官報資料版 平成1017





土地白書のあらまし


―平成9年度 土地の動向に関する年次報告―


国 土 庁


 土地白書は、土地基本法第十条の規定に基づき、「土地に関する動向及び土地に関して講じた基本的な施策」及び「土地に関して講じようとする基本的な施策」について、政府が、毎年、国会に対して報告を行うものであり、本年は五月十五日に閣議決定の上、国会に報告した。
 土地白書は、例年同様三部構成となっており、第一部「土地に関する動向」では、まず、密集市街地、低・未利用地の存在等の土地利用上の問題や、最近の土地取引の低調な状況を踏まえ、土地の有効利用の促進と土地取引の活性化に向けた課題の指摘を行っている。特に、都市部の低・未利用地について、その有効利用の実現を図るため、阻害要因を分析し、零細な敷地の集約化、基盤整備等の必要性を指摘するとともに、都市・地方を通じ豊かで活力ある地域づくりを行うため、土地利用計画づくりの必要性等を指摘している。
 さらに、土地の有効利用の促進を中心とする新しい土地政策の推進状況を記述している。具体的には、新総合土地政策推進要綱や、「土地の有効利用促進のための検討会議」の提言等を踏まえて実施された諸施策として、土地税制の見直しのほか、不動産の証券化、国土利用計画法の改正等の各般の施策について紹介している。
 このほか、土地の利用、所有、取引の動向や地価の動向についても最新の状況を紹介している。  また、土地に関する施策は、第二部「平成九年度において土地に関して講じた基本的な施策」及び「平成十年度において土地に関して講じようとする基本的な施策」において紹介している。
 以下、第一部の概要について紹介する。

T 土地の動向

<第1章> 土地利用の動向

 平成八年の国土面積は約三千七百七十八万ヘクタールであり、うち、森林二千五百十三万ヘクタール(六七%)、農用地五百八万ヘクタール(一三%)、住宅地・工業用地等の宅地百七十二万ヘクタール(五%)となっている。
 農用地面積は減少傾向にあり、一方、宅地面積は逐年増加している(第1表参照)。
 また、平成八年の土地利用転換面積は、四万四百ヘクタールとなっている。

<第2章> 土地所有・取引の動向

一 土地所有の動向
 個人の占める割合が圧倒的に高いが、法人の土地所有の割合が近年穏やかではあるが高くなる傾向にある。

二 土地取引の概況
 (一) 土地の売買件数の推移
 土地の売買件数は、長期的には減少傾向にあるが、近年、大都市圏、特に東京圏においては旺盛な住宅需要に支えられ、平成五年から四年連続して増加した。しかし、平成九年に入ってからは、地方圏を中心に土地取引は低調に推移している(第1図参照)。
 (二) 土地取引面積の動向
 昭和六十二年以来増加を続けた土地取引面積は、平成二年の二十三万九千ヘクタールを境に三年連続して減少し、平成六年からやや増加に転じているものの、平成八年においても十六万六千ヘクタールにとどまっている。
 (三) 土地取引金額の動向
 国土庁が推計した土地購入金額は、平成二年には五十九兆三千億円であったものが、地価の下落、取引面積の減少等から、平成七年には三十四兆円まで減少した。平成八年には取引面積の増加等により三十四兆五千億円となっている。

<第3章> 地価の動向

一 平成十年地価公示にみる平成九年の地価動向
 平成九年一年間の全国の地価の状況を概観すると、大都市圏では、住宅地はほぼ横ばいとなっており、商業地は一割以上の下落が六年連続していたが、今回は一割未満の下落となっている。
 地方圏では、住宅地は横ばい、商業地は六年連続して一割未満の下落となっている。
 年間の変動率は、全国の住宅地は△一・四%(前年△一・六%)、商業地は△六・一%(前年△七・八%)となった(第2表参照)。

二 大都市圏の地価動向の特徴とその要因
 住宅地はほとんどの地域で下落幅が縮小し、特に東京都区部都心部において、前年△七・八%から△二・六%へと、大阪市中心六区において、前年△六・四%から△二・八%へと、下落幅が著しく縮小した。
 商業地は、ほとんどの地域で下落幅が縮小した。特に、東京都区部都心部において、△一七・一%から△六・九%へと下落幅が著しく縮小し、東京駅周辺・銀座地区、新宿地区等の高度商業地において、東京都内では七年振りとなる地価上昇地点が現れた。
 この要因としては、東京駅周辺・銀座地区では、ビルの新規供給の減少等による低い空室率、オフィス賃料の横ばい傾向の中で、高度商業地としての収益性や立地条件から、国内優良企業、外国企業等による根強い需要が存在すること、また新宿地区では、百貨店の出店効果、地下鉄の開通等により商圏が拡大傾向にあることから、駅から至近距離にあって主要街路に面する等により、顧客の増加が見込まれるようになったことなどが挙げられる。

<第4章> 土地に関する指標の動向

<公示地価と名目国内総生産の推移>
 近年の地価高騰前の昭和五十八年を基準に、公示地価と名目国内総生産の指数の推移を比較すると、平成六年から七年にかけて、公示地価が名目国内総生産の増加を超えて上昇していた部分が解消し、名目国内総生産の増加分が公示地価の上昇分を上回るようになっている。
<住宅市場の動向>
 住宅地の地価は、大都市圏で新規に購入するに際しては、住宅の規模、立地等の質の面からはまだ高い水準にあると考えられるものの、東京圏の新規分譲マンション価格に対する年収倍率(七十平方メートル換算)をみると、平成九年には前年、前々年と同じ五・一倍となっている(第2図参照)。
 東京圏で新規に供給されたマンションの立地を都心までの時間圏(東京駅までの最短所要時間)でみると、最近、郊外から都心部への回帰傾向がみられる。
<我が国における土地資産の動向>
 平成八年末の我が国の国民総資産は七千三百九十一兆円(前年比一・七%増)であり、土地資産は、このうち二三・五%に当たる一千七百四十兆円(前年比一・九%減)となっており、金融資産(四千二百五十一兆円)に次ぐ大きさとなっている。

