官報資料版 平成16年2月4日




                  ▽経済財政白書のあらまし…………………内 閣 府

                  ▽消費者物価指数の動向(十一月)………総 務 省











経済財政白書のあらまし


―改革なくして成長なしV―


内 閣 府


はじめに

 日本経済に前向きの動きがみられている。これを確かなものにするとともに、自律的な景気回復を実現することが求められている。そのためには、日本経済が直面する構造的課題への取組の手を緩めてはならない。特に、金融と企業の再構築という課題と、高齢化・人口減少のもたらす影響への対応、特に財政・社会保障制度の改革という課題は、一刻の猶予も許さない。平成十五年度の年次経済財政報告は、そのような問題意識から、景気の将来展望と当面する構造的課題についての分析を行う。
 第1章「景気回復への展望」では、景気の現状と将来展望について分析している。第2章「金融と企業の再構築」では、金融と企業の再構築について検討するとともに、雇用政策の重要性について論じる。第3章「高齢化・人口減少への挑戦」では、我が国の高齢化・人口減少の問題を取り上げ、それが今後の経済成長にどのような影響を及ぼすことになるかを分析するとともに、財政・社会保障制度の改革の課題について検討する。

第1章 景気回復への展望

第1節 景気の現状と前向きの動き

1 底入れ後の景気動向
 日本経済は、二〇〇二年一月に景気の谷を迎え、回復局面に入った。これは、輸出を起点としたもので、企業部門を中心に前向きの動きがみられた(第1図参照)。その後、イラク情勢等から世界経済が減速したため、輸出の伸びが鈍化し、景気は踊り場的状況を迎えた。しかし、二〇〇三年半ばにかけて不透明感は後退し、輸出環境は改善の動きをみせている。

2 企業部門における前向きの動き
 企業収益は改善を続けている(第2図参照)。デフレ環境(売上単価低下、仕入単価低下)のもと、リストラ等が効を奏して製造業は大幅増益となり、非製造業は下げ止まった。当期利益も二年ぶりに黒字となり、キャッシュフローの増加によって借入返済、自社株購入が増加している。企業収益の改善傾向は、二〇〇三年度も引き続きみられるものと見込まれる。
 設備投資は、ストック調整が終了したこと、企業収益が改善したことから、増加している。設備投資の増加が持続するためには、企業収益の改善が続き、資金制約が緩和される中で、将来の需要が堅調に増加すると期待できることが重要である。
 輸出は、米国、アジア経済の減速から、増加から減速へと鈍化しており、それに伴って生産も増勢が鈍化している。また、デフレ期待、期待成長率の低下により、在庫積増しもみられない。しかし、世界経済は回復に向かうことが見込まれることから、輸出も今後回復することが見込まれる。

3 厳しい雇用情勢にも変化
 完全失業率は高水準で推移している。一方で、失業者数は横ばいとなっている。これは、倒産が減少し、リストラも一服したことが要因とみられる。また、就業者数についても、自営業者・家族従業者が減少する一方で、雇用者は持ち直し(常雇減少とパート増加はともに鈍化)がみられ、横ばいとなっている。なお、「非労働力化」は高齢化で進展している。
 求人は増えているものの、失業率のうち“雇用のミスマッチ”に由来する構造的失業が大半を占めるため、景気が回復しても失業率は簡単には低下しない。
 賃金面については、基本給は見直しが進んでおり、賃金の伸びにとって抑制圧力となっている。一方で、生産の増加や企業収益の改善によって残業手当は増加し、ボーナスは下げ止まりがみられる。

4 家計部門は底堅い動き
 企業部門における前向きな動きに比較して、個人消費の動きは鈍い。実質可処分所得は二〇〇〇年以降減少している一方で、消費は緩やかな増加をみせている。そのため、貯蓄率は低下(二〇〇〇年度九・三%、二〇〇一年度六・六%)している。また、貯蓄率の要因としては、高齢化、デフレに伴う実質残高効果(購買力上昇)が考えられる。

第2節 デフレの原因と克服への課題

1 資産デフレの原因と克服への課題
 バブル崩壊後からのキャピタル・ロスは、一千三百三十兆円に達し、日本経済にとって大きな下押し圧力となった。
(1) 地価
 一九九八年以降、再び下落幅が拡大している(三大都市圏<特に東京>の商業圏を除く)。収益還元モデルで地価変動の要因をみると、上昇要因としては安全資産利回りが、下落要因としては土地収益と将来見通しとリスク・プレミアムがあげられる。なお、最近は、大都市を中心に、収益性に見合う水準に接近しており、高地価地点で上昇もみられる。また、J−REIT(不動産投資信託)に上昇物件もみられる。
(2) 株価
 株価は、下落に歯止めがかかった。二〇〇二年五月をピークに、二〇〇三年四月末、七千六百七円(バブル後最安値)となったが、二〇〇三年四月末以降、世界的な株価上昇、企業収益改善、金融システム不安後退により、株価は上昇した。この局面では、外国人投資家が主導し、個人投資家の売買も増加した。一方で、信託・銀行は売り越しを続けている。こうした株価上昇の影響で、銀行や金融機関のバランスシートの改善等が見込まれる。

2 一般物価デフレ
 一般物価デフレは、九〇年代の半ばから進行しており、日本経済は依然として緩やかなデフレ状況にある。
(1) 物価指標の動向
 国内企業物価は、二〇〇二年は下落基調であったが、二〇〇三年に入ると一時期を除き横ばいとなった。これは原油価格、鉄鋼等の価格上昇が要因となっている。消費者物価については、二〇〇二年秋以降横ばいとなっている。GDPデフレータは、原油価格など外的要因により、二〇〇二年以降下落幅が拡大している。こうした動向を踏まえると、日本経済は依然として緩やかなデフレ状況にあると判断される。
(2) 失業率ベースのフィリップス曲線
 失業率の大幅上昇に対し、消費者物価の下落幅は〇〜マイナス一%に収まっており、消費者物価上昇率と失業率の間のフィリップス曲線で考えると、デフレに下限があるようにみられる(第3図参照)。そこで、賃金上昇率と循環的失業の間のフィリップス曲線をみてみると、デフレに下限があるようにみえるのは、構造的失業が増加しているためであることがわかる。
 次に、GDPデフレータとGDPギャップのフィリップス曲線をみると、デフレの需要側要因(GDP)、供給側要因(潜在GDP)を確認することができる(第4図参照)。
(3) 金融的要因
 金融政策等によるマネーの増加は、短期的・長期的に影響を物価に与えるはずであるが、不良債権・過剰債務問題の存在が、そのメカニズムを遮断していると考えられる。
(4) デフレ克服への課題
 デフレ克服のためには、GDPギャップの縮小、金融政策によるマネーサプライ増加で総需要が増加することが必要である。そのためには、不良債権の処理や過剰債務の削減によって成長分野への資金の円滑な移動、金融政策の効果波及経路の回復が必要である。

