官報資料版 平成1028





我が国の文教施策のあらまし


未来を拓く学術研究


平成9年度「我が国の文教施策」(教育白書)は、平成9年12月5日の閣議に報告され、同日公表された。

文 部 省


<第T部> 未来を拓く学術研究


はじめに

1 学術研究は何のために行われ、その成果は誰のものか
 学術研究は、大学やこれと一体的な研究所等で行われる人文・社会・自然科学のあらゆる分野にわたる知的創造活動で、次のような特色がある。
 (1) 真理の探究を目的とする高度に知的な営み
 学術研究は、研究者が、人間・社会や自然について総合的・体系的に理解したいという知的欲求を源泉に、真理の探究を目的として行う、高度に知的な営みである。
 したがって、学術研究を進めるためには、研究者の自由な発想と自主性の尊重が必要不可欠な条件であり、このような条件を備えている大学を中心に推進されている。
 (2) 教育・人材養成と一体的に推進
 大学は、学術研究を発展させるとともに、その成果を体系的に教育することにより、次代を担う人材を養成するという大きな使命を果たしており、世界各国においても、このような使命の充実・強化が求められている。
 大学は、学部等において、幅広い教養と専門的な能力を身に付けて社会で活躍する人材を輩出するとともに、大学院や大学と一体的な研究所等において、学術研究の発展を担う若手研究者を養成している。
 (3) その成果は社会・人類発展の基盤
 学術研究の成果は、大学における教育・人材養成を通じて社会の発展に貢献するとともに、民間企業等では取り組めないような基礎的・独創的な研究により、広く社会や人類全体の発展の基盤となる知見を生み出し、また、地球規模の諸問題への着実な取組に生かされている。
 各国において、大学が公的な支援を受け、学術研究が様々な助成を受けているのは、学術研究の公共財としての特性に基づくものであり、学術研究の推進は未来への先行投資と考えられる。

2 学術研究を取り巻く状況はどのようになっているのか
 (1) 研究者や国民の意識
 文部省が平成八年度に民間調査機関に委託して、民間企業や国立試験研究機関等、大学以外の有識者五百人を対象(無作為抽出)に行った「学術研究と大学に関する調査」から、次のような結果が得られた。
 @ 人間・社会にとっての学術研究の重要性
 七二・八%が「非常に重要である」と答え、「ある程度重要である」を合わせると、ほぼ全員が学術研究の重要性を認めている(第1図参照)。
 A 学術研究に対する期待
 学術研究に期待するものとしては、「技術の革新」が最も多く、半数を超え(五三・五%)、「真理の探究」(三八・六%)、「地球規模問題の解決」(三七・三%)がこれに続く。大学以外の有識者を対象とする調査とはいえ、「技術の革新」、「地球規模問題の解決」が多くなっているのは、社会・経済状況の変化と、学術研究のこれらへの取組に対する期待の高まりを示していると言える(第2図参照)。
 B 民間企業等の研究と大学の研究の在り方
 「大学の研究をもっと振興し、世界の学術研究の進展に貢献すべきである」が最も多く(八八・二%)、次いで「大学は、企業等の研究に対し、共同研究などで積極的に支援すべきである」(七八・五%)、また、応用・開発研究の推進への期待も大きい(第3図参照)。
 このように、我が国においては、学術研究への期待が近年著しく高まっており、大学の研究者が、このような社会的要請に機動的にこたえるとともに、人類共通の知的資産として、研究成果を積極的に公表し、広く社会へ情報発信することが求められている。
 (2) 学術・科学技術をめぐる状況の変化
 我が国は、戦後、廃墟から奇跡的な復興を遂げた。その大きな要因として、教育の普及と向上、そして、科学技術の質的・量的な発展が挙げられ、学術研究及び高度な人材養成を行う大学が、大きな役割を果たしている。
 我が国のこれまでの技術革新は、欧米先進国から基礎的・創造的な技術を導入して、今日から見れば比較的廉価な特許等の使用料(ロイヤリティー)等を支払い、その応用や製品化の面で高度な技術力を発揮するキャッチアップ(追い付き)型が中心であった。キャッチアップがほぼ終了する一方、特許等の知的所有権保護強化が世界的趨勢となっている今日、我が国の基礎的・独創的な研究開発力の強化は、大きな課題である。
 また、我が国にとって、資源・エネルギーや食料の探査・開発や安定的供給は死活問題であり、国際社会の一員として、地球温暖化等の地球環境問題やエイズ等の人類の生存にかかわる問題への真剣な対応を迫られている。
 このような状況変化の中で、これら諸問題の解決の鍵を提供するものとして、学術研究を基盤にした人類の英知の結集が強く求められている。
 (3) 科学技術基本法・科学技術基本計画による科学技術創造立国
 このような意識の高まりや状況の変化を背景に、平成七年十一月、科学技術基本法が、国会において全会一致で可決・成立し、八年七月には、同法に基づく科学技術基本計画が策定(閣議決定)され、科学技術創造立国に向けての施策が総合的かつ計画的に推進されている。その中で、最も重視されている課題の一つは、基礎的・創造的な研究開発の強化であり、基礎研究の中心的な担い手である大学等の役割は極めて大きい。

<第1章> 学術振興の基本的考え方

<第1節> 学術研究の意義・役割

1 学術研究の本質
 学術研究は、新しい法則や原理の発見、分析や総合の方法論の確立、新しい知識や技術の体系化、先端的な学問領域の開拓などを目指して行われる普遍的な知的創造活動であり、研究者の自由な発想と自主的な研究活動を源泉として、人文・社会科学から自然科学までのあらゆる学問分野にわたり、大学やこれと一体的な研究所を中心に推進されている。学術研究の成果は、人類の知的共有財産−「公共財」として、それ自体優れた文化的価値を有するとともに、その応用や技術化を通じて日常生活を支え、豊かにする役割を果たし、人類・社会の発展の基盤をなす。
 このような「公共財」性の故に、学術研究が基本的には国によって支えられるべきものであることは、OECD諸国など各国でも認められている。

2 学術研究への期待の高まり
 今日、我が国は、産業の空洞化、社会の活力の喪失、生活水準の低下等の危機に直面する可能性があるという懸念が広がる一方、人類の未来には、地球環境問題、食料問題など、地球規模の諸問題が大きく立ちはだかっている。
 このような内外の諸問題に立ち向かうため、我が国が科学技術創造立国を目指し、創造力と活力の再生を図るとともに、人類の英知の結集に先導的な役割を担って、未来を切り拓いていくことが求められている。そのためには、科学技術の発展の基盤となる学術研究を未来への先行投資と位置付け、創造性豊かな世界最先端の学術研究の振興を図ることが必要となっている。

3 科学技術基本計画への対応
 科学技術基本計画は、今後十年程度を見通した、平成八年度から十二年度までの五年間の科学技術政策を具体化するものとして策定され、研究開発推進の基本的方向として、研究開発の強力な推進や基礎研究の積極的な振興などを掲げている。
 文部省では、従来から、学術審議会の答申等を踏まえ、我が国の学術研究基盤を国際的水準に引き上げることを目標に計画的・重点的な整備を図るとともに、柔軟で活力に満ちた世界に開かれた学術研究体制の整備に努めている。同計画初年度の平成八年度には、@科学研究費補助金(以下「科学研究費」という。)の大幅な拡充、A日本学術振興会への出資制度(未来開拓学術研究推進事業)の創設、B設備や支援体制などの研究環境の高度化、C卓越した研究拠点(COE)の形成、D新プログラム方式による研究の推進、E「ポストドクター等一万人支援計画」の実現に向けた若手研究者の養成・確保、F学術情報基盤の整備、G宇宙科学等の基礎研究の重点的な推進、H私立大学ハイテク・リサーチ・センター整備事業の創設、I大学と産業界等との研究協力の推進、J学術国際交流・協力の推進、などを図った。九年度には、科学研究費、日本学術振興会への出資金、「ポストドクター等一万人支援計画」のための経費の大幅な拡充や、私立大学学術フロンティア推進事業の創設を含め、各施策の推進を図っている。

