官報資料版 平成27




経済白書のあらまし


―改革へ本格起動する日本経済―


経 済 企 画 庁


 平成九年度「年次経済報告(経済白書)」が去る七月十八日の閣議に報告された。
 白書のあらましは次のとおりである。

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 本経済白書では、まず景気の現状について、民間需要中心の自律的回復過程への移行をほぼ終了しつつあることを示した上で、なお残る日本経済の直面する主要な不確実性について検討し、早急なバブルの清算と、構造改革による発展基盤の再構築の必要性を説く。
 第一章では「バブル後遺症の清算から自律的回復へ」と題し、今次景気回復局面ではなかなか働きださなかった、生産から雇用、最終需要へとつながる好循環のメカニズムの姿が次第に明確になるなど、景気の自律的回復過程が動き始めていることを述べる。
 なお、当面留意すべき点として、消費税率引上げ等財政面からの措置の影響、金融関連指標の弱さの実体経済への影響、等を分析する。
 また、景気回復に力強さが乏しい原因として、各経済主体がバブル期の過剰投資の後遺症として悪化したバランスシートの改善への取組を迫られていることを挙げ、「バブル崩壊の清算」が現段階でどの程度進展しているのかを検証する。
 第二章では、「日本経済の長期発展への構造改革」と題し、現下の景気回復局面をいかに中長期的な安定成長軌道につなげていくことができるかどうかを考える。この面から、日本経済の中長期的発展の方向に企業や家計が不確実性を感じ、多くの経済主体が長期的観点からの投資に慎重になっていることを取り上げ、産業調整の課題、規制改革や金融・資本市場の改革等の在り方を論じ、リスクを積極的にとることによって、将来の日本経済の発展基盤の再構築を行うべきときであることを示す。

<第1章> バブル後遺症の清算から自律回復へ


つながってきた自律回復のリンク
 日本経済は、九三年十月の景気の谷から三年半を経過し、長さだけでみれば、戦後の景気上昇期のうちでもかなり長い部類になりつつある。しかし回復テンポは緩やかで、特に九五年半ばまではゼロに近い低成長が続き、ともすれば在庫や生産のミニ調整を余儀なくされた。これを大幅な公共投資の積み増し、減税、金融緩和等、各種経済政策によって辛うじて下支えしてきたのである。
 通常、景気回復期には、在庫調整の終了→生産増→雇用増→家計所得増→消費増→生産増、あるいは、生産増→企業収益増→設備投資増→生産増、という好循環が働き、経済は民間需要主導の自律的な回復軌道に乗っていくものであるが、今次回復局面では、バブル期に設備能力や雇用が過剰となったことへの調整が行われてきたこと、バブル崩壊後の資産価格の下落等による財務面の悪化によるバランスシート調整が長引いたこと、円高の急速な進行や国際分業構造の急激な変化のため、日本の経済・産業構造の将来について不透明感が漂っていたこと、等により好循環のメカニズムがなかなか働きださなかった。
 こうして企業は、当面の設備投資や雇用創出にも、また長期的な観点からの物的・人的・技術的な投資にも、慎重にならざるを得なかった面があり、家計も、雇用不安や将来への不透明感から、支出拡大に慎重であった。つまり、景気回復のメカニズムがあちこちでとぎれていたのである。
 しかし、その一方で、景気回復の好循環の姿が次第に明確になってきた。特に、在庫・設備・雇用の調整が進展したこと、円高から円安に転換し外需がマイナス要因からプラス要因に変わったこと、雇用情勢の改善を受けて雇用不安が薄らぎつつあること、等が効いて、九六年度下期には民間需要主導による自律回復的循環がみられるようになった。
 景気回復の第一のリンクは、最終需要が増えたときに生産の増加に結び付くルートである。今次回復過程では、回復テンポが緩やかなものにとどまるなかで、最終需要の増加期待が出て生産が増えると、在庫がたまり、生産調整を余儀なくされるというケースが多かった。また、円高の進行等を背景に、九五年ごろは工業製品の内需増の半分程度は輸入によって賄われ、その分国内生産の伸びが緩やかとなった。
 しかし、九六年半ばに在庫調整が一巡してからは、広範な業種で生産増に転じており、増産業種のすそ野が広がっている。円高是正の効果も現れ、輸出数量は強含みとなる一方、それまで大幅に伸びていた輸入は横ばいに転じ、最終需要の増加が生産の増加に結び付きやすくなった。
 第二のリンクは、生産増から雇用増へのつながりである。今次回復過程では、生産活動の活発化は、なかなか雇用増に結び付かなかった。バブル期に大量に雇用を抱え込んだ企業が、雇用過剰感を強く持っていたためである。しかし、生産の増加と雇用調整の進展により、最近は企業の雇用保蔵が軽減されてきている。雇用の改善は、所定外労働時間の増加に始まり、続いて固定的コストになりにくいパートタイム雇用が増加し、現在はフルタイム労働者にも雇用の改善の動きが及んできている。このように、生産活動の活発化が雇用の増加に結び付きやすくなってきた。
 一方で、労働市場の構造変化もあり、雇用者数の増加テンポは速まっているが、完全失業率が速やかに低下するには至っていない。高年齢層に対する労働力需要が不足するとともに、若年層において労働力需給のミスマッチが現れており、完全失業率を下がりにくくしている一因となっている。
 第三のリンクは、雇用の増加が家計所得の増加を経て、家計消費や住宅購入等、家計の需要増をもたらすルートである。バブル後の景気後退期には、家計消費は辛うじて増加を続けたが、消費性向は九○年をピークに下がり続けた(第1図参照)。予想成長率の低下、逆資産効果、雇用不安等が、消費者の態度を慎重なものにしてきたといえよう。
 しかし、雇用情勢の改善は、勤労所得を増加させるとともに、家計の信頼感を改善し、消費の回復を次第に底堅いものにしている。
 消費税率引上げや特別減税終了に伴う駆け込み需要とその反動については一巡しつつあるが、これらは、実質可処分所得の伸びを低下させる。しかし、雇用情勢の改善は、家計の可処分所得を差し引きで増加させるだけの力を持っており、また、税制改革の家計への心理的マイナス影響を相殺することが期待される。したがって個人消費が腰折れするには至らないものと考えられる。
 住宅建設については、住宅ローン金利の低下と、物件価格の低下により、住宅を初めて取得する層の取得能力は高まってきた。消費税率引上げは取得能力にはマイナスであるが、同時に住宅取得促進税制の拡充等によって、その影響は相殺される形となる。低金利と住宅価格の安定が続けば、住宅建設は底堅く推移するものとみられる。
 第四のリンクは、生産増・企業収益増から設備投資増につながるルートである。バブル期に行われた過剰な投資によるストック調整が長期化したため、生産増が設備投資に結び付きにくかった。しかし、設備ストック調整の進展、稼働率の上昇、実質金利の低下、情報化等による投資機会の拡大等により、設備投資が増加しやすい環境が整ってきている。
 今後については、企業の投資計画は慎重になっているのではないかとの指摘もあるが、投資の増加が多くの産業に広がっていること、設備投資の動向に影響の大きい企業収益が現在のところ増益基調であること、情報化や規制緩和の効果で、経済構造変化に立ち向かうための投資が産業横断的に盛り上がっていること、等から、設備投資は簡単にピークアウトしないと考えられる。
 このように、景気回復局面におけるリンクがつながってきている。消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動減等の影響もあり、景気は回復テンポが一時的に緩やかになっているものの、腰折れすることなく回復傾向を持続すると考えられる。

