官報資料版 平成15年12月24日




                  ▽平成十四年版原子力安全白書のあらまし………原子力安全委員会

                  ▽平成十四年度体力・運動能力調査の結果………文部科学省











平成14年版


原子力安全白書のあらまし


原子力安全委員会


 原子力安全委員会は、平成十四年の原子力の安全確保の諸活動の概要を「平成十四年版原子力安全白書」として取りまとめ、平成十五年八月二十九日の閣議を経て、公表しました。
 本白書は、第1編、第2編、第3編、第4編及び資料編から構成されています。
 第1編では、「原子力の安全維持の意味と実践(―原子力施設の不正を防ぐために―)」と題し、平成十四年夏に明らかとなった東京電力の一連の不正等は何が問題であったのか、原子力安全委員会及び政府はどのように対応したのか、社会から信頼を得ていくためにどうすればよいか等について説明しています。
 第2編では、「高速増殖原型炉『もんじゅ』について」と題し、平成十五年一月二十七日に示された高速増殖原型炉「もんじゅ」控訴審判決に関して原子力安全委員会の考え方を示しています。
 第3編では、「平成十四年の動き」と題し、原子力安全委員会における平成十四年の活動状況を紹介しています。
 第4編では、「原子力安全確保のための諸活動」と題し、我が国における原子力施設等の安全規制体制、防災体制、原子力安全研究、原子力安全に関する国際協力等について紹介しています。
 資料編では、原子力安全委員会関係の各種資料、安全確保の実績に関する各種資料等を取りまとめています。
 以下では、第1編及び第2編の概要について記述しています。
 なお、本白書の概要は、原子力安全委員会のホームページ(http://www.nsc.go.jp/)において公開されています。

第1編 原子力の安全維持の意味と実践(―原子力施設の不正を防ぐために―)

はじめに

 平成十四年八月末、東京電力株式会社(以下「東京電力」という)が原子炉施設の機器を自主点検した際に検出された炉心シュラウドのひび割れに関する記録を改ざんや隠蔽していた事実が明らかになり、同年十月末には、原子炉格納容器の漏えい率検査の不正等が発覚し、国や事業者の原子力の安全確保に向けた活動に対し、社会に大きな不信の念を抱かせることとなりました。原子力安全委員会としては、四十年以上に及ぶ我が国の原子力利用活動の歴史においても極めて遺憾な事態と考えます。
 我が国の原子力利用活動を原子力安全確保の観点から振り返ると、平成七年の高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故を契機として、様々な原子力施設の事故・故障等により、技術的な「安全」のみならず社会的、心理的な「安心」の領域についても考慮が求められるようになってきました。今回の一連の問題で、技術面での問題に加え、安全の維持活動を実施している事業者等に係る組織面での問題、国が行う規制面でも問題が明らかになり、その結果、社会の「信頼」を失うという、我が国の原子力利用活動の不健全さを露呈した結果となりました。
 原子力安全委員会は、まず原子力利用活動に携わる関係者が、信頼感が失われた状況を正面から受け止め、社会からの信頼を回復するため、社会との適切な関係を構築するよう努力を続けていかなければならないと考えています。
 原子力安全のための活動の仕組みやそれを実施する組織が、広く国民からの信頼を得ていくためには、国や事業者は原子力の安全確保を図る諸活動について、常に社会からの評価を受けることにより、その信頼性を確認することが重要です。

第1章 原子力利用で求められている「安全」とその維持・向上

 原子力利用活動の安全確保の第一義的な責任は、その活動の行為者すなわち事業者にあります。一方、国は、国民の安全を確保する観点から、安全確保に係る考え方や指針などを示すとともに、許認可した事業についても、活動の行為者による安全確保のための取組みに対して、不断に監査・確認を行う責務があります。
 原子力施設の利用に当たっての安全確保の考え方については、多重防護の考え方を基にしています。具体的には、施設内の放射性物質による放射線障害という潜在的危険性が顕在化しないようにするための措置が、以下の三つのレベルで多重に講じられています。
(1) 異常の発生を防止する。
(2) 異常が発生した場合には早期に検知し、事故に至らないよう異常の拡大を防止する。
(3) 事故が発生した場合にも、その拡大を防止し影響を小さく抑える。
 また、この多重防護の考え方の下に、大量の放射性物質が周囲の環境へ放散されることを、多重に設けた障壁で防止するための対策が講じられています。
 以上のような原則に基づいて、原子力施設における安全確保策が講じられています。しかしながら、その「安全」な状態を社会的な「安心」の観点から維持するには、このほかにもいくつか留意しなければならない点があります。それは、
○原子力施設の運営に係る強固な組織におけるリスク(又は品質保証)マネジメントシステムを確立していくこと
○原子力安全に関する情報を公開するとともに透明性を確保すること
です。また、こうした活動の前提として事業者の組織として留意すべき点としては、
@不安全の種を蒔かないこと
A蒔かれた種は見つけ出し取り除くこと
B発芽した不安全の芽は小さいうちに取り除くこと
です。

<不安全の種を蒔かないこと、支障の元となる種を蒔かないこと>
 今般の東京電力の不正等が行われた要因としては、事業者側では、品質保証体制が有効に機能していなかったこと及び業務従事者の倫理が十分でなかったこと等が指摘されていますが、その背景として事業者及び関連協力会社の組織に安全を最優先とすべき「安全文化」が定着していなかったことが考えられます。特に、あらゆる階層で常に安全に対する感性を研ぎ澄まし、「これでよいのか、これは何を意味するのか、と常に問い直す自身と他者への批判精神、習慣」(クエスチョニング・アティテュード)の重要性を認識し、行動に移すことが必要です。
 また、組織の中で上下や左右に円滑なコミュニケーションを維持することが肝要です。
 一方、制度的な要因としては、国による技術基準等の適用に当たっての運用や、運転開始後の健全性確認の手法が不明確であったこと、自主点検について規制上の位置付けがなく、事業者の自主的な判断に委ねられていたこと等、規制の運用が不明確であったことが挙げられます。また、米国等では新しい知見が運転継続のための判断基準に反映されていたにもかかわらず、我が国では、最新の知見や技術が当該技術基準に合理的に反映されていたとは言い難いものでした。この点については規制行政庁及び原子力安全委員会として反省すべき点であったと考えます。

<いったん蒔かれた種を見つけ出し、取り除く>
 今般の事案では、原子力専門の技術者を中心とする事業者の原子力部門が、一種の独自のテリトリーを築いていました。原子力部門以外の部署が関与し難い雰囲気を形成しており、しかも、原子力部門以外の組織が安全確保に制度的に関与するような仕組みもなかったことが、蒔かれた種を見つけ出しにくくしていた原因の一つになっていたといえます。

<発芽した不安全の芽は小さいうちに取り除く>
 本来、安全確保のための判断については、事業者及び国はそれぞれ社会に対して説明する責任を負っています。この説明責任を果たす観点から、事業者及び国は関連する情報を公開することにより、透明性を確保する必要があります。
 原子力事業従事者からの申告制度も、原子力の安全確保を図る上で重要な社会的チェック機能の一つとして活用することが有効だといえます。このような認識の下、制度がより有効なものとなるよう、申告者の保護を前提に国が調査を行い、必要な措置を講じることができるようにしていく必要があります。

第2章 何が起きたのか。政府はどのように対応したか。

シュラウドのひび割れ等に関する自主点検の不正

 東京電力の自主点検の不正等に関し、経済産業省と東京電力が公表した内容は、一九八〇年代後半から九〇年代にかけて東京電力が実施した自主点検の際に、福島第一、福島第二、柏崎刈羽の三発電所、十三基の炉心シュラウド等のひび割れの存在を隠したり、検査記録を改ざんしたりしていた疑いがある案件が二十九件あり、調査中であるというものでした。
 これを受けて経済産業省は、九月上旬に立入検査を実施しました。十月にまとめた調査結果の中間報告によると、二十九件のうち十六件の九基に問題があることが明らかになりました。その内容は以下のとおりに分類できます。
(1) 東京電力が技術基準適合義務等を遵守していなかった可能性のある事案(六件)
(2) 東京電力が通達等に基づく国への報告を怠ったり、事実に反する報告を行ったりした可能性のある事案(五件)
(3) 事業者の自主保安のあり方として不適切な事案(五件)
 残る十三件は、通常の保守点検活動に関して、東京電力とGE社との間に見解の相違が生じたものの、経済産業省により特段の問題は見いだせない事案であると判断された事案です。
 この申告に対する規制行政庁の対応にいくつか不適切な点があったため、結果として原子力安全行政に対する社会の信頼が失われたことが指摘されています。
 国は、今後、申告制度も原子力施設の安全維持のための一つの重要な手段として位置付け、また、原子力安全に対して国民からの信頼を得ていくために、法令改正等の制度運用の改善を行いました。
 東京電力の不正等が明らかになったことを受けて、他の電力会社でも自主的な点検等を行いました。その結果、東北電力、中部電力の原子力発電所において、炉心シュラウドのひび割れやその兆候が発見されました。

