官報資料版 平成1027





外交青書のあらまし


21世紀に向けた日本外交


―国際社会の新たな動きと新たな課題―


平成10年版「外交青書」は、平成10年4月24日の閣議に配布され、同日公表された。

外 務 省


<第1章> 総 括
      ―九七年の国際社会と日本外交―

一 概 観

[九七年の国際社会の動き]
 波乱と激動の二十世紀も残すところわずか三年となった。今世紀後半四十年近くにわたり国際社会を規定してきた冷戦構造が終焉を迎えて以後、新しい世紀を前に国際社会が九〇年代に取り組んできた最大の課題は、冷戦構造に代わる新たな安定的な国際秩序の構築であったと言えよう。
 冷戦の終焉を祝福し、バラ色の世界が訪れると期待した国際社会は、間もなく、冷戦後の世界が、冷戦構造の下で抑えられていた民族的、宗教的理由等に基づく地域紛争の頻発や、東西軍備拡張競争の副産物とも言える大量破壊兵器の拡散など、いわばポスト冷戦の課題を伴っていることを知ることとなった。
 ベルリンの壁の崩壊から既に八年、旧ソ連邦の崩壊から六年を経て、我々には、これらの課題を含め、国際社会が直面する様々な課題を克服しつつ、冷戦「後」、ポスト冷戦といった冷戦時代を基準とする考え方を超えて、国際秩序の構築という課題をより積極的に捉えることが求められている。それは新たな国際秩序を、二十一世紀において我々が更なる発展を遂げるための、人類の活動の基盤として位置づけ、着実にその実現を図っていくことである。
 平和で繁栄した二十一世紀を我々に約束する国際秩序の全貌は、未だ明らかになったとは言い難い。しかし、国際社会を構成する各国は現在、二国間、地域内、地域間、さらには全地球規模での協力関係を重層的に進めていくことにより、安定した国際秩序の構築に向け前進を続けている。
<新たな秩序の構築に向けて>
 このような流れを念頭に置いて、九七年の国際社会の動きを概観すると、いくつかの顕著な動きが見られる。以下に述べる動きを全体的に見ると、世界は、この新たな秩序づくりの新たな段階に入りつつあると言えよう。
 まず、アジア太平洋地域に目を向けると、この地域の安定と繁栄を確保する上で、米国の存在は引き続き最も重要な要素のひとつであり、この点にはいささかの変わりもない。一方、九七年においてはこれと同時に、日本、米国、中国、ロシアという地域の主要な四か国相互の間で、これまでになく活発な外交活動が見られたことが特筆される。相次ぐ首脳の往来を始めとして、多様な分野で様々なレベルの対話や交流が進み、それぞれの二国間関係は一層緊密さを増している。これら四か国は地域の安定と繁栄のためにそれぞれ重要な役割を有しており、四か国相互の安定的な関係は、地域全体の安定と繁栄のための不可欠の基盤となっている。
 九七年は、日米中露四か国がそれぞれの外交目標を追求する中で、アジア太平洋地域における新たな秩序の構築に果たす各々の役割を認識し、相互の安定した関係の確保に向けて動いたと言えよう。無論、この地域における新たな秩序の構築はこの四か国のみが担っているわけではなく、域内の各国が単独あるいは共同で模索を続けている。その中で、朝鮮半島に関する四者会合本会談が初めて開催されたこと、APECへのロシアを始めとした新規加盟国の参加決定、ASEAN拡大などは、前述の新たな段階を裏付けるいずれも特筆すべき動きと言えよう。
 目を欧州に転ずれば、北大西洋条約機構(NATO)は、中・東欧三か国の加盟に関する議定書が署名され、拡大に向け大きく前進した。旧共産圏諸国のNATO加盟は、かつて共産圏に対抗する軍事同盟として機能していたNATOの性格の転換を象徴するものであり、新たな時代の安全保障の枠組みづくりの着実な一歩である。
 また、欧州連合(EU)についても、中・東欧諸国を含む新規加盟交渉対象国の決定や、EUの共通政策の射程を広げるアムステルダム条約の締結など、今後の拡大と深化の道筋を定める重要な動きがあった。
 このように、欧州においても冷戦を前提としていた枠組みに根本的な変化の動きが見られた一年であった。
<新たな機会の活用と挑戦への対応>
 新たな国際秩序の模索が続く一方で、現代国際社会においては、相互依存関係の一層の深まりやグローバリゼーションの急速な進展が大きな流れとなっている。九七年はこのような流れの中で、国際社会が新たな挑戦に直面し、いかにしてこれに対応していくのかが問われた年でもあった。
 六月のデンヴァー・サミットにおけるコミュニケでも述べられたように、世界経済の統合の進展は、競争の促進や技術革新の伝播などを通じて、国際社会に一層の繁栄の機会を提供するものと位置づけられる。また、貿易や投資を通じた経済的な相互依存関係の深まりは、安定的な国際秩序に対する各国の指向を強めることとなって、安全保障の面でも肯定的に作用するものである。
 一方で、近年のグローバリゼーションの急速な進展は、一国で生じた問題が他国に、地域全体に、さらには全世界に、より容易に、かつ、より迅速に波及する状況をもたらしている。国境を越えた波及効果を持ちうる個々の具体的な問題に、国際社会が地域的あるいはグローバルにいかに対処するか、また、グローバリゼーションの流れをうまく捉えて、国際社会全体として、いかにして発展の機会を最大限に活用していくかが、二十一世紀の繁栄を確保していく上で、問われているのである。
 新たな挑戦の最も顕著な例は、アジアにおける経済危機であった。アジアにおいては、七月のタイにおける通貨下落が、韓国、インドネシアなどの通貨、金融市場に影響を与え、各国は困難な経済運営を迫られることとなった。さらにこの経済危機の影響はアジア地域にとどまらず、世界全体に不安感を波及させ、ニュー・ヨークやロンドンなど主要な株式市場での一時的な株価下落をも招いた。東アジア各国は「アジアの奇跡」とも呼ばれた経済成長を遂げてきたが、この経済成長は、各国の努力の賜物であると同時に、その背景には、自由で活発な貿易や投資を可能とした世界の市場の一体化の流れがあった。まさに各国とも、グローバリゼーションの流れの中で、その恩恵を最大限に享受してきたのである。
 一方で、今回の危機において、グローバリゼーションのもたらした情報の瞬時伝播や金融市場の一体化が、危機の影響を大きくしたことは否めない。欧米の株式市場等での敏感な反応は、世界各国が経済的に相互依存関係にあることを強く認識した上で、ある国ないしある地域における経済の混乱を、自らが直面を余儀なくされる問題として捉える見方が広く共有されつつあることを示していると言える。今回の危機に当たって、アジア最大の経済主体である日本を始めとして、アジアと密接な経済的つながりを有する欧米諸国も共にその打開に努力している。
 このようにグローバリゼーションの下での新たな挑戦へ対処するには、国際社会が共同して対処することが重要であり、この経験が教訓として活かされていくことが必要である。また、我々はグローバリゼーションのもたらす機会を最大限に活用していく一方で、こうした危機の波及を未然に防ぐ国際的な協力体制の構築等について、積極的に努力していくことが重要である。「アジア地域の金融・通貨の安定に向けた地域協力強化のための新フレームワーク(マニラ・フレームワーク)」は、先に述べた安定的な国際秩序の構築の文脈にも位置づけられる新たな枠組みと言える。
<ますます多岐にわたる地球規模問題>
 国境を越えた拡がりを持ち、国際社会全体の取組が要求される課題は、増加の一途を辿っている。これらは、冷戦の終結やグローバリゼーションの流れとも密接に関連している。
 いまや地球規模問題の代表的存在として位置づけられる地球環境問題に関連して、九七年には重要な進展があった。六月の国連環境開発特別総会と、十二月の気候変動枠組条約第三回締約国会議(地球温暖化防止京都会議)の成果は、この問題への今後の国際社会の取組を規定するものとなった。
 世界各地で頻発するテロ事件は、冷戦終結後の課題という側面もあり、国際社会の一致した取組が要求されている。九七年には、ペルー、イスラエル、スリランカ、エジプトなどで大規模なテロ事件が発生する一方、サミットにおける首脳レベルの議論、爆弾テロ防止条約の採択など、国際社会の取組にも進展があった。
 また、国境を越えた犯罪の防止・取締りへの関心も高まった。この問題は近年、犯罪行為のハイテク化の進展、組織的な犯罪の増加などにより複雑多岐にわたっているが、解決のためには各国の協調した取組が不可欠である。G8の間では、九七年を通じて専門家が議論を重ねており、その成果を踏まえて各国首脳がリーダーシップを発揮すべく、九八年のサミットの主要議題の一つとなることが決まっている。
 さらに軍備管理・軍縮の分野においては、対人地雷問題について、九七年には全面禁止を求める国際世論がかつてない高まりを見せた。これを背景に、いわゆる対人地雷全面禁止条約が採択され、日本を含む百二十か国以上の署名を得るに至った。これらのほかにも、人口・食糧問題、難民問題等について一定の進展が見られた。