グローバル経済の中の日本
 今回の景気回復過程は、輸出入や為替レートの動きによって大きな影響を受けた。当初は急激な円高となり、外需のマイナス、先行き不透明感が、バブル後遺症を抱える日本経済の景気回復を一層緩やかなものにしたが、九五年後半からは円安基調に転じ、一年ほどの遅れを伴って外需が所得増加要因となり、景気回復基調を底堅いものにした。
 今回の円安局面では、九七年初めころまで株価の下落も同時に伴ったこともあり、マイナス効果を強調する声も多かった。
 名目GDP成長率に対する交易条件の変化による効果、輸出入数量変化の効果の寄与をみると(第2図参照)、九六年四〜六月期まで輸出入数量はマイナスに作用していたが、その後円高是正の影響が現れ始め、数量効果はプラスに転じ、交易条件効果のマイナスを上回って成長押上げ要因となった。
 ただし円安が続いていたとしても、長期的に日本企業の生産拠点の海外展開もあって、八〇年代後半以降、輸出入の価格弾力性が低下していること、輸出財産業の稼働率が高くなっており、輸出のための能力増強には為替リスクを伴うこと、等から、純輸出数量面での景気押上げ効果が拡大していくとは必ずしも言い切れなくなっている。
 物価についてみると、円安の進行の物価への影響については、注意を要する要因ではあった。国内卸売物価は、やや弱含みで推移してきたが、ほぼ下げ止まっている。輸入コスト増に直結する業種では上昇する一方、国内外の競争にさらされる技術革新の活発な業種では下落が続き、両者が相殺しあう形で安定している。
 消費者物価も安定しているが、流通の効率化、競争の活発化が進んだこともあり、円安による物価上昇圧力が相殺された面がある。
 ドル高による海外との潜在的競争圧力を背景に、アメリカはインフレなき景気の拡大を続けている。他方、日本やヨーロッパでは自国通貨安により、外需がある程度増加し、景気回復の下支えに寄与してきた。また、アメリカドルと連動性のあるアジア通貨は、おしなべて上昇し、貿易財の価格競争力を低下させるなど、国によっては成長を鈍化させている。しかし、アジア諸国・地域は、経済改革を進めており、今回の為替増価をきっかけに効率化を進めていくことが期待される。
 日本も国内民間需要中心の自律的回復をより確かなものとすることにより、輸入を一層拡大し、アジア太平洋経済の動態的発展を一層堅固なものにすることが望まれる。

金融・資本市場の動向と背景
 実体経済が回復傾向を強めているのに対し、金融・資本市場の指標の動きには、これらを明確に反映する動きがみられなかった。民間部門の資金需要は弱く、また株価は九六年末から九七年初にかけて下落した。しかし、これらは景気の先行きについての市場の見方が慎重化したことのほか、中期的なバブル後遺症による金融機関の財務悪化や企業の収益性が低いこと等、構造的な問題を反映していたとみられ、必ずしも実体経済が先行き弱まる可能性を示しているわけではないと考えられる。
 こうしたなか、金融政策は著しい緩和基調を続け、景気を下支えしてきた。ただ、各経済主体の財務体質改善等が低金利に助けられてきたという側面があることも確かであり、今後の金利変動のリスクへの対応を強化することが課題となる。
 長期金利の低下による長短金利差の縮小は、通常は実体経済の変化に先行する。また株価も、理論的には同じく実体経済に対して先行性を持つ。しかし、今回の両者の弱さには、固有の要因として、長期国債金利については民間金融機関の発行する証券へのリスク・プレミアムが影響していた可能性がある。
 また、株価についても業種別にみれば、不良債権問題等によって収益の順調な回復が望めない金融、建設部門において株価を下げる姿がみてとれる。
 マネーサプライの伸びの鈍化も(第3図参照)、企業や個人の資金調達の伸びの鈍化等とともに、政府の対民間純支払が公共投資の伸びの一巡によって縮小したことが一因であり、必ずしも景気回復という実体経済の動きと矛盾するものではない。これら指標は、我が国経済が抱えるバランスシート面等の構造問題の一端を示してきたとはいえよう。

金融緩和と実体経済
 かつてない低金利をもたらしている今回の金融緩和政策は、既にかなりの期間を経過した。低金利は住宅投資には押上げ効果があったが、家計消費に対しては明瞭な関係は検出されなかった。設備投資は、需要要因や企業収益に依存するところが大きいが、中小企業非製造業のように負債比率の高い企業にとっては、金利が一定の役割を果たしていることが示唆される。
 また、近年の低金利は資本の相対価格を低下させており、企業にとっての「望ましい資本ストック」を増加させ、設備投資の回復を支えたと考えられる。
 株価や地価は、金利低下にもかかわらず九〇年代初の水準に比べ低下した。金利低下の資産価格変動を通じた波及経路の一部が、バランスシート調整等の問題によって妨げられている可能性があり、経済企画庁の「世界経済モデル」で、金利低下時の乗数を、地価、株価を通じた波及経路を遮断して算出すると、金利低下がもたらす乗数効果が一割程度減るという結果が得られる。
 企業収益については(第4図参照)、今回の景気回復過程では、企業や金融機関は体質改善を行うことで収益性の改善を図ってきたが、その一方で、低金利による企業収益への寄与は大きい。貸出金利が一%上昇した場合の企業収益への影響を九六年の実績値をベースに試算すると、製造業大中堅企業はさほどの影響を受けない一方、それ以外では大幅な減益要因となる。中小企業や非製造業は更なる収益性の向上が求められているといえよう。
 このように、金融緩和政策は、住宅投資、設備投資等に影響を与え、特に九六年度は財政政策が景気中立的となるなか、実体経済の回復に寄与した。ただし、企業の収益増や財務改善が低金利によるという面も否定できない。
 金利には低下局面と上昇局面が存在する以上、企業年金の予定利回りの設定等における柔軟な対応や、企業、金融機関の更なる収益性の向上、家計のリスク管理の徹底、家計の資産運用システムの確立、等が今後の課題として挙げられよう。

財政政策の現状と課題
 今回の景気回復過程では、特別減税や大規模な経済対策が実施されるなど、財政政策は大きな役割を果たした。一方で、財政状況が悪化するなど、財政政策と財政再建の問題がクローズアップされた。財政構造改革が叫ばれるなか、効率的な公共投資を含めた財政政策の在り方が問われている。
 公共投資の経済効果には、総需要に与えるフロー効果と、事業自体がもたらすストック効果の二つの側面がある。前者については、財政政策によって経済の安定化を図る上で一つの有効な手段であることは間違いなく、公共投資の乗数効果を失わせるような経済構造変化は必ずしも生じていない。
 しかし、本来期待される公共投資の経済効果は、社会資本の提供がもたらす事業効果、すなわち生産能力や効率を高めるためのインフラの整備や、生活の質を高める機能である。公共投資という形で望ましいストックが提供され、外部経済効果も加味した資源の再配分が実現されるのであるが、その費用との対比で公共投資の事業効果を的確に判断する必要があることはいうまでもない。コストが高い、投資が薄まきである、省庁間・事業間の連携がうまくいっていないといった批判があり、会計検査院でも問題点を指摘するなど、より効率的に公共投資を実施することが課題となっている。このためには、地域のニーズを踏まえ、事業内容や地域間の配分には十分に留意する必要がある。

