官報資料版 平成13





労働白書のあらまし


―平成9年版 労働経済の分析―


労 働 省


 労働省は、「平成九年版労働経済の分析」(平成九年版労働白書)を、平成九年六月二十七日に閣議配布し、公表した。
 本年の白書では、第1部「平成八年労働経済の推移と特徴」において、景気回復のテンポが緩やかであったこと等を反映して厳しい状況が続いたものの、年後半には改善の動きもみられた一九九六年(平成八年)の労働経済の動向について分析した。
 また、第U部「構造転換期の雇用・賃金と高齢化への対応」においては、国際化に伴う貿易構造の変化や情報通信を始めとする技術革新の進展、規制緩和等に伴う競争の活発化など、我が国経済社会の構造転換が進む中で、労働力需要構造の変化と所得分配の実態を明らかにし、雇用の安定と勤労者生活の向上を図っていくための課題を検討した。
 さらに、労働力供給面では、人口及び労働力の高齢化が他の先進諸国に例をみない速さで進展する中で、今後とも我が国がその活力を維持し、個々の高年齢者が豊かな勤労者生活を送ることができるための方策について検討を加えた。
 その概要は、以下のとおりである。 土地に関する施策は、第二部「平成八年度において土地に関して講じた基本的な施策」及び「平成九年度において土地に関して講じようとする基本的な施策」において紹介している。

<第1部> 平成八年労働経済の推移と特徴


<第1章> 雇用・失業の動向

<厳しいながらも改善の動きがみられた雇用失業情勢>
 日本経済は、一九九三年(平成五年)十月を底に、一九九六年においても引き続き景気回復局面にあったが、景気回復のテンポが緩やかであったこともあり、雇用失業情勢は、五月及び六月に完全失業率が既往最高水準を記録するなど、厳しい状況が続いた。
 しかし、有効求人倍率は、年間を通じ一貫して上昇を続け、年後半には完全失業率も小幅ながら低下するなど、改善の動きもみられた(第1図参照)。
<増加幅が拡大した新規求人>
 新規求人(新規学卒を除く)は、前年比一一・九%増と前年(同四・二%増)に続く増加となり、増加幅も一九八九年以来の二けた増と拡大した。四半期別の前年同期比でも、四〜六月期以降は期を追うごとに増加幅が拡大し、十〜十二月期には一八・五%増と高い伸びを示した。
 こうした新規求人の増加幅の拡大には、卸売・小売業、飲食店やサービス業などの増加に加えて、製造業でも回復の動きがみられたことが大きく寄与している。
<減少に転じたものの依然高水準の新規求職>
 一方、新規求職の前年比増加率は、景気回復局面に入って以来、縮小傾向が続いていたが、一九九六年の新規求職者は前年比〇・五%減となり、五年ぶりの減少に転じた。しかし、七〜九月期の季節調整値では、比較可能な一九六三年以来最高の水準を記録するなど、依然高水準にある。
 これを、離職求職者とそれ以外の求職者とに分けて前年比をみると、非自発的離職求職者が六年ぶりに減少に転じており、これは企業の雇用調整の動きの鎮静化によるものと考えられる。一方で七〜九月期以降は、自発的離職求職者や離職者以外の求職者がそれぞれ小幅ながら増加に転じており、常用新規求職者全体としても年後半には増加となった。
<改善の動きがみられる求人倍率>
 有効求人倍率は〇・七〇倍と前年(〇・六三倍)から〇・〇七ポイントの上昇となり、六年ぶりに上昇に転じた。
 四半期ごとの季節調整値でみると、一〜三月期の〇・六六倍から十〜十二月期の〇・七五倍まで、緩やかながら一貫した上昇が続いた。
<厳しいながらも改善の兆しがみられた新規学卒労働市場>
 一九九二年以降低下を続けてきた大学・短大卒の就職率は、一九九六年についても大学卒で六五・九%と前年(六七・一%)を更に下回るなど、引き続き厳しい状況が続いたが、一九九七年三月大学卒業予定者の就職内定状況をみると、内定率が男女とも上昇に転じており、企業の業績回復に伴う採用意欲の回復を背景に、改善の兆しがうかがえる。
<増加幅が拡大した労働力人口>
 一九九六年の労働力人口は、労働力需要が増加する中で前年差四十五万人増と五年ぶりに増加幅が拡大した。
 この背景には、労働力率が男女計で四年ぶりに上昇に転じたことがあるが、その要因としては、労働力需要が回復する中で若年層の上昇寄与が大きくなったことや、結婚、出産等の理由で非労働力化する年齢が上昇していることなどにより、女子二十五〜二十九歳層の労働力率が大幅に高まってきていることなどがあげられる。
<減少幅が大きく縮小した製造業雇用者>
 就業者数は、景気回復局面に入ってからも低い伸びを続けていたが、一九九六年に前年差二十九万人増と増加幅が拡大した。これを自営業主、家族従業者、雇用者に分けてみると、雇用者数は前年差五十九万人増と増加したのに対し、自営業主、家族従業者はともに減少となった。
 雇用者数の増加を産業別にみると、製造業以外の産業を合計した雇用者の増加幅には前年に比べ大きな変化はない中で、前年には減少していた製造業の雇用者が小幅の減少にとどまった結果、雇用者数は前年を上回る伸びを示した。こうした背景には、製造業の業況が次第に回復してきたことがあるものと考えられる。
<「不足」に転じた雇用の過不足状況>
 雇用者数の増加の背景について、常用労働者の過不足判断D.I.をみると、一九九六年八月調査の調査産業計で、今景気回復過程に入り初めて「不足」に転じた。また、その後の調査でも「不足」幅が拡大しており、常用雇用に対する需要の高まりがうかがえる。
 これを産業別にみると、他産業に比べ「過剰」超過幅が大きい状態で推移していた卸売・小売業、飲食店と製造業がいずれも「不足」に転じ、雇用過剰感が解消されてきたとみることができる。こうした中で、雇用調整を実施した事業所の割合も、製造業、卸売・小売業、飲食店、サービス業の各産業で緩やかな低下傾向にある。
<既往最高値を更新した完全失業率>
 一九九五年に年平均で初めて二百万人台に達した完全失業者数は、一九九六年に入ってからも増加し、前年差十五万人増となった。その推移をみると、年前半には増加基調で推移したものの、年後半には増加幅が縮小し、改善の動きもみられた。
 完全失業率についても、四〜六月期に三・五%と既往最高水準を記録した後、十〜十二月期には三・三%まで低下した。完全失業率は、通常、景気の遅行指標とされているが、景気回復局面三年目に入ってから失業率がピークを更新したことは、過去に例がない(第1図参照)。
<弱かった就業者数増加効果>
 こうした完全失業率上昇の要因についてみると、一九九二年以降は十五歳以上人口の増加による失業率上昇効果は年々縮小しているものの、就業者数の増加がそれ以上に鈍化しており、失業率抑制効果が相対的に小さかったこと、また、労働力率の低下が完全失業率の低下に寄与した場合でも、その影響が軽微なものにとどまっていたことが分かる。
 一九九六年については、就業者数の増加幅が拡大している点で改善の兆しもみられるものの、その抑制効果はいまだ弱く、労働力率が上昇に転じたこともあって、引き続き失業率の上昇が続いた。
<依然として多い自発的理由による失業>
 完全失業者の動きを四半期ごとの求職理由別にみると、非自発的離職求職者は十〜十二月期に減少に転じており、雇用調整が落ち着いてきたことを反映しているほか、「その他」の者や、学卒未就職者も年後半には落ち着いた動きとなっており、失業の増加幅が縮小する要因となっている。
 しかし、一方で長期的に増加傾向にある自発的離職求職者は、年後半においても依然としてかなりの増加を続けており、労働者の離転職志向の高まりなど、意識の変化が完全失業者を即時的に減少しにくくさせていることがうかがえる。
<若年者の失業が依然高水準>
 世帯主との続柄別にみると、増加を続けていた世帯主の失業者数が十〜十二月期に減少するなど、改善の動きがみられたが、その他の家族(世帯主の配偶者以外の家族)の増加が目立っており、年後半に増加幅が縮小しているものの、若年層などが失業化している状況が推察できる。
 完全失業率を年齢階級別にみると、十五〜二十四歳層で男子六・八%、女子六・七%、六十〜六十四歳層の男子八・五%となっており、若年層については、離転職志向が高まっていること、高年齢層においては、定年等により離職した後の再就職が困難であることなどを反映しているとみられる。
<景気の回復テンポを反映して緩やかな増加となった労働力需要>
 一九九三年十月の景気の谷を一〇〇として、その後の実質GDPと就業者数の動きを過去の景気回復局面との比較でみると、@今回の景気回復局面における実質GDPの増加テンポは、過去の景気回復期と比較して緩やかであること、A今回は就業者数が増加するまでの期間が長いこと、B就業者数の増加幅が小さいこと、などの特徴がみられる。
 これには、雇用の伸びが高まる中で自営業主、家族従業者の減少幅の拡大がみられるなど、雇用需要の増加が即就業者数の動きに反映されなかったことが影響している。
 そこで、実質GDPと雇用者数の関係をみると、実質GDPの伸びに対する雇用者数の動きは、過去の推移とほぼ同一線上を動く形となっており、同一のGDP成長率に対して、特に雇用吸収力が低下しているといったことは見受けられない。今景気回復期の労働力需要の回復が緩やかであったのは、基本的には経済の拡大テンポが緩やかであったことによるものである。
<改善に遅れがみられた有効求人倍率と完全失業率>
 有効求人倍率の谷の時期について、景気の谷の時期と比較してみると、過去においては長くても五か月程度の遅れの範囲内で谷の時期を迎えていたが、今回については二十一か月と前例のない遅れがみられる。
 また、完全失業率の山の時期を一九九六年五月とみて同様に比較すると、やはり三十一か月の遅れとなり、過去に例がないといえる。
 しかし、有効求人倍率の谷の時期と完全失業率の山の時期とのタイムラグをみてみると、その差は十か月となり、過去の例とそれほど大きな違いはみられない。すなわち、今回の景気回復期については、指標間の改善タイミングに大きな変化はみられないものの、雇用関係指標が改善に転じるまでに長期間を要していることがその特徴である。
<年齢による需給ミスマッチの拡大>
 労働力需給の構造的変化要因のうち、求人、求職面からみた変化としては、求人側の求める人材と、求職側の求める仕事との間のミスマッチが拡大していることが考えられる。
 需給ミスマッチの内容をミスマッチ指標でみると、職業や地域については最近ではやや縮小している一方で、年齢によるミスマッチは拡大している。これには、高齢化が進展する中で、高年齢者に対する労働力需要が不足していることや、若年層を中心とした離転職に伴う失業、求職の増加などが影響しているものとみられ、景気回復期においても失業率を下がりにくくしている一因となっている。
 また、求人、求職の内容を一般・パートタイム別に長期的にみると、昨今パートタイム求人の大幅な拡大がみられ、求人、求職それぞれに占めるパートタイム労働者の割合の乖離が年々広がる傾向にある。
<構造的・摩擦的失業は増加傾向>
 今回の景気回復局面の完全失業率の上昇について、雇用者ベースの失業率である雇用失業率と欠員率との関係を表すUV曲線によってみると、一九九一年年央以降の景気後退局面では、欠員率の低下とともに上昇していた雇用失業率は、景気回復局面に入った一九九四年以降、欠員率が上昇する中でも上昇しており、右上方へのシフトという傾向を示している。
 これは企業の欠員と失業とが同時に増加したことを意味しており、需給ミスマッチの拡大を示唆するものである。一九九六年七〜九月期以降は雇用需要が増加したこと等により、雇用失業率は低下に転じているものの、このところの失業率の上昇には、需要不足要因のほかに、構造的・摩擦的要因も影響していたものと考えられる。
 この構造的・摩擦的要因による失業を均衡失業率の推計結果から長期的にみると、一九七〇年時点で一・五%前後であった均衡失業率は傾向的に上昇しており、一九九六年十〜十二月期の時点では二・七%前後になっているものと推測できる。
 このような構造変化要因としては、経済社会のグローバル化や知識集約型社会への移行による産業・職業別就業構造の変化、高齢化、勤労者の意識変化などが背景として考えられる。
 また、一九九六年後半に完全失業率が低下したとはいえ、均衡失業率をかなり上回る水準にあり、なお需要不足失業が解消されていないことにも留意すべきである。
<障害者実雇用率は昨年に引き続き大企業を中心に上昇>
 障害者実雇用率は、一九九六年に一・四七%と過去最高の水準となり、大企業を中心に実雇用率が改善する傾向が一九九一年以降続いている。
 一方、雇用率未達成企業割合をみると、五百人未満の規模では上昇し、中小以下の企業での障害者雇用に厳しさが出てきていることがうかがわれる。
<外国人労働者の動向>
 一九九六年における就労目的の新規入国外国人は、前年に比べ減少したが、その要因としては、これらの者のうちの大半を占める在留資格が「興行」である入国者が、前年に引き続き減少となったことがあげられる。
 一方、外国人雇用状況報告制度により把握されている外国人労働者数のうち、直接雇用については前年よりも五・四%増加し、産業別にみると、製造業、サービス業、卸売・小売業、飲食店などで増加した。