[九七年の日本外交]
 さて、このような国際情勢を踏まえて、日本は九七年にはどのような外交を展開してきたのか、以下概観するが、まず日本外交の方針について簡潔に述べることとしたい。
 国際社会を構成する国家どうしの距離が様々な意味で近くなり、相互依存関係が深まる中、各国の安全と繁栄は世界全体の安定と繁栄に密接に結びつくようになった。
 従来より、地政学的、経済的な観点から、日本にとっては安定した国際環境が極めて重要な意義を有していたが、国際政治、国際経済の舞台で飛躍的発展を遂げた今日でも、国際社会が平和で安定したものであることの日本にとっての重要性は増大こそすれ、減少することは全くない。そして、日本が国際社会における主要な一員として、大きな影響力と責任を持つに至っている今日、日本としては、国際社会を規律する秩序を、与えられたものとしてのみ捉え、その枠内で繁栄を享受するにとどまるのではなく、国際社会全体にとって、そして日本にとって望ましい国際秩序を能動的に構築していくために様々な形で努力することが必要であり、また、求められている。
 日本にとって望ましい国際秩序と、国際社会全体にとって望ましい国際秩序とは、日本の安全と繁栄が国際社会の安定と繁栄に密接に結びついている以上、基本的に同じ方向を目指すものであり、また、我々の責務は両者が一致するように努力することである。日本としてはこの点を視野に入れ、多角的、重層的な外交を進めていくことが必要となる。
 それを簡潔に整理して述べれば、以下のようになろう。
 @ アジア太平洋地域に安定的な国際秩序を構築する前提となる、日米関係を始めとした二国間関係の一層の緊密化、強化
 A それを補完する意味で、様々な形の地域協力の推進への貢献
 B 国際社会共通の課題に対処するためのグローバルな取組への積極的な参加
 そこで、先に述べた九七年の国際情勢の動きに重ね合わせて日本外交を振り返ると、まず、二十一世紀に向けた新たな国際秩序の構築という側面においては、日本の安全保障において最も重要である北太平洋を取り囲む各国との安定的な関係の維持、強化に向けて、着実な進展が見られた。前述した日米中露四か国の間の、活発な外交活動を日本に即して見れば、首脳会談だけで、米国と三回、中国と二回、ロシアと二回を数えたのを始め、外相会談、安全保障対話がこれまでにもまして顕著な成果を上げた。
 まず日本の外交の基軸である米国との関係については、九月の新たな「日米防衛協力のための指針」の策定などを通じ、日米協力関係の一層の強化が図られた。国交正常化二十五周年を迎えた中国との間では、両国総理の相互訪問や、新たな漁業協定の署名などの実務関係の進展を通じ、友好関係の増進に成功した。さらにロシアとの間では、十一月のクラスノヤルスクでの首脳会談において、東京宣言に基づいて二〇〇〇年までに平和条約を締結するよう全力を尽くすことで一致するなど、両国間の関係の完全な正常化への重要な道筋がつけられた。
 また、七月には、橋本総理により「ユーラシア外交」という、日本外交における新たな視点が提唱された。これは、欧州におけるEU、NATOを巡る経済及び安全保障面での新秩序模索の動きには、「大西洋から見たユーラシア外交」という特徴がある中で、同じユーラシア大陸の東の端に位置する日本としても、「太平洋から見たユーラシア外交」という視点を導入して、外交の地平を大きく前進させるべきだとの問題意識に基づくものである。この視点は、中国、韓国、ロシアなどとのより緊密な関係を構築し、また北朝鮮との関係を改善していく上で、新たな原動力ともなるものである。加えて、冷戦終結後、地政学的重要性からも、エネルギー供給地としての可能性からも注目を集めている、いわゆるシルクロード地域の諸国との関係強化に取り組む基礎としても、重要な視点と言える。
 次に、新たな挑戦については、アジアの経済問題が日本外交の最重要課題の一つとなった。日本は、問題発生の当初より、この地域の経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は依然として良好であり、各国経済の構造改革や透明性の向上などにより、潜在的成長力を引き出すことは可能であるとの明確なメッセージを、直接の当事者であるアジア各国を始め、国際社会へ送り続けた。そして、アジア各国への日本からの支援策を打ち出し、さらに国際的支援の枠組みづくりに積極的に参画してきた。
 このように、アジア最大の経済主体である日本に対し、迅速かつ誤りなき対応を厳しく要求するこの新たな挑戦を前に、日本として全力を挙げて責任ある対応を行ってきた。その一方で、今回の問題の端緒、その波及のしかた、混乱の深刻さは、今回の危機を一過性のものとして捉えるのではなく、その原因を的確に分析して今後に活かしていく必要性を強く認識させるものであった。
 この観点からは、世界経済が更なる発展を遂げるために、グローバリゼーションの下で新たな機会を活用し、挑戦へ対応していく中で、アジア最大の、そして世界第二の経済大国である日本が今後果たしていくべき責任は重いと言えよう。
 地球規模問題に国際社会が取り組むに当たっても、日本は責任ある一員として様々な貢献をした。地球環境問題に関し、気候変動枠組条約第三回締約国会議を京都で開催し、議長国として成功に導いたことは、九七年の日本外交の大きな成果である。
 九六年十二月に発生し、九七年四月に解決するまで長きにわたった在ペルー日本国大使公邸占拠事件では、極めて厳しい対応を迫られたが、その経験をテロ防止のための国際的な取組の中で活かしている。
 軍備管理・軍縮の分野では、十二月に対人地雷全面禁止条約に署名するとともに、地雷除去や犠牲者支援のため五年間で百億円程度の支援を行うことを決定した。さらに人道的な対人地雷除去活動に必要な機材等の輸出について、武器輸出三原則等の例外とし、その輸出を可能とする決定を行うなど、積極的な取組を行った。

二 アジア太平洋の安定と繁栄のための取組

 (一) 日米関係
[全 般]
○日米協力関係の一層の進展―九六年四月の「橋本総理大臣とクリントン大統領から日米両国民へのメッセージ」及び「日米安全保障共同宣言」に沿った、政治・安全保障、経済、地球規模問題の各分野での協力関係の強化。九七年四月の橋本総理訪米の際にもこの方針を確認。
○安保関係―「日米安全保障共同宣言」に基づき、ニュー・ヨークで開かれた日米安全保障協議委員会において、新たな「日米防衛協力のための指針」策定。沖縄に関する特別行動委員会(SACO)の最終報告の着実な実施のための努力の継続。
○経済関係―貿易収支不均衡の改善、個別問題の順次解決、米国経済の好調により、基本的には良好。しかし、日本の対米貿易黒字が増加傾向にあり、米国は日本に内需主導型経済成長の実現を要求。特に、アジア経済の安定のためにも、日本経済の力強い回復、金融システム改革、規制緩和の推進が必要と米は主張。
○ハイレベルでの意思疎通―橋本総理とクリントン大統領との間の強固な信頼関係、首脳レベルで日米二国間関係のみならず、国際情勢全般について頻繁に意見交換。小渕外務大臣も就任後、オルブライト国務長官と二度の外相会談、十二月訪米し、米側主要閣僚との間に信頼関係を構築。オルブライト国務長官(二月)、ゴア副大統領(三月、十二月)、ルービン財務長官(四月)、コーエン国防長官(四月)訪日。フォーリー新駐日大使着任(十一月)。
[日米経済関係(個別問題)]
○規制緩和―四月の首脳会談において、規制緩和等に関する日米間の対話強化につき一致。六月、規制緩和及び競争政策に関する強化されたイニシアティブに関する共同声明を発出。十一月の首脳会談で、バーミンガム・サミットまでに具体的に確認できる成果を上げることで一致。
○航空―日米航空次官級公式協議は、九八年一月三十日、両代表団の間で大筋合意に到達。参入企業数の格差是正、以遠運航可能地点の平等化等が実現し、日米航空企業間の不均衡性が大きく改善されるとともに、日米航空関係の一層の自由化のための措置がとられることに。
○港運―米国連邦海事委員会(FMC)は、日本の港湾慣行である事前協議制度に関し、米国に寄港する日本船社三社に対して、米国の港に寄港するごとに課徴金を賦課するとの制裁措置を九月発動。日本政府は、国内関係者による協議会を開催する一方、米国政府との間で協議に入り、十月十七日、実質的に決着。国内関係者間の合意を受けて、政府間の書簡が往復され、十一月十三日、FMCは制裁の無期限停止を発表。FMCによる日本船社三社よりの百五十万ドル徴収に関する日米友好通商航海条約上の問題につき、今後、日米政府間で協議していく予定。
[コモン・アジェンダ]
○五月の次官級全体会合において、多岐にわたる協力分野が、四つの柱の下、十八分野へと整理・統合。「環境教育」といった協力分野も追加。
○コモン・アジェンダへ参加する第三国、NGO等も増加。コモン・アジェンダ円卓会議により、「環境教育と日米協力」ワークショップ開催(四月)。沖縄ハワイ会合開催(十一月)、沖縄県及びハワイ州によるコモン・アジェンダにおける日米両国の取組とも連携を図った地球的規模問題への貢献への希望を表明。
[国民交流]
○日本を知る機会を提供するための、米国の高校生、大学生、学部卒業生、教職員、若手研究者、若手芸術家等を対象とした対日理解促進のための包括的取組の推進。橋本総理は、九八年夏より沖縄県の高校生を毎年四十名、米国に一年間のホームステイに派遣することを決定。米国政府も五万ドルを拠出し、十名の米国人高校生を九七年夏に沖縄に派遣。

