官報資料版 平成




土地白書のあらまし


―平成8年度 土地の動向に関する年次報告―


国 土 庁


 土地白書は土地基本法第十条に基づき、「土地に関する動向及び土地に関して講じた基本的な施策」及び「土地に関して講じようとする基本的な施策」について、政府が毎年国会に対して報告を行うものであり、今年六月十七日に閣議決定し、国会に報告した。
 土地白書は例年三部構成となっており、第一部「土地に関する動向」では、まず今年二月に閣議決定された「新総合土地政策推進要綱」のフォローアップとして、新要綱の中で示された考え方や新要綱策定後の施策の実施状況について紹介し、さらに今後取り組むべき課題も提起している。
 また、国民及び企業の土地に関する意識、ライフステージと住宅需要の多様化等について分析を行うとともに、土地利用の観点から、地方公共団体と住民の参加による土地利用計画・まちづくりについて、事例を紹介しつつ分析を試みるなど、土地の有効利用に重点をおいた構成となっている。
 土地に関する施策は、第二部「平成八年度において土地に関して講じた基本的な施策」及び「平成九年度において土地に関して講じようとする基本的な施策」において紹介している。
 以下、第一部の概要を紹介する。

<第1部> 土地に関する動向


T 土地の動向

<第1章> 土地利用の動向

 平成七年の国土面積は約三千七百七十八万ヘクタールであり、うち、森林二千五百十四万ヘクタール(六七%)、農用地五百十三万ヘクタール(一四%)、住宅地・工業用地等の宅地百七十万ヘクタール(五%)となっている。
 農用地面積は減少傾向にあり、一方、宅地面積は、逐年増加している(第1表参照)。
 また、平成七年の土地利用転換面積は、四万二千百ヘクタールとなっている。

<第2章> 土地所有・取引の動向

1 土地所有の動向
 個人、法人別に土地の所有状況をみると、個人の占める割合が圧倒的に高いが、法人の土地所有割合は近年穏やかな増加傾向となっている。
 個人及び法人の土地所有状況を地域別にみると、大都市地域(東京二十三区及び政令指定都市の地域)では、全地目で二八・九%、宅地で三〇・九%が法人所有の土地であり、大都市ほど法人の所有割合が高くなっている。

2 土地取引の概況
 (1) 土地の売買件数の推移
 土地の売買件数は、昭和六十年代に増加を示した後、平成二年からは減少傾向にあったが、東京圏、大阪圏等での増加により、平成六年には増加に転じ、平成八年には百九十六万件(前年百八十五万件)となっている(第1図参照)。
 (2) 土地取引金額の動向
 平成七年中に取引された土地の総取引金額は、約三十四兆四千億円(対前年比三・九%減)と推計されるが、これは、平成七年においても、都市部の商業地を中心に地価の下落がほぼ全国的にみられたこと等によるものと考えられる。

<第3章> 地価の動向

1 平成九年地価公示にみる平成八年の地価動向
 平成九年地価公示により平成八年一年間の全国の地価の状況を概観すると、大都市圏においては、住宅地はほぼ横ばい、商業地は一割以上の下落となっており、地方圏においては、住宅地は横ばい、商業地は一割未満の下落となっている。
 この結果、全国住宅地の年間の変動率はマイナス一・六%、商業地はマイナス七・八%と、いずれも前回と比べて下落率が縮小している(第2表参照)。

2 大都市圏の地価動向の特徴
 @ 住宅地、商業地とも昨年後半にかけて徐々に下落率が縮小し、特に、住宅地については横ばいの傾向が強まった。この要因としては、住宅地については、住宅着工戸数の増加やマンション等の販売の好調さを受けて、用地取得に積極的な姿勢がみられたこと、また、商業地については、都心部を中心に全般的には収益性の低下が緩やかとなったことなどが挙げられる。
 A 圏域内の各地域に着目すると、前年に比べて下落率が縮小した地域が、都心部に限らず、周辺部まで大幅に拡大した。
 B 東京圏では、住宅地、商業地ともに需要の都心回帰の動きを受けて、都心部に近いほど下落率の縮小が著しくなっている。
 C 商業地では、地域ごと及び個別の立地条件の相違を反映して、好立地の土地とそれ以外の土地との間に下落率の違い(いわゆる地価動向の「二極化」の動き)が引き続きみられる。また、このような「二極化」の動きは、基本的には土地の収益性の動向の差を反映した結果とみられる。

<第4章> 土地に関する指標の動向

<公示地価と名目国内総生産の推移>
 近年の地価高騰前の昭和五十八年を基準に、公示地価と名目国内総生産の指数の推移を比較すると、平成六年から七年にかけて、公示地価が名目国内総生産の増加を超えて上昇していた部分が解消し、名目国内総生産の増加が公示地価の上昇を上回るようになっている。
<住宅市場の動向>
 住宅地の地価は、大都市圏で新規に購入するに際しては、住宅の規模、立地等の質の面からはまだ高い水準にあると考えられるものの、東京圏の新規分譲マンションに係る年収倍率(七十平方メートル換算)は、平成八年には、前年同の五・一倍と過去数年間に比べて買いやすくなっている(第2図参照)。
 また、供給された立地を都心までの時間圏(東京駅までの最短所要時間)でみても、郊外から都心部への回帰現象が進行している。

