官報資料版 平成1030




                 ▽ 原子力安全白書のあらまし…………………………………原子力安全委員会

                 ▽ 法人企業動向調査(六月実施調査結果)…………………経 済 企 画 庁

                 ▽ 月例経済報告(九月報告)…………………………………経 済 企 画 庁










原子力安全白書のあらまし


原子力安全委員会は、平成10年6月30日の閣議を経て、平成9年版原子力安全白書を公表した。

原子力安全委員会


 平成九年版原子力安全白書は、第一編、第二編及び資料編から構成されており、第一編では、「原子力安全に対する信頼回復に向けて」と題し、一連の事故に関する調査審議状況や、事故から得られた教訓を踏まえた原子力安全委員会の対応状況等を紹介している。
 また、第二編では、原子力安全委員会を中心とした安全規制機関における過去約二年間(平成八年一月〜平成十年三月)の活動、原子力施設全般に関する安全確保の現状を紹介している。
 さらに、資料編では、原子力安全委員会関係の各種資料、安全確保の実績に関する各種資料等をとりまとめている。
 第一編の内容は、以下のとおりである。

<第1編> 原子力安全に対する信頼回復に向けて

はじめに

 原子力安全を取り巻く状況は、この二年間に極めて厳しいものとなった。これは、動燃の高速増殖原型炉もんじゅにおいて、平成七年十二月に発生した二次系ナトリウム漏えい事故を契機とするものであり、九年三月には動燃アスファルト固化処理施設において火災爆発事故が起こったことにより、一層厳しさを増した。
 これらの一連の事故は、放射性物質による周辺公衆への有意な影響はなかったが、事故の発生のみならず、事故後の情報の不適切な取扱いや虚偽報告などにより、原子力安全に対する国民の信頼感、安心感を損なうものとなった。原子力安全委員会として極めて遺憾とするものである。
 原子力安全委員会は、動燃に対して安全確保の高い意識を維持させるうえで、自らが十分に責任を果たしたとは言い切れず、原子力の安全確保の方策などについても、これを広く国民に伝えて理解を求める努力が必ずしも十分でなかったと考える。
 原子力安全委員会は、これらの点を率直に反省し、一連の事故に対して徹底した原因究明やその背景に踏み込んだ調査審議、再発防止対策の検討などを行い、事故から最大限教訓を引き出し、今後の原子力安全行政に活かしていくことにより、原子力安全に対する信頼回復に向けて、与えられた責務を果たしていきたいと考えている。
 もんじゅ事故の調査審議を通じて、一般社会のいう「安心」と技術的観点での「安全」との間に大きな乖離があることが改めて認識されるとともに、原子力委員会が開催した原子力政策円卓会議などにおいても、原子力安全委員会をはじめとして原子力安全行政に携わる者も原子力事業者も、「安全」だけでなく「安心」へ目を向けた努力の必要性が指摘された。
 「安心」は定義することが非常に難しい言葉であり、また、何をもって「安心」と感じるかは、人により千差万別である。それでもなお、原子力安全に対する不安感、不信感を払拭するためには、「安全」が達成されるべきであることはいうまでもないが、それに加えて「安心」へ目を向けた努力が必要であると原子力安全委員会は考える。
 これは、原子力安全に対する国民の信頼を得るためには、専門家により安全性の議論を行うだけでなく、これに加えて議論の過程や結論を国民に十分に伝えることなどにより、原子力安全について国民の理解を得、安心を得る努力をすることが必要であるとの認識によるものである。
 このため、原子力安全委員会は、原子力安全に対する信頼回復に向けた取り組みとして、種々の施策を展開してきた。
 もんじゅ事故後、原子力安全委員会は、研究開発段階の原子力施設の安全確保のあり方に関して、専門家の参加を得て検討し、アスファルト固化処理施設事故も踏まえて報告書にとりまとめ、当面とるべき措置を明らかにした。これは、設置許可後の段階の安全確保についても、原子力安全委員会として従来以上に踏み込んで積極的に対応していくことを明らかにしたものである。
 また、事故が発生した施設の安全規制当局である科学技術庁においても、一連の事故を踏まえて、現場を重視した安全監視等の従来以上にきめ細かい対応を行う観点から、安全規制の充実強化を図っている。
 さらに、原子力安全委員会は、意思決定過程の透明性の向上を目指して、情報公開等を積極的に進めてきた。平成八年十二月に「原子力安全委員会における情報公開について」を決定し、これに基づいて、会議の議事や資料の公開、主要な安全審査案件や報告書に対する国民の意見の反映、国民との対話の推進などに努めてきた。この取り組みについては、さらなる改善を図っており、今後とも引き続き国民との双方向の対話に努力していきたいと考えている。
 もんじゅ事故においては、事故発生時の不適切な対応が事故を拡大させ、さらに事故後に現場を撮影した映像などの情報を不適切に取り扱ったことが、各方面から厳しく批判される結果となった。
 また、アスファルト固化処理施設事故の場合には、安易に運転条件を変更したこと、施設の安全確保上重要な情報が組織の中で適切に継承されず、それが現場においても共有されていなかったことなど、セイフティ・カルチュアが根付いているとは言い難い事実が明らかとなった。
 セイフティ・カルチュアは、「原子力の安全問題に、その重要性にふさわしい注意が必ず最優先で払われるようにするために、組織と個人が備えるべき一連の気風や気質」(INSAG‐4による定義)とされており、施設の設計から運転に至るまで一貫して安全確保を支える根本理念である。
 これら二つの事故は動燃の施設において続いたが、原子力安全委員会としては、原子力安全に対する安心感を着実に広げていくことができるよう、原子力に関わるすべての関係者に対し、組織の、さらには自らにとってのセイフティ・カルチュアをとらえ直し、その醸成に努めることを改めて強く要請したい。
 原子力安全委員会としても、原子力安全に対する信頼回復のために、「何をなすべきか」そして「何ができるのか」を追求してやまない姿勢を今後ともとり続けていく決意である。

<第1章> 一連の事故への対応

 平成七年十二月に高速増殖原型炉もんじゅで発生した二次系ナトリウム漏えい事故、また平成九年三月に動燃東海事業所アスファルト固化処理施設で発生した火災爆発事故は、原子力の安全確保に対する信頼感、安心感を著しく損なうものであった。
 これらの事故については、原子力安全委員会及び安全規制担当行政庁である科学技術庁において、事故原因の徹底した究明を行うとともに、再発防止対策等に関して厳正な調査審議を行い、節目節目において報告書としてとりまとめてきた。
 また、これらの調査審議に際しては、公開性、透明性の向上を図ることの重要性に鑑みて、調査審議を公開のもとで行う、報告書のとりまとめにあたり判断の材料となった技術資料を公開する、あるいは報告書案の段階で広く意見を募集するなどの措置を講じている。
 いずれの事故についても、その原因究明は終了したが、事故から教訓を最大限に引き出し、今後の安全規制施策に的確に活かしていくことが何よりも重要である。このため、原子力安全委員会をはじめ、安全規制担当行政庁において、研究開発段階の原子力施設の安全確保対策の充実、安全規制の充実強化、意思決定プロセスの透明性向上を目指した情報公開等の施策を積極的に進めており、今後とも一層の努力が必要である。
 なお、このほかに同じく動燃において、新型転換炉ふげん重水精製装置での重水漏えいに関して関係機関への通報連絡が遅れたこと(平成九年四月)、東海事業所ウラン廃棄物屋外貯蔵ピットでの廃棄物管理が長期間にわたって不適切に行われていたこと(平成九年八月)など、原子力安全に対する不安感、不信感を一層高める問題が続いた。
 動燃については、一連の事故、不祥事を踏まえて抜本的な組織改革を行うこととされ、科学技術庁において開催された「動燃改革検討委員会」の検討等を経て、今後、新法人「核燃料サイクル開発機構」として再出発することとなった。
 原子力安全委員会は、この新法人に対し、安全確保を大前提として業務を行うこと、安全研究の推進に努めること、組織としてセイフティ・カルチュアの醸成に努めること、などを委員長談話としてとりまとめて公表(平成十年四月十日)し、新法人の努力を要請した。新法人が原子力の安全確保に果たす役割は大変に大きいことから、関係者の格別の努力を期待する。

<第1節> もんじゅ事故の調査審議について

1 事故の調査審議

【事故の発生】
 平成七年十二月八日、動燃の高速増殖原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)において、出力上昇操作中に二次主冷却系配管(Cループ)からナトリウムが漏えいし、ナトリウム火災が発生した。
 この事故では、放射性物質による環境への影響はなく、炉心や一次冷却系に安全上の影響もなかった。しかしながら、我が国における初めてのナトリウム漏えい事故であったこと、また、動燃による事故後の情報の取扱いが不適切であったことなどから、地元の住民をはじめとする多くの国民に不安感・不信感を与え、これまでの原子力安全に対する信頼を著しく損なう結果となった。

