通商白書のあらまし
「平成10年版 通商白書」は、さる6月16日の閣議に報告され、公表された。
<第1章> 世界経済の現状
◇つながる世界
世界経済は、財やサービス、資本等の取引を通じてその結びつきを強めている。これらの対外取引の推移をみると、八〇年以降、いずれも名目GDPの伸びを上回っている。
また、財よりサービス、サービスより資本、資本の中でも直接投資より足の速い証券投資の伸びが大きくなっているのが特徴的である(第1図参照)。
<第2章> 世界経済の潮流
◇企業活動のグローバライゼーションの進展
直接投資の活発化により、企業の海外生産が製品輸出を上回る勢いで進展している。日本についてみると、八八年時点で各地域に対する製品輸出が、それぞれの地域における海外生産を上回っていたが、九五年には、米国、EU、ASEAN4においては、海外生産が製品輸出を上回るようになっている。
海外生産の進展に伴い、貿易構造も大きく変化してきており、各国の輸出入において、海外子会社(製造業)向けの輸出が日本では約二五%、米国では約一八%、海外子会社(製造業)からの逆輸入が日本では約一〇%、米国では約一四%を占めている。
また、財のみならずサービスの国際取引も進展している。米国においては、サービス輸出では専門知識・技能サービスや特許等使用料が、海外子会社の活動では、コンピュータ関連サービスが、その伸びに大きく寄与している。
こういったグローバライゼーションを担うグローバル企業の競争は激化しており、戦略的な提携が活発になるなど、業界の再編が活発化している。
規格においては、国際標準を目指した競争が行われている。また、インターネットを通じて海外との電子商取引が可能になるなど、情報通信の高度化がグローバライゼーションをさらに進展させている。
◇発展途上国の成長性
多くの発展途上国は、直接投資の受入れと輸出の拡大をてこに経済発展を遂げてきた。東アジアにおいては、まずNIEsが六〇年代から七〇年代に日本等先進国からの直接投資の受入れの拡大をてこに、経済成長を果たした。
また、八〇年代後半以降、プラザ合意によるドル高是正やNIEsの輸出競争力の喪失に伴い、ASEAN諸国が日本等先進国やNIEsからの直接投資の受入れを拡大するとともに、輸出を伸ばし、経済成長を遂げてきた。
さらに改革開放路線の下、特に九〇年代に入ってから中国が台頭してきた。ロシアは、市場経済化への試みが続く中、欧米諸国からの直接投資の受入れが活発化し、輸出も拡大し、九七年には初めて実質GDP成長率がプラスに転じた。中南米諸国は欧米諸国、中・東欧諸国はドイツを中心とする欧州諸国からの直接投資の受入れが活発化し、それに伴い輸出も拡大し、緩やかながら順調な経済成長を遂げつつある。
◇グローバライゼーションと為替の調整
一方、資本取引を通じて各国・地域経済の結びつきが強まることは、世界経済が急激な資金移動というリスクに見舞われやすくなることを意味する。
このような資金移動の結果、九〇年代に入り、九二年の欧州通貨危機に始まり、円高の進展、中国人民元の下落、メキシコ通貨危機、その後の円安ドル高反転、そして九七年のアジア通貨危機と、これまでに大きな為替の調整が行われてきている。為替の調整は、輸出競争力の盛衰と伝染を通じて各国経済に大きな影響を与えている。
◇アジア通貨危機
九七年のアジア通貨危機は、タイから始まった。これまでタイの経済成長を牽引してきた輸出が鈍化したことにより、今後の成長に対する疑念が生じ、これまで問題とされていなかった貿易収支・経常収支赤字が大きな問題として顕在化したこと(第2図参照)や、この赤字のファイナンスを証券投資やその他投資等、相対的に不安定な資金に依存していたこと(第3図参照)が、今回の混乱の背景である。
通貨下落は、瞬く間に周辺各国に波及した。波及した国はすべてタイと同様の問題を抱えていたわけではないが、類似要因や別の要因により、市場の信認が低下したため、通貨下落が伝染したのである。周辺諸国の通貨が切り下がる中、中国人民元の動向が注目されるが、中国政府当局は繰り返し人民元の切下げを否定している。
なお、九四年に、今回のアジアと同様の通貨危機に見舞われたメキシコは、輸出に主導される形で九六年には内需も回復、プラス成長に反転した。
◇地球環境問題
近年、地球温暖化問題をはじめとする地球環境問題への関心が高まっている。地球温暖化の主因であるエネルギー起源のCO2排出量をみると、現状においては先進国が多く、将来の見通しにおいては、途上国が経済成長等を背景に排出量を増大させると予測されている。
地球温暖化問題は、世界のあらゆる主体が加害者であると同時に被害者でもあるため、その対策は全地球規模で行われることが求められる。また、地球温暖化問題を経済成長に悪影響を与えることなく解決するためには、省エネルギー等によるエネルギー需給構造の改革への取組み等が重要となる。
◇エネルギー問題
エネルギーセキュリティを巡る近年の動向をみると、石油の国際市場が発達してきているのが特徴となっている。
国際石油市場の発達は、取引における経済的要素の比重の増大をもたらすなど、日本をはじめとするエネルギーの石油依存、石油の中東依存度の高い諸国にとっては、エネルギーセキュリティ上、望ましい効果が期待できる。今後のエネルギーセキュリティ維持のためには、石油政策全般にわたって、こうした石油の国際市場の発達等を踏まえた再点検が重要となる。
また、前述の地球環境問題を視野に入れた取組みや、経済的依存関係の深いアジア地域との共通認識の醸成等も必要とされる。
◇世界経済と通商システム
戦争をもたらした経済混乱への反省を出発点に、世界各国は、自由な通商システムとその前提となる安定した通貨システムを構築し、それを維持する努力を続けてきた。常に存在する保護主義の圧力と世界経済環境の大きな変化に対して、貿易面ではGATTにおける多角的交渉、通貨面では政策協調やIMF体制等、多数国間協力の強化を軸として、システムを変化させ対応を図ってきた。
現在、世界経済のグローバル化がもたらす新たな課題に対応するために、各国は多数国間、地域間、二国間それぞれの枠組みにおいて、新たな世界通商システムの構築を進めている。
第一に、多様な経済取引形態に対応するために、投資、サービス等の新しい分野におけるルールを確立し、各国の制度を調和させていく取組みが活発化している。
第二に、東アジアにおける経済・通貨危機に象徴されるように、国際資本移動の拡大が途上国経済の脆弱性を急激に顕在化させ、それが貿易や投資、対外資産等、様々な経路を通じて世界各国に深刻な影響を与える危険性が高まっており、その回避に向けた協力が進められている。
<第2部> 世界の中の日本―日本の通商・経済と今後の針路
<第3章> 日本経済システムの発展―日本経済の強みと弱点
