官報資料版 平成16年3月24日




                  ▽原子力白書のあらまし………………………………原子力委員会

                  ▽消費者物価指数の動向(十二月)…………………総 務 省

                  ▽平成十五年上半期雇用動向調査結果の概況………厚生労働省











平成15年版


原子力白書のあらまし


原子力委員会


 原子力委員会は、前回の平成十年版原子力白書(平成十年六月十九日)発刊以降、平成十五年九月末までの原子力全般に関する動向について、「原子力白書」として最近の状況に重点を置きつつ取りまとめ、平成十五年十二月十九日の閣議を経て、公表しました。
 本白書は、「本編」と「資料編」から構成されています。
 本編として第1章においては、「原子力発電」「核燃料サイクル」「信頼回復」「研究開発」「国際動向」及び「政策評価」のテーマに分けて、原子力の現状をまとめつつ、新たな時代の原子力政策に対する原子力委員会の考え方を示しています。
 第2章においては、平成十二年十一月に策定した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」を踏まえ、「我が国の原子力行政」「国民・社会と原子力の調和」「原子力発電と核燃料サイクル」「原子力科学技術の多様な展開」「国民生活に貢献する放射線利用」「国際社会と原子力の調和」「原子力の研究、開発及び利用の推進基盤」について、それぞれ最近の動向を中心に具体的に説明しています。
 資料編では、原子力委員会の決定等、原子力関係予算、年表等を取りまとめています。
 以下では、本編第1章の概要について記述しています。
 なお、本白書の概要は、原子力委員会のホームページ(http://aec.jst.go.jp)において公開されています。

第T部 本編

第1章 新たな時代の原子力政策

 第二次世界大戦後、世界の原子力の民生利用が開始されて五十年が過ぎようとしています。その間、我が国の原子力利用は着実に拡大してきており、現在では原子力発電は基幹電源として位置づけられています。
 しかしながら、東電問題などを契機に、原子力に対する信頼感が大きく損なわれ、特に、これから導入が進められる核燃料サイクルについては、その必要性について疑問が呈されるようになってきました。
 また、原子力行政に対する不信から、政策の透明性が求められていること、地元住民をはじめとする国民の意見をこれまで以上に適切に反映していくことが求められていることなどから、原子力政策についてはこれまでとは異なるアプローチも必要となってきており、具体的な取組が進められつつあります。
 このような状況を踏まえ、原子力の現状をまとめつつ、新たな時代の原子力政策に対する考え方を示すこととします。

1 原子力発電

(1) 我が国のエネルギーと原子力発電

○我が国と世界のエネルギー情勢
 ライフスタイルの変化を背景に、エネルギー需要は、民生・運輸部門を中心に増加してきています。二〇〇一年度のエネルギー需要は、全体で四億八百万キロリットル(原油換算。以下同じ)であり、第一次石油危機の起きた一九七三年度と比較すると約四二%増となっています(第1図参照)。このうち、産業部門は一億九千万キロリットルで一%増にとどまっているのに対して、民生部門では、家庭用が五千三百万キロリットルで一〇八%増、オフィス、商店などの業務用が六千四百万キロリットルで一四一%増、運輸部門が一億百万キロリットルで一一六%増と大きく増加しています。
 なお、一九九七年度と二〇〇一年度を比較すると全体で約一・九%増、産業部門が一・三%減、民生部門では家庭用が三・九%増、オフィス、商店などの業務用が一四・八%増、運輸部門が〇・二%減となっています。
 世界全体のエネルギー需要の伸びをみると、経済成長の著しいアジア諸国を中心に需要が急激に伸びてきています。二〇〇〇年と二〇三〇年の一次エネルギー需要をみるとOECD諸国は三四%増であるのに対し、途上国等は一一〇%増と極めて高い伸びが予測され、世界全体では六六%増になると予想されています。
 このように今後、エネルギー需給は逼迫することが予想され、エネルギー自給率が水力、地熱などによりわずか四%で、供給安定性の高い原子力を加えても二〇%に過ぎず、国内にエネルギー資源が乏しくそのほとんどを海外に依存せざるを得ない我が国を巡るエネルギー環境も、今後厳しくなると考えられます(第2図参照)。

○我が国のエネルギー政策
 我が国のエネルギー政策の基本目標は、これまで安定供給を主眼としてきましたが、今日では環境保全・効率化に対応しつつ安定供給を図るという課題を同時に達成しなければならなくなっています。
 二〇〇二年六月に施行されたエネルギー政策基本法は、エネルギー需給に関する施策の基本となる「安定供給の確保」「環境への適合性」及びこれらを十分に考慮した上での「市場原理」の三項目を基本方針として定めています。

○原子力発電の役割
 現在、原子力発電は、二〇〇二年度における国内の総発電電力量(九千四百四十七億キロワットアワー)の三一・二%に当たる二千九百四十九億キロワットアワーの電力を発電する基幹電源となり、一次エネルギーの一二・六%(二〇〇一年度)を担っています。なお、一九九七年度では、国内の総発電電力量(八千九百五十億キロワットアワー)の三五・六%に当たる三千百九十一億キロワットアワーの電力を発電しており、一次エネルギーの一二・九%を担っていました。
 原子力は、@カナダ、オーストラリアなど資源供給国の政情が安定していること、A燃料のエネルギー密度が高く備蓄が容易で、発電過程及び燃料加工過程において事実上の備蓄効果が期待できることといった理由から不意の燃料供給の削減や中断が生じにくく、その影響が軽減しやすいといった長所があります。また、原子力の利用によって、石油などの他のエネルギー資源への依存度が減ることになり、我が国では原子力発電により原油輸入量の三割を節約していると評価されています。このような原子力のエネルギー安全保障上の長所により、脆弱なエネルギー供給構造を有する我が国において、原子力の役割は大きいものと考えます。
 東京電力(株)の原子力発電所の検査・点検における不正等の問題により、二〇〇三年四月に同社のすべての原子炉を安全点検などのために停止しました。同社の原子力発電所は、関東圏に四割以上の電力を供給しており、原子力発電所の停止状態が続いた場合には、早い時期に発電の見通しがたった柏崎刈羽原子力発電所六号機の発電、長期停止火力発電所の再開及び他電力会社からの融通を考慮したとしても、十分な供給力を確保できないことが懸念されたため、官民あげて、節電キャンペーンなどを行うこととしました。
 結果として、十年ぶりという記録的な冷夏であったことや、原子力発電所の立地自治体の理解により六基、約六百八十万キロワット(柏崎刈羽原子力発電所六号機を含む)の発電を確保できたことにより、停電などの深刻な事態に至ることなく夏期を乗り切ることができました。