原子炉再循環系配管のひび割れ

 東北、東京、中部各電力会社は、合計十一基の原子炉において、原子炉再循環系配管にひび割れやその兆候の疑いがあることを経済産業省に報告しました。このうち、ひび割れを修理せずに運転中だった柏崎刈羽2号機、浜岡3号機は、事業者の自主的な判断により運転が停止されました。これらの事案は、国の定期検査とは別に事業者が安全確保の観点から応力腐食割れを対象にした精密調査を行った結果ひび割れを発見したものです。
 原子炉再循環系配管のひび割れは、東北電力、東京電力及び中部電力の合計十一基の原子力発電所いずれも配管内面の溶接部近傍で発生しているものでした。
 ひび割れに対し超音波探傷検査を実施したところ、ひび割れの深さについて測定結果とサンプル調査結果に比較的大きな差異が生じていたものがありました。このような差異が生じた原因は、主としてひび割れが溶接金属に向かって進展、場合によっては溶接金属内部まで進展していたためと考えられます。

原子炉格納容器漏えい率検査の不正操作

 東京電力は福島第一原子力発電所1号機の第十五回及び第十六回定期検査における原子炉格納容器の漏えい率検査に際し、同社は圧縮空気の原子炉格納容器内への注入など不正な操作を行いました。
 原子炉格納容器は、原子力発電所の安全確保上極めて重要な機器であるにもかかわらず、その気密性を確認する検査において、漏えい率の測定値を欺くために操作した行為は、技術者倫理にもとるだけでなく極めて重大で法律違反に該当するものであり、同炉は一年間の運転停止処分を受けました。
 なお、福島第一原子力発電所1号機以外には不正行為と考え得る事実は認められませんでした。

ひび割れが生じた機器等や原子炉格納容器の安全性評価

 原子力発電施設における不正等の問題に関して、原子力安全委員会は経済産業省が行う安全性の評価が適切に行われていることを厳正に確認していくこととし、平成十四年十一月に「原子力発電施設安全性評価プロジェクトチーム」を設置しました。本プロジェクトチームは、炉心シュラウド、原子炉再循環系配管にひび割れまたはその兆候が確認された原子炉を対象として、事業者及び経済産業省が行う健全性評価方法、評価結果等に関し、その妥当性を確認するための調査審議を行っています。
 一方、原子力安全委員会は現地に赴き、独自の立場から、経済産業省が東京電力に対して発した報告徴収命令に基づき実施された漏えい率検査全般の内容を調査・確認しました。

<炉心シュラウドの安全性>
 原子力発電施設安全性評価プロジェクトチームは、ひび割れが見つかった炉心シュラウドについて、事業者の検査内容・体制、検査結果、ひび割れの原因、健全性の評価等について、経済産業省よりその内容を聴取しました。また、原子力安全委員会は自ら現地調査や独自の解析等を行い、科学技術的見地から事業者の評価手法を評価し、その妥当性を確認しました。
 これにより、健全性評価された炉心シュラウドのひび割れについては、現在及び運転継続後五年後においても十分な構造強度を有するという、経済産業省の評価を妥当と判断しました。

<原子炉再循環系配管の安全性>
 原子炉再循環系配管のひび割れに対し、超音波探傷検査を実施したところ、ひび割れの深さについて、検査結果とサンプル調査結果に比較的大きな差異が見られる場合があることが判明しました。現在、より正確にひび割れの状況を把握するため、超音波探傷検査の手法の改善に向けた見直し等が行われているところです。原子力安全委員会としては、今後改善された超音波探傷検査の信頼性を実証するためには一定の期間が必要となることから、それまでの間に運転を開始する場合には、ひび割れの除去や配管の交換などにより対応することが適切であるとする、経済産業省の見解は妥当であると判断しました。

<原子炉格納容器の漏えい率検査>
 経済産業省は福島第一原子力発電所1号炉において法令に基づく立入検査を行い、原子炉格納容器の気密性は確保されているものと判断しました。原子力安全委員会は、この機会をとらえて現地に赴き、原子炉格納容器が健全であるかどうかを独自の立場から直接確認するために、漏えい率全般の内容について調査、確認を行いました。その結果、原子力安全委員会は当該機の原子炉格納容器の漏えい率は判定基準値を満足するものであり、原子炉格納容器の気密性は確保されていることを確認しました。

第3章 信頼回復のために原子力安全委員会及び政府が行ったこと

原子力安全委員会及び政府の対応

 平成十四年十月二十九日、原子力安全委員会は昭和五十三年の発足以来初めて「原子力委員会及び原子力安全委員会設置法」第二十四条に基づく「原子力安全の信頼の回復に関する勧告」を内閣総理大臣を通じて経済産業大臣に対して行いました。
 勧告では、「原子力安全の信頼回復に向け、直面する困難を早急に克服し、現状を打破することが喫緊の課題である」との認識に立ち、「個々の事案に関する原因究明とそれへの適切な対応を図ることは当然として、それらに共通する根本的原因の除去と再発防止の観点から、関係法令の改正等あらゆる手段を尽くして、抜本的対策を講じることが必要である」ことを指摘しました。
 具体的には、@国と事業者の責任分担の明確化、A運転段階の安全を重視した規制制度の整備、B情報公開と透明性の向上、の三点に関する対策を講ずることを指摘しました。
 原子力安全委員会は今回の一連の事案に対応し、「原子力発電施設安全性評価プロジェクトチーム」を設置し、必要な安全確認を行いました。具体的には、直接現地に赴き、事業者の検査内容について確認を行ったり、原子力安全委員会独自に解析を実施し、炉心シュラウドについては現時点及び五年後においても十分な構造強度を有するとした経済産業省による評価は妥当であることを確認しています。
 政府は、事業者の責任の明確化と国による監視・監査の強化、原子力安全委員会によるダブルチェック体制強化などの措置が盛り込まれた、電気事業法及び原子炉等規制法の一部を改正する法律案及び独立行政法人原子力安全基盤機構法案が閣議決定され、第百五十五回国会において修正の上可決成立し、平成十四年十二月十八日に公布されました。
(1) 定期事業者検査の導入(平成十五年十月施行)
 今般、事業者による自主点検において不正が行われたことから、「定期事業者検査」としてこれを法制化し、事業者の義務としました。また、独立行政法人原子力安全基盤機構が事業者の「定期事業者検査」の実施体制等を審査した上、さらに国が評定を行うこととしています。
(2) 設備の健全性評価の義務付け(平成十五年十月施行)
 設備のひび割れ等が生じた場合の取扱いが不明確であったことから、ひび割れなどがあった場合、事業者は設備の健全性評価を行うことが電気事業法で義務付けられました。
 原子力安全委員会は、健全性評価に関し、平成十五年四月二十四日に「技術基準の基本的考え方」を委員会決定しました。「技術基準の基本的考え方」では、要求される性能の水準のみを規定し、その水準を実現するための構造や材料等に関しては規定しないようにする(性能規定化)とともに、技術基準を満たしている民間規格については公示していくこととしています。
(3) 罰則の強化(平成十五年三月施行)
 組織的な不正を防止する上で抑止力を強化するため、法人に対する罰金の増額など、罰則が強化されました。
(4) 原子力安全委員会によるチェック機能の強化(平成十五年三月及び四月施行)
 規制行政庁が規制を適正に行っているかどうかを監視・監査するため、原子力安全委員会によるダブルチェック機能が抜本的に強化されました。また、申告については、行政庁だけでなく、原子力安全委員会にも行えることとなりました。

