官報資料版 平成10





労働白書のあらまし


―平成10年版 労働経済の分析―


労 働 省


 労働省は、「平成十年版労働経済の分析」(平成十年版労働白書)を、平成十年七月七日に閣議配布し、公表した。
 本年の白書では、第T部「平成九年労働経済の推移と特徴」において、一九九七年(平成九年)を中心に労働経済の動向を振り返って分析した。
 また、第U部「中長期的にみた働き方と生活の変化」においては、第一次オイルショック以降の安定成長期の経済・雇用情勢を概観した上で、労働者の視点から、就業形態、職業生涯に加えて賃金制度等の労働条件といった働き方並びに生活面の中長期的変化の方向・内容とその背景・要因について分析するとともに、今後一層急激に進むと考えられる経済社会の構造変化に柔軟に対応し、我が国経済の活力を維持していくための方策について検討した。
 その概要は以下のとおりである。

<第T部> 平成九年労働経済の推移と特徴

<第一章> 雇用・失業の動向

<年後半以降、厳しさを増した雇用・失業情勢>
 一九九七年(平成九年)の雇用・失業情勢は、年前半は厳しいながらも雇用者の大幅な増加などの改善の動きがみられたが、年後半には雇用者の伸びが鈍化し有効求人倍率が低下する中で、失業率が依然高水準を続けるなど厳しい状況となり、その後一九九八年一〜三月期には、更に厳しさを増した(第1図参照)。
<増加幅が縮小した新規求人>
 新規求人(新規学卒を除く)は、前年比五・二%増と前年(同一一・九%増)に引き続き増加となったが、増加幅は縮小した。これを四半期別にみると、一九九六年十〜十二月期をピークとして、その後は期を追って増加幅が縮小し、一九九八年一〜三月期には前年同期比九・五%減とやや大きく減少した。
 産業別には、建設業で四〜六月期以降は減少に転じたほか、製造業、「卸売・小売業、飲食店」、サービス業等の主要産業において、いずれも期を追って伸びが鈍化、あるいは減少に転じたことが要因となっている。
<再び増加に転じた新規求職>
 一方、新規求職者の動きをみると、一九九七年に入って再び増加基調に転じ、年平均では前年比四・七%増となり、その水準は比較可能な一九六三年以来最高となった。
 常用新規求職者の増加を自発的離職求職者、非自発的離職求職者及び離職者以外の求職者に分けてみると、いずれの寄与も増加に働いている。特に一九九六年におおむね減少基調で推移していた非自発的離職求職者は再び増加に転じ、一九九八年一〜三月期には前年比二七・六%増となった。
<有効求人倍率は十〜十二月期以降低下>
 有効求人倍率(季節調整値)は、一〜三月期から七〜九月期までおおむね横ばいで推移していたが、求人の減少、求職の増加幅の拡大から十〜十二月期には〇・六九倍に低下し、一九九八年一〜三月期は〇・六一倍と一九八六年十〜十二月期以来の水準となった(第1図参照)。
<労働力人口、就業者数、雇用者数とも年後半に男性の増加幅が縮小>
 労働力人口、就業者数は、年平均では前年に引き続き増加幅が拡大したが、四半期別にみると、いずれも年前半には大幅な増加をみせたものの、年後半に男性の増加幅が大きく縮小したことを受け、七〜九月期以降増加幅が縮小し、就業者数は一九九八年一〜三月期には前年同期差三万人増にとどまった。
 就業者を自営業主、家族従業者、雇用者に分けてみると、雇用者数が年前半に大幅に増加したものの、七〜九月期以降、男性を中心に増加幅が大きく縮小したことが就業者の動向に大きな影響を与えた。
 また自営業主、家族従業者は、年平均でみると、それぞれ前年差七万人増、同六万人減となり、一九九六年と比べて自営業主は増加に転じ、家族従業者も減少幅が縮小しており、年平均の就業者数の増加幅の拡大に寄与している。特に自営業主の増加は、一九八七年以来十年ぶりである。
<七〜九月期以降は製造業、十〜十二月期以降は建設業で雇用者数が減少>
 一九九七年の雇用者数は、前年差六十九万人増と前年の増加幅をやや上回ったものの、一〜三月期に大幅に増加幅が拡大した後、七〜九月期、十〜十二月期の増加幅は一〜三月期に比べて半減した。その後、景気が一段と厳しさを増したことを反映して、一九九八年二月及び三月には前年を下回る水準となり、一九九八年一〜三月期で前年同期差一万人増にとどまった。
 産業別にみると、サービス業は、一九九七年に入って以降も、専門サービス業や対事業所サービス業を中心に堅調に増加した一方で、七〜九月期以降は、製造業、「卸売・小売業、飲食店」の減少ないし増加幅縮小、加えて十〜十二月期以降、建設業が減少に転じたことが、年後半以降の増加幅縮小の要因となった。
<短時間雇用者が引き続き増加>
 非農林業雇用者について、週間就業時間が三十五時間未満の短時間労働者と、三十五時間以上の労働者に分けてみると、三十五時間以上の労働者が男女とも特に年後半に増加幅が縮小したのに対し、三十五時間未満の女性については、一九九七年から一九九八年一〜三月期にかけて、比較的安定した増加を続けた。
 これを産業別にみると、特にサービス業や飲食料品小売業、飲食店等の女性の増加が大きく、男性への雇用需要が減退した産業と、女性短時間労働者に対する需要が増加した産業は異なっており、両者間の代替がおきているというより、産業間の業況や雇用需要の差が両者の動きの差をもたらしていると考えられる。
 さらに、非農林業雇用者を常雇と臨時・日雇に分けてみると、常雇の増加幅が縮小し、一九九八年一〜三月期には減少に転じたが、臨時・日雇は増加を続けた。
 男女別には、特に男性常雇が年後半以降増加幅が縮小し、一九九八年一〜三月期にはやや大きな減少に転じた一方、臨時・日雇は、男性は十〜十二月期以降増加幅が大きく縮小したが、女性では大きな変化がなかった。
<一九九七年後半以降の男性雇用者数の伸びの低下の背景>
 一九九七年七〜九月期以降の男性雇用者の動きを詳しくみると、産業別では、年後半は卸売業の減少幅の拡大とともに建設業、「卸売・小売業、飲食店」及び製造業の増加幅の縮小、減少がみられた。
 また、企業規模別には、百人未満規模企業における増加幅の縮小ないし減少に加えて、一九九八年一〜三月期には、一千人以上規模の減少が大きく、従業上の地位別には常雇の年後半以降の増加幅の縮小ないし減少が大きいことなどが指摘できる。
 こうした男性への雇用需要の伸びの鈍化を反映し、一九九七年前半には上昇していた男性の労働力率が七〜九月期以降低下に転じ、労働力人口の増加幅も縮小したと考えられる。
 男性労働力人口の動きについて、労働力状態の変化(フロー)の面からみると、四〜六月期以降は就業者から非労働力人口への流出が大幅に増加し、七〜九月期以降は非労働力人口から就業者への流入が縮小するなど、そのいずれもが非労働力化に寄与したことが主因となって、労働力人口の増加幅が縮小したことが分かる。
<完全失業率は期を追って上昇>
 一九九七年平均の完全失業率は三・四%となり、比較可能な一九五三年以来最高水準であった一九九六年と同水準となった。
 季節調整値の推移をみると、一九九七年一〜三月期の三・三%から十〜十二月期には三・五%となり、一九九八年一〜三月期には三・六%と、四半期でみて比較可能な一九五三年以来最高の水準に上昇した(第1図参照)。
 男女別にみると、男性は年前半には三・三%、後半には三・四%と、年後半にやや上昇した後、一九九八年一〜三月期には三・八%と大幅に上昇しており、女性も月によって上下しながら、年を通してやや上昇気味に推移した。
<十〜十二月期以降再び増加した非自発的離職失業者>
 求職理由別の完全失業者数の推移を四半期別にみると、自発的離職失業者が年間を通じて増加している中で、年前半は非自発的離職失業者が減少を続け、「その他」の者も横ばい傾向であったのが、年後半には景気に足踏みがみられる中、非自発的離職失業者が十〜十二月期に再び増加に転じ、一九九八年一〜三月期には、非自発的離職失業者の増加幅が拡大したことに加え、「その他」の者も増加幅が拡大したことから、全体の増加幅が拡大した。
 また、世帯主との続き柄別にみると、「その他の家族」が男女とも七〜九月期以降増加幅が拡大するとともに、世帯主も年前半の減少傾向から年後半は増加傾向となった。
 さらに、年齢階級別にみると、男女若年層及び男性六十〜六十四歳層の完全失業率は引き続き高い水準にあるが、一九九七年後半には、男性はおおむね各年齢層とも失業率が上昇している中で、特に高年齢層の上昇が著しく、女性は四十歳未満で上昇し、四十歳以上では低下した。
<製造業の労働投入量と労働生産性>
 製造業について、労働投入量の動きを生産の動向とともにみると、生産指数は一九九二年十〜十二月期を底に前年比のマイナスが縮小し、それに伴って、労働投入量の前年比も一九九三年四〜六月期から上昇を始めたが、雇用者数はその後も減少幅を拡大させており、一九九六年後半になって前年比プラスに転じた。この時期に長引いていたバブル崩壊後の雇用調整がほぼ終了したとみることができる。
 その後、一九九七年に入ると、生産の伸びが七〜九月期以降大きく鈍化する中で、労働投入量も十〜十二月期には減少となった。年後半の特徴は、雇用者数の前年比が生産と同時に低下したことであり、これは雇用面の調整が一段落し、雇用の本格的拡大に入る前に在庫調整が始まったことによる影響とみられる。
 稼働率の影響を考慮した労働生産性と労働生産性のタイムトレンドを試算し、両者を比較すると、一九九二年から一九九三年頃にかけては、稼働率調整労働生産性がトレンドを大幅に下回って推移しており、労働密度の低下が過去と比べても大きなものであったことが分かる。このため、今景気回復過程の初期においては、すぐに雇用の増加には結びつかない状況にあり、労働投入量にこの時期減少がみられたと考えられる。
<第三次産業の生産、労働投入量、労働生産性>
 サービス業について、生産と労働投入量、労働生産性の関係をみると、一九九一年以降の景気後退期も他産業に比べて活動指数の落ち込みは比較的小さい一方、労働投入量は労働時間短縮もあり、一九九一年から一九九三年にかけて活動指数と同様低下し、労働生産性は景気後退期にも低下しなかった。
 一九九七年に入ってからは、活動指数の伸びは一進一退を繰り返す中で、再び労働時間が短縮したことから労働投入量は横ばいとなって、労働生産性は低下しなかった。「卸売・小売業、飲食店」について同様にみると、一九九一年以降、雇用者数の増加が続く一方で労働時間短縮が進んだが、活動指数の低下が大幅であったため、労働生産性は一九九二、九三年と低下した。一九九七年に入ってからは、後半になって活動指数が急落したが、労働時間の短縮により労働投入量も同様に低下し、労働生産性は低下しなかった。
<一九九七年後半には各産業で業況が悪化>
 企業の業況を業況判断D.I.でみると、一九九七年の半ば以降急激に落ち込んだが、産業別には、建設業は一九九七年一〜三月期から落ち込み始めているのに対し、卸売・小売業は四〜六月期以降、製造業は七〜九月期以降であり、また、サービス業は落ち込みそのものが緩やかであった。
 ただし、一九九八年一〜三月期には、おおむねいずれの産業でもやや大きく落ち込み、建設業及び卸売・小売業では一九七五年以降で最も低い水準となっている。
<高まりがみられた雇用過剰感>
 全国企業の雇用人員判断D.I.の推移をみると、製造業では一九九四年以降、非製造業でも一九九五年八月調査以降、総じて過剰感は緩やかな低下の動きがみられていたが、一九九七年後半になって改善の動きに足踏みがみられ、再び雇用過剰感が高まった。
<雇用調整実施事業所割合も十〜十二月期に上昇>
 雇用調整実施事業所割合は、景気回復の足踏みや業況の悪化、雇用過剰感の高まりを反映し、建設業で一九九七年十〜十二月期に大幅に上昇したほか、製造業でも一九九七年後半には上昇がみられた。その他の産業でもおおむね十〜十二月期に上昇した。
<業況の悪化を受け、年後半以降厳しさを増していった雇用失業情勢>
 企業の業況感の悪化や雇用過剰感の高まりを背景に、一九九七年後半以降、雇用需要が減退した。
 産業別にみると、建設業で早くから業況が悪化し、四〜六月期には新規求人、七〜九月期には所定外労働時間が減少となった後、十〜十二月期には雇用者数の減少が始まった。次に「卸売・小売業、飲食店」において消費停滞の影響が所定外労働時間や新規求人に現れ、年後半には雇用者数も前年比減少ないし横ばいとなった。製造業では七〜九月期以降、所定外労働時間、新規求人の伸びが鈍化し、雇用者数も前年比減少となった。こうした中で、サービス業の雇用者数は大幅な増加を続け、雇用全体の下支えとなった。雇用需要の減退は、年後半以降の求人倍率の低下、失業率の上昇に影響した。
<障害者実雇用率は前年と同水準>
 一九九七年六月一日現在における障害者実雇用率をみると、一・四七%と前年(一・四七%)に続き過去最高の水準となった。
 これを企業規模別にみると、三百人以上の規模では各規模とも前年を上回ったが、三百人未満の規模では一九九四年以降、実雇用率が低下している。
 一方、雇用率未達成企業の割合をみると、三百人以上の規模では低下しているものの、三百人未満の規模では上昇しており、中小規模企業での障害者雇用に厳しさが出てきていることがうかがわれる。
<外国人労働者の動向>
 一九九七年における就労目的の新規入国外国人は、前年に比べて増加した。また、就労を目的とする在留資格での外国人登録者数も、一九九六年には前年に比べて増加した。
 一方、外国人雇用状況報告結果によると、一九九七年の直接雇用の事業所数、外国人労働者数は、前回(一九九六年)よりもそれぞれ一一・七%、一〇・六%増加した。産業別には製造業、サービス業、「卸売・小売業、飲食店」の三産業で全体の約九割を占めている。

