はじめに
一九九七年の世界経済をみると、アメリカでは、七年に及ぶ景気拡大の中で、失業率の一層の低下と低インフレが実現され、企業利益の増大などを要因として、資本を引きつけている。欧州では、主権を異にする諸国の間に共通通貨を流通させるという壮大な実験が始まろうとしている。一方、ASEANなど新興経済諸国の中には、過大評価された自国通貨によって、資本が流出し、通貨が減価した国も出ている。
このように世界経済を概観すると、世界市場が一体化する中で、特に金融面でのグローバル化が進み、それが世界経済にも大きな影響を与えていることが理解される。資本が自由に動く中で、安い資金調達コストと効率的な運用がより一層求められている。金融システムにおいて、世界的な規模での制度間競争が生じており、各国の金融システムも変革を迫られている。
現在、アメリカでは、銀行、証券を分離していたグラス・スティーガル法の改正が議論され、より効率的な金融システムに向けて規制の見直しが進んでいる。イギリスは八六年のビッグ・バン(証券市場の規制撤廃)により、ニューヨークに並ぶ国際金融市場の地位を維持している。イギリスに刺激されて、ドイツでもフランスでも資本市場の改革を進めている。さらに、アジアでは、香港やシンガポールは金融関連規制の撤廃を行い、発展するアジア地域の金融取引の核として発展を遂げてきた。
このように、金融システムの変革が進んできた欧米諸国、香港、シンガポールに対して、タイなどのASEAN諸国は、現在、金融・通貨の問題に悩まされている。アジアの成長テンポは現在も依然として高いものの、不良債権の影響が懸念されている。
本年度の白書は、このような問題意識に沿って、諸外国の事例の紹介と分析を行っている。第1章で世界経済情勢の年間レビューを行い、地域ごとに主要なトピックをとり上げる。第2章では、金融の技術革新やグローバル化の中で、各国で行われた金融自由化および金融システム改革について、その要因と影響を分析する。
<第1節> 拡大続く世界経済
世界経済は、九六年には途上国を中心に景気の拡大テンポは高まった。九七年も全体として引き続き拡大テンポが高まるものとみられている(第1表参照)。
<第2節> 拡大局面七年目に入ったアメリカ経済
アメリカの好況とニュー・エコノミー論
「ニュー・エコノミー論」とは、アメリカ経済の生産性はこれまでに比べて上昇したとする見方や、過去の景気成熟期でみられた過熱・後退といった循環のパターンが弱まっているなどとする見方である。
<アメリカ経済に何が起きているか>
しかし、九〇年代、もしくは八〇年代においても、ニュー・エコノミー論が想定しているような生産性の大幅上昇というデータは存在せず、現実に生産性の大幅上昇が起こっている可能性は小さい。ただ、アメリカ経済が、失業率の低下と低インフレを達成し、長期的な拡大局面が続いていることは事実であり、現実に労働市場が大きく改善されたこと、インフレが顕在化する前に適切な金融引締めが行われていたことが、その要因として挙げられる。
アメリカ経済の拡大は、九七年に入ってからは賃金の上昇率が徐々に高まる中で、伸縮的な労働市場や適切な金融政策により、全般的な物価の上昇が抑えられるという微妙なバランスの上に達成されている。一方で、八〇年から九六年までで実質GDPは五〇%伸びたが、そのうち二七%は企業利潤、二二%は労働時間の増加によるもので、時間当たりの実質労働報酬(企業の社会保険負担などを含む)は一%しか増加しておらず(第1図参照)、この意味ではアメリカ経済の好調にも限界があるといえよう。しかし、経済全体としては、パイがより多くの人々に分配され、企業の分け前も着実に増加したことが示されており、これが長期的な景気拡大の原動力ともなった。
今後とも伸縮的な労働市場によって増加する企業収益が生産性を上昇させる新規の投資へとつながれば、景気拡大が持続する可能性がある。また、エネルギー関係など九〇年代に入って、規制緩和の動きが加速した業界もあり、これらのもたらす経済的効果も景気拡大の要因として考慮する必要がある。
<第3節> 緩やかな景気回復がみられるヨーロッパ
EUの深化と拡大に向けた取組
EUでは、主権を異にする国の間で共通の通貨を流通させる壮大な試みが始まろうとしている。欧州経済通貨統合(EMU:Economic and Monetary Union)は、九九年一月一日からスタートするが、そのための諸々の準備が進められている。
<単一通貨の安定性と財政規律>
各国は単一通貨の安定性のために、通貨統合の参加にあたり、マーストリヒト条約の五つの収斂条件(物価、金利、為替相場、単年度財政赤字、政府累積債務)を達成することが求められている。このうち、特に財政赤字については、収斂条件の達成の度合いが各国で差があり、また、強いユーロを目指してきたドイツ自身の財政赤字達成が不可能となるのではないかという観測が高まっており、この基準が注目されている。
九七年十月の欧州委員会による見通しをみると、各国とも財政赤字の収斂基準を達成する動きを示している。しかし、三・〇%の厳格な達成の不可能ないくつかの加盟国が、会計的操作などを行って通貨統合に参加しようとしている、という見方があり、依然として、通貨価値の下落が生じやすい、弱いユーロになるとの観測が強い。
<第4節> ASEAN諸国の通貨減価とその要因
ASEAN諸国の通貨は九七年に入って不安定化している。
タイにおける大幅な通貨減価は、@自国通貨を米ドルにほぼ固定する為替政策により通貨が過大評価されるようになり、経常収支の赤字が拡大していたこと、A経常収支の赤字が金融自由化と国内高金利、米ドルにほぼ固定されていた為替レートによる資本流入によって支えられていたこと、B流入資本のうち不動産投資等、必ずしも生産的でない資金使途から生じた金融不安及び株価低迷による資本流出、等によるものと考えられる。
<金融自由化と経常収支の赤字拡大>
タイでは、八八年以降、日本などから高水準の直接投資が流入していたが、九〇年代前半には、日本の直接投資の中国等へのシフト、タイ企業による対外直接投資の増加などから、ネットの直接投資は減少している。その減少分を補填したのが、九〇年代になって急増した借入れを中心とした直接投資以外の資本流入(主に民間の短期資金の借入れ)である。
資本流入が拡大した要因としては、@九〇年から九三年にかけて実施された金融自由化(特に九三年のバンコクオフショア市場の開設)、A海外のドル建てに比べて国内のバーツ建ての金利が高かったこと、Bドルにほぼ固定された為替レートにより為替リスクが認識されていなかったことなどがあったが、一方、タイも積極的に外資を取り入れていた(第2図参照)。高水準の資本流入は、それまでの直接投資に代わって国内の大幅な投資超過を可能にし、経常収支の大幅な赤字拡大をもたらした。
タイ経済への今後の影響としては、緊縮的な包括的経済再建策の実施により、実体経済の悪化が予想される。タイ中央銀行の見通しによると、九七年の経済成長率は二・五〜三・〇%程度と、九六年の六・四%に比べてかなりの低成長になるとしている。
