官報資料版 平成1030





農業白書のあらまし


―平成9年度 農業の動向に関する年次報告―


農 林 水 産 省


 「平成九年度農業の動向に関する年次報告」(農業白書)は、平成十年四月十日、閣議決定のうえ、国会に提出、公表された。
 本年度の本報告においては、大きな転換期を迎えつつある農業、農村、食品産業の特徴的な動向を全四章にわたって幅広く分析、検討し、食料・農業・農村の現状、問題点等について国民の理解が深まるよう、その素材を提供することを基本とすることとした。
 なかでも、一億三千万人の国民生活にとって最も身近な「食」に焦点を当て、我が国の食料消費、食生活の現状及び食料供給システムの役割を明らかにするとともに、今後の「食」を考えるうえでの論点を整理したことが、本報告における特徴となっている。
 本報告のあらましは次のとおりである。


<第T章> 我が国の食を考える


一 我が国の食料消費、食生活の現状


 (一) 食料の供給と栄養摂取の状況
<量・カロリーが増大した食料供給>
 昭和三十五年度から平成八年度にかけて、国民一人一年当たりの供給純食料の総量は約百キログラムも増加し、約五百二十キログラムとなっている。また、供給熱量については、近年ほぼ飽和水準に達したものとみられるが、この間、米の供給熱量の減少を畜産物及び油脂類の増加が代替している(第1図参照)。
<増加するたん白質と脂質>
 我が国の食料消費では、炭水化物の減少、たん白質及び脂質の増加という栄養面の変化もみられる。昭和三十五年度から平成八年度にかけて、国民一人一日当たりの供給たん白質は三割、脂質は三倍に増加した。
<懸念される栄養素摂取の不足や過多>
 米を中心とした「日本型食生活」といわれる我が国の食生活は、平均的には栄養バランス(PFCバランス)がとれたものとなっている。しかし、二十〜四十歳代で適正脂質摂取比率を上回ることをはじめ、エネルギーやカルシウム等の栄養素の摂取の不足や過多といった懸念される状況がみられる(第2図参照)。

 (二) 個人のライフスタイル、価値観を反映した食生活の状況
 ア 多様化する食料消費
<広がりをみせる食料消費品目>
 食料消費品目の多様化を総務庁「小売物価統計調査」の調査品目の変化からみると、消費量の変化を反映して、昭和三十七年の百四十一品目が平成八年には二百三十五品目へ、九十四品目の増加となっている。
<消費者の志向やライフスタイルを反映する食料消費>
 健康や安全を重視する消費者志向、女性の社会進出、生活時間の夜型化等のライフスタイルの変化を反映して、乳製品、納豆といった健康志向や、弁当類、ファーストフードといった外部化・サービス化、簡便化に関連する食品の消費に増加がみられる。
 イ 食に関する情報と消費者の購買行動
 テレビや雑誌等の様々な媒体を通じて食に関する大量の情報が日々提供されるなか、食品の表示について、品質表示基準の充実が望まれている。
 また、女性の社会進出等、社会環境の変化に伴い、例えば、野菜では購入頻度が少なくなるとともに、スーパーを利用する者が増えるなど、食品の購買行動に変化がみられる。
 ウ 生活様式の変化と食生活
<増加する朝食の欠食と、進む家庭での孤食化>
 二十歳代の男性を中心に、朝食の欠食が進んでいる。また、家族が異なった時間に一人一人で食事をとる孤食化が進みつつある。このような食生活の変化により、栄養バランスが崩れることが懸念される。
<望ましい食生活とその啓発>
 望ましい食生活の実現には、食に関する正しい知識を身につけ、年齢やライフスタイルに応じた食生活の実現と定着に向けて努力することが必要である。また、食習慣の形成という点からは、子供の食生活のあり方が重要であり、保護者においても望ましい食生活について考え、その実現に努めることが重要である。
<食と農とのかかわりの再認識>
 都市化の進展、農産物産地の遠隔化等により、食料消費・食生活の場と農業生産の場との距離が拡大し、日常の食を通じて、農業の役割や現状を意識・理解する機会が減少してきている。このため、食と農とのかかわりや、農業・農村が担う食料の安定供給をはじめとする様々な役割について、あらためて理解を深めていくことが重要である。

 (三) 増加する食料輸入と世界市場における我が国の位置付け
<増加してきた農産物の輸入>
 我が国の農産物輸入は、長期的な円高の影響、消費者ニーズの変化等を背景に増加傾向にある。また、農産物輸入の質的な変化も起きており、農産物輸入額を加工度別にみると、穀物、油糧種子等の未加工品の占める割合が低下する反面、加工品、生鮮品の割合に上昇がみられる。
<世界の農産物貿易の一割を占める我が国の輸入>
 我が国の農産物輸入は増加傾向にあるが、これに伴い、世界の農産物貿易に占める我が国のウェイトは高まっており、世界の総人口の二・三%を占める我が国の世界の農産物貿易に占める輸入割合(金額ベース)をみると、一九九四年(平成六年)では九・五%となっている。