U 我が国社会経済と土地問題

<第5章> 土地をめぐる状況の変化と今後の課題

<第1節> 我が国の土地に関する現在の諸問題と将来の課題

一 土地に関して現在直面している諸問題
 (一) 土地利用における問題点
<密集市街地>
 大都市や地方中枢都市等では、高度成長期等に形成された密集市街地が広範囲に存在しているが、これらの地域は木造建築物が高密度に立ち並び、狭隘な道路も多く、防災上危険な市街地となっている場合も多い。
 東京都の調査によると、東京都区部等の木造密集地の面積は四千三百七十一ヘクタール(区部等の面積の五・五%)であるが、高齢者が多く、人口・世帯とも密度が高い地区となっており、これらの地域を防災上安全なまちにつくり変えることは喫緊の課題となっている。
<低・未利用地>
 バブル後、開発を途中で断念したままの土地は、多くが小規模や不整形、多数の債権者が存在する等の状況にあることもあり、空き地や駐車場として低・未利用な状態となっているなど、市街地の再編や街区の有効利用を進めていく上で大きな支障となっている。
 これらの土地を含め、東京都区部における低・未利用地は、平成三年で五千六百二十二ヘクタールと見込まれる。
 東京都心部では人口の空洞化も社会問題となっており、都心居住の実現を目指し、良好な環境を備えた新しい都心市街地としての再編が強く要請されている。
<工場跡地等>
 昭和六十年以降の十年間に首都圏で八百ヘクタール、中部圏で百七十ヘクタール、近畿圏で七十五ヘクタール、その他の地域で二百六十八ヘクタールの合わせて一千三百十三ヘクタールの工場跡地が確認されているが、その有効活用は十分にはなされていない。
 東京都の調査では、低・未利用地は東京湾臨海部及び区部東部に多く分布しているが、特に臨海部では大規模な低・未利用地が存在しており、これらの多くは、工場等の跡地であると考えられる。
 これらの低・未利用地は、大都市圏の都心部から周辺にかけてまとまった形で残っており、有効に活用することの意義は非常に大きいと考えられる。
<都市近郊における土地利用上の問題>
 都市近郊においては、道路等の基盤の未整備な状況の下での宅地化の進行や、混在化の進展等により、土地利用上の様々な問題が発生している。
 国土庁の調査では、約五五%の市町村が市街化調整区域や農業振興地域の農用地区域以外の地域等で、土地利用上の問題が発生しているとしているが、このうち、市街化調整区域や、未線引き都市計画区域で用途地域以外の地域がある市町村では、約半数が土地利用のスプロール化によって、土地の集団性・一体性が失われるといった問題の発生又はそのおそれがあるとしている。
 これらの地域においては、住民の合意を得つつ、土地利用計画の樹立を図っていくことにより、適正な土地利用を確保し、良好な環境を実現していくことが課題である。
<地方都市の中心市街地の空洞化>
 地方都市では、大型商業施設や文化・福祉施設の郊外立地が進み、中心市街地において人口の減少、空店舗の増加等の問題が発生し、市街地の衰退・空洞化が進行している。
 これらの中心市街地については、地域の個性を生かしながら、その地区の再活性化を見据えた土地利用の調整を図ることが重要である。
<農山村における土地利用上の問題>
 農山村地域においては、人口の減少、高齢化の進展等により、耕作放棄地や不在村者所有森林が増加するなど、地域の活力が失われている状況がみられる。
 こうした地域においては、地域としての振興・活性化を図ることが重要であり、産業の振興や、住民の生活環境の整備等を図るために、土地利用においても適切に対処していくことが課題となっている。
 (二) 土地取引における問題点
<土地取引の動向>
 土地取引の件数は、長期的に減少傾向にあり、平成九年に入ってからは、地方圏を中心として土地取引は低調に推移している(第1図参照)。
 土地取引面積は、平成二年の二十三万九千ヘクタールを境に三年連続して減少し、平成八年においても十六万六千ヘクタールにとどまっている。
 国土庁が推計した土地購入金額は、平成二年には五十九兆三千億円であったが、地価の下落、取引件数の減少等から、平成八年には三十四兆五千億円となっている。
 全国の銀行の不動産・財団抵当貸付残高は、平成五年をピークに毎年減少しており、土地を担保とする融資が土地取引の状況を背景に抑制基調にあることがうかがえる。
<主体別の土地取引の動向>
 国土庁の調査では、取引の主体別の土地の購入面積は、平成三年には法人の割合が三九%であったものが、平成八年には三一%に減少しており、一方、個人の占める割合は四八%から五五%に高まっている。
 国土庁の推計した土地の購入金額の主体別割合でも、法人の割合が平成二年の四五・七%から平成八年には三二・五%に減少し、個人の割合が三八・四%から四二・六%に高まっており、個人に比べて法人の土地取引がより低調である状況がうかがえる。
 大蔵省「法人企業統計」によりその対象法人の土地投資額の推移をみると、平成三年度の十五兆一千億円をピークに三年連続して減少し、平成七年には若干増加したものの、平成八年には再び減少し四兆六千億円となっており、法人の土地取引が低調に推移していることがうかがえる。
<取得された土地の一定期間後の保有状況>
 国土庁の調査では、法人が五年前に購入した土地を全部所有している割合は、平成元年調査から平成七年調査までは、五〇〜五五%程度であったものが、平成九年の調査では六七%と高まっている。
 法人が所有し続けている土地の利用状況についてみると、近年、事務所・店舗の割合は減少し、他方、駐車場や未利用地の割合が高まっている。
 未利用地の割合は、販売用の土地において高まっており、今後、土地の有効利用の観点からも土地取引の活性化が期待される。

二 今後の社会経済環境の変化と土地に関し直面するであろう課題
 (一) 社会経済構造の変化
<少子化・高齢化による人口構造の変化>
 我が国の総人口は、平成十九年(二〇〇七年)に一億二千七百七十八万人でピークを迎え、その後減少に転じると予測される。また、経済成長に最も関係の深い生産年齢人口(十五〜六十四歳)は、平成七年の八千七百十六万人をピークに既に減少期に入っており、今後、急速に減少すると予測されている。
 このため、我が国全体としては、二十一世紀初頭以降には、経済成長率の低下と投資余力の減少が進行するものと見込まれ、今後、こうした厳しい投資環境の中で、大都市・地方ともに、公共投資の重点化・効率化が一段と強く要請されてくると考えられる。
 人口の社会移動の動向についてみると、都道府県間の転出入は、減少の傾向にあり、大都市圏における人口の増加は、かつてのように大きなものではなくなること等が予想される。
<経済活動のグローバル化>
 国際的にも経済活動の相互依存度が高まり、グローバル化がさらに進むことが見込まれる中、今後とも我が国経済の活力を維持していくためには、生産性の高い経済活動の場として、我が国の都市、地域の魅力を高めることが重要である。
 グローバル化の進展により、企業立地という土地利用の問題も、国内問題としての視点だけでは不十分であり、国際的な視野の中で捉えられる必要が高まってきている。
 今後、外資系企業の進出の増加も見込まれるが、国内の各分野においても、国際的な基準やルール(いわゆるグローバル・スタンダード)を取り入れる必要性が高まってくると考えられる。
<環境との共生>
 社会経済活動の地球規模での高度化・広域化に伴い、エネルギー等の供給制約や、温暖化等の地球環境問題が顕在化してきている。特に、二酸化炭素の排出量抑制は、産業や交通の総量を規定するものとして、環境への負荷の少ない経済社会システムの実現など、国土の在り方や生活水準を規定する重要な要素となる可能性がある。
 身近な生活においても、「生活の便利さ」と比較して「自然とのふれあい」を求める傾向が強くなっており、今後の国土づくりにおいても、自然環境の保全に力を入れるべきであるという意見が大きくなっているなど、身近な緑や水、空気等への関心に高まりがみられる。
 (二) 土地をめぐる環境の変化
<世帯数の動向と今後の住宅需要>
 我が国の世帯総数は、将来的には減少に転ずることが予想されるが、しばらくの間は増加傾向が続くものと見込まれる。中でも高齢者の単独世帯や夫婦世帯の増加が特に大きいと考えられる。
 住宅総数は、既に一九六〇年代後半には世帯総数を上回っており、また、今後の少子化に伴い、相続による持ち家取得の可能性も高まると見込まれている。
 住宅戸数のみについてみるとともかく、今後の住宅に対する需要は、今より一層、その立地、広さ、環境といった面に大きく移行することが考えられる。
 したがって、土地政策の上からは、今後、高齢者の世帯増など、世帯構造の変化に対応し、豊かでゆとりある暮らしを実現する上で、必要な住宅の質の向上を目指す住宅政策の展開に的確に応えていく必要がある。
<産業の動向と今後の土地需要>
 第一次産業及び第二次産業から第三次産業へのシフトがみられるが、他の先進諸国と比較すると、今後、さらにサービス産業へシフトする可能性がある。
 製造業では、基礎素材型産業、加工組立型産業を中心に、東京都等の大都市圏において工場面積の減少がみられるが、それ以外では増加が続いている。また、製造業では一九八〇年代後半から海外生産比率が上昇しており、一九九五年には、現地や第三国からの部品調達の増加等により、海外事業活動が国内生産や雇用にマイナスの影響を与えたものとみられている。
 今後、国内の特に大都市圏では、高付加価値型の産業の土地需要が伸び、基礎素材型産業などで土地需要が減少する可能性が考えられる。
<中長期的な土地需要の動向>
 住宅用地については、大都市圏等を除けば、住宅の戸数面での新たな需要拡大の可能性は必ずしも高くないと考えられる。また、今後さらにサービス産業のウェイトが高くなっても、用地需要が必ずしも大きく拡大することは考えにくくなっている。
 今後、量的には土地需要が大幅に拡大することは考えにくいものの、住宅・住環境の質的な向上を通じての土地需要の拡大や、世帯構造の変化への対応、産業面では企業の競争力を維持するための基盤整備やグローバル化への対応など、土地についても、より豊かな生活、活力ある経済活動を可能にする質の高い土地利用が求められてくるものと考えられる。