<第2章> 賃金、労働時間、労働安全衛生の動向

<賃金の動向>
 一九九六年の賃金は、所定外給与の伸びが高まり、賞与等の特別給与が前年の減少から増加に転じたものの、所定内給与の伸びが低下したことから、現金給与総額は、事業所規模五人以上で前年比一・一%増と、前年と同じ伸びとなった。
 一九九六年の実質賃金は、一九九五年の前年比一・四%増から同一・一%増となり、前年の伸びを下回った。
 なお、所定内給与の伸びの低下には、パートタイム労働者比率の上昇が影響している。
 労働省労政局調べによる一九九六年の民間主要企業の春季賃上げ状況をみると、額で八千七百十二円、率で二・八六%と、一九九五年(八千三百七十六円、二・八三%)を額、率ともわずかながら上回った。
 また、一時金については、夏季一時金妥結額は七十七万三千四百八十一円、前年比三・三%増、年末一時金妥結額は八十一万九千六百六十七円、前年比二・八%増となり、いずれも前年の伸びを上回った。
<実労働時間の動向>
 年間総実労働時間の長期的動向を事業所規模三十人以上についてみると、一九九六年の年間総実労働時間は一千九百十九時間で、前年に比べて〇・三%増と前年に引き続きやや増加した。
 内訳をみると、所定内労働時間は一千七百七十四時間となり前年比〇・二%減と、一九九六年がうるう年であったことなどから小幅な減少となった一方で、所定外労働時間は百四十五時間と、景気の緩やかな回復を反映し、前年に比べて七・〇%増となった。
<労働時間の国際比較>
 一九九五年における製造業生産労働者の年間総実労働時間は、日本が一千九百七十五時間、アメリカが一千九百八十六時間、イギリスが一千九百四十三時間、フランスが一千六百八十時間、ドイツが一千五百五十時間となっており、日本の総実労働時間はアメリカより十一時間短く、また、イギリスより三十二時間、フランスより二百九十五時間、ドイツより四百二十五時間長くなっている。
 日本と欧州主要国との労働時間の差の背景としては、日本の出勤日数が多いことによる面が大きいと考えられる。
<死傷災害の動向>
 一九九六年における労働災害の発生状況をみると、死傷者数(死亡又は休業四日以上)は十六万二千八百六十二人、前年差四千四百五十四人減(前年比二・七%減)となり、引き続き減少した。
 死亡者数は二千三百六十三人と、阪神・淡路大震災の影響もあり死亡者数が大幅に増加した一九九五年に比べ減少(前年差五十一人減、前年比二・一%減)した。

<第3章> 物価、勤労者家計の動向

<物価の動向>
 一九九六年の総合卸売物価は、前年比で〇・七%の上昇となり、一九九〇年以来の上昇に転じた。また、全国消費者物価(総合)は、前年比〇・一%上昇(一九九五年同〇・一%下落)と、引き続き安定して推移している。
 商品・サービス分類別の寄与度をみると、前年に比べ、一般商品、石油関連品のマイナス寄与度は縮小し、生鮮食品はプラス寄与に転じている。サービス、公共料金はプラス寄与度が縮小している。
<勤労者家計収支の動向>
 一九九六年の勤労者世帯の実収入は、実質で前年比一・五%増となり、前年の伸びを上回った。実収入の内訳を前年比名目でみると、「世帯主の定期収入」(一・一%増)は前年と同じ増加幅となり、「世帯主の配偶者の収入(うち女)」(一・〇%増)は増加幅が縮小し、「世帯主の臨時収入・賞与」(二・七%増)は増加に転じた。
 また、可処分所得は、名目で前年比一・三%増と増加幅が拡大した。一九九六年の勤労者世帯の消費支出は、実質で前年比〇・六%増と四年ぶりの増加となった。
 消費支出の実質増加率を各要因別にみると、消費者物価の消費支出の実質増加への寄与は減少したものの、可処分所得の伸びが大きく拡大したほか、平均消費性向の低下幅が縮小したことから、消費支出は実質増加した。また、商品とサービスに区分してみると、商品は前年に比べ一・六%増、サービスも同一・七%増と前年の減少から増加となった。
 商品の動きを更に耐久財、半耐久財、非耐久財に分けてみると、非耐久財は実質〇・三%減、半耐久財は同〇・四%減となった一方、耐久財は同一六・八%増と大幅増加となり、年間を通じ消費支出の増加に大きく寄与した。

<第4章> 労使関係の動向

<一九九七年春の労使交渉の動向>
 一九九七年春季労使交渉は、我が国経済が緩やかな回復の動きを続け、企業収益が改善し、雇用情勢については厳しい状況にあるものの、改善の動きがみられる中で行われ、賃上げ額・率ともにおおむね昨年を上回る内容となった。
 主要単産における大手企業の賃上げ率は、鉄鋼が一・五六%、電機が三・一七%(以上三十五歳ポイント回答)、自動車が二・九六%であった。