<第1節> 改革の要因と概要
本節では、まず欧米主要国などで進展している金融システムの規制緩和・自由化の概要について整理し、金融システムと規制の関係、金融システムの監督制度についてまとめ、最後に金融システム改革の結果、金融業にどのようなことが起きたかをみる。
<各国で進展する金融システムの規制緩和・自由化>
欧米主要国における金融システムに対する規制緩和の進展状況をみると、価格規制である預金金利規制は、欧米主要国では六〇年代後半から自由化が始まり、九〇年代前半には既に撤廃されている(第2表参照)。資本市場における証券売買手数料規制も既に撤廃されている。
業務分野規制の緩和については、銀行・証券分野規制は、八〇年代半ば頃から徐々に各国で垣根が撤廃されている。金融市場の国際化を加速する為替管理の撤廃も、ドイツでは六一年に、イギリスでは七九年に実施され、フランス、イタリアでは九〇年に実施されるなど、主要国においては完了している。
<経済のグローバリゼーション>
金融システムの規制緩和・自由化が行われた要因としては、八〇年代に入り、経済のグローバリゼーションが進んだことが挙げられる。グローバル化の進展により、企業が世界的な視野で最も効率的な地域で事業を行うようになり、それに伴い、資金も国境を越えて最も効率的な市場を目指して集まるようになっている。
金融市場のグローバル化をみるため、世界の資金移動を国際収支表の資本収支でみると、アメリカから全世界に向けて流出・流入した資金は、九〇年では一千四百四十億ドルだったが、九六年には八千三百十八億ドルと五・八倍に増加している。
<セキュリタイゼーションとディスインターミディエーションの進展>
七〇年代に入ってセキュリタイゼーション(証券化)とディスインターミディエーション(非金融仲介化)が進展したことも、金融システム改革を促した要因となった。
セキュリタイゼーションとは、資産及び負債の証券化が進展することであり、企業の資金調達が貸付けから証券発行にシフトすることや、債権を証券化して売買することであり、貸付けと証券発行の区別が曖昧になり、両者が融合していくことをいう。セキュリタイゼーションの進展は、資金調達構成において銀行借入れ(間接金融)のウェイトが低下し、資本市場から直接資金を調達する(直接金融)ウェイトが高まる、ディスインターミディエーションを引き起こした。
アメリカの企業の資金調達構成をみると、七〇年代央以降、銀行融資のシェアは一段と低下傾向を示している。また、アメリカの家計金融資産を種類別にみると、銀行預金のシェアは七〇年代央頃をピークに急速に低下している。
<金融機関が望んだ金融自由化>
金融システムの規制緩和・自由化が進んだ要因としては、@規制が金融機関の収益の低下や効率性低下の要因となっていることが認識されるようになり、金融機関の効率性低下は、金融業がすべての産業のインフラであることから、すべての産業の効率性低下をもたらすことが懸念されるようになったこと、A銀行、証券がそれぞれの業務に参入することにより、範囲の経済が働き、高い収益が得られると見込んだことにより、金融機関自らが規制緩和を望んだこと、が挙げられる。
<金融システムにとって真に必要な規制>
金融自由化・国際化が進展し、金融機関の競争が激しくなれば、金融機関の経営が破綻する可能性が増大する。そのような状況の中で、信用秩序の維持、預金者保護を確保しつつ、金融システムの安定性を高めるためには、業態規制などの競争制限的規制によるのではなく、預金保険制度、情報開示規制、自己資本比率規制の一層の強化・拡充や早期是正措置の導入等により対応していくことが、各国の流れとなっている。
<金融制度改革の影響>
金融システムの規制緩和・自由化の中で、金融業がどのような状況にあったかをみると、GDPに占める金融部門のシェアは、アメリカは七〇年代初から、イギリスは八〇年代央から九〇年代央までシェアを拡大させている(第3図参照)。ドイツ、フランス、日本でも、アメリカ、イギリスに比べ緩やかではあるが、七〇年代初から九〇年代初まで金融業のシェアは拡大している。
金融業賃金の製造業比をみると、ドイツ、フランス、日本は八〇年代後半以降九〇年代央までほぼ横ばいである。アメリカ、イギリスでは八〇年代央以降をみると、金融業の相対賃金は高まってきている。
<第2節> 業態間競争の激化
〜業務分野規制の撤廃〜
1 アメリカの業態間参入規制について
<疑問が残る業態間参入規制の立法趣旨>
アメリカでは、信用秩序の維持と利益相反問題の発生を防止するために、銀行業と証券業を分離するグラス・スティーガル法などの規制が課せられてきた。しかし、その規制の前提となった、銀証兼営における「明白な危険性(証券引受けなど投資銀行業務のリスクが商業銀行業務のリスクよりも高い)」や「利益相反(融資返済などのため、経営不振となった融資先に証券を発行させ、一般投資家に販売するような行為)」には疑問が呈せられていた。
第一の「明白な危険」では、貸付業務においても、貸倒れリスクや不良債権となるリスクが存在するため、投資銀行業務が不健全な債券を保有することと同等のリスクを持っていると考えられる。実際に、大恐慌時の両業務の損失を各々の資産に対する割合でみると、一九三二年以降は貸付業務の損失率の方が高かった(第4図参照)。
また、第二の「利益相反問題」では、そのような行為は銀行の評判を著しく低下させ、以後の業務の支障となるため、利益相反行為が行われる可能性は小さいと考えられる。さらに、一九三三年証券法により、企業は事前に証券発行によって得た資金の使途を開示しなければならず、このような危険性は起こり得ないと考えられる。
<実質的な業態間の垣根消失と制度改革の行方>
一方、八〇年代に入ってからのセキュリタイゼーションの本格化は、商業銀行の総収入における貸付利子収入のウェイト低下をもたらした。商業銀行の証券業務への積極的な参入を通じて、業務や商品の境界線が不明確となり、実質的な垣根消失が起こってきた。
また、国際間競争の激化の中で、他国の金融機関に対する優位性を確保するため、「範囲の経済」享受を前提とした経営基盤の一層の強化が必要との認識も高まってきており、時代に即した法改正が重要視されつつある。九七年の議会では、これまで対立していた各業界の利害も、相互参入を前提とした法改正を行うことで一致し、議論の焦点は、各金融業態間の参入規制の問題ではなく、@一般事業との兼営をどの程度認めるか、A各業態の監督体制をどのような形で割り当てるか、という点にシフトしている。
2 ドイツのユニバーサル・バンク制度にみる事例
現在、世界の多くで、銀行業務と証券業務を一つの銀行で行うことのできるユニバーサル・バンク制度への移行の動きがみられるが、ユニバーサル・バンク制度への移行は、株式市場の発展を阻害するなどの批判もある。
<ドイツにおける資本市場の発展と規制>
ドイツの例をみると、確かに、株式市場が未発達となっている。しかし、株式市場の発展が遅れている要因は、ドイツの企業が有限会社形態をとり、借入れによる資金調達を好むことに並んで、株式市場において諸規制が存在したことである。
