官報資料版 平成1025





平成八年度


決算検査報告の概要


会 計 検 査 院


<はじめに>

 会計検査院は、日本国憲法第九十条の規定により、国の収入支出の決算を検査し、会計検査院法第二十九条の規定に基づいて平成八年度決算検査報告を作成し、平成九年十二月十二日、これを内閣に送付した。
 この検査報告には、歳入歳出の決算に関する事項、法律、政令若しくは予算に違反し又は不当と認めた事項、意見を表示し又は処置を要求した事項、会計事務職員に対する検定等について記載した。また、国有財産、物品等国の財産等に関する検査事項及び会計検査院法その他の法律の規定により検査をしている政府関係機関等の会計に関する事項についても記載した。
 なお、会計検査院は、平成九年十月三日、内閣から平成八年度歳入歳出決算の送付を受け、その検査を終えて平成九年十二月十二日内閣に回付した。
 会計検査院が検査を終えた国の平成八年度の歳入歳出決算額は、次のとおりである。
 〔一般会計決算額〕
 歳 入 八十一兆八千九十億三千八百八十五万余円
 歳 出 七十八兆八千四百七十八億六千七百四十万余円
 〔各特別会計決算額の合計額〕
 歳 入 二百八十兆七千百四十四億九千九百六万余円
 歳 出 二百四十五兆二千百四億七千九十万余円

◇検査結果の概要

<第1節> 検査の概況

1 検査の対象

 会計検査院は、国の一般会計及び特別会計の収入支出をはじめ、国の所有する現金、物品、国有財産、国の債権、債務等すべての分野の国の会計を検査の対象としている。
 さらに、会計検査院は、次の会計を検査の対象としている。
@ 国が資本金の二分の一以上を出資している法人の会計
A 法律により特に会計検査院の検査に付するものと定められた会計
 平成九年次の検査(検査実施期間 平成八年十一月〜九年十月)において検査の対象としたものは、@として、政府関係機関十一、公団十三、事業団十九、その他の法人五十五(清算中のもの四を含む。)の会計、Aとして日本放送協会の会計である。
 このほか、会計検査院は、次の会計についても必要に応じて検査することができることになっている。
@ 国が資本金の一部を出資しているものの会計
A 国が資本金を出資したものが更に出資しているものの会計
B 国が補助金その他の財政援助を与えた都道府県、市町村、各種組合、学校法人等の会計
 平成九年次の検査において検査の対象としたものは、@として二法人の会計、Aとして十九法人の会計、Bとして五千四百十六の団体等の会計である(以上の検査の対象については、第1図参照)。

2 検査の観点

 検査の観点には、次のような多角的な側面がある。
@ 決算の表示が予算執行の状況を正確に表現しているかという正確性の側面
A 会計経理が予算や法律、政令などに従って適正に処理されているかという合規性の側面
B 事業が経済的、効率的に実施されているか、つまり、より少ない費用で実施できないか、同じ費用でより大きな成果が得られないかという経済性・効率性の側面
C 事業が所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかという有効性の側面
 平成九年次の検査においても、これらの観点から検査を実施した。

3 検査の計画

 検査に当たっては、会計検査院が全体として取り組むべき共通的な検査の基本方針を定めた上、これに基づき検査実施部局ごとの検査計画を策定して、検査を実施している。
 検査の基本方針は、検査の観点、検査対象の各種事務・事業等について、基本的な検査の取組方を示すものである。また、検査計画は、検査の基本方針の下、検査実施部局ごとに、社会経済情勢の動向、予算額の推移等に対応して重点を絞った検査上の重要項目を設定するとともに、それに対する検査の着眼点や方法、検査勢力の配分等を決めるものである。
 平成九年次の検査においても、前記により検査の基本方針及び検査計画を策定して検査を実施した。

4 検査の方法及び実績

 検査対象機関に対する検査の主な方法は、書面検査及び実地検査である。
 書面検査は、検査対象となる会計を取り扱う機関から、会計検査院の定める計算証明規則により、当該機関で行った会計経理の実績を計数的に表示した計算書、及びその裏付けとなる各種の契約書、請求書、領収書等の証拠書類等を提出させ、これらの書類について在庁して行う検査である。
 また、実地検査は、検査対象機関である省庁等の官署、事務所等に職員を派遣して、実地に、関係帳簿や事務・事業の実態を調査したり、関係者から説明を聴取したりなどして行う検査である。
 これらの方法により、会計検査院が平成九年次に実施した検査の実績は、次のとおりである。
 @ 書面検査については、平成八年度分の計算書二十三万三千余冊及びその証拠書類七千五百九十万二千余枚を対象に実施した。
 A 実地検査については、検査対象機関である省庁等の官署、事務所等三万八千七百余箇所のうち、三千四百余箇所について実施したほか、国が補助金その他の財政援助を与えた前記五千四百十六の団体等について実施した。これらの実地検査に要した人日数は、四万五千余人日となっている(第1表参照)。
 なお、検査の進行に伴い、検査上疑義のある事態について、疑問点を質したり、見解を求めたりなどするために、関係者に対して書面をもって質問を発しているが、平成九年次の検査において発した質問は九百余事項となっている。

<第2節> 検査結果の大要

第1 事項等別の検査結果

T 事項等別の概要

 検査の結果、決算検査報告に掲記した事項等(第2図参照)の総件数は三百五十六件であり、その内訳は次のとおりである。
 ア 「個別の検査結果」に掲記した事項 三百五十件
 ・「不当事項」 三百十四件
 ・「意見を表示し又は処置を要求した事項」 三件
 ・「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」 三十三件
 イ 「特定検査対象に関する検査状況」 六件
 前記アの事項に係る指摘金額及び背景金額は次のとおりである。
 なお、イの「特定検査対象に関する検査状況」については、これらの金額に該当するものはない。
@ 徴収不足額、過大な支出額等の指摘金額 三百四十六件
             二百二十一億一千六百六万余円
 ・「不当事項」 三百十四件
 百七十億五千五百十四万余円
 ・「意見を表示し又は処置を要求した事項」
       〔会計検査院法第三十四条関係〕 一件
                 一億七千三百万円
 ・「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」 三十一件
                     四十八億八千七百九十二万余円
A 問題があるとして取り上げた事態の背景金額 四件
 ▽「意見を表示し又は処置を要求した事項」
       〔会計検査院法第三十六条関係〕
 ・少子化等に伴う公立小中学校施設の有効活用について(文部省) 一件
                        一千八百五十六億余円
   (クラスルーム等として使用されていない普通教室がある公立小中学校の校舎整備費に係る国庫補助金交付額)
 ・漁業共済事業の運営について(農林水産省)          一件
                     十八億三千八百四十一万余円
   (共済掛金の負担が適切でなく共済金が適正に支払われていなかった共済契約に係る共済掛金の国庫補助金額及び共済金のうち国の保険金相当額)
 ▽「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」
 ・補助事業に係る道路改築事業等における再生砕石の利用の促進について(建設省) 一件
                                 四億八千七百十万円
   (再生砕石を使用した場合の低減可能な積算額に対する国庫補助金相当額)
 ・ダムの有効活用について(建設省) 一件
                 十一億円
   (新たに渇水対策等に資することが可能な貯留量の上水道料金換算額)

U 「個別の検査結果」の概要

 「個別の検査結果」を省庁等別にみると、第2表のとおりである。

【不当事項】

 検査の結果、「不当事項」として計三百十四件(指摘金額 百七十億五千五百十四万余円)掲記した。これを収入、支出等の別に分類し、態様別に説明すると、次のとおりである。
 
@ 収入に関するもの 計二十七件
  七十四億二千七百三十九万余円
 この内訳を態様別にみると、第3表のとおりである。
 ア 租 税        三件
   十四億二千五百九十四万余円
 <租税の徴収等が適正でなかったもの>
 ◇大蔵省
 ・租税の徴収に当たり、納税者が申告書等において所得金額や税額等を誤っているのに、課税資料の収集・活用が的確でなかったり、これを見過ごしたりなどしていたため、納税者四百四十九人からの徴収額に過不足があったもの (一件 十三億九千八百六十七万余円)
 ・租税の過誤納金の還付に当たり、法令に基づく還付加算金の計算の始期を誤ったため、還付加算金が過大に支払われていたもの 
(二件 二千七百二十七万余円)
 イ 保険料        二件
   五十八億一千百七十八万余円
 <保険料の徴収が適正でなかったもの>
 ◇厚生省
 ・健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、派遣労働者を使用している派遣元の事業主等が、常用的に使用している派遣労働者等について、被保険者資格取得届の提出を怠るなどしていたのに、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったため、一千四百八十二事業主からの徴収額が不足していたもの (一件 五十四億五千七百三十万余円)
 ◇労働省
 ・労働保険の保険料の徴収に当たり、事業主からの申告書における賃金総額の記載が事実と相違するなどしていたのに、これに対する調査確認が十分でなかったため、五百九十五事業主からの徴収額に過不足があったもの 
(一件 三億五千四百四十八万余円)
 ウ 医療費      二十件
   一億五千七百七十七万余円
 <診療報酬の請求が適切でなかったもの>
 ◇文部省
 ・大学病院における診療報酬の請求に当たり、手術で使用した医療材料の費用を算定していなかったり、麻酔料に対する加算を行っていなかったり、放射線治療の実施回数を少なく算定していたりなどしたため、二十大学の二十一病院で請求額が不足していたもの 
 エ 不正行為   二件
   三千百八十八万余円
 <現金が領得されたもの>
 ◇法務省
 ・検察庁の職員が、罰金等の徴収事務等に従事中、納付義務者から罰金等を受領した後、その収納手続を執らずに領得したもの 
  (一件 百九万余円)
 ◇大蔵省
 ・税務署の職員が、国税の還付事務に従事中、架空の納税者名義の還付関係書類を作成し、知人に受領させるなどして還付金を領得したもの (一件 三千七十九万余円)
 