<第2節> 国民及び企業の土地に対する意識

一 国民及び企業の意識の動向
 国土庁が実施した国民及び企業の意識調査の結果からみることとする。
 (一) 地価動向に対する意識
 中長期的な地価動向について、国民の意識調査では「下落すること」が望ましいとする割合が四〇・二%、「上昇すること」が望ましいとする割合が一九・四%、「現在の水準で推移すること」が望ましいとする割合が三四・一%である(第3図参照)。
 企業では、「下落することが望ましい」とする割合が二二・三%であるのに対し、「上昇することが望ましい」とする割合が三四・二%、「現在の水準で推移することが望ましい」とする割合は四〇・九%である。特に、今回の調査では、上昇希望の割合が下落希望を大幅に上回る結果となっている(第4図参照)。
 (二) 土地資産の有利性に対する意識
 土地が預貯金や株式などに比べて有利な資産かについて、国民の意識では「そう思う」とする割合が四九・二%、「そうは思わない」とする割合は二九・四%となっているが、今回の調査では「そうは思わない」とする割合が、前回の調査の二二・九%に比べてかなり増加した。
 土地の担保価値の上昇を生かした資金調達や含み資産を背景とした設備投資等を内容とする、いわゆる含み益依存経営に対する企業の意識をみても、「改めるべき」とする割合が六一・一%と増加傾向にある。
 国民、企業のいずれも、近年は土地に偏重していた資産としての有利性の意識が薄れつつあることがうかがえる。
 (三) 土地の利活用等に関する意識
<企業の未利用地が未利用となっている理由>
 自社所有地のうち未利用の土地があるとする企業は二三・五%であるが、未利用としている主な理由をみると、次のようなものが挙げられている。
 @ 利用計画はあるが、まだその時期が来ていない(三〇・六%)
 A 事業等に利用しようとしても、事業の採算見込みがたたない(二八・五%)
 B 売却を検討したが、価格等の条件が合わない(二七・二%)
 C 当初から利用目的はなく、資産として所有していたい(二一・六%)
 D 利用に当たっての資金的な余裕がない(二〇・四%)
 今回の調査ではAとDの回答が増加しており、これにBの理由を加えると、企業が所有する未利用地のかなりの部分が、利用又は売却の意向がありながら、様々な事情によりその実現が難しくなりつつあり、資金手当ての円滑化などの土地取引の活性化や有効利用の促進策の強力な展開が期待されていると考えられる。
 なお、この調査結果では、いわゆる虫食いや不整形の土地で利用が難しいというのは、それほど大きな未利用の理由とはなっていない。
<企業の土地取引が進まない理由>
 土地の売却・購入の意志を持って検討を行っていた企業が、それに至らなかった事情をみると、売却側では「売却希望価格に対し、購入希望者の示す価格が低かったため」(五六・六%)、購入側では「事業の採算性を考えると、価格水準が依然として高いため」(三九・九%)などが多く挙げられ、売却・購入ともに、全体のかなりの理由が価格に係るものと考えられる。
 今回注目されるのは、売却側では「売却損が発生するため」(四二・六%)、「抵当権者間等の調整が難航したため」(一八・九%)が、また、購入側では「購入資金の手当てができなかったり、資金的な余裕がなかったりしたため」(三三・二%)が、前回より高い回答となっていることである。

二 我が国土地に対する外資系企業の意識
 国土庁の実施した外資系企業の意識調査の結果からみることとする。
 (一) 我が国土地に対する外資系企業の意識
<不動産の所有目的と今後の動向>
 日本国内で土地又は建物を所有している割合は現在三〇・一%であるが、その主な用途(複数回答)では、「生産拠点」(六三・三%)や「事務所」(三六・七%)など、自社利用のための項目の割合が高いが、「ビル等の開発後に賃貸」(三・四%)など、自社利用以外の項目も七%弱ほどみられる。
 今後十年間程度の間に、日本国内で新たに土地・建物を購入又は投資することに、何らかの関心があるとする企業の割合は二五・七%である。その理由(複数回答)では、「日本のマーケットとしての大きさ」(四六・四%)及び「アジアにおける日本の拠点性」(三八・七%)を挙げる割合が高い。一方、「日本の不動産の収益性」を挙げる割合は二・八%にとどまっている。
<不動産の購入等に関する不満及び土地利用計画等に対する不満>
 我が国において不動産の購入、投資などを行う上で、特に、不満を感じている点や改善してほしい点(複数回答)では、「不動産の価格やオフィス賃料が高い」を挙げる割合が七六・二%と最も高く、次いで「許認可など行政手続きが煩雑」(三七・八%)、「不動産の取得や保有に係る税金が高い」(三七・四%)となっている。行政手続きの煩雑さもビジネスコストの一部とみなせば、ビジネスコストの高さへの不満が高いといえる。
 我が国の都市計画などの土地利用計画について(複数回答)は、「計画の実現に向けた効果的な誘導策がなく、計画に沿った道路整備や土地利用の実現に時間がかかる」(三一・三%)、「開発の視点のみで景観や環境に対する細かい配慮に欠けているため、魅力的なまちづくりが期待できない」(三〇・六%)、「地区レベルの詳細な計画が明瞭でないため、購入・投資の対象としてのメリットやリスクが読みにくい」(二八・一%)などを挙げる割合が高い。
<不動産の収益性の見通し>
 我が国不動産の収益性への期待は全体的に薄く、日本の不動産の運用による収益性については、「低い」との評価が五八・二%にのぼる。しかしながら、今後十年後の収益性の見通しについては、「わからない」とする企業が三分の一、「低くなる」とする企業が二一・五%であるのに対し、「高くなる」とする企業も一九・一%みられる。
 (二) 土地の有効利用に向けて
 今後、外資系企業の進出やビッグバンによる外資系金融機関からの融資を通じた投資等が高まる可能性があるが、土地に対してなされる投資や土地取得を通じて行われる開発を、有効な土地利用につなげるための課題として、今回の調査から次の二点を指摘する。
 @ 土地利用計画の整備に関する課題
 外資系企業の意識調査においても、「地区レベルの詳細な計画が明瞭でないため、購入・投資の対象としてのメリットやリスクが読みにくい」ことを指摘する割合が高かった。今後、土地については、その活用を通じて収益性が重視される傾向の中で、地区についての明確な土地利用計画を持つことが、優良な投資を誘導する上でも、また、優良なまちづくりの上でも重要性を増すものと考えられる。
 A 社会基盤の整備に関する課題
 我が国は、都心部における道路や公園といった公共用地の占める割合が、他の先進諸国の大都市に比べて低く、将来的に高度利用や良好な住環境を実現する上での支障になると考えられる。外資系企業の意識調査においても、「計画の実現に向けた効果的な誘導策がなく、計画に沿った道路整備や土地利用の実現に時間がかかる」ことを指摘する割合が高かった。
 今後、地域の将来像を明らかにしつつ、必要な社会基盤の整備に関する具体的な目標の下に、計画的かつ重点的な公共投資の実施が必要であると考えられる。

<第3節> 土地の有効利用の実現のための土地利用の課題

一 都心部における低・未利用地の状況
 東京都区部における低・未利用地の総量は、平成三年で五千六百二十二ヘクタールと、区部の面積の九%に当たると見込まれている。以下、国土庁が実施した調査研究から、神田地区と世田谷地区の低・未利用地の状況をみることとする。