原子力安全委員会のダブルチェック機能の強化

 今回の法令改正により、原子力安全委員会のダブルチェック機能がさらに強化されました。具体的なダブルチェック機能に係る修正点は、@規制行政庁から原子力安全委員会への定期的な設計及び工事の方法の認可等の報告の義務化と、Aその報告に係る事項について原子力安全委員会が調査を行う場合、事業者及びその施設の保守点検を行う事業者は協力をしなければならないこと、B原子力事業従事者からの申告を原子力安全委員会も受付可能としたこと、の三点です。
 規制行政庁から原子力安全委員会への定期的な報告については、文部科学大臣、経済産業大臣及び国土交通大臣は、四半期ごとに規制活動の実施状況を原子力安全委員会に報告し、必要があると認める時には、原子力安全委員会の意見を聴いて、必要な措置を講ずることが法律で規定されました。
 原子力安全委員会は、平成十二年度より「規制調査」を実施しています。この調査では、原子力施設の設置許可後に規制行政庁が行う主要な安全規制(以下「後続規制」という)の実施状況について報告を受け、必要に応じて、原子力安全委員会委員自らの現地調査を含めてその実施状況について把握及び確認を行ってきました。
 この規制調査について、原子力安全委員会は、今回の法律改正を踏まえて、平成十五年三月三日に、規制行政庁による後続規制に対する監視・監査機能を強化することを内容とする新たな「規制調査の実施方針」を決定しました。
 原子力安全委員会は、このような後続規制を監視・監査する規制調査の効果的な実施を通じて、原子力安全委員会のダブルチェック機能の実効性の向上に努めていくこととしています(第1図参照)。
 原子力事業従業者からの申告の受付が文部科学大臣、経済産業大臣及び国土交通大臣に加え、原子力安全委員会においても可能となり、申告を受けた原子力安全委員会は当該申告案件について調査し、関係行政機関に対して必要な措置を講ずることを勧告できることとなりました。平成十五年三月の施行以降、七月までに三件の申告を受け付け、調査を実施して処理しました。今後、申告制度をより適切に活用する観点から、申告を受けた際には申告者の保護を前提に、機動的、客観的な調査を行うよう努めなければならないと考えています。

規制の枠組みに関する新たな取組み

<リスク・インフォームド型規制>
 今般の不正等においては、運転段階での規制の重要性が増してきていることが改めて浮き彫りになりました。運転段階での規制を客観的、合理的に行うには、安全上の重要度や異常事象発生の頻度、影響などのリスク情報に基づいて、設備の安全機能が維持されるべき範囲を的確に把握し、それに基づいて、検査の対象や方法等を定める規制の仕組みとして、我が国における新たな「リスク・インフォームド型規制」の導入を検討することが重要であり、原子力安全委員会においてはその基本的考え方について検討を進めています。

<事業者の技術的能力の維持>
 今般の一連の事案では、事業者における品質保証体制が有効に機能していなかったことがその背景にあることが指摘されました。事業者の組織内における品質保証体制の確立は、事業者がもつべき「技術的能力」の重要な要件として位置付けられています。
 原子力安全委員会は、先のJCO事故を受けた施策の一環として、技術的能力の審査における判断基準の明確化を図るため、原子力安全総合専門部会の下に、「技術的能力検討分科会」を設け、同審査基準の指針化のための検討を行ってきていました。今般の事案を受け、その検討を加速化し、パブリックコメントを受けた上で、原子力安全総合専門部会報告書として平成十五年七月に取りまとめました。
 今後、原子力安全委員会ではこの報告書を踏まえつつ、技術的能力審査に係る指針を早急に策定するため、検討を進める予定です。

まとめにかえて

 今般の問題の発生は、事業者による安全管理業務上の不正を検証する機能が有効に働かなかったことに由来するものです。これを国及び事業者の安全確保体系全体を再検討する機会ととらえ、真に強靭なものとすべく、その再構築に努めなければなりません。
 我が国の原子力安全に係る規制体系は、事業者が安全確保体制を適切に構築し、かつそれが有効に機能することを前提としています。そのため、事業者は必要な体制を整備し、その活動において関連法令等を遵守するなどにより安全確保についての責任を全うしなければなりません。また、事業者はその責任を果たした上で社会から信頼を得ていく必要があり、原子力の安全確保という目的の達成や、安全な運転を阻害するような管理プロセスや組織内の問題を、自らの評価により是正していく責務があります。さらに、独立した組織あるいは外部機関から監査を受けるなど、組織として品質保証活動を責任を持って行っていかなければなりません。
 原子力安全委員会は、事業者は規制の直接の対象となっていないような情報についても、安全に関わる情報は原則すべてを公開する必要性を平成十四年十月十七日の委員会決定で示し、平成十五年五月にかけて各電力会社からその取組みに関する報告を受けました。事業者は広報活動とは別に、安全確保活動の一環として、引き続きこの取組みを行うことが求められます。
 一方、国は、これら事業者の活動について、事業者の自己責任の明確化の観点から、その細部にまで干渉するような過度の規制強化に陥ることなく、実効性ある検査等を通じて、必要な監視・監査をする必要があります。
 原子力安全委員会は、今後とも、規制調査の充実などを通じて、第三者的立場から科学技術的知見に基づき、これらのプロセスが有効に機能するよう監視・監査していく所存です。

第2編 高速増殖原型炉「もんじゅ」について

はじめに

 平成十五年一月二十七日、名古屋高等裁判所金沢支部は、内閣総理大臣が昭和五十八年に行った高速増殖原型炉「もんじゅ」の原子炉設置許可処分が無効であるとの被告人行政庁側敗訴の判決(以下「もんじゅ高裁判決」という)を下しました。
 もんじゅ高裁判決の内容には、国が行う許可処分に関する法律的論点のみならず、いくつかの技術的論点が含まれています。このため、原子力安全委員会は、もんじゅ高裁判決に示された技術論に関する自らの考え方を取りまとめ、三月二十六日、「高速増殖原型炉『もんじゅ』に関する名古屋高等裁判所金沢支部の判決に係る原子力安全の技術的論点について」として公表しました。
 原子力安全委員会としては、「もんじゅ」の原子炉設置許可の安全審査に重大な看過し難い過誤、欠落があるとしているもんじゅ高裁判決の論理展開については、科学技術的観点から疑問が多々あると考えています。この判決内容は、人間社会が何らかのリスクを有する科学技術活動をどのようにとらえていくべきかという基本的な問いかけにも関連する問題を内包するものであり、国民の多くの方々にその問題の所在をご理解いただきたいと考えています。

第1章 「もんじゅ」の安全確保のための原子力安全委員会としての取組み

「高速増殖炉の安全性の評価の考え方」の策定

 原子力安全委員会は、「もんじゅ」の安全審査を行うに当たって、安全性の評価に関する基本的な考え方を明らかにすべく、「高速増殖炉の安全性の評価の考え方」(昭和五十五年十一月六日原子力安全委員会決定、以下「評価の考え方」という)を取りまとめました。
 「評価の考え方」の中では、高速中性子を利用するという高速増殖炉の特徴や「もんじゅ」が液体金属のナトリウムを冷却材として使用する設計であること等を考慮に入れ、安全性を評価する際の留意点について明らかにしています。さらに、高速増殖炉の運転実績が少ないことに配慮し、軽水炉の安全評価において想定している「事故」等の事象の安全評価に加えて、「事故」よりさらに発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象(五項事象)についても、「その起因となる事象とこれに続く事象経過に対する防止対策との関連において十分に評価を行い、放射性物質の放散が適切に抑制されることを確認する」ことを求めています。もんじゅ高裁判決が技術的論点の一つとして取り上げている「炉心崩壊事故」は、この事象に対応するものとして想定されたものです。

「もんじゅ」の安全審査(原子炉設置許可)

 裁判で争われている「もんじゅ」の原子炉設置許可処分は、昭和五十八年五月二十七日に内閣総理大臣(平成十三年一月より経済産業大臣に権限が移管)が行ったものですが、許可するに当たっては、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(以下「原子炉等規制法」という)に基づき、原子力安全委員会では規制行政庁(当時は科学技術庁、平成十三年一月より原子力安全・保安院)の行った安全審査(一次審査)に対して災害の防止と技術的能力の観点から内閣総理大臣に意見を述べています。この意見を取りまとめるに当たり、原子力安全委員会による調査審議を二次審査と呼んでいます。
 その際、前記の「評価の考え方」に基づき、「もんじゅ」が冷却材にナトリウム、燃料にプルトニウム―ウラン混合酸化物(MOX)燃料を用いる等の特徴を有する高速増殖炉であることを考慮して審査しています。
 また、安全評価においては、「事故」よりさらに発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象(五項事象)を想定した解析もなされ、安全上の余裕が確保されていることを確認しています。さらに、この五項事象として、反応度抑制機能喪失事象等を選定したことについても検討し、妥当であることを確認しており、これらの事象は技術的に起こるとは考えられない事象の範囲内に包含されるとしていることも妥当としています。
 その結果として、原子力安全委員会では、昭和五十八年四月二十五日に内閣総理大臣に対して旧科学技術庁の一次審査結果は妥当とする意見を述べています。