A 支出に関するもの 計二百四十件
   八十八億一千九百六十三万余円
 この内訳を態様別にみると、第4表のとおりである。
 ア 予算経理    四件
   四千八百四十六万余円
 <架空の名目により旅費等を支出させ、別途に経理していたもの>
 ◇文部省
 ・文部省が都道府県の教育委員会に委嘱又は委託して実施している教育関係事業等において、教育委員会が、架空の名目により旅行命令書、支出負担行為決議書等の関係書類を作成するなどして、旅費、謝金等を出納部局に不正に支出させ、これを別途に経理し、同事業等の実施とは直接関係のない用途に使用するなどしていて、経理が著しく適正を欠いているもの
 イ 工 事   二件
   三千九百九万余円
 <設計が適切でなかったもの>
 ◇総理府(北海道開発庁)
 ・岸壁築造工事の施行に当たり、ケーソンの上部に設置する係船柱取付部の配筋図を作成する際、ケーソンと連結するための鉄筋を誤って図示しておらず、設計が適切でなかったため、係船柱取付部が不安定な状態となっているもの
 ウ 保険給付       四件
   十四億九千九百七十四万余円
 <保険の給付が適正でなかったもの>
 ◇厚生省
 ・厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給に当たり、受給権者が事業所に常用的に使用されていて、年金の一部又は全部の支給を停止すべきであったのに、被保険者資格取得届が提出されず、これに対する都道府県(社会保険事務所)の調査確認及び指導が十分でなかったため、一千四百三十七人に対して支給停止の手続が執られず不適正に支給されていたもの (一件 十二億九千六百三十九万余円)
 ◇労働省
 ・雇用保険の失業等給付金の支給決定に当たり、受給者が、再就職していながらその事実を申告書に記載していなかったり、事実と相違する再就職年月日を記載したりしていたのに、これに対する調査確認が十分でなかったため、三百五十四人に対する支給が適正に行われていなかったもの (一件 六千八百八十一万余円)
 ・雇用保険の雇用調整助成金の支給決定に当たり、事業主が申請書において、休業日に業務に就いていた日数分は支給対象とならないのに、これを支給対象とするなど、その記載内容が事実と相違していたのに、これに対する調査確認が十分でなかったため、二十一事業主に対する支給が適正に行われていなかったもの (一件 一千三百八十一万余円)
 ・雇用保険の特定求職者雇用開発助成金の支給決定に当たり、事業主が申請書において、既に雇用している者を新たに雇用したこととしているなど、その記載内容が事実と相違していたのに、これに対する調査確認が十分でなかったため、六十五事業主に対する支給が適正に行われていなかったもの (一件 一億二千七十一万余円)
 エ 医療費       二件
   六億四千六百三十五万余円
 <医療費の支払が適切でなかったもの>
 ◇厚生省
 ・特定入院料、入院時医学管理料、初診料・再診料等の診療報酬の支払に当たり、医療機関から不適正な診療報酬の請求があったのに、これに対する審査点検が十分でなかったなどのため、百四十医療機関に対する医療費の支払が適切でなく、これに対する国の負担が不当と認められるもの  (一件 五億八千四百七十三万円)
 ◇労働省
 ・労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払に当たり、医療機関が入院料、手術料、処置料等を誤って算定し請求していたのに、これに対する審査が十分でなかったため、二百六十一医療機関に対する支払が適正に行われていなかったもの 
(一件 六千百六十二万余円)
 オ 補助金    二百六件
   四十四億二百十六万余円
 <補助事業の実施及び経理が不当なもの>
 ◇文部省
 ・義務教育費国庫負担金等の算定において、国庫負担の対象にならない教員に係る給与費等を国庫負担対象額に含めたり、教職員定数の算定を誤ったりなどしていたため、負担金が過大に交付されていたもの 
(九件 一億五千九百三十二万余円)
 ◇厚生省
 ・社会福祉施設等施設整備費補助金等の交付に当たり、社会福祉法人が、法人の理事長が経営する会社と工事請負契約を締結し、その会社は契約額より低額な金額で他の建設会社と一括下請負契約をしていて工事の施行に何ら関与していないのに、法人の理事長が経営する会社との契約額に基づき補助金の交付を申請するなどしていたため、補助金が過大に交付されていたもの (十二件 五億一千七百五十一万余円)
 ・生活保護費負担金の算定において、保護を受ける世帯における就労収入等の額を過小に認定したり、保護を受ける世帯に係る診療報酬の負担額を過大に認定したりなどして保護費の額を決定していたため、負担金が過大に交付されていたもの (四件 二千九百四十二万余円)
 ・老人福祉施設保護費負担金の算定において、老人の収入を誤認するなどして対象収入を過小に算定したり、徴収金の額の集計を誤っていたりなどして、徴収金の額を過小に算定していたため、国庫負担対象事業費が過大に精算されていたもの (三十八件 三千八百七十四万余円)
 ・児童保護費等負担金の算定において、児童の扶養義務者の所得税額等を誤認するなどして徴収金の額を過小に算定していたため、国庫負担対象事業費が過大に精算されていたもの
 (二十四件 二千百三十六万余円)
 ・児童育成事業費補助金の算定に当たり、延長保育を利用した児童数が六人を超える場合に加算される額の算定の基礎となる平均利用児童数について、延長保育を実際に利用した児童数ではなく、延長保育を希望し登録した児童数を用いて算定していたため、補助金が過大に交付されていたもの 
(五件 五千三百五十六万余円)
 ・国民健康保険の療養給付費補助金の交付に当たり、国民健康保険組合において、組合の規約に定める事業を実施していない事業所に所属するなど、規約に定める組合員の範囲に該当せず、被保険者として取り扱うべきでない者を被保険者として、これらの者に係る医療給付費を補助の対象に含めて申請していたため、補助金が過大に交付されていたもの 
(一件 三億三千九百九十三万余円)
 ・国民健康保険の療養給付費負担金の交付に当たり、誤って、一般被保険者に係る医療給付費の算定において一部負担金の減免額を含めていたり、遡及して退職被保険者等となった者に係る医療給付費を控除していなかったりなどしていたため、負担金が過大に交付されていたもの 
(九件 一億二千八百二十万余円)
 ・国民健康保険の財政調整交付金の交付に当たり、市町村において、交付額算定の基礎となる調整対象収入額を過小に算定したり、保険料収納割合を事実と相違した高い割合としたりなどして交付申請を行っていたため、交付金が過大に交付されていたもの 
(六十一件 二十八億一千九百三十一万余円)
 ◇農林水産省
 ・広域営農団地農道整備事業の実施に当たり、ボックスカルバートの頂版の下面側及び底版の上面側に配置する主鉄筋の定着に必要な長さについて検討を行っていなかったり、土圧の計算において誤った最大土被り厚を適用していたりなどしていて、設計が適切でなかったため、ボックスカルバートが不安定な状態になっているもの (一件 一千二百七十六万余円)
 ・ため池等整備事業の実施に当たり、新しい底樋の設置工法の選定が適切を欠いていたり、既設の底樋を完全に閉鎖しなかったことから必要がなかった排水工事を実施していたりなどしていて、事業の施行が適切でなかったため、事業費が不経済となっているもの 
(一件 三百十二万余円)
 ・ため池等整備事業の実施に当たり、余水吐の流入部等には、浮力が作用しており、また、ため池の反対側から土圧が一方的に作用する構造となっているのに、滑動に対する安定計算を行っておらず、設計が適切でなかったため、余水吐の流入部等が不安定な状態になっているもの (一件 五百六万余円)
 ・水稲及び麦に係る農作物共済の引受けに当たり、引受面積に含めないこととなっている畦畔(けいはん)の面積を含めていたため、これに係る共済掛金国庫負担金が過大に交付されているもの
 (一件 一千七十三万余円)
 ・地すべり防止事業等の実施に当たり、アンカー工費を積算する際に、アンカー工費のうちの削孔工費の中には削孔材料損耗費が含まれているのに、誤って、別途に同額の削孔材料損耗費を重複して計上するなどしたため、工事費が割高となっているもの 
(三件 八百三十三万余円)
 ・農業集落排水事業の実施に当たり、汚水処理施設の動力制御設備の製作価格を積算する際、動力制御設備一式の見積価格を、当該設備を構成する動力制御盤一面当たりの価格と誤り、これを二倍するなどしたため、工事費が割高となっているもの
 (一件 九百九十五万余円)
 ・海岸高潮対策事業の実施に当たり、消波ブロックの設計数量を算出する際、工事の発注に先立ち地盤線を実測して作成した図面における地盤線が、補助金交付申請当時作成した図面で想定した地盤線より高い位置であったのに、交付申請当時の図面を基に算出した過大な消波ブロックの設計数量をそのまま使用したため、工事費が不経済となっているもの
(一件 一千二百九十万余円)
 ・国庫補助金を原資とする林業改善資金の貸付けにおいて、借受者が、貸付決定前に既に設置していた機械を対象として貸付けを受けていたり、機械を貸付対象事業費より低額で設置したりしていて、補助の目的に沿わない結果になっていたもの
 (四件 一千二百九十二万余円)
 ◇通商産業省
 ・国庫補助金を原資とする中小企業設備近代化資金の貸付けにおいて、借主が設備を県に無断で売却したり、貸付対象事業費より低額で設置したり、設備を設置していなかったりなどしていて、補助の目的に沿わない結果になっていたもの (十件 四千百二十万余円)
 ◇建設省
 ・公営住宅建設事業費補助金の交付に当たり、階数が異なる建物が接合されている建物の工事費については、階数が異なる建物ごとに計算すべきであるのに、誤って、高い方の建物の階数に対応する高額な一戸当たり工事費を全戸数に乗ずるなどして交付額を算定したため、補助金が過大に交付されているもの 
(一件 二千二百万余円)
 ・駐車場整備事業の実施に当たり、コンクリート舗装には、表面から底面まで切断して目地を設けることになっているのに、目地が舗装の底面まで達していないなど、施工が設計と著しく相違していたため、多数のき裂が発生しており、耐久性が著しく低下していて、コンクリート舗装工が工事の目的を達していないもの (一件 九百二十八万余円)
 ・土地区画整理事業の実施に当たり、建物の解体工事費等の積算については、建築工事に関する積算の基準では、建物の解体に係る費用が直接工事費の大部分を占める場合には、共通仮設費等について、所定の方法により低減することとなっているのに、誤って、土木工事に関する積算の基準を適用したため、工事費が割高となっているもの
(一件 八百万余円)
 ・道路災害防除事業の実施に当たり、法枠工費を積算する際に、枠内の地山に緑化のため吹き付ける厚層基材の所要量について、吹付け面積に吹付け厚さを乗じて算出すべきところ、誤って、吹付け面積の数値を採ったことなどのため、工事費が割高となっているもの
 (一件 五百三十一万余円)
 ・都市公園整備事業の実施に当たり、雨水排水管の埋設形式は、設計図面によれば、土圧計算の対象となる範囲が広い突出型であるのに、誤って、溝型として土圧を過小に計算するなどしていて、設計が適切でなかったため、雨水排水管が不安定な状態になっているもの (二件 七百四十七万余円)
 ・海岸侵食対策事業の実施に当たり、人工リーフの捨石の均し工費を積算する際に、荒均しの歩掛かりを適用することとなっているのに、誤って、荒均しより費用が割高となる、被覆石の表面を均す際の被覆均しの歩掛かりを適用したため、工事費が割高となっているもの (一件 四百九十二万余円)
 ・中小河川改修事業の実施に当たり、樋管の縦方向の主鉄筋については、個々の設計条件に基づき個別に応力計算を行って設計することとされているのに、誤って、応力計算を行わないまま標準設計どおりの配筋としていて、設計が適切でなかったため、樋管が不安定な状態になっているもの (一件 六百八十六万円)
 ・道路改良事業の実施に当たり、ロックボルト内が土によって目詰まりするのを防止する作業を十分に行っていなかったり、注入材の充てん状況を確認する作業を怠っていたりなどしていて、施工が著しく粗雑であったため、ロックボルトが地山と一体化しておらず、ロックボルト工が工事の目的を達していないもの (一件 三千五百十万余円)
 ・道路改良事業の実施に当たり、ボックスカルバートの頂版の下面側及び底版の上面側に配置する主鉄筋について、配筋図を作成する際に、誤って、応力計算上安全とされている間隔の二倍の間隔で配置することとしていて、設計が適切でなかったため、ボックスカルバートが不安定な状態になっているもの 
(一件 一千七百三十四万余円)
 ・公営住宅建設事業費補助金の交付に当たり、住宅の建設地の地区別区分は一般地区であるのに、一戸当たり工事費の一覧表の地区別区分を見誤って、多雪寒冷地区の数値を適用したため、補助金が過大に交付されているもの
 (一件 一千二百九十八万円)
 ◇日本私学振興財団
 ・私立大学等経常費補助金の交付に当たり、学校法人から提出された資料に、補助金の額の算定の基礎となる教育研究経費支出等の額には含めないこととされている臨時職員の給与等の支出額が計上されるなどしているのに、この資料に基づいて補助金の額を算定したため、交付額が過大になっていたもの 
(九件 四千八百四十七万余円)
 カ 貸付金       二十二件
   二十一億八千三百八十一万余円
 <貸付金の経理が不当なもの>
 ◇農林水産省
 ・国の貸付金等を原資とする農業改良資金の貸付けにおいて、借受者が、施設等を貸付対象事業費より低額で設置などしたり、機械を道に無断で処分したり、貸付申請前に既に事業を完了したりしていて、これに係る国の貸付金等相当額が貸付け等の目的に沿わない結果になっていたもの (九件 二千二百六十五万余円)
 ◇農林漁業金融公庫
 ・総合施設資金等の貸付けにおいて、借入者が事業を貸付対象事業費より低額で実施していたため、貸付金が過大に貸し付けられていて、貸付けの目的に沿わない結果になっていたもの (三件 五千百二十七万余円)
 ◇社会福祉・医療事業団
 ・福祉貸付資金の貸付けにおいて、社会福祉法人が、法人の理事長が経営する会社と工事請負契約を締結し、その会社は契約額より低額な金額で他の建設会社と一括下請負契約をしていて、工事の施行に何ら関与していないのに、法人の理事長が経営する会社との契約額に基づき貸付けを申請するなどしていたため、貸付金が過大に貸し付けられていたもの
 (九件 十億五千九百八十八万余円)
 ◇海外経済協力基金
 ・開発途上地域の産業の開発等に寄与する事業を行う民間企業に対する資金の貸付けにおいて、借受者から銀行の支払保証状を提出させるなど、有効な債権保全措置を執らないまま貸付けを実行したため、貸付金の回収が困難となっているもの (一件 十億五千万円)
 