第3節 財政金融政策の展開

1 財政政策のマクロ経済的影響
 国の一般会計予算、特別会計予算における変化を「経済性質別分類」でみると、資本形成と経常支出は抑制ないし減少傾向であるのに対し、移転支出は高齢化の影響などから増加傾向にある。財政支出については、二〇〇二年度の一般政府の支出全体は、ほぼ横ばいとなっている。また、財政収入については、二〇〇二年度の一般政府の収入全体は、若干減少している。国の歳入は、名目GDPの減少等から税収が減少している。なお、年金保険料は微増している。
 二〇〇二年度の構造的財政赤字は若干拡大する一方、循環的赤字はほぼ横ばいとなっている。一般政府ベースの財政赤字は若干拡大している。こうした点を踏まえると、財政政策は、マクロ経済に対して必ずしもマイナスの影響を及ぼしていないと考えられる。

2 量的緩和政策の効果
 日本銀行による量的緩和政策の実施後、マネタリーベースは大幅に増加した。しかし、貨幣乗数の低下により、マネーサプライは低い伸びにとどまっている(第5図参照)。
 マネーサプライの伸びが低くても、それが経済活動に結び付いていれば、限定的ながら金融政策の効果は認められるはずであるが、貨幣の流通速度も低下している。これは、金融システム不安や二〇〇〇年問題等による貨幣需要増大、設備投資向け貸出の減少によると考えられる。
 量的緩和政策の現在までの効果をみると、@銀行のリスク資産のウエイトは高まっていない(貸出減少、国債保有増)一方で、A対外証券投資は増大しており、為替レートに影響を与えた可能性がある。
 量的緩和政策の効果が明確にみられない理由としては、@銀行の自己資本に対する懸念の高まった時期だったこと、A銀行等による流動性需要の高い時期だったこと、があげられる。
 今後の金融政策のあり方としては、不良債権処理の促進によって間接金融の正常化を図るとともに、どのような金融資産をどのような経済主体から購入するのが適切か、期待形成にどのように働きかけるかといった点を含め、更に実効性ある金融政策が検討・実施される必要がある。

第4節 景気の将来展望

1 景気持ち直しの基本シナリオ
(1) 企業部門における前向きの動きの持続
 企業収益は二〇〇三年度も増益が見込まれ、設備投資は緩やかな持ち直しが続くと見込まれる。
(2) 世界経済の回復と日本からの輸出の増加
 設備投資増加、企業収益改善、マクロ経済政策の効果などから、アメリカの経済成長率の上昇が予想される。また、アメリカ経済のそうした情勢はアジアやヨーロッパの景気へ波及し、日本の輸出の増加、生産持ち直しにつながると考えられる。
(3) 家計部門への波及
 企業部門持ち直しの動きが、徐々に雇用・賃金に波及していくことが見込まれる。そして、雇用・賃金回復が、家計の所得環境を改善していくことで、徐々に個人消費も持ち直していくことが考えられる。
(4) デフレ克服の展望
 緩やかなデフレ状況は当面続くが、景気が持ち直すにつれて、脱却の展望も次第に具体的なものとなってくると考えられる。また、株価にも変化の兆しがみられる。なお、地価については、まだしばらくは下落傾向が続くと考えられる。
(5) 経済財政政策のスタンス
 規制、金融、税制及び歳出の四つの柱の構造改革を一体的かつ整合的に実行していく必要がある。また、量的緩和の継続、更に実効性ある金融政策の検討・実施も必要である。

2 基本シナリオをめぐるリスクと景気回復力の脆弱性
(1) 基本シナリオをめぐるリスク
 先に述べた景気回復の基本シナリオには、いくつかのリスクがある。第一にアメリカ経済の情勢(雇用情勢、デフレ懸念、経常収支赤字)、第二に為替レートの動向、第三に国内の株価と長期金利があげられる。
(2) 景気回復力の脆弱性
 また、景気回復力の脆弱性にも留意すべきである。企業収益の改善は大企業中心のリストラが効を奏しているものであり、中小企業等にとっては売上高の抑制要因となる。また、企業は先行きについて依然慎重な見方をしていると考えられ、設備投資の回復も限定的なものとなっている。
 さらに、企業は人件費増加に慎重な姿勢を崩しておらず、「雇用のミスマッチ」も依然として存在しており、所得環境を制約している。こうした雇用情勢や、社会保障制度に対する慎重な見方から、個人消費増加の余地は大きくないと考えられる。また、デフレの継続(特に地価の下落)が、景気の下押し圧力となる。
 こうした脆弱性が、景気の自律的な回復を困難にする要因である。

3 自律的景気回復への課題
 自律的景気回復のためには、次にあげる課題を克服することが重要である。
 まず、不良債権問題である。不良債権問題により、金融機関のリスク許容力が低下している。また、不良債権問題と表裏一体の問題である企業の過剰債務問題により、企業の信用リスクが上昇していることも問題である。
 さらに、少子・高齢化の急速な進展に伴った我が国の生産性上昇率の低下への対応や、経済社会システムが現在の環境にふさわしくないことに起因する将来に対する不安を取り除くことが重要である。
 そのため、第2章では不良債権問題と、それと表裏一体の問題である企業債務問題を取り上げる。そして、第3章では、少子・高齢化問題を取り上げる。

第2章 金融と企業の再構築

第1節 金融機関と企業が抱える問題

1 間接金融の機能の低下
 我が国の金融システムは、間接金融が主体となっている。企業の資金調達に占める割合は、間接金融三九%、直接金融三六%となっているが、金融機関の株・社債保有等を考慮すると間接金融関連は五〇%にのぼる一方、直接金融関連は二六%となっており、依然としてメインバンク制を中核とする間接金融が主体の金融システムであるといえる。
 このように、大きな割合を占めている間接金融の機能が低下している。間接金融機能の低下要因としては、@不良債権問題が金融機関のリスク許容力を低下させている(金融機関側の事情)、A過剰債務問題が信用リスクの上昇を招いている(企業側の事情)、の二つがあげられる。こうした間接金融の機能低下は、設備投資や運転資金調達などの企業金融に影響を与えている。

