官報資料版 平成1217





運輸白書のあらまし


運 輸 省


 平成九年度「運輸経済年次報告」(運輸白書)は、平成九年十一月二十一日の閣議に報告され、公表された。

◇概 要

 今年度の運輸白書では、国際的な大競争時代の到来等、我が国経済社会が大きな環境の変化に直面し、政府全体として、いわゆる六大改革を通じ、二十一世紀に向けて経済社会システムを変革、創造しようとしていることから、第1部のテーマを「新しい時代に対応する運輸」とし、このような状況の中で運輸が直面している課題は何か、二十一世紀に向けてこれらの課題にどのように取り組むのかについて、次のように取りまとめている。
(1) 国際、国内両面における環境の変化と運輸の課題を整理するとともに、規制緩和の実施状況と効果及び運輸関係社会資本の整備状況と効果についての分析
(2) グローバリゼーションの進展に対応しつつ、国民生活の質的な向上をめざす運輸の取組み、地球温暖化問題への対応等、環境にやさしい運輸をめざす取組み、大競争時代に対応した効率的な物流体系の構築に向けた取組みについて
 また、国鉄長期債務の本格的処理は、国鉄改革の総仕上げと財政構造改革の実施のために、さらには、新しい運輸をめざして積極的に各種施策を講じていくためにも、早急に対処しなければならない重要な課題であることから、この問題に対する取組みについても述べている。
 第2部では、平成八年度の運輸経済の動向や、国際運輸、観光、鉄道、自動車、海運、造船・船員、港湾、航空等の運輸行政の各分野ごとの施策について述べている。

<第1部> 新しい時代に対応する運輸


<第1章> 経済社会環境の変化に対応する運輸の課題とこれまでの取組み

<第1節> 我が国の経済社会をめぐる環境の変化と運輸の課題

1 我が国の経済社会をめぐる環境の変化
(1) 国際環境の変化
 (ア) グローバリゼーションの進展
 国際的な大競争時代の到来の中で、高コスト構造等による我が国産業の空洞化が懸念されており、経済の活力を高めていくことが重要な課題となっている。
 また、各国の相互依存関係が深まっていることから、内外に開かれた経済社会を築き、国際的なルールづくりに積極的に参加することで、世界経済の発展に貢献していくことが重要な課題となっている。
 (イ) 地球規模での取組みを要する諸課題への対応
 経済活動が地球規模で拡大し、ボーダーレス化するとともに、人口、環境、食糧等の問題が深刻化しており、これらの問題は、全地球規模で取り組む必要がある重要な課題であるとの認識が広まっている。
 このうち、地球温暖化問題をはじめとする地球規模の環境問題については、早急な対応が求められている。
(2) 国内環境の変化
 (ア) 高次な成熟経済社会への転換
 我が国は、戦後、主として海外からの技術導入とその応用により急速な発展を遂げ、世界有数の経済力を有するようになり、キャッチアップの段階を終了した。今後は、独創的な技術を自ら創出するなど我が国に新たな発展をもたらすような、高次な成熟経済社会への転換が迫られている。
 (イ) 国民の意識・価値観の多様化の進行
 経済の成熟化に伴い、国民の意識・価値観の多様化が進行し、心の豊かさを実感するということが重視されてきている。一方、経済的な豊かさと国民の豊かさの実感との間に乖離があることも指摘されている。
 (ウ) 高齢社会の到来
 我が国は急速に高齢社会になりつつあることから、高齢社会に適した社会のシステムを構築し、豊かで安心できる高齢社会への円滑な移行を可能とする条件整備を進めることが重要な課題となっている。
 (エ) 情報通信の高度化
 情報通信の高度化は、情報やモノの流れを一変させ、産業の生産性の向上をもたらすとともに、新たな関連産業や新規雇用を創出することが期待されている。

2 多様なニーズに応え、国民生活の質的な向上をめざす運輸の課題
・ 国民の意識・価値観の多様化・高度化の進行に伴い、多様、かつ、より低廉で高度な運輸サービスの提供が期待されている。
・ 大都市圏における依然として高い鉄道の混雑率は、経済力に見合った豊かさを実感できない要因の一つになっており、引き続き混雑緩和対策等を進める必要がある。
・ 社会の急速な高齢化や障害者の自立と社会参加の要請が高まっているなかで、これらの利用者が、安全かつ身体的負担の少ない方法で、公共交通機関を利用できるようにすることが重要になってきている。
・ 地域におけるバス、旅客船等の公共交通機関は、これに頼らざるを得ない住民の足として確保する方策の確立が重要な課題となっている。
・ 地域経済の活性化を促進し、豊かな地域社会を形成するためには、国内幹線ネットワークの充実・強化を進めていくとともに、総合的な観光振興策を推進することにより、地域間の連携の強化、交流の活性化、地域の振興を図っていくことが必要である。
・ 交通安全の確保は運輸行政の基本であり、今後とも安全対策を推進していく必要がある。
  また、鉄道、港湾等の耐震性の向上、代替輸送の確保、大規模流出油事故の予防・防除対策の推進等により、災害に強い運輸を整備する必要がある。
・ 独創的、革新的な技術開発を行い、安全性の向上、人や物の高速、円滑な移動の確保、環境への負荷の軽減等を図ることが必要である。

3 国際的な大競争時代に対応し、円滑で国際的調和のとれた運輸の実現に向けた課題
・ 国際的な大競争時代が到来するなかで、我が国経済社会が、今後とも安定的な発展を維持していくためには、国際ハブ港湾・空港等の整備と、国際交通ネットワークの整備に取り組む必要がある。
・ 日米航空問題、港運問題等の個別経済問題に適切かつ迅速に対応する必要があるとともに、自動車等の各種基準ができる限り国際的に調和したものとなるようにする必要がある。

4 環境にやさしい運輸の実現に向けた課題
 運輸の分野においても、地球環境問題及び地域的な環境問題に対し、一層の環境対策の充実が必要となっている。
 特に、地球温暖化問題については、現在、目標達成が困難な状況にある二酸化炭素の排出抑制について、我が国全体の約二〇%を占め、かつ、増加を続けている運輸部門での対策が喫緊の課題となっている。

5 効率的な物流体系の構築をめざす運輸の課題
・ 物流に必要な社会資本については、重点的・効率的な整備が求められている。また、国際的な大競争時代が到来し、周辺諸国等において国際ハブ港湾・空港の整備が進んでいるなかで、我が国の港湾、空港の国際競争力の低下が懸念されている。
  このため、国際ハブ港湾・空港の整備、社会資本相互の連携の強化、物流のボトルネックの解消等を図る必要がある。
・ 我が国経済の高コスト構造を是正するとともに、多様化・高度化している物流ニーズに対応した新たな業態・サービス等が生み出されるような、国際的にも魅力的な活力ある事業環境を創り出していくことが必要になっている。
  このため、規制緩和を推進し、物流コストの低減、サービス内容の多様化・高度化を図る必要がある。
・ 物流効率化を進めるためには、情報通信技術の有効な活用による情報化を図るとともに、標準化、技術開発等を進め、物流システムの高度化を図る必要がある。