B 収入支出以外のもの 計四十七件
        八億八百十一万余円
 不正行為        四十七件
        八億八百十一万余円
 <現金が領得されたもの>
 ◇法務省
 ・検察庁の職員が、宿直勤務に従事中、金庫に刑事事件の証拠品として保管していた現金を領得したもの (一件 百六十八万余円)
 ◇郵政省
 ・郵便局の出納員等四十六名が、契約者から受領した保険料、預金者から受領した定額郵便貯金預入金、不正に払い出した定額郵便貯金払戻金等を領得したもの
 (四十六件 八億六百四十二万余円)

【意見を表示し又は処置を要求した事項

 「意見を表示し又は処置を要求した事項」として計三件(指摘金額 一億七千三百万円)掲記した。
 

@ 会計検査院法第三十四条の規定により是正改善の処置を要求した事項 一件
 ◇運輸省
 ・住宅騒音防止対策事業において設置する冷暖房機器について
  運輸省では、空港周辺の航空機騒音防止対策として、住宅騒音防止工事を行う住宅所有者等に対して工事に必要な経費を補助する空港周辺整備機構及び市町村に対して、住宅騒音防止対策事業費補助金を交付している。
  この事業において、機能回復工事の補助対象となる冷暖房機器については、屋外機の騒音値等を仕様書で定め、これに適合するものを運輸省規格品として各補助事業者に通知しており、九補助事業者では、規格品について積算単価を決定し、これにより冷暖房機器費を算定している。
  これについて調査したところ、市販の冷暖房機器のうちインバーター方式の機種の相当数は、その性能において補助対象である運輸省規格品と遜色なく、価格も低廉であり、消費電力も節約できるものとなっていることなどから、これを補助の対象に加えることにより、住宅所有者等による機種の選択の範囲を広くする要があると認められた。
 したがって、同省は、市販機器の性能調査や市場の実態調査を実施するなどして、市販機器を補助対象に加えることとする処置を講ずる要がある。 (指摘金額 一億七千三百万円)
 

A 会計検査院法第三十六条の規定によるもの 二件
 ア 改善の意見を表示した事項
 ◇文部省
 ・少子化等に伴う公立小中学校施設の有効活用について
  文部省では、公立の小中学校の校舎等の整備を行う市町村に対して、その経費の一部を負担している。近年の少子化等を反映して、児童生徒数及び学級数は減少し、公立小中学校の学校施設にクラスルーム等として使用されていない普通教室が増加し続けている一方で、人口の高齢化が進み、高齢者福祉施設等へのニーズが増大している。そこで、九十五市町の一千五十六校について学校施設が有効に活用されているか調査した。
  その結果、クラスルーム等として使用されていない普通教室が、学校施設として必ずしも有効に活用されていないと認められるものも見受けられる一方で、老人デイサービスセンター等としてこれを転用するニーズが高まっているのに、市町村において、このような施設への転用について必ずしも積極的な検討を行っていない状況であった。
  したがって、同省において、学校以外の施設への転用手続を一層明確化、簡略化し整備するとともに、市町村に対し多様なニーズを幅広く検討できる体制を整備するよう指導するなどして、学校施設の一層の有効活用を図る要がある。  [背景金額 一千八百五十六億余円]
  (クラスルーム等として使用されていない普通教室がある公立小中学校の校舎整備費に係る国庫補助金交付額)
 イ 改善の処置を要求した事項
 ◇農林水産省
 ・漁業共済事業の運営について
  水産庁では、漁業者が営む漁業につき、異常の事象又は不慮の事故によって受ける損失を補てんする漁業災害補償制度において、漁業共済組合が行う漁業共済事業について、保険の引受けを行うとともに、漁業者の負担の軽減を図るなどのため、共済掛金の一部を補助している。漁業共済事業では、昭和六十三年から、加入促進等を図るため、漁業協同組合(漁協)が漁業者を取りまとめて契約者となる漁協一括契約が導入されている。
  この漁業共済事業について調査したところ、十四漁業共済組合の百五十七漁協における一千六百三十八共済契約において、漁協等が共済掛金の全部又は一部を負担するとともに、支払を受けた共済金の全部又は一部を他の用途に使用するなどしていて、共済金が損失を生じた漁業者に適正に支払われていない事態が見受けられ、この事態は漁協一括契約に係るものが大部分となっていた。
 したがって、同庁は、共済掛金の負担及び共済金の支払等について実態の把握に努め、漁協一括契約における共済掛金の分担及び共済金の配分の方法が、制度の趣旨に沿った適切なものとなるよう明確な基準を示すなどして、共済事業の運営の適正化を図る要がある。
   [背景金額 十八億三千八百四十一万余円]
  (共済掛金の負担が適切でなく、共済金が適正に支払われていなかった共済契約に係る共済掛金の国庫補助金額及び共済金のうち国の保険金相当額)

