官報資料版 平成10





林業白書のあらまし


―平成9年度 林業の動向に関する年次報告―


林 野 庁


 「平成九年度林業の動向に関する年次報告」と「平成十年度において講じようとする林業施策」が去る四月十四日、閣議決定の上、国会に提出、公表された。
 今回の報告では、第一部「林業の動向」において、森林に対する国民の多様な要請にこたえ、森林の質的充実と公益的機能の発揮に向けて森林整備を推進していくことが必要との認識に立ち、森林・林業の動向と課題を中心に幅広く分析、検討を行っている。特に、国有林野事業の抜本的改革と民有林における新たな森林整備の展開方向を重点的に取り上げている。
 第二部では、平成九年度において「林業に関して講じた施策」について記述している。
 第一部の概要は次のとおりである。

<序 説>

 我が国の経済社会が成熟化に向かう一方、都市化や高度情報化が一層進展する中で、経済的な豊かさのみならず、心の豊かさや自然との共生、ふれ合いを求める傾向が強まっている。そして、森林の持つ多面的な役割に対する期待が確実に高まっている。このため、平成八年十一月に定めた「森林資源に関する基本計画」に沿って、森林の質的充実と公益的機能の一層の発揮を基本として、多様な森林整備を推進していくことが重要である。
 高度な工業化と物質文明を実現した二十世紀に対し、それらを超える心の豊かさと地球的規模の環境保全をも実現すべき二十一世紀を間近に控えた現在、我が国の森林を適切に整備し、健全で多面的機能を発揮し得る持続可能な形で維持培養していくことは、我々に課せられた責務である。
<二十一世紀に向けた林政の課題>
 我が国は世界有数の森林国であり、かつ、一千万ヘクタールの人工林をはじめ、原生林や里山林等、多様な森林に恵まれている。これらの森林は林産物の供給のほか、洪水や山崩れの防止、良質な水の安定的な供給、地球温暖化の防止等の公益的機能を有している。
 二十世紀は高度に発達した工業文明を基本とした社会であったが、これからの時代は、環境の保全や賢明な資源利用を通じて、社会経済の持続的な発展を図ることが求められている。新たな社会経済システムの構築に当たっては、多面的機能の発揮を通じて森林が果たすべき役割がますます重要になるものと考えられ、国民生活の向上、ゆとりと潤いのある生活の実現への貢献が期待されている。
 森林は、適切に整備されてはじめてその多面的機能が発揮されるものであり、林業生産活動が果たす役割は極めて重要である。しかしながら、林業経営を巡る情勢は厳しく、森林整備の停滞により、森林の公益的機能が十分に発揮されなくなることが懸念される。
 このような状況に対し、林業を巡る種々の課題を克服しつつ、森林に対する要請の高まりに的確に対応し得るよう、二十一世紀に向けた森林整備、林業振興の展望を切り開くことが求められている。
<森林・林業政策の基本方向>
 林業の採算制の悪化、担い手の減少、高齢化等、厳しい情勢の中で、森林の多面的な機能の維持増進を担う林業と山村の活性化を図ることが強く求められている。また、国有林野事業の深刻な経営状況を改善するため、財政の健全化、効率的な管理経営体制の確立が大きな課題となっている。
 我が国の森林・林業政策は、これらの課題の克服に向けて、平成九年十二月に取りまとめられた林政審議会答申「林政の基本方向と国有林野事業の抜本的改革」に沿って、新たな展開を図るべき重要な時期を迎えている。
<国有林野事業の抜本的改革と民有林施策の新たな展開>
 国有林野事業については、林政審議会の答申及び財政構造改革会議、行政改革会議等の検討結果を踏まえ、平成九年十二月に抜本的改革の推進が閣議決定された。これに基づいて、財政の健全性を早急に回復するとともに、適切かつ効率的な国有林野の管理経営体制を確立することが重要である。
 一方、民有林についても、森林資源に関する基本計画に基づいて、健全で公益的機能の高い森林の整備を推進していく必要がある。また、きめ細かい森林整備を推進するため、地方財政措置等、市町村における実施体制の整備を進めながら、森林整備に果たす市町村の役割を強化することが必要である。
 これらを具体化するため、国有林二法案及び森林法等の改正案を第百四十二回通常国会に提出している。
<活力ある林業、木材産業と山村を実現するための諸課題>
 成熟しつつある人工林をはじめ、多様で豊かな我が国の森林を国民生活の向上に一層役立てていくため、多様化、高度化する国民の要請に的確に対応した森林整備の推進が必要である。特に、森林の有する洪水や山崩れの防止、良質な水の供給、二酸化炭素の吸収などの多面的な機能が高度に発揮されるようにすることが求められており、防災機能の維持増進や地球温暖化防止等の幅広い観点から、森林整備を着実に推進するための施策を充実していく必要がある。
 しかしながら、森林整備に重要な役割を担う林業、木材産業を取り巻く経営環境は厳しく、秩序ある外材輸入の下で、需要に的確に対応した国産材の安定供給に努めるとともに、関係行政機関との連携による公共施設等への木材利用を推進することが重要である。
 また、我が国全体の均衡ある発展を図っていく観点から、森林の維持・管理等を通じて、洪水や山崩れの防止、良質な水の安定供給等に重要な役割を果たしている山村の振興が重要である。
 さらに、平成九年(一九九七年)十二月の「気候変動枠組条約第三回締約国会議」(京都会議)において、二酸化炭素の吸収源としての森林の取扱いについて取決めが行われた。我が国としては、森林の多面的な機能を高度かつ総合的に発揮する持続可能な森林経営の達成に向けて、森林の保全、造成と木材の有効利用を一層推進することが重要である。

T 国有林野事業の抜本的改革

一 改革に至る経緯

 (一) 国有林野事業の成立
 現行の国有林野事業は、昭和二十二年の林政統一の際、木材等の販売収入を森林整備に確実かつ計画的に使用し得るようにすること、また、効率的な事業運営と一般会計への繰入れを通じて、国の財政再建に資することが期待されたことなどから、国有林野の管理経営に必要な経費を事業収入で賄う独立採算制を前提とした企業特別会計制度により発足した。

 (二) 国民経済への貢献
 国有林野事業では、昭和三十年代の高度経済成長に伴う木材需要の増大と木材価格の高騰に対応して、三十二年に「国有林生産力増強計画」を、三十六年に「木材増産計画」を策定し、木材供給の拡大を図り、戦後経済の復興・成長に重要な役割を果たした。また、収支が好調に推移した時期には、一般会計への繰入れ等を実施し、国の財政や民有林林政への貢献を果たしてきた。
 さらに、昭和四十年代半ば以降、環境保護問題への関心、森林の公益的機能の発揮に対する国民の要請が高まる中で、林産物の供給に重点を置きつつ公益的機能の確保に努めてきた。
 加えて、国有林野が所在する地域において、木材供給を通じた地元木材産業の振興、事業実施を通じた住民への就労の場の提供等により、地域経済の発展に貢献してきた。

 (三) 経営悪化の背景
 高度経済成長に伴う木材需要の急激な増大に対し、国有林材の増産と併せて木材貿易の自由化が段階的に実施された。国産材の供給が伸び悩む中、木材輸入が増加し、現在では外材が木材供給の八割を占めるに至っている。また、木材価格は昭和四十八年以降、木材輸入の増加に伴い長期的に低迷することとなった。さらに、賃金等の経営コストが上昇したことにより、木材生産の採算性が悪化している。
 木材価格の低迷等、我が国林業の経営環境の悪化を背景として、国有林野事業においては、経済成長に対応して伐採量を大幅に増やし、長期にわたって成長量を上回る伐採を続けたことにより、伐採可能な資源量が減少したこと、事業規模の縮小傾向に対し事業運営の効率化や要員規模の縮減が並行して進まなかったことなどから、昭和五十年代に入り財務状況が急速に悪化した。
 国有林野事業では、経営悪化に対処して昭和五十三年に経営改善に着手した。しかしながら、その後も木材価格の低迷、地価の下落等により自己収入が減少し、借入金が累増している。このような状況から、平成十二年度までに国有林野事業の経常事業部門における財政の健全化を図ることとした現行の改善計画の達成が困難となった。