○電気事業の自由化と原子力発電
 電気事業の自由化については、供給システム改革による安定供給の確保と環境への適合及びこれらの下での需要家選択肢の拡大を図ることを目的とする改正電気事業法が二〇〇三年六月に成立しました。
 なお、今次制度改革においては、バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等を分析・評価する場を立ち上げ、その結果を踏まえ、二〇〇四年末までに原子力バックエンド事業についての経済的措置等具体的な制度、措置の在り方について検討を行い、必要な措置を講ずることとされており、二〇〇三年九月から総合資源エネルギー調査会電気事業分科会において検討が開始されました。

(2) 地球温暖化対策と原子力発電

 二〇〇二年六月に我が国は、温室効果ガスの削減約束を定めた京都議定書を締結しました。政府は、この削減約束を達成するための具体的対策を地球温暖化対策推進大綱として取りまとめましたが、その中で、原子力発電を地球温暖化対策の観点からも重要な電源であると位置づけています。
 同大綱では、今後地球温暖化対策との調和と安定供給確保を実現するためには、原子力、新エネルギー等の非化石エネルギーの一層の導入促進が必要であるとしています。また、引き続きエネルギー供給の大宗を占める化石エネルギー間における燃料転換を促進し、効率化への要請も満たしつつ、環境調和型のエネルギー供給構造の実現を目指すこととしています。
 ここで、太陽光発電や風力発電など、二酸化炭素をほとんど排出しない再生可能エネルギーの開発に努力することも重要ですが、これらは大量の電力の生産のためには広大な面積が必要であり、発電量が天候や日照に大きく左右されるため、エネルギーの安定供給の面では課題があります。そのため、二酸化炭素の排出量をできる限り抑制しつつ、国民生活に必要な量の電力を安定的に供給するという観点から基幹電源を選択する場合には、原子力は有力かつ重要な選択肢であるといえます。
 百三十五万キロワット級の原子力発電所一基で石炭火力を代替した場合の二酸化炭素排出削減効果は、一九九〇年度のエネルギー起源の二酸化炭素排出量の約〇・七%に相当しており、基幹電源としての原子力は地球温暖化対策においても大きな役割を果たしています。
 なお、東京電力(株)における原子力発電所の検査・点検における不正等の問題により同社の原子力発電所を停止・点検することとなりました。これにより、二〇〇二年九月から二〇〇三年八月末までの一年間で同社が代替電力として使用した火力発電所から発生した二酸化炭素は約四千二百万トン−CO(我が国の基準年における温室効果ガス年間排出量の約三・四%)になると試算されています。この状態が続くと仮定すると地球温暖化対策上の影響も懸念されます(第3図参照)。

2 国民の信頼回復を目指して

(1) JCO事故と原子力防災体制の確立

 一九九九年九月、茨城県東海村の株式会社ジェー・シー・オーにおいて臨界事故(以下「JCO事故」という)が発生しました。この事故では、臨界状態が約二十時間以上にわたり継続し、施設周辺住民の避難や、施設から半径十キロメートル圏内の住民の屋内退避を行うに至りました。臨界状態に伴い、周辺に放射線が放出され続けるとともに、核分裂により生成した微量の放射性のガス物質も大気中に放出され、従業員、防災業務関係者、周辺住民などが放射線を浴び、そのうち大量に被ばくした作業者二名が亡くなる結果となりました。
 この事故への対応において、初動段階で事故状況の把握が遅れたこと等の問題が明らかとなったため、原子力災害対策特別措置法の制定及び核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規制法」という)の改正を行い、原子力防災体制及び安全規制体制の抜本的な強化を行うこととしました。
 原子力災害対策特別措置法の施行後、防災対応の実効性を向上させるための取組が行われています。国は、原子力施設が立地している地域ごとにオフサイトセンターを整備し、地方自治体が行う防災資機材の整備や防災訓練等の財政的支援を行っています。また、原子力災害対策に関する防災基本計画の修正等を行いました。
 地方自治体は、地域防災計画の見直しを行うとともに、国の支援を受けて資機材の整備や防災訓練を実施しています。
 また、原子力災害対策特別措置法に基づく防災訓練として、内閣総理大臣他の閣僚、関係省庁、地方自治体、事業者及び地元住民が参加する原子力総合防災訓練が毎年実施されています。

(2) 原子力発電所の検査・点検における不正等の問題について

 二〇〇二年八月、東京電力(株)の三つの原子力発電所において、一九八〇年代後半から九〇年代にかけて実施された自主点検作業時に点検結果や修理作業等に関して記録の不正記載等が行われた疑いがあることが明らかとなりました。さらに、東京電力(株)福島第一原子力発電所一号機において原子炉格納容器の漏えい率検査に際し不正が行われたことも明らかになりました。
 これらの不正の再発防止及び国際的水準の安全規制を実現するとの観点から、事業者の責任の明確化と国によるチェックの強化、原子力安全委員会によるダブルチェックの強化等の措置が盛り込まれた原子炉等規制法及び電気事業法の改正が行われるとともに、独立行政法人原子力安全基盤機構法が成立しました。これらの新たな規制は、二〇〇三年十月より全面的に実施されることになりました。
 原子力委員会市民参加懇談会は、今回の東京電力(株)の不正記載等の問題に関連して、二〇〇二年十一月に「知りたい情報は届いているのか」〜東京電力の不正記載を契機として〜をテーマに東京で開催し、また、二〇〇三年十月には、さいたま市で「この夏の電力危機とは何だったのか」〜電力の消費地から安定供給を考える〜をテーマに開催しました。

(3) 原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画

○原子力政策円卓会議
 一九九五年十二月の動力炉・核燃料開発事業団(現:核燃料サイクル開発機構)高速増殖原型炉「もんじゅ」(以下「もんじゅ」という)のナトリウム漏えい事故(以下「「もんじゅ」事故」という)を契機に、国民の間に不安や不信が高まり、「もんじゅ」の安全確保などに関し、多くの意見、要請、提言がなされました。
 その中で、原子力委員会は福島、新潟、福井の三県知事による提言を受けて、国民各界各層からの多様な意見を聴取し、今後の原子力政策に反映させるため、一九九六年三月に原子力政策円卓会議を設置しました。同会議は、同年六月及び十月に原子力委員会に対する提言を行いました。これらの提言を受けて、原子力委員会は、原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進、新円卓会議の開催等を決定しました。
 新円卓会議は一九九八年度については五回、一九九九年度については七回開催され、延べ八十三人の招へい者を交えて議論を行いました。新円卓会議は原子力に関わる様々な問題、情勢、論点について国民の中のいろいろな立場の人々が公開で率直に意見交換し、その声を政策に反映していくことをねらいとしました。二〇〇〇年二月、新円卓会議の議論を踏まえ原子力政策円卓会議モデレーターより提言がなされました。原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(以下「原子力長期計画」という)の策定に当たっては、この提言を受け止めた上で審議を行いました。
 円卓会議及び新円卓会議を通して、原子力に反対、推進、あるいは中立の立場から様々な人々を招き議論を重ねてきましたが、反対、推進の立場を超えて一致した意見、考え方が出されるなど、従来に比べ対話が進み、議論を深めることができたものと考えます。