【本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項】

 「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」として、計三十三件(指摘金額 四十八億八千七百九十二万余円)掲記した。
 ◇総理府(防衛庁)
 ・駐屯地における下水道料金の支払について
  駐屯地における下水道料金の支払に当たり、公共下水道に接続する汚水排水設備に汚水流量計を設置して、これにより計量したものを汚水排出量として地方公共団体の認定を受ければ、下水道料金を節減できたのに、この方法について周知徹底を図っていなかったなどのため、四駐屯地において、下水道料金が不経済となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 七千九百二十万円)
 ◇法務省
 ・携帯電話等の料金種別の選択について
  携帯電話等の利用に当たり、発信量が少なくダイヤル通話料が少額であることが見込まれるものについては、基本使用料が割安になる料金種別を選択して、電話料金の節減を図ることができたのに、経済的な料金種別の選択に対する配慮が十分でなかったため、二百五十六官署において、電話料金が不経済となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 二千九百九十万円)
 ◇大蔵省
 ・輸入パルプの運送経費の積算について
  輸入パルプの購入契約における運送経費の積算に当たり、印刷工場では、車上からの庫入作業については、納入業者に行わせず、別の荷役業者に行わせているのに、契約部局において、この実態を十分に把握していなかったため、運送経費に庫入料を含めていて、積算額が過大になっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 九百五十万円)
 ◇文部省
 ・キャンパス情報ネットワークにおける交換機の整備について
  国立大学等において、マルチメディアに対応した大容量データ通信を実現する非同期転送モードのキャンパス情報ネットワークの整備に当たり、学部等の具体的な利用予定の把握が十分でなく、また、本省が大学等に計画的な整備を行うための指針を示さないまま整備を進めさせていたことなどのため、十一大学において、設置された交換機に端末装置等が全く接続されておらず、遊休しているなどしていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。
(指摘金額 五億二千九百七十二万余円)
 ◇厚生省
 ・結核性疾病及び精神病に係る特別調整交付金の算定について
  国民健康保険の財政調整交付金の交付に当たり、被保険者の負担軽減措置が行われている場合の保険者負担額の算定方法が、交付申請書の様式等で明確に示されていなかったなどのため、三十八市において、負担軽減措置の対象となった結核性疾病及び精神病に係る医療給付費について、所定の減額調整を行っておらず、特別調整交付金が過大に交付されていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。
(指摘金額 四億三千二百六十万余円)
 ・国立病院等における下水道料金の支払について
  国立病院等における下水道料金の支払に当たり、蒸気ボイラー設備等に供給された水道水等の相当量が蒸発するなどしているのに、関係地方公共団体から減水量の認定を受けていなかったため、七病院において、水道水等の使用量をそのまま汚水排出量と認定されるなどしていて、下水道料金が不経済となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。
 (指摘金額 一千八百十万円)
 ◇農林水産省
 ・新生産調整推進助成補助金等の交付に係る生産調整実施面積の算定について
  新生産調整推進対策等における補助金の交付に当たり、かい廃カウント等の計上方法等が明確でなかったことなどのため、六十九市町村において、かい廃カウントに係る面積を生産調整の目標達成要件を満たしていない推進地区等に配分したり、基準日前に既にかい廃されていた水田面積をかい廃カウント等に計上したりなどしていて、補助金等が過大に交付されていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 五億五千七百四十七万余円)
 ・家畜導入事業資金供給事業における基金の造成及び運営について
  家畜導入事業資金供給事業に係る基金の造成主体への補助金の交付に当たり、都道府県の審査が実効あるものとなるような事業実施計画等の書式が定められていなかったり、基金に資金が滞留した場合及び余剰金が生じた場合の取扱いが明確でなかったりなどしていた。
 このため、農協有等導入事業において、基金の造成額算定を誤っていて補助金が過大に交付されていたり、基金に必要以上の資金が滞留していたり、特別導入事業において、余剰金が生じている基金がある一方、基金の不足が予想される基金もあり、基金間で資金が偏在していたりしていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 八億四千四十二万余円)
 ・治山ダム工事における岩盤掘削面整形工費等の積算について
  治山ダム工事の工事費の積算に当たり、岩盤掘削面整形工が積算の基準よりも良好な作業条件で施工されていたり、岩盤清掃工が積算の基準よりも効率的な機種を使用して施工されていたりしていて、基準が施工の実態と異なっているのに、これらの調査、検討が十分でなかったなどのため、八百六工事において、両工費の積算額が過大になっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 
(指摘金額 六千二百二十万円)
 ・輸入飼料の売渡しに係る保管料の支払について
  輸入飼料の売渡しにおいて、保管料の負担期間を決定する荷渡指図書の交付を、契約締結日の属する保管期内に適時に行ったとすれば、保管料を節減できたのに、長年の慣行により、契約締結日の属する保管期の次の保管期の期首日等に指図書を交付していたため、十二食糧事務所において、保管料の支払が過大になっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 一億七百九十万円)
 ・牛に係る家畜共済事業の運営について
  牛に係る家畜共済事業の運営に当たり、共済に加入した農業者が飼養する共済対象の牛は、すべて共済に付されることになっているが、共済対象の牛の頭数確認が十分でなかったため、共済の引受頭数が実際の飼養頭数とかい離していて、八十五農業共済組合等において、共済金が過大又は過小に支払われていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。
(指摘金額 一億四千五百五十二万余円)
 ・国有農地等の管理等に関する業務に係る事務取扱交付金について
  国有農地等の管理等に関する業務に係る事務取扱交付金の算定に当たり、交付申請書等の様式が従事職員の業務割合を把握できるようになっていなかったなどのため、二十七都道県において、当該業務に専従しているとは認められない職員を、その業務割合を考慮せずに交付対象職員数に含めるなどしていて、交付金が過大に交付されていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 
(指摘金額 一億八千七百三十九万余円)
 ◇運輸省
 ・桟橋等の築造工事に使用する鋼管杭の材質について
  桟橋等の築造工事に使用する鋼管杭の設計に当たり、杭の上部及び下部の材質の選定について明確な取扱い方法が定められていなかったことなどのため、杭の下部は作用する力がわずかなものであるにもかかわらず、二十一工事等において、上部と同じ材質の高価な鋼管杭を選定していて、鋼管杭の材料費が不経済となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 七千百万円)
 ◇郵政省
 ・郵便事業用車両の借上げについて
  郵便事業用車両の借上げに当たり、郵政本省において地方郵政局に対し、借上車両の状況を考慮した購入要求を行うよう指導していなかったなどのため、車両百四両について、長期にわたる継続的な借上げとなっていて、借上経費が同種車両を購入した場合の取得維持経費を上回ることとなっており、不経済となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 三千六百四十万円)
 ・空気調和設備工事におけるダクト等の工事費の積算について
  空気調和設備工事におけるダクト及び保温板の工事費の積算に当たり、積算に使用する標準複合単価を算出する際に、積算システムの各種ファイルに入力するステンレス鋼板の面積等のデータを取り違えるなどして、誤った標準複合単価を算出していたため、十四工事において、ダクト等の工事費の積算額が過大になっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 四千六十万円)
 ◇建設省
 ・特定優良賃貸住宅供給促進事業における共同施設等整備費の算定について
  補助事業で行う特定優良賃貸住宅供給促進事業の実施に当たり、階数が部分的に異なっている建物の共同施設等整備費については、階数の異なるそれぞれの部分ごとに算出する要があるのに、算出方法が明確でなかったため、六事業主体において、最上階に対応する高額な一戸当たり標準工事費に全戸数を乗じて算出していて、補助金が過大に交付されていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 七千三百万円)
 ・補助事業に係る道路改築事業等における再生砕石の利用の促進について
  補助事業に係る道路改築事業等の実施に当たり、事業主体において、再生資源の利用促進を図るための法律や建設省の通達等の趣旨に対する理解が十分でなかったなどのため、下層路盤工等に新材より安価な再生砕石を使用できる事業や工種を限定するなどしていて、二千四百八十工事における材料費の積算が経済的に行われていなかった。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。
   [背景金額 四億八千七百十万円]
  (再生砕石を使用した場合に低減可能な積算額に対する国庫補助金相当額)
 ・公共事業の施行に伴う損失の補償に係る消費税相当額の取扱いについて
  補助事業による公共事業の施行に伴う損失補償に当たり、土地等の所有者等が事業者である場合、建物の移転等に要する費用に係る消費税相当額については、消費税の確定申告の際、課税仕入れに係る消費税額として控除の対象とすることが可能で、事業者が実質的には負担しないことが見込まれるのに、消費税相当額の補償の要否について具体的な確認方法を示していなかったなどのため、九十一事業主体において、消費税相当額を補償の対象としていて、補償金が過大に算定されていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 
(指摘金額 四億八千百二十六万余円)
 ・橋脚補強工事における注入材等の材料費の積算について
  震災対策として施行する橋脚補強工事の材料費の積算に当たり、注入材等の材料単価については、市場価格が積算参考資料掲載の公表価格よりも通常低くなることから、市場価格の調査を行った上で決定することとなっているのに、この調査を行わずに公表価格をそのまま採用していたため、三十八工事において、注入材等の材料費の積算が過大になっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 
(指摘金額 六千二百万円)
 ・ダムの有効活用について
  ダムの操作に当たり、洪水発生のおそれがある場合に安全に水位を下げられる範囲で、現行の制限水位より高い新たな水位を設定し、貯留量を増加させれば、渇水対策等に資することになるのに、ダムの有効活用を図るための取組が十分でなかったため、弾力的なダム操作が行われていなかった。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。
   [背景金額 十一億円]
  (新たに渇水対策等に資することが可能な貯留量の上水道料金換算額)
 ◇自治省
 ・消防防災施設整備費補助金による画像伝送システムの整備について
  消防防災施設整備費補助金による画像伝送システムの整備契約に当たり、契約の内容に適合した履行の確保のために必要か否かを十分に検討することなく、土木工事等の建設工事と同様に最低制限価格を設定していたなどのため、八市九件の契約において、契約額が不経済となっていて、補助金が過大に交付されていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 八千六百万円)
 ◇日本道路公団
 ・用地測量における補助基準点の測量費等の積算について
  補助基準点の測量費の積算において、既設の補助基準点を使用して経済的に測量ができるのに、この実態を積算要領等に反映させていなかったり、道路敷等の境界杭の測量費の積算において、使用される単価の意味が通達において明確にされていなかったりなどしたため、六十五件の契約において、測量費の積算が過大になっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。
 (指摘金額 九千五百万円)
 ◇首都高速道路公団
 ・高速道路の建設工事における一般管理費等の積算について
  高速道路の建設工事において、近年、首都圏では公団が土砂の処分地を指定しており、受入先への処理費の支払等についても公団が直接行うことが可能であるのに、これを積算に反映させていなかったなどのため、八工事において、土砂の処理費を工事費に含めて積算していて、これに係る一般管理費等の積算が過大になっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 八千七百万円)
 ◇阪神高速道路公団
 ・遮音壁設置工事における吸音板の設計について
  遮音壁設置工事における吸音板の設計に当たり、吸音板の車道側については、支柱を吸音板の表面部材で覆わないこととしても、減音効果に影響はなく、景観上も問題はないのに、経済的な設計に対する配慮が十分でなかったなどのため、四十九工事において、支柱の車道側を覆うこととしていて、吸音板の費用が不経済となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。
 (指摘金額 七千三百万円)
 ◇日本国有鉄道清算事業団
 ・土地台帳等の整備業務の委託について
  土地台帳等の整備業務に係る委託契約において、処分済みの土地については、当該土地台帳等の原資料である土地売買契約書等で内部、外部からの照会等に対応できるのに、十分に検討しないまま、処分済みの土地についても土地台帳等の整備の対象としていたなどのため、三支社において、委託費が不経済となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 四千九百七十万円)
 ◇農畜産業振興事業団
 ・肉用子牛生産者補給金制度運営適正化事業における肉用子牛の個体登録等事務に係る委託費の精算について
  肉用子牛生産者補給金制度運営適正化事業の実施に当たり、事業主体である都道府県指定協会が、肉用子牛の個体登録等の事務を農協等に委託し、前金払により委託費を支払った場合に、委託費を実績登録頭数に応じて精算することが補助金交付要綱等に明記されていなかったなどのため、多数の農協等で実績登録頭数が予定登録頭数を下回っているのに、指定協会において農協等に委託費を精算させておらず、補助金が過大に交付されていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 
(指摘金額 一億七百十万円)
 ◇日本私学振興財団
 ・私立大学における臨時職員に対する給与の補助金算定上の取扱いについて
  私立大学等経常費補助金の算定に当たり、各大学の教室又は講座の責任者の名称で契約し雇用している臨時職員の給与は、教育研究経費支出の額には含めないのが適切であるのに、補助金の額の算定上の取扱方針が明確でなかったなどのため、二学校法人において、これを教育研究経費支出の額に含めていて、補助金が過大に交付されていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 二億三千百六十四万余円)
 ◇日本電信電話株式会社
 ・低圧電力の電気需給契約における契約電力の見直しについて
  低圧電力の電気需給契約において、通信設備のディジタル化、集約化に伴って、局舎等で電力設備を撤去するなどした場合に、適切に契約電力を見直して、電気需給契約の変更を行っていれば、電気料金の節減が図れたのに、本社において、電力設備の管理・運用会社との業務委託契約に当たり、仕様書等でこの旨を明記していなかったなどのため、一千四百二十局舎等において、契約電力の適切な見直しが行われておらず、電気料金が不経済となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。
 (指摘金額 一億一千四十万円)
 ・遠隔監視などによる警備業務の委託について
  局舎の警備業務の委託に当たり、遠隔監視などによる警備業務については、電気通信設備の保守、管理業務においても同様の業務が行われていることから、それぞれの業務の対象区域が同一であるなどの局舎については、遠隔監視などによる警備業務を委託の対象とする必要はないのに、百五十五局舎において、これを委託の対象に含めていて、委託費が不経済となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 五千九百二十万円)
 ・加入電話契約者への通知書の送付方法について
  加入電話契約者への停止予告書、解除予告書等の送付に当たり、本社において、各支社に対し、通知書の経済的な送付方法や訴訟等トラブルの発生のおそれのあるものの範囲などについて明確にしていなかった。このため、停止予告書は再発行請求書に同封して一括送付すれば足りるのに、これらを別途に送付していたり、解除予告書を訴訟等トラブルの発生のおそれがないのに、配達証明郵便等で送付していたりなどしていて、郵送費用等が不経済となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 八千三百十万円)
 ◇帝都高速度交通営団
 ・車両清掃業務委託契約における労務単価の積算について
  車両清掃業務委託契約における労務単価の積算に当たり、作業環境等手当による労務単価の割増しは、一日の実働時間である七時間を対象として行うべきであるのに、作業の実態の把握が十分でなかったなどのため、実働時間を八時間として割増しを行っていて、労務単価の積算が作業の実態に適合しておらず、委託費が不経済となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 二千七百五十万円)
 ◇北海道旅客鉄道株式会社
 ・土地の貸付料について
  管路等を設置するための土地を電気通信事業者に貸し付ける契約において、道路法施行令で定める道路占用料により貸付料を算定していることから、道路占用料の改定に合わせて貸付料を改定することにより、増収を図るべきであったのに、この旨の条項が契約書に明確に定められていなかったなどのため、貸付料を改定しておらず、貸付料が低額となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 
(指摘金額 五千二百二十万円)
 ◇エヌ・ティ・ティ移動通信網株式会社
 ・資材調達業務委託契約に係る受託業務料の算定について
  資材調達業務委託契約に係る受託業務料の算定に当たり、これに計上する人件費、物件費の範囲が明確でなかったなどのため、人件費の算出において、一括購買業務を担当する管理職の人件費を含めていなかったり、物件費の算出において、一般管理費を計上していなかったりなどしていて、受託業務料が過小となっていた。これについて指摘したところ改善の処置が執られた。 (指摘金額 六千百九十万円)