◇日本経済の発展の流れ
戦後の日本経済の発展の原動力は、積極的な設備投資と、海外技術の導入・独自技術の開発を背景にした広義の技術進歩であった。
また、日本経済は、産業構造・貿易構造を不断かつダイナミックに高度化させて、石油危機、円高等、幾多の環境変化に柔軟に対応してきた。
◇日本の国際競争力とその基盤
日本の製造業は、資本財等の分野を中心に高い国際競争力を保持してきた。
この要因として、@資本装備率の向上と相対的に低い賃金上昇率を背景とした労働生産性の向上、A国内外の市場競争の激しさを背景とした企業の生産性向上努力、B国内市場の大きさと自由貿易体制の下での海外市場の拡大による規模の経済性の発揮、などが考えられる。
しかし、最近では、景気低迷の影響による設備更新の遅れ、ドルベースでみた賃金上昇と単位労働コストの上昇による価格競争力の低下が懸念される。
国際競争が激化し競争の質が変化する中で、今後の製造業の国際競争力の向上には、ソフト開発力、ホワイトカラーの生産性向上、アウトソーシングの有効活用、独創的技術開発等が必要となってくる。
研究開発の現状を技術貿易面からみると、日本は通信・電子等の先端技術分野では依然欧米から技術導入が続き、また、ハード技術では海外依存が弱まりつつあるものの、ソフト技術では逆に海外依存が強まりつつある。研究開発支出面では、フローでは高い水準となりつつあるものの、ストックでは米国との格差が大きい。また、基礎研究比率や政府研究比率の低さも目立っている。
次に、日本のサービス産業部門の競争力の現状をみると、日本は主要国中第一位のサービス貿易赤字国であり、輸出のサービス集約度も低く、国際競争力が弱い。また、国際競争にさらされず国内の諸規制によって保護されてきた結果、生産性が低く、製造業とサービス産業の間には大きな生産性格差及び名目価格差が生じている(第4図参照)。
本来、労働集約的なサービス産業の生産性向上には情報化が鍵となるが、近年、日米間の情報化の度合いに大きな格差が生じている(第5図参照)。また、サービス産業でも、情報通信技術を応用した技術開発が重要性を増しつつある中、この面での日本の取組みの遅れが懸念される。
さらに、米国では、通信、金融をはじめ広範なサービス分野で規制緩和が進展し、競争促進による生産性の向上が達成されてきたが、日本では、規制緩和等による競争の活性化は端緒についたところであり、今後の一層の展開が必要である。
サービス産業と製造業のつながりは深化しつつあり(第6図参照)、サービス産業の生産性向上の経済全体への波及効果は大きい。今後は、サービス産業の生産性向上と、それを通じた日本経済全体のパフォーマンスの改善が期待される。
◇日本の輸出入構造
日本の輸出入は、国際分業の進展に伴い構造変化を遂げ、輸出入とも、資本財、機械類部品のシェアが増加し、地域では東アジアとの関係が深くなっている。
九七年の日本の輸出は、対前年比一三・九%増と伸びを高める一方、輸入は対前年比七・八%増と伸びが鈍化した結果、貿易収支の黒字は五年振りに増加した。
九七年の輸出金額の伸びは、輸出数量の増加によるところが大きい。輸出数量関数の推計を行うと、輸出数量の伸びの要因は、米国をはじめとする海外景気の拡大によるところが大きい。
また、輸出の価格弾力性の推移をみると、過去に比べ低下傾向にあり、日本の輸出が価格の影響を受けにくくなっていることがわかる。
次に、輸入について伸び率の財別寄与度をみると、耐久消費財、非耐久消費財の寄与が減少する一方、工業用原料、資本財は依然寄与が大きい。輸入伸び率を数量要因と価格要因に分解すると、九七年の輸入は価格要因の寄与が縮小したため、金額ベースでの伸びが鈍化したことがわかる。
一方、数量要因は価格要因ほど寄与が縮小していない。輸入数量の推移を財別でみると、耐久消費財、非耐久消費財が鈍化する一方、資本財は増加している。
また、通商産業省の調査によると、今後さらに円安が進展したとしても、海外からの部品調達を抑制すると回答した企業は約二割にとどまる。さらに、逆輸入比率も概ね拡大している。
このように、国際分業の進展に伴う輸入構造の変化が影響し、円安にもかかわらず輸入を拡大させる要素が強くなってきているものと考えられる。
◇日本の経常収支の現状
日本の経常収支は、減少傾向から増加に転じて、九七年は十一兆四千億円となった。対GDP比で日本と他の先進国の貿易・サービス収支を比較すると、日本は比較的低い水準にあるが、対外純資産残高の増加に伴い拡大している所得収支黒字の規模が大きいことから、日本の経常収支黒字の対GDP比は、高い水準となっている。
◇通商問題の変遷と通商政策の流れ
戦後の日本経済は、世界経済との関わりの中で発展を遂げてきており、通商政策は日本の対外経済関係の接点としての役割を担ってきた。そしてその目的は、自由な通商体制を維持し、内外の経済環境に対応していくことであったといえる。
戦後の通商政策は、経済復興のための貿易・技術導入を円滑化することと、世界通商システムへ参加することに始まった。七〇年代になると、世界不況下において顕在化した各国の保護主義の圧力を抑制するために、GATTの下で東京ラウンドを推し進め、同時に貿易摩擦の回避に取り組んできた。八〇年代に入り、各国経済との相互依存が深化するとともに、海外直接投資やサービス貿易等の新たな分野が政策対象となり、またAPECのような地域間協力等、その政策手段も多様化してきた。
<第4章> グローバライゼーションと日本経済
◇日本企業のアジアを中心とした国際展開の進展
日本企業は、直接投資を通じて海外事業展開を進め、グローバライゼーションの一端を担ってきた。
特に近年アジア向けの機械産業を中心とした投資の拡大が顕著である。アジアへの進出は、従来の低コスト生産を目的としたものに加え、近年、アジアの経済成長を背景に、アジア市場の確保を目的としたものも増大し、その結果、現地日系企業の現地・域内への販売比率は拡大している。また、部品等の現地・域内からの調達比率、再投資額が増大し、設計開発機能の現地への移転も進むなど、日本企業のアジアにおける事業展開には深化がみられる。
こうした事業展開の深化によるアジアの現地生産能力の高まりは、アジア向けの部品、機械等の輸出やアジア現地法人からの逆輸入を増大させている。これに伴い、日本の輸出入において資本財のウェイトが高まってきている。
日本企業の国際展開の拡大・深化に応じて、国内外の生産の棲み分けも進展している。アンケートから企業戦略をみると、@国内販売向け生産は国内で、A国内生産は新モデルや高級品種に特化する方向へ進むとしており、それらの前提となる国内の研究開発機能は、基礎的かつ高度な研究開発にシフトしつつ、現状維持ないしは拡大の方向にあるとしている。