<第2部> 構造転換期の雇用・賃金と高齢化への対応


<第1章> 労働力需要構造の変化と所得分配

<第1節> 経済成長と雇用、賃金

<我が国の労働力需要の長期的推移>
 一九五八年四〜六月期から一九九六年十〜十二月期までの実質成長率は、年率五・七%であるが傾向的に低下しており、特に、最近の第十一循環(バブル景気)における成長率は年率三・四%、現在の第十二循環の拡大局面の成長率は同二・二%である。この間、景気循環局面ごとの就業者の増加率は、第十一循環まで年率〇・五〜一・四%増と安定した増加を示してきた(第2図参照)。
 労働力需要関数を推計してみると、就業者の実質GDP弾性値は、次第に高まっている。また、労働投入量のGDP弾性値は就業者のGDP弾性値より大きいことから、労働時間による調整が就業者の変動を小さく抑える効果がある。労働と資本の相対価格の係数は負で、最近になるほど絶対値が大きくなっており、賃金上昇が高ければ労働力需要を節約する企業のコスト意識が強まっていることを示す。
 景気拡大局面の就業者増加率を要因分解してみると、第七循環までの高度成長期に比べ安定成長期では、弾性値の上昇に補われているものの、実質GDPの効果がやや小さくなっている。それ以上に、安定成長期に入って労働時間短縮の動きが停滞し、就業者の増加を抑制する方向に寄与した。
 第十一循環では、実質GDPの効果も高まるとともに、労働時間短縮が就業者増加に寄与した。
 そして、現在の第十二循環の拡大局面において、就業者増加率が低い主な要因は、成長率の鈍化といえよう。
<国際比較でみた我が国の労働力需要の特徴>
 日本、アメリカ、ドイツ(旧西ドイツ地域)、フランスについて、実質GDP、就業者、実質賃金の推移を比較すると、日本では相対的に高い成長の成果を、就業と賃金にバランスよく配分して増加させてきたのに対し、アメリカでは賃金よりも就業に、ドイツ、フランスでは就業よりも賃金にそれぞれより多く振り向けてきた。
 また、労働力需要のGDP弾性値はアメリカでは日本より大きく、ドイツ、フランスでは日本より小さい。
 労働投入の相対価格弾性値は、ドイツ、フランスで日本より高く、アメリカでは極めて低いなど、日本は欧米の中間的な労働力需要構造となっていることが推察される。