○原子力長期計画
 我が国の原子力政策は、原子力委員会の定める原子力長期計画を基本的枠組みとし、この基本的枠組みに基づき各府省が具体的な政策の企画立案や実施を行っています。原子力委員会は一九九九年五月、一九九四年に策定された原子力長期計画以降の諸情勢の変化を踏まえ、二十一世紀を見通して我が国が採るべき原子力研究開発利用の基本方針及び推進方策を国民、国際社会及び原子力関係者に明らかにするため、新たな原子力長期計画の策定を決定し、その策定に資するための調査審議を、長期計画策定会議(以下「策定会議」という)に付託しました。
 「もんじゅ」事故をはじめとする一連の原子力を巡る事故・不祥事により国民の原子力に対する不安や不信の中での審議であることを踏まえ、策定会議は、国民各界各層が参加する広範な議論及び政策決定プロセスの透明化を図ることとしました。前者については、策定会議のメンバーを、原子力関係者のみならず、経済界、法曹界、立地地域、マスメディア等の各界の有識者三十五人により構成するとともに、取りまとめに際しては、国民からの意見募集に対して寄せられた七百七十三名からの千百九十件の意見や、全国三か所で全面公開の下に開催した「ご意見をきく会」で計三十一名の方から直接伺った意見について、原子力長期計画への反映に努めました。
 また、後者については、十六回に及ぶ策定会議及び個別の重要課題ごとに設けられた六つの分科会(構成員百十五人、計五十七回開催)の審議はすべて公開するとともに、審議に供された資料及びその議事の詳細はインターネット等を通じて公開されています。このような審議を経て、原子力委員会は二〇〇〇年十一月に原子力長期計画を取りまとめました。

(4) 国民との相互理解に向けた取組

 原子力長期計画では、原子力政策は、国民・社会との関係をこれまで以上に重視し、国民の信頼、立地地域との共生などを大前提として進めていかなければならないと指摘しています。ここで、原子力政策を取り巻く状況は一層厳しさを増しており、あらためて国民・社会との信頼関係を再構築するための努力が強く求められています。
 そのため、原子力委員会は原子力政策の策定プロセスにおける市民参加の拡大を図り、原子力政策に対する国民との信頼関係を確立するための方策を検討し実施することを目的として、「市民参加懇談会」を設置しました。また、学識経験者、ジャーナリスト、オピニオンリーダー等、多様な立場の方々をメンバーとした「市民参加懇談会コアメンバー会議」により、地域での懇談会の開催をはじめ、原子力政策策定への市民参加の拡大を目指した様々な方策について企画・検討を行っています。
 これまで、新潟県刈羽村、東京都、青森市、敦賀市及びさいたま市において「市民参加懇談会」を開催しました。今後も、年数回の頻度で開催することを予定しています(第1表参照)。
 このほか、行政庁においても、シンポジウムの開催や教育への支援体制の整備を進めるなど、原子力政策についての相互理解へ向けた様々な取組が実施されています。

(5) 信頼回復のために

 原子力については、「もんじゅ」事故をはじめとして社会的に大きな影響を与える事件、事故が立て続けに発生しました。これにより原子力に対する信頼は大きく失墜することとなり、二十一世紀の原子力政策を考えるに当たって国民の信頼回復が大きな課題となっています。
 原子力に対する信頼を回復するには、原子力の安全規制を確実に行うことにより、安全への信頼を回復することに加えて、今後は、原子力を推進する国、事業者と立地地域の住民を始めとする国民が、相互理解を深めていくことが重要になってきています。前者については、JCO事故及び原子力発電所の検査・点検における不正等を契機として原子力安全関連法律の制定及び改正を始めとする多くの制度改善が図られたところであり、国民の要求に応えうる厳格な安全規制の実施が期待されます。後者については、国民との相互理解を行うためには、国は市民の目線で国民の話をよく聴く「広聴」を行い、次に相互の共通認識を模索すべく対話を行うことにより進んでいくと考えています。
 「広聴」については、市民参加懇談会を中心に活動が進められており、今後、国や事業者は広聴活動を更に拡大していくべきです。原子力委員会は、このような広聴活動の結果をもとに、国民各界各層の意見を原子力政策に反映していく具体的方策を検討していくこととしたいと考えています。

3 核燃料サイクル

(1) 核燃料サイクル事業の最近の動向

 国内における核燃料サイクルの確立に向けて、地元の理解を得て準備を着実に進めていくことが重要であり、国や事業者による取組が行われています。

○再処理工場
 日本原燃(株)六ヶ所再処理工場(以下「六ヶ所再処理工場」という)の使用済燃料受入れ・貯蔵施設については、二〇〇二年二月に加圧水型原子炉(PWR)燃料用貯蔵プールでのプール水の漏えいが確認され、同年十一月に不適切な溶接施工が原因であったとの原因究明結果などを公表しました。この対策等のため、二〇〇三年九月に日本原燃(株)は六ヶ所再処理工場の竣工時期を二〇〇六年七月に変更しました。
 本件に対して、原子力委員会としては、再処理施設の安全に万全を期すことが前提との認識の下、今回の変更が必要であると考えています。また、日本原燃(株)は地元の理解を得ながら安全を最優先に操業に向けた準備を着実に進めるとともに、原子力委員会は国民との広聴活動を通して理解を深める努力を続けるべきであると考えています。

○プルサーマル計画
 我が国では原子力発電の初期の段階より、軽水炉でウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を利用するプルサーマルの実施に向けて研究開発等の取組を進めてきました。電気事業者は、一九九七年のプルサーマル計画の公表以降その実施に向けた準備を進め、東京電力(株)福島第一原子力発電所及び柏崎刈羽原子力発電所並びに関西電力(株)高浜発電所のプルサーマル計画について安全協定に基づく事前了解を得ました。
 また、原子炉等規制法に基づき、MOX燃料の利用について高浜発電所三、四号機については一九九八年十二月、福島第一原子力発電所三号機について一九九九年七月、柏崎刈羽原子力発電所三号機については二〇〇〇年三月に、通商産業大臣(当時)による許可がなされています。
 しかしながら、一九九九年九月に高浜発電所で使用される予定のBNFL社製MOX燃料のデータ改ざん問題が発生し、プルサーマル計画に対する立地地域をはじめとした国民の信頼が失われ、その結果、高浜発電所三、四号機におけるプルサーマルの実施が延期され、東京電力(株)の両原子力発電所においてもMOX燃料の輸入検査制度の改善のための取組状況を踏まえ、プルサーマルの実施が延期されました。さらに、東京電力(株)による自主点検記録に関する不正問題の公表を受けて、新潟県においては、二〇〇三年九月、知事、柏崎市長及び刈羽村長による三者会談によりプルサーマル計画事前了解の取消しが合意されました。福島県は、知事が同年九月に県議会にてプルサーマル計画の白紙撤回を表明しました。
 プルサーマルの推進に対して国は、核燃料サイクルのエネルギー政策上の必要性について分かりやすい説明資料の作成・配布を行うとともに、エネルギー教育の充実、発電所立地地域と電力消費地の相互理解のための各種シンポジウムの開催、立地地域の担当官事務所の設置など国が前面に立った活動を積極的に展開しました。
 原子力委員会はプルサーマルを含めた軽水炉サイクルを核燃料サイクル確立の第一歩であると考えており、その実現に向け、地域のご理解の下、着実に取り組んでいきます。

