官報資料版 平成10





防衛白書のあらまし


平成9年版 日 本 の 防 衛


防 衛 庁


 平成九年版「日本の防衛」(防衛白書)は、去る七月十五日の閣議で了承され、公表された。
 白書のあらましは次のとおりである。

<第1章> 国際軍事情勢


<第1節> 国際軍事情勢概観

1 国際軍事情勢全般
@ 冷戦終結に伴い、世界的な規模の武力紛争が生起する可能性は遠のいた。しかしながら、東西冷戦の下で抑え込まれてきた、宗教上や民族上の問題などに起因する種々の対立が表面化あるいは尖鋭化し、複雑で多様な地域紛争が発生している。さらに、大量破壊兵器などの兵器の移転・拡散の増大が、国際的に強く懸念されている。このように、国際情勢は、依然として不透明・不確実な要素をはらんでいる。
A これに対し、国際関係の一層の安定化を図るためのさまざまな取組が進展している。国連は、国際の平和と安全を維持する役割を発揮することを期待されている。また、米国、旧ソ連や欧州においては、戦力の再編・合理化が行われるとともに、関係各国の合意に基づく軍備管理・軍縮の動きが進展している。
  さらに、地域的な平和と安全の確保のため、欧州などにおいて、地域的な安全保障の枠組みの活用や、多国間あるいは二国間の対話の拡大の動きが活発化している。
B アジア太平洋地域においては、極東ロシア軍の量的削減などの変化が見られるものの、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在している中で、多くの国々が経済力の拡大などに伴い、軍事力の拡充・近代化に努めており、また、我が国の北方領土や竹島、朝鮮半島、南沙群島などの諸問題が未解決のまま存在するなど、依然として不透明・不確実な要素が残されている。
  さらに、欧州におけるような多国間の安全保障の枠組みが構築されるような状況にはなく、米国を中心とする二国間の同盟・友好関係とこれに基づく米軍の存在が、この地域の平和と安定に重要な役割を果たしている。
  また、近年、二国間の軍事交流の機会の増加が見られるほか、ASEAN地域フォーラム(ARF)のような地域的な安全保障に関する多国間の対話の努力も定着しつつある。

2 複雑で多様な地域紛争
 地域紛争の性格は必ずしも一様ではない。それぞれが民族上・宗教上・領土上の固有の問題を背景として有するとともに、当事国・地域が置かれた安全保障環境も紛争の背景として存在するため、単純に国内問題あるいは二国間問題としてとらえることはできない。また、一国内の紛争であっても、人権問題や難民問題として、国際問題化する場合もある。また、地域紛争の態様についても、多岐にわたっている。

3 兵器の移転・拡散
 近年、一部の途上国においては、大量破壊兵器(核・生物・化学兵器)や弾道ミサイルなどの運搬手段を含む兵器の取得や開発が進められており、このような兵器の移転・拡散問題への対応は、国際社会の抱える緊急の課題となっている。

4 軍事科学技術のすう勢
 近年の通信・電子技術や素材技術を中心とした軍事科学技術の大幅な進歩に伴い、戦闘状況の変化はより迅速となり、戦域は広域化した。加えて、より大きな火力が、極めて短時間に陸上・海上・海中・空中のさまざまな装備から、戦場に複合的かつ正確に投入されるようになった。
 米国においては、二十一世紀の米軍の在り方として、情報の優越の下、所望の時期と場所に必要な戦闘力を集中させることが重視され、あらゆる軍事的側面で米軍が優位を保つことを目指している。これは、兵器単体の性能向上に加えて、必要であれば、それらがこれまでの軍種の枠組みを越えて、有機的に結合してシステムとして機能すべきことを示唆している。
 また、兵器に適用される技術の差は兵器の性能の差となって現れ、しばしば戦闘の帰すうを左右するため、これまでも技術的優位の確保は重要であった。現在、コンピューター技術に見られるように、民生技術は著しく発展している。それらの技術を軍事分野へ応用することによって、かつて航空機や核兵器が出現した際、戦略・戦術に大きな影響を与えたと同様に、「革命」とも形容されるような著しい変革がもたらされつつあるとも言われている。

<第2節> 欧米諸国及びロシアの国防政策

 欧米主要国及びロシアは、軍事力の再編・合理化を進めるとともに、それぞれを取り巻く戦略環境などを考慮しつつ、地域紛争など多様な事態への対応能力を確保するため、積極的な努力を行っている。
@ 米国は、本年五月の国家安全保障戦略においても、これまでと同様に、効果的な外交や十分な軍事力による安全の向上、経済的繁栄の支援、民主主義の推進を主要な目標として、グローバルにリーダーシップを行使する関与戦略を採ることを表明している。他方で、関与にあたっては、国益に対する貢献度を勘案し、また、コスト負担に対する国民の理解を得ることが必要であるとしている。
  また、米国防省が、本年五月、議会に報告したQDR(四年ごとの国防計画の見直し)によれば、米軍は、引き続き、ほぼ同時に発生する二つの大規模な戦域戦争に対処し得る必要があるとして、二〇〇三年における戦力構造を決定し、また、前方展開戦力については、欧州及びアジア太平洋地域において、それぞれ約十万人の水準を維持することとしている。
A ロシアは、「ロシア連邦軍事ドクトリンの主要規定」などに基づき、軍の再編過程にあるが、総じて国内経済の低迷により、必要な予算が配分されていないことなどから、遅れが指摘されており、一昨年八月に軍施設の終了期限を変更したほか、現在、新しい「軍事ドクトリン」の策定作業も開始したとされている。
  ロシア国内の不安定かつ流動的な政治・経済情勢とあいまって、ロシア軍の将来像は必ずしも明確ではなく、ロシア軍の今後の動向については、引き続き注意深く見極めていくことが必要である。
B 欧州諸国においては、冷戦終結後の戦略環境の変化を受けて、状況に応じ必要な場合には戦力を再び拡大し得る体制の確保に配慮しつつ、戦力の再編・合理化を進めている。
  また、国連平和維持活動、平和実施軍(IFOR)や平和安定化部隊(SFOR)への参加により、国際的な平和の維持・管理のための活動を積極的に進めている。

<第3節> 国際社会の安定化のための努力

1 国際連合などの対応
 冷戦終結後、地域紛争が発生する危険性が増大している状況の中で、国連が国際の平和と安全を維持する役割を発揮することが期待されている。しかしながら、国連の平和維持活動については、能力的な限界が認識されつつあり、また、財政問題など検討すべき課題が多くあることも同時に明らかとなってきている。
 兵器の移転・拡散問題への対応は、国際社会の抱える緊急の課題となっている。現在、国際社会においては、各種の不拡散体制を強化・拡充して、大量破壊兵器などの移転・拡散を防止する努力が行われているほか、通常兵器及び関連汎用品・技術に関する輸出管理に向けた動きも見られる。

2 米露及び欧州における各国の対応
 米露及び欧州については、米露間の核軍備管理・軍縮や欧州通常戦力(CFE)条約を中心とした欧州における軍備管理・軍縮が進展するとともに、軍事交流・信頼醸成の進展、さらには、北大西洋条約機構(NATO)、西欧同盟(WEU)、欧州安全保障・協力機構(OSCE)など、欧州における安全保障の枠組みの再構築・活用がなされている。

<第4節> アジア太平洋地域の軍事情勢

1 全般情勢第1図参照
 冷戦終結後、アジア太平洋地域においては、軍事情勢に変化が見られる。極東ロシア軍は、九〇年以降、量的に縮小傾向にあるとともに、即応態勢も低下していると見られる。また、韓国とソ連、韓国と中国との間の国交樹立、米国とヴィエトナムの関係正常化、さらには、長年対立関係にあった中露間の大幅な関係改善など、外交関係にも変化が見られる。
 しかし、この地域には、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、世界で最も著しい経済成長を背景に、多くの国々が国防費の増額や新装備の導入など、軍事力の拡充・近代化を図っている。また、この地域には、我が国の北方領土や竹島、朝鮮半島、南沙群島などの諸問題が依然として未解決のまま存在している。
 このような状況の下、米国を中心とする二国間の同盟・友好関係とこれに基づく米軍の存在が、この地域の平和と安定に引き続き重要な役割を果たしているが、近年、この地域においても、域内の政治・安全保障に対する関心が高まっており、二国間の軍事交流の機会の増加が見られるほか、ASEAN地域フォーラム(ARF)のような地域的な安全保障に関する多国間の対話の努力も定着しつつある。

2 朝鮮半島
 朝鮮半島は、地理的、歴史的に我が国と密接な関係にある。また、朝鮮半島の平和と安定は、我が国を含む東アジア全域の平和と安定にとって重要である。
 朝鮮半島においては、現在、韓国と北朝鮮を合わせて百五十万人程度の地上軍が非武装地帯(DMZ)を挟んで対峙している。このような軍事的対峙の状況は、朝鮮戦争終了以降続いており、冷戦終結後も基本的に変化していない。
@ 北朝鮮は、長期にわたる経済不振が続いており、特に食糧事情についてはかなり深刻な状況にあるものと見られる。また、金正日書記は、制度上は軍を完全に掌握する立場にあるものの、国家主席、党総書記という国家・党の最高ポストは空席のままである。外交面では、かつて北朝鮮を支えてきたロシアなどとの関係に変化が見られる。
A 北朝鮮は、四大軍事路線に基づいて軍事力を強化してきた。北朝鮮は、経済不振が深刻であるにもかかわらず、現在も依然として軍事面に資源を重点的に配分し、軍事力の近代化を図り、即応態勢の維持・強化に力を注いでいると見られる。
  さらに、北朝鮮は、核兵器開発疑惑を持たれているほか、弾道ミサイルの長射程化のための研究開発を行っていると見られ、北朝鮮のこのような動きは朝鮮半島の軍事的緊張を高めており、我が国を含む東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因となっている。

3 極東ロシア軍
 現在、極東地域には、依然として核戦力を含む大規模かつ近代化された戦力が蓄積された状態にあり、その一部について更新・近代化が続けられている。
 しかしながら、量的には九〇年以降縮小傾向にあり、また、即応態勢を維持しているのは戦略核部隊などに限られ、一般の部隊については低下しているものと見られている。
 ロシア軍の今後の動向は、ロシア国内の不安定かつ流動的な政治・経済情勢とあいまって不透明であるため、極東ロシア軍の今後の動向も不確実なものとなっており、注目していく必要がある。

4 中 国
 中国は、「富強」、「民主的」、「文明的」な社会主義国を建設することを目標に、経済建設を最重要課題として改革開放路線を推進してきており、その前提となる安定的な環境を維持するため、外交面において、周辺諸国との関係改善と交流拡大を進めることを基本としつつ、国防力の近代化・強化に努めている。
 台湾との関係は、近年、経済関係及び人的交流が深まっているものの、最近、台湾が国際社会において地位向上を目指す動きを示していることに対し、極めて警戒的である。
 中国は現在、軍事力について「量」から「質」への転換を図り、近代戦に対応できる正規戦主体の態勢へ移行しつつある。装備の近代化に当たっては、核戦力及び海・空軍を中心としており、自国による研究開発や生産を基本としつつ、ロシアなどから技術や装備の導入を行っている。
 また、運用面での近代化を図ることなどを目的として、近年、大規模な演習を頻繁に実施しているほか、海・空軍力の近代化と合わせて、近年、海洋における活動範囲を拡大する動きを見せている。
 中国の軍事力近代化は、同国が経済建設を当面の最重要課題としていることなどから、今後も漸進的に進むものと見られるが、核戦力や海・空軍力の近代化の推進、海洋における活動範囲の拡大、昨年一時緊張の高まりが見られた台湾海峡の状況などについて、今後とも注目していく必要がある。

5 東南アジア
 ASEAN諸国においては、経済力の拡大に加え、インフレなどの影響もあって、国防費は高い伸び率を示しており、新型の戦闘機や艦艇の導入など、装備の近代化を進めている。同時に、この地域では、近年、ASEANを中心として、地域の安定・発展を目指した積極的な動きが見られる。

6 アジア太平洋地域の米軍
@ 太平洋国家の側面を有する米国は、アジア太平洋地域の平和と安定のために、引き続き重要な役割を果たしており、軍事的には、この地域に陸・海・空軍及び海兵隊の統合軍である太平洋軍を配置している。
A 九三年九月の「ボトムアップ・レビュー」、一昨年二月の米国の東アジア・太平洋地域における安全保障戦略(EASR)及び昨年四月の「日米安全保障共同宣言」において確認されていた、アジア太平洋地域における米軍の前方展開の維持に関して、本年五月に米国防省が議会に報告した四年ごとの国防計画の見直し(QDR)においても、約十万人の兵力の維持が明記された。