二 改革の方向

 (一) 抜本的改革の趣旨
 国有林野は、奥地の脊梁山地に広く分布し、水源地域等として公益的機能を発揮する上で重要な役割を果たしている森林が多い。また、山地災害防止や水資源の確保等に資する森林の公益的機能への国民の要請や、地球環境問題への関心が高まっている。このような状況を踏まえ、国有林野については、国民共通の財産として適切に管理することが重要である。
 このため、財政の健全性を早急に回復するとともに、国有林野の適切かつ効率的な管理経営体制を確立し、国土の保全等の公益的機能を維持増進する等、国有林野事業の使命を将来にわたって十全に果たしていくことを目的として、抜本的改革を推進することが必要となっている。

 (二) 改革の方向
 ア 公益的機能の維持増進を旨とした管理経営への転換
 国有林野事業の抜本的改革に当たっては、森林に対する国民の要請等を踏まえ、国民共通の財産である国有林野の諸機能が十分に発揮されるよう、林産物の供給に重点を置いた管理経営から、公益的機能の維持増進を旨とした管理経営へと転換し、複層林施業、長伐期施業等を積極的に推進することとしている。
 イ 組織・要員の徹底した合理化
 国有林野事業では、伐採、造林等の事業の実施を全面的に民間に委託するなど、事業の効率化に努めつつ、国有林野の管理経営を行う上で最も簡素で効率的な実施体制を確立することが重要である。このため、組織・要員については、雇用問題及び労使関係に十分配慮しつつ、徹底した合理化、縮減を行うことが必要である。
 ウ 会計制度の見直し
 木材販売収入等に依存する独立採算制の下では、公益的機能の維持増進を旨として、国有林野の管理経営を行っていくことは困難である。このため、現行の独立採算制を前提とした企業特別会計制度から、公益的機能を発揮するための国有林野の適切な保全管理と森林整備に必要な経費を一般会計から繰り入れることを前提とした特別会計制度に移行することが必要である。
 エ 累積債務の処理
 国有林野事業は、累積債務が増大の一途をたどっている。今後の収支についても、資源状況や公益的機能重視への転換により、伐採量が減少することなどから、当面は木材販売収入が大幅に減少すると見込まれることから、債務処理に当たっては、国有林野事業で可能な限りの自助努力を行いつつ、債務の一般会計への帰属を基本として、本格的に処理することが不可欠である。
 具体的には、新たな会計制度への移行時(平成十年十月)に見込まれる三兆八千億円の債務の累増を防止しつつ、一兆円については国有林野事業特別会計で約五十年かけて返済し、二兆八千億円については一般会計に帰属させることとする(第1図参照)。

三 国有林野事業の新たな展開

 (一) 管理経営の目標の明確化
 国有林野事業の管理経営は、国土の保全等、国有林野の公益的機能の維持増進を図るとともに、林産物の持続的・計画的な供給、国有林野の活用による地域産業の振興と住民の福祉の向上に寄与することを目標とし、このことを法律で明確にすることが必要である。

 (二) 公益的機能を重視した森林整備の推進
 国有林野の管理経営については、国有林野が公益的機能の発揮に重要な役割を担っていることから、森林に対する国民の要請を踏まえ、「森林資源に関する基本計画」の考え方に基づく森林整備を行い、適切に実施することが重要である(第2図参照)。
 ア 「水土保全」を重視した森林整備の推進
 国土の保全や水資源かん養機能が高い国有林野(国有林野面積の約五二%に相当するおおむね三百九十万ヘクタール)については、「水土保全」を重視した森林整備を推進することとし、その機能の高度発揮を目的として、複層林施業や長伐期施業等を積極的に推進するとともに、適切な間伐等を実施し、健全な森林の育成を図ることが必要である。
 イ 「森林と人との共生」を重視した森林整備の推進
 森林生態系の保全、保健文化等の機能が高い国有林野(国有林野面積の約二七%に相当するおおむね二百万ヘクタール)については、「森林と人との共生」を重視した森林整備を推進することが重要である。
 生態系としての森林の重要性を踏まえ、森林生態系保護地域等の保護林制度の活用を積極的に推進し、原生的な自然環境を有する森林の保護、生物多様性の維持等に努めることが必要である。
 また、森林空間利用に対する国民の多様な要請にこたえ、地域振興等に資するため、レクリエーションの森等の利用を推進するための仕組みの制度化等により、多様な森林や景観維持に重要な森林の整備、レクリエーション施設の適切な整備等を推進する必要がある。
 ウ 「資源の循環利用」を重視した森林整備の推進
 公益的機能の発揮に配慮しつつ持続的・計画的な木材生産を担う国有林野(国有林野面積の約二一%に相当するおおむね百六十万ヘクタール)については、「資源の循環利用」を重視した森林整備を推進することが重要である。
 なお、国有林では今後、民有林からの供給が期待しにくい樹材種の供給に努めるとともに、特に地域の木材産業等の振興を重視しつつ、持続的・計画的に木材を供給していくことが必要である。

 (三) 効率的な管理経営体制の確立
 国有林野事業においては、行政改革の方向を踏まえて、効率的な管理経営体制を早期に確立することが重要である。このため、伐採、造林等の事業の実施行為は、全面的に民間事業者に委託を行う方針の下で、民間委託を推進する必要がある。また、民有林との連携、協調を図りながら森林の流域管理システムを推進し、流域の特性に応じた森林整備、林業生産等に取り組むとともに、事業の安定的な発注等に努め、民間事業者の育成・整備を推進することが必要である。
 国有林野事業に係る組織については、森林の流域管理の考え方を基本とした森林整備を一層推進することが重要であることから、営林署等の現場組織を流域単位に再編するなど、大幅な見直しを行い、新たな体制を整備することとしている。

 (四) 開かれた国有林の実現に向けて
 国民の理解と協力を得つつ「国民の森林」として国有林野を適切に管理経営するためには、国有林野事業の実施状況等の情報開示を一層進め、国民への説明責任を果たすことが必要である。
 また、国有林野の管理経営に当たっては、広く国民の意見を求めるとともに、その参加を推進することが重要である。このため、管理経営の計画案を公開し、国民の意見をききながら国有林野の管理経営を行うとともに、率先して国民参加の森林づくりを支援していくことが重要である。
 さらに、職員の経験や知識を活用し、自然教育活動等への積極的な参画による多様な情報やサービスの提供を通じて、国民に開かれた国有林を実現することが重要である。

U 森林整備の新たな展開と林業・山村の振興

一 森林資源の現状と森林の役割

 (一) 我が国の森林資源の現状
 我が国の森林面積は二千五百十五万ヘクタールで、国土の六七%を占めている。また、蓄積(立木の材積)は三十五億立方メートルであり、人工林を中心に毎年約七千万立方メートルずつ増加している。
 人工林は一千四十万ヘクタールであり、その七割をスギ、ヒノキが占め、西南日本を中心に徐々に成熟期に達しつつあるが、三十五年生以下の保育、間伐等を必要とする森林が七割を占めている。
 また、天然林は一千三百三十八万ヘクタールである。南北に長い国土、変化に富んだ気候条件等を反映して、トドマツやエゾマツ等の亜寒帯の針葉樹林、ブナやミズナラ等の冷温帯の落葉広葉樹林、シイやカシ等の暖温帯の常緑広葉樹林等の様々な天然林が分布している。