V 特定検査対象に関する検査状況の概要

 「特定検査対象に関する検査状況」として計六件掲記した。
 
@ 政府開発援助について
 我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助を実施している。その額は無償資金協力やプロジェクト方式技術協力、直接借款など、いずれも毎年度多額に上っている。
 この政府開発援助について、外務省等の援助実施機関に対して検査を行うとともに、平成九年中に、七か国の七十三事業について現地調査を実施した。
 これらの援助に対する検査は、相手国に対して本院の検査権限が及ばないことや、事業現場が海外にあることなどの制約の下で実施したものであるが、現地調査を行った事業の大部分については、おおむね順調に推移していると認められた。
 しかし、相手国の予算不足や受入体制及び管理が適切でなかったことのため、援助の対象となった施設が完成していなかったり、機械や施設、移転された技術が十分活用されていなかったりしていて、援助の効果が十分発現していない事態が、四事業において見受けられた。
 このような事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、我が国としては、今後も相手国の自助努力を絶えず促すとともに、相手国が実施する事業に対する支援のための措置をより一層充実させることが重要である。
 また、海外経済協力基金が実施している開発金融借款十事業について、同基金の監理が十分行われているかを検査したところ、三か国で実施されている四事業について、相手国の開発金融機関の借受者からの貸付金の償還が遅延しているなどの状況の把握が不十分である事態が見受けられた。
 このような事態が生じているのは、主として同基金において、開発金融借款に関する各種報告書類の提出の必要性に対する認識が不十分なことによるものであり、報告書類の提出について借款契約に規定するなどして、開発金融借款が当初の目的どおり有効に利用されるよう、十分な監理を行うことが重要である。
 
A 老人福祉施設等の施設整備事業について
 平成八年に、同一人が理事長である八社会福祉法人(彩福祉グループ)のうち七法人が実施した施設の整備事業に係る建築工事等の実施について疑惑が生じ、これを契機に、社会福祉施設整備事業の実施について社会的な関心が著しく高まった。
 このような状況を踏まえて検査を実施した結果、彩福祉グループの七法人では、老人福祉施設等の整備事業において、法人理事長が経営する会社と工事請負契約を締結し、その会社は契約額より低額な金額で他の建設会社と一括下請負契約をしていて工事の施行に何ら関与していないのに、法人理事長が経営する会社との契約額に基づいて国庫補助金及び事業団貸付金を受けるなどしていた。
 また、彩福祉グループ以外の五法人では、同じく老人福祉施設等の整備事業において、実際の契約額より高額な契約額に基づいて国庫補助金及び事業団貸付金を受けたり、補助対象となる建築工事費を過大に算定したりなどしていた。
 このことから、厚生省では社会福祉法人等が実施する老人福祉施設等の整備事業に係る建築工事については、一般競争入札に付するなど、都道府県等が行う契約手続に準拠することとするなどの措置を講ずるとともに、今後の社会福祉事業の在り方について抜本的な見直しのための検討に着手するとしている。
 本院としては、今後、社会福祉施設の整備事業の検査において、制度改正の実効性や国庫補助金及び事業団貸付金に関する審査体制の見直しの状況を多角的に検証することとする。
 
B 国庫補助事業に係る事務費の執行について
 本院が、平成七年、農林水産省、運輸省及び建設省所管の公共事業に係る国庫補助事業の事務費のうちの食糧費について検査した結果、これら三省では、本院の指摘に基づいて改善の処置を講じるとともに、非公共事業についてもこれに準じて改善の処置を講じた。そして、前記の三省以外の省庁においても、三省と同様に改善の処置が講じられているものと認められた。また、事務費のうちの旅費等の執行に関し、一部の都道府県において、不適正な経理処理が行われていた問題が提起されるなど、社会的関心が高いものとなっている。
 このような状況を踏まえ、国庫補助事業に係る事務費の執行について検査を実施した。検査したところ、食糧費については、特に不適切な事態は見受けられなかった。また、旅費等の執行については、都道府県からの報告によれば、十八道府県において不適正な経理処理が行われていた。そして、都道府県の内部調査が継続して行われている状況である。
 本院では、今後とも、国庫補助事業に係る事務費の執行について、十分留意して検査に努めることとする。

C 廃棄物屋外貯蔵ピットに関する予算とその執行について
 動力炉・核燃料開発事業団東海事業所において、長期にわたり貯蔵ピットにおけるウラン廃棄物の保管が適切でなかったこと、及び貯蔵ピットを抜本的に改修するために認可された予算の大部分が、別の経費に充てられていたことなどの事態が明らかになった。
 本院は、本件に対する社会的関心が極めて高いことを踏まえ、貯蔵ピットの改修に係る予算の執行内容などについて調査を行った。その結果、ウラン廃棄物の保管が適切でなかったのに、貯蔵ピットを抜本的に改修するための予算が応急的処置のためだけに執行されていて、予算の大部分は貯蔵ピットの改修とは別の経費に充てられていたり、長期にわたり実態を反映しない予算要求を繰り返していたりしていた。
 同事業団は、法令により弾力的な予算の執行が認められており、今回の予算の執行は、この法令で認められた範囲内で行われたものであるが、事業団の支出予算は、国から投じられた多額の資金などをもとに、必要な事業に配分すべく計画されたものである。
 したがって、同事業団においては、今後これら事業の実施に当たっては、予算の趣旨に沿った適切な予算執行と的確な予算要求を行うとともに、科学技術庁においては、これらに対し一層適切に対処することが求められている。
 
D 日本国有鉄道清算事業団の長期債務等について
 日本国有鉄道清算事業団では、昭和六十二年四月の日本国有鉄道の改革以来、同事業団に帰属した土地、株式等の資産の処分等により長期債務の償還を進めてきた。しかし、将来発生が見込まれる年金負担等を含む長期債務等の残高は、六十二年度首に二十五兆五千二百億円であったものが、資産の売却収入が早い段階で確保されなかったこと、年金負担に係る新たな債務が加わったことなどから、長期債務の償還等が円滑に進まず、毎年多額の金利負担が生じるなどして、平成九年度首には二十八兆六百億円と増加している。そして、最終的に残る長期債務等については、いずれ国民に負担を求めざるを得ないことから、国民の関心が極めて高い。
 この長期債務について、九年度以降に償還期限が到来する都度、借換えを行わず、その償還のための財源がすべて手当てされるなどとし、また、将来費用についても、九年度首に想定される今後の発生見込額が変動しないと仮定した場合、長期債務等の処理に伴う支払見込額は三十五兆一千百億円と見込まれる。そして、長期債務の借換えを行いながらその償還を進めることとなれば、前記の支払見込額以上の財源が必要になると見込まれる。
 したがって、長期債務の償還等について、その本格的処理を行うため、早急に国民の理解と合意を得られるような抜本的な措置が執られることが緊要である。
 