二 低・未利用地における権利変動の状況等
 (一) 神田地区における低・未利用地事例の詳細調査
 当該街区は商業地域に存在し、従前(昭和六十一年)は、一部で低・未利用地もみられたが、多くは個人所有の小規模敷地で、商業・業務系施設及び住宅が密集していた。昭和六十二年頃から法人による小規模敷地の購入(いわゆる「地上げ」)が始まり、低・未利用地化が進行し、平成八年には法人、地方公共団体、個人所有の低・未利用地が連担し、その間に個人所有の利用地が存在している状況にある。
 当該街区内で、昭和六十一年から平成八年の間に一度以上低・未利用地となった土地十七件についてみると、昭和六十二年当時十九件だった抵当権の設定は、平成三年には二十五件に増加しており、抵当権設定額の土地の価格(公示地価と路線価を参考に推計)に対する倍率は、地価の下落に伴い、平成八年には一三・〇倍に達している。
 有効利用が進展しない背景としては、敷地が狭小であり、また、低・未利用地の形状が不整形であること、地価が大幅に下落したことにより、現在の土地の価格に比して抵当権設定額が著しく高く、さらに、当街区は指定容積率六〇〇%及び七〇〇%の商業地域であるが、三方向が幅員六メートル以下の道路に面しているため、指定容積率を十分に利用できず、事業採算性に問題があること等が阻害要因として挙げられる。
 (二) 世田谷地区における低・未利用地事例の詳細調査
 当街区は、第一種低層住居専用地域で、道路等の基盤整備が十分でないまま、不整形な敷地に戸建住宅や小規模な共同住宅が立ち並んでいる。当該街区において、昭和六十一年から平成八年までの間に一度以上、低・未利用地となった土地二十五件についてみると、個人所有のものが大多数となっている。
 当該地区における権利変動は、平成四年から五年にかけて、法人間の権利変動が連続した土地が一部あったが、総じて少ない状況にある。また、抵当権設定額は土地の価格に比べると極めて小さく、神田地区とは全く異なる状況になっているが、低・未利用地化は進行しており、昭和六十一年時点では七件(約一千七百五十平方メートル)、平成三年には十六件(約四千五百九十平方メートル)、平成八年には十八件(約五千三百七十平方メートル)と年々増加している。
 このような状況の背景としては、基盤が不十分なまま住宅市街地化してしまったため、幅員が狭小な道路が多数存在していること、個人所有の不整形かつ比較的小規模な敷地が多く、共同化等による有効利用が困難であること等が考えられる。
 このような状況のまま低・未利用地の利用が図られるとすると、未整備の基盤、狭小な敷地が存続することとなり、良質な住環境の形成が困難となるおそれが高いものと考えられる。

三 低・未利用地の有効利用の阻害要因
 神田地区と世田谷地区の二地区において、平成三年時に低・未利用地であった土地を、平成八年時の利用、低・未利用別に比べてみると、いずれの地区においても、利用された土地の方が平均面積、平均指定容積率、平均前面道路幅員のすべてにおいて良好な数値を示しており、低・未利用地を有効に利用するためには、零細な敷地の集約化、道路等の基盤整備等を通じ、利用面積や指定容積の向上を図ることが重要である。
 一部の低・未利用地については、多数の抵当権が設定されていることから、有効利用や権利の移転についての合意の形成が難しい状況にあると考えられる。
 これらを総合すると、低・未利用地の有効利用を阻害する要因としては、敷地が狭小・不整形であること、前面道路が狭小であること、権利関係が複雑であること等から、単独の敷地では有効利用が難しく、また、事業採算性についても問題があることが考えられる。

四 道路拡幅整備効果
 都市基盤の未整備な地域においては、現実には指定容積率まで使い切れない場合が多いが、道路の拡幅によって、同じ条件下でも、より多くの空間を利用することが可能になると考えられる。
 東京都の北部に位置する低層密集住宅地において、東西方向に走る幅員四メートル未満の道路の約二百メートル区間をとりあげ、二項後退により四メートルの幅員が確保された場合(通常ケース)と、さらに拡幅整備により六メートル幅員が確保された場合(拡幅ケース)を想定し、当該道路に直接面する四十の敷地について、各々のケースでの利用可能な最大住宅床面積を試算し、比較を行った。
 この試算から、以下の結果が得られた(第5図参照)。
 @ 利用可能な最大住宅床面積(沿道の四十敷地の総和)は、通常ケースで約四千平方メートル、拡幅ケースで約四千九百三十平方メートルとなる。したがって、道路拡幅により、敷地面積が削減されるにもかかわらず、利用可能な延べ床面積は二三%増加する。
 A 当該道路の北側と南側の敷地を比較してみると、北側接道となっている道路南側の二十一の敷地では、拡幅ケースにおいて床面積が二五%増加し、北側の十九の敷地でも約二〇%の増加が見込まれる。
 B 各敷地において利用可能な最大延べ床面積を有する建築物の建設費用及び用地費(路線価を参考に算出)の和を住宅建設コストとすると、単位床面積当たりのコストでは、通常ケースの一平方メートル当たり約五十七万円に対して、拡幅ケースでは一平方メートル当たり約五十万円と一割強の減少となる。
 今回の試算例では、六メートルへの拡幅を行っても、まだ指定容積率をかなり余している状況にあり、基盤整備を伴わない指定容積率の緩和のみでは、必ずしも有効利用にはつながらないことが分かる。
 敷地の条件によっては、道路拡幅に伴い、延べ床面積が減少する場合があるなど、個々の敷地ごとの効果のばらつきもみられることから、基盤整備に対する合意形成を促進することが必要であり、敷地の共同化や地区計画等の活用など、ある程度のまとまりを見据えた一体的、総合的な市街地の再編整備の方策の検討が重要である。その際、床面積の増加を一律的な高度利用に充てるだけでなく、利用空間の集約化により、不足しているオープンスペースや公共施設用地の創出に活用することも可能と考えられる。
 利用可能な床面積の増加、建設コストの逓減効果といった地権者のメリットも考え合わせると、地区内道路の整備費用に係る受益者の応分の負担の在り方についても検討の余地があろう。

五 土地の有効利用のための方策
 前記の内容を踏まえると、低・未利用地の有効利用のための条件は、次の四点に集約することができる。
 @ 街区において低・未利用地化している零細な敷地を集約・整形化すること
 A 指定容積率が活用できるよう道路等の都市基盤施設を整備すること
 B 事業採算性を向上させるため、低利の融資等、資金面で的確な対応を行うこと
 C 権利関係の輻輳している地域では、権利者間の合意形成を円滑に行うこと
 このため、虫食い状になった小規模な不整形地に対しては、小規模の低・未利用地の集約化等が可能となる街区高度利用土地区画整理事業や、敷地整序型土地区画整理事業の活用が必要であるほか、敷地の共同化を図りつつ、都市における合理的かつ健全な高度利用等を図る市街地再開発事業、優良建築物等整備事業等、さらに、敷地が大規模になるほど容積率が緩和される敷地規模別総合設計制度等の規制・誘導方策の一層の活用を行うことが必要である。
 都市部においては、道路、公園等の都市基盤施設の整備と併せ、個々の土地における高度利用を進めることが重要であり、土地区画整理事業や市街地再開発事業等の推進、必要な道路等の施設を整備しつつ土地の高度利用を図る再開発地区計画制度等の規制・誘導方策の一層の活用が必要である。
 土地の有効利用に向けた資金調達を円滑にするため、今後、不動産の証券化の推進を始めとして、良好なプロジェクトに対する円滑な資金の供給システムの実現を図る必要性が高くなっている。