<第2節> 運輸における規制緩和及び社会資本整備の取組み

1 規制緩和の実施状況と効果
(1) トラック事業に関する規制緩和
 (ア) 規制緩和の概要
 平成二年十二月一日施行の貨物自動車運送事業法により、参入について需給調整規制が廃止され免許制が許可制に改められ、運賃・料金について認可制が届出制に改められるなど、大幅に経済的規制が緩和される一方、輸送の安全確保を目的に社会的規制が強化された。
 (イ) 規制緩和の効果
 (a) 市場の活性化
 貨物自動車運送事業法の施行後、新規参入する事業者が増加した(第1図参照)。
 競争の激化により、実働率、実車率とも低下傾向にあり、また、稼働車両当たりの輸送トン数も減少するなど、輸送効率は低下している。
 しかし、規制緩和を機に、積合せ事業の全国展開を図る動きがみられるなど、市場の活性化がみられる。
 (b) 実質的な運賃水準の低下
 一トンキロ当たり営業収入等は、低下傾向にあるなど、実質的な運賃水準の低下が続いている(第2図参照)。
 (c) 生産性の向上
 従業員数は増加しているが、その増加率は、輸送量の増加率に比べて低い。また、従業員一人当たりの付加価値額は向上している。
 (d) 多様なサービスの展開
 宅配便では、クール宅配便、時間指定サービス等、事業者の競争を通じた新しい輸送サービスが提供されるようになっている。
 このほか、引越輸送についても、単身赴任者用の引越パック等の新しいサービスが出現してきている。
(2) 航空事業に関する規制緩和
 (ア) 規制緩和の概要
 国内線におけるダブル・トリプルトラック化等を進めた。
 また、国内航空運賃については、平成七年五月から事前購入割引が、八年五月から六月にかけて幅運賃制度が、各社において実施された。
 (イ) 規制緩和の効果
 (a) 利用者数の増加
 平成三年四月から八年四月までにダブル・トリプルトラック化した二十四路線のうち十六路線において、その後一年間の実際の輸送人員は、事前三年間の平均伸び率を上回っている。
 (b) 運賃の多様化及び実質的な運賃水準の低下
 事前購入割引、幅運賃制度の導入により、季節、時刻、購入時期等によって運賃が変わることとなり、運賃の多様化が進んだ。
 旅客人キロ当たりの運賃収入は、平成四年度以降、低下が続いている(第3図参照)。
 (c) 便数の増加による利便性の向上
 ダブル・トリプルトラック化により、乗入れ航空会社が増えるとともに、便数が増加し、利用者の利便性が向上している。
 (d) 生産性の向上
 有効トンキロ当たりの営業費用は、平成三年度以降、低下傾向にある。従業員一人当たり輸送量は上昇傾向にある。
 競争の激化に対応して、採算性の悪い路線については、運休又は減便等の動きがみられる一方で、競争力のある路線を強化する動きもみられる。
 (e) 需要の平準化
 航空各社は、時期、時間帯等によって運賃を変え、需要を平準化し、輸送効率を上げようとしている。
 幅運賃制度導入後の平成八年には、多客期で運賃が割高な八月から、その前後の七月及び九月に需要がシフトしたことがうかがわれる。
(3) タクシー事業に関する規制緩和
 (ア) 規制緩和の概要
 需給調整基準である車両数については、参入を容易にするため、基準車両数に一定割合を上乗せする措置、最低保有車両台数を縮減する措置を実施した。運賃・料金規制については、平均原価方式に基づいて算定した額を上限とするゾーン運賃制を導入するとともに、初乗距離を短縮する運賃を認めた。
 (イ) 規制緩和の効果
 (a) タクシー運賃の多様化
 平成九年三月末までに全国七十七のうち三十五の運賃ブロックで多重運賃となった。また、割引運賃等のメニューの多様化が図られてきた。
 さらに、ゾーン運賃制の導入により、運賃・料金の一層の多様化が進んできている。
 (b) 需給調整の弾力化による事業の活性化等
 平成九年度以降の需給調整基準の弾力化により、例えば、東京地区では三千両の増車可能枠が公示され、かつ、最低保有車両数の縮減が行われていることから、三十三年ぶりに新規参入が見込まれる。
(4) その他の規制緩和
 (ア) 物流コストの削減等に資する諸規制の見直し
 (a) トラックターミナルについては、免許制を許可制に改めるほか、料金等に関する規制の大幅な緩和を行った。
 (b) 平成九年二月から貨物鉄道運賃について、総括原価方式の下での上限価格制を導入した。
 (c) 内航海運の船腹調整事業は、その計画的解消を図る方向で閣議決定されている。内航海運組合法が改正され、平成九年六月から、内航海運組合が船舶建造資金の借入れの債務保証を行えるようになった。
 内航海運の運賃協定については、一部を除いて平成八年十一月末までに廃止された。
 (イ) 旅客輸送サービスの向上等に資する諸規制の見直し
 (a) 事業参入の容易化
 貸切バス事業の需給調整基準については、平成九年度から一定の実働率以上の事業区域においては増車を認める等の措置を講じた。
 (b) 運賃・料金設定の弾力化
 鉄道、路線バス等の運賃・料金の規制緩和により、乗合バスの地下鉄との乗継割引や夏休み専用定期の導入、旅客船の閑散期割引、鉄道の一部の特急料金・グリーン料金の引下げ等、需要に応じた運賃・料金の柔軟な変更が行われるようになっている。
 旅客鉄道については、平成九年一月から総括原価方式の下での上限価格制が導入され、並行路線区間の運賃の引下げ等がみられた。
 (ウ) 国民生活の利便性の向上に資する諸規制の見直し
 (a) 道路運送車両法が改正され、平成七年七月から点検整備制度の簡素化等が行われた。ユーザー車検の増加に加えて、整備サービスの多様化、車両整備の基本料金の低下が進んでいる。
 (b) 平成九年六月からコンビニエンスストア等に設置したオンラインシステムを通じて、主催旅行商品等の販売ができるようにした。

2 社会資本整備の効果
(1) 幹線交通
 (ア) 幹線鉄道
 新幹線の直通運転化が図られた山形新幹線を例にとると、東京〜山形間の所要時間は従来より四十二分短縮され、福島駅での乗換えの不便も解消された。開業前に比べ、輸送人員は約四〇%増加した。
 一方、東京〜山形間の航空輸送人員は減少しているが、東京〜山形間の総流動人員は増加しており、航空と鉄道のそれぞれの特性が活かされた形での交通ネットワークの整備が実現している(第1表参照)。
 (イ) 国内航空
 東京国際空港(羽田)の沖合展開事業の例をみると、新C滑走路が平成九年三月に供用を開始した。これにより、一日四十便の増便が可能になり、これを機に新たに定期航空運送事業を営もうという動きも生じている。
 新しく増える四十便については、「羽田空港の新規発着枠配分基準懇談会」の報告を踏まえて配分を行い、増便等が行われた。
 また、二十四時間の運航が可能になり、深夜・早朝便も運航されるようになった。
 空港への鉄道の乗入れによってアクセスを確保する事例が増えている。例えば、福岡空港については、地下鉄の空港への乗入れによって、半数近くの空港利用者が鉄道を利用するようになっている。
 (ウ) 高速バス
 高速道路の整備の進展に併せて高速バスネットワークの充実が図られている。例えば、九州では、九州自動車道の全通等により、所要時間が短縮されるとともに、輸送人員も増加している。また、交通機関相互の競争が激化し、スピードアップのほか、バス、鉄道、航空それぞれに割安な運賃・料金の設定等が行われている。
(2) 大都市圏交通
 例えば、東武鉄道伊勢崎線は、竹ノ塚〜越谷間の複々線化及び北千住駅の大規模改良工事の完成により、列車の増発、混雑率の改善、朝ラッシュ時間帯の列車の所要時間の短縮等のサービス改善が図られた。
(3) 国際交通
 (ア) 空港整備
 関西国際空港は、開港以来、順調に利用者数が増加し、新規路線の開設、便数の増加が続いている。
 また、入国外国人については、関西国際空港の利用者数の伸びが大きく(第4図参照)、出国日本人についても近畿地方居住者の伸びが大きい。
 貨物輸送についても、取扱量が大きく増加するとともに、関西のシェアが拡大している。
 (イ) 港湾整備
 アジアと欧州・北米を結ぶ基幹航路に、相次いで大型コンテナ船が就航するなかで、平成八年四月、神戸港において、水深十五メートルのコンテナターミナル二バースが供用され、現在、東京港、横浜港等の中枢国際港湾でも緊急的に整備が進められている。
 一方、全国八地域の中核国際港湾においても、国際海上コンテナターミナルの拠点的整備を行うことにより、企業の物流コストの削減に役立っている。

<第2章> 二十一世紀に向けた運輸の取組み

 第1章で述べた環境の変化に対応するため、運輸省としても、需給調整規制の廃止等の規制緩和、効率的な物流体系の構築、厳しい財政的制約の中での投資の重点化・効率化等による社会資本の整備等を進め、変革と創造による新たな交通運輸システムの構築を推進することとしている。

<第1節> グローバリゼーションの進展に対応しつつ、国民生活の質的な向上をめざす運輸

1 競争の促進等による運輸サービスの向上、事業の活性化
 運輸をめぐる国際的、国内的な環境の大きな変化に対応して、一層の競争促進等により、意欲的に創意工夫し、新しい可能性に積極的に挑戦していく民間企業の活力を最大限に活用することによって、運輸市場を活性化させ、利用者のニーズに適合した運輸サービスの提供を促すことが必要になっている。
 そこで、運輸省では、平成八年十二月、必要な環境・条件を整備するとともに、利用者の保護、安全確保等の観点から必要な措置を講じつつ、おおむね三〜五年後を目標期限として、運輸事業における需給調整規制を原則的に廃止し、市場原理を最大限に活用した交通運輸システムを構築していくこととした。
 また、需給調整規制の廃止によって、生活路線の維持、安全の確保、消費者保護等の諸問題が生じることが予想されるので、その対応として必要となる環境整備方策等について、運輸政策審議会において審議が進められている。今後、その答申を得て、必要な措置を講じることとしている。