U 我が国経済社会と土地問題

<第5章> 土地をめぐる状況の変化と土地問題

<第1節> 土地の有効利用に向けた国民・企業の意識の動向

1 国民の意識の動向
 国民の土地に関する意識の動向を、国土庁「土地問題に関する国民の意識調査」(平成八年度調査は、平成九年一月に全国の二十歳以上の者三千人を対象に実施。回収率七一・五%)、同様の方法で実施した平成七年度調査、平成六年度調査及び総理府「土地問題に関する世論調査」(平成六年二月実施。回収率七一・八%)からみる。
<地価動向への評価>
 最近、地価が地域によっては下落、又は、地域によっては横ばいの傾向にあることについて、平成七年度調査まで増加傾向にあった「好ましい」とする割合が減少に転じる一方で、「好ましくない」とする割合は増加している。
<中長期的な地価動向の希望>
 中長期的な地価動向に対する希望については、平成七年度調査までは下落希望が依然顕著であったのに対し、今回の調査では、地価の現在の水準での推移を望む安定化希望が伸び、下落希望と同程度になった(第3図参照)。
<土地資産の有利性の意識>
 預貯金や株式などに比べて土地資産の有利性を肯定する割合は、今回の調査では五三・一%で、平成七年度調査と比較すると若干増えているが、平成六年度調査及び平成五年度の総理府世論調査と比較すると、従来ほどの水準にはないといえる(第4図参照)。
<土地・建物の所有意向とその背景>
 土地・建物の所有意向については、「両方とも所有したい」が八八・一%と圧倒的に高く、過去の調査の結果と比較しても増加傾向にあるが、背景として、土地・建物を資産として所有する視点よりも、実際に利用する資源としての視点の方が重視される傾向にあることが挙げられる。
<住まい選びの際に重視する点>
 住まい選びにおいて、「低価格・低賃料」、「質の高い居住」、「都市居住」それぞれへの選好を比較すると、@「質の高い居住」への選好が最も高いが、土地・建物を「両方とも所有したい」とする層ほどこの傾向が強い。A「低価格・低賃料」と「都市居住」では、全体としては「低価格・低賃料」への選好が若干高いが、居住地域や希望する住宅形態によって結果が異なるなど、選好は一様でなく、居住地域、希望する住居形態や所有形態等により多様である。
<土地の利用に取り組む意識>
 土地の利用に関する意識として、公共性を踏まえた土地の有効活用や土地保有コストに見合う活用に関しては、全体的に肯定的な意向が約七割と高い。土地の公共性というマクロの視点からも、また、個人の収支というミクロの視点からも、有効利用に取り組もうという基礎的な意識は培われてきているといえる。
<土地の有効利用の具体的な取組に向けて>
 そこで、実際、土地の有効利用が進んでいるかについてみると、必ずしも十分に進んでいる状況にはないといわれる。
 これに関しては、「土地の有効利用といっても具体的にどうすればいいかわからないし、個人の取組では限度がある」ことや、現在の不動産市況のもとでは、「適当な活用方法が見つからない」こと等に、同意する割合が高い。
 一方、「開発するなら周辺の地主や住民と協力して付加価値の高いまちづくりをすべきか」について、「そう思う」とする割合は七二・八%と高くなっており、まちの一体的な開発による付加価値の向上が、結局は個々の地主や住民のメリットにつながることが理解されてきているものとみられる。
 このことからも、今後、具体的な土地の有効利用の取組が進められるためには、まず、地主や住民が参加した上で、まちづくり計画が立てられることが重要である。

2 企業の意識の動向
 土地に関する企業意識の動向を、国土庁「地価下落期における企業行動調査」(平成八年度調査。平成九年一月に資本金一千万円以上の企業九千社を対象に実施。回収率四二・九%)並びに「地価沈静化・下落期における企業行動調査」の平成七年度調査及び平成六年度調査の結果からみる。
<今後の地価動向への希望>
 今後、地価の安定的な推移を望む割合が最も高く、下落希望と上昇希望がほぼ拮抗する今回の調査結果は、昨年度の調査結果とほぼ同様のものであり、大きな意識変化は平成六年度調査と平成七年度調査の間にあったといえるが、今回の調査で初めて上昇希望が下落希望を上回った。
<建物・土地の所有と借地・賃借の有利性>
 土地・建物に関して、企業の経営上、所有と借地・賃借とではどちらが有利かについては、「所有が有利になる」とする割合が、「借地・賃借が有利になる」を上回っているが、過去の調査結果と比較すると、「所有が有利になる」は減少傾向にある。
<オフィスの立地選択に対する考え>
 オフィスの立地選択においてどのような要素が重視されるのか、「低賃料・低価格」、「床面積(ワンフロアが広い)」、「高機能(ビルの電気容量が大きい、耐震性が高い等)」及び「中心部立地(都市のより中心部での立地)」の各項目への選好をそれぞれ比較してみると、全体的には「低賃料・低価格」を選好する割合が高いが、資本金の高い企業や一部の業種では、「床面積」、「高機能」などを重視する傾向にあるなど、多様な意向がみられる。
<今後の浸透が待たれる企業の土地利用・活用への取組意識>
 土地の利用・活用に向けての企業意識は、個々の取組への意識においても、また、周囲と協力したまちづくりへの参加意識においても、否定的な見解は少ないものの、「どちらともいえない」や「わからない」とする割合が、かなり高い水準となっている。
 今後、特に都市中心部における再開発事業などでは、周辺住民ばかりでなく、企業が参加した上での土地利用計画の策定と、それに沿った開発の実施が不可欠となってくることから、周辺と一体となったまちづくりの効果がより多くの企業に認識されることが、土地の有効利用にとって不可欠となる。

<第2節> 都市と地方における土地問題

1 土地問題の意識の相違
 国土庁では、平成八年十月に、各都道府県の土地担当部局を対象に、「土地問題に関する意識調査」を実施した。
 ここでは、その調査結果を基に、土地問題に関しての大都市圏と地方圏における認識の相違を概観する。
<土地に関して都道府県の議会で提起される問題>
 各都道府県の議会で議論になった土地関連の質疑の頻度からみると、まず、全体的に地方圏よりも三大都市圏の方が質疑の頻度が高く、また、特に「地価問題」及び「住宅問題」は、三大都市圏で問題とされる傾向が強い。
 一方、「土地利用規制問題」については、地方圏においても三大都市圏とほぼ同程度の頻度で質疑がなされている。
<土地の利用規制・利用調整に対しての都道府県の意識>
 また、土地の利用規制・利用調整問題についてみると、三大都市圏では「市街化区域内農地の計画的な宅地化」の意識が高い一方、「特段の問題は顕在化していない」とする割合も三割弱を占めているのに対し、地方圏では「廃棄物処理場等の立地問題」をはじめ、全般的に土地問題としての意識は高いといえる。
<低未利用地の有効利用に向けての都道府県の意識>
 低未利用地の有効利用に向けて重要と考えられる事項として、最も多く挙げられたのは、「市町村レベルでの総合的な土地利用計画の策定」であり、また、基盤整備に関する事項に次いで、「住民参加による地区レベルでの土地利用計画の策定」も、主に三大都市圏を中心に多く指摘されている。

