<第1章> 障害のある人とスポーツ・レクリエーション
(1) 障害者スポーツ
ア 障害者スポーツの歴史
障害者スポーツの発展には、障害別に設立されたスポーツ組織が果たしてきた役割が大きい。世界で初めて設立された障害者スポーツの国際的な組織は、一九二四年の「国際ろう者スポーツ委員会」であり、この委員会により「世界ろう者競技大会」が、四年ごとに開催されるようになった。
その後、第二次世界大戦により多くの戦傷者が出たが、その人たちへのリハビリテーション訓練の一つとして積極的にスポーツが取り入れられ、急速に広がっていった。一九五二年には、車いすを使用する人を対象とする「国際ストークマンデビル競技連盟」が設立され、以降、現在のパラリンピック競技大会の前身となる「国際ストークマンデビル競技大会」が毎年開催されることとなった。
また、一九六二年に「国際身体障害者スポーツ組織」が、一九七八年に「国際脳性マヒ者スポーツ・レクリエーション協会」が、一九八〇年に「国際視覚障害者スポーツ協会」が、一九八六年に「国際知的障害者スポーツ協会」がそれぞれ設立された。
現在では、これらの障害別スポーツ組織が一九八九年に設立した「国際パラリンピック委員会」により、四年ごとにパラリンピック競技大会が開催されている。
なお、一九七四年に東アジアや南太平洋諸国・地域の身体障害者を対象とした競技連盟が設立され、「極東・南太平洋身体障害者スポーツ大会」がおおむね四年ごとに開催されるようになった。
競技別の国際大会としては、一九七八年から「アメリカ車いす選手権大会」が、また一九八一年の国際障害者年から「大分国際車いすマラソン大会」が毎年開催されるようになった。
イ 障害者スポーツの現状と役割
障害者スポーツは障害別競技団体が中心となって発展してきたが、最近では、「車いすバスケットボール連盟」や「国際ボッチャ連盟」など種目別の組織も設立されており、各組織はその種目の競技規則やパラリンピック競技大会への出場要件などを規定しているほか、定期的に国際大会を開催している。
障害者スポーツの役割は、当初より、障害のある人の体力の維持、増進、残存能力の向上や、障害のある人に対する理解を促すものとされてきたが、最近では、個々人がそれぞれの価値観をもって、その人の生活を豊かにするものとして捉えられるようになってきている。
(2) 我が国におけるスポーツ・レクリエーション
ア 身体障害者とスポーツ
我が国の身体障害者を対象としたスポーツは、昭和三十九年(一九六四年)に開催されたパラリンピック東京大会を契機に発展してきており、昭和四十年からは全国身体障害者スポーツ大会が、毎年、国民体育大会秋季大会の後に開催され、平成三年からは、標準記録により参加可能なレベルを示し、より競技性の高い大会と位置付けたジャパンパラリンピック競技大会が開催されるなど、現在では全国各地で様々なスポーツ大会が開催されている。
イ 精神薄弱者とスポーツ
精神薄弱者を対象としたスポーツは、昭和三十年代中頃から一部の地方公共団体で、施設間の交流大会として始まった。
平成四年からは、精神薄弱者に対する理解を深め、精神薄弱者の自立と社会参加の促進に寄与することを目的に、「全国精神薄弱者スポーツ大会(ゆうあいピック)」が開催されている。
また、現在では、すべての都道府県・指定都市において、精神薄弱者を対象としたスポーツ大会が開催されるようになった。
ウ 精神障害者とスポーツ
精神障害者を対象としたスポーツは、精神病院を中心に開催されてきたが、昭和四十年代頃から、地方公共団体が主催する大会が開かれるようになり、現在では、保健所、精神保健福祉センター、家族会連絡会、共同作業所連絡会などが協力して開催してきている。
エ 障害のある人とレクリエーション
レクリエーションとは、休養や娯楽によって精神的・肉体的に回復することに始まり、新たなもの、より高度なものに挑戦して、自己実現を果たし、自己開発・再創造へと発展していく種々の活動のこととされており、障害のある人にとって、その効果は極めて大きい。しかし、そのためには、障害のない人の関心が高まることも重要である。我が国においては、ゴルフ、スクーバダイビング、乗馬、パラグライダー、車いすダンス等に取り組んでいる。
また、障害のある人のレクリエーションを支援する施設には、身体障害者福祉センター(A型)や勤労身体障害者教養文化体育施設等があり、各種の講習会や教室などを開催している。
なお、全国身体障害者技能競技大会(アビリンピック)が、昭和四十七年から開催されているが、平成八年度からは、レクリエーションに関連した技術種目などの生活余暇技能種目をデモンストレーションとして取り入れており、平成九年度からは正式種目とすることとしている。
<第2章> パラリンピック競技大会
(1) パラリンピック競技大会の発祥と経緯
ア パラリンピックの発祥
イギリスのストークマンデビル病院脊髄損傷センターにおいて開催されていた対(つい)麻痺者のための競技会が、一九五二年には、オランダからの参加を得て「国際ストークマンデビル競技大会」に発展し、さらに、一九六〇年には、第十七回オリンピック競技大会(ローマ)後に、同じ競技施設を使用して開催された。この大会が第一回パラリンピック競技大会とされている。
なお、「パラリンピック」という名称は、第二回の東京大会の際に、脊髄損傷者を意味するパラプレジアとオリンピックを組み合わせた愛称として使用されたが、正式名称として使用されるようになった第八回ソウル大会(韓国)からは、「並行する、同等の」を意味するパラレルとオリンピックを組み合わせた言葉として、「もう一つのオリンピック」という意味で使用されている。
イ パラリンピック東京大会
昭和三十九年に東京で開催された第十八回オリンピック競技大会の直後に、同地で開催されたパラリンピック東京大会では、第一部国際大会(第十三回国際ストークマンデビル競技大会)と、第二部国内大会の二部編成で開催された。この第二部の国内大会が、現在の「全国身体障害者スポーツ大会」のもととなった。
ウ パラリンピック競技大会の開催経緯
パラリンピック競技大会への参加者は、第四回ハイデルベルグ大会(旧西ドイツ)までは対麻痺者に限られていたが、第五回トロント大会(カナダ)からは、対麻痺者に加えて視覚障害者と切断者が参加できるようになり、また、第六回アーヘン大会(オランダ)からは脳性マヒ者が、第七回ニューヨーク大会(アメリカ合衆国)からはその他の運動機能に障害のある者も参加できるようになった。知的障害者の種目が正式に行われたのは、第十回アトランタ大会(アメリカ合衆国)からである。
パラリンピック冬季競技大会は、一九七六年にスウェーデンのエーンシェルスヴィークで第一回大会が開催された。なお、第七回大会は、一九九八年三月に我が国の長野で開催される予定である。
(2) アトランタパラリンピック競技大会における活躍
一九九六年八月にアトランタパラリンピック競技大会が開催された。我が国からは、アーチェリー、陸上競技、バスケットボール、自転車、視覚障害者柔道、パワーリフティング、水泳、卓球、車いすテニス、ヨットの十競技に八十一名の選手が出場し、金メダル十四個、銀メダル十個、銅メダル十三個を獲得した。また、金メダリストには天皇陛下より初めて銀杯を賜った。
(3) 長野パラリンピック冬季競技大会に向けて