2 設備投資への影響
 近年の製造業上場企業の設備投資行動(一九九八〜二〇〇一年度)をみてみると、以下の四点を確認できる。@資本生産性(ROA)の高い企業は設備投資を実施している。A資本コスト(有利子負債利子率)の高い企業は、投資抑制・負債返済といった行動をとっている。B資金環境(キャッシュフロー、長期借入金、社債)は投資に影響していない。資金調達面での制約の緩和がなされても、債務返済が優先されている。Cメインバンクの存在が逆に設備投資の抑制に作用している(貸渋りの批判)。

3 中小企業金融への影響
 中小企業金融の現状としては、中小企業向け貸出は減少しており、金融機関の貸出態度等も総じて厳しい状況となっている。一九九〇年代以降、中小企業の企業間信用は大企業・中堅企業と比べて大きく減少しており、金融緩和による貸出金利の低下にもかかわらず、厳しい金融環境が続いている。
 中小企業金融の円滑化に向けた政策対応として、政府はセーフティネット保証・貸付制度、売掛債権担保保証融資制度等といった対応をとっている。また、日銀による売掛債権を含む資産担保証券(ABS)の金融機関からの買取が行われ、資金調達チャネルの多様化、企業間信用減少の抑制が図られている。
 金融機関の不良債権問題の解決によって金融の再構築(間接金融の正常化)を目指すとともに、企業の過剰債務削減・早期事業再生・収益力強化といった企業の再構築を目指すことが重要である。

第2節 金融の再構築

1 不良債権処理の現状(括弧内は前年度比)
 二〇〇二年度に、主要行の不良債権残高は二十兆二千億円(マイナス六兆五千億円)、不良債権比率は七・二%(マイナス一・二%ポイント)になるなど、不良債権処理は進展している(第6図参照)。これは、破綻懸念先以下債権のオフバランス化が寄与(プラス五兆六千億円)しており、@債権流動化の増大、A再建型処理の増大、B業況改善の増大、といった動きを反映したものである。こうしたことから、不良債権の処理費用は減少(マイナス二兆六千億円)しているが、本業の収益を上回る状況となっている(第7図参照)。

2 不良債権処理の課題
 政府は、二〇〇四年度には主要行の不良債権比率を二〇〇一年度の半分程度に低下するという目標を掲げ、これによって問題の正常化を図ることとしている。主要行の経営計画はこの方針を反映(四%程度へ)している。こうした中行われた二〇〇二年度の処理を過去の不良債権処理パターンと比べてみると、@不良債権処理の進展(プラス)、A新規発生の増加(マイナス)、といった特徴があげられる。
 目標達成に向けた課題としては、次の二点があげられる。まず、第一に、不良債権処理の促進である。破綻懸念先以下債権については、主要行は既に取り組んでおり(五割・八割ルール)、今後、要管理先債権については事業選別・早期事業再生等による正常債権化、正常先債権・要注意先債権については劣化防止による不良債権の新規発生防止が重要である。
 また、そうした不良債権処理の促進とともに、企業の信用リスクに応じた貸出金利の設定、収益性の向上を目指すべきである。これは、繰延税金資産の問題を解決するために十分な課税所得を計上するためにも必要である。

3 金融をめぐるインセンティブ構造
 間接金融の正常化に向けたインセンティブの問題も重要である。我が国における金融機関の貸出は、事業の収益性に着目した融資(例えばプロジェクト・ファイナンス)ではなく、企業単位での融資を行うことが慣習となっている。このような融資慣行が、金融機関に対して不良債権処理を遅らせるようなインセンティブを与えている可能性がある。そのため、企業単位の融資から事業単位の収益性に着目した融資へ重点をシフトすることが、インセンティブの面からみて間接金融の正常化にとって望ましい。
 インセンティブ構造の変革につながるような動きをいくつかあげよう。まず、第一に、貸出債権流動化(市場型間接金融)である。貸出債権流動化のメリットとしては、リスク許容力に応じた第三者への貸出債権の譲渡が可能となる点があげられる。これによって、資金循環の円滑化と金融システムの安定化が図れるようになる。こうした資産流動化は、増加傾向にある。企業(非金融法人企業)による流動化された金融資産の保有残高の増加が銀行貸出の減少を補完し、一般的な投資対象として認知されつつある。
 また、株式持合いの解消も重要である。株式持ち合いを解消することで、企業は株主価値の向上を図るとともに、自社株取得、IR(インベスター・リレーションズ)といった活動を積極化させる必要が生じ、従来以上に直接金融の利用を検討するインセンティブをもつ可能性がある。
 さらに、「民間でできることは民間に委ねる」との原則の下、政策金融の対象分野を見直すことが必要である。

第3節 企業の再構築

1 企業部門の課題
 企業リストラ(資産の有効利用、損益分岐点引下げ)は一定の進捗をみせている。しかし、非製造業等にとってバランスシート調整は依然として課題となっている(第8図参照)。我が国企業部門が現在当面する課題は、過剰債務企業の事業再生や、収益力向上の努力強化である。

2 過剰債務企業の事業再生
 メインバンクの企業救済機能が低下していることから、負債は多いが本業の収益が良好な企業にサポート対象が限定されている。
 一方で、上場企業の一五%程度が企業整理等を必要とするグループ(約八%は既に企業整理等入り、残り約六%は早期に企業整理等が必要)であると考えられ、早期事業再生を促すメカニズムの必要がある(第9図参照)。そのために、私的整理の枠組みを整備し、透明性の向上を図ること等によって処理の迅速化を図るべきである。それには、@私的整理に関するガイドライン、A早期事業再生ガイドライン、B産業再生機構等の公的枠組みの活用が、効果を発揮すると期待される。
 なお、私的整理の有効性(金融機関による債権放棄の特徴)について検証を行った。その結果、@比較的業績が良好な大企業が対象とされている、A企業に特別損失計上や人員リストラを要求している、といった特徴が浮かび上がってくる。それゆえ、必ずしも処理の先送りのための安易な債権放棄とはいえない。

3 公的枠組みによる事業再生
 公的枠組みによる事業再生も重要な解決策であり、債権者間の利害調整を中立的立場から図り、債権の集約化を容易にする役割が産業再生機構に期待される。
 公的枠組みによる事業再生について、海外の事例(北欧・アジア諸国の試み)をみると、以下の教訓が得られる。@買取価格は時価とすること、A金融機関の間の公平性や買取の迅速性に配慮すること、B外資を含めた民間のノウハウを活用すること、の三点である。