2 身近な土地問題への取組
<有効利用に向けた具体的な取組〜杉並区・宮前二丁目地区まちづくり>
 当該地区は、道路や公園等の基盤施設整備が遅れており、今後、計画性のない市街地化が進めば、質の低い開発につながるおそれがあったため、杉並区が、低密度で生活基盤が未整備な地区におけるまちづくりのモデルとして位置づけ、基礎調査の実施、住民へのまちづくり構想の提案等の取組を開始した。
 区の当初の提案は住民により取り下げとなったが、その後、地区内居住者の約九百五十世帯が主体となった「宮前二丁目地区まちづくり協議会」が発足し、「まちづくり計画」を区に提案するなど、区との協議が続けられ、地区計画が決定されるに至った。
 ここでは、必要な地域施設を一体的に整備し、個々の開発行為や建築行為を計画的に誘導するとともに、建築物の用途制限、敷地面積の制限(最小敷地面積を百平方メートルとする)等を定めることで、周辺の優れた環境資源を保全しながら市街地形成を目指している。
<公共用地の取得状況>
 都道府県を対象とした調査によると、最近の公共用地取得の実感については、地価下落期にあるものの、取得が困難になったという回答が多く、困難になった理由をみると、「地権者による代替地要求の増加」のほか、「地権者の固有の土地に対する権利意識」が多く挙げられている。
 その一方、将来のまちづくり等に備えた公共用地の取得については、取得面積を拡大していく意向は低くなっていない。生活関連の社会資本整備の必要性が厳然とある以上、今後、用地取得のあり方を考える必要性がある。
<廃棄物処理施設立地の土地問題としての側面>
 廃棄物は毎年膨大な量が排出されており、一方、最終処分場等の確保は困難になってきている。また、処理施設の設置について、住民同意の取得の義務づけ、他県からの廃棄物受入れ規制等の要綱規制等を行う地方公共団体も少なくない。
 一般廃棄物では、ごみ焼却場、ごみ処理場等について都市計画に定めることが義務づけられているが、今後の廃棄物処理の重要性を考えると、ストックヤードをはじめとするリサイクル施設についても、都市計画などの土地利用計画に位置づけることを検討すべきである。
 また、排出者の責任において処理されることとなっている産業廃棄物の処理施設についても、環境の保全のためにも土地利用計画に位置づけることを検討すべきである。

<第3節> 国民のライフステージと住宅需要の多様化

 本節では、世帯構成の変化等を通じて多様化する住宅需要の動向を、世帯主のライフステージに着目して把握(需要面からのアプローチ)するとともに、近年注目されている新しい企画の住宅について、今後どのような住宅需要に応えうるものか、また、中古住宅市場の動向や今後の課題等についても把握(供給面からのアプローチ)を試みる。

1 ライフステージに応じた居住形態の状況と今後の意向
<ライフステージと世帯数の変遷>
 近年の少子化・高齢化、核家族化等によってもライフステージの基本的な概念は変わらないものの、今後、各ステージに該当する世帯主の高年齢化や、各ステージにおける世帯員数の減少等が見込まれる。東京圏でみると、将来(二〇一〇年の推計)には、かなり急速に少子化と高齢化が進むことが推察される。
<一九八〇年〜現在までの居住形態の変遷>
 東京圏におけるライフステージと住戸形態の関係が、一九八〇年当時から現在までにどのように変遷してきたかみると、次の点が特徴として捉えられる。
 @ 「借家・集合」などから「持ち家・一戸建て」への移動については、当時「世帯形成期」で現在「世帯成長期」にある世帯など、若い世帯ほど多いこと
 A 一方、当時「世帯成長期」又は「世帯分離・再編期」で「持ち家・一戸建て」であった世帯から、現在「借家(一戸建て・集合)」や「持ち家・集合」へ移動する層も存在すること
<現在〜二〇一〇年における居住形態の希望>
 次に、将来(二〇一〇年)における住戸形態の希望についてみる。これは、あくまでも世帯主の現在の希望であるため「持ち家・一戸建て」への志向が突出していることに注意する必要はあるが、次の点が特徴として捉えられる。
 @ 「持ち家・一戸建て」への志向をライフステージ別に比較してみると、「世帯形成期」では、その他の各住戸形態からの希望も高いが、「世帯分離・再編期」では必ずしも高くないこと
 A 現在「世帯分離・再編期」の「持ち家・一戸建て」にある層についてみると、「持ち家・集合」等への志向は割合としては高くないものの、世帯数が多いため、将来の世帯収縮期の「持ち家・集合」等への需要量は現在よりも高まると考えられること
<現在〜二〇一〇年における距離帯別の居住形態の希望>
 さらに、東京七十キロメートル圏における将来(二〇一〇年)の住戸形態の希望を、距離帯別に推計してみると、次の点が特徴として捉えられる。
 @ 現在、東京七十キロメートル圏の世帯総数の約八割を占める「十〜五十キロメートル圏」の割合が減少し、その分、「〇〜十キロメートル圏」及び「五十〜七十キロメートル圏」の割合が増加していること
 A 住戸形態別にみると、各距離帯で「持ち家・一戸建て」への希望が突出しているが、一方、「持ち家・集合」は「〇〜十キロメートル圏」及び「五十〜七十キロメートル圏」で増加が顕著で、「借家・一戸建て」も「五十〜七十キロメートル圏」での増加が著しく、都心志向と郊外志向の分化がより明確になっていること

2 住宅需要の多様化に対応した新たな供給の動き
 今後、少子化・高齢化等が進む中で、全体としては、住宅・宅地の需要の減少が予想されるが、東京圏という特定の地域を例にとってみても、需要の多様化がみられる。この需要の多様化に対し、近年新たな住宅の供給方法等が開発されつつある。
 (1) 定期借地権付き住宅
<定期借地権の認知状況>
 定期借地権制度がどれだけ認知されているかについては、前出の国民の意識調査によると、「聞いたことがない」(五三・〇%)という割合が最も高く、未だ十分に認知されていないことがうかがえる。
<定期借地権付き住宅で実現できた点、気になる点>
 首都圏の定期借地権付き住宅の居住世帯への意識調査(平成九年二月実施)によると、定期借地権付き住宅を購入して実現できた点としては、一戸建てでは、特に「広さ」が、他方、集合住宅では、特に「価格の安さ」が挙げられる。
 一方、定期借地権制度について最も気になる点について、一戸建てでは、地代の値上がりなど定住に関わる問題への関心が高いのに対し、集合住宅では、期間途中の売却額など売却を前提にした問題への関心が高いことがわかる。
<定期借地権付き住宅と土地所有権付き住宅の比較>
 敷地面積、坪単価等が同一条件の住宅を、定期借地権付き住宅又は土地所有権付き住宅として取得した場合、いくつかの経済環境のもとで、五十年後(定期借地権の契約期間の終了時)における残資産価値の試算を行ってみると、いずれか一方が必ず有利になるというわけではなく、おかれた経済環境下によって異なってくることがわかる。
 また、試算は行っていないが、住宅ローン返済額を同一にした場合、定期借地権付き住宅の方が広い住宅が確保できるといえる。
 このように、土地所有権付き住宅と定期借地権付き住宅のいずれかを選択する際には、残資産価格に拘泥することなく、住宅購入に際し用意できる資金の限度、長期のローンを組んだ場合に支払い続けることは可能か、何年後にどれだけの面積の住宅が必要となるかをはじめとして、その期間にどのような利用を行うかによって決定されるべきものといえる。
 (2) その他の新たな住宅の供給方式や住宅ストックの有効活用の可能性
 このほか、新たな供給方式として、家族構成やライフスタイルに合わせて間取りが組めるスケルトン・インフィルやコーポラティブ・ハウジングなど、それぞれに特徴を持った住宅が登場してきている。
 また、高齢期において、自らの住居に居住しながらストックの資産をフローとして活用できるリバース・モーゲージも、新たな住宅ストックの活用方法として注目される。
 (3) 中古住宅市場の活性化への課題
 住み替えを行う場合、新築住宅と中古住宅が対象となるが、我が国では従来、圧倒的に新築住宅の供給が上回っており、中古住宅の取得数はその十分の一程度でしかない。
 今後、新要綱に盛り込まれた施策の着実な実施等により、中古住宅市場の活性化を図る必要がある。