 (二) 森林に対する国民の要請と森林の機能
 森林は発達した樹木の根や地面を覆う下層植生等が土砂の崩壊と流出を防いでいる。また、雨水の多くを地中に浸透させ、洪水の防止と渇水の緩和を図るとともに、水質を浄化し良質な水を育んでいる。近年、自然災害の発生や渇水等を背景に、災害に強い国土基盤の形成、良質な水の安定供給に果たす森林の役割に対する国民の期待が高まっている。
 また、国民の価値観が多様化する中で、森林とのふれ合いや生物多様性の保全等の保健・文化・教育的な面で森林の果たす役割の重要性が増している。
 さらに、地球環境問題に対する関心が高まる中で、二酸化炭素を吸収し炭素を貯蔵する森林の働きが注目されている。

 (三) 森林整備の現状と課題
 我が国では、造林、保育、伐採等の林業生産活動を通じて森林の整備が図られてきたが、木材輸入の増加等による木材価格の低迷、経営コストの増加等により、収益性が低下している。また、山村では、過疎化や高齢化の進行により、林業労働力が減少するとともに、不在村森林所有者の増加等により、森林の維持・管理に支障をきたすようになっている(第3図参照)。
 森林の多面的機能を高度に発揮させるためには、林業、木材産業の活性化、山村の振興を通じて、森林所有者等が森林を適切に整備できる条件や体制を整備し、林業生産活動を通じた間伐の実施、複層林の造成、伐期の長期化、広葉樹の育成等の多様な森林施業への取組を助長することが必要である。

二 森林整備の新たな展開

 (一)  森林整備の基本方向
 我が国の森林資源の長期的な整備の基本方向を定めた「森林資源に関する基本計画」では、森林に対する多様な国民の要請を踏まえ、森林の質的充実と公益的機能の一層の発揮を図ることを基本方針としている。また、森林の機能の整備目標等を達成するため、特に重視して発揮させるべき森林の機能に着目し、「水土保全」、「森林と人との共生」、「資源の循環利用」の三つの森林整備の推進方向を示している。
 森林整備に当たっては、地域的な合意形成を促しながら、三つの方向ごとにその推進が期待される区域を明らかにするとともに、森林所有者等による自発的な取組の促進などにより、多様な森林整備を推進することが課題となっている。

 (二) 健全で機能の高い森林の整備
 森林の多面的な機能を維持増進していくには、森林を望ましい姿に誘導し、健全な状態で維持するための森林施業が必要である。
 特に、間伐等の施業の適切な実施を通じて森林の健全性を維持することは、炭素の貯蔵庫としての森林の役割を発揮することにつながる。また、花粉症への対策が求められる中、間伐や複層林施業等の森林施業面からの花粉抑制方策を確立するための取組や、必要な調査研究等を進めることが重要である。
 ア 間伐の重点的な実施
<間伐の必要性>
 間伐は、森林の立木密度を調整し、健全で活力ある森林を造成する上で必要な作業である。間伐を適切に実施することにより、形質に優れ利用価値の高い木材が生産されるとともに、風雪害に強い森林の造成、病虫害の発生防止、下層植生の繁茂による表土流出の防止や生物多様性の向上等に効果がある。このため、山地災害の防止等、国土保全の観点からも、間伐を適切に実施することが必要である。
 なお、人工林のみならず、過密状態にある広葉樹林等の天然林においても、必要に応じて密度調整等を行うことが重要である。
<間伐推進のための取組の強化>
 間伐の実施状況は、実施箇所が小面積で分散し路網整備等が遅れていること、間伐材の用途が限られ価格が安いことなどから、対象林齢の人工林(民有林)の約五割にとどまっていると試算されている。
 間伐を推進するためには、地域の関係者が一体となって計画的、集団的に実施すること、効率的な間伐材の生産に資する路網の整備と、高能率の機械の導入を一体的に進めることが必要である。また、小径丸太を活かした多様な製品の開発、公共土木事業への利用推進等により、間伐材の利用拡大を図ることが重要である。
 イ 公益的機能の発揮を重視した森林整備
 森林の公益的機能の発揮を図るため、集団的な実施等により、複層林施業及び長伐期施業を一層推進するとともに、天然力の活用や適切な保育の実施による広葉樹の育成等を通じて、多様な森林整備を推進することが重要である。
 また、地域の景観や生活環境及び生物の生息・生育環境を保全する上で重要な里山林等を住民等の参加により整備することが必要である。
 ウ 計画的な保安林の整備
 水土保全等に大きな役割を果たしている保安林については、保安林制度の適切な運用を行うとともに、保安林整備計画に基づいて、計画的な配備と適切な整備を推進することが重要である。

 (三) 森林整備における市町村の役割の強化及び施策の充実
 多様な森林の整備を計画的に推進するためには、地域の林業の動向、個々の森林所有者の意向や森林の状況等を把握しやすい市町村の役割を強化し、地域の実情に応じた森林整備を推進することが必要である。
 このため、現行の森林計画制度を拡充するとともに、「森林・山村対策」及び「国土保全対策」の地方財政措置等により、市町村が行う森林整備への取組に対する支援を強化することとしている。

 (四) 流域を単位とした森林整備の推進
 ア 流域管理を通じた地域の合意形成の促進
 森林の公益的機能は、主として流域を単位として発揮されている。また、歴史的に木材生産等の経済活動や地域行政が流域を単位として行われた経緯がある。これらを踏まえ、我が国では流域を単位とした森林整備や林業、木材産業の振興を図るための森林の流域管理システムを推進している。
 今後、森林の流域管理システムの下で林業、木材産業の関係者に加え、河川管理者、下流域の受益者等の参画による合意に基づく森林整備を推進することが重要である。
 イ 上下流協力による森林整備
 近年、下流の自治体等が上流の自治体等と協力して森林整備を行う取組が増加している。地域によって多様な取組が行われているが、主な形態としては、森林整備費用の助成、分収林契約、水源林の取得があげられる。平成九年十一月の調査では、全国で八十六事例が報告されており、流域を単位とした森林整備において、このような取組を一層推進することが重要である(第4図参照)。
 また、漁業関係者による継続的な森林整備の取組が北海道を中心に八十一の市町村で行われており、全国的な広がりをみせている。

 (五) 国民の理解と参加による森林整備の推進
 森林整備の重要性に対する国民の幅広い理解を得るため、森林教室等の活動を通じて一般市民、小中学生等に対する森林や林業についての知識の普及、林業体験等の推進を図ることが重要である。
 また、何らかの形で森林づくりへの参加意向を有する国民が増えており、募金、ボランティア活動等、国民各層がそれぞれの手段に応じて森林整備に参加できるような体制を整備することが必要である。

 (六) 森林被害への対応
 松くい虫をはじめとする病虫害、鳥獣害等の森林被害は、森林資源の損失、森林所有者の経営意欲の喪失、森林の公益的機能の低下につながることから、予防・復旧対策を充実し、適切に対応することが重要である。特に、シカ等の野生動物による被害が増加しており、関係機関が連携して、忌避剤の散布、防護壁の設置等の対策を強化することが必要である。

三 林業の振興と技術の普及

 (一) 林業経営体等の育成強化
 我が国の山林保有は、小規模、零細な構造となっている。効率的な林業生産活動を通じた森林整備を推進するためには、林業経営に意欲的な林家を中心として、林地の取得や施業の受託による経営規模の拡大、特用林産物の生産による経営の多角化等を進めるなど、経営基盤の強化を図ることが重要である。
 また、林業公社や森林開発公団は、森林所有者等が自ら造林を行うことが困難な地域等において、分収林方式で森林整備を行っており、森林の公益的機能の発揮にも大きな役割を果たしている。このため、今後とも安定的、継続的な事業展開を通じて、林業公社、森林開発公団による森林整備を推進していくことが重要である。