2 豊かな国民生活を支え、発展させる社会資本整備
 競争的な市場環境を整備するためには、その前提として交通インフラの整備が必要である。また、ゆとりと豊かさの実感できる社会を実現するため、市場原理の活用のみでは整備が進まない社会資本の整備も求められている。
(1) 高速化、快適性の向上をめざす鉄道整備
 幹線鉄道については、高速鉄道ネットワークの整備が重要な課題となっており、整備新幹線の整備、在来線と新幹線との直通運転化等を推進していく必要がある。
 また、都市鉄道については、混雑率を緩和するための輸送力増強とともに、新しい住宅地の供給、通勤・通学時間の短縮等の観点からも、その整備が求められている。
 しかし、鉄道整備は、膨大な資金と長期の懐妊期間を要し、投資リスクも大きいことから、財政支援等について検討を行い、関係者が応分の負担を行い、その推進のため一層努力していくことがますます重要となっている。
(2) 航空需要の増大に対応する空港整備
 航空需要に対応した空港の整備、とりわけネットワークの拠点となる国際ハブ空港や、国内拠点空港の整備を時機を失うことなく進めることが喫緊の課題である。このため、新東京国際空港(成田)の整備、東京国際空港(羽田)の沖合展開事業の推進、関西国際空港の二期事業、中部新空港の事業の推進、首都圏における新たな拠点空港の総合的な調査検討を進める。
 地域拠点空港及び地方空港は、継続事業を中心として整備を進めるとともに、既存空港の高質化等、所要の整備を図る。

3 ゆとりと豊かさの実感できる社会をめざして
(1) 大都市圏における快適な交通をめざす取組み
 (ア) オフピーク通勤の推進
 労働省と連携して設置している「快適通勤推進協議会」を通じて、企業等における時差通勤やフレックスタイム制の導入等を促進し、オフピーク通勤を推進する。
 (イ) 道路混雑の緩和
 都市部における道路交通の円滑化を図るため、パークアンドライド、相乗り、時差出勤等を利用者サイドに働きかける「交通需要マネジメント」等のソフト面の施策を推進する。
(2) 高齢者、障害者等にやさしい運輸サービスの実現
 鉄道駅等におけるエレベーター等の設置を進めるよう交通事業者に対して指導を行う。
 また、(財)交通アメニティ推進機構を通じて、鉄道駅における障害者対応型エレベーター等に補助を行う。
 ノンステップバス等の導入については、バス活性化総合対策補助制度による支援を行う。
(3) 利用者が安心して利用できる交通運輸の確保
 運賃の高騰、運転者の資質の低下の防止等により、利用者が安心して利用できる交通運輸サービスを確保するための措置を講ずるとともに、市場原理を有効に機能させるための情報公開を進めていく。
(4) 地域における生活の足の確保
 過疎地域等において運行しているバスや鉄道、あるいは離島航路や離島航空路は、その経営は大変厳しいものとなっている。今後、需給調整規制が廃止された場合、比較的需要の少ない路線については、その存続が危ぶまれ、サービスの質の低下が懸念される。
 このため、運輸政策審議会において検討が行われている今後の具体的な方策を踏まえ、今後とも生活に不可欠な足となっている地域におけるバス交通、離島航路等の生活交通の維持を図っていく。
(5) 観光を通じた地域振興
 平成八年四月に提言された「ウェルカムプラン21」(訪日観光交流倍増計画)や、これを受けた「外国人観光旅客の来訪地域の多様化の促進による国際観光の振興に関する法律」(九年六月施行)に基づいて、地方の観光地への誘客を通じた地域振興のための各種施策を講じる。
 また、観光需要の喚起や魅力ある観光地づくりにより、国内観光を通じた地域の活性化を図る。
(6) 安全で災害に強い交通運輸の確保
 第六次交通安全基本計画(平成八〜十二年度)に沿って、交通事故防止対策を推進するとともに、適時・適切な予報・警報等の提供、救難体制の整備や被害者の救済対策等に取り組む。
 また、災害対策として、鉄道・港湾・空港等の耐震性の強化、情報伝達体制の整備、緊急・代替輸送の確保等に取り組む。

4 円滑で国際的調和のとれた運輸の実現をめざして
(1) 国際的な政策調整の推進
 APEC(アジア太平洋経済協力)や東アジア運輸フォーラム等に積極的に取り組むとともに、主要国及びEUとの間で運輸ハイレベル協議等を開催して、継続的に対話を行うことにより、多国間・二国間の政策調整・協議等を実施する。
 輸送機器の国際基準化等への対応については、自動車に係る基準の国際的調和等に努めるとともに、国際基準に適合しない船舶の排除を国際的な協力の下で実施するポートステートコントロール(PSC)の充実・強化を図る。
 さらに、日米航空問題、港運問題等については、我が国の基本的立場を堅持しつつ、毅然とした態度で対応していく。
 国際交通ネットワークの整備については、国際定期航空輸送について、航空交渉を通じて利用者のニーズに適切に対応した運航路線と輸送力を確保するとともに、国際海上輸送について、WTO(世界貿易機関)、APEC、IMO(国際海事機関)等の活動に積極的に貢献し、自由で公正な国際海運市場の形成に努める。
 このほか、国際船舶制度の拡充(国際船舶の日本人船長・機関長二名配乗体制の導入、若年船員を対象とした実践的教育訓練スキームの確立等)を推進して、我が国外航海運の活性化を図る。
(2) 国際協力の推進
 開発途上国の発展のため、鉄道、港湾、空港等の整備等のハード面のみならず、交通政策策定に対する支援等のソフト面を含めて、国際協力に総合的に取り組む。特に、環境問題の運輸国際協力については、重点的に取り組んでいる。

5 運輸技術研究開発の推進
 新たな技術の誕生が、交通、さらには社会に革命的変化をもたらしてきた歴史的経緯を考えるとき、間近に迫った二十一世紀において、真に豊かな社会を創造していくために、運輸技術の果たす役割は、非常に重要である。
 現在、例えば、以下のような技術開発が進められている。
<運輸多目的衛星>
 航空管制及び気象観測を行うための運輸多目的衛星(MTSAT)を、平成十一年度に打ち上げる計画であり、衛星の調達等を進めている。運輸多目的衛星を中核とした次世代航空保安システムの導入により、航空交通容量の拡大、航空交通の安全性の向上等が可能となる。
<超電導磁気浮上式鉄道>
 営業最高速度時速五百キロメートルの超高速性、ピーク時間当たり一万人程度(片道)の輸送能力等の確保をめざし、平成九年四月から山梨県に建設された実験線において、走行試験が開始されており、十一年度までに実用化に向けた技術上の目途を立てる。
<超大型浮体式海洋構造物>
 実用化に向け、引き続き、大型浮体モデルを用いた実証実験を行うとともに、空港への利用可能性に関する技術的な検討を実施している。
<高度道路交通システム>
 情報通信技術等を用いて、人と車両、道路を情報でネットワーク化すること等により、一体のシステムとして構築する高度道路交通システム(ITS)の技術開発の一環として、先進安全自動車(ASV)の開発及び道路運送事業におけるITSの活用方策について、調査検討等を関係省庁と連携しつつ実施している。

<第2節> 環境にやさしい運輸をめざして

1 地球温暖化問題への対応
 我が国の二酸化炭素排出量は増加傾向にあり、このままでは地球温暖化防止行動計画において設定された目標の達成は困難な状況である。我が国全体の二酸化炭素排出量の約二〇%を占める運輸部門の排出量も増え続けている。
 このため、平成九年四月に運輸政策審議会総合部会において、次のような内容の「運輸部門における地球温暖化問題への対応方策について」が取りまとめられ、今後、これに基づいて所要の施策を講じていくこととしている。
 @低燃費車の技術開発の推進と自動車関係税制を環境負荷の低減に資するものとなるように見直す「自動車関係税制のグリーン化」による経済的誘導施策、A省エネルギーを意識したエコドライブの推進、B公共交通機関の利用及びその整備の促進、C高度道路交通システム(ITS)を活用したトラック輸送効率の向上等、物流の効率化の推進、の四項目の短・中期的な重点施策が指摘されている。
 また、炭素税の導入については、国民的なレベルでの議論の進展を期待するとし、さらに、運輸部門のみで税・賦課金等の経済的施策を導入するという考え方についても、選択肢の一つとして十分に念頭に置くことが必要であるとしている。
 長期的な視点から講じていくべき施策については、自動車の超低燃費化、ZEV(無排出ガス車)化、ITSの活用による道路交通の円滑化のほか、自動車に過度に依存しないモビリティ社会をめざす施策を講じていくことが不可欠であると指摘している。