他方、生産の棲み分けで、アジアで生産された汎用品は、国内生産の高付加価値化を補完するものと考えられる。
◇アジア通貨危機の日本企業に与える影響
日本企業のアジアにおける事業展開の深化もあって、日本とアジアの経済的結びつきは深まっており、今般のアジア通貨危機が日本に与えるインパクトは大きいと考えられる。
アンケートによると、アジア現地法人は、為替差損、内需不振、調達コスト増等を理由に、約六割が悪影響を受けるとしており、この度合いは現地販売比率や原材料の輸入比率が高いほど大きい。他方、本社企業では、九割の企業がアジア向け輸出の減少、アジアでの為替差損、アジアからの利益還流の減少等を理由に、悪影響を受けるとしている。
日本企業の対応としては、本社企業の三分の二はアジアの持続的成長を信頼し、アジア戦略の見直しはないとする一方、残る三分の一の企業は、当面の追加投資の抑制、内需向けから輸出向け生産への切り替え等の対応を行うとしている。
また、現地法人の対応では、新規投資の削減・凍結、拠点の再編、雇用調整のほか、部品の現地化や現地人材の登用の促進があげられている。
◇事業環境としての日本の魅力(日本の対内直接投資)
企業活動のグローバル化の進展は、各国の事業環境が国際的な評価にさらされることを意味する。国際的にみた事業環境の魅力を示すものの一つとして、対内直接投資の動向をみると、日本は主要先進国の中で少ない状況にあることがわかる(第7図参照)。
日本における事業活動上の問題点としては、事業コストの高さ等の指摘が多いが、中間投入の内外価格差をみると、特に非製造業関連の事業コストが国際的にみて割高になっていることがわかる(第8図参照)。
また、米国系海外子会社の収益率を地域別にみると、日本は低水準で推移しており、これも、これまで外国企業の日本への進出が少なかった背景の一つにあるものと考えられる。
こうした中、最近においては、非製造業を中心に日本の対内直接投資も増加傾向を示している。国際的に魅力ある事業環境を整備することで、外国企業の日本への進出が一層活発化すれば、優れた経営資源の導入や競争環境の創出といった効果が期待される。また、そうした事業環境の整備は、新規産業の創出を促すなど、グローバライゼーションの下で日本経済が引き続き活力を維持していくためにも重要な課題である。
<第5章> 日本経済の再活性化のために
◇日本経済の構造改革
(1) 経済の活力を高めるための事業環境整備
<起業家精神の発揮を促す事業環境整備>
競争は、競争の行われるフィールドにおける効率的な資源配分を促すとともに、競争の各主体に創造性や革新性の発揮に向けた強力なインセンティブを与えることを通じて、新たな市場を創出し、経済のフロンティアを拡大させるという効果を持っている。
日本では、新規産業の創出等を目的に策定された「経済構造の変革と創造のためのプログラム」(九六年十二月)及び「経済構造の変革と創造のための行動計画」(九七年五月)に従い、民間の活力を引き出すための各般の規制緩和が精力的に進められつつある。
この中には、流通・物流関連分野や情報通信関連分野の一部をはじめ、広範な非製造業部門において、競争的な市場を形成するための抜本的な規制緩和措置が含まれている。日本では非製造業部門の生産性の伸びが相対的に低いことが課題であるが、こうした取組みの推進により、非製造業部門においても競争が促進され、国際競争力が向上するばかりでなく、これらを中間投入として利用する製造業の競争力も向上し、経済パフォーマンス全体の改善につながっていくことが期待される。
<国際的に魅力ある事業環境整備>
また、グローバライゼーションの進展により、競争の行われるフィールドは、国境を越えて世界規模に拡大している。世界のより強力な競争相手と同じ土俵に立って競争を行うことによって、競争が国内のみに限られている状態と比べると、より高度な技術革新に向けたインセンティブが強められると考えられる。
特に、企業の活動基盤そのものが自由に国境を越えるという形でのグローバライゼーションが進展すると、それまで必ずしも競争的な環境になかった非貿易財関連産業にも、国際競争の圧力が加えられ、相互の企業努力によって市場が拡大するとともに、効率的な財・サービスの提供が可能となるものと考えられる。
このようなグローバルな競争の果実を日本国内に取り込んでいくためには、日本の投資環境を内外の事業者にとって魅力的なものとしていくための取組みが必要である。具体的には、前述した規制緩和等により、日本の高コスト構造を是正するとともに、企業組織制度や企業税制をはじめとする企業関連諸制度の改革、労働・雇用制度改革等を行っていくことが必要である。さらに、国際的に魅力のある投資環境を整えていくという観点からは、国民や企業の公的負担を抑制するための取組みも重要である。
(2) 生産性の向上―長期の成長基盤の確保
<研究開発の推進とその成果の活用>
技術革新を通じて新たな経済フロンティアが創出される過程で、最も重要な働きをするのは、研究開発活動である。基本的には、前述した自由で競争的な環境の下で、民間の技術革新に向けた努力、すなわち研究開発活動が活発に行われ、さらに得られた成果が他の経済主体にスピルオーバーすることにより、経済全体の活力が高められていくものと考えられる。
しかし、研究開発活動は、それによって得られる成果が対価を払うことなく利用可能となりやすいという公共財的な性格を有するばかりでなく、必要とされるコストや成否等、多くの点で不確実性が高いため、他の通常の企業活動に比べてリスクが大きい。従って、研究開発活動への資源の投下は、社会的に望ましい水準よりも過少になる可能性がある。こうした点を踏まえ、研究開発活動への資源の配分が社会的に望ましいものとなるよう、公的セクターも一定の役割を果たすべきであろう。
政府として必要な取組みは、まず、研究開発活動を促すため、研究開発によって得られた成果について、一定の独占権を法的に認める特許等の知的財産制度を充実させることである。日本では、従来、知的財産の保護の程度が諸外国に比して弱いという指摘がなされてきたが、第百四十二回通常国会に「特許法等の一部を改正する法律案」が提出された。同法案には、原告の立証責任を軽減するとともに、賠償額の引上げを可能とする措置が盛り込まれており、これにより知的財産の保護強化が進展することが期待されている。
次に、政府が研究開発に直接関与する方法としては、政府が自ら研究開発を行う場合と、民間セクターが行う研究開発活動を助成する場合とがある。
基礎的・独創的な研究開発やエネルギー環境問題、少子・高齢化問題等の社会的要請に対応した研究開発については、公共財的な性格が特に強く、本来、民間では行われにくいため、大学や国立試験研究機関といった非民間セクターが主体的に研究開発活動を行い、その成果をライセンスの供与、共同研究の実施等といった形で民間セクターに還元することが期待される。