 (二) 日中関係
[全 般]
○二国間関係の発展−九七年は日中国交正常化二十五周年、首脳の相互訪問が実現(九月橋本総理訪中、十一月李鵬総理来日)。ここ数年の困難な局面を乗り越え、両国関係を巡る雰囲気は大幅に改善。
[日中間の諸問題]
○核実験停止声明の表明を踏まえ、無償資金協力を再開(三月)。
○尖閣諸島への香港、台湾の抗議船の来航―尖閣諸島は日本固有の領土であり、現にこれを有効に支配しているとの基本的立場を踏まえ、適切な方法で対応。これにより日中関係全体が損なわれるべきではないという日中間の共通認識に基づいて冷静に対応。
○「日米防衛協力のための指針」の見直し―中国の強い関心、特に台湾の扱いについて厳しい反応。日本からは橋本総理の訪中など種々の機会を捉えて説明、中国側の理解を深める上で一定の成果。
○安全保障や防衛面での対話・交流―首脳間の意見の一致を受け、拡充に向け前向きに進展。
○橋本総理の中国東北地方訪問―過去の歴史を踏まえつつ将来の協力関係を構築との姿勢。
○新たな漁業協定への署名(李鵬総理来日時)―原則として沿岸国が自国の排他的経済水域における海洋生物資源の管理を行うことを基本に。
○遺棄化学兵器問題―化学兵器禁止条約の発効も踏まえ、引き続き政府全体として誠実に対応していく方針。
[香港、台湾との関係]
○香港の中国への返還―「一国二制度」の下で、開かれた制度維持が重要である旨、日本からは指摘。返還後の香港支援(航空協定、投資保護協定の締結、香港パスポートの取扱い等)。董建華香港特別行政区行政長官の来日。
○台湾との関係―日中共同声明に沿って、非政府間の実務交流として処理。台湾海峡両岸の当事者による平和的な話し合いによる解決を強く希望する旨、繰り返し表明。
[国際社会における日中関係の役割]
○李鵬総理来日の際の首脳会談―アジア経済の安定化やロシア、米国等の国際情勢を中心に議論。
○環境問題―橋本総理から「環境情報ネットワーク」の整備と「環境モデル都市構想」の二つの柱からなる「二十一世紀に向けた日中環境協力」を提案し、原則的に合意。
○中国のWTO早期加盟を支持。
○安全保障・人権等の分野での対話。

 (三) 日露関係
○対露外交の基本的考え方―東京宣言に基づいて北方領土問題を解決して平和条約を締結し、日露関係の完全な正常化を達成するために最善の努力を払うとともに、ロシアの改革努力を支持し、同時に、様々な分野における協力と関係強化を図る。領土問題については、帰属の問題と、問題解決のための環境整備の両分野を車の両輪とみなして、同時に努力を傾ける。
○橋本総理の挙げた三つの原則(七月、経済同友会会員懇談会において)―「信頼」、「相互利益」、「長期的視点」。ロシア側の政府、マスコミ等からも好意的な反応。
○政治レベルでの対話の更なる緊密化―ロジオノフ国防相訪日(五月)、防衛当局間協議の定期化、年次交流計画の確認や信頼醸成に関する共同作業グループの設置等について一致。池田外務大臣訪露(五月)、日露間の政治対話を一層緊密化することで一致し、その後の日露関係の基調を設定。ネムツォフ第一副首相訪日(六月)、日露貿易経済政府間委員会第二回会合開催、ロシアにおける内外からの投資の拡大が重要との認識、経済交流の活性化のため両国政府が協力することで一致。デンヴァー・サミットの際の日露首脳会談、首脳の年一回相互訪問等につき基本的に一致。その後三度の日露外相会談(六月、七月、九月)。
○クラスノヤルスクにおける日露首脳会談(十一月一〜二日)―橋本総理とエリツィン大統領との個人的信頼関係と友情の一層の深まり。平和条約交渉について、「東京宣言に基づき、二〇〇〇年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」ことを合意。経済分野については、今後の両国間の経済協力促進の拠り所として、均衡のとれた開放経済化、市場経済化及びエネルギー分野での協力を進めるという基本的考え方の下に、六つの措置(@投資協力イニシアティブ、Aロシアの国際経済体制への統合の促進、B改革支援の拡充、C企業経営者養成計画、Dエネルギー対話の強化、E原子力の平和利用のための協力)を内容とする「橋本・エリツィン・プラン」を作成。ロシアのAPEC加盟の支持表明。安全保障の分野について、具体的な日露協力の措置について検討していくとともに、人道的分野等における自衛隊とロシア軍の共同訓練の可能性を探求することで一致。四島周辺水域操業枠組み交渉について、できる限り年内に妥結するよう双方の代表団に指示(その後、十二月三十日に実質妥結)。
○第九回外相間定期協議(十一月十三日)―平和条約交渉について、クラスノヤルスクでの両首脳間の合意を受け、平和条約の締結に関する作業を質的に新たなレベルに引き上げること、その前進のために、両大臣を長とし、次官レベルで交渉を行うグループを設置すること、九八年一月に次官級協議をモスクワで行うことで一致。「橋本・エリツィン・プラン」につき、十に及ぶ具体的措置を政府間委員会等を通じて積極的に進めていくことで一致。小渕外務大臣の訪露による外相間定期協議を九八年四月までに行う方向で検討するとともに、四月中旬に予定されるエリツィン大統領の訪日の詳細についても、今後調整していくことで一致。

 (四) 朝鮮半島
[日韓関係]
○金泳三(キム・ヨンサム)大統領の別府訪問(一月)―打ち解けた雰囲気の中で幅広い意見交換。未来に向けた協力関係を強化すべき点で認識が一致。青少年交流拡充策等につき意見の一致。朝鮮半島情勢について、日韓米三国の緊密な連携を再確認。国際社会の中での両国協力の一層強化で認識の一致。その後二回の首脳会談(六月、十一月)。
○韓国通貨・金融危機―日本は、十二月に取りまとめられた国際通貨基金(IMF)を中心とする総額五百八十億ドル超の金融支援パッケージの中で、第二線準備支援として各国中最大の百億ドルの金融支援を表明。
○新たな漁業協定締結問題―十二月の小渕外務大臣の訪韓の際にも協議が行われたが、妥結に至らず。(九八年一月二十三日、日韓漁業協定第十条二の規定に従って同協定を終了させる意思を韓国政府に通告。)
[日朝関係]
<日朝間の懸案事項と国交正常化交渉再開に関する動き>
○日朝国交正常化交渉再開のための審議官級予備会談開催(八月、北京)、国交正常化交渉の早期再開、北朝鮮在住の日本人配偶者の故郷訪問の早期実現などで意見の一致。
○第一回日朝赤十字連絡協議会(九月)において、日本人配偶者の故郷訪問について具体的に合意、十一月八日から十四日まで第一回の日本人配偶者(十五名)の故郷訪問が実現。
○日本人拉致疑惑問題―北朝鮮側は「そのような事実はない」との立場を主張。与党三党訪朝団の訪朝(十一月)の際には、一般の行方不明者として調査を行う旨、述べた。日本政府は、日朝赤十字連絡協議会などの場において、調査を真剣に行い問題解決のために具体的な行動をとるよう要求。
<対北朝鮮人道(食糧)支援>
○国連による総額約一億八千四百万ドルの人道支援統一アピール発表(四月)。米国は五千二百万ドル、韓国はアピール以外の国連諸機関への拠出を含め二千六百万ドルの貢献、EUは世界食糧計画(WFP)への拠出と北朝鮮に対する直接の食糧支援を含め四千六百万ECU(約五千三百八十万ドル)の貢献を実施。
○日本は、拉致疑惑などにより国内世論が厳しい中、緊急・人道支援という立場に立ち、国際社会の一員として応分の役割を果たすとの観点から、十月、@国連統一アピールの中でWFPが行う幼児及び医療機関に対する緊急食糧支援に対し、二千七百万ドルの貢献を行うこと、A国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)アピールの中で、医療資機材の調達等に対し百十万スイスフラン相当の円貨(九千四百万円)を日本赤十字社を通じて拠出すること、を決定。
<朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)>
○八月、北朝鮮咸鏡南道(ハムギョンナムド)琴湖(クムホ)地域における軽水炉初期建設着工式、十一月、軽水炉プロジェクト全体に要する経費の見積りが固まる。九月、欧州原子力共同体が理事会メンバーとしてKEDOに加盟。
○日本はKEDOの政策決定に積極的に参加。人的貢献としてKEDO事務局に政策スタッフや原子力の専門家を派遣、資金面でも十二月までに三千百七十三万ドルの拠出ほか、韓国が中心的役割を果たす軽水炉プロジェクトの全体像の下で意味のある財政的役割を果たす意図を有していることを表明。
<四者会合・南北関係>
○韓米両国による北朝鮮への共同説明会(三月)及び三度の予備会談(八月、九月、十一月)を経て、十二月に第一回本会談がジュネーブで開催。