2 その他の環境問題への対応
 地球温暖化問題以外にも、オゾン層破壊、流出油等による海洋汚染等の地球環境問題、各交通機関による大気汚染や騒音問題、廃棄物最終処分場の確保、放置艇問題など、地域的な環境問題への対応も迫られており、運輸省では、環境にやさしい交通体系の形成をめざして、これらへの対策を今後とも積極的に展開していく。

<第3節> 効率的な物流体系の構築

1 物流の効率化に向けて〜総合物流施策大綱の策定〜
 平成九年四月四日に閣議決定された「総合物流施策大綱」においては、三つの目標を達成するため、社会資本等の整備、規制緩和の推進及び物流システムの高度化に関する施策を重点的に講じることとしている(第2表参照)。

2 大競争時代に対応する社会資本等の整備
 国際的にみて整備の遅れがみられるようになった国際ハブ港湾・空港の着実な整備、道路、鉄道、港湾、空港、物流拠点の相互連携、物流のボトルネックとなっている区間・地点の解消を推進していく。
(1) 新しい時代に対応する港湾整備
 東京湾、伊勢湾、大阪湾及び北部九州の中枢国際港湾において、大水深(水深十五メートル級)・高規格の国際海上コンテナターミナルを早急に整備するほか、中枢国際港湾を補完する全国八地域の中核国際港湾において、国際海上コンテナターミナルの拠点的整備を推進するとともに、港湾諸手続の簡素化・情報化等、ソフト面の施策を講じる。
 また、内航海運については、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの整備を推進する。
(2) 急増する航空貨物への対応
 空港整備については、大都市圏における拠点空港の整備を最優先課題としているが、急増する航空貨物の需要に対応し、新東京国際空港、関西国際空港等における貨物取扱施設についても、着実な整備を行う。
(3) 環境にやさしい鉄道貨物輸送の見直し
 荷主にとって利用しやすい列車の運行を可能にし、鉄道貨物の利用を促進するため、鉄道インフラの整備を推進する必要があり、現在、東海道線の貨物輸送力増強に対して支援を行っている。
(4) 物流拠点の整備
 倉庫、トラックターミナル、物流高度化基盤施設等の整備や、流通業務市街地の整備を促進している。しかし、用地取得の困難等による物流拠点の不足等の問題が生じており、また、物流事業者が物流拠点を活用して環境負荷の低減をも含めて物流効率化を促進することが、昨今特に期待されている。このため、総合物流施策大綱を踏まえ、民間事業者の拠り所とするために、平成九年度中に、物流拠点の整備指針を策定する。
(5) 大交流時代を支える輸入促進への対応
 中枢国際港湾の大水深コンテナターミナルや大都市圏の拠点空港等の整備に併せて、輸入促進地域(FAZ)での輸入促進に寄与する事業に対する支援措置を講じている。
 さらに、国際空港周辺、中枢・中核国際港湾、輸入促進地域等における総合輸入ターミナル等の整備、輸入拡大に対応する臨港倉庫等の整備の促進を図っている。

3 物流サービスの向上のために〜規制緩和の推進〜
 物流分野の規制緩和については、ビジネスチャンスの拡大と事業者間の健全な競争を促進して物流サービスの向上を図るため、市場への参入の容易化や、運賃・料金の弾力化等を図っていく必要がある。
 トラック事業においては、平成十二年度までにいわゆる経済ブロック単位で拡大営業区域を設定するとともに、最低車両台数を全国一律五台となるように段階的に引き下げる。
 貨物鉄道事業については、国鉄改革の枠組みの中で、JR貨物の完全民営化等、経営の改善が図られた段階で需給調整規制を廃止し、運賃は、その廃止に併せて届出制に移行する。
 内航海運の船腹調整事業について、モーダルシフトの担い手となるコンテナ船及びRORO船は平成十年度末までに対象外とし、その他の船舶については、荷主の理解と協力を得て、四年間を目途に所要の環境整備に努め、中小零細事業者にも配慮しながら、同事業への依存の解消を検討していく。
 さらに、港湾運送事業について、需給調整規制の廃止を含む見直しにつき、平成九年度における行政改革委員会の監視活動及びその結論を踏まえて、適切に措置する。

4 新しい時代に向かって〜物流システム高度化への取組み〜
(1) 物流における輸送分担の適正化〜モーダルシフトの推進〜
 二酸化炭素による地球温暖化問題等に対処するため、長距離幹線輸送においては、輸送効率の点で優れた海運・鉄道へのモーダルシフトを推進する必要があり、各種施策を講じている。
(2) 複合一貫輸送の推進
 多様な輸送モード間の円滑な連携を図り、輸送モードの特性に応じて適切な役割分担がなされる交通体系を構築するため、港湾、貨物駅へのアクセス道路の整備といったハード面の施策のほか、ソフト面の施策として、一貫パレチゼーションを推進していく必要がある。
(3) 地域間物流の効率化〜幹線共同運行の推進〜
 地域間における物流の効率化への取組みの一つとして、平成六年十一月から開始された幹線共同運行は、トラック輸送の効率化に大きな効果があることから、実施区間の拡大と事業者の参加を促すことにより推進していく。
(4) 効率的な都市内物流の構築
 輸送効率が低い場合が多い自家用トラックから営業用トラックへの利用転換を推進するとともに、トラック一台当たりの積載効率を高めるための共同集配を推進している。
 共同集配については、福岡天神地区等、各地で取組みが進められている。
(5) 高度情報通信社会の到来と物流分野での取組み
 (ア) 円滑な情報交換システムの構築〜物流EDIの推進〜
 物流分野におけるEDI(電子データ交換)の導入を促進するため、政府及び民間の双方が参画した「物流EDI推進機構」等において、環境整備に取り組んでいる。
 (イ) 新時代のトラック輸送システム
 トラック輸送の効率化を図るため、情報化に向けた施策に精力的に取り組んでおり、輸送の効率性を高めることができる求車・求貨情報システムの開発を行ってきた。
 また、高度道路交通システム(ITS)の活用によるトラック輸送の情報化について、関係省庁と連携して調査研究を進めている。
 (ウ) 港湾物流における情報化の取組み
 政府としては、平成十一年度までを目途に、外国為替及び外国貿易管理法に基づく輸出入許可及び承認の手続と、主要港湾及び国際空港における出入港、検疫等の行政手続をEDI化して、関税法に基づく輸出入許可の手続等を処理する既存の通関情報処理システム等との連携を図ることとしている。
 運輸省では、港湾管理者及び港長に関する申請手続のファクシミリ受付を一部の港で開始するなど、手続の簡素化に取り組んでおり、平成八年度からは、国内主要八大港の港湾管理者と共同で、港湾管理者の業務に係る各種申請書等について、EDI化に向けた具体的な検討を進めている。
 海上保安庁では、港長に対する停泊場所指定願等の申請書については、統一様式による申請を、また、係留施設使用届については、複数の船舶に係る届出を一括して行うことを平成八年十二月から可能とした。また、入出港手続のEDI化に向け、調査、検討中である。

<第3章> 国鉄改革の総仕上げに向けて〜国鉄長期債務の本格的処理〜

<第1節> 国鉄の破綻と国鉄改革の実施

1 国鉄の破綻
 昭和三十九年度に単年度赤字を計上して以来、国鉄の収支状況は年々悪化し、六十一年度末の繰越欠損金は十五兆五千億円に、長期債務残高は二十五兆一千億円に上った。

2 国鉄改革の目的
 国鉄の鉄道事業は、我が国経済の発展、国民生活の向上、地域社会の維持発展等を支え、広範な国民がその恩恵を享受してきた。しかし、前記のような経営破綻の状況を放置すれば、鉄道の運営に支障を生じるとともに、鉄道事業による毎年の巨額の赤字によって、将来計り知れない国民負担の累増を招く状況にあった。国鉄改革はこのような事態に対処するため、国鉄事業を分割・民営化し、我が国の鉄道を再生することとしたものである。