 (二) 林業事業体の育成と林業労働力の確保
 森林整備に重要な役割を果たす林業事業体の育成強化を図るため、事業の協業化と高性能の林業機械の導入等による事業の合理化を推進するとともに、雇用管理の改善等を促進することが必要である。
 また、森林組合は地域の森林整備の担い手として中心的な役割を果たしており、広域合併の促進や事業の多角化により、経営基盤を強化することが重要である。
 さらに、林業労働力確保支援センターを核として、林業への新規就業の円滑化、林業事業体の雇用管理の改善等を推進し、林業就業者の育成・確保を図ることが重要である。

 (三) 林業技術の研究普及
 林業生産性の向上等を図るため、高性能の林業機械の開発・普及が重要である。現在、オペレーターの養成や路網の整備と一体となった効率的な作業システムの開発・普及を推進しているが、さらに、事業量の確保、機械の共同利用体制の整備、レンタル・リース制度の活用等を図ることが重要である。
 また、諸外国に比べ、我が国では育林コストが掛かり増しになっていることから、保育作業の省力化につながる施業技術等の開発を行うことが必要である。

四 山村の振興

 山村は林業生産活動による森林整備等を通じて森林の公益的機能の発揮に重要な役割を果たしている。このため、我が国の国土を保全する観点からも、山村の振興を図ることが極めて重要である。
 特に、山村の活性化に必要な担い手を確保するため、森林、農産物等の多様な地域資源を活かした新たな産業振興等により、安定的な所得の確保を図るとともに、豊かな自然を活かした生活環境の整備や、都市との交流による活性化を通じた魅力ある地域づくりを推進し、山村住民の定住化を促進することが重要である。

V 木材需給の動向と木材産業の振興

一 木材需給と木材貿易

<木材需要の動向>
 平成八年の我が国の木材(用材)需要量は一億一千二百三十三万立方メートル(丸太換算値)で、対前年比〇・四%の増加となった。用途別には、合板用が一千五百七十三万立方メートルとなり、対前年比九・九%増加した一方、製材用は四千九百七十六万立方メートル、パルプ・チップ用は四千三百八十二万立方メートルとなり、それぞれ一・二%、二・五%の減少であった(第5図参照)。
 製材用木材の主な需要先である住宅建築の動向をみると、平成八年は住宅金融公庫等の貸出し金利が低水準であったことに加え、消費税率引上げ及び地方消費税創設前の駆け込み需要等から、新設住宅着工戸数が対前年比一一・八%増加し、百六十四万戸と好調に推移した。しかし、九年は前年の駆け込み需要の反動、景気の先行きの不透明感等により大きく減少し、百三十九万戸となった。
 木造住宅についてみると、平成九年は六十一万戸であり、着工戸数に占める木造住宅の割合(木造率)は、前年を一・八%下回り四四・一%となった。建築工法別には、木造軸組工法の割合が減少し、枠組壁工法(ツーバイフォー工法)の割合が増加している。
<木材供給の動向>
 平成八年の木材供給量は、製材用木材では国産材が一千六百十五万立方メートル(対前年比〇・六%減)、外材が三千三百六十万立方メートル(同一・五%減)となり、自給率は前年に比べ〇・二%高まって三二・五%となった。また、丸太輸入から製品輸入へのシフトが進んでおり、近年は品質管理が徹底していることなどから、欧州からの製材品の輸入が増加している。一方、国産材では人工林資源の成熟に伴い、スギの供給量が昭和六十年以降増加傾向にあり、平成八年には九百八万立方メートルとなって、国産材の製材用丸太に占める割合は五四・一%に高まった。
 合板用木材は、その九九%を輸入に依存している。インドネシア、マレーシアからの南洋材の輸入が中心であるが、丸太においては、近年、ロシアやニュージーランドからの供給が増加している。
 パルプ・チップ用木材は、米国、オーストラリアから木材チップとして輸入されているものが多く、八七%を外材に依存している状況である。
<木材価格の動向>
 木材価格は、住宅着工の動向等を反映して、平成八年の夏頃から年末にかけて上昇した後、九年に入ると下落傾向に転じた。九年の木材価格を樹種別にみると、スギに比べて米ツガの価格は下げ幅が小さく、製材品では七月以降、米ツガ正角の価格がスギ正角の価格を上回って推移した。また、ヒノキ正角の価格の下落率が大きかった。
<木材貿易の自由化に関する国際動向>
 世界貿易機関(WTO)、アジア太平洋経済協力(APEC)等においては、貿易自由化の課題が継続的に検討されており、特にAPECでは、木材分野への関心が高まっている。
 我が国では、ウルグァイ・ラウンド合意に基づいて、平成七年から林産物関税の段階的な引下げを実施しているが、国際的には更なる自由化の傾向が強まっている。我が国としては、このような動きに対して適切に対処しつつ、秩序ある外材輸入の下で、林業、木材産業の振興を図りながら、成熟しつつある国内の森林資源の活用を推進していくことが必要である。

二 木材産業の経営環境

 (一) 木材産業における経営環境の変化
 木材・木製品の製造業及び販売業の経営環境は、新設住宅着工戸数が減少し、製材品の価格が大きく下落したことから、平成九年後半以降、特に厳しい状況となっている。九年の倒産件数は木材・木製品製造業で対前年比十八件増の二百二十三件、販売業についても四十七件増の三百五件となった。

 (二) 木材加工業等の経営状況
 平成九年四月以降、製材品出荷量が対前年同月比マイナスとなるなど、製材業を取り巻く経営環境は厳しさを増している。また、合板製造業においても、丸太の安定的な確保が難しくなるとともに、輸入合板との競合が激しくなっている。
 このような状況に対し、従来、流域における林産加工体制の整備、中小企業近代化促進法に基づく構造改善事業等による木材産業の経営体質の強化が図られているが、特に、平成九年後半以降、経営環境が一段と悪化していることから、各種の融資、債務保証制度の活用等による金融面での適切な対応を行っていくことが重要となっている。

 (三) 集成材等の生産状況
 住宅建築における施工の合理化や耐震性の向上等の取組の進展に伴い、強度等の性能が明確で品質の安定した集成材、パーティクルボード等の需要が増加している。特に、構造用集成材は、大手住宅メーカーを中心に需要増大の傾向が顕著である。

 (四) 木材の流通
 大工技能者の減少・高齢化、住宅建築の施工期間の短縮化への要請等に対処するため、住宅資材のプレカット化が進展している。また、大手住宅メーカーでは、製材工場との結び付きを強めており、製材工場等から調達した木材を提携プレカット工場に搬送し、加工して系列工務店の建築現場へ直送するなど、流通形態にも変化がみられるようになっている。

三 木材産業の振興

 林業生産活動の活性化を図るためには、木材の安定供給体制を整備し、成熟しつつある人工林資源を有効に活用できるようにすることが不可欠である。このため、原木の集荷から製材、高次加工材の生産・流通等を一貫して行う総合的な加工・流通体制を整備し、流通・加工コストの低減化と付加価値の高い製品の供給を実現することが重要である。また、十分な市場調査を基に、消費者ニーズに的確に対応した木材製品を開発、供給することが必要である。
 特に、住宅分野においては、耐震性、高断熱性の向上等を図るため、木材の強度、寸法精度等が重視される傾向にあり、製材品の乾燥が不可欠となっている。このため、大型乾燥施設の整備、葉付き乾燥から人工乾燥に至る一貫した木材乾燥システムの開発等により、乾燥コストの低減化を図ることが必要である。
 さらに、住宅の性能向上に加え、構造用大断面集成材を使用した大型木造建築物の増加等により、集成材等の高次加工材の需要が増加している。このような中で、国産材の利用推進を図るためには、国産材の高次加工の推進が不可欠である。