 (五) アジアの経済情勢
○タイにおいて、米ドルに事実上固定されていたタイ・バーツが、七月二日に実質上の変動相場制に移行したことに伴い、大きく下落。影響の地域全体への波及、インドネシア、マレイシア、フィリピン等の通貨及び株式の下落。さらに、香港、韓国に波及し、世界経済全体にも影響。
○八月、IMF等の国際金融機関や日本を始めとする関係諸国がタイに対する金融支援策を決定。十月、インドネシア、十二月、韓国に対してIMFを中心とした金融支援を実施。十一月、マニラでのアジア蔵相・中央銀行総裁代理会合において、「アジア地域の金融・通貨の安定に向けた地域協力強化のための新フレームワーク」を採択。
○動揺の要因として、各国通貨が割高な水準にあったという直接的な要因、各国ごとの貿易構造、財政運営上の問題点、金融資本市場の脆弱性等の中長期的問題や構造的問題。アジア経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)は基本的に良好で、引き続き高い潜在成長力を有している旨、十一月のAPEC非公式首脳会議及び閣僚会議、十二月の日・ASEAN首脳会議において確認。経済的相互依存関係の進展の下で、アジア経済の安定は世界経済全体の安定にとって重要で、健全なマクロ経済政策や経済構造改革、金融部門の透明性確保等の諸課題に適切に取り組むことが必要。
○日本も、通貨・金融の安定のための協力、長期的視点に立った人材育成、技術支援、インフラ整備等の協力を強化していくことを表明。

 (六) アジア太平洋を巡る地域協力
 @ APEC
[ヴァンクーヴァー会合(十一月)の成果]
○アジア経済―APEC地域の基礎的条件は依然として良好であり、なお高い潜在的成長力を有していることを確認。健全なマクロ経済政策・構造調整を行うことが、潜在的成長を顕在化させる鍵であるとの点で認識が一致。マニラ・フレームワークへの強い支持を表明。
○貿易・投資の自由化・円滑化―アジア経済の不安定化を受け、自由化の勢いが失われかねない中、一層の経済成長を実現するには、貿易・投資の自由化・円滑化を更に進展させることが重要との認識で一致。個別行動計画(IAP)の改訂版が、ほぼすべてのメンバーから提出。早期に自主的自由化を進める分野として九分野が閣僚会議で特定。
○経済・技術協力の重視―優先六分野についての活動の進捗を歓迎。インフラと環境の二分野を特に重視、「インフラ整備官民協力増進のためのヴァンクーヴァー・フレームワーク」を採択、気候変動枠組条約第三回締約国会議の成功に向けた政治的メッセージを発出。
○新規参加問題―九八年から、ロシア、ヴィエトナム、ペルーの参加を認めることで一致。今後十年間の新規参加の凍結期間設定についても一致。
 A ASEAN地域フォーラム(ARF)
○実務レベルの活発な活動―信頼醸成、PKO、捜索・救難、災害救助の計四分野の会合を開催。
○第四回閣僚会合(七月)―地域の情勢について率直な意見交換、予防外交について政府レベルでの議論を開始することで一致。各種の実務レベル会合の継続についても一致。
 B アジア欧州会合(ASEM)
○精力的な活動の展開―外相(二月)、蔵相(九月)、経済閣僚(九月)による閣僚級会合開催。民間人によるビジネス会議(七月)、第二回ビジネス・フォーラム(十一月)開催。
○政治面では、政府間の対話に加え、アジア欧州協力協議会の活動支援。経済面では、経済閣僚会合開催(九月、幕張)、第二回関税局長・長官会合開催(六月)。文化等その他の分野では、青年指導者を集めたシンポジウムを開催(三月、宮崎)。
○日本の取組―タイと共にアジア側調整国としてアジア側メンバー内の意見調整にあたるなど、第二回首脳会合(九八年四月)の成功に向け積極的に努力。

三 グローバルな取組と日本の役割

 (一) 国際連合
[国連改革]
○国連の機能強化の必要性、安保理、財政面、開発分野、国連事務局等、様々な分野での改革が必要。
○九七年における進展―三月及び七月にアナン事務総長が発表した改革案が概ね加盟国により承認、ラザリ第五十一回総会議長による安保理改革に関する総会決議の試案発表、「開発のための課題」の採択など。
○日本は、国連がいたずらに議論を繰り返すばかりで、時代に適合した自己改革のための能力すら持ち合わせていないということになれば、国連に対する国際社会の信頼が低下しかねないとの問題意識に立ち、また、国連改革の三つの柱として、相互に関連のある安保理改革、財政改革及び開発分野の改革が、全体として均衡のとれた形で進められることが必要であるとの立場に立って、国連改革に向けての議論に積極的に参加。
[安保理改革]
○冷戦終焉後の新しい状況に適応するための機能強化の必要性。
○九七年における進展―ラザリ議長の試案提出、米国が途上国の常任理事国入りを認めること等を内容とする新たな立場を表明(七月)。
○常任・非常任双方の議席を拡大する必要があることについては、概ね各国の意見が一致、日独の常任理事国入りについては、幅広い支持。途上国からの新常任理事国の選出方法、総議席数の拡大数、拒否権の扱いについて議論を継続。
○日本は、@グローバルな責任を担う能力と意思を有する限定された数の国を新たに常任理事国に加え、安保理の代表性を向上させること、A非常任理事国の議席数の適当な増加により、安保理の機能を強化すること、B議席の地理的配分の不平等を改善する必要があること等を主張して、積極的に議論に参加。また、日本の常任理事国入りについては、小渕外務大臣が九月に国連総会で行った演説で、憲法の禁ずる武力の行使は行わないという基本的な考え方の下で、多くの国々の賛同を得て、安保理常任理事国として責任を果たす用意があるとの日本の従来からの立場を改めて表明。
[財政改革]
○九七年は分担率問題を中心に議論。日本は現行の「支払能力に応じた支払」の原則のみならず、安保理常任理事国の特別の責任にかんがみた「責任に応じた支払」の考え方も考慮すべきと主張。総会本会議において分担率について決議(十二月)、日本の分担率は、過去のGNPシェアの上昇を反映して、九八年は一七・九八一%、九九年は一九・九八四%、二〇〇〇年は二〇・五七三%に。
[開発分野の改革]
○「新たな開発戦略」の考えに基づいた開発分野での改革の重要性を日本は主張。「開発に関する沖縄会議」開催(九月、沖縄)。アナン国連事務総長による改革案にも取り入れられる。
[アナン事務総長による改革案]
○三月及び七月に包括的な国連改革案を提案、関連する二決議採択。国連事務局の合理化や副事務総長の設置、開発勘定の設置など決定、一部の提案については検討を継続。

 (二) 地球環境問題
[国際社会による地球環境問題への取組]
○グローバル及び地域的な取組、長期的観点からの取組の必要性。
○「環境と開発に関するリオ宣言」及び「アジェンダ21」を出発点とした様々な取組や議論。国連環境開発特別総会(UNGASS)の開催(六月、ニュー・ヨーク)、地球サミット後の様々な取組を包括的にレビュー、今後の行動計画として「アジェンダ21の一層の実施のための計画」を採択。
○具体的取組―二〇〇〇年以降の地球温暖化防止に向けた取組に関する法的枠組みを定める「京都議定書」を採択。砂漠化防止条約第一回締約国会議開催(九月)。生物多様性条約に関しバイオセイフティに関する議定書の検討。オゾン層の保護問題に関し、モントリオール議定書締約国会議(九月)において臭化メチルの規制強化を決定。
[日本の協力]
○地球環境問題を外交の主要課題として位置づけ。
○気候変動枠組条約第三回締約国会議(COP3、地球温暖化防止京都会議)開催(十二月、京都)―既存の条約では決まっていなかった二〇〇〇年以降の地球温暖化防止に向けた取組について国際的枠組みを定めることを目的に開催。日本は、「意味があり、実現可能で衡平な」数値目標を含む議定書の採択を目指し努力。厳しい交渉の末「京都議定書」が全会一致で採択。
○環境分野での途上国支援―九二年度から九六年度までの五年間の環境分野での援助合計は約一兆四千四百億円、地球サミットの際に表明された目標額を大幅に上回る額を達成。UNGASSにおいて、日本の環境ODAによる包括的取組として「二十一世紀に向けた開発環境支援構想(ISD)」を発表。九月の橋本総理訪中の際に、環境情報ネットワークや環境モデル都市構想を二国間で進める「二十一世紀に向けた日中環境協力」につき一致。十二月のCOP3において、ISD構想の温暖化対策途上国支援として「京都イニシアティブ」を発表。
○国際機関との協力関係の重視―「UNEP国際環境技術センター」を日本に誘致、プロジェクトなどへの経費支援を実施。北西太平洋地域海計画(NOWPAP)に関するフォーラム開催(七月、富山)、油による汚染の際の対応のための沿岸国間の情報交換を実施。