「もんじゅ」ナトリウム漏えい事故後の対応

<事故調査>
 原子力安全委員会は、もんじゅ事故が発生した翌日に原子力安全委員会委員を現地に派遣して、状況の把握を行いました。翌々日には、臨時会議を開催し、同委員から現地の状況の報告を受け、旧科学技術庁に対して迅速な状況の把握と徹底した原因の究明を行うよう指示するとともに、旧科学技術庁から適宜報告を求めつつ独自の立場から原因究明及び再発防止対策等について調査審議を行いました。
 これらの調査審議結果は、三つの報告書に取りまとめられました。
 原子力安全委員会は、これらの報告書等で指摘した事項に対し、旧科学技術庁及び旧動燃が適切に対応しているかどうかを確認し、「もんじゅ」の安全性の確保に継続的に取り組んでいくため、専門家による原子力安全委員会もんじゅ安全性確認ワーキンググループ(以下「安全性確認ワーキンググループ」という)を設置し、平成十二年九月に最終的な安全性確認ワーキンググループ報告書を取りまとめました。

<「高速増殖炉の安全性の評価の考え方」の「解説」への反映>
 「もんじゅ」ナトリウム漏えい事故に関する調査審議の過程において、空気雰囲気下でナトリウムが漏えいした場合、鉄、ナトリウム及び酸素が関与する界面反応による腐食が原子炉施設の構造材料の健全性に影響を与える可能性があることが分かりました。原子力安全委員会では、これが「評価の考え方」の見直しの必要を生じさせるものかどうかについて検討を行いました。
 その結果、界面反応による腐食は、「評価の考え方」の記述内容そのものや基本設計ないし基本的設計方針に係る安全審査に影響を及ぼすものではなく、「評価の考え方」の見直しは不要と判断しました。しかしながら、より高い安全性を確保する観点から、前述の知見が今後の安全性の評価において確実に反映されるよう、「評価の考え方」に解説を付すことを平成十二年十月十二日付けで決定しました。

<高速増殖原型炉「もんじゅ」安全性総点検の対応状況の確認>
 もんじゅ事故後、旧科学技術庁において、「もんじゅ」の設備類及びマニュアル類について点検を行うとともに、事故の教訓や点検結果を踏まえた具体的な改善策についての妥当性の検討及び確認のために、高速増殖原型炉もんじゅ安全性総点検が実施され、品質保証活動の改善などが指摘されました。
 原子力安全・保安院は、平成十三年六月十八日に総点検における指摘事項に対する対応計画とその実施内容を報告することを核燃料サイクル開発機構に求めました。
 当委員会は、「もんじゅ」の安全性を総合的に確認する観点から、原子力安全・保安院から、もんじゅ安全性総点検の確認状況について報告を受け、その内容を確認しました。この結果、核燃料サイクル開発機構における品質保証体制・活動の強化、運転手順書類の体系化と改正手続きの改善、信頼性向上等を目的とした設備改善等が行われていることを確認しました。また、今回確認した結果を踏まえて、今後改善を実施するに当たっての留意事項を示しました。

<「もんじゅ」の安全審査(原子炉設置変更許可)
 「もんじゅ」ナトリウム漏えい事故後、原因究明及び再発防止対策の調査審議が行われ、二次冷却系におけるドレンラインの追加や既設ドレン配管の大口径化等の改造を行い、ドレン時間を短縮しナトリウム漏えい量の抑制を図る等の対策がなされることになり、事業者である核燃料サイクル開発機構から、これらの改造に係る原子炉設置変更許可の申請がなされました。
 原子炉設置変更許可申請は、原子力安全・保安院の一次審査を経て、原子力安全委員会に対して諮問がなされました。
 この諮問を受け、原子力安全委員会では、原子炉安全専門審査会に第百三部会を設置して、調査審議を実施しました。調査審議においては、二次冷却材漏えい事故への対応としてのナトリウムを急速に抜き取る機能を追加することについて、基本設計ないし基本的設計方針として妥当かを確認するに際しては、念のため、既設の床ライナにおいて床ライナの設置目的である漏えいナトリウムとコンクリートとの直接接触防止が担保されるかについても確認しました。また、蒸気発生器伝熱管破損事故に関しては、従来高温ラプチャ型の破損伝播を想定する必要のない設計及び構造であることを前提とした解析が行われていますが、念のため高温ラプチャ型の破損伝播が防止されることについても、再確認をしました。

<二次系温度計の設計及び工事の方法の変更認可に対する規制調査>
 もんじゅ事故の原因となった温度計の交換などを対象とした設計及び工事の方法の変更認可が平成十四年六月二十八日付けで規制行政庁よりなされました。当委員会は、本認可について規制調査を実施しました。調査においては、改良型温度計の設置予定位置等について現場確認を行うとともに、改良型温度計については、流力振動など、その使用条件を考慮して評価項目が適切に選定、かつ、評価され、当該温度計の健全性が確保される設計となっていることを確認しました。

第2章 「もんじゅ」控訴審判決について

主要な争点

 平成十二年三月に控訴され、平成十五年一月に判決の出された控訴審においては、法律的な争点のほかに、以下のような五つの技術的な争点がありました。
@核燃料サイクル開発機構が、原子炉施設の運転を的確に遂行するに足りる技術的能力があるか、
 また
A「立地条件及び耐震設計」
B「二次冷却材漏えい事故の評価」
C「蒸気発生器伝熱管破損事故の評価」
D「炉心崩壊事故の評価」
に係る各安全審査に看過し難い過誤、欠落があるかということが技術的な争点となりました。

もんじゅ高裁判決概要

 判決では、五つの技術的争点のうち、「申請者の技術的能力」及び「立地条件及び耐震設計」については、控訴人(原告)らの主張は排斥されましたが、「二次冷却材漏えい事故」、「蒸気発生器伝熱管破損事故」、「炉心崩壊事故」の三つの争点については安全審査の過程に看過し難い過誤、欠落があり、原子炉施設許可処分は無効と判断されました。

第3章 各技術的論点についての原子力安全委員会としての考え

二次冷却材漏えい事故

<炉心冷却能力の解析>
 炉心冷却能力の解析では、炉心の冷却に対して厳しくなるように条件設定がなされ、漏えいを起こした系統の中間熱交換器では全く除熱できないことを想定して解析されています。解析した結果、炉心のナトリウムは沸点にまで至らず、燃料被覆管の最高温度も制限値に対して十分な余裕があり、燃料最高温度も事故発生前とほとんど変わらない等、炉心の損傷を招くことなく安全のうちに事故は終息できることが確認されています。