<第2節> 科学技術創造立国を支える学術研究

1 学術と科学技術
 学術研究は知の体系化を重要な要素とするが、人類は、歴史や文明とのかかわりの中で、その影響を受けながらも、知の体系化の場として、大学を中心に学術研究を営々と発展させ、その基盤の上に文明・文化が開花している。今日、我が国において、大学が、学術研究の中心的な担い手として、大学の自治の保障の下に、研究活動とともに教育と研究者の養成を一体的に進めているのも、このような人類の歴史的な英知の所産と言えよう。
 一方、十八世紀の産業革命以降、特に自然科学を応用して産業活動等に結び付け、技術として具体化するとともに不断の高度化が図られるようになったが、このような科学技術は、大量生産・大量消費社会の実現を可能とし、文明の不可欠な要素となっている。
 我が国においては、科学技術に関する研究開発の主たる担い手は民間企業であるが、このような研究開発も、学術研究を基盤に発展し、また、その成果が学術の知的体系に取り込まれてこそ、人類の知的資産としての更なる発展や革新が可能となるのである。

2 基礎研究の重要性
 知見を得ることと、その実用・利用を図ることとの対比から、基礎研究、応用研究、開発研究といった分類が用いられてきているが、平成七年度における我が国の大学の研究費(自然科学関係)の割合は、それぞれ五三・〇%、三七・六%、九・三%で、これに対し、会社等については、それぞれ六・六%、二二・〇%、七一・三%である(第5図参照)。
 したがって、我が国の大学は、我が国における基礎研究の中心的な担い手であり、基本的に、このような基礎研究の中心的な担い手としての役割を大学以外に期待することはできない。同時に、我が国の大学は、基礎研究と一体的に応用・開発研究をも推進するとともに、その成果を不断に教育・人材養成に活用・還元している。
 なお、基礎研究の重要性については、科学技術基本計画のほか、各国の政府報告書等にも明記されている。

3 学術・科学技術行政の課題
 近年、基礎研究の重要性についての認識が、国家的にも国際的にも高まっているが、同時に、@基礎研究の成果がただちに実用化に結び付く生命科学などの、基礎研究、応用研究、開発研究が密接に関連する分野が多くなっている、A加速器科学、核融合研究等のビッグサイエンス、ヒト・ゲノム解析研究や脳研究、がん・エイズ研究、環境科学などの戦略的な研究開発など、多くの関係機関や研究者が連携・協力する必要がある分野が増加している、B地球環境、生命、情報など様々な分野で、自然科学及びそれを基盤とする科学技術と人文・社会科学が共同して取り組む必要がある複合領域が多くなっている。
 このような分野・領域の進展にかんがみるなら、自然科学と人文・社会科学との相関関係も視野に入れ、学術研究全体を見渡した、総合的で均衡のとれた施策の推進が求められている。

<第2章> 学術振興の基本施策

<第1節> 学術研究を支える基盤を整備・強化するために

1 研究人材の養成・確保
 (1) 我が国における研究者の現状
 総務庁の「科学技術研究調査」によれば、平成八年四月一日現在で、研究者の総数は約六十七万三千人である。組織別では、「会社等」が約三十八万四千人で半数以上を占め、次いで「大学等」約二十四万三千人、「研究機関」約四万六千人である。分野別では、自然科学が約五十八万八千人で九割近くを占め、特に「会社等」においては九九%が自然科学の分野である。人文・社会科学等の分野では、研究者の九割以上が「大学等」に集中している。
 (2) 大学における研究者の現状と課題
 学術研究推進の中心的な担い手は、大学や大学共同利用機関の教員で、平成八年四月一日現在で約十六万人である。その年齢構成の推移を見ると、二十歳代の研究者が減少傾向にあり、大学等における研究活力を維持していく上での問題点の一つとなっている。
 (3) 次代を担う若手研究者の養成
 将来の学術研究の水準は、研究者の養成・確保にかかっている。特に、@独創性、A国際性、B新しい研究分野への積極的な対応、C豊かな人間性、を備えた優れた若手研究者の養成・確保が、学術研究の基盤強化と発展にとって最も重要な課題である。
 (4) 「ポストドクター等一万人支援計画」の推進
 次代を担う独創的で優れた若手研究者を養成・確保するため、ポストドクター(博士課程修了者)等の若手研究者を平成十二年度までに約一万人支援する「ポストドクター等一万人支援計画」を、文部省をはじめ関係省庁が八年度から推進している。
 文部省では、日本学術振興会の特別研究員や未来開拓学術研究推進事業のリサーチ・アソシエイト等により、平成九年度は五千七百一人(対前年度一千百四十五人増)を支援することとしている(第4図参照)。
 (5) 研究支援者の確保
 文部省の「大学の研究者をとりまく研究環境に関する調査」によれば、大学等における常勤の研究補助職員、技術支援職員、事務支援職員は、一人当たり、それぞれ約十一人、約九人、約八人の研究者を支援しており、非常勤一人当たりでは約十四人、約二十五人、約十三人である。また、研究支援者が不足していると回答した研究者は、全回答者の約七〇%に上る。
 文部省では、国立大学等が行う研究プロジェクト等の効果的な促進を図るため、平成九年度に、@リサーチ・アシスタント(RA)経費、A研究支援推進経費、B非常勤研究員経費、の大幅な拡充を図った。

2 研究費の拡充
 (1) 大学等の研究費の現状
 総務庁の「科学技術研究調査」によれば、我が国全体の研究費(人文・社会科学を含む。)は、平成七年度で十四兆四千八十二億円に上る。このうち、「会社等」が九兆三千九百五十九億円で全体の六五・二%を占め、「大学等」(大学共同利用機関、短期大学、高等専門学校を含む。)は二兆九千八百二十二億円で二〇・七%を占める。我が国全体の研究費は、昭和六十一年度の九兆一千九百二十九億円と比べると、十年間で約一・六倍になっているが、各研究主体別の割合に大きな変動はない。
 また、研究費の性格(基礎研究、応用研究、開発研究)を見ると、「大学等」においては研究費の五三・〇%が基礎研究に、「研究機関」、「会社等」においては、それぞれ五四・四%、七一・三%が開発研究に支出されており、「大学等」は、学術研究の中心として、基礎・応用研究に重点を置き、「研究機関」及び「会社等」は、実用化・製品化を目的とする応用・開発研究を中心としていることが分かる(第5図参照)。
 (2) 文部省の研究関係予算の概要
 我が国全体の研究関係予算(科学技術関係経費)額は、平成九年度で三兆二十八億円である。このうち、文部省は一兆二千八百九十億円で全体の四二・九%を占め、科学技術庁は二四・五%、通商産業省は一五・七%である。
 科学技術関係予算は一般会計及び特別会計の科学技術関係費からなるが、文部省の一般会計予算では、科学研究費一千百二十二億円、日本学術振興会への補助金・出資金三百九十億円、公立大学関係費十九億円、私立大学関係費一千五百六十億円など三千二百四十一億円を、特別会計予算では、国立大学等関係費として、人件費、教官当たり積算校費、施設整備費など九千六百四十八億円を計上している。
 また、公私立大学関係費については、一般会計によって措置され、これらの大学の重要な機能を踏まえた助成等を行っている(第6図第7図参照)。
 以下においては、科学技術基本計画の分類(競争的資金、重点的資金、基盤的資金)により、文部省の研究関係予算のうちの大学等の研究費について説明する。
 (3) 競争的資金の拡充
 競争的資金とは、研究者又は研究者グループ等に対し、適切な審査・評価に基づいて選択的に配分される資金で、科学技術基本計画においては、その大幅な拡充を図ることとされている。
 (ア) 科学研究費
 我が国の学術研究を振興するため、人文・社会科学から自然科学までのあらゆる分野における優れた独創的・先駆的な研究を格段に発展させることを目的として、研究者又は研究者グループが計画する基礎的研究のうち、学術研究の動向に即し、特に重要なものを取り上げて研究費を助成するものであるが、平成九年度は一千百二十二億円を計上している(第8図参照)。
 (イ) 未来開拓学術研究推進事業
 特殊法人等への出資金を活用した基礎研究推進制度が平成八年度に創設され、文部省(日本学術振興会へ出資)をはじめ七省庁で実施されているが、九年度は合計約五百六十九億円を計上している。
 「未来開拓学術研究推進事業」は、日本学術振興会が自ら又は大学等に委託して応用的な学術研究を行うもので、社会からの期待にこたえ、大学等の学術研究機関における研究者が中心となり、必要に応じて産業界等との協力を得て行われる大学主導の研究を実施している。また、ポストドクター段階の若手研究者をリサーチ・アソシエイトとして研究に参加させ、研究の推進と同時に若手研究者の育成を図っている。
 (4) 重点的資金の拡充
 重点的資金とは、ビッグサイエンスやプロジェクト研究など、国として重点的に推進する研究開発のための資金で、文部省関係では、基礎研究の重点的推進のための経費等が該当する。科学技術基本計画においては、競争的資金の拡充と併せ、このような資金の拡充を図ることとされている。
 (5) 基盤的資金の充実
 基盤的資金とは、研究者が基盤的な研究活動を着実かつ効果的に推進するために経常的に使用する研究資金や研究施設・設備の運営に係る経費で、文部省関係では、国立大学等における教官当たり積算校費や私立学校等に対する経常費補助金が代表的なものである。科学技術基本計画においては、このような経費の充実を図ることとされている。
 (6) 大学における研究費に関する調査結果
 平成八年度における大学等の研究者に対するアンケートによる「大学の研究者をとりまく研究環境に関する調査」の結果の関係部分を紹介する。
 (ア) 個人研究費の概況
 財源別に見ると、大学当局から配分された基盤的研究費が全体の三四・一%を占め、次いで科学研究費が二七・九%、民間企業からの研究費が一四・八%、文部省以外の省庁・特殊法人等からの研究費が一二・一%、研究助成財団や地方公共団体等からの研究費が一一・〇%である。
 研究分野ごとに見ると、人文・社会科学系では、大学当局から配分された研究費が六〇・〇%を占め、依存度が高いのに対し、自然科学系、複合領域系等では、それぞれ二九・一%、四五・六%で、比較的分散している。
 (イ) 研究費充実のために有効な手段
 「研究費を充実するには、政府支出の増加のほかに、財源の多様化、大学の自助努力等によることが考えられますが、どのようなものが早急に有効な手段と思いますか」という設問に対する回答として、「研究助成財団からの導入促進」が、研究分野を問わず、六〇%前後で最も多い。次いで、「民間企業からの導入促進」が全体で四二・六%となっているが、人文・社会科学系が二六・九%、自然科学系が五二・〇%で、かなりの差が見られる。