(2) 放射性廃棄物の処分

 再処理の過程において使用済燃料から分離される核分裂生成物等をガラス固化した高レベル放射性廃棄物の処分は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律等に基づいて進められています。同法では、処分実施主体の設立、処分費用の確保方策、処分地の選定プロセス等の処分事業の枠組みが定められています。
 処分の実施主体である原子力発電環境整備機構は、二〇〇〇年十月に国による設立認可がなされ、二〇〇二年十二月に処分地選定の最初の段階の調査を行うために全国の市町村を対象に公募を開始しました。
 TRU廃棄物、ウラン廃棄物及びRI・研究所等廃棄物については、二〇〇〇年までに原子力委員会において処理処分の基本的考え方を取りまとめており、現在、これらの放射性廃棄物処分の安全規制の基本的考え方についての検討が進められています。

(3) 核燃料サイクルのあり方に関する検討

 東京電力(株)の原子力発電所の検査・点検における不正や二〇〇三年一月の「もんじゅ」設置許可無効訴訟に関する名古屋高裁金沢支部による国側敗訴の判決などを契機に、核燃料サイクルに対する疑問が様々な立場から提示されています。
 このような情勢を受けて、原子力委員会は、二〇〇二年十一月から二〇〇三年六月にかけて「核燃料サイクルのあり方を考える検討会」を開催しました。本検討会で提起された意見を踏まえて、二〇〇三年八月にこれまでの核燃料サイクルに対する意義や課題に対する委員会の考えを「核燃料サイクルについて」として取りまとめ、広く国民に示しました。
 委員会は、我が国の将来のエネルギー政策にとって、核燃料サイクルがなぜ重要なのか、そしてなぜ核燃料サイクルなのかについて引き続き様々な機会をとらえて、立地地域をはじめとする多くの国民と議論していくこととしています。

(4) 核燃料サイクルの意義と課題

○核燃料サイクルの意義
 核燃料サイクルを導入するという政策を選択する意義は、原子炉の中で生成される純国産のエネルギー資源であるプルトニウムと、核分裂反応を起こさずに未利用のまま残っているウランを利用することにより、資源を有効に利用すること及び我が国の脆弱なエネルギー供給構造を改善することにあります。また、エネルギーの海外依存度を常に低くしようとする我が国の姿勢を対外的に示すことにもなり、海外のエネルギー資源を確保していく上でバーゲニング・パワーとして有利に働くと考えられます。
 さらに、高速増殖炉を使用する核燃料サイクル(高速増殖炉サイクル)の場合は、使用済燃料を廃棄物として処分する直接処分の場合に比べて百倍以上と飛躍的に利用効率を高めることが可能です。このため、資源の有効利用の観点からは、エネルギーの技術的選択肢の一つとして高速増殖炉サイクルの確立が究極的な目標になると考えられます。

○核燃料サイクルの経済性
 資源エネルギー庁は、プルサーマルによる核燃料サイクルを実施した場合の原子力発電の発電コストについて、一定の条件の下では、火力発電や水力発電といった他の電源に比べて低くなると試算しています。一方、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の試算では、使用済燃料を直接処分した場合のコストは、核燃料サイクルの場合に比べて総発電費用が二〜三%程度低減すると試算されています(第2表第3表参照)。
 しかしながら、長期的な観点から政策を議論する際には、発電コストという経済性の観点だけでなく、エネルギー安全保障、エネルギー資源の有効利用、環境適合性及び安全確保など、経済的に見積もり難い要素などを考慮して総合的な観点から国情に応じた政策を選択することが重要です。
 電力自由化が進む中で、原子力発電及び核燃料サイクルを円滑に進めていくためには、国としてどのような措置を行う必要があるのか、今後しっかりと分析、評価し、検討を進めるべきであると考えます。そのためには、将来想定される費用などに関して十分に情報開示を行いつつ、関係者が共通の事実認識に立って議論していくことが必要です。
 現在、総合資源エネルギー調査会において、バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等の分析・評価についての検討を行っているところですが、こうした問題に対する議論が原子力政策の基本に影響を与える場合には、委員会は基本政策について積極的に議論を行っていきます。

○核燃料サイクルの将来展望
 核燃料サイクルの将来展望に当たっては、我が国の原子力利用を三段階の発展段階に分けて、各段階の達成の見通しを考えていくことが適切です。
 第一段階は、軽水炉による原子力発電の実用化です。現在では世界最新鋭のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)を含め、五十二基の軽水炉が運転されています。このため、第一段階は既に達成されたものと考えられます。
 第二段階は、民間事業としての商業用再処理とプルサーマルの実施による軽水炉サイクルの確立であり、現在は第二段階の入口にあると考えられます。これに関して、使用済燃料を数十年程度貯蔵しておき、その時点での将来の社会情勢や技術動向をみて、核燃料サイクルを導入するか、直接処分を行うかといった選択をすればよいのではないかという考えが示されています。しかしながら、仮に将来において選択をする場合には、政策決定の後、実施時点までに相当の準備期間及びコストが必要となることを考慮すると、将来の世代に負担を負わせないためには、現時点から準備を始めることが必要であり、政策の選択の先送りはすべきではないと考えます。
 第三段階は、高速増殖炉の導入による高速増殖炉サイクルの確立です。我が国としては早急に高速増殖炉サイクル実用化の目途をつけ、第二段階の軽水炉サイクルにより得られると考えられる経験を組み合わせて、第三段階の高速増殖炉サイクルに移行していくことが、エネルギー安全保障などの観点からより有効であると考えています。

○プルトニウム利用
 核燃料サイクルを実施するに当たり、有数の原子力発電国であって非核兵器国である我が国は、プルトニウム利用政策について、その必要性、安全性等についての情報を明確に発信するとともに、我が国のプルトニウムの利用については、利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を踏まえて、透明性を一層向上させる具体的な施策を検討し、実施していくこととしています。
 特に、六ヶ所再処理工場については、稼働に伴い相当量のプルトニウムが分離、回収されることとなるため、プルトニウム利用を進めるに当たり、平和利用に係る透明性向上を図る観点から、原子力委員会は、事業者が再処理に先立ってプルトニウム利用計画を公表することによりプルトニウムの利用目的を明確に示すとの方針を定めました。