7 各国の安定化努力
 アジア太平洋地域においては、欧州における軍備管理・軍縮などのような地域の安定化に向けた動きこそ見られないものの、近年、域内の政治・安全保障に対する関心が高まっており、二国間の軍事交流などの機会の増加や地域的な安全保障に関する多国間の対話の努力が行われている。

<第2章> より安定した安全保障環境の構築への我が国の貢献


<第1節> 我が国の考え方

 アジア太平洋地域では、安定的な安全保障環境が構築されるには至っておらず、米国を中心とする二国間同盟・友好関係と、それに基づいた米軍の存在が、地域の平和と安定に重要な役割を果たしている。
 このような情勢の中で、我が国は、日本国憲法の下、外交努力の推進及び内政の安定による安全保障基盤の確立を図りつつ、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならないという基本理念に従い、日米安保体制を堅持し、文民統制を確保し、非核三原則を守りつつ、節度ある防衛力を自主的に整備していくことが重要であると考えている。
 また、我が国は、その平和と安全を確保するため、適切な防衛力の整備や日米安保体制の信頼性向上に努める一方、これらの努力を補完するものとして、欧州とは異なるアジア太平洋地域の状況を踏まえつつ、日米間の緊密な協力関係を基盤に、より安定した安全保障環境の構築に向けて、@国際平和協力業務など、A安全保障対話・防衛交流、B国連・国際機関などが行う軍備管理・軍縮分野への協力を行っている。

<第2節> 国際平和協力業務など

1 国際平和協力業務
 一九九二年(平成四年)六月の「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(国際平和協力法)の成立後、自衛隊は、国連平和維持活動や人道的な国際救援活動に参加しており、昨年二月からは、ゴラン高原に国連平和維持活動を行う部隊などを派遣している。
(1) 自衛隊参加の仕組み
 国際平和協力法は、国連平和維持活動及び人道的な国際救援活動に対し、適切かつ迅速な協力を行うための国内体制を整備することにより、人的な面を中心に、より積極的に国際平和のための努力に寄与することを目的としている。
 自衛隊の部隊等による、いわゆる平和維持隊本体業務については、国際平和協力法の国会審議の過程で、別途法律で定める日までの間は、これを実施しないこととされている(いわゆる凍結)。このため、自衛隊の部隊等としては、当面、平和維持隊の後方支援業務及び人道的な国際救援活動への協力を行うこととなっている。
(2) 国際平和協力業務の在り方の見直し
 政府は、一昨年八月、本法律の附則に基づき、その実施の在り方について見直しを開始し、現在、個人の判断によるものとされている武器使用について、憲法上の問題を生じない範囲内で、原則として現場に在る上官の命令によるものとすることなどの検討を行っている。防衛庁としても、自衛隊の部隊などの派遣の経緯などを踏まえつつ、関係省庁とともに検討を重ねているところである。
(3) 自衛隊の実施する国際平和協力業務に関する議論
 自衛隊の実施する国際平和協力業務に関する議論としては、
ア 国際平和協力業務の自衛隊法における任務の取扱い(いわゆる本来任務化)
イ 国連平和維持活動参加に関する組織の在り方があり、前記イに関しては、自衛隊とは別の組織を設置して参加すべきとの議論(いわゆるPKO別組織論)があるが、防衛庁としては、軍事組織に属する者の派遣が求められていることなどから、別の組織を設置する必要はないものと考えている。
(4) ゴラン高原での活動
 自衛隊は、一昨年十二月、自衛隊の部隊などの国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)への派遣を決定し、昨年二月にカナダの輸送部隊と交代した第一次ゴラン高原派遣輸送隊(同年八月まで)四十三名を始めとして、第二次派遣輸送隊(同年八月から本年二月)及び第三次派遣輸送隊(本年二月から)が、ゴラン高原において国際平和協力業務として輸送などの業務に従事している。
 さらに、派遣輸送隊のほかに、UNDOFの司令部要員として、自衛官二名が派遣されている。

2 国際緊急援助活動
 陸・海・空各自衛隊は、海外、特に開発途上地域において大規模な災害が発生した場合に、被災国政府などの要請に応じ、国際緊急援助活動を行い得るよう、任務に対応できる態勢を保持している。

<第3節> 安全保障対話・防衛交流

 我が国の安全を確保する上で、自ら適切な防衛力を保持するとともに、米国との同盟関係の継続を確保し、その抑止力を我が国の安全保障のために有効に機能させることで、隙のない態勢を構築することが必要不可欠であるが、併せて、我が国周辺地域の情勢が安定していることも重要である。
 この安定には、日米安保体制など米国を中心とする二国間の同盟・友好関係と、これに基づく米軍の存在が重要な役割を果たしているものの、さらにそれを補完するものとして、我が国の周辺諸国を含む関係諸国との間の信頼関係の増進を図ることが大切である。
 信頼関係が未成熟な国家間において信頼関係をもたらす重要な要素の一つは、相手国に対し自国が侵略を行う意図はないということを互いに認識し合うことであり、自国の軍事態勢や活動に疑念を抱かせないようにすることである。
 そのためには、各国が自らの国防政策及び軍事態勢の透明性を向上させ、相互の対話や交流を通じてお互いの考え方を明らかにするとともに、防衛当局者間の友好関係を増進させることによって、無用な軍備の増強や不測の事態の発生とその拡大を抑えていくことが重要である。
 また、国家間の協調関係を深め、地域の安定を図るため、多国間や二国間の対話や交流を通じて、関係諸国との信頼関係を更に増進させることも重要である。
 このような考え方に従って、防衛政策を担当する防衛庁としては、積極的に周辺諸国との多国間・二国間の安全保障対話・防衛交流を推進し、関係諸国との信頼関係の増進を図ることによって、より安定した安全保障環境の構築に向けた貢献を行っている。

1 活発化する多国間の安全保障対話
(1) ASEAN地域フォーラム(ARF)
 我が国は、アジア太平洋地域における多国間の安全保障対話の場であるARFのプロセスに積極的に関与している。
 一昨年の第二回ARF・SOM(高級事務レベル会合)では、我が国がその防衛政策を簡潔にまとめた文書を提出するとともに、域内における軍備や防衛政策の透明性を向上するために、任意ベースで各国が自国の防衛政策などについての文書をARF・SOMへ提出することを我が国から提案し、合意された。
 防衛庁としても、ARF・SOMに第三回会合から職員を参加させているほか、第二回ARF閣僚会合で開催が合意されたARF・ISG(インターセッショナル支援グループ)やARF・ISM(インターセッショナル会合)にも職員を参加させて、引き続きARFプロセスの進展に積極的な関与を行っている。
(2) 防衛庁主催による多国間の安全保障対話
ア アジア・太平洋地域防衛当局者フォーラム
 防衛庁は、昨年十月東京において、アジア太平洋地域十九か国・一機関(ARF参加国)の国防政策担当局長・局次長クラスが、地域の安全保障に関して直接対話を行う、アジア・太平洋地域防衛当局者フォーラムを開催した。こうした試みは、初めてのことであり、各国から高い評価を得、また、地域の信頼醸成に大きく寄与することができた。
イ 第五回西太平洋海軍シンポジウム(第五回WPNS)
 WPNSは、西太平洋地域諸国の海軍参謀長などが集まり、海軍間の相互理解を深めるために一九八八年(昭和六十三年)から隔年で開催されているもので、昨年十一月には、海上自衛隊が初めて主催して、第五回WPNSを東京で開催した。
 この会議では、今までにない多数の各国海軍のトップクラスの参加が得られ、「第五回WPNSにおける海軍専門家による海上信頼醸成措置に関する評価と提案」が初めてとりまとめられるなど、大きな成果が得られた。
 このほか、防衛研究所は、昨年十月、第三回アジア・太平洋諸国安全保障セミナーを開催し、域内の中佐又は少佐クラスを招聘して、研究会などを実施している。また、防衛大学校は、本年三月、アジア太平洋諸国の軍学校の大佐又は中佐クラスの教官を招聘して、第二回国際防衛学セミナーを開催した。さらに、航空自衛隊は、昨年十一月、アジア太平洋地域の五か国から、空軍大学などの佐官クラスを招聘して、第一回国際航空防衛教育セミナーを開催している。
(3) その他の多国間の安全保障対話への参加
 航空自衛隊は、本年四月、米空軍五十周年記念に当たって八十四か国から空軍参謀総長などが参加して開催された、第一回世界空軍参謀総長等会議(第一回GACC)に参加した。
 また、防衛庁は、アジア太平洋諸国三十か国以上が参加し、後方支援活動に関する情報交換などを行う太平洋地域後方補給セミナー(PASOLS)や、アジア太平洋地域の各国陸軍と地上部隊を育成するための効率的で経済的な管理技法に関して情報交換を行う太平洋地域陸軍管理セミナー(PAMS)、さらには、民間主催の多国間の安全保障対話である北太平洋安全保障三極フォーラムや北東アジア協力ダイアログに参加するなど、さまざまなレベルでの意見交換に努めている。

2 二国間防衛交流の現状
(1) さまざまな二国間防衛交流
 防衛庁は、各国との信頼関係を増進するため、@防衛首脳クラスなどハイレベルの交流、A防衛当局者間の定期協議、B部隊間の交流、C留学生の交換及びD防衛研究交流など、さまざまなレベルで二国間防衛交流の努力を行っている。
(2) 日韓防衛交流
 韓国は、我が国の最も近くに位置する友好国であり、両国の防衛当局が関心を有する安全保障上の諸問題について意見交換を行うとともに、さまざまな交流を通じて相互理解を深めることは、朝鮮半島を含む東アジア全域の平和と安定に資するものである。
 防衛庁は、このような観点から、韓国国防当局との間で、防衛首脳レベルの相互訪問やその他のハイレベルの人的交流、日韓防衛実務者対話、留学生の交換や研究交流などの各種交流を積極的に進めてきている。
 一方、部隊間の交流としては、昨年九月、海上自衛隊の練習艦隊が、初めて韓国(釜山)を訪問するなど、両国間の交流が深まっている。
 このような交流を積み重ねることは、両国の友好関係を更に確固としたものにする上でも有益であり、防衛庁としては、今後とも緊密な日韓防衛関係の構築に努力していく考えである。
(3) 日中防衛交流
 アジア太平洋地域において大きな影響力を有している中国との間で、防衛分野での相互理解や信頼関係を増進することは、両国間の安全保障に資するのみならず、アジア太平洋地域の平和と安定にも資するものである。防衛庁は、中国国防当局との交流の中で、特に、我が国の防衛政策に対する中国側の理解の促進に努めるとともに、中国の軍事力や国防政策の透明性が向上するよう働きかけてきている。
 中国との防衛交流は、一九八九年(平成元年)の天安門事件以降の数年間は実質的な交流は中断されていたが、九三年(同五年)の日中外相会談の際、安全保障に関する対話の開催について合意がなされ、以後、両国の外交・防衛当局間による日中安全保障対話が、本年三月までに四回実施された。また、昨年八月には、防衛事務次官が十一年ぶりに中国を訪問するなど、各レベルにおける人的交流も徐々に増えてきている。
 今後の交流については、日本側より中国国防部長に対して訪日招請を行っており、防衛首脳レベルでの交流が再開されることが期待される。
(4) 日露防衛交流
 ロシアとの間においても、冷戦終結後の国際情勢の変化を背景として防衛交流が進んできている。防衛庁としては、日露関係全般の進展を見つつ、ロシアとの防衛交流を着実に進めていくことが重要であると考えている。
 これまでの具体的な防衛交流としては、日露政策企画協議、日露海上事故防止協定の実施状況などを検討する日露間の年次会合、日露防衛研究交流などが実施されてきており、これらの交流実績を踏まえ、大臣レベルの相互訪問や、海上自衛隊艦艇の初のウラジオストク訪問、ロシア海軍艦艇の東京訪問が実現している。
(5) 東南アジア諸国との防衛交流
 海上交通の要衝にある東南アジア諸国は、我が国と密接な経済関係を有している。これらの国々と安全保障上の諸問題について対話を促進し、相互理解と信頼を増進することは、双方にとって有意義であり、防衛庁は、これらの国々との間で、防衛首脳やさまざまなレベルでの交流を行っている。
(6) その他の諸国との防衛交流
 より安定した安全保障環境をもたらすためには、近隣諸国のほか、オーストラリアやカナダ、さらには、欧州諸国を始め多くの関係諸国との防衛分野での交流を深め、お互いの軍事力及び国防政策を理解し、信頼関係を深めることが重要である。
 オーストラリアやカナダとの間では、実務者を含めた各レベルでの交流が進んでいる。欧州諸国との間では、防衛首脳を含めたハイレベルの人的交流や定期協議を行っている。