二 安心で豊かな食をまかなう食料供給システム

 (一) 安定的・持続的な食料供給の確保に努める食料供給システム
 ア 食料の安定供給と農業、食品産業
<食料の安定供給に資する農業、食品産業>
 食料の安定供給は、農業のほか、食品製造業、食品流通業及び外食産業からなる食品産業によって担われている。このうち農業は、食品流通の最も川上に位置し、消費者ニーズに対応しつつ、様々な農業技術を駆使することにより、生産の安定を図り、食料の安定供給に寄与している。
<生産と消費を結ぶ卸売市場>
 野菜、果実等の生鮮食料品の流通において、卸売市場は、推計市場経由率が平成六年で七割半ばを占めており、多様な品揃えのための集荷機能、単品目・大量から多品目・少量への分荷機能、迅速かつ公正な価格形成機能等を通じて、生産と消費を結ぶ重要な役割を果たしている。
<弱体化が懸念される食料生産の基盤>
 農家戸数、農業就業人口、農地が減少する傾向にあるなか、農業生産の中心的存在となる中核農家の戸数、耕地面積の減少割合が大きく、長期的にみると、食料生産の基盤の弱体化が懸念される(第3図参照)。
 イ 安定的・持続的な食料供給の一翼を担う食料、農産物の輸入
<安定的な輸入の確保>
 食料の安定供給を確保していくためには、国内生産を基本としつつ、輸入と備蓄を適切に組み合わせていく必要がある。このうち、輸入の安定を図るため、二国間での麦類の取引目標数量の取決め等を行っている。
<食品産業の海外進出と開発輸入への積極的な取組>
 食料の輸入が増加するなか、食品産業においても海外進出や開発輸入の動きがみられる。海外に進出している子会社・関連会社数は増加しており、開発輸入の形態としては、国内のニーズに対応するため、農畜水産物の契約栽培や栽培指導を行うなど、栽培管理の段階から積極的に関与している。
<低下する自給率と不安定な世界の食料需給>
 食生活の変化等に対応して、飼料穀物等を中心に輸入が増加してきたことから、我が国の供給熱量自給率は長期的に低下傾向をたどり、平成八年度では四二%(概算)となっている。一方、中長期的な世界の食料需給はひっ迫することも懸念される。
 ウ 基幹的農産物の備蓄
 農産物輸入国にあっては、不測の事態においても、国民に対して食料を安定的に供給するために、備蓄を確保しておくことは重要である。また、国際価格の変動の影響を緩和するためにも、備蓄のもつ意義は大きい。
 我が国においては、米、小麦、飼料穀物、大豆について備蓄制度が整備されている。海外においても、食料供給を輸入に依存する割合の高い国では概して備蓄が行われている(第1表参照)。
 エ 食料供給における価格の安定
 食料の供給に当たっては、国民生活の安定という視点から価格を安定させることが重要であり、主要農産物について、需給情勢を反映しながら、貯蔵性、生産時期等それぞれの特性に応じた方法により価格の安定が図られている。
 また、食料の供給に当たっては、食料価格の安定のほか、より低廉な価格で食料を供給していくことが重要である。農業においては、生産基盤の整備、大規模経営への農地利用の集積、栽培技術や品種の開発・普及等により、効率的な生産に向けての取組が行われている。

 (二) 高品質で安全な食の確保
<生産から消費の各段階における食品の安全性確保対策>
 食料は、生命や健康の維持に直結するものであることから、その安全性の確保が大前提である。農産物等の生産から消費に至る各段階で、安全性確保のための対策が講じられている。厚生省は、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止する立場から、農林水産省は、国民に対し安全かつ良質な食品を提供する立場から、各段階において種々の安全性確保対策を行っている。
<食品の選択に資する規格・表示>
 消費者の適正な商品選択が可能となるよう、飲食料品についてはJAS規格や品質表示基準が法により定められているほか、青果物等については品質表示ガイドラインが制定されている。有機農産物等については米麦を含め表示ガイドラインが制定されており、現在、有機食品の検査・認証制度のあり方について検討が進んでいる。
<遺伝子組換え農作物の環境に対する安全性の確認>
 我が国で遺伝子組換え農作物を生産・利用するに当たっては、栽培、食品利用等の各分野で安全性評価指針が定められ、これに基づいて安全性が確かめられており、現在、我が国では病気に強い農作物や低アレルゲン・日持ち性等の機能を付加した農作物が開発されている。

 (三) 消費者ニーズの多様性に対応する農業、食品産業
<売上げが伸びる多様な品揃えのセルフ・サービス方式の小売店>
 消費者の購買行動が大きく変化するなかで、食品小売業では、多様な品揃えを行うコンビニエンス・ストアやスーパー等のセルフ・サービス方式の店舗の売上げの伸びが大きく、また、終日営業の商店数割合の増加が著しい。
<健康志向等、多様化するニーズに対応する外食産業等>
 平成八年で約二十八兆八千億円の市場規模をもつ外食産業では、有機農産物メニューの開発や、カロリーの表示等、健康、安心志向への取組がみられる。食品製造業でも簡便化志向等を反映し、冷凍調理食品、レトルト食品等、多様な食品が開発されている。
<廃棄物の減量・リサイクルを進める食品産業>
 環境問題に対する意識が高まるなかで、食品産業においても廃棄物の減量化、リサイクル化等、環境への負荷を軽減するための取組が行われている。
<環境に配慮した農業生産>
 農業生産においても、消費者・実需者のニーズの多様化に対応し、環境保全型農業の取組や、良食味品種等の新品種の開発・普及が進められている。

三 今後の我が国の食を考える

 (一) 望ましい食料消費、食生活の実現
 我が国の食は豊かである一方、栄養面での懸念がみられ、国民一人一人が食の大切さを認識し、年齢に応じた望ましい食生活のあり方を考え、その実現に努力することが必要である。
 また、食習慣の形成の点からは、子供の食生活のあり方について保護者も考えることが重要である。

 (二) 安定的な食料供給の確保と多様なニーズへの対応
 農業、食品産業は、今後とも多様化するニーズに対応していくことが必要である。一方、国内農業には食料生産の基盤の弱体化の懸念、世界の食料需給には不安定さの懸念がある。食料の安定供給を確保するためには、国内生産を基本としつつ、輸入及び備蓄を適切に組み合わせることが必要である。また、国内での食料供給力の確保が必要である。

 (三) 国民にとっての食と農
 食の外部化、サービス化の進展等により、食と農の距離が拡大し、農業を理解する機会が減少している。国民一人一人が、食のあり方を考えていくなかで、食と農のかかわり、農業、農村が食料の安定供給だけでなく国土・環境保全、教育の場等の様々な機能を有することにあらためて理解を深めることが求められている。また、そのような考えや理解を深めるための情報提供や教育、啓発の適切な実施が必要である。

<第U章> 平成八〜九年度の農業経済

一 経済の動向と農業経済

 (一) 内外経済の動向
 我が国経済については、家計や企業の景況感の厳しさが、個人消費や設備投資に影響を及ぼしており、景気はこのところ停滞している。また、アジア諸国では、経常赤字の増加等を背景として、総じて通貨の対ドルレートが下落している。

 (二) 平成八年度を中心とした農業経済
 平成八年度の農業生産(指数)は、米をはじめ果実、肉用牛、豚等の品目で減少し、前年に続き二・〇%の減少となった。農業総産出額(概算)は、一・九%減の十兆二千四百八十九億円となり、生産農業所得(概算)は四・六%減の四兆四千百三十八億円となった。
 農業所得は三・八%減少したが、農家総所得については、農外所得、年金・被贈等の収入が増加したことから、〇・二%増加した。

 (三) 農協事業、食品産業の動向
 平成八年度末の総合農協は二千二百八十四組合となり、前年度より百八十八組合減少した。組合員五千戸以上の農協は増加している。正組合員は前年度よりも三万四千人減少した。全農協の事業利益は一千三百三十八億円(三〇%減)となった。
 食品工業の設備投資額は、平成八年前半に二四・七%の増加を示し、八年全体でも大きな伸びを示している。
 一方、食品流通業の販売額では、食料・飲料卸売業が平成八年に〇・七%の増加に転じたが、飲食料品小売業は、八年後半から減少が続いている。