3 国鉄改革の基本的な考え方
 国鉄事業の抜本的な改善策を策定することを主な任務として発足した国鉄再建監理委員会が、昭和六十年七月に内閣総理大臣に提出した「国鉄改革に関する意見」を受けて国鉄改革が実施された。その意見の主な内容は、次のとおりである。
(1) 国鉄事業を再生する必要性
 鉄道は、今後とも、旅客については中距離都市間旅客輸送等の分野で、貨物は大量輸送等の分野で、相応の役割を果たしていくことが見込まれる。このため、破綻に瀕している国鉄を交通市場の中での激しい競争に耐え得る事業体に変革し、国鉄事業を再生する必要がある。
(2) 分割・民営化の必要性
 (ア) 公社制度の下では、外部干渉を避け難い体質を持っていること等の問題があるので、公社制度を民営化する必要がある。
 (イ) 全国一元的組織では、適切な経営管理が行われ難いこと等の問題があるので、適切な事業単位に分割することが不可欠である。貨物部門は、旅客部門から分離し、独立した事業体とする。
(3) 長期債務の処理の考え方
 新事業体は、当面収支が均衡し、かつ、将来にわたって事業を健全に経営できる限度の長期債務を負担する。それ以外の長期債務は、「旧国鉄」に残置し、国鉄用地を長期債務の処理財源に充てるなどの可能な限りの手段を尽くした上でなお残る債務は、何らかの形で国民に負担を求めざるを得ない。国は、長期的観点に立って、総合的かつ全国民的な処理方策を検討・確立すべきである。

4 国鉄改革の実施
 国鉄再建監理委員会の意見を受けて、国鉄改革関連八法が成立し、昭和六十二年四月一日に分割・民営化が実施された。

<第2節> 国鉄改革時の国鉄長期債務の内容及びその処理の考え方

1 国鉄改革時の国鉄長期債務の内容
 国鉄改革が実施された時点において、処理しなければならない国鉄長期債務は、総額三十七兆一千億円に上った。

2 国鉄改革時の国鉄長期債務の処理の考え方
 JR等の新事業体は十一兆六千億円の長期債務を承継し、残る二十五兆五千億円は国鉄の移行体である日本国有鉄道清算事業団(以下「清算事業団」という。)が処理することとなった。
 清算事業団に帰属した長期債務の処理については、昭和六十一年一月及び六十三年一月の閣議決定において、土地処分収入等の自主財源を充ててもなお残る債務等については、最終的には国において処理することとされ、その本格的な処理のために必要な「新たな財源・措置」については、土地の処分等の見通しのおおよそつくと考えられる段階で、歳入・歳出の全般的見直しと併せて検討、決定することとされた。

<第3節> 国鉄改革後の経緯

1 鉄道事業の推移と課題
 JR各社は輸送量がおおむね順調に増加し、経営状況は好転している。
 JR東日本、JR東海及びJR西日本は、それぞれ株式の上場を果たし、完全民営化の実現に向けて着実に歩を進めている。
 JR北海道、JR四国及びJR九州は、厳しい経営状況に直面しているが、今後、各社において徹底した合理化努力を尽くすことにより、平成十三年度までには、株式の上場が可能となる経営状況に達することが期待される。
 JR貨物は、完全民営化の実現という最終目標の実現について、目途が立たない状況にある。今後、徹底した合理化等により、経営改善の効果を達成して、できるだけ早期に完全民営化を実現することが強く期待される。

2 清算事業団による債務処理の状況
 清算事業団では、土地、株式等の資産の処分により、長期債務の国民負担の軽減に努めた。
・ 旧国鉄から承継した土地のうち、平成八年度までに六千八百六十三ヘクタールを売却し、五兆六千億円の収入をあげた。
・ JR東日本(平成五年度)、JR西日本(八年度)、JR東海(九年度)の株式を売却し、二兆円の収入をあげた。
・ 帝都高速度交通営団に対する出資持ち分のうち、旧国鉄が保有していた分については、平成元年度までに一部を三百九十三億円の債務の償還に充て、残りを二年度に九千三百七十二億円の債務の国への承継と引き換えに清算事業団から国に移した。
 この十年間に清算事業団が負担した利子等の支出は十四兆六千億円に及んだのに対し、資産処分等による収入は十二兆九千億円にとどまった。
 その理由としては、第一に地価高騰問題への対応による土地売却の凍結があげられるが、その当時の社会経済情勢からみれば、やむを得ない措置であったと考えられる。また、バブルの崩壊に伴う不動産・株式市況の低迷等により、土地及びJR株式の売却が伸び悩んだことがある。
 さらに支出面では、鉄道共済年金の特別負担及び厚生年金への統合に伴う移換金の債務が新たに生じた。
 このような事情から、平成九年度首には国鉄長期債務の残高は、二十八兆一千億円に増加した(第5図参照)。

<第4節> 国鉄長期債務の本格的処理に向けて

1 国鉄長期債務の現状及び将来見通し
 国鉄長期債務は、平成九年度に予算どおりの収入が確保できた場合、十年度首には二十七兆八千億円になる予定である。
 これに対し、清算事業団の資産処分については、総収入額は四兆五千億円〜五兆五千億円にとどまるものと見込まれており、「清算事業団が自主財源によって国鉄長期債務の償還を行う」という現行のスキームは破綻しているといわざるを得ない状況にあり、国鉄長期債務の本格的処理は、早急に実施することが必要であり、もはや先送りの許されない課題である。

2 国鉄長期債務の本格的処理に向けて
 政府では、平成八年十二月の閣議において、十年度から国鉄長期債務の本格的処理を実施することとし、その具体的処理方策について、九年中に成案を得ることを決定した。さらに、九年六月の閣議決定においても、財政構造改革を実現していくためには、本問題を本格的に処理することが不可欠であるとされた。各党においても、検討の場が設けられ、精力的な検討が行われている。
 このような検討を踏まえ、運輸省は国鉄長期債務を国の債務として明確に位置づけ、国においてその本格的処理を実施するとの基本的な考えに基づいて、平成十年度から国鉄長期債務の本格的処理を実施するための十年度予算要求を行った。
 これまで、国鉄長期債務の本格的処理のために検討すべき具体的処理方策として、様々なものが検討されたが、平成九年六月の閣議決定においても、将来世代へ負担を先送りするという形での安易な処理を回避するため、国民の理解と納得が得られるよう、これらを含むあらゆる方策について個別具体的に検討を行い、九年中に成案を得ることとされた。
 このような見地から、平成九年十月現在、政府・与党で構成される財政構造改革会議に設置されている企画委員会を中心に検討が進められているところであり、九年末までに国民の理解が得られる最終的な処理案を策定することとしている。

3 清算事業団職員の再就職対策等について
 清算事業団については、平成七年二月の閣議決定において、長期債務の処理、資産処分等の主な業務が終了した時点で、職員の雇用の安定・確保を図った上で、整理することとされている。
 定員については、平成十年度末までに半減を図るとともに、支社の統廃合を図ることとしている。職員の再就職については、関係各方面の協力も得ながら、全力を挙げて取り組んでいる。

4 平成九年度に講ずる緊急特別措置
 平成九年度においても、新たな借入れに伴うさらなる利子負担等による債務の累増を防止するため、九年度において見込まれる借入額(約三兆円)に相当する額の国鉄清算事業団の有利子債務を無利子化し、今後の利子負担を軽減する等の措置を講ずることとした。

<第2部> 運輸の動き


<第1章> 平成八年度の運輸の概況と最近の動向

 平成八年度の国内旅客輸送量は、八百四十四億人(対前年度比〇・三%増)、一兆四千八十六億人キロ(同比一・五%増)となった。輸送機関別にみると、鉄道、自動車、航空は増加し、旅客船は減少した。
 平成八年度の国内貨物輸送量は、六十七億九千九百万トン(同比二・五%増)、五千七百三十一億九千六百万トンキロ(同比二・五%増)となった。
 輸送機関別にみると、自動車、航空は増加し、鉄道、内航海運は減少した。
 平成八年の国際旅客輸送量は、出国日本人数、訪日外客数ともに過去最高を更新した。
 平成八年の国際貨物輸送量は、我が国の海上貿易量がわずかながら減少に転じ、航空輸送量は増加を続けた。

<第2章> 運輸における地球環境問題等への取組み

<第1節> 油流出事故等による海洋汚染への対応

 平成九年一月の「ナホトカ号」及び七月の「ダイヤモンドグレース号」による油流出事故を踏まえ、今後の対策を検討するとともに、海洋汚染の監視取締り等の対策の推進・強化を図る。

<第2節> 地球環境問題への対応

 地球温暖化、オゾン層の破壊等の地球環境問題に対応するため、運輸政策審議会の場を通じて取りまとめた地球温暖化対応方策の推進・実施、地球温暖化やオゾン層に係る観測・監視体制の充実・強化等を推進している。

<第3節> 地域的環境問題への対応

 自動車排出ガス等による大気汚染等の地域的な環境問題に対応するため、自動車の排出ガス規制・騒音対策、鉄道及び航空機の騒音対策等の個別の交通機関ごとの対策を行っている。