バブル後遺症の克服は進んだか
 バブルの負の遺産としてのバランスシート調整問題は、景気回復のテンポを緩やかなものにした。現在、マクロ的には、設備投資が堅調に伸びており、バランスシート調整はある程度進ちょくしている。しかし、業種や企業規模によって調整の度合が異なっており、バブル後遺症による構造問題となっている。
 バブル崩壊により、事業会社の企業財務は、バランスシートの資産価値低下と収益の低下に直面し、債務の圧縮と収益性の向上のために投資抑制を余儀なくされた。簿価ベースでは、土地や株式資産の保有額は増加しているが、これは土地等の売却によって含み益を実現したことを意味する。また、負債比率は悪化していないが、これは通常なら投資に向かうべき資金が債務返済に回ったことを示すとみるべきであろう。
 一方、土地市場についてみると、土地の有効利用が進ちょくしていないことが問題となっている。土地取引については、将来収益の不確実性の高まり、土地を売却しても債務が残るケースがあるなど土地保有者の売却インセンティブが乏しいこと、商品が規格化になじみにくく情報収集コストが高いこと、等固有の問題を抱えている。
 これらのことが、土地市場の需給に影響をもたらしていると考えられるが、最近の地価の動向をみると、地価自体は下落し続けているものの、物件ごとにばらつきがみられるようになっている。
 このことは、それぞれの商品価値をより適正に反映して形成される兆しが現れていることを意味する。土地の有効利用が促進されれば、バランスシート問題の治癒にもつながっていくであろうことから、適切な規制緩和を進めるとともに、当事者が土地を有効に利用するインセンティブを与えていく必要がある。
 金融機関の不良債権処理は、バランスシート上は進ちょくしているが、共同債権買取機構への売却債権の確定時の損失、不良債権処理の業態別、金融機関別の格差、金融機関の株式保有の問題、自己資本の低下、といった点に留意する必要がある。
 特に、自己資本が低下し、株式の含み益に左右される現状は、リスク許容力の低下と国際的な信用の低下につながり、金融仲介機能にも影響を及ぼしかねない。
 また、金融機関の不良債権処理は、業態によって格差があり、大手銀行でもばらつきがある。金融システムには、個別行の問題がシステム全体に広がる危険性が内在するが、競争制限的な規制や保護によってシステムの安定化を図ることは、金融システムの効率性を犠牲にし、結果的に我が国の金融の国際競争力を低下させることになる。したがって、自己責任原則を徹底し、市場規律に立脚した透明度の高い金融システムを構築していくことが必要である。

<第2章> 日本経済の長期発展への構造改革


 当面の景気は、民間需要主導の回復が次第にしっかりとしてきているが、次の問題は、この回復傾向が中長期的発展へとつながっていくかどうかである。
 このためには、企業や家計等が日本経済の長期的発展への展望に信頼感を持ち、積極的に機会をとらえてリスクをとることができる環境が整うことが必要条件である。しかしながら、現実には将来への不透明感が残り、民間主体の信頼感が揺らいでいる。
 しかし、一方で、当面の経済情勢が改善し、日本経済が思い切った改革に踏み切ることのできる意欲と体力も回復してきている。この機会をとらえ、積極的に構造改革を進め、自由で透明な市場を創り出していくべきときである。
 政府は公的規制改革、金融市場改革など、構造改革を推進し、従来オープンな市場が十分機能していなかった分野に、参入自由で、公正な市場を創り出していく必要がある。また、民間部門自ら、積極的にリスクに立ち向かい、将来への展望を切り開いていくことが望まれる。

我が国産業経済の発展基盤の強化に向けて
 日本産業の生産性についてみると(第5図参照)、製造業は、現在に至るまで一貫して日本経済の生産性上昇に大きく寄与してきた。製造業・非製造業それぞれの経済全体の生産の伸びへの寄与をみると、製造業では、全要素生産性の上昇が一貫して大きな寄与をしているのに対し、非製造業では、資本ストックの上昇による寄与が大半を占める。また、非製造業への資本投入にも、製造業での生産性上昇の成果が体化されている。
 また、日本の比較優位産業における優位性については、「品質の高い製品を安く大量に供給する、生産現場に密着したハード技術」にあるとされる。つまり、R&D活動における応用研究、プロセス・イノベーション(生産工程上の技術革新)の優位性である。製造業における技術貿易で欧米に対してなお大幅な入超になっていることをみれば、基礎技術を輸入し、それを応用して質の高い製品とすることに優れていることが分かる。
 しかし、これからは、市場のニーズにいかに柔軟に対応し先取りしていくかがポイントであり、技術を蓄積した組織や個人が、マーケティング能力に優れた経営資源と結び付くことを可能にする「市場機能」を高めていくことが重要である。
 また、新しい製品やコンセプトを開発し、事業化できるようなシステムも必要である。このためには、そのリスクが評価され、ビジネス化される「市場」が存在しなければならない。自らのリスクで新しい技術やアイデアに取り組んだり、それに自らのリスクで評価したり投資したりするような、研究開発の幅広い選択肢が提供される市場が整備されなければならない。
 一方、日本経済全体の生産性向上・発展のためには、優れた経営資源を有する新規企業が参入して新規ビジネスを始めることが望まれる。海外企業の進出は、経営理念や経営技術の異なる事業の新規参入として、日本経済の競争促進や構造改革にとって重要な刺激要因になるはずである。
 我が国への対内直接投資は、なお低水準であるが、外国企業の企業戦略による部分はあるとしても、日本市場への参入に問題がある可能性を示している。我が国企業にとっても共通の問題であるはずであり、構造改革による市場の競争条件整備が急務である。また、対内直接投資にはM&A(企業の合併・買収)環境の整備が不可欠である。
 最近は、国内企業にとっても、事業の再構築や業界再編の有効な手段として、M&Aへの認識も変わりつつある。M&A実現の前提条件として、企業情報が市場に発信されることなどが必要である。
 つまり、長期的な日本の産業経済の発展のため、次のような課題に取り組む必要がある。
 第一に、現在まで日本の製造業の「生産現場に密着した製造技術」は、企業内、企業系列内で蓄積されたもので、経済活動のグローバル化が進むなかでは、これまで蓄積された技術が今後とも変わらず機能し続ける保証はなく、組織や個人に蓄積された技術が有効に活用されるメカニズムを創る必要がある。
 第二に、内需型産業で生産性が伸びれば、経済全体としての生産性は高まるが、そのためには新規企業の参入等、構造改革、競争促進策が必要である。
 第三に、日本は、今後ソフト面の創造性の発揮と基礎技術の強化を目指す必要があり、社会システムや人材養成においても「創造性」の育成と発揮のための条件づくりがかぎになる。
 第四に、対内直接投資は最近増えつつあるが、なお低水準である。日本への投資の阻害要因を解消するような構造改革は、同時に国内経済主体にとっても活動の自由を確保することになる。また、海外企業が新たな経営資源や考え方をもって参入することが、我が国経済の活性化への動因ないし刺激剤として有効である。