3 研究施設・設備の整備
 (1) 研究施設
 文部省では、国立大学や大学共同利用機関における学術研究振興のための施設需要に対応するため、次のような施策を推進している。
 @ 教育研究機能の高度化を図るための新キャンパス構想の推進
 A 基礎研究の重点的推進を図るための大型ヘリカル実験装置、大型光学赤外線望遠鏡ドームの整備
 B 出資金等の交付期間中のみ集中的に研究できる共同研究の場の提供や、弾力的・流動的研究施設としての先導的研究オープンセンターの整備
 C 地域共同研究センター、ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー等の整備
 一方、老朽施設の近代化及び研究用スペースの改善を基本に、研究施設の整備を計画的に進める必要がある。
 今後の施設の在り方としては、共同利用の一層の促進、外部の機関との連携など、新たな発想に立つことも必要である。
 (2) 研究設備
 実験的研究の高度化・精密化・大型化に伴って実験設備の重要性が高まる一方、理論的研究や人文・社会科学系研究でもコンピュータ等の研究設備の利用が不可欠となっており、文部省では、大学等の研究設備の充実に努めている。

4 学術研究に不可欠な情報や資料の整備
 (1) ネットワークの整備
 文部省では、学術情報センターを中心に全国の大学等の間を結ぶ、学術情報ネットワーク(SINET)の高速化、国際接続の拡充を進めている。接続機関は、平成九年三月現在で大学三百六十四(国立八十九、公立三十八、私立二百三十七)、その他の機関二百四十九の計六百十三機関である。また、大学等の学内の各種コンピュータ間を接続する、キャンパス情報ネットワーク(学内LAN)は、移転予定の大学を除くすべての国立大学や大学共同利用機関に整備されている。
 (2) データベースの整備
 文部省では、大学等の研究者や学会等が作成するデータベースに対して、科学研究費(研究成果公開促進費)により助成を行うとともに、事業化が可能なものについては、その分野の中核となる機関に予算措置を行っており、学術審議会学術情報部会が平成九年六月に取りまとめた「学術情報データベース整備の推進方策について(中間まとめ)」等を踏まえて、拡充・改善等を図ることとしている。
 (3) 大学図書館における電子化の推進
 大学図書館は、大学の教育研究活動の基盤組織として極めて重要な役割を果たしているが、文部省では、科学技術基本計画や学術審議会の答申・建議等を踏まえ、電子図書館的機能の整備・充実などを推進している。
 (4) 研究成果の普及
 文部省では、学会誌・論文集の刊行、優れた学術図書の刊行、学術図書の外国語への翻訳等及び研究成果を普及させるためのデータベースの作成等に対し、科学研究費により助成を行っている。
 昭和六十一年度からは、文部省の支援により、科学研究費等による最新の研究成果や研究動向を広く普及・紹介するための公開発表の場として、「大学と科学」公開シンポジウムが開催されている。
 (5) 学会活動の充実
 文部省では、学会が行う学会誌・論文集の刊行、データベースの作成、青少年や社会人を対象とする学術シンポジウムや国際会議の開催、学術用語の標準化等に要する経費を助成し、また、学会活動を行う公益法人(学会法人)について、一定の要件の下に特定公益増進法人に認定するなどの支援を行っている。
 (6) 学術用語の制定・普及
 文部省では、昭和二十二年以降、関係学会の協力を得て、学術審議会の答申・建議に基づき、各専門分野ごとに学術用語を制定し、「学術用語集」として編集・刊行するなど、その普及に努めている。
 (7) 生物遺伝資源の収集・保存・提供
 文部省では、平成九年度に、我が国における生物種ごとの系統保存事業に中心的な役割を果たす「生物遺伝資源センター」、各種生物遺伝資源に関する情報の総合的な収集・発信、系統保存に関する総合的調整を行う「生物遺伝資源情報総合センター」を新設・整備した。
 (8) 動物実験施設の整備
 文部省では、昭和四十六年度以降、医学部を有する大学に近代的な集中管理型の動物施設の整備を進めている。また、学術審議会学術資料部会が平成九年七月に取りまとめた「遺伝子操作動物の保存と供給及び開発について(報告)」を踏まえ、脳科学研究をはじめとする生命科学の推進に不可欠な遺伝子操作動物に関する保存、供給、開発及び教育訓練を行うセンターの整備を推進することとしている。
 (9) ユニバーシティ・ミュージアムの整備
 学術審議会学術資料部会報告「ユニバーシティ・ミュージアムの設置について」(平成八年一月)においては、大学等の学術標本を整理、保存、公開・展示し、情報提供するとともに、これを対象に組織的に独自の研究教育を行い、また、「社会に開かれた大学」の窓口として、多様な学習ニーズに対応できるユニバーシティ・ミュージアムの設置が必要であると提言されている。
 文部省では、この提言に基づき、平成八年度に東京大学総合研究博物館、九年度に京都大学総合博物館を設置した。

<第2節> 学術研究の推進を担う研究組織の機能を高めるために

1 卓越した研究拠点−センター・オブ・エクセレンス(COE)−の形成
 (1) 背 景
 学術審議会答申「二十一世紀を展望した学術研究の総合的推進方策について」(平成四年七月)において、初めてCOEの形成という課題が取り上げられ、平成七年七月には、建議「卓越した研究拠点(センター・オブ・エクセレンス)の形成について」が取りまとめられた。
 (2) 建議の概要
 COEを「創造性豊かな世界の最先端の学術研究を推進する卓越した研究拠点」と定義するが、その組織単位は、@組織構造が明確で比較的大規模な研究組織型、A複数の研究組織が緩やかに結合した集合体型、B優れた研究者を中心に研究者の集合したグループ型、C施設・設備の共同利用を中心とする共同利用型、に分類される。
 今後、既にCOEと呼び得るような優れた研究環境を備え、卓越した研究実績を上げている組織も含め、様々な分野においてCOEを積極的に整備していく必要がある。
 COEの形成に当たっては、自らCOEを目指して努力している研究機関・組織等を積極的に支援していくことが必要であるが、一層の発展・充実を図るためには、@中核的研究拠点形成プログラム、A研究環境高度化支援プログラム、B中核的研究機関支援プログラム、を用意する必要がある。
 (3) COE形成関連予算
 文部省では、前記の三プログラムを実施するため、研究費、施設・設備費、特別研究員・外国人特別研究員経費、国際シンポジウム経費等を計上し、COEを目指している研究機関・組織等を積極的に支援している。