<第2節> 就業構造の変化と賃金

<第三次産業化が進む産業別就業構造>
 就業構造の変化をみると、第一次産業就業者数は長期的に減少を続けており、第二次産業就業者数は、第一次石油危機を契機に伸びが鈍化していたが、一九九〇〜一九九五年には、製造業の就業者数の減少を反映して減少した。
 第三次産業就業者数は、サービス業で高い伸びが続いていることなどから堅調に増加し、一九九五年の就業者構成比は六一・八%と、初めて六割を超えた。
 製造業就業者数は、一九九〇〜一九九五年では、消費関連、素材関連、機械関連の各業種とも減少したが、この背景には国際化の進展に伴う貿易構造の変化がある。
<貿易構造の変化>
 我が国の輸出の品目別構成をみると、資本財の割合が電気機器を中心に長期的に高まっており、一九九六年には約六割を占めている。また、耐久消費財の割合は低下傾向にある。
 輸入の品目別構成では、鉱物性燃料、粗原料の割合が大きく低下する中で、資本財、消費財の割合が上昇している。製品輸入比率は一九九六年には五九・四%へと高まっており、その構成も、機械機器の割合が大きく上昇するなど、水平分業が進んでいる。
 輸出入の地域別構成比をみると、アメリカ、EUの割合が、輸出は緩やかに低下し、輸入は横ばいで推移している中で、東アジアの割合が輸出入ともに高まっている。
 こうした貿易構造の変化の背景としては、一九八五年のプラザ合意以降の円高の進展等から、価格競争力を喪失した労働集約財や低付加価値製品の海外生産や輸入増大を図り、国内製品や輸出製品をより高付加価値製品にシフトするという、国際分業の進展があると考えられる。
 輸出特化係数((輸出−輸入)/(輸出+輸入))をみると、資本財や部品関連では特化係数が高く、あまり低下がみられないが、消費財関連は低下が目立っている。
 輸出入の高付加価値化の指数を試算すると、輸出の高付加価値化が進む一方、低付加価値製品の輸入が増大してきたことがうかがわれる。
 また、我が国の製造業の海外生産比率は近年上昇傾向にあり、製造業現地法人からの逆輸入も増加している。
<国際化の進展と国内生産、雇用、賃金への影響>
 貿易の雇用・賃金への影響について、輸入浸透度との関係からみると、輸入浸透度の高まっている業種で就業者数の減少率が大きくなっており、また、輸入浸透度と製造業の相対賃金(高卒男子四十五〜四十九歳層)の間には負の関係がみられ、貿易構造の変化が雇用や賃金に影響を及ぼしていることがうかがわれる。
<製造業、非製造業別の労働生産性、雇用、賃金、価格の動向>
 製造業を業種別にみると、賃金上昇率にはそれほど差がみられない中で、生産性上昇率や価格は、機械関連業種で生産性の伸びが高く、価格も低下するなど、業種間で差がみられる。
 非製造業も含めて産業別にみると、製造業は非製造業より生産性上昇率が高く、価格上昇率が低い。就業者数は非製造業でかなり増加しており、賃金上昇率のばらつきは小さい。非製造業では、製造業より価格の上昇により、雇用の拡大、賃金の上昇が可能となっている面が強く、特にサービス業でこの傾向が顕著である(第3図参照)。
<アメリカ、ドイツより高い日本の製造業の生産性上昇率>
 アメリカ、ドイツと比較すると、生産性上昇率は、我が国の製造業はアメリカ、ドイツより高いが、非製造業はドイツを下回っているほか、製造業の業種間格差が大きい。
 非製造業の生産性上昇率は、日本、アメリカでは製造業を下回り、特にアメリカでは低いが、ドイツでは製造業より高い。また賃金上昇率は各国とも大きなばらつきはみられないが、価格上昇率は、日本の製造業の業種間の差が大きく、日本、アメリカでは非製造業が製造業を上回るが、ドイツは同程度であり、就業者数は各国とも製造業で減少し、非製造業で増加している。
 このように、我が国では製造業の生産性上昇率は高いが、非製造業の生産性上昇率は低い上、製造業の業種間格差が大きく、生産性格差が拡大している。生産性上昇率が相対的に低い業種では、今後、国際競争が激化し、価格の上昇が困難となれば、雇用面や賃金面への調整圧力が強くなる可能性があり、発展分野への円滑な労働移動の推進や低生産性部門の生産性向上などが重要な課題となる。
<国際化への対応>
 国際分業の進展は、産業の高付加価値化を図り、生産性を高めていく上で望ましいと考えられるが、個々の企業や地域での雇用面への影響が懸念される。自社等の海外進出等の影響により雇用が減少した企業割合は、増加した企業割合を大きく上回っている。企業は現場、事務部門の省力化を進め、技術開発、販売部門の強化を図っている。製品の高付加価値化や新規事業分野の開拓が求められている中で、ベンチャー企業等、新分野展開をめざす中小企業は、雇用の担い手としての役割が期待されているが、課題も多く、人材面では特に専門家の不足が問題となっている。
 一方、海外生産や輸入等が拡大する中で、熟練技能の喪失も懸念されている。今後、新規事業分野を担う人材の育成や新分野展開をめざすベンチャー企業等での人材の確保・育成、地域における労働者の高度な技能等を活用した新事業展開による雇用機会の創出等が重要である。
<非製造業の雇用増加分野>
 今後、雇用機会の拡大が期待されている第三次産業分野についてみると、卸売・小売業、飲食店では、一九八五〜一九九五年で九・二%増(年率〇・九%増)となっており、その中では小売業の伸びが一二・九%増(年率一・二%増)と高く、特にその他の飲食料品小売業(コンビニエンスストア等が含まれる)など、新しい業務形態を含む分野での伸びが高くなっている。
 サービス業の就業者数は、一九八五〜一九九五年で三三・三%増(年率二・九%増)と大きく増加しており、一九八五〜一九九五年の全就業者数の増加寄与の約七割を占めている。
 業種別には、事業所関連サービス、社会福祉関連サービス、余暇関連サービス、医療・保健サービスで高い伸びとなっている。
<アメリカと日本の雇用と実質賃金>
 アメリカでは、サービス業等賃金水準の低い業種での雇用増加が大きく、製造業等賃金水準の高い業種は雇用が減少している業種が多く、また実質賃金上昇率は、多くの業種でマイナスとなっている。なお、サービス業は、業種によって賃金水準がかなりばらついている。
 これに対し、日本の場合は、サービス業の賃金水準が平均をやや上回るなど、雇用増加分野が賃金水準の低い産業に集中した状況はみられず、しかも、ほとんどの産業で実質賃金が上昇するなど、全体として雇用の増加と実質賃金の上昇が図られてきた。
<非製造業の低生産性と資本装備率>
 非製造業の生産性水準は、製造業を下回っており、また、業種間の格差も大きい。資本装備率が高い産業ほど生産性水準が高い関係にあり、こうした生産性水準の差は、非製造業には機械化が難しい業種も多く、資本装備率が低いことも影響していると考えられる。
<非製造業で遅れる効率性の改善>
 労働生産性上昇率を労働力、資本ストック及び全要素生産性の三要因に分けてみると、製造業の生産性の上昇には、全要素生産性が大きく寄与しており、特に機械関連業種で高くなっている。
 非製造業では、特に、建設業、運輸・通信業、不動産業、サービス業で生産性上昇率が低い。非製造業では、資本装備率も堅調に高まっており、多くの業種で資本ストックの寄与が大きい。生産性上昇率に製造業との格差がみられる背景としては、就業者数の増加もあるが、主に、全要素生産性の寄与が小さいことがあげられ、製造業に比べ、非製造業では技術進歩等の活動効率の上昇が遅れているといえる。
<非製造業の低生産性と内外価格差>
 製造業と非製造業との生産性の水準及び上昇率にみられる格差は、しばしば内外価格差の原因の一つとして指摘されている。OECD諸国について一人当たりGDPと物価水準の関係をみると、実質所得が高い国は物価水準が高い関係にあるが、我が国は、実質所得の水準以上に物価水準が高くなっている。
 この点について、費目別の価格構造をみると、アメリカは概してOECD平均を下回り、品目間のばらつきも小さいのに対して、我が国はOECD平均に比べ全般的に価格水準が高く、品目間のばらつきも大きく、食料、エネルギー、運輸、建設、サービス関連で価格が高くなっている。
 こうした内外価格差の背景としては、国土条件等の制約もあるが、非製造業での効率性改善の遅れによる低生産性や、規制等により競争原理が働きにくいこと等が考えられる。
<労働生産性向上が課題となる非製造業>
 我が国経済が今後国際競争力を維持しつつ高付加価値化を図っていく上で、内外価格差の是正が求められており、こうした意味でもサービス分野等、非製造業の生産性向上が課題となっている。
 サービス業については、需要の動向に生産性が左右される業種も多く、労働集約的な産業が多いことからも生産性の上昇が難しい分野もあるが、可能な限り活動効率を高め、高付加価値化を図るなどにより、生産性の向上を図ることが、労働条件の改善を図るためにも重要である。
 生産性の向上については、サービス業の経営面の課題として、労働生産性の向上をあげている企業が最も多く、企業も重要課題として認識しており、過半数の企業で生産性の向上に取り組むとしている。業種別には、いずれの場合も対事業所サービスで高く、社会的・公共的サービスで低くなっている。また労働生産性向上に取り組む企業の七割で生産性が向上すると見込んでいるが、社会的・公共的サービスでは六割とやや低く、相対的に生産性向上が難しい状況となっている。
 非製造業分野の生産性向上を図るため、規制緩和等構造改革の推進や人材育成と能力活用、情報化等技術革新の成果を取り入れた資本装備率の向上や企業のコスト削減努力のほか、時間当たりに提供できるサービスが限定される業種では、需要ニーズの平準化等が重要である。
<規制緩和の効果>
 規制緩和には、@企業のビジネスチャンスの拡大、新規事業創出、A低生産性部門等の競争促進による効率性の上昇、高コスト構造の是正、内外価格差の是正・縮小、多様な財・サービスの提供、B制度・仕組みの国際的調和(透明性の確保)等の効果が期待される。
 我が国では、規制分野の比率は、製造業と比較して、非製造業は多くの業種で高くなっているが、最近、機動的かつ積極的な規制緩和の推進が図られている。
<規制緩和の分野の状況>
 小売業では、規制緩和の推進により出店件数が増加している。個人商店や小規模商店では、商店数、従業者数が減少しているが、中・大規模の新規の出店の増加から、全体としての従業者数は増加している。ディスカウントストア等新業態の展開も消費者メリットを及ぼすとみられるが、小規模小売店で厳しい状況にあるほか、競争が激化する中で、個別企業レベルでの販売額の減少や従業者数の抑制がみられている点は留意する必要がある。
 約八割の事業所で環境変化に対応する施策を実施しており、こうした事業所では、労働者数が増加した割合が減少した割合より高いが、正社員は減少、パート・アルバイトが増加という割合が高い。
 こうした中で、優秀な人材の確保、就業意欲の維持・向上等が労働面の課題となっており、また、労働者の仕事内容がより高度化している。酒類小売業では、価格低下という形で消費者メリットが拡大しているが、経営環境の厳しさやコンビニエンスストア等への業態変更などから、酒類小売業商店としては、個人商店を中心に商店数や従業者数が減少している。
 電気通信業では、新規事業者の参入が進んでおり、競争原理の導入によるサービスの多様化や各種料金の低下がみられるほか、技術革新や消費者ニーズの拡大、新製品の登場等により、事業規模や通信関連の市場が拡大している。
 新規参入業者では雇用が大きく増加しており、規制緩和の推進により、経済の活性化が進み、新たな雇用機会が創出されることが期待される。
<規制緩和と雇用>
 規制緩和が雇用に及ぼす影響については、@規制緩和により新規事業分野の拡大が図られたり、新規参入が促進される中で、価格の低下が需要の増加に結びつく場合には、雇用機会の拡大が期待できる、A規制緩和により価格が低下した場合に、当該製品に対する需要の価格弾力性が低く、価格の低下が需要の増加をそれほどもたらさない場合には、当該部門の所得が需要者に移転することとなり、当該部門においては雇用あるいは賃金の調整が必要となる、B規制緩和による競争の激化による効率化が、低生産性部門の雇用需要を減少させた場合に、雇用発展分野に円滑に労働移動できず、職種や年齢による労働力需給のミスマッチの拡大や、所得格差の拡大をもたらす、など様々な影響が考えられる。
 今後、規制緩和を推進するに当たっては、全体としての雇用機会を確保しつつ、低生産部門の効率化等により、離職を余儀なくされる労働者等に対しては、労働力需給調整機能の強化や能力開発の推進などにより、発展分野へ円滑に移動できるようにしていくことが必要である。
<情報化要員を始めとする専門的・技術的職業従事者の急増>
 近年、情報通信技術や関連機器の導入、活用による情報化は、企業のあらゆる部門において急速に進んでいるが、情報化の進展に伴う労働面への最も大きな影響の一つとしては、情報処理に従事する労働者の増加が他の労働者に比べて著しいということがあげられる。
 ただし、情報処理技術者の最近の増減動向をみると、システム・エンジニアについては、引き続き堅調な増加がみられるものの、プログラム作成の受注の減少や、パッケージ・ソフトウェアの普及、入力作業のオンライン化等によるプログラマーやキイ・パンチャーの減少もみられる。
<情報化に伴う事務部門等での労働者構成の変化>
 情報化に伴う雇用への影響には、@情報処理技術者や科学研究者、電子計算機等操作員といった情報化に深く関わっているとみられる職業における雇用者数の増加、A単純定型業務に従事していた女性社員の戦力化、高度活用、B単純業務における正規労働者から非正規労働者への労働力需要のシフト等があげられる。
<雇用管理の変化>
 情報ネットワーク化の進展と新規学卒採用者の学歴構成の関係をみると、おおむね情報ネットワーク採用企業割合が高い業種ほど、新規学卒採用者に占める大卒者の割合が高くなるという相関関係がみられる。
 また、仕事面では、@単純業務が減少する一方、従業員一人一人の職務範囲は広くなる、A創意工夫の大きい仕事、専門性の高い仕事のウェイトが増加する、B意思決定のスピード化や企業内各部門の相互依存が強まる中で、業務遂行における自立性、自己完結性が求められる、等の変化がみられることから、情報化は労働者に、より高いパフォーマンスを求めるとともに、人事労務管理の個別化を進める効果があるものと考えられる。
<情報化関連職種の賃金>
 我が国の情報化の進展に対して大きな役割を果たしたシステム・エンジニア等、情報化関連職種の労働者の賃金についてみると、これらは労働者計の平均賃金の水準を大きく下回っている。ただし、情報化関連職種と労働者計の賃金を、学歴、年齢、勤続年数ごとの労働者構成を調整したもので比較すると、格差は大きく縮小し、見かけほど大きくないことが確認される。
 しかしながら、情報化関連職種のうち最も賃金が高いシステム・エンジニアであっても、その水準は労働者計をやや下回る程度にすぎず、また、近年の需要増にもかかわらず、両者の格差はやや拡大する傾向もみられることから、こうした情報化関連職種の労働者は、その役割に照らして必ずしも十分評価されているとはいえない。
<アメリカにおける職業別雇用と賃金>
 我が国に先行して情報化が進み、様々な分野でのコンピュータ活用がより普及しているアメリカについて、労働力需要と賃金の関係をみると、管理的職業従事者及び専門的・技術的職業従事者といった賃金水準の高いグループと、サービス職業従事者及び労務作業者といった賃金水準の低いグループ、それ以外の職業が、その中間のグループとしておおむね分類ができ、情報化関連職種の賃金は、高賃金グループの付近に位置づけられる。このうち、管理的職業従事者や専門的・技術的職業従事者では、情報化関連の代表的な職種とともに、他の多くの職業で需要の伸びが縮小する中で、増加幅が拡大しており、賃金についても平均を上回る堅調な伸びを示している。
 こうした雇用需要の職業間格差や賃金格差の拡大の背景には、情報化の進展等により、労働力需要における技術指向へのシフトが強まった結果、高学歴者の需要が増したことがあるものとみられる。
<アメリカとの比較でみた我が国の特徴>
 我が国の職業別の労働力需要と賃金については、管理的職業従事者と事務従事者を除けば、専門的・技術的職業従事者で高く、それ以外の職業では低いといった相対関係がみられるが、アメリカと比べて賃金水準の格差は小さい。
 また、専門的・技術的職業従事者については、アメリカ同様、他の職業に比べて堅調な雇用需要の増加を背景に、賃金水準も相対的にやや上昇している。ただし、情報化関連職種については、労働者全体の平均水準以下である点は、アメリカと対照的である。
 今後、国際競争が一層激化する中で、技術革新に対応できる人材を育成・確保する必要性が高まっており、能力の適切な評価や多様なキャリアパスの整備等に基づく処遇の改善、職業生涯の各段階を通じた職業能力開発機会の提供などの重要性が増すものとみられる。
<非正規労働者の構成比率の高まりとその背景>
 近年、産業や企業規模を問わず、非正規労働者比率の高まりがみられる。
 非正規労働者の労働力構成上の特徴としては、@男子に比べて非正規労働者比率の高い女子で増加も著しいこと、A非正規労働者のうちの就業形態では、パートタイマーの割合が最も高く、増加も著しいこと、B産業別では、卸売・小売業、飲食店、サービス業等で非正規労働者の割合が高いことがあげられる。
 非正規労働者比率上昇の背景について、労働力需要側からは、専門的業務への対応、即戦力・能力のある人材の確保、人件費の節約など、就業形態によって雇用理由にも違いがみられるが、近年では人件費が割安であることや、仕事が減った時に雇用調整が容易であることなどの理由から、パートタイム労働者を雇用する事業所割合が増加していることに特徴がある。
 また、労働力供給側からは、性別や年齢階級により就業ニーズに多様性がみられるが、構成比として最も大きい女子中高年齢層については、結婚や出産を契機に退職した後も、高い潜在的労働意欲を持つ者が多く、家庭責任との両立を図りながら、自分の都合のよい時間に働けるパートタイム労働が選好されているものとみられる。
<正規労働者と非正規労働者の労働条件等の違いと問題点>
 非正規労働者について、パートタイム労働者を例にとり、一般労働者と労働条件等の実態を比較してみると、@賃金面では、相対的に水準が低く、その格差も拡大している、A労働時間については、建設業や製造業を中心に拘束の程度が正規労働者に近い者の割合が高い、B通勤時間は一般に短く、職住接近志向がみられる、C長期勤続者の割合は依然低いが、勤続は着実に長期化しており、役職者比率にも一定の上昇がみられる、といった傾向がある(第4図参照)。
 パートタイム労働者の中に、基幹的、恒常的な労働力として就業する者が増加しているにもかかわらず、正規労働者との賃金格差が拡大している背景には、中高年齢化の進展に伴い企業の人件費負担感が高まる中で、勤続に応じて賃金が上昇する一般労働者より人件費が割安であるパートタイム労働者を雇用することで、コストダウンを図ろうとする企業行動があるとみられ、この傾向は今後とも単純・定型的業務を中心に続く可能性が強い。また、正社員への転換を希望する者もかなりいるが、依然こうした制度が十分整備されているとはいい難い状況にある。
 今後は、適切な能力開発機会を提供するとともに、能力・業績に見合った賃金制度の整備、正社員への登用の道を開くこと等によって、パートタイム労働者等、非正規労働者の有効活用を図ることが求められる。