個人部門の資産構成をみると、預金比率が低下を続ける中で、株式の比率は一連の市場改革がなされた九〇年代に上昇している。
また、ユニバーサル・バンク制度の枠組みに変更がないままで資本市場における規制緩和を行ったところ、不十分ながらも資本市場の発展がみられた。このことから、資本市場の発展を阻害していたのは、ユニバーサル・バンク制度ではなく、資本市場における諸規制であると推測できる。
<第3節> 制度間競争によって進展する各国金融市場の改革
本節では、各国の金融市場改革を「金融市場の制度間競争」という視点から考察する。
資本移動の自由化や技術革新による金融サービスの取引コスト低下によって、自由な資本は、非効率で高コストの市場を嫌い、利便性が高く低コストの市場を求めて移動する。ある市場の制度改革は周辺市場へ波及する傾向を持ち、八〇年代から本格化した先進各国の金融市場改革は、そうした制度間の競争によって押し進められてきたとみることができる。
1 イギリスのビッグ・バン
イギリスの「ビッグ・バン」は、八六年十月に行われた。ビッグ・バンとは、イギリス証券市場の制度改革、具体的にはロンドン証券取引所の制度改革である。ビッグ・バン以前のロンドン証券取引所では、単一資格制度や固定手数料制度などの旧態依然とした制度によって取引業者が保護されており、当時台頭してきた機関投資家の新しいニーズに応えられなくなっていた。
<売買手数料の自由化>
証券業務に対する新規参入規制の撤廃と手数料が自由化されたことによって、証券取引に関するコストは低下した。
ビッグ・バン以前のロンドン証券取引所の売買手数料には、最低手数料を業者間で固定していたことに加え、高率の印紙税が取引ごとに課されていたため、取引コスト上での国際競争力を失いつつあった。その結果、イギリス企業の株式が米国ADR市場で取引されるといった現象を引き起こした。こうした事態に対処するために、八六年に株式・債券の固定手数料制度は廃止され、完全に自由化された。
<手数料はビッグ・バン後、約半分に低下し、その後横ばい>
手数料の自由化は、平均手数料を低下させた。しかし、大口の取引手数料はビッグ・バン直後に劇的に低下した後は、ほぼ横ばいで推移しており、小口の取引が多い個人投資家の平均手数料率をみても、ビッグ・バン直後にやや上昇している。
手数料が下げ止まっている要因としては、手数料率の中に、@資産管理料や、Aソフト・コミッション(コンピュータ端末の設置、情報・調査レポートの提供)などが含まれている場合が多く、正確に取引コストを反映しなくなってきているためであると考えられる。また、イギリスの株式売買手数料の平均は、アメリカや日本と比較すると低くなっている。
<金融業界の再編>
八六年三月の出資比率規制の完全撤廃で、外部からロンドン証券取引所会員業者への資本参加が可能となり、その結果、伝統的に棲み分けがなされていた銀行と証券の垣根は完全に崩れ去った。出資規制の完全撤廃によって、これまで取引所の会員としては締め出されていた国内外の金融機関が、従来の会員への資本参加という形式で証券業務に参加することとなった。八六年当時、二百社以上存在していたジョバーとブローカーに、ビッグ・バン直後に内外の金融機関六十五社が新規に資本参加することとなった。
その後のイギリスの証券市場は、競争激化の時代に突入した。株式手数料収入の低下に加えて、八七年秋の株価急落による株式売買高の低下によって、証券業務の収益は低下した。また、買収に関わる初期投資や、システム投資の負担も収益を圧迫し、新規に証券業務に参入した機関の中には早々に撤退を迫られる者も出てきた。また、九〇年代に入ってからは、欧州大陸系銀行を中心に、証券業務や国際分散投資のノウハウを持つイギリスのマーチャント・バンクを買収する動きが盛んになっている。
<金融産業の雇用動向>
イギリスにおける金融セクターの雇用者数は、全産業の雇用者数の増大テンポよりも順調に増大している。八四年九月、金融・ビジネスサービス部門の雇用者数は百七十七万人だったが、三年後の八七年九月には、三十二万人増加して二百九万人となった。この中で雇用者数の最も大きな拡大が生じたのは、金融関連のその他のビジネス部門(会計、コンピュータ・サービス、法務など)であり、全雇用増のうちの約七五%を金融・ビジネスサービスがもたらしたことになる(第3表参照)。
<先進主要国で際立つイギリスの金融・保険サービス収支の黒字>
イギリスの国際収支表に注目してみると、金融・保険サービス収支の黒字が大きいことが特徴である。これには、@アメリカや大陸欧州の年金基金などの機関投資家が、国際分散投資経験の豊富なイギリス系投資顧問に資金運用を委託するケースが増加したこと、A外国株式取引の増大、Bロンドン市場におけるユーロ債の引受手数料の増大、などの要因が考えられる。
イギリスの金融・保険サービス収支は、九六年には九十九億九千万ドル(GDP比〇・九%)となっており、先進各国と比較してみると黒字の大きさが際立っている。
2 通貨統合をめぐる欧州金融改革の動き
〜競争と協調〜
ドイツ・フランスなど大陸ヨーロッパ諸国は、「ビッグ・バン」により、ロンドン金融市場の利便性が高まった結果、自国の金融市場の相対的な地位が低下することに懸念を抱き、国際的な制度間競争を強く認識するようになった。
フランスでは、「ビッグ・バン」から一年三か月後の八八年一月から「フランス版ビッグ・バン(プチ・バン)」と呼ばれる証券市場改革が行われ、ドイツでは、さらに二年後の九〇年一月に「第一次資本市場改革」が行われた(第5図参照)。
なお、証券市場改革に先駆け、情報システムでは既に各国の競争が始まっていた。八五年にイギリスSEAQインターナショナルが創設され、その利便性からドイツ、フランス株式のロンドン市場への注文流出が顕著になったことから、システムの整備が急がれることとなった。
3 香港、シンガポールの金融市場間の競争
アジアの中で早くから金融規制を緩和してきた香港、シンガポールは、アジアにおける主要な国際金融市場として発展している。
両金融市場が発展してきた経緯には違いがみられる。また、政府の関与を最小限にして国際金融センターを目指す香港と、政府の主導のもと積極的な市場育成策を行うシンガポールでは、政府の金融市場に対する関わりも対照的である。これまでそれぞれの市場の特徴をうまく活かしながら共存してきた。しかし、今後はこれまでの市場の役割分担、共存の枠を超え、日本など他のアジアの金融市場も含めた金融市場間競争を展開していくものと考えられる。
<コラム> 資産規模拡大を求める時代の終焉
金融システムの変革とともに、金融機関の経営も変わらざるを得ない。最近でこそ、金融機関の競争力を図る指標としてROE(自己資本利益率)などの指標が用いられるようになったが、九〇年代初頭までは資産規模が重要視されていた。なぜ資産規模でなく、収益性の指標が重視されるようになったのだろうか?