規制改革の課題
 九〇年代の経済の停滞と国際分業構造変化の中で、主として非貿易財部門への公的規制は、特に貿易財産業に対し、高コストと内需向け部門への新規事業展開への制約となっている。
 政府にとって規制改革は、最大の課題の一つであるが、グローバル競争にさらされる企業にとっても、規制緩和は従来に増して緊急かつ重要な課題となっている。
 政府は六つの改革の柱として経済構造改革、金融システム改革等を全力を挙げて推進しているが、これとあい携えて、企業部門等が規制改革の実施を後押しし、それによって生ずる事業機会をフルに活用することで、事業の発展と経済の効率性の上昇が実現することが期待される。
 規制緩和のマクロ的プラス効果は、当該産業における競争の活発化によって効率性の上昇、コストの低下が生じ、相対価格が低下することによって長期的に需要が拡大し、資本需要や労働需要が追加的に生じることである。長距離通信や移動体通信の価格低下は、その典型である。
 また、既存の企業活動の自由度の拡大や新規参入によって、新たなサービスが供給されるようになり、同様に需要を喚起して投資や雇用が拡大することもある。電気通信業及び航空業について、過去十年程度の間の規制緩和の経済効果を分析した結果をみると、生産性の向上や、大幅な価格の低下が生じたことが分かる。
 一方、電力業、銀行業、小売業では、今後も規制緩和の効果が一層現れてくると期待される。それぞれの業種に残る非効率性を計測した結果をみると、電力では六%、銀行業では二二%、小売業では二八%程度の効率化の余地があることが分かる。ここで計測した非効率性が必ずしもすべて規制によるものとは即断できないが、非効率性が競争の促進によって解消されていくと想定できる。
 七〇年代後半から九〇年代前半にかけての非効率性の変化をみると、小売業で九%ポイント改善している。また、銀行業では四%ポイントの改善にとどまっている(第6図参照)。
 規制緩和では、短期的には摩擦的コストが発生し得る。短期的マイナスとは、競争活発化による効率性の上昇、価格の低下にもかかわらず、短期的には需要が拡大せず、結果的に労働が一時的に吐き出される状況、と考えることができよう。雇用をはじめ今後の規制改革による「痛み」は避けることはできないが、規制緩和による価格低下が新たな需要をつくり出したり、新規サービスを生み出したりして、長期的には雇用や投資を創出することは大いにあり得る。短期の摩擦的失業などへのセフティネットの確立と、情報公開による現行制度と改革を比較した効果対コストの客観的分析と正しい認識が重要である。
 規制改革の今後の課題としては、市場規模が大きく潜在的な市場拡大が見込める分野への高い優先度、計画的かつ試行錯誤を許容する柔軟な改革プロセス、社会的セフティネット整備、情報公開開示の徹底、等が重要である。

金融市場の規制改革
 金融市場は、家計等の貯蓄超過主体から企業等の貯蓄不足主体へ、資金がもっとも効率的に融通される場である。企業家は適切な資本コストでリスクのある事業に挑戦することができるようになり、家計をはじめとする資金供給側もリスクマネーを市場に供給することができるようになる。
 しかし現実には、家計や企業に対して適切な投資機会や資金調達手段が用意されていない。家計の資金運用は安全資産が中心であり、また、リスクマネーが十分事業者に供給されているとは言い難い。こうしたことは、日本の金融・資本市場において、金融仲介システムが十分に機能しておらず、金融仲介に非効率性が存在することを示唆する。そうであれば、金融の「空洞化」を招くとともに、資源配分機能を低下させ、日本経済全体の発展への制約要因にもなり得るが、その背景には、金融・資本市場における法制・規制や商慣行、その他制度的要因がある。
 リスクマネーの需給という観点から日本の経済主体の資金需給の特徴を挙げると、第一に、家計は資産蓄積が進んできたが、資産選択は安全資産の比率が大きく、運用収益率は低下している。資産運用パフォーマンスの改善には、家計もより積極的にリスクをとる必要があり、効率的な金融市場、特に多様な金融サービスを提供する金融仲介機関の役割が重要である。
 第二に、企業の資金調達については、中小企業においては、調達手段の多様化は進んでおらず、株式市場や社債市場といった資本市場が、規制や慣行等から十分な資金提供機能を果たしてこなかった可能性がある。間接金融機関からの借入れに加え、資本市場からの調達が活用されれば、リスクマネーの一層円滑な供給が可能になろう。
 家計資産の蓄積や高齢化等による年金資産の増大等から、生命保険会社、厚生年金基金、投資信託等、機関投資家の重要性が増してきている。一方、厚生年金基金の運用規制や新商品の規制等、従来投資家保護のために設けられてきた規制が、逆に資産運用を制約することにより、投資家の利益を損なっているとの認識が高まっている。厚生年金基金の資産運用に対する「五・三・三・二規制」は、厳格なリスク管理能力の形成等を条件に、九八年度には撤廃される。また、商品規制の緩和として、デリバティブを活用した投資信託の解禁があるが、これにより、投資家のニーズに応じた多様な投信の提供が可能となる。
 このところの規制緩和やデリバティブ等の新手法の導入により、相対的な高収益や多様な収益パターンを示す商品群も出てきている。先端的手法が直ちに優れた成果を挙げると期待することも早計ではあるが、投資家のニーズに応じた投資の機会が広がってきていることは確かである。
 金融システム改革については、自由で、透明性があり、国際的な市場を創ることが重要であるが、自由な市場を創出する基本は、業務活動に関する規制緩和である。既に金利の自由化や業務分野規制の緩和、社債発行の自由化等が行われてきたが、今後、多岐にわたる検討が行われることとなっている。
 透明性については、取引ルールや価格決定過程が透明で、すべての参加者が公平に扱われることが今後の金融市場活性化のかぎである。参入を自由にして競争を活発化させること、取引情報の開示に努めること、さらに取引手数料の自由化によって、コストやサービスに見合った合理的な手数料の設定が期待され、小口投資家にとっても、サービスと価格についての選択肢が拡大する。
 国際化という点では、日本企業や投資家が国際的資金調達や国際分散投資をするようになったが、全金融資産に占める対外証券の比率は二%程度にすぎず、資産保有パターンが国内資産に偏っている。特に家計の対外証券比率が極めて低い。国際分散投資のメリットは(第7図参照)、より効率的な投資配分を可能にすることであり、実際に国際的に資産分散をしたときにどの程度家計の投資可能性が広がるかを、有効フロンティアがどのようにシフトするかで調べてみると、かなり上方へのシフトが認められる。
 「ビッグバン」のフロント・ランナーとしての内外資本取引自由化に関連して、日本の金融市場の「空洞化」が懸念されている。株式取引の一部を国内市場で行うことが不利となっていたり、十分な競争が行われていないことから、金融機関が商品開発力やリスク管理能力の向上を遅らせ、金融機関の競争力を低下させている可能性が指摘されている。
 規制や取引コストの高さが金融取引の海外流出を招いているとしたら、それは資源配分や市場の効率性を損なうものであり、早急な改善が必要である。金融市場は集積のメリットが大きいため、いったん流出が始まると加速度的に衰退するとの主張もある。「空洞化」が進むと、中小企業や個人が高度なサービスを受けることができなくなる可能性も指摘される。ただし、情報技術革新により、海外の金融市場へのアクセスが容易になってきていることには留意が必要である。
 金融の規制緩和は、金融市場の効率化と資産運用機会の拡大をもたらす。これは、ある程度経済の活性化につながると期待されるとともに、なによりも、家計や企業に多様で柔軟な資産運用手段・資金調達手段を提供するものである。
 しかし、規制緩和は打ち出の小づちではない。高収益には当然リスクが伴う。従来は保護的な規制によってある程度守られていた投資家も、今後は自己責任の下に自らリスクを負わざるを得ない。また、銀行等金融仲介機関についても、今後は効率性を重視した競争の一層の促進により、厳しいリストラが要求されよう。金融市場の効率性を高め、透明性と公平性を確保して、各主体がリスクに自己責任で対処できる環境を整備することが必須である。