E 住宅金融専門会社の債権債務の処理に係る公的資金の投入等について
 国は、住宅金融専門会社の債権債務の処理に要する経費六千八百五十億円を、平成八年度一般会計予算に計上した。また、特定住宅金融専門会社(特定住専)の債権債務の処理の枠組みを定めた「特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法」が八年六月に施行された。
 この処理の枠組みについては国民の関心も高いことから、本院では、前記の財政資金六千八百五十億円の使途及び特定住専からの譲受債権等の回収状況等について検査を実施した。
 その結果、前記の法律の枠組みに基づいて、財政資金は特定住専に係る債務処理等に充てられ、譲受債権等の回収等も行われていた。また、回収等により損失を生じたものはなく、八年度の譲受債権等の回収等に関しては、新たな財政資金の投入は必要とはなっていなかった。
 しかし、法律の枠組みによれば、個別の譲受債権等ごとの回収金額が取得価額を下回ったことなどによる損失に伴う新たな財政資金が投入されることもあり、また、今後の譲受債権等の回収状況等の見通しには不確定な要素もある。
 したがって、本院においては、今後も譲受債権等の回収等について、その事態の推移を注視することとする。

第2 観点別の検査結果

 会計検査院は、第1節(2 検査の観点)で述べたとおり、正確性の側面、合規性の側面、経済性・効率性の側面、有効性の側面という多角的な観点から検査を実施した。その結果は「第1 事項等別の検査結果」で述べたとおりであるが、このうち、検査の観点に即して事例を掲げると、次のとおりである。

1 主に業務が予算、法令等に従って適正に実施されているかに着眼したもの

 検査対象機関は、予算、法令等に従って適正に業務を実施しなければならない。この業務の執行に際し、予算、法令等が守られているか、さらには予算、法令等の趣旨に適合した制度の運用が行われているかに着眼した検査として、次のようなものがある。
 @ 租税及び保険料は法令等に従って適正に徴収すべきものであるので、個々の徴収額に過不足がないかを検査した。その結果、「租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの」、「健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」及び「労働保険の保険料の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの」を不当事項として掲記した。
 A 県の教育委員会において実施された委嘱等事業について、事業の執行及び事業経費の経理処理が適正かを検査した。その結果、「架空の名目により旅費、謝金等を支出させ、これを別途に経理して目的外の用途に充てるなどしていたもの」を不当事項として掲記した。
 B 特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け、年金の額の全部を支給されている受給権者等について、その支給の適否を検査した。その結果、「厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの」を不当事項として掲記した。
 C 医療機関からの診療報酬や労災診療費の請求に対する支払が適正か、大学病院における診療報酬の請求が適正かを検査した。その結果、「医療費に係る国の負担が不当と認められるもの」、「労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの」及び「大学病院における診療報酬の請求に当たり、手術料等の請求額が不足していたもの」を不当事項として掲記した。
 D 社会福祉施設等の整備事業に係る国庫補助金及び貸付金は適正に交付され、又は貸し付けられているかを検査した。その結果、「社会福祉施設等施設整備費補助金等の経理が不当と認められるもの」及び「福祉貸付資金の貸付けが不当と認められるもの」を不当事項として掲記した。
 E 国民健康保険の財政調整交付金の交付申請が適正かを検査した。その結果、「国民健康保険の財政調整交付金の交付が不当と認められるもの」を不当事項として掲記した。また、「保険者負担額の算定方法を明確にすることにより国民健康保険の結核性疾病及び精神病に係る特別調整交付金の算定が適切に行われるよう改善させたもの」を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
 F 開発途上地域の産業の開発等に寄与する事業を行う民間企業に対して実行した貸付けにおいて、有効な債権保全措置が執られているかを検査した。その結果、「開発事業に係る資金の貸付けが不当と認められるもの」を不当事項として掲記した。

2 主に業務が経済的・効率的に実施されているかに着眼したもの

 検査対象機関の業務は、その事業目的を達成する上で、経済的・効率的に実施されなければならない。すなわち、経費は節減できないか、同じ費用でより大きな成果が得られないかという観点であるが、この点に着眼した検査として、次のようなものがある。
 @ 輸入飼料の売渡しにおいて、荷渡指図書の交付時期が、輸入飼料に係る保管料の負担期間を決定することから、荷渡指図書の交付に係る手続が適時適切に行われているかという観点から調査した。その結果、「輸入飼料の売渡しにおいて、売渡手続を適切に行うことにより保管料の節減を図るよう改善させたもの」を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
 A 市販されている冷暖房機器の品質や性能は近年著しく向上しており、インバーター方式の機種の価格の低廉化も図られていることから、市販されているインバーター方式の冷暖房機器を住宅騒音防止対策事業の補助対象に加えることにより、経費の節減を図ることができないかという観点から調査した。その結果、「住宅騒音防止対策事業において設置する冷暖房機器について」として、是正改善の処置を要求した。
 B 近年、再生砕石は再資源化施設において本格的に生産されるようになってきており、新材の砕石に比べて安価であることから、「再生資源の利用の促進に関する法律」等の趣旨に沿って再生砕石が適切に使用され、経済的な積算が行われているかという観点から調査した。その結果、「国庫補助事業に係る道路改築事業等の実施に当たり、再生砕石の利用を促進することにより経済的な積算を行うよう改善させたもの」を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
 C 地方公共団体では、契約内容に適合した履行を確保するため、特に必要な場合には、最低制限価格を設定できることから、画像伝送システムの整備契約において、最低制限価格を設定している場合は、その必要性の検討を十分行っているかという観点から調査した。その結果、「消防防災施設整備費補助金による画像伝送システムの整備において、競争の利益を十分生かした適切な契約を締結するよう改善させたもの」を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
 D 日本国有鉄道清算事業団において、旧日本国有鉄道等から承継した土地について売却等の処分の促進を図るとともに、当該土地の管理業務を行っていることから、委託により行っている土地台帳等の整備業務が適宜適切に実施されているかという観点から調査した。その結果、「土地台帳等の整備業務を実施するに当たり、処分済みの土地を委託の対象から除外することにより委託費の節減を図るよう改善させたもの」を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
 E 通信設備のディジタル化及び集約化が進み、通信網の末端の局舎等では、必要となる電力設備の台数、容量等が減少してきていることから、これらの局舎等における契約電力の見直し等が適切に行われ、電気料金が経済的なものになっているかという観点から調査した。その結果、「低圧電力の電気需給契約において、契約電力を適切に見直すなどして、電気料金の節減を図るよう改善させたもの」を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。

3 主に事業が所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかなどに着眼したもの

 検査対象機関の事業の中には、一定の目的の下に、社会資本を整備したり、各種の財政援助、助成措置を講じたりなどしているものがあるが、これらが所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかなどに着眼した検査として、次のようなものがある。
 @ 地域に密着した学校施設を地域住民の共通財産として活用することについて関心が高まっている現状にかんがみ、少子化等の社会情勢の変化に対応して学校施設の有効活用が図られているかという観点から調査した。その結果、「少子化等に伴う公立小中学校施設の有効活用について」として、改善の意見を表示した。
 A 通信技術の進歩は著しく、一般的に機器類が比較的早期に陳腐化する傾向があることから、大学等において、非同期転送モードのキャンパス情報ネットワークの整備の際に設置された機器が有効に利用されているかという観点から調査した。その結果、「キャンパス情報ネットワークにおける交換機の整備を適切に行い、ネットワークの有効な利用を図るよう改善させたもの」を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
 B 漁業経営を取り巻く情勢が大きく変化してきている状況を踏まえて、漁業共済事業が制度の趣旨に沿って適正に運営されているかという観点から調査した。その結果、「漁業共済事業の運営について」として、改善の処置を要求した。
 C 牛を対象とする共済事業が適正に運営されるためには、共済対象の牛の把握が的確に行われることが必要不可欠であることから、共済対象の牛の頭数確認を適時適切に行っているかなどの観点から調査した。その結果、「牛に係る家畜共済事業の運営を適切に行うよう改善させたもの」を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
 D 少雨化傾向による異常渇水等への新たな対応が求められていることから、既存ダムの機能を損なうことなく、渇水対策等に資するようなダム操作を行うことにより、既存ダムの一層の有効活用を図ることができないかという観点から調査した。その結果、「弾力的なダム操作を行うことにより、既存ダムの一層の有効活用を図るよう改善させたもの」を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。






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月例経済報告(三月報告)


経 済 企 画 庁


 概 観

 我が国経済
 需要面をみると、個人消費は、家計の経済の先行きに対する不透明感もあって、低調な動きとなっている。住宅建設は、このところおおむね横ばいで推移しているものの、依然その水準は低い。設備投資は、全体として伸びが鈍化している。
 産業面をみると、最終需要が停滞していることを背景に、在庫は高水準にあり、鉱工業生産は、弱含んでいる。企業収益は、中小企業では減益が見込まれるなど全体として伸びが低下している。また、企業の業況判断は、厳しさが増している。
 雇用情勢をみると、雇用者数の伸びが鈍化し、完全失業率が高い水準で推移するなど依然として厳しい状況にある。
 輸出は、強含みに推移している。輸入は、おおむね横ばいで推移している。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、増加傾向にある。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、二月は、月初の百二十六円台から一時百二十三円台まで上昇したが、その後下落し百二十七円台から百二十八円台で推移した。
 物価の動向をみると、国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、やや弱含みで推移している。また、消費者物価は、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、二月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、二月はやや低下した。株式相場は、二月はおおむね横ばいで推移した。マネーサプライ(M2+CD)は、一月は前年同月比四・三%増となった。
 海外経済
 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大している。実質GDPは、九七年七〜九月期前期比年率三・一%増の後、十〜十二月期は同三・九%増(速報値)となった。個人消費、住宅投資は増加している。設備投資はこのところ伸びに鈍化がみられる。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大している。物価は安定している。十二月の財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、前月から拡大した。二月の長期金利(三十年物国債)は、やや上下したが、総じて上昇した。二月の株価(ダウ平均)は、総じて上昇し、月末には最高値を更新した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は回復しており、フランスでは、景気は拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポはこのところ緩やかになってきている。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは回復しているが、イギリスではこのところ鈍化してきている。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準で推移しているが、イギリスでは低下している。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスではこのところ安定してきている。
 東アジアをみると、中国では、景気は拡大している。物価上昇率は、低下している。貿易収支は、大幅な黒字となった。韓国では、景気は後退している。失業率は、上昇している。物価上昇率は、高まっている。貿易収支は、大幅に改善している。
 国際金融市場の二月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、やや弱含みながら、ほぼ横ばいで推移した。
 国際商品市況の二月の動きをみると、全体では初旬強含みで推移した後、中旬から下旬にかけては弱含みで推移した。二月の原油スポット価格(北海ブレント)は、イラク情勢懸念の弱まりなどから、全体では弱含みでの推移となり、中旬から下旬にかけては十三ドル台に下落した。