<第4節> 国連・国際機関などが行う軍備管理・軍縮分野への協力

 我が国は、国連・国際機関などが行う軍備管理・軍縮分野において、さまざまな形で努力している。防衛庁としても、@国連軍備登録制度への協力、A軍縮関連条約への協力(化学兵器禁止条約、生物兵器禁止条約、包括的核実験禁止条約、特定通常兵器使用禁止・制限条約)、Bイラクの大量破壊兵器の廃棄に関する国連特別委員会への貢献、C兵器の不拡散体制への取組のそれぞれの活動に対して、情報の提供や専門家の派遣などのさまざまな協力を行っている。
 昨年一月には「国際機関等に派遣される防衛庁の職員の処遇等に関する法律」が施行され、一般職の国家公務員と同様の処遇を与えた上で、防衛庁の職員を国際機関などの職員として派遣することが可能となり、防衛庁では、化学兵器禁止機関(OPCW)に、化学防護の専門家である陸上自衛官を査察局長及び査察員として派遣している。

<第3章> 我が国の防衛政策


<第1節> 我が国防衛の基本的考え方

1 我が国の安全保障
 我が国の今日の繁栄は、国民の叡知と努力の賜物であるが、その背景には、自由主義国家の一員として、戦後半世紀近くにわたり、外国からの侵略を受けることもなく、国の安全が保たれてきたことがある。
 我が国の安全と繁栄は、世界の安全と繁栄と切り離すことはできない。他方、今日の国際社会においては、国連の活動を始めとして、より安定した国際秩序の確立を目指してさまざまな努力が続けられているが、侵略のおそれの全くない真に平和な安全保障環境の確立には至っていないのが現実である。
 平和や安全を得るためには、国際社会の現状に照らし、我が国の環境に則して適切な手段を講ずることが必要である。その手段としては、国際政治の安定を確保するための外交努力、内政の安定による安全保障基盤の確立、自らの防衛努力及び日米安保体制の堅持がある。
 外交や内政の分野の努力のみでは、外国からの実力をもってする侵略を必ずしも未然に防止することはできず、また、万一侵略を受けた場合に、これを排除することもできない。
 このため、我が国は、その安全を担保すべく、自ら適切な規模の防衛力の整備を進めるとともに、米国との安保体制を堅持し、その信頼性を向上させて隙のない防衛態勢を構築することにより、侵略を未然に防止し、万一侵略を受けた場合にはこれを排除することとしている。このような努力は、我が国の安全を確保する上での必須の要件であるのみならず、アジアひいては世界の平和と安全にも資することとなる。

2 憲法と自衛権
 憲法第九条の規定が主権国家としての我が国固有の自衛権を否定するものでないことは、異論なく認められている。このため、政府は、自衛のための必要最小限の実力を保持することは、憲法上認められていると解している。このような考えの下に、政府は、専守防衛を我が国防衛の基本的な方針として、実力組織としての自衛隊を保持し、その整備を推進し、運用を図っており、これらは憲法上何ら問題がない。

3 防衛政策の基本
 我が国の防衛政策の基本となっている「国防の基本方針」を受けて、これまで、我が国は、平和憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本理念に従い、日米安保体制を堅持するとともに、文民統制を確保し、非核三原則を守りつつ、節度ある防衛力を自主的に整備してきている。

<第2節> 防衛力の意義と役割

1 防衛力の意義
 防衛力は、侵略を排除する意思と能力を表すものとして、侵略を未然に防止するとともに、万一直接又は間接の侵略が生起した場合においてはこれを排除し、さらに、軍事力をもってする不法行為に対処する機能を有している。
 防衛力は、国の安全保障を最終的に担保するものであり、その機能は他のいかなる手段や力によっても代替し得ない。

2 我が国の防衛力の意義と役割
 我が国の防衛力は、前述した我が国防衛の基本的考え方に従ったものであり、自らが力の空白となって地域の不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の防衛力を保有するという基盤的防衛力構想を取り入れたものである。
 我が国の防衛力は、日米安保体制とあいまって、隙のない防衛態勢を保持することにより、侵略を未然に防止するために整備されているものである。その意義を考えるに当たり、以下の点を考慮しなければならない。
@ 我が国は、四面環海であり、縦深性に乏しく、戦略上の要衝に位置しているという地理的特性があること。
A 我が国は海洋国家であり、生存基盤、継戦能力、米軍の来援基盤を確保する上で海上交通の保護が重要であること。
B 我が国の防衛力は、我が国防衛の基本的考え方を踏まえて整備され、受動的な防衛戦略にのっとって作戦を実施すること。
 我が国防衛のためには、陸・海・空及びその機能が欠落なく均衡がとれたものであること、持てる機能を最大限に発揮できるようにすることが必要である。そして、その受動的な防衛戦略の下でも、自らが中心となって作戦を実施できるようにするためには、優れた情報機能、指揮通信機能、即応態勢の保持が重要である。
 また、我が国の防衛力の主な役割は我が国防衛であるが、大規模災害など各種事態への対応や、より安定した安全保障環境の構築への貢献を担い得ることも必要である。

3 陸上防衛力
 陸上防衛力は、柔軟性、強靱性、残存性という特性を有している。陸上防衛力は、侵略から領土、国民を直接防衛して、侵略を排除する最終的な力であり、これを保持することは国民の強い防衛意思の表明となっている。
 我が国が適切な陸上防衛力を保持することは、着上陸を図る国に対し、我が国に対する侵略を強く抑止することになる。万一着上陸があった場合にも、地形の活用や戦闘手段の工夫により、強靱な戦闘を継続し、侵攻部隊を排除することとなっている。
 また、我が国の陸上防衛力は、国内全般の防衛警備を担当することとなっている。
 さらに、我が国の陸上防衛力は、自己完結能力を備えていることなどから、災害派遣、国際平和協力業務など、幅広い任務を遂行することとしている。また、地域と緊密な関係を保持しつつ、民生の安定や防衛基盤の育成にも寄与している。

4 海上防衛力
 海上防衛力は、優れた機動性や柔軟性、多目的性、国際性といった特性を有している。
 我が国の海上防衛力の主任務は、国土の防衛と我が国周辺海域における海上交通の保護である。我が国の海上防衛力は、敵侵攻部隊を極力洋上で阻止又は撃破する役割を有し、また、我が国の生存基盤、継戦能力、米軍の来援基盤を確保するために、海上交通の保護という重要な任務を有している。
 このほか、我が国の海上防衛力は、海上における警備行動や警戒監視を任務とするとともに、その能力などを活かして、災害派遣、機雷等の除去、南極観測支援などのさまざまな任務を有している。

5 航空防衛力
 航空防衛力は、広大な空間を活動の場とし、即応性、機動性、柔軟性に富み、打撃力、突破力、優れた監視能力などを有している。
 一般的に近代戦では、航空戦力の投入を伴わない侵攻は考え難い。航空優勢の確保は重要であり、航空作戦の成否は、戦いの帰すうを左右する重要な要素となっている。
 我が国においては、地理的特性などから侵攻は航空攻撃で開始される可能性が高い。また、専守防衛という受動的な防衛戦略などにかんがみれば、即応性の高い航空防衛力が必要である。
 我が国の航空防衛力は、警戒監視を行い、防空作戦とともに着上陸侵攻阻止や対地支援などの作戦を行うこととしている。
 また、我が国の航空防衛力は、平時から対領空侵犯措置の態勢をとって、これを実施するとともに、その能力などを活かして、災害派遣や国際平和協力業務などの任務を遂行することとしている。

<第3節> 日米安全保障体制

1 日米安全保障体制の意義
 激動する国際社会の中にあって、我が国は、戦後半世紀以上にわたり平和と繁栄を享受してきたが、この選択が極めて適切であったことは、その後の実績が示している。
 我が国の繁栄と発展の要因としては、国民の努力に加えて、我が国が、自由主義諸国の一員として関係諸国との友好と協調を図ってきたことが挙げられよう。
 我が国が享受してきた平和と今日の繁栄は、我が国自身の防衛努力とあいまって、日米安保体制が抑止の体制として一貫して有効に機能してきたことが大きな要素であることは否定できない。
 また、日米安保体制は、我が国周辺地域の平和と安定の確保や、より安定した安全保障環境の構築にも重要な役割を果たしている。
(1) 我が国の安全の確保
 我が国への武力攻撃があった場合、日米両国は、日米安保条約により共同対処を行うこととなっている。この米国の日本防衛義務により、我が国への武力攻撃は、自衛隊のみならず米国の有する強大な軍事力とも直接対決することとなり、相手国は侵略を躊躇せざるを得ず、結果として侵略は未然に防止される。
(2) 我が国周辺地域の平和と安定の確保
 日米安保体制を基調とする日米両国の緊密な協力関係は、この地域の平和と安定にとって必要な米国の関与や米軍の展開を確保する基盤となっている。このような日米両国間の緊密な協力関係や米軍の存在は、米国と地域諸国との間で構築された同盟・友好関係とあいまって、我が国周辺地域における平和と安定を確保するために重要な役割を果たしている。
(3) より安定した安全保障環境の構築
 日米安保体制を基調とする日米両国の協力と協調は、安定化のための努力が重視されている冷戦終結後の国際社会において、より安定した安全保障環境を構築するために重要な役割を果たすものである。

2 日米安全保障体制の信頼性の向上
 日米安保体制は、冷戦後も、我が国の安全の確保にとって必要不可欠なものであり、また、我が国の周辺地域の平和と安定を確保し、より安定した安全保障環境を構築するためにも引き続き重要な役割を有しており、その信頼性の向上を図り、これを有効に機能させていくよう努力していくことが重要である。

3 日米安全保障共同宣言
 昨年四月の橋本総理とクリントン大統領との会談において「日米安全保障共同宣言」が合意され発表された。
 この共同宣言においては、日米安保条約を基盤とする日米同盟関係が、二十一世紀に向けてアジア太平洋地域において安定的で繁栄した情勢を維持するための基盤でありつづけることなどを再確認した。
 また、この共同宣言では、日米同盟関係の信頼性を高める上で重要な柱となる日米防衛協力の具体的施策を整理して述べている。

<第4節> 防衛計画の大綱

1 大綱が前提としている国際情勢
@ 世界的な規模の武力紛争が生起する可能性は遠のいているが、複雑で多様な地域紛争が発生し、兵器の移転拡散が増大するなど、国際情勢は不透明・不確実な要素をはらんでいる。
A これに対し、国際関係の一層の安定化を図るための各般の努力が継続され、各種の不安定要因が深刻な国際問題に発展することを未然に防止することが重視されている。
B 我が国周辺地域では、依然として大規模な軍事力が存在し、多くの国が軍事力の拡充・近代化を行っている。また、朝鮮半島での緊張が継続するなど、不透明・不確実な要素が残されている。同時に、国家間の協調関係を深め、地域の安定を図ろうとする動きが見られる。
  また、日米安保体制を基調とする日米間の緊密な協力関係は、我が国の安全及び国際社会の安定を図る上で、引き続き重要な役割を果たしていくものと考えられる。

2 我が国の安全保障と防衛力の役割
@ 我が国の安全保障と防衛の基本方針は引き続き堅持していく。
A 我が国の防衛力の在り方として、基盤的防衛力構想を基本的に踏襲する。また、合理化・効率化・コンパクト化を一層進めるとともに、必要な機能の充実、防衛力の質的な向上を図り、多様な事態に対応できるよう防衛力を整備するとともに、適切な弾力性を確保することが適当である。
B 日米安保体制は、我が国の安全の確保にとって不可欠で、我が国周辺地域の平和と安定、より安定した安全保障環境の構築に対して、引き続き重要な役割を有しており、その信頼性の向上を図るために各種施策の実施に努める必要がある。
C 防衛力の中心的な役割は、我が国の防衛であるが、大規模災害など各種の事態への対応、より安定した安全保障環境の構築への貢献といった役割も果たすべきである。

3 我が国が保有すべき防衛力の内容
 防衛大綱では、基盤的防衛力構想を基本的に踏襲し、これを踏まえて、各自衛隊が維持すべき体制や保持すべき各種の態勢が示されている。
 また、防衛大綱では、防衛力の適切な弾力性の確保のほか、防衛力の整備、維持及び運用における留意事項について記述している。

<第4章> 我が国防衛の現状と課題


<第1節> 防衛力の改革

 防衛大綱では、今後の我が国の防衛力について、規模及び機能の見直しを行い、
@ 合理化・効率化・コンパクト化を一層進めること
A 必要な機能の充実と防衛力の質的な向上を図ることにより、多様な事態に対して有効に対応し得る防衛力を整備すること
B 同時に事態の推移にも円滑に対応できるように適切な弾力性を確保し得るものとすることが適当としている。
 防衛庁は、防衛大綱に基づき、計画的に実施していく基幹部隊の見直しなどを始め、さまざまな改革などに取り組んでいる。