一方、民間セクターが実施する研究開発については、本来、市場の動向等に沿って自主的に進められるものの、社会的重要度やリスクの高さ等によっては、政府が助成することが望まれる。
最近の動きとしては、既に述べた「経済構造の変革と創造のための行動計画」等において、新規産業の創出を円滑化するため、今後発展が見込まれる十五分野ごとに具体的な研究開発課題を明示し、その実施を推進していくこととしているほか、社会的・経済的ニーズが強い研究課題については、大学、国立試験研究機関等の研究能力を活かした産学官連携による研究開発を推進していくこととしている。
このような取組みの一環として、第百四十二回通常国会に「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律案」が提出された。同法案には、大学や国立試験研究機関における研究成果が、市場メカニズムを介して産業化され、社会に有効に活用されるとともに、その対価が大学等の研究資金として適正に還流するという知的創造サイクルが創り出されるよう、技術移転事業に対する各種の支援措置が盛り込まれている。
<生産要素のより効率的な調達と活用>
次に、長期的な経済成長を規定する要素のうち、資本や労働といった生産要素について、それらを企業レベルあるいは経済全体でより一層効率的に調達、活用し、日本経済の活力を高めていくための方策について述べる。
@ 企業組織の柔軟性の確保に向けた取組み
グローバライゼーションの進展により、様々な資金が効率性の高い市場を求めて活発に移動するようになっている。こうした中、相対的に資本効率の劣る市場には、このような活発な資金の流入は起こらず、結果として経済の活力が損なわれかねない状況となっている。
日本企業は欧米企業に比べて、株主の利益を重視して資本効率を高めようという経営姿勢が相対的に弱いと考えられるが、今後は、こうした世界的な資本移動の活発化等を踏まえ、企業組織を柔軟に見直すことなどを通じ、高い収益率や株主への利益の還元を重視した経営を行っていくことが重要である。
こうした中、政府としては、企業の経営効率化に向けた取組みを妨げるような制度・規制の改革に努めるとともに、このような取組みが市場を通じて円滑に行われるよう、制度の構築を行っていく必要がある。
例えば、企業が、非効率で不採算な事業部門の売却や、外部の経営資源を獲得するための企業買収あるいは合併を円滑に行いうるような環境を整備していくことが必要である。また、分社化を促進するための環境整備について検討を行っていくことも課題といえる。
こうした企業組織の柔軟な見直しを可能とする取組みの進展により、企業自身が資本や労働といった経営資源をより効率的に活用して、経営効率を高めていくことが期待される。
A 資金面からの取組み
資金の調達や運用をはじめとする財務活動は、いうまでもなく、企業が事業活動を営む上で極めて重要なものである。グローバライゼーションの進展に伴い、企業間の競争が世界的に激しくなっている現在、効率的な資金調達や運用の場が整備されるとともに、リスクヘッジ等の様々な財務ニーズに応じて、質の高い、多様な金融サービスが自由競争の下で提供されることは、金融サービスのユーザーとなる企業の競争力の維持・向上の観点から不可欠である。
これについては、六大改革の一つである「金融システム改革」が進捗し、銀行や証券会社等の金融機関に対する競争制限的な規制が撤廃・緩和されるに従って、金融機関相互の競争が促進され、提供されるサービスの質の向上やコストの低減が図られていくことが期待される。
次に、新規産業の創出を通じて経済フロンティアを拡大していくという意味では、新規産業を担うベンチャー企業に円滑にリスクマネーが供給されていくことが不可欠である。このため、店頭登録市場における取引の活性化や、未登録・未上場株式への投資を促進するための取組みを強めていく必要がある。また、こうした資本市場の整備に加え、ベンチャー企業への資金供給源を多様化していくことも重要である。
日本は米国に比して、ベンチャー企業への資金供給源が、国内の事業法人や金融機関に偏っている。こうした点を踏まえ、潜在的に有力な資金供給源であると考えられる年金基金や、海外の投資家等からの資金供給を円滑化するための措置を盛り込んだ「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律案」が、第百四十二回通常国会に提出された。こうした措置により、新規産業分野へのリスクマネーの供給が円滑化されることが期待される。
B 労働面からの取組み
日本では、国内外の企業を問わず、新規に日本で事業を始める際の問題点の一つとして、人材の確保難が指摘されている。こうした人材の確保難を緩和し、日本の事業環境を国内外の事業者にとって魅力的なものとしていくためには、例えば、転職の前後における企業年金の通算可能性(ポータビリティ)を確保するなど、人材の円滑な移動を制約している条件を改め、人材が転出入しやすい環境を整備していくことが重要である。
また、日本が今後、より独創的な製品やサービス、生産工程等を生み育て、世界のフロントランナーとして飛躍していくためには、創造性、革新性を有する人材が、適材・適所でその能力を十分発揮できる環境を整備していくことも必要である。このため、柔軟で選択可能な雇用システムを構築するとともに、裁量労働制の適用対象業務を拡大するなど、自律的かつ創造的な働き方を実現していくことが重要である。
一方、人材移動の制約の緩和や、柔軟で選択可能な雇用システムの構築等により、労働市場の「市場」としての機能が、より強められていくことが見込まれる。このため、労使間の合意形成ルール、紛争処理システムを整備するなど、市場機能の発揮によって生じる摩擦を緩和するためのセーフティネットを充実することが重要である。
次に、労働の量的側面に注目すると、日本では少子・高齢化の進展により、労働力人口の源泉である生産年齢人口が既に減少に転じており、今後の伸びは期待できない状況となっている。このような量的制約は、意欲のある女性や高齢者の就労が促進されることで、ある程度緩和することが可能である。このため、育児休業制度の定着促進等を通じて、女性が職業生活と家庭生活を両立させやすい環境を整備することや、高齢者のニーズに見合った就業機会の確保に努めるなど、女性や高齢者がより働きやすい環境を整備することが重要であろう。
一方、経済のサービス化や高付加価値化、情報化の進展等に伴い、これらの変化に対応したより高い技能を持った人材に対する需要が高まっていることを踏まえ、企画・開発能力等を有する高度で多様な人材の育成を図っていくことも重要である。また、人材移動がより活発になっていくことが予想される中、今後は、個人が自身の能力開発をより主体的に行っていくことが重要であり、そのための環境整備も求められる。