<漏えいナトリウムによる熱的影響の解析>
 漏えいナトリウムによる熱的影響の解析では、流出・移送過程として、漏えいが生じた部屋及び隣接した部屋における影響と、貯留後として、漏えいナトリウムを流入させて貯留する場所における影響に分けて解析されています。解析した結果、流出・移送過程においては、漏えいナトリウムの昇温による内圧上昇は部屋の耐圧よりも低く抑えることができ、貯留後においては、建物コンクリートの健全性が損なわれないようにできることを確認しています。
 この点についての原子力安全委員会の見解は以下のとおりです。
@床ライナの安全審査での位置付け
 床ライナについて、もんじゅ高裁判決では、二次冷却材漏えい事故時における腐食と最高温度の評価は安全審査において評価すべきとの指摘がなされています。しかしながら、安全審査においては、漏えいナトリウムとコンクリートの直接接触防止を担保し得る床ライナは現実的に設計可能であることを確認したものであり、これによって災害防止上支障がないことを判断できるため、床ライナの厚さや構造などの具体的な仕様に関しては後続の詳細設計段階における検討に委ねています。すなわち、腐食や温度上昇といった床ライナの健全性は、床ライナの厚さや構造などが決まって初めて評価し得るものですが、これについての具体的な評価や審査は、設工認段階で行うこととし、基本設計段階の設置(変更)許可においては、漏えいしたナトリウムとコンクリートの直接接触を防止するという性能の確認を行っています。
A床ライナの健全性(腐食及び温度上昇との関連)
 床ライナの健全性については、前述のとおり詳細設計にかかわる事項ですが、もんじゅ事故後の実験において、床ライナに穴が開いたことから床ライナの健全性と腐食及び温度上昇との関連が注目され、原子力安全委員会としてもその点について科学技術的見地から検討しました。
 検討の結果、腐食については、床ライナにより漏えいナトリウムとコンクリートの直接接触を防止し得ることを確認しました。また、局所的な腐食及び温度上昇においても機械的健全性は確保されることを確認し、床ライナの設置によって漏えいナトリウムとコンクリートの直接接触を防止するという基本的設計方針が損なわれるものではなく、設置許可申請書の変更を要するものではないと判断しています。
B仮に漏えいナトリウムとコンクリートが接触した場合の事象進展
 床ライナの設置により、漏えいナトリウムとコンクリートの直接接触は十分防止できるものと考えていますが、仮に漏えいナトリウムとコンクリートが接触した場合を想定しても、これまでの実験結果から、他の冷却系統に影響を与えることはないと考えています。もんじゅ高裁判決が、二次冷却材漏えい事故が発生した場合、漏えいナトリウムとコンクリートの直接接触を確実に防止できる保証はなく、また、二次主冷却系のすべての冷却能力が喪失する可能性を否定できないとする点は、床ライナの具体的仕様は後続規制の中で適切に選定されることが確認されることを無視して、絶対安全の見地から、すべての冷却機能が喪失することを、事象進展に関する科学的論拠を示すことなく仮定したものと考えています。

<二次冷却材漏えい事故における単一故障>
 もんじゅ高裁判決は、単一故障の想定について、もともと二系統の除熱能力の喪失は炉心の冷却能力に影響を及ぼさない設計となっているのであるから、問題が生じないことは自明であり、「結果を最も厳しくする単一故障」を仮定したことにはならないと指摘しています。しかしながら、その機能が失われたときに影響が一番大きいものの故障を想定事故と重ね合わせて解析し、安全設計の妥当性を確認することには、科学的合理性があります。
 さらに、もんじゅ高裁判決では、「二次冷却材漏えい事故」における故障を仮定するのであれば、ナトリウムの緊急ドレンに失敗することを想定した方がよほど「結果を最も厳しくする単一故障」を仮定したことになるとしています。しかしながら、ナトリウムの緊急ドレン機能は平成十三年十二月十三日に核燃料サイクル開発機構が行った設置許可変更申請において追加されたものです。そのため、設置許可時には緊急ドレンしないものとしてその効果を期待することが解析されています。

蒸気発生器伝熱管破損事故

<蒸気発生器伝熱管破損事故に対する安全設計及び安全評価>
 「もんじゅ」における安全評価においては、「もんじゅ」が液体金属冷却型の高速増殖炉であるという特徴を考慮して「事故」の解析を行う必要があります。その一つとして「蒸気発生器伝熱管破損事故」があります。原子炉施設は、多重防護の考え方により各種の事故防止対策が講じられていますが、「蒸気発生器伝熱管破損事故」についてもそれに対する安全設計の妥当性を確認するために、実験や解析で得られた科学的知見に基づいた判断から仮定した十分に厳しい条件下で解析評価がなされています。その結果、ナトリウム・水反応現象による圧力発生に対して、蒸気発生器、二次冷却系設備及び中間熱交換器の健全性は維持され、一次冷却系の設備機器に影響を与えることはなく、炉心を「冷やす」機能が確保されることを確認しています。

<蒸気発生器伝熱管破損事故における単一故障>
 もんじゅ高裁判決は、安全審査に看過し難い過誤、欠落がある理由の一つとして、「蒸気発生器伝熱管破損事故」において、「単一故障」を仮定するのであれば、蒸気発生器に付随する設備である水漏えいの検知装置や急速に伝熱管内部の水・蒸気を抜く装置の故障を想定すべきところ、そうしていないことを挙げています。しかし、「蒸気発生器伝熱管破損事故」の場合には、事故時の作動が要求される水漏えいの検知装置や伝熱管内部の水・蒸気を抜くための装置は、原子炉安全において要求される三つの基本的安全機能「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」に直接関係しないことから、「単一故障」の仮定を適用する必要はないものです。「蒸気発生器伝熱管破損事故」において事故事象が発生した系統の冷却機能は損なわれることとなりますが、「二次系冷却材漏えい事故」の評価と同様にこれに加え他の健全な一系統について「単一故障」を仮定しても、残る一系統で炉心冷却能力が維持され原子炉を「冷やす」機能は確保されることから、本設備の安全設計は問題ないものと判断されます。

<高温ラプチャ型の蒸気発生器伝熱管破損>
 もんじゅ高裁判決は、高温ラプチャ型破損によって発生する圧力が中間熱交換器の耐圧基準を超えれば、機器・配管が破損し、その際に発生した水素が一次冷却系に流入する可能性があり、その結果、炉心崩壊に至る恐れがある、との懸念が示されています。また、高温ラプチャ発生までの時間や伝熱管の破損伝播速度などを勘案すると、水漏えいの検出機能の有効性が疑われる、との見解を述べています。
 しかしながら、当時の安全審査の解析において、何らかの原因によって伝熱管が損傷し水漏えいが生じたとしても、水漏えいを早期に検出し、伝熱管内の水・蒸気を早期に抜き取ることなどによって、周辺の伝熱管が高温ラプチャにより破損することは避けられると工学的に判断し、破損伝播の形態を、ウェステージ型破損によるとしたことを妥当としたものです。そして、その条件下での解析により、水漏えいに伴うナトリウム・水反応により発生する圧力に起因する応力が蒸気発生器、二次主冷却系配管及び中間熱交換器の許容応力を超えないことから、これらの機器が破損することはないと判断したものです。また、実験的事実に照らして考えると、最初から高温ラプチャに至るほどの規模の漏えいが発生することは想定し難く、多くの場合、微小漏えいから徐々に規模が拡大し、高温ラプチャを発生させる可能性のある規模にまで時間をかけて拡大していくと考えられることから、微小漏えいを検出するナトリウム中水素計は高温ラプチャ発生の防止に有効です。
 また、もんじゅ高裁判決は、過熱器において水漏えい検出が期待されていないことから高温ラプチャの発生は防止できないとしています。これについては、蒸発器と過熱器のカバーガスの空間は、ナトリウム・水反応に伴うナトリウム液位の変動をとらえて、配管を通してつながる設計となっており、過熱器のナトリウム・水反応による圧力上昇は蒸発器のカバーガス圧力計で検出されることから高温ラプチャの発生は防止できます。
 さらに、もんじゅ高裁判決では、英国のPFR炉の事故で高温ラプチャ型破損が生じたことを引いていますが、PFR炉は、内筒隙間からのナトリウムの流れに対する対策を設計上講じていなかったこと、事故を起こした過熱器に急速に水・蒸気を抜く装置が設置されていなかったことなど、「もんじゅ」とは伝熱管の破損伝播に係る安全設計が全く異なっていることなどから、同事故と同様の事象が「もんじゅ」にもそのままあてはめて生じると判断することは科学技術的にみて合理的ではないと考えます。

炉心崩壊事故

<炉心崩壊事故が起こる可能性について>
 液体金属冷却高速増殖炉(LMFBR)の安全性を検討する上では、その原子炉の特徴上、原子炉の冷却不足等の事象をきっかけとして原子炉の出力が急上昇し炉心の崩壊に至る事故、すなわち、炉心崩壊事故の可能性を検討することの重要性がその研究開発の当初から認識されていました。「もんじゅ」の安全審査においては、その安全設計を検討した結果、次の理由から、炉心崩壊事故を「技術的に起こるとは考えられない事象」であると判断しました。
 炉心崩壊事故が起こるためには、外部電源が失われるというような初期異常に加えて、信頼性の高い安全装置の多重故障が発生することを想定しなければなりません。これらがすべて同時に発生する可能性は極めて低く、したがって当時の安全審査において、これを「技術的には起こるとは考えられない事象」と判断したことは現在でも妥当なものであると考えています。
 炉心崩壊事故は五項事象の一つとして、安全審査において、その評価結果が検討され、「放射性物質の放散が適切に抑制されること」の結果を得ており、この結果安全上問題ないことを確認しています。