九〇年と九六年の商業銀行大手二十行(総資産額世界上位二十行)の資産規模と利益(税引き後)の関係をみると、九〇年には、資産規模が大きいほど、利益が大きいという関係がある。したがって、当時、金融機関の競争力を測る指標として、総資産額を用いたのは適切で、総資産規模を拡大し利益の増加を目指すのは、経営戦略として有効であった。
ところが九六年をみると、総資産規模と利益額の相関関係は薄れ、ほとんど関係がない。この傾向は、日本の大手銀行を除いて(不良債権の償却により、利益が低く計上されているため)みても明らかである。
手数料獲得に商業銀行も力を入れ始めたこと、金融技術の発展により、資産を使わないでも収益を上げることが可能となったことから、商業銀行の利益と総資産の関係が薄れたと推測される。金融機関には、規模の拡大よりも、金融技術の開発、収益性の高い貸出先の選別、不採算取引の圧縮などによる収益性の向上が求められる時代となった。
<第4節> 公的貯蓄制度の動向
金融の規制緩和・自由化や効率化は、主要先進国に共通の大きな動きである。金融機関は激化する競争への生き残りを図り、金融サービスの拡充や、新たな分野への進出を行っている。こうした流れの中で、公的貯蓄制度もサービスの拡充を図っている。
主要国の郵便貯金制度をみると、アメリカでは六六年に廃止されている。ヨーロッパでは、民間金融機関がサービスの多様化・拡充を進め、個人業務や住宅業務を充実させてきているのに対し、郵便貯金もサービスを拡充してきている。イギリスでは、六九年に郵便貯金の業務が国営の国民貯蓄銀行に引き継がれている。ドイツ、フランス、イタリアでは、EU統合に向けた規制緩和、民営化の流れの中で、一緒に運営されていた電気通信事業分野の改革が行われたのを契機に、経営の効率化を図るための公社化、株式会社化(一〇〇%政府保有)などの経営形態の見直しが相次いでいる。
<第5節> 金融の自由化と金融政策
金融政策と最適な中央銀行制度
<中央銀行の独立性とインフレーション>
近年、中央銀行の独立性が高い国ほどインフレ率が低いという実証結果が大きな関心を呼んでいる。中央銀行に関わる法律と制度に注目して、中央銀行の独立性を指標化したものに、Alesina and Summers (1993)の研究がある。この中央銀行の独立性指数とインフレ率との関係をみると、経験則的に、中央銀行の独立性が高いほど、インフレ率は低いことがわかる。
また、金融政策に従事する機関と銀行監督機関との分離が、金融政策運営の独立性を確保するとの考え方もある。これは、通貨供給機関である中央銀行が、銀行の監督を行うことによって、銀行破綻を避けるために金融緩和政策を行う可能性があること、銀行監督者としての信認が失墜した場合、中央銀行に対する評判も落ちかねないこと、などの理由による。実際、両者を分離している国のほうがインフレ率は相対的に低いとの分析もある。
金融政策の相違と独立性指数との関係をみると、中央銀行の独立性が高く、マネーサプライ・ターゲティングを採用しているドイツ、スイスでは、名目GDPが増加しても減少してもマネーサプライは変動しないことがわかる。さらに、中央銀行の独立性とマネーサプライとの関係は、独立性の高い国ほどマネーサプライの増加率も低い。また、マネーサプライ伸び率とインフレーションとの関係をみると、マネーサプライ伸び率が低いほどインフレ率は低いという関係があることがわかる。
以上の点から、これまでの経験では、独立性が高いドイツ、スイスの中央銀行では、ルールによる金融政策の採用により、マネーサプライの伸び率を抑制することができたものと考えられる。これらのことから判断すると、国民の信認を獲得し、インフレ率を低下させるために重要なのは、中央銀行の独立性とともに、どのような金融政策を行ってきたかであると考えられる。
むすび
〜金融のグローバル化と金融制度の改革〜
世界市場が一体化する中で、特に金融面でのグローバル化が進んでいる。金融のグローバル化の程度を、アメリカから世界に向けて流出し、また世界から流入した資本でみると、九〇年においては一千四百四十億ドルであったが、九六年には八千三百十八億ドルと五・八倍に増加している。資本が自由に動く中で、安い資金コストと効率的な運用がより一層求められている。金融システムにおいて、世界的な規模での制度間競争が生じており、一国の金融制度改革は他国に波及している。ドイツ、フランスなどの大陸欧州諸国は、イギリスを追って金融市場改革を行っている。
このように、市場メカニズムを導入し、自由化、効率化が進む一方で、信用秩序を維持していく重要性も高まっている。信用秩序維持のための規制は強化されており、そのための監督制度の変更もなされている。金融業の業態変化に伴い、それを監督する体制も変化しつつある。
金融制度改革が、まったくなんの犠牲もなく、経済を活性化するとは言い切れない。銀行と証券の分離規制など金融業態間の規制を撤廃することは、諸外国で行われている金融制度改革の柱の一つであるが、規制によって保護されてきた業態では、痛みを伴うだろう。イギリスのビッグ・バンが、イギリス系の証券会社をほとんど駆逐してしまったということは、その痛みの例かもしれない。しかし、多くの国で、規制の撤廃によって金融システム全体が活性化され、金融業において今まで以上の雇用が創出され、GDPに占めるシェアも高まったのである。そして何よりも、グローバル化の中では、それ以外の道は残されていない。
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法人企業動向調査
本調査は、資本金一億円以上の全営利法人を対象として、設備投資の実績及び計画並びに企業経営者の景気と経営に対する判断及び見通しを調査したものである。