長野パラリンピック冬季競技大会は、アジアで初めての冬季大会であり、平成十年三月五日(木)から三月十四日(土)までの十日間、長野オリンピック冬季競技大会の直後に、同じ競技会場等を使用して開催される。
大会で行われる競技種目は、アルペンスキー、クロスカントリースキー、バイアスロン、アイススレッジスピードレース、アイススレッジホッケーであり、冬季パラリンピック史上初めて、知的障害者の競技(クロスカントリースキー)が正式種目として実施される。
大会の一年前となる平成九年二月に「国際障害者クロスカントリースキー・バイアスロン競技大会」、三月に「国際アイススレッジ競技大会」を開催し、世界レベルの選手たちのスピードと技術を多くの人々が観戦し、障害者スポーツのレベルの高さが再確認され、長野パラリンピック冬季競技大会の開催気運の盛り上げが図られた。
大会に向けて、平成七年度から(財)日本身体障害者スポーツ協会において、選手の育成・強化を実施している。さらに、平成八年度からは、(社福)全日本手をつなぐ育成会において、知的障害のある選手の育成・強化を実施している。
<第1章> 相互の理解と交流(施策を推進する上で前提となる「心の壁」の除去のための啓発広報等)
(1) 障害のある人に対する理解を深めるための啓発広報
「障害者の日」「人権週間」「障害者雇用促進月間」「障害者週間」等を設定して各種の行事を実施するとともに、「障害者の日」を中心にテレビ、新聞等のマスメディアを活用した啓発広報等を行っている。また、「障害者の日・記念の集い」や、政府が実施している施策の進捗状況についての広報も実施してきている。
学校教育においては、障害のある子供に対する理解と認識を深めるため、指定校による実践研究、教員等を対象とした講習会の開催等を行うとともに、ボランティア活動を推進するため、各種事業の支援・推進を図っており、小・中・高等学校の教員等で構成する研究協議会の開催等も実施した。
また、国民のボランティア活動に対する理解と参加を促進し、全国的な啓発広報を行うため、全国からボランティア活動に関心のある人々が集まり、情報交換や交流を図る「全国ボランティアフェスティバル」を実施した。
(2) 我が国の国際的地位にふさわしい国際協力
我が国は、国際社会の一員として、障害のある人に対する各施策分野において、我が国の国際的地位にふさわしい国際協力に努める必要がある。
平成八年度には、インドネシアにおいて無償資金協力として、障害者職業リハビリテーションセンターの建設等の協力を行っているほか、草の根無償資金協力として、ソロモンに対する身体障害者のための車いすの供与等、六十四件の援助を行った。
また、障害者関連分野において、国際協力事業団(JICA)を通じての研修員の受入れや、青年海外協力隊員及び専門家の派遣等を行っている。
その他、NGOに関しては、平成八年度に九か国において十二団体、十四事業の障害者関連事業に対して補助金を交付した。
<第2章> 社会へ向けた自立の基盤づくり(障害のある人が社会的に自立するために必要な教育・育成、雇用・就業等)
(1) 障害の特性に応じた教育・育成施策
障害のある子供に対する教育施策として、近年の児童生徒における障害の重度・重複化、多様化に対応するため、協力者会議を設けて検討を重ね、高等部の拡充整備と訪問教育の実施、交流教育及び早期教育相談の充実について報告をまとめた。
また、大学入試センターにおいては、点字・拡大文字による出題、筆跡を触って確認できるレーズライターによる解答、チェック解答、試験時間の延長、代筆解答などの措置を講じた。
さらに、公民館、図書館等の社会教育施設にスロープ、エレベーター等の整備を図った。
障害のある児童に対する育成施策としては、児童福祉施設での指導訓練のほか、心身障害児通園(デイサービス)事業、短期入所生活介護(ショートステイ)事業、訪問介護(ホームヘルプ)サービス事業の充実、児童相談所、保健所等における相談・指導を実施した。
また、心身障害児総合通園センターの整備、心身障害児通園施設機能充実試行的事業、重症心身障害児(者)通園事業、強度行動障害特別処遇事業等を実施するとともに、障害の予防に関し十三課題、療育に関し七課題の研究を実施した。
(2) 障害者の職業的自立を図るための雇用・就業施策
「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づいて、民間企業、国、地方公共団体は、一定の割合以上、身体障害者を雇用しなければならない。また、雇用されている精神薄弱者については、実際の雇用率を算定するに当たり、身体障害者と同様にカウントできることとされている。
平成八年六月一日現在において、身体障害者雇用率一・六%が適用される一般の民間企業の雇用者数は二十四万七千九百八十二人、実雇用率一・四七%(前年一・四五%)となっている。また、雇用率二・〇%が適用される国、地方公共団体の非現業的機関の雇用者数は四万二千九人、実雇用率二・〇一%(前年二・〇〇%)となっている。
法定雇用率未達成の企業等に対しては、雇用率達成指導、適正実施の勧告を行い、改善のみられなかった企業には特別指導を実施した。また、法定雇用率を超えて身体障害者を雇用している企業に対しては、調整金、報奨金を支給するとともに、障害者を雇用する事業主に対する支援措置として、作業設備の改善等に対する各種助成金の支給、雇用促進融資、税制上の優遇措置等を講じている。
なお、雇用されている重度身体障害者については、雇用率制度上の特例(ダブルカウント)措置を講じており、一般雇用が困難な者については、授産施設等の整備を行った。
(3) 障害のある人の生活を豊かにするためのスポーツ、レクリエーション及び文化活動の振興
障害のある人の自立と社会参加を促進し、生活を豊かにする上で、スポーツや文化活動を楽しむことができる機会を提供することは重要であり、全国身体障害者スポーツ大会、ジャパンパラリンピック競技大会、全国ろうあ者体育大会、大分国際車いすマラソン大会等が開催された。また、スポーツ団体の育成支援のほか、スポーツ振興基金において、団体のスポーツ事業に対する支援を行っている。
「長野パラリンピック冬季競技大会」については、開催のための準備を(財)長野パラリンピック冬季競技大会組織委員会で進めており、(財)日本身体障害者スポーツ協会が行う選手の育成・強化に対して支援を行っている。また、今大会から知的障害者の正式種目となるクロスカントリースキーの選手を育成・強化するため、(社福)全日本手をつなぐ育成会に対して支援を行っている。
一方、障害のある人にとってのレクリエーションや文化活動は、全国各地で様々な活動が行われており、コンサートや演劇等も盛んに行われるようになってきている。
<第3章> 日々の暮らしの基盤づくり(障害のある人が日常生活の質を確保するために必要な保健・医療、福祉等)
(1) 障害の予防・早期発見・早期治療等のための保健・医療施策
障害の原因、予防・早期発見・治療及び療育に関する研究、検査、医療、指導等を実施した。
特に、医療・リハビリテーション医療の充実は、障害の軽減を図り、障害のある人の自立を促進するために不可欠であることから、国立大学附属病院においてはリハビリテーション部等の整備、国立療養所では進行性筋萎縮症及び重症心身障害児の入浴治療を行った。また、身体障害を軽減もしくは除去するための更生医療及び育成医療、補装具の給付等を行った。