【原子力安全委員会の対応】
 原子力安全委員会は、高速増殖炉にとって重要なナトリウム技術に関するものであったことなどから、この事故を重く受け止め、事故の翌日に原子力安全委員を現地に派遣するとともに、高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏えいワーキンググループ(以下「ワーキンググループ」という。)を設置し、科学技術庁及び動燃から適宜報告を求めつつ、独自の立場から原因究明及び再発防止対策等について調査審議を行ってきた。これらの調査審議結果は、三次にわたる報告書にとりまとめ、公表している。
(1) 第一次報告書の概要
 もんじゅ事故を分析するにあたり、
 @ 「発生」の段階においては、温度計の設計ミス
 A 「拡大」の段階においては、漏えい規模の不適切な判断
 B 「対外対応」の段階においては、情報の不適切な取扱い
という各段階における重要な要因について、重点的に調査審議を行った。
 その結果、「品質保証の不全」「不適切な異常時運転手順書」「ナトリウム漏えい検知システムの不備」、さらには「教育・訓練の問題」や「運転体制、技術支援体制の問題」等を摘出した。
 また、こうした技術的な要因の背景にまでさかのぼって検討した結果、「技術の蓄積と継承の問題」及び「新しい技術への挑戦という意識の問題」「事故時の情報の重要性に関する認識の欠如」があり、これらが事故の未然の防止、拡大の防止、社会的影響を最小限にとどめることを阻害したと指摘し、関係者の注意を喚起した。
(2) 第二次報告書の概要
 もんじゅ事故後、動燃が実施したナトリウム漏えい燃焼実験において、床ライナに損傷が生じたことを踏まえ、これに関与した腐食のメカニズムについて、詳細に検討した。その結果、もんじゅ事故とナトリウム漏えい燃焼実験の腐食現象には、いずれも高温溶融体が関与しているという点では共通であるとした。
 設置許可当時、もんじゅ事故やナトリウム漏えい燃焼実験で観察された腐食現象が考慮されていなかった。しかし、電気化学会に依頼した調査の結果によれば、当時、鉄、酸素及びナトリウムが関与する界面反応による腐食に関する知見は、極めて限られたものであった。したがって、高速炉の分野では、これが安全上重要であるとの問題意識がなく、その知見が知られていなかった。
 また、もんじゅの設置(設置変更を含む。)許可当時の安全審査における二次系ナトリウム漏えいの影響評価について検討した。
 当時、中小規模のナトリウム漏えいの影響については、評価されていなかった。それは、大規模漏えいの影響に包絡されると判断したためであり、改めて、中小規模のナトリウム漏えい時の床ライナの影響を評価しても、界面反応による腐食を考慮しなければ、ナトリウムとコンクリートの直接接触を防止するという床ライナの機能は確保されることを確認した。
 以上から、設置許可当時の安全審査において、二次系ナトリウムの中小規模漏えいを評価したとしても、当時界面反応による腐食に関する知見が知られていなかったことを考えると、床ライナの機能は維持されるという評価は変わらず、審査の結論に影響を与えることはなかったと判断した。
 さらに、これらの調査審議の結果から得られた教訓として、新たな技術的知見を得るためには、問題意識をいかに持つかが課題であり、原子力分野以外の科学技術分野からの情報収集、専門家との意見交換が極めて重要であること、設置許可後に得られた知見を遅滞なく施設の安全確保対策に反映するための方策を考慮すべきであることを指摘した。
(3) 第三次報告書
 第二次報告書で指摘したナトリウム漏えい時の床ライナの腐食抑制対策等と再発防止のための重要課題に対する改善のための取り組みについて、調査審議の結果をとりまとめた。
 ナトリウム漏えい時の腐食抑制対策等については、目標と基本的考え方を明らかにした。そのうえで、漏えいの検知の確実性向上、ドレン配管の大口径化等によるドレン早期化等の動燃が示した改善策について、基本的考え方に合致していること及び対策の目標である床ライナの機能維持に対して効果を期待しうることから、今後の方針として妥当であるとした。
 また、再発防止対策のための重要課題に対する取り組みについては、「新しい技術への挑戦という意識」「技術の蓄積と継承」「事故時の情報の取扱い」の観点から、動燃が改善のために努力していることを確認するとともに、これらは組織及びその構成員の意識に深く関わるものであり、たゆまぬ努力が払われねばならないとした。
 原子力安全委員会は、ワーキンググループが報告書をとりまとめる度に、その内容を踏まえて、委員会の考え方を委員長談話や委員会見解として発表してきた。
 これらの中で、原子力安全委員会は、もんじゅ事故に関して、動燃に対し、安全確保への高い意識を維持させるうえで、十分な責任を果たしたとは言い切れず、また、原子力施設の安全確保の方策や異常時の情報について、これを広く国民に伝えて理解を求めるための努力が必ずしも十分でなかったと考えており、これらの点を率直に反省して、今後の施策に誤りなきを期する決意であることを明らかにした。
 また、もんじゅの設置許可時の二次系ナトリウム漏えいの影響評価については、当時の知見の状況、海外の先行計画における解析事例などに照らしてみれば妥当であったと考えるが、最新の知見に基づき、今後改善すべき点が認められるとした。加えて、ナトリウムの燃焼に伴う腐食は、床ライナによってナトリウムとコンクリートの直接接触を防止するという設置許可時に確認された基本設計ないし基本的設計方針の妥当性を失わせるものではないとの考えを示した。
 さらに、もんじゅについては、腐食抑制対策等の改善措置が講じられる場合は、厳重な安全審査を行うとともに、これまで指摘してきた事項に対し、科学技術庁及び動燃が適切に対応しているか確認するために、専門家からなる組織を設置し、もんじゅの安全性の確認に引き続き取り組むことを明らかにした。

【科学技術庁の対応】
 科学技術庁は、もんじゅ事故を重視し、徹底的な原因究明等の検討を行うため、事故直後の平成七年十二月十一日、タスクフォースを設置し、原因究明を進め、ナトリウム漏えい燃焼実験や水流動実験等の試験結果を踏まえながら調査、検討を重ねた。
 その結果、平成八年五月二十三日に報告書(「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏えい事故の報告について」)をとりまとめ、事故の直接の原因が高サイクル疲労による温度計の破断であることなど、それまでの調査検討の結果のほか、科学技術庁として反省すべき点、並びに事故の教訓を踏まえた対応及び改善策を公表した。
 さらに、同報告書において事故の直接の原因は示したが、二次系の温度計が一本のみ破損したこと、漏えいしたナトリウムと鋼材との反応の詳細等について明らかにするため、これらについて調査が継続された。特に、ナトリウム漏えい燃焼実験を実施した結果、床ライナが腐食により激しく損傷したことから、その腐食のメカニズムも含めて検討を行った。
 これらの検討結果について、平成九年二月二十日に事故原因の究明に関する報告書(「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏えい事故の原因究明の結果について」)をとりまとめるとともに、原子力安全委員会にも報告した。

2 安全性の一層の向上に向けた取り組み

 科学技術庁は、もんじゅの安全性を再確認するため、「もんじゅ安全性総点検」を実施し、もんじゅの設備類並びに保安規定及びマニュアル類について点検を行うとともに、もんじゅ事故の教訓や原因究明の過程で得られた新たな知見を踏まえた具体的改善策についての妥当性を検討、確認し、安全性の一層の強化を図ることとした。
 このため、「もんじゅ安全性総点検チーム」を設置(平成八年十月十一日)し、基本方針や点検手法を策定するとともに、これに基づいて動燃が実施する総点検の結果について、評価及び必要な現場での点検を行った。
 科学技術庁では、安全性総点検の結果や具体的な改善策について確認等を行った結果を平成十年三月、報告書(「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖原型炉もんじゅ安全性総点検結果について」)としてとりまとめ、原子力安全委員会に報告した。
 また、もんじゅ・ふげん安全管理事務所を設置(平成八年七月)するとともに、情報通信体制の充実を図るなど、事故時対応の強化に努めている。
 今後、原子力安全委員会は、安全性総点検の結果に関する科学技術庁からの報告も踏まえ、これまでに原子力安全委員会として三次にわたる報告書等において指摘してきた事項等について、専門家からなる組織を設置して、科学技術庁及び動燃の対応が適切であるかどうかについて継続的に確認していく。その際、特に研究開発を担う組織や構成員の意識に関連する重要課題、品質保証活動等の技術的要因に係る課題、新たな技術的知見の反映等への対応策の妥当性を検討していくこととしている。

<第2節> アスファルト固化処理施設火災爆発事故の調査審議について

1 事故の調査審議

【事故の発生】
 平成九年三月十一日、午前十時過ぎ、動燃東海事業所再処理施設(茨城県東海村)に附属するアスファルト固化処理施設において、火災が発生した。一旦は消火されたとの情報が流れたが、実際には消火が不十分であったために、約十時間後の午後八時頃、爆発事故が起こり、建屋の一部を破損してその周囲に放射性物質を飛散させる結果となった。
 この事故は、使用済燃料の再処理に伴って発生する低レベル放射性廃棄物をアスファルト固化する技術開発施設で起こったものであったが、放射性物質の閉じ込め機能が失われ、さらに原子炉等規制法に基づく法令報告に虚偽の記載がなされたために、科学技術庁が動燃の職員及び組織としての動燃を告発するという事態に至った。また、もんじゅ事故の教訓が活かされなかったこともあって、度重なる不祥事としてクローズアップされ、動燃に対する不信感はさらに高まった。

【科学技術庁の対応】
 科学技術庁は、事故の重大性に鑑み、事故発生の翌日には「東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故調査委員会」を発足させ、徹底した原因究明に乗り出した。
 科学技術庁は、平成九年五月八日に、それまでの調査で明らかになった事実関係を整理し、調査状況について中間的なとりまとめを行った報告書(「動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故の原因調査状況について」)をとりまとめ、発表した。
 事故調査委員会は、現地開催を含めて三十回に及ぶ会合を全面公開のもとに開催して検討を進め、同年十二月十五日に報告書(「動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故について」)としてとりまとめ、公表した。
 この報告書では、それまでに実施された各種の実験結果を踏まえ、火災及び爆発の原因について、それぞれの基本的原因及び事故進展に係るシナリオの基本構成を解明するとともに、運転管理上の問題点、安全規制に関する検討等の事項について、幅広く問題点を指摘している。
 さらに、この事故が安全への慣れによって引き起こされたこと、原因として根元的には動燃の運転管理体制や、そのような体制を存続させていた体質も問われるべきであることなどを厳しく指摘した。