2 研究組織の弾力化・流動化
 (1) 研究組織の新たな展開
 研究内容の多様化、複合化等が進展している状況の中で、研究組織が常に活性化した状態を維持できるよう、文部省では、国立の大学等について、@大部門制の導入、A流動的な研究組織の設置、B研究者の流動化を促進するための研究部門の整備、C共同利用化の促進、D国際的な研究拠点の整備、などを積極的に推進している。
 (2) 研究者の任期制の導入
 研究者の流動性を高め、大学等における研究の活性化を図る一方策として、それぞれの大学等の判断により任期制を導入できる選択的任期制を内容とする「大学の教員等の任期に関する法律」が、第百四十回通常国会(平成九年)で成立した。

<第3節> 国際的な学術交流・協力を推進するために

1 学術国際交流の意義
 近年、我が国の大学等における学術国際交流は、著しく進展しているが、その要因としては、@学術の大型化・高度化、A全地球的立場での取組の必要性、B異なる思考や研究手法を通じた研究の活性化、C学術を通じた国際貢献の必要性、などが考えられ、これらは、今後ますます顕著になっていくものと予想される。

2 多様な学術国際交流の枠組み
 (1) 国際機関、国際学術団体等との協力
 我が国は、国際学術連合(ICSU)等の国際学術団体などが主導する国際共同研究計画のほか、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の科学分野の事業活動等や、経済協力開発機構(OECD)の科学技術政策に関する委員会や作業グループなどに積極的に参加・協力している。
 (2) 二国間協力
 我が国は、現在、三十二か国と科学技術協力協定(取極)を有しており、合同委員会の開催や、共同研究プロジェクトのレビュー(評価)などを行っている。また、平成八年四月に東京で開催された日米首脳会談においては、両国間の若手研究者交流の促進や研究協力を行うことについて意見の一致をみた。
 文部省では、これらへの参加・協力、支援の拡充等を行っている。

3 学術国際交流の動向
 (1) 研究者交流の推進
 文部省では、「ポストドクター等一万人支援計画」の一環として、日本学術振興会による海外特別研究員制度、外国人特別研究員制度等の事業を行っている。
 (2) 学術情報の国際交流の推進
 文部省では、海外で開催される国際研究集会への研究者の派遣や国立大学等が開催する国際シンポジウムに対する経費の援助などを実施している。
 (3) 国際共同研究事業の推進
 文部省では、科学研究費(国際学術研究)により、大学等の研究者グループが実施する共同研究や学術調査を支援している。また、日本学術振興会のアドバンスト・リサーチ(先端研究)国際協力事業や日欧科学協力事業により、共同研究・セミナーが実施されている。
 欧州原子核研究機関(CERN)の大型陽子・陽子衝突型加速器(LHC)の建設に対し、我が国は拠出金の支出、測定器の開発等により貢献している。
 (4) アジア諸国等との学術交流の推進
 日本学術振興会では、「拠点大学方式による交流」、「論文博士号取得希望者への援助」事業等により、アジア諸国等との学術交流を推進している。

4 学術国際交流・協力の推進に当たっての基盤整備
 (1) 国際的に高度な水準を有する国内研究基盤の整備
 諸外国の研究水準に十分対応できるよう、基盤整備に努めるとともに、特に、COEを形成していく必要がある。また、我が国における研究経歴が世界的に評価されるよう、我が国の研究水準を一層高めるとともに、情報発信機能を高める必要がある。
 (2) 外国人研究者の受入れ体制の整備・充実
 外国人研究者に対するきめ細かな対応をするため、国際交流担当事務組織の整備と担当職員の研修を充実させる必要がある。また、国立大学等の外国人研究者用宿泊施設の計画的整備を図る必要がある。
 (3) 日本学術振興会の整備・充実
 日本学術振興会は、対応する諸外国の機関と比較すれば、人的体制が未整備であり、今後、整備・充実を図る必要がある。

<第3章> 学術振興の新たな展開

<第1節> 重点的な研究推進システムの活用に向けて

1 基本的考え方
 文部省では、@研究分野全体にわたる持続的な整備、A特定の研究課題の重点的な推進、の二つのシステムをバランスをとりながら運用して、学術の振興を図っているが、近年における社会の要請の変化に機敏に対応するため、重点的な研究推進システムの一層の整備・活用が重要となっている。

2 重点的な研究推進システムの現状
 重点的な研究推進システムの代表例としては、加速器科学、宇宙科学、天文学、核融合研究などの大型研究(ビッグサイエンス)があるほか、科学研究費等による@特別推進研究、A重点領域研究、B新プログラム方式による研究、C中核的研究拠点(COE)形成プログラム、日本学術振興会への出資金によるD未来開拓学術研究推進事業、があるが、ここでは、@からBまでについて説明する。
 (1) 特別推進研究
 我が国における独創的・先駆的基礎研究を伸ばすことを目的とし、一人又は比較的少数の研究者による研究計画に対して多額の研究費を三年から五年にわたって交付するものである。
 (2) 重点領域研究
 研究者集団からの要請を踏まえて、新たに展開されるべき先駆的研究領域に対し、時機を逸することなく、当該領域の実状、研究内容等に応じ、単年度当たり五千万円から六億円程度、三年から六年の範囲内で、重点的に研究費を交付するものである。
 (3) 新プログラム方式による研究
 学術審議会の意見を聞きつつ、国において推進すべき研究分野等を機動的、弾力的に設定し、重点的に研究者、研究費等を投入することにより、学術研究の発展の基礎となるような研究の積極的な振興を図るもので、平成二年度から実施されている。

3 今後の方向と課題
 (1) 研究分野の選定
 重点的な研究推進を図るべき研究分野をより的確に見出していくためには、内外における研究動向や各研究分野の研究費をはじめとする研究条件の現状を把握するとともに、研究者を中心とする各方面の意向を適切に反映させるため、学術審議会の機能を充実させていく必要がある。また、同審議会における検討を経て、新たな重点的な研究推進システムを構築することが必要である。
 (2) 地球環境科学の推進
 平成七年四月の学術審議会建議を踏まえ、研究者による「地球環境科学に関する中核的研究機関のあり方に関する研究」の報告書が平成九年三月に取りまとめられたが、その概要は、左記@からBのとおりである。
 文部省では、これらを踏まえ、更に具体的な検討を行うとともに、中核的研究機関の実現に向けての取組を行うこととしている。
 @ 地球環境問題に関する研究は、蓄積されつつあるものの、これまでは、従来の学問分野の枠組みにとらわれ、分野間の十分な交流や協力のないまま進められてきた。
 A 関連諸分野におけるこれまでの取組に加え、新たな発想と視点の下に、地球環境問題の本質解明と理解及びこれに基づく問題解決を軸に据えて、人文・社会科学から自然科学までの幅広い学術研究を総合化することにより、「地球環境科学」という新たな問題解決型の総合科学を速やかに構築するとともに、そのための総合的な研究を推進する中核的研究機関を設立することが必要となっている。
 B (@)人間圏と地球システムの相互作用、地球環境変動メカニズムの解明、(A)人間活動が引き起こす地球環境変動の予測、(B)地球環境問題を引き起こす人間及び文明の在り方の考究、(C)地球環境問題への対応策、(D)地球環境問題の地域における研究、を軸に進めることが考えられる。
 (3) 情報に関する研究の推進
 平成九年七月、学術審議会情報学部会は、「情報学研究の推進方策について(中間まとめ)」を取りまとめたが、その概要は、左記@からBのとおりである。なお、同年五月、日本学術会議において、計算機科学に関する中核的研究所の創設について勧告が行われている。
 文部省では、これらの提言を踏まえて、大学院の拡充や、中核となる研究機関の実現に向けての取組を行うこととしている。
 @ 情報に関する研究は、近年、生命科学や人文・社会科学の分野まで幅広く関係を持つようになっており、また、生み出された概念やコンピュータなどの技術は、今日、ほとんどすべての学問分野に活用され、その発展や、新たな分野の創出に貢献している。
 A 我が国における研究の現状を見ると、ハードに関する技術面では世界をリードしているが、ソフトに関する分野については、特にアメリカに比べ著しく遅れている面があると言われている。大学についても、研究組織は相当程度整備されてきているものの、研究教育内容や教員構成に偏りの見られる例が少なくなく、研究者数や学生数も十分ではないとの指摘がある。
 B (@)情報分野の中核的な研究機関の設置、(A)大学学部・研究科の一層の充実、(B)人文・社会科学系まで含んだ情報に関する学問の体系化に向けての研究、(C)情報関連分野への研究費の重点的な支援、が求められている。
 (4) 人文・社会科学研究の推進
 学術審議会においては、昭和四十八年、五十九年及び平成四年の基本答申の中で、特に人文・社会科学分野を取り上げ、その特性に配慮した振興の在り方について提言を行ったほか、七年三月には「人文・社会科学研究の推進について」が取りまとめられた。また、科学技術基本計画は、自然科学と人文科学の調和のとれた発展に留意することを求めている。
 これを踏まえ、人文・社会科学の特性に配慮しつつ、重点的な研究推進システムを活用することが求められている。