<第3節> 我が国の所得分配構造

<大きな拡大はみられない我が国の賃金格差>
 我が国の賃金格差の動向をみると、男女とも一九八〇年代にやや拡大する傾向がみられたが、アメリカやイギリスの拡大テンポに比べると、極めて緩やかな動きとなっており、我が国の賃金格差に目立った拡大の動きはみられないといえる。
 こうした動きを反映して、我が国の賃金格差は、国際的にも比較的小さなものとなっている(第5図参照)。
<縮小傾向にある年齢間賃金格差>
 年齢間賃金格差の変化要因をみると、勤続・学歴別の賃金変化は、中高年齢化に伴う人件費負担感の高まりや、定年延長に伴う年功賃金カーブの修正等を反映して、一九八〇年以降、どの年齢層でも格差を縮小させる方向に寄与しており、その寄与は団塊の世代(一九四五〜一九四九年生まれ)を含む四十五〜四十九歳層(一九九五年)で最も大きくなっている。
 学歴別労働者構成の変化は、一貫して格差を拡大させる方向に寄与しているが、近年では大学進学率が既に高水準となっていることから、比較的新しいコーホートでは、その寄与はほとんどみられなくなっている。
 また、勤続別労働者構成の変化は、定年延長の進展等の効果もあって、五十歳以上のコーホートを中心におおむね格差を拡大させる方向に寄与しているが、団塊の世代以下のコーホートでは、その寄与はほとんどみられない。
 こうしたことから、年齢間賃金格差は、団塊の世代を含む四十五〜四十九歳以下のコーホートにおいて一貫して縮小する傾向にある。
<重要性を増す能力開発と能力評価>
 このように、年功賃金カーブの急な高学歴労働者や大企業労働者の賃金が抑制されたことを背景に、勤続・学歴別の賃金変化が格差の縮小に大きく寄与してきたが、近年、男子大卒四十歳台における賃金のばらつきが拡大しており、賃金決定において能力や業績を反映する傾向が強まると、今後全体としての賃金格差が拡大する可能性もある。
 また、これまでの企業における労働コストの抑制が、パートタイム労働者等、非正規労働者のウェイトの増加や、一般労働者とパートタイム労働者との賃金格差の拡大などにより図られてきたことにも留意が必要である。
 今後は賃金制度をより能力・業績主義的なものにするなどの見直しにより、ある程度賃金格差が拡大する可能性があることは否定できないものの、労働者の職務能力や業績を適切に評価する仕組みを構築するとともに、労働者が主体的に能力開発を行える環境の整備を図ることなどにより、全体としての賃金の上昇を図っていくことが重要である。
<所得格差の動向>
 家計における所得格差の動向をみると、勤労者世帯では一九八〇年代半ば以降、おおむね横ばいで推移しているが、無職世帯等を含む全世帯ではやや拡大傾向にある。
<所得分配に対する高齢化の影響>
 一九八〇年代以降、六十五歳以上の無職世帯を中心に、高年齢無職世帯のウェイトが急速に高まっている。
 勤労者世帯の所得格差がほぼ横ばいで推移する中で、全世帯の所得格差が一九八〇年代前半以降、拡大傾向で推移してきたのは、主に人口の高齢化と、それに伴う高年齢無職世帯の大幅な増加の影響であったといえる。
<所得階層別にみた所得格差と消費格差>
 六十歳未満層では、世帯主以外の世帯員の就業の有無とその所得水準が、六十歳以上の高年齢層では、世帯主の就業状態のほか、公的年金給付等のその他の収入の大きさが、世帯の所得分布に影響を与えている。
 一方、所得階層別にみた支出動向は、おおむね所得を反映したものとなっているが、低所得層では所得面の制約から選択的消費支出の水準がかなり低いものとなっており、家計を維持する上でかなりの節約を余儀なくされていることがうかがえる。
<主要国との比較でみた我が国の所得格差>
 我が国の所得格差の水準は、アメリカ、イギリスに比べ大きいとはいえず、また、所得階層間における年収格差の拡大も、アメリカに比べ比較的小さなものとなっている。
<今後の課題>
 今後、我が国が構造転換を図っていく上で、高失業社会に陥らず、また賃金格差拡大による不平等感が高まらないようにしていくための課題として、@成長分野への円滑な労働移動の実現、A新規事業分野の開発と、それを担う人材の確保・育成、B職業構成の変化等に対応した人事労務管理制度の見直しと、最低賃金制度の適正な改定による低賃金労働者の労働条件の改善、C非正規労働者の増加が、低い労働条件を強いられる労働者の増加につながらないようにするため、就業条件の整備の推進や、能力開発の充実、能力・業績の正当な評価など、個々の状況に応じた雇用管理の改善、希望に応じた就業形態転換制度の普及、があげられる。