<第4節> 産業構造の変化が土地利用に及ぼす影響

 本節においては、土地の利用転換の動きの大きい首都圏の企業を対象に行ったアンケート調査を基に、施設の機能面に着目して、最近の企業の施設立地の動向とその背景、今後の施設立地に係る土地需要の意向等の把握を試みる。
<最近五年間の機能別の施設立地の動向>
 最近五年間における企業施設の移転、新設、拡張、閉鎖等による各機能の総面積の変化を、面積が「増加した」とする割合から「減少した」とする割合を引いたD.I.でみると、各機能とも、東京二十三区、周辺三県を問わず、二十〜四十ポイントになるなど、全体として増加傾向が大きかったといえる。
<施設立地における二十三区の地域評価>
 いくつかの環境条件を「メリット」と評価する割合から「デメリット」と評価する割合を引いたD.I.値を、施設の各機能ごとにみると、二十三区の立地評価の特徴としては、メリット、デメリットの評価が非常にはっきりしているということと、いずれの機能においても、メリット、デメリットの評価がほとんど変わらないことが挙げられる。
<施設立地における周辺三県の地域評価>
 同様に、周辺三県についてみると、まず、メリットであってもデメリットであっても、二十三区ほど評価が明確でないこと、さらに、「バス・鉄道等の公共交通施設」や「土地・建物の購入・賃借価格」の項目では、機能によってメリット、デメリットの評価が分かれる二極化傾向が認められるなど、機能によって評価が異なるものがあること等が特徴として挙げられる。
<今後の施設立地についての企業の考え方>
 今後三年以内の移転、新設、拡張、閉鎖等による各機能の面積の増減の予定について、三年後に「増加する」とする割合から、「減少する」とする割合を引いたD.I.でみると、全業種では、いずれの機能も二十三区及び周辺三県において、D.I.値はプラスになっているが、最近五年間の機能別の施設立地の動向と比較すると、増加の程度は最近五年間ほどは高くないことがわかる。
<施設の立地の需要にあった土地利用の実現に向けて>
 企業の問題意識の高い土地・建物の賃料・価格については、市場の中での需要と供給のバランスで決められてくるものであり、基本的には、コストに見合った収益性をいかに確保するか、企業努力によるものといえる。
 しかしながら、土地や建物に関する情報整備の充実や規制緩和の推進、都市基盤の整備が着実に進められ、さらに賃借や定期借地権が一層活用されることによって、供給される床面積の増加や、最近の企業の志向に応えうる高規格なオフィスの供給等が期待される。

V 土地政策の展開

<第6章> 新総合土地政策推進要綱の策定

<新要綱策定の背景>
 土地政策については、土地基本法に基づき、総合土地政策推進要綱に即して、総合的な土地政策が推進されてきたところであり、これらの取組により、バブル期の異常な地価高騰の抑制に一定の成果を挙げてきたところである。
 しかしながら、地価が長期にわたって下落するという状況の中にあって、我が国経済・社会の構造的変化に的確に対応し、ゆとりある住宅・住環境の形成、快適で安心できるまちづくり・地域づくりの推進等を図っていくためには、土地の有効利用の促進をはじめとした土地政策の新たな展開が強く求められるようになってきた。
<新要綱の決定と目指すべき目標等>
 政府においては、平成八年十一月の土地政策審議会答申を踏まえ、平成九年二月十日に、今後の政府の総合的土地政策の基本指針となる「新総合土地政策推進要綱」を閣議決定した。
 新総合土地政策推進要綱において、土地政策の目標等として示されているのは、次の四つの点である。
 @ 土地政策の目標
  ―地価抑制から土地の有効利用への転換―
 今後の土地政策の目標は、これまでの地価抑制を基調としていたものに代わって、「所有から利用へ」との理念のもと、土地の有効利用による適正な土地利用の推進とし、総合的な施策を展開する。
 A 土地の有効利用の促進
  ―総合的な土地利用計画の整備・充実と土地の有効利用のための諸施策の推進―
 土地の有効利用に向けては、総合的な土地利用計画を整備・充実するとともに、都心居住、市街地の再整備等の各種有効利用のための諸施策を強力に推進する。
 B 土地取引の活性化
  ―不動産取引市場の整備―
 有効利用に向けた土地取引の活性化のためには、不動産取引市場の整備をはじめ、土地取引に係る規制緩和や土地情報の整備・提供等を進める。
 C 土地政策の総合性・機動性の確保
  ―土地対策関係閣僚会議等の積極的な活用―
 土地に関する各般の施策を、経済政策等との連携を図りつつ、総合的に実施していくため、土地対策関係閣僚会議等の積極的な活用により機動的に推進する。
 また、今後は、新要綱で掲げられた諸施策を政府が一体となって強力に推進していくとともに、適宜、土地対策関係閣僚会議を開催する等により、新要綱のフォローアップを行いつつ、必要な場合には、要綱の見直しを行っていくこととしている。

<第7章> 新たな土地対策の推進

<第1節> 土地利用計画の整備・充実

 適正な土地利用に当たっては、適正かつ合理的な土地利用計画が立てられ、それに即した利用が図られることが不可欠であり、土地の有効利用を図るに当たっての土地利用計画の役割は重要である。
 このため、新要綱を受け、主に次のような取組を新たに行っているところである。
 ・土地利用基本計画の充実・強化の一環として、市町村レベルにおいて、土地利用の誘導方向等を示す土地利用調整基本計画や、地区レベルにおいて、土地利用のあり方やそれへ向けた整備手法等を示す地区土地利用調整計画を策定
 ・都市計画・建築規制の枠組みの見直しを一部前倒しして実施することとし、高層住宅の建設を誘導すべき地区の都市計画への位置づけ、容積率の引上げ、共同住宅の共用部分の容積率制限からの除外等を内容とする土地の有効高度利用の促進策を検討しているところ
 さらに、今後は、市町村レベルや地区レベルにおいて、総合的な土地利用計画を策定するための枠組みづくりについての検討、また、土地利用計画への参加意識の低い法人の土地利用計画策定への参加意識の醸成等を行う必要がある。