 おわりに

 ―景気回復から中長期的発展へ―

 我が国経済は、昨年度後半から景気回復の足取りがしっかりしてきた。九七年度に入って、消費税率引上げ等の影響から景気回復の足取りも一時的に緩やかになっており、その影響がどの程度になるかについては慎重に見極める必要があるが、影響が一巡した後は、日本経済は再び自律回復テンポを取り戻すものと期待される。そして、それをより長い持続的な繁栄につなげていくことができるかどうかである。
 この点については、なお我が国経済は、課題を抱えていると言わざるを得ない。バブル後遺症で、なお多くの企業や金融機関がバランスシート調整に力を注がざるを得ないこと、バブルとその崩壊や急速な国際分業構造変化の過程で、日本的経済システムや、モノづくりの面での競争力などに対する信頼感が揺らぎ、日本の経済社会や雇用機会の長期的将来に対する展望を持ちにくくなっていること、公共部門も財政不均衡や長期的な公的年金・医療保険等の収支問題を抱え、将来の公的負担増等への懸念が、民間部門の将来見通し難を強めている面もあること、である。
 しかし一方で、当面の経済情勢の改善に伴って、日本経済が思い切った改革に踏み切ることのできる意欲と体力がついてきている。今こそ政府は公的規制改革、金融システム改革等、構造改革を強力に推進し、自由で魅力ある市場を創っていかなければならない。また、民間部門自らが積極的にリスクに立ち向かい、展望を切り開くことが望まれる。
 まず第一に、自由かつ透明で、グローバル・スタンダードに則った、魅力ある市場が創られること、第二に、そうして創られる市場において、企業や個人が将来への不透明感を克服し、リスクを恐れず積極的に未来を切り開いていくこと、第三に、政府は前記の規制改革、構造改革を進め、自由かつ透明な市場の創出を行うとともに、自らもスリムで効率的かつ国民の信頼を確保し得る行政を確立することが必要である。
 こうしてあらゆる経済主体が、自己責任原則の下に積極的にリスクをとり、自らの可能性に挑戦していくことが望まれる。政府は自らをスリムで効率的なものにするとともに、規制改革をはじめとする各種構造改革を推進することで、民間部門の活動の環境を整えていかなければならない。


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法人企業の経営動向


法人企業統計 平成九年一〜三月期


大 蔵 省


 この調査は、統計法(昭和二十二年法律第一八号)に基づく指定統計第一一〇号として、我が国における金融・保険業を除く資本金一千万円以上の営利法人を対象に、企業活動の短期動向を把握することを目的として、四半期ごとの仮決算計数を調査しているものである。
 その調査結果については、国民所得統計の推計をはじめ、景気判断等の基礎資料等として広く利用されている。
 なお、本調査は標本調査であり(計数等は、標本法人の調査結果に基づいて調査対象法人全体の推計値を算出したもの)、標本法人は層別無作為抽出法により抽出している。
 今回の調査対象法人数等は次のとおりである。
  調査対象法人      八三八、九八三社
  標本法人数        二二、七六〇社
  回答率            八二・一%
 当調査結果から平成九年一〜三月期の企業の経営動向をみると、売上高については、製造業、非製造業ともに増収となったことから、全産業ベースの対前年同期増加率(以下「増加率」という。)は五・一%となった。営業利益についても、製造業、非製造業ともに増益となったことから、全産業ベースの増加率は一三・八%となった。
 また、経常利益についても、製造業、非製造業ともに増益となったことから、全産業ベースの増加率は一八・二%となった。一方、設備投資については、製造業、非製造業ともに増加となったことから、全産業ベースの増加率は一三・〇%となった。

一 売上高と利益の動向第1図第2図参照

 (1) 売上高第1表参照
 売上高は、三百八十一兆五千六十七億円であり、前年同期(三百六十二兆九千百三十一億円)を十八兆五千九百三十六億円上回った。増加率は五・一%(前期四・九%)と、13四半期連続の増収となった。
 業種別にみると、製造業の売上高は百八兆五千三百六十二億円で、増加率は八・九%(同六・三%)となった。また、非製造業の売上高は二百七十二兆九千七百四億円で、増加率は三・七%(同四・三%)となった。製造業では、「輸送用機械」「電気機械」「化学」等、多くの業種で増収となった。また、非製造業でも、「サービス業」「建設業」「不動産業」等、多くの業種で増収となった。
 資本金階層別にみると、資本金十億円以上の階層は百五十八兆九千八百九十七億円で、増加率は四・八%(同四・五%)、資本金一億円以上十億円未満の階層は五十八兆五千九十八億円で、増加率は九・〇%(同七・七%)、資本金一千万円以上一億円未満の階層は百六十四兆七十二億円で、増加率は四・一%(同四・三%)となった。
 (2) 営業利益第2表参照
 営業利益は、十二兆三千三百五十六億円であり、増加率は一三・八%(前期六・〇%)と、11四半期連続の増益となった。
 業種別にみると、製造業の営業利益は四兆七千九百三十八億円で、増加率は二二・二%(同一二・三%)となった。また、非製造業の営業利益は、七兆五千四百十八億円で、増加率は九・〇%(同一・三%)となった。
 資本金階層別にみると、資本金十億円以上の階層は五兆三千八百八十四億円で、増加率は一四・九%(同五・九%)、資本金一億円以上十億円未満の階層は一兆五千二百二十五億円で、増加率は二・六%(同一一・八%)、資本金一千万円以上一億円未満の階層は五兆四千二百四十六億円で、増加率は一六・一%(同四・二%)となった。
 (3) 経常利益第3表参照
 経常利益は、十兆三千九百三十七億円であり、前年同期(八兆七千九百十二億円)を一兆六千二十五億円上回り、増加率は一八・二%(前期一五・四%)と、11四半期連続の増益となった。
 業種別にみると、製造業の経常利益は四兆三千百五十五億円で、増加率は二二・九%(同一八・四%)となった。また、非製造業の経常利益は六兆七百八十二億円で、増加率は一五・一%(同一二・六%)となった。
 製造業では、「石油・石炭製品」等が減益となったものの、「輸送用機械」「化学」等が増益となった。一方、非製造業では、「不動産業」「運輸・通信業」等が減益となったものの、「サービス業」「卸・小売業」等が増益となった。
 資本金階層別にみると、資本金十億円以上の階層は四兆一千百八十二億円で、増加率は一八・八%(同一一・八%)、資本金一億円以上十億円未満の階層は一兆二千四百八十四億円で、増加率は三・〇%(同一九・四%)、資本金一千万円以上一億円未満の階層は五兆二百七十億円で、増加率は二二・三%(同一九・九%)となった。
 (4) 利益率第4表参照
 売上高経常利益率は二・七%で、前年同期(二・四%)を〇・三ポイント上回った。
 業種別にみると、製造業は四・〇%で、前年同期(三・五%)を〇・五ポイント上回り、非製造業は二・二%で、前年同期(二・〇%)を〇・二ポイント上回った。
 資本金階層別にみると、資本金十億円以上の階層は二・六%(前年同期二・三%)、資本金一億円以上十億円未満の階層は二・一%(同二・三%)、資本金一千万円以上一億円未満の階層は三・一%(同二・六%)となった。