*     *     *

 我が国経済の最近の動向をみると、純輸出は増加傾向にあるが、設備投資は、全体として伸びが鈍化している。個人消費は、家計の経済の先行きに対する不透明感もあって、低調な動きとなっている。住宅建設は、このところおおむね横ばいで推移しているものの、依然その水準は低い。このように最終需要が停滞していることを背景に、在庫は高水準にあり、生産は弱含んでいる。雇用情勢をみると、雇用者数の伸びが鈍化し、完全失業率が高い水準で推移するなど依然として厳しい状況にある。また、民間金融機関において貸出態度に慎重さがみられる。最近の株価の動き等金融市場の動向にみられるように、市場心理には一部好転の兆しもみられるものの、家計や企業の景況感の厳しさが個人消費や設備投資に影響を及ぼしており、景気は引き続き停滞している。
 政府としては、家計や企業の経済の先行きに対する不透明感を払拭し、我が国経済を民間需要中心の自律的な安定成長軌道に乗せていくため、平成九年十一月十八日に決定した「二十一世紀を切りひらく緊急経済対策」を確実に実行に移すとともに、二兆円規模の所得税、個人住民税の特別減税を行うこととし、さらに法人課税、有価証券取引税等の金融・証券関係税制、地価税・土地譲渡益課税等の土地税制等の見直しを行うこととした。また、我が国の金融システムの安定性確保と預金者保護のための諸施策を講じることとした。

1 国内需要
―設備投資は、全体として伸びが鈍化―

 個人消費は、家計の経済の先行きに対する不透明感もあって、低調な動きとなっている。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で十一月二・一%減の後、十二月は四・九%減(前月比三・二%減)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比四・六%減、勤労者以外の世帯では同五・五%減となった。形態別にみると、商品、サービスともに減少となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比四・八%減、勤労者世帯では同四・五%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で十一月三・二%減となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で十二月四・五%減の後、一月は二・六%減(前月比三・七%増)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で十二月四・一%減の後、一月二・二%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で十二月七・〇%減の後、一月四・六%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を除く)新車新規登録台数は、前年同月比で二月は二三・二%減となった。また、家電小売金額は、前年同月比で一月は二・六%減となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、一月は前年同月比で国内旅行が〇・八%減、海外旅行は一二・〇%減となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で十二月〇・七%増の後、一月(速報)は一・一%減(事業所規模三十人以上では同一・一%減)となり、うち所定外給与は、一月(速報)は同一・九%減(事業所規模三十人以上では同二・〇%減)となった。実質賃金は、前年同月比で十二月一・一%減の後、一月(速報)は三・〇%減(事業所規模三十人以上では同三・一%減)となった。なお、十一〜一月合算の特別給与(速報)は、前年同期比〇・九%減(前年は同三・〇%増)となった。
 住宅建設は、このところおおむね横ばいで推移しているものの、依然その水準は低い。
 新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で十二月一・三%増(前年同月比一八・六%減)となった後、一月は一・一%増(前年同月比一六・三%減)の十万九千戸(年率百三十一万戸)となった。一月の着工床面積(季節調整値)は、前月比三・〇%増(前年同月比一九・六%減)となった。一月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比五・〇%増(前年同月比二八・三%減)、貸家は同七・〇%減(同一六・四%減)、分譲住宅は同七・七%増(同五・二%増)となっている。
 設備投資は、全体として伸びが鈍化している。
 当庁「法人企業動向調査」(九年十二月調査)により設備投資の動向をみると、全産業の設備投資は、前期比で九年七〜九月期(実績)一・四%増(うち製造業〇・七%増、非製造業一・五%増)の後、九年十〜十二月期(実績見込み)は三・九%減(同一・九%増、同六・六%減)となっている。また、十年一〜三月期(修正計画)は、前期比で二・二%減(うち製造業一・六%減、非製造業二・〇%減)、十年四〜六月期(計画)は三・七%減(同一・〇%減、同四・九%減)と見込まれている。
 なお、年度計画では、前年度比で八年度(実績)七・八%増(うち製造業一〇・八%増、非製造業六・四%増)の後、九年度(計画)は二・七%増(同七・八%増、同〇・二%増)となっている。
 先行指標の動きをみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前月比で十一月は一一・四%減(前年同月比一六・六%減)の後、十二月は一・七%減(同八・九%減)となり、全体として弱含みで推移している。
 なお、当庁「機械受注調査(見通し)」によれば、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、一〜三月期(見通し)は前期比で三・九%増(前年同期比一・六%減)と見込まれている。民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、一進一退で推移しており、前月比で十二月六・一%減の後、一月は〇・〇%増(前年同月比六・二%減)となった。内訳をみると、製造業は前月比一六・七%増(前年同月比一二・八%増)、非製造業は同三・三%減(同一二・一%減)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資については、着工総工事費は、前年同月比で十一月〇・五%減の後、十二月は四・八%増となった。公共工事請負金額は、前年同月比で十二月五・一%増の後、一月は〇・一%増となった。官公庁からの建設工事受注額(五十社)は、前年同月比で十二月八・四%減の後、一月は二九・八%減となった。

2 生産雇用
―雇用情勢は、雇用者数の伸びが鈍化し、完全失業率が高い水準で推移するなど依然として厳しい状況―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、在庫は高水準にあり、生産・出荷は、弱含んでいる。
 鉱工業生産は、前月比で十二月一・一%増の後、一月(速報)は、金属製品、石油・石炭製品が減少したものの、電気機械、一般機械等が増加したことから、二・九%増となった。また製造工業生産予測指数は、前月比で二月は機械、化学等により二・五%減の後、三月は機械、軽工業等により〇・二%増となっている。鉱工業出荷は、前月比で十二月一・四%増の後、一月(速報)は建設財が減少したものの、資本財、耐久消費財等が増加したことから、三・一%増となった。鉱工業生産者製品在庫は、前月比で十二月〇・四%増の後、一月(速報)は、鉄鋼、パルプ・紙・紙加工品等が増加したものの、石油・石炭製品、金属製品等が減少したことから、〇・二%減となった。また、一月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数は一二〇・九と前月を一・七ポイント下回った。
 主な業種について最近の動きをみると、電気機械では、生産は二か月連続で増加し、在庫は一月は増加した。一般機械では、生産は一月は増加し、在庫は減少した。化学では、生産は一月は増加し、在庫は六か月連続で増加した。
 第三次産業活動の動向をみると、十〜十二月期は前期比〇・四%減となり、低調に推移している。
 雇用情勢をみると、雇用者数の伸びが鈍化し、完全失業率が高い水準で推移するなど依然として厳しい状況にある。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、十二月〇・六七倍の後、一月〇・六四倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、十二月一・一二倍の後、一月一・〇六倍となった。雇用者数は、伸びが鈍化している。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、一月は前年同月比〇・三%増(前年同月差十五万人増)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、十二月前年同月比〇・七%増(季節調整済前月比〇・一%減)の後、一月(速報)は同〇・七%増(同〇・〇%)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比〇・一%増)、産業別には製造業では同〇・五%減となった。一月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差三万人増の二百三十八万人、完全失業率(同)は、十二月三・五%の後、一月三・五%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では十二月前年同月比二・七%減(季節調整済前月比一・七%減)の後、一月(速報)は同六・四%減(同〇・三%減)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比五・六%減)。
 また、労働省「労働経済動向調査」(二月調査)によると、「残業規制」等の雇用調整を実施する事業所割合は、十〜十二月期はやや上昇した。
 企業の動向をみると、企業収益は、中小企業では減益が見込まれるなど全体として伸びが低下している。また、企業の業況判断は、厳しさが増している。
 大企業の動向を前記「法人企業動向調査」(十二月調査、季節調整値)でみると、売上高、経常利益の見通し(ともに「増加」−「減少」)は、十年一〜三月期は「減少」超に転じた。また、企業経営者の景気見通し(業界景気の見通し、「上昇」−「下降」)は十年一〜三月期は「下降」超幅が拡大した。
 また、中小企業の動向を中小企業金融公庫「中小企業動向調査」(十二月調査、季節調整値)でみると、売上げD.I.(「増加」−「減少」)は、九年十〜十二月期は「減少」超幅が拡大し、純益率D.I.(「上昇」−「低下」)は、「低下」超幅が拡大した。業況判断D.I.(「好転」−「悪化」)は、九年十〜十二月期は「悪化」超幅が拡大した。
 企業倒産の状況をみると、件数は、このところ前年の水準を大きく上回る傾向にある。
 銀行取引停止処分者件数は、一月は一千四件で前年同月比一六・二%増となった。業種別に件数の前年同月比をみると、運輸・通信業で一〇・五%の減少となる一方、小売業で三〇・四%、製造業で一七・九%の増加となった。

3 国際収支
―貿易・サービス収支の黒字は、増加傾向―

 輸出は、強含みに推移している。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で十二月〇・〇%増の後、一月は三・一%増(前年同月比三・〇%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、電気機器、精密機器等が増加した。同じく地域別にみると、アメリカ、EU等が増加した。ただし、アジアは減少した。
 輸入は、おおむね横ばいで推移している。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で十二月八・〇%増の後、一月は四・六%増(前年同月比〇・二%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、原料品等は減少したが、製品類(繊維製品)等は増加した。同じく地域別にみると、アジア等が減少したが、アメリカ、EU等は増加した。
 通関収支差(季節調整値)は、十二月に七千九百八十五億円の黒字の後、一月は一兆七百九十八億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、増加傾向にある。
 十二月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、貿易収支の黒字幅が縮小し、サービス収支の赤字幅が拡大したため、その黒字幅は縮小し、四千八百四十二億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、所得収支の黒字幅が拡大したものの、貿易・サービス収支の黒字幅が縮小し、経常移転収支の赤字幅が拡大したため、その黒字幅は縮小し、一兆六百二十一億円となった。投資収支(原数値)は、三兆三千三百九十三億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、三兆三千五百九十七億円の赤字となった。
 二月末の外貨準備高は、前月比十六億一千万ドル拡大して二千二百三十一億四千万ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、二月は、月初の百二十六円台から一時百二十三円台まで上昇したが、その後下落し百二十七円台から百二十八円台で推移した。一方、対マルク相場(インターバンク十七時時点)は、二月は、月初の六十九円台から一時六十七円台まで上昇したが、その後下落しおおむね七十円台から七十一円台で推移した。