<第4節> 質の高いまちづくり・地域づくりに向けた土地利用の課題

一 宅地の細分化の状況と良質なまちづくりに向けた課題
 国土庁が実施した東京都の二地区を対象とした調査から、当該地区における宅地の細分化の状況、細分化に伴う問題の発生状況等をみるとともに、その解消に向けた課題を考察する。
<宅地の細分化の状況>
 A地区(目黒区)は複数の街区からなり、合計で約一万二千平方メートル、一方、B地区(国立市)は一街区で約一万五千六百平方メートルという大規模な街区で、いずれも第一種低層住居専用地区である。
 当該二地区における昭和四十三年から平成九年までの画地数と宅地の平均規模の変化をみると、両地区とも、画地数は昭和四十三年の約一・五倍に増加し、宅地の平均規模は約三分の二に減少しており、宅地の規模がB地区の方が若干広いことを除けば、年代により違いはあるものの、両地区でほぼ同程度の細分化が進行したものと考えられる(第6図参照)。
<宅地の細分化に伴う問題とその背景>
 細分化に伴う問題としては、街区の内部に街区をとりまく区画街路に面していない宅地や、接道するために間口が狭く細長いハタザオ形の敷地の宅地(ここではこれらを裏宅地と呼ぶ。)が発生することにより、良好な住宅ストックの形成を阻害するばかりでなく、防災上の問題も指摘される。
 平成九年現在で裏宅地と考えられるのは、A地区では五十七画地のうち三画地(五%)と少ないが、B地区では六十画地のうち二十五画地(四二%)と多く、しかも、B地区では敷地の細分化に伴って裏宅地が発生する割合が約七割(六九%)と、A地区の一割弱に比べ、大幅に高くなっている。
 二地区の裏宅地の発生状況が大きく異なっているのは、街区の中に適切な街路が整備されているかどうかによるところが大きい。すなわち、B地区は街区の規模が大きく、これを貫通するような街路がないため、宅地の細分化に伴って街区中央部で多くの裏宅地が発生している。他方、A地区では、従来の街区の中央部にそれぞれ一本ずつ街路が整備されており、これが裏宅地の発生を抑える要因となっている。
<敷地の細分化に伴う問題の解消に向けて>
 敷地の細分化に対しては、今後開発が予定される地域や、細分化のまだ進んでいない郊外部の住宅地などでは、用途地域、地区計画等による最低敷地規模規制の活用等の手法も有効と考えられる。
 これに対し、既に細分化の進んだ都市の市街地においては、次の二つの方法が効果的と考えられる。
 @ 街路の整備
 B地区でも、仮に、第6図のB―Bの位置に街路が整備されれば、現在の裏宅地の約四分の三は解消すると見込まれる。
 A 敷地の集約化
 B地区においては、昭和五十四年から六十三年にかけて四か所で敷地の集約が進められ、裏宅地の解消が確認される。今後、より広範な地域で集約化が進められるよう、敷地規模に応じて容積率の割増しが認められる敷地規模別総合設計制度、高度利用地区制度等の、敷地の集約化にインセンティブを与える手法を活用していくことが重要である。
 街路整備や敷地の集約化を実行する上で前提となるのは、当該街区に居住する住民の合意である。住民の合意を得るためには、地区の将来の姿を明確に示し、住民に良好な市街地形成のメリットを理解してもらうことがまず重要である。そして、その合意に基づいて計画が策定されることが、計画の実効性を確保する上でも必要である。

二 豊かで活力あるまちづくり、地域づくりと土地利用計画
 (一) 条例等による各種土地利用調整の取組
 適正かつ合理的な土地利用を推進するに当たっては、土地利用計画の役割が重要であるが、我が国の土地利用計画制度は、地域指定が重複する一方で、規制のない白地地域が生じており、総合的な計画の必要性が指摘されている。
 国土庁の調査によると、地域指定が重複する地域等においては、半数の市町村で「土地の集団性・一体性が失われる」等の問題の発生がみられるとされ、これらに対して講じられた対策としては、「独自の条例・要綱の制定」(四一・二%)が最も高くなっている。
 ここでは、具体的に、条例の制定により、住民の積極的・主体的参加による個性あるまちづくりに取り組んでいる神戸市の事例についてみる。
<兵庫県神戸市における土地利用調整の取組>
 神戸市北部の農村地域においては、近年、農業従事者の高齢化や後継者不足等により、地域社会の活力が低下する一方で、非農業的な土地利用の需要が増加しており、農業振興地域における農用地区域外の区域等において、資材置場等が増加している。
 神戸市では、農村地域における良好な営農環境や自然環境の保全等を図るとともに、地域の持つ多様な機能の維持・増進を目的に、機能に応じた土地利用区分の設定と、地域住民の主体的な取組による地域計画の作成・実践を組み合わせた土地利用の誘導と地域振興のための「人と自然との共生ゾーンの指定等に関する条例」を制定した。
 その内容は以下のとおりである。
 @ 神戸市は、土地利用に関する方向性を示す「人と自然との共生ゾーン整備基本方針(以下「基本方針」という。)」を策定する。
 A 市は、基本方針に基づいて、約一万七千ヘクタール(市の約三分の一)を共生ゾーンとして指定し、さらに、この中を「環境保全区域」等の四つの農村用途区域に区分し、一定規模以上の開発行為等について届出を行わせること等により、市街化調整区域における秩序ある土地利用の誘導を行う。また、この用途区域の指定・変更に当たっては、住民の意見を聴く機会を設けるとともに、Cの里づくり計画を反映させる。
 B 良好な農村景観の保全と形成を図るため、農村用途区域内に「農村景観保全形成地域」を指定し、開発行為等について届出等を行わせる。ここでも、地域指定に当たってはCの里づくり計画を反映させる。
 C 住民がより主体的に地域の活性化に取り組むため、集落等の一定のコミュニティを単位にした「里づくり協議会」等を組織化し、「里づくり計画」の策定等を行う。
 現在のところ、神戸市においては、基本方針の策定及び共生ゾーンの指定まで行われており、今後、都市近郊の農村地域における秩序ある土地利用の誘導につながることが期待される。
 (二) 住民参加を重視した地域づくりの取組
<山形県飯豊町における土地利用調整の取組>
 山形県飯豊町は、その面積の八五%を森林が占める人口約一万人の町である。屋敷林に囲まれた「散居集落」で有名な美しい田園景観は、町の貴重な財産となっている。
 昭和五十五年に、町の中心地である椿地区の住民によりワークショップ「椿講」が実施され、多目的集会施設の建設等が実現した。また、その後、当地区で優良農地の転用圧力が増加したため、住民の間から当該地区の土地利用を考える気運が高まり、住民各層からなる土地利用計画策定委員会等が組織され、検討が行われた結果、平成二年に「椿の現在(いま)・未来(あした)」がまとめられた(第7図参照)。
 これにより当該地区は「公共、住宅、公園、工業、農業、商業(既存・新規)、レクリエーション、観光農林園、森林保全」の十ゾーンに区分され、それぞれの区分に応じ、住民合意の下で、土地の公共性に配慮した秩序ある土地利用を図っていくこととしている。
 完成した計画には法的拘束力はないものの、住民の総意を反映した計画であるため、当該地域において土地利用を進めていく上での調整指針として位置付けられ、当該地域における各種土地利用の整序化に貢献している。
 ワークショップによる地区の計画づくりへの取組は、椿地区から他地区へと波及し、現在では町内九地区のうち七地区までが地区計画づくりを実施している。
 これらの取組の結果、計画的な土地利用に加え、住民の地域に対する関心が向上するほか、行政側でも地区計画に即した事業に係る用地交渉の円滑化、住民意向の把握が図られるなどの効果が現れている。
 飯豊町は、平成五年に「美しい日本のむら景観コンテスト」で農林水産大臣賞を、平成七年に「第十回農村アメニティ・コンクール」で国土庁長官表彰最優秀賞を受賞した。