<炉心崩壊事故における機械的エネルギーの評価>
 炉心崩壊事故の評価においては、事故時に発生する機械的エネルギーによって、放射性物質を閉じ込めておく役目を持つ原子炉容器や格納容器の健全性が維持できるか否かの評価が重要です。「もんじゅ」の安全審査においては、炉心崩壊事故時に発生する機械的エネルギーの値の評価結果の最大値である約三百八十MJ(メガジュール)という値について、主に@計算手法や計算条件の妥当性、A海外事例との比較の二点からその妥当性を確認しました。
 なお、もんじゅ高裁判決は、申請者が安全審査用の評価とは別に感度解析的に行った評価結果の一つとして示されている値、九百九十二MJに比べて、安全審査用に評価された約三百八十MJという値が低いことをもって、安全審査は申請書に記載されている内容をそのまま、いわば鵜呑みにしており、客観性に著しく欠けるとしています。しかし、九百九十二MJという値は、計算コードの特性を検証するために行われた感度解析の結果、すなわち単なる仮想的な計算の結果であり、安全審査において評価した値(約三百八十MJ)は、技術的観点から適切なものであると考えます。

<炉心崩壊事故における遷移過程の検討>
 炉心崩壊事故における遷移過程とは、起因過程(炉心の冷却が不足し、燃料が溶融し始める状態)に引き続いて、徐々に炉心溶融が進展する過程のことをいいます。安全審査においては、遷移過程に移行して即発臨界になったとしても、その際に発生する機械的エネルギーの最大値は、起因過程で即発臨界に至る場合のそれ(=安全審査用に提出された結果)より大きくなることはないと判断しており、それらによれば、実際、遷移過程での事象進展や即発臨界となった場合の機械的エネルギーの評価等、具体的検討も実施しています。
 以上のように、遷移過程に移行して即発臨界となった場合でも、起因過程で即発臨界となった場合の機械的エネルギーの評価値である約三百八十MJを十分に下回る結果が報告されています。当時の計算コードは簡易的なものでしたが、約三百八十MJを十分下回るという見通しが得られたことは、安全評価の目的に照らしてみると、「もんじゅ」の炉心崩壊事故評価が妥当であると認めた当時の安全審査において判断する際にも重要な知見であったと考えられます。
 さらに、最新の知見に基づく新たな計算結果によっても、遷移過程に移行して即発臨界となった場合に発生する機械的エネルギーの評価値は最大でも約百十MJであり、約三百八十MJに比べて十分に低い値となっています。
 この結果からみても、「もんじゅ」の安全審査が、当時の専門的知見に基づく工学的判断によって、安全評価における保守性を適切に見込んでおり、「もんじゅ」の安全性は十分に確認されていたことを示しています。





言葉の履歴書


おはらい箱

 「大事な仕事をしくじって、おはらい箱になった」というときの「おはらい箱」には、クビになる、不用になるといった意味があります。これは神社で出す「御祓(おはらい)」と呼ばれる厄よけのお札(ふだ)から生まれた言葉でした。
 御師(おし)といえば、神社に団体で参詣(さんけい)する講中(こうぢゅう)を案内したり、宿泊の面倒をみる神職です。江戸時代、伊勢神宮の御師はお伊勢参りの人々の世話をするほかに、年末には厄よけのお札を入れた「御祓箱」を、神宮が刊行した次の年の新しい暦と一緒に、全国の信者に頒布する仕事を担当していました。
 御祓箱は新しいものがくると、古いものはいらなくなります。そこで「祓い」と「払い」をかけて、不用品を捨てたり、使用人を解雇するときに使う言葉になったわけです。
 以前は、大晦日(おおみそか)や節分などの夜、厄年に当たる人のために、門口で、「厄はらいましょ」などと唱えて銭をもらう職業がありましたが、この「厄はらい」はとっくの昔に「おはらい箱」になりました。



知っておきたい国際・外交キーワード


FASID(=国際開発高等教育機構)

 FASID(Foundation for Advanced Studies on International Development=国際開発高等教育機構)は、一九九〇年に設立された財団法人です。その目的は、国際開発の援助を担う高度な技術や知識を持つ人材を育成すること、また、開発・援助に関する基礎研究およびこれらを基にした政策課題研究を行うことです。
 近年、国際開発においては、経済から環境、難民、紛争、麻薬、エイズなど問題が多岐にわたっています。そのようななか、世界をリードする国の一つとして日本が果たすべき役割は大きくなっており、財政的な援助だけでなく、技術や知識の普及など人的支援に対する期待も高まっています。FASIDは、そうした期待に対して、政府と民間とが協力し合い、人材育成の面で貢献していこうというもので、「将来の援助要員を養成し、開発途上国の研修生や留学生をも受け入れる大学院レベルの高等教育・研究機関(国際開発大学)」構想の実現のために設立されました。
 その前段階として、現在、次のような事業を行っています。まず、研究・フォーラムなどを通した研究交流、開発援助分野のリーダーシップ強化のための教育、開発援助の理論や政策、実務を修得するための短期研修、研究者等の海外研究・研修に対する助成、大学院教育への支援、開発援助に関するデータベースの構築や情報提供など。また、九二年にFASIDに設置された経団連自然保護基金では、内外の自然保護のNGOが実施する自然保護プロジェクトへの支援や、自然保護活動に携わる人材の養成を行っています。
 FASIDの各種セミナーや助成制度などの情報は、インターネットでも紹介しています。




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平成14年版


体力・運動能力調査の結果


文部科学省


◇調査結果の概要

 文部科学省では、国民の体力・運動能力の現状を明らかにし、その結果を国民の健康・体力つくりに資するとともに、体育・スポーツ活動の指導や行政上の基礎資料を得ることを目的に、「体力・運動能力調査」を昭和三十九年度から毎年実施している。
 平成十四年度の体力・運動能力に関する調査結果の概要は、次のとおりである。