【原子力安全委員会の対応】
 原子力安全委員会は、この事故に伴って環境に放出された放射性物質による影響について、環境放射線モニタリング中央評価専門部会において評価を行い、環境及び周辺公衆に影響を及ぼすレベルのものではなかったことを確認した。
 しかしながら、原子力施設において最も重要な放射性物質の閉じ込め機能が失われたことから、あってはならない事故として、重く受け止めた。
 この事故に対し、原子力安全委員会は、事故直後に現地に原子力安全委員を派遣したほか、事故調査委員会に陪席して審議状況を把握するとともに、原子力安全委員会本会議において、事故から得られた教訓を今後の安全規制に最大限反映するため、安全規制との関連を中心に独自の立場から事故の調査審議を行った。
 平成九年十二月二十二日には、事故調査委員会の報告書の説明を踏まえ、事故に関する調査審議の結果を委員会見解としてとりまとめ、公表した。
 この中では、特に事故と安全規制(安全審査、設計及び工事方法の認可)との関係について、調査審議を行った主要点について指摘した。
<委員会見解の概要>
 火災の原因となったと考えられるアスファルト固化体の蓄熱に関して、当時の安全審査では、ドラム缶充填後におけるアスファルトと硝酸塩化合物等との混合物の低温発熱反応により、安全上問題となる温度上昇が生じる可能性を検討していなかったが、当時この低温発熱反応に関する知見は極めて限られており、やむを得なかったと考える。
 また、安全審査では火災は十分防止できると考えたが、なお万が一、火災が発生した場合を想定し、セル換気系の機能確保を前提として周辺公衆への影響を評価した。そうであれば、火災発生時のセル換気系設備の機能維持について、詳細設計において十分な検討が行われるべきであった。
 さらに、動燃は、安全審査後、海外の事故事例を受けて消火実験を行い、アスファルト固化体の消火には、一定時間以上の水噴霧が必要であるとの安全上重要な技術情報を得ていた。にもかかわらず、組織内で共有・継承もなされず、また基本設計に立ち返った検討が行われず、規制側にも知らせていなかった。
 そして、入手した安全上重要な技術情報を動燃が施設の設計等に反映していなかった背景として、アスファルトという可燃物と硝酸塩という酸化物を混ぜることの危険性に対する基本的な認識が、運転実績の積み重ねとともに風化し、組織として継承されなかったことが、事故の発生や拡大につながったと考えられ、厳しく指摘されるべきであるとした。
 これらの調査審議を通じて、安全審査後に得られた技術的知見を施設の設計や運転管理等にいかに活かしていくかが重要であるとの教訓が得られたことから、設置者が技術情報の収集・評価及び組織内での共有・継承を強化していくことが重要であると指摘するとともに、原子力安全委員会自ら技術的知見のデータベース化等の措置を講じることとした。

2 安全性の一層の向上に向けた取り組み

 動燃は、アスファルト固化処理施設事故を踏まえ、自主保安の一環として、東海再処理施設全体の安全性確認を行っている。
 科学技術庁は、事故調査委員会報告書を踏まえて、専門家から構成されるフォローアップチームを設置して、報告書に指摘された教訓と提言等への対応の具体化を進めている。
 また、東海原子力施設運転管理専門官事務所を設置(平成十年四月一日)し、施設の保安及び運転管理に関して、現場を重視した安全規制の強化を図った。
 原子力安全委員会としては、これら科学技術庁及び動燃の対応を通じて安全性が十分に確認され、確認の結果によっては、さらなる安全性の向上が図られるべきであると考えている。この動燃による東海再処理施設の安全性確認に関しては、科学技術庁が動燃の取り組みを検証することとしており、さらに原子力安全委員会は、科学技術庁から報告を受け、対応状況を見極めていく。

<第2章> 信頼回復に向けた取り組み― 「安全」に「安心」を―

 我が国の原子力の開発利用は、原子力基本法にあるとおり、平和の目的に限り、安全の確保を旨としてこれまで進められてきた。特に、この「安全の確保」のため、様々な工夫と努力が積み重ねられてきた。
 原子力の安全確保の最終的な目標は、公衆に対して放射線による著しい障害を与えないこと、すなわち原子炉等規制法のいう「災害の防止」である。原子力の開発利用にあたっては、その莫大なエネルギーの裏返しとして、潜在的な危険が存在することから、「災害の防止」のためには、この潜在的危険をいかに封じ込めるかが鍵となってくる。このため、まず、潜在的な危険を「異常」として顕在化させないようにすることが必要である。また、異常が発生しても、これを拡大させないこと、さらに、万が一事故に至るようなことがあっても、放射性物質の異常な放出を防ぐことが重要である。
 原子力施設においては、潜在的な危険を顕在化させ、災害に至らしめないよう、多重防護(あるいは、深層防護)の思想に基づいて設計が施されており、万が一ある防護壁(=安全対策)が破れたとしても、残る防護壁によって全体の安全性を確保している。
 また、この防護壁のひとつといえるが、我が国の商用原子力発電所においては、シビアアクシデントに至る確率は極めて小さいものの、その場合においても、事故の影響を最小限に食い止めるための対策を設置者の自主保安の一環として講じることとしており、まさに安全確保に万全を期している。
 このような関係者の絶えざる努力の積み重ねにより、我が国の原子力安全の分野においては、近年に至っては、商用原子力発電所の設備利用率が八〇%近い実績を維持し、放射線業務従事者の被ばく量も年平均一mSv以下に抑えられるなど、具体的数値からもうかがえるように、国際的にみても高い安全水準が達成されているということができる。
 このような中で、動燃の施設で一連の事故が発生した。これらの事故については、第一章で述べたが、もんじゅ事故では、原子炉を直接冷却する一次系ではなく、二次系でのナトリウムの漏えいであり、炉心の冷却機能は損なわれず、原子炉そのものは安定に維持された。
 また、アスファルト固化処理施設事故では、施設の放射性物質を閉じこめる機能が失われるという事態に至ったものの、施設から放出された放射性物質による周辺の公衆への有意な影響はなかった。したがって、原子炉等規制法のいう「災害の防止」は達成されたと考える。
 しかしながら、これらの事故は、社会に対して大きな衝撃を与え、原子力安全に対する不安感、不信感を増大させた。すなわち、技術的な安全水準だけでは、必ずしも社会の安心感に結びつかないことが明らかとなった。原子力安全委員会として、このことをどのようにとらえ、これにどのように応えていくべきであろうか。
 「安全」については、事故の発生のみならず、設置許可後に得られた安全上重要な技術的知見が、施設の安全確保に適切に反映されなかったことなどから、原子力施設の安全確保対策が十分ではないのではないかという疑問を生み出していると考えられる。
 また、原子力という技術が持つ専門性、特殊性に加えて、原子力安全に関する情報が必ずしもわかりやすい形で提供されておらず、意思決定過程の透明性、公開性が十分でないことが「安心」に至らない理由ではないかと考えられる。特に事故後の情報が不適切に取り扱われたことは、これを「不信」にまで至らしめた。
 したがって、原子力安全に対する信頼を回復するためには、原子力施設の安全確保に万全を期す観点から、必要に応じて安全対策の充実強化を図ることによって、施設の「安全」を確保するとともに、原子力安全に係る情報の公開や、意思決定過程の透明化を進めることが重要であり、「安心」を得ていくには、これらは欠かすことができない要素であると考える。
 このため、事故の教訓等を踏まえ、原子力安全委員会は、研究開発段階の原子力施設の安全確保対策を強化するとともに、行政庁においても、よりきめ細かい安全規制を実施することによって、安全確保を一層確実にする措置を講ずることとした。
 同時に、原子力安全に係る情報の公開等については、事故の調査審議の過程で寄せられた意見などを踏まえて、情報の共有化、意思決定過程の透明性の向上、対話の推進等の施策を講じてきた。
 以下に、一連の事故から得られた教訓と、それらの教訓を今後の我が国の原子力の安全確保対策にどのように反映していくのかについて、原子力安全委員会を中心とした取り組みを述べる。

<第1節> 一連の事故の教訓を踏まえた施策

1 原子力施設の安全確保対策の充実強化

(1) 研究開発段階の原子力施設の安全確保対策の充実
 原子力安全委員会は、もんじゅのような研究開発段階の原子力施設には、経験を積んだ商業用の原子力発電所等と異なり、その特徴に十分配慮した安全確保対策が求められることに鑑み、どのような安全確保対策を講じていくべきか検討を重ねてきた。
 平成八年三月十四日付け委員会決定「研究開発段階の原子力施設の安全確保のあり方についての検討について」に基づき、学識経験者、原子力施設設置者等を招いて、意見を聴取しながら、調査審議を行った。
 また、審議の過程で、アスファルト固化処理施設火災爆発事故が発生し、安全審査後に得られた安全上重要な技術的知見をいかに施設の設計・運転管理に反映していくかが重要であることなどの教訓が得られたことから、これを踏まえつつ、調査審議を継続した。
 原子力安全委員会は、これらの調査審議の結果を、平成十年四月十六日に「研究開発段階の原子力施設の安全確保対策について」としてとりまとめ、公表した。
 研究開発段階の原子力施設は、次のような特徴を有している。
○適用技術の新規性が高いことなどから、想定外のトラブルが起こる可能性があることに留意しつつ、事故やトラブルの経験を、施設の設計や運転に適切にフィードバックしていくことが重要である。
○施設の安全性に関係する新たな技術的知見が、原子力の分野に限らず、原子力以外の分野からも得られる可能性がある。
○施設の設置の計画から安全審査まで、相当期間の研究開発が必要であり、その際に、安全性に十分配慮した研究開発を行い、その成果を適切に設計に反映させることが重要である。また、開発に関係する研究者・技術者の数が多いことから、組織内での技術の蓄積と継承が重要である。
 これらの点を踏まえたうえで、特に一連の事故から得られた共通の教訓として、設置許可後に得られた施設の安全確保上重要な技術的知見について、研究開発段階の原子力施設の主要なものの設置者(日本原子力研究所及び動燃)、行政庁、原子力安全委員会のそれぞれがとるべき措置を明らかにした。
 すなわち、まず設置者は、施設の安全確保上の第一次的な責任を有する立場から、得られた知見が施設の安全確保に影響を及ぼしうるのか、また及ぼしうるとした場合、どのように施設の設計や運転管理に反映していくのかを検討し、行政庁に報告すべきであるとしている。
 行政庁は、この設置者からの報告に対し、設置者の対策が妥当であるかどうか確認するとともに、自らの安全規制に反映すべき点があるかどうかについても検討するべきとし、原子力安全委員会は、この検討結果について報告するよう求めている。
 原子力安全委員会は、行政庁からの報告に対し、これが妥当であるかどうかについて確認を行うとともに、自らもこうした安全確保上重要な技術的知見の収集蓄積、さらにはデータベース化に努力することとしている。
 以上の対応は、従来は設置者の自主保安の一環として行われていたが、今回、この考え方を整理し、設置者、行政庁がとるべき措置を改めて明文化したことは、研究開発段階の原子力施設の安全確保を従来に増してより確実にするものと考える。
 また、この施策を決定するにあたっては、案の段階で約一か月にわたって意見募集を行い、寄せられた意見を反映したうえで、委員会決定を行うとともに、寄せられた意見に対する回答を作成し、発表した。
 本施策は、研究開発段階の原子力施設の安全確保をより確実にするものであるとともに、国民の意見も踏まえ、事故から得られた教訓を安全規制に直接的に活かすものとして、信頼回復につながることが期待できると考えている。
 また、この考え方は、より広く原子力施設一般に当てはまるものとして、設置者及び行政庁においてこれに準じた対応が望まれる。
(2) 安全規制の充実強化
 一連の事故を踏まえ、科学技術庁は、安全規制当局として、反省すべき点やそれに基づく事故の教訓を踏まえた対応及び改善策を明らかにしている。
 具体的には、前述した安全性総点検のほかに、次のような改善策を示しており、これらに基づき、従来よりきめ細かい安全規制を実施するとともに、危機管理能力の一層の強化を図るための種々の施策を講じている。
 @ 所管原子力施設の安全監視の強化
 所管原子力施設において、安全管理が適切に行われているか、抜き打ち立入調査を実施して確認していくこととした。
 また、現場を重視した安全監視を行うため、福井県敦賀市に「もんじゅ・ふげん安全管理事務所」(平成八年七月)、茨城県東海村には「東海原子力施設運転管理専門官事務所」(平成十年四月)を設置するとともに、情報通信システムの整備、外部の専門家を非常勤職員として任用する技術参与制度を活用するなど、事故時対応の強化が進められている。
 A 緊急時対応の強化
 事故時の情報連絡の迅速化、確実化を図るとともに、的確な初動体制を確保するため、夜間及び週末の当直を含めた二十四時間の通報連絡体制をとるとともに、一元的な情報集約、意思決定等を行う中核施設として、緊急時対策センターを整備した。
 また、事故が発生した場合に、現地に迅速に職員や専門家を派遣し、正確かつ迅速な現場状況の把握に努めるとともに、現場における的確な事故対応を行うことができるよう平素から十分な準備を行うこととした。
 これらは、安全確保の考え方は従来と変わってはいないものの、従来よりも現場重視、事故時対応の迅速性・的確性等の向上を図るという、よりきめ細かい安全規制を行うものであり、危機管理能力を一層充実強化するものといえる。
 今後は、事故の教訓を踏まえた対応及び改善策を着実に実行に移していくこととしている。