V 土地政策の推進

<第6章> 土地政策の基本方向

<新総合土地政策推進要綱に基づく土地対策の着実な推進>
 平成九年二月十日に政府は新総合土地政策推進要綱(以下「新要綱」という。)を閣議決定し、土地政策の目標を地価抑制から土地の有効利用へと転換した。
 新要綱に基づいて、都市計画法・建築基準法の改正による容積率規制の緩和や高層住居誘導地区の創設、低・未利用地の散在する既成市街地の再整備を進める敷地整序型土地区画整理事業の創設、投資専門家が投資しやすい環境を整備するための不動産特定共同事業法の改正による規制緩和、密集市街地の再整備を総合的かつ一体的に行う「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」の制定等の諸施策が推進されている。
<土地の有効利用促進のための検討会議提言と今後の課題>
 土地をめぐる最近の状況を踏まえ、政府の関係閣僚と与党の政策責任者により構成される「土地の有効利用促進のための検討会議」が設置され、平成九年十一月十八日には同会議の提言が取りまとめられた。
 提言においては、まず、@当面、バブル期に講じられた措置の見直しの検討を図るとともに、バブル期に生じた土地利用の混乱の回復など、市街地の再生・整備のための措置を講ずる。A特に、土地を有効に利用しようとする者の投資意欲が顕在化しにくい状況を踏まえ、実需を喚起するための施策を重点的に実施するなど、土地取引の活性化を図る。B緊急に実施すべき措置として、土地税制の見直し、不動産の証券化等の促進、低・未利用地の有効利用に向けた諸事業の推進、規制緩和の推進、住宅・宅地の整備の促進、土地情報の整備・提供等の各般にわたる具体的な諸施策が盛り込まれている。
 この提言を受け、平成十年度の土地税制改正において、所要の見直しが行われた。また、不動産担保付債権や不動産の証券化等促進のための法制等の整備、国土利用計画法に基づく届出勧告制の改善など、法制度の見直しを含めた諸施策が推進されている。
 また、提言においては、これら緊急に実施すべき措置のほかに、中期的に構造的な土地問題を解決し、子孫に誇れる、豊かで安心できるまちづくりの推進と、ゆとりある住宅・住環境の形成を図ることが示されている。
 このため、今後検討すべき課題として、不動産の証券化の活用、優良な都市再開発の推進、土地利用計画の整備・充実等の観点から、不動産の証券化等の都市開発への活用方策の検討や、土地利用規制と一体となった再開発手法の枠組みの検討など、新たな制度の創設に向けた検討に着手することが掲げられた。
 今後は、政府が一体となって、新要綱や有効利用検討会議の提言に盛り込まれた諸施策を強力に実施に移していくことが必要であり、また、中期的な視点に立ち、構造的な土地問題への対応を検討していくことも必要である。

<第7章> 土地の有効利用に向けた施策の推進

<第1節> 土地利用計画の整備・充実

 適正な土地利用に当たっては、適正かつ合理的な土地利用計画が立てられ、それに即した利用が図られることが不可欠である。特に目指すべき土地利用の実現という観点から、市町村における総合的な土地利用計画と、その市町村において目指すべき土地利用の姿へ誘導するための地区ごとの詳細な土地利用計画を策定し、その有機的な連携を図ることが必要である。
 このため、以下のことなどを推進している。
 @ 土地の有効利用の前提である総合的な土地利用計画の整備・充実を図るため、都道府県における土地利用に関する総合計画である土地利用基本計画の充実強化の一環として、市町村レベルにおいて土地利用の誘導方向等を示す土地利用調整基本計画の策定
 A 地区住民による土地利用調整に関する協議会の設置等、住民の参加の下に地区レベルにおいて土地利用の在り方やそれに向けた整備手法等を示す地区土地利用調整計画の策定

<第2節> 低・未利用地の利用促進

一 国土利用計画法の遊休土地制度
 国土利用計画法の遊休土地制度は、国土利用計画法に基づく土地取引の許可又は届出を経て取得された後、二年以上経過した一定規模以上の低・未利用地であって、その利用を促進する必要があると認められる場合に、都道府県知事がその土地の所有者等に対し、遊休土地である旨の通知を行い、その土地の利用又は処分の計画の提出を求め、届け出られた計画に対して必要な助言、勧告等を行い、所有者等の自発性を尊重しつつ、その土地の積極的な有効利用を図る制度である。
 遊休土地制度の円滑な運用及び国土の適正かつ合理的な利用の推進に資するよう、遊休土地等の存する地区について、遊休土地等の利用又は保全の方向付けを行う遊休土地等利用促進計画の作成を推進している。

二 市街化区域内農地を活用した計画的なまちづくりの促進
<市街化区域内農地の概況>
 市街化区域内の農地は、宅地化の進展等により、年々減少しており、平成八年と九年の面積とを比較すると、三大都市圏で約二千ヘクタール、地方圏で約二千五百ヘクタール、全国で約四千五百ヘクタールの減少となっている。
 近年、特に三大都市圏において市街化区域内農地の減少率が鈍化してきているが、これは非接道農地等、条件の悪い農地の割合が相対的に増加し、宅地化等が進みにくくなっていることなどが原因と考えられる。
<市街化区域内農地をめぐる課題>
 市街化区域内農地については、農と住の調和したまちづくりを進め、その有効利用を促進することが重要であるが、最近の市街化区域内農地については、小規模な農地が道路等の基盤整備が不十分なまま散在し、宅地化する農地と保全する農地とがモザイク状に混在している等の状況がみられる。
 このため、道路等の基盤整備を進めつつ、宅地化する農地と保全する農地をそれぞれ有効に活用するための事業手法、支援措置が必要となっている。
<農住組合制度の活用の促進>
 農住組合制度は、農地所有者等の自発的発意により設けられる組合で、まちづくりに必要な基盤整備から、住宅建設や当面の営農の継続に必要な農地の利用・保全事業等を一貫して行うもので、市街化区域内農地における農と住の調和した良好なまちづくりを進めるのに適した制度の一つであり、近年、活用の気運が高まってきている。その背景の一つとして、非接道農地や周辺の開発から取り残された小規模農地等、条件の悪い農地の活用を図るためには、小回りのきく本制度が有効であることが考えられる。
 今後とも、農地所有者の自主的な取組により、農地の賦存状況に対応しつつ、各地域で農と住の調和した良好なまちづくりを進めるため、同制度の積極的な活用が図られる必要がある。

<第3節> 定期借地権制度の活用

 国土庁が実施した地方公共団体や地方住宅供給公社、民間企業へのアンケートから、定期借地権制度の活用についてみてみる。

一 定期借地権付き住宅の供給状況
 定期借地権普及促進協議会の会員による定期借地権付き住宅の分譲については、平成六年に入って供給量が一気に拡大した。地域別では三大都市圏で八割以上を占めているが、地方圏においても県庁所在地を中心に供給が広がりつつある。
 マンションの供給についても、平成七年に入って徐々に取組が増加してきており、九百八十四戸の供給実績となっている。
 なお、定期借地権普及促進協議会の会員以外の事業者も含めた供給実績は、平成八年十二月末の累計で一万三百三十戸(うちマンション三千二百二十五戸)となっている。

二 地方公共団体、地方住宅供給公社の取組状況
 地方公共団体においては、定期借地権の活用について、既に何らかの施策に取り組んでいるか、いずれ取り組みたいとしている団体が約六割となっている。また、定期借地権を活用した公共公益施設の整備について「既に取り組んでいる」としている団体はほとんどないが、約六割の団体が「いずれ取り組みたい」としている。
 地方住宅供給公社においては、既に事業化しているか、事業化に向けて検討している団体が約三割となっているほか、約半数が「いずれ取り組みたい」としている。他方、「事業化するつもりはない」とする団体は、その主な理由として「地価が安く土地所有意識が強いので、定期借地権付き住宅に対するニーズがない」ことを挙げている。

三 民間企業の取組状況
 社有地の活用に際して定期借地権を活用・検討したことがある企業が約三割あり、特に、活用する余地のある社有地を有する企業では、半数近くにのぼる。また、活用・検討をしたことがない、又は制度を知らない企業においても、約二割の企業が定期借地権に興味・関心を持っており、全体で約四割の企業が定期借地権に関心を持っている。

四 まとめ
 地方公共団体、地方住宅供給公社、民間企業のいずれにおいても、その活用について前向きな団体が多い等、定期借地権制度の普及がある程度進んでいることがうかがえた。
 定期借地権制度については、今後、その普及促進を図るため、土地所有者・利用者の双方が安心して取り組める事業方式や、そのための環境整備の推進、公共施設用地の確保、市街地整備事業等への活用を図ること等により、更なる幅広い活用のための方策について検討していくことが重要である。

<第4節> 土地に関する情報の整備・提供

一 土地取引情報の整備・提供
 適切な土地取引が行えるような条件を整備するためには、土地取引に関する情報の収集、整理、分析及び提供が重要である。
 このため、国土利用計画法に基づく届出情報について、土地の利用動向に着目した整理、分析を一層充実するとともに、地方公共団体において、国土利用計画法に基づく届出情報の整理・分析を行うためのデータベースの整備等を行うこととしている。
 また、これらの土地取引情報について、統計的な処理を行った上で一般に提供することを検討することとしている。

二 地価情報等の整備・充実
 土地取引の活性化に資するため、オフィス賃料データの収集・公表、市況についての調査の充実、地価関連データの整備・提供を進めているところであり、平成九年度からは、地価公示価格及び都道府県地価調査基準地価格について、インターネットを通じた提供を開始した。