(5) 高速増殖原型炉「もんじゅ」に関する取組

 高速増殖炉サイクル技術は、将来のエネルギー問題の解決を目指す技術的選択肢の中でも潜在的可能性がもっとも大きいものの一つです。特に「もんじゅ」については、発電プラントとしての信頼性の実証とその運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立という所期の目的を達成することは他の技術的選択肢との比較評価のベースともなることから、まず優先して取り組むことが今後の技術開発において特に重要であるとしています。
 二〇〇三年一月に名古屋高等裁判所金沢支部は、「もんじゅ」の原子炉設置許可処分を無効とする判決を言い渡しました。経済産業大臣は、この判決を不服として、同年同月に最高裁に上訴を行いました。
 文部科学省では「もんじゅ」推進に向けた取組として、国民への説明責任を果たすことを目的に、講師派遣等の草の根的取組や説明会、シンポジウム等の開催を行っています。
 原子力委員会としては、「もんじゅ」については、安全確保を十分に行った上で、国民の理解を得つつ、発電プラントとしての技術的実証を行うとのプロジェクトの達成目標を明確に認識して、真摯に取り組んでいくべきであると考え、委員会としてもこれらの活動に協力しているところです。

(6) 核燃料サイクルの確立を目指して

 核燃料サイクルは、長期的視野に立ってエネルギーの安定供給を確保するために大きな役割を果たし得るものであること、また、核燃料サイクルの確立には長い年月を要することから、事業の発展のスピードについては柔軟性を持ちつつも、核燃料サイクルの実現に向けて、安全確保、核不拡散を大前提に情報公開や国民との相互理解に努めつつ着実に取り組むべきであると考えます。
 その中で、高レベル放射性廃棄物の処分について、事業主体である原子力発電環境整備機構が設立され、処分地選定の最初の段階の調査を行うために公募が開始されたことは、原子力発電の大きな懸案であった問題に具体的な解決の道筋を与えるものです。
 また、「もんじゅ」を始めとする高速増殖炉サイクルについては、ウランの利用効率が飛躍的に向上するという画期的な効果を有する技術であり、実用化に向けた研究開発を引き続き行っていくことが必要です。

4 革新的な原子力技術の確立を目指した研究開発

(1) ITER計画

 ITER(国際熱核融合実験炉)計画とは、平和利用のための核融合エネルギーの科学的及び技術的な実現可能性を実証することを目指す国際共同プロジェクトです。
 一九九六年十二月に原子力委員会はITER計画懇談会を設置し、我が国における今後のITER計画の進め方について検討を行い、二〇〇一年五月に報告書を取りまとめました。これを踏まえ、同年六月に原子力委員会はITERの我が国への誘致を念頭において、サイト選定調査及び他極との協議を行うことが必要と考え、検討結果や検討状況も勘案して必要な判断を行うこととするとの決定を行いました。
 総合科学技術会議においては、二〇〇一年六月より我が国のITER計画への参加、誘致の意義、経費負担等について、原子力委員会での検討結果を踏まえつつ、科学技術政策上の観点から検討を行いました。その結果二〇〇二年五月に、ITER計画について政府全体で推進するとともに、国内誘致を視野に、政府において最適なサイト候補地を選定し政府間協議に臨むこと、参加極間の経費分担については経済規模を反映したものとすべきとの結論をまとめました。さらに同月、青森県上北郡六ヶ所村を国内候補地として提示して政府間協議に臨むことを閣議了解しました。
 今後は、年内を目途にサイト決定に向けた参加極間の協議を終え、さらにITER共同実施協定案等に関する技術的な検討を進め、早ければ二〇〇四年度にもITER建設のための国際機関の設立を目指しています。

(2) 革新的原子力システムの研究開発

 将来のエネルギー需要や社会的ニーズを満たすため、世界各国で革新的な原子炉及び核燃料サイクル技術(革新的原子力システム)の研究開発が進められています。その研究開発に当たっては、他分野の大型研究開発と同様、一国のみで開発を進めるよりは、人的・資源的に国際分担を行い、成果を共有するという考え方が広まっています。
 現在、国際的な革新的原子力システム開発としては、第四世代原子力システムに関する国際フォーラム(Generation W International Forum: GIF)と革新的原子炉及び燃料サイクルに関する国際プロジェクト(International Project on Innovative Nuclear Reactors and Fuel Cycles: INPRO)の二つがあります。
 我が国においては、民間、大学、国の研究機関において、様々な革新的原子力システムの研究開発が進められており、文部科学省及び経済産業省においても、産学官連携による革新的原子力システムの研究開発を推進するため、公募型研究制度を実施しています。
 原子力委員会は、このような国内外の情勢や革新的原子力システムの必要性及びそれに対する社会の期待を踏まえ、革新的原子力システムの研究開発のあり方を検討するため、原子力委員会研究開発専門部会の下に革新炉検討会を開催し、今後開発する意義のある革新的原子力システムの概念をまとめるとともに、研究開発に当たっての重要なポイントをまとめた報告書を作成しました。

(3) 新たな原子力研究開発法人の設立

 日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構(以下「原子力二法人」という)は、原子力長期計画の下で、我が国の原子力研究開発における中核的な役割を担ってきた特殊法人ですが、二〇〇一年十二月、中央省庁等改革に続く行政改革の一環として「特殊法人等整理合理化計画」が閣議決定され、同計画において、両法人は「廃止した上で、統合し、新たに独立行政法人を設置する方向で、平成十六年度(二〇〇四年度)までに法案を提出する」ものとされました。
 本件について原子力委員会は、二〇〇二年四月に「日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構の廃止・統合と独立行政法人化に向けての基本的な考え方」を決定し、新法人が原子力研究開発において中核的な役割を担っていくことが必要であるとともに、先進性、一体性及び総合性を備えた研究開発機関として引き続きその役割を果たしていくことが重要であるとしました。
 一方、文部科学省は、二〇〇二年一月に原子力二法人統合準備会議を設置し、原子力委員会の提示した基本的な考え方等を踏まえ、原子力委員会、原子力安全委員会との意見交換をはじめ、大学、産業界、立地自治体など各界の有識者及び関係者からの意見を聴取するなどして、様々な角度から議論を重ねました。その結果、同年八月の「原子力二法人の統合に関する基本報告」を経て、二〇〇三年九月に「原子力二法人の統合に関する報告書」を取りまとめ、基本認識、設立の基本理念、使命、新法人の業務とその推進の方向、組織・運営の在り方等を示しました。
 国及び原子力二法人は、これまでの検討の結果を踏まえ、新法人の設立に向けての所要の準備を進めていく必要があり、原子力委員会は、引き続き積極的に原子力二法人統合に向けて取り組んでいます。