<第2節> 土地の有効利用の促進

 土地の有効利用に向けて、土地利用計画の整備・充実が図られるという前提のもと、次に必要となるのが、土地の有効利用のための具体的な諸施策が実施されることである。
 新要綱では、土地の有効利用のための主要施策として、都市基盤施設の整備、低未利用地の利用促進、密集市街地の再整備、都心居住の推進等の施策を盛り込んでいる。以下では、各事項ごとに新要綱を受けた新たな取組等をみていく。
 なお、新要綱に盛り込まれた事項を更に具体化した施策をはじめとした有効利用策を取りまとめるため、平成九年四月十四日に、政府と与党が一体となった「土地の有効利用促進のための検討会議」が設置されたところであり、今後、半年以内に施策の取りまとめを行うこととしている。

1 都市基盤施設の整備
 土地利用計画における目指すべき土地利用の姿を実現するためには、まず、その基盤となる都市基盤施設の整備を行うことが重要である。
 このため、新要綱を受け、主に次のような取組を新たに行っているところである。
 ・省庁横断的な協議調整会議である「公共事業の実施に関する三省協議会(平成八年八月二十一日設置。建設省、農林水産省、運輸省の事務次官がメンバー)で、連携事業として決定された施策を関係省が密接な連携を図りつつ実施
 ・複数所管の事業の一体化、複合化を推進するため、新規事業、用地費、複数事業をも配分対象として、プロジェクトの立ち上がりを積極的に支援する新たな調整費制度を創設
 ・都市整備に関する複数の事業について、基幹事業の整備効果が的確に達成されるよう、連携事業の進捗調整を行い、国がこれに基づき助成支援を行う制度(パッケージ・アプローチ)を創設

2 低・未利用地の利用促進
 大都市圏を中心に多数発生している低未利用地・遊休地については、国民生活やマクロ経済の観点から合理的、効率的な土地利用が図られることが緊急の課題となっている。
 このため、新要綱を受け、主に次のような取組を新たに行っているところである。
 ・土地区画整理事業の技術基準の弾力化等を図り、敷地整序型土地区画整理事業の実施を積極的に推進することによって、低未利用地を含む敷地について換地による交換分合を通じた集約化を実施
 ・東京都区部の低未利用地に関する情報の交換及び適正な利用の推進を図っている東京土地有効利用促進協議会の取組の充実や、市町村における土地利用の転換のための計画づくり等を支援するための土地利用転換計画策定等への支援措置を拡充
 ・平成九年三月三十一日に、担保不動産等関係連絡協議会で取りまとめられた「担保不動産等流動化総合対策」に基づき、虫食い・不整形状態となっている担保土地について、権利関係の整理を前提として、種々の施策を効果的に組み合わせて当該土地の整形化、有効利用を強力に推進
 さらに、今後は、低未利用地物件の情報開示、売買当事者双方の歩み寄りのための支援、権利関係調整のための支援、土地の集約化等について検討を行う必要がある。
 また、大都市部の低未利用地の各種活用や、その場合の広域的な土地利用計画への位置づけについても検討する必要がある。

3 密集市街地の再整備
 既成市街地には、依然、密集市街地が多く存在しているが、防災上危険な密集市街地においては従前の居住確保等にきめ細かく配慮しつつ、災害に強いまちづくりを早急に進めることが求められている。
 このため、新要綱を受け、主に次の取組を新たに行っているところである。
 ・密集市街地の再整備を総合的かつ一体的に推進するため、老朽木造建築物の除去・建て替えの促進等を内容とする新たな制度が、「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」として平成九年五月九日に公布され、公布後六か月以内に施行されることとされている。
 今後は、それぞれの地域において、地方公共団体が本制度を積極的に活用し、地域住民の主体的な取組を誘導しつつ、老朽木造建築物の共同建て替えや除去等が進められる必要がある。

4 都心居住の推進
 大都市等の都心部での居住の確保を図ることは、通勤時間の短縮、コミュニティの維持等の観点から重要である。
 このため、前述の高層住宅の建設を誘導すべき地区の都市計画への位置づけ等を内容とする土地の有効高度利用の促進策の検討のほか、新要綱を受け、主に次の取組が新たに実施されようとしているところである。
 ・東京都区部において、民間都市開発プロジェクト等の円滑・迅速な実施を支援するため、平成九年四月三十日に設置された「東京都心居住推進本部」(東京都、関係特別区、建設省、住宅・都市整備公団で構成)の早期の取組や、その過程を通じた具体的な地区ごとの取組の実施
 今後、さらに、北側空間の居住空間としての位置づけなどによる住居費負担の軽減化や、マンションの計画的な修繕等に関しての管理組合の機能の充実等についても検討する必要がある。

5 定期借地権制度の活用
 定期借地権制度は、国民の土地に対する意識について、「資産として保有」するものから「利用」するものへの変革を促すものであり、適正な土地の有効利用を促進する観点から、幅広い活用が期待されている。
 このため、定期借地権契約モデルの整備や、集合住宅における定期借地権の活用の検討を進めるとともに、定期借地権を活用した住宅・宅地の供給を促進するための支援措置の拡充等を推進している。
 今後は、さらに、制度の長期的・安定的な運用を図るとともに、途中転売等の流通市場の整備を進める必要がある。また、公共公益施設の用地等への定期借地権の活用についても、十分検討する必要がある。

6 その他土地の有効利用の促進関連
 このほか、良質な住宅の供給の確保に資する最低敷地規模規制の積極的な活用、マンションの適正な維持管理・建て替えの促進、さらに、環境への負荷の少ない土地利用の推進等を行う必要がある。

<第3節> 土地取引の活性化の促進

 土地の有効利用を実現するために、土地利用計画の整備・充実や土地の有効利用のための諸施策の推進に加え、特に重要となるのは、土地の有効利用に向けた土地取引の活性化にある。
 このため、新要綱では、不動産取引市場の整備をはじめ、土地取引に係る規制の緩和や土地情報の整備・充実等を進めることとしている。

1 不動産取引市場の整備
 土地の有効利用に向けて土地取引を活性化するためには、不動産取引市場の整備・近代化や、資金調達手法の整備が必要である。
 このため、新要綱を受け、主に次のような取組を新たに行っているところである。
 ・指定流通機構制度に係る宅地建物取引業法の一部改正法の施行(平成九年四月十九日)により、全国で四つの指定流通機構を指定し、同機構への物件情報の登録を専任媒介契約まで義務づけるとともに、同機構の公益業務として、国民への不動産市況情報の提供業務を実施
 ・不動産特定共同事業法の一部改正法の施行(平成九年五月二十三日)により、投資の専門家に関して、事業実施の時期に関する制限の撤廃、金銭等の貸付けの禁止の解除等の規制緩和を措置
 ・担保不動産等流動化総合対策において、不良債権の処理、担保不動産の流動化を図る「担保不動産等証券化パッケージ」として、不動産の証券化等に関する具体的方策を実施することを掲げており、これにより資金調達手法等を整備
 今後は、土地市場の活性化方策やプロジェクト・ファイナンス等の多様な資金調達手法、さらに、土地取引市場に共通なルールづくりに向けての必要な条件整備等について検討していく必要がある。

