官報資料版 平成101028




                 ▽ 公害紛争処理白書のあらまし            公害等調整委員会
                                   ………………………………事   務   局

                 ▽ 労働力調査(八月結果の概要)……………………………総  務  庁

                 ▽ 月例経済報告(十月報告)…………………………………経 済 企 画 庁










公害紛争処理白書のあらまし


―公害紛争等の現状と処理―


公害等調整委員会事務局


<はじめに>
 平成十年版「公害紛争処理白書」は、公害等調整委員会が、平成十年八月七日、内閣総理大臣を経由して国会に対し「平成九年度公害等調整委員会年次報告」として報告したものである。同白書は、公害等調整委員会の平成九年度(平成九年四月一日から平成十年三月三十一日まで)の所掌事務(公害紛争の処理に関する事務及び鉱業等に係る土地利用の調整に関する事務)の処理状況をまとめたもので、昭和四十七年に公害等調整委員会が発足して以来、二十六回目のものである。
 平成十年版「公害紛争処理白書」のあらましは、次のとおりである。

公害紛争処理法に基づく事務の処理概要

【公害等調整委員会における公害紛争の処理状況】

 公害等調整委員会(以下「委員会」という。)は、公害紛争処理法(昭和四十五年法律第百八号)の定めるところにより、公害に係る紛争について、あっせん、調停、仲裁及び裁定を行っている。
 平成九年度に委員会に係属した公害紛争事件は、新たに申請のあった六件(調停事件一件、裁定事件四件、義務履行勧告申出事件一件)に、前年度から繰り越された二十件(調停事件七件、裁定事件十三件)を加えた計二十六件である。
 このうち、平成九年度中に終結した事件は、液体洗剤水質汚濁被害等調停申請事件等二件であり、残り二十四件が十年度に繰り越された。
 なお、公害紛争処理法の施行(昭和四十五年十一月一日)以来、委員会(四十七年六月三十日以前は中央公害審査委員会)に係属した事件(あっせん、調停、仲裁、裁定及び義務履行勧告申出)は、七百三十三件であり、そのうち終結したものは七百九件である(第1表参照)。

◇調停事件

 平成九年度に委員会に係属した調停事件は、新たに申請のあった一件と前年度から繰り越された七件を加えた計八件である。このうち、製鉄所大気汚染健康被害工場移転等調停申請事件一件については、管轄を有する都道府県に移送し、液体洗剤水質汚濁被害等調停申請事件一件については、一部申請人との間で調停が成立し、終結した。
 平成九年度に係属した事件の概要は、次のとおりである。

一 水俣病損害賠償調停申請事件
<事件の概要>
 熊本県から鹿児島県にまたがる不知火海の沿岸の漁民等が、チッソ株式会社水俣工場からの排水に起因した水俣病にかかり、これによって精神上、健康上の被害及び財産上の損害を被ったとして、チッソ株式会社を相手方(被申請人)として、賠償金の支払等を内容とする調停を求めたものである。
 現在の調停手続では、患者グループとチッソ株式会社との間の補償協定で、水俣病患者の症状等に応じて定められたA、B、Cの三ランクのいずれに該当するかの判定を委員会に求めることとした患者について、ランク付けを行い、各ランクに応じて個々人の補償額等の決定、家族の補償等を中心とした調停を行っている。
<事件処理の経過>
 昭和四十八年度の最初の調停以来、平成九年度末までに一千四百五十八人の患者について調停が成立した(第2表参照)。
 また、調停の成立した患者のうち、Bランク及びCランクの生存者の場合には、調停条項の中に、将来、申請人の症状に慰藉料等の金額の増額を相当とするような変化が生じたときは、これを理由として、調停委員会に対し、当該金額の変更を申請することができるものとする旨の条項があり、これに基づいてなされた慰藉料額等の変更申請を、平成九年度末までに四百九十六件受け付け、四百九十件を処理した(第3表参照)。