<第2章> 高齢化の進展と高年齢者の就業問題

<第1節> 高齢化の進展と高年齢者の雇用・就業の動向

<高齢化の進展と高年齢者就業への対応の重要性>
 今後十五歳以上人口の伸びの鈍化に伴う労働力人口の伸びの鈍化に加えて、高齢化の進展による労働力率の低下が見込まれる中で、マクロ経済に対しても、一人当たり実質GDPの減少に伴う国民の生活水準の低下、扶養負担の増大といった影響が及ぶことが考えられる。
 我が国の高年齢者の高い就業意欲を無駄にすることなく、就業に結びつけ、能力発揮を図ることは、高年齢者自身の充実した職業生活を実現する上でも、マクロ経済にもプラスの影響を与えるという点でも重要な課題である。
<高年齢者の労働力供給の推移とその背景>
 男子六十歳台前半層の労働力率は、長期的には低下してきたが、一九八〇年代後半以降、上昇をみせた(第6図参照)。
 こうした高年齢層の労働力率の時系列的な動きは、自営業要因、仕事以外の収入要因、労働力需給要因等の影響を受けている。長期的な低下の要因としては、農林業を始めとする自営業比率の低下や、年金収入等仕事以外の収入の増加などが、一九八〇年代後半以降の上昇の要因としては、バブル期の労働力需給の引き締まりや、定年年齢の引上げを始めとした高年齢者の雇用環境の整備などが考えられる。
<高年齢者の就業・引退選択を左右する健康、経済状況>
 高年齢者の就業・引退選択は、主として健康上の理由及び経済上の理由という要因に左右されるが、生きがいや社会参加といった意識の面も影響を与えている。経済的理由についてみると、賃金の低下は、高年齢者の就業意欲にマイナスの影響を与えると考えられる。そうした点を踏まえ、高年齢者の職業生活の円滑な継続を図るため、高年齢雇用継続給付制度が創設された。
 仕事以外の収入の増加は、就業意欲にマイナスに働くと考えられる。こうした仕事以外の収入の中でも、在職老齢年金制度は、六十歳台前半層の就業行動を規定する大きな要因である。また、高年齢者の場合、収入の格差が大きく、支出面の住宅ローンの返済費、仕送りなどの教育費の有無が就業率の差を生んでいる。
<国際的にみて高い男子高年齢者の労働力率>
 我が国の男子高年齢者の労働力率は、国際的にみて高い水準にあるが、その背景としては、高年齢者の労働意欲が国際的にみて高いこと、欧米諸国では若年層の失業が深刻な中で早期引退を促進したり、年金の繰上げ支給を行ってきたことなどがあげられる。
<高い水準とはいえない自営業主比率>
 我が国の男子就業者(六十〜六十四歳層)の自営業主比率は、諸外国と比較して高いとは必ずしもいえない。
 また、日本及び先進諸国における自営業主比率と労働力率との関係をみると、自営業主比率が高いほど労働力率も高いという関係はみられず、自営業主比率により、我が国の労働力率の高さを説明することはできない。
<高年齢者の勤労観の違い>
 六十歳以上の男子が、職業生活から引退すべき年齢として、何歳ぐらいがよいと考えているかをみると、六十五歳以上とする割合が他の諸国と比較して高くなっている。
 公的年金制度の内容が他国に比べて遜色がないにもかかわらず、引退年齢を六十五歳以上とする者が八割以上いるという事実は、間接的にではあるが、高年齢者の労働意欲が国際的にみて高いことをうかがわせる。
<高年齢者の早期引退を促す欧州諸国>
 我が国の完全失業率は、五十五〜五十九歳層については、諸外国に比べて低い水準にあるが、六十〜六十四歳層については、必ずしも低いとはいえない。
 我が国の場合、五十五〜五十九歳層から六十〜六十四歳層にかけて上昇し、他の諸国の場合、五十五〜五十九歳層から六十〜六十四歳層にかけて同水準ないしは低下している。
 この背景には、欧州諸国では、若年層の失業が深刻であり、それへの対応として、政策的に高年齢者の早期引退が促進されてきた経緯がある。また、そうした政策展開と併せて、いったん失業した場合、長期失業を余儀なくされる厳しい就業環境への懸念が、早期引退の選択を促すことになり、こうしたことが、高年齢者の完全失業率の低下と労働力率の低下という結果として表れているものと思われる。
<加齢に伴い構成比が低下する製造業>
 男子高年齢就業者の産業別構成をみると、加齢に伴って農林漁業、建設業、サービス業の割合が高まる一方、製造業、運輸・通信業の割合が低下している。
 こうした変化は、五十歳台後半から六十歳台前半にかけて大きい。
<定年を期に引退、職種転換を余儀なくされる高年齢者>
 男子高年齢就業者の職業別構成をみると、加齢に伴って管理的職業従事者、農林漁業作業者、保安職業、サービス職業従事者の割合が高まる一方、事務従事者、運輸・通信従事者等の割合が低下している。
 五十五歳当時の職種別に男子高年齢者の現在の就業状況をみると、五十歳台後半層では、八割前後が同一職種で就業しているが、六十歳台前半層では、職種によるばらつきがあるものの、不就業及び異なる職種での就業割合が高まっている。また、六十歳台前半層で五十五歳当時と同一職種に就いている割合が低い場合は、不就業を選択するケースが多く、高年齢期における職種転換の難しさが示唆される。
 また、いったん定年を迎えると、再雇用又は勤務延長される場合を除き、引退又は職種転換という困難な選択を迫られるケースが多い。
<五十歳台においても高い大企業から中小企業への移動割合>
 男子高年齢雇用者の企業規模別構成をみると、一千人以上規模の企業の割合が五十歳台後半以降低くなる一方、百人未満規模の企業の割合は上昇しており、大企業で定年前の退職や出向がかなりの規模で行われていることが考えられる。
<厳しい高年齢者の雇用環境>
 高年齢者の有効求人倍率は、年齢計よりかなり低く、完全失業率は、男子六十歳台前半層では年齢計の二倍以上という高水準となっている。
 完全失業率は若年層でも高いが、前職の離職理由をみると、若年層では自発的理由による者が多いのに対し、高年齢層では定年等を含む非自発的な理由による者が多く、失業期間も長い者が多い。高年齢層では、いわゆるディスカレッジドワーカーの非労働力人口に占める割合も高く、高年齢者の知識・能力をいかせる職場がないことが、その要因としてあげられている。
 このように高年齢層をめぐる雇用環境は厳しいが、今後、労働力人口に占める高年齢層の割合が増大することを考えると、高年齢層の就業環境の整備が一層重要となる。

<第2節> 高齢化に対応するための企業の取組

<高い一律六十歳定年制の普及率>
 現在主流となっている一律六十歳定年の普及動向をみると、最近では三十〜九十九人規模企業を除くと、八割以上の普及率となっており、また、三十〜九十九人規模企業においても着実に普及率が上昇している。
 この結果として、各年齢階級の同一企業内の残存率の動向をみると、高年齢層、とりわけ五十歳台後半の残存率が上昇している。
<大企業ほど限定される勤務延長・再雇用制度適用対象者>
 それぞれの制度の導入状況を企業規模別にみると、勤務延長制度は規模が大きい企業ほど導入割合が低いが、再雇用制度では規模間格差が少ないという特徴がみられる。
 一方、制度適用労働者のいた企業の割合をみると、制度導入状況を反映し、勤務延長制度については小規模企業ほど高く、再雇用制度はどの企業規模でも四〜五割で、大企業の方がやや高めの水準となっている。しかし、実際の適用者数割合をみると、企業規模が大きくなるほど顕著に少なくなっており、大企業ほど対象者を絞り込んでいることが分かる(第7図参照)。
 勤務延長制度についてみると、勤務延長前後で役職、資格、仕事の内容が変わらないキャリア活用型は大企業ほど減少傾向にある。また、比較的普及している再雇用制度では、キャリア活用型は大企業ほど割合が小さく、逆にキャリア非活用型は大企業ほど割合が大きい。これは、大企業では定年後キャリアの継続のもとに現役的に働く場が少ないことを示唆している。
<大企業で多い出向と早期退職優遇制による退職者>
 五十〜六十九歳の退職者の退職形態を企業規模別にみると、定年退職の割合が四割程度と最も多いが、特に大企業においては、定年退職と並ぶほどの割合で早期退職優遇制度によるものを含む定年前退職や出向がみられる。
 出向については、中小企業は大企業からの出向者の受け皿としての機能を果たしてきたが、人件費の増大といった問題点をあげる企業が多い。
 早期退職優遇制度は、ポスト不足や中高年齢層の賃金負担感が強く感じられている大企業で導入割合が高く、大企業ほど適用開始年齢も若い。
<五十歳台で逆転する残存率の規模間の関係>
 同一企業内の残存率について、各年齢層別にみると、四十歳台までは、大企業ほど残存率が高い。しかし、高年齢者の残存率については大企業ほど低い。今後は若年労働力が減少する中で、六十歳さらには六十五歳まで労働者のキャリアを活用しつつ雇用を継続する機会を拡大していくことが必要である。
<高年齢者活用の三大課題>
 一般的な定年年齢である六十歳を超えて雇用延長する際に直面した、又は今後直面すると考えられる課題についてみると、いずれの企業規模においても、健康面への配慮、賃金体系・退職金制度の見直し、職務内容・作業環境の見直しが三大課題としてあげられている。
<高齢化に対応して見直される年功賃金>
 高齢化に伴い、中高年齢層の賃金カーブの傾きは緩やかになってきている。一方、賃金のばらつきについてみると、最近十年間の間に中高年齢層では低所得者階層のばらつきがやや小さくなり、高所得者階層のばらつきが大きくなる中で、全体として賃金のばらつきが拡大している。
 こうした動きの背景には、最近の大企業を中心とした年俸制の導入など、賃金をその時々の貢献に近づけようとする能力・業績主義的賃金制度導入の動きがあるとみられる。
<賃金とのリンクが弱まる退職金制度>
 支給率の変更に次いで多くとられている退職金制度見直し内容は、企業規模によって異なっており、大企業では算定基礎額の算出方法の変更が多く、中小企業では算定基礎額の金額の変更が多い。
 また、退職一時金算定基礎の種類別動向をみると、近年、賃金とは別に定める金額を算定基礎とする企業が増加している。算定基礎額の算出方法の変更は、具体的には退職時の賃金を基準にしたものからポイント制等への移行であり、退職金を賃金と直接的に関連づけないための措置といえる。
<再雇用で大きい賃金減額率>
 勤務延長と再雇用の場合の賃金減額の状況をみると、勤務延長の場合、賃金を減額する企業は三〜五割程度にとどまり、減額幅も三〇%未満がほとんどである。
 一方、再雇用では、七割以上の企業が賃金を減額し、減額幅も三〇%を超える企業が多い。再雇用制度について企業規模別にみると、大企業ほど減額幅が大きく、五千人以上規模では三〇%を超える企業が五割を占めている。定年後に別の企業に再就職しても、賃金は大幅に減額する。勤続〇年の六十〜六十四歳層の賃金水準は、一つの企業に勤続してきた五十五〜五十九歳層の雇用者の賃金に比べ五割程度減少し、退職金の取崩し分を加味しても、同じ年代層の消費支出と住宅ローンを合わせた金額とほぼ同額となっている。
 いずれにせよ、こうした大幅な賃金の減少は、高年齢者の生活面に大きな影響を及ぼしうるほか、就業意欲を減退させる効果を持ちうる。若年、中年層も含めた賃金制度全般を見直し、高年齢労働者の能力を適正に評価・活用するための条件整備を行うことが必要である。
<年齢の影響を受けにくいホワイトカラー系職業能力>
 職種をこなすために要求される能力の種類は、職種により異なっているが、事業主と五十歳以上の労働者の間での認識の相違はほとんどみられない。また、要求される能力がある年齢以降は低下する、と回答した者の割合が、ホワイトカラー職種では他の職種よりも低い。
 こうしたことから、ブルーカラー系職業能力は相対的に年齢の影響を受けやすいが、ホワイトカラー系職業能力は比較的年齢の影響を受けにくいといえる。
<何らかの配慮があればホワイトカラーと同等の年齢まで働けるブルーカラー>
 最も能力を発揮する年齢をみると、ブルーカラー職種で低くなっている。しかし、何らかの配慮があれば働ける年齢については、ブルーカラー職種が他の職種と比較してやや高めとなっていることが注目される。
 その配慮の内容についてみると、仕事量の調整や分担の調整、勤務時間の調整といった内容が事業主、労働者とも多いが、労働時間の短縮や休暇の取りやすさといった項目では、労働者に比べ、事業主の関心は低い(第8図参照)。
 労働時間の短縮等に対するニーズは、高年齢者のみならず家庭責任を負った労働者でも大きいと考えられ、事業主のより積極的な取組が期待される。
<高年齢者をいかす雇用管理>
 ブルーカラー職種でも、個人差に配慮しつつ徐々に職務内容の変更を行う、あるいは作業環境を改善するなどにより、定年前後の職務内容の大幅な変更を避けつつ高年齢者の熟練した能力を有効に活用することができる。
 一方、ホワイトカラー職種は、相対的に加齢の影響を受けにくいが、その能力の発揮は、これまでのキャリアとの継続性が高い職場を得て初めて可能となる。
 キャリアの断絶を生じない雇用機会の確保のための方策のひとつとして考えられるのは、専門職制度の活用である。その本来的意義に沿った形で導入、運用されることは、労働者が加齢による能力の減退を補うだけの専門性を身につけることを可能とする。