◇日本の通商政策の方向性
世界経済の潮流が大きく変化する中、各国は新しい世界通商システムの構築への動きを加速しており、その重要な担い手として、日本の行動がこれまで以上に注目を集めている。
以下、今後日本がとるべき通商政策の方向性を提示していく。
(1) 多角的通商体制の維持・発展のためのルール構築
世界各国が様々な接点を通じて相互に関係を深めていくとともに、国際経済問題を特定の国のみで解決することが難しくなっており、多角的通商システムの下で、各国の合意に基づくルールを構築し、その実効性を高めることが重要である。
<多角的通商システムの維持>
日本の経済発展にとって、貿易や投資が円滑に行われることは必要不可欠であり、自由で無差別な多角的通商システムの維持はその前提である。WTOルールを着実に実施し、各国の保護主義的な動きを常に監視するとともに、中国、ロシア等、WTO未加盟国を枠内に組み込むことが重要である。
また、世界経済のおよそ二割を占める日本経済自身が、世界で最も開かれた市場として存在するために、市場環境をさらに整備し、各国との相互理解に努めていくことが必要不可欠である。
<新しい分野における国際ルールの形成>
日本企業をはじめとする各国企業活動の急速なグローバル化を背景に、国際経済取引の形態が多様化しており、投資、サービス貿易、知的財産保護、競争政策、電子商取引等の新しい分野における包括的ルールを構築していくことが重要な課題となっている。
内外のグローバル企業活動を円滑化し、世界大での資源利用の効率化を図るための国際ルールを確立していくことが重要である。
(2) グローバル事業環境整備
企業が世界全体を視野に入れた活動を展開する中で、日本の通商政策においても、世界を一つの市場と認識し、各国と協力してその事業環境整備を行うという視点が重要になっている。市場の基盤となる各国の制度の整備を促進するとともに、各国の制度を調和させていくことが重要な課題となっている。
<国際事業環境整備>
特に東アジア諸国等、多くの日本企業が活動を展開している地域において、投資に関する法制度と明確な運用体制、競争政策、知的財産制度等の不備が、円滑な活動を阻害する要因になっている。こうしたソフト面を中心としたインフラ整備を資金面、人材面を含め支援していくことが必要である。
また、各国市場における不確実性を除去するために、多数国間投資保証機関(MIGA)による保証制度や、APECにおける貿易保険機関間の協力、国際商事仲裁システムの拡充等を進めていくことが重要である。
また、情報収集及びデータベースの整備等による情報提供を進めていくことも重要である。
<制度の調和と国際標準化>
海外と日本の制度が異なることが、グローバルな経済活動の展開の阻害要因とならないように、互いの制度を調和させていくことが重要である。
第一に、日本の国内制度を世界大の市場を意識して再考し、グローバルな経済活動にとって制度の差異が障害となる部分の調整を進めていくことが必要である。具体的には、相互承認や競争政策の調和を進めるとともに、各種国内法制度等を常に見直していくことが求められる。
第二に、国際規格・標準の策定も重要である。グローバル企業と連携し、戦略的に国際規格・標準化を進めていくとともに、日本の規格を考える際にも、常に国際規格を念頭におくことが重要である。
(3) 経済発展基盤強化への支援
日本経済は世界経済と密接不可分の関係にあり、世界経済全体の発展、特に貿易・投資面において関係の深い東アジアにおける持続的な経済発展を確保していくことも重要である。このため各国が抱える脆弱性の克服に向けた支援を行っていくとともに、世界経済全体の発展に寄与する研究開発協力を進めていくことが重要である。
<各国の持続的経済発展支援>
グローバライゼーションの進展は、東アジアにおける通貨・経済危機にみられるような各国の脆弱性を一気に顕在化させるリスクを増大させ、貿易や投資、対外資産等を通じて日本経済及び世界経済に大きな影響を与えるおそれがある。
東アジアをはじめ新興工業国は、貿易・投資や資金流入といった対外取引に大きく依存しており、貿易保険を活用して各国への民間資金流入を支援するとともに、IMF等とともに各国の信用回復に向けた施策を支援することが重要である。
また中長期的には、各国の経済基盤強化への支援を行っていくことが求められる。前述した市場制度整備の支援とともに、裾野産業育成、人材育成及びインフラ整備のための資金協力や専門家派遣、研修生受入れ等の人材面での支援等により、各国の産業構造上の脆弱さの克服に向けた協力を行うことが重要である。
<世界の技術水準向上に資する技術移転・国際研究協力>
先端的技術研究は、国際公共財的側面を持ち、世界経済全体の技術水準を高めることが期待されることから、各国間の研究協力を進めていくことが重要である。現在進められているAPEC等における環境関連技術協力等、技術水準の向上を目的とした取組みを促進していくことが必要である。
◇国際通商システムの中での通商政策の具体的取組み
通商政策を行うにあたっては、多角的枠組み(マルチラテラル)、地域的連携(リージョナル)、二国間の枠組み(バイラテラル)を利用していくことになる。
(1) 多角的枠組みへの積極的取組み
<国際ルールの構築>
ウルグァイ・ラウンドで合意されたサービス貿易一般協定(GATS)等、新たな諸協定については、二〇〇〇年前後から規定の全般的見直しを行うことが協定上で明示されている。民間主体とも意見を交換しつつ、自由で公正なルールの形成に向けた方針を固め、他の国際機関における議論との一貫性を保ちながら検討を深めることが重要である。
また、環境問題等についても、基本的に自由貿易との両立を図るという観点から議論を進めていく必要がある。
他方、こうしたルールの形成に日本の戦略を反映させていくためには、国際機関や会議への人的・知的貢献を政府と民間部門が協力して行っていくなど、実質的影響力の強化を図っていくことも重要な課題といえよう。
<既存ルールの維持発展>
反ダンピング関税や原産地規則等における各国の不透明な貿易制限的措置を監視・是正していくこと、さらには基準の明確化を絶えず検討していくことが、多角的貿易システムを安定的に維持する上で重要である。またWTOの紛争解決手続を積極的に活用するとともに、その精緻化に努めていく必要がある。
(2) 地域的枠組みへの対応
日本は制度的枠組みを持つ地域統合に参加していない数少ない先進国であり、それらの地域統合が通商制限的措置をとらないよう監視していく必要がある。また、APECやASEMといった開かれた地域協力の枠組みにおいて、様々な取組みを行っていくことが今後ますます重要になってくる。