(4) 国際的枠組みによる研究開発

 原子力エネルギーの研究開発は、一般的に大型の装置が必要であることから多額の研究開発経費を必要とし、またプロジェクトは長期間にわたるものであり、ITER計画など研究開発における国際的な枠組みが構築されつつあります。我が国としては、国際的な活動と連携して研究開発を進めていくことが重要です。
 ここで、国際協力によって研究開発を行っていく場合には、投資に見合う成果を得るためにも、研究開発や実用化において主導権を発揮していくことが求められます。そのためには、国際共同で行われるプロジェクトを、当該分野において我が国が有する科学技術能力によって支援していくため、国内の研究開発活動が、国際共同プロジェクトと緊密に連携して進められていくことが重要です。
 また、新たに設立される原子力研究開発を行う独立行政法人は、我が国最大の研究開発機関になるものであり、これまでの研究開発投資を踏まえ、世界的にも原子力研究開発を主導する役割を果たすものとなるべきです。

5 原子力を巡る国際情勢

(1) 各国の動向

○米国
 二〇〇一年五月、ブッシュ大統領は国家エネルギー政策を発表しました。この政策は、カリフォルニアのエネルギー危機等を背景に、省エネルギー、エネルギー基盤の強化、エネルギー供給の拡大、環境保全の加速、エネルギー安全保障の強化という五つの目標の下、様々な政策を進めるものです。原子力については、エネルギー安全保障、温室効果ガス削減の観点から重要な役割が与えられており、原子力推進に対する政府の強い姿勢を示しています。
 また、放射性廃棄物政策修正法に基づく手続きを経て、高レベル放射性廃棄物の処分場をネバダ州ユッカマウンテンに建設することが、二〇〇二年七月に決定されました。

○欧州
 西欧については、原子力発電に積極的な国がある一方で、原子力発電の段階的廃止を決定している国もあり、各国の態度にはばらつきがみられます。欧州では電力市場の一本化が進んでおり、原子力に対する取組は国ごとではなく西欧全体として見ていくことが重要です。また、電力自由化により経済性が重視されてきています。
 二〇〇二年六月に欧州委員会は、「欧州のエネルギー供給安全保障戦略」に関する最終報告書を取りまとめました。この中で、供給の確保及び温室効果ガス排出削減の観点から、原子力をエネルギー源の選択肢の一つとして考慮すべきであるとしています。最近では、二〇〇二年一月にフィンランド政府が新たな原子力発電所の建設を決定し、五月には議会承認されるなど、最近は原子力の推進に向けた動きが見られます。
 ロシアでは原子力産業は外貨獲得の旗手としてとらえられており、海外ビジネスの展開に力を注いでいます。ウラン濃縮とウラン燃料の国外発電所への輸出や、中国、イラン、インドへの原子力発電所の建設協力を現在行っています。また、外国の使用済燃料の中間貯蔵や再処理サービス、ロシア原産の核燃料を使用後ロシアに返還する核燃料レンタルサービスを今後可能とする法案が議会を通過し、二〇〇一年七月にプーチン大統領が署名、成立しています。
 中・東欧等はルーマニアを除いては石油資源に乏しい上、石炭は豊富に産出するものの二酸化炭素排出等、環境問題への対応の観点から積極的な利用が進めにくくなってきており、原子力発電に積極的な姿勢をとっています。

○アジア・中東諸国
 韓国は、原子力産業の育成・振興の観点から韓国標準型炉の推進を打ち出しており、これに加えて百四十万キロワット級の次世代型PWRの開発にも取り組んでいます。こうした取組により国内向けばかりでなく、設備や技術の輸出、更に長期的にはプラント単位の輸出をも志向しています。一方、放射性廃棄物の管理については、処分場や中間貯蔵施設の候補地選定が今後の課題となっています。
 中国の第十次五ヵ年計画では、原子力発電について具体的な数値は盛り込まれず「原子力発電を適度に発展させる」とのみ記されています。しかし、今夏の熱波の影響もあり、電力供給がかなり逼迫した状況にあったことから、国務院は四基の原子力発電プラントの建設を仮承認しました。
 北朝鮮のKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)軽水炉プロジェクトは、北朝鮮の核兵器開発問題が再び国際社会の大きな懸念となったことなどから、現下の状況においては、軽水炉プロジェクトの継続は適当でないとの理事会の判断により、二〇〇三年十二月より同プロジェクトは一年間停止されることとなりました。
 イランについては、ウラン濃縮施設及び重水製造施設の建設が進められていることが明らかとなったことを受け、国際社会は、イランがIAEAと完全に協力するとともに、追加議定書を締結・完全履行することを要求しています。

(2) 国際的課題への取組

○核テロに対する取組
 二〇〇一年九月に米国において同時多発テロが発生し、これに関連して原子力施設のテロ対策が大きな関心事となりました。我が国の原子力施設においては、原子炉等規制法に基づき、事業者による核物質防護措置が講じられているところですが、今回のテロ事件を踏まえ、さらなる措置の徹底と治安当局による警備の強化を図っています。
 G8では、二〇〇二年のカナナスキス・サミット、二〇〇三年のエビアン・サミットにおいて核テロ対策の必要性が確認され、エビアン・サミットでは、放射線源の安全確保に関する首脳声明及び行動計画が発表されました。

○核不拡散
 原子力の平和利用を円滑に実施していくため、核不拡散体制の維持は、安全確保とともに極めて重要であり、核兵器不拡散条約(NPT)や、それに基づくIAEAとの保障措置協定、包括的核実験禁止条約(CTBT)等、種々の国際的枠組みが創設されてきました。
 イラクや北朝鮮の核疑惑を契機に、IAEA保障措置強化の検討が行われ、その結果としてIAEA追加議定書が提示されています。我が国は、追加議定書をいち早く締結するとともに、二〇〇〇年のIAEA総会においてより多くの国の追加議定書締結を促進するための行動計画を提案しました。二〇〇二年十二月には、IAEAと協力して「IAEA保障措置強化のための国際会議」を開催し、追加議定書の普遍化に努めています。
 なお、北朝鮮では、一九九四年の米朝間の合意された枠組み合意後も核兵器開発計画を有していると二〇〇二年十月に指摘されており、我が国を含めた各国から目に見える形での開発の停止等が求められています。原子力委員会は、この問題を深刻なものと受け止めており、北朝鮮が速やかにIAEAによる査察を受け入れ、早急に核兵器開発を停止することを強く求める旨の声明を出しました。
 米露の解体核プルトニウム処分問題については、一九九六年四月のモスクワ・サミットにおいて問題の重要性が指摘されて以来、G8を中心に検討が進められています。また、我が国においては、核燃料サイクル開発機構がロシアとの間で、ロシアの余剰プルトニウムからMOX燃料を製造し、これをロシアの高速炉BN―六〇〇により燃焼させるための研究協力を実施しています。我が国は、この技術が利用されることによって、ロシアの余剰プルトニウムが早期に処分されることを希望しています。
 冷戦構造の終結により退役した極東ロシアの原子力潜水艦の解体についても、我が国とロシアで協力事業を進めることとしており、まずヴィクターV級原子力潜水艦一隻の解体事業の実施取決めが締結され、関連する契約が成立しています。
 我が国は、原子力の利用を平和利用に限っている国としての立場から、これらの活動による核不拡散体制の強化を目指して、主体的に取り組んでいます。