二 液体洗剤水質汚濁被害等調停申請事件
<事件の概要>
 平成五年三月二十三日、静岡県、長野県及び東京都の住民十七人から、洗剤製造会社を相手方(被申請人)として、静岡県公害審査会に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人会社は、同社製造の薬用液体洗剤に自社基準を上回る雑菌が発見されたとして、全国の小売店や病院などから未使用の同製品を自主回収したものの、消費者に渡った開封後の同製品に関しては、各家庭での処分という形で消費者に判断を委ねたため、各家庭では同製品を下水に流したり、地面に穴を掘って捨てたり、あるいはゴミの回収に出したりと、個別に処理することを余儀なくされた。その結果、地下水や河川の汚染、土壌汚染のおそれ、また、一般ゴミとして廃棄された場合には、各自治体の廃棄物処分場が汚染されるおそれがあり、処理の過程でダイオキシンが発生する危険性も否定できず、大気汚染を引き起こす可能性が極めて高く、人体や環境への影響が憂慮される。
 これらを理由として、被申請人会社に対し、@全製品を回収すること、A既に回収された製品に関しては(今後回収される製品も含めて)、水質汚濁等の環境破壊を引き起こさない形で処分すること、B雑菌が混入した経緯等の詳細な報告と資料の提出を行うことを求めるというものである。
<事件処理の経過>
 本事件は、いわゆる県際事件であり、静岡県公害審査会から通知を受けた静岡県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、関係都県知事(東京都知事、長野県知事及び兵庫県知事)と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成五年七月七日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を委員会に送付した。
 委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに調停委員会を設け、十三回の調停期日を開催したほか、当事者双方との個別協議を行うなど、鋭意手続を進めてきた。しかし、被申請人会社が回収し、保管している薬用液体洗剤の処分方法について、双方の意見が折り合わず、合意の成立が困難と判断した調停委員会は、平成十年二月十三日、同法第三十四条第一項の規定に基づき、三十一日間の期間を指定し調停案の受諾を勧告した。
 この調停案の受諾勧告に対し、被申請人からは受諾する旨の申出が、申請人九人からは受諾しない旨の申出がそれぞれあったが、申請人八人からは指定期間内に受諾しない旨の申出がなかった。
 この結果、同法第三十四条第三項の規定により、受諾しない旨の申出がなかった申請人八人と被申請人との間に調停が成立したものとみなされ、同法第三十六条第二項の規定により、受諾しない旨の申出があった申請人九人と被申請人との間の調停が打ち切られたものとみなされ、本事件は終結した。

三 豊島産業廃棄物水質汚濁被害等調停申請事件(三件)
<事件の概要>
 平成五年十一月十一日、香川県小豆郡土庄町豊島の住民四百三十八人から、廃棄物処理業者、廃棄物排出業者及び香川県ら計二十七名を相手方(被申請人)として、公害紛争処理法第二十七条第一項の規定に基づき、香川県知事に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人らが共同して、違法な産業廃棄物の処理等を行ったため、有害物質を含有している膨大な量の産業廃棄物が放置され、その結果、申請人らに有害物質による水質汚濁のおそれ等による生活上、健康上及び精神上の被害等が生じている。
 これらを理由として、被申請人らに対し、@共同して香川県小豆郡土庄町豊島家浦字水ケ浦三一五一番地の一外四十九筆の土地(面積約二八・五ヘクタール)に存在する一切の産業廃棄物を撤去すること、A連帯して、申請人各自に対して金五十万円を支払うことを求めるというものである。
 その後、平成五年十一月十五日、同一原因による被害を主張する豊島の住民百十一人から参加の申立てがあり、調停委員会は、六年一月二十四日、これを許可した。
 また、平成八年十月二十三日、平成五年の申請人五人から国(代表者厚生大臣)を相手方(被申請人)として、香川県小豆郡土庄町豊島家浦字水ケ浦三一五一番地の一外四十九筆の土地に存在する一切の産業廃棄物を撤去することを求める調停申請が、委員会に対してあった。
<事件処理の経過>
 本事件は、産業廃棄物の処理を委託した被申請人会社等の事業所の所在地が福井県、大阪府、兵庫県、鳥取県、岡山県、愛媛県、香川県に及ぶことから、いわゆる県際事件であり、香川県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、前記関係府県知事と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成五年十二月二十日、同条第五項の規定により本事件の関係書類を委員会に送付した。
 委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに本事件の調停委員会を設け、現地調停を含む二十七回の調停期日を開催した。
 その過程で、産業廃棄物の実態についての認識の食い違いのため、当事者の主張に大きな隔たりがあることが判明したことから、調停委員会は、第四回調停期日において、三名の専門委員による産業廃棄物不法投棄地の実態調査を行い、その結果に基づいて調停を進めることとした。
 実態調査は平成六年十二月十三日から七年三月末まで行われ、その結果を踏まえて、専門委員において科学的・技術的知見に基づいた産業廃棄物の撤去及び環境保全に必要な措置並びにこれらに必要な費用の検討が行われた。
 その後、前記調査の検討結果を当事者に示した上で、各々の主張を聴取するなどした結果、第十四回調停期日において、香川県が、自らが主体となって処分地に存する廃棄物及び汚染土壌について、無害化するための中間処理を施す方向で検討する旨の意向を示し、申請人もこれを受け入れたので、細部について合意を図るために手続を進めた結果、平成九年七月十八日、申請人と被申請人香川県との間で中間合意が成立した。
 その後、中間合意に基づいて香川県が設置した技術検討委員会が九回開催され、廃棄物の溶融処理、再資源化処理方式等の実験を行うなどの検討がなされている。
 また、第十五回調停期日において、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に定める委託基準に違反した廃棄物の処理委託を行った排出事業者は、同法上の責任を免れない旨を指摘するとともに、対策に要する費用等について、応分の負担をするよう求めた。その後、排出事業者との個別協議を重ねた結果、平成十年三月末日までに一部の排出事業者が負担に応ずることに同意し、それら排出事業者と申請人との間で調停が成立した。