さらに、精神保健福祉施策としては、在宅の精神障害者の生活指導等を行う精神科デイケア事業及び精神科ナイトケア事業等を実施した。精神保健福祉センターにおいては、精神保健福祉に関する相談指導や心の健康づくり等の事業を実施した。
なお、精神保健福祉士(PSW)法案、言語聴覚士(ST)法案を国会に提出することとしている。
(2) 障害のある人の生活の質の向上のための福祉施策
ア 生活安定のための施策
障害のある人に対する所得保障としては、障害基礎年金、障害厚生(共済)年金の制度と、障害による特別の負担に着目し、その負担の軽減を図るために支給される各種手当制度があり、毎年物価の上昇に合わせて支給額の改定を行う(物価スライド)ほか、少なくとも五年に一度行われる財政再計算の時に、生活水準の向上や賃金の上昇に応じて支給額の改善を行っている。
イ 福祉サービス
介護に当たる家族の介護負担を軽減するとともに、障害のある人の自立した生活を支援することが重要であり、訪問介護員の派遣、短期入所生活介護(ショートステイ)事業等を実施している。
訪問介護(ホームヘルプ)サービス事業については、平成八年度以降は障害者プランに基づいて、新ゴールドプランに上乗せして整備している。
また、重度の身体障害者が、地域の中で日常生活を自主的に営むことができるための身体障害者自立支援事業、精神薄弱者のための世話人付き共同生活住宅(グループホーム)の増設を図った。
日帰り介護(デイサービス)事業については、平成六年度から単独型施設に対する加算制度を導入するとともに、平成八年度からは一日の利用定員を八人以上に引き下げた。
また、在宅の障害のある人に対し、在宅福祉サービスの利用援助、社会資源の活用、障害当事者同士の相談支援であるピアカウンセリング等を総合的に実施するため、新たに「市町村障害者生活支援事業」を創設した。
さらに平成八年度には、地域で生活する精神障害者の日常生活の支援や、相談への対応、地域交流活動を実施するため、「精神障害者地域生活支援事業」を創設した。
施設サービスについては、施設が蓄えてきた処遇の知識及び経験あるいは施設の持っている様々な機能を、地域で生活している障害のある人が利用できるように支援するための事業を行った。
さらに、福祉分野における人材確保を図るとともに、平成七年五月には「精神保健法」を改正し、精神障害者保健福祉手帳制度を創設したほか、精神障害者社会復帰施設や各種の社会復帰促進事業等の充実を図り、今後の施策推進の法的枠組みを確立した。
ウ 福祉機器の研究開発・普及、産業界の取組の推進
国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所、通商産業省工業技術院傘下の各研究所では、医療分野、福祉分野の各種の研究開発を実施しており、(財)テクノエイド協会でも、民間事業者等が行う研究開発に対して助成を行っている。
また、福祉機器の標準化のための研究、福祉用具評価基盤の整備、福祉用具の普及に携わる専門職員の養成及び確保を実施した。
なお、福祉用具の公的給付として、補装具と日常生活用具の給付の対象品目に、新たにレバー駆動型車いす及び移動用リフト並びに歩行支援用具を取り入れた。
エ 情報通信機器・システムの研究開発・普及等
障害のある人の社会活動への参加を促進し、高度な情報通信基盤を活用した、豊かで自立した暮らしが可能となるようにしていくため、国立研究機関等における研究開発体制の整備及び研究開発の推進を図るとともに、民間事業者等が行う研究開発に対する支援を実施した。
また、平成八年度には「高齢者・障害者の情報通信の利活用の推進に関する調査研究会」を開催し、インターネットの普及がもたらす格差の是正、障害者・高齢者のネットワークへの参加促進などに向けた様々な提言がなされたが、今後はその実現に向けて種々の施策を推進することとしている。
なお、平成七年に公表された「障害者等情報処理機器アクセシビリティ指針」の普及と、指針に準拠した機器の普及啓発を目的として、障害のある人や地方行政機関の担当者等を対象とした説明会等を行った。
<第4章> 住みよい環境の基盤づくり(障害のある人が仕事や日常の外出等を自由にできるようにするために必要なまちづくり、住宅確保、移動・交通、情報提供、防犯・防災対策等)
(1) 障害のある人の住みよいまちづくりのための施策
ア 福祉のまちづくりの推進
「障害者や高齢者にやさしいまちづくり推進事業」や「人にやさしいまちづくり事業」により、障害のある人や高齢者に配慮した活動空間の形成を図ってきた。また、住宅や社会資本の整備を推進するために、中長期的な方向、整備の目標などを総合的に取りまとめた「生活福祉空間づくり大綱」を平成六年に策定している。
また、平成八年には、福祉のまちづくりの計画策定に当たっての視点、配慮事項等を総合的に盛り込んだ手引きを取りまとめて通知するとともに、農村地域において、高齢者や障害のある人が安心して快適に暮らせる生活環境基盤の整備を積極的に進める「農村総合整備事業(高福祉型)」を創設した。
イ 都市計画制度、都市計画事業等による取組
障害のある人に配慮した道路・公園等の都市施設の整備を行うとともに、歩行支援施設や障害者誘導施設等の整備を補助メニューに含んだ「街並み・まちづくり総合支援事業」を、北九州市戸畑駅南口地区等で実施した。
ウ 公園、水辺空間等のオープンスペースの整備
公園の園路の幅員と勾配の工夫、縁石の切下げ、手すりの設置、ゆったりトイレの整備等、障害のある人の利用に配慮した公園施設の整備を行ったほか、全国六か所の有料国営公園の身体障害者等に対する入園料金等の免除を行った。
また、障害のある人や高齢者に配慮した堤防護岸の緩傾斜化、堤防坂路及び親水広場におけるスロープ化等の河川等整備、港湾緑地における手すりの設置等を実施している。
エ 建築物の構造の改善
官庁施設の整備においては、二十一世紀初頭までに、窓口業務を行う施設のすべてについて、障害者等に配慮した改修等を実施することとしている。
また、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)」に基づいて、高齢者や身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の廊下、階段等について建築主への指導・助言を行うほか、都道府県知事等により認定された優良な建築物(認定建築物)に対しては、平成六年度からエレベーター、幅の広い廊下等の整備に対する補助制度や税制上の特例措置が設けられた。
さらに、認定建築物に対する融資制度が拡充された。
オ 住宅整備
公営住宅及び公団賃貸住宅の入居者の募集・選考においては、障害者世帯について、住宅困窮度が高いものとして倍率優遇等の措置を講ずるとともに、特定目的借上公共賃貸住宅制度、特定借上・買取賃貸住宅制度を創設した。
また、新たに建設するすべての公営住宅・公団住宅においては、長寿社会対応仕様を標準化するとともに、公営住宅の改善の際には、可能な限り長寿社会対応仕様設計を行うこととしている。
さらに住宅金融公庫の新築住宅融資については、高齢者・身体障害者等に配慮した住宅等、一定の良質な住宅に対して、最優遇金利である基準金利を適用することとした。
カ 移動・交通対策等
