを保有していないという現状を踏まえると、弾道ミサイル防衛はわが国の防衛政策上の重要かつ喫緊の課題である。
 わが国は平成七年度からわが国の防空システムのあり方の検討に着手している。また、九九年から海上配備型上層システム(現在の海上配備型ミッドコース防衛システム)の一部を対象に米国と日米共同技術研究を開始した。

3 わが国として検討すべき事項など
 米国は今後ともさらにミサイル防衛システムの研究開発を推進していくこととしており、同盟国、友好国に対しても協力を呼びかけている。
 わが国としても、日米共同技術研究を引き続き推進するとともに、わが国の弾道ミサイル防衛のあり方についての研究・検討を加速化させることが必要であるとの認識の下、防衛庁では、@各装備システムの能力や今後の開発の見通しといった技術的実現可能性、A経費面も含めてわが国に最適なシステムの構成とその運用構想、B運用上・法制上、想定し得る具体的な問題点、C武器輸出三原則との関係、D周辺諸国に与える影響、E日米防衛協力のあり方、を念頭におき本格的な検討を行っている。





十二月の気象


 十二月はユーラシア大陸で高気圧が発達し、日本の東海上では低気圧が発達して「西高東低」の冬型の気圧配置が現れる回数が多くなります。大陸から吹き出す冷たく乾いた季節風は、日本海を流れる対馬暖流の上を通って水蒸気を含みます。大気の上層が冷たく、下層が暖流の影響で暖かいため大気の状態が不安定となり、上昇気流が発生しセル状の雲が発生します。この雲が季節風で流されていわゆる筋状の雲となります。この雲列が日本列島の山脈にぶつかって雲が更に発達して日本海側では雪や雨が降り、太平洋側では山越えの乾燥した風が吹くことになります。
 山形、小名浜(福島県いわき市)、富山、東京の月平均相対湿度をみてみましょう。太平洋側の小名浜と東京では、冬は乾燥し、夏は湿度が高くなります。一方、日本海側の山形と富山では移動性高気圧に覆われることの多い春に最も乾燥し、冬は夏と同程度かむしろ夏より湿度が高くなっています。太平洋側では夏は除湿器、冬は加湿器と使い分けている家庭も多いと思われますが、日本海側では加湿器の出番はほとんどありません。
 東京は各月とも小名浜より一〇%程度低い相対湿度となっています。大都市の湿度の低下はコンクリートとアスファルトに覆われているため、雨が降っても土中に蓄えられることが少ないことが原因です。
 次に、一九七一年から二〇〇二年までに各地の気象官署から気象庁本庁へ報告があった、竜巻の月ごとの発生回数をみてみましょう。竜巻の発生回数は南から暖かく湿った空気が入りやすい夏から秋に多く、その印象も強いのですが、冬にも発生することがあります。発生要因としては寒冷前線の通過や寒気の流入が多くなっています。最近では二〇〇〇年十二月二十五日に寒冷前線の通過に伴い東京都大島町で発生し、家屋損壊四棟、ビニールハウス倒壊三棟等の被害がありました。
 発生数が少ないから竜巻も弱い、ということではありません。一九九〇年十二月十一日、下層に南東からの暖湿気、上層に非常に強い寒気が入り、千葉県では国内で発生した竜巻の中で最大規模の竜巻が発生し、茂原市を中心に死者一名、負傷者七十三名、家屋の全壊八十二棟・半壊百六十一棟・一部破損一千五百四棟等の被害が生じました。また一九六九年十二月七日には愛知県豊橋市で死者一名、負傷者六十九名を出した竜巻が発生しています。
 発達した積乱雲の下では、竜巻に至らなくても突風が吹くことが多くなります。雷注意報が発表されているときには突風にも十分注意が必要です。
(気象庁資料から転載)