四 国産材の利用推進の取組

 (一) 国産材利用の重要性
 国産材の利用推進を通じ、その生産・加工を担う林業、木材産業の活性化を図ることは、地域の雇用の場の創出等、地域経済の振興と併せて、林業生産活動を通じた森林の整備に寄与するものである。
 また、木材は加工・製造時の消費エネルギーが少なく、二酸化炭素の排出抑制にも効果があるため、地球温暖化防止の観点からも、その適切な利用を推進していくことが重要である。

 (二) 国産材利用推進の取組
 住宅建築分野で木材の利用を推進するためには、木材供給者が大工・工務店との連携を図り、木造住宅の建築を促進するとともに、住宅設計者等との連携を強化し、木造住宅の強度等、性能の明確化や、デザイン性の向上を図ることが重要である。加えて、建築基準の合理化に対応した木材利用の推進を図るとともに、施工性の高い木質内装材の開発、パネル化等による新たな木造軸組工法の開発、木造建築物の耐震性向上のための木材利用技術の開発・普及等が必要である。
 また、関係行政機関との連携の下、学校施設、郵便局等、木造公共施設の建設や間伐材を利用した河川工事の推進等、木材の活用に関する取組が行われている。地元の木材資源の活用が地域の森林の整備、地域経済の振興や特色ある地域づくりにも資することから、関係者が一体となって公共施設等への木材利用を推進することが重要である。

W 持続可能な森林経営の達成に向けて

一 世界の森林の現状と課題

 (一) 世界的な森林の減少・劣化
 平成七年(一九九五年)の世界の森林面積は三十五億ヘクタールで、陸地面積の二七%を占めている。このうち先進地域に十五億ヘクタール、また開発途上地域に二十億ヘクタールが分布している。
 世界では、平成二年(一九九〇年)からの五年間にわたって年平均一千百万ヘクタール(我が国の国土面積の三分の一に相当)の森林が減少している。近年、先進地域では造林等により微増しているが、開発途上地域、特に熱帯地域を中心として、人口の急増に伴う食糧や薪炭材の需要の増大等を背景に、森林の減少が急速に進んでいる。このことは、木材不足、洪水発生等として生活環境や産業活動に悪影響を及ぼすばかりでなく、地球的規模の気候変動、生物多様性の減少等にもつながっている。
 平成九年(一九九七年)には、インドネシアで大規模な森林火災が発生し、六か月間で三十九万ヘクタールの森林・原野に被害が及んだ。このような森林火災は、大規模な環境破壊として住民の生活、動植物の生存等に重大な影響を及ぼすばかりでなく、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の放出にもつながることから、予防、早期発見、効果的な消火等が大きな課題となっている。
 また、森林面積が微増傾向にある温帯・亜寒帯地域においては、大気汚染の影響による森林の衰退や、天然林伐採後の森林回復等が課題となっている。

 (二) 世界の木材消費の動向と森林造成等の課題
 世界の木材消費量は、長期的に増加傾向にある。特に開発途上地域では人口増加、経済発展等に伴い、過去三十年間で木材消費量が二倍に増加している。
 天然林の保全への要請が高まる中で、森林の減少・劣化が著しい開発途上地域においては、残存資源の計画的な利用を図るとともに、人工林の造成と適切な管理を推進することが重要である。

二 持続可能な森林経営に関する国際動向

 (一) 持続可能な森林経営の考え方
 世界的な森林の減少・劣化等に対処するため、平成四年(一九九二年)の地球サミットでは、世界のすべての森林を対象に持続可能な森林経営の達成に向けて取り組むことが合意された。
 持続可能な森林経営とは、持続可能な開発の一環として、地球環境の主要な構成要素である森林を将来にわたって適切に保全しつつ利用していこうとする考え方である。

 (二) 地球サミット以降の国際的な取組
 持続可能な森林経営に向けた取組として、政府レベルでは、持続可能な森林経営の基準・指標づくり、「森林に関する政府間パネル」(IPF)における検討等が進められた。
 基準とは、持続可能な森林経営の達成状況について、木材生産や水土保全等に加え、森林生態系の健全性や活力維持、生物多様性の保全、地球温暖化防止等の多様な視点から客観的に評価するための因子である。指標とは、基準ごとに定められる評価のための調査項目のことである。現在、これらを活用し、持続可能な森林経営の総合的な評価を実施するため、各国の実態等を踏まえつつ、国際協調による取組が行われている。
 また、平成九年(一九九七年)の第十九回国連特別総会では、国連の下に、「森林に関する政府間フォーラム」(IFF)を設置し、IPFからの懸案事項の検討、森林条約等の国際協定や国際メカニズムの検討等を行い、平成十二年(二〇〇〇年)までに成果を取りまとめることが決定されている。
 一方、民間レベルでは認証・ラベリングの取組が行われている。これは持続可能な経営が行われている森林を認証し、その森林から生産された木材・木材製品にラベルを貼付することにより、消費者の選択的な購買を通じて持続可能な森林経営を支援するものである。
 国際的な取組としては、森林管理協議会(FSC)の認証・ラベリングや国際標準化機構(ISO)の環境マネジメントシステム規格がある。認証・ラベリングは生産者と消費者双方の取組として、持続可能な森林経営を促進させる有効な手段と考えられるが、小規模な森林所有者や事業者が認証を受けることは、経営形態、知識、技術等の面で問題が予想され、その導入方策等について調査・検討を行うことが必要である。

三 地球温暖化防止に向けた取組

 (一) 京都会議における森林の取扱い
 平成九年(一九九七年)に開かれた「気候変動枠組条約第三回締約国会議」(京都会議)では、二酸化炭素を吸収し炭素を貯蔵する森林の働きが改めて認識された。議定書には、各締約国がとるべき政策措置として、森林の持続可能な経営及び植林の推進が盛り込まれ、平成二年(一九九〇年)以降の新規植林、再植林による二酸化炭素の吸収を排出削減量として算入する方式が採用された。
 なお、森林の二酸化炭素の吸収・貯蔵量については、基礎的なデータの収集法や精度等に各国ごとの差異があり、科学的に不明な点も多いことから、今後、二酸化炭素の吸収量等をより的確に測定する共通の手法の開発等が課題である。

 (二) 地球温暖化防止に向けた我が国の取組課題
 今後、地球温暖化防止に貢献する観点から、二酸化炭素の吸収源、炭素の貯蔵庫としての森林の保全・造成を図ることが重要である。また、木材は、製造・加工に要するエネルギーが小さく、化石燃料の消費による二酸化炭素の放出量が少ない環境調和型の素材であることに加え、有効利用により、炭素を長期間貯留できることから、需要拡大と併せて使用年限を延ばすことやリサイクルの推進を図ることも重要である(第6図参照)。
 国内においては、国産材の利用推進を通じた林業生産活動の活性化により、成長旺盛な森林を育成し、森林整備を着実に進めることが重要であることから、保育・間伐の的確な実施や国産材の安定供給体制の整備等が課題となっている。
 また、開発途上地域における温暖化防止対策を支援する観点から、熱帯林を中心とした森林の保全・造成に関する国際森林・林業協力を積極的に推進していく必要がある。