公共交通ターミナルや車両の整備・改良等について、障害のある人が安全かつ身体的負担の少ない方法で移動ができるよう、各種ガイドライン等に基づいて事業者への指導を行うとともに、「高齢者・障害者等のためのモデル交通計画策定調査報告書」を平成八年三月に作成し、これを全国的な高齢者・障害者等のための連続性のある交通体系の具体的なモデルケースにしていくこととしている。また、公共交通ターミナルにおけるエレベーター・エスカレーター等の整備については、各種の低利融資、助成、補助を行っている。
一方、車いす利用者や高齢者など様々な人が安心して通行できるよう、幅の広い歩道等を整備するとともに、既設の歩道等の段差・勾配・傾斜の改善や、立体横断施設へのスロープの設置等によってバリアフリー化を進め、良好な歩行空間をネットワークとして確保すること等に努力している。
さらに、駅前広場等の整備、公共交通機関における身体障害者割引等の措置の実施、駐車禁止除外指定車標章の交付、運転免許試験場へのスロープ、エレベーター等の整備、宿泊施設の環境整備、バスの利便性の向上等を図っている。
(2) 障害のある人が安心して生活を送るための施策
ア 情報提供
障害のある人の食生活環境の改善についてのテープ・点字書籍等による情報の提供、点訳奉仕員・手話奉仕員等の育成支援、「点字情報ネットワーク事業」、「障害者保健福祉研究情報体制」等の情報提供支援を行っている。
また、平成八年度から平成十二年度までの五か年計画で、通信・放送機構の渋谷上原リサーチセンターにおいて、字幕番組等、視聴覚障害者向け放送ソフトの効果的な制作を可能とする技術の研究開発をたちあげており、平成八年度には、その基本的設計・試作を行った。
さらに、音量調節機能付電話等、福祉用電話機器の開発や、車いす用公衆電話ボックスの設置など、障害のある人が円滑に電話を利用できる種々の措置や利用料の免除措置、郵便局の情報提供体制の整備等を実施した。
イ 防犯対策
障害のある人が警察へアクセスする際の困難を除去するため、交番等の玄関前のスロープの設置やファックス一一〇番の導入、ファックスネットワークの構築、手話のできる警察官の交番等への配置を行った。また、(財)全日本ろうあ連盟が作成した「手話バッジ」を、手話のできる警察官等に装着させ、聴覚障害者等の利便を図っている。
ウ 防災対策
阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、平成七年十二月に災害対策基本法を改正し、高齢者、障害者、乳幼児等、特に配慮を要する者に対する防災上必要な措置に関する事項の実施努力義務を規定するとともに、地方公共団体に防災まちづくり事業や緊急防災基盤整備事業についての起債を認め、元利償還金の一部について交付税措置を行っている。
また、自主防災組織等の育成や、緊急通信体制の一層の充実を図るための調査研究を進めたほか、床上浸水対策特別緊急事業の実施、危険箇所に係る砂防、地すべり、急傾斜地崩壊対策事業の推進、避難地、避難路等の都市防災施設の整備、地域の防災活動の拠点となる防災安全街区等の整備、都市防災構造化対策事業計画の策定についての関係地方公共団体の指導等を行った。
我が国経済
需要面をみると、個人消費は、家計の経済の先行きに対する不透明感もあって、足踏み状態となっている。住宅建設は、下げ止まりの兆しはみられるものの、依然弱い動きとなっている。設備投資は、製造業を中心に回復傾向にある。
九年七〜九月期(速報)の実質国内総生産は、前期比〇・八%増(年率三・一%増)となり、うち内需寄与度はプラス〇・九%となった。
産業面をみると、鉱工業生産は、弱含んでいる。企業収益は、緩やかに改善している。また、企業の業況判断は、厳しさが増している。
雇用情勢をみると、雇用者数の伸びが鈍化し、完全失業率が高い水準で推移するなど厳しい状況にある。
輸出は、強含みに推移している。輸入は、おおむね横ばいで推移している。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、増加傾向にある。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、十一月は、月初の百二十一円台から下落し、百二十七円台となった。
物価の動向をみると、国内卸売物価は、やや弱含んでいる。また、消費者物価は、安定している。
最近の金融情勢をみると、短期金利は、十一月は一時上昇したものの、おおむね横ばいで推移した。長期金利は、十一月はやや上昇した。株式相場は、十一月は一時下落した後、大幅に変動した。マネーサプライ(M2+CD)は、十月は前年同月比二・七%増となった。
なお、十一月には、複数の金融機関で経営破たんが生じた。
海外経済
主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大している。実質GDPは、四〜六月期前期比年率三・三%増の後、七〜九月期は同三・三%増(速報値)となった。
個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大している。物価は安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、このところ拡大傾向にある。十一月の長期金利(三十年物国債)は、月初に上昇したが、その後は総じて低下した。十一月の株価(ダウ平均)は、上旬から中旬にかけて下落した局面もあったが、総じて上昇した。
西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は緩やかに回復しており、フランスでは、景気は回復している。イギリスでは、景気は拡大している。鉱工業生産は、回復しているが、イギリスでは回復テンポは緩慢である。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準で推移しているが、イギリスでは低下している。物価は安定しているが、イギリスでは上昇率がやや高まっている。
東アジアをみると、中国では、景気は拡大している。物価上昇率は、低下している。貿易収支は、大幅な黒字が続いている。韓国では、景気は緩やかに減速している。失業率は、横ばいである。物価上昇率は、横ばいである。貿易収支赤字は、改善している。
なお、韓国では、十一月に通貨が一ドル=一千百ウォン台に下落し、十二月三日には同国とIMFとの間で、経済構造改革プログラムが合意され、IMF等からの金融支援が発表された。
国際金融市場の十一月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、増価した。
国際商品市況の十一月の動きをみると、全体では上旬横ばいで推移した後、中旬やや強含み、下旬は弱含みで推移した。十一月の原油スポット価格(北海ブレント)は、初旬横ばいで推移した後、中旬にかけてやや強含むが、下旬にかけては弱含み、おおむね十九ドル台前半で推移した後、月末に下落した。
1 国内需要
―個人消費は、家計の経済の先行きに対する不透明感もあって、足踏み状態―
実質国内総生産(平成二年基準、速報)の動向をみると、九年四〜六月期前期比二・八%減(年率一〇・六%減)の後、七〜九月期は同〇・八%増(年率三・一%増)となった。