一 年齢と体力・運動能力

(1) テスト項目ごとにみた一般的傾向
 握力、上体起こし、長座体前屈の三テスト項目は六歳から七十九歳まで、また反復横とび、二十メートルシャトルラン(往復持久走)、立ち幅とびの三テスト項目については六歳から六十四歳までを対象にしたテスト項目である。また、五十メートル走とボール投げ(ソフトボール投げまたはハンドボール投げ)は六歳から十九歳までの青少年を対象にしたテスト項目である。
 テスト項目ごとにみた加齢に伴う一般的傾向は、以下のとおりである。
 ア 握力
 筋力の指標である握力は、すべての年齢段階で男子が女子より高い水準を示している。その差は十一歳まではほとんどみられないが、十二歳ごろからその差は徐々に大きくなる傾向がみられる。
 男子は十七歳ごろまで急激な向上傾向を示し、二十歳代以降でも緩やかな向上傾向を示す。一方、女子は四十歳代前半まで比較的緩やかな向上傾向を示している。
 その後、男子は三十〜三十四歳、女子は四十〜四十四歳でピークに達しており、体力の他の要素に比べピークに達する時期が遅い。ピーク時以後は男女とも緩やかな低下傾向を示し、六十〜六十四歳には、男女ともにピーク時の約八五%に、七十五〜七十九歳では約七〇%に低下する。
 イ 上体起こし
 筋力・筋持久力の指標である上体起こしは、すべての年齢段階で男子が女子より高い水準を示している。
 男子は、十六歳ごろまで顕著な向上傾向を示し、十七歳ごろにピークに達している。ピーク時以後は急激な低下傾向を示し、六十〜六十四歳にはピーク時の約五五%に、七十五〜七十九歳では約三〇%にまで低下する。
 女子は十四歳ごろにピークに達し、数年間その水準を保持した後に緩やかな低下をはじめる。四十〜四十四歳以降に急激な低下傾向を示し、六十〜六十四歳にはピーク時の約四五%に、七十五〜七十九歳では約二五%にまで低下する。
 なお、男子は七十五〜七十九歳で、女子は六十〜六十四歳で六歳の水準を下回る。
 ウ 長座体前屈
 柔軟性の指標である長座体前屈は、男女差が最も小さいテスト項目である。
 六歳から女子が男子よりもやや高い水準を示したまま、女子は十四歳ごろまで直線的な向上傾向を示し、十七歳ごろにピークに達する。その後、四十〜四十四歳ごろまでその水準を保持した後、緩やかな低下傾向を示している。
 一方、男子は十一歳ごろまで直線的な向上傾向を示し、十四歳から女子よりやや高い値となり十七歳でピークに達する。その後、緩やかな低下傾向を示し二十歳で再び女子の値を下回る。
 六十〜六十四歳には、男子でピーク時の約八〇%、女子で約九〇%に、さらに七十五〜七十九歳には、男子で約七〇%、女子で約八〇%に低下する。
 エ 反復横とび
 敏捷性の指標である反復横とびは、すべての年齢段階で男子が女子より高い水準を示している。
 男子は十四歳ごろまで急激な向上傾向を示し、その後も緩やかな向上傾向を続け、十七歳ごろピークに達する。その後、二十歳代までほぼその水準が維持された後、緩やかな低下傾向を示している。
 一方、女子は十一歳ごろまで急激な向上傾向を示し、十九歳ごろのピークを含め三十歳代までほぼその水準が維持され、その後、男子と同様な低下傾向を示している。
 六十〜六十四歳には、男子はピーク時の約七〇%、女子は約七五%に低下する。
 オ 二十メートルシャトルラン(往復持久走)
 全身持久力の指標である二十メートルシャトルラン(往復持久走)は、すべての年齢段階で男子が女子より高い水準を示している。
 男女とも十四歳前後で迎えるピークレベルまで急激な向上傾向を示しているが、その後の数年間は、男子はやや持続、女子では緩やかに低下する傾向を示す。
 十九歳以降は男女とも直線的で著しい低下傾向を示し、六十〜六十四歳には、男子はピーク時の約三〇%、女子は約二五%にまで低下する。
 カ 立ち幅とび
 筋パワー(瞬発力)及び跳能力の指標である立ち幅とびは、すべての年齢段階で男子が女子より高い水準を示している。
 男子は、十四歳ごろまで顕著な向上傾向を示し、その後も緩やかな向上傾向を続け、十九歳ごろにピークに達している。
 女子は、十四歳ごろピークに達し、三十歳代前半までほぼその水準を保持した後に緩やかな低下傾向を示している。
 男女とも、六十〜六十四歳には、ピーク時の約七五%に低下する。
 キ 五十メートル走
 スピード及び走能力の指標である五十メートル走は、六歳から十一歳までは、男子がわずかに高い水準を示したまま、男女ともに直線的な向上傾向を示している。
 しかし、男子はその後も十七歳ごろまで向上傾向が続くが、女子では向上傾向が鈍りはじめ、十四歳でピークを迎えた後、緩やかな低下傾向を示している。そのため、十二歳以降にその差は拡大する傾向にある。
 ク ボール投げ(ソフトボール投げ及びハンドボール投げ)
 筋パワー(瞬発力)、投能力、及び巧ち性の指標であるボール投げは、六歳から十一歳を対象としたソフトボール投げにおいて、六歳からすでに男子が女子よりも高い水準を示し、男女ともに直線的で著しい向上傾向を示すが、その後、加齢に伴ってその差はさらに拡大する傾向にある。
 十二〜十九歳を対象としたハンドボール投げにおいても、男女ともに十七歳でピークを迎えるまで向上傾向は続くが、男子に比べ女子の向上傾向が非常に緩やかであるため、その差はソフトボール投げに引続き拡大する傾向にある。
(2) 合計点からみた対象年齢別の一般的傾向
 加齢に伴う新体力テスト合計点の変化の傾向を、各年齢段階別に、第1図に示した。
 新体力テストの合計点からみた六歳から十一歳の体力水準は、男女とも加齢に伴い急激でほぼ直線的な向上傾向を示している。この傾向は十四歳ごろまで続くが、その後、男子では十七歳まで向上傾向を示すのに対して、女子ではほぼ停滞傾向を示している。
 二十歳以降は、男女ともに体力水準は加齢に伴い低下する傾向を示しているが、その傾向は、ほぼ四十歳代ごろまでは女性の方が男性よりも比較的緩やかである。
 四十歳代後半からは、男女ともに著しく体力水準が低下する傾向を示し、六十五歳から七十九歳でも、男女とも加齢に伴いほぼ直線的に低下する傾向を示している。

二 体力・運動能力の年次推移

(1) 青少年(六歳から十九歳)
 長期的に年次変化の比較が可能な基礎的運動能力としてみた走(五十メートル走・持久走)能力、跳(立ち幅とび)能力、及び投(ソフトボール投げまたはハンドボール投げ)能力、並びに握力の年次推移の傾向は、長期的にみると、発育期の一部の年齢において年次変化の差が認められないものもあるが、ほとんどの年齢段階でいずれの基礎的運動能力及び握力も引続き低下傾向にあることがうかがえる。
(2) 成年(二十歳から六十四歳)
 年次変化の比較が可能な握力、反復横とび、急歩の年次推移の傾向をみると、筋力の指標である握力及び敏捷性の指標である反復横とびは、長期的にみると緩やかな向上傾向もしくは停滞傾向を示しているのに対し、全身持久力の指標である急歩は全体的には低下傾向がうかがえる。

三 高齢者の体力

(1) ADL(日常生活活動テスト)
@ ADLの十二項目の問に、六十五〜六十九歳でそれぞれ最も体力水準が高い『3』と答えた者の割合(%)を高い順に並べてみると、男性の場合、六十五〜六十九歳で、八〇%以上が『3』と答えた項目は、「立ったままでズボンやスカートがはける(問8)」、「布団の上げ下ろしができる(問10)」、「十キログラム程度の荷物を十メートル運べる(問11)」、「五十センチメートル程度の溝をとび越えられる(問3)」であった。その他の問に対しては、「十分以上走れる(問2)」を除き、五〇%以上の回答が得られた。その後加齢に伴い、これらの割合は、五歳ごとにいずれも一〇%程度ずつ減少する傾向を示している。
 女性の場合も、全体的な傾向では男性と大きな違いはみられず、全般的に『3』と答えた割合は、程度の差はみられるが男性よりも低い。六十五〜六十九歳で『3』が六〇%を超えるのは、男性にも認められた「立ったままでズボンやスカートがはける(問8)」と「布団の上げ下ろしができる(問10)」、「正座の姿勢から手を使わずに立ち上がれる(問5)」である。「シャツの前ボタンを掛けたり外したりできる(問9)」、「バスや電車に乗ったとき立つ(問7)」、「三十秒以上片足で立てる(問6)」の項目では五〇%を割り、特に「仰向けに寝た姿勢から、手を使わないで、上体だけを三〜四回以上起こせる(問12)」と「十分以上走れる(問2)」は三〇%を割っている。その後、さらに高齢になると男性と同様に五歳ごとに約一〇%ずつ減少する傾向を示し、七十五〜七十九歳で「十分以上走れる(問2)」と答えた割合は一〇%程度になっている。
A ADLの総合得点による判定結果についてみると、六十五〜七十九歳でテスト項目により実施が不可能な×と判定された者は男女ともほとんどみられなかった。また、すべてのテスト項目が実施可能な〇の判定であった者の割合は、男女ともに加齢に伴い減少するが、男性では六十五〜六十九歳で九八%、七十〜七十四歳で九二%、七十五〜七十九歳でも八七%であるのに対して、女性では六十五〜六十九歳の九二%から、七十〜七十四歳の八五%、さらに七十五〜七十九歳の六九%と大幅に減少している。
(2) バランス能力と歩行能力
 六十五〜七十九歳だけを対象としたテスト項目である開眼片足立ち、十メートル障害物歩行及び六分間歩行の変化の傾向は、いずれもすべての年齢段階で男性が女性よりも高い水準を示している。
 全体としては加齢に伴って直線的に低下する傾向を示し、五年間当たりで開眼片足立ちは約二〇%、十メートル障害物歩行は約一〇%、六分間歩行では約五%低下する。