四 持続可能な森林経営の達成に向けて

 (一) 我が国における持続可能な森林経営の推進
 持続可能な森林経営を推進するため、我が国においては、「森林資源に関する基本計画」に基づく森林整備の推進を基本として、森林の多面的機能の維持増進、森林の生態系管理の推進、森林整備の推進体制の強化を図ることが重要である。
 我が国は先進国の中でフィンランド、スウェーデンに次いで高い森林率(六七%)を有している。また、欧米に比べ種の多様性に富む森林が生育するとともに、世界有数の人工林があり、多様化する国民のニーズに対応し、これら森林を適切に整備していくことが課題である。
 ア 森林の多面的な機能を維持増進するための森林整備
 森林の健全性を高めるために適切な間伐を実施するとともに、公益的機能の発揮に資する複層林の造成や伐期の長期化等を推進し、多様な森林を整備していくことが必要である。このため、林業生産活動の活性化等を通じて森林の生産力を高めるとともに、路網整備、機械化、担い手の育成等により、資源の循環利用のための条件整備を推進することが重要である。
 イ 森林生態系に関する調査研究とモニタリング手法の検討
 森林生態系の管理を推進するため、生態系としての森林の健全性、生物の多様性、森林土壌や水系の状態、森林の二酸化炭素の吸収・貯蔵能力等の森林資源の状況を把握するための調査手法の開発と全国的なモニタリングシステムの整備等が必要である。
 ウ 森林整備の推進体制の強化
 森林整備における市町村の役割を強化するとともに、森林整備への幅広い国民の参加と協力を推進することが重要である。
 また、森林地理情報システム(森林GIS)は、森林に関する図面情報と数値情報を一元的に管理でき、森林機能の評価や時間的変化の分析、住民への説明等の手段としても有効であり、持続可能な森林経営の推進に向けて、その一層の活用を図ることも重要である。

 (二) 持続可能な森林経営のための国際貢献
 我が国は、世界有数の森林国であるとともに、木材輸入国でもあり、国際合意の形成、実践的な現場活動の推進等に、これまで以上に貢献していくことが期待される。このため、IFF等の取組に積極的に参画するとともに、「国際熱帯木材機関」(ITTO)への貢献を継続・強化していくことが必要である。
 また、世界の森林の持続可能な経営を達成するためには、関係者の連携・協調、世界レベル、国レベル、現場レベルでの一環した取組を推進することが不可欠である。平成九年八月、「国際的な森林整備の推進に関する懇談会」では、世界規模での取組を効果的に進めるため、「緑のネットワーク」の確立が提起された。これに基づいて、取組成果の共有、人材育成、技術や資金の移転等を通じて、相互の取組を強化・推進することが重要である(第7図参照)。
 さらに、技術移転や住民参加の促進を担う日本人の専門家、ボランティア、開発途上国の政策立案者、技術者、NGO活動家等の人材育成を図ることが重要である。


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月例経済報告(四月報告)


経 済 企 画 庁


概 観

 我が国経済
 需要面をみると、個人消費は、家計の経済の先行きに対する不透明感もあって、低調な動きが続いている。住宅建設は、このところおおむね横ばいで推移しているものの、依然その水準は低い。設備投資は、頭打ち傾向が顕著になっている。
 九年十〜十二月期(速報)の実質国内総生産は、前期比〇・二%減(年率〇・七%減)となり、うち内需寄与度はマイナス〇・八%となった。
 産業面をみると、最終需要が停滞していることを背景に、在庫は高水準にあり、鉱工業生産は、このところ減少している。企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、一層厳しさが増している。
 雇用情勢をみると、完全失業率が既往最高となるなど厳しさが増している。
 輸出は、アジア向けが減少していることから、このところ伸びが鈍化している。輸入は、おおむね横ばいで推移している。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、増加傾向にある。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、三月は、月初の百二十五円台から下落し百三十二円台となった。
 物価の動向をみると、国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。また、消費者物価は、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、三月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、三月はやや低下した後、月末にはやや上昇した。株式相場は、三月はおおむね横ばいで推移した。マネーサプライ(M2+CD)は、二月は前年同月比四・八%増となった。
 海外経済
 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大している。実質GDPは、九七年七〜九月期前期比年率三・一%増の後、十〜十二月期は同三・七%増となった。個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大している。物価は安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、このところ拡大している。三月の長期金利(三十年物国債)は、やや上下しつつほぼ横ばいで推移した。三月の株価(ダウ平均)は、総じて上昇し、下旬には最高値を更新した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は回復しており、フランスでは、景気が拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポはこのところ緩やかになってきている。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは拡大しており、イギリスでは鈍化している。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準で推移しているが、イギリスでは低下している。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスではこのところ安定してきている。なお欧州委員会は、三月二十五日、EU加盟十五か国のうち十一か国を九九年一月に開始される通貨統合への当初参加国に推薦した。
 東アジアをみると、中国では、景気は拡大している。物価は、安定している。貿易収支は、大幅な黒字が続いている。韓国では、景気は後退している。失業率は、上昇している。物価は、高騰している。貿易収支黒字は、大幅に拡大している。
 国際金融市場の三月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、増価した。
 国際商品市況の三月の動きをみると、全体では初旬から中旬にかけては弱含みで推移した後、下旬にかけては強含みで推移した。三月の原油スポット価格(北海ブレント)は、全体では弱含みでの推移となり、十一ドル台に下落したが、下旬にかけて主要産油国の減産表明によりやや強含んだ。

*     *     *

 我が国経済の最近の動向をみると、輸出は、アジア向けが減少していることから、このところ伸びが鈍化している。設備投資は、頭打ち傾向が顕著になっている。個人消費は、家計の経済の先行きに対する不透明感もあって、低調な動きが続いている。住宅建設は、このところおおむね横ばいで推移しているものの、依然その水準は低い。このように最終需要が停滞していることを背景に、在庫は高水準にあり、生産はこのところ減少している。雇用情勢をみると、完全失業率が既往最高となるなど厳しさが増している。また、民間金融機関において貸出態度に慎重さがみられる。以上のように、昨年来厳しさを増した家計や企業の景況感が実体経済全般にまで影響を及ぼしており、景気は停滞し、一層厳しさを増している。
 政府としては、このような厳しい経済の現況に対応し、我が国経済及び経済運営に対する内外の信頼を回復するに必要かつ十分な規模の総合経済対策を策定することとしている。