二 農業の比較生産性と農家の生活水準

 平成八年の農業の製造業に対する比較生産性は、製造業の伸びが農業を上回ったことから、前年度に比べ〇・九ポイント低下し、二八・三%となっている。
 また、農家と勤労者世帯の生活水準を比較すると、平成八年には販売農家の世帯員一人当たりの家計費は、百二十七万円と勤労者世帯を一四・五%上回っているが、専業農家と第一種兼業農家では勤労者世帯を下回っている。

<第V章> 内外の農産物需給の動向

一 米の生産、流通、消費の動向

 米の需給は、平成六年産以降、四年連続で豊作が続いたこと等から、緩和状態が続いている。この結果、在庫量は増加しており、十年十月末の国産米在庫は三百七十万トン程度に増大する見込みとなっている。このような需給緩和のもと、自主流通米の入札取引価格についても、多くの銘柄が値幅の下限に近い水準で取引されている。
 他方、米の消費動向をみると、平成五年産米の不作等の影響による大幅な減少、翌年の回復を除いて、長期的には減少傾向が続いている。
 消費者へのアンケート結果から、米の購入先についてみると、スーパー、コンビニエンス・ストアが大幅に増加している。また、以前に比べ価格の低いものの購入割合が増加している。
 米生産は、消費者ニーズに対応して良食味品種の作付けが増加している。しかし、近年の生産構造をみると、他の作物に比べて農業労働力のぜい弱化が進んでいる。
 現下の米をめぐる厳しい状況を打開し、米の需給と価格の安定を図るため、稲作及び転作が一体となった望ましい水田営農の確立、稲作経営の将来展望を切り拓くことを基本理念に、生産調整対策、稲作経営安定対策、計画流通制度の運営改善の三つを基軸とする新たな米政策の着実な推進が重要である。

二 国際化のなかでの畜産

 食肉需要は、全体としてわずかに減少している。供給は国内生産量が総じて減少傾向が続くとともに、輸入において豚肉、鶏肉で国内生産量の減少を補う形の増加が続き、牛肉は狂牛病や腸管出血性大腸菌O157の影響等から平成八年度は減少した。鶏卵は需給両面ともほぼ横ばいで推移している。牛乳・乳製品は引き続き需要量が増加傾向にある。
 豚肉の輸入については、近年増加傾向で推移しており、平成七年度以降毎年、関税の緊急措置が発動されている。九年には最大の輸入先であった台湾で口蹄疫の発生が確認され、当該地域からの豚肉等の輸入禁止措置等により国内豚枝肉卸売価格が高騰し、豚肉の輸入に係る関税の減免措置がとられた。
 このようななか、畜産については、平成七年から実施された関税化等の国境措置のもと、低コスト化等国際化への適切な対応が必要である。

三 畑作物等の需給動向

 平成八年産の麦類及び大豆の作付面積は、追加的転作等が実施されたこと等から、麦類が三%増、大豆が一九%増となった。また、収穫量も十アール当たりの収量が増加したため、麦類が七%、大豆が二四%ともに増加した。
 麦類、大豆は水田営農の活性化等にとって重要な作物であることから、規模拡大による生産性の向上等が重要である。
 平成八年の野菜の作付延べ面積は、一・四%の減少となり、生産量は前年度並みとなっている。これらは生産者の高齢化や労働力不足等の影響によるものである。このため、野菜の生産については機械化一貫体系の導入等、省力化を推進することが必要である。
 果実は、生産者の高齢化、労働力不足等を背景に栽培面積の減少が続いており、平成八年は二・三%減となった。果樹経営については、労働時間及び労働費の一層の低減等の省力化が重要となっている。

四 世界の食料需給と国際協力

 (一) 食料の国際需給の動向
 一九九七年(平成九年)以降の穀物需給をみると、一時の不安定期を脱したとみられるが、在庫率は依然として低水準で推移している。
 今後の中長期的な需給に関しては、開発途上国の人口増加・経済発展による需要の増加が見込まれるのに対し、生産面では、耕地面積の大幅な拡大は困難とみられ、また、これまでのような単収の伸びが期待できるかどうか不透明な状況にあり、ひっ迫することも懸念される。
 食料安全保障に関しては、各国における国内生産、輸入、備蓄の適切な組み合わせ、なかでも持続可能な国内生産が重要であり、このような我が国の主張は、一昨年の世界食料サミットにおいて多くの国から支持を得ている。
 我が国においては、食料自給率が先進国のうちでもきわめて低いことを踏まえ、食料自給率の低下傾向に歯止めをかけることを基本とし、農地等の国土資源の保全・有効活用や担い手の育成等を通じて可能な限り国内生産の維持・拡大を図るとともに、国内における食料供給力の確保に向けた政策展開に努めることが必要である。

 (二) 各国・地域の農業・農政動向
 一九九八年(平成十年)三月、第十二回OECD農業大臣会合が開催された。同会合では、今後の農政の展開方向等について議論が行われ、共同声明には、我が国が主張した食料安全保障や農業の多面的機能の重要性も盛り込まれた。引き続き開催された五か国農相会議でも、こうした主張には一定の理解が得られた。
 アメリカでは、収入保険のパイロット・プログラムが試験的に導入されている。EUでは、今後のさらなるEU拡大に備え、新たなCAP(共通農業政策)改革の方向が議論されている。
 アジアでは、中国が需要の増加に対応した食料増産が行えるかどうかが注目されている。インドネシアでは、エルニーニョ現象等の影響による干ばつによって米の生産が著しく減少し、輸入需要の増加が見込まれている。

 (三) 開発途上国の食料問題と国際協力の推進
 開発途上国を中心に八億四千万の人口が慢性的な栄養不足に直面している。開発途上国への農業協力は、当該国のみならず、世界の食料需給の安定に貢献する。我が国の農業協力は、アジア以外の地域にも拡大しつつあり、また、穀物生産のほか、畜産、園芸等、様々な分野で行われている。

五 食料品の内外価格差とその要因

 (一) 食料品の内外価格差の現状とその要因
 食料品の価格水準の国際比較は、各国固有の食習慣の違いや消費パターンが異なること等から厳密に行うことは難しい面があるが、農林水産省が東京及び海外主要都市で行った食料品の小売価格に関する調査によると、平成八年では我が国は二〜三割程度割高となっている(第4図参照)。
 食料品の価格形成には、資材費、人件費、光熱動力費等の直接的なコストや国土条件等の基礎的な条件、消費者の購買行動・志向等も影響を及ぼしている。食料品の内外価格差を考える場合、このような種々の要因を視野に入れる必要がある。