<各地域の制限的措置の除去>
現在の地域統合は、域外への障壁を引き上げない点において、戦前の地域ブロックとは性質が異なる。しかし、原産地規則等を利用した高度に技術的な差別化によって、貿易・投資を歪曲する危険性があり、こうした動きが資源の効率的配分を妨げる危険性を監視、除去していくことが重要である。
<地域連携によるグローバル事業環境整備>
APECは通商自由化推進の場というだけではなく、知的財産や相互承認、紛争仲介制度等、貿易・投資に関わるソフトインフラも含めた環太平洋地域のグローバル事業活動環境の整備を広く行っていく場として重要である。また、他地域の経済統合との連携を通じ、制度の調和や国際標準化等を積極的に進めていくことも重要である。
<地域協力を通じた経済発展基盤強化への支援>
九七年に発生した東アジアにおける通貨・経済危機に対応するため、APECやASEM等地域的枠組みを活用して、アジア太平洋地域の安定的発展を目指す様々な形での取組みが進められてきている。貿易・投資面で一層関係を深めているアジア太平洋地域において、各国の経済基盤強化への取組みを支援していく手段として、こうした地域的枠組みを利用していくことが重要になってきている。
(3) 新たな二国間関係の構築
各国経済があらゆる側面において相互関連を深めるとともに、二国間の摩擦と相互理解の対象は水際措置やグローバル企業の行動のみならず、各国の経済構造や国内制度全般に広がっている。
<国際ルールの下での二国間交渉>
紛争対象の変化とともに、世界通商システムにおいてWTOという機関が成立したことが、最近の日本の二国間交渉方針のあり方に大きな影響を及ぼしている。すなわち、紛争解決の手続が強化されるとともに、WTOルールが対象とする通商上の紛争解決については、一方的措置が禁止された。また、輸出自主規制等により解決を図ることも明示的に禁止された。
今後の二国間での紛争解決は、国際的なルールと手続に基づいて進めていくことが最も有効な手段となろう。またサービス分野等、国内経済制度に関する紛争が頻発することが予想される中で、そうした問題に対応していくために、国内経済構造の現状や国際ルールとの関係を常に検討しておくことが重要である。
<経済制度の調和と相互理解>
前述した制度の調和や標準化においては、経済関係の深い二国間においてきめ細かく進めていくことが重要である。相互承認をはじめ税関手続の円滑化、規格の標準化、競争政策における協力や知的財産保護手続の調和等、二国間においてこうした手続や制度の調整を行い、摩擦の要因を除去していくとともに、こうした取組みを多数国間の枠組みへ広げていくよう努めていくことが必要である。
<アジアを中心とした経済発展基盤の強化支援>
分業構造の深化を通じて日本経済とアジア経済は密接不可分な関係になっており、各国の脆弱性を克服し、今後の経済発展を支援することは重要な政策課題といえる。その際、各国の産業構造を十分に把握した上で、二国間で資金・技術両面からきめの細かい協力を行っていくことが重要である。
特に、裾野産業育成や人材育成等ソフト面の支援、民間の技術や資金を利用したインフラ整備、環境保全設備等ハード面の支援等、多角的・総合的に協力を進めていくことが求められる。
(4) 政府と民間部門の連携と役割の明確化
経済構造全般に関わる国際ルールを構築し、その下で通商上の問題を解決することが必要となる中、それに関わる各経済主体、すなわちグローバル企業や国内関係者等との情報交換を積極的に行い、通商政策へ反映させていくことが重要性を増している。
同時に、各国の民間部門における関係者間での建設的な意見交換、ひいては政策提言を行う環境づくりを支援していくことも必要であろう。
他方、今後の通商政策を責任を持って遂行していくためにも、政府と民間部門の役割を明確にしていくことが前提条件となる。すなわち、政府の通商政策の任務は、競争環境や投資環境の整備、国際ルールの確立など、市場を形成し、機能させていくことと、市場経済活動に委ねるだけでは回避できない深刻なリスクをカバーしていくことにあり、民間部門の経済活動そのものに直接的に関与するものではないことを明らかにしておくことが重要である。
目次へ戻る
賃金、労働時間、雇用の動き
◇賃金の動き
四月の規模五人以上事業所の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は二十九万七千四百六十三円、前年同月比は〇・五%減であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十九万八百二十六円、前年同月比〇・四%減であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十七万一千五百六十四円、前年同月比〇・二%増で、所定外給与は一万九千二百六十二円、前年同月比は八・二%減となっている。
また、特別に支払われた給与は六千六百三十七円、前年同月比五・一%減となっている。
実質賃金は、〇・七%減であった。
産業別にきまって支給する給与の動きを前年同月比によってみると、伸びの高い順に鉱業二・〇%増、サービス業〇・三%増、卸売・小売業、飲食店〇・一%増、製造業〇・五%減、電気・ガス・熱供給・水道業〇・七%減、運輸・通信業〇・七%減、金融・保険業一・〇%減、建設業一・六%減、不動産業一・六%減であった。
◇労働時間の動き
四月の規模五人以上事業所の調査産業計の常用労働者一人平均月間総実労働時間は一六二・九時間、前年同月比一・〇%減であった。
総実労働時間のうち、所定内労働時間は一五二・八時間、前年同月比〇・三%減、所定外労働時間は一〇・一時間、前年同月比九・九%減、季節調整値は前月比一・二%減であった。
製造業の所定外労働時間は一二・六時間で前年同月比は一七・一%減、季節調整値は前月比二・六%減であった。
◇雇用の動き
四月の規模五人以上事業所の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・三%増、常用労働者のうち一般労働者では〇・三%減、パートタイム労働者では三・五%増であった。常用労働者全体の季節調整値は前月比〇・二%減であった。
常用労働者全体の雇用の動きを産業別に前年同月比によってみると、サービス業二・一%増、建設業一・〇%増、運輸・通信業〇・四%増とこれらの産業は前年を上回っているが、不動産業〇・一%減、卸売・小売業、飲食店〇・五%減、製造業〇・八%減、電気・ガス・熱供給・水道業〇・九%減、金融・保険業二・六%減、鉱業四・〇%減と前年同月を下回った。