4 企業価値の向上とM&A
 次に、企業整理等の対象となるグループ以外の企業群についてみてみよう。企業部門を取り巻く環境の変化としては、重要な経営資源の変化、収益性目標の重視、経営資源の組替が短期間に行われることが必要となってきたこと、会社組織再編法の整備、投資ファンドの登場といったものがあげられる。
 そうした変化は、近年のM&Aの動向にも表れている。M&Aの形態としては、「買収」「資本参加」といった形態が従来主要なものであったが、「合併」「営業譲渡」の比重が大きくなっている。また、近年のM&Aの目的としては、既存事業の強化が圧倒的であり、事業再編が活発化していることがうかがえる。
 次に、合併の市場の評価と実際の効果をみてみよう。「救済合併」に代わる「業界再編」への市場の評価は上昇傾向にある。ただ、合併効果は一様ではなく、散らばりがみられ、個別企業の経営が影響を与えている。
 営業譲渡の特徴と効果をみると、譲受企業の既存事業の強化、譲渡企業の事業撤退等の動きと関係がある。また、ROAが業種平均以下の譲受企業に効果がみられ、企業の再活性化の可能性を示唆している。

第4節 構造調整と雇用・賃金

1 雇用面での調整圧力
 倒産は減少し、非自発的離職者の数は横ばいとなっている。これは、再建型の不良債権処理が増加しているという状況を反映したものとなっている。一方、「雇用のミスマッチ」は拡大しており、欠員が解消されないまま失業が並存している(第10図参照)。また、若年失業者(十五〜二十四歳)と長期失業者(失業期間一年以上)が増加している。

2 賃金面での調整圧力
 賃金面をみると、ベースアップの見送り、年功序列型賃金の見直し、成果主義の導入により、基本給の見直しが進んでいる。
 パートタイム労働者へのシフトは持続しており、賃金を下押ししている。

3 失業・雇用政策のあり方
 これまでは公共事業による雇用維持効果への期待が大きかったが、労働生産性は伸び悩み、労働分配率は高止まっている。欧米では、「受動的雇用政策」(失業給付など)から「積極的雇用政策」(教育訓練など)へシフトし、異なる業種間を労働力が円滑に移動を目指す政策がとられている。我が国でも、教育訓練等を重視する必要性がある。また、若年雇用対策では欧米に先行事例(産学連携や能力開発)があり、参考となるであろう。

第3章 高齢化・人口減少への挑戦

第1節 高齢化・人口減少の意味

1 高齢化・人口減少の進行
 我が国の合計特殊出生率は二〇〇二年には一・三二と過去最低を更新した。我が国の少子化は他の先進国に比べ、急速に進行している。また、同様に高齢化も進行している(第11図参照)。老年人口比率は、二〇〇二年には一八・五%であり、二〇二五年には二八・七%、二〇五〇年には三五・七%と先進国で最も高い水準となることが予想される。
 生産年齢人口は一九九五年をピークに減少に転じており、総人口についても二〇〇六年を境として減少に転じることが予想されている(第12図参照)。

2 高齢化・人口減少の背景
 出生率低下の要因としては、子育てにかかる機会費用の増大等に伴うコストの上昇、未婚化・晩婚化、晩産化の進行、夫婦間の出生力の低下が考えられる。
 高齢化の要因としては、平均寿命の伸長を伴う死亡率の低下があげられる。

3 出生率の反転は可能か
 出生率を反転させるには、女性の就業と出産・育児の両立が可能となるように経済社会の諸制度・慣行を変えていく必要性がある。そのため、政府は「次世代育成支援に関する当面の取組方針」(二〇〇三年三月)を決定し、「次世代育成支援対策推進法」(二〇〇三年七月)等の少子化対策を推進してきた。
 ただし、出生率が増加に転じたとしても、人口構造は急に変化しないため、高齢化・人口減少を前提とした経済社会の仕組み作りが不可避である。

4 女性と高齢者の就業の促進
 労働力の減少の影響を緩和するために、女性や高齢者の就業を促進することが必要である。女性の年齢別労働力率にみられるM字型カーブは、潜在的労働力率を取れば、ほぼ解消し、今後の労働力人口の減少はある程度相殺することが可能である。そのためには、仕事と育児の両立のために、保育所の充実や子育てをしながら働き続けることのできる職場環境の整備が必要である。また、税制や年金については、女性の就業・非就業の選択に中立な制度への転換が必要である。
 また、労働力の減少の影響を緩和するには、今後人口比で高まっていく高齢者の労働力率も高めるべきである。そのためには、定年の引上げや継続雇用制度の促進などのほか、個々の高齢者の就業能力に応じ、多様な勤務形態を認めることも必要である。

第2節 高齢化・人口減少の下での経済成長の展望

1 これまでの日本の経済成長の姿
 我が国の実質経済成長率は、趨勢的に低下してきており、一人当たり経済成長率も低下傾向にある。
 経済成長率の趨勢的低下は、潜在成長率の低下が背景にある。経済成長を@労働投入、A資本投入、B全要素生産性、の三要因に分解してみると、@労働投入は、一九九〇年代以降、マイナスで寄与している。これは、労働時間の減少や就業者数の減少の要因のほか、少子化による生産年齢人口の伸びの鈍化・減少の影響が既に顕在化しているのである。A資本投入は、プラス寄与を保持しているが、年々低下してきている。B全要素生産性も、プラス寄与を保持しているが、年々低下している。

2 高齢化・人口減少の下での経済成長
 OECD諸国のクロスカントリー・データをみると、
 @ 人口増加率と経済成長率との間には緩やかな正の相関関係がみられる。そのため、人口増加率は一国の経済成長率を決定する上で重要な一要因であると考えられる。ただし、資本ストックや技術水準、人的資本等の他の経済の諸条件も同様に重要であることは言うまでもない。なお、人口増加率は一人当たりの経済成長率とは無相関である。
 A 就業者の増加率と労働生産性上昇率との間には緩やかな負の相関関係がみられる。すなわち、就業者数の増加率が鈍化・減少するほど、労働生産性の上昇率が高まる傾向がみられる。これは、資本装備率の上昇のほか、効率的な生産方法や技術進歩の促進、人的資本の向上等がもたらす全要素生産性の上昇によるものである。
  また、高齢化は国民貯蓄率の低下をもたらすため、資本ストックの蓄積が阻害され、経済成長率が低下する可能性がある。国民貯蓄率の低下に対応するためには、国内の貯蓄不足を海外からの資本流入で補完するために、日本を海外にとって投資魅力の高い国にしていく必要性がある。
 このように、高齢化・人口減少社会では、労働生産性を高めることが基本戦略となる。そのためには、良質な資本ストックの蓄積、研究開発投資の活性化を通じた技術革新、教育投資を通じた人的資本の向上といった取組が重要である。