4 物 価
―国内卸売物価は、やや弱含みで推移―

 国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、やや弱含みで推移している。
 一月の国内卸売物価は、石油・石炭製品(燃料油)等が上昇したものの、食料用農畜水産物(鶏卵)等が下落したことから、前月比〇・二%の下落(前年同月比〇・七%の上昇)となった。輸出物価は、契約通貨ベースで下落したことから、円ベースでは前月比〇・三%の下落(前年同月比三・三%の上昇)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで下落したことから、円ベースでは前月比一・五%の下落(前年同月比一・二%の下落)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比〇・四%の下落(前年同月比〇・八%の上昇)となった。
 二月上中旬の動きを前旬比でみると、国内卸売物価は上旬が保合い、中旬が〇・一%の下落、輸出物価は上旬が〇・七%の下落、中旬が〇・二%の上昇、輸入物価は上旬が二・四%の下落、中旬が〇・一%の下落、総合卸売物価は上旬が〇・四%の下落、中旬が保合いとなっている。
 企業向けサービス価格は、一月は前年同月比一・七%の上昇(前月比〇・二%の下落)となった。
 商品市況(月末対比)は「その他」等は上昇したものの、木材等の下落により二月は下落した。二月の動きを品目別にみると、牛原皮等は上昇したものの、ヒノキ正角等が下落した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で十二月二・二%の上昇の後、一月は外食の上昇幅の縮小等により二・〇%の上昇(前月比〇・六%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で十二月一・八%の上昇の後、一月は一・八%の上昇(前月比〇・一%の下落)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で一月一・九%の上昇の後、二月(中旬速報値)は公共料金(広義)の上昇幅の縮小等により一・七%の上昇(前月比〇・二%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で一月二・〇%の上昇の後、二月(中旬速報値)は二・一%の上昇(前月比保合い)となった。

5 金融財政
―長期金利は、やや低下―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、二月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、二月はやや低下した。株式相場は、二月はおおむね横ばいで推移した。マネーサプライ(M2+CD)は、一月は前年同月比四・三%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレートは、二月はおおむね横ばいで推移した。二、三か月物は、二月は月初にやや上昇した後、おおむね横ばいで推移した。なお、日銀は市場安定のため、潤沢な資金供給を行った。
 公社債市場をみると、国債流通利回りは、二月はやや低下した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、十二月は短期は〇・一二三%上昇し、長期は〇・〇一九%低下したことから、総合では前月比で〇・〇九三%上昇し一・九一二%となった。
 マネーサプライ(M2+CD)の月中平均残高を前年同月比でみると、一月(速報)は四・三%増となった。また、広義流動性でみると、一月(速報)は三・二%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関の貸出平残(全国銀行)は、一月(速報)は前年同月比〇・二%減となった。二月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債がゼロとなった。また、国内公募事業債の起債実績は一兆三千七百八十億円となった。
 民間金融機関において貸出態度に慎重さがみられる。
 株式市場をみると、日経平均株価は、二月はおおむね横ばいで推移した。

6 海外経済
―欧米主要国株価、おおむね最高値更新―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大している。実質GDPは、九七年七〜九月期前期比年率三・一%増の後、十〜十二月期は同三・九%増(速報値)となった。個人消費、住宅投資は増加している。設備投資はこのところ伸びに鈍化がみられる。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大している。雇用者数(非農業事業所)は十二月前月差三十五万五千人増の後、一月は同三十五万八千人増となった。失業率は一月四・七%となった。物価は安定している。一月の消費者物価は前月比横ばい、一月の生産者物価(完成財総合)は同〇・七%の下落となった。十二月の財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、前月から拡大した。二月の長期金利(三十年物国債)は、やや上下したが、総じて上昇した。二月の株価(ダウ平均)は、総じて上昇し、月末には最高値を更新した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は回復しており、フランスでは、景気は拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポはこのところ緩やかになってきている。十〜十二月期の実質GDPは、ドイツ前期比年率一・一%増、フランス同三・一%増(速報値)、イギリス同一・八%増となった。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは回復しているが、イギリスではこのところ鈍化してきている(十二月の鉱工業生産は、ドイツ前月比〇・一%増、フランス同二・二%増、イギリス同〇・二%減)。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準で推移しているが、イギリスでは低下している(一月の失業率は、ドイツ一一・六%、フランス一二・一%、イギリス五・〇%)。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスではこのところ安定してきている(一月の消費者物価上昇率は、ドイツ前年同月比一・三%、フランス同〇・五%、イギリス同三・三%)。
 東アジアをみると、中国では、景気は拡大している。物価上昇率は、低下している。貿易収支は、大幅な黒字となった。韓国では、景気は後退している。失業率は、上昇している。物価上昇率は、高まっている。貿易収支は、大幅に改善している。
 国際金融市場の二月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、やや弱含みながら、ほぼ横ばいで推移した(モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)二月二十七日一〇九・一、一月末比一・二%の減価)。内訳をみると、二月二十七日現在、対円では一月末比〇・七%減価、対マルクでは同〇・八%減価した。
 国際商品市況の二月の動きをみると、全体では初旬強含みで推移した後、中旬から下旬にかけては弱含みで推移した。二月の原油スポット価格(北海ブレント)は、イラク情勢懸念の弱まりなどから、全体では弱含みでの推移となり、中旬から下旬にかけては十三ドル台に下落した。

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セルフサービス方式の給油取扱所に関する注意事項


 ドライバーが自ら給油を行うセルフサービス方式の給油取扱所(セルフスタンド)の設置が、今年四月から認められるようになりました。
 自動車等への給油に使われるガソリンは、気温が零下四十度(摂氏)でも爆発性の混合気を形成する物質ですので、直接点火しなくても、ガソリンから離れた思わぬところの火源(ライター等の裸火に限らず、静電気、衝撃の火花なども火源となることがあります)によって引火する可能性があります。
 セルフスタンドには各種の安全装置が設けられ、監視者による安全確認も行われますが、安全に給油を行っていただくため、ドライバーの皆さんには、次の事項に十分留意していただく必要があります。

◇自動車の乗り入れ

 @ セルフスタンドへの乗り入れ
 セルフスタンドは、一般のドライバーでも安全に給油できるよう各種の安全上の措置が講じられています。セルフスタンドには、進入口等の見やすい箇所に、ドライバーが自ら給油等を行うことができる給油取扱所である旨が表示されています。
 A セルフ用の固定給油設備横への停車
 セルフスタンドには、セルフ用の安全装置を備えた固定給油設備が設置されていますが、セルフ用ではない固定給油設備も併せて置かれていることがあります。セルフ用でない固定給油設備ではドライバーが自ら給油することはできません。セルフスタンドに入ったら、固定給油設備がセルフ用であることを表示で確認の上、定められた停止位置に停車し、エンジンを停止させてください。

◇給油作業

 自動車から降りたら、次の事項に注意しながら給油を行いましょう。
 @ 火気使用の禁止
 給油の際には、給油口からガソリン蒸気が吹き出します。また、ガソリンが漏えいした場合には、大量のガソリン蒸気が発生します。このため、喫煙や喫煙のためライター(車内のシガーライターを含む)に火を着けるといったことは絶対禁物です。
 A 給油する自動車の燃料の把握
 自動車には、ガソリンを燃料とするもののほか、軽油を燃料とするものがあります。ドライバーは自分の給油する自動車の燃料をきちんと把握しておく必要があります。特に、社用車やレンタカーなど、常時使用しないような車を使用する場合は、注意する必要があります。
 なお、給油ホース機器には、給油できる燃料の品目の表示があり、彩色される場合の色は、ハイオクガソリンが黄、レギュラーガソリンが赤、軽油が緑となっています。
 B 給油ノズルの適切な取扱い
 給油は、コントロールブースの監視者が、安全を確認した上で、給油ポンプを起動させることによって開始することができます。給油ノズルの取扱いに当たっての注意事項は次のとおりです。
・給油ノズルは給油口の奥まで差し込みます。ただし、自動二輪車等の場合は奥まで差し込めませんので注意してください。
・給油中はその場を離れないでください。
・自動車の燃料タンクが満たされると、給油は自動的に停止しますので、そこで給油を終了してください。必要以上に給油しようとすると、ガソリンが給油口の外にはね出したり、漏えいするおそれがあります。また、自動二輪車等の場合は自動的に停止しない場合がありますので、流量を絞りながら注意して給油しましょう。
・給油終了後は、給油ノズルを戻すことを忘れないようにしてください。
・給油ノズルの操作方法は、セルフスタンドにより異なる場合がありますので、給油を始める前に取扱方法をよく確認してください。不明な点があれば、インターホンで監視者に問い合わせてください。また、監視者の指示には従ってください。(消防庁)
 

学校への社会人登用と教員の社会体験研修


 今、開かれた学校づくりに向け、学校内外の人材交流が盛んに行われています。その主な制度を紹介します。
<学校への社会人登用>
▽特別免許状制度:一定の要件に該当する社会人に対して教員の免許状(特別免許状)を授与する制度です。平成元年から八年度までの授与状況は、中・高等学校で三十七件です。主な登用事例(教科)としては、元新聞記者(政治経済)、農協金融業務担当者(商業一般)などです。
▽特別非常勤講師制度:免許状は持たないが、各種分野において優れた知識や技術を持つ社会人を非常勤講師として採用する制度です。平成元年から八年度の許可状況は、小・中・高等学校と特殊教育諸学校合わせて三千五百三十七件です。主な採用事例(教科)としては、落語家(国語)、エアロビクスのインストラクター(保健体育)、漆工芸作家(工芸)などです。
<教員の社会体験研修>
▽長期社会体験研修:社会の構成員としての視野をさらに広げるため、教員が学校以外の施設などで長期の研修を行う制度です。研修期間は、一か月から一年程度です。研修先は、デパートやホテルなどの民間企業、児童相談所などの社会福祉施設、青少年自然の家や博物館などの社会教育施設などです。平成九年度には五百二十九人の教員が、この研修に参加しています。
 ※これらの制度についてのお問い合わせは、文部省教育助成局教職員課(пZ三−三五八一−四二一一 内線二四五六)まで。(文部省)

 
    <4月1日号の主な予定>
 
 ▽労働力調査
  平成九年平均結果の概要…………総 務 庁 

 ▽消費者物価指数の動向……………総 務 庁 
 



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