三 法人土地基本調査の充実・実施
 各種施策をより実効あるものとするには、土地の所有及び利用状況に関する実態を調査し、その現状を全国及び地域別に明らかにした基礎資料が必要である。
 このため、法人土地基本調査を平成十年度に指定統計調査として実施することとしており、土地の所有及び利用の動向について分析を進めることとしている。
 なお、今回の調査では、ストック統計の整備という観点から、法人土地基本調査の附帯調査として、法人の建物の現況に関する事項を調査し、土地と建物を一体として把握することにより、土地政策の推進に資することとしている。

四 国土調査の推進
 国土調査(地籍調査、土地分類調査、水調査)は、国土の開発及び保全並びにその利用の高度化に資するとともに、併せて地籍の明確化を図るため、国土の実態を科学的かつ総合的に調査し、土地に関する最も基礎的な情報を整備するものである。土地の有効利用に向けた土地利用の推進や土地取引の活性化が、土地政策上の重要課題となっている現在において、このような情報の整備は、土地に関する行政活動や経済活動を適正・円滑に進める上で不可欠なものであることから、国土調査の重要性がますます増大しつつある。
 国土調査については、現在、第四次国土調査事業十箇年計画に基づいて、計画的かつ着実な推進を図っている。その進捗状況をみると、地籍調査については、全国の要調査面積(全国土面積から国有林、湖沼等の公有水面を除いた面積)の約四〇%が完了し、土地分類調査については、縮尺二十万分の一の基本調査が全国で完了するとともに、縮尺五万分の一の基本調査についても、全国の約八〇%が完了した。
 また、水調査については、一級河川について全国の約九〇%の完了をみており、今後数年で、一級河川についての調査が完了する予定となっている。
 このような進捗状況の中にあって、進捗の遅れている都市部における地籍調査を促進するための施策を展開するとともに、多目的な土地関連行政への活用を促進していく必要がある。また、現在の社会情勢の変化に即し、地下利用の進展や環境の保全に対応した土地情報の整備という新たなニーズに応える調査内容の追加や見直しも望まれてきており、研究・検討を進めていく必要がある。

五 地理情報システム(GIS)の整備等
 現在、一部の市町村では、既にGISが導入され、固定資産税に係る事務の効率化、都市計画業務、農地管理等、様々な分野で利用されているが、今後、より多くの市町村でGISが導入されるには、多くの部門で共通に利用できるような地図データからなる基図の迅速な整備・活用等が必要である。
 この基図の整備を一層促進する観点からは、基礎的な地図データの一つとして、地籍図の整備が急がれている。さらに、進捗の遅れている地域においては、土地区画整理事業等、他事業による確定測量の成果の積極的活用や、必要最小限の情報である官民境界等の先行的調査等を進めることが求められている。
 また、政府においては、GISの効率的な整備及びその相互利用の推進に関する政府部内における取組を関係省庁間での緊密な連携の下で進めるため、地理情報システム関係省庁連絡会議を通し、国土空間データ基盤の整備・標準化を進めるとともに、その相互利用のための環境づくりや、個人情報の保護等、GISの整備・活用に伴う諸課題についても検討を行っている。

<第5節> 土地税制の活用

 土地政策においては、土地の公共性を踏まえ、土地の有効利用の促進等を図ることは、重要な課題であり、このような課題に対応するに当たって、土地税制は重要な政策手段の一つである。
 新総合土地政策推進要綱や「土地の有効利用促進のための検討会議」の提言等をも踏まえ、土地税制については、昨年度来見直しが行われてきている。
 具体的には、平成九年度には固定資産税の負担調整措置等が講じられるとともに、平成十年度には、現下の極めて厳しい経済情勢等を勘案し、臨時緊急の措置として、地価税の課税の停止や、個人及び法人の土地譲渡益課税の軽減、事業用資産の買換え特例制度の拡充などの対応策が講じられるとともに、投機的取引の抑制等に主眼を置いた法人の超短期所有土地の追加課税制度の廃止等が行われた。
 これらの措置により、土地取引の活性化や土地の活用に向けた投資の促進などが図られ、土地の有効利用の促進に資するものと考えられる。

<第6節> 土地取引規制の合理化

 土地の有効利用を実現するためには、土地を有効に利用しようとする者への土地の移転が円滑に行われるよう、土地取引の活性化を図ることが重要である。
 また、最近の地価や土地取引の動向等にかんがみると、土地取引規制を合理化し、土地取引の円滑化を図ることが強く求められている。
 さらに、平成九年十一月には、「二十一世紀を切りひらく緊急経済対策」(経済対策閣僚会議決定)において、「国土利用計画法の届出勧告制については、原則として、事後届出に移行するなど制度の改善を行う」とされた。
 このような状況にかんがみ、大規模な土地取引について事前届出制から事後届出制へ移行するとともに、地価の上昇の状況に応じ、機動的に事前届出とすることができるよう、所要の規定の整備等を行うことを内容とする、国土利用計画法の一部を改正する法律案を、第百四十二回通常国会へ提出した。

<第7節> その他の土地政策

 「土地月間」(十月)及び「土地の日」(十月一日)を中心とした、各種の土地に関する基本理念の普及・啓発活動を積極的に展開している。
 土地の安定的かつ適正な配分や有効利用を促進していくための地価や土地利用等に関する基礎的な調査・研究、さらに、これらの調査研究を円滑に行わせるための土地に関する情報、文献等の網羅的、体系的な収集・整備(土地総合情報ライブラリー)について、積極的に取り組んでいる。


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賃金、労働時間、雇用の動き


毎月勤労統計調査 平成十年三月分結果速報


労 働 省


 「毎月勤労統計調査」平成十年三月分結果の主な特徴点は、次のとおりである。

◇賃金の動き

 三月の規模五人以上事業所の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は三十一万五千七百十七円、前年同月比は〇・八%増であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十八万八千六百七十六円、前年同月比〇・一%増であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十六万九千七百三十四円、前年同月比〇・六%増で、所定外給与は一万八千九百四十二円、前年同月比は六・三%減となっている。
 また、特別に支払われた給与は二万七千四十一円、前年同月比八・二%増となっている。
 実質賃金は、一・五%減であった。
 産業別にきまって支給する給与の動きを前年同月比によってみると、伸びの高い順にサービス業〇・八%増、製造業〇・四%増、運輸・通信業〇・二%増、電気・ガス・熱供給・水道業〇・〇%、卸売・小売業、飲食店〇・一%減、金融・保険業〇・七%減、不動産業〇・七%減、建設業〇・九%減、鉱業二・三%減であった。

◇労働時間の動き

 三月の規模五人以上事業所の調査産業計の常用労働者一人平均月間総実労働時間は一五六・五時間、前年同月比〇・〇%と前年と同水準であった。
 総実労働時間のうち、所定内労働時間は一四六・四時間、前年同月比〇・六%増、所定外労働時間は一〇・一時間、前年同月比八・二%減、季節調整値は前月比二・六%減であった。
 製造業の所定外労働時間は一二・九時間で、前年同月比は一四・六%減、季節調整値は前月比四・二%減であった。

◇雇用の動き

 三月の規模五人以上事業所の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・五%増、常用労働者のうち一般労働者では〇・一%減、パートタイム労働者では四・一%増であった。常用労働者全体の季節調整値は前月比〇・一%減であった。
 常用労働者全体の雇用の動きを産業別に前年同月比によってみると、サービス業二・五%増、建設業一・四%増、運輸・通信業〇・六%増と、これらの産業は前年を上回っているが、卸売・小売業、飲食店〇・二%減、製造業〇・八%減、電気・ガス・熱供給・水道業〇・八%減、不動産業一・二%減、金融・保険業二・八%減、鉱業一〇・五%減と、前年同月を下回った。
 主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者一・〇%減、パートタイム労働者〇・八%増、卸売・小売業、飲食店では一般労働者一・一%減、パートタイム労働者二・〇%増、サービス業では一般労働者一・四%増、パートタイム労働者八・八%増となっている。