<第2節> 新しい産学連携・協力を目指して

1 産学連携・協力への期待の高まり
 近年、社会の各般から、大学の学術研究に対し、産業界等との連携・協力等について、期待と要請の声がこれまでになく寄せられており、大学がこのような期待に対して使命の一つとしてこたえ、積極的に貢献していくことが求められている。同時に、大学が外部から新鮮な刺激を受けることは、研究の活性化などにつながるとともに、人類の知的共有財産の蓄積や国民経済の発展に資するものと考えられる。
 科学技術基本計画等においても、産学連携・協力による研究の推進が求められている。

2 現状及び実績
 (1) 文部省における諸制度の整備
 国立大学等については、@民間等との共同研究制度、A受託研究制度、B委託研究員制度、C奨学寄附金委任経理金制度、D寄附講座・寄附研究部門の開設、E共同研究センターの設置といった諸制度を設けており、産業界との研究協力に伴って導入される資金を公的資金として受け入れることにより、国立大学等と産業界等との研究協力を積極的に進めている(第9図参照)。
 (2) 外部組織による産学の連携・協力体制
 (ア) 日本学術振興会の産学協力事業
 日本学術振興会では、学界と産業界の第一線の研究者による、「総合研究連絡会議」、「研究開発専門委員会」、「産学協力研究委員会」を設けて、産学協力の新分野を開拓する場を提供している。
 (イ) 研究助成法人等の活動
 産業界等からの寄附金などにより、学術研究に関する研究助成を主な事業とする公益法人等として、平成九年五月現在、百三十二の財団法人と三十二の公益信託が活動を行っている。

3 調査研究協力者会議における検討
 平成八年二月に設けた「産学の連携・協力の在り方に関する調査研究協力者会議」において、九年三月、「新しい産学協働の構築を目指して」と題するまとめが作成・報告された。

4 制度改善の状況
 文部省では、前記協力者会議の検討、教育改革プログラム等に基づき、国立大学等に関し、次のような制度改善を実施した。
 (1) 民間企業等において共同研究できる場合の拡大
 平成九年度から、共同研究のために必要な場合には、相手方企業等の施設に出張して研究を行うことができることとした。
 (2) 退職手当算定上の不利益解消
 休職して共同研究に参画した教員が、退職手当計算上の経済的不利益を被らないこととする「教育公務員特例法の一部を改正する法律」が、平成九年四月に公布された。
 (3) 兼業の範囲の拡大
 平成九年度から、教員が勤務時間外に営利企業において研究開発等に従事する場合の兼業について、原則として許可することとした。
 (4) 特許等の相手方企業等への優先的実施期間の延長
 平成九年度から、共同研究等の結果生じた発明で国に帰属する特許等について、相手方企業が優先的に実施できる期間を、出願時から十年に延長するとともに、必要に応じ、さらに延長できることとした。
 (5) 諸手続の改善
 平成九年度から、国際機関や外国の団体等から受託研究や奨学寄附金に係る経費を受け入れる場合の文部大臣協議を不要とした。
 (6) 産学の連携・協力推進のための税制措置
 平成九年度税制改正において、大学と民間企業等との共同研究に係る試験研究費に関し、大学への支出について税額控除する措置を十一年三月末まで延長するとともに、新たに、自社内での支出についても適用することとされた。

5 今後の推進方策
 今後は、@大学教員の特許取得に向けてのインセンティブと支援、A知的財産の運用収入の還元、B特許等を民間企業等に仲介するリエゾン機能の整備、C研究コーディネーターの育成、といった課題を中心に検討することが求められており、平成九年六月から開催されている「産学の連携・協力の推進に係る調査研究協力者会議」及び「産学の連携・協力の推進に係る関係省庁会議」において検討が進められている。

<第3節> 学術研究に対する評価を充実させるために

1 研究評価の意義・重要性
 近年、研究予算が拡大し、研究費が高額化する中で、国費の有効使用あるいは国民に対する説明責任などの観点から、大学における学術研究や国の研究機関における研究開発に対する評価についての関心が高まり、従来にも増して評価の充実が強く求められている。
 学術研究は、@研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として行われるため、研究の目的、性格、規模、方法等は極めて多様で、Aその成果の中には、長い年月を経て予想外の発展を導くものも多いため、その評価に当たっては、画一的・短期的な視点から、目に見える成果のみを性急に期待するような姿勢ではなく、研究者の研究活動を刺激し、助言を与え、激励するという姿勢が重要である。

2 研究評価の現状
 学術研究においては、従来から、研究者間の学問的な相互評価(ピアレビュー)が有効に機能し、厳正な評価が行われている。
 (1) 研究課題評価
 科学研究費における評価については、従来から、学術審議会が厳正な評価のための組織としての機能を果たしており、科学研究費分科会では、約二千名の専門研究者が審査員として評価に当たっている。
 評価システムについても、研究資金が高額の場合の中間・事後評価、審査員全員の氏名の審査終了後の公表、一部についての不採択理由の開示などの改善が積極的になされている。
 (2) 研究機関評価
 平成三年の大学設置基準等の改正以降、各大学等における教育研究活動等の状況についての自己点検・評価が大部分の大学で実施され、結果が公表されている。また、学外者による評価を導入する大学は、ここ数年で急速に増えている。
 大学共同利用機関や全国共同利用の国立大学附置研究所では、外部の研究者や有識者により構成される評議員会(大学共同利用機関)や、同一の研究分野の研究者を含む運営協議会(大学共同利用機関)・共同利用施設運営委員会(全国共同利用の国立大学附置研究所)等において、研究教育活動についての評価も行われている(第10図第11図参照)。

3 研究評価システムの整備
 学術研究は、広範かつ多様であり、研究課題の評価においては、当該研究の目的、性格、方法、規模、期間、分野等に対応して、また、研究機関の評価については、その設置目的、研究分野等に対応して、@評価者、A評価時期、B評価指標、C評価支援体制、D評価結果の取扱い、の各項目について、適切な評価システムを整備する必要がある。

4 研究評価の一層の充実に向けて
 (1) 評価に関する大綱的指針の策定
 科学技術基本計画に基づき、科学技術会議が原案を作成し、平成九年七月の内閣総理大臣への意見具申を経て、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」が策定(内閣総理大臣決定)され、国費を用いて実施される研究開発全般について、評価を実施する上でのガイドラインとしての役割を果たしている。
 (2) 学術審議会における検討
 平成四年七月の学術審議会答申「二十一世紀を展望した学術研究の総合的推進方策について」において、「各研究組織において定期的に自己点検・評価を行い、不断に改善への努力を行っていくことが重要である」ことなどが指摘されており、以来、学術研究体制特別委員会において引き続き審議が行われ、九年七月に「学術研究における評価の在り方について(中間まとめ)」を取りまとめた後、関係各方面からの意見を求め、建議の取りまとめに向けて審議が行われている。