2 土地情報の整備・提供
 (1) 土地情報の整備・提供の推進
 土地の有効利用に向け土地取引を活性化させるためには、さらに、土地情報の整備・提供を行うことが重要である。
 このため、新要綱を受け、主に次の取組を新たに行っているところである。
 ・地価公示について、精度の一層の向上を図るための地価公示業務へのコンピュータシステムの導入、評価手法を充実するための高度商業地等における価格形成要因の分析調査等を実施
 今後は、土地情報だけでなく、土地に関連する経済・社会指標等の把握、分析の強化等についても検討していく必要がある。
 (2) 地理情報システム(GIS)の整備等
 新要綱では、土地情報の整備・提供を促進する観点から、地理情報システム(GIS)の整備を推進することとしている。
 現在、一部の市町村では,既にGISを導入し、固定資産税に係る事務の効率化、都市計画業務、地籍調査の成果の利活用、道路等の施設管理等様々な分野で利用している。今後、多くの市町村でGISが導入されることにより、様々な情報を市町村の組織全体で共有し、効率的に管理し、住民に提供していくことが期待できる。
 さらに、今後は、政府においても、国土利用に係る基礎的なデータを社会基盤として位置づけ、国土空間データとして整備・標準化を進め、相互利用できる環境づくりを進めていく必要がある。

<第4節> 土地の有効利用促進のための土地税制等

 新要綱においても、土地税制は土地の公共性を踏まえ、税負担の公平を確保しつつ、土地の有効利用の促進等を図る上で、土地政策上重要な手段の一つであり、長期的・構造的な観点から、適正な土地利用の確保や地価の安定を図る役割が期待されるとされている。

 土地基本法を基礎とする現行の土地税制は、土地をめぐる状況の変化等に対応して、平成八年度の税制改正において、基本的な枠組みを維持しつつ、土地の保有・譲渡・取得の各段階にわたり、総合的な見直しを行い、さらに平成九年度では、固定資産税の負担調整措置や登録免許税・不動産取得税の調整措置が講じられたところである。
 土地税制は、土地の保有・譲渡・取得の際の税負担を通じて、土地の需要、供給に影響を与えるものであり、着実かつ適正な運用を図るとともに、今後とも有効利用に向けた検討を行う必要がある。

<第5節> 機動的な地価対策のための体制の整備等

 バブルを二度と発生させないということが土地政策の大きな課題となっており、機動的な地価対策のための体制の整備として、引き続き、地価動向、土地取引動向及び経済・金融動向について、調査・把握を行うこととしている。
 また、国土利用計画法に基づく土地取引規制については、今後とも、国と地方公共団体が緊密な連携を図る体制を維持しつつ、社会経済情勢に応じた大規模な土地取引に係る届出勧告制の運用の見直しについて徹底するとともに、地域の実情等を踏まえ、監視区域の解除を行う等の機動的な運用を図ることとしている。

<第6節> 国土政策との連携

 国土政策と土地政策とは、相互に密接な関係を有するものであり、土地政策は国土政策と連携し、個性的で魅力的な地域づくりに資する適正な土地利用の推進を図る必要がある。
 今後は、現在策定を進めている新しい全国総合開発計画や、移転先候補地の選定に向けた調査審議が本格化している首都機能移転をめぐる動きを的確に踏まえ、施策間の連携を円滑に行っていく必要がある。

<第7節> 土地に関する基本理念の普及・啓発等

 土地の有効利用に向けた諸施策等を実効あるものとするためには、土地の持つ公共性についての国民一人ひとりの理解が不可欠である。また、バブルの弊害を踏まえ、地価や土地市場、土地利用等に関する基礎的な調査研究を進める必要がある。
 このため、新要綱を受け、主に次のような取組を新たに行っているところである。
 ・十月一日を「土地の日」、十月を「土地月間」とし、土地に関する基本理念の普及・啓発活動を積極的に展開
 ・土地に関する情報や諸文献、論文等の網羅的な整理を行いつつ、地価形成メカニズムの分析等の新たな土地に関する基礎的調査・研究を推進

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賃金、労働時間、雇用の働き


毎月勤労統計調査 平成九年四月分結果速報


労 働 省


 「毎月勤労統計調査」平成九年四月分結果の主な特徴点は次のとおりである。

◇賃金の動き

 四月の規模五人以上事業所の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は二十九万九千七百二十九円、前年同月比二・一%増(規模三十人以上では三十二万七千四百三十一円、前年同月比二・三%増)であった。
 現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十九万二千四百四十七円、前年同月比二・〇%増(同三十一万九千五百二十円、一・八%増)であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十七万一千五百七円、前年同月比一・五%増(同二十九万一千六百三十二円、一・三%増)で、所定外給与は二万九百四十円、前年同月比七・四%増(同二万七千八百八十八円、七・二%増)となっている。
 また、特別に支払われた給与は七千二百八十二円、前年同月比一三・二%増(同七千九百十一円、一八・九%増)となっている。
 実質賃金は、〇・二%増(同〇・四%増)であった。
 産業別にきまって支給する給与の動きを前年同月比によってみると、金融・保険業三・七%増(同二・六%増)、不動産業三・四%増(同二・三%増)、製造業二・六%増(同二・六%増)、サービス業二・二%増(同二・一%増)、建設業二・二%増(同〇・一%増)、鉱業一・八%増(同二・一%増)、電気・ガス・熱供給・水道業一・五%増(同〇・四%増)、運輸・通信業一・四%増(同〇・七%増)、卸売・小売業、飲食店〇・二%増(同一・〇%増)であった。

◇労働時間の動き

 四月の規模五人以上事業所の調査産業計の常用労働者一人平均月間総実労働時間は一六四・四時間、前年同月比一・四%減(規模三十人以上では一六四・七時間、前年同月比〇・九%減)であった。
 総実労働時間のうち、所定内労働時間は一五三・三時間、前年同月比一・九%減(同一五一・四時間、一・四%減)、所定外労働時間は一一・一時間、前年同月比四・七%増(同一三・三時間、六・四%増)、季節変動調整済の前月比は一・〇%増(同〇・九%増)であった。
 製造業の所定外労働時間は一五・二時間で、前年同月比一四・三%増(同一七・一時間、一五・六%増)、季節変動調整済の前月比は一・七%増(同二・四%増)であった。