 (二) 食料品の流通と内外価格差
 代表的な品目について日米間の生産者価格、メーカー出荷価格、流通経費の価格差を試算すると、生鮮食品では生産者価格、流通経費とも価格差は二〜六倍程度、加工食品ではメーカー出荷価格、流通経費とも価格差は二〜四倍程度となっている。

 (三) 農業生産段階における内外価格差と生産資材費の低減
 農業生産に投入される肥料、農薬、農業機械、飼料の農業生産資材について日米間での価格差をみると、資材の製造・流通コスト、流通形態、使用条件等の諸条件が異なるため単純な比較は困難であるが、一・一〜一・四倍程度の価格差があるものもみられる。
 平成八年度に肥料、農薬、農業機械について、関係業界団体、農業団体、四十七都道府県において策定された「農業生産資材費低減のための行動計画」に基づき、国、都道府県、農業団体、関連業界団体等の相互の支援・連携のもとに、農業生産資材費の低減に向けた具体的な取組が行われている。

 (四) 食料品の内外価格差縮小に向けての課題
 食料品価格を形成するすべての段階に影響を及ぼしている地価、人件費等については、我が国経済構造全体に起因する要因であり、国内で生産活動を行う以上やむを得ない面もあるが、内外価格差の縮小のためには、農業とともに関連産業全体においてコスト低減に向けた努力が必要である。農業生産段階では、農業生産資材の物流の合理化、弾力的な価格設定、効率的利用等により、農業生産資材のコストを低減させる必要がある。

<第W章> 農業構造、農村社会

一 担い手の動向

 (一) 新規就農者等の動向
 次世代を担う若い担い手の動向をみると、ここ数年増加傾向にある。これは、農業を職業の一つとして見直す気運の高まりが影響しているとともに、若い担い手の就農促進に向けた様々な支援策の実施が効果をあげているものとみられる。
 若い担い手は、家の事情によるもののほか、自ら創意工夫ができるといった自発的な動機により就農している。農家子弟の就農動機についてみると、経営耕地規模が大きくなるに伴い、自発的な動機の割合が高くなる傾向を示している。
 若い農家子弟の集落の祭りやイベントへの参加状況を本人の職業別にみると、農業を職業としている農家子弟の七五%が「だいたい参加している」と回答しており、農業の若い担い手の確保は、農業生産だけでなく地域全体で取り組む行事等を通じた地域活力の維持・向上にとっても重要である。

 (二) 役割が拡大する農家女性の動き
 農家女性は、農業就業人口の約六割(平成七年「農業センサス」)を占め、農業生産においても重要な役割を担っている。農業労働時間からみると、都府県の女性は、平成七年で一千五百三十二時間と、昭和六十年に比較して一・五%増加し、男性の九二%となっており、北海道の女性も同様の傾向にある。近年は、農村社会において、男性とそん色なく女性の役割が発揮されている。
 農協正組合員の女性の数は、昭和五十五年度の四十九万七千人から平成八年度には七十一万九千人に増加し、正組合員全体に占める比率も一三・三%に拡大している。また、農業委員選挙当選人に占める女性は、平成八年の改選で百二人と、五年の二倍近くとなるなど、農家女性の社会進出が進んでいる。
 農家女性については、男性と対等なパートナーとして農村社会活動への参画が求められており、その地位を高めていくことが重要である。国が策定した「農山漁村の女性に関する中長期ビジョン」(平成四年六月)や「男女共同参画二〇〇〇年プラン」(八年十二月)等の方向に沿って、各都道府県でも、男女共同参画社会の形成に向けた取組が活発化している。

 (三) 農家、農業労働力の動向
 世帯主が六十歳以上の農家数(販売農家ベース)は、平成二年の百八万戸から七年には百十七万戸と八・三%増加し、全販売農家に占める割合も三六・三%から四四・一%へと上昇している。地域別では、全販売農家に占める世帯主が六十歳以上の農家の割合は、中国が最も高く、七年で五二・四%となっている。
 世帯主が六十歳以上の農家の約六割を占める同居あとつぎがいる農家のうち、あとつぎの就業状態が自営農業以外の仕事に従事している農家は、全体の約九割を占めているが、世帯主の高齢化や本人の他産業からのリタイア等を契機に、同居あとつぎの農業への従事度合いが高くなっている。
 基幹的農業従事者(農業に主として従事した世帯員のうち仕事が主の者)の昭和六十〜平成七年の間の減少率は、農業就業人口の減少率(二一・五%)を上回る二四・四%となっている。また、基幹的農業従事者のうち六十五歳以上の占める割合は、六十年の二一・三%から、七年には二倍の四二・三%となり、高齢化が進行している。
 昭和一けた世代の男性においては、定年退職等を契機として農業に主として従事する者(農業就業人口)が増加傾向にある。あとつぎがいない高齢者のなかには、農業をやめた場合の農地の取扱いの意向として、委託又は貸付けを考えている者が多く、また、そのまま放置すると考える者が年齢層が高くなるほど多いことから、流動化を進め、農地の有効利用を図っていく必要がある。

二 農地流動化の動向と耕作放棄の現状

 (一) 農地流動化の動向
 農地の売買面積は昭和四十九年以降漸減傾向にある一方、貸借面積は増加傾向にあり、平成七年の権利移動面積(売買二万七千ヘクタール、貸借六万八千ヘクタール)は、過去四番目に大きくなっており、農地の流動化が進んでいる。また、純集積率は、売買、貸借とも大規模層ほど高くなっている。
 農地の購入、借入れだけでなく、農作業受託によっても経営の規模拡大が図られている。経営耕地面積が大きい層ほど受託面積も大きくなる傾向にあり、五ヘクタール以上層の受託面積が最も大きい。
 平成七年における田の経営耕地面積に占める貸借面積(全国三十一万ヘクタール)及び農作業受委託面積(同十九万ヘクタール)の割合をみると、貸借は、北陸、九州等が大きく、農作業受委託は、東海が大きい。貸借と農作業受委託を合わせると、東海では三〇%を超え最も大きい。
 ほ場整備事業の実施により、農地流動化率の高まりがみられる。また、平成八〜九年にほ場整備事業が完了した百六十二地区の平均では、十アール当たり労働時間が、五十九時間から三十時間へと短縮している。
 経営規模が大きくなるに従い、農業所得、純収益が増加するほかにも、面積当たりの労働時間が短くなるなどのスケールメリットが生じており、今後とも、規模拡大に向けた農地流動化の一層の推進が重要である。