四 中海本庄工区干陸事業水質汚濁被害等調停申請事件(二件)
<事件の概要>
 平成七年八月九日、島根県及び鳥取県の住民三十五人から、国(代表者農林水産大臣)を相手方(被申請人)として、公害紛争処理法第二十七条第一項の規定に基づき、島根県知事に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 国が計画している中海干陸事業が実施された場合、遊水域、浅瀬及び海水の流入・出の消滅などにより、災害、水質汚濁及び生態系の破壊を招くおそれがある。
 これらを理由として、被申請人国に対し、@全面干陸を行わないこと、A水質汚濁及び生態系の回復を目指し、森山堤防及び大海崎堤防の一部を早期に開削するなど、必要な措置を講じることを求めるというものである。
 その後、平成八年一月十九日、同一原因による被害を主張する島根県の住民一人から参加の申立てがあり、調停委員会は同日これを許可した。
<事件処理の経過>
 本事件は、いわゆる県際事件であり、島根県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、関係県知事(鳥取県知事)と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成七年九月五日、同条第五項の規定により本事件の関係書類を委員会に送付した。
 委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに調停委員会を設け、五回の調停期日を開催するなど、鋭意手続を進めてきた。その後、本件事業について平成九年度から二年間、農林水産省において調査研究を行い、工事の再開については、その結果に基づいて判断することとなったことから、その間は、必要に応じて両当事者との連絡をとることにとどめ、手続はその調査結果を待って進めることとしている。

五 松枯れ対策農薬空中散布大気汚染被害等調停申請事件
<事件の概要>
 平成八年五月二十七日、島根県及び山口県の住民三人から、島根県益田市、島根県、山口県田万川町、山口県及び農林水産省を相手方(被申請人)として、公害紛争処理法第二十七条第一項の規定に基づき、島根県知事に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人益田市と田万川町が、松枯れ対策事業として農薬の空中散布を行うことにより、散布区域及び周辺の広範な区域の大気、水及び土壌が汚染され、健康被害が生じている。
 これらを理由として、被申請人益田市及び田万川町に対し、@農薬の空中散布を行わないこと、A松枯れ対策として農薬空中散布以外の方法を選択すること、被申請人島根県及び山口県に対し、それぞれ益田市及び田万川町に対し、農薬空中散布の中止及び農薬空中散布以外の方法の選択を指導すること、並びに被申請人農林水産省に対し、@島根県及び山口県に農薬空中散布の中止及び農薬空中散布以外の方法の選択を指導すること、A農薬空中散布において使用している農薬の安全性を科学的に立証すること、B「松くい虫被害対策特別措置法」の有効期間を延長しないことをそれぞれ求めるというものである。
<事件処理の経過>
 本事件は、いわゆる県際事件であり、島根県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、関係県知事(山口県知事)と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成八年八月二十日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を委員会に送付した。
 委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに調停委員会を設け、二回の調停期日を開催したほか、農薬空中散布の方法等に関する当事者双方の主張を聴取するなどして、鋭意手続を進めている。

六 製鉄所大気汚染健康被害工場移転等調停申請事件
<事件の概要>
 平成九年七月七日、和歌山県の住民三十三人から、製鉄会社を相手方(被申請人)として、公害等調整委員会に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人の製鉄所から排出されるばいじん等による大気汚染等により、地元住民にぜん息などの健康被害等が生じた。また、被申請人は、これら公害による健康被害等をなくすため、製鉄所に面する海面を埋め立て、そこに工場を移転することを計画したが、経済の動向により製鉄所の生産量が激減したため、健康被害等はなくなったと主張し、移転を実施していない。
 これらを理由として、被申請人会社に対し、@埋立移転計画に基づいて製鉄所を移転すること、A移転までの間、製鉄所から排出されるばいじんの総量規制を行うこと、並びに夜間における騒音及び振動を規制値以下とすること、B@により移転した跡地に緑地を設けること、C申請人に対し、相当の被害補償をすることを求めるというものである。
<事件処理の経過>
 委員会は、平成九年八月二十九日、本事件については委員会の管轄に属しないと判断し、公害紛争処理法第二十五条の規定により、本事件を和歌山県知事に移送することを決定した。