1 自衛隊の新たな体制への移行など
(1) 基幹部隊の見直しなど
 防衛大綱では、陸・海・空各自衛隊の主要な編成、装備などの具体的規模などが示され、さらに「中期防衛力整備計画(平成八年度〜平成十二年度)」(中期防)では、防衛大綱に定められた体制へ移行する過程を明示している(第1表参照)。
ア 陸上自衛隊の基幹部隊など
 防衛大綱では、十三個師団・二個混成団などを基幹部隊とする従来の十八万人体制から、九個師団・六個旅団などを基幹部隊とする十六万人(常備自衛官定員十四万五千人、即応予備自衛官員数一万五千人)の体制に移行することとしている。
 中期防では、五個の師団について改編を実施し、その際、二個の師団については旅団に改編し、改編した師団及び旅団の一部の部隊を即応予備自衛官を主体として編成する。これらの改編を通じ、中期防計画期間末の編成定数は、おおむね十七万二千人程度(うち即応予備自衛官員数おおむね五千人程度)に削減される。
イ 海上自衛隊の基幹部隊など
 地方隊の護衛艦部隊について、防衛大綱では十個護衛隊を七個護衛隊にすることとし、中期防では二個護衛隊を廃止する。掃海部隊については、防衛大綱では二個掃海隊群を一個掃海隊群に集約化することとしており、中期防で移行を完了する。また、陸上哨戒機部隊については、防衛大綱では十六個航空隊から十三個航空隊にすることとし、中期防で移行を完了する。
ウ 航空自衛隊の基幹部隊など
 航空警戒管制部隊について、防衛大綱では二十八個警戒群を八個警戒群・二十個警戒隊にすることとし、中期防では、二個方面隊の一部の警戒群を警戒隊に改編する。また、戦闘機部隊については、防衛大綱では十三個飛行隊から一個飛行隊を削減して十二個飛行隊とすることとし、中期防で移行を完了する。
エ 統合幕僚会議の機能の充実など
 防衛大綱では、統合幕僚会議の機能の充実などによる各自衛隊の統合的かつ有機的な運用に特に配意するとしており、その観点から、中期防では、その機能の充実などについて検討を行い、必要な措置を講ずることとしている。
(2) 即応予備自衛官制度の導入
 防衛大綱では、平時における効率的な部隊の保持や事態の推移に円滑に対応し得る弾力性を確保することを考慮して、陸上自衛隊の一部の部隊については、新たに即応性の高い即応予備自衛官を主体として編成することとされた。
 即応予備自衛官は、第一線部隊の一員として運用し得るよう、従来からの予備自衛官よりも高い練度と即応性が必要である。この即応予備自衛官は、防衛大綱別表において一万五千人、中期防計画期間末においておおむね五千人程度を陸上自衛隊に導入することとされている。
 即応予備自衛官は、防衛招集命令、治安出動命令及び災害等招集命令により招集された場合に、自衛官としてあらかじめ指定された陸上自衛隊の部隊において勤務する。
(3) 中央組織の改編など
 情報本部の新設(本年一月)、内部部局の改編(本年度)を行い、また中央補給処の集約・一元化(陸上自衛隊)(本年度末)を行うこととしている。
(4) 各種の態勢の整備など
 防衛大綱は、各自衛隊が保持すべき各種の態勢についても示している。これを踏まえ、中期防は、各種の態勢の整備などを進めることとしている。
(5) 取得改革の推進
 今日のように、格段と厳しさを増している経済財政事情の下、装備のハイテク化などに伴い、各種コストが増加している状況において、より総合的な観点から装備品の取得についての改善を行っていく必要がある。

2 中期防衛力整備計画
(1) 防衛力整備の考え方
 中期防においては、防衛大綱に従い、次の六つの柱を基本に防衛力整備を進めることとしている。
 @防衛力の合理化・効率化・コンパクト化、A防衛力の機能の充実・質的向上、B防衛力の弾力性の確保、C日米安保体制の信頼性の向上、Dより安定した安全保障環境の構築への貢献、E節度ある防衛力の整備
 なお、本年六月に閣議決定された「財政構造改革の推進について」において、中期防を本年中に見直すこととされた。さらに、同月開催された安全保障会議において、政府として、本年中に中期防の見直しを行い、適切な結論を得るため、所要の検討に着手することとされた。
 防衛庁としても、政府見直し案作成の資とすべく、庁内に検討委員会を設けて検討を行っている。
(2) 基幹部隊の見直しなど
 中期防では、期間中における基幹部隊の見直しなどについて、目標を示している(第1表参照)。
(3) 検討課題など
 中期防では、空中給油機能、弾道ミサイル防衛、固定翼哨戒機及び輸送機の後継機に係る検討課題なども挙げている。
(4) 所要経費
 中期防の実施に必要な防衛関係費の総額の限度は、二十五兆一千五百億円程度をめどとしている。このほか、中期防においては、将来における予見しがたい事象への対応、より安定した安全保障環境の構築への貢献など特に必要と認める場合に安全保障会議の承認を得て使用する一千百億円を限度とする調整枠が設けられている。

3 平成九年度の防衛力整備
(1) 主要事業
 本年度の防衛力整備は、防衛大綱の下、中期防を踏まえ、その二年目として、着実な防衛力の整備に努めることとし、特に以下の点に配意している。
@ 基幹部隊の見直し
A 正面装備については、老朽装備の更新・近代化を基本
B 自衛隊の維持運営などに必要な所要の事業、隊員施策の推進と各種事業全般にわたる効率化・合理化
C 安全保障対話などの活動について一層の充実
D 防衛関係費(第2表参照
 平成九年度の防衛関係費は、平成九年度を財政構造改革元年とするとの政府の方針の下、防衛大綱、中期防に基づいて編成され、「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)関連経費を除き、前年度比一・九八%増の四兆九千四百十四億円となっている。
 なお、平成九年度予算においては、SACO関連経費について、前記とは別途、六十一億円が予算措置されており、これを含めた防衛関係費の総額は、前年度比二・一%増の四兆九千四百七十五億円となる。

4 財政構造改革への取組
 本年六月、「財政構造改革の推進について」が閣議決定されたが、同閣議決定において、「4 防衛」として、防衛力整備については、@中期防衛力整備計画の所要経費の縮減を行い、本年中にその内容を見直すこと、A集中改革期間中の防衛関係費については、対前年度同額以下に抑制すること、B装備品の調達価格の抑制など取得改革に努めること、また、「15 その他(3)」として、SACO関連事業については着実に実施することとされた。

<第2節> 我が国の防衛

 我が国は、侵略の未然防止に努めるとともに、万一、我が国に対する侵略事態が発生した場合に備えて、各種の装備及び態勢・機能を平素から整備している。
 平時から自衛隊が行う活動としては、警戒監視活動、領空侵犯に備えた警戒などがあり、侵略事態発生時に自衛隊が実施する主要作戦としては、防空、周辺海域の防衛と海上交通の安全確保、着上陸侵攻対処の各作戦がある。

<第3節> 大規模災害などへの対応

1 自衛隊の行う災害派遣などの仕組み
 自衛隊は、その組織、装備、能力を活かし、災害に際して国民の生命と財産の保護に貢献してきたが、これまでの経験を踏まえて、更に災害対処能力の向上に努めている。
 自衛隊法第八十三条の規定に基づく自衛隊の災害派遣は、地震などの天災地変、火災、大規模な事故といった災害に際して、人命又は財産の保護のため、原則として、都道府県知事、海上保安庁長官、管区海上保安本部長又は空港事務所長からの要請を受けて実施されることとなっている。
 ただし、防衛庁長官又はその指定する者(駐屯地司令など)は、事態に照らして特に緊急を要し、都道府県知事などの要請を待ついとまがないときには、要請を待たずに派遣できることが例外的に規定されている(いわゆる自主派遣)。
 また、部隊などの長は、防衛庁の施設又はその近傍に火災などが発生した場合に、部隊などを派遣することができる。
 地震に関しては、発生前でも、「大規模地震対策特別措置法」に基づく警戒宣言が発せられたときには、地震災害警戒本部長(内閣総理大臣)の要請に基づき、防衛庁長官は、地震による災害の発生の防止又は被害の軽減を図るため、地震防災派遣を命じることができることとされている。
 自衛隊では、地震防災対策強化地域に指定されている東海地域での大規模地震に備えた「東海地震対処計画」、南関東地域で大規模な震災が発生した場合に備えた「南関東地域震災災害派遣計画」を準備している。

2 災害派遣の実施状況
 この一年間においては、自衛隊は、昨年十二月に発生した蒲原沢の土石流災害や、本年一月に発生したナホトカ号海難・流出油災害に係る災害などに派遣されている。

<第4節> 日米安全保障体制の信頼性向上のための施策

1 政策協議・情報交換など
 日米両国間の安全保障上の政策協議は、通常の外交ルートによるもののほか、日米首脳会談や、防衛庁長官及び外務大臣並びに米国防長官及び国務長官との日米安全保障協議委員会(SCC)、日米防衛首脳会談、日米両政府の事務レベルの関係者による日米安全保障事務レベル協議(SSC)など、各種のレベルで緊密に行われている。

2 日米防衛協力のための指針(「指針」)の見直し
 一九七五年(昭和五十年)、我が国に対して武力攻撃が発生した場合に、日米両国が協力して採るべき措置について協議することなどについて、日米の首脳や防衛首脳の間の会談で意見の一致がみられ、七八年(同五十三年)に「日米防衛協力のための指針」が作成された。
 この「指針」は、その後行われるべき研究作業のガイドラインとしての性格を有するもので、両国は、共同作戦計画についての研究を始め、各種の共同の取組を進めてきた。
 本年六月に、防衛協力小委員会(SDC)は、その作業の概要について中間とりまとめを公表した。
(1) 「指針」見直しの背景
 冷戦の終結にもかかわらず、アジア太平洋地域には不安定性と不確実性が依然として存在しており、日本周辺地域における平和と安定の維持は、日本の安全のために一層重要になっている。
 日米両国政府は、冷戦後の情勢の変化にかんがみ、「指針」の下での成果を基礎として、日米防衛協力を強化するための方途を検討することを決定し、検討を行っている。
(2) 新たな指針の目的
 新たな指針の最も重要な目的の一つは、日本に対する武力攻撃又は周辺事態に際して、日米が協力して効果的にこれに対応し得る態勢を構築することである。
 新たな指針は、平素からの及び緊急事態における日米それぞれの役割並びに相互間の協力及び調整の在り方について、一般的な大枠及び方向性を示すものであり、本年秋の策定後に日米両国の関係者が行うこととなる共同の取組に対するガイダンスを与えるものである。
(3) 「指針」見直しの経緯と現況/基本的な前提及び考え方
 昨年六月の日米次官級協議において、「指針」見直しのための作業は、SDCを改組した上で行うこととされた。その後、同年九月にその作業の進捗状況についてとりまとめが行われ、本年秋に見直しを終了し、新たな指針を策定することを目途に作業を継続することとした。
 「指針」見直し及び新たな指針の下での取組は、以下の基本的な前提及び考え方に従って行われる。
ア 日米安保条約及びその関連取極に基づく権利及び義務並びに日米同盟関係の基本的な枠組みは、変更されない。
イ 日本のすべての行為は、日本の憲法上の制約の範囲内において、専守防衛などの日本の基本的な方針に従って行われる。
ウ 日米両国のすべての行為は、国際法の基本原則及び国際連合憲章を始めとする関連する国際約束に合致するものである。
エ 「指針」見直し及び新たな指針の下での作業は、いずれの政府にも、立法上、予算上又は行政上の措置をとることを義務付けるものではない。しかしながら、日米両国政府が、具体的政策や措置に適切な形で反映することが期待される。
(4) これまでのSDCの協議の概要
 SDCは、より効果的な日米協力に資する考え方及び具体的な項目を洗い出すことを目標に検討を行い、本年六月にその作業の概要を公に明らかにするものとして、中間とりまとめを発表した。
 これまでにSDCにおいて協議した項目は、以下のとおりである。
ア 平素からの協力
イ 日本に対する武力攻撃に際しての対処行動など
ウ 日本周辺地域における事態で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合(「周辺事態」)の協力
(5) 新たな指針策定後の取組
 日米両国の関係者は、本年秋に、新たな指針が策定された後、共同作戦計画についての検討及び相互協力計画についての検討、準備のための共通の基準の確立、共通の実施要領などの確立といった共同作業を行う。
 また、日米両国政府は、両国間の調整メカニズムを平素から構築しておく。
(6) 新たな指針の適時かつ適切な見直し
 新たな指針は、諸情勢の変化に適切に対応し得るよう、必要に応じて適時かつ適切な形で見直され得るものとする。