調査対象:調査は、原則として国内に本社又は主たる事務所をもって企業活動を営む資本金又は出資額が一億円以上の全営利法人(約三万二千百社)から、経済企画庁が定める方法により選定した四千五百五十五社を対象とした。
調査時点:平成九年九月一日
調査方法:調査は、調査法人の自計申告により行った。
なお、資本金又は出資額が五十億円以上の営利法人については全数調査、五十億円未満の営利法人は、層化任意抽出法により選定した法人について調査した。
有効回答率:調査対象法人四千五百五十五社のうち、有効回答法人四千三百三十三社、有効回答率九五・一%
〔利用上の注意〕
@ 今期三か月の判断とは、平成九年四〜六月期と比較した場合の平成九年七〜九月期の判断、来期三か月の見通しとは、平成九年七〜九月期と比較した場合の平成九年十〜十二月期の見通し、再来期三か月の見通しとは、平成九年十〜十二月期と比較した場合の平成十年一〜三月期の見通しである。
なお、季節調整値及び時系列表については、来期三か月の見通し及び再来期三か月の見通しについて掲載している。
A 判断指標(BSI)とは「上昇(強くなる・増加)の割合−下降(弱くなる・減少)の割合」である。
B 設備投資の公表数値は、母集団推計値である。また、算出基準は工事ベース(建設仮勘定を含む有形固定資産の減価償却前増加額)である。
C 季節調整の方法は、設備投資(実績、実績見込み、修正計画、当初計画の各系列別)及び景気・経営の見通しとも、センサス局法U、]―11で算出。更に、設備投資の実績見込み、修正計画、当初計画は達成率による修正を行った。
D 昭和六十三年三月調査より、日本電信電話梶A第二電電鞄剋オ社、JR関係七社及び電源開発鰍調査対象に加えるとともに、日本電信電話梶A第二電電鞄剋オ社については、昭和六十年四〜六月期、JR関係七社については、昭和六十二年四〜六月期に遡及して集計に加えた。
E 集計上の産業分類は、日本標準産業分類を基準とする会社ベースでの主業分類に基づいて行った。
F 平成元年四〜六月期以降の調査内容は、消費税を除くベースで調査した。
◇概 要
○景気見通し(全産業)
・国内景気
国内景気の判断指標(BSI)は、平成九年七〜九月「九」の後、十〜十二月「〇」、十年一〜三月「七」となり、企業経営者の国内景気見通しには引き続き回復感がみられる。
・業界景気
業界景気の判断指標は、九年七〜九月「一」の後、十〜十二月「マイナス六」と一時的に悪化するものの、十年一〜三月「一」と回復し、業界景気見通しには回復感がみられる。
○需要見通し(製造業)
・国内需要
国内需要の判断指標は、平成九年七〜九月「四」の後、十〜十二月「マイナス五」と一時的に悪化するものの、十年一〜三月「一」と回復し、企業経営者の国内需要見通しには回復感がみられる。
・海外需要
海外需要の判断指標は、九年七〜九月「三」の後、十〜十二月「二」、十年一〜三月「二」となり、海外需要見通しには引き続き回復感がみられる。
○自己企業の経営見通し
・製品価格(製造業、農林漁業、鉱業)
製品価格の判断指標は、平成九年七〜九月「マイナス七」の後、十〜十二月「マイナス十」、十年一〜三月「マイナス八」となり、製品価格は弱含みに推移するものと見込まれている。
・原材料価格(製造業、農林漁業、鉱業)
原材料価格の判断指標は、九年七〜九月「七」の後、十〜十二月「五」、十年一〜三月「四」となり、原材料価格はやや上昇するものと見込まれている。
・売上高(全産業:金融保険、不動産を除く)
売上高の判断指標は、九年七〜九月「九」の後、十〜十二月「五」、十年一〜三月「八」となり、売上高の見通しは引き続き改善するものと見込まれている。
・経常利益(全産業:金融保険、不動産を除く)
経常利益の判断指標は、九年七〜九月「七」の後、十〜十二月「三」、十年一〜三月「七」となり、経常利益の見通しは引き続き改善するものと見込まれている。
○四半期別設備投資の動向(全産業)
全産業では、平成九年七〜九月に減少の後、十〜十二月、十年一〜三月はともに増加の見通しとなっている。
これを産業別にみると、製造業では、九年七〜九月,十〜十二月、十年一〜三月のいずれも増加の見通し、非製造業では、九年七〜九月に減少の後、十〜十二月、十年一〜三月はともに増加の見通しとなっている。
また、資本金規模別にみると、資本金十億円以上の大企業では、九年七〜九月に減少の後、十〜十二月は増加、十年一〜三月は減少の見通し、一〜十億円の中堅企業では、九年七〜九月、十〜十二月はともに減少の後、十年一〜三月は増加の見通しとなっている。
○平成九年度設備投資計画の動向
全産業の設備投資計画(修正計画T)は約四十六兆二千億円となり、平成八年度(実績)に比べ三・〇%の増加(当初計画では三・九%の増加)が見込まれている。
このうち、製造業では、約十五兆六千億円となり,五・七%の増加、非製造業では、約三十兆五千億円となり、一・七%の増加が見込まれている。
また、資本金規模別にみると、大企業では、八・六%の増加、中堅企業では、七・八%の減少が見込まれている。
○生産設備の判断(製造業)
自己企業の生産設備の判断指標は、平成九年四〜六月「十」の後、七〜九月「十一」となり、ほぼ横ばいとなっている。
○在庫水準の判断(製造業)
完成品在庫水準の判断指標は、平成九年六月末「十三」の後、九月末「十五」となり、やや過大感が増している。
一 景気見通し(全産業:季節調整値)
(一) 国内景気
国内景気に関する判断指標(BSI:「上昇」−「下降」)は、平成九年七〜九月「九」の後、十〜十二月「〇」、十年一〜三月「七」となり、企業経営者の国内景気見通しには引き続き回復感がみられる。