<第3章> 変貌する国際社会と運輸

<第1節> 国際運輸サービスの充実

 航空分野では、平成八年度に八か国との間で輸送力等を拡大し、二か国一地域との間で新規協定を締結したほか、海運分野では、「海運自由の原則」を基本とし、国際機関・二国間での海運政策調整を通じて自由化を図る等により、国際運輸サービスの充実に努めている。

<第2節> 国際的課題に対応した運輸行政の展開

 APEC(アジア太平洋経済協力)、東アジア運輸フォーラム等の各種運輸関連フォーラム、運輸ハイレベル協議等の多国間・二国間の政策調整・協議、及び日米航空協議、港運問題等の個別経済問題への対応を精力的に行うことで、国際的課題に対応した運輸行政を展開している。

<第3節> 国際社会への貢献

 技術協力や資金協力等の幅広い国際協力、マラッカ・シンガポール海峡での航行安全対策や、ばら積み貨物船の安全性の向上等の海上安全対策、共同研究・専門家交流等による国際科学技術協力を積極的に推進している。

<第4章> 観光レクリエーションの振興

<第1節> 国際観光交流の促進

 ウェルカムプラン21を受けた「外国人観光旅客の来訪地域の多様化の促進による国際観光の振興に関する法律」(平成九年六月施行)に基づいて、地方の観光地への誘客を通じた地域振興のための各種の施策を講じている。また、国際コンベンションの振興、二国間観光協議の定期開催等による国際交流の促進を図っている。

<第2節> 観光による地域の活性化

 国内観光の振興を通じた地域の活性化を図るため、国内観光促進協議会の設置、観光立県推進地方会議の開催、旅フェア'97の開催等による観光需要の喚起、観光資源の保護・活用を通じた観光の振興及び国際交流村、家族キャンプ村の整備等による魅力ある観光地づくりに取り組んでいる。

<第3節> 旅行・レクリエーションの振興

 「ゆとりある休暇」推進協議会の開催等により、充実した余暇活動を実現するための環境整備を図っている。また、一層の消費者保護を図るため、改正旅行業法等を平成八年四月から施行している。また、海洋性レクリエーションとスカイレジャーの振興を図っている。

<第5章> 国民のニーズに応える鉄道輸送の展開

<第1節> 鉄道整備の推進

 整備新幹線については、平成八年十二月の政府与党合意において定められた新しい財源スキーム等に基づいて、既着工区間の整備を着実に推進するとともに、新規着工区間については、政府・与党検討委員会の結論を踏まえ、適切に対処していく。
 また、都市間移動の高速化や都市圏内の混雑緩和のため、在来線の高速化、都市鉄道の整備、地方鉄道の近代化等に対する補助等を行っている。なお、公共事業については、投資の重点化・効率化、各種公共工事の連携等に取り組むこととしている。

<第2節> 鉄道輸送サービスの充実

 経営効率化の促進等に資する新たな運賃制度の導入、利便性の向上に資するエレベーター等の駅施設の整備に対する補助等を行っている。
 また、安全確保のための踏切事故防止対策、事故の再発防止対策等を推進するとともに、安全で快適な車両の開発等のため、鉄道車両工業の体制整備に取り組んでいる。

<第6章> 人と地球にやさしい車社会の形成へ向けて

<第1節> 環境と調和のとれた安全な車社会の形成に向けて

 低公害車の普及、排出ガス・騒音規制、自動車NOx法に基づく規制等により、環境対策の拡充を図るほか、先進安全自動車(ASV)の研究開発や、自動車安全情報の提供等による自動車の安全対策を推進する。

<第2節> 利用者ニーズに対応した車社会の形成

 バス、タクシー、トラック輸送等に係る諸課題に取り組むとともに、高度化・多様化する利用者ニーズに対応するため、規制緩和への取組みやバス活性化総合対策補助制度(オムニバスタウン構想等)等の助成措置の充実を図る。

<第3節> 高度道路交通システムの推進に向けて

 道路交通の安全性、輸送効率等の向上や渋滞の軽減等、交通の円滑化に資するITS(高度道路交通システム)に係る取組みを推進する。

<第7章> 海上交通、造船、船員対策の新たな展開

<第1節> 活力と魅力ある海上交通に向けての取組み

 近隣アジア諸国の海運企業の躍進等により、外航海運をめぐる競争環境が厳しさを増すなか、我が国外航海運の国際競争力の強化を図り、日本籍船、日本人船員の確保を図っていくことに積極的に取り組んでいる。
 また、国内海上輸送及び港湾運送については、需給調整規制の見直し等の規制緩和の推進により、事業の活性化を図ることとしている。

<第2節> 魅力ある造船・舶用工業をめざして

 我が国の造船・舶用工業を取り巻く急激な環境変化に対応し、存在意義のある健全な「魅力ある造船・舶用工業」として存在していくために、国際競争力の一層の維持向上、経営体制の強化等の課題に対応していく。

<第3節> 船員対策の新たな展開

 日本籍船及び日本人船員を確保するため、国際船舶制度の拡充に向けた施策を講じるとともに、高齢化の著しい内航海運における若年船員確保対策、本州・四国連絡橋の供用等に伴う離職船員対策等を推進している。
 また、船員教育体制の整備充実、船員の労働時間の短縮及び船員災害防止対策の推進等を図っている。

<第8章> 島国日本の礎となる港湾

<第1節> 物流コストの削減に資する港湾整備の推進

 経済構造改革など港湾を取り巻く最近の情勢を踏まえた上で、国際競争力を有し、物流コストの削減に資する効率的な物流ネットワークの形成をめざした港湾の効率的・効果的整備に取り組んでいる。

<第2節> 港湾の効率的な利用の促進

 入出港手続の簡素化・情報化、港湾施設使用料の低減など、利用者の立場に立った利用しやすい港湾の実現に向けて取り組んでいる。

<第3節> 活力を支え安心できる空間の創造

 生活の質の向上に資する活力と、にぎわいのある港湾空間の形成をめざした取組みを行っている。
 また、阪神・淡路大震災から二年を経た神戸港は着実に復旧しており、引き続き地震に強い港湾の実施に向けて取り組む。
 さらに、新しい時代に対応した臨港地区の指定・変更を円滑に行うための取組みを行っている。

<第4節> 安全で親しみやすい海辺の生活空間づくり

 国民生活の安全と豊かさの実現をめざし、安全な地域づくりに対応した海岸の整備や、効率的・効果的な海岸事業の実施に取り組んでいる。

<第9章> 航空輸送サービスの充実に向けた取組み

<第1節> 空港整備等の推進

 これからも増大する航空需要に対応するため、投資の重点化・効率化等に取り組み、第七次空港整備五箇年計画に基づいて、成田空港、羽田空港、関西国際空港等の拠点空港の整備を最優先課題として推進するとともに、一般空港、航空保安施設についても整備を行っている。

<第2節> 航空輸送サービスの充実

 国内航空旅客数は約十年間に約二倍に増え、平成八年度には八千二百十三万人になっている。このように国民の足となった航空の利用者利便の向上を第一義的な目標とし、また利用者保護の観点に立った上で、現在の規制緩和や国際化等の時代の潮流に対応した航空行政の実現に向けた努力がなされている。

<第10章> 運輸における安全対策、技術開発の推進

<第1節> 交通安全対策の推進

 交通安全の確保は運輸行政の基本である。毎年度作成する運輸省交通安全業務計画に基づいて、交通事故防止対策を中心として、陸海空にわたり具体的施策を推進している。

<第2節> 災害対策の推進

 運輸省、海上保安庁及び気象庁は、災害対策基本法に定める指定行政機関として、災害防止のための予報体制の強化、輸送施設及び交通機関の災害予防対策、国土保全対策、災害復旧事業を総合的かつ計画的に推進している。

<第3節> 技術開発の推進

 人と物の円滑なモビリティを確保する上で、技術開発の果たす役割には大きなものがある。運輸技術審議会答申を基本に、科学技術基本計画の趣旨も踏まえる等、時代に対応した運輸技術開発を推進している。

<第4節> 情報化の推進

 消費者の利便や安全性の向上、経営の効率化等の観点から、運輸分野におけるEDI(電子データ交換)やICカードシステムの導入、気象情報サービスの高度化等を推進するとともに、運輸省行政情報ネットワークシステム(MOT winks)の整備を行うなど、運輸行政の情報化を推進している。