二 投資の動向第3図参照

 (1) 設備投資第5表参照
 設備投資額は、十四兆八千九百九十三億円であり、増加率は一三・〇%(前期一〇・〇%)と、8四半期連続の増加となった。 (13ページへ)
 業種別にみると、製造業の設備投資額は四兆七千四百八十八億円で、増加率は一三・六%(同六・七%)の増加となった。一方、非製造業の設備投資額は十兆一千五百五億円で、増加率は一二・七%(同一一・五%)となった。
 製造業では、「食料品」「石油・石炭製品」等で減少となったものの、「輸送用機械」「一般機械」等の業種で増加となった。一方、非製造業では、「建設業」等で減少となったものの、「運輸・通信業」「サービス業」等で増加となった。
 設備投資額を資本金階層別にみると、資本金十億円以上の階層は九兆二千二百六十六億円で、増加率は七・二%(同七・四%)、資本金一億円以上十億円未満の階層は二兆二千六百四十五億円、増加率は二〇・九%(同二二・五%)、資本金一千万円以上一億円未満の階層は三兆四千八十二億円で、増加率は二六・二%(同九・一%)となった。
 (2) 在庫投資第6表参照
 在庫投資額(期末棚卸資産から期首棚卸資産を控除した額)は、△十四兆五百二十一億円であり、前年同期(△十兆八千五百七十二億円)を三兆一千九百四十九億円下回った。
 在庫投資額を業種別にみると、製造業の投資額は△二兆七千五百九十億円で、前年同期(△二兆五千五百五十八億円)を二千三十二億円下回った。一方、非製造業の投資額は△十一兆二千九百三十一億円で、前年同期(△八兆三千十五億円)を二兆九千九百十六億円下回った。
 在庫投資額を種類別にみると、製品・商品が△三兆三千九百八十九億円(前年同期△一兆九千八百五十四億円)、仕掛品が△十兆四千三百十九億円(同△八兆七千百七十八億円)、原材料・貯蔵品が△二千二百十三億円(同△一千五百四十一億円)となった。
 また、在庫率は八・九%であり、前期(一〇・六%)を一・七ポイント下回り、前年同期(一〇・四%)を一・五ポイント下回った。
 在庫率は、季節的要因により変動(四〜六、十〜十二月期は上昇する期)する傾向がみられる。

三 資金事情第7表参照

 受取手形・売掛金は二百五十兆一千五百四十八億円で、増加率は△一・〇%(前期〇・〇%)、支払手形・買掛金は二百七兆四千九百三十九億円で、増加率は△〇・二%(同一・一%)となった。
 借入金をみると、短期借入金は二百二十兆五千百四十七億円で、増加率は△九・一%(同△九・七%)、長期借入金は二百六十七兆三千七百八十一億円で、増加率は△三・五%(同△〇・四%)となった。
 現金・預金は百十六兆一千五百四十二億円で、増加率は△一一・八%(同△九・六%)、有価証券は三十八兆六千二百七億円で、増加率は△五・六%(同△二・二%)となった。
 また、手元流動性は一〇・二%であり、前期(一〇・九%)を〇・七ポイント下回り、前年同期(一一・七%)を一・五ポイント下回った。

四 自己資本比率第8表参照

 自己資本比率は二一・五%で、前年同期(二〇・三%)を一・二ポイント上回った。
 自己資本比率を資本金階層別にみると、資本金十億円以上の階層は二八・七%で、前年同期(二七・九%)を〇・八ポイント上回り、資本金一億円以上十億円未満の階層は一五・〇%で、前年同期(一四・六%)を〇・四ポイント上回り、また、資本金一千万円以上一億円未満の階層は一五・一%で、前年同期(一四・〇%)を一・一ポイント上回った。

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 なお、次回の調査は平成九年四〜六月期について実施し、法人からの調査票の提出期限は平成九年八月十日、結果の公表は平成九年九月中旬の予定である。


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月例経済報告(八月報告)


経 済 企 画 庁


 概 観

 我が国経済

需要面をみると、個人消費は、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動減も引き続きみられるものの、緩やかな回復傾向にある。住宅建設は、低金利が継続するなか、消費税率引上げに伴う駆け込み需要により大きく増加した反動もあって弱含んでいる。設備投資は、回復傾向にある。
 産業面をみると、鉱工業生産は、増加基調にある。企業収益は、改善している。また、企業の業況判断は、製造業では改善が続いている一方、非製造業では慎重さがみられる。
 雇用情勢をみると、完全失業率が高い水準で推移するなど厳しい状況にあるものの、改善の動きがみられる。
 輸出は、強含みに推移している。輸入は、おおむね横ばいで推移している。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、増加している。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、七月は、月初の百十四円台から上昇し一時百十二円台となったが、月央以降はおおむね百十五円台から百十六円台で推移し、月末には百十八円台となった。
 物価の動向をみると、国内卸売物価、消費者物価ともに、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、七月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、七月はやや低下した。株式相場は、七月は月初に下落した後、堅調に推移した。マネーサプライ(M2+CD)は、六月は前年同月比二・八%増となった。

 海外経済

アメリカでは、景気は拡大している。実質GDPは、一〜三月期前期比年率四・九%増の後、四〜六月期は同二・二%増(暫定値)となった。個人消費はこのところ伸びに鈍化がみられる。設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大している。物価は安定している。貿易収支赤字はこのところ拡大している。七月の長期金利(三十年物国債)は、総じて低下した。七月の株価(ダウ平均)は、総じて上昇し、下旬に最高値を更新した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は緩やかに改善しており、フランスでは、景気は回復傾向にある。イギリスでは、景気は拡大している。鉱工業生産は、回復傾向にある。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準で推移しているが、イギリスでは低下している。物価は安定しているが、イギリスでは上昇率がやや高まってきている。
 東アジアをみると、中国では、景気は拡大している。韓国では、景気は緩やかに減速しているが、下げ止まりの兆しもみられる。
 国際金融市場の七月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、総じて上昇した。なお、タイでは、七月二日、通貨バスケット制から管理フロート制へと為替制度が変更され、タイ・バーツは六月末比対ドルで二二・〇%減価した。フィリピン・ペソなどでも減価がみられた。
 国際商品市況の七月の動きをみると、全体では上旬弱含んだ後、やや強含みで推移した。七月の原油スポット価格(北海ブレント)は上旬から中旬にかけてやや弱含んだ後、強含んだ。下旬はおおむね十八ドル台での推移となった。