 (二) 耕作放棄の現状
 昭和四十七〜平成九年の二十五年間の耕地の動きをみると、五十九万ヘクタール拡張され、百三十三万ヘクタールかい廃された結果、耕地面積は五百六十八万ヘクタールから四百九十五万ヘクタールに減少した。かい廃面積のうち、道路・宅地等、非農業用途に転用されたのは七十六万ヘクタールであり、残りの五十六万ヘクタールのかなりの部分が、不利な営農条件等のため耕作放棄された面積であると推定される。
 平成七年の耕作放棄地率は三・八%となっており、昭和六十年と比較して一・八ポイント増加している。ブロック別にみた耕作放棄地率は、いずれも中山間地域で高くなっているものの、その水準は地域によって異なる。また、耕地の地目別にも放棄地率に差がみられ、特に、関東・東山の中山間地域が畑を中心に高くなっている。
 農業世帯主の年齢階層別に耕作放棄地率をみると、平成二年、七年ともに、四十五歳以上の各層のうち五十五〜五十九歳層が最も低く、六十歳以上では、年齢層が高くなるに従って急激に耕作放棄地率が高くなっている。二年と七年を比較すると、六十歳代前後の各層は、いずれも七年が上回っている。
 また、世帯主の年齢階層ごとに、あとつぎの有無による耕作放棄地率の差をみると、山間農業地域の五十〜五十四歳層を除き、いずれの農業地域類型においても、四十五歳以上の各年齢層で、「あとつぎなし」、「他出あとつぎあり」に比べ「同居あとつぎあり」で耕作放棄地率が低くなっており、担い手の高齢化とともに同居あとつぎの不足等が耕作放棄の要因と考えられる。
 農業地域類型ごとに、全国の市町村における田のほ場整備率と耕作放棄地率との関連をみると、各農業地域類型において、ほ場整備率の高い市町村では耕作放棄地率が低いという関係にある。特に、中山間地域ではその傾向が強く、中山間地域を含めたほ場整備の一層の推進が必要である(第5図参照)。
 農作業の受託や農地保有の合理化等を行う市町村農業公社は、耕作放棄の防止等、農地の有効利用に向けて、一定の役割を果たしている。

三 農業経営をめぐる多様な展開

 意欲的な農業者等が作成する農業経営改善計画は、平成十年一月末現在で、二千八百五十五市町村において十一万二千二百二十六の計画(うち法人による計画三千九百)が認定されている。
 経営管理・運営の向上を目的として農業経営の法人化が進んでおり、平成七年二月現在、法人数は九千五百二十二、うち法人農家(一戸一法人)は四千五百三十六となっている。法人化に関する調査では、法人化の目的と成果ともに家計・経営の分離、労働条件の明確化等をあげるものが多い。
 平成八年の自立経営農家数は販売農家全体の五・七%を占めている。稲作単一経営の場合、高所得農家では、調査対象農家の平均と比べ、約六倍の農業専従者、三倍の経営耕地面積という豊富な労働力とスケールメリットを活かして、一・四〜一・八倍という高い生産性を実現している。
 農産物の加工や販売を取り入れた経営多角化の動きがみられる。加工品等の販売方法をみると、販売額の大きな経営体ほど、農協等の既存の流通ルートによらず独自販売に力を入れている。また、独自販売先では自分の経営がもっている直売施設が最も多い。
 加工部門を導入した経営のうち、約七割において加工製品の販売額が増加している。加工部門導入の地域への貢献では、地域のイメージアップが最も大きく、山間地域ではU・Iターン者の雇用の場の提供があげられており、農産物の加工は地域の活性化にも重要な役割を果たしている。今後とも、このような多様な経営展開を支援していくことが重要である。
 水田農業において、地域での水、土地利用等に係る調整と合意形成を行い、担い手への農地の団地的集積を図り、農地、機械施設等の効率的利用を進め、生産性の向上を図る地域ぐるみの取組、いわば地域農業のシステム化への先進的な取組が見受けられるようになっている。このような取組は生産性向上、農地の効率利用を図るうえでの有効な手段である。

四 農村社会の変化と活性化

 (一) 農村の人口動向と生活環境
 三大都市圏の人口増加は、平成三年度をピークに伸びが鈍化してきたが、八年度は再び伸びが大きくなっている。地方圏についても十二〜十八万人の増加で推移しているが、中山間地域においては一貫して減少している。中山間地域では、八年度に市町村の約八割で人口が減少している。
 農家率(農業集落内の総戸数に占める農家戸数の割合)の高い集落が減少する一方、低い集落が増加していることから、農業集落の混住化が進んでいることがうかがわれる。北海道、東北、北陸、中国では、農家率が高い集落が多い。
 下水道、道路の舗装等、生活環境の整備状況についてみると、町の規模が小さくなるほど整備率が低くなっているなど、依然として都市との間に格差がみられる。また、商店数をみると、総数は減少しているものの、スーパー、コンビニエンス・ストアは増加しており、生活利便性が向上している面もある。

 (二) 中山間地域の現状と活性化に向けての取組
 中山間地域では、平地とは異なった立地、気象条件を活かし、多様な農業が展開されている。平成七年の農業粗生産額で主要三部門のバランスをみると、米を一〇〇とした場合、中山間地域では、畜産一〇七、園芸一〇六となり、畜産のウェイトがわずかに大きくなっている。中山間地域は、農業の営みを通じ、国土・自然環境の保全等の機能を発揮し、都市住民を含む国民の生命・財産と豊かな暮らしを守る役割を果たしているが、農業生産条件が不利であり、生活環境の整備も遅れており、過疎化、高齢化の進行により、地域の諸機能の維持が困難となってきている。
 このため、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策等を活用した生産・生活環境に係る基盤・施設の総合的な整備等を通じ、中山間地域の活性化を図るとともに、その地域がもつ重要な役割を次世代へ継承していく必要がある。
 中山間地域では、地域活性化に向けて地域内の多様な資源が活用されているが、棚田等の農業生産基盤も有効な地域資源であり、これらを活用した農村と都市の交流の推進も、地域活性化の重要な手段である。