<第4節> 学術研究に対する国民の理解と学習機会の充実のために

1 科学技術の高度化と研究者の責務
 科学技術の高度化・精密化や学問の専門分化の進展等に伴い、先端的な学術研究や技術開発と倫理・価値観が交錯した社会問題が提起され、国民に安全性、有用性と問題点を説明し、社会的合意を得ながら取り進めていくことが求められる事例も生じている。
 研究活動は、社会との相関関係の中で行われる営みであり、研究者は、自らの研究活動や成果が有する社会的な意味や影響を考慮しながら研究を遂行するとともに、その内容や成果の社会への発信や説明に努めることが求められている。

2 人類の知的資産の享受と継承の必要性
 人類の知的資産である学術研究の成果は、より多くの人々に享受されるとともに、継承、発展されなければならない。そのためには、学術・科学技術について多様な学習機会が全国民に提供されるとともに、児童・生徒・学生の関心や学習意欲を高めるよう、理科・技術教育の充実や、社会教育における科学技術に対する理解の増進が図られなければならない。

3 文部省における取組
 (1) 学校教育における理科教育・技術教育の充実
 理科教育については、観察・実験を通して自然に対する科学的な見方や考え方、関心・態度などを育成することを重視する観点から、学習指導要領の改善等を図ってきた。
 技術教育についても、実践的・体験的な学習の一層の充実を図るとともに、産業教育の進展等に伴う教育内容の変化に対応した高等学校実験・学習の施設・設備の整備を図っている。
 平成八年度からは、理科への興味・関心を高める方策等について実践研究を行うモデル地域を新たに指定するとともに、地方において教育研修の中核となる教育センターについて、理科教育設備を整備している。児童生徒の科学的な体験学習を促進するための科学学習センターの整備も進めている。
 また、教員免許状を必要としない特別非常勤講師を公立小・中学校に配置して、生徒が研究者や技術者等に触れる機会の拡充を図っている。
 (2) 科学に親しむ多様な機会の提供
 博物館と学校、関係機関等が連携・協力する様々な事業をモデル的に実施し、その成果を全国に普及させる事業を平成九年度から実施し、また、自然科学系博物館等に勤務する学芸員等を対象とした専門研修を実施するとともに、博物館や青年の家、少年自然の家等を活用した、青少年に対する科学教室等の特別事業の研究開発を進めている。また、放送大学の全国化の推進を図っている。
 国立科学博物館では、青少年や家族等を対象に科学教室や野外観察会を行うなどの教育普及活動を行っている。
 また、大学・高等専門学校において体験入学事業を実施しているほか、青少年等を対象に、講演・実験等を行う講師等の協力者を「サイエンス・ボランティア」として登録するための名簿の作成及び提供を行っている。
 さらに、@科学研究費等による研究成果を公開・発表する「大学と科学」公開シンポジウムの開催や、A学会や民間学術研究団体が青少年や一般社会人を対象として行う学術講演会等の開催に必要な経費の助成、を行っている。また、研究施設を一般市民に公開し、研究活動の紹介や講演会などを実施する大学の研究所や大学共同利用機関も多い。
 (3) 学術審議会における対応
 学術審議会の運営の透明性を確保するため、平成九年三月から、原則として議事録を公開するなどの措置をとっている。
 一方、大学等のクローン研究における新たな倫理問題について調査審議を行うため、同審議会にワーキンググループを設置し、平成九年六月から検討を行っている。

<第4章> 学術研究をめぐる内外の動向

<第1節> 我が国の研究水準

1 学術論文数から見た研究水準
 平成八年に学術情報センターから発表された「学術論文数の国際比較調査」は、四種の論文抄録データベースを用いて採録論文数の動向を七か国の国別、年次別に分析している。このデータを用いて、一九七八(昭和五十三)年から一九九三(平成五)年までについて、三年ごとに各国の論文数を計算した結果によれば、我が国は、INSPECに基づく理工学分野に関して論文数の占有率を七%から一〇%へ上昇させ、国別順位を第四位から第二位まで向上させるなど、躍進が著しい(第1表参照)。

2 論文引用回数から見た研究水準
 アメリカの統計データベース(National Sci‐ence Indicators on Diskette, 1981―1996)を用いて、一九八一(昭和五十六)年から一九九六(平成八)年までに発表された十九分野の学術論文について、比較分析した結果は、次のとおりである。
 各国別の論文引用回数は、アメリカが全分野で第一位を確保しているが、近年、我が国は多くの分野で第二位又は第三位となっている。
 全分野での論文引用回数は、アメリカが全世界の約半分を占めているものの、漸減傾向にあるのに対し、我が国は、ドイツ、フランスとともに漸増傾向にある。我が国の論文引用回数の割合は、この十五年間で約三〇%増え、ヨーロッパ諸国に比肩し得る状況にある(第12図第13図参照)。

3 研究者の主観から見た研究水準
 最近の日本の研究水準の印象を欧米諸国と比較して五段階で評価したらどうなるかについて、我が国の五百人の研究者に尋ねた結果によれば、「同じ研究水準にある」(三二%)、「日本の研究水準がやや高い」(三〇%)、「日本の研究水準が高い」(一八%)と、総じて、我が国の大学等の学術研究は世界的水準に達しているとの印象を持つ人が多くなっている。

4 着実に向上している我が国の研究水準
 論文数の比較では、我が国は全体として、アメリカに次いで第二位、又は第二位のイギリスとほぼ同程度の第三位の水準にある。全分野でヨーロッパ諸国の水準に達し、多くの分野でこれを凌駕する状況にある。また、論文数の増加率では、全分野で欧米諸国をはるかに凌いでいる。
 Science Citation Index は、「権威ある学術雑誌」(現在、約四千誌)に掲載された論文によって構成され、このデータベースにおける採録論文数の割合の増加は、その国の研究の質の向上を意味しているが、我が国は、多くの分野でその割合を増し、全般的な研究の質の向上が確認できる。
 論文引用回数の比較でも、一九九〇(平成二)〜九四(平成六)年の時点で、我が国は、採録分野全体でアメリカ、イギリス、ドイツに次いで第四位となっている。
 なお、これらのデータベースに関して、採録対象の大部分がアメリカの学術雑誌であったり、日本語の論文がほとんど採録されない(できない)などのほか、我が国からの情報発信が不十分で、外国の論文に引用されにくい一方、外国人の論文を引用する傾向もあるため、論文引用回数は外国と比べて多くならないのが実状である。
 これらを考え合わせると、我が国の研究水準は、アメリカには及ばないものの、ほとんどの分野において欧州諸国に比肩する成果を上げており、今後さらに学術研究基盤の整備を図ることにより、一層の向上が期待される。

<第2節> 各研究分野の動向

 各研究分野の動向の的確な把握は、学術政策の企画・立案に不可欠である。
 平成八年度から九年度にかけて各分野の研究者に対するアンケート調査を実施し、第一線の研究者が調査や分析を加えた「我が国の学術研究の動向に関する調査」結果において、分野横断的に見られる特徴としては、@総合性、学際性が追求され、倫理にかかわる問題を含め、自然科学と人文・社会科学との対話・協力も重視される傾向の中で、例えば地球環境科学、「情報学」の発展・構築が進められていること、Aコンピュータを中心に情報化が進展する中で、実験を行いにくい研究についても、より精密なシミュレーションが可能となる一方、広範な分野で情報技術の活用が進んでいること、B非線形・非平衡の「複雑系の科学」など、新たなパラダイムの構築への取組が行われていること、などがある。