2 情報公開等の推進

 原子力の研究開発及び利用に伴って得られた成果は、広く公開されることが重要である。それに加えて、原子力の安全に係る情報は、できる限り公開され、一般の人々も原子力の安全がどのように確保されているのか確認できることも大切である。
 情報公開については、行政全体に対して説明責任(アカウンタビリティ)が求められる気運の高まりとともに、情報公開法案の審議の進捗などの動きとあいまって、意思決定プロセスの透明性・公開性の向上を図ることが重要であると痛感し、積極的な情報公開の推進に努めることとした。
 情報公開に向けた努力は、必ずしも原子力の安全確保に直結するものではないが、国民の信頼を得る取り組みの一つとして、重要な位置を占めるものである。
 ここでは原子力安全委員会及び行政庁による情報公開に向けた取り組みを紹介する。
(1) 原子力安全委員会の取り組み
 原子力安全委員会としては、従来から、本会議の議事録及び会議資料、専門部会等が作成した報告書等について、原子力安全委員会月報に掲載したり、委員会の活動を原子力安全白書として定期的にとりまとめて発表したりするなど、情報の提供に努めるとともに、主要な原子力施設の設置許可等に関するダブルチェックにあたっては第二次公開ヒアリングを開催し、地元の住民の意見を聴取し、安全審査に反映するなどの対応を行ってきた。
 しかしながら、もんじゅ事故を契機として高まった国民の原子力安全に対する不安感、不信感を解消するためには、このような従来の意思決定結果を中心とする情報提供等にとどまらず、より一層の情報公開の推進が不可欠と認識するに至った。
 もんじゅ事故を踏まえ、原子力安全委員会は、研究開発段階の原子力施設における事故時の情報公開等の情報流通について、平成八年四月四日の第一回会合を皮切りに、これまでに九回の会合を重ねて検討してきた。
 この間、
○トラブル発生時の情報伝達においては、迅速性、正確性、平易性が重要であること
○情報のアクセスの面で中央と地方では格差があり、これを是正すること
○平常時における十分な資料提供と語りかけが必要であること
○普段の関わりで信頼関係を築いておくことが重要であること
などの意見が出されたが、とりわけ、原子力安全委員会の情報公開を求める強い意見が出された。
 また、もんじゅ事故後、福島・新潟・福井の三県知事からの提言(平成八年一月)を受けて、原子力委員会が設置し、国民各界各層の参加を得て開催した「原子力政策円卓会議」においても、同様に原子力に関する情報の公開を求める声が強かった。
 こうした動向を踏まえ、原子力安全委員会は、情報公開を推進するための施策を、平成八年十二月五日に「原子力安全委員会の情報公開について」として打ち出した。
 この施策は、以下のとおりである。
 @ 会議及び資料の公開
 意思決定プロセスや審議過程の透明性の向上を図るために、委員会本会議、専門審査会、専門部会等の会議の議事とその資料を公開することとした。
 これらの会議及び資料の公開は、従来の意思決定結果を中心とした情報の提供にとどまらず、一連の意思決定プロセス全般にわたる正確な情報の提供ということができるものであり、専門家が原子力施設の安全性を判断するに至った根拠やそれまでの審議状況について、国民との情報の共有を促進する取り組みである。
 A 専門部会等報告書案への意見公募
 原子力安全委員会の下部機関である専門部会や懇談会などにおいて報告書を作成する場合には、これを一定期間公表して意見を公募し、寄せられた意見のうち、反映すべき意見を反映したうえで報告書を確定させることとした。これは、前述の情報の提供だけでなく、原子力安全行政に対して、国民の積極的な参加を求めるものである。
 B 安全審査案件への意見公募
 原子力安全委員会が行う安全審査(ダブルチェック)にあたり、主要な安全審査案件については、行政庁の安全審査書を一定期間公表して意見を募集し、寄せられた意見を安全審査の調査審議に反映させることとした。これも専門部会等報告書と同様、安全審査という国民の安全の確保に関する重要な調査審議に、国民の積極的な参加を求める取り組みである。
 C 対話の推進
 原子力の安全がどのように確保されているのかという一般的な疑問から、具体的な施設の安全確保対策、あるいは事故等の調査審議状況など、原子力安全について、国民との意思疎通を積極的に図るため、対話を推進していくこととした。
 具体的には、安全審査の結果等や事故の調査審議状況について、関係地元自治体の要望を踏まえつつ、地方自治体や議会等への説明を行うなどの活動を進めている。これは、情報の提供、原子力安全行政への国民参加の促進に加えて、お互い顔が見える距離で対話を行うというものであり、これらが有機的に機能することによって、原子力安全に対する国民の正しい理解が促進され、ひいては信頼感、安心感の醸成につながるものと期待する。
 これらの取り組みについては、約一年間にわたって実施した実績を踏まえて、さらに改善を図ることとし、
○原子力安全委員会が主要な政策決定を行う場合は、政策案の段階で意見を公募すること
○原子力安全委員会の活動及び公開資料全般に対して常時意見を受け付けていくこと
○専門審査会の下部部会の資料を公開すること
などを追加した上で、改めて平成十年四月二十日に「原子力安全委員会の情報公開等の推進について」として決定し、より一層の公開性、透明性の向上を図った。
 また、この決定においては、核不拡散、核物質防護、財産権の保護等に関することから慎重に取り扱わざるをえない情報については、理由を示したうえで非開示とすることができるとしているが、その場合でも、原子力の安全に係る情報は、可能な限り公開するという情報公開に対する原子力安全委員会の強い姿勢を明確にしている。今後とも、関係者に対しても原子力安全委員会の考え方への理解と協力を求めていく。
 また、原子力安全に関する情報の提供の際には、迅速な情報提供とともに、距離の制約を受けないという利点を活かして、インターネットによる情報提供を積極的に進めている。同時に、情報公開の拠点として、原子力公開資料センターを整備し、原子力安全委員会の関係資料をはじめ、設置許可等申請書、安全審査書、あるいは設計及び工事方法の認可に係る書類等を一元的に集約し、閲覧に供するとともに、コピー等のサービスを実施している。
 原子力安全委員会は、ともすれば技術的で難解になりがちな原子力安全に関する情報について、国民の視点に立ってわかりやすく正確な情報の提供に一層の努力を払っていくこととしており、これらの取り組みを通じて、原子力安全に対して正しい理解が進むことを期待する。
 なお、設置者においても、他の施設での事故・故障に関する情報などは、自らの施設の安全性向上に有益なものとなりうることから、公開されている情報を積極的に収集・分析し、活用していくことが望まれる。
(2) 行政庁の取り組み
 安全規制担当省庁である科学技術庁及び通商産業省においても、意思決定プロセスの透明化等に向けて、様々な取り組みを進めている。
 @ 安全規制に係る情報公開の推進
 ア 事故の調査審議に関連した積極的な情報の提供
 もんじゅ事故に関して、科学技術庁は、「もんじゅナトリウム漏えい事故調査・検討タスクフォース」を設置して調査審議を行ったが、会合での検討に用いられた技術資料は全面公開された。また、もんじゅの安全性を再確認するために設置された「もんじゅ安全性総点検チーム」の会合は、一般公開のもとで開催された。
 また、アスファルト固化処理施設事故に関しては、科学技術庁に設置された事故調査委員会の会合は全面公開され、毎回多くの傍聴者が集まるなど、事故に対する関心の高さをうかがわせた。
 イ 安全規制に係る資料の公開
 安全規制に係る資料については、国が安全審査を行ううえで必要な情報が記載されているなどの理由から、これらを公開し、国民に適切に提供していくことは、原子力安全に関する情報を国民と共有していくうえからも極めて重要である。
 このため、実用発電用原子炉施設に関する資料については通商産業省から、また核燃料サイクル関係施設及び試験研究炉等については科学技術庁から、それぞれ公開されている。
 公開されている資料は、以下のとおりである。
<安全審査等関係資料>
 ・設置許可申請書及び安全審査書
 原子炉施設、再処理施設、加工施設、放射性廃棄物埋設・管理施設の設置許可(変更を含む。)の申請にあたり、事業者から提出される申請書等とともに、設置許可等の際に行政庁が作成する安全審査書が公開されている。
 ・設計及び工事方法の認可に係る申請書等
 沸騰水型原子炉、加圧水型原子炉それぞれのモデルプラントとして、柏崎刈羽原子力発電所三号機、大飯発電所三号機の工事計画の認可に係る申請書が公開されている。
 また、核燃料サイクル関係施設については、六ヶ所廃棄物管理施設、六ヶ所再処理施設、もんじゅ等の設計及び工事の方法の認可申請書等が公開されている。
 ・保安規定等
 すべての実用発電用原子炉施設、もんじゅ、核燃料サイクル関係施設として六ヶ所廃棄物管理施設、六ヶ所再処理施設等について、それぞれ保安規定が公開されている。
 また、高レベル放射性廃棄物事業所外廃棄確認申請書が事業者より公開されているほか、核燃料の輸送に関係する情報の公開も進められている。
<その他>
 ・定期検査結果等
 原子力施設の定期検査の結果は、期間中に実施された主要改造工事の概要、従事者の被ばく状況の概要とともに公開されている。また、原子力施設における放射性廃棄物管理の状況及び放射線業務従事者の被ばく状況については、年度ごとにとりまとめられて行政庁が公開している。これらは白書巻末に資料編として収められている。
 A 情報の円滑な提供
 各種申請書等の膨大な量の原子力の安全確保に関する原子力安全委員会及び科学技術庁等の情報、資料等の提供については、これらを一括管理し、適切な情報提供を行っていく拠点として、原子力公開資料センターが平成八年一月に設置され、国民からのニーズに対応した情報提供が進められており、公開情報等の一層の充実が図られている。
 また、実用発電用原子炉施設の安全性に関する通商産業省、電気事業者等の情報、資料等の提供については、原子力発電ライブラリ、原子力PR館等において行っている。
 前記に加え、原子力施設の立地地域との円滑な情報連絡のために設置された行政庁の地方事務所等の活用により、地元への迅速かつ正確な情報提供を進めていくことが重要である。