◇雇用の動き

 四月の規模五人以上事業所の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・九%増(規模三十人以上では前年と同水準)、季節変動調整済の前月比は〇・三%減(同〇・六%減)、常用労働者のうち一般労働者では〇・二%増(同〇・五%減)、パートタイム労働者では四・六%増(同三・九%増)であった。
 常用労働者全体の雇用の動きを産業別に前年同月比によってみると、建設業四・一%増(同一・五%増)、サービス業二・四%増(同一・八%増)、不動産業一・五%増(同一・三%増)、運輸・通信業一・一%増(同一・〇%増)、卸売・小売業、飲食店〇・二%増(同〇・七%減)とこれらの産業は前年を上回っているが、製造業〇・五%減(同一・一%減)、電気・ガス・熱供給・水道業〇・九%減(同一・四%減)、金融・保険業三・五%減(同五・一%減)、鉱業三・七%減(同一一・二%減)と前年同月を下回った。
 主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者一・一%減(同一・四%減)、パートタイム労働者四・六%増(同四・二%増)、卸売・小売業、飲食店では一般労働者二・四%減(同三・六%減)、パートタイム労働者六・六%増(同八・〇%増)、サービス業では一般労働者二・二%増(同一・九%増)、パートタイム労働者三・五%増(同一・六%増)となっている。


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税金365日 消費税(個人事業者)の中間申告


国 税 庁


 個人事業者の方で、前年分の確定消費税額が一定額以上の方は、中間申告が必要となりますので、所轄の税務署に中間申告書を提出するとともに、消費税額を納付しなければなりません。
 そこで、個人事業者の方の消費税の中間申告について説明しましょう。

 【消費税の中間申告が必要な個人事業者】

 個人事業者の方で平成八年分の確定消費税額が六十万円を超える方は、中間申告が必要です。
 この「平成八年分の確定消費税額」とは、平成八年分の確定申告による消費税額をいい、期限後申告又は修正申告等が行われた場合には、これらによって確定した消費税額をいいます。

 【中間申告の方法】

 中間申告には次の二つの方法があり、いずれかの方法によることができます。

1 前年実績による中間申告
 中間申告が必要と認められる方については、次の(1)又は(2)により算出した中間納付税額を記載した「消費税中間申告書」及び「納付書」を所轄の税務署から送付しますので、必要事項を記入の上、以下の各期限までに税務署に申告書を提出するとともに、納付書により消費税額を納付してください。
(1) 平成八年分の確定消費税額が五百万円を超える場合
 @ 納付税額




(2) 平成八年分の確定消費税額が六十万円を超え五百万円以下の場合
 @ 納付税額




 A 申告・納付期限
 九月一日(月)までに、申告・納付してください。

2 仮決算に基づく中間申告
 中間申告が必要な方は、前記1の方法に代えて、以下による仮決算に基づいて、中間申告税額を算出して申告することもできます。
 この場合には、確定申告書の用紙(中間申告対象期間が平成九年四月一日以後終了する場合には、併せて付表を提出する必要があります。)によって中間申告書を作成することになります。
 なお、仮決算に基づく中間申告を行う場合は、この計算により控除不足額が生じても還付にはなりません(控除不足額が生じた場合は、中間納付税額を「〇」として申告します。)。
(1) 平成八年分の確定消費税額が五百万円を超える場合
 @ 納付税額
 一月〜三月、四月〜六月、七月〜九月の期間をそれぞれ一課税期間とみなして、各期間ごとに次により求めた額を中間申告税額として申告します。




(2) 平成八年分の確定消費税額が六十万円を超え五百万円以下の場合
 @ 納付税額
 一月〜六月の期間を一課税期間とみなして、次により求めた額を中間申告税額として申告します。




 A 申告・納付期限
 九月一日(月)までに、申告・納付してください。

 【納税は期限内に】

 納付期限を過ぎてから消費税の納付をされますと、更に延滞税を納付していただくことになります。
 延滞税は、原則として、その納付期限の翌日から納付される日までの日数に応じ、未納に係る本税の額に年「一四・六%」(ただし、納付期限の翌日から二月を経過する日までの期間については年「七・三%」)の割合を乗じて計算した額となります。
 日ごろから納税のための資金手当てや納期限に十分注意し、期限内に納付されるようお願いします。
 なお、何らかの事情により納付期限までに納付ができない場合には、お早めに税務署にご相談ください。

 【振替納税のご利用を】

 個人事業者の方の消費税の納税の方法に、振替納税の制度があります。これは金融機関の預貯金口座から振替によって納税を済ませるもので、この制度を利用すれば納税のための手数が少なく、また、うっかり納期限を忘れて滞納してしまうこともなくなり、大変便利です。振替納税のご利用をお勧めします。
 新たに振替納税を希望される場合は、預貯金先の金融機関又は税務署に「預貯金口座振替依頼書」を提出してください。

 【分からないときは】

 消費税中間申告の申告・納付の手続等についてお分かりにならない点がありましたら、最寄りの税務相談室又は税務署(個人課税部門)にお尋ねください。
 最近の少年非行の動向と