3 日米共同訓練
 自衛隊と米軍が共同訓練を行うことは、それぞれの戦術技量の向上を図る上で有益である。さらに、日米共同訓練を通じて、平素から自衛隊と米軍の戦術面などにおける相互理解と意思疎通を促進し、インターオペラビリティ(相互運用性)を向上させておくことは、我が国有事における日米共同対処行動を円滑に行うために不可欠である。また、このような努力は、日米安保体制の信頼性と抑止効果の維持向上に役立つものである。
 このため、自衛隊は米軍との間で従来から各種の共同訓練を実施しており、今後とも積極的に行っていく方針である。

4 日米物品役務相互提供協定
(1) 協定の概要
 日米物品役務相互提供協定は、日米安保条約の円滑かつ効果的な運用と国連を中心とした国際平和のための努力に対して積極的に寄与することを目的とし、自衛隊と米軍との間で、いずれか一方が燃料などの物品又は宿泊、輸送などの役務の提供を要請した場合には、他方はその物品又は役務を提供できることを基本原則としており、共同訓練、国連平和維持活動及び人道的な国際救援活動において適用される。
(2) 協定の運用
 本協定は昨年四月に日米両国が署名、六月の国会承認を経て、十月に施行され、施行後は、日米共同訓練において、自衛隊と米軍の間で食事、輸送、燃料などの相互の提供が行われている。

5 装備・技術面での相互交流
 日米両国は、日米安保条約において、それぞれの防衛能力の維持、発展のために相互に協力することとしている。また、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」は、両国間の防衛分野における相互協力のための枠組みを定めている。
 我が国としても、こうした相互協力の原則を踏まえ、我が国の技術基盤・生産基盤の維持に留意しつつ、米国との装備・技術面に係る協力を積極的に推進する必要がある。
 我が国は、日米技術協力体制の進展及び技術水準の向上などの状況を踏まえ、一九八三年(昭和五十八年)、武器輸出三原則などによらず、米国に対して武器技術を供与することとし、これまで、携行地(艦)対空ミサイル(SAM)関連技術など八件について、対米供与を決定している。
 また、両国間では、従来から双方向での技術交流を拡充していくことで意見の一致をみているところであり、その方策については、日米装備・技術定期協議(S&TF)で協議を行ってきており、具体的な研究プロジェクトを通じて相互に技術交流の促進を図っていくこととしている。現在までに、九二年(平成四年)九月に政府間取極を締結した「ダクテッドロケット・エンジン」などについて、共同研究を行っている。

6 在日米軍の駐留を円滑にするための施策
 在日米軍の駐留は、日米安保体制の核心の一つであり、我が国及びこの地域に対する米国の関与についての意思表示でもある。我が国としても、在日米軍の駐留を円滑にするための諸施策を積極的に実施していく必要がある。
 我が国は、地位協定に基づき、在日米軍が使用する施設・区域を米国に負担をかけないで提供する義務を負っている。また、在日米軍が必要とする在日米軍従業員の労働力については、地位協定により我が国の援助を得て充足されることになっている。
 一九七〇年代からの我が国の物価と賃金の高騰や国際経済情勢の変動により、在日米軍の駐留に関して米国が負担する経費が圧迫を受けていることを勘案し、在日米軍の駐留を円滑かつ安定的にするための施策を可能な限り推し進めてきた。
 一昨年には、一九九六年度(平成八年度)から二〇〇〇年度(同十二年度)までの五年間を対象期間とする新特別協定を締結し、在日米軍従業員の基本給などや、光熱水料などについて既存の仕組みを維持しつつ、運用の柔軟性などの改善を図ったことなどに加え、新たに日本側の要請による米軍の訓練の移転に伴う追加的経費(訓練移転費)を負担することとした。

<第5節> 防衛力を支える基盤

1 防衛生産・技術基盤の維持
(1) 防衛生産・技術基盤の意義
 国内の健全な防衛産業の存在は、装備のハイテク化・近代化への対応、我が国の国土・国情に合った適切な装備の取得、装備の維持・補給あるいは緊急時の急速取得など、防衛力の整備を図る上で重要である。また、こうした基盤を持つこと自体が、装備のハイテク化・近代化を可能にするとともに、継戦能力を確保することにもつながるため、抑止力をなすことと考えられる。さらに、国内で高い生産能力・技術力を維持することは、外国の装備を導入する際に、相手国に対する交渉力の保持といった観点からも重要である。
(2) 防衛生産
 我が国の防衛産業の特色としては、航空機や艦艇から被服、食品までを含む非常に幅広い各種の産業分野から構成されていること、主な契約の企業だけでなく各種の部品の製造を行う下請けなどの関連企業が多数存在しており、極めて裾野が広いことが挙げられる。また、武器輸出三原則などの政策により、その需要が国内に限定されているという特色もある。
 防衛生産の総額が国内の工業生産に占める割合は、おおむね〇・六%程度である。防衛産業各社の総売上高に占める防衛生産の割合は、平均数%程度となっているが、航空機や武器弾薬の産業分野では、防衛庁の装備調達に需要の大半を依存している。
 防衛産業をめぐる環境は、近年、財政事情が一層厳しさを増すとともに、調達数量が減少する傾向にあり、今後ともこうした状況は継続するものと考えられる。防衛産業においては、合理化・効率化が推進されているが、特殊な技術と設備を必要とする防衛の分野では、いったんその基盤を失うと、回復には長い年月と多くの費用を要することとなることに留意する必要がある。このため、健全かつ効率的な防衛生産・技術基盤の維持・確保がこれまで以上に重要な課題となっている。
(3) 技術研究開発
 東西間の軍事的対峙構造の消滅後、先進国を中心に軍事費は削減傾向にあり、兵器の近代化に当たっては、新兵器の開発目標などの精選や現有兵器の改善での対応などによる開発コストの低減、技術実証型研究の実施などによる開発期間の短縮や開発リスクの低減などが図られている。
 一方、各国は、将来的に活用可能な技術の調査・研究努力を怠ってはおらず、我が国においても、装備品などの技術的水準を将来にわたって維持向上させることは、特に重要なものと認識している。
 また、装備品などを自らの手で研究開発することは、優れた技術力を有すること自体が抑止力となること、自己技術による国産装備品などは国土・国情に適し、改良・改善、維持、補給が容易であること、技術基盤の維持・育成が可能であること、外国から装備品を導入する際に交渉力が増すことが可能であることなどの点において重要である。また、防衛技術として開発された技術が、民間技術へ応用され、我が国全体の技術水準の向上に波及している例もある。
 防衛庁は従来から、優れた民間技術力を積極的に活用して研究開発を行っており、こうした優れた民間技術は、装備品などの研究開発を進める上で力強い基盤となっている。一方、企業内の技術者の配置転換などの人員整理や研究開発投資の低迷など、研究開発をめぐる環境が変化しており、防衛庁における研究開発も困難な状況が続いている。
 防衛庁としては、このような状況においても、質の高い防衛技術水準を維持する必要があることから、厳しい経済財政状況にかんがみ、ライフサイクルコストの抑制に十分配意した装備品などの研究開発を推進することとし、また、技術進歩のすう勢などに対応し、装備品などに有効で先端的な技術の確立に資するため、技術実証型研究を含む各種研究を行うこととしている。
 防衛庁には、こうした自衛隊の装備品などに関する研究開発を行う機関として、技術研究本部が置かれている。同本部は、試験評価組織として、札幌試験場、下北試験場、土浦試験場、新島試験場、岐阜試験場を有している。
 また、各自衛隊は、試験評価組織として、装備開発実験隊(陸上自衛隊)、開発指導隊群及び第五十一航空隊(海上自衛隊)、航空開発実験集団(航空自衛隊)などを有している。

2 人材の確保・育成
 組織の基盤は「人」である。自衛隊としても、その任務を確実に遂行するためには、質の高い人材を確保するとともに、隊員の高い士気を維持することが必要である。
 中長期的な自衛官などの募集環境は、一般的には、今後厳しいものになることが予想される。
 防衛庁では、「人材確保対策会議」において、人材の確保に有効な施策について幅広く検討を行ってきている。その結果、これまでに、自衛官の定年延長、婦人自衛官の活躍する分野の拡大、自衛官採用試験の受験資格の緩和などを実施に移している。
 人材の育成に際しても、自衛隊の任務の国際化と多様化に対応して、特に、外国語や国際関係などについての知識・感覚を持った人材の育成が重要となっている。また、軍事技術の高度化などに伴い、技術の修得などに長期間が必要になってきており、この点も考慮しなければならなくなっている。

<第6節> 緊急事態への対応など

 民主主義を基調とする我が国の独立と平和を守り、安全を確保していくためには、これらを脅かす侵略事態や重大緊急事態などに迅速、適切に対処し、事態の拡大発展を防止するため、万全の体制をとっておく必要がある。
 しかしながら、有事における法令も、今後、起こり得る事態に対し万全に準備されているとは言えず、我が国に対する緊急事態が生起した場合に採られるべき措置、法令について、現在、幾つかの研究が行われている。防衛庁としては、これらを含め、一般的に有事などを想定した研究により成果が得られた場合には、必要に応じ、それを踏まえた計画や各種制度の整備とともに、これらを効果的に機能させるための訓練の実施などの措置を採ることが重要な課題であると考えている。

1 緊急事態対応
(1) 我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態
 我が国周辺地域で発生し得る我が国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態において、直接影響を受ける各種事態に自ら適切に対応することはもちろん、我が国周辺地域における紛争などの事態に際し、地域の平和と安定を確保するために国連や米国などが活動する場合に、我が国として憲法及び関係法令に従い、どのように協力するかも重要な課題である。
(2) 緊急事態対応策の検討
 昨年五月、橋本総理からの指示により、我が国周辺地域における我が国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態を中心として、我が国に対する危機が発生した場合やそのおそれがある場合において、我が国として採るべき種々の対応について、政府としての検討、研究を開始した。
 本検討は、内閣安全保障室が事務局となり、@在外邦人などの保護、A大量避難民対策、B沿岸・重要施設の警備など、C対米協力措置(施設・区域面での協力や米軍に対する後方支援)などの検討項目について、関係省庁が連携をとって検討、研究を進めている。
 なお、本検討は、あくまで憲法や集団的自衛権に関する政府のこれまでの解釈を前提として行うものである。

2 有事のための体制
(1) 有事法制
 一般論として、我が国有事に際して必要な法制としては、自衛隊の行動にかかわる法制、米軍の行動にかかわる法制、自衛隊及び米軍の行動に直接にはかかわらないが国民の生命、財産などの保護などのための法制の三つが考えられる。
 一九七七年(昭和五十二年)に開始された有事法制の研究は、自衛隊法の規定により防衛出動を命ぜられるという事態における自衛隊の行動にかかわる法制の研究である。この研究において、防衛庁所管の法令及び他省庁所管の法令についての問題点の整理は、これまでにおおむね終了したと考えているが、所管省庁が明確でない事項に関する法令については、政府全体として取り組むべき性格のものであり、今後の取扱いについて、内閣安全保障室が種々の調整を行っている。
 防衛庁としては、有事法制については、研究にとどまらず、その結果に基づいて法制が整備されることが望ましいと考えているが、法制化するか否かという問題は高度の政治判断に係るものであり、国会における議論や世論の動向などを踏まえて対応すべきものであると考えている。
(2) 民間防衛
 我が国に対して万一侵略などがあった場合、国民の生命、財産を保護し、被害を最小限にとどめる上で、国民の防災や救護、避難のため、政府、地方公共団体と国民が一体となって民間防衛体制を確立することが必要である。
 我が国においては、民間防衛に関して見るべきものがないが、今後、国民のコンセンサスを得ながら、政府全体で広い観点から慎重に検討していくべきである。

3 国民生活を維持するための施策
 国民生活を維持するための資源、エネルギー、食糧などの生産地や輸送経路で、武力紛争や大規模な天災地変などが発生した場合などに備え、これらを備蓄しておくことが有効である。
 また、有事における物資の海上輸送の実施体制の在り方についても、政府全体として総合的な観点から研究する必要がある。