<第3節> 高年齢者の就業機会の確保に向けた条件整備

<高年齢者の多様な就業形態、就労の場>
 普通勤務の雇用者の高年齢者全体に占める割合は、年齢が高まるに従って低下し、特に六十歳以降その就業形態は多様化する(第9図参照)。
 高年齢者の場合、健康上の制約や収入面の状況等から短時間勤務を希望する者が多く、短時間雇用機会の拡大が必要である。また、高年齢者にとって、定年がなく、就労時間の融通がききやすい自営業は働きやすい環境であり、今後、独立開業が注目されるほか、シルバー人材センター事業などの任意就業という形態も、多様な就業ニーズを持つ高年齢者の受け皿として重要である。
<見直しの進む諸外国の高年齢者対策>
 欧米諸国では、日本より先に高齢化が進展していたが、今後は日本の高齢化のテンポが他国を上回ると見込まれる。また、労働力人口に占める高年齢者の高まりも、今後、欧米諸国のそれを上回るテンポで推移すると予想される。
 現在、欧米諸国においては、年金制度等の高年齢者に関する制度のあり方が問われており、フランスを除き、高齢化に伴う財政上の問題から、年金の支給開始年齢の引上げが進められている。
 欧州諸国では若年失業が大きな問題であり、早期引退を望む高年齢者の就労意識とあいまって、早期引退促進策が行われてきたが、ドイツにおいては、早期引退促進策を是正し、高年齢労働者の希望に合った就労の促進や、高年齢失業者の再就職の促進が図られている。
<我が国における高年齢者雇用・就業対策及び今後の課題>
 我が国では高齢化のテンポが速く、高年齢者の就労意欲が高いにもかかわらず、これを充足する環境が整っているとはいえない。今後、「六十五歳現役社会」を実現するためには、能力主義的雇用管理の導入とあいまって、個々人の就業意欲、能力が適正に評価され、いかされる社会を構築することが必要である。
 高年齢者の雇用・就業機会の確保に当たっては、企業の自主的な努力に加え、行政の役割も重要である。そのため、今後とも、企業に対する指導・援助、高年齢者に対するきめ細かな相談、支援、能力開発機会の提供などが求められる。
まとめ
 今年の労働白書は、我が国経済社会が、国際化や規制緩和、情報通信を始めとする技術革新の進展等の下で構造転換期を迎えており、これらの動きが高齢化の進展とともに労働市場に様々な影響を与えている中で、労働力需要構造の変化と所得分配の実態及び高年齢者雇用の実情を明らかにし、雇用の安定と豊かな勤労者生活実現のための課題について、中長期的視点から検討した。
 我が国のマクロの労働力需要は、長期的にみると比較的安定した増加を示してきたが、近年の貿易構造の変化、規制緩和の推進、情報化等技術革新の進展等は、生産性の向上や高付加価値化を通じて、消費者の利益や作業内容の合理化等に資する側面がある一方、産業や職業、就業形態によっては、労働者の雇用面や賃金面にも大きな影響を与えている。その中で、一部の労働者層で賃金のばらつきや水準面の格差の拡大もみられる。
 我が国が、今後、高失業社会に陥らず、賃金格差拡大による不平等感が高まらないようにしていくためには、適切な能力開発機会の提供と客観的な能力評価制度の整備、失業なき労働移動への支援などによる成長分野への円滑な労働移動の実現等の対策が求められる。
 また、人口の高齢化が急速に進展する中で、高年齢者の就業の場をいかに確保していくかは、活力ある社会を築く上で重要な課題である。我が国の高年齢者の就業意欲は、諸外国に比べて高い水準にあるが、高年齢者の量的、質的な就業機会は十分とはいえない。
 今後、若年労働力が減少する中で、企業は労働者のキャリアを活用しつつ、六十五歳まで自社内で雇用を継続する機会を拡大することが求められる。そのためには、賃金制度全般を見直し、高年齢労働者の能力を適正に評価・活用することを可能とするための条件整備を行うことが望まれる。
 こうした企業の自主的な努力に加え、行政としても、企業に対する指導・援助とともに、多様な就業ニーズを持った就業者に対するきめ細かな相談・支援、職業能力開発機会の提供などを積極的に推進していく必要がある。
 このように、我が国は、高齢化が急速に進展する中で構造転換期を迎えており、労働面でも新たな対応が迫られている。こうした中で、能力・業績主義的な賃金制度導入の動きがみられるなど、雇用システムを見直す動きがみられる。
 今後、重要なことは、長期雇用のメリットをいかしつつ、個々の労働者の能力を適正に評価するとともに、労働者の多様な就業ニーズに応じた就業機会を提供し、労働者が能力を有効に発揮できるよう条件整備を図っていくことであり、そのためのシステムを構築するために、労使・行政が合意形成を図りつつ取り組んでいくことである。

目次へ戻る

消費者物価指数の動向


―東京都区部(五月中旬速報値)・全国(四月)―


総 務 庁


◇五月の東京都区部消費者物価指数の動向

一 概 況

(1) 総合指数は平成七年を一〇〇として一〇一・八となり、前月比は〇・三%の上昇。前年同月比は二月〇・〇%、三月〇・〇%、四月一・二%の上昇と推移した後、五月は一・四%の上昇となった。
(2) 生鮮食品を除く総合指数は一〇一・八となり、前月比は〇・三%の上昇。前年同月比は二月〇・一%の上昇、三月〇・一%の上昇、四月一・四%の上昇と推移した後、五月は一・六%の上昇となった。

二 前月からの動き

(1) 食料は一〇二・三となり、前月に比べ〇・二%の上昇。
  生鮮魚介は二・三%の下落。
   <値上がり>あじ、さけなど
   <値下がり>かつお、まぐろなど
  生鮮野菜は〇・二%の上昇。
   <値上がり>ほうれんそう、ねぎなど
   <値下がり>トマト、きゅうりなど
  生鮮果物は七・一%の上昇。
   <値上がり>いちご、オレンジなど
   <値下がり>メロン(プリンスメロン)、なつみかんなど
(2) 光熱・水道は一〇二・七となり、前月に比べ〇・八%の上昇。
  電気・ガス代は一・〇%の上昇。
   <値上がり>電気代など
(3) 家具・家事用品は九七・一となり、前月に比べ〇・七%の下落。
  家庭用耐久財は一・五%の下落。
   <値下がり>ルームエアコンなど
(4) 被服及び履物は一〇四・三となり、前月に比べ一・六%の上昇。
  シャツ・セーター・下着類は二・八%の上昇。
   <値上がり>婦人ブラウス(半袖)など
(5) 諸雑費は一〇三・〇となり、前月に比べ〇・五%の上昇。
  理美容サービスは〇・七%の上昇。
   <値上がり>パーマネント代など
 ○上昇した主な項目
 生鮮果物(七・一%上昇)、家賃(〇・三%上昇)
 ○下落した主な項目
 (特になし)

三 前年同月との比較

 ○上昇した主な項目
 外食(三・六%上昇)、教養娯楽サービス(三・三%上昇)、家賃(〇・八%上昇)、電気代(五・四%上昇)
 ○下落した主な項目
 教養娯楽用耐久財(六・八%下落)
 (注) 上昇又は下落している主な項目は、総合指数の上昇率に対する影響度(寄与度)の大きいものから順に配列した。