内外需別にみると、国内需要の寄与度はプラス〇・九%となり、財貨・サービスの純輸出の寄与度はマイナス〇・一%となった。
需要項目別にみると、民間最終消費支出は前期比一・六%増、民間企業設備投資は同一・六%増、民間住宅は同一〇・五%減となった。
また、財貨・サービスの輸出は前期比一・三%減、財貨・サービスの輸入は同〇・四%減となった。
個人消費は、家計の経済の先行きに対する不透明感もあって、足踏み状態となっている。
家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で九月二・六%増の後、十月は一・一%増(前月比一・一%減)となった。
世帯別の動きをみると、勤労者世帯では前年同月比〇・一%減、勤労者以外の世帯では同三・九%増となった。形態別にみると、商品は減少し、サービスは増加となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比一・一%増、勤労者世帯では同〇・一%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で七月四・五%増となった。
小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で九月二・四%減の後、十月は一・〇%減となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で九月二・三%減の後、十月二・二%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で九月四・三%減の後、十月三・六%減となった。
一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で十一月は一九・八%減となった。また、家電小売金額は、前年同月比で十月は五・六%減となった。
レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、十月は前年同月比で国内旅行が五・〇%増、海外旅行は〇・三%増となった。
賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で九月一・〇%増の後、十月(速報)は一・五%増(事業所規模三十人以上では同一・五%増)となり、うち所定外給与は、十月(速報)は同〇・一%減(事業所規模三十人以上では同〇・九%増)となった。実質賃金は、前年同月比で九月一・四%減の後、十月(速報)は一・一%減(事業所規模三十人以上では同一・〇%減)となった。
住宅建設は、下げ止まりの兆しはみられるものの、依然弱い動きとなっている。
新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で九月一・七%増(前年同月比二二・二%減)となった後、十月は二・六%増(前年同月比二五・二%減)の十一万四千戸(年率百三十六万戸)となった。十月の着工床面積(季節調整値)は、前月比一・〇%増(前年同月比二八・〇%減)となった。
十月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比三・五%増(前年同月比三五・三%減)、貸家は同〇・七%減(同二七・四%減)、分譲住宅は同八・三%増(同一・一%減)となっている。
設備投資は、製造業を中心に回復傾向にある。
当庁「法人企業動向調査」(九年九月調査)により設備投資の動向をみると、全産業の設備投資は、前期比で九年四〜六月期(実績)二・一%減(うち製造業〇・六%減、非製造業二・八%減)の後、九年七〜九月期(実績見込み)は一・一%減(同〇・五%増、同一・九%減)となっている。また、九年十〜十二月期(計画)は、前期比で二・一%増(うち製造業二・六%増、非製造業二・二%増)、十年一〜三月期(計画)は〇・二%増(同〇・二%増、同〇・五%増)と見込まれている。
なお、年度計画では、前年度比で八年度(実績)七・八%増(うち製造業一〇・八%増、非製造業六・四%増)の後、九年度(計画)は三・〇%増(同五・七%増、同一・七%増)となっている。
先行指標の動きをみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前月比で八月は四・七%減(前年同月比二・七%増)の後、九月は一二・三%減(同一・三%増)となり、製造業は底堅く推移しているものの、全体としては弱含みで推移している。
なお、当庁「機械受注調査(見通し)」によれば、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、十〜十二月期(見通し)は前期比で八・二%増(前年同期比〇・五%減)と見込まれている。民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、一進一退で推移しており、前月比で九月二六・八%増の後、十月は一二・〇%減(前年同月比一・三%増)となった。内訳をみると、製造業は前月比二〇・五%増(前年同月比二四・三%増)、非製造業は同二四・三%減(同五・六%減)となった。
公的需要関連指標をみると、公共投資については、着工総工事費は、前年同月比で八月一・三%増の後、九月は二四・〇%減となった。公共工事請負金額は、前年同月比で九月一・二%増の後、十月は一七・七%減となった。官公庁からの建設工事受注額(五十社)は、前年同月比で九月三〇・二%減の後、十月は二一・一%減となった。実質公的固定資本形成は、九年四〜六月期に前期比〇・五%増の後、九年七〜九月期は同一・三%増となった。
また、実質政府最終消費支出は、九年四〜六月期に前期比〇・九%減の後、九年七〜九月期は同〇・七%増となった。
2 生産雇用
―雇用情勢は、雇用者数の伸びが鈍化し、完全失業率が高い水準で推移するなど厳しい状況―
鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、生産・出荷は、弱含んでいる。在庫は二か月連続で減少した。
鉱工業生産は、前月比で九月二・四%増の後、十月(速報)は輸送機械、一般機械等が増加したものの、電気機械、鉄鋼等が減少したことから、〇・四%減となった。
また製造工業生産予測指数は、前月比で十一月は機械、鉄鋼等により二・二%減の後、十二月は機械、化学等により〇・九%増となっている。
鉱工業出荷は、前月比で九月二・九%増の後、十月(速報)は資本財、非耐久消費財等が増加したものの、生産財が減少したことから、〇・七%減となった。鉱工業生産者製品在庫は、前月比で九月〇・三%減の後、十月(速報)は、輸送機械、繊維等が増加したものの、電気機械、石油・石炭製品等が減少したことから、〇・七%減となった。
また、十月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数は一一六・〇と前月を〇・七ポイント上回った。
主な業種について最近の動きをみると、電気機械では、生産は二か月連続で減少し、在庫は十月は減少した。輸送機械では、生産は二か月連続で増加し、在庫は十月は増加した。鉄鋼では、生産は二か月連続で減少し、在庫は二か月連続で増加した。
第三次産業活動の動向をみると、七〜九月期は前期比〇・九%増の低い伸びにとどまった。