 (三) 農村と都市の交流
 交流に対する都市側と農村側の相互の期待から、多様な形態での農村と都市の交流が活発になっており、リゾート施設の利用、地元産品の購入等が多くなっている。特に、近年、朝市等の「市」や直売施設による農産物直売が活発になっており、こうした「市」等の開催は、農家の婦人グループ等の活動の成果の一つと考えられ、農産物の販路拡大となるほか、農村と都市の交流の主要な形態の一つとなっている。
 農村での滞在型の交流形態であるグリーン・ツーリズムが注目されている。具体的な取組の一つである農林漁業体験民宿のほか、近年、市町村等が中心となって、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策等により、交流関連の総合的な施設を整備し、これを核としたグリーン・ツーリズムへの取組が各地でみられ、このような取組は地域活性化の重要な手段となっている。
 東京及び大阪に開設されている「ふるさとプラザ」には、新規就農・Uターン等の相談者も訪れている。市町村等が同プラザに出店した成果としては、特産物の販路拡大、姉妹市町村の提携につながったこと等があげられている。

五 環境と農業・農村

 (一) 農業・農村の多面的・公益的機能
 農業・農村は、食料の安定供給といった基本的な役割に加え、就業・保養の場の提供、土壌侵食や土砂崩壊の防止、洪水の防止、多様な生物相の保全、景観の維持・培養等、多面的かつ公益的な機能を発揮している。今後、国民的合意のもとで、その機能をさらに発揮させていくことが重要である(第6図参照)。
 なお、農業の営みが多面的機能の発揮につながることは、世界食料サミットにおいて、多くの国が支持している。

 (二) 我が国の農業生産と環境
 農業生産活動には、化学肥料や農薬の不適切な使用等によって、環境に対して負荷を与えている面もある。環境への負荷を抑え、持続的な農業を進めていくためにも、農業・農村の有する環境保全機能の維持・促進や、環境保全型農業の一層の推進が必要である。
 化学肥料、農薬の節減により、環境負荷の軽減に配慮した環境保全型農業については、稲作販売農家の五%が実施している。環境保全型農業は、通常栽培に比べて販売価格が高いが、労働時間がかかるなどのコスト上昇要因を有しており、労働時間節減等の技術の開発・普及を図る必要がある。
 畜産経営では、都市化の進展等を背景として、家畜ふん尿に起因する環境問題が発生しており、畜種に応じて悪臭、水質汚濁等への配慮がなされている。家畜ふん尿については、環境に対する負荷の軽減、資源の有効活用の観点から、堆きゅう肥化を促進し、そのリサイクル利用を図ることが重要な課題となっている。

 (三) 農業と地球環境問題
 平成九年十二月には、地球温暖化防止京都会議が開催され、二〇〇〇年(平成十二年)以降の温室効果ガスの削減目標等が設定された。二酸化炭素等の温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化による農業への影響が懸念されており、その排出削減に取り組むことが必要となっている。
 近年、多くの地域で生物多様性が急激に減少し、持続的な農業発展にとっての影響が懸念されている。平成五年に発効した「生物の多様性に関する条約」を受け、七年に決定された「生物多様性国家戦略」に基づいて環境保全型農業の推進、環境に配慮した農業・農村の整備が進められている。

むすび

 本報告が、今後、健康的で豊かな国民生活の実現を図っていくうえでの我が国の「食」のあり方や、さらには農業・農村のあり方について国民各層が考えるための素材となり、現在、「食料・農業・農村基本問題調査会」で行われている新たな農政の指針づくりに向けての議論と併せて、我が国経済社会における食料・農業・農村の役割や位置付けに関する国民の理解の深まりの一助になることを望んでいる。



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一月の雇用・失業の動向


―労働力調査 平成十年一月分結果の概要―


総 務 庁


◇就業状態別の動向

 平成十年一月の十五歳以上人口は、一億六百九十九万人(男子:五千百九十六万人、女子:五千五百二万人)となっている。
 これを就業状態別にみると、労働力人口(就業者と完全失業者の合計)は六千六百九十三万人、非労働力人口は三千九百九十二万人で、前年同月に比べそれぞれ五十一万人(〇・八%)増、八万人(〇・二%)増となっている。
 また、労働力人口のうち、就業者は六千四百五十五万人、完全失業者は二百三十八万人で、前年同月に比べそれぞれ三十五万人(〇・五%)増、十六万人(七・二%)増となっている。

◇就業者

(一) 就業者

 就業者数は六千四百五十五万人で、前年同月に比べ三十五万人(〇・五%)増と、前月に引き続き増加し、増加幅は前月(五十三万人増)に比べ縮小している。男女別にみると、男子は三千八百三十五万人、女子は二千六百二十万人で、前年同月と比べると、男子は十五万人(〇・四%)の減少、女子は五十一万人(二・〇%)の増加となっている。

(二) 従業上の地位

 就業者数を従業上の地位別にみると、雇用者は五千三百八十五万人、自営業主・家族従業者は一千五十二万人となっている。前年同月と比べると、雇用者は十五万人(〇・三%)増と、前月に引き続き増加し、増加幅は前月(四十五万人増)に比べ縮小している。また、自営業主・家族従業者は十六万人(一・五%)の増加となっている。
 雇用者のうち、非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 ○非農林業雇用者…五千三百五十六万人で、十七万人(〇・三%)増加
 ○常 雇…四千七百四十九万人で、九万人(〇・二%)減少
 ○臨時雇…四百九十万人で、三十二万人(七・〇%)増加
 ○日 雇…百十七万人で、六万人(四・九%)減少

(三) 産 業

 主な産業別就業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 ○農林業…二百二十九万人で、二万人(〇・九%)減少
 ○建設業…六百八十一万人で、五万人(〇・七%)減少
 ○製造業…一千三百九十四万人で、四十五万人(三・一%)減少
 ○運輸・通信業…四百九万人で、十一万人(二・六%)減少
 ○卸売・小売業、飲食店…一千四百八十六万人で、二十二万人(一・五%)増加
 ○サービス業…一千六百八十万人で、七十一万人(四・四%)増加
 対前年同月増減をみると、「卸売・小売業、飲食店」及びサービス業は前月(それぞれ十七万人増、六十三万人増)に比べ増加幅が拡大している。一方、建設業は前月(二十二万人減)に比べ減少幅が縮小している。農林業は前月(二万人減)と同じ減少幅となっている。製造業は前月(九万人減)に比べ減少幅が拡大している。また、運輸・通信業は平成九年七月以来六か月ぶりの減少となっている。
 また、主な産業別雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 ○建設業…五百五十八万人で、十六万人(二・八%)減少
 ○製造業…一千二百七十一万人で、三十万人(二・三%)減少
 ○運輸・通信業…三百八十六万人で、十一万人(二・八%)減少
 ○卸売・小売業、飲食店…一千百七十九万人で、十六万人(一・四%)増加
 ○サービス業…一千四百三十五万人で、五十四万人(三・九%)増加
 対前年同月増減をみると、「卸売・小売業、飲食店」及びサービス業は前月(それぞれ十万人増、五十一万人増)に比べ増加幅が拡大している。一方、建設業及び製造業は前月(それぞれ十五万人減、五万人減)に比べ減少幅が拡大している。また、運輸・通信業は六か月ぶりの減少となっている。