◇裁定事件

 平成九年度に委員会に係属した裁定事件は、新たに申請のあった四件と前年度から繰り越された十三件を加えた計十七件である。
 その概要は次のとおりである。

一 小田急線騒音被害等責任裁定申請事件(十四件)
<事件の概要>
 平成四年五月七日、東京都世田谷区の住民三百二十五人から、小田急電鉄株式会社を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人は、小田急小田原線において鉄道事業を営むものであるが、昭和三十二年ごろから、車両のスピードアップ、増発、営業時間の延長などにより、騒音、振動及び鉄粉じんによる被害を沿線住民に及ぼしてきている。このため、申請人らは睡眠を妨げられ、日常生活における会話や電話、テレビ・ラジオ等の聞き取りにも不自由し、不快感、不安感(いらいら)等を感じるほか、屋根瓦のずれ等の物的被害も生じており、これらは受忍限度の範囲を超えた違法なものである。
 これらを理由として、被申請人に対し、申請人一人につき、@平成元年五月八日(本裁定申請日の三年前)から四年五月七日(本裁定申請日)までの損害に対する賠償として、金五十万円及びこれに対する裁定申請書送達の日の翌日から支払完済の日まで年五%の割合による遅延損害金の支払、A四年五月八日(本裁定申請日の翌日)から本件公害による被害が解消されるまで、一日当たり金五百円の割合による金員の支払を求めるというものである。
 その後、同一原因による被害を主張する小田急小田原線沿線住民から、平成四年七月以後、十三回にわたり計四十三人の参加申立てがあり、裁定委員会はこれを許可した。なお、十年三月末までの間に、申請人六十人及び参加人三人から申請の取下げがあり、現在の申請人及び参加人は三百五人となっている。
<事件処理の経過>
 委員会は、本事件の責任裁定申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、二十七回の審問期日及び二回の証拠調期日を開催し、平成十年二月二十四日、話合いによる解決の余地を残しながら、審問を終結した。その間、申請人居宅等について六年五月に騒音測定を、七年五月に振動測定を、その後の参加人居宅等について、九年三月及び六月に騒音・振動測定をそれぞれ実施するとともに、六年十一月には、騒音に関する専門委員を、七年三月には、振動に関する専門委員を選任し、それぞれの専門分野について意見を求めるなどして、裁定手続を進めてきた。
 裁定委員会では、現在、裁定書作成を進める一方、申請人らにとって生活環境の悪化を改善することが真の問題解決につながることを考慮し、当事者双方から、問題解決に向けた方策等について意見を聴取している。

二 飯塚市廃棄物悪臭被害責任裁定申請事件
<事件の概要>
 平成八年四月二十四日、福岡県飯塚市の住民五人から、飯塚市を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人が、昭和四十五年ごろから平成四年までの間に、同市大字目尾一一六一番地外二十筆等の土地に投棄した、し尿汚泥等による悪臭の発生により、申請人らは、日夜悪臭に悩まされ、終日窓を閉めた生活を余儀なくされる等の被害を被った。
 これらを理由として、被申請人に対し、申請人一人につき金三百六十万円の損害賠償を求めるというものである。
<事件処理の経過>
 委員会は、本事件の責任裁定申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、五回の審問期日を開催するなど、鋭意手続を進めている。

三 飯塚市し尿処理場等悪臭被害原因裁定申請事件
<事件の概要>
 平成八年四月二十四日、福岡県飯塚市の住民四人から、飯塚市を相手方(被申請人)として、原因裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人が設置管理するし尿処理場及びそれに隣接する下水道終末処理場から発生する悪臭により、申請人らは、終日窓を閉めた生活を余儀なくされている、外に出ると「つん」と鼻をつき目を刺激して涙が出る、子供たちを外で遊ばせることができない等の生活上の被害を被っているが、被申請人は悪臭の発生を否定している。
 これらを理由として、被申請人によるし尿処理場及びそれに隣接する下水道終末処理場の設置管理とこれらの被害との間に因果関係があるとの原因裁定を求めるというものである。
<事件処理の経過>
 委員会は、本事件の原因裁定申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、五回の審問期日を開催し、平成九年八月に職権による臭気測定を行うなど、鋭意手続を進めている。

四 杉並区における不燃ゴミ中継施設健康被害原因裁定申請事件
<事件の概要>
 平成九年五月二十一日、東京都杉並区の住民ら十八人から、東京都を相手方(被申請人)として、原因裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 平成八年四月、杉並区に被申請人が不燃ゴミ中継施設を開設して以来、申請人らは、それまでに経験したことのない喉の痛み、頭痛、めまい、吐き気、動悸等のさまざまな健康被害を受けている。これら被害は、同中継施設から排出される有毒物質によるとの原因裁定を求めるというものである。
<事件処理の経過>
 委員会は、本事件の原因裁定申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、一回の審問期日を開催するなど、鋭意手続を進めている。