<第二章> 賃金、労働時間、労働安全衛生の動向

<賃金の動向>
 一九九七年の賃金(事業所規模五人以上)は、所定内給与の伸びがほぼ前年並みであり、所定外給与の伸びは前年よりやや縮小したが、賞与支給時期のずれもあって、特別給与の伸びが大きく拡大したため、現金給与総額で前年比一・六%増と、一九九六年(同一・一%増)よりも伸びが拡大した。
 実質賃金は、消費税率の引上げ(一九九七年四月)等に伴って消費者物価の上昇幅が拡大したため、四〜六月期以降、前年同期比マイナスで推移し、一九九七年平均では前年比保合い(前年同一・一%増)となった。
 労働省労政局調べによる一九九七年の民間主要企業の春季賃上げ率をみると、一九九六年の二・八六%から一九九七年には二・九〇%となった。また、一時金についても夏季一時金は前年比二・九%増、年末一時金も同二・八%増と、夏季一時金、年末一時金とも一九九六年の伸びとほぼ同水準となった。
 なお、「毎月勤労統計調査」により、中小企業も含めた一九九七年年末賞与の支給状況(事業所規模五人以上)をみると、規模が小さい事業所では前年より減少した。
<実労働時間の動向>
 一九九七年の事業所規模五人以上の年間総実労働時間は一千八百九十一時間と、初めて一千九百時間を下回り、事業所規模三十人以上では、一千九百時間となった。
 事業所規模五人以上の総実労働時間の伸び率は、所定内労働時間の減少幅の拡大等により、前年比一・四%減(前年同〇・一%増)と減少に転じた。所定内労働時間は、小規模事業所ほど減少幅が大きくなっているが、これには法定労働時間週四十時間制の全面適用の影響が大きい。
<年後半に伸びが急速に鈍化した製造業の所定外労働時間>
 一九九七年の所定外労働時間は、金融・保険業を除く非製造業では減少し、製造業では年後半になって、生産の動きを反映して伸びが急速に鈍化した。
<死傷災害の動向>
 一九九七年における労働災害の発生状況をみると、死傷者数(死亡及び休業四日以上)は十五万六千七百二十六人、前年差六千百三十六人減(前年比三・八%減)となり、引き続き減少した。
 また、死亡者数も二千七十八人、前年差二百八十五人減(前年比一二・一%減)となり減少した。

<第三章> 物価、勤労者家計の動向

<物価の動向>
 一九九七年の国内卸売物価は、前年比〇・六%上昇と、一九九一年以来六年ぶりの上昇となった。
 全国消費者物価(総合)は、前年比一・八%上昇と、四月の消費税率の引上げにより上昇幅が拡大した後は総じて安定して推移した。
 商品・サービス分類別の伸び率をみると、一般商品がプラスに転じたほか、各分類ともプラスの伸びとなった。中でも公共料金は消費税率の引上げ、診察料の本人負担の引上げ等により、二・五%上昇となった。
<勤労者家計収支の動向>
 一九九七年の勤労者世帯の実収入は、実質で前年比一・一%増となり、前年の伸びを下回った。また、可処分所得は、実質で前年比〇・一%増とほぼ横ばいとなった。
 一九九七年の勤労者世帯の消費支出は、消費税率の引上げ前後で大幅な駆け込み需要とその反動減がみられたが、年全体では、実収入の増加幅が拡大したものの、平均消費性向がほぼ横ばいとなり、特別減税の終了等に伴う非消費支出の増加及び消費税率の引上げ等による物価の上昇が大きくマイナスに寄与したことから、実質で前年比〇・一%増と前年の伸びを下回り、足踏み状態となった。
 また、年末には相次ぐ金融機関の破綻等から消費者マインドが大きく悪化し、消費性向が低下し、消費支出は大幅に減少した。
 商品とサービス別にみると、商品は前年に比べ実質で〇・八%減、サービスも同〇・一%減と、いずれも前年の増加から減少に転じた。商品では、耐久財が駆け込み需要の反動減等から実質で前年比四・六%減と大幅に減少した。
 収入階級別の動向をみると、実収入の伸びの格差がみられたほか、低収入階級で消費性向が低下したことから、収入階級間の消費支出の格差が広がった。

<第四章> 労使関係の動向

<一九九八年春の労使交渉>
 一九九八年春季労使交渉は、我が国経済が停滞し一層厳しさを増し、雇用情勢は雇用者数が減少し、完全失業率が既往最高となるなど、更に厳しさが増す中で行われ、賃上げ額・率ともにおおむね昨年を下回る内容となった。
 主要単産における大手企業の賃上げ率は、鉄鋼一・七三%、電機〇・五一%(電機は定昇含まず。以上、三十五歳ポイント回答)、自動車二・七八%であった。

<第U部> 中長期的にみた働き方と生活の変化

<第一章> 安定成長期の経済・雇用情勢

<第一節> 経済構造等の変化

<経済構造の変化>
 我が国経済は、戦後長期間にわたって高度成長を続けてきたが、第一次石油危機により大きな打撃を受けた。その後、第二次石油危機、円高といった危機を乗り越え、いわゆるバブル期には、成長率は安定成長期で最高となったが、バブル崩壊後は、景気が底を打った後も回復のテンポは緩やかである。
 また、この二十年間の経済構造をみると、国際化の進展、サービス化の進展、技術の進歩と情報化の進展という大きな変化があった。
<労働力供給構造の変化>
 この二十年間の労働力供給面の変化をみると、労働力人口の高齢化が急速に進展している。今後は団塊二世層の労働市場への流入が終了し、高齢化は一段と進展する。
 また、女性の職場進出が進んだ。女性の労働力率の推移を年齢別にみると、いわゆるM字カーブの底は二十五〜二十九歳層から三十〜三十四歳層へと移動し、かつ浅くなっている。
 労働者に占める大卒の比率は、四十歳未満についてはほぼピークに達しているが、四十歳以上については、今後も上昇すると考えられる。また、女性の大学進学率はこの二十年間も上昇しており、若年女性労働者の高学歴化が進行中である。
<労働に関する制度の変化>
 第一次石油危機後、雇用対策については、失業者の再就職の促進を中心とする対策から、失業の予防などの事前的対策への転換が行われた。その後、高齢化、女性の職場進出、技術革新、サービス経済化等の変化に対応して、一九八六年に六十歳以上定年の努力義務化(一九九八年から義務化)、一九八五年に男女雇用機会均等法及び労働者派遣法の制定などの施策がとられた。
 法定労働時間については、一九八七年の労働基準法の改正、一九九二年の時短促進法の制定等により、段階的に縮減され、一九九七年四月から週四十時間制が全面的に適用になった。