<第2節> 信頼回復に向けた今後の施策の展開

 一連の事故の発生とその調査審議の過程の中で、原子力安全委員会に対して様々な声が寄せられた。その中には、原子力安全委員会の独立性、透明性を問う批判的な意見も含まれていたが、同時に原子力安全委員会に対して一層の努力を求め、機能強化を期待する意見が少なからずあったことも事実である。
 原子力安全委員会としては、批判的な声に対しても率直に耳を傾け、反省すべき点については、虚心坦懐に反省するとともに、原子力安全委員会に期待する声に対しても、これに応えることができるよう、徹底した、かつ、厳正な事故調査と再発防止対策の検討、また事故の教訓を踏まえた対応に全力を尽くしてきた。これについては、これまで紹介してきたとおりである。
 原子力安全委員会に課せられた基本的な任務は、原子力の安全確保に万全を期するために、行政庁から一歩離れた独自の立場に立って、科学的かつ客観的な総合判断を拠りどころとして、行政庁の行う安全規制業務に目を配り、国民の立場から行政庁に意見を述べていくことである。
 一連の事故を踏まえ、原子力安全委員会は、自らの基本的な任務はますますその重要性を増しているものと考えており、損なわれた原子力安全に対する信頼を取り戻すため、任務遂行に最大限努力していく決意である。
 原子力安全に関する数ある重要課題のうち、一連の事故を契機として、いくつかの課題が特にクローズアップされた。
 まず、行政庁の行う安全審査のダブルチェックについては、これを一層厳正に行うとともに、安全審査後の安全規制に対する関与についても、強化する必要がある。
 安全審査に用いる指針・基準類については、安全研究の総合的・計画的推進などにより、これまでもその整備に努めてきたが、今後は、指針類の策定に資するよう、安全研究をより能動的に進めるとともに、高レベル放射性廃棄物の処理・処分を含めた指針類の整備を一層図っていく必要があると認識している。
 原子力防災対策の充実も、危機管理能力の強化の一環として重要である。一連の事故を受けて、特に原子力施設の立地自治体を中心として、原子力防災への取り組みの強化を求める声が相次いだ。原子力防災特別措置法の制定や原子力レスキュー隊の設置等を通じて、国が前面に立ってこの問題に取り組むよう要望が寄せられており、必ずしも現在の原子力防災対策あるいは防災体制が十分であるとの安心感が得られていないことを示している。
 原子力安全委員会は、原子力防災発動時における緊急技術助言組織の円滑な活動に資するための活動拠点や、情報通信体制の整備を進める一方で、原子力発電所等周辺防災対策専門部会において、従来から実施している防災指針の見直しを継続するとともに、より実効性のある原子力防災体制の実現、原子力防災対策の強化等について、当面の重要課題として議論を進めているところである。
 チェルノブイル事故を引き合いに出すまでもなく、原子力事故は国境を越えて被害を及ぼす可能性があるとの観点から、原子力安全の国際協力への取り組みについても、積極的に推進していかなければならない。今後、原子力発電の導入が本格化すると予想されるアジア地域においては、原子力発電所等の安全確保やこれらの国々におけるセイフティ・カルチュアの醸成に関する分野での協力が必要である。
 原子力先進国との間では、原子炉の高経年化対策及びシビアアクシデント対策に関する協力がより重要になってこよう。また、多国間協力としては、国際原子力機関(IAEA)や経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)を通じた国際安全基準類の策定活動への積極的な貢献や、原子力安全条約に基づく情報交換、国際協力の促進を着実に進めることによって、国際的な原子力の安全水準の向上が図られることが重要である。
 情報の公開等については、すでに詳しく述べたように、所要の改善を図りつつ、その推進に努めてきたが、意思決定過程の透明性の向上に向けて、さらに強力に推し進めていく。
 原子力安全委員会は、これらの重要課題に対して、国民の目に見える形で対応を行っていくことが、信頼感の回復に結びついていくであろうと信じている。
 翻って、原子力安全委員会の歩んできた道を振り返ってみれば、昭和五十三年十月、原子力船むつの放射線漏れ事故を契機として、原子力の安全規制機能の分離、独立を目的として設立されて以来、原子力の安全規制に重要な役割を果たしてきたと考えている。設立から今日に至るまでには、原子力安全を取り巻く国内外の状況も様々な変化を遂げてきたが、原子力安全委員会は、この平成十年十月をもって設立二十周年を迎えることとなる。
 一連の行政改革の中においても、原子力安全委員会のあり方について検討がなされており、今般成立した中央省庁等改革基本法においては、原子力安全委員会は、内閣府に置かれ、現行の機能を継続することとされている。これにより、原子力安全委員会の機能が一層高まることが期待されるが、さらに具体的なことは、今後中央省庁等改革推進本部などにおいて検討が進められることになっている。
 そこで、この機会をとらえて、これまでの軌跡を振り返りつつ、一連の事故の教訓をどのように活かしていくのかも含め、事務局体制を含めた原子力安全委員会のあり方、我が国の原子力安全規制のあり方などについて、設立の趣旨の根本に立ち返って、自ら議論を深めていくことは重要であり、積極的かつ能動的に検討を進めていくこととしたい。その際、事故を通じて改めて浮かび上がってきた重要課題への対応に特に着目して、議論を深めていく。
 なお、この検討の一助として、言論界・ジャーナリスト、学識経験者、原子力事業者、地方自治体関係者等のみならず、一般からの公募者も含め、幅広い各界各層との意見交換を行うこととしている。
 原子力安全委員会は、今後の施策の展開にあたり、前述した重要課題を念頭に置きつつ、自らのあり方について、見直しを行い、信頼回復に引き続き取り組んでいく。

おわりに

 動燃の一連の事故を契機として、原子力の安全確保に対する不安感、不信感は、これまでにないほど高まった。
 原子力安全委員会は、損なわれた原子力の安全確保に対する信頼の回復が、喫緊かつ最重要の課題であると認識し、このための施策を展開してきたことは、すでに述べてきたとおりである。その際、従来からの技術的観点でいう「安全」のみならず、社会的な「安心」へ目を向けた施策を展開してきた。
 いうまでもなく原子力の安全行政は、国民の理解と信頼を基盤としなければならない。このためには、施設の安全確保をより一層確実にすることに加え、国民の立場からみれば、十分な情報が提供されるとともに、意思決定のプロセスが透明であり、さらに国民が望めば、この過程に参画する機会が与えられていることが重要になってくる。こうして初めて国民の信頼を獲得する基礎ができる。この意味から、原子力安全委員会が展開してきた種々の施策は、信頼回復に不可欠であり、かつ有益であると信じている。そのうえで、優れた安全の実績を積み重ねることが重要である。
 優れた安全実績の積み重ねとは、できる限り事故や故障を起こさないこと、そして万が一事故や故障が起こったとしても、適切な対応を行い、十分な事故対応能力、危機管理能力があることを示していくことである。したがって、損なわれた信頼の回復は、一朝一夕に成し遂げられるものではなく、地道な努力が求められる長い道のりになることを覚悟する必要がある。この間、一連の事故を風化させてはならないし、事故から得られた教訓を十分に安全確保対策に活かしていく必要があると考えている。
 また、原子力施設の安全確保は、研究開発、設計から、建設、運転の各段階にわたる厳正な安全規制と、運転開始から運転終了までの適切な運転管理が相まって十分に機能して初めて成立するものである。
 逆に、安全への慣れ、油断といったものは、事故を誘発し、その結果、それまでの自らの努力はもちろんのこと、他の関係者の努力も無に帰す可能性をはらんでおり、安全確保に対する緊張感は、一瞬たりともおろそかにできない。この意味で、動燃の一連の事故だけでなく、日本原子力研究所のウラン濃縮研究棟における火災事故(平成九年十一月)、(株)日立製作所等による原子力発電所配管焼鈍温度記録の疑義問題(平成九年九月)、日本核燃料開発(株)における照射済み試験片等の所在不明事故(平成十年四月)等は、原子力安全に対する不安感、不信感の高まりを加速させた。
 この二年間を総括するにあたって、原子力の安全確保に携わるすべての関係者に、今一度、「自らにとってのセイフティ・カルチュアとは何か」と問い直すことを求めたい。なぜなら、いくつもの内包した潜在的危険のすべてをクリアして初めて維持されるという安全の特質を考えれば、原子力安全はすべての関係者の努力にかかっているからである。しかも、原子力分野においては、一般産業よりもさらに高いレベルの安全水準が求められるのであり、他の産業の模範とならねばならない。
 このため、自分こそがセイフティ・カルチュアの担い手であるとの深い自覚に立ち、原子力に携わる我々一人一人がそれぞれの立場にあって、また日々の業務の中で、「安全をおろそかにしていないか」「安全確保への努力が惰性になっていないか」と自らに問いかけ、安全を最優先する緊張感を不断に培っていかねばならない。
 また、組織においては、この個人の努力を支援する環境づくりに励むとともに、個々人の自主性や積極性を尊重しつつ、意識啓発に資する教育・訓練等の取り組みを一層推進していくことが必要である。
 この組織と個人の取り組みが相乗効果を発揮して互いの増幅が図られるとき、あたかも歯車が噛み合って、車の両輪のごとく前進するように、「安全」に、そして「安心」へと力強い確かな歩みが始まることであろう。ここに、セイフティ・カルチュアが根付き、人間の持つ有益な理性、行動が存分に発揮されていく基本がある。
 この意味から、原子力に携わるすべての関係者の一層の自戒と奮起を期待するものである。
 また、原子力安全委員会としても、原子力安全に対する信頼回復に向けた流れを一層強固なものとするために、今後とも自らの施策の展開に全力を尽くす所存である。また、そのためにもセイフティ・カルチュアの醸成の重要性について、原子力施設の視察など現場を訪問する場合や、原子力安全委員会が主催する会合など、あらゆる機会をとらえて訴えていきたい。