◇     ◇     ◇

◇     ◇     ◇









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三月の雇用・失業の動向


―労働力調査 平成十年三月分結果の概要―


総 務 庁


◇就業状態別の動向

 平成十年三月の十五歳以上人口は、一億七百十六万人(男子:五千二百七万人、女子:五千五百九万人)となっている。
 これを就業状態別にみると、労働力人口(就業者と完全失業者の合計)は六千七百四十五万人、非労働力人口は三千九百五十八万人で、前年同月に比べそれぞれ二十二万人(〇・三%)増、五十一万人(一・三%)増となっている。
 また、労働力人口のうち、就業者は六千四百六十八万人、完全失業者は二百七十七万人で、前年同月に比べそれぞれ二十一万人(〇・三%)減、四十三万人(一八・四%)増となっている。

◇就業者

(一) 就業者

 就業者数は六千四百六十八万人で、前年同月に比べ二十一万人(〇・三%)減と、二か月連続の減少となっている。男女別にみると、男子は三千八百四十四万人、女子は二千六百二十四万人で、前年同月と比べると、男子は三十二万人(〇・八%)の減少、女子は十一万人(〇・四%)の増加となっている。

(二) 従業上の地位

 就業者数を従業上の地位別にみると、雇用者は五千三百五十三万人、自営業主・家族従業者は一千九十三万人となっている。前年同月と比べると、雇用者は六万人(〇・一%)減と、二か月連続の減少となっている。また、自営業主・家族従業者は二十万人(一・八%)の減少となっている。
 雇用者のうち、非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○非農林業雇用者…五千三百十七万人で、十万人(〇・二%)減少
 ○常 雇…四千七百十六万人で、二十七万人(〇・六%)減少
 ○臨時雇…四百七十七万人で、十万人(二・一%)増加
 ○日 雇…百二十五万人で、八万人(六・八%)増加

(三) 産 業

 主な産業別就業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○農林業…二百九十六万人で、六万人(二・〇%)減少
○建設業…六百六十二万人で、二十七万人(三・九%)減少
○製造業…一千三百七十三万人で、六十五万人(四・五%)減少
○運輸・通信業…三百九十八万人で、三万人(〇・七%)減少
○卸売・小売業、飲食店…一千四百八十万人で、二十一万人(一・四%)増加
○サービス業…一千六百八十三万人で、五十六万人(三・四%)増加
 対前年同月増減をみると、「卸売・小売業、飲食店」は前月(十九万人増)に比べ増加幅が拡大している。サービス業は前月(六十万人増)に比べ増加幅が縮小している。一方、運輸・通信業は前月(四万人減)に比べ減少幅が縮小している。建設業及び製造業は前月(それぞれ十四万人減、六十四万人減)に比べ減少幅が拡大している。また、農林業は前月の一万人増から減少となっている。
 また、主な産業別雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○建設業…五百五十四万人で、五万人(〇・九%)減少
○製造業…一千二百五十三万人で、五十三万人(四・一%)減少
○運輸・通信業…三百七十六万人で、三万人(〇・八%)減少
○卸売・小売業、飲食店…一千百八十八万人で、二十四万人(二・一%)増加
○サービス業…一千四百二十三万人で、二十七万人(一・九%)増加
 対前年同月増減をみると、「卸売・小売業、飲食店」は前月(十七万人増)に比べ増加幅が拡大している。サービス業は前月(三十三万人増)に比べ増加幅が縮小している。一方、建設業は前月(七万人減)に比べ減少幅が縮小している。製造業は前月(四十七万人減)に比べ減少幅が拡大している。また、運輸・通信業は前月(三万人減)と同じ減少幅となっている。

(四) 従業者階級

 企業の従業者階級別非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○一〜二十九人規模…一千七百六十二万人で、三十万人(一・七%)増加
○三十〜四百九十九人規模…一千七百四十万人で、三十六万人(二・〇%)減少
○五百人以上規模…一千二百五十三万人で、七万人(〇・六%)増加

(五) 就業時間

 非農林業の従業者(就業者から休業者を除いた者)一人当たりの平均週間就業時間は四三・二時間で、前年同月に比べ〇・九時間の減少となっている。
 このうち、非農林業雇用者についてみると、男子は四七・四時間、女子は三六・九時間で、前年同月に比べ男子は〇・七時間の減少、女子は〇・九時間の減少となっている。
 また、非農林業の従業者の総投下労働量は、延べ週間就業時間(平均週間就業時間×従業者総数)で二六・一一億時間となっており、前年同月に比べ〇・五九億時間(二・二%)の減少となっている。

(六) 転職希望者

 就業者(六千四百六十八万人)のうち、転職を希望している者(転職希望者)は六百一万人で、このうち実際に求職活動を行っている者は二百四十一万人となっており、前年同月に比べそれぞれ四十四万人(七・九%)増、十八万人(八・一%)増となっている。
 また、就業者に占める転職希望者の割合(転職希望者比率)は九・三%で、前年同月に比べ〇・七ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男子は八・九%、女子は九・八%で、前年同月に比べ男子は〇・四ポイントの上昇、女子は一・一ポイントの上昇となっている。

◇完全失業者

(一) 完全失業者数

 完全失業者数は二百七十七万人で、前年同月に比べ四十三万人(一八・四%)増加し、比較可能な昭和二十八年以降で最多となっている。男女別にみると、男子は百六十七万人、女子は百十万人で、前年同月に比べ男子は三十万人(二一・九%)の増加、女子は十三万人(一三・四%)の増加となっている。
 また、求職理由別完全失業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○非自発的な離職による者…七十四万人で、十九万人増加
○自発的な離職による者…百六万人で、十五万人増加
○学卒未就職者…二十六万人で、七万人増加
○その他の者…六十三万人で、二万人増加

(二) 完全失業率(原数値)

 完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)は四・一%で、前年同月に比べ〇・六ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男子は四・二%、女子は四・〇%で、前年同月に比べ男子は〇・八ポイントの上昇、女子は〇・四ポイントの上昇となっている。
 また、年齢階級別完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 〔男女計〕
○十五〜二十四歳……九・二%で、一・一ポイント上昇
○二十五〜三十四歳…四・五%で、〇・五ポイント上昇
○三十五〜四十四歳…二・八%で、〇・五ポイント上昇
○四十五〜五十四歳…二・一%で、前年同月と同率
○五十五〜六十四歳…五・一%で、一・四ポイント上昇
○六十五歳以上………二・一%で、〇・八ポイント上昇
 〔男 子〕
○十五〜二十四歳……一〇・一%で、一・九ポイント上昇
○二十五〜三十四歳…三・八%で、〇・六ポイント上昇
○三十五〜四十四歳…二・七%で、〇・四ポイント上昇
○四十五〜五十四歳…二・二%で、〇・二ポイント上昇
○五十五〜六十四歳…六・三%で、一・六ポイント上昇
 ・五十五〜五十九歳…三・三%で、〇・七ポイント上昇
 ・六十〜六十四歳……一〇・四%で、二・五ポイント上昇
○六十五歳以上………三・〇%で、一・三ポイント上昇
 〔女 子〕
○十五〜二十四歳……八・四%で、〇・五ポイント上昇
○二十五〜三十四歳…五・七%で、〇・五ポイント上昇
○三十五〜四十四歳…三・一%で、〇・八ポイント上昇
○四十五〜五十四歳…二・一%で、〇・二ポイント低下
○五十五〜六十四歳…三・二%で、一・二ポイント上昇
○六十五歳以上………〇・六%で、前年同月と同率

(三) 完全失業率(季節調整値)

 季節調整値でみた完全失業率は三・九%で、前月に比べ〇・三ポイント上昇し、比較可能な昭和二十八年以降で最高となっている。男女別にみると、男子は三・九%、女子は三・八%で、前月に比べ男子は〇・二ポイントの上昇、女子は〇・四ポイントの上昇となっている。





 
    <6月24日号の主な予定>
 
 ▽首都圏白書のあらまし……………国 土 庁 

 ▽月例経済報告………………………経済企画庁 
 



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