<第5章> 国民と防衛


<第1節> 自衛隊と隊員

1 自衛隊の組織と人
(1) 自衛隊の組織
 自衛隊は、我が国防衛の任務を全うするため、実力組織である陸・海・空各自衛隊を中心に、防衛大学校、防衛医科大学校、防衛研究所、技術研究本部、調達実施本部、防衛施設庁など、さまざまな組織で構成されている。
 さらに、これら自衛隊の隊務を統括する防衛庁長官を補佐する機関として、内部部局、陸・海・空各幕僚監部、統合幕僚会議が置かれている。
(2) 自衛隊の隊員
 自衛隊員は、自衛官、即応予備自衛官(本年度末導入予定)、予備自衛官と事務官、技官、教官などから成り、多機能集団を構成している。
ア 自衛官
 自衛官は、志願制度の下で、幹部候補生、曹候補者又は、二等陸・海・空士などとして採用されている。自衛官の勤務には、その性格上、厳しい側面があるため、自衛官に対しては、一般職の国家公務員と均衡がとれ、かつ、その勤務の特殊性を考慮した俸給と各種の手当が支給されている。 独身の曹士の大部分は、原則として駐屯地又は基地内の隊舎で生活しているが、勤務時間外には、外出・外泊して自由な時間を過ごしている。
 自衛隊では、任期制及び若年定年制を採っていることから、自衛官の多くは任期満了退職又は定年退職後の生活基盤の確保などのために再就職が必要である。このため、防衛庁では、退職自衛官が、満足のいく再就職ができるよう、就職援護施策を人事施策上の最重要事項の一つとして行っている。
イ 即応予備自衛官及び予備自衛官
 陸上自衛隊に新たに導入される即応予備自衛官は、常備自衛官とともに第一線部隊の一員として運用し得る練度と即応性を有するものである。即応予備自衛官は、平素は各々の職業に従事しつつ、必要とされる練度を確保するため、年間三十日の訓練招集に毎年応じることとなる。
 予備自衛官制度は、予備自衛官を防衛招集し、後方の警備、後方支援、基地の警備などの要員として勤務させることによって、自衛隊の実力を急速かつ計画的に確保することを目的とするものである。予備自衛官となった者は、平素は各々の職業に従事しているが、防衛招集された場合には自衛官となる。また、平時においても、休暇の利用などにより短期間の訓練の招集に毎年応じている。
ウ 事務官、技官、教官など
 事務官、技官、教官などは、男女を問わず、主として国家公務員採用T種、防衛庁職員採用T種、U種、V種試験により採用されている。

2 自衛隊の多彩な部隊
 自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、侵略から我が国を防衛することを主な任務としている。陸・海・空各自衛隊は、直接戦闘を行う部隊とともに、幅広い機能の後方支援などを行う部隊を保有しており、これらの部隊は、それぞれの任務を全うするために、日々激しい訓練に耐え、あるいは、厳しい環境の中で黙々とその使命を果たしている。
 自衛隊における通信は、指揮統制のための意思決定・命令伝達を支援する基盤であり、防衛力を組織的かつ有効に運用するための、いわば「神経系統」である。平時有事を通じて骨幹となる固定系の通信を緊急に補完・拡充したり、駐屯地や基地の外に展開した部隊の通信を確保するための部隊の例として、中央野外通信群(陸上自衛隊)、移動通信隊(海上自衛隊)、移動通信隊(航空自衛隊)が挙げられる。
 自衛隊が、防衛出動を始め、災害派遣など各種の事態に対応するためには、隊員、装備、補給品などを輸送することが不可欠であり、また、近年は、国際平和協力業務への参加など、自衛隊における輸送ニーズは高まっている。そのような状況を背景に、輸送業務を担任する部隊の例として、中央輸送業務隊(陸上自衛隊)、第一輸送隊(海上自衛隊)、第三輸送航空隊(航空自衛隊)が挙げられる。
 自衛隊では、万一の事態に備えて厳しい環境の中、地道な活動を続けている部隊もある。そのような最前線で我が国を支える部隊の例として、沿岸監視隊(陸上自衛隊)、父島基地分遣隊(海上自衛隊)、第十七警戒群(航空自衛隊)が挙げられる。

3 日々の教育訓練
 指揮官を始めとする個々の隊員が高い資質と能力を持つとともに、部隊としても高い練度を有することは、自衛隊の任務遂行に不可欠であるのみならず、我が国に対する侵略を思いとどまらせる抑止力としての役割をも果たすものである。
 このため、自衛隊は、さまざまな制約の中、事故防止などの安全の確保に細心の注意を払いつつ、日夜教育訓練を行い、隊員と部隊の能力向上に努めている。

<第2節> 国民生活とのかかわり

1 国民生活への貢献など
 自衛隊は、我が国の防衛、大規模災害など各種の事態への対応、より安定した安全保障環境の構築への貢献といった防衛大綱に示された役割に加え、その組織、装備、能力を活かした各種の民生協力活動などを行っている。
 このような活動として輸送活動、危険物の処理、密航船対策への協力、教育訓練の受託など、医療面での貢献、運動競技会に対する協力、国家的行事への参加など、南極地域観測に対する支援、環境保全に対する取組などが挙げられる。

2 国民との交流
 自衛隊は、防衛問題や自衛隊に対する国民の理解と関心を深めるために、さまざまな活動を行っており、社会に貢献する諸活動とあいまって、国民と自衛隊との間により一層の親近感と連帯感が醸成されるよう努めている。

3 国民から見た自衛隊
 総理府がおおむね三年ごとに実施してきている「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」が平成八年度においても実施された。
 この中で、「自衛隊や防衛問題について知りたいこと」については、「自衛隊の防衛能力」、「日本の防衛政策」及び「自衛隊の災害救援活動」が上位を占めている。
 自衛隊に対する印象・認識については、「きつい仕事や危険な仕事が多い」という印象や、「社会的、国際的に重要な仕事をしている」という印象を持つ人が、それぞれ全体の約三分の一おり、これらのことは、阪神・淡路大震災やナホトカ号海難・流出油災害などに伴う災害救援活動及びゴラン高原での国際平和協力業務の内容が広く国民に認識、評価された結果と考えられる。
 「自衛隊が存在する目的」として「災害派遣」が「国の安全の確保」を上回っている。これは、自衛隊の最近の災害派遣活動が国民に評価されたことが主な理由であると考えられる。防衛庁としては、自衛隊の主な任務である「国の安全の確保」についても、国民の幅広い理解を得られるように努めることが必要と判断している。
 日本の安全を守るために取るべき方法については、現在の在り方を肯定する人が六八%である。また、国際貢献に関する質問に対しては、外国での災害救援活動への自衛隊の派遣及び国連平和維持活動への自衛隊参加について、国民の積極的な評価が与えられている。

<第3節> 自衛隊を支える力

 自衛隊のさまざまな活動は、自衛隊だけですべてを行えるものではなく、関係省庁や地方自治体、各種民間団体、企業あるいは国民一人一人によって支えられているのであり、自衛隊の平素の活動も国民や社会の支援なくしては成り立たない。

1 自衛隊の活動に対する支援、協力
 地域における駐屯地や基地の機能の維持と教育訓練を円滑に行っていくためには、地方自治体を始めとする地元からの各種協力、隊員への支援などが不可欠である。さらに、多くの国民の自衛隊に対する理解はもちろんのこと、住民有志や自衛隊関係者などによって作られた各種の協力団体による支援・協力が自衛隊の活動を支えている。

2 自衛官の募集、就職援護に対する協力
 質の高い自衛官を確保するためには、防衛庁としても自衛官の処遇改善、募集業務に一層の努力を払うとともに、退職自衛官の就職援護の充実に努めていかなければならない。これらの活動は防衛庁だけで実施できるものではなく、地方自治体のほか、各種の協力団体や企業などの協力を得て行われている。

3 即応予備自衛官及び予備自衛官の訓練招集に対する協力
 年間三十日の訓練招集及び予測の困難な災害等招集に応じることとなる即応予備自衛官の採用が本年度から開始されるが、即応予備自衛官及び予備自衛官制度を円滑に運営していくためには、自衛官退職後の再就職先の企業などの理解と協力が不可欠である。

4 部外における自衛官教育に対する協力
 装備品の近代化などに伴い、自衛官は広範な分野で高度な知識や技能を要求されるようになってきている。このため自衛隊では、その知識や技能を自衛隊で教育することが困難な場合などに、部外の教育機関の協力を得て教育を行っているほか、国内企業で一年程度の研修などを行っている。

<第4節> 地域社会と防衛施設

 防衛施設は、自衛隊及び在日米軍の各種活動の拠点であり、自衛隊と日米安保体制を支える基盤として必要不可欠なものである。それらの機能を十分に発揮させるためには、防衛施設とその周辺地域との調和を図り、周辺住民の理解と協力を得て、常に安定して使用できる状態に維持することが必要である。

1 防衛施設の現状
 防衛施設は、自衛隊施設と在日米軍施設・区域に区分され、その用途は、演習場、飛行場、港湾、営舎など多岐にわたっている。自衛隊施設については、その約四二%が北海道に所在している。
 防衛施設には、飛行場や演習場のように広大な土地を必要とするものが多く、また、我が国の地理的特性から、狭い平野部に都市や諸産業と競合して存在している場合もある。特に、経済発展の過程において、多くの防衛施設の周辺地域で都市化が進展した結果、防衛施設の設置や運用が制約されるという問題が大きくなっている。さらに、航空機の頻繁な離着陸や射撃・爆撃、火砲による射撃、戦車の走行などによって、周辺地域の生活環境に騒音などの影響を及ぼすという問題もある。

2 防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策
 政府は、従来から、防衛施設の設置や運用に当たって、防衛の重要性や防衛施設の必要性について国民の理解を求めている。
 また、以下の施策を行い、防衛施設と周辺地域との調和を図るよう努めている。
@ 射撃訓練などによる演習場内の荒廃に伴い泥水が流出したり、水不足が生じるなどの場合の対策としての、河川の改修、ダムの建設などの助成
A 航空機の騒音対策としての、夜間の離着陸の制限などと並行した学校、病院、住宅などの防音工事の助成、移転者に対する補償、緑地帯などの緩衝地帯の整備など
B 防衛施設の設置や運用により周辺地域住民の生活や事業活動が阻害される場合に、その緩和のための道路、公園、農林漁業用施設などの整備の助成
C 周辺地域の生活環境や開発に著しく影響を受けている市町村に対する各種公共用施設の整備のための交付金の交付
D 航空機の頻繁な離着陸などにより、農林漁業などの事業経営に損失が生じた場合の補償

3 在日米軍施設・区域に係る施策
 在日米軍施設・区域の安定的な使用を確保することは、日米安保条約の目的を達成するために必要である。政府としては、これまでも日米安保条約の目的達成と周辺地域社会の要望との調和を図りながら、問題解決のため鋭意努力してきているが、さらに在日米軍施設・区域が沖縄県民に多大な負担を強いている状況にかんがみ、沖縄の負担軽減を図るため、沖縄に所在する在日米軍施設・区域に係る施策を実施しているところである。 (1) 岩国飛行場滑走路移設事業
 山口県に所在する岩国飛行場は、米海兵隊及び海上自衛隊が使用している。政府としては、地元岩国市などの要望を受け、同飛行場の運用上、安全上及び騒音上の問題を解決し、在日米軍の駐留を円滑にするとともに、同飛行場の安定的使用を図るため、滑走路を東側(沖合)へ約一千メートル程度移設する事業を推進することとした。
 一九九三年度(平成五年度)以降、政府は、移設事業の実施に必要な地元関係漁協の同意を得るとともに、環境アセスメントに係る事務や埋立承認手続などを行い、昨年度(同八年度)から着工している。
(2) 空母艦載機の着陸訓練場の確保
 空母艦載機の着陸訓練は、これまで主として厚木飛行場で行われてきているが、同飛行場周辺は、市街化していることから、在日米軍にとっては訓練の制限などの問題が、周辺住民にとっては深刻な騒音問題がそれぞれ生じている。これらの問題を解決するため、政府は、三宅島に飛行場を設置することが適当と考え、そのための努力を続けている。しかし、三宅村当局を始め地元住民の間に、なお反対の意向が強く、実現までには相当の期間を要すると見込まれる。
 一方、厚木飛行場周辺の騒音問題をこのまま放置できないため、三宅島に訓練場を設置するまでの暫定措置として、硫黄島を利用することとした。
 政府としては、今後とも暫定措置として、硫黄島での艦載機着陸訓練の実施に努めるとともに、三宅村当局及び地元住民の理解と協力が得られるよう努力している。
(3) 県道一〇四号線越え実弾射撃訓練の分散・実施及び普天間飛行場のKC−一三〇航空機の岩国飛行場への移駐
 昨年十二月二日、日米安全保障協議委員会に報告され、了承された「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)の最終報告に基づいて、政府は、具体的な実施に取り組んでいる。
 その一つとして、キャンプ・ハンセンでの県道一〇四号線越え実弾射撃訓練については、本年度から本土五か所の演習場(矢臼別、王城寺原、東富士、北富士及び日出生台)への分散・実施が実現するよう、移転先の地元関係者との折衝を続けた結果、五か所すべての演習場それぞれの地元から、分散・実施についての理解が得られた。
 また、同報告は、普天間飛行場の返還に伴う措置及び騒音軽減イニシアティヴの実施として、現在普天間飛行場に配備されている十二機のKC−一三〇航空機を、適切な施設が提供された後、岩国飛行場に移駐することとし、また、岩国飛行場に配属されている十四機のAV−八ハリアー航空機の米国への移駐が完了したことを確認した。KC−一三〇航空機の岩国飛行場への移駐については、地元自治体から理解が得られたところであり、政府は、引き続き細部について、調整を行っている。
 政府としては、このような国民全体の日米安保への取組が前進することを期待している。