*     *     *

 我が国経済の最近の動向をみると、設備投資は回復傾向にあり、純輸出は増加している。また、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動減も引き続きみられるものの、個人消費は緩やかな回復傾向にある。住宅建設は、低金利が継続するなか、消費税率引上げに伴う駆け込み需要により大きく増加した反動もあって弱含んでいる。こうした需要動向を背景に、生産は増加基調にある。以上のように、一時的に回復テンポが緩やかなものになっているものの、堅調な民間需要を中心に景気は回復の動きを続けている。なお、雇用情勢は厳しい状況にあるものの、改善の動きがみられる。
 政府は、今後とも、景気の回復力を強めその持続性を確保し、中長期的な安定成長につなげていくため、適切な経済運営に努めるとともに、規制緩和をはじめとした各種経済構造改革を推進する。

1 国内需要

―個人消費は、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動減も引き続きみられるものの、緩やかな回復傾向―

 個人消費は、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動減も引き続きみられるものの、緩やかな回復傾向にある。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で四月一・〇%減の後、五月は二・一%減(前月比一・六%減)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比一・五%減、勤労者以外の世帯では同三・四%減となった。形態別にみると、耐久財は増加し、サービス等は減少となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比二・一%減、勤労者世帯では同一・六%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で二月〇・一%増となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で五月一・八%減の後、六月は二・三%減となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で五月三・二%減の後、六月三・三%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で五月四・六%減の後、六月五・一%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を除く)新車新規登録台数は、前年同月比で七月は一一・四%減となった。また、家電小売金額は、前年同月比で六月は一二・九%減となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、六月は前年同月比で国内旅行が三・五%増、海外旅行は七・〇%増となった。
 当庁「消費動向調査」(六月調査)によると、消費者態度指数は、九年三月に前期差五・五ポイントの低下となった後、九年六月には同四・四ポイントの上昇となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で五月一・八%増の後、六月(速報)は〇・七%増(事業所規模三十人以上では同一・三%増)となり、うち所定外給与は、六月(速報)は同四・四%増(事業所規模三十人以上では同四・七%増)となった。実質賃金は、前年同月比で五月〇・一%減の後、六月(速報)は一・六%減(事業所規模三十人以上では同一・一%減)となった。
 住宅建設は、低金利が継続するなか、消費税率引上げに伴う駆け込み需要により大きく増加した反動もあって弱含んでいる。
 新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で五月二・七%増(前年同月比九・六%減)となった後、六月は一一・六%減(前年同月比一一・六%減)の十一万二千戸(年率百三十四万戸)となった。六月の着工床面積(季節調整値)は、前月比一三・八%減(前年同月比一三・五%減)となった。六月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比一六・七%減(前年同月比二一・七%減)、貸家は同二・七%減(同一二・〇%減)、分譲住宅は同一一・五%減(同七・四%増)となっている。
 設備投資は、回復傾向にある。
 当庁「法人企業動向調査」(九年六月調査)により設備投資の動向をみると、全産業の設備投資は、前期比で九年一〜三月期(実績)二・六%増(うち製造業二・九%増、非製造業二・〇%増)の後、九年四〜六月期(実績見込み)は一・七%減(同〇・四%減、同二・六%減)となっている。また、九年七〜九月期(修正計画)は、前期比で二・一%増(うち製造業二・八%増、非製造業二・五%増)、九年十〜十二月期(計画)は一・六%増(同四・〇%増、同〇・二%減)と見込まれている。
 なお、通年では、前年比で八年(実績)八・二%増(うち製造業一一・四%増、非製造業六・七%増)の後、九年(計画)は一〇・一%増(同一六・八%増、同六・八%増)となっている。
 先行指標の動きをみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前月比で四月七・二%増(前年同月比六・一%減)の後、五月は一二・九%増(同八・八%増)となり、全体として増加傾向にある。民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、前月比で五月三三・〇%増の後、六月は二六・三%減(前年同月比九・一%減)となった。内訳をみると、製造業は前月比一三・六%減(前年同月比一四・二%減)、非製造業は同二九・八%減(同七・三%減)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資については、着工総工事費は、前年同月比で四月一・四%減の後、五月は一九・七%増となった。公共工事請負金額は、前年同月比で五月四・五%増の後、六月は六・九%増となった。官公庁からの建設工事受注額(五十社)は、前年同月比で五月一二・四%減の後、六月は六・七%増となった。

2 生産雇用

―鉱工業生産は増加基調―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、生産・出荷は、増加基調にある。在庫は三か月連続で増加した。
 鉱工業生産は、前月比で五月四・五%増の後、六月(速報)は精密機械、石油・石炭製品が増加したものの、電気機械、輸送機械等が減少したことから、三・一%減となった。また、製造工業生産予測指数は、前月比で七月は機械、鉄鋼等により一・三%増の後、八月は機械等により〇・五%減となっている。鉱工業出荷は、前月比で五月四・〇%増の後、六月(速報)は、生産財、耐久消費財等が減少したことから、二・〇%減となった。鉱工業生産者製品在庫は、前月比で五月二・一%増の後、六月(速報)は、石油・石炭製品等が減少したものの、輸送機械、化学等が増加したことから、一・七%増となった。また、六月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数は一一七・六と前月を四・八ポイント上回った。
 主な業種について最近の動きをみると、電気機械では、生産は六月は減少し、在庫は三か月連続で増加した。輸送機械では、生産は六月は減少し、在庫は四か月連続で増加した。化学では、生産は六月は減少し、在庫は四か月連続で増加した。
 雇用情勢をみると、完全失業率が高い水準で推移するなど厳しい状況にあるものの、改善の動きがみられる。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、五月〇・七三倍の後、六月〇・七四倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、五月一・二四倍の後、六月一・二二倍となった。雇用者数は、緩やかに増加している。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、六月は前年同月比一・三%増(前年同月差六十八万人増)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、五月前年同月比〇・九%増(季節調整済前月比〇・二%増)の後、六月(速報)は同〇・九%増(同〇・〇%)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比〇・一%増)、産業別には製造業では同〇・五%減となった。六月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差二万人減の二百三十六万人、完全失業率(同)は、五月三・五%の後、六月三・五%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では五月前年同月比一四・一%増(季節調整済前月比〇・七%増)の後、六月(速報)は同一〇・九%増(同二・一%減)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比一一・一%増)。
 企業の動向をみると、企業収益は、改善している。また、企業の業況判断は、製造業では改善が続いている一方、非製造業では慎重さがみられる。
 大企業の動向を前記「法人企業動向調査」(六月調査、季節調整値)でみると、売上高、経常利益の見通し(ともに「増加」−「減少」)は、九年七〜九月期は「増加」超に転じた。また、企業経営者の景気見通し(業界景気の見通し、「上昇」−「下降」)は九年七〜九月期は「上昇」超に転じた。
 また、中小企業の動向を中小企業金融公庫「中小企業動向調査」(六月調査、季節調整値)でみると、売上げD.I.(「増加」−「減少」)は、九年四〜六月期は「減少」超に転じ、純益率D.I.(「上昇」−「低下」)は、「低下」超幅が拡大した。業況判断D.I.(「好転」−「悪化」)は、九年四〜六月期は「悪化」超に転じた。
 企業倒産の状況をみると、件数は、前年の水準を上回る傾向にある。
 銀行取引停止処分者件数は、六月は九百四十一件で前年同月比二〇・三%増となった。業種別に件数の前年同月比をみると、不動産業で九・四%の減少となる一方、小売業で三六・二%、建設業で二六・一%の増加となった。