◇義務履行勧告申出事件

一 冷暖房室外機騒音職権調停事件の調停条項に係る義務履行勧告申出事件
<事件の概要>
 冷暖房室外機騒音職権調停事件は、東京都保谷市の住民一人が、隣接するアパートの所有者を相手方(被申請人)とし、被申請人の所有するアパートの冷暖房室外機からの騒音により、精神的な苦痛を受けたとして、慰藉料の支払を求めた責任裁定事件について、職権で事件を調停に付し、平成三年十一月五日、調停が成立した事件である。
 平成九年八月二十六日、前記調停事件の申請人から、調停条項のうち一部について被申請人が義務を履行するよう、義務履行勧告を求める申出があった。
<事件処理の経過>
 委員会は、申出を受けた後、義務の履行状況について当事者双方等から事情を聴取し、平成十年三月に夜間騒音測定を実施するなど、鋭意手続を進めている。

【都道府県公害審査会等における公害紛争の処理状況】

 都道府県に設置されている都道府県公害審査会等(平成十年三月末現在で、公害審査会を置いているのは三十八都道府県、公害審査委員候補者を委嘱しているのは九県である。以下「審査会等」という。)において、公害に係る紛争について、あっせん、調停及び仲裁並びに義務履行勧告を行っている。
 公害紛争処理法の施行以来、平成十年三月末までに審査会等に係属した公害紛争事件は、八百二十八件で、そのうち終結したものは七百五十九件である。平成九年度中には五十一件の事件を新たに受け付け、これに前年度からの繰越しとを合わせた百九件の事件が九年度に係属した。このうち四十件が同年度中に終結し、六十九件が十年度に繰り越された(第4表参照)。
 近年の事件の特徴としては、次の点が挙げられる。
 @ 加害行為とされる事業活動の種類は、交通・運輸関係、廃棄物・下水等処理関係、製造・加工業関係、建築・土木関係等となっており、発生源が多様化する傾向にある。
 A 環境基本法第二条第三項に定める公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下及び悪臭の七種類の公害をいう。以下「典型七公害」という。)のみでなく、日照阻害、通風阻害、眺望阻害、土砂崩壊、交通環境悪化等、生活環境を悪化させる要因を併せて主張するものが増加しており、それらを含めた紛争の一体的、総合的な解決を求める事件が目立っている。
 B 国、地方公共団体、公団等が発生源側の当事者に含まれる事件が増加している。

◇申請の状況

 平成九年度中に受け付けたあっせん及び調停事件五十件について、典型七公害の種類別にみると、騒音に関するものが三十四件、大気汚染に関するものが二十九件、振動に関するものが二十五件、水質汚濁に関するものが十四件、悪臭に関するものが十件、土壌汚染に関するものが九件、地盤沈下に関するものが三件となっている(重複集計)。
 また、加害行為とされる事業活動の種類をみると、交通・運輸関係(道路建設に係るものを含む。)が十二件、廃棄物・下水等処理関係が十一件、製造・加工関係が六件、建築・土木関係が四件、畜産関係及び製錬・採石関係が各二件、その他が十三件となっている。

◇処理の状況

 平成九年度中に終結した四十件の終結区分をみると、あっせん又は調停が成立したものが十四件、調停を打ち切ったものが十八件、調停申請を取り下げたものが六件、その他(調停申請却下及び義務履行の勧告)が二件である。
 また、申請受付から終結までの期間をみると、三か月以内に終結したものが四件、三か月を超え六か月以内に終結したものが五件、六か月を超え一年以内に終結したものが十一件、一年を超え一年六か月以内に終結したものが十一件、一年六か月を超え二年以内に終結したものが三件、二年を超えているものが六件となっており、半数が一年以内に終結している。
 なお、制度発足以来の全事件の平均処理期間は、一五・八か月である。
 平成九年度中に調停が成立した事件のうち、いくつかの概要を以下に示す。

一 石川県平成八年(調)第一号事件
<申請の概要>
 石川県の住民一人から、平成八年十二月、石川県公害審査会に対して、木工所の経営者(個人営業)を相手方(被申請人)として、
 @ 申請人住居に隣接している焼却施設を他の場所に移設するなど、適切な防止措置を講じること、
 A 平成八年十二月以降、前記@の防止措置を講じるまで、毎月金員を支払うこと、
を求める調停申請があった。
<申請の理由>
 被申請人が営んでいる木工所の焼却施設から発生している騒音、ばい煙及びばいじんにより、申請人及びその家族は日々不快な思いをするなどの感覚的・心理的被害を受けており、また、建物の外壁が黒くなるなどの財産被害を受けている。
<調停の内容>
 調停委員会は、申請受付以来、現地調査及び九回の調停期日の開催等、調停成立に向けて手続を進めた結果、平成十年一月、次のような内容の合意が成立した。
 @ 木工所に付随するオガクズの焼却施設等から発生するばいじんについて、平成十年五月末日までに、集じん施設としてサイクロンを設置すること。
 A 送風機等のオガクズ集じん施設から発生する騒音について、平成十一年四月末日までに、送風機の消音ブースを設置する等の防音工事を行うこと。
 B 焼却施設等の稼働に当たり、オガクズの焼却施設への投入量に配慮するなど、ばいじんの発生防止に努めること。
 C 引き続き公害対策に配慮し、焼却施設等の更新の際には、できる限り環境への負荷が少ないものを導入するよう努めること。
 D 前記@又はAに違反したときは、申請人に対し、遅延期間一か月当たりにつき金員を支払うこと。