<第二節> 雇用・失業の構造変化

<サービス業の拡大が進む産業別就業構造>
 産業別就業構造の長期的な変化をみると、第二次産業就業者構成比は近年横ばいで推移し、一九九〇年代にはやや低下した。第三次産業では相対的に労働生産性の上昇が小さいことに加え、中間投入の変化や国内最終需要の増加から、サービス業を中心に堅調な就業者の増加がみられたことにより、構成比が高まっている。
<ホワイトカラー化が進む職業別就業構造>
 職業別就業構造の長期的変化をみると、専門的・技術的職業従事者や事務従事者等のホワイトカラーの構成比が高まっている。また、一九九〇年代に入って、技能工等の構成比がやや低下している。
<雇用の創出と喪失の動態的変化>
 企業の従業者数の増減を、事業所新設に伴う増加寄与、既存事業所の増加寄与、事業所廃止に伴う減少寄与に分けてみると、新設事業所による寄与が高い。しかし、開業率は近年低下傾向にあり、新規開業に好ましい経済環境の整備の重要性が増している。
<若年層及び女性を中心に上昇している転職率とその背景>
 転職率は、高度成長期から安定成長期に移行した際にいったん低下した後、中長期的に上昇しており、特に若年層及び女性の転職率の上昇が顕著である。ただし、男性の中高年齢層の転職率には高まりはみられていない。
 転職率の水準が高いパートタイム労働者等の割合の上昇が、全体の転職率の上昇の大きな要因である。若年層の転職希望の顕在化も、影響を与えているとみられる。
<高まりのみられない常用労働者の転職率>
 一方、常用労働者の転職入職率には中長期的な高まりはみられず、常用労働者、特に男性中高年齢層といった基幹的な労働者層では、労働移動は活発化しているわけではない。また、女性常用労働者は、パートタイム労働者を含めて定着化の傾向にある。ただし、正規雇用者でも、若年層では転職率が上昇傾向にある可能性がある。
<流入超過であったサービス業及び建設業>
 産業別転職率をみると、「卸売・小売業、飲食店」が最も高く、サービス業は、転職率の水準は際立って高い水準にはなく、建設業と並び転職者の吸収産業としての役割を担ってきた。
 職業別には、専門的・技術的職業従事者への他職業からの転職は困難となっている。
<長期的に上昇傾向にある失業率>
 完全失業率は、景気循環に伴う変動を伴いつつ、長期的に上昇傾向にある。
 @属性別には、女性の失業率が一九八〇年代半ば以降、男性をおおむね上回り、A年齢別には、男女若年層、男性高年齢層で失業率の上昇が著しく、男性中堅層は比較的落ち着いた動き、B続き柄別には、その他の家族、単身世帯の上昇が大きく、世帯主は六十〜六十四歳層を除いて上昇は小さく、配偶者も上昇傾向は緩やかである。
 また、@性格別には、自発的離職失業率が上昇傾向にあるが、非自発的離職失業率は上昇傾向にはない、A失業頻度が上昇傾向、失業継続期間もやや長期化しているが、長期的な失業率の上昇は失業頻度の寄与が大きい。
<失業率の長期的上昇の背景>
 女性の失業率の高まりは、景気後退期に非労働力化しなくなったこと等による。若年層の失業率の上昇は、自発的離職失業の増大によるところが大きく、失業率の高いパートタイム労働者等の割合の上昇や転職意識の顕在化が影響しており、失業頻度が上昇している。男性高年齢者(六十〜六十四歳層)の失業率の上昇は、非自発的離職失業の増加が大きく、高齢化が進む中で、雇用需要の増加が供給増に追いつかないことによる。
 サービス業の雇用失業率は、非農林業計を下回り、サービス業のウェイトの高まりは必ずしも失業率の上昇要因とはいえないが、産業間・職業間の移動は、同一産業・職業内の移動に比べて困難であり、構造変化の中、産業間労働移動の拡大は失業増大要因のおそれがある。
 また、均衡失業率(構造的・摩擦的失業率)が長期的に上昇傾向にあることに加え、最近は需要不足失業率が高水準なため、失業率は高水準となっている(第2図参照)。
<景気循環と企業の雇用行動>
 今回の景気循環過程での雇用調整パターンをみると、@生産変動に対して、労働密度の変動や労働投入量(労働時間)の変動で対応し、雇用の変動は小さい、A雇用の抑制も入職抑制が中心であり、企業は雇用行動の基本的スタンス(雇用維持重視)を変えていないが、雇用が生産等の変動により敏感となり、パートタイム労働者等の活用等の変化もみられ、また、景気後退が長引いたり、中期的な期待成長率が低下したりした時に、企業の人件費負担感が急速に高まるおそれがある点に留意する必要がある。
<高齢化から少子・高齢化へ>
 今後は、構造変化がこれまで以上に急激に進むと考えられるが、供給面の最も大きい変化は、高齢化から少子・高齢化への変化である。今までは高齢化といいつつ、実は若年層も増加していたが、今後は若年層が減少し、高年齢層が一段と増加するので、高年齢者の本格的な活用が、我が国経済・企業にとって必要になってくる(第3図参照)。
 また、高齢化は第二次産業で進んでおり、産業構造の変化と方向を異にしているが、女性の職場進出や大卒者の増加は産業や職業構造の変化と同じ方向であり、高齢化が最も大きな問題である。高齢化が急激に進むのは十年後であり、残された十年間の対応が大きな鍵である。
<依然として重要な企業の雇用維持努力>
 我が国では、長期雇用慣行の下、柔軟な配置転換による内部労働市場が大きな役割を果たしており、今後も企業や労働者は長期雇用慣行を維持しようとする考えが強い。今後も企業の雇用維持努力を前提に、内部労働市場が構造変化への対応の調整機能を発揮することが重要であり、また、出向等の準内部労働市場の活用等により、労働者ができる限り失業を経ずに労働移動が円滑に行われるような環境整備が重要である。
<雇用面のセイフティネットの充実と労働力需給調整機能の強化>
 一方、外部労働市場の役割も今後一層増大すると考えられ、その機能を充実するためには、雇用面のセイフティネットの充実に加えて、労働力需給調整機能の強化が重要である。

<第二章> 働き方の中長期的変化

<第一節> 就業形態の多様化

<低下傾向にある常雇比率と高まるパートタイム労働者比率>
 常雇比率は、男性でほとんど変化がみられない中で、女性で大幅に低下したことと女性雇用者割合の上昇により、中長期的に緩やかな低下を続けている。短時間雇用者比率は大幅に上昇し、女性では全体の三分の一に達している。勤め先での呼称によるパート・アルバイト比率も、短時間雇用者比率とほぼ同様の動きとなっている。
<多様化が進む若年層、女性中年層及び男性高年齢層>
 就業形態の多様化は、進学率の高まりと意識の変化を背景とした若年層(十五〜二十四歳層)、四十歳台を中心に短時間就業者比率が大きく上昇している女性中年層、需給両面の要因が影響している男性高年齢層で進んでいる。
 一方、男性中年層及び男女二十五〜三十四歳層では、多様化の動きはみられない。また、産業別には、製造業及び第三次産業で多様化が進んでいる。
<パートタイム労働者増加の背景>
 需要面では、産業構成の変化に加え、コスト面や人材確保面が主な雇用理由となっている。製造業では、一九八〇年代後半以降、割安なパートタイム労働者を恒常的な労働力として活用する動きが生じている。「卸売・小売業、飲食店」でも、より戦力化する動きがみられている。一方、供給側の要因として、強い時間選好がみられる。
<多様な就業形態>
 自営業主、家族従業者は減少傾向であるが、専門サービス業や専門的・技術的職業に従事する自営業主は増加傾向にあり、独立開業の拡大が期待される。家内労働者は大幅に減少している。在宅就業への関心が高まっている。派遣労働者は増加傾向にあり、業務委託も広がりをみせている。シルバー人材センターは、高年齢者の就業機会の増大に一定の役割を果たしている。ボランティアの発展も期待される。