○原子力損害賠償
 原子力の開発利用に当たっては安全確保を図ることが大前提ですが、万一の場合の原子力事故による被害者の救済等を目的として、一九六二年に原子力損害の賠償に関する法律に基づく原子力損害賠償制度を設けました。
 一方、原子力損害賠償に関する国際条約は、IAEAやOECD/NEAといった国際機関を中心に整備されてきました。原子力損害賠償に関する法制度を国際的に統一化しようとするものが、「原子力損害の民事責任に関するウィーン条約改正議定書」(改正ウィーン条約)、「原子力損害の補完的補償に関する条約」及び「原子力分野における第三者に対する責任に関する条約」(パリ条約)に代表される原子力損害賠償の国際条約であり、我が国としてもこれらの条約への加盟の可否について検討する必要があると考えます。

6 原子力政策の評価

(1) 原子力政策の評価

 原子力政策を国民の期待に応えるものとするためには、政策の実施段階でその効果を評価し、必要に応じて事業の改善、見直し及び中断を行っていくことが重要です。そのため、原子力委員会は、総合企画・評価部会において、原子力の基本政策である原子力長期計画の実施状況の把握及び原子力政策全般に関する事前・事後の評価を行うこととしています。
 また、原子力委員会における評価とともに、各府省においても行政機関が行う政策の評価に関する法律に基づき政策評価を実施しています。

(2) 原子力関係予算と研究開発の重点化

 原子力委員会は、原子力関係の施策の必要性や期待される成果・これまでの成果、原子力長期計画との対応等について関係行政機関から聴取した上で、原子力長期計画において示す原子力研究開発利用の基本理念や基本政策に則っているかどうか、それらの具体化に向けた取組がなされているかどうか、昨今の厳しい財政事情の下で重点化・合理化・効率化が図られているかどうかについて評価することとしています。原子力委員会は、この観点から、二〇〇四年度原子力関係経費の見積りを取りまとめています(第4図参照)。
 なお、二〇〇四年度概算要求について科学技術関係施策の優先順位(SABC)付け等を行い、原子力研究開発もそれに含まれています。

7 これからの原子力政策と原子力委員会

 ここ五年の原子力を巡る動きを振り返ると、JCO事故や原子力発電所の検査・点検等の不正問題といった一連の出来事が、原子力に対する国民の信頼感を大きく損ね、原子力政策の遂行に深刻な影響を与えることとなりました。
 また、現状においてプルサーマル計画の実施や「もんじゅ」の改造工事については、立地地域を始めとする国民の十分な理解を得た上で進める必要があり、計画どおりには進んでいません。
 原子力委員会としては、このような原子力を巡る厳しい情勢を重大なものと認識しつつも、エネルギー安全保障及び環境適合性への役割から考えて、原子力発電を我が国の基幹電源とするととともに、使用済燃料を再処理し回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用する核燃料サイクルを確立することは、我が国の原子力政策の基本として引き続き推進していくべきものと考えます。
 このような認識の下で、核燃料サイクルを円滑に推進するには、原子力に対する国民の不信の解消と、地域の考えと国の原子力政策との調和が重要であると考えます。
 国民の信頼回復を目指して、原子力関係者がJCO事故などを契機に、原子力の安全・安心の向上を目指した様々な制度改善を行っていますが、現在道半ばというところです。
 原子力政策に対する信頼を回復するためには、引き続き適切な政策の提示と説明責任を果たすことにより、国民の幅広い理解を得ていくことが重要です。その際、どのような課題を解決するために国はどのような政策を実施するのか、この課題に対する国民の考えはどうなのかといった点について、客観的なデータに基づいた双方向のコミュニケーションを通じて政策合意を図っていくことが重要です。これまでは、国が示す政策は難解であり、国民の疑問に明快に答えるものとはなっていなかったことから、一過性の情報発信となる傾向がありました。一方、原子力政策を批判する者も、国が解決すべき課題に対する問題意識を踏まえたものではないものもあり、双方の議論がかみ合わないといったこともありました。
 国民の疑問に答えることは、原子力委員会と国民との双方向のコミュニケーションの第一歩であり、引き続いて、原子力委員会と国民が直接意見交換を行っていくことが、双方向のコミュニケーション確立のための一つのあり方であると考えます。さらに、原子力委員会は、原子力を巡る課題に対する国民の考えを伺う「広聴」を実施することも、国民との相互理解のために重要であると認識しています。
 このようなアプローチは、核燃料サイクルだけではなく、原子力政策全般に関して有意義であると考えており、他の原子力分野においても同様の考え方で取り組むことにより、国民が納得する政策を提示していきたいと考えています。
 電力自由化の進展や、原子力二法人統合、核燃料サイクルの遅れ、米国などを中心とした原子力発電の拡大へ向けた動きなど、原子力を取り巻く情勢は、現行の原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画を策定した、二〇〇〇年十一月の時点とは変化してきています。そのため、新たな原子力長期計画の策定のための検討を今後行うこととしています。




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消費者物価指数の動向


―東京都区部(十二月中旬速報値)・全国(十一月)―


総 務 省


◇十二月の東京都区部消費者物価指数の動向

一 概 況

(1) 総合指数は平成十二年を一〇〇として九七・三となり、前月比は〇・一%の上昇。前年同月比は〇・五%の下落となった。
 なお、総合指数は、平成十一年九月以降四年四か月連続で前年同月の水準を下回っている。
(2) 生鮮食品を除く総合指数は九七・七となり、前月比は〇・一%の上昇。前年同月比は〇・一%の下落となった。
 なお、生鮮食品を除く総合指数は、平成十一年十月以降四年三か月連続で前年同月の水準を下回っている。

二 前月からの動き

 総合指数の前月比が〇・一%の上昇となった内訳を寄与度でみると、教養娯楽などの上昇が要因となっている。
[主な内訳]
●教養娯楽
 教養娯楽サービス(〇・九%上昇)…外国パック旅行など

三 前年同月との比較

 総合指数の前年同月比が〇・五%の下落となった内訳を寄与度でみると、食料、教養娯楽などの下落が要因となっている。
 なお、保健医療などは上昇した。
[主な内訳]
●食料
 生鮮野菜(一八・五%下落)…はくさいなど
●教養娯楽
 教養娯楽用耐久財(一四・二%下落)…パソコン(ノート型)など
●保健医療
 保健医療サービス(七・八%上昇)…診療代など

◇十一月の全国消費者物価指数の動向

一 概 況

(1) 総合指数は平成十二年を一〇〇として九七・八となり、前月比は〇・五%の下落。前年同月比は〇・五%の下落となった。
(2) 生鮮食品を除く総合指数は九八・一となり、前月比は〇・二%の下落。前年同月比は〇・一%の下落となった。