二 広島県平成八年(調)第二号事件
<申請の概要>
 広島県の住民一人から、平成八年六月、広島県公害審査会に対して、クリーニング会社を相手方(被申請人)として、
 @ ボイラー二基の移動及びボイラー室の防音対策を行うこと、
 A 遮音壁を設置すること、
 B 操業時間を短縮(午前九時から午後六時まで)すること、
を求める調停申請があった。
<申請の理由>
 被申請人が営んでいるクリーニング工場のボイラー等の騒音により、申請人は精神的苦痛を受け、また、申請人の家族は十二指腸潰瘍、円形脱毛症を繰り返している。
<調停の内容>
 調停委員会は、申請受付以来、現地調査及び六回の調停期日の開催等、調停成立に向けて手続を進めた結果、平成九年十一月、次のような内容の合意が成立した。
 @ 遮音壁の設置、ボイラー二基の移動及びボイラー室の防音対策については、被申請人の履行が完了したことを確認すること。
 A クリーニング工場の操業時間は、通常は午前七時から午後八時まで、繁忙期は午前七時から午後九時までとすること。
 B 被申請人は、近隣住民が平穏な生活を送れるよう、クリーニング工場の操業に伴う騒音の防止に努め、今回設置した遮音壁及びボイラー室の維持修繕及び管理を適切に行うこと。
 C 被申請人は、ボイラー室内に設置しているボイラー及びコンプレッサーからの発生音が外部に漏れないよう、ドアの開閉に十分留意すること。

【地方公共団体における公害苦情の処理状況】

 公害紛争処理法は、地方公共団体が関係行政機関と協力して、公害に関する苦情の適切な処理に努めるべきこと、都道府県及び市区町村に公害苦情相談員を置くことができることを規定している。公害苦情相談員は、公害に関する苦情について、住民の相談に応じ、その処理のために必要な調査を行うとともに、関係行政機関と連絡を取り合って、当事者に対し改善措置の指導、助言を行うなど、苦情の受付から解決に至るまでの一貫した処理に当たっている。
 また、地方公共団体が行う公害に関する苦情の処理については、公害苦情の適切妥当な処理が公害紛争全体の解決のために重要であることから、委員会が指導等を行うこととされている。
 平成八年度の全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口における公害に関する苦情の動向及びその処理状況は、次のとおりである。

◇公害苦情件数の推移

 平成八年度に全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口で受け付けた(他の機関等から移送されたものを含む。)公害苦情件数は六万二千三百十五件で、前年度に比べて九百五十一件増加した(第5表参照)。
 公害苦情件数を、典型七公害に係るものと、典型七公害以外に係るものとに分けてみると、平成八年度の典型七公害の苦情は四万五千三百七十八件、典型七公害以外の苦情は一万六千九百三十七件となっている。
 なお、典型七公害の苦情件数の推移をみると、昭和四十七年度の七万九千七百二十七件をピークにして減少傾向を示しており、四十九年度から五十三年度までは六万件台、五十四年度から六十三年度までが五万件台、平成元年度以降が四万件台となっており、ここ数年間は四万二千〜四万五千件台で変動を繰り返している(第6表参照)。

◇公害苦情の種類

 典型七公害の苦情件数を種類別にみると、平成八年度では騒音が一万四千二百八十一件(典型七公害の苦情件数の三一・五%)と最も多く、次いで大気汚染が一万九百六十一件(同二四・二%)、悪臭が一万八百三十九件(同二三・九%)、水質汚濁が七千百六十八件(同一五・八%)、振動が一千八百七十七件(同四・一%)、土壌汚染が二百二十九件(同〇・五%)、地盤沈下が二十三件(同〇・一%)となっており、前年度に比べると、騒音、大気汚染、悪臭、水質汚濁及び土壌汚染の苦情が増加し、振動及び地盤沈下の苦情は減少した(第7表参照)。
 次に、典型七公害以外の苦情件数を種類別にみると、平成八年度は廃棄物の不法投棄が四千九十五件(典型七公害以外の苦情件数の二四・二%)と最も多く、次いで害虫等の発生が二千二百三十三件(同一三・二%)などとなっている(第8表参照)。