四 在ペルー日本国大使公邸占拠事件

[日本政府の対応]
○基本方針―「テロに屈せず、人命尊重を最優先として、平和的解決を目指す」。
○事件対応体制―初動体制として、事件発生直後に外務省に緊急対策本部、総理官邸に対策室を設置。事件発生翌日には、内閣総理大臣を長とする政府対策本部を設置。事件発生翌日には、池田外務大臣を現地に急派。外務省緊急対策本部において、二十四時間体制で、現地との連絡、情勢把握、関連情報の収集・分析、官邸を始め関係省庁と緊密に連絡・連携、政府全体での対応。
○人質及び家族への対応―身体面、精神面での健康管理、家族、企業に対する情報提供に最大限努力、公邸内への物資の差し入れ、家族、企業への説明会を実施。
○ペルー政府への支援―ペルーの主権を尊重し、ペルー政府と緊密な連絡を取りつつ、これを支援。事件直後より橋本総理とフジモリ大統領との緊密な連絡、日・ペルー首脳会談(二月、トロント)。国際社会からの支持取付け(国連安保理の議長声明発出、G7・P8議長声明発出、ASEAN各国からの支持取付け、ASEM外相会合議長声明発出等)。平和的解決に向けたペルー政府及び保証人委員会の努力を支援。
[教訓と課題]
○在ペルー日本国大使公邸占拠事件調査委員会の発足、警備の問題を始め事件発生に至るまでの経緯、発生後の対応等につき、検証と分析、報告書取りまとめ(六月)。人的・物的両面にわたる在外公館の警備体制の強化、テロ対策のための国際協力の推進、情報収集・分析体制の改善への取組。

<第2章> 分野ごとに見た国際情勢と日本外交

<第1節> 平和と安定の確保

一 日本の安全の確保
@ 日本の安全保障政策の三つの柱―日米安保体制、節度ある防衛力整備、国際の平和と安全を確保するための外交努力。
A 日米安保体制―意義、新たな日米防衛協力のための指針の公表、技術・装備面での防衛協力、沖縄における米軍施設・区域の扱い。

二 軍縮・不拡散及び対人地雷問題
@ 大量破壊兵器・通常兵器の軍縮・不拡散―究極的核廃絶決議案の採択、化学兵器禁止条約の発効、小火器問題における進展など。
A 対人地雷問題―対人地雷全面禁止条約の採択、日本の署名。除去・犠牲者支援(東京ガイドライン、ODAによる支援、武器輸出三原則との関係)。

三 地域紛争と日本の取組
 国連平和維持活動(PKO)、難民問題、中東和平及び旧ユーゴーを巡る情勢と日本の対応。

<第2節> 世界経済の繁栄の確保と途上国の開発問題

一 世界経済の繁栄の確保と日本の政策努力
@ グローバリゼーションの進展と日本の政策努力―経済構造改革の推進、多角的な貿易・投資の枠組みの整備、新たな課題への対応。
A 世界貿易機関(WTO)と多角的貿易体制の強化―サービス貿易における自由化の進展、紛争解決制度の役割など。
B 地域経済協力の進展。
C グローバリゼーションに伴う新たな課題への対応―新たなルールづくりの必要性、新たな挑戦への対応、国内問題の国際化など。
D 資源・エネルギー問題。

二 開発問題と日本の政府開発援助
@ ODAの転機―ODA予算削減と質の向上及び効果的・効率的実施に向けた改革努力(重点配分と総合調整、「ODA改革懇談会」報告など)。
A 援助政策の新たな展開―新開発戦略の進展、対アフリカ援助の促進、アジア経済危機への対処、国民参加の推進など。

<第3節> より良い地球社会の実現に向けた取組

 以下のそれぞれの分野における国際社会の取組や日本の協力を説明。
@ テロ―国際協力の強化(サミットにおける議論、爆弾テロ条約採択など)と日本の取組。
A 国際組織犯罪(司法・内務閣僚級会合開催など)、薬物。
B 人権の擁護及び民主化の促進。
C 原子力安全の確保及び科学技術分野における国際協力。
D 人口、エイズ。

<第3章> 主要地域情勢

 以下のそれぞれの地域における主要な動向及び日本との関係を概観。
@ アジア及び大洋州―ASEAN拡大、カンボディア情勢の展開と日本の役割(特使派遣などを通じた働きかけ)、総理の豪州、ニュー・ジーランド訪問など。
A 北米―米国内政・外交の展開、日加関係の進展。
B 中南米―民主主義の発展と経済発展、各国との二国間関係の強化。
C 欧州―秩序づくりの進展(NATO拡大、アムステルダム条約の採択、EU拡大における動きなど)、欧州経済情勢(通貨統合に向けた動きなど)、日欧関係の進展。
D ロシア・NIS諸国―ロシア内政・外交、NIS諸国との関係発展に向けた動き。
E 中東―総理のサウディ・アラビア訪問、イラン、イラク情勢など。
F アフリカ―政治面の進展と紛争などの課題、開発問題、日本による支援。

<第4章> 国際交流と広報活動

一 国際交流の推進
 国際交流の意義。国際交流の幅の広がりと効果的推進(官民連携など)、文化財保護への協力。国・地域別の交流の一層の推進(各種文化事業、多国籍文化ミッションなど)。更なる国際交流の展開(留学生支援など)。

二 広報活動の推進
 国内外における広報活動の強化・推進―インターネットなどの利用。諸外国の対日理解の促進。

<第5章> 外交体制

一 外交実施体制
 強化の必要性、機構定員、予算面での努力。

二 領事体制
 海外安全対策の強化(渡航情報及び退避関連情報の見直し)など。





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平成十年四月一日現在


我が国のこどもの数(十五歳未満人口)


―「こどもの日」にちなんで―


総 務 庁


 総務庁統計局では、五月五日の「こどもの日」にちなんで、我が国のこどもの数(十五歳未満人口)について公表した。その概要は次のとおりである。

一 こどもの数は一千九百十八万人、総人口の一五・二%、前年に引き続き、戦後最低を更新

 平成十年四月一日現在のこどもの数(十五歳未満人口。以下同じ。)は一千九百十八万人で、前年より三十三万人減少した。男女別では、男子が九百八十三万人、女子が九百三十六万人で、女子百人に対する男子の数(性比)は一〇五・〇となっている。
 総人口に占めるこどもの割合は一五・二%で、前年より〇・三ポイント低下した(第1表参照)。
 こどもの数を未就学の乳幼児(〇〜五歳)、小学生の年代(六〜十一歳)、中学生の年代(十二〜十四歳)でみると、それぞれ七百十五万人(総人口の五・七%)、七百六十六万人(同六・一%)、四百三十八万人(同三・五%)となっている(第2表参照)。
 これを年齢三歳階級別にみると、〇〜二歳が三百五十七万人(総人口の二・八%)、三〜五歳が三百五十八万人(同二・八%)、小学校低学年の六〜八歳が三百六十七万人(同二・九%)、小学校高学年の九〜十一歳が三百九十九万人(同三・二%)、中学生の十二〜十四歳が四百三十八万人(同三・五%)となっており、年齢階級が下がるほどこどもの数は少なくなる傾向にある(第2表第1図参照)。

二 こどもの割合は年々低下

 こどもの割合は、第一次ベビーブーム期(昭和二十二年〜二十四年)後の出生児数の減少を反映して昭和二十年代後半から低下し、三十一年には三二・六%と三分の一を、四十一年には二四・八%と四分の一を下回った。
 その後、こどもの割合は、昭和四十年代後半には、第二次ベビーブーム期(昭和四十六年〜四十九年)の出生児数の増加によりわずかに上昇したものの、五十年代に入って再び低下し、六十三年には一九・五%と五分の一を下回り、その後も低下が続いている(第2図第3図付表1参照)。