(四) 従業者階級

 企業の従業者階級別非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 ○一〜二十九人規模…一千七百六十一万人で、十七万人(一・〇%)増加
 ○三十〜四百九十九人規模…一千七百四十七万人で、二十四万人(一・四%)減少
 ○五百人以上規模…一千二百六十七万人で、二十一万人(一・七%)増加

(五) 就業時間

 非農林業の従業者(就業者から休業者を除いた者)一人当たりの平均週間就業時間は四二・八時間で、前年同月に比べ〇・五時間の減少となっている。
 このうち、非農林業雇用者についてみると、男子は四七・〇時間、女子は三六・七時間で、前年同月に比べ男子は〇・二時間の減少、女子は〇・七時間の減少となっている。
 また、非農林業の従業者の総投下労働量は、延べ週間就業時間(平均週間就業時間×従業者総数)で二六・〇六億時間となっており、前年同月に比べ〇・二二億時間(〇・八%)の減少となっている。

(六) 転職希望者

 就業者(六千四百五十五万人)のうち、転職を希望している者(転職希望者)は五百九十一万人で、このうち実際に求職活動を行っている者は二百四十一万人となっており、前年同月に比べそれぞれ十六万人(二・八%)増、十三万人(五・七%)増となっている。
 また、就業者に占める転職希望者の割合(転職希望者比率)をみると、男子は九・〇%、女子は九・四%で、前年同月に比べ男子は〇・二ポイントの上昇、女子は〇・一ポイントの上昇となっている。

◇完全失業者

(一) 完全失業者

 完全失業者数は二百三十八万人で、前年同月に比べ十六万人(七・二%)の増加となっている。男女別にみると、男子は百四十八万人、女子は九十万人で、前年同月に比べ男子は十六万人(一二・一%)の増加、女子は同数(増減なし)となっている。
 また、求職理由別完全失業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 ○非自発的な離職による者…六十六万人で、十三万人増加
 ○自発的な離職による者…八十九万人で、六万人減少
 ○学卒未就職者…十万人で、一万人増加
 ○その他の者…六十三万人で、八万人増加

(二) 完全失業率(原数値)

 完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)は三・六%で、前年同月に比べ〇・三ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男子は三・七%、女子は三・三%で、前年同月に比べ男子は〇・四ポイントの上昇、女子は〇・一ポイントの低下となっている。
 また、年齢階級別完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
〔男女計〕
 ○十五〜二十四歳……七・〇%で、〇・六ポイント上昇
 ○二十五〜三十四歳…四・三%で、〇・六ポイント上昇
 ○三十五〜四十四歳…二・四%で、〇・一ポイント上昇
 ○四十五〜五十四歳…二・〇%で、前年同月と同率
 ○五十五〜六十四歳…四・六%で、〇・二ポイント上昇
 ○六十五歳以上………一・八%で、〇・四ポイント上昇
〔男 子〕
 ○十五〜二十四歳……七・八%で、〇・七ポイント上昇
 ○二十五〜三十四歳…三・八%で、〇・八ポイント上昇
 ○三十五〜四十四歳…二・二%で、〇・一ポイント上昇
 ○四十五〜五十四歳…二・一%で、〇・二ポイント上昇
 ○五十五〜六十四歳…五・八%で、〇・五ポイント上昇
 ○六十五歳以上………二・一%で、〇・三ポイント上昇
〔女 子〕
 ○十五〜二十四歳……六・一%で、〇・一ポイント低下
 ○二十五〜三十四歳…五・二%で、〇・三ポイント上昇
 ○三十五〜四十四歳…二・七%で、〇・一ポイント上昇
 ○四十五〜五十四歳…一・八%で、〇・四ポイント低下
 ○五十五〜六十四歳…二・五%で、〇・六ポイント低下
 ○六十五歳以上………一・三%で、〇・六ポイント上昇

(三) 完全失業率(季節調整値)

 季節調整値でみた完全失業率は前月と同率の三・五%で、比較可能な昭和二十八年以降で最も高い水準が続いている。男女別にみると、男子は三・七%、女子は三・二%で、前月に比べ男子は〇・三ポイントの上昇、女子は〇・三ポイントの低下となっている。







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平成九年度平均


東京都区部消費者物価指数の動向(速報)


総 務 庁


○ 平成九年度平均東京都区部消費者物価指数(速報値)は、平成七年を一〇〇とした総合指数で一〇一・八となり、前年度に比べ一・八%の上昇となった。
○ 近年の総合指数の動きを対前年度上昇率でみると、平成元年度は消費税の導入などにより三・二%の上昇となり、二年度は三・二%の上昇、三年度は天候順などにより三・〇%の上昇と三年続けて三%台の上昇となったが、四年度は生鮮野菜などの下落により一・六%の上昇、五年度は衣料などの下落により一・二%の上昇と一%台の上昇となった。六年度は工業製品の下落幅が拡大したことなどにより〇・四%の上昇と昭和六十二年度以来七年ぶりに一%を下回る安定した動きとなり、七年度は工業製品の下落に加え、米類や生鮮野菜が値下がりしたことなどにより〇・四%下落と、比較可能な昭和四十六年度以降初めて下落となった。八年度は公共サービス料金などのサービスの上昇幅が縮小したが、生鮮魚介、生鮮果物や衣料が値上がりしたことなどにより、商品の下落幅が縮小したため、〇・一%の上昇となった。
 平成九年度は、四月の消費税率引上げの影響などにより、サービスの上昇幅が拡大したことに加え、商品が上昇に転じたため一・八%上昇と、平成五年度以来四年ぶりに一%を上回る上昇となった。
 
○ 生鮮食品を除く総合指数は一〇一・八となり、前年度に比べ一・八%の上昇となった。

平成十年度 大学入学資格検定

文 部 省

 平成十年度大学入学資格検定を以下のとおり実施します。
 なお、大学入学資格検定の一部受検科目の免除の対象として定められている知識及び技能に関する審査(技能審査)に新たな技能審査を加えました。

一 制度の概要

 大学入学資格検定は、高等学校を卒業していないなどのため、大学入学資格のない者に対し、高等学校の卒業者と同等以上の学力があるかどうかを認定することを目的とする国の検定であり、所定の科目の全部に合格した者を合格者とします。ただし、その者が満十八歳に達していないときには、満十八歳に達した日の翌日から合格者となります。
 合格者は、希望する国・公・私立のどの大学・短大・専門学校でも受験できます。また、各種の国家試験などの受験に際しても、通常、高等学校の卒業者と同じ扱いを受けることができます。