◇典型七公害に係る発生源別苦情件数

 典型七公害の苦情件数を発生源別にみると、平成八年度では、製造業が九千八百九十七件(典型七公害の苦情件数の二一・八%)と最も多く、次いで建設業が八千九百六件(同一九・六%)、サービス業が五千六百三件(同一二・三%)、卸売・小売業、飲食店が四千二百九十一件(同九・五%)、家庭生活が三千九百五十四件(同八・七%)などとなっている(第9表参照)。

◇公害苦情の処理状況

 平成八年度において、全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口が取り扱った苦情件数(七年度以前に受け付けたが、処理されず八年度に繰り越されたものを含む。以下「公害苦情処理取扱件数」という。)は、六万九千九百五十二件である。
 平成八年度の公害苦情処理取扱件数六万九千九百五十二件のうち、公害苦情相談窓口において直接処理した件数(以下「直接処理件数」という。)は、五万七千三百四十一件である。
 直接処理件数を、苦情の申立てから処理までに要した期間別にみると、「一週間以内」が三万一千六百六十九件(直接処理件数の五五・二%)と最も多く、「一か月以内」が七千七百五十一件(同一三・五%)、「三か月以内」が五千五百十四件(同九・六%)、「六か月以内」が五千七百二十九件(同一〇・〇%)、「一年以内」が二千八百八十九件(同五・〇%)、「一年超」が一千五百五十九件(二・七%)などとなっており、一か月以内に約七割が処理されている(第10表参照)。
 また、直接処理件数から、典型七公害以外の苦情で、かつ公害主管課(保健所を含む。)以外が処理した苦情件数等一千六十九件を除いた苦情件数(以下「公害主管課等処理件数」という。)を苦情の処理結果に対する申立人の満足度の状況別にみると、「一応満足」が一万八千六百九十七件(公害主管課等処理件数の三三・二%)と最も多く、次いで「満足」が九千四百三十五件(同一六・八%)、「あきらめ」が三千四百四十九件(同六・一%)、「不満」が二千八十六件(同三・七%)となっており、「満足」と「一応満足」を合わせた件数と「あきらめ」及び「不満」を合わせた件数の比率は、おおむね五対一となっている(第11表参照)。

◇公害苦情を担当する職員数

 全国の地方公共団体において、公害苦情の処理に関する事務に従事している職員数は、平成八年度末で、一万三千三十六人であり、このうち、公害紛争処理法第四十九条第二項に規定する公害苦情相談員は二千九百二十六人(二二・四%)である。

【地方公共団体に対する指導等】

◇公害紛争処理に関する連絡協議

 委員会及び審査会等は、公害紛争処理法によって定められた管轄に従い、それぞれ独立して紛争の処理に当たっているが、紛争の円滑な処理のためには、委員会及び審査会等が相互の情報交換・連絡協議に努めることが必要である。
 このため、委員会は、平成九年度においても、第二十七回公害紛争処理連絡協議会等の会議を開催し、また、参考となる情報・資料の提供を行った。

◇公害苦情処理に関する指導等

 公害紛争処理法では、公害苦情の処理は地方公共団体の責務とされ、また、委員会は地方公共団体が行う公害に関する苦情の処理について指導等を行うこととされている。
 このため、委員会は平成九年度においても、公害苦情処理に関する指導等を行うため、第二十五回公害苦情相談研究会等の会議の開催、公害苦情調査結果報告書の作成等により、参考となる情報・資料の提供等を行った。

鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律等に基づく事務の処理概要

 委員会は、鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律(昭和二十五年法律第二百九十二号)、鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)、採石法(昭和二十五年法律第二百九十一号)等の定めるところにより、鉱区禁止地域の指定及び鉱業権設定の許可処分、岩石採取計画の認可処分等に関する不服の裁定を行うとともに、土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)に基づく建設大臣に対する意見の申出等の事務を行っている。

◇鉱区禁止地域の指定制度

 本制度は、各大臣又は都道府県知事の請求に基づき、委員会が、通商産業大臣の意見を聞き、公聴会を開いて一般の意見を求め、利害関係人を審問した上で、請求地域において鉱物を掘採することが一般公益又は農業、林業その他の産業と対比して適当でないと認めるときは、当該地域を鉱区禁止地域として指定し、また、同様の手続によりその指定を解除する制度である。
 平成九年度中に委員会に係属した事件は四件で、そのうち一件について鉱区禁止地域の指定をし、残り三件については十年度に繰り越された。
 なお、本制度が施行された昭和二十六年一月から平成九年度末までに指定した鉱区禁止地域は、二百三十七地域、総面積六十五万六千六十一ヘクタールとなっている。これらの地域を指定理由別にみると、ダム及び貯水池の保全を理由とするものが百四十六地域と最も多い(第1図参照)。