三 こどもの割合は沖縄県が最高

 こどもの割合(平成九年十月一日現在推計)を都道府県別にみると、沖縄県(出生率が全国で最高)が二一・〇%で最も高く、東京都が一二・七%で最も低くなっており、その他の道府県は一四〜一七%台となっている。なお、こどもの割合が全国平均(一五・三%)よりも低いのは、十二都道府県となっている(第4図参照)。
 平成八年と比較すると、近年における出生率の低下傾向を反映して、東京都以外の四十六道府県でこどもの割合は低下している。低下幅が大きいのは、長崎県、宮崎県及び沖縄県の〇・六ポイント、岩手県、宮城県、静岡県及び鹿児島県の〇・五ポイントの低下となっており、低下幅が小さいのは東京都の〇・〇ポイント、神奈川県、愛知県、京都府及び大阪府の〇・一ポイントの低下と都道府県間で差がみられる(付表2参照)。

四 こどもの割合は諸外国に比べ低水準

 我が国のこどもの割合を諸外国と比較すると、調査年次に相違はあるものの、イタリアに次いで低い水準となっている。
 なお、人口増加の著しいインド、インドネシア、ブラジルでは、それぞれ三五・二%、三三・九%、三二・二%と、我が国の二倍以上の高い水準にある(第3表参照)。


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二月の雇用・失業の動向


―労働力調査 平成十年二月分結果の概要


総 務 庁


◇就業状態別の動向

 平成十年二月の十五歳以上人口は、一億六百九十九万人(男子:五千百九十五万人、女子:五千五百三万人)となっている。
 これを就業状態別にみると、労働力人口(就業者と完全失業者の合計)は六千六百五十七万人、非労働力人口は四千三十五万人で、前年同月に比べそれぞれ十万人(〇・二%)増、六十二万人(一・六%)増となっている。
 また、労働力人口のうち、就業者は六千四百十一万人、完全失業者は二百四十六万人で、前年同月に比べそれぞれ七万人(〇・一%)減、十六万人(七・〇%)増となっている。

◇就業者

 (一) 就業者
 就業者数は六千四百十一万人で、前年同月に比べ七万人(〇・一%)減と、平成八年二月以来二年ぶりに減少となっている。男女別にみると、男子は三千八百十九万人、女子は二千五百九十二万人で、前年同月と比べると、男子は十八万人(〇・五%)の減少、女子は十一万人(〇・四%)の増加となっている。
 (二) 従業上の地位
 就業者数を従業上の地位別にみると、雇用者は五千三百五十五万人、自営業主・家族従業者は一千四十一万人となっている。前年同月と比べると、雇用者は四万人(〇・一%)減と、平成七年五月以来二年九か月ぶりに減少となっている。また、自営業主・家族従業者は二万人(〇・二%)の減少となっている。
 雇用者のうち、非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○非農林業雇用者…五千三百二十二万人で、十万人(〇・二%)減少
 ○常 雇…四千七百十四万人で、三十四万人(〇・七%)減少
 ○臨時雇…四百八十六万人で、二十一万人(四・五%)増加
 ○日 雇…百二十三万人で、四万人(三・四%)増加
 (三) 産 業
 主な産業別就業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○農林業…二百四十四万人で、一万人(〇・四%)増加
○建設業…六百六十八万人で、十四万人(二・一%)減少
○製造業…一千三百九十二万人で、六十四万人(四・四%)減少
○運輸・通信業…四百一万人で、四万人(一・〇%)減少
○卸売・小売業、飲食店…一千四百五十六万人で、十九万人(一・三%)増加
○サービス業…一千六百七十万人で、六十万人(三・七%)増加
 対前年同月増減をみると、「卸売・小売業、飲食店」及びサービス業は前月(それぞれ二十二万人増、七十一万人増)に比べ増加幅が縮小している。農林業は前月の二万人減から増加となっている。
 一方、運輸・通信業は前月(十一万人減)に比べ減少幅が縮小している。建設業及び製造業は前月(それぞれ五万人減、四十五万人減)に比べ減少幅が拡大している。
 また、主な産業別雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○建設業…五百五十五万人で、七万人(一・二%)減少
○製造業…一千二百六十九万人で、四十七万人(三・六%)減少
○運輸・通信業…三百七十九万人で、三万人(〇・八%)減少
○卸売・小売業、飲食店…一千百六十八万人で、十七万人(一・五%)増加
○サービス業…一千四百十九万人で、三十三万人(二・四%)増加
 対前年同月増減をみると、「卸売・小売業、飲食店」は前月(十六万人増)に比べ増加幅が拡大している。サービス業は前月(五十四万人増)に比べ増加幅が縮小している。
 一方、建設業及び運輸・通信業は前月(それぞれ十六万人減、十一万人減)に比べ減少幅が縮小している。製造業は前月(三十万人減)に比べ減少幅が拡大している。
 (四) 従業者階級
 企業の従業者階級別非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○一〜二十九人規模…一千七百四十三万人で、十四万人(〇・八%)増加
○三十〜四百九十九人規模…一千七百二十七万人で、四十四万人(二・五%)減少
○五百人以上規模…一千二百七十一万人で、十四万人(一・一%)増加
 (五) 就業時間
 非農林業の従業者(就業者から休業者を除いた者)一人当たりの平均週間就業時間は四三・〇時間で、前年同月に比べ〇・八時間の減少となっている。
 このうち、非農林業雇用者についてみると、男子は四七・二時間、女子は三六・八時間で、前年同月に比べ男子は〇・六時間の減少、女子は〇・九時間の減少となっている。
 また、非農林業の従業者の総投下労働量は、延べ週間就業時間(平均週間就業時間×従業者総数)で二六・〇二億時間となっており、前年同月に比べ〇・五二億時間(二・〇%)の減少となっている。
 (六) 転職希望者
 就業者(六千四百十一万人)のうち、転職を希望している者(転職希望者)は六百九万人で、このうち実際に求職活動を行っている者は二百四十六万人となっており、前年同月に比べそれぞれ二十八万人(四・八%)増、十万人(四・二%)増となっている。
 また、就業者に占める転職希望者の割合(転職希望者比率)は九・五%で、前年同月に比べ〇・四ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男子は九・二%、女子は九・九%で、前年同月に比べ男子は〇・二ポイントの上昇、女子は〇・八ポイントの上昇となっている。

◇完全失業者

 (一) 完全失業者
 完全失業者数は二百四十六万人で、前年同月に比べ十六万人(七・〇%)増加し、比較可能な昭和二十八年以降で最多となっている。男女別にみると、男子は百五十一万人、女子は九十五万人で、前年同月に比べ男子は十六万人(一一・九%)の増加、女子は一万人(一・一%)の増加となっている。
 また、求職理由別完全失業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○非自発的な離職による者…六十九万人で、十六万人増加
○自発的な離職による者…九十万人で、四万人減少
○学卒未就職者…十万人で、一万人増加
○その他の者…七十万人で、十二万人増加
 (二) 完全失業率(原数値)
 完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)は三・七%で、前年同月に比べ〇・二ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男子は三・八%、女子は三・五%で、前年同月に比べ男子は〇・四ポイントの上昇、女子は同率となっている。
 また、年齢階級別完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 〔男女計〕
○十五〜二十四歳……七・三%で、〇・五ポイント上昇
○二十五〜三十四歳…四・二%で、〇・二ポイント上昇
○三十五〜四十四歳…二・五%で、〇・二ポイント上昇
○四十五〜五十四歳…二・一%で、〇・一ポイント低下
○五十五〜六十四歳…四・八%で、〇・六ポイント上昇
○六十五歳以上………二・〇%で、〇・四ポイント上昇
 〔男 子〕
○十五〜二十四歳……七・九%で、一・一ポイント上昇
○二十五〜三十四歳…三・六%で、〇・二ポイント上昇
○三十五〜四十四歳…二・三%で、前年同月と同率
○四十五〜五十四歳…二・二%で、〇・一ポイント上昇
○五十五〜六十四歳…六・二%で、一・二ポイント上昇
○六十五歳以上………二・八%で、〇・六ポイント上昇
 〔女 子〕
○十五〜二十四歳……六・八%で、〇・二ポイント上昇
○二十五〜三十四歳…五・〇%で、前年同月と同率
○三十五〜四十四歳…二・七%で、〇・二ポイント上昇
○四十五〜五十四歳…二・二%で、〇・三ポイント低下
○五十五〜六十四歳…二・八%で、〇・一ポイント低下
○六十五歳以上………〇・六%で、〇・一ポイント低下
 (三) 完全失業率(季節調整値)
 季節調整値でみた完全失業率は三・六%で、前月に比べ〇・一ポイント上昇し、比較可能な昭和二十八年以降で最高となっている。男女別にみると、男子は三・七%、女子は三・四%で、前月に比べ男子は同率、女子は〇・二ポイントの上昇となっている。





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月例経済報告(五月報告)