目次へ戻る

法人企業動向調査


―平成十年六月実施調査結果―


経 済 企 画 庁


◇調査要領

 本調査は、資本金一億円以上の全営利法人を対象として、設備投資の実績及び計画並びに企業経営者の景気と経営に対する判断及び見通し並びに設備投資に関連する海外直接投資動向を調査したものである。
 調査対象:調査は、原則として国内に本社又は主たる事務所をもって企業活動を営む資本金又は出資額が一億円以上の全営利法人(約三万七千八百社)から、経済企画庁が定める方法により選定した四千五百二十八社を対象とした。
 調査時点:平成十年六月下旬
 調査方法:調査は、調査法人の自計申告により行った。
 なお、資本金又は出資額が百億円以上の営利法人については原則として全数調査、百億円未満の営利法人は、層化任意抽出法により選定した法人について調査した。
 有効回答率:調査対象法人四千五百二十八社のうち、有効回答法人四千三百十三社、有効回答率九五・三%
〔利用上の注意〕
(1) 今期三か月の判断とは、平成十年一〜三月期と比較した場合の十年四〜六月期の判断、来期三か月の見通しとは、十年四〜六月期と比較した場合の十年七〜九月期の見通し、再来期三か月の見通しとは、十年七〜九月期と比較した場合の十年十〜十二月期の見通しである。
(2) 判断指標(BSI)とは「上昇(強くなる・増加・過大)の割合−下降(弱くなる・減少・不足)の割合」である。
(3) 設備投資の公表数値は、母集団推計値である。また、算出基準は工事進捗ベース(建設仮勘定を含む有形固定資産の減価償却前増加額)である。
(4) 季節調整法は、センサス局法U、X−11で算出した。
(5) 集計上の産業分類は、日本標準産業分類を基準とする会社ベースでの主業分類に基づいて行った。
(6) 昭和六十三年三月調査より、日本電信電話(株)、第二電電(株)等七社、JR関係七社及び電源開発(株)を調査対象に加えるとともに、日本電信電話(株)、第二電電(株)等七社については六十年四〜六月期、JR関係七社については六十二年四〜六月期に遡及して集計に加えた。
(7) 平成元年六月調査より消費税を除くベースで調査した。
(8) 平成十年六月調査より以下のとおり産業分類の見通しを行い、昭和五十九年六月調査に遡及して集計を行った。
 @ 「造船」を「その他の輸送用機械」に合併。
 A 「印刷・出版」を「その他の製造業」に合併。
 B 「卸売・小売業,飲食店」の内訳を廃止し、「卸売業」と「小売業,飲食店」に分割。
 C 「運輸・通信業」の内訳を廃止し、「運輸業」と「通信業」に分割。
 D 「電力業」と「ガス業」を合併し、「電力・ガス業」とする。
 E 「サービス業」を「サービス業(除くリース業)」と「リース業」に分割。
 F 製造業を素材型、加工型に分類。

一 景気見通し(全産業:季節調整値)

(一) 国内景気第1表参照

 国内景気に関する判断指標(BSI:「上昇」−「下降」)は、平成十年四〜六月「マイナス五十五」と大きく悪化した後、企業経営者の国内景気見通しは七〜九月「マイナス二十六」、十〜十二月「一」となり、悪化の程度は次第に和らいでいる。
 産業別にみると、製造業では十年四〜六月「マイナス五十七」、七〜九月「マイナス二十五」、十〜十二月「四」となり、非製造業では十年四〜六月「マイナス五十四」、七〜九月「マイナス二十七」、十〜十二月「マイナス二」となっている。

(二) 業界景気第2表参照

 所属業界の景気に関する判断指標(BSI:「上昇」−「下降」)は、平成十年四〜六月「マイナス四十八」と大きく悪化した後、業界景気見通しは七〜九月「マイナス二十六」、十〜十二月「マイナス八」となり、悪化の程度は次第に和らいでいる。
 産業別にみると、製造業では十年四〜六月「マイナス五十二」、七〜九月「マイナス二十五」、十〜十二月「マイナス五」となり、非製造業では十年四〜六月「マイナス四十五」、七〜九月「マイナス二十五」、十〜十二月「マイナス九」となっている。

二 需要・価格関連見通し(季節調整値)

(一) 内外需要(製造業)(第3表参照

 国内需要に関する判断指標(BSI:「強くなる」−「弱くなる」)は、平成十年四〜六月「マイナス五十二」と大きく悪化した後、企業経営者の国内需要見通しは七〜九月「マイナス二十五」、十〜十二月「マイナス二」となり、悪化の程度は次第に和らいでいる。
 また、海外需要に関する判断指標(BSI:「強くなる」−「弱くなる」)は、十年四〜六月「マイナス三十」と悪化した後、海外需要見通しは七〜九月「マイナス十五」、十〜十二月「マイナス三」となり、悪化の程度は次第に和らいでいる。

(二) 在庫水準(製造業)(第4表参照

 原材料在庫水準の判断指標(BSI:「過大」−「不足」)は、平成十年六月末「十九」と過大感が増した後、原材料在庫水準見通しは九月末「十二」、十二月末「八」となり、過大感は和らいでいる。
 また、完成品在庫水準の判断指標は、十年六月末「三十五」と過大感が増した後、完成品在庫水準見通しは九月末「二十一」、十二月末「十三」となり、過大感は和らいでいる。

(三) 価 格(製造業、農林漁業、鉱業)(第5表参照

 原材料価格に関する判断指標(BSI:「上昇」−「下降」)は、平成十年四〜六月「マイナス三十一」と大幅に下落した後、自己企業の原材料価格見通しは七〜九月「マイナス十五」、十〜十二月「マイナス十二」となり、引き続き弱含みとなっている。
 また、製品価格に関する判断指標(BSI:「上昇」−「下降」)は、十年四〜六月「マイナス六」の後、製品価格見通しは七〜九月「〇」、十〜十二月「三」となり、やや上昇するものと見込まれている。

三 経営見通し(季節調整値)

(一) 売上高(全産業:金融・保険業、不動産業を除く)(第6表参照

 売上高に関する判断指標(BSI:「増加」−「減少」)は、平成十年四〜六月「マイナス三十四」と大きく悪化した後、自己企業の売上高見通しは七〜九月「マイナス十二」、十〜十二月「マイナス四」となり、悪化の程度はやや和らいでいる。
 産業別にみると、製造業では十年四〜六月「マイナス四十」、七〜九月「マイナス十六」、十〜十二月「マイナス三」となり、非製造業では十年四〜六月「マイナス二十六」、七〜九月「マイナス十三」、十〜十二月「マイナス六」となっている。

(二) 経常利益(全産業:金融・保険業、不動産業を除く)(第7表参照

 経常利益に関する判断指標(BSI:「増加」−「減少」)は、平成十年四〜六月「マイナス三十三」と大きく悪化した後、経常利益の見通しは七〜九月「マイナス十六」、十〜十二月「マイナス六」となり、悪化の程度はやや和らいでいる。
 産業別にみると、製造業は十年四〜六月「マイナス三十九」、七〜九月「マイナス十八」、十〜十二月「マイナス四」となり、非製造業では十年四〜六月「マイナス二十八」、七〜九月「マイナス十五」、十〜十二月「マイナス六」となっている。

四 生産設備見通し(製造業:季節調整値)(第8表参照

 生産設備の判断指標(BSI:「過大」−「不足」)は、平成十年四〜六月「三十」の後、自己企業の生産設備の見通しは七〜九月「二十八」、十〜十二月「二十五」となり、過大感が引き続き高くなっている。

五 設備投資の動向(全産業:原数値)

(一) 半期別動向第9表参照

 設備投資の動向を半期別に前年同期比でみると、平成九年七〜十二月(実績)〇・七%増の後、十年一〜六月(実績見込み)一・二%増、七〜十二月(計画)一・五%減の見通しとなっている。
 産業別にみると、製造業では九年七〜十二月七・三%増の後、十年一〜六月八・六%増、七〜十二月五・八%減の見通しとなり、非製造業では九年七〜十二月二・六%減の後、十年一〜六月二・五%減、七〜十二月〇・八%増の見通しとなっている。

(二) 資本金規模別動向第10表参照

 資本金規模別に前年同期比でみると、資本金十億円以上の大企業では、平成九年七〜十二月〇・五%減の後、十年一〜六月五・九%増、七〜十二月六・一%増の見通しとなっている。一方、資本金一〜十億円の中堅企業では、九年七〜十二月二・九%増の後、十年一〜六月七・九%減、七〜十二月一五・五%減の見通しとなっている。