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賃金、労働時間、雇用の動き


毎月勤労統計調査 平成九年九月分結果速報


労 働 省


 「毎月勤労統計調査」平成九年九月分結果の主な特徴点は次のとおりである。
◇賃金の動き
 九月の規模五人以上事業所の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は二十九万二千八百四円、前年同月比一・一%増(規模三十人以上では三十二万五百七十五円、前年同月比一・四%増)であった。
 現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十八万九千二十一円、前年同月比一・五%増(同三十一万七千百四十円、一・六%増)であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十七万二百五十八円、前年同月比一・三%増(同二十九万一千九百六十一円、一・五%増)で、所定外給与は一万八千七百六十三円、前年同月比一・九%増(同二万五千百七十九円、二・九%増)となっている。
 また、特別に支払われた給与は三千七百八十三円、前年同月比一一・七%減(同三千四百三十五円、一五・八%減)となっている。
 実質賃金は、一・三%減(同一・〇%減)であった。
 産業別にきまって支給する給与の動きを前年同月比によってみると、不動産業四・〇%増(同二・二%増)、サービス業一・八%増(同一・九%増)、製造業一・六%増(同一・五%増)、卸売・小売業、飲食店一・三%増(同三・五%増)、建設業一・〇%増(同一・三%増)、電気・ガス・熱供給・水道業〇・七%増(同一・九%増)、金融・保険業〇・七%増(同〇・一%減)、運輸・通信業〇・三%増(同〇・二%増)、鉱業〇・三%減(同〇・二%増)であった。
◇労働時間の動き
 九月の規模五人以上事業所の調査産業計の常用労働者一人平均月間総実労働時間は一五七・九時間、前年同月比〇・七%減(規模三十人以上では一五七・九時間、前年同月比〇・一%減)であった。
 総実労働時間のうち、所定内労働時間は一四七・八時間、前年同月比〇・八%減(同一四五・七時間、〇・二%減)、所定外労働時間は一〇・一時間、前年と同水準(同一二・二時間、一・七%増)、季節変動調整済の前月比は一・二%減(同〇・三%減)であった。
 製造業の所定外労働時間は一四・一時間で、前年同月比二・九%増(同一五・九時間、四・〇%増)、季節変動調整済の前月比は一・五%減(同一・八%減)であった。
◇雇用の動き
 九月の規模五人以上事業所の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・九%増(規模三十人以上では〇・一%増)、季節変動調整済の前月比は〇・一%増(同〇・一%増)、常用労働者のうち一般労働者では〇・四%増(同〇・二%減)、パートタイム労働者では四・一%増(同二・五%増)であった。
 常用労働者全体の雇用の動きを産業別に前年同月比によってみると、建設業三・六%増(同〇・四%減)、サービス業二・一%増(同一・五%増)、運輸・通信業一・三%増(同一・三%増)、不動産業一・二%増(同〇・三%増)、卸売・小売業、飲食店〇・四%増(同前年と同水準)と、これらの産業は前年を上回っているが、製造業〇・四%減(同〇・六%減)、電気・ガス・熱供給・水道業一・七%減(同一・三%減)、金融・保険業三・一%減(同三・五%減)、鉱業七・八%減(同二二・五%減)と、前年同月を下回った。
 主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者一・〇%減(同一・一%減)、パートタイム労働者三・九%増(同四・九%増)、卸売・小売業、飲食店では一般労働者〇・一%減(同一・二%増)、パートタイム労働者一・八%増(同三・四%減)、サービス業では一般労働者一・二%増(同〇・六%増)、パートタイム労働者七・〇%増(同六・八%増)となっている。







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消費支出(全世帯)は実質二・六%の増加


―平成九年九月分家計収支―


総 務 庁


◇全世帯の家計
 全世帯の消費支出は、平成九年三月に消費税率引上げを控えた駆け込み需要もあって、大幅な実質増加となった。四月には前月の反動による需要の低下がみられたこともあって実質減少となり、五月、六月も引き続き実質減少となった後、七月は実質増加となり、八月は実質減少となったが、九月は実質増加となった(第1図第2図第1表参照)。
◇勤労者世帯の家計
 勤労者世帯の実収入は、平成八年八月以降、十か月連続の実質増加となった後、九年六月は実質減少、七月は大幅な実質増加となり、八月は実質減少となったが、九月は実質増加となった。
 消費支出は、平成九年四月以降、三か月連続の実質減少となった後、七月は実質増加となり、八月は実質減少となったが、九月は実質増加となった(第1図第2表参照)。
◇勤労者以外の世帯の家計
 勤労者以外の世帯の消費支出は二十七万四千九百四十四円で、名目五・四%、実質二・八%の増加
◇財・サービス区分別の消費支出
 財(商品)は実質〇・四%の減少
  <耐久財>実質四・一%の減少
  <半耐久財>実質三・七%の減少
  <非耐久財>実質一・〇%の増加
 サービスは実質五・一%の増加





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九月の雇用・失業の動向


―労働力調査 平成九年九月分結果の概要―


総 務 庁


◇就業状態別の動向

 平成九年九月の十五歳以上人口は、一億六百八十一万人(男子:五千百八十九万人、女子:五千四百九十二万人)となっている。
 これを就業状態別にみると、労働力人口(就業者と完全失業者の合計)は六千八百三十二万人、非労働力人口は三千八百三十七万人で、前年同月に比べそれぞれ四十万人(〇・六%)増、四十八万人(一・三%)増となっている。
 また、労働力人口のうち、就業者は六千五百九十六万人、完全失業者は二百三十六万人で、前年同月に比べそれぞれ二十七万人(〇・四%)増、十二万人(五・四%)増となっている。

◇就業者

 (一) 就業者
 就業者数は六千五百九十六万人で、前年同月に比べ二十七万人(〇・四%)増と、前月に引き続き増加し、増加幅は前月(四十八万人増)に比べ縮小している。男女別にみると、男子は三千八百九十万人、女子は二千七百六万人で、前年同月と比べると、男子は一万人(〇・〇%)の減少、女子は二十八万人(一・〇%)の増加となっている。
 (二) 従業上の地位
 就業者数を従業上の地位別にみると、雇用者は五千三百八十二万人、自営業主は七百九十六万人、家族従業者は三百九十八万人となっている。前年同月と比べると、雇用者は三十六万人(〇・七%)増と、前月に引き続き増加し、増加幅は前月(四十七万人増)に比べ縮小している。また、自営業主は一万人(〇・一%)の増加、家族従業者は十三万人(三・二%)の減少となっている。
 雇用者のうち、非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 ○非農林業雇用者…五千三百四十五万人で、三十六万人(〇・七%)増加
  ○常 雇…四千七百五十一万人で、十一万人(〇・二%)増加
  ○臨時雇…四百七十一万人で、十七万人(三・七%)増加
  ○日 雇…百二十三万人で、八万人(七・〇%)増加
 (三) 産 業
 主な産業別就業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 ○農林業…三百六十二万人で、二十二万人(五・七%)減少
 ○建設業…六百九十七万人で、二十七万人(四・〇%)増加
 ○製造業…一千四百五十万人で、三十七万人(二・五%)減少
 ○運輸・通信業…四百四万人で、三万人(〇・七%)増加
 ○卸売・小売業、飲食店…一千四百七十四万人で、八万人(〇・五%)増加
 ○サービス業…一千六百四十二万人で、四十六万人(二・九%)増加
 対前年同月増減をみると、建設業は前月(十九万人増)に比べ増加幅が拡大している。運輸・通信業及びサービス業は前月(それぞれ八万人増、四十八万人増)に比べ増加幅が縮小している。「卸売・小売業、飲食店」は六月以来三か月ぶりの増加となっている。一方、農林業及び製造業は前月(それぞれ二万人減、十七万人減)に比べ減少幅が拡大している。
 また、主な産業別雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 ○建設業…五百六十五万人で、九万人(一・六%)増加
 ○製造業…一千三百四万人で、三十五万人(二・六%)減少
 ○運輸・通信業…三百八十二万人で、二万人(〇・五%)増加
 ○卸売・小売業、飲食店…一千百七十九万人で、十一万人(〇・九%)増加
 ○サービス業…一千四百一万人で、四十九万人(三・六%)増加
 対前年同月増減をみると、建設業、運輸・通信業及びサービス業は前月(それぞれ十一万人増、八万人増、六十万人増)に比べ増加幅が縮小している。「卸売・小売業、飲食店」は三か月ぶりに増加となっている。一方、製造業は前月(十五万人減)に比べ減少幅が拡大している。
 (四) 従業者階級
 企業の従業者階級別非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 ○一〜二十九人規模…一千七百五十九万人で、十万人(〇・六%)減少
 ○三十〜四百九十九人規模…一千七百八十一万人で、三十三万人(一・九%)増加
 ○五百人以上規模…一千二百五十七万人で、九万人(〇・七%)増加
 (五) 就業時間
 非農林業の従業者(就業者から休業者を除いた者)一人当たりの平均週間就業時間は四三・四時間で、前年同月に比べ〇・一時間の減少となっている。
 このうち、非農林業雇用者についてみると、男子は四七・四時間、女子は三七・一時間で、前年同月に比べ男子は〇・一時間の減少、女子は〇・三時間の減少となっている。
 また、非農林業の従業者の総投下労働量は、延べ週間就業時間(平均週間就業時間×従業者総数)で二六・五六億時間となっており、前年同月に比べ〇・一一億時間(〇・四%)の増加となっている。
 (六) 転職希望者
 就業者(六千五百九十六万人)のうち、転職を希望している者(転職希望者)は五百六十六万人で、このうち実際に求職活動を行っている者は二百二十四万人となっており、前年同月に比べそれぞれ十一万人(二・〇%)増、三万人(一・四%)増となっている。
 また、就業者に占める転職希望者の割合(転職希望者比率)をみると、男子は八・四%、女子は八・八%で、前年同月に比べ男子は同率、女子は〇・二ポイントの上昇となっている。