経 済 企 画 庁


概 観

 我が国経済
 需要面をみると、個人消費は、昨年末の落ち込みからは下げ止まる動きもみられるものの、雇用者所得の低迷もあって、低調に推移している。住宅建設は、このところおおむね横ばいで推移しているものの、依然その水準は低い。設備投資は、弱含んでいる。
 産業面をみると、最終需要が停滞していることを背景に、在庫は高水準にあり、鉱工業生産は、減少傾向にある。企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、一層厳しさが増している。
 雇用情勢をみると、雇用者数が減少し、完全失業率が既往最高となるなど更に厳しさが増している。
 輸出は、アジア向けが減少していることから、このところ頭打ちとなっている。輸入は、おおむね横ばいで推移している。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、輸入物価の下落もあって、増加傾向にある。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、四月は、月初の百三十三円台から一時百二十八円台まで上昇したが、その後下落し、百三十二円台となった。
 物価の動向をみると、国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。また、消費者物価は、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、四月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、四月は月初にやや上昇した後、やや低下した。株式相場は、四月は下落した。マネーサプライ(M2+CD)は、三月は前年同月比四・五%増となった。
 海外経済
 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大している。実質GDPは、九七年十〜十二月期前期比年率三・七%増の後、九八年一〜三月期は同四・二%増(暫定値)となった。個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)はこのところ伸びに鈍化がみられる。雇用は拡大している。物価は安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、このところ拡大している。四月の長期金利(三十年物国債)は、月初に低下したが、その後は総じて上昇した。四月の株価(ダウ平均)は、上旬から中旬は総じて上昇し、二十一日に最高値を更新したが、その後は下落した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は回復しており、フランスでは、景気は拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポは緩やかになってきている。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは拡大しており、イギリスでは鈍化している。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準で推移しているが、イギリスでは低下している。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスではこのところ安定してきている。なお、欧州連合(EU)では五月三日に、九九年一月から開始される通貨統合への当初参加国が正式に決定された。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は、安定している。貿易収支は、大幅な黒字が続いている。韓国では、景気は後退している。失業率は、大幅に上昇している。物価は、高騰している。貿易収支黒字は、拡大している。
 国際金融市場の四月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、上旬に減価した後、ほぼ横ばいで推移した。
 国際商品市況の四月の動きをみると、初旬やや強含んだが、全体ではおおむね横ばいでの推移となった。四月の原油スポット価格(北海ブレント)は、上旬にかけて弱含んだが、その後イラクが国連の経済制裁解除を求めて牽制したことなどから、中旬から下旬にかけては強含んだ。

*     *     *

 我が国経済の最近の動向をみると、輸出は、アジア向けが減少していることから、このところ頭打ちとなっている。設備投資は、弱含んでいる。個人消費は、昨年末の落ち込みからは下げ止まる動きもみられるものの、雇用者所得の低迷もあって、低調に推移している。住宅建設は、このところおおむね横ばいで推移しているものの、依然その水準は低い。このように最終需要が停滞していることを背景に、在庫は高水準にあり、生産は減少傾向にある。雇用情勢をみると、雇用者数が減少し、完全失業率が既往最高となるなど更に厳しさが増している。また、民間金融機関において貸出態度に慎重さがみられる。以上のように、昨年末以来の経済の先行きに対する著しい不透明感には落ち着く兆しもみられるものの、最終需要の停滞の影響が生産や雇用等実体経済全体にまで及んでおり、景気は停滞し、一層厳しさを増している。
 このような厳しい経済の現況に対応し、政府は、四月二十四日、総事業費十六兆円超の過去最大規模の「総合経済対策」を決定したところであり、その着実な実施を図ることとする。

1 国内需要
―個人消費は、昨年末の落ち込みからは下げ止まる動きもみられるものの、雇用者所得の低迷もあって、低調に推移―

 個人消費は、昨年末の落ち込みからは下げ止まる動きもみられるものの、雇用者所得の低迷もあって、低調に推移している。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で二月四・五%減の後、三月は五・七%減(前月比三・八%増)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比五・七%減、勤労者以外の世帯では同六・〇%減となった。形態別にみると、商品、サービスともに減少となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比五・八%減、勤労者世帯では同五・六%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で十二月三・四%減となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で二月六・七%減の後、三月は一三・八%減(前月比〇・二%増)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で二月五・四%減の後、三月一八・三%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で二月五・〇%減の後、三月一〇・七%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で四月は二・九%減となった。また、家電小売金額は、前年同月比で三月は二五・三%減となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、三月は前年同月比で国内旅行が二・八%減、海外旅行は一四・八%減となった。
 当庁「消費動向調査」(三月調査)によると、消費者態度指数は、十二月に前期差四・五ポイント低下の後、三月には同一・九ポイントの上昇となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で二月〇・一%減の後、三月(速報)は〇・八%増(事業所規模三十人以上では同〇・八%増)となり、うち所定外給与は、三月(速報)は同六・三%減(事業所規模三十人以上では同七・〇%減)となった。実質賃金は、前年同月比で二月二・〇%減の後、三月(速報)は一・五%減(事業所規模三十人以上では同一・五%減)となった。
 住宅建設は、このところおおむね横ばいで推移しているものの、依然その水準は低い。
 新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で二月一・八%増(前年同月比一三・六%減)となった後、三月は一・三%減(前年同月比一一・九%減)の十万九千戸(年率百三十一万戸)となった。三月の着工床面積(季節調整値)は、前月比〇・二%減(前年同月比一二・五%減)となった。三月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比五・八%増(前年同月比一一・四%減)、貸家は同一・五%減(同一五・二%減)、分譲住宅は同四・一%減(同一〇・四%減)となっている。
 設備投資は、弱含んでいる。
 当庁「法人企業動向調査」(三月調査)により設備投資の動向をみると、全産業の設備投資は、前期比で九年十〜十二月期(実績)二・八%減(うち製造業四・四%増、非製造業五・八%減)の後、十年一〜三月期(実績見込み)は三・〇%減(同一・四%減、同四・五%減)となっている。また、十年四〜六月期(修正計画)は、前期比で一・五%減(うち製造業〇・二%減、非製造業二・三%減)、十年七〜九月期(計画)は一・六%増(同〇・四%増、同二・三%増)と見込まれている。
 なお、年度計画では、前年度比で九年度(実績見込み)〇・九%増(うち製造業八・〇%増、非製造業二・六%減)の後、十年度(計画)は四・五%減(同七・一%減、同三・〇%減)となっている。
 先行指標の動きをみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前月比で一月は一三・八%増(前年同月比四・七%減)の後、二月は一四・八%減(同一七・九%減)となり、全体として弱含みで推移している。民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、おおむね横ばいで推移しており、前月比で二月〇・一%増の後、三月は四・二%増(前年同月比二・五%減)となった。内訳をみると、製造業は前月比五・八%減(前年同月比一一・五%増)、非製造業は同七・六%増(同五・五%減)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資については、着工総工事費は、前年同月比で一月一九・〇%減の後、二月は一一・八%増となった。公共工事請負金額は、前年同月比で二月四・二%増の後、三月は五・八%減となった。官公庁からの建設工事受注額(五十社)は、前年同月比で二月六・一%減の後、三月は六・〇%減となった。

2 生産雇用
―雇用者数が減少し、完全失業率が既往最高となるなど更に厳しさが増す雇用情勢―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、在庫は高水準にあり、生産・出荷は、減少傾向にある。
 鉱工業生産は、前月比で二月三・九%減の後、三月(速報)は、金属製品、パルプ・紙・紙加工品が増加したものの、輸送機械、一般機械等が減少したことから、一・九%減となった。また製造工業生産予測指数は、前月比で四月は機械、鉄鋼等により二・五%減の後、五月は機械、化学等により一・二%増となっている。鉱工業出荷は、前月比で二月四・二%減の後、三月(速報)は、建設財が増加したものの、資本財、生産財等が減少したことから、一・八%減となった。鉱工業生産者製品在庫は、前月比で二月〇・七%増の後、三月(速報)は、輸送機械、精密機械等が増加したものの、電気機械、鉄鋼等が減少したことから、〇・四%減となった。また、三月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数は一二九・〇と前月を一・〇ポイント上回った。
 主な業種について最近の動きをみると、輸送機械では、生産は二か月連続で減少し、在庫は三か月連続で増加した。一般機械では、生産は二か月連続で減少し、在庫は三月は減少した。鉄鋼では、生産は二か月連続で減少し、在庫は三月は減少した。
 雇用情勢をみると、雇用者数が減少し、完全失業率が既往最高となるなど更に厳しさが増している。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、二月〇・六一倍の後、三月〇・五八倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、二月一・〇〇倍の後、三月〇・九二倍となった。雇用者数は、減少している。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、三月は前年同月比〇・一%減(前年同月差六万人減)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、二月前年同月比〇・七%増(季節調整済前月比〇・一%増)の後、三月(速報)は同〇・五%増(同〇・一%減)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比〇・一%減)、産業別には製造業では同〇・八%減となった。三月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差二十万人増の二百六十四万人、完全失業率(同)は、二月三・六%の後、三月三・九%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では二月前年同月比一〇・三%減(季節調整済前月比五・八%減)の後、三月(速報)は同一四・六%減(同四・二%減)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比一四・八%減)。
 企業の動向をみると、企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、一層厳しさが増している。
 大企業の動向を前記「法人企業動向調査」(三月調査、季節調整値)でみると、売上高、経常利益の見通し(ともに「増加」−「減少」)は、十年四〜六月期は「減少」超幅が拡大した。また、企業経営者の景気見通し(業界景気の見通し、「上昇」−「下降」)は十年四〜六月期は「下降」超幅が拡大した。
 また、中小企業の動向を中小企業金融公庫「中小企業動向調査」(三月調査、季節調整値)でみると、売上げD.I.(「増加」−「減少」)は、十年一〜三月期は「減少」超幅が拡大し、純益率D.I.(「上昇」−「低下」)は、「低下」超幅が拡大した。業況判断D.I.(「好転」−「悪化」)は、十年一〜三月期は「悪化」超幅が拡大した。
 企業倒産の状況をみると、件数は、このところ前年の水準を大きく上回る傾向にある。
 銀行取引停止処分者件数は、三月は一千二百八十六件で前年同月比二七・二%増となった。業種別に件数の前年同月比をみると、建設業で四四・七%、卸売業で一七・八%の増加となった。