<第二節> 職業生涯の変化

<若年者重視の採用動向>
 入職者に占める新規学卒者の割合は、この二十年間ほぼ二割前後で推移している。年齢別入職者割合をみると、三十歳未満の割合はこの二十年間六割前後で推移しており、企業の若年者採用重視の傾向は変わらない。
 また、一千人以上の大企業に入職する学卒者の割合は、景気に応じた変動がかなりみられ、一九七六年以降では一九九一年に最高の三五・七%となった後、一九九六年に最低の二二・七%まで下がっている。
<多様化する採用戦略>
 企業の今後の採用についての考え方をみると、ほとんどの企業は、規模にかかわらず新規学卒者の採用を中心としている。しかし、大企業を中心に、企業の内部にいない人材の獲得や組織の活性化を目的とした正社員の中途採用や派遣社員を積極的に受け入れる企業は増加しており、採用戦略の多様化がみられる。また、企業の新規学卒者の採用方法にも、職種別採用や通年採用といった新たな動きがみられる。
<「就社」から「就職」へ>
 三十歳未満の若年層の初職選択理由をみると、規模・知名度や将来性を重視した者の割合はこの十年間で低下し、代わって仕事の内容・職種を重視している者が増加しており、若年者の就職意識は、「就社」から「就職」の方向へ動いていると考えられる。
<管理職比率は傾向的に上昇>
 全労働者に占める管理職(部長及び課長)比率は、一九七六年の五・七%から一九九六年には八・二%と傾向的に高まっており、これまでのところ全体としては管理職ポストを用意することができてきた。
<遅れる昇進>
 しかし、学歴別、年齢別にみると、高卒、大卒ともほとんどの年齢層で低下傾向にあり、特に四十九歳以下で低下が大きい。一九三七年から一九五六年生まれの大卒者について五歳刻みのコーホートでみると、世代が後になるほど昇進が遅れている。また、団塊の世代以降の世代では、昇進が遅れるだけでなく、管理職に就かない大卒の増加が予想される。
<同期入社の昇進格差拡大>
 同期入社の労働者については、入社後一定期間は同時に昇進させる人事管理をする企業が減少し、代わって「同期入社であっても、同期昇進にはこだわらない」企業が増加している。
 今後の昇進方針についてみると、七割近くの企業が同時昇進にはこだわらないとしており、同時昇進の人事管理方針をとる企業は、相対的に少数となると見込まれる。
<設定の趣旨に見合った専門職制度の見直し>
 専門職制度の今後の方針をみると、「当面現在の専門職制度、運用方法を維持」する企業はやや減少する一方、「もっと能力主義的なものに強化」する企業割合は増加しており、本来の設定の趣旨に沿った形の専門職制度に見直そうとの動きがみられる。
<大企業で普及が進む新しい人事管理制度>
 企業はこれまでの画一的・集団的な雇用管理を見直し、専門職制度のほかにも、労働者の希望に応じて能力を発揮することを可能にする多様な人事管理制度を導入する動きを示している。
 複線型人事管理制度、社内人材公募制度、出産等による退職者の再雇用制度、勤務地限定制度は、いずれもまだ一割台の導入率だが、勤務地限定制度を除くと導入予定の企業が二割を超える。また、現在は大企業中心だが、今後は中小、中堅規模でも導入予定がかなりある。役職定年制についても、大企業を中心に普及している。
<中高年の出向者が増加傾向>
 配置転換を実施した企業の割合の推移をみると、三百人以上規模の企業では九割前後の実施率であるが、三百人未満規模の企業では低下している。
 出向について、全入職者に占める割合の推移をみると、一九八八年の一・六%から一九九六年の二・〇%へと高まっている。年齢別には男性の四十五〜四十九歳が大きく増加している。
<職種により異なる人事異動の周期の変化>
 人事異動の周期は、管理職、事務職等で相対的に短く、専門職、技術・研究職では長く、その違いは大きくなっている。また、管理・企画・事務部門では、管理職に昇進するまでに経験する仕事の分野が増えるなど、企業にはキャリアの幅を広げる動きがある。
<企業も労働者も自己啓発重視>
 職業能力開発に対する意識をみると、今後は、集合研修(Off−JT)優先から現場教育(OJT)優先に変化しているとする企業が増加するとともに、自己啓発を重視する企業が多い。
 また、労働者も自己啓発を重視している。自己啓発の実施に当たっては、「自己啓発のための時間がない(忙しい)」、「自己啓発のための費用がかかりすぎる」などといった障害が指摘されている。
<平均勤続年数は長期化>
 平均勤続年数は、男女とも長期化傾向がみられ、その程度は高年齢層ほど大きい。これは高度成長期に入って以降、労働移動が安定していたことと、定年延長が要因である(第4図参照)。
 勤続年数の長期化は、どの規模でも進んでいるが、その程度は規模が大きいほど大きい。ホワイトカラー、ブルーカラーのいずれでも長期化が進展しているが、ブルーカラーでより進展している。
<欧州大陸諸国と同程度に長い勤続年数>
 我が国の平均勤続年数は、欧州大陸諸国とともに、OECD諸国の中では長い方だが、特別に長いわけではない。勤続年数の短いアメリカ、イギリスなどとの差は開いている。
<根強い長期雇用慣行への支持>
 現状では八割の企業が労働者を定年まで雇用するとし、今後についても六割もの企業が定年まで雇用するとしており、基本的に企業は長期雇用慣行を維持しようと考えている。長期雇用慣行のメリットは、モラール・帰属意識の高まりと人材育成、デメリットとしては、人件費負担、職務と能力の開きがあげられている。
 労働者の意識も、終身雇用制を良いものとして評価する者は七割程度と長期雇用への期待度は高いが、最近の雇用不安や高齢化の影響もあって、現在の会社に定年まで勤められると考えている者は減っている。
<退職>
 定年年齢については、どの規模でも六十歳以上定年が普及し、定年後の継続雇用についても、最高雇用年齢を六十五歳以上とする企業割合が緩やかに上昇するなど、より高年齢層まで働くことのできる仕組みが普及している。
 一方、大企業を中心に早期退職優遇制度が普及し、その適用開始年齢も五千人以上規模企業では四十九歳以下とするものが大幅に増えるなど、退職制度の柔軟化が進んでいる。実際の退職形態も多様化している。
 退職出向の目的について一九八六年と一九九八年を比べると、「出向先企業の経営指導や技術指導のため」などの積極的目的の出向が減少している。

<第三節> 労働条件の変化

<団塊の世代から進む賃金の年齢プロファイルの見直し>
 我が国の賃金の年齢プロファイルは、ホワイトカラー、ブルーカラーともに年齢が上がるにつれて上昇しており、年功賃金と呼ばれている。標準労働者の賃金プロファイルでは、年齢間格差は縮小傾向にあるが、高卒ブルーカラーでは、その程度が緩やかである(第5図参照)。
 年齢階級別にみると、団塊の世代を含む一九四六年から一九五〇年にかけて生まれた層の年齢上昇とともに、徐々に賃金プロファイルが見直されている。
<賃金制度に能力・業績重視の動き>
 近年、賃金制度に能力・業績重視の動きがみられている。今まで年功賃金を重視してきた企業でも、できるだけ能力主義でいくとする企業が増えている。
 具体的な賃金制度の変更項目では、職能給的要素を増やすと回答した企業が減っているが、能力主義的に運用する必要性は、現在でも多くの企業が感じており、能力給の運用を制度の本来の趣旨をいかした運用に変えていきたいと考えている企業が多いことを示している。また、個人業績のボーナスへの反映、年俸制の活用等、業績や担当する職務によって賃金を決める傾向が強くみられている。
<評価の正確性が不安>
 しかし、賃金の年功部分が全くなくなると考えている企業は一割程度にとどまっている。年功部分に配慮する理由については、従業員の生活の安定のためとする企業が増えている一方、賃金管理の仕組みとしての年功制を評価する企業は大きく減っている。
 従業員の意識では、成果主義的賃金は「必要だが不安」とする者が七割に達している。その理由としては、収入が不安定になることよりも、評価の正確さに不安を持つ者や、能力を発揮できる職務に就けるかを不安の理由としてあげる者が多くなっている。
<規模間賃金格差は、労働者構成の影響を除くと縮小傾向>
 規模間の賃金格差は、一九七〇年代後半から一九八〇年代後半までは拡大、一九九〇年代初めにかけて縮小した後、バブルの崩壊後は再び格差が開いている。
 これを要因分解すると、年齢・勤続・学歴別の賃金変化は格差を縮小させる方向に働いており、規模間格差の変化は高学歴化・高齢化の動きが規模間によって異なっていることの影響が大きく、これを除くと、格差は中長期的には縮小傾向で推移している。
<中小企業でも普及した退職金制度>
 退職金制度は、小規模企業においても既に普及率が九割に達した。退職金の勤続年数別の支給月数のカーブが緩やかになっている。退職一時金の算定方法は、大企業を中心に退職時の基本給の一部や別テーブル方式等を算定基礎にする企業が増えている。
<一九八八年以降、減少傾向で推移している労働時間>
 労働時間は、労働基準法の改正(一九八七年、翌年施行)を契機に減少傾向にあり、一九九七年は一千九百時間(事業所規模三十人以上)となった。労働時間の減少は、主に週休二日制の普及により出勤日数が減少したことによる。
 製造業生産労働者について労働時間の国際比較を行うと、一九九六年で日本は、アメリカ、イギリスとほぼ同じ水準となっているものの、ドイツ、フランスとの格差はまだ大きい。
<労働時間短縮が進んだ背景とその効果>
 一九八八年以降、労働時間短縮が進んだ背景としては、労働基準法の改正等の労働時間対策に加え、労使の積極的な取組み、余暇志向や時短志向の高まりにより、生産性上昇の成果が賃金に加え時短により配分されるようになったことがあげられる。労働時間の短縮が進む時期には、生活に相対的なゆとりがみられている。また、労働時間の短縮により、生産性の向上、消費支出の拡大という経済効果があった。
<労働時間制度の新しい動き>
 労働基準法の改正を契機に、労働時間の弾力化やみなし労働時間制の整備等が行われており、変形労働時間制度の導入企業割合は大幅に拡大している。フレックスタイム制や裁量労働制は、現在のところ大企業の一部の部門への導入にとどまっているが、今後は、経済の情報化、サービス化が進む中で、創造的な能力発揮、専門的な知識をいかす、労働者の自律性を高める業務形態として導入が進むことが予想される。
<著しく増加する法定福利費と賃金より大きい法定外福利費の規模間格差>
 法定福利費は、高齢化に伴う社会保険料率の改定等の影響で大きく増加している。一方、法定福利費の増大に圧迫されていることや福利厚生を適用されることが少ないパートタイム労働者の増加等を背景に、法定外福利費のウェイトはやや低下している。法定外福利費の規模間格差は、現金給与の格差より大きく、従来拡大傾向にあったが、バブル期に縮小した後、バブル崩壊後は中小企業との格差はやや拡大した。
<福利厚生に対するニーズの多様化と多様化への対応>
 福利厚生のニーズは、生活水準の向上による価値観の多様化のほか、高齢化や女性の職場進出による従業員構成の変化により多様化している。また、ニーズの多様化や人事管理の個別化等を背景として、一体感醸成のための画一的な施策から個々のニーズに応じた多様な個別の施策へと変化するとともに、多様化によるスケールメリットの減少と法定福利費の増大に対応するため制度の効率化が図られている。
 住宅関連では、費用負担が大きく、住む場所・建物が画一的な社宅の設置率が低下し、その中でも企業所有から借上げへと比重が移行している。
 また、アウトソーシングの動きもみられ、体育館や保養所の運営形態は、企業単独が減少し、第三者との利用契約が増加している。
<死傷者数は減少傾向、死亡者数は近年横ばい>
 死傷者数は、各産業での労働災害発生率の低下のほか、労働災害発生率が相対的に低い卸売・小売業等のウェイトの上昇により、長期的に減少傾向にある。
 一方、死亡者数は、長期的には減少傾向にあったが、近年横ばい傾向にある。三百人以上の大規模事業場では、一九九〇年代に入ってからは、度数率の低下が止まり、横ばい傾向で推移しているため、死傷者数もほぼ横ばい状態で推移している。その背景をみると、五百人以上企業では、一九九〇年代に入ってから安全衛生費用の伸びが緩やかになっている。
<死亡者数が減少しない背景>
 死亡者数が近年横ばい傾向にある背景としては、@建設業で、建設需要の増加を背景とした雇用者数の増加と死亡災害発生率の低下度合いの緩慢化により、死亡者数が近年横ばいであること、特に、公共工事の需要が増加している土木工事や住宅建設需要が増加している木造家屋建築工事で死亡者数が横ばいあるいは増加傾向にあり、また高齢化の進展も影響していること、A製造業の死亡者数が近年微減にとどまっていること、B陸上貨物運送事業で、貨物輸送量の増加を背景にした雇用者数の増加と交通事故の増加傾向から、死亡者数が緩やかな増加傾向にあることがあげられる。
<心身の疲れや職場ストレスの高まりと規模により異なる健康づくりへの取組み>
 普段の仕事で身体・神経の疲れを感じる者の割合が増加している。また、高齢化の進展等に伴い、高血圧、糖尿病等を中心に持病のある者の割合が増加しているほか、定期健康診断の有所見率も上昇傾向にある。また、職場ストレスを感じる者の割合も高まっており、心身両面にわたる健康管理が重要となっている。
 一方、企業の健康管理施策については、定期健康診断の実施率が次第に上昇し、現在では大半の事業所で実施されているものの、有所見率が高い高年齢者の割合が多い小規模事業所ほど、その実施率が低くなっている。また、心の健康対策の実施は、規模間格差が特に大きくなっている。
<就業形態の多様化と労働条件>
 三%程度の安定した伸びを続けてきた女性パートタイム労働者の年間収入は、一九九〇年代に入って、景気の動向や所定内労働時間の減少を反映して、おおむね横ばいで推移している。また、属性の違い等もあって、一般労働者との賃金格差は拡大している。パートやアルバイト等への退職金制度や福利厚生制度の適用は、正規労働者を下回っているが、今後、福利厚生の適用範囲を拡大しようとする動きもある。
 女性パートタイム労働者の所定内労働時間数は、一九八〇年代後半以降減少を続けており、週休二日制の普及が影響を与えている。在宅就業者は属性による違いが大きく、六歳未満の子供のいる女性では、家事や育児等の合間に就業している場合が多い。また、年収には就業時間との相関がみられる。派遣労働者の年収には、雇用形態による労働時間の違いも影響していると考えられる。また、常用の派遣労働者の労働時間は一般労働者とほぼ変わらない。
 なお、パートタイム労働者や派遣労働者は、賃金等と並んで職場訓練の満足度が低くなっている。