1 国内需要
―設備投資は、頭打ち傾向が顕著―

 実質国内総生産(平成二年基準、速報)の動向をみると、九年七〜九月期前期比〇・八%増(年率三・二%増)の後、九年十〜十二月期は同〇・二%減(同〇・七%減)となった。内外需別にみると、国内需要の寄与度はマイナス〇・八%となり、財貨・サービスの純輸出の寄与度はプラス〇・六%となった。需要項目別にみると、民間最終消費支出は前期比〇・九%減、民間企業設備投資は同〇・六%増、民間住宅は同四・二%減となった。また、財貨・サービスの輸出は前期比三・一%増、財貨・サービスの輸入は同一・三%減となった。
 個人消費は、家計の経済の先行きに対する不透明感もあって、低調な動きが続いている。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で一月四・〇%減の後、二月は四・五%減(前月比〇・一%減)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比四・三%減、勤労者以外の世帯では同五・〇%減となった。形態別にみると、商品、サービスともに減少となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比四・四%減、勤労者世帯では同四・一%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で十一月三・二%減となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で一月二・九%減の後、二月は七・一%減(前月比二・七%減)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で一月二・〇%減の後、二月五・四%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で一月四・六%減の後、二月五・〇%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で三月は一九・四%減となった。また、家電小売金額は、前年同月比で二月は九・五%減となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、二月は前年同月比で国内旅行が二・六%減、海外旅行は九・七%減となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で一月〇・八%減の後、二月(速報)は〇・〇%(事業所規模三十人以上では同〇・一%減)となり、うち所定外給与は、二月(速報)は同四・二%減(事業所規模三十人以上では同四・六%減)となった。実質賃金は、前年同月比で一月二・七%減の後、二月(速報)は一・九%減(事業所規模三十人以上では同二・〇%減)となった。なお、平成九年年末賞与は、前年比〇・一%減(前年は同一・七%増)となった。
 住宅建設は、このところおおむね横ばいで推移しているものの、依然その水準は低い。
 新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で一月一・一%増(前年同月比一六・三%減)となった後、二月は一・八%増(前年同月比一三・六%減)の十一万一千戸(年率百三十三万戸)となった。二月の着工床面積(季節調整値)は、前月比〇・五%減(前年同月比一九・〇%減)となった。二月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比四・三%減(前年同月比二六・七%減)、貸家は同五・八%増(同七・四%減)、分譲住宅は同四・六%減(同二・八%減)となっている。
 設備投資は、頭打ち傾向が顕著になっている。
 日本銀行「企業短期経済観測調査」(三月調査)により設備投資の動向をみると、主要企業の九年度設備投資計画は、製造業で前年度比九・一%増(十二月調査比〇・八%下方修正)、非製造業で同一・四%減(同二・五%下方修正)となっており、全産業では同二・〇%増(同一・九%下方修正)となった。また、中堅企業では、製造業で前年度比〇・七%減(十二月調査比二・五%下方修正)、非製造業で同八・九%減(同一・八%下方修正)となり、中小企業では製造業で同四・六%増(同二・〇%下方修正)、非製造業で同一一・七%減(同〇・七%上方修正)となっている。
 なお、九年十〜十二月期の設備投資を、大蔵省「法人企業統計季報」(全産業)でみると、前年同期比で三・五%増(うち製造業八・五%増、非製造業一・四%増)となった。
 先行指標の動きをみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前月比で十二月は一・七%減(前年同月比八・九%減)の後、一月は一三・八%増(同四・七%減)となり、全体として弱含みで推移している。民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、おおむね横ばいで推移しており、前月比で一月〇・〇%増の後、二月は〇・一%増(前年同月比三・八%増)となった。内訳をみると、製造業は前月比一七・一%減(前年同月比一八・三%増)、非製造業は同四・〇%増(同〇・一%減)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資については、着工総工事費は、前年同月比で十二月四・八%増の後、一月は一九・〇%減となった。公共工事請負金額は、前年同月比で一月〇・一%増の後、二月は四・二%増となった。官公庁からの建設工事受注額(五十社)は、前年同月比で一月二九・八%減の後、二月は六・一%減となった。実質公的固定資本形成は、九年七〜九月期に前期比一・二%増の後、九年十〜十二月期は同一・八%減となった。また、実質政府最終消費支出は、九年七〜九月期に前期比〇・七%増の後、九年十〜十二月期は同一・四%増となった。

2 生産雇用
―完全失業率が既往最高となるなど厳しさが増す雇用情勢―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、在庫は高水準にあり、生産・出荷は、このところ減少している。
 鉱工業生産は、前月比で一月二・九%増の後、二月(速報)は、金属製品が増加したものの、電気機械、一般機械等が減少したことから、三・三%減となった。また製造工業生産予測指数は、前月比で三月は機械、鉄鋼により二・五%減の後、四月は機械、鉄鋼等により二・五%減となっている。鉱工業出荷は、前月比で一月三・四%増の後、二月(速報)は、生産財、資本財等が減少したことから、三・六%減となった。鉱工業生産者製品在庫は、前月比で一月〇・一%増の後、二月(速報)は、金属製品、化学等が減少したものの、輸送機械、鉄鋼等が増加したことから、〇・五%増となった。また、二月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数は一二七・〇と前月を五・四ポイント上回った。
 主な業種について最近の動きをみると、電気機械では、生産は二月は減少し、在庫は二か月連続で増加した。一般機械では、生産は二月は減少し、在庫は三か月連続で増加した。化学では、生産、在庫ともに二月は減少した。
 雇用情勢をみると、完全失業率が既往最高となるなど厳しさが増している。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、一月〇・六四倍の後、二月〇・六一倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、一月一・〇六倍の後、二月一・〇〇倍となった。雇用者数は、伸びが鈍化している。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、二月は前年同月比〇・一%減(前年同月差四万人減)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、一月前年同月比〇・七%増(季節調整済前月比〇・〇%)の後、二月(速報)は同〇・六%増(同〇・〇%)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比〇・〇%)、産業別には製造業では同〇・六%減となった。二月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差六万人増の二百四十四万人、完全失業率(同)は、一月三・五%の後、二月三・六%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では一月前年同月比六・四%減(季節調整済前月比〇・三%減)の後、二月(速報)は同一〇・三%減(同五・八%減)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比九・九%減)。
 前記「企業短期経済観測調査」(全国企業、三月調査)をみると、企業の雇用人員判断は、製造業、非製造業ともに過剰感に高まりがみられる。
 企業の動向をみると、企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、一層厳しさが増している。
 前記「企業短期経済観測調査」(三月調査)によると、主要企業(全産業)では、九年度下期の経常利益は前年同期比一五・一%の減益(除く電力・ガスでは同一六・六%の減益)の後、十年度上期には同一一・四%の減益(除く電力・ガスでは同一〇・二%の減益)が見込まれている。産業別にみると、製造業では九年度下期に前年同期比一九・七%の減益の後、十年度上期には同一一・九%の減益が見込まれている。また、非製造業(除く電力・ガス)では九年度下期に前年同期比八・九%の減益の後、十年度上期には同六・八%の減益が見込まれている。売上高経常利益率は、製造業では九年度下期に三・五八%になった後、十年度上期は三・六六%と見込まれている。また、非製造業(除く電力・ガス)では九年度下期に一・三八%となった後、十年度上期は一・五二%と見込まれている。こうしたなかで、企業の業況判断をみると、製造業、非製造業ともに「悪い」超幅が拡大した。
 また、中小企業の動向を同調査(全国企業)でみると、製造業では、経常利益は九年度下期には前年同期比三五・二%の減益の後、十年度上期には同一〇・四%の減益が見込まれている。また非製造業では、九年度下期に前年同期比一二・九%の減益の後、十年度上期には同五・二%の増益が見込まれている。こうしたなかで、企業の業況判断をみると、製造業、非製造業ともに「悪い」超幅が拡大した。
 企業倒産の状況をみると、件数は、このところ前年の水準を大きく上回る傾向にある。
 銀行取引停止処分者件数は、二月は一千八十七件で前年同月比一八・〇%増となった。業種別に件数の前年同月比をみると、卸売業で四四・九%、小売業で二九・四%の増加となった。

3 国際収支
―輸出は、アジア向けが減少していることから、このところ伸びが鈍化―

 輸出は、アジア向けが減少していることから、このところ伸びが鈍化している。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で一月三・一%増の後、二月は三・六%減(前年同月比二・九%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、輸送用機器、精密機器等が増加した。同じく地域別にみると、アジアは減少しているが、アメリカ、EU等が増加した。
 輸入は、おおむね横ばいで推移している。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で一月四・六%増の後、二月は一二・五%減(前年同月比六・〇%減)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、鉱物性燃料、原料品等は減少したが、製品類(繊維製品)、食料品等は増加した。同じく地域別にみると、中東、アジア等が減少したが、EU等は増加した。
 通関収支差(季節調整値)は、一月に一兆七百九十八億円の黒字の後、二月は一兆一千五百五十五億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、増加傾向にある。
 一月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、貿易収支の黒字幅が拡大し、サービス収支の赤字幅が縮小したため、その黒字幅は拡大し、六千二十六億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、貿易・サービス収支の黒字幅が拡大し、経常移転収支の赤字幅が縮小したものの、所得収支の黒字幅が縮小したため、その黒字幅は縮小し、一兆五百一億円となった。投資収支(原数値)は、七千四百四十六億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、八千三百二十四億円の赤字となった。
 三月末の外貨準備高は、前月比四億五千万ドル増加して二千二百三十五億九千万ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、三月は、月初の百二十五円台から下落し百三十二円台となった。一方、対マルク相場(インターバンク十七時時点)は、三月は、月初の六十九円台から下落し七十二円台となった。