二 受検資格

 @ 中学校卒業者又は中学校卒業者と同等以上の学力があると認められた者で、高等学校又は高等専門学校に入学しなかった者及び高等学校又は高等専門学校を中途退学した者(ただし、高等専門学校の第三学年修了者を除く)
 A 高等学校の定時制の課程又は通信制の課程に在学している者
 B 旧国民学校令による国民学校初等科を修了した者
 なお、高等学校の全日制の課程及び高等専門学校の在学者(休学者を含む)は受検できません。

三 受検科目

 受検科目は、下の表のとおりです。

四 科目免除

 高等学校等において受検科目に相当する科目を修得していたり、文部大臣が別に定める技能審査に合格している等の場合は、該当する科目の受検が免除されます。
 なお、文部大臣が別に定める技能審査として、英語及び簿記について免除対象技能審査が定められていましたが、平成十年度からは、これらに加え、英語では実用英語技能検定(英検)準二級などを追加するとともに、新たに、情報関係基礎について情報処理技術者試験などの免除対象技能審査を設けました。

五 平成八年度から受検科目を変更したことに伴う経過措置

 平成八年度以降の大学入学資格検定は、平成六年度から高等学校において実施されている教育課程に基づく受検科目により実施しています。
 @ 平成七年度までの大学入学資格検定において科目合格し又は免除を受けている者等に対しては、相当する現行の受検科目に合格し又は免除を受けているものとして取り扱います。
 A 本年度(平成十年度)までの大学入学資格検定に限り、平成七年度までの大学入学資格検定において一部の科目に合格している者等は、従前の必修科目(四科目又は五科目)及び選択科目(七科目)に相当する現行の受検科目により受検することができます。

六 検定実施期日等

 @ 検定実施期日
 平成十年八月四日(火)から八月七日(金)まで
 時間割については、次ページの表のとおりです。

 A 願書受付期間
 平成十年五月十五日(金)から六月五日(金)まで
 ※土曜日及び日曜日を除きます。郵送の場合は、六月五日までの消印があれば、受け付けます。

 B 検定実施会場
 各都道府県一か所

七 大学入学に関する教育上の例外措置

 大学入学資格検定の所定の科目の全部に合格し、十七歳に達した者で、大学が数学又は物理学の分野において特に優れた資質を有し、かつ、高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者についても、教育上の例外措置として、大学入学資格が認められます。
 大学入学資格が認められる者は、数学又は物理学の分野において特に優れた資質、すなわち、天賦の才ともいうべき稀有な才能を有し、早期に大学や大学院において高度で専門的な指導を受けることにより、その才能の一層の伸長を図ることが真に望まれる者であり、将来、大学院において当該分野の研究を志望し、高度の研究活動等に従事することが期待される者です。
 また、受け入れ大学についても、すべての大学が該当するわけではなく、数学又は物理学の分野で大学院博士課程研究科を有する大学で、優れた教育研究上の実績や指導体制を有する必要があることとされています。
 なお、受け入れている大学については、左記の文部省生涯学習振興課にお問い合わせください。

八 問い合わせ先

 文部省生涯学習振興課(〇三―三五八一―四二一一)又は各都道府県教育委員会担当課
 なお、出願の手続等詳しいことについては、各都道府県教育委員会担当課が配布する受検案内を参照してください。

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憲法週間を迎えて

 ―五月一日〜七日―

 五月三日は、憲法記念日です。
 日本国憲法は昭和二十二年五月三日に施行されましたが、その施行を記念し、国の成長を期するためにこの日が憲法記念日とされたのです。
 全国の裁判所では、毎年、憲法記念日を中心とする五月一日から七日までの一週間を憲法週間とし、法務省、検察庁や弁護士会の協力を得て、講演会や無料法律相談などの各種行事を行っています。
 憲法週間を迎えるこの機会に、日本国憲法における基本的人権の保障、法の支配の原理及び裁判所の働きについて、説明しましょう。
 近代国家の憲法は、すべての人を個人として尊重すること、すなわち、個人の尊厳を確保し、個人の自由と平等を保障することを目標としており、日本国憲法も、基本的人権を広く保障しています。
 しかし、個人の自由が尊重されるといっても、それは各自が勝手気ままに振る舞うことが許されるということではないことに注意しなければなりません。ある人の基本的人権を保障するには、他の人の基本的人権も同様に保障する必要があるわけで、その間の矛盾や衝突を調整し、さらには、国民全体の共同の利益を損なうことのないよう調整する必要があります。
 日本国憲法が基本的人権を保障するとともに、公共の福祉による制約についても定めているのは、このような理由によるものです。
 ところで、このような権利や自由を擁護するためには、国家権力が不当に行使されることのないようにする必要があります。
 そこで、権力の行使は国民の基本的人権の保障の理念を踏まえた法に従って行われるべきであるという考え方が生まれました。これを法の支配の原理といい、日本国憲法も、これを基本原則の一つとしています。このような法の支配の原理の下においてこそ、すべての国民が安心して平和な生活を営むことができるのです。
 それでは、基本的人権を守り、法の支配を維持する役割は、だれが果たすのでしょうか。
 それは、まず私たち自身がその役割を果たしていくべきでしょう。一人一人が基本的人権の意義を認識し、日常生活の中で自分の権利とともに他人の権利をも尊重していくことが大切です。
 一方、憲法上、基本的人権の擁護や法の支配を維持する役割を与えられているのが裁判所です。すなわち、裁判所は、法律等が憲法に違反しないかどうかを審査するという重要な権限(違憲立法審査権)を与えられており、公平な裁判を通して、不法な侵害から人々の基本的人権を守り、正義を実現しているのです。裁判所は、いわば、憲法の番人としての役割を果たすよう期待されているのです。
 日本国憲法が施行されてから今日に至るまでの間、裁判所は、様々な事件の解決を通して、基本的人権を守り、法の支配を維持する役割を果たしてきました。
 憲法週間に当たり、私たち一人一人が、基本的人権の尊重や法の支配の意義とそれを守っている裁判所の役割をよく理解し、自らもまた法を守るという姿勢をもって、我が国を、より一層、基本的人権が尊重され、法の支配の行き届いた国にしていこうではありませんか。
(最高裁判所)

 
    <5月6日号の主な予定>
 
 ▽林業白書のあらまし………………林 野 庁 

 ▽月例経済報告………………………経済企画庁 
 



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