雇用情勢をみると、雇用者数の伸びが鈍化し、完全失業率が高い水準で推移するなど厳しい状況にある。
労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、九月〇・七一倍の後、十月〇・七〇倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、九月一・一七倍の後、十月一・一七倍となった。
雇用者数は、伸びが鈍化している。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、十月は前年同月比一・一%増(前年同月差六十一万人増)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、九月前年同月比〇・九%増(季節調整済前月比〇・一%増)の後、十月(速報)は同〇・八%増(同〇・一%増)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比〇・〇%)、産業別には製造業では同〇・四%減となった。
十月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差二万人増の二百三十五万人、完全失業率(同)は、九月三・四%の後、十月三・五%となった。
所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では九月前年同月比二・九%増(季節調整済前月比一・五%減)の後、十月(速報)は同〇・〇%(同二・八%減)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比〇・〇%)。
また、労働省「労働経済動向調査」(十一月調査)によると、「残業規制」等の雇用調整を実施する事業所割合は、七〜九月期は前期と同水準となった。
企業の動向をみると、企業収益は、緩やかに改善している。また、企業の業況判断は、厳しさが増している。
大企業の動向を前記「法人企業動向調査」(九月調査、季節調整値)でみると、売上高、経常利益の見通し(ともに「増加」−「減少」)は、九年十〜十二月期は「増加」超幅が縮小した。また、企業経営者の景気見通し(業界景気の見通し、「上昇」−「下降」)は九年十〜十二月期は「下降」超に転じた。
また、中小企業の動向を中小企業金融公庫「中小企業動向調査」(九月調査、季節調整値)でみると、売上げD.I.(「増加」−「減少」)は、九年七〜九月期は「減少」超幅が拡大し、純益率D.I.(「上昇」−「低下」)は、「低下」超幅が拡大した。業況判断D.I.(「好転」−「悪化」)は、九年七〜九月期は「悪化」超幅が拡大した。
企業倒産の状況をみると、件数は、前年の水準を上回る傾向にある。
銀行取引停止処分者件数は、十月は一千二百三十五件で前年同月比二一・三%増となった。業種別に件数の前年同月比をみると、製造業で四・〇%の減少となる一方、建設業で三七・二%、小売業で三〇・九%の増加となった。
3 国際収支
―貿易・サービス収支の黒字は増加傾向―
輸出は、強含みに推移している。
通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で九月二・一%減の後、十月は一一・五%増(前年同月比一四・六%増)となった。
最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、化学製品、輸送用機器等が増加した。同じく地域別にみると、ラテンアメリカ、アメリカ等が増加した。
輸入は、おおむね横ばいで推移している。
通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で九月八・四%増の後、十月は一・九%減(前年同月比一・五%増)となった。
最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、製品類(機械機器)、原料品等が減少した。同じく地域別にみると、アジア、アメリカ等が減少した。
通関収支差(季節調整値)は、九月に七千四百九十六億円の黒字の後、十月は一兆二千三百七十九億円の黒字となった。
国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、増加傾向にある。
九月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、サービス収支の赤字幅が縮小したものの、貿易収支の黒字幅が縮小したため、その黒字幅は縮小し、三千九百七十二億円となった。
また、経常収支(季節調整値)は、貿易・サービス収支及び所得収支の黒字幅が縮小するとともに、経常移転収支の赤字幅が拡大したため、その黒字幅は縮小し、七千九百六十四億円となった。
投資収支(原数値)は、一兆六千七百四十一億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、一兆七千百八十一億円の赤字となった。
十一月末の外貨準備高は、前月比二億四千万ドル増加して二千二百八十三億九千万ドルとなった。
外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、十一月は、月初の百二十一円台から下落し、百二十七円台となった。一方、対マルク相場(インターバンク十七時時点)は、十一月は、月初の七十円台から下落し、七十二円台から七十三円台で推移した。
4 物 価
―国内卸売物価はやや弱含み―
国内卸売物価は、やや弱含んでいる。
十月の国内卸売物価は、食料用農畜水産物(豚肉)等が下落したほか、電力・都市ガス・水道(電力)も夏季割増料金の終了から下落し、前月比〇・五%の下落(前年同月比一・五%の上昇)となった。
輸出物価は、契約通貨ベースで下落したものの、円安から円ベースでは前月比〇・一%の上昇(前年同月比一・二%の上昇)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで下落したものの、円安から円ベースでは前月比保合い(前年同月比二・四%の上昇)となった。
この結果、総合卸売物価は、前月比〇・三%の下落(前年同月比一・六%の上昇)となった。
十一月上中旬の動きを前旬比でみると、国内卸売物価は上旬、中旬ともに保合い、輸出物価は上旬が一・一%の上昇、中旬が一・二%の上昇、輸入物価は上旬が一・一%の上昇、中旬が一・三%の上昇、総合卸売物価は上旬が〇・二%の上昇、中旬が〇・三%の上昇となっている。
企業向けサービス価格は、十月は前年同月比一・八%の上昇(前月比〇・一%の上昇)となった。
商品市況(月末対比)は化学等は下落したものの、石油等の上昇により十一月は上昇した。十一月の動きを品目別にみると、純ベンゼン等は下落したものの、C重油等が上昇した。
消費者物価は、安定している。
全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で九月二・四%の上昇の後、十月は一般食料工業製品の上昇幅の縮小等の一方、個人サービスの上昇幅の拡大等があり二・四%の上昇(前月比〇・一%の上昇)となった。なお、総合は、前年同月比で九月二・四%の上昇の後、十月は二・五%の上昇(前月比〇・三%の上昇)となった。