<第四節> 働き方の変化の方向と今後の課題

<働き方の個別性、自律性の重視>
 日本型雇用慣行は、現業部門に最も適しており(第6図参照)、今後は研究部門や管理部門などで変化していくが、労働者のモラール、長期的な能力開発などの点で優れた仕組みである。
 また、雇用安定の確保や生涯設計の立てやすさという点でも重要であり、雇用維持の仕組み(長期雇用慣行)を維持しつつ、労働者の個別性、自律性を重視し、多様な選択肢のある仕組みに変えていくことが重要になる。
<自律的な働き方のための環境の整備>
 労働者が自律的に働いていくためには、人事管理制度を多様化、個別化し、職業生涯の節目節目で労働者が働き方を自ら選択できることが重要である。また、自らの職業キャリア等を客観的に把握できる仕組みの構築と自己啓発の促進が求められる。
 新しい働き方に適合したルールの整備が重要であり、第一に、客観性、公平性、透明性があり、労働者の納得が得られる評価制度の確立、第二に、異なるタイプの労働者に応じ、バランスのとれた人事管理、キャリア設計や能力開発、第三に、労働条件その他について個別の労使間の争いに対応する仕組み等が重要である。
 従来型の雇用制度下で働いてきた中高年世代に自律と自己責任を求めるには、長期的な賃金と貢献のバランスの観点等からも、賃金面等十分な配慮が必要である。
 働き方のルールの設定と適切な運用、個別紛争の解決等には労使の努力が重要であり、労働組合が新しい働き方に柔軟に対応しつつ、多様化する労働者のニーズを的確に汲み上げること、企業が人事労務管理等を柔軟に対応させつつ、雇用維持の努力を行うことが期待される。また、社会全体の共通のルールの整備と監視等に関する行政の役割も重要である。

<第三章> 生活の中長期的変化

<第一節> 消費行動の変化

<妻の収入の割合が上昇>
 勤労者世帯の実収入及び可処分所得は、一九七五年以降、名目、実質とも増加傾向であるが、バブル崩壊後は伸びが緩やかである。また、既婚女性の職場進出が進んだことを反映して、実収入に占める妻の収入の割合が上昇傾向にある。
<低下傾向にある平均消費性向>
 消費支出は一九七五年以降増加傾向であるが、一九九〇年代に入り、実質消費支出は横ばいである。平均消費性向は、一九八〇年代初め以降低下傾向で、その要因は、四十〜四十九歳層を中心に住宅ローン、保険等の契約性黒字の増加で、家計の自由度が小さくなったことに加え、バブル崩壊後は、今後の生活や雇用に関する不透明感の影響も考えられる。
<消費支出のサービス化>
 消費支出の構成をみると、生活のための基礎的な性格が強い食料、被服及び履物や、物価上昇率が低い家具・家事用品は低下傾向にあり、生活の豊かさを支える性格が強い教養娯楽、交通・通信や、相対的に物価の上昇が著しい教育、住居及び光熱・水道は上昇傾向にある。消費水準の上昇などから、消費支出のサービス化が進んでいる。
<貯蓄・負債とも増加>
 貯蓄は増加傾向で、一九九七年で年間収入額の一・六倍であるが、生命保険などの増加が著しく、また、高年齢層ほど大きな増加である。
 負債は住宅・土地のための負債を中心として増加傾向で、特に三十〜三十九歳層及び四十〜四十九歳層での増加が顕著である。

<第二節> 生活の変化

<週末は仕事時間が減少し、自由時間が増大>
 週末は週休二日制の普及もあり、仕事時間が減少し、自由時間が増加しているが、平日の仕事時間はほぼ横ばいとなっている。
 平日を年齢別にみると、男性の二十歳台後半から四十歳台では仕事時間が増加し、自由時間が減少している。女性は二十歳台後半で仕事時間、自由時間は増加、家事時間は減少しており、晩婚化の影響がみられる。また、国際的には、我が国は勤務関連時間が長く、自由時間は短く、生活時間の使い方による男女間の役割分担度合いが高い。
 意識面をみると、生活時間の使い方に対する満足度では、我が国は各国と異なり「不満」とする者の割合が「満足」とする者の割合を上回っており、特に女性で「満足」とする者の割合が低い。
<結婚・出産で自由時間が減少する有業女性のライフサイクル>
 有業女性の生活時間構造をみると、未婚から結婚、出産とライフサイクルが進むにつれて大きく変化し、家事時間の増大等により、男性との差が大きくなる。女性の晩婚化の理由については、経済的理由と並んで生活の自由度が重視されており、結婚・出産による生活時間の自由度の低下のおそれが未婚女性の増加の一因となり、晩婚化・少子化につながっている可能性がある。
<住宅面積は拡大、通勤時間は横ばい>
 居住者一人当たりの床面積は、この二十年間に約五割拡大している。価格についてマンション価格の年収倍率でみると、二十年前を上回る水準となっているが、一戸当たり面積の拡大や、住宅購入の原資となる勤労者の年間の黒字額の増加を考慮すると、住宅取得が困難になっているとはいえない。しかし、国際的には依然高価で、面積も狭い。
 通勤時間は、平日有業男性の行動者平均時間をみると、二十年間ほぼ横ばいとなっている。しかし、全国平均に比べて通勤時間が長い東京圏の労働者は、通勤時間に不満を持つ割合が高く、国際的にも我が国の通勤時間は長い。