業種別にみると、製造業(十八業種)では、九年十〜十二月にはパルプ・紙、電気機械、印刷・出版等五業種がプラス、食料品・飲料が「〇」、それ以外(十二業種)はマイナス、十年一〜三月にはゴム・皮革、鉄鋼がマイナス、窯業・土石が「〇」、それ以外(十五業種)はプラスとなっている。
また、非製造業(十業種)では、九年十〜十二月には農林漁業、建設、不動産等四業種がマイナス、それ以外(六業種)はプラス、十年一〜三月にはすべての業種でプラスとなっている。
(二) 業界景気
所属業界の景気に関する判断指標(BSI:「上昇」−「下降」)は、平成九年七〜九月「一」の後、十〜十二月「マイナス六」と一時的に悪化するものの、十年一〜三月「一」と回復し、業界景気見通しには回復感がみられる。
業種別にみると、製造業(十八業種)では、九年十〜十二月には電気機械、精密機械、印刷・出版がプラス、それ以外(十五業種)はマイナス、十年一〜三月には自動車、精密機械、印刷・出版等七業種がプラス、パルプ・紙、化学、石油・石炭が「〇」、それ以外(八業種)はマイナスとなっている。
また、非製造業(十業種)では、九年十〜十二月には鉱業、電力、サービスがプラス、それ以外(七業種)はマイナス、十年一〜三月には農林漁業、建設、不動産がマイナス、ガスが「〇」、それ以外(六業種)はプラスとなっている。
二 需要見通し(製造業:季節調整値)
(一) 国内需要
国内需要に関する判断指標(BSI:「強くなる」−「弱くなる」)は、平成九年七〜九月「四」の後、十〜十二月「マイナス五」と一時的に悪化するものの、十年一〜三月「一」と回復し、企業経営者の国内需要見通しには回復感がみられる。
業者別にみると、十八業種中、九年十〜十二月にはパルプ・紙、石油・石炭、印刷・出版等五業種がプラス、それ以外(十三業種)はマイナス、十年一〜三月にゴム・皮革、窯業・土石、「その他の輸送用機械」等六業種がマイナス、パルプ・紙が「〇」、それ以外(十一業種)はプラスとなっている。
(二) 海外需要
海外需要に関する判断指標(BSI:「強くなる」−「弱くなる」)は、平成九年七〜九月「三」の後、十〜十二月「二」、十年一〜三月「二」となり、海外需要見通しには引き続き回復感がみられる。
業種別にみると、十八業種中、九年十〜十二月には繊維、鉄鋼、自動車、造船等六業種がマイナス、食料品・飲料、パルプ・紙、印刷・出版が「〇」、それ以外(九業種)はプラス、十年一〜三月には金属製品、電気機械、精密機械等六業種がプラス、食料品・飲料、パルプ・紙、印刷・出版が「〇」、それ以外(九業種)はマイナスとなっている。
三 自己企業の経営見通し(季節調整値)
(一) 製品価格(製造業、農林漁業、鉱業)
自己企業の製品価格に関する判断指標(BSI:「上昇」−「下降」)は、平成九年七〜九月「マイナス七」の後、十〜十二月「マイナス十」、十年一〜三月「マイナス八」となり、製品価格は弱含みに推移するものと見込まれている。
業種別にみると、二十業種中、九年十〜十二月には鉄鋼、農林漁業、鉱業がプラス、それ以外(十七業種)はマイナス、十年一〜三月には繊維、造船、鉱業等五業種がプラス、鉄鋼、印刷・出版が「〇」、それ以外(十三業種)はマイナスとなっている。
(二) 原材料価格(製造業、農林漁業、鉱業)
自己企業の原材料価格に関する判断指標(BSI:「上昇」−「下降」)は、平成九年七〜九月「七」の後、十〜十二月「五」、十年一〜三月「四」となり、原材料価格はやや上昇するものと見込まれている。
業種別にみると、二十業種中、九年十〜十二月には石油・石炭、電気機械、印刷・出版がマイナス、精密機械が「〇」、それ以外(十六業種)はプラス、十年一〜三月には非鉄金属、電気機械がマイナス、それ以外(十八業種)はプラスとなっている。
(三) 売上高(全産業:金融保険、不動産を除く)
自己企業の売上高に関する判断指標(BSI:「増加」−「減少」)は、平成九年七〜九月「九」の後、十〜十二月「五」、十年一〜三月「八」となり、売上高の見通しは引き続き改善するものと見込まれている。
業種別にみると、製造業(十八業種)では、九年十〜十二月には金属製品、自動車等四業種がマイナス、窯業・土石、鉄鋼が「〇」、それ以外(十二業種)はプラス、十年一〜三月には造船、「その他の輸送用機械」がマイナス、金属製品が「〇」、それ以外(十五業種)はプラスとなっている。
また、非製造業(八業種)では、九年十〜十二月には鉱業、建設、ガスがマイナス、それ以外(五業種)はプラス、十年一〜三月には農林漁業、鉱業、建設がマイナス、それ以外(五業種)はプラスとなっている。
(四) 経常利益(全産業:金融保険、不動産を除く)
自己企業の経常利益に関する判断指標(BSI:「増加」−「減少」)は、平成九年七〜九月「七」の後、十〜十二月「三」、十年一〜三月「七」となり、経常利益の見通しは引き続き改善するものと見込まれている。
業種別にみると、製造業(十八業種)では、九年十〜十二月には自動車、造船等四業種がマイナス、それ以外(十四業種)はプラス、十年一〜三月にはパルプ・紙、金属製品がマイナス、それ以外(十六業種)はプラスとなっている。
また、非製造業(八業種)では、九年十〜十二月には農林漁業、卸・小売、サービスがプラス、それ以外(五業種)はマイナス、十年一〜三月には鉱業、電力、ガスがマイナス、それ以外(五業種)はプラスとなっている。
四 四半期別設備投資の動向(全産業:季節調整値)
設備投資の動向を四半期別に前期比でみると、全産業では、平成九年四〜六月(実績)二・一%減の後、七〜九月(実績見込み)一・一%減、十〜十二月(計画U)二・一%増、十年一〜三月(計画T)〇・二%増の見通しとなっている。
また、「電力」を除いた全産業では、九年四〜六月二・八%減の後、七〜九月〇・五%減、十〜十二月二・三%増、十年一〜三月〇・〇%減の見通しとなっている。