<第5節> 沖縄に所在する在日米軍施設・区域に係る諸施策

 沖縄に所在する在日米軍施設・区域に係る事項については、従来より、防衛庁においても、日米安保条約の目的達成と地元の要望との調和を図りながら、問題解決のためさまざまな施策を実施し、鋭意努力してきたが、沖縄に係る諸課題については、政府の最重要課題の一つとして内閣を挙げて取り組んでおり、防衛庁としても更に努力を続けているところである。

1 沿 革
 沖縄は、先の大戦において、我が国で住民を巻き込んだ地上戦が行われた地であり、本土と異なり米軍が単独で占領した。その後、朝鮮戦争などの東アジアの情勢にかんがみ、一九五〇年代を中心に米軍により土地が接収され、基地の整備が行われた。
 一九七二年(昭和四十七年)五月十五日、沖縄の復帰に伴い、政府は日米安保条約に基づいて、八十三施設、約二百七十八平方キロメートルを在日米軍専用施設として提供した。
 在日米軍施設・区域の安定的な使用を確保することは、日米安保条約の目的を達成するために不可欠であるが、その一方、沖縄県に在日米軍の施設・区域が集中し、特に沖縄本島中部の枢要な部分に施設・区域の多くが存在することから、地域の振興開発や計画的発展に制約が生ずるとともに、県民生活に多大の影響が出ているとして、その整理・縮小について、県民から強く要望されてきた。
 このような状況を踏まえ、日米両国は県などの要望の強い事案を中心に、これまで継続的に整理・縮小のための努力を行ってきた結果、沖縄復帰時に比し、在日米軍施設・区域の数及び面積は、減少している。しかし、依然として、面積にして在日米軍施設・区域の約七五%が沖縄県に集中しており、これは、県面積の約一〇%、沖縄本島の約一八%を占めている状況となっている。

2 沖縄所在米軍部隊
 米軍が沖縄に駐留する理由については、歴史的経緯により現にそこに施設・区域が存在しているということのほか、地理的に米本土やハワイ、グアム島よりも日本を含む東アジアの各地域に近く、同地域に緊急な展開を必要とする場合に、一定の距離を持ちながら迅速な対応を実現できる一方で、我が国周辺の諸国との間に一定の距離があり、縦深性を確保できることが考えられる。
 また、特に、機動展開部隊である海兵隊については、このほかに、練度・即応性の維持・向上に必要な演習場及び後方支援施設が県内に存在していることも指摘できる。
 政府としては、日米安全保障共同宣言で確認されたとおり、国際的な安全保障情勢において起こり得る変化に対応して、日米両国の必要性を最も良く満たすような防衛政策並びに日本における米軍の兵力構成を含む軍事態勢について、米政府と緊密に協議を継続していくこととしている。

3 在日米軍施設・区域の整理・統合・縮小などの問題解決への取組
 「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)は、昨年十二月、検討の成果を日米安全保障協議委員会(SCC)に報告し、了承を得た(第2図参照)。
 特に、沖縄県及び県民の強い要望を受け、橋本総理のリーダーシップと米側の理解と協力により意見の一致がみられた普天間飛行場(約四百八十一ヘクタール)の返還については、今後五〜七年以内に、十分な代替施設が完成し運用可能になった後、実現することとしている。
 普天間飛行場の返還のためには、@代替ヘリポートの建設、A普天間飛行場に配備されているKC−一三〇航空機の岩国飛行場への移駐、B嘉手納飛行場における追加的施設の整備、及びC危機に際しての施設の緊急使用に関する共同研究の実施が必要となる。このうち、代替ヘリポートについては、必要がなくなった際に撤去可能であるとともに、米軍の運用能力の維持や、安全・騒音面での沖縄県民の負担の軽減という観点からも最善の選択肢と考えられたことから、沖縄本島東海岸沖の水域での海上施設の建設を追求することとした。
 普天間飛行場の返還に加え、六施設の全部返還と、五施設の一部返還も示されており、これら返還される土地は、沖縄県における在日米軍施設・区域の面積の約二一%(約五千ヘクタール)に相当し、復帰時からSACO最終報告までの間の返還面積約四千三百ヘクタールをかなり上回るものとなる。
 このような土地の返還のほかに、最終報告では、訓練及び運用の方法の調整、騒音軽減イニシアティヴの実施並びに地位協定の運用の改善についても示されている。日米間で意見の一致がみられたこれらの計画及び措置は、その実施によって、沖縄県の地域社会における米軍の活動の影響を軽減することとなり、同時に、在日米軍の能力及び即応態勢を十分維持することができる。一方、これらの問題解決の促進については、移転先地の関係自治体などに理解と協力を求めている。
 沖縄県における在日米軍施設・区域に係る問題については、橋本総理の積極的なイニシアティヴと決断の下に、この一年間、米側との話し合いが続けられ、SACO最終報告によって一つの区切りが示された。政府においては、昨年十二月三日、最終報告に盛り込まれた措置を的確かつ迅速に実施するため、法制面及び経費面を含め、政府全体として十分かつ適切な措置を講ずることを閣議決定した。防衛庁としては、この閣議決定の趣旨を踏まえ、引き続き米側と緊密に協議しつつ、沖縄県を始めとする地元関係者の理解・協力が得られるよう最大限の努力をし、その解決に取り組んでいくこととしている。

4 施設・区域の使用権原の取得
 日米安保条約上の義務を履行するため、在日米軍に施設・区域として提供する必要がある土地については、所有者との合意により使用することを原則としているが、合意が得られない場合、駐留軍用地特措法に基づいて使用権原を取得している。
 本年四月、駐留軍用地特措法の改正が行われ、現に駐留軍の用に供されており、引き続きその用に供する必要があると内閣総理大臣によって認定された土地などについては、収用委員会の審理の段階においてその使用期限までに所要の手続が完了しないときは、事前の担保提供、事後の収用委員会の裁決などによる適正な補償が確保された下で、収用委員会の裁決による使用権原が得られるまでの間に限り、暫定的にその使用が認められることとなった。
 なお、この改正は、暫定使用という必要最小限の措置を内容とするものであり、一部改正された駐留軍用地特措法は、これまでの市町村長・都道府県知事及び収用委員会の権限に何ら変更を加えるものではなく、また、これまでと同様、地域に限定されず適用されるものである。
 政府としては、施設・区域の安定的使用の観点から、土地の使用権原の取得に当たっては、地元及び関係者の理解と協力を得ることが重要と考えており、引き続き、最大限の努力をしていくこととしている。


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平成8年


住民基本台帳人口移動報告に基づく


人 口 移 動 の 概 況


総 務 庁


 住民基本台帳人口移動報告は、国内における人口移動の状況を明らかにするため、住民基本台帳法の規定に基づいて、総務庁統計局が都道府県を通じて全国各市区町村から毎月の転入者数(男女別、従前の住所地別)について報告を求め、これを統計としてとりまとめたものである。
 なお、同一市区町村内で住所を変更した者、日本国籍を有しない者など、住民基本台帳に係る転入の届出を伴わない移動者は含まれない。
 今回、平成八年の我が国における人口移動の概況は、次のとおりである。

1 移動者総数

▽移動者総数は四年ぶりに減少
 平成八年の全国における市区町村間の移動者総数は、六百五十一万四千五百五十五人で、前年に比べ十一万七千五百四十一人(一・八%)減少した。  移動者総数は、我が国の経済が高度成長期にあった昭和三十年代から四十年代半ばにかけて急速に増加し、四十八年には八百五十三万八千八百二十人と最多を記録した。しかし、昭和四十八年の第一次石油危機以降、減少に転じ、六十一年までほぼ一貫して減少が続いた。昭和六十二年以降は、平成二年まで横ばいで推移していたが、三年には前年比一・八%減、四年も同〇・二%減と二年連続して減少した後、五年から七年までは連続して増加となった。しかし、平成八年には前年比一・八%減と四年ぶりに減少となった。
 平成八年の移動者総数を都道府県内移動者数と都道府県間移動者数とに分けてみると、都道府県内移動者数は、三百五十五万三千七十九人で、前年に比べ二万九千四百五十人(〇・八%)の減少となった。都道府県内移動者数は平成四年以降増加が続いており、八年の減少は五年ぶりである。
 平成八年の都道府県内移動率(十月一日現在の日本人人口に対する都道府県内移動者数の比率)は二・八五%となり、前年に比べ〇・〇三ポイント低下した。また、平成八年の移動者総数に占める都道府県内移動者数の割合は、五四・五%となり、前年に比べ〇・五ポイント拡大している。
 一方、都道府県間移動者数は、二百九十六万一千四百七十六人となり、前年に比べ八万八千九十一人(二・九%)減と大幅な減少となった。
 都道府県間移動者数の推移をみると、昭和四十九年から六十年までは、ほぼ一貫して減少が続き、昭和六十一年から平成二年までは、ほぼ横ばいで推移していた。しかし、平成三年に一・二%減と再び減少となってからは、四年連続の減少となり、七年には〇・九%増とわずかに増加に転じたものの、八年には再び減少となっている。
 平成八年の都道府県間移動率(十月一日現在の日本人人口に対する都道府県間移動者数の比率)は、前年に比べ〇・〇八ポイント低下し二・三七%となった。これは統計をとり始めて以来、昭和三十一年に続いて二番目に低い値である(第1図第1表参照)。

▽阪神・淡路大震災の影響が残る平成八年の人口移動
 平成七年一月に発生した阪神・淡路大震災は、平成七年の人口移動に大きな影響を与えたが、八年の数字にもその影響がみられる。
 まず、都道府県内移動者数についてみると、兵庫県内移動者数が全国の都道府県内移動者数に占める割合は、平成六年には四・五%だったが、大震災のあった七年には五・二%に上昇した。平成八年にはこの割合はやや低下して四・八%となったが,大震災以前に比べると、依然としてやや高めの水準である。
 次に、都道府県間移動者数についてみると、兵庫県に係る移動者数(転入者数及び転出者数の合計)は、平成六年には全国の都道府県間移動者数の八・四%を占めていた。しかし、大震災のあった平成七年には、兵庫県への転入者が前年に比べて一万六千七百人減少したのに対して、兵庫県からの転出者数が五万三千三百四十二人増加したため、兵庫県に係る移動者数は、全国の都道府県間移動者数の九・五%に上昇した。
 平成八年には、逆に転入者数がやや増加、転出者数がやや減少となり、兵庫県に係る移動者数は六年の水準をやや下回ったが、全国的に都道府県間移動者数が大幅に減少したため、兵庫県に係る移動者数が全国の都道府県間移動者数に占める割合は八・五%と、大震災前よりもやや高くなっている(第2表参照)。

2 都道府県別転出入の状況

▽兵庫県が転出超過から転入超過に
 転入者数から転出者数を差し引いた転入超過数を都道府県別にみると、埼玉県が一万五千九百四十九人と最も多く、これに、福岡県の一万一千五百三十六人が続いている。
 転入超過となった都道府県数は、平成七年には三十道府県であったのに対して、八年には十六県と大幅に減少した。
 また、転入超過率(十月一日現在の都道府県別日本人人口に対する転入超過数の比率)をみると、最高は滋賀県の〇・四一%であり、これに、奈良県(〇・三〇%)、埼玉県(〇・二四%)、福岡県(〇・二三%)、宮城県(〇・二一%)が続いている。
 転入超過率は、栃木県、富山県の二県で前年に比べて上昇しているのに対して、滋賀県、奈良県、茨城県、三重県、宮城県、香川県など十二県では低下している。
 転入超過の十六県のうち、平成七年から八年にかけて転出超過から転入超過に転じたのは兵庫県、神奈川県の二県である。特に阪神・淡路大震災の影響を大きく受けた兵庫県については、前年の五万九千六百二十六人の転出超過から四千六百九十四人の転入超過に転じている(第2図第3表参照)。