東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で十月二・二%の上昇の後、十一月(中旬速報値)は一般食料工業製品の上昇幅の拡大等の一方、個人サービスの上昇幅の縮小等があり二・二%の上昇(前月比保合い)となった。なお、総合は、前年同月比で十月二・四%の上昇の後、十一月(中旬速報値)は二・〇%の上昇(前月比〇・七%の下落)となった。
5 金融財政
―株式相場は一時下落した後、大幅に変動―
最近の金融情勢をみると、短期金利は、十一月は一時上昇したものの、おおむね横ばいで推移した。長期金利は、十一月はやや上昇した。株式相場は、十一月は一時下落した後、大幅に変動した。マネーサプライ(M2+CD)は、十月は前年同月比二・七%増となった。
なお、十一月には、複数の金融機関で経営破たんが生じた。
短期金融市場をみると、オーバーナイトレート、二、三か月物ともに、十一月は一時上昇したものの、おおむね横ばいで推移した。
公社債市場をみると、国債流通利回りは、十一月はやや上昇した。
国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、十月は短期は〇・〇六五%上昇し、長期は〇・一三五%上昇したことから、総合では前月比で〇・〇六三%上昇し一・九〇八%となった。
マネーサプライ(M2+CD)の月中平均残高を前年同月比でみると、十月(速報)は二・七%増となった。また、広義流動性でみると、十月(速報)は三・二%増となった。
企業金融の動向をみると、金融機関の貸出平残(全国銀行)は、十月(速報)は前年同月比〇・四%減と前年水準を下回った。十一月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債が百五十億円となる一方、国内公募事業債の起債実績は三千九百十億円となった。
株式市場をみると、日経平均株価は、十一月は一時下落した後、大幅に変動した。
6 海外経済
―韓国、一ドル=一千百ウォン台に下落―
主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大している。実質GDPは、四〜六月期前期比年率三・三%増の後、七〜九月期は同三・三%増(速報値)となった。
個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大している。雇用者数(非農業事業所)は九月前月差二十六万九千人増の後、十月は同二十八万四千人増となった。失業率は十月四・七%となった。物価は安定している。十月の消費者物価は前月比〇・二%の上昇、十月の生産者物価(完成財総合)は同〇・一%の上昇となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、このところ拡大傾向にある。十一月の長期金利(三十年物国債)は、月初に上昇したが、その後は総じて低下した。十一月の株価(ダウ平均)は、上旬から中旬にかけて下落した局面もあったが、総じて上昇した。
西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は緩やかに回復しており、フランスでは、景気は回復している。イギリスでは、景気は拡大している。
実質GDPは、ドイツでは四〜六月期前期比年率四・一%増、フランスでは四〜六月期同四・一%増、イギリスでは七〜九月期同三・六%増となった。鉱工業生産は、回復しているが、イギリスでは回復テンポは緩慢である(鉱工業生産は、ドイツ十月前月比一・八%増、フランス九月同一・〇%減、イギリス九月同〇・二%減)。
失業率は、ドイツ、フランスでは高水準で推移しているが、イギリスでは低下している(十月の失業率は、ドイツ一一・八%、フランス一二・五%、イギリス五・二%)。
物価は安定しているが、イギリスでは上昇率がやや高まっている(十月の消費者物価上昇率は、ドイツ前年同月比一・八%、フランス同一・〇%、イギリス同三・七%)。
東アジアをみると、中国では、景気は拡大している。物価上昇率は、低下している。貿易収支は、大幅な黒字が続いている。韓国では、景気は緩やかに減速している。失業率は、横ばいである。物価上昇率は、横ばいである。貿易収支赤字は、改善している。
なお、韓国では、十一月に通貨が一ドル=一千百ウォン台に下落し、十二月三日には同国とIMFとの間で、経済構造改革プログラムが合意され、IMF等からの金融支援が発表された。
国際金融市場の十一月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、増価した(モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)十一月二十八日一〇八・一、十月末比二・八%の増価)。内訳をみると、十一月二十八日現在、対円では十月末比五・八%増価、対マルクでは同二・三%増価した。
国際商品市況の十一月の動きをみると、全体では上旬横ばいで推移した後、中旬やや強含み、下旬は弱含みで推移した。十一月の原油スポット価格(北海ブレント)は、初旬横ばいで推移した後、中旬にかけてやや強含むが、下旬にかけては弱含み、おおむね十九ドル台前半で推移した後、月末に下落した。
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消費者物価指数の動向
一 概 況
(1) 総合指数は平成七年を一〇〇として一〇二・四となり、前月比は〇・二%の上昇。前年同月比は七月一・四%の上昇、八月一・六%の上昇、九月二・二%の上昇と推移した後、十月は二・三%の上昇となった。
(2) 生鮮食品を除く総合指数は一〇二・三となり、前月と同水準。前年同月比は七月一・六%の上昇、八月一・八%の上昇、九月二・三%の上昇と推移した後、十月は二・二%の上昇となった。
二 前月からの動き
(1) 食料は一〇二・七となり、前月に比べ〇・七%の上昇。
生鮮魚介は〇・九%の上昇。
<値上がり>ぶり、いかなど
<値下がり>かれい、あじなど
生鮮野菜は六・九%の上昇。
<値上がり>しめじ、ピーマンなど
<値下がり>ほうれんそう、れんこんなど
生鮮果物は〇・八%の上昇。
<値上がり>バナナ、オレンジなど
<値下がり>みかん、なしなど
酒類は一・八%の下落。
<値下がり>ウイスキーなど
外食は〇・八%の上昇。
<値上がり>ハンバーガーなど
(2) 光熱・水道は一〇三・五となり、前月に比べ〇・三%の下落。
電気・ガス代は〇・四%の下落。
<値下がり>都市ガス代
(3) 家具・家事用品は九五・二となり、前月に比べ〇・五%の下落。
家庭用耐久財は〇・七%の下落。
<値下がり>電気冷蔵庫など
(4) 被服及び履物は一〇六・五となり、前月に比べ〇・四%の上昇。
衣料は〇・六%の上昇。
<値上がり>婦人スラックス(冬物)など
(5) 教養娯楽は一〇一・七となり、前月に比べ〇・六%の上昇。
教養娯楽サービスは〇・六%の上昇。
<値上がり>宿泊料
三 前年同月との比較
○上昇した主な項目
保健医療サービス(二四・九%上昇)、生鮮野菜(一七・一%上昇)、外食(四・一%上昇)、教養娯楽サービス(三・七%上昇)
○下落した主な項目
生鮮果物(九・九%下落)