(一) 産業別設備投資の動向
産業別に設備投資の動向を前期比でみると、製造業では平成九年四〜六月〇・六%減の後、七〜九月〇・五%増、十〜十二月二・六%増、十年一〜三月〇・二%増の見通しとなり、非製造業では九年四〜六月二・八%減の後、七〜九月一・九%減、十〜十二月二・二%増、十年一〜三月〇・五%増の見通しとなっている。
これを業種別にみると、製造業のうち素材型業種では、化学が九年四〜六月二・七%減の後、七〜九月四・四%減、十〜十二月二・九%減、十年一〜三月七・一%増の見通しとなり、鉄鋼では九年四〜六月三・六%減の後、七〜九月一五・四%増、十〜十二月二二・八%減、十年一〜三月三・七%増の見通しとなっている。
また、加工型業種では、自動車が九年四〜六月二・五%増の後、七〜九月二・〇%増、十〜十二月一七・九%増、十年一〜三月八・七%増の見通しとなり、電気機械では九年四〜六月一・四%増の後、七〜九月二・九%増、十〜十二月五・〇%増、十年一〜三月一九・九%減の見通しとなっている。
一方、非製造業についてみると、運輸・通信では九年四〜六月四・〇%減の後、七〜九月五・九%減、十〜十二月二・五%増、十年一〜三月一・二%増の見通しとなり、電力では九年四〜六月二・二%増の後、七〜九月四・一%減、十〜十二月一・九%増、十年一〜三月〇・一%増の見通しとなっている。
また、サービスでは九年四〜六月七・二%減の後、七〜九月三・三%増、十〜十二月五・三%増、十年一〜三月四・一%減の見通しとなり、リースでは九年四〜六月二・〇%増の後、七〜九月一〇・八%増、十〜十二月〇・八%減、十年一〜三月四・七%増の見通しとなっている。
(二) 資本金規模別設備投資の動向
資本金規模別に設備投資の動向を前期比でみると、資本金十億円以上の大企業では、平成九年四〜六月二・六%増の後、七〜九月〇・二%減、十〜十二月四・〇%増、十年一〜三月一・〇%減の見通しとなっている。
一方、資本金一〜十億円の中堅企業では、九年四〜六月一四・七%減の後、七〜九月〇・二%減、十〜十二月二・一%減、十年一〜三月〇・九%増の見通しとなっている。
五 平成九年度設備投資計画の動向(全産業)
平成九年度の全産業の設備投資計画(修正計画T)は、約四十六兆二千億円となり、八年度(実績)に比べ三・〇%の増加が見込まれている。
これを、当初計画と比較すると、前年度比は三・九%増から三・〇%増への下方修正となっている。
また、「電力」を除いた全産業では、二・六%の増加が見込まれている。
(一) 産業別動向
平成九年度の設備投資計画を産業別にみると、製造業では、約十五兆六千億円と、八年度に比べ五・七%の増加となり、当初計画の前年度比四・三%増から五・七%増への上方修正となっている。
また、非製造業では、約三十兆五千億円と、八年度に比べ一・七%の増加となり、当初計画の前年度比三・六%増から一・七%増への下方修正となっている。なお、「電力」を除いた非製造業では、約二十五兆七千億円となり、〇・八%の増加が見込まれている。
これを業種別にみると、製造業のうち素材型業種では、繊維は三五・六%の増加、非鉄金属は八・九%の増加が見込まれている反面、石油・石炭は一六・四%の減少、パルプ・紙は一四・一%の減少、窯業・土石は八・二%の減少、化学は七・七%の減少、鉄鋼は七・四%の減少、ゴム・皮革は四・九%の減少が見込まれている。
また、加工型業種では、自動車は三〇・七%の増加、「その他の輸送用機械」は二二・五%の増加、印刷・出版は一三・二%の増加、一般機械は一二・七%の増加、電気機械は九・七%の増加、精密機械は七・五%の増加、食料品・飲料は二・九%の増加、造船は二・五%の増加、「その他の製造業」は〇・一%の増加が見込まれている反面、金属製品は一・三%の減少が見込まれている。
一方、非製造業をみると、農林漁業は一〇三・四%の増加、ガスは八・六%の増加、リースは八・六%の増加、電力は六・六%の増加、金融保険は四・六%の増加、運輸・通信は四・〇%の増加、不動産は三・三%の増加が見込まれている反面、鉱業は一九・五%の減少、建設は一七・七%の減少、卸・小売は一三・四%の減少、サービスは九・三%の減少が見込まれている。
(二) 資本金規模別計画
平成九年度の設備投資計画を資本金規模別にみると、資本金十億円以上の大企業では、八年度に比べ八・六%の増加が見込まれており、このうち製造業、非製造業ともに八・六%の増加が見込まれている。
一方、資本金一〜十億円の中堅企業では、七・八%の減少が見込まれており、このうち製造業では、〇・四%の減少、非製造業では、一一・一%の減少が見込まれている。
六 生産設備の判断(製造業:季節調整値)
製造業における自己企業の生産設備の判断指標(BSI:「過大」−「不足」)は、平成九年四〜六月「十」の後、七〜九月「十一」となり、ほぼ横ばいとなっている。
業種別(十八業種)にみると、パルプ・紙、ゴム・皮革等四業種で過大感が増している。
七 在庫水準の判断(製造業:季節調整値)
製造業における完成品在庫水準の判断指標(BSI:「過大」−「不足」)は、平成九年六月末「十三」の後、九月末「十五」となり、やや過大感が増している。
業種別(十八業種)にみると、窯業・土石、一般機械、自動車等十二業種で過大感が増している。
また、原材料在庫水準の判断指標(BSI:「過大」−「不足」)は、九年六月末、九月末ともに「九」と横ばいとなっている。
業種別にみると、非鉄金属、電気機械、造船等八業種では過大感が和らいでいる。
一 概 況
(1) 総合指数は平成七年を一〇〇として一〇二・一となり、前月比は〇・七%の上昇。前年同月比は六月一・八%の上昇、七月一・四%の上昇、八月一・六%の上昇と推移した後、九月は二・一%の上昇となり、上昇幅は前月に比べ〇・五ポイント拡大。これは、保健医療サービスの上昇幅が拡大したことなどによるもの。