3 国際収支

―貿易・サービス収支の黒字は増加―

 輸出は、強含みに推移している。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で五月四・一%増の後、六月は七・三%減(前年同月比一〇・〇%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、輸送用機器、電気機器等が増加した。同じく地域別にみると、アジア、アメリカ等が増加した。
 輸入は、おおむね横ばいで推移している。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で五月〇・二%増の後、六月は一・一%減(前年同月比七・五%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、製品類(機械機器)等が増加し、鉱物性燃料等が減少した。同じく地域別にみると、中近東、EU等が減少した。
 通関収支差(季節調整値)は、五月に一兆一千四十一億円の黒字の後、六月は八千六百二十九億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、増加している。
 五月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、サービス収支の赤字幅が拡大したものの、貿易収支の黒字幅が拡大したため、その黒字幅は拡大し、八千百三十億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、所得収支の黒字幅が縮小したものの、貿易・サービス収支の黒字幅が拡大し、経常移転収支の赤字幅が縮小したため、その黒字幅は拡大し、一兆二千七百二十八億円となった。投資収支(原数値)は、八千百七十一億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、八千三百七億円の赤字となった。
 七月末の外貨準備高は、前月比六千万ドル減少して二千二百二十二億五千万ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、七月は、月初の百十四円台から上昇し一時百十二円台となったが、月央以降はおおむね百十五円台から百十六円台で推移し、月末には百十八円台となった。一方、対マルク相場(インターバンク十七時時点)は、七月は、月初は六十五円台で推移し、その後はおおむね六十三円台から六十四円台で推移した。

4 物 価

―安 定―

 国内卸売物価は、安定している。
 六月の国内卸売物価は、鉄鋼(小形棒鋼)等が上昇したものの、石油・石炭製品(ガソリン)等が下落したことから、前月比〇・一%の下落(前年同月比二・〇%の上昇)となった。輸出物価は、契約通貨ベースで下落したことに加え、円高から円ベースでは前月比三・二%の下落(前年同月比〇・九%の下落)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで保合いだったものの、円高から円ベースでは前月比三・二%の下落(前年同月比五・九%の上昇)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比〇・七%の下落(前年同月比一・九%の上昇)となった。
 七月上中旬の動きを前旬比でみると、国内卸売物価は上旬、中旬ともに保合い、輸出物価は上旬が〇・五%の下落、中旬が〇・五%の上昇、輸入物価は上旬が一・一%の下落、中旬が〇・一%の上昇、総合卸売物価は上旬が〇・一%の下落、中旬が保合いとなっている。
 企業向けサービス価格は、六月は前年同月比一・五%の上昇(前月比保合い)となった。
 商品市況(月末対比)は木材等は下落したものの、非鉄等の上昇により七月は上昇した。七月の動きを品目別にみると、合板等は下落したものの、亜鉛地金等が上昇した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で五月二・一%の上昇の後、六月は石油製品の上昇幅の縮小等により二・〇%の上昇(前月比〇・一%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で五月一・九%の上昇の後、六月は二・二%の上昇(前月比保合い)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で六月一・六%の上昇の後、七月(中旬速報値)は一般生鮮商品の上昇幅の縮小等の一方、持家の帰属家賃の上昇幅の拡大等があり一・六%の上昇(前月比〇・二%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で六月一・八%の上昇の後、七月(中旬速報値)は一・四%の上昇(前月比〇・四%の下落)となった。

5 金融財政

―長期金利はやや低下―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、七月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、七月はやや低下した。株式相場は、七月は月初に下落した後、堅調に推移した。マネーサプライ(M2+CD)は、六月は前年同月比二・八%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレートは、七月はおおむね横ばいで推移した。二、三か月物は、七月は月初に上昇した後、低下した。
 公社債市場をみると、国債流通利回りは、七月はやや低下した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、五月は短期は〇・〇一〇%低下し、長期は〇・〇一五%上昇したことから、総合では前月比で〇・〇二二%上昇し一・九八〇%となった。
 マネーサプライ(M2+CD)の月中平均残高を前年同月比でみると、六月(速報)は二・八%増となった。また、広義流動性でみると、六月(速報)は三・三%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関の貸出平残(全国銀行)は、六月(速報)は前年同月比〇・一%減と九か月連続で前年水準を下回った。七月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債が三百九十億円となる一方、国内公募事業債の起債実績は五千百三十億円となった。
 株式市場をみると、日経平均株価は、七月は月初に下落した後、堅調に推移した。

6 海外経済

―タイ・バーツ、フィリピン・ペソなど下落―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大している。実質GDPは、一〜三月期前期比年率四・九%増の後、四〜六月期は同二・二%増(暫定値)となった。個人消費はこのところ伸びに鈍化がみられる。設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大している。雇用者数(非農業事業所)は五月前月差十六万六千人増の後、六月は同二十一万七千人増となった。失業率は六月五・〇%となった。物価は安定している。六月の消費者物価は前月比〇・一%の上昇、生産者物価(完成財総合)は同〇・一%の下落となった。貿易収支赤字はこのところ拡大している。七月の長期金利(三十年物国債)は、総じて低下した。七月の株価(ダウ平均)は、総じて上昇し、下旬に最高値を更新した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は緩やかに改善しており、フランスでは、景気は回復傾向にある。イギリスでは、景気は拡大している。実質GDPは、ドイツでは九七年一〜三月期前期比年率一・八%増、フランスでは同一・〇%増、イギリスでは四〜六月期(速報値)前期比年率三・六%増となった。鉱工業生産は、回復傾向にある(五月の鉱工業生産は、ドイツ前月比一・五%減、フランス同一・六%減、イギリス同〇・九%減)。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準で推移しているが、イギリスでは低下している(六月の失業率は、ドイツ一一・四%、フランス一二・六%、イギリス五・七%)。物価は安定しているが、イギリスでは上昇率がやや高まってきている(六月の消費者物価上昇率は、ドイツ前年同月比一・七%、フランス同一・〇%、イギリス同二・九%)。
 東アジアをみると、中国では、景気は拡大している。物価は、安定している。貿易収支は、大幅な黒字が続いている。韓国では、景気は緩やかに減速しているが、下げ止まりの兆しもみられる。失業率は、低下傾向となってきている。物価上昇率は、このところ低下している。貿易収支は、六月は黒字となった。
 国際金融市場の七月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、総じて上昇した(モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)七月三十一日一〇六・五、六月末比二・九%の増価)。内訳をみると、七月三十一日現在、対円では六月末比三・五%、対マルクでは同五・三%それぞれ増価した。なお、タイでは、七月二日、通貨バスケット制から管理フロート制へと為替制度が変更され、タイ・バーツは六月末比対ドルで二二・〇%減価した。フィリピン・ペソなどでも減価がみられた。
 国際商品市況の七月の動きをみると、全体では上旬弱含んだ後、やや強含みで推移した。七月の原油スポット価格(北海ブレント)は上旬から中旬にかけてやや弱含んだ後、強含んだ。下旬はおおむね十八ドル台での推移となった。


 
    <9月3日号の主な予定>
 
 ▽防災白書のあらまし………………国 土 庁 

 ▽我が国の人口(推計)……………総 務 庁 
 



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