<第三節> 労働者の意識の変化と生活の充実に向けての課題

<国際比較による消費水準>
 労働者の生活水準は、大幅に向上しているが、名目消費支出の国際比較と購買力平価で換算したものでは差があり、その背景には、内外価格差という問題がある。
 また、住宅価格も国際比較をすると、まだ高い。豊かな生活を実現するためには、内外価格差の是正・縮小等により、消費者物価や住宅の価格等を低廉なものとすることが重要である。
<今後の生活の見通しに不透明感>
 バブル崩壊後、今後の生活についての不透明感が強まっている兆しがみられる。今後の生活の見通しについて、悲観的な考え方が楽観的な考え方を大きく上回っている(第7図参照)。
 この背後には、我が国経済の将来や雇用に対する不透明感の高まりや、高齢化の進展などに対する不安感の強まりがある。したがって、構造改革等により、我が国経済と雇用に対する将来の不透明感の払拭と、高齢社会における具体的な生活のビジョンの明示が重要である。
<企業中心のライフスタイルの転換>
 労働時間短縮が進んでいるが、自由時間をもっと欲しいとする労働者がまだ多い。今後、労働者が自律的な働き方を求められていく中で、メリハリのある働き方により、家庭生活、社会活動の充実を図っていくことが必要であり、一層の労働時間短縮等により、自由時間の充実を図ることが重要である。
 我が国では、欧米諸国と比較して家庭生活のパターンが男女で異なっている度合いが大きく、特に女性は結婚・出産後に生活時間構造が大きく変わり、自由時間が減っているが、こうした役割分担についての意識も次第に変化してきている。男性も家庭生活を重視するようになってきている。
 したがって、働き方の面からだけではなく、家庭生活や地域生活への参加を進めていく観点からも、企業中心のライフスタイルを変えていくことが求められている。そのためには、社会や企業の仕組みの変革と併せて、労働者自らの発想の転換が必要不可欠である。

まとめ

 今年の白書は、構造改革を経た二十一世紀の雇用環境、生活環境の変化を労働者の視点から見通すとともに、今後の課題を探るため、中長期的な観点から、一九七五年頃から現在に至るまでの安定成長期の労働者の働き方と生活の変化の方向・内容とその背景・要因について検討した。
 安定成長期の経済構造の変化や労働力供給面の変化等を背景に、就業構造はサービス化、ホワイトカラー化が進んだ。労働移動は、就業形態の多様化等を背景に増加しているが、常用労働者では活発化していない。完全失業率も中長期的に上昇しているが、世帯主等での上昇は小さく、若年層と男性高年齢層での上昇が著しい。今後、供給面での最も大きな変化は少子・高齢化であり、高年齢者の本格的な活用が必要になる。
 今後、企業の雇用維持努力を前提としつつ、雇用面のセイフティネットの充実と労働力需給調整機能の強化が重要である。
 就業形態が多様化しているほか、職業生涯においても採用の多様化、人事管理制度の多様化、個別化、賃金制度の能力・業績重視、自律性重視等の動きがみられる。労使とも長期雇用慣行への支持は根強く、長期雇用慣行のメリットをいかしつつ、働き方の個別性、自律性重視への対応を図ることが重要であり、働き方の自己選択の確立、評価制度の構築、労働者のタイプに応じた労働条件、人事管理や能力開発、個別紛争への対応等の環境整備が求められる。
 この二十年間で、賃金、労働時間等の労働条件や消費や生活時間・住宅といった生活面も着実に向上しているが、今後は、構造改革等による不透明感の払拭が重要であり、また、企業中心のライフスタイルの転換が必要である。
 今後、二十一世紀に向けて我が国は新たな構造改革期を迎えており、経済社会の構造変化は一層急激になるであろう。これに伴って、労働者にも大きな変化がもたらされることが予想され、それだけ将来の生活や雇用に対する不安感が強まっている。したがって、一方でこの不安感を払拭しつつ、変化に柔軟に対応して日本経済の活力を維持していかなくてはならない。そのためには、基本的には長期雇用慣行を維持しつつ、外部労働市場の機能も強化することにより、雇用の安定を図るとともに、労働者の働き方を、従来の画一的・集団的なものから、個人個人の置かれた状況、意識、将来設計、能力などに応じて自ら選択し、かつ自律的に働くものへと変えていく必要がある。これには、企業はもとより労働者の努力の積み重ねが重要であり、行政の支援も必要不可欠である。


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平成9年


住民基本台帳人口移動報告に基づく


人口移動の概況


総 務 庁


 住民基本台帳人口移動報告は、国内における人口移動の状況を明らかにするため、住民基本台帳法に基づき、総務庁統計局が都道府県を通じて全国各市区町村から毎月の転入者(男女別、従前の住所地別)について報告を求め、これを統計としてとりまとめたものである。
 なお、同一市区町村内で住所を変更した者、日本国籍を有しない者など、住民基本台帳に係る転入の届出を伴わない移動者は含まれない。
 去る三月二十七日公表した平成九年の我が国における人口移動の概況は、次のとおりである。

一 移動者総数

<移動率は昭和二十九年の調査開始以来最低>
 平成九年の全国における市区町村間の移動者の総数は、六百四十二万四千六百九十人で、前年に比べ八万九千八百六十五人(一・四%)減少した。
 移動者総数は、我が国の経済が高度成長期にあった昭和三十年代から四十年代半ばにかけて急速に増加し、四十八年には八百五十三万八千八百二十人と最多を記録した。しかし、昭和四十八年の第一次石油危機以降減少に転じ、六十一年までほぼ一貫して減少が続いた。昭和六十二年以降は、六百五十万人前後でほぼ横ばいで推移したが、平成九年は、八年(十二万人減)に引き続き減少となっている。
 また、移動率(十月一日現在の日本人人口に対する移動者数の比率)は五・一四%となり、統計をとり始めた昭和二十九年以来最も低い値となった。(第1図第2図第1表参照
 (注) 以下、移動率は当該地域(都道府県、十三大都市)の十月一日現在の日本人人口に対する比率である。

<都道府県内移動者数は二年連続して減少>
 平成九年の移動者総数のうち都道府県内移動者数は、三百四十八万八千四百二十九人で、前年に比べ六万四千六百五十人(一・八%)の減少となった。都道府県内移動者数は、平成四年以降増加が続いていたが、八年には五年ぶりの減少となり、九年も引き続いて減少となった。
 平成九年の都道府県内移動率は二・七九%となり、前年に比べ〇・〇六ポイント低下した。
 また、平成九年の移動者総数に占める都道府県内移動者数の割合は五四・三%となり、前年に比べ〇・二ポイント低下している。(第1図第2表参照

<都道府県間移動率は、昭和二十九年の調査開始以来最低>
 都道府県間移動者数は、二百九十三万六千二百六十一人となり、前年に比べ二万五千二百十五人(〇・九%)の減少となった。
 都道府県間移動者数の推移をみると、昭和四十九年から六十年まではほぼ一貫して減少が続き、昭和六十一年から平成二年まではほぼ横ばいで推移したものの、その後、再び減少傾向に転じている。平成八年には三百万人を割り込み、九年も減少となった。
 都道府県間移動率は、前年に比べ〇・〇二ポイント低下し、二・三五%となり、統計をとり始めた昭和二十九年以来最も低い値となった。(第1図第2表参照

<阪神・淡路大震災後の人口移動>
 平成七年一月に発生した阪神・淡路大震災から三年が経過したが、六年以降の人口移動の動きを兵庫県についてみることにする。
 移動者総数で、兵庫県に係る数は、平成九年は四十一万六千二百四十一人であり、これは震災前の二年〜六年の平均(四十万一千九百二人)を若干上回っている。構成比でみると六・五%と平成八年と同じで、二年〜六年の平均の六・二%を上回っている。
 次に、都道府県内移動者数についてみると、平成九年の兵庫県内移動者数は十六万八千六百九十人であり、震災以降減少している。
 さらに、都道府県間移動者数についてみると、兵庫県への転入者数は、平成八年、九年はわずかながら増加している。一方、転出者数は、平成八年、九年と減少を続けている。(第3表参照

二 都道府県別転出入の状況

<三十一都道府県で転入率が低下>
 都道府県別に平成九年の他の都道府県からの転入者数をみると、東京都への転入者が四十三万五千六百八十九人と最も多く、神奈川県(二十五万一千八百二十四人)が二十万人台でこれに続き、次いで埼玉県、大阪府、千葉県、兵庫県、愛知県、福岡県の六府県が十万人台となっている。これら八都府県への転入者数の合計は百六十三万六千四百九十五人となり、都道府県間移動者数の五五・七%を占めている。また、東京圏の四都県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)への転入者数の合計は百六万七千九百十九人で、都道府県間移動者数の三六・四%を占めている。
 都道府県別に転入率をみると、東京都の三・七五%が最も高く、次いで千葉県、神奈川県が三%を超えている。そのほか、埼玉県、奈良県、宮城県、京都府、滋賀県、福岡県、香川県、兵庫県が全国平均(二・三五%)を上回っている。この転入率を平成八年と比較してみると、三十一道府県で低下、七県で横ばい、九都県で上昇している。
 一方、都道府県別に平成九年の他の都道府県への転出者数をみると、東京都からの転出者が四十一万八千三百九十八人と最も多く、神奈川県(二十四万三千四百五十七人)、大阪府(二十二万三百七十人)が二十万人台でこれに続き、次いで埼玉県、千葉県、愛知県、兵庫県、福岡県の五県が十万人台となっている。これら八都府県からの転出者数の合計は百六十万二千九百九十二人となり、都道府県間移動者数の五四・六%を占めている。
 都道府県別に都道府県間の転出率をみると、東京都の三・六〇%が最も高く、次いで千葉県が三%を超えている。そのほか、神奈川県、埼玉県、奈良県、京都府、長崎県、大阪府などが全国平均(二・三五%)を上回っている。この転出率を平成八年と比較してみると、十九都府県で低下、五県で横ばい、二十三道府県で上昇している。(第4表参照