四 季節調整済指数

 季節調整済指数をみると、総合指数は一〇一・五となり、前月に比べ〇・一%の上昇となった。
 また、生鮮食品を除く総合指数は一〇一・五となり、前月に比べ〇・一%の上昇となった。

◇四月の全国消費者物価指数の動向

一 概 況

(1) 総合指数は平成七年を一〇〇として一〇二・二となり、消費税率の引上げなどにより、前月比は二・〇%の上昇。前年同月比は一月〇・六%の上昇、二月〇・六%の上昇、三月〇・五%の上昇と推移した後、四月は一・九%の上昇となった。
(2) 生鮮食品を除く総合指数は一〇二・二となり、前月比は一・九%の上昇。前年同月比は一月〇・五%の上昇、二月〇・四%の上昇、三月〇・五%の上昇と推移した後、四月は二・〇%の上昇となった。

二 消費者物価指数の推移

 総合指数の対前月比は、平成四年五月以降一%を下回る安定した動きで推移していたが、九年四月は消費税率の引上げなどにより、二・〇%の上昇となった。これには季節的な要因なども含まれているため、八年四月の対前月比(〇・六%上昇)と比べてみると一・四ポイントの拡大となった。対前年同月比は、九年一月〇・六%の上昇、二月〇・六%の上昇、三月〇・五%の上昇と推移した後、四月は一・九%の上昇となり、上昇幅は前月に比べ一・四ポイントの拡大となった。
 また、生鮮食品を除く総合指数の対前月比は、一・九%の上昇となり、平成八年四月の対前月比(〇・四%上昇)と比べてみると一・五ポイントの拡大となった。対前年同月比は二・〇%の上昇となり、上昇幅は前月に比べ一・五ポイントの拡大となった。







三 前月からの動き

(1) 食料は一〇二・五となり、前月に比べ二・七%の上昇。
  生鮮魚介は二・八%の上昇。
   <値上がり>いか、えびなど
   <値下がり>かれい、あじ
  生鮮野菜は一一・二%の上昇。
   <値上がり>ほうれんそう、キャベツなど
   <値下がり>えのきだけ、しめじなど
  生鮮果物は〇・六%の上昇。
   <値上がり>りんご(ふじ)、バナナなど
   <値下がり>いちご、なつみかんなど
  穀類は一・六%の上昇。
   <値上がり>食パンなど
  肉類は二・七%の上昇。
   <値上がり>豚肉(ロース)など
  菓子類は二・三%の上昇。
   <値上がり>まんじゅうなど
  調理食品は二・八%の上昇。
   <値上がり>弁当など
  飲料は一・七%の上昇。
   <値上がり>果実飲料(果汁一〇〇%)など
  酒類は一・五%の上昇。
   <値上がり>ビールなど
  外食は二・八%の上昇。
   <値上がり>ビール(外食)など
(2) 住居は一〇二・七となり、前月に比べ〇・四%の上昇。
  設備修繕・維持は一・九%の上昇。
   <値上がり>大工手間代など
(3) 光熱・水道は一〇四・〇となり、前月に比べ二・〇%の上昇。
  電気・ガス代は一・九%の上昇。
   <値上がり>電気代など
  上下水道料は二・四%の上昇。
   <値上がり>水道料など
(4) 家具・家事用品は九八・二となり、前月に比べ二・一%の上昇。
  家庭用耐久財は二・四%の上昇。
   <値上がり>ルームエアコンなど
(5) 被服及び履物は一〇四・三となり、前月に比べ四・九%の上昇。
  衣料は四・三%の上昇。
   <値上がり>背広服(夏物)など
  シャツ・セーター・下着類は九・〇%の上昇。
   <値上がり>婦人セーター(半袖)など
  生地・他の被服類は一・九%の上昇。
   <値上がり>ベルトなど
(6) 保健医療は一〇一・八となり、前月に比べ一・二%の上昇。
  医薬品は一・六%の上昇。
   <値上がり>漢方薬など
(7) 交通・通信は一〇〇・二となり、前月に比べ一・四%の上昇。
  交通は一・六%の上昇。
   <値上がり>普通運賃(JR)など
  自動車等関係費は一・三%の上昇。
   <値上がり>ガソリン(レギュラー)など
  通信は一・三%の上昇。
   <値上がり>通話料など
(8) 教育は一〇五・〇となり、前月に比べ二・〇%の上昇。
  授業料等は一・九%の上昇。
   <値上がり>私立大学授業料など
  補習教育は二・四%の上昇。
   <値上がり>学習塾
(9) 教養娯楽は一〇〇・九となり、前月に比べ二・三%の上昇。
  教養娯楽用品は一・三%の上昇。
   <値上がり>ペットフード(ドッグフード)など
  書籍・他の印刷物は一・九%の上昇。
   <値上がり>新聞代(地方・ブロック紙)など
  教養娯楽サービスは三・二%の上昇。
   <値上がり>宿泊料など
(10) 諸雑費は一〇二・三となり、前月に比べ一・九%の上昇。
  理美容サービスは一・六%の上昇。
   <値上がり>パーマネント代など

四 前年同月との比較

 ○上昇した主な項目
 家賃(一・五%上昇)、外食(三・〇%上昇)、教養娯楽サービス(三・一%上昇)、肉類(五・〇%上昇)、電気代(四・〇%上昇)、生鮮魚介(三・一%上昇)、ガス代(五・二%上昇)、調理食品(三・一%上昇)、授業料等(二・〇%上昇)、衣料(二・二%上昇)、設備修繕・維持(二・四%上昇)、交通(一・八%上昇)、シャツ・セーター・下着類(三・二%上昇)
 ○下落した主な項目
 教養娯楽用耐久財(七・五%下落)
 (注) 上昇又は下落している主な項目は、総合指数の上昇率に対する影響度(寄与度)の大きいものから順に配列した。

五 季節調整済指数

 季節調整済指数をみると、総合指数は一〇二・〇となり、前月に比べ一・六%の上昇となった。
 また、生鮮食品を除く総合指数は一〇二・〇となり、前月に比べ一・四%の上昇となった。
























































 防災訓練に参加しよう

 我が国は、これまで、地震、津波、台風、豪雨などによる災害に見舞われてきました。特に、平成七年一月十七日に発生した兵庫県南部地震は、阪神・淡路地域を中心に戦後最大の被害をもたらしました。
 地震に関しては、全世界で発生する地震の約一割が、日本列島及びその周辺の地域で発生しているといわれています。そこで政府は、昭和三十五年から関東大震災が発生した九月一日を「防災の日」、また、昭和五十七年からは八月三十日から九月五日までの一週間を「防災週間」として定め、広く国民に対して災害についての認識を深めるとともに、防災意識の高揚に努めています。
 この期間中は、全国各地で防災訓練、講演会、展示会等が開催されます。
 もし、いま地震が起きたら、あなたはどうしますか。最近の地震の発生状況からみても、全国いたるところで地震は発生しています。地震は、いつどこで起きるかわかりません。過去の例をみると、地震発生時には「あわててしまって何もできなかった」とか、「頭ではわかっていても、身体が動かなかった」などという例が多く見受けられます。「いざ」という時に役に立つよう、日頃から防災に関心を持ち、防災訓練にも積極的に参加し、消火、応急救護、避難などの防災行動を修得しておくことが大切です。
 防災訓練は、各地方公共団体、消防署などの防災関係機関や地域の事業所、町内会・自治会組織、防災市民組織あるいは家庭の主婦を対象とした女性防火組織などの自主防災組織が協力しあって、次のような訓練を実施しています。

◇初期消火訓練

 火災が発生した場合、炎が小さいうちに消火器や水バケツなどの消火用具を使用して、消火する方法を身につける訓練です。また、自主防災組織等の可搬式小型動力ポンプ等による消防訓練もあります。

◇救出・救護訓練

 家屋の倒壊や瓦礫の中から被災者を助け出す救出方法や、建物などからの落下物、ガラスの破片等による怪我や骨折した人に対する応急手当ての方法、自力で歩けない人たちを救護所等へ搬送する要領等を身につける訓練です。

◇避難訓練

 災害発生時に避難誘導員の指示により、各地域ごとに定められた避難場所まで安全かつ迅速に避難する方法を身につける訓練です。また、地震に備えて家族で避難場所を確認しあい、名前、避難場所及び連絡先を記入したカードを作成して、身につけておきましょう。

*     *     *

 このような防災訓練に繰り返し参加することで、防災に対する自信が生まれ、災害時に落ち着いて行動することができるようになり、生命や財産を守ることができるのです。つまり、個人個人が自分自身の安全の確保を行い、災害の小さな芽を摘むことにより、被害を最小限にすることができます。
 また、災害は生き物のように増大していきますので、一人で対応しきれない場合も考えられます。その時は、日頃から近隣の人々とコミュニケーションを図ることにより、協力しあう体制が大切になってきます。
 このため、「自分たちの町は、自分たちで守る」という自主防災の組織的な態勢のもとで、地域の人たちが協力して、災害に立ち向かうことが必要です。
 「防災週間」及びその前後の日を中心にして、各地でこのような訓練が実施されます。家族で訓練に参加したり、防災について話し合うよい機会です。地元の公共団体や消防機関からのお知らせやポスターに注意して、防災訓練に参加しましょう。(消防庁)

 
    <8月20日号の主な予定>
 
 ▽建設白書のあらまし………………建設省 

 ▽労働力調査…………………………総務庁 
 



目次へ戻る