二 前月からの動き

 総合指数の前月比が〇・五%の下落となった内訳を寄与度でみると、食料、教養娯楽などの下落が要因となっている。
[主な内訳]
●食料
 生鮮野菜(一二・八%下落)…ほうれんそう、はくさいなど
●教養娯楽
 教養娯楽サービス(一・六%下落)…外国パック旅行など

三 前年同月との比較

 総合指数の前年同月比が〇・五%の下落となった内訳を寄与度でみると、食料、教養娯楽、家具・家事用品などの下落が要因となっている。
 なお、保健医療などは上昇した。
[主な内訳]
●食料
 生鮮野菜(一九・一%下落)…ほうれんそうなど
●教養娯楽
 教養娯楽用耐久財(一二・八%下落)…パソコン(デスクトップ型)など
●家具・家事用品
 家庭用耐久財(八・二%下落)…電気冷蔵庫など
●保健医療
 保健医療サービス(七・八%上昇)…診療代など




















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平成十五年上半期


雇用動向調査結果の概況


厚生労働省


T 調査の概要

 この調査は、主要産業の事業所における常用労働者の一年間の移動状況等を把握し、我が国の労働市場の動向を明らかにすることを目的として、毎年上半期(一月〜六月)及び下半期(七月〜十二月)に分けて実施しています。今回は平成十五年上半期調査結果の概況を取りまとめました。
 調査対象は、日本標準産業分類による次の九大産業[鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸・通信業、卸売・小売業,飲食店、金融・保険業、不動産業、サービス業(家事サービス業、教育、外国公務を除く)]に属する常用労働者五人以上を雇用する事業所から抽出した一万三千四百八十四事業所及び同事業所における平成十五年一月から六月までの入職者・離職者から抽出しました。
 有効回答(集計)事業所数は一万六百二十二事業所、有効回答率は七八・八%、集計入職者数は四万九千七百十九人、集計離職者数は五万九千七百八十七人となりました。

U 調査結果の概要

1 労働移動の状況

 平成十五年上半期の労働移動者は入職者が約三百六十六万人(前年同期約三百六十三万人)、離職者が約三百八十七万人(同約三百八十四万人)で、延べ労働移動者は約七百五十三万人(同約七百四十七万人)で、延べ労働移動率が一八・四%(同一八・一%)、入職率が八・九%(同八・八%)、離職率が九・四%(同九・三%)で、入職率・離職率ともに上昇しましたが、前年同期に続き二年連続で離職超過となりました(第1図第1表参照)。

2 入職者の状況

(1) 入職者を職歴別にみると、転職入職者が約百九十九万人、未就業入職者が約百六十七万人で、転職入職率が四・九%(前年同期四・八%)、未就業入職率が四・一%(同四・〇%)となりました(第1表参照)。
(2) 新規学卒入職者に占めるパートタイム労働者の割合は、「学歴計」で一六・二%、「高校卒」で三一・二%となりました(第2図参照)。

3 離職者の状況

 離職理由別構成比をみると、「個人的理由」が六八・四%(前年同期六三・八%)で最も高く、次いで「契約期間の満了」が一一・二%(同一〇・六%)、「経営上の都合」が一〇・一%(同一四・四%)で、前年同期とくらべると、「個人的理由」と「契約期間の満了」が上昇し、「経営上の都合」が低下しました(第3図参照)。

4 未充足求人の状況

 平成十五年六月末日現在の未充足求人数は約三十万人(前年約三十四万人)で、欠員率(在籍常用労働者に対する未充足求人の割合)は〇・七%(同〇・八%)となり、三年連続の低下となりました(第4図参照)。




暮らしのワンポイント


魚の上手な焼き方

焼く前に網を熱する

 魚を真っ黒焦げにしたり、網に焦げつかせたりしては、せっかくの魚料理も台無し。おいしく上手に焼き上げるには、いくつかのコツがあります。
 まず魚焼き網を、魚を焼く前に十分に熱しておくことが大切です。網をよく熱したら、サラダ油を塗ります。これをしないで魚を網にのせると、魚を裏返すときに、皮や身が網にくっつき、はがしづらくなります。
 魚を焼く場合は遠火の強火で、盛りつけるときに「表になる側」から焼きます。魚の表と裏ですが、お皿に盛りつける際、頭が左側に、腹部が手前になるのが魚の「表側」です。切り身の場合も、背中の側が向こうに、腹部を手前に盛りつけます。
 表を焼き、裏返して焼くと、後から焼いたほうに油がにじみ出ます。これを逆にしますと、表になる側に油がにじみ出て、見た目に汚らしくなります。また裏返すときは、表側を十分に色よく焼いてからでないと形が崩れます。裏返してからは、ゆっくり時間をかけて、なかまで火が通るように焼きます。
 「魚は一返し」と昔からいわれていますが、何度も焼き返していると身は崩れるし、表面の油が燃えて汚くなるので注意してください。
 尾頭つきの魚の尾ひれや背びれは、焼き焦がして落としてしまいがちです。焼く前に尾ひれや背びれに塩をたっぷりともみ込み、大根の切れ端やキャベツのしんなどをひれの下に入れ、火の当たりを弱くすると、焼き焦がす心配がありません。
 また、竹ぐしで魚の表面にいくつか穴を開けてから焼くと、空気が穴から抜けて皮がふくらまなくなります。



歳時記


ヒバリ

 雲雀……天鶲とも書きます。ヒバリは、春がくると空の上で、ピーチクパーチクとさえずる鳥としておなじみです。ヒバリの声はよく知られていますが、さて、その姿は……あまり印象に残っていないという方が、多いのではないでしょうか。
 ヒバリは、麦畑や草むらのなかに巣を作ります。体の色は、外敵から身を守るために、地面の色に似た灰色がかった褐色です。派手な鳴き声に似ず、姿は地味です。
 ヒバリの雄は、繁殖期になると、縄張りの上を舞いながらさえずります。巣に戻るときは、巣の位置を知られないために、少し離れたところに下り、歩いて巣に戻ります。しかし、飛び立つときは、巣から直接飛び出します。
 昔はヒバリを捕えて飼育し、「ヒバリかご」という背の高いかごに入れて、その鳴き声を楽しむ風習がありました。揚げヒバリといって、かごから空に飛び立たせ、またかごに戻らせるという遊びもありました。
 このように、ヒバリを捕えて飼育するために、ヒバリ笛というのがありました。細い竹の中に水を入れて吹き、ヒバリのさえずりに似た音を出して、ヒバリを誘うのです。
 現在は、野生動物であるヒバリを捕えたり、飼育したりすることは禁じられています。自然の声を楽しみましょう。
 ヒバリは草が緑になると、さえずり始めます。緑を守り育てるために、森林との触れ合いを深めましょう。






    <3月31日号の主な予定>

 ▽消防白書のあらまし………消 防 庁 




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