(三) 暦年の動向

 暦年の動向を前年比でみると、平成九年(実績)三・八%増の後、十年(計画)は〇・一%減の見通しとなっている。
 産業別にみると、製造業では九年九・〇%増の後、十年は一・三%増の見通しとなり、非製造業では九年一・二%増の後、十年は〇・九%減の見通しとなっている。

(四) 四半期別動向(季節調整値)

 四半期別の動向を前期比でみると、平成十年一〜三月(実績)の〇・一%減の後、四〜六月(実績見込み)は一・六%の減少となっている。
 産業別にみると、製造業では十年一〜三月の〇・五%増の後、四〜六月は九・五%の減少となり、非製造業では十年一〜三月の〇・九%減の後、四〜六月は三・二%の増加となっている。

六 海外直接投資の動向(全産業:原数値)(第11表参照

 平成十年度の海外直接投資計画は約一兆二千億円の見通しとなっている。これを産業別にみると、製造業では約九千億円、非製造業では約三千億円の見通しとなっている。ただし、十年度計画の中には、未定とする企業も多いため、九年度実績と単純に比較はできない。
 十年度計画の新規案件の投資目的別構成比を九年度実績と比べてみると、投資先国需要向けの生産拠点の設置や拡張、日本需要向けの生産拠点の設置や拡張等の割合が増加している。
 また、新規案件の投資地域別構成比をみると、インド等その他のアジアで割合が増加する一方、アセアン八か国の割合が減少している。





目次へ戻る

月例経済報告(九月報告)


経 済 企 画 庁


概 観

 我が国経済
 需要面をみると、個人消費は低調である。これは、収入が減少していることに加え、消費者の財布のひもが依然として固いからである。住宅建設は、マンションが大幅に減少していることなどから一段と低水準になった。設備投資は、減少している。特に中小企業の減少が著しい。
 産業面をみると、最終需要が低調なため、鉱工業生産は、減少傾向にある。在庫はこのところ減少しているものの、まだ高水準である。企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、中小企業を中心に一層厳しさが増している。
 雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加している。完全失業率は僅かに低下したが、就業者数が減少していることを考えれば、これは求職活動を諦めた者が増えたためとみられる。
 輸出は、アジア向けが減少しているものの、欧米向けなどが好調なため、全体としては横ばい状態となっている。輸入は、減少傾向である。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、増加傾向にある。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、八月は、月初の百四十四円台から一時百四十七円台まで下落したが、その後上昇し、月末には百四十一円台となった。
 物価の動向をみると、国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。また、消費者物価は、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、八月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、八月は低下した。株式相場は、八月は大幅に下落した。マネーサプライ(M2+CD)は、七月は前年同月比三・五%増となった。
 海外経済
 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大しているものの、株価急落により経済の先行きに対する不透明感がみられはじめている。実質GDPは、一〜三月期前期比年率五・五%増の後、四〜六月期は一時的な減速要因から同一・六%増となった。個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は、一時的要因もあり、このところ伸びが鈍化している。雇用は拡大している。物価は安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。八月の長期金利(三十年物国債)は、低下した。株価(ダウ平均)は、八月は総じて下落し、三十一日には史上二番目の下落幅となったが、九月に入ってやや戻した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツ、フランスでは、景気は拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポは緩やかになっている。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは拡大しており、イギリスでは鈍化している。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準ながらもやや低下している。イギリスでは低水準で推移している。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスでは一時の騰勢は鈍化してきている。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は、下落している。貿易収支黒字は、輸入の鈍化から大幅である。韓国では、景気は後退している。失業率は、大幅に上昇している。物価は、騰勢は鈍化している。貿易収支は、輸入減少により大幅な黒字が続いている。
 国際金融市場の八月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、月初より総じて増価していたが、月末にかけて減価した。ロシア政府・中央銀行は、八月十七日、ルーブルの実質的切り下げ、民間の一部の対外債務支払いの九十日間の停止、九九年末までに償還期限を迎える中短期国債の新規国債への切り換え等の措置を発表した。
 国際商品市況の八月の動きをみると、上旬にやや強含んだが、その後は弱含みに推移した。原油スポット価格(北海ブレント)は、中旬に産油国による減産合意が遵守されていないとして弱含む場面があったものの、おおむね横ばいで推移した。

*     *     *

 我が国経済の最近の動向をみると、個人消費は低調である。これは、収入が減少していることに加え、消費者の財布のひもが依然として固いからである。住宅建設は、マンションが大幅に減少していることなどから一段と低水準になった。設備投資は、減少している。特に中小企業の減少が著しい。
 輸出は、アジア向けが減少しているものの、欧米向けなどが好調なため、全体としては横ばい状態となっている。
 このように最終需要が低調なため、生産は減少傾向にある。在庫はこのところ減少しているものの、まだ高水準である。
 雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加している。完全失業率は僅かに低下したが、求職活動を諦めた者が増えたためとみられる。また、民間金融機関は貸出に慎重な態度を変えていない。
 こうした中、金融市場などで、経済の先行きに対する不透明感が高まっている。
 以上のように、景気は低迷状態が長引き、極めて厳しい状況にある。
 このような厳しい経済の現況に対応し、まず政府は、「総合経済対策」の実施に全力を挙げることとしている。あわせて、金融再生トータルプランの早期実現を目指し、所要の法案を国会に提出するとともに、中小企業等貸し渋り対策大綱を決定した。また、経済戦略会議を発足させ、国民の将来に対する自信と安心を高める政策等を検討することとしている。
 その上で、一刻も早い景気回復を図るため、平成十一年度に向け切れ目なく施策を実行できるように、事業規模で十兆円を超える第二次補正予算と、平成十一年度予算を一体のものとして編成する。また、税制については、六兆円を相当程度上回る恒久的な減税を実施する。
 これらが早い時期から家計や企業のマインドの喚起に役立つものと期待している。

1 国内需要
―設備投資は、減少―

 個人消費は、低調である。これは、収入が減少していることに加え、消費者の財布のひもが依然として固いからである。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で六月一・〇%減の後、七月は三・四%減(前月比二・二%減)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比四・〇%減、勤労者以外の世帯では同一・三%減となった。形態別にみると、耐久財等は増加、サービス等は減少となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比二・七%減、勤労者世帯では同三・六%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で六月〇・七%増となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で六月三・七%減の後、七月は三・七%減(前月比〇・二%減)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で六月五・〇%減の後、七月四・一%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で六月二・〇%減の後、七月一・四%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で八月は二・六%減となった。また、家電小売金額は、前年同月比で七月は八・三%増となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、七月は前年同月比で国内旅行が〇・八%減、海外旅行は一・二%減となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で六月〇・四%減の後、七月(速報)は二・五%減(事業所規模三十人以上では同二・六%減)となり、うち所定外給与は、七月(速報)は同八・九%減(事業所規模三十人以上では同九・五%減)となった。実質賃金は、前年同月比で六月〇・四%減の後、七月(速報)は二・二%減(事業所規模三十人以上では同二・三%減)となった。
 住宅建設は、マンションが大幅に減少していることなどから一段と低水準になった。
 新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で六月三・一%減(前年同月比一一・七%減)となった後、七月は九・三%減(前年同月比一一・三%減)の九万二千戸(年率百十万戸)となった。七月の着工床面積(季節調整値)は、前月比一〇・六%減(前年同月比九・八%減)となった。七月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比一二・九%減(前年同月比一・五%減)、貸家は同六・八%減(同一五・三%減)、分譲住宅は同一八・〇%減(同一八・二%減)となっている。
 設備投資は、減少している。特に中小企業の減少が著しい。
 当庁「法人企業動向調査」(十年六月調査)により設備投資の動向をみると、全産業の設備投資は、前期比で十年一〜三月期(実績)〇・一%減(うち製造業〇・五%増、非製造業〇・九%減)の後、十年四〜六月期(実績見込み)は一・六%減(同九・五%減、同三・二%増)となっている。また、十年七〜十二月期(計画)は、前年同期比で一・五%減(うち製造業五・八%減、非製造業〇・八%増)と見込まれている。
 なお、年間計画では、前年度比で九年度(実績)〇・六%増(うち製造業七・六%増、非製造業二・八%減)の後、十年(計画)は〇・一%減(同一・三%増、同〇・九%減)となっている。
 先行指標の動きをみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前月比で五月は四・〇%減(前年同月比二八・六%減)の後、六月は五・六%増(同一八・六%減)となり、基調は減少傾向となっている。
 なお、当庁「機械受注調査(見通し)」によれば、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、七〜九月期(見通し)は前期比で二・一%減(前年同期比二二・一%減)と見込まれている。
 民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、このところ弱含みとなっており、七月は前月比七・一%減(前年同月比一〇・五%減)となった。内訳をみると、製造業は前月比一一・一%増(前年同月比二六・六%減)、非製造業は同一二・〇%減(同五・八%減)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資については、前倒し執行が促進されているものの、十年度当初予算額や九年度補正予算における積み増し額が前年度に比べて大きく減少していることもあって、着工総工事費は前年を下回る水準で推移している。
 公共工事着工総工事費は、前年同月比で五月三一・六%減の後、六月は七・五%減となった。公共工事請負金額は前年同月比で六月〇・八%増の後、七月は一〇・七%減となった。官公庁からの建設工事受注額(五十社)は前年同月比で六月一四・六%減の後、七月は七・一%減となった。