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賃金、労働時間、雇用の動き


毎月勤労統計調査 平成十五年八月分結果速報


厚生労働省


 「毎月勤労統計調査」平成十五年八月分結果の主な特徴点は次のとおりである。

◇賃金の動き

 八月の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は二十九万四千三百五十円、前年同月比二・〇%減であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十七万七千五百八十四円、前年同月比〇・一%減であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十五万九千五百五十七円、前年同月比〇・三%減、所定外給与は一万八千二十七円、前年同月比は三・二%増であった。
 また、特別に支払われた給与は一万六千七百六十六円、前年同月比は二六・二%減であった。
 実質賃金は、一・五%減であった。
 きまって支給する給与の動きを産業別に前年同月比によってみると、伸びの高い順に金融・保険業一・八%増、建設業一・一%増、製造業〇・六%増、卸売・小売業,飲食店〇・三%減、運輸・通信業〇・五%減、電気・ガス・熱供給・水道業〇・六%減、不動産業〇・七%減、サービス業〇・八%減、鉱業八・三%減であった。

◇労働時間の動き

 八月の調査産業計の常用労働者一人平均月間総実労働時間は百四十七・〇時間、前年同月比一・一%減であった。
 総実労働時間のうち、所定内労働時間は百三十七・四時間、前年同月比一・三%減、所定外労働時間は九・六時間、前年同月比三・三%増、所定外労働時間の季節調整値の前月比は〇・三%増であった。
 製造業の所定外労働時間は十四・五時間、前年同月比九・一%増、季節調整値の前月比は三・二%増であった。

◇雇用の動き

 八月の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・四%減、常用労働者のうち一般労働者では一・一%減、パートタイム労働者では一・九%増であった。
 常用労働者全体の雇用の動きを産業別に前年同月比によってみると、前年同月を上回ったものは鉱業一・八%増、サービス業一・三%増、運輸・通信業〇・二%増であった。前年同月を下回ったものは卸売・小売業,飲食店及び不動産業〇・六%減、製造業一・九%減、金融・保険業二・〇%減、建設業二・三%減、電気・ガス・熱供給・水道業四・六%減であった。
 主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者二・四%減、パートタイム労働者〇・七%増、卸売・小売業,飲食店では一般労働者二・五%減、パートタイム労働者一・九%増、サービス業では一般労働者〇・七%増、パートタイム労働者四・二%増であった。











言葉の履歴書


おでん

 勤め帰りのサラリーマンたちが、夜風の寒さに「おでん屋で一杯やろうや」と、誘い合いたくなる季節になりました。
 鍋(なべ)の中でグツグツ煮えている大根、はんぺん、昆布、こんにゃく、豆腐、しらたき、薩摩(さつま)揚げ、がんもどき、竹輪(ちくわ)、つみれ、すじかまぼこなど。温かなにおいが、食欲をそそります。
 そこで、クイズを一つ。これらの中で、一番古い履歴をもったおでんダネは何でしょうか。正解は豆腐。「おでん」は、田楽豆腐、略して「田楽」の「楽」を省き、接頭語「お」を加えた言葉です。
 長方形の豆腐を串(くし)に差し、みそをつけて焼いた田楽は、白袴(しろばかま)で高い下駄を履いて踊る田楽法師の姿からきた名称でした。
 「おでん」のように、単語の下部を略して「お」をつける造語法は、宮中の女官たちが用いた「女房詞(ことば)」に始まる、女性仲間の隠語的表現の一つです。
 さつまいもを「おさつ」、むつきを「おむつ」というのと同じ女性語の「おでん」を、語源を知らずに食べている女性も多いのではないでしょうか。