(2) 生鮮食品を除く総合指数は一〇二・三となり、前月比は〇・八%の上昇。前年同月比は六月一・六%の上昇、七月一・六%の上昇、八月一・八%の上昇と推移した後、九月は二・三%の上昇となった。
二 前月からの動き
(1) 食料は一〇一・七となり、前月に比べ〇・五%の下落。
生鮮魚介は八・八%の下落。
<値上がり>ほたて貝、いわしなど
<値下がり>さんま、いかなど
生鮮野菜は〇・四%の上昇。
<値上がり>トマト、キャベツなど
<値下がり>れんこん、ほうれんそうなど
生鮮果物は三・七%の上昇。
<値上がり>キウイフルーツ、グレープフルーツなど
<値下がり>なし、ぶどう(巨峰)など
外食は〇・六%の下落。
<値下がり>ハンバーガーなど
(2) 家具・家事用品は九五・七となり、前月に比べ〇・五%の下落。
家庭用耐久財は一・七%の下落。
<値下がり>ルームエアコンなど
(3) 被服及び履物は一〇六・一となり、前月に比べ七・二%の上昇。
衣料は一〇・六%の上昇。
<値上がり>婦人ブレザーなど
(4) 保健医療は一一五・〇となり、前月に比べ一二・九%の上昇。
保健医療サービスは二三・三%の上昇。
<値上がり>診察料
(5) 交通・通信は一〇一・二となり、前月に比べ〇・三%の下落。
交通は〇・六%の下落。
<値下がり>航空運賃など
(6) 教養娯楽は一〇一・〇となり、前月に比べ〇・三%の下落。
教養娯楽サービスは〇・四%の下落。
<値下がり>宿泊料
三 前年同月との比較
○上昇した主な項目
保健医療サービス(二四・九%上昇)、外食(三・三%上昇)、教養娯楽サービス(三・一%上昇)、家賃(〇・七%上昇)
○下落した主な項目
生鮮魚介(五・七%下落)
(注) 上昇又は下落している主な項目は、総合指数の上昇率に対する影響度(寄与度)の大きいものから順に配列した。
四 季節調整済指数
季節調整済指数をみると、総合指数は一〇一・八となり、前月に比べ〇・三%の上昇となった。
また、生鮮食品を除く総合指数は一〇二・一となり、前月に比べ〇・四%の上昇となった。
◇八月の全国消費者物価指数の動向
一 概 況
(1) 総合指数は平成七年を一〇〇として一〇二・一となり、前月比は〇・一%の上昇。前年同月比は五月一・九%の上昇、六月二・二%の上昇、七月一・九%の上昇と推移した後、八月は二・一%の上昇となった。
(2) 生鮮食品を除く総合指数は一〇二・〇となり、前月比は〇・一%の下落。前年同月比は五月二・一%の上昇、六月二・〇%の上昇、七月二・〇%の上昇と推移した後、八月は二・一%の上昇となった。
二 前月からの動き
(1) 食料は一〇二・九となり、前月に比べ〇・九%の上昇。
生鮮魚介は八・六%の上昇。
<値上がり>さんま、いかなど
<値下がり>さけ、さばなど
生鮮野菜は六・九%の上昇。
<値上がり>きゅうり、トマトなど
<値下がり>キャベツ、さといもなど
生鮮果物は五・八%の下落。
<値上がり>グレープフルーツ、オレンジ
<値下がり>ぶどう(デラウェア)、ももなど
(2) 家具・家事用品は九七・二となり、前月に比べ〇・五%の下落。
家庭用耐久財は一・一%の下落。
<値下がり>ルームエアコンなど
(3) 被服及び履物は九九・七となり、前月に比べ二・六%の下落。
衣料は三・三%の下落。
<値下がり>スーツ(夏物)など
(4) 教養娯楽は一〇一・一となり、前月に比べ〇・六%の上昇。
教養娯楽サービスは〇・七%の上昇。
<値上がり>宿泊料など
三 前年同月との比較
○上昇した主な項目
家賃(一・五%上昇)、外食(三・三%上昇)、生鮮魚介(六・九%上昇)、教養娯楽サービス(三・一%上昇)
○下落した主な項目
生鮮果物(七・三%下落)
(注) 上昇又は下落している主な項目は、総合指数の上昇率に対する影響度(寄与度)の大きいものから順に配列した。
四 季節調整済指数
季節調整済指数をみると、総合指数は一〇二・二となり、前月に比べ〇・一%の下落となった。
また、生鮮食品を除く総合指数は一〇二・二となり、前月と変わらなかった。
建物火災による死者数の実に八割から九割は住宅火災によるものです。そのうちストーブを原因としたものは約一五%で、石油ストーブによるものがその約六九%を占めています(平成七年調べ)。
石油ストーブによる火災では、火をつけたままの移動や給油、カーテンなどの可燃物との接触、誤った使用方法や整備不良など、不注意によって火災となるケースが多く見られます。
ストーブによる火災を防ぐためには、次の事項に注意しましょう。
・ストーブは、ふすま・障子等の燃えやすいものの近くでは使用しないこと。
・地震により落下するおそれのある燃えやすいものの下にストーブを置かないこと。
・地震などにより転倒のおそれのある不安定な場所、部屋の出入口及び通路等での使用は避けるとともに、対震自動消火装置付きのものを使用すること。
・故障していたり、その疑いのあるものはそのままの状態で使用せずに、点検・修理した上で使用すること。
・洗濯物を乾かすなど、暖房器具本来の目的以外の使用はしないこと。
・ストーブに適した燃料を使用し、ストーブ使用中は給油や移動をしないこと。
・ストーブのそばでは、ヘアスプレー等の引火の危険があるものは使わないこと。
・カートリッジタンク式のものは、タンク給油後はふたを確実にしめ、漏れのないことを確認すること。また、ストーブ点火後は正常に燃焼していることを確認すること。
・定期的に換気を行うこと。
・外出時や就寝時には必ずストーブを消火すること。
・その他取扱説明書に記載されている事項を守って使用すること。(消防庁)
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