3 マクロ経済モデルによる経済成長シミュレーション
 今後の長期的な潜在的経済成長の姿を展望するために、マクロ経済モデルにより今後の長期的な経済成長に関するシミュレーション(二〇一〇年代〜二〇四〇年代の結果)を三つのケースを仮定して行ったところ、以下の結果を得た(第13図参照)。
 @現状維持ケース
  各年代の平均経済成長率は〇・二〜〇・四%程度となる結果を得た。労働投入の寄与がマイナス〇・七〜マイナス〇・九%ポイント程度、経済成長率を引き下げることになる。このことから、人口減少は、今後数十年にわたって主に労働投入の面から経済成長率を大きく低下させる要因になると考えられる。
 A経済活性化ケース
  各年代の平均経済成長率は一・四〜一・六%程度となる結果を得た。労働力率の向上が〇・二〜〇・五%ポイント程度、構造改革の進展や技術進歩等による全要素生産性の上昇が〇・八〜〇・九%ポイント程度、経済成長率を押し上げると考えられる。
 B出生率の動向による影響
  出生率の向上(低下)は、予測期間後半における経済成長率を〇・二〜〇・三%ポイント程度押し上げる(マイナス〇・三〜マイナス〇・四%ポイント引下げ)という結果を得た。
 こうしたシミュレーションの結果から、高齢化・人口減少の下でも経済成長を維持するため、生産性の向上や労働力率の改善といった政策を総合的に講じていくことが必要であるといえる。

第3節 高齢化・人口減少に対応した公的部門の構築

1 国民負担の増加と公的部門の課題
 高齢化の進展により社会保障給付費は年々増加しており、国民負担率も上昇している。また、高齢化等を背景に我が国の所得の不平等度は年々拡大する傾向にあり、租税・公的部門を通じた所得再分配(特に社会保障による再分配)により改善する必要がある。
 また、公的部門を通じた受益と負担の関係を二〇〇一年についてみると、五十歳代以下の世代では年齢階層が高まるほど負担超幅が拡大し、六十歳代以上世代のみ受益超となっており、現在の公的部門のあり方は世代間所得再配分としての側面が強い。
 生涯を通じた受益と負担の関係を将来世代に含めてみると、現在の五十歳代、六十歳代のみは受益超となるが、後年世代になるほど負担超幅が拡大し、大きな世代間格差が存在する。
 OECD諸国のクロスカントリー・データをみると、潜在的国民負担率が高い国ほど経済成長率が低い傾向にある(第14図参照)。そのため、公的部門の持続可能性と経済活力を維持するためには、国民負担率が過度な水準とならないようにすることが不可欠である。

2 ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)と我が国における行財政組織の改革
 国民負担率を抑えつつ財政を立て直すためには、民間企業の経営手法なども活用しながら、行財政組織を効率化することが必要である。そのため、政府は、「骨太の方針」(二〇〇一年六月)において、予算編成プロセスなどにニュー・パブリック・マネジメント(NPM)の考え方を活かすことを明記した。
 NPMの特徴は、@民間企業の経営手法を活用し、経済効率性を追求(独立行政法人、PFIの活用など)すること、A国民を「顧客」ととらえて公的に提供する財・サービスの向上を目指すこと、B成果志向のマネジメント・サイクルを確立し、効率性とコスト意識を向上すること、C説明責任の向上(民間企業にならった会計手法の導入、予算と政策評価のリンク等)を目指すことを特徴としている。
 そのためには、企画立案部門と現業部門を切り分け、費用と便益の関係を明確化する必要がある。我が国では、二〇〇三年度には「モデル事業」も導入されるなど、NPMの考え方を活かした取組が進展しつつある。

3 公的年金制度の改革
 我が国の公的年金制度は、「賦課方式」に近い。この方式は、少子高齢化によって制度の支え手が減少すると、制度の持続可能性に問題が生じることになる。
 生年世代別に厚生年金の給付比率(年金給付/保険料負担)をみると、後世代ほど低下しており、給付水準の見直し等を通じ、世代間格差を是正することが必要である(第15図参照)。
 さらに、制度への信頼を高め、持続可能性を維持するため、世代内の負担と給付の関係を公平にすることも必要であるが、現行制度は以下の課題を抱えている。
 @ 基礎年金について、国民年金と被用者年金の間で費用負担の方法が異なる。また、被用者年金では保険料負担と年金給付の対応関係が不明確である。
 A 国民年金の未納・未加入者が増加している。
 B 保険料負担や給付において専業主婦を優遇(第三号被保険者制度)している。
 C 公的年金等控除は高齢者の経済状況にかかわらず一律に適用されるため、世代間及び高齢者世代内に負担のアンバランスが生じる。
 公的年金制度は国民の「安心」と「活力」の基盤である。制度に対する信頼を高め、持続可能なものにすることが必要である。

4 医療制度の改革
 我が国の医療費は、一九九二年度以降国民所得の伸びを上回って増加しており、収支も悪化している。こうした医療費の増加は、人口の高齢化が主要因である。
 年代別にみると、六十歳以上世代では医療費が負担を上回るという状況である。これは、我が国の医療保険制度は現役世代が高齢者の医療費の多くを負担する仕組みであることが要因である。高齢化の影響によって、現役世代の負担が過度に高まり、医療保険財政の維持可能性が低下するのを防ぐためには、高齢者医療を中心とした医療保険制度の改革が重要である。
 医療費適正化のためには、需要面、供給面双方の効率化・適正化が必要である。需要面からの適正化の方法としては、医療サービスの診療行動を適正化し、患者負担の適正化を通じたコスト意識の喚起が必要である。
 また、医療サービスの供給面の効率化のためには、
 ・ 診療報酬制度について、出来高払いと包括払いの特性等を踏まえつつ、包括払いの適用範囲を拡大すること。
 ・ 薬価制度について、引き続き薬価差益の縮小を図るとともに、後発医薬品の使用促進を図ること。
 ・ 医療機関ごとの役割分担の明確化による医療提供体制の効率化を図ること。
 ・ 医療経営の近代化・効率化のためにカルテやレセプト等の電子化を促進するとともに、構造改革特区における株式会社による医療機関経営の状況等をみながら全国における取扱いなどについて検討すること。
といった取組が必要である。
 また、医療機関の情報収集・評価・情報提供、保険者と医療機関との診療報酬に関するいわゆる直接契約など、医療費適正化のために保険者機能の強化が必要である。

5 社会保障制度の一体性と相互関連性を踏まえた改革
 なお、社会保障制度の一体性と相互関連性を踏まえた改革を行うにあたって、以下の点に留意すべきである。
 @ 人口動態や経済成長等の不確実性に対応した社会保障制度を確立することが必要である。
 A 社会保障制度は、年金、介護等の諸制度間の整合性を取りつつ、総合的に検討する必要がある。制度間で給付の重複があるものについては調整が必要である。
 B また、そもそも公的保障を通じて行う部分と民間部門や自助努力に委ねるべき部分を峻別し、社会保障制度が果たすべき役割の再検討が必要である。その際、税制のあり方と整合的に検討すべきである。
 C 持続可能な社会保障制度の構築のため、少子化対策を含め、総合的に諸施策を講じるべきである。