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天皇誕生日一般参賀について


宮 内 庁


 天皇誕生日一般参賀は、十二月二十三日、皇居で次のとおり行われます。
1 午前の参賀
 天皇陛下が、皇后陛下、皇太子同妃両殿下、秋篠宮同妃両殿下及び紀宮殿下と御一緒におおむね三回長和殿ベランダにお出ましになる予定です。
 参賀者は、午前九時三十分から同十一時二十分までに、皇居正門(二重橋)から参入し、宮殿東庭の参賀会場を経て、坂下門、桔梗門、大手門、平川門又は北桔橋門から退出することとなります。
 なお、お出ましは、午前十時二十分頃、同十一時五分頃及び同十一時四十分頃の三回が予定されておりますが、混雑が予想されますので、参賀者は余裕を持ってお越しください。
2 午後の参賀
 当日の午後は、宮殿において天皇誕生日の恒例の祝賀行事が行われますので、天皇陛下始め皇族方のお出ましはなく、宮内庁庁舎前の特設記帳所において記帳又は名刺をお受けします。
 記帳は都道府県名と氏名を記入することになりますが、筆記用具等は記帳所に備え付けてあります。
 参賀者は、午後零時三十分から同三時三十分までに、坂下門から参入し、宮内庁庁舎前の特設記帳所を経て、桔梗門、大手門、平川門又は北桔橋門から退出することとなります。
 退出門は午後四時に閉門しますから、参賀者はその時までに退出されるようお願いします。
 なお、当日は退出門からは入門できませんので、御注意ください。
 皇居東御苑は、天皇誕生日当日は休園となりますが、退出する参賀者は皇居東御苑を通って、大手門、平川門又は北桔橋門から退出することができます。
 参賀当日は非常な混雑が予想されますので、次の点に御注意ください。
(1) 午前の一般参賀の閉門時刻は午前十一時二十分となっていますが、多数の参賀者が参集されると思われますので、早目にお越しください。
(2) 混雑する場合は、参入の際、あらかじめ、午前は正門前、午後は坂下門前で列を作って入門するようになりますが、入門する場合は、列を崩したり、立ち止まったりなどしないでください。
(3) 雑踏による転倒事故も考えられますので、履物には十分御注意ください。
 特に、移動コース上には坂道がありますので、ハイヒール、下駄ばきの方は御注意ください。
 危険物を携行する者、旗ざお、大きな荷物等で参賀行事を妨げ、又は他に危害、迷惑等を及ぼすおそれのある物を携行する者、その他参賀行事の運営上支障があると認められる者は、入門をお断りします。
 参賀者は、皇居内においては、次に挙げる行為をしないでください。
 これに反した場合は退去を求めることがあります。
(1) 立入りを禁じた場所に入ること。
(2) 喫煙所以外での喫煙等火災の危険がある行為をすること。
(3) 施設その他の物を破損し、又は移動すること。
(4) 業として写真又は映画を撮影すること。
(5) 集会又は示威行為をすること。
(6) 貼紙をし、又はビラ類を配布し若しくは散布すること。
(7) その他皇居内の秩序又は風紀を乱す行為等参賀行事運営上支障があると認められる行為をすること。
7 その他
(1) 荒天等の場合は、お出ましが中止されることがあります。
(2) 混雑や危険を防止するため、参入門の外で携帯品をお預かりすることがあります。
(3) 駐車場の用意はありませんので、御注意願います。





歳時記


年の暮れ

 年の暮れ――あと何日たてばお正月かなと、指折り数えて待った幼い日を思い出す方も多いのではないでしょうか。
 年の暮れは、仕事納め、年賀状書き、大掃除、お供え餅(もち)などの飾り付け、おせち料理作り、里帰りやスキー旅行の準備などと大忙し。そして、慌ただしさのなかに、人それぞれの感慨があるのも年の暮れです。
 下駄買うて 箪笥の上や 年の暮れ
                 永井荷風(荷風句集)
 真新しい下駄を箪笥(たんす)の上に飾って正月を待つ気分が目に浮かぶ句です。でも現代っ子は、たとえ正月に初おろしするスニーカーであっても箪笥の上に飾りはしないでしょう。
 新しい年が景気回復など、すべての面でいい年になりますようにというのは、だれもが願うことではないでしょうか。
 ところで、最近は雪が少なくなってきたとはいうものの、年の暮れを雪の中で過ごすという所はたくさんあります。毎年十二月一〜七日は「雪崩防災週間」です。積雪山間部の住民にとって雪崩は脅威です。関係住民、スキー場利用者、登山者などを対象に、特にこの期間、広報活動、警戒・避難体制の推進などが行われます。住民はもちろん、スキー客なども雪崩に対する知識を深め、警報などに注意したいものです。






    <12月10日号の主な予定>

 ▽厚生労働白書のあらまし………厚生労働省 

 ▽労働力調査(八月)……………総 務 省 

 ▽家計収支(八月)………………総 務 省 




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