 家庭裁判所の役割

 家庭裁判所で扱う少年非行の最近の動向を見ますと、数そのものは、一時に比べると少なくなってきています。とはいっても、最近では、少年の間でコンピュータゲームによる遊びが日常化し、携帯電話も普及してくるなど、少年を取り巻く社会環境は急速に変化し、少年の価値観や友人関係も変わってきており、非行の動機や態様が、ますます複雑かつ多様化してきていると指摘されています。
 例えば、最近の新聞報道等を見ますと、依然として学校内でのいじめを背景とした事件が後を絶ちませんし、このほかにも、例えば、都心部を中心に、深夜帰宅途中のサラリーマンを集団で襲って金銭を奪い取る「オヤジ狩り」などと呼ばれるような恐喝、強盗、傷害等の事件がしばしば取り上げられています。また、ここ一、二年、薬物関係の非行、特に高校生を中心とした覚せい剤の乱用が急増しており、学校内が乱用や取引の場となっていた事件まで現れています。さらに、「テレクラ遊び」、「援助交際」などと呼ばれていますが、女子の中高校生が遊ぶお金やブランド物を買うお金目当てで、放課後に成年男性相手に気軽に売春をし、知らぬ間に自分の心や体をぼろぼろにしているといった事態も生じており、女子少年の場合には、このような性の乱れから更に重大な非行に至ってしまうケースも少なくありません。
 これらの非行を犯した少年の特徴について見てみると、表面上は家庭環境に特別な問題がなく、学校や社会生活にも一通り適応しているといった少年が、次第に多くなってきています。これらの少年は、むしろ親には従順で、周りに合わせていくタイプであり、ふだんの家庭や学校での生活の中では「いい子」と見られています。
 しかし、その内面に目を向けると、自分の考えというものがなかったり、現実感が乏しかったり、本当の気持ちを出せず、自分に自信がなかったりします。そして、非行を犯しても、その結果の重大性や、その社会的な責任について十分に認識できない少年が大半です。また、相手の立場や気持ちを十分理解できないという点で適切な対人関係を持つことが難しく、共感性や社会性が乏しいという問題も指摘できます。
 保護者の方でも、非行の内容と少年の「いい子」の姿とのギャップに戸惑い、少年の素顔や内面をよく知らなかったことを痛感することが少なくないようです。
 家庭裁判所では、このような最近の少年非行の特徴も踏まえて、一人一人の少年について、非行内容、少年の性格、少年を取り巻く家庭その他の環境上の問題点等を丁寧に検討し、少年が二度と非行を繰り返さず、立ち直って健全な生活を送れるようにするために、今どのような手当てが必要かという観点に立って、最もふさわしい処分を決めています。
 例えば、家庭で生活させながら専門家の継続的な指導が必要であると考えた場合には、少年を保護観察所の保護観察に付し、施設で専門的な教育を行う必要があると考えた場合には、少年院や救護院に送致することになります。保護観察所や少年院などでは、少年自身の問題点の改善はもちろん、親子関係を調整するための指導も行われます。
 他方、非行性がさほど深まっておらず、家庭もしっかりしていて、少年自身の自覚や家庭、学校の指導によって十分立ち直ることができると考えられる場合には、特に処分することなく事件を終わらせることもあります。しかし、そのような場合であっても、少年に対して、自分の行動を振り返り、過ちを自覚するようにさせた上で、今後の生活方針について指導をしています。保護者に対しても、少年をよく理解し、心を通わせるよう助言したり、場合によっては相談機関を紹介したりしています。そのほか、必要に応じて、学校や職場に働きかけて少年の受入態勢の整備を行うこともあります。
 また、家庭裁判所の手続には、最終的な処分を決める前に、しばらくの間、少年の生活状況を観察し、その動向を見極めた上で処分を決める試験観察という制度があります。この間、少年は、定期的に家庭裁判所で必要な助言や指導を受けます。また、この試験観察においては、補導委託という方法がとられることもあります。これは、少年が民間のボランティアの家庭で一定期間生活を共にし、仕事などを教えられることを通じ、家族や人間関係の在り方、働くことの意味などを見つめ直すきっかけを得ることによって、生活習慣の改善を図ろうとするものです。最近では、この制度を利用して、少年を地域社会に対する奉仕活動に参加させ、様々な体験を経ることによって非行から立ち直らせていく工夫も進んでいます。例えば、少年は、三日間程度特別養護老人ホームでお年寄りの話相手や食事の介添えといった体験をし、それを通して、自分が社会の中で人の役に立っているという実感を持ち、自信や主体性を回復したり、相手の立場を考え、思いやりの気持ちを持てるようになったりします。
 このように、家庭裁判所では、常に少年非行の動向に注意を払い、その内容の変化に応じて様々な工夫を重ねながら、少年の健全な育成を目指しています。
(最高裁判所) 

 プレジャーボート等の海難防止

◇プレジャーボート等の海難の発生状況

 近年、生活水準の向上、労働時間の短縮等に伴い、若者を中心にレジャー活動に対する意識が向上し、活発化しています。また、海への関心も高まり、モーターボート、ヨット、水上オートバイ等による多種多様の海洋レジャーも、一昔前とは比べものにならないほど、急速に普及してきました。しかし、一方では、これらに係る海難も後を絶ちません。
 プレジャーボート等の海難の発生状況についてみると、平成八年は、約六百七十隻で、全船舶の海難の約四割を占めており、このうち、死亡・行方不明者を伴うものは三十八隻で、四十人が死亡又は行方不明となっています。
 これらの海難原因は、機関取扱い不良、見張り不十分、操船不適切、気象・海象不注意といった人為的要因によるものが約八割を占めています。

◇プレジャーボート等による海難を防止するために

 プレジャーボート等による海難を防止するためには、愛好者自身が、自らの自覚と努力によって必要な海事知識や技術を習得し、基本的な注意事項を守って海洋レジャーを楽しむ必要があります。
 基本的な注意事項は、次のとおりです。
・出港前に天気予報を聞くこと。風が強い時、波が高い時は無理をせず、出港を止めること。
・エンジンの取扱いに慣れるのはもちろんのこと、エンジンの試運転をはじめ、燃料、バッテリーなどの出港前点検を必ず行うこと。

・行動予定海域の地形、潮流、水深等の事前調査を行っておくこと。
・周囲の状況に絶えず注意し、特に大型船等の操縦性能が劣る船舶と危険な見合い関係が生じないよう早めに避けること。
・自分の技量にあった慎重な操船を行うこと。
・救命胴衣を着用すること。

◇小型船安全協会等の民間団体について

 海上保安庁では、海難防止講習会の開催、訪船指導等の安全活動を実施しており、また、全国の海上保安部署には、海洋レジャーに関する情報を広く一般の方に提供している「海洋レジャー行事相談室」を設置しています。
 しかし、すでに述べたようにプレジャーボート等の海難を防止するためには、愛好者自身が安全意識をもって運航する必要があることから、民間団体による自主的な安全活動の推進もまた必要不可欠です。このため、現在、全国各地に五つの社団法人を含む四十七の小型船安全協会等の団体が設立されています。
 これら協会等の会員になると、海上保安庁が実施している海難防止講習会の開催の通知、航行禁止場所や危険な箇所に関する事項、ボートの取扱い方、航海計画の相談など、安全運航に必要な知識・情報を得ることができます。
 海に関する知識に乏しい個人がプレジャーボートを単独で運航することには危険が伴いますし、また、一人で獲得・収集できる知識・情報は限られています。したがって、これらの協会等に入会し、仲間とグループを作ってプレジャーボート等を運航することにより、安全に海洋レジャーを楽しむことができると思いますので、ぜひ協会等による安全活動の輪に加わるようお願いします。
 また、海上保安庁では、海上安全指導員制度を推進しています。海上安全指導員とは、プレジャーボートや水上オートバイにより、海上の安全パトロールなどのボランティア活動を行う人々で、小型船安全協会等の長の推薦を受けた人からの申請により、海上保安庁が指定しています。
(海上保安庁) 

 
    <8月13日号の主な予定>
 
 ▽労働白書のあらまし………………労働省 

 ▽家計収支……………………………総務庁 
 



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