むすび

(景気の中でみられる前向きの動き)
 我が国の景気は、二〇〇二年一月に谷を越え、景気循環上は景気回復局面に移行している。しかし、その後の展開は必ずしも平坦ではなく、二〇〇二年末には踊り場的な状況に入っていった。それは、輸出の伸びが次第に弱まったことによるところが大きかった。しかし、そうした中にあっても、企業部門では、企業収益や設備投資を中心に前向きの動きが続いた。それは更に雇用情勢にも波及しつつあり、その影響は家計部門にも及ぼうとしている。今後、アメリカの成長率が再び高まり、輸出が回復してくれば、景気の持ち直しに向けた動きは更に強まっていくであろう。
 他方、デフレは依然として続いており、日本経済にとって下押し圧力となっている。しかし、その中にあっても、変化がみられる。まず株価が上昇に転じた。このことは、企業部門における前向きの動きを受けて、景気の先行きに対する見方が明るくなったことの現れであるが、同時に、これが景気にとって好ましい影響を及ぼしていくことも期待される。また、一般物価も、下落幅が縮小し、横ばいの動きがみられるようになった。この背景には、一時的な要因の影響があるものの、商品市況が堅調になっていることの影響もみられている。
 景気がこのような動きをみせる中で、財政政策面では、財政構造改革が進められている。しかし、一般政府の財政支出がほぼ横ばいで推移する一方、収入が弱含んでおり、財政赤字は若干拡大している。したがって、一般政府ベースの財政政策のマクロ経済への直接的な影響について考えると、歳出改革の下でも、マイナスの影響を及ぼしているわけではない。また、経済及び財政の状況によっては、財政再建が非ケインズ効果を持ち得ることにも留意する必要がある。他方、金融政策面では、量的緩和政策が続けられ、市場に対する豊富な流動性の供給を通じて、金融システムに対する不安感を払拭するのに大きく貢献した。しかし、量的緩和政策のマクロ経済への影響という面では、期待された効果が十分に現れているとは言いがたい。不良債権や過剰債務の問題によって銀行が媒介する金融政策の効果波及過程が寸断されていることが影響している。

(景気は持ち直しへ)
 こうした現状を踏まえて先行きについて展望すると、景気は次第に持ち直していくものと考えられる。企業部門における前向きの動きは、輸出が回復してくるに伴って、更に強まっていくであろう。そのような前向きの動きは、雇用・賃金にみられる変化を更に確かなものにし、やがて家計部門にも好影響を及ぼしていくことになるであろう。その中で、一般物価面でのデフレについても、脱却に向けたよりはっきりとした展望が開けてくるものと期待される。
 もっとも、この基本シナリオは、アメリカ経済の成長率が高まるという前提に依存するところが大きい。アメリカ自身の景気も決して盤石ではなく、仮に弱い面が現実化すると、我が国の景気持ち直しに必要な輸出の増加に大きな影響が及ぶというリスクがある。依然として民間需要の自律的な回復力ではなく、輸出に依存した景気の持ち直しを基本シナリオとして想定せざるをえないところに、現在の景気の脆弱性が現れている。
 景気が、単に持ち直すだけでなく、民需を中心とした自律的な回復を示すためには、民間部門が前向きな支出活動を行うようにならなければならない。そのためには、現在の景気の「重し」となっている不良債権・過剰債務の問題や社会保障制度改革の課題等を解決し、先行きに対してより明るい見通しが持てるようにしなければならない。それによって、金融の量的緩和政策の効果も、はじめて十分な効果を発揮し、デフレ脱却に向けた強い力となっていくであろう。

(金融・企業の再構築の重要性)
 日本の金融システムは、金融機関が仲介する間接金融が中心である。しかし、その間接金融の機能が低下している。資金が経済成長のために効率的に利用されるためには、直接金融の機能向上を図るとともに間接金融を正常化することが必要である。
 間接金融の機能低下の背景には、金融機関が多額の不良債権を抱え、リスク許容力が低下し、貸出に慎重になっていることがある。また、企業が過剰債務を抱えながら収益力も低く、信用リスクが高まっていることも影響している。すなわち、金融と企業の双方の問題が影響しているのである。設備投資の動向や中小企業金融の現状をみてもそれが確認できる。間接金融の機能を正常化するためには、不良債権の処理と過剰債務の削減の双方に取り組むことが何よりも必要である。
 金融部門では、不良債権の処理が着実に進展している。依然として不良債権は新規に発生しているが、それを上回る額の債権流動化や債権放棄等が行われている。不良債権処理を一層促進するためには、破綻懸念先以下の債権の削減に引き続き取り組むとともに、要管理債権として残っている不良債権の処理に力を入れること、正常債権の不良化を防止することが重要である。また、不良債権処理の原資を確保するためにも、リスクに見合った金利設定を行い、収益力を高めることが必要である。さらに、金融機能が十分に発揮できるような条件を整えるためには、融資を企業単位ではなくプロジェクト単位で行えるようになること、債権の流動化を容易にすること、政策金融を見直すことなどが必要である。
 他方、企業部門では、リストラが進展し、キャッシュフローを生み出す力がついてくるのに伴って、過剰債務の削減も進んでいる。しかし、建設、不動産、卸小売の三業種や、非製造業の中小企業を中心にまだバランスシート調整を進めなければならない企業が残っている。特に、多額の債務を抱えながら、収益基盤の弱い企業は大きな困難に直面している。そうした企業の一部には、整備が進んでいる事業再生の枠組みを活用して、徐々に再建への一歩を踏み出す動きもみられるが、そうした動きが他の企業にも広がっていく必要がある。また、企業は、過剰債務の削減と事業再生を超えて、厳しい競争環境を生き抜くために必要な収益力を確保するための継続的な努力をすることが求められており、その一端が、近年法整備が進んできた会社組織再編手法も活用したM&Aの増加などに現れている。このような動きが更に強まることが期待される。

(企業が当面する新しい課題)
 企業が、収益力を高めていくためには、次々と投げかけられる新しい課題に果敢に取り組んでいくことが必要である。
 情報通信手段の発達や直接投資や経営資源の移転の活発化によって、内外関係は緊密化しており、グローバリゼーションの拡大・深化への対応が問われている。また、研究開発の成果が新製品や新事業に結実しておらず、技術を事業展開の中核に据える「技術経営」の手法の重要性が増している。さらに、環境問題への意識の高まりの中で、環境問題をビジネスチャンスととらえようとする動きも出てきている。
 企業がこのような課題に積極的に取り組んでいくことは、我が国経済の活性化にもつながることになる。