3 国際収支
―輸出は、アジア向けが減少していることから、このところ頭打ち―

 輸出は、アジア向けが減少していることから、このところ頭打ちとなっている。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で二月三・六%減の後、三月は四・四%減(前年同月比一・四%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、一般機械、電気機器等は減少したものの、輸送用機器等が増加した。同じく地域別にみると、アジアは減少しているが、アメリカ、EU等が増加した。
 輸入は、おおむね横ばいで推移している。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で二月一二・五%減の後、三月は六・一%増(前年同月比〇・六%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、鉱物性燃料等は減少したものの、製品類(機械機器)等は増加した。同じく地域別にみると、中東、アジア等が減少したものの、EU等は増加した。
 通関収支差(季節調整値)は、二月に一兆一千五百五十五億円の黒字の後、三月は九千五億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、輸入物価の下落もあって、増加傾向にある。
 二月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、貿易収支の黒字幅が拡大し、サービス収支の赤字幅が縮小したため、その黒字幅は拡大し、一兆二百十六億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、貿易・サービス収支の黒字幅が拡大したことに加え、所得収支の黒字幅が拡大し、経常移転収支の赤字幅も縮小したため、その黒字幅は拡大し、一兆五千六百四十四億円となった。投資収支(原数値)は、一兆一千九百九十四億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、一兆二千三百三十六億円の赤字となった。
 四月末の外貨準備高は、前月比百七十八億ドル減少して二千五十八億ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、四月は、月初の百三十三円台から一時百二十八円台まで上昇したが、その後下落し、百三十二円台となった。一方、対マルク相場(インターバンク十七時時点)は、四月は、月初の七十二円台から一時七十円台まで上昇したが、その後下落し、七十三円台となった。

4 物 価
―国内卸売物価は、弱含みで推移―

 国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。
 三月の国内卸売物価は、非鉄金属(銅地金)等が上昇したものの、石油・石炭製品(燃料油)等が下落したことから、前月比〇・四%の下落(前年同月比〇・一%の下落)となった。輸出物価は、契約通貨ベースで下落したものの、円安から円ベースでは前月比〇・七%の上昇(前年同月比〇・八%の下落)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで下落したことから、円ベースでは前月比〇・八%の下落(前年同月比八・二%の下落)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比〇・三%の下落(前年同月比一・一%の下落)となった。
 四月上中旬の動きを前旬比でみると、国内卸売物価は上旬が〇・一%の下落、中旬が保合い、輸出物価は上旬が一・五%の上昇、中旬が一・三%の下落、輸入物価は上旬が〇・七%の上昇、中旬が〇・九%の下落、総合卸売物価は上旬が〇・三%の上昇、中旬が〇・三%の下落となっている。
 企業向けサービス価格は、三月は前年同月比一・七%の上昇(前月比〇・三%の上昇)となった。
 商品市況(月末対比)は非鉄等は上昇したものの、木材等の下落により四月は下落した。四月の動きを品目別にみると、銅地金等は上昇したものの、合板等が下落した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で二月一・八%の上昇の後、三月は公共料金(広義)の上昇幅の拡大等の一方、石油製品の下落幅の拡大等があり一・八%の上昇(前月比〇・三%の上昇)となった。なお、総合は、前年同月比で二月一・九%の上昇の後、三月は二・二%の上昇(前月比〇・四%の上昇)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で三月一・七%の上昇の後、四月(中旬速報値)は消費税要因のはく落等により〇・五%の上昇(前月比〇・三%の上昇)となった。なお、総合は、前年同月比で三月二・二%の上昇の後、四月(中旬速報値)は〇・七%の上昇(前月比〇・二%の上昇)となった。

5 金融財政
―株式相場は、下落―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、四月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、四月は月初にやや上昇した後、やや低下した。株式相場は、四月は下落した。マネーサプライ(M2+CD)は、三月は前年同月比四・五%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレート、二、三か月物ともに、四月はおおむね横ばいで推移した。
 公社債市場をみると、国債流通利回りは、四月は月初にやや上昇した後、やや低下した。なお、国債指標銘柄流通利回り(東証終値)は四月二十八日に一・四五五%となり、史上最低を更新した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、三月は短期は〇・〇五〇%低下し、長期は〇・〇九三%低下したことから、総合では前月比で〇・〇二三%低下し一・八七五%となった。
 マネーサプライ(M2+CD)の月中平均残高を前年同月比でみると、三月(速報)は四・五%増となった。また、広義流動性でみると、三月(速報)は三・〇%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関の貸出平残(全国銀行)は、三月(速報)は前年同月比一・六%減となった。四月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債が三百億円となった。また、四月の国内公募事業債の起債実績は一兆七百七十九億円となった。
 民間金融機関において貸出態度に慎重さがみられる。
 株式市場をみると、日経平均株価は、四月は下落した。

6 海外経済
―欧州連合(EU)、通貨統合の当初参加国決定―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大している。実質GDPは、九七年十〜十二月期前期比年率三・七%増の後、九八年一〜三月期は同四・二%増(暫定値)となった。個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)はこのところ伸びに鈍化がみられる。雇用は拡大している。雇用者数(非農業事業所)は二月前月差二十五万二千人増の後、三月は同三万六千人減となった。失業率は三月四・七%となった。物価は安定している。三月の消費者物価は前月比横ばい、三月の生産者物価(完成財総合)は同〇・三%の下落となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、このところ拡大している。四月の長期金利(三十年物国債)は、月初に低下したが、その後は総じて上昇した。四月の株価(ダウ平均)は、上旬から中旬は総じて上昇し、二十一日に最高値を更新したが、その後は下落した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は回復しており、フランスでは、景気は拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポは緩やかになってきている。実質GDPは、ドイツ十〜十二月期前期比年率一・一%増、フランス同三・一%増、イギリス一〜三月期同一・八%増となった。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは拡大しており、イギリスでは鈍化している(鉱工業生産は、ドイツ三月前月比一・〇%減、フランス二月同〇・七%増、イギリス二月同〇・六%減)。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準で推移しているが、イギリスでは低下している(三月の失業率は、ドイツ一一・五%、フランス一二・〇%、イギリス四・九%)。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスではこのところ安定してきている(三月の消費者物価上昇率は、ドイツ前年同月比一・一%、フランス同〇・八%、イギリス同三・五%)。なお、欧州連合(EU)では五月三日に、九九年一月から開始される通貨統合への当初参加国が正式に決定された。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は、安定している。貿易収支は、大幅な黒字が続いている。韓国では、景気は後退している。失業率は、大幅に上昇している。物価は、高騰している。貿易収支黒字は、拡大している。
 国際金融市場の四月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、上旬に減価した後、ほぼ横ばいで推移した(モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)四月三十日一一〇・三、三月末比〇・九%の減価)。内訳をみると、四月三十日現在、対円では三月末比〇・三%減価、対マルクでは同二・八%減価した。
 国際商品市況の四月の動きをみると、初旬やや強含んだが、全体ではおおむね横ばいでの推移となった。四月の原油スポット価格(北海ブレント)は、上旬にかけて弱含んだが、その後イラクが国連の経済制裁解除を求めて牽制したことなどから、中旬から下旬にかけては強含んだ。


 
    <6月3日号の主な予定>
 
 ▽中小企業白書のあらまし…………中小企業庁 

 ▽家計収支……………………………総 務 庁 
 



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