(注) 上昇又は下落している主な項目は、総合指数の上昇率に対する影響度(寄与度)の大きいものから順に配列した。
四 季節調整済指数
季節調整済指数をみると、総合指数は一〇二・一となり、前月に比べ〇・二%の上昇となった。
また、生鮮食品を除く総合指数は一〇二・一となり、前月と変わらなかった。
◇九月の全国消費者物価指数の動向
一 概 況
(1) 総合指数は平成七年を一〇〇として一〇二・八となり、前月比は〇・七%の上昇。前年同月比は六月二・二%の上昇、七月一・九%の上昇、八月二・一%の上昇と推移した後、九月は二・四%の上昇となった。
(2) 生鮮食品を除く総合指数は一〇二・八となり、前月比は〇・八%の上昇。前年同月比は六月二・〇%の上昇、七月二・〇%の上昇、八月二・一%の上昇と推移した後、九月は二・四%の上昇となった。
二 前月からの動き
(1) 食料は一〇二・五となり、前月に比べ〇・四%の下落。
生鮮魚介は六・九%の下落。
<値上がり>いわし、まぐろなど
<値下がり>さんま、いかなど
生鮮野菜は二・二%の上昇。
<値上がり>トマト、キャベツなど
<値下がり>れんこん、なすなど
生鮮果物は三・〇%の上昇。
<値上がり>バナナ、オレンジなど
<値下がり>なし、ぶどう(巨峰)など
外食は〇・五%の下落。
<値下がり>ハンバーガー
(2) 被服及び履物は一〇六・五となり、前月に比べ六・八%の上昇。
衣料は八・三%の上昇。
<値上がり>婦人スラックス(冬物)など
(3) 保健医療は一一三・三となり、前月に比べ一一・四%の上昇。
保健医療サービスは二三・五%の上昇。
<値上がり>診察料など
(4) 交通・通信は九九・二となり、前月に比べ〇・三%の下落。
交通は〇・六%の下落。
<値下がり>航空運賃など
(5) 教養娯楽は一〇〇・九となり、前月に比べ〇・二%の下落。
教養娯楽サービスは〇・五%の下落。
<値下がり>宿泊料など
三 前年同月との比較
○上昇した主な項目
保健医療サービス(二四・四%上昇)、家賃(一・三%上昇)、外食(二・七%上昇)、教養娯楽サービス(三・一%上昇)
○下落した主な項目
(特になし)
(注) 上昇又は下落している主な項目は、総合指数の上昇率に対する影響度(寄与度)の大きいものから順に配列した。
四 季節調整済指数
季節調整済指数をみると、総合指数は一〇二・五となり、前月に比べ〇・三%の上昇となった。
また、生鮮食品を除く総合指数は一〇二・七となり、前月に比べ〇・五%の上昇となった。
文化財は、我が国の長い歴史の中で生まれ、はぐくまれ、今の世代に守り伝えられてきた貴重な国民的財産です。
文化財を保存し活用することは、心豊かな生活の源となるとともに、優れた文化の創造と発展の基礎となります。
▽古社寺保存法制定から百年
明治三十年(一八九七年)六月、古社寺に対し建造物および宝物類を維持修理するために保存金を交付すること、内務大臣が「特別保護建造物」または「国宝」の資格のあるものを定めることなどを内容とする「古社寺保存法」が定められました。その後、「国宝保存法」を経て、昭和二十五年五月に「文化財保護法」が制定され、現在の文化財指定制度が形づくられました。
平成九年は、古社寺保存法制定から百年という記念すべき年に当たります。
▽文化財の指定件数は着実に増加
文化財保護法では、「有形文化財」「無形文化財」「民俗文化財」「記念物」および「伝統的建造物群」の五分野が文化財として定義されています。これらの文化財のうち、重要なものとして国が指定・選定したものが、重要文化財、史跡名勝天然記念物等として国の重点的な保護の対象とされています。
また、無形文化財、無形民俗文化財では、指定のほかに記録作成等の措置を講ずべきものを文化庁長官が選択し、その記録の作成に努めています。
このほか、土地に埋蔵された文化財、文化財の保存・修理に欠くことのできない伝統的な技術・技能の保存・伝承も保護の対象とされています。
文化財の指定・選定および登録は、文部大臣が文化財保護審議会に諮問し、その答申を受けて行われます。指定件数は、学術的な調査研究の進展等に応じて、着実に増加しています。(文化庁)
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平成九年七〜九月期平均家計収支
全世帯の消費支出は、平成九年一〜三月期に実質増加となった後、四〜六月期は実質減少となったが、七〜九月期は実質増加となった(第1図、第2図、第1表参照)。
◇勤労者世帯の家計
勤労者世帯の実収入は、平成八年十〜十二月期以降四期連続の実質増加となった。
消費支出は、平成九年一〜三月期に実質増加となった後、四〜六月期は実質減少となったが、七〜九月期は実質増加となった(第1図、第2表参照)。
◇勤労者以外の世帯の家計
勤労者以外の世帯の消費支出は二十八万五千六百八十九円で、名目三・七%、実質一・六%の増加
◇財・サービス区分別の消費支出
財(商品)は実質〇・一%の増加
<耐久財>実質三・七%の減少
<半耐久財>実質二・三%の減少
<非耐久財>実質一・四%の増加
サービスは実質二・四%の増加
1 査察調査
査察調査とは、悪質で大口な脱税をしている疑いのある者に対し、犯罪捜査に準じた方法で行われる特別な調査です。調査に当たる国税査察官には、裁判官が発行する許可状を得て事務所などの捜索をしたり、帳簿などの証拠物件を差し押さえたりする強制調査を行う権限が与えられています。この調査は、脱税した税金(本税といいます。)や重加算税等を納めさせるだけでなく、脱税が犯罪であるということから、懲役刑や罰金刑といった刑事罰を科することを目的としたものです。
脱税者がいかに巧妙に脱税を企てても、国税査察官のち密で系統だった調査により、その脱税は必ず発見されます。
査察調査により脱税の事実が判明すると、刑事事件として検察官に告発します。そして、検察官によって裁判所に起訴され、裁判により有罪になると、懲役や罰金の刑罰が科されます。この刑罰は、五年以下の懲役または五百万円(脱税額が五百万円を超える場合は、脱税相当額)以下の罰金となるか、あるいは懲役と罰金の併科となります。
平成八年度の査察調査の結果は、次のとおりになっています。
@ 査察調査を終了したもの二百三十二件
A 検察官に告発したもの百七十七件(告発率 約七六・三%)
B 脱税総額四百四十七億円
C 告発した脱税額(加算税額を含む。)三百三十六億円
2 脱税は社会公共の敵
脱税をしていた納税者Aの場合を例にとってみます。
@ 脱漏所得七億九千七百万円
A 脱税額(加算税額を含む追徴税額)五億五千六百万円
B 罰金(一審判決)九千万円
C 懲役(一審判決)一年六月(実刑)
このほかにAには、延滞税、さらには地方税もかかることになります。
このように、脱税をすると本税はもちろんのこと、重加算税や延滞税などを納めなければならないほか、裁判により懲役刑や罰金刑を受けます。
脱税は犯罪です。国民一人一人が所得に応じて負担しなければならない税金を不当に免れることは、正しい申告と納税を行っている善良な納税者を裏切ることになります。脱税は、いわば社会公共の敵というべきものです。
このようなことから、近年、脱税事件の裁判では、執行猶予の付かない実刑判決が増えています。
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