<第3節> 海外における学術政策の動向

1 経済協力開発機構(OECD)の科学技術政策委員会(CSTP)・科学システムグループ(GSS)における議論
 (1) OECD諸国における状況
 GSSにおいては、OECD諸国に多く見られる状況として、@政府の研究開発費の減少、A政府資金の質的変化、B産業界からの研究開発資金の増加、C経済への貢献の要請の高まり、Dネットワーク化の進展、E大学における研究の国際化、F研究者の養成・確保をめぐる問題の進行、が報告されている。
 (2) 我が国における状況の紹介等
 我が国における状況の紹介に対し、各国からは、@我が国が科学技術基本計画に沿って科学技術予算を着実に増加させていること、A基礎研究の振興に力を注いでいることに大きな関心が寄せられた。

2 主要先進国における学術政策
 諸外国の学術政策の仕組みや大学の役割、その動向等を把握することにより、国際的視野に立って我が国の学術政策を見直すこともできる。
 このような観点から行われた、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの四か国における学術・科学技術行政システム、学術政策の動向等についての調査研究の結果においては、以下のような特徴が見られる。
 @ 学術・科学技術行政の推進体制については、各国とも、各省庁・政府機関等がそれぞれの行政目的に応じた施策を実施する一方、学術・科学技術政策について、国家的見地から、提言や政策評価を行ったり、産学官や関係省庁間の連携を図ったりするための会議体や助言機関を政府内に設けている。
 なお、教育・学術・科学技術を一体的に振興する体制を整備するため、近年、ドイツは教育学術研究技術省を、フランスは国民教育高等教育研究省(一九九七(平成九)年六月に国民教育研究技術省に改称)を、それぞれ設置した。
 A 研究開発投資については、各国とも、その多くが、基礎研究を中心に、大学に投じられている。このような大学に対する研究資金の配分については、アメリカのNSF(全米科学財団)、フランスのCNRS(国立科学研究センター)のような専門機関が大きな役割を果たしている。
 B 研究評価については、外部専門家によるピアレビューが広く行われている。

<第U部> 文教施策の動向と展開


<第1章> 教育改革の推進

 国民一人一人が将来に夢や目標を抱き、創造性とチャレンジ精神を存分に発揮できる社会をつくるため、あらゆる社会システムの基盤である教育の改革を政府の六大改革の一つとして位置付け、他の五つの改革と一体となった改革に取り組んでいる。
 文部省では、平成九年一月に教育改革の具体的課題とスケジュールを「教育改革プログラム」(同年八月改訂)として取りまとめ、このプログラムに基づき、制度改正に向けた取組や関係施策の充実、審議会等における審議の促進などに取り組んでいる。
 また、文部省は、平成七年四月中央教育審議会に対して「二十一世紀を展望した我が国の教育の在り方について」諮問を行い、同審議会は、八年七月に「ゆとり」の中で子どもたちに「生きる力」をはぐくむことを基本とした第一次答申を取りまとめ、九年六月には第二次答申を行い、個性尊重の考え方に立って、大学・高等学校の入学者選抜の改善、中高一貫教育、教育上の例外措置と学習の進度の遅い子どもたちへの配慮、高齢社会に対応する教育の在り方について提言を行った。同審議会は、現在は、幼児期からの心の教育の在り方及び今後の地方教育行政の在り方について審議を行っている。
 さらに、文部省は、教育改革を推進するに当たって、規制緩和、情報公開、地方分権、行政改革、財政構造改革、経済構造改革などと連携を図りつつ、具体的な施策を展開している。

<第2章> 生涯学習社会の実現に向けて

 学歴社会の弊害の是正、学習需要の拡大及び社会経済の変化を背景として、「人々が、生涯のいつでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価される」ような生涯学習社会の構築を目指していくことは極めて重要である。
 このため、文部省は、学校教育、社会教育、文化、スポーツの振興に関し、生涯学習に資する施策を実施するとともに、関係省庁との連携・協力に努めている。具体的には、生涯学習審議会の答申等に基づき、多様で総合的な学習機会の拡充、学習活動の成果に対する適切な評価と活用、生涯学習の振興の観点からのボランティア活動の支援・推進、生涯学習についての普及・啓発など、生涯学習の振興のための取組を進めている。

<第3章> 初等中等教育の一層の充実のために

 今日の学校、家庭、地域社会の現状を踏まえ、文部省では、子どもたちの「心の教育」の在り方について中央教育審議会に諮問し、答申を得次第、それを踏まえて更に「心の教育」の充実に取り組んでいくこととしている。
 また、平成十五年度からの実施を目途とした完全学校週五日制の下での新しい初等中等教育の教育内容の在り方について、「ゆとり」の中で、一人一人の子どもたちに「生きる力」を育成する観点から、教育課程審議会において検討を進めている。
 さらに、いじめや登校拒否の問題は、依然として憂慮すべき状況にあり、その解決が重大な教育課題となっている。文部省においては、@家庭・学校・地域社会の連携の推進、A一人一人を大切にし、個性を生かす教育の実現、B教員の資質の向上、C教育相談体制の充実等の施策を総合的に推進している。
 一方、教員については、養成・採用・研修の各段階を通じた総合的な方策を図る必要があることから、教育職員養成審議会第一次答申を踏まえ、速やかに教育職員免許法の改正など所要の措置を講ずる予定である。
 また、各地域において教育改革の推進を担うべき教育委員会の活性化を図る観点から、総合的かつ積極的な地方教育行政が展開できるシステムづくりが求められており、文部省では協力者会議の論点整理も踏まえ、中央教育審議会において検討を進めている。
 このほかにも、文部省では、中央教育審議会の答申を踏まえ、高等学校教育の改革や入学者選抜の改善、中高一貫教育の導入のための制度改正など、初等中等教育の充実に努めている。
 また、学校給食におけるO157等による食中毒の発生防止については、衛生管理の専門家による協力者会議の報告を踏まえ、施設面の改善充実や関係者の意識改革を図るなど、衛生管理の徹底を図っている。さらに、覚醒剤等の薬物乱用の危険性、有害性を的確に理解させるよう薬物乱用防止に関する指導の充実を図ることとしている。

<第4章> 高等教育の多様な発展のために

 我が国が今後一層の発展を遂げ、国際的にも貢献していくためには、人材の養成と学術研究の振興を担う大学等の充実と改革を不断に推進することが必要である。
 このため、文部省では、大学設置基準の大綱化等を図り、各大学等における改革への取組を支援・促進するとともに、高等教育の一層の改善方策等について、大学審議会での検討を進めており、こうしたことを受け、多くの大学等でカリキュラム改革など様々な取組が行われている。
 また、創造性豊かで時代の変化に柔軟に対応できる人材の育成等の観点から、インターンシップを推進するとともに、これからの科学技術を支える理工系人材の育成を図るため、各種の施策を推進している。医療人の育成に関しても、二十一世紀医学・医療懇談会の三次にわたる報告を踏まえながら、医療人育成施策を推進していく体制を整えていくこととしている。
 学生の就職支援については、平成九年度から、就職協定が締結されなくなったことから、今後は大学等側と企業側と連絡会議の場において、新卒者の就職・採用についての情報交換や研究協議が行われることになった。

<第5章> 私立学校の振興

 私立学校は、独自の建学の精神に基づく個性豊かな教育研究活動を積極的に展開しており、学校教育の発展に重要な役割を果たしている。
 このため、私立学校振興助成法の趣旨に沿って、私学助成や融資事業、税制上の優遇措置などの各種施策を実施している。平成九年度は、老朽校舎の改築を計画的に推進するための私立学校施設高度化推進事業(私学助成)を創設するとともに、私立大学における研究基盤及び研究機能の強化を図るため、中核的な研究拠点における共同研究を支援する学術フロンティア推進事業を創設するなど、私学助成の充実を図った。
 また、私立学校教職員共済組合と日本私学振興財団とを統合して、「日本私立学校振興・共済事業団」を平成十年一月に発足することとし、更なる私学振興の推進を図ることとしている。