◇完全失業者

 (一) 完全失業者数
 完全失業者数は二百三十六万人で、前年同月に比べ十二万人(五・四%)の増加となっている。男女別にみると、男子は百四十二万人、女子は九十四万人で、前年同月に比べ男子は十万人(七・六%)の増加、女子は二万人(二・二%)の増加となっている。
 また、求職理由別完全失業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 ○非自発的な離職による者…五十三万人で、十万人減少
 ○自発的な離職による者…百一万人で、八万人増加
 ○学卒未就職者…十万人で、前年同月と同数
 ○その他の者…六十一万人で、十五万人増加
 (二) 完全失業率(原数値)
 完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)は三・五%で、前年同月に比べ〇・二ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男子は三・五%、女子は三・四%で、前年同月に比べ男子は〇・二ポイントの上昇、女子は〇・一ポイントの上昇となっている。
 また、年齢階級別完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 〔男女計〕
 ○十五〜二十四歳……六・六%で、前年同月と同率
 ○二十五〜三十四歳…四・二%で、〇・四ポイント上昇
 ○三十五〜四十四歳…二・六%で、〇・三ポイント上昇
 ○四十五〜五十四歳…二・〇%で、前年同月と同率
 ○五十五〜六十四歳…四・二%で、〇・一ポイント上昇
 ○六十五歳以上………一・二%で、〇・二ポイント上昇
 〔男 子〕
 ○十五〜二十四歳……六・九%で、〇・一ポイント上昇
 ○二十五〜三十四歳…三・六%で、〇・四ポイント上昇
 ○三十五〜四十四歳…二・四%で、〇・三ポイント上昇
 ○四十五〜五十四歳…二・三%で、〇・三ポイント上昇
 ○五十五〜六十四歳…五・一%で、前年同月と同率
 ○六十五歳以上………二・〇%で、〇・七ポイント上昇
 〔女 子〕
 ○十五〜二十四歳……六・五%で、〇・一ポイント上昇
 ○二十五〜三十四歳…五・三%で、〇・四ポイント上昇
 ○三十五〜四十四歳…三・〇%で、〇・六ポイント上昇
 ○四十五〜五十四歳…一・七%で、〇・三ポイント低下
 ○五十五〜六十四歳…二・七%で、〇・二ポイント上昇
 ○六十五歳以上………〇・五%で、前年同月と同率
 (三) 完全失業率(季節調整値)
 季節調整値でみた完全失業率は三・四%で、前月と同率となっている。男女別にみると、男子は三・五%、女子は三・三%で、前月に比べ男子は〇・一ポイントの上昇、女子は〇・一ポイントの低下となっている。







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税金365日


法定調書の提出


国 税 庁


 給料、報酬、料金、利子、配当などの支払者は、支払先の住所、氏名、支払金額などを記載した書類(法定調書といいます。)を税務署に提出することになっています。
 この法定調書は、一年間の支払分を取りまとめて提出するもので、提出期限は利子、配当などの一部を除き、支払った年の翌年一月三十一日となっています。なお、本年分については、平成十年一月三十一日が土曜日のため、提出期限は平成十年二月二日(月)となります。
 提出された法定調書は、支払先ごとに名寄せ整理され、適正な課税を図るための重要な資料となりますので、記載誤りのない法定調書を期限に遅れないように提出してください。
 なお、税務署に提出する法定調書については、磁気テープで提出することができます。この場合、税務署長への承認申請等の手続が必要となりますが、特に、支店や工場等についても電算処理により法定調書を作成している場合には、本店等の所轄税務署に一括して磁気テープで提出することができます。
 以下、毎年多くの支払者の方々が提出している法定調書の主なものについて説明しましょう。
【給与所得の源泉徴収票と給与支払報告書】
 平成九年中に俸給、給料、賃金などの給与等を支払った場合には、支払者は「給与所得の源泉徴収票」を作成し、平成十年一月三十一日までにすべての受給者に交付するとともに、一定金額以上の受給者のものを税務署に提出することになっています。
 また、「給与所得の源泉徴収票」と同時に複写作成される「給与支払報告書」は、金額の多寡にかかわりなく、すべてのものを受給者の平成十年一月一日現在の住所地の市区町村に提出することになっています。
 なお、年の中途で退職した受給者の「給与所得の源泉徴収票」は、退職の日以後一か月以内に受給者に交付することになっていますから、ご注意ください。
 税務署に提出する「給与所得の源泉徴収票」は、次の範囲のものです。
1 年末調整をしたもの
(1) 法人の役員については、平成九年中の給与等の金額が百五十万円を超えるもの
(2) 弁護士や税理士などについては、平成九年中の給与等の金額が二百五十万円を超えるもの
(3) (1)及び(2)以外の方については、平成九年中の給与等の金額が五百万円を超えるもの
2 年末調整をしなかったもの
(1) 「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している場合
  平成九年中に退職した方、災害により被害を受けたため給与所得に対する源泉所得税徴収の猶予を受けた方、平成九年中の主たる給与等の収入金額が二千万円を超える方については、平成九年中の給与等の金額が二百五十万円を超えるもの
  ただし、法人の役員の場合には五十万円を超えるもの
(2) 「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出していない場合
  平成九年中の給与等の金額が五十万円を超えるもの
【報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書】
 平成九年中に、次のような報酬、料金等を支払った場合には、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成し、税務署に提出することになっています。
@ 外交員、集金人などの報酬、料金で、同一人に対する平成九年中の支払金額の合計が五十万円を超えるもの
A バー、キャバレーのホステスなどの報酬、料金で、同一人に対する平成九年中の支払金額の合計が五十万円を超えるもの
B 広告宣伝のための賞金で、同一人に対する平成九年中の支払金額の合計が五十万円を超えるもの
C 弁護士や税理士等に対する報酬、作家や画家に対する原稿料や画料、講演料等で、同一人に対する平成九年中の支払金額の合計が五万円を超えるもの、など
【不動産の使用料等の支払調書】
 平成九年中に、不動産の使用料等(不動産の賃借に伴って支払われる権利金、更新料、名義書換料等を含みます。)を支払った法人や、個人の不動産業者の方は、同一人に対する支払金額の合計が十五万円を超えるものについて、「不動産の使用料等の支払調書」を作成し、税務署に提出することになっています。
 なお、支払先が法人である場合には、権利金や更新料等の支払についてのみ支払調書を作成し提出すればよいことになっています。
【不動産等の譲受けの対価の支払調書】
 平成九年中に不動産等の譲受けの対価を支払った法人や、個人の不動産業者の方は、同一人に対する支払金額の合計が百万円を超えるものについて、「不動産等の譲受けの対価の支払調書」を作成し、税務署に提出することになっています。
【不動産等の売買又は貸付のあっせん手数料の支払調書】
 平成九年中に不動産等の売買又は貸付のあっせん手数料を支払った法人や、個人の不動産業者の方は、同一人に対する支払金額の合計が十五万円を超えるものについて、「不動産等の売買又は貸付のあっせん手数料の支払調書」を作成し、税務署に提出することになっています。
【支払調書について分からないときは】
 支払調書の作成や提出の仕方でお分かりにならない点がありましたら、お気軽に最寄りの税務相談室や税務署にお尋ねください。


 
    <12月24日号の主な予定>
 
 ▽障害者白書のあらまし……………総 理 府 

 ▽月例経済報告………………………経済企画庁 
 



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