主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者一・〇%減、パートタイム労働者〇・九%増、卸売・小売業、飲食店では一般労働者一・〇%減、パートタイム労働者〇・八%増、サービス業では一般労働者〇・九%増、パートタイム労働者八・三%増となっている。
平成十年五月の十五歳以上人口は、一億七百十九万人(男子:五千二百四万人、女子:五千五百十五万人)となっている。
これを就業状態別にみると、労働力人口(就業者と完全失業者の合計)は六千八百九十一万人、非労働力人口は三千八百十八万人で、前年同月に比べそれぞれ十五万人(〇・二%)増、四十九万人(一・三%)増となっている。
また、労働力人口のうち、就業者は六千五百九十七万人、完全失業者は二百九十三万人で、前年同月に比べそれぞれ三十五万人(〇・五%)減、四十九万人(二〇・一%)増となっている。
◇就業者
(一) 就業者
就業者数は六千五百九十七万人で、前年同月に比べ三十五万人(〇・五%)減と、四か月連続の減少となっている。男女別にみると、男子は三千八百八十三万人、女子は二千七百十四万人で、前年同月と比べると、男子は四十七万人(一・二%)の減少、女子は十二万人(〇・四%)の増加となっている。
(二) 従業上の地位
就業者数を従業上の地位別にみると、雇用者は五千三百七十二万人、自営業主・家族従業者は一千二百八万人となっている。前年同月と比べると、雇用者は二十七万人(〇・五%)減と、四か月連続の減少となっている。また、自営業主・家族従業者は七万人(〇・六%)減と、四か月連続の減少となっている。
雇用者のうち、非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○ 非農林業雇用者…五千三百三十九万人で、二十九万人(〇・五%)減少
○ 常 雇…四千七百六十一万人で、四十万人(〇・八%)減少
○ 臨時雇…四百六十九万人で、十一万人(二・四%)増加
○ 日 雇…百九万人で、同数(増減なし)
(三) 産 業
主な産業別就業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○ 農林業…三百八十五万人で、十五万人(四・一%)増加
○ 建設業…六百七十四万人で、四万人(〇・六%)減少
○ 製造業…一千三百九十五万人で、五十六万人(三・九%)減少
○ 運輸・通信業…四百七万人で、五万人(一・二%)増加
○ 卸売・小売業、飲食店…一千四百八十万人で、六万人(〇・四%)減少
○ サービス業…一千六百七十三万人で、八万人(〇・五%)増加
対前年同月増減をみると、農林業は前月(十一万人増)に比べ増加幅が拡大している。サービス業は前月(三十万人増)に比べ増加幅が縮小している。運輸・通信業は前月の四万人減から増加に転じている。一方、建設業及び製造業は前月(それぞれ十一万人減、七十四万人減)に比べ減少幅が縮小している。「卸売・小売業、飲食店」は前月の九万人増から減少に転じている。
また、主な産業別雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○ 建設業…五百六十一万人で、四万人(〇・七%)増加
○ 製造業…一千二百六十五万人で、四十六万人(三・五%)減少
○ 運輸・通信業…三百八十七万人で、六万人(一・六%)増加
○ 卸売・小売業、飲食店…一千百八十一万人で、六万人(〇・五%)増加
○ サービス業…一千四百二十二万人で、五万人(〇・四%)増加
対前年同月増減をみると、「卸売・小売業、飲食店」及びサービス業は前月(それぞれ十六万人増、十九万人増)に比べ増加幅が縮小している。建設業及び運輸・通信業は前月の減少(それぞれ二万人減、六万人減)から増加に転じている。一方、製造業は前月(五十八万人減)に比べ減少幅が縮小している。
(四) 従業者階級
企業の従業者階級別非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○ 一〜二十九人規模…一千七百五十七万人で、十一万人(〇・六%)増加
○ 三十〜四百九十九人規模…一千七百三十五万人で、五十二万人(二・九%)減少
○ 五百人以上規模…一千二百九十七万人で、二十一万人(一・六%)増加
(五) 就業時間
非農林業の従業者(就業者から休業者を除いた者)一人当たりの平均週間就業時間は四三・一時間で、前年同月に比べ〇・四時間の減少となっている。
このうち、非農林業雇用者についてみると、男子は四七・二時間、女子は三七・一時間で、前年同月に比べ男子は〇・三時間の減少、女子は〇・二時間の減少となっている。
また、非農林業の従業者の総投下労働量は、延べ週間就業時間(平均週間就業時間×従業者総数)で二六・三一億時間となっており、前年同月に比べ〇・四七億時間(一・八%)の減少となっている。
(六) 転職希望者
就業者(六千五百九十七万人)のうち、転職を希望している者(転職希望者)は五百八十六万人で、このうち実際に求職活動を行っている者は二百二十四万人となっており、前年同月に比べそれぞれ二十七万人(四・八%)増、十七万人(八・二%)増となっている。
また、就業者に占める転職希望者の割合(転職希望者比率)は八・九%で、前年同月に比べ〇・五ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男子は八・七%、女子は九・一%で、前年同月に比べ男子は〇・三ポイントの上昇、女子は〇・七ポイントの上昇となっている。
◇完全失業者
(一) 完全失業者数
完全失業者数は二百九十三万人で、前年同月に比べ四十九万人(二〇・一%)増加し、比較可能な昭和二十八年以降で最多となっている。男女別にみると、男子は百七十六万人、女子は百十七万人で、前年同月に比べ男子は四十万人(二九・四%)の増加、女子は九万人(八・三%)の増加となっている。
また、求職理由別完全失業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○ 非自発的な離職による者…八十七万人で、三十五万人増加
○ 自発的な離職による者…九十五万人で、六万人減少
○ 学卒未就職者…十七万人で、一万人減少
○ その他の者…八十一万人で、十九万人増加
(二) 完全失業率(原数値)
完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)は四・三%で、前年同月に比べ〇・八ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男子は四・三%、女子は四・一%で、前年同月に比べ男子は一・〇ポイントの上昇、女子は〇・三ポイントの上昇となっている。
(三) 年齢階級別完全失業者数及び完全失業率(原数値)