<第6章> 社会教育の新たな展開を目指して

 近年、心の豊かさや生きがいなどを求めて、人々の学習ニーズは増大し、かつ、多様化・高度化が進んでいる。
 文部省では、こうした状況を踏まえ、現代的課題に関する学習機会の提供、人々の学習活動の拠点となる社会教育施設の活性化・高機能化、学習支援能力の高い専門的職員の育成、などの施策を実施している。
 特に、子どもたちの「生きる力」をはぐくむため、地域における体験活動の充実を図るとともに、家庭教育に関する学習機会・情報の提供等に努めている。また、社会の大人たちすべてが手を携えて、子どもたちを大切にし、心豊かにはぐくんでいく機運を醸成していくため、平成九年八月以降、「子どもと話そう」全国キャンペーンを実施している。
 このほか、男女共同参画社会の形成を目指し、女性の学習機会の提供と社会参加の促進のための施策を推進しており、さらに、青少年から高齢者まで、学習成果を生かした社会参加の促進を図っている。また、マルチメディアの教育利用に関する研究開発をはじめ、多様な教育メディアの整備・提供を実施している。

<第7章> スポーツの振興

 文部省では、国民のだれもが、生涯の各時期にわたって、それぞれの体力や年齢に応じて、スポーツに親しむことのできる豊かなスポーツライフを実現した社会を建設するため、平成九年九月の保健体育審議会の答申を踏まえ、スポーツを行う場の整備、優れたスポーツ指導者の養成・活用、様々なスポーツイベントの開催、さらに、新しいタイプの地域スポーツクラブ(総合型地域スポーツクラブ)の育成・定着を図るなど、各種の施策を推進している。
 また、競技スポーツについても、同審議会答申を踏まえながら、我が国の国際競技力の向上を図るため、ジュニア期からの一貫指導の実現などを含む「競技力向上トータルシステム」の構築やスポーツ医・科学の研究等を行う「国立スポーツ科学センター」の設置を進めるとともに、平成十年の長野オリンピック冬季競技大会やサッカーの二〇〇二年ワールドカップの準備への支援を行っている。

<第8章> 文化立国を目指して

 今日、人々は、生活の中で、文化を享受し文化活動に参加することを重視するようになり、また、経済構造が変革する中で、文化を国の存立基盤とした文化立国の実現が求められている。
 文化庁としては、ミュージアム・プラン、アーツプラン21などを含め、平成九年度中に、文化の振興の基本的な指針となる「文化振興マスタープラン」を策定するなど施策の充実に努めている。また、地域における文化の振興を図るとともに、文化財登録制度の導入など文化財の保存と活用を推進し、さらに、現代舞台芸術振興の拠点となる新国立劇場が開場されるなど国立文化施設の整備を進めている。
 このほか、時代に応じた国語施策の展開、情報化・国際化の進展に対応した著作権制度の改善及び著作権思想の普及・啓発、宗教法人制度の整備、アイヌ文化の振興など各種施策の推進に努めている。

<第9章> 教育・文化・スポーツの国際化に向けて

 国際化に対応した文教施策の展開を図る上で、国際社会で主体的に生きる日本人の育成、教育や文化面での国際交流、人づくり等に貢献する国際協力の三つの課題への取組を強化することが必要である。
 このため、@国際理解教育の推進、A語学指導等を行う外国青年の招致等による外国語教育の充実、B海外子女・帰国子女教育の充実、C留学生交流の推進、D日本語教育の振興、E芸術文化・文化財保護・著作権制度の充実に関する国際交流・協力、Fスポーツを通じた国際交流の推進、G国際協力事業団を通じた専門家の派遣やユネスコを通じた国際協力の実施など、各種の事業を推進している。

<第10章> 情報化の進展と教育・学術・文化・スポーツ

 文部省では、児童生徒の情報活用能力の育成を図るため、小・中・高等学校及び特殊教育諸学校への教育用コンピュータやソフトウェアの整備・充実を進めるとともに、学校が教育センター等を通じてインターネットに接続できるよう環境整備を進めている。高等教育分野においても、大学や高等専門学校を通信衛星で結ぶ交換授業等の遠隔教育など各種施策を推進している。また、生涯学習、学術、文化、スポーツ等の分野においても情報提供システムの整備・充実を図っている。
 文化庁では、デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した著作権制度の改善を行っており、また、平成九年五月から文化庁ホームページを開設し、国指定文化財などの文化に関する情報を幅広く提供・発信している。

<第11章> 新たな時代の文教施設を目指して

 文教施設は、様々な文教施策を展開する基盤として極めて重要な役割を果たすものである。
 このため、文部省では、各学校種ごとに「学校施設整備指針」を策定しており、また、文教施設のインテリジェント化の推進、学校施設の複合化、余裕教室の活用、情報化の進展への対応など文教施設の整備・充実に努めている。さらに、環境を考慮した学校施設(エコスクール)の基本的な考え方や方策を取りまとめるとともに、これに関するパイロット・モデル事業を実施している。
 一方、二十一世紀に向けた教育・研究環境を創造するため、国立学校施設の整備・充実に積極的に取り組んでいる。

<第12章> 防災対策の充実

 文部省では、防災対策の充実を図るため、阪神・淡路大震災における経験を踏まえ、@学校等の防災体制及び防災教育の充実、A学校施設等の防災機能の強化、B防災に関する学術研究の推進など、文教関係の防災対策に関する施策を総合的かつ計画的に推進している。


目次へ戻る

消費支出(全世帯)は実質一・一%の増加


―平成九年十月分家計収支―


総 務 庁


◇全世帯の家計

 全世帯の消費支出は、平成九年三月に消費税率引上げを控えた駆け込み需要もあって大幅な実質増加となった。四月には前月の反動による需要の低下がみられたこともあって実質減少となり、五月、六月も引き続き実質減少となった後、七月は実質増加となり、八月は実質減少となったが、九月、十月は実質増加となった(第1図第2図第1表参照)。

◇勤労者世帯の家計

 勤労者世帯の実収入は、平成八年八月以降十か月連続の実質増加となった後、九年六月は実質減少、七月は大幅な実質増加となり、八月は実質減少となったが、九月、十月は実質増加となった。
 消費支出は、平成九年四月以降三か月連続の実質減少となった後、七月は実質増加、八月は実質減少、九月は実質増加となり、十月は実質減少となった(第1図第2表参照)。

◇勤労者以外の世帯の家計

 勤労者以外の世帯の消費支出は二十九万四千五百十八円で、名目六・六%、実質三・九%の増加

◇財・サービス区分別の消費支出

 財(商品)は実質三・二%の減少
  <耐久財>実質一九・四%の減少
  <半耐久財>実質一・一%の減少
  <非耐久財>実質一・〇%の減少
 サービスは実質六・九%の増加



     ◇     ◇     ◇    

     ◇     ◇     ◇    

     ◇     ◇     ◇    

 不法入国事犯の取締り強化


 昨今、外国人の我が国への不法入国事犯が後を絶たず、これら不法入国者を含む不法滞在外国人による凶悪犯罪の増加が社会問題化しています。
 特に、中国人等が船舶を利用して我が国への不法入国を図る者が急増し、最近では、国際的な密航ブローカーや日本の暴力団が組織的に介入し、貨物船や漁船をチャーターするなど、その手口はますます巧妙化しています。
 海上保安庁では、関係機関と密接な連携をとりながら、情報収集体制の強化、情報を入手した場合の巡視船艇・航空機の集中的な投入による監視取締り等を実施してきました。平成八年末以来、日本漁船を密航者受取船として使用する中国人の集団密航が続発しており、九年の一月から十二月までに六百五人の不法入国者を検挙しています。
 このような不法入国事犯の急増を踏まえ、本庁に「密航対策室」、各管区海上保安本部に「密航対策本部」を設置する一方、法務省、警察庁、防衛庁等の関係機関との連携を一層強化し、巡視船艇・航空機による二十四時間体制での監視取締りに努めているほか、平成九年三月に訪中団を派遣して、中国政府に不法出国の取締り強化等を要請するとともに、十月には中国公安部辺防局副局長などを我が国に招き、双方の協力関係について協議し、密航に関する情報交換の促進、両国が連携しての取締り強化等について合意しました。
 海運・漁業関係者をはじめ、沿岸住民の方からの情報により、密航船及び不法入国者を摘発する事例も多数あります。引き続き、これらの方に対しては、不審事象に関する情報の提供をお願いします。(海上保安庁)

 
    <2月4日号の主な予定>
 
 ▽全国の公害苦情の実態……………公害等調整委員会事務局 

 ▽月例経済報告………………………経済企画庁 
 



目次へ戻る