四 運動・スポーツの実施と体力

(1) 運動・スポーツの実施頻度
 運動・スポーツの実施頻度と新体力テストの合計点との関係を、年齢段階別に第2―1図(男子)及び第2―2図(女子)に示した。
 六〜十九歳においては、加齢に伴って合計点が増加し、運動を実施する頻度が高いほど、合計点も高い傾向にあるが、六〜七歳までは、「ほとんど毎日」、「ときどき」、「ときたま」あるいは「しない」のどの群も、合計点に大きな差は認められない。
 その後、加齢に伴い「ほとんど毎日」行う群の合計点は他群より高くなり、次いで「ときどき」行う群の合計点が「ときたま」及び「しない」群より高くなっている。
 二十歳以降の合計点は、二十〜二十四歳をピークに運動・スポーツの実施頻度にかかわりなく加齢とともに低下し、低下の度合いは、特に四十〜四十四歳以降に大きくなる。また、どの年代においても、男女ともに「ほとんど毎日」及び「ときどき」行う群の合計点は、「ときたま」行う群より高く、「しない」群は、最も低い値を示している。
 六十五〜七十九歳においても、二十〜六十四歳と同様に加齢とともに低下し、どの年代においても、男女ともに「ほとんど毎日」及び「ときどき」行う群の合計点は、「ときたま」行う群より高く、「しない」群は、最も低い値を示している。
 第3図に、新体力テストにおける総合評価A〜Eの五段階別にみた週一日以上の実施頻度(「ほとんど毎日」+「ときどき」)の者の割合を性別及び年齢段階別に示した。
 男女ともにいずれの年齢段階においても、総合評価が高い群ほど週一日以上の実施頻度の者の割合が大きい。特に、十二〜十九歳の女子において、その傾向が顕著である。
 要約すると、運動・スポーツの実施頻度が高いほど体力水準が高いという関係は、九歳ごろから明確になり、その傾向は七十九歳に至るまで認められる。
 したがって、運動・スポーツの実施頻度は、体力を高い水準に保つための重要な要素の一つである。
(2) 一日の運動・スポーツ実施時間
 運動・スポーツを行う際の一日の実施時間と新体力テストの合計点との関係を、年齢段階別に、第4―1図(男子)及び第4―2図(女子)に示した。
 九歳ごろから十九歳までは、男女ともに一日の運動・スポーツ実施時間が長いほど合計点は高い傾向にあり、「一〜二時間」及び「二時間以上」行う群の合計点と「三十分〜一時間」及び「三十分未満」行う群の合計点の差は、十三歳以降にはさらに大きくなっている。
 二十歳以降の合計点は、二十〜二十四歳をピークに一日の運動・スポーツ実施時間にかかわりなく加齢とともに低下し、特に四十〜四十四歳からの低下率が大きくなる。また、どの年代においても、三十分以上行う三群はいずれも「三十分未満」しか行わない群より高い値を示している。
 六十五〜七十九歳においても、合計点は加齢とともに低下を続けているが、三十分以上行う三群では合計点に差はなく、いずれも「三十分未満」群よりは高い値を示している。
 要約すると、一日の運動・スポーツの実施時間が長いほど体力水準が高いという関係は九歳ごろから明確になり、その後七十九歳に至るまで三十分以上行う三群と「三十分未満」しか行わない群との間に明確な差があることが認められる。
(3) 運動部やスポーツクラブへの所属の有無
 運動部やスポーツクラブへの所属の有無と新体力テストの合計点との関係を、年齢段階別に、第5―1図(男子)及び第5―2図(女子)に示した。
 男女とも、運動部やスポーツクラブへ所属している群の方が所属していない群よりも合計点は高い傾向にある。
 六〜七歳では、運動部やスポーツクラブへの所属の有無による合計点の差はほとんどみられないが、九歳ごろから両群の差は徐々に大きくなる。
 十二〜十九歳においても合計点は増加し続けるが、両群の差は一層開く傾向を示している。
 二十歳以降の合計点は、二十〜二十四歳をピークに加齢とともに低下する。特に、四十〜四十四歳以降に低下率が大きくなる。また、どの年代においても、男女ともにスポーツクラブへ所属している群の方が、所属していない群より男子で二〜三点程度、女子で三〜四点程度高い値を示している。
 六十五〜七十九歳においては、加齢とともに合計点は男女とも五年間で四点程度減少している。また、どの年代においても、スポーツクラブへ所属している群の方が、三〜四点程度高い値を示している。
 要約すると、運動部やスポーツクラブへの所属と体力水準の高さとの関係は、九歳ごろから明確になり、その傾向は七十九歳に至るまで認められる。
 したがって、運動部やスポーツクラブでの活動は、生涯にわたって高い体力水準を維持するための重要な役割を果たしていることがうかがえる。
(4) 学校時代の運動部(クラブ)活動の経験
 中学校、高等学校、大学のいずれかでの運動部(クラブ)活動の経験の有無と、二十〜六十四歳及び六十五〜七十九歳の新体力テストの合計点との関係を、第6―1図(男性)及び第6―2図(女性)に示した。
 合計点は、男女ともに運動部(クラブ)活動の経験の有無にかかわらず、加齢に伴いほぼ同様に低下する傾向にあるが、中学校、高等学校、大学のいずれかで運動部(クラブ)活動を経験した群の合計点は、三点程度高い値を示している。
 したがって、学校時代の運動部(クラブ)活動での経験が、その後の運動・スポーツ習慣につながり、生涯にわたって高い水準の体力を維持する要因の一つになっていると考えられる。

五 健康・体力に関する意識と体力

(1) 健康状態に関する意識
 二十〜六十四歳及び六十五〜七十九歳の健康状態に関する意識と、新体力テストの合計点との関係をみると、男女とも、合計点は二十〜二十四歳をピークに加齢とともに減少し、特に四十〜四十四歳以降に低下の度合いが大きくなる傾向にある。また、ほとんどの年代において、健康状態について、「大いに健康」と意識する群の合計点が最も高く、「まあ健康」と意識する群がそれより一〜三点程度低い値、「あまり健康でない」と意識する群がさらに一〜四点程度低い値となっている。
 二十〜七十九歳における健康状態に関する意識と運動・スポーツの実施頻度との関係をみると、男女ともに、「大いに健康」と意識する群の六〇〜七〇%が「ほとんど毎日」あるいは「ときどき」運動をしている。一方、「まあ健康」と意識する群では約四五%であり、「あまり健康でない」と意識する群では約三〇%にしかすぎない。
(2) 体力に関する意識
 二十〜六十四歳及び六十五〜七十九歳の体力に関する意識と、新体力テストの合計点との関係をみると、合計点は、男女とも二十〜二十四歳をピークに加齢とともに減少し、特に四十〜四十四歳以降に低下の度合いが大きくなっている。また、ほとんどの年代において、体力について「自信がある」群の合計点が最も高く、「普通である」と意識する群がそれに次ぎ、「不安がある」群が最も低い値を示している。三群のそれぞれの間隔は、三〜五点程度の差となっている。
 二十〜七十九歳における体力に関する意識と運動・スポーツの実施頻度との関係をみると、男女ともに、「自信がある」と意識する群の約八〇%が「ほとんど毎日」あるいは「ときどき」運動をしている。一方、「普通である」と意識する群では約五〇%であり、「不安がある」と意識する群では約二五%にしかすぎない。




暮らしのワンポイント


とろろイモの調理法

スプーンで皮をむく

 ご飯やそばにかけたり、汁や揚げ物にしたりと、とろろイモを使った料理はいろいろあります。
 一般に、とろろイモと呼ばれているのは、ヤマノイモ(ヤマイモ)です。ヤマノイモの種類には、すりこぎのような形をした自然薯(じねんじょ)、ナガイモ、イチョウの葉の形をしたヤマトイモ、石ころみたいなツクネイモなどがあります。
 ヤマノイモの皮むきは、ヌルヌルしてむきにくいものです。包丁ではなく、大きなスプーンで上から下に軽くこするようにしてむいてください。平均的に薄くむけます。しかし、皮を全部むくと、ヌルヌルしておろすときに苦労します。手に持つ部分の皮は残しましょう。皮をむいたら酢水につけて、アク抜きをします。
 すりおろしには、おろし金よりすり鉢を使うほうが、ふわっときめ細かく仕上がります。水気をとり、すり鉢のまわりに軽く当て、ゆっくり回してすりおろします。そのあと、すりこぎですります。おろし金やすり鉢がなくても、とろろイモはつくれます。ポリ袋に皮をむいたヤマノイモを細かく切って入れ、瓶でたたいてつぶすのです。
 すったとろろイモを小鉢に分けるときは、割りばしが最適です。両手に一本ずつ持ち、クルクルと巻きとるようにします。こうすれば一度にたくさん入ったり、器の縁を汚したりしないで、好みの量をとることができます。
 とろろイモをおろした後で手がかゆくなったら、酢を入れた水で洗うと、かゆみが取れます。また、ヌルヌルした感触は、小麦粉小さじ一杯程度を手にこすりつけて、水で洗い流せばきれいに落ちます。使った食器も同じように小麦粉を使って洗うと、ぬめりがきれいにとれます。






    <1月7日号の主な予定>

 ▽公益法人白書のあらまし………………総 務 省 

 ▽消費者物価指数の動向(十月)………総 務 省 




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