<東京都は十二年ぶりに転出超過から転入超過に>
 転入者数から転出者数を差し引いた平成九年の転入超過数を都道府県別にみると、東京都が一万七千二百九十一人と最も多く、これに、兵庫県の九千九百七人が続いている。なお、東京都は、昭和六十一年以来転出超過が続いていたが、平成九年には十二年ぶりに転入超過となっている。転入超過となった都道府県数は、平成八年の十六県から九年には十七都県となっている。
 また、転入超過率をみると、滋賀県が〇・四五%で最も高く、これに、福岡県(〇・二〇%)、兵庫県(〇・一九%)、宮城県(〇・一七%)、東京都(〇・一五%)が続いている。
 転入超過の十七都県について、転入超過率を平成八年と比較してみると、四県で上昇、八県で低下、一県で横ばいとなっており、残りの四都県については、転出超過から転入超過に転じている。
 一方、転出超過となったのは三十道府県となっており、転出超過数が最も多かったのは大阪府の二万七千八百四十九人であった。また、転出超過率は長崎県が〇・四一%と最も高く、これに、大阪府(〇・三二%)、秋田県、宮崎県(ともに〇・二一%)、青森県、和歌山県(ともに〇・一七%)が続いている。
 転出超過の三十道府県について、転出超過率を平成八年と比較してみると、二十一県で上昇、四県で低下、二県で横ばいとなっており、残りの三県については、転入超過から転出超過に転じている。(第4表第5表第3図参照

<兵庫県はほぼ震災前の転入超過に>
 兵庫県は、平成七年には阪神・淡路大震災の影響で転出超過(五万九千六百二十六人)となったが、その後の復興に伴って、八年には転入超過(四千六百九十四人)に転じ、九年も九千九百七人の転入超過と、前年の転入超過数を上回った。
 平成九年の転入超過数は、ほぼ六年の転入超過数の水準になったが、二年〜六年の平均に比べると、やや下回っている。(第6表参照

三 都道府県間移動者(転出者)の主な移動先

<東京都を一位の転出先とするのは十七道県>
 都道府県間移動者(転出者)の主な転出先別割合を都道府県別にみると、東京都への転出が一位となっている県は十七道県で、東日本に多い。中でも東京都に隣接する埼玉県(転出者総数の三五・五%)、神奈川県(同三三・六%)、千葉県(同三一・八%)及び山梨県(同三一・四%)で東京都への転出割合が三〇%を超えている。そのほか、新潟県(同二四・八%)、長野県(同二四・五%)、茨城県(同二三・四%)でも高くなっている。東日本以外の県では、沖縄県、福岡県の二県で東京都への転出が一位となっている。
 また、東京都が転出先の上位三位以内に入るのは三十五道府県で、全都道府県の四分の三に達している。
 大阪府への転出が一位となっている県は、前年に比べ一県減少して八府県で、近畿地方、四国地方に多い。中でも和歌山県(同四一・七%)、奈良県(同三二・一%)及び兵庫県(同三〇・五%)で大阪府への転出割合が三〇%を超えており、次いで京都府(同二二・一%)となっている。
 また、福岡県への転出が一位となっている県は前年同様、九州地方の六県で、中でも佐賀県(同四二・五%)の割合が際立って高くなっている。そのほか、岐阜県から愛知県(同四一・六%)へ転出する割合が高いのが目立っている。(第4図参照

四 東京圏、名古屋圏、大阪圏の転出入の状況

<東京圏は二年連続して転入超過>
 平成九年の東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)、名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)及び大阪圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)における転出入の状況をみると、三大都市圏の転入者数は九十三万七百八十四人、転出者数は九十万九千百三十八人で、その合計(百八十三万九千九百二十二人)は全国の都道府県間移動者数の六二・七%を占めている。転出入超過の状況は、東京圏は三万九千六百六十五人、名古屋圏は七百六十九人の転入超過、大阪圏は一万八千七百八十八人の転出超過であった。
 東京圏は、調査開始以来、転入超過が続いていたが、平成六年、七年と転出超過となった。平成八年に三年ぶりに転入超過となった後、九年は転入者数が前年に比べて増加し、転出者数が減少したため、転入超過数が前年に比べて大きく増加し、二年続けての転入超過となっている。
 名古屋圏は、調査開始以来、昭和四十九年までは転入超過、五十年から五十九年は転出超過となった。その後、昭和六十年には再び転入超過に転じたが、転入超過数は最高でも平成二年の一万二千六百十八人と少なく、八年には十二年ぶりに転出超過となった。平成九年の転入者数と転出者数は、いずれも前年に比べて増加しているが、転入者数の方が上回ったため、再び転入超過になっている。
 大阪圏は、調査開始以来、昭和四十八年までは転入超過が続いたが、以降は一貫して転出超過が続いている。平成七年には阪神・淡路大震災の影響を受けて三万八千九百八十一人と大幅な転出超過となったが、八年には転出超過数(一万五千四百七十六人)は前年に比べてかなり小幅であった。平成九年は転入者数が前年に比べて減少し、転出者数が増加したため、転出超過数が前年に比べて増大している。(第5図参照

五 十三大都市の転出入の状況

<東京都特別区部は三十四年ぶりに転入超過に>
 十三大都市(東京都特別区部及び十二の政令指定市)のうち、平成九年に転入超過となったのは九都市で、転入超過数は横浜市が一万一千六百六十四人で最も多く、次いで札幌市(一万六百七十五人)、東京都特別区部(八千四百七十四人)、福岡市(七千二百二十一人)の順となっている。なお、東京都特別区部が転入超過となったのは、昭和三十八年以来三十四年ぶりである。また、東京圏の他の三大都市は、いずれも転入超過幅を拡大したり、転出超過から転入超過に転じている。転入超過率は、札幌市が〇・六〇%と最も高く、次いで福岡市(〇・五六%)、仙台市(〇・四〇%)の順となっている。
 一方、転出超過となったのは四都市で、転出超過数は大阪市が九千三十二人で最も多く、次いで名古屋市(五千百三十七人)、京都市(四千三百五十四人)、北九州市(三千百四十三人)の順となっている。転出超過率は、大阪市が〇・三六%と最も高く、次いで京都市、北九州市(ともに〇・三一%)、名古屋市(〇・二四%)の順となっている。このうち大阪市は、平成七年には阪神・淡路大震災に伴い、兵庫県からの転入者数が増加したため三十三年ぶりに転入超過となったが、八年には再び転出超過となり、九年も転出超過となっている。(第7表第6図参照

<神戸市は転出超過から転入超過に>
 神戸市は、平成七年には阪神・淡路大震災の影響で、十五年ぶりに転出超過(四万二百五十四人)となったが、その後の復興に伴って、八年には転出超過数は縮小して三千百二十二人となり、九年には転入超過(四千百四人)に転じている。しかし、平成九年の転入超過数は、震災前の六年の約三分の二の水準である。
 転入者数は、平成八年の五万五千四百七十九人から九年には五万七千七百八十五人に二千三百六人増加した。転入者の移動前の住所をみると、「兵庫県内他市町村から」が、平成八年の二万一千二百八十一人から九年の二万二千五百五十九人へ一千二百七十八人増加、「大阪府から」が、八年の九千七百六十九人から九年の一万三百八十八人へ六百十九人増加している。
 一方、転出者数は、平成八年の五万八千六百一人から九年には五万三千六百八十一人に四千九百二十人減少した。転出者の移動後の住所をみると、「兵庫県内他市町村へ」が、平成八年の二万六千二百五十一人から九年の二万三千三百六十九人へ二千八百八十二人減少、「大阪府へ」が、八年の八千六百八十三人から九年の七千四百二十四人へ一千二百五十九人減少している。(第8表参照

六 年間移動者数に占める月別移動者数の割合

<月別移動は四月が最も高い割合>
 平成九年の年間移動者数に占める月別移動者数の割合をみると、四月が一七・五%と最も高く、次いで三月が一七・三%となり、進学、就職、転勤等を要因とする移動が集中するこの二か月間で、年間移動者の約三分の一を占めている。
 また、この二か月間の移動者数の割合をみると、平成五年までは四月が最も高く、次いで三月の順であったが、六年、七年にはこれが逆転し、三月が最も高い割合となった。しかし、平成八年には再び逆転し、九年は差は縮小しているが四月が最も高い割合となっている。(第9表参照

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平成9年


賃金構造基本統計調査結果の概要


労 働 省


T 調査の概要

 この調査は、我が国の賃金構造の実態を明らかにするため、毎年六月分の賃金等について実施している。調査対象は、日本標準産業分類による九大産業(鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸・通信業、卸売・小売業、飲食店、金融・保険業、不動産業及びサービス業)に属する五人以上の常用労働者を雇用する民営事業所及び十人以上の常用労働者を雇用する公営事業所である。
 この度、平成九年調査の十人以上の常用労働者を雇用する民営事業所に関する結果を取りまとめた(集計事業所数は約四万八千、集計労働者数は約百二十七万人)。
 なお、パートタイム労働者と表現したもの以外は、一般労働者についてのものである。

U 調査結果の概要

1 賃金、賃金上昇率

 平成九年の賃金(六月分の所定内給与、以下同じ。)は、男女計で二十九万八千九百円(平均三九・五歳、一一・八年勤続)、対前年上昇率は一・一%となり、三年連続で一%台の伸びとなった(第1図参照)。
 男女別にみると、男性労働者は三十三万七千円(平均四〇・五歳、一三・三年勤続)、同〇・九%、女性労働者は二十一万二千七百円(平均三七・三歳、八・四年勤続)、同一・五%となった。
 なお、学歴や年齢、勤続年数別の労働者構成を平成九年と同じとした場合の賃金上昇率を計算すると、男性〇・三%、女性〇・四%となる(第1表参照)。