2 生産雇用
―依然として厳しい雇用情勢―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、生産・出荷は、減少傾向にある。在庫はこのところ減少しているものの、まだ高水準である。
 鉱工業生産は、前月比で六月一・七%増の後、七月(速報)は、化学、窯業・土石製品等が増加したものの、輸送機械、金属製品等が減少したことから、〇・八%減となった。また製造工業生産予測指数は、前月比で八月は機械により〇・四%減の後、九月は機械、鉄鋼等により二・五%増となっている。鉱工業出荷は、前月比で六月〇・九%増の後、七月(速報)は、耐久消費財、資本財が増加したものの、非耐久消費財、生産財等が減少したことから、〇・六%減となった。鉱工業生産者製品在庫は、前月比で六月〇・四%減の後、七月(速報)は、電気機械、精密機械等が増加したものの、輸送機械、一般機械等が減少したことから、〇・八%減となった。また、七月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数は一一一・〇と横ばいとなった。
 主な業種について最近の動きをみると、輸送機械では、生産、在庫ともに七月は減少した。一般機械では、生産、在庫ともに七月は減少した。化学では、生産は四か月連続で増加し、在庫は二か月連続で減少した。
 第三次産業活動の動向をみると、四〜六月期は前期比〇・八%減と3四半期連続で減少し、低調に推移している。
 農業生産の動向をみると、平成十年産水稲の全国作況指数(八月十五日現在)は、九九の「平年並み」となっている。
 雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加している。完全失業率は僅かに低下したが、就業者数が減少していることを考えれば、これは求職活動を諦めた者が増えたためとみられる。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、六月〇・五一倍の後、七月〇・五〇倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、六月〇・八六倍の後、七月〇・八四倍となった。雇用者数は、減少している。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、七月は前年同月比一・〇%減(前年同月差五十五万人減)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、六月前年同月比〇・一%増(季節調整済前月比〇・〇%)の後、七月(速報)は同〇・一%減(同〇・二%減)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比〇・二%減)、産業別には製造業では同一・五%減となった。七月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差十一万人減の二百七十八万人、完全失業率(同)は、六月四・三%の後、七月四・一%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では六月前年同月比一八・二%減(季節調整済前月比一・〇%減)の後、七月(速報)は同一八・二%減(同〇・〇%)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比一八・五%減)。
 また、労働省「労働経済動向調査」(八月調査)によると、「残業規制」等の雇用調整を実施する事業所割合は、四〜六月期は引き続き上昇した。
 企業の動向をみると、企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、中小企業を中心に一層厳しさが増している。
 大企業の動向を前記「法人企業動向調査」(六月調査、季節調整値)でみると、売上高、経常利益の判断(ともに「増加」−「減少」)は、十年四〜六月期は「減少」超幅が拡大した。また、企業経営者の景気判断(業界景気の判断、「上昇」−「下降」)は十年四〜六月期は「下降」超幅が拡大した。また、中小企業の動向を中小企業金融公庫「中小企業動向調査」(六月調査、季節調整値)でみると、売上げD.I.(「増加」−「減少」)は、十年四〜六月期は「減少」超幅が拡大し、純益率D.I.(「上昇」−「低下」)は、「低下」超幅が拡大した。業況判断D.I.(「好転」−「悪化」)は、十年四〜六月期は「悪化」超幅が拡大した。
 企業倒産の状況をみると、件数は、前年の水準を大きく上回る傾向で推移している。
 銀行取引停止処分者件数は、七月は一千二百二十四件で前年同月比二八・四%増となった。業種別に件数の前年同月比をみると、製造業で三五・三%、卸売業で三八・三%の増加となった。

3 国際収支
―貿易・サービス収支の黒字は、増加傾向―

 輸出は、アジア向けが減少しているものの、欧米向けなどが好調なため、全体としては横ばい状態となっている。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で六月三・三%減の後、七月は三・三%増(前年同月比一・四%減)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、輸送用機器、一般機械等が増加した。同じく地域別にみると、アメリカ、EU等が増加した。
 輸入は、減少傾向である。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で六月九・二%増の後、七月は〇・〇%増(前年同月比七・九%減)となった。この動きを品目別(金額ベース)にみると、製品類(機械機器)、原料品等が減少した。同じく地域別にみると、アジア、EU等が減少した。
 通関収支差(季節調整値)は、六月に一兆五百十一億円の黒字の後、七月は一兆三千四百六億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、増加傾向にある。
 六月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、貿易収支の黒字幅が縮小し、サービス収支の赤字幅が拡大したため、その黒字幅は縮小し、八千四百八十一億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、所得収支の黒字幅が拡大したものの、貿易・サービス収支の黒字幅が縮小し、経常移転収支の赤字幅が拡大したため、その黒字幅は縮小し、一兆四千六百五十億円となった。投資収支(原数値)は、二兆三千五百八十一億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、二兆四千四百三十九億円の赤字となった。
 八月末の外貨準備高は、前月比十八億ドル増加して二千九十三億ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、八月は、月初の百四十四円台から一時百四十七円台まで下落したが、その後上昇し、月末には百四十一円台となった。一方、対マルク相場(インターバンク十七時時点)は、八月は、月央にかけて八十一円台から八十二円台で推移したが、その後上昇し七十九円台から八十円台で推移した。

4 物 価
―国内卸売物価は弱含みで推移―

 国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。
 七月の国内卸売物価は、電気機器(入出力装置)等が下落した一方、電力・都市ガス・水道(業務用電力)が季節的な夏季割増料金の適用により上昇したこと等から、前月比保合い(前年同月比二・二%の下落)となった。輸出物価は、契約通貨ベースで下落したことから、円ベースでは前月比〇・五%の下落(前年同月比九・四%の上昇)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで下落したことから、円ベースでは前月比〇・四%の下落(前年同月比二・七%の上昇)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比保合い(前年同月比〇・三%の下落)となった。
 八月上中旬の動きを前旬比でみると、国内卸売物価は上旬、中旬ともに保合い、輸出物価は上旬が一・四%の上昇、中旬が〇・三%の上昇、輸入物価は上旬が〇・八%の上昇、中旬が〇・三%の上昇、総合卸売物価は上旬が〇・二%の上昇、中旬が〇・一%の上昇となっている。
 企業向けサービス価格は、七月は前年同月比〇・二%の下落(前月比保合い)となった。
 商品市況(月末対比)は食品等は上昇したものの、非鉄等の下落により八月は下落した。八月の動きを品目別にみると、大豆油等は上昇したものの、銅地金等が下落した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で六月保合いの後、七月は公共料金(広義)の上昇幅の縮小等により〇・一%の下落(前月比〇・三%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で六月〇・一%の上昇の後、七月は〇・一%の下落(前月比〇・六%の下落)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で七月〇・一%の上昇の後、八月(中旬速報値)は外食の下落幅の縮小等の一方、個人サービスの上昇幅の縮小等があり〇・一%の上昇(前月比保合い)となった。なお、総合は、前年同月比で七月保合いの後、八月(中旬速報値)は保合い(前月比保合い)となった。

5 金融財政
―株式相場は、大幅に下落―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、八月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、八月は低下した。株式相場は、八月は大幅に下落した。マネーサプライ(M2+CD)は、七月は前年同月比三・五%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレート、二、三か月物ともに、八月はおおむね横ばいで推移した。
 公社債市場をみると、国債流通利回りは、八月は低下した。なお、国債指標銘柄流通利回り(東証終値)は八月三十一日に一・〇四五%となり、史上最低を更新した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、七月は短期は〇・〇一三%ポイント上昇し、長期は〇・一五三%ポイント上昇したことから、総合では前月比で〇・〇四七%ポイント上昇し一・九〇二%となった。
 マネーサプライ(M2+CD)の月中平均残高を前年同月比でみると、七月(速報)は三・五%増となった。また、広義流動性でみると、七月(速報)は三・三%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関の貸出平残(全国銀行)は、七月(速報)は前年同月比二・三%減となった。八月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債がゼロとなった。また、八月の国内公募事業債の起債実績は九千九百八十億円となった。
 民間金融機関は貸出に慎重な態度を変えていない。
 株式市場をみると、日経平均株価は、八月は大幅に下落した。

6 海外経済
―ロシア・ルーブル切り下げ―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大しているものの、株価急落により経済の先行きに対する不透明感がみられはじめている。実質GDPは、一〜三月期前期比年率五・五%増の後、四〜六月期は一時的な減速要因から同一・六%増(速報値)となった。個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は、一時的要因もあり、このところ伸びが鈍化している。雇用は拡大している。雇用者数(非農業事業所)は六月前月差十九万六千人増の後、七月は同六万六千人増となった。失業率は七月四・五%となった。物価は安定している。七月の消費者物価は前月比〇・二%の上昇、生産者物価(完成財総合)は同〇・二%の上昇となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。八月の長期金利(三十年物国債)は、低下した。株価(ダウ平均)は、八月は総じて下落し、三十一日には史上二番目の下落幅となったが、九月に入ってやや戻した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツ、フランスでは、景気は拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポは緩やかになっている。実質GDPは、ドイツ一〜三月期前期比年率三・九%増、フランス四〜六月期同二・八%増(速報値)、イギリス同二・〇%増(改定値)となった。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは拡大しており、イギリスでは鈍化している(六月の鉱工業生産は、ドイツ前月比一・二%減、フランス同〇・三%減、イギリス同〇・七%増)。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準ながらもやや低下している。イギリスでは低水準で推移している(七月の失業率は、ドイツ一〇・九%、フランス一一・八%、イギリス四・七%)。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスでは一時の騰勢は鈍化してきている(七月の消費者物価上昇率は、ドイツ前年同月比〇・九%、フランス同〇・八%、イギリス同三・五%)。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は、下落している。貿易収支黒字は、輸入の鈍化から大幅である。韓国では、景気は後退している。失業率は、大幅に上昇している。物価は、騰勢は鈍化している。貿易収支は、輸入減少により大幅な黒字が続いている。
 国際金融市場の八月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、月初より総じて増価していたが、月末にかけて減価した(モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)八月三十一日一一五・〇、七月末比〇・一%の増価)。内訳をみると、八月三十一日現在、対円では七月末比二・八%減価、対マルクでは同一・四%減価した。ロシア政府・中央銀行は、八月十七日、ルーブルの実質的切り下げ、民間の一部の対外債務支払いの九十日間の停止、九九年末までに償還期限を迎える中短期国債の新規国債への切り換え等の措置を発表した。
 国際商品市況の八月の動きをみると、上旬にやや強含んだが、その後は弱含みに推移した。原油スポット価格(北海ブレント)は、中旬に産油国による減産合意が遵守されていないとして弱含む場面があったものの、おおむね横ばいで推移した。


 
    <10月7日号の主な予定>
 
 ▽経済白書のあらまし………………経済企画庁 

 ▽消費者物価指数の動向……………総 務 庁 
 



目次へ戻る