年齢階級別完全失業者数、完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
〔男 子〕
○ 十五〜二十四歳…三十八万人(五万人増)、八・五%(一・四ポイント上昇)
○ 二十五〜三十四歳…三十八万人(九万人増)、四・三%(一・〇ポイント上昇)
○ 三十五〜四十四歳…二十二万人(八万人増)、二・八%(一・〇ポイント上昇)
○ 四十五〜五十四歳…二十八万人(六万人増)、二・九%(〇・六ポイント上昇)
○ 五十五〜六十四歳…四十三万人(十二万人増)、六・四%(一・八ポイント上昇)
・五十五〜五十九歳…十三万人(三万人増)、三・三%(〇・七ポイント上昇)
・六十〜六十四歳…三十万人(九万人増)、一〇・五%(三・〇ポイント上昇)
○ 六十五歳以上…八万人(二万人増)、二・五%(〇・六ポイント上昇)
〔女 子〕
○ 十五〜二十四歳…三十四万人(三万人増)、八・〇%(〇・八ポイント上昇)
○ 二十五〜三十四歳…三十二万人(一万人減)、五・八%(〇・三ポイント低下)
○ 三十五〜四十四歳…十九万人(五万人増)、三・六%(一・〇ポイント上昇)
○ 四十五〜五十四歳…十八万人(一万人増)、二・六%(〇・二ポイント上昇)
○ 五十五〜六十四歳…十一万人(一万人増)、二・六%(〇・二ポイント上昇)
○ 六十五歳以上…一万人(同数)、〇・五%(同率)
(四) 世帯主との続き柄別完全失業者数及び完全失業率(原数値)
世帯主との続き柄別完全失業者数、完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○ 世帯主…八十五万人(二十万人増)、三・一%(〇・七ポイント上昇)
○ 世帯主の配偶者…三十八万人(五万人増)、二・六%(〇・四ポイント上昇)
○ その他の家族……百二十六万人(十六万人増)、六・七%(〇・七ポイント上昇)
○ 単身世帯…四十四万人(八万人増)、五・五%(一・〇ポイント上昇)
(五) 完全失業率(季節調整値)
季節調整値でみた完全失業率は前月と同率の四・一%で、比較可能な昭和二十八年以降で最高となっている。男女別にみると、男子は四・三%で過去最高、前月に比べ〇・一ポイントの上昇、女子は三・九%で、前月に比べ〇・一ポイントの低下となっている。
平成九年平均消費者物価地域差指数(全国平均=一〇〇)を都市階級別にみると、総合指数(持家の帰属家賃を除く)は、大都市が一〇五・四、中都市が九九・三、小都市Aが九七・九、小都市Bが九五・七、町村が九五・八となっており、総じて人口規模が大きい階級ほど物価水準が高く、大都市の指数は町村に比べ一〇・〇%高くなっている。
二 関東地方の物価水準が最も高い
地方別にみると、関東が一〇三・三と最も高く、次いで近畿が一〇一・一、北海道が一〇〇・一で、これら三地方が全国平均を上回っている。
一方、最も低いのは、沖縄の九四・三で、次いで四国が九五・五、九州が九六・三となっている。
三 物価水準の最も高い東京都区部と最も低い宮崎市の格差は一六・三%
都道府県庁所在市別にみると、前年に引き続き東京都区部が一一一・二と最も高く、次いで横浜市が一〇七・九、大阪市が一〇七・一、京都市が一〇五・四、浦和市及び静岡市が一〇四・四、神戸市が一〇四・〇の順に続いている。
一方、最も低いのは、前年に引き続き宮崎市の九五・六で、東京都区部との格差は一六・三%となっており、次いで松山市が九五・九、那覇市が九六・二、大分市が九八・二、徳島市が九八・三の順に続いている。
四 食料の物価水準の最も高い東京都区部と最も低い鳥取市の格差は一〇・五%
食料の指数を地方別にみると、関東が一〇二・五と最も高く、次いで近畿が一〇一・五、東海が一〇一・二、北海道が一〇〇・一で、これら四地方が全国平均を上回っており、北陸が一〇〇・〇と全国平均と同水準となっている。
一方、最も低いのは、九州の九六・七で、次いで四国が九六・九、東北が九七・〇、中国が九七・五、沖縄が九七・六となっている。
また、都道府県庁所在市別にみると、東京都区部が一〇七・八と最も高く、次いで京都市が一〇七・〇、大阪市が一〇六・六、横浜市が一〇五・六、静岡市が一〇五・〇の順に続いている。
一方、最も低いのは、鳥取市の九七・六で、東京都区部との格差は一〇・五%となっており、次いで秋田市が九七・七、高松市が九七・八、山口市が九七・九、青森市が九八・二の順に続いている。
◇津波の特徴
(1) 津波の原因は地震によるものが最も多い
津波は、地震、海底火山の爆発、大規模な山崩れなどによって発生しますが、最も多いのは地震によるものです。「平成五年北海道南西沖地震」では、震源に近い奥尻島で、地震発生後数分で津波の第一波が急襲したといわれています。また、昭和三十五年のチリ地震津波では、地震からおよそ一日たってから、異常な引き潮の後、長い周期で津波が高潮のように押し寄せ、三陸海岸では波の高さが五〜六メートルにも達しました。この津波により、死者百十九人、行方不明者二十人という尊い人命が奪われました。
(2) V字型の湾は危ない
津波の被害は、海岸や海底の形状に大きく影響されます。一般に、外洋に直面するV字型の湾や海岸で、陸に近づくにつれて急に浅くなっているところでは、津波の波高は急に高くなります。
(3) 津波は川を逆流する
川の流れに逆らって、河口からさらに上流へと押し寄せる津波があります。川を逆流する津波の速さは、秒速十メートルにもなります。また、波が橋を押し流したり、堤防を越えることもあります。避難するときは、川沿いを避けなくてはなりません。
(4) 津波は繰り返し来襲する
津波は一回だけで終わることは少なく、時間をおいて何回か繰り返し襲ってきます。また、第一波よりも第二波、第三波の方が高くなることもあります。
(5) 海の異常現象を感じたら警戒し避難する
過去の津波では、津波が来襲する前兆として、遠雷のような音が聞こえたり、干潮でもないのに海水が急に引いたり、今まで見えなかった海底が見えたりしたといわれています。このような異常現象に遭ったら、津波を警戒して直ちに避難しましょう。
◇津波に対する心得
海辺へ行くときは、日ごろから避難標識や避難地案内板などで避難場所を確認しておく習慣を身に付けるとともに、次の事項を再確認して、津波による災害から身を守りましょう。
・強い地震(震度4程度以上)を感じたとき、又は弱い地震であっても長い時間ゆっくりとした揺れを感じたときは、直ちに海辺から離れ、急いで高台などの安全な場所に避難する。
・地震を感じなくても、津波警報が発表されたときは、直ちに海辺から離れ、急いで安全な場所に避難する。
・正しい情報をラジオ、テレビ、広報車などを通じて入手する。
・津波注意報でも、海水浴や磯釣りは危険なので行わない。
・津波は繰り返し襲ってくるので、警報・注意報解除まで気を緩めない。
(消防庁)
|