▽転出超過は三十一都道府県、前年に比べ十四道府県の増加
 一方、転出超過となったのは三十一都道府県であり、転出超過数が最も大きかったのは大阪府の二万三千百八十二人であった。  また、平成八年の転出超過率(十月一日現在の都道府県別日本人人口に対する転出超過数の比率)は、長崎県が〇・三五%と最も高く、これに、大阪府(〇・二七%)、山口県(〇・一九%)、秋田県(〇・一八%)、島根県(〇・一七%)が続いている。転出超過率は、島根県、山形県、広島県、山口県など十二県で前年に比べて上昇し、東京都、静岡県の二都県で低下している。
 転出超過の三十一都道府県のうち、平成七年から八年にかけて転入超過から転出超過に転じたのは大阪府、福島県、北海道、岐阜県などの十六道府県である。このうち大阪府では、昭和四十八年以降転出超過が続いていたが、阪神・淡路大震災のあった平成七年に転入超過に転じ、八年には再び転出超過となったものである。
 また、東京都については、昭和六十一年以降転出超過が続いているものの、平成八年の転出超過数は、前年の三万二千五百三十七人から大幅に縮小し五千五百十八人となっている(第2図第3表第4表参照)。

▽四十二都道府県で転入率が低下
 都道府県別に他の都道府県からの転入者数をみると、東京都への転入者が四十三万一千四百六十六人と最も多く、神奈川県(二十五万二千九百八十一人)、埼玉県(二十万六千二百八十四人)が二十万人台でこれに続き、次いで、大阪府、千葉県、兵庫県、福岡県、愛知県の五府県が十万人台となっている。これら八都府県への転入者数の合計は百六十四万六千七百四十七人に達し、都道府県間移動者数の五五・六%を占めている。
 また、東京圏の四都県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)への転入者数の合計は百七万六千二百四十人で、都道府県間移動者数の三六・三%を占めている。
 都道府県別に平成八年の転入率(十月一日現在の都道府県別日本人人口に対する他都道府県からの転入者数の比率)をみると、東京都の三・七二%が最も高く、次いで、千葉県、神奈川県、埼玉県と続き、東京圏の四都県で三%を超えている。そのほか、奈良県、京都府、宮城県、滋賀県、福岡県、香川県、兵庫県が全国平均(二・三七%)を上回っている。
 なお、転入率は四十二都道府県で前年に比べて低下しており、上昇したのは兵庫県、富山県、栃木県の三県であった(第4表参照)。

▽都道府県間転出率が大きく低下した兵庫県
 一方、都道府県別に他の都道府県への転出者数をみると、東京都からの転出者が四十三万六千九百八十四人と最も多く、神奈川県(二十四万九千六百六十五人)、大阪府(二十二万一千四百十五人)が二十万人台でこれに続き、次いで、埼玉県、千葉県、兵庫県、愛知県、福岡県の五県が十万人台となっている。これら八都府県からの転出者数の合計は百六十三万七千二百三十七人となり、都道府県間移動者数の五五・三%を占めている。
 都道府県別に平成八年の都道府県間の転出率(十月一日現在の都道府県別日本人人口に対する他都道府県への転出者数の比率)をみると、東京都の三・七七%が最も高く、次いで、千葉県、神奈川県が三%を超えている。そのほか、埼玉県、京都府、奈良県、大阪府、長崎県がこれらに続いている。
 平成八年の転出率を七年と比較すると、二十一府県で上昇、二十一都府県で低下、五道県で横ばいとなっている。転出率の上昇幅は、最大の鳥取県でも〇・〇八ポイントとかなり小幅である。また、転出率の低下幅も兵庫県で〇・九八ポイント、東京都で〇・二三ポイント、神奈川県で〇・一三ポイントと大きかったのを除くと、他はすべて〇・一ポイント未満と小幅であった(第4表参照)。

▽兵庫県は平成八年二月から転入超過に
 兵庫県は、平成七年には阪神・淡路大震災の影響で八年ぶりに転出超過(五万九千六百二十六人)となったが、その後の復興に伴って、八年には転入超過(四千六百九十四人)となった。
 これを月別にみると、平成六年には一月から十二月まで毎月転入超過であったが、七年一月には四千八百六十七人の転出超過となり、以後、二月には一万六千八百十四人、三月には一万五千四百三十四人の大幅な転出超過となった。その後、毎月の転出超過数は徐々に縮小し、平成八年二月には八十六人と小幅ながら十四か月ぶりに転入超過となった。以後は転入超過数は着実に回復し、同年八月以降は平成六年の同月の数字を上回っている(第5表参照)。

3 都道府県間移動者(転出者)の主な移動先

▽東京都を一位の転出先とするのは十七道県に
 都道府県間移動者(転出者)の主な転出先別割合を都道府県別にみると、東京都への転出が一位となっている県は十七道県で、東日本に多い。中でも東京都に隣接する埼玉県(当該県からの転出者総数の三五・七%)、神奈川県(同三三・二%)、千葉県(同三一・二%)及び山梨県(同三一・一%)で東京都への転出割合が三〇%を超えており、そのほか、長野県(同二三・六%)、茨城県(同二三・三%)、新潟県(同二三・一%)でも高くなっている。
 東日本以外の県では、沖縄県、福岡県の二県で東京都への転出が一位となっている。また、東京都が転出先の上位三位以内に入るのは三十二道県で、全都道府県の約四分の三に達している。
 大阪府への転出が一位となっている県は、前年に比べると一県減少して九府県で、近畿地方、四国地方に多い。中でも和歌山県(同四一・五%)、兵庫県(同三二・四%)及び奈良県(同三二・二%)で大阪府への転出割合が三〇%を超えており、次いで京都府(同二二・四%)となっている。
 また、福岡県への転出が一位となっている県は前年同様、九州地方の六県で、中でも佐賀県(同四三・六%)の割合が際立って高くなっている。
 そのほか、愛知県へ転出する割合は、岐阜県が四一・四%と目立って高くなっている。
 平成七年と比べると、東京都の一位の転出先が埼玉県から神奈川県に変わっている。また、石川県の一位の転出先が東京都から富山県へ、愛媛県の一位の転出先が大阪府から香川県へ変わり、福岡県の一位の転出先も熊本県から東京都へ変わっている(第3図参照)。

4 東京圏、名古屋圏、大阪圏の転出入の状況

▽東京圏は三年ぶりに転入超過
 平成八年の東京圏、名古屋圏及び大阪圏における転出入の状況をみると、東京圏は一万八千二百五十二人の転入超過、名古屋圏は一千百四十七人、大阪圏は一万五千四百七十六人の転出超過であった。
 東京圏は、調査開始以来、転入超過が続いていたが、平成六年には初めて転出超過となった。そして、平成八年には三年ぶりに再び転入超過となった。平成八年の転入者数と転出者数は、いずれも七年に比べて減少しているが、転出者数の減少が特に大幅であったため、転入超過となっている。
 名古屋圏は、調査開始以来、昭和四十九年までは転入超過であったが、五十年以降は転出超過に転じた。その後、昭和六十年には再び転入超過となったが、転入超過数は最高でも平成二年の一万二千六百十八人と少なく、八年には十二年ぶりに転出超過となった。平成八年の転入者数と転出者数は、いずれも七年に比べて減少しているが、転入者数の減少が特に大幅であったため、転出超過となっている。
 大阪圏は、調査開始以来、昭和四十八年までは転入超過が続いたが、以降は一貫して転出超過が続き、さらに平成七年には阪神・淡路大震災の影響を受けて三万八千九百八十一人と大幅な転出超過となった。平成八年も転出超過となってはいるものの、転入者数が増加し、転出者数が減少したため、転出超過数は前年に比べてかなり小幅となった(第4図第6表参照)。

5 十三大都市の転出入の状況

▽大阪市は転入超過から転出超過に
 十三大都市(東京都特別区部及び十二の政令指定都市)のうち、平成八年に転入超過となったのは五都市で、転入超過数の大きい順に、札幌市(一万一千百六十二人)、福岡市(五千八百九十八人)、横浜市(五千六百八人)、仙台市(四千五百五人)、広島市(七百八十七人)となっている。転入超過率(十月一日現在の十三大都市別日本人人口に対する転入超過数の比率)は、札幌市が〇・六三%と最も高く、次いで、仙台市、福岡市(ともに〇・四六%)の順となっている。
 一方、転出超過となったのは八都市で、転出超過数は大阪市が八千九百六十一人で最も多く、次いで、名古屋市(七千十二人)、東京都特別区部(六千七百四十二人)、北九州市(三千二百八十五人)、神戸市(三千百二十二人)などの順となっている。転出超過率(十月一日現在の十三大都市別日本人人口に対する転出超過数の比率)は、大阪市が〇・三六%と最も高く、次いで、名古屋市、北九州市(ともに〇・三三%)の順となっている。このうち大阪市は、平成七年には阪神・淡路大震災に伴い兵庫県からの転入者数が増加し、三十三年ぶりに転入超過となったが、八年には再び転出超過となった。
 また、平成七年に十五年ぶりに大幅な転出超過に転じた神戸市は、八年も引き続き転出超過となっているが、転出超過数は三千百二十二人と前年の四万二百五十四人に比べて大幅に縮小した(第5図第7表参照)。

▽神戸市は転出超過数が大幅に縮小
 神戸市は、平成七年には阪神・淡路大震災の影響で十五年ぶりに転出超過(四万二百五十四人)となったが、その後の復興に伴って、八年には転出超過数は縮小し、三千百二十二人となった。
 これを月別にみると、平成六年には一月から十二月までほぼ毎月転入超過であったが、七年一月には二千六百五十九人、二月には九千五百十五人の転出超過となり、三月には一万四百九人と転出超過がピークとなった。その後、毎月の転出超過数は徐々に縮小し、平成八年四月には一千五十一人の転入超過となったものの、五月以降は再び転出超過となった。その後、十一月にはわずかながら転入超過となったが、転入者数及び転出者数は平成六年の水準には回復していない(第8表参照)。

6 年間移動者数に占める月別移動者数の割合

▽月別移動は四月が最も高い割合に
 平成八年の年間移動者数に占める月別移動者数の割合をみると、四月が一八・六%と最も高く、次いで三月が一五・三%となり、進学、就職、転勤等を要因とする移動が集中するこの二か月間で、年間移動の約三分の一を占めている。
 また、この二か月間の移動者数の割合をみると、総じて近年は、三月は拡大、四月は縮小しているため、平成五年までは四月が最も高く、次いで三月の順であったが、六年、七年にはこれが逆転し、三月が最も高い割合となった。しかし、平成八年には再び逆転し、四月が最も高い割合となっている(第9表参照)。


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消費支出(全世帯)は実質二・一%の減少


―平成九年五月分家計収支―


総 務 庁


◇全世帯の家計

  全世帯の消費支出は、平成八年十二月、九年一月と二か月連続して実質減少となった後、二月は実質増加となり、三月は消費税率引上げを控えた駆け込み需要もあって大幅な実質増加となった。四月は前月の反動による需要の低下がみられたこともあって実質減少となり、五月も引き続き実質減少となった(第1図第2図第1表参照)。

◇勤労者世帯の家計

 勤労者世帯の実収入は、平成八年八月以降十か月連続の実質増加
 消費支出は、平成九年一月以降三か月連続の実質増加となったが、四月、五月は実質減少(第1図第2表参照

◇勤労者以外の世帯の家計

 勤労者以外の世帯の消費支出は二十八万三千二百四十五円で、名目一・六%、実質三・四%の減少

◇財・サービス区分別の消費支出

 財(商品)は実質一・四%の減少
  <耐久財>実質〇・一%の増加
  <半耐久財>実質四・九%の減少
  <非耐久財>実質〇・七%の減少
 サービスは実質四・四%の減少











著作権法について

 著作権法とは、文芸、学術、美術、音楽、写真などの著作物を保護する法律のことです。明治三十二年(一八九九年)に制定されました。これまで数度の改正がなされましたが、昭和四十五年(一九七〇年)に現行の著作権法が制定されました。
 その後も、許諾を得ないレコード、いわゆる海賊版からレコード製作者を保護したり、コンピューター・プログラムを著作物として明確に規定して、データベース、ニューメディアに対応したりするなどの法改正が行われました。
 著作権の保護期間は、著作者が著作物を創作したときから始まり、原則として、著作者の生存中および死後五十年間です。著作権を侵害した人は、三年以下の懲役または三百万円以下の罰金に処せられます。
 著作物のご利用についてのお問い合わせは、
・(社)日本音楽著作権協会
 пZ三−三四八一−二一二一
・(社)日本文芸著作権保護同盟
 пZ三−三二六五−九六五八
・(協)日本脚本家連盟
 пZ三−三四〇一−二三〇四
・(協)日本シナリオ作家協会
 пZ三−三五八四−一九〇一
などへお願いします。
(文化庁)


 
    <9月17日号の主な予定>
 
 ▽厚生白書のあらまし………………厚 生 省 

 ▽毎月勤労統計調査…………………労 働 省 
 



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