(企業再建・事業再生の評価)
 不良債権処理や過剰債務処理の中で重要性を高めているのが、企業再建・事業再生である。すなわち、企業を清算するのではなく、不採算部門の売却や人員削減等を通して企業を再建することによって処理しようとする手法である。そうした動きは、不良債権処理において再建型処理が多くなっていることに、また過剰債務処理では債権放棄型の私的整理が多くなっていることに現れている。
 このような手法の活用は、企業がこれまで蓄積してきた資本ストック、人的資源、経営資源が、散逸することなく、引き続き活用されるという意味で重要である。
 しかし、再建型処理が行われたということは、再建への第一歩が踏み出されたことを意味するにすぎない。債権放棄と再建計画の策定が、実際にその企業の再建をもたらすのかどうかは、ひとえにその再建計画の内容と、それを確実に履行していく実行力にかかっている。企業再建は、それが実現して初めて実体的な意味を持ってくるのであり、企業再建が実現することなく終われば、現在の再建型処理も単なる「先送り」にすぎないことになってしまう。企業再建のためにはまだ多くの努力が払われなくてはならない。

(「構造改革の痛み」をどう考えるか)
 構造改革は、生産性の低い部門から生産性の高い部門へ、資本や労働力などの資源が移動することを意味する。労働力の場合、それによって離職が増加する可能性が高まることになる。したがって、不良債権処理や過剰債務削減が進展すれば、離職も相当増加するものと見込まれた。しかし、最近における離職者の動向をみると、不良債権処理や過剰債務削減が進展しているにもかかわらず、離職者数は大きく増加していない。その理由は、前述のように、企業を清算するより、企業を再建する動きが強まっているからである。
 しかし、離職した場合、再雇用が必ずしも円滑に行われるとは限らない。むしろ、雇用に関するミスマッチが存在していることもあって、離職者がそのまま失業者として労働市場に滞留する確率が高い。また、最近の特徴は、若年失業者や長期失業者が増加していることである。調整に伴って発生するこのような損失を調整コストと呼ぶならば、調整コストを最小限にする努力は重要である。その意味では、雇用政策の重要性は今まで以上に高まっており、特に雇用される能力を高めるために教育訓練を中心とする積極的雇用政策を強化することが重要である。
 このような動向について考える際に、注意すべきことは、このような意味での調整コストが、必ずしも「構造改革によって新たにもたらされた痛み」ではないことである。日本の経済社会システムについては、バブルの発生と崩壊を経験する中で、様々な問題点が浮き彫りにされてきた。また、発展途上国の追い上げや急速な技術進歩が進む中で、それに十分に適応できるシステムへの変革が求められてきた。しかし、システムの変革はこれまで先送りされてきた。それが一九九〇年代以降の日本経済の低迷の最大の理由である。現在取り組んでいる構造改革は、このような現状を踏まえて、これまで先送りされてきた変革を今度こそ実行しようとするものである。したがって、現在負担しようとしている調整コストは、本来であれば、もっと早くに負担しなければならなかったはずのものであり、もしそうしていれば、おそらく今日より少なくて済んだかもしれないコストである。それは、時代にあったシステムを構築するためには避けて通れないコストなのである。

(高齢化・人口減少の経済成長への影響)
 日本経済が当面する長期的な課題として、高齢化・人口減少に対する対応がある。高齢化・人口減少は、経済発展に伴って、先進諸国を中心にみられる現象である。しかし、そのペースは、我が国が過去に経験したことがないばかりでなく、諸外国でも類がないものである。したがって、それが日本経済にどのような影響を及ぼすことになるのかについては、不透明感が強い。しかし、高齢化・人口減少は、それだけを取り出せば、労働投入や資本投入の減少を意味するので、マクロの経済成長に対してマイナスの影響を及ぼすことになる。今後の出生率の動向、人口減少の程度によっては、マイナス成長の可能性もある。
 確かに、その影響を必ずしも悲観的にとらえる必要はない。一人当たり所得で考えれば、引き続き増加を続けることが見込めるし、マクロの経済成長の大幅な鈍化の影響を相殺するようなメカニズムも存在するからである。人口減少が進めば、個人への教育投資や省力化のための技術進歩等が促進される。また、貯蓄率の低下が資本ストックの蓄積を制約する可能性も、外国からの資本流入が円滑に行われれば、それを補うことができる。さらに、就労意欲の高い女性や高齢者が労働市場に参加してくれば、労働投入の減少それ自体も緩和することができる。
 しかし、問題は、高齢化・人口減少のもたらすマイナスの影響を相殺する要因の多くが、今後の努力いかんにかかっていることである。生産性を高めようとする企業の不断の努力、就労しようとする個人の意欲、そうした動きを支援しようという政府の政策等に大きく依存している。こうした努力が十分に行われれば経済成長は維持できる。しかし、もし努力が不十分なものに終われば、マイナス成長の可能性もある。我々の高齢化・人口減少に対する取組が問われている。

(持続可能な財政・社会保障制度の確立に向けて)
 高齢化・人口減少は様々な経済社会システムにも影響を及ぼしている。特に深刻であるのは、財政及び社会保障制度である。
 現在の財政・社会保障制度は、人口構成が若く、経済成長率も高い時代に基本的な骨格が構築されており、そのような時代が続いていれば、大きな問題を生じることはなかった。しかし、高齢化が進み、人口が減少に向かい、経済成長も鈍化するのに伴って、現在の受益と負担の構造を維持した場合、既存の制度の持続可能性に問題を生じさせる。例えば、年金は、このままの制度を維持すれば国民の保険料負担は現在の二倍程度まで上昇すると見込まれ、将来の現役世代の負担が過重になり、制度が持続可能でなくなるのではないかとの不安を生じている。こうした問題は早くから認識され、制度の持続可能性を維持するための対応がとられてきたが、少子・高齢化のスピードが当初の予想を上回るものであったこともあり、改革は途半ばの状況にある。こうした現状を目の当たりにして、制度に対する不安から、若年世代では年金保険料の未払い等が急増している。財政・社会保障制度の持続可能性には大きな不安が生じており、一刻も早く大胆な制度改革を遂行することが求められている。
 制度改革に際して考えられるべきポイントは二つある。まず、人口減少の予測について一定の幅があることや、経済成長にも不確実性があることを踏まえ、将来にわたって持続可能で安定的な財政・社会保障制度を構築することである。そうしたことによって初めて長期的に安定し、信頼できる制度が確立されることになる。また、制度改革は、年金や医療をそれぞれ別個に考えて実施するのではなく、財政・税制とも整合性をとりながら、総合的に考えることが必要である。そのような改革を通して、初めて将来世代に大きな負担を転嫁することを回避し、持続可能な社会保障制度を構築することができることになる。