2 男性労働者の賃金

(1) 年齢階級別にみた賃金、勤続年数
イ 男性労働者の賃金を年齢階級別にみると、五十〜五十四歳層の四十三万二千五百円がピークで、二十〜二十四歳層(二十万二千八百円)の二・一倍となっている。
  対前年上昇率をみると、五十五〜五十九歳層で一・九%となっているのに対し、他の年齢層では一%以下の伸びとなっている(第2表参照)。
ロ 勤続年数は一三・三年となり、前年に比べると〇・二年、五年前との比較では〇・八年長くなっている。年齢階級別にみると、五年前との比較では、三十五〜三十九歳層、四十〜四十四歳層で短くなっているが、二十〜三十四歳の各年齢層及び五十歳代では長くなっており、特に五十歳代では勤続年数が一年以上長くなっている(第2表参照)。
(2) 学歴別にみた賃金
  学歴別にみると、大卒の賃金は三十九万八千四百円(平均三八・三歳、一二・〇年勤続)、高専・短大卒では二十九万八千六百円(平均三四・一歳、九・三年勤続)、高卒三十一万六千二百円(平均四〇・三歳、一三・五年勤続)、中卒三十万五千四百円(平均五〇・〇歳、一七・六年勤続)となっている。
(3) 年齢間格差
  二十〜二十四歳層を一〇〇として年齢間格差を五年前と比較すると、五十歳代で格差の拡大がみられることを除き、他の年齢層では格差はあまり変化していない。
  学歴別の年齢間格差をみると、大卒の三十歳代では格差が拡大しているが、四十〜五十四歳の各年齢層では縮小している。
  また、高卒については、五十五〜五十九歳層で格差が拡大しているが、三十五〜四十九歳の各年齢層では縮小している(第2図参照)。
(4) 企業規模別にみた賃金
イ 企業規模別にみると、大企業の賃金は三十八万八千二百円(平均三九・八歳、一六・八年勤続)、中企業で三十二万五千四百円(平均三九・九歳、一二・九年勤続)、小企業で三十万二千四百円(平均四一・八歳、一〇・六年勤続)となっている。
ロ 大企業を一〇〇として企業規模間格差をみると、中企業が八四、小企業七八となっている。
  企業規模間格差を年齢階級別にみると、中企業、小企業とも若年層では格差が比較的小さいが、三十〜五十四歳までは年齢とともに規模間格差が大きくなり、五十〜五十四歳層では中企業八一、小企業六八となっている(第3図参照)。
(5) 標準労働者の賃金
イ 標準労働者(学校卒業後直ちに就職し、同一企業に継続勤務している者)の賃金について年齢階級別にみると、大卒は五十五〜五十九歳層がピークで、六十四万六千三百円(二十〜二十四歳層の三・〇倍)、高卒では五十〜五十四歳層がピークで、五十三万六千二百円(同二・七倍)となっている(第4図参照)。
ロ 二十〜二十四歳層を一〇〇として年齢間格差をみると、五年前と比較して大卒の二十五〜三十九歳の各年齢層でやや拡大しているが、大卒の四十〜五十九歳の各年齢層、高卒の各年齢層では縮小している。
(6) 賃金分布
イ 賃金階級別の労働者の分布を年齢計でみると、二十万円未満は一二・九%、二十万円台が三五・五%、三十万円台が二五・七%、四十万円台が一三・八%となっている。
  これを年齢階級別にみると、二十〜二十四歳層では十六〜二十三万円台に七九%が集中しているのに対し、五十五〜五十九歳層では二十万円台が二四・二%、三十万円台が二七・七%、四十万円台が一八・五%、五十万円以上が二三・三%と分散している。
ロ このような分布の広がりの程度を十分位分散係数よりみると、二十〜二十四歳層の〇・二二から五十五〜五十九歳層の〇・五六まで次第に大きくなっており、賃金の散らばり度合いは年齢とともに大きくなっている。
  十分位分散係数の大きさを年齢別に五年前と比較すると、高卒では同程度かやや小さくなっているが、大卒では五十五〜五十九歳層で縮小する一方、三十〜三十四歳層及び四十歳代ではやや大きくなっており、これらの年齢層では五年前に比べ、同一年齢層内での賃金の散らばり度合いがやや拡大している(第3表参照)。

3 女性労働者の賃金

(1) 年齢階級別にみた賃金、勤続年数
イ 女性労働者の賃金を年齢階級別にみると、三十五〜三十九歳層が二十三万四千六百円とピークになっているが、二十〜二十四歳層(十八万二千五百円)の一・三倍と年齢間での差はあまりみられない。
  対前年上昇率をみると、三十〜三十四歳層、四十〜四十四歳層、五十五〜五十九歳層で二%程度、五十〜五十四歳層で一・六%となっているほかは、一%未満となっている(第4表参照)。
ロ 勤続年数は八・四年となり、前年に比べると〇・二年、五年前との比較では一・〇年長くなっている。年齢階級別にみると、五年前と比較して二十〜二十四歳層以上の各年齢層で長くなっている。
  また、勤続年数二十年以上の長期勤続者の割合は一〇・三%となり、五年前と比較して二・三ポイント上昇している(第4表第5表参照)。
(2) 学歴別にみた賃金
  学歴別にみると、大卒の賃金は二十七万二千円(平均三一・五歳、五・九年勤続)、高専・短大卒では二十二万六千七百円(平均三一・〇歳、六・二年勤続)、高卒二十万四千円(平均三八・一歳、八・八年勤続)、中卒十七万七千四百円(平均五一・八歳、一二・六年勤続)となっている。
(3) 年齢間格差
  二十〜二十四歳層を一〇〇とした年齢間格差を五年前と比較すると、三十〜五十九歳の各年齢層で、おおむね格差が拡大している。
  学歴別に年齢間格差をみると、高専・短大卒では四十五〜五十九歳以上の各年齢層で縮小している。高卒ではあまり大きな変化はみられないものの、おおむね各年齢層で縮小傾向となっている(第6表参照)。
(4) 企業規模別にみた賃金
イ 企業規模別にみると、大企業の賃金は二十三万九千六百円(平均三四・八歳、九・五年勤続)、中企業で二十一万二千七百円(平均三六・三歳、七・九年勤続)、小企業で十九万四千七百円(平均三九・九歳、八・〇年勤続)となっている。
ロ 大企業を一〇〇として企業規模間格差をみると、中企業が八九、小企業八一となっている。企業規模間格差を年齢階級別にみると、おおむね年齢が高くなるほど格差が大きくなり、五十〜五十四歳層では中企業七七、小企業六九となっている。
  五年前と比較すると、大企業との企業規模間格差は中企業、小企業ともほぼ各年齢層とも縮小しており、格差の大きい四十歳以上の年齢層で五ポイント以上格差が縮小している(第5図参照)。
(5) 標準労働者の賃金
  標準労働者の賃金について年齢階級別にみると、各学歴ともに五十五〜五十九歳層がピークで、大卒が五十八万五千円(二十〜二十四歳層の二・九倍)、高専・短大卒が四十六万八千七百円(同二・五倍)、高卒では三十九万八千百円(同二・二倍)となっている(第6図参照)。
(6) 標準労働者の男女間賃金格差
  年齢、学歴、勤続年数について条件を同一にした標準労働者の男女間賃金格差を、男性を一〇〇としてみると、高卒では年齢とともに拡大する傾向がみられ、五十〜五十四歳層では七二となっている。
  大卒では、格差が最も大きい四十五〜四十九歳層で八二となっているが、高卒と比べると各年齢層で格差の大きさは小さい(第7表参照)。

4 女性パートタイム労働者の賃金

(1) パートタイム労働者の賃金
  女性パートタイム労働者の一時間当たりの賃金は八百七十一円で、対前年上昇率は〇・一%とほぼ前年(八百七十円)と同水準となった。
  企業規模別に一時間当たりの賃金をみると、大企業で八百八十七円、中企業八百八十九円、小企業八百四十二円となっている。
  大企業を一〇〇として企業規模間格差をみると、中企業が一〇〇、小企業九五と中企業では大企業と同水準となっている。
  企業規模間格差の変化をみると、前年との比較ではあまり大きく変化はしていないが、五年前との比較では両規模とも格差がかなり縮小している(第8表参照)。
(2) 地域別賃金
  地域別に一時間当たりの賃金をみると、南関東が九百三十九円と最も高く、次いで京阪神が九百二十円と高いのに対し、南九州が七百二十三円と低くなっている。
  南関東を一〇〇として地域間格差をみると、京阪神が九八と格差が最も小さく、東海、近畿、北関東、北陸で九〇〜九四と比較的小さいが、南九州では七七と最も大きくなっており、その他の地域では八四〜八七となっている(第9表参照)。
(3) 実労働日数、実労働時間数、勤続年数
  女性パートタイム労働者の実労働日数は一九・八日となり、前年に比べると〇・二日、この五年間でみると一・一日短くなっている。
  一日当たりの所定内実労働時間数は五・七時間となり、前年に比べ〇・一時間長くなっているが、この五年間では〇・一時間短くなっている。
  勤続年数は五・一年となり、前年に比べ〇・一年、この五年間では〇・三年長くなっている(第10表参照)。


 「緑の募金」にご協力を


 「緑の募金」が九月から始まりました(十月三十一日まで)。
 毎年、春と秋の二回行われる「緑の募金」は、身の回りの緑化や水源林の整備、熱帯林の再生や砂漠の緑化などのさまざまな森林・緑づくり活動の支援をしています。
 「緑の募金」は、(社)国土緑化推進機構と各都道府県緑化推進委員会が行う緑の募金事業として、「森林の整備」「緑化の推進」「緑の国際協力」の三つの区分で実施されます。このうち、全国的または国際的な事業は、(社)国土緑化推進機構が中央事業として担当しています。平成九年緑の国際協力としては、アマゾンの熱帯林保全計画やサハラ砂漠でのグリーンベルト造成事業などがあります。また、地域で行われる市民の森の整備や植樹祭などの緑を広げる事業は、各都道府県の緑化推進委員会が実施しています。

 ◇高まる森林づくりへの参加

 先ごろ実施された森林・林業に関する世論調査によると、「森林づくりに参加したい」という人は、約七割近くになっています。
 ボランティアによる森林づくりの活動に参加できなくても、「緑の募金」に協力することにより、だれでも森林づくりに参加することができます。皆さんの小さな善意が、やがては大きな森林をつくっていくことになります。
 ○「緑の募金」に関する問い合わせ先
 (社)国土緑化推進機構(フリーダイヤル〇一二〇−一一〇−三八一)または各都道府県緑化推進委員会まで  (林野庁)


 
    <9月16日号の主な予定>
 
 ▽建設白書のあらまし………………建 設 省 

 ▽普通世帯の消費動向調査…………経済企画庁 
 



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