4 物 価
―国内卸売物価は、弱含みで推移―

 国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。
 三月の国内卸売物価は、非鉄金属(銅地金)等が上昇したものの、石油・石炭製品(燃料油)等が下落したことから、前月比〇・四%の下落(前年同月比〇・一%の下落)となった。また、前記「企業短期経済観測調査」(主要企業、三月調査)によると、製品需給バランスは緩和傾向にある。輸出物価は、契約通貨ベースで下落したものの、円安から円ベースでは前月比〇・七%の上昇(前年同月比〇・八%の下落)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで下落したことから、円ベースでは前月比〇・八%の下落(前年同月比八・二%の下落)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比〇・三%の下落(前年同月比一・一%の下落)となった。
 企業向けサービス価格は、二月は前年同月比一・六%の上昇(前月比〇・一%の上昇)となった。
 商品市況(月末対比)は、非鉄等は上昇したものの、石油等の下落により三月は下落した。三月の動きを品目別にみると、鉛地金は上昇したものの、C重油等が下落した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で一月二・〇%の上昇の後、二月は公共料金(広義)の上昇幅の縮小等により一・八%の上昇(前月比〇・三%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で一月一・八%の上昇の後、二月は一・九%の上昇(前月比〇・一%の下落)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で二月一・七%の上昇の後、三月(中旬速報値)は持家の帰属家賃の上昇幅の拡大等の一方、外食の上昇幅の縮小等があり一・七%の上昇(前月比〇・二%の上昇)となった。なお、総合は、前年同月比で二月二・〇%の上昇の後、三月(中旬速報値)は二・三%の上昇(前月比〇・四%の上昇)となった。

5 金融財政
―長期金利は、やや低下した後、月末にはやや上昇―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、三月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、三月はやや低下した後、月末にはやや上昇した。株式相場は、三月はおおむね横ばいで推移した。マネーサプライ(M2+CD)は、二月は前年同月比四・八%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレートは、三月はおおむね横ばいで推移した。二、三か月物は、三月は低下した。なお、日銀は市場安定のため、潤沢な資金供給を行った。
 公社債市場をみると、国債流通利回りは、三月はやや低下した後、月末にはやや上昇した。なお、国債指標銘柄流通利回り(東証終値)は三月二十五日に一・四九〇%となり、史上最低を更新した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、二月は短期は〇・〇一九%上昇し、長期は〇・〇六〇%下落したことから、総合では前月比で〇・〇〇八%上昇し一・八九八%となった。
 マネーサプライ(M2+CD)の月中平均残高を前年同月比でみると、二月(速報)は四・八%増となった。また、広義流動性でみると、二月(速報)は三・一%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関の貸出平残(全国銀行)は、二月(速報)は前年同月比〇・六%減となった。三月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債がゼロとなった。また、三月の国内公募事業債の起債実績は一兆六百二十五億円となった。
 前記「企業短期経済観測調査」(主要企業、三月調査)によると、資金繰り判断は「苦しい」超に転じ、金融機関の貸出態度は大幅な「厳しい」超となった。また、手元流動性はやや上昇している。
 民間金融機関において貸出態度に慎重さがみられる。
 株式市場をみると、日経平均株価は、三月はおおむね横ばいで推移した。

6 海外経済
―欧州委員会、十一か国を通貨統合への当初参加国に推薦―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大している。実質GDPは、九七年七〜九月期前期比年率三・一%増の後、十〜十二月期は同三・七%増となった。個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大している。雇用者数(非農業事業所)は二月前月差二十五万二千人増の後、三月は同三万六千人減となった。失業率は三月四・七%となった。物価は安定している。二月の消費者物価は前月比〇・一%の上昇、二月の生産者物価(完成財総合)は同〇・一%の下落となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、このところ拡大している。三月の長期金利(三十年物国債)は、やや上下しつつほぼ横ばいで推移した。三月の株価(ダウ平均)は、総じて上昇し、下旬には最高値を更新した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は回復しており、フランスでは、景気は拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポはこのところ緩やかになってきている。十〜十二月期の実質GDPは、ドイツ前期比年率一・一%増、フランス同三・一%増(速報値)、イギリス同二・五%増となった。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは拡大しており、イギリスでは鈍化している(鉱工業生産は、ドイツ一月前月比二・五%増、フランス同〇・九%減、イギリス二月同〇・五%減)。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準で推移しているが、イギリスでは低下している(二月の失業率は、ドイツ一一・五%、フランス一二・一%、イギリス四・九%)。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスではこのところ安定してきている(二月の消費者物価上昇率は、ドイツ前年同月比一・一%、フランス同〇・七%、イギリス同三・四%)。なお欧州委員会は、三月二十五日、EU加盟十五か国のうち十一か国を九九年一月に開始される通貨統合への当初参加国に推薦した。
 東アジアをみると、中国では、景気は拡大している。物価は、安定している。貿易収支は、大幅な黒字が続いている。韓国では、景気は後退している。失業率は、上昇している。物価は、高騰している。貿易収支黒字は、大幅に拡大している。
 国際金融市場の三月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、増価した(モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)三月三十一日一一一・三、二月末比二・〇%の増価)。内訳をみると、三月三十一日現在、対円では二月末比五・七%増価、対マルクでは同一・八%増価した。
 国際商品市況の三月の動きをみると、全体では初旬から中旬にかけて弱含みで推移した後、下旬にかけては強含みで推移した。三月の原油スポット価格(北海ブレント)は、全体では弱含みでの推移となり、十一ドル台に下落したが、下旬にかけて主要産油国の減産表明によりやや強含んだ。

五月の気象


 ゴールデンウイークが終わると、南西諸島は雨の季節を迎えます。沖縄と奄美地方の平年の梅雨入りは、五月十一日ごろです。本州などでも五月の後半には、曇りや雨の日が多くなる「梅雨の走り」が現れることがありますが、本格的な梅雨入りは六月に入ってからです。また、本州では、移動性の高気圧やそれらが東西に連なった帯状の高気圧に覆われ、快適な晴天が続くことがあります。初夏の日差しが照りつけ、最高気温が三十℃を超える真夏日になることも珍しくありません。
 一方、北国では、ようやく遅い春を迎えます。北海道では五月にも雪が降り、六月にも霜の降りることがありますが、動植物はいっせいに活動が盛んになります。梅(札幌の平年の開花日は五月六日)と桜(同五月九日)が同時に咲き出し、つばめが姿を見せるのもこのころです。

◇おそ霜

 四〜五月は、霜による農作物の被害が多い季節です。植物は日が長くなり気温が上昇してくると、芽吹いて成長を始めます。若芽が顔を出し若葉が育つ五月は、新緑の季節です。しかし、若芽・若葉は寒さに弱く、冷たい空気や霜にさらされると枯れてしまうことがあり、この時期は新茶などに大きな被害が出ることがあります。大陸から冷たい空気とともに進んできた高気圧が日本列島をすっぽり覆うようなときは、風が弱く晴れているため、夜間は地面の熱が奪われ地表付近の気温が低下するためです(放射冷却)。「八十八夜の別れ霜」は、霜の害に対する警鐘を込めた言葉です。今年の八十八夜は五月二日です。(気象庁)


 
    <5月13日号の主な予定>
 
 ▽漁業白書のあらまし………………水 産 庁 

 ▽毎月勤労統計調査…………………労 働 省 
 



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