(制度改革を促すようなインセンティブ)
 金融・企業の再構築や高齢化・人口減少への対応は、いずれも課題と認識され、取組が始まってからかなりの期間が経過している。にもかかわらず、いまだにその取組が十分でないのはなぜだろうか。
 それは、必ずしも、家計や企業、金融機関が非合理的な行動をとっているからではない。非合理的な行動をとらなければならない理由はない。むしろ、各経済主体にとって、実質的な「先送り」は、合理的な行動の結果であった可能性さえある。現在の当事者が負担をしなくて済むならば、それを負担せず、すべて次代の当事者に転嫁することは、現在の当事者にとっては合理的な選択であると考えられるからである。
 もしそうだとすると、問題は、現在の当事者にとって合理的な行動が、社会全体としては、必ずしも合理的な行動であるといえないということにある。換言すると、現在の当事者が行動を決定するときにその前提となり、そのあり方によって行動に大きな影響を及ぼすことになる誘因(インセンティブ)の構造が適切なものになっていないということである。現在の経済社会システムが内包する家計や企業を取り巻くインセンティブ構造が、日本経済の当面する課題の解決に対応していないのである。
 例えば、金融面でいえば、すぐに不良債権を処理することへの政策面での対応や株主からの圧力が弱ければ、困難な処理は先送りされがちである。また、企業単位の貸出が原則とされ、しかもそのような貸出債権を流動化することができなければ、不良債権処理は、企業そのものを整理することにつながるので、二の足を踏みがちである。年金制度面でも、収支の悪化が現役世代の負担や給付に大きく影響することがない限り、本格的な改革を先送りし、将来世代に負担を転嫁してしまう誘因が存在する。逆に、改革を先送りした結果、過重な保険料負担を将来世代に負わせることになれば、将来世代は、保険料を払い、社会保障制度を支える意義を見いだせなくなってしまう。
 したがって、古くなったシステムの改革を進めたり、新しいシステムを確立したりするためには、それと整合的なインセンティブ構造をもあわせて確立する必要がある。今後の制度改革に求められているのは、インセンティブのあり方を十分に考慮したシステム改革であり、システム設計である。





歳時記


スケート

 スケートというと、氷上の華麗な演技を思い出す方もいるでしょう。また、田んぼの氷の上で、げたスケートで滑った遠い日を思い起こす方もいるかもしれません。
 以前は子どものスケート遊びも競技会も、天然の氷の上でした。氷に穴を開けてワカサギ釣りをしている傍らで、子どもがスケートを楽しんでいる風景もみられました。冬になると、観光情報として積雪情報とともに、スケート場になっている湖の天然氷の厚さが発表されていたものですが、最近はあまりみられなくなりました。
 スケートは、もともと氷の上の交通手段で、大昔は動物の骨を削って靴にくくりつけたものだったようです。北欧などの穴居(けっきょ)跡には、ヒツジやウマ、トナカイなどの骨で作ったものが見つかっています。
 スケート靴が日本に伝わったのは明治十年で、札幌農学校のアメリカ人教師が持ってきたとされています。その後、長野県の諏訪湖などにスケート場ができました。最近は冷凍機械の出現で、通年リンクが各地にできたので、スケートは冬に限ったスポーツではなくなりました。それにしてもやはり、屋外リンクでのスケートは、冬の風物詩です。




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消費者物価指数の動向


―東京都区部(十一月中旬速報値)・全国(十月)―


総 務 省


◇十一月の東京都区部消費者物価指数の動向

一 概 況

(1)総合指数は平成十二年を一〇〇として九七・一となり、前月比は〇・五%の下落。前年同月比は〇・八%の下落となった。
 なお、総合指数は、平成十一年九月以降四年三か月連続で前年同月の水準を下回っている。
(2)生鮮食品を除く総合指数は九七・六となり、前月比は〇・二%の下落。前年同月比は〇・二%の下落となった。
 なお、生鮮食品を除く総合指数は、平成十一年十月以降四年二か月連続で前年同月の水準を下回っている。

二 前月からの動き

 総合指数の前月比が〇・五%の下落となった内訳を寄与度でみると、食料、教養娯楽などの下落が要因となっている。
[主な内訳]
食料
 生鮮野菜(一四・五%下落)…ほうれんそう、はくさいなど
教養娯楽
 教養娯楽サービス(一・七%下落)…外国パック旅行など

三 前年同月との比較

 総合指数の前年同月比が〇・八%の下落となった内訳を寄与度でみると、食料、教養娯楽、被服及び履物などの下落が要因となっている。
 なお、保健医療などは上昇した。
[主な内訳]
食料
 生鮮野菜(二六・〇%下落)…ほうれんそうなど
教養娯楽
 教養娯楽用耐久財(一四・五%下落)…パソコン(デスクトップ型)など
被服及び履物
 衣料(二・五%下落)…婦人コートなど
保健医療
 保健医療サービス(七・八%上昇)…診療代など

◇十月の全国消費者物価指数の動向

一 概 況

(1)総合指数は平成十二年を一〇〇として九八・三となり、前月と同水準。前年同月とも同水準となった。
 なお、総合指数は、平成十一年九月以降四年一か月連続で前年同月の水準を下回っていた。
(2)生鮮食品を除く総合指数は九八・三となり、前月比は〇・一%の上昇。前年同月比は〇・一%の上昇となった。
 なお、生鮮食品を除く総合指数は、平成十年四月以来五年六か月ぶりに前年同月の水準を上回った。

二 前月からの動き

 総合指数が前月と同水準となった内訳を寄与度でみると、被服及び履物は上昇し、教養娯楽などは下落した。
[主な内訳]
被服及び履物
 衣料(一・一%上昇)…男児ズボンなど
教養娯楽
 教養娯楽サービス(一・三%下落)…外国パック旅行など

三 前年同月との比較

 総合指数が前年同月と同水準となった内訳を寄与度でみると、保健医療などは上昇し、家具・家事用品などは下落した。
[主な内訳]
保健医療
 保健医療サービス(七・八%上昇)…診療代など
家具・家事用品
 家庭用耐久財(八・〇%下落)…電気冷蔵庫など























    <2月18日号の主な予定>

 ▽犯罪白書のあらまし………法 務 省 




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