◇行政処分に対する不服の裁定制度

 鉱業法、採石法、砂利採取法等の規定による不服の裁定については、鉱業、採石業又は砂利採取業と一般公益又は農業、林業その他の産業との調整を図るため、「鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律」の定めるところにより、専ら委員会が準司法的な手続で行うこととなっている。
 平成九年度中に委員会に係属した事件は、新たに申請があった六件と前年度から繰り越された二件の計八件で、そのうち終結したものは、六件で、残り二件は、十年度に繰り越された。
 なお、本制度が施行された昭和二十六年一月から平成九年度末までに委員会が受け付けた裁定事件は百十六件であり、そのうち終結した事件は、百十四件である。これを関係法律別にみると、採石法関係(三十三件)が最も多く、鉱業法関係(三十一件)がこれに次いでいる。

◇土地収用法に基づく不服申立てに関する意見の申出等の制度

 土地収用法に規定する事業認定、収用裁決等の処分に対する不服申立て等に関し、主務大臣は、裁決等を行うに際し、あらかじめ委員会の意見を聞かなければならないこととなっている。
 平成九年度中に委員会に係属した事案は、新たに意見を求められた百五十五件と、前年度から繰り越された四件の計百五十九件であり、すべて土地収用法の規定によるものである。
 これらの事案のうち、平成九年度中に百五十三件について意見を申し出て、残り六件については十年度に繰り越された。
 なお、本制度が施行された昭和二十六年十二月以降平成九年度末までに、土地収用法に基づく建設大臣に対する意見の申出は、六百三十五件となっており、その内訳は収用委員会の裁決を不服とするもの五百六十八件、事業認定を不服とするもの六十七件(処分庁が都道府県知事であるもの十八件、建設大臣であるもの四十九件)となっている。
 また、その他のものとしては、森林法に基づく農林水産大臣に対する意見の申出が二件、鉱業法に基づく鉱業権に係る承認が一件、採石法に基づく採石権に係る承認が四件となっている。


目次へ戻る

八月の雇用・失業の動向


―労働力調査 平成十年八月結果の概要―


総 務 庁


◇就業状態別の動向

 平成十年八月末の十五歳以上人口は、一億七百三十五万人で、前年同月に比べ六十九万人(〇・六%)の増加となっている。
 これを就業状態別にみると、就業者は六千五百四十六万人、完全失業者は二百九十七万人、非労働力人口は三千八百八十五万人で、前年同月に比べそれぞれ四十四万人(〇・七%)減、六十六万人(二八・六%)増、五十六万人(一・五%)増となっている。
 また、十五〜六十四歳人口は八千六百八十八万人で、前年同月に比べ九万人(〇・一%)の減少となっている。これを就業状態別にみると、就業者は六千五十九万人、完全失業者は二百八十七万人、非労働力人口は二千三百三十六万人で、前年同月に比べそれぞれ四十八万人(〇・八%)減、六十三万人(二八・一%)増、十六万人(〇・七%)減となっている。

◇労働力人口(労働力人口比率)

 労働力人口(就業者と完全失業者の合計)は六千八百四十二万人で、前年同月に比べ二十一万人(〇・三%)の増加となっている。男女別にみると、男性は四千四十万人、女性は二千八百二万人で、前年同月と比べると、男性は二万人(〇・〇%)の増加、女性は十九万人(〇・七%)の増加となっている。
 また、労働力人口比率(十五歳以上人口に占める労働力人口の割合)は六三・七%で、前年同月に比べ〇・三ポイントの低下と、七か月連続の低下となっている。

◇就業者

 (一) 就業者

 就業者数は六千五百四十六万人で、前年同月に比べ四十四万人(〇・七%)減と、七か月連続の減少となっている。男女別にみると、男性は三千八百六十三万人、女性は二千六百八十三万人で、前年同月と比べると、男性は三十八万人(一・〇%)減と、八か月連続で減少、女性は六万人(〇・二%)減と、三か月連続で減少となっている。

 (二) 従業上の地位

 就業者数を従業上の地位別にみると、雇用者は五千三百五十九万人、自営業主・家族従業者は一千百六十九万人となっている。前年同月と比べると、雇用者は十八万人(〇・三%)減と、七か月連続で減少、自営業主・家族従業者は二十六万人(二・二%)減と、七か月連続の減少となっている。
 雇用者のうち、非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○非農林業雇用者…五千三百二十九万人で、十三万人(〇・二%)減、七か月連続の減少
 ○常 雇…四千七百十六万人で、三十五万人(〇・七%)減、八か月連続の減少
 ○臨時雇…四百八十九万人で、十七万人(三・六%)増、平成八年九月以降二十四か月連続の増加
 ○日 雇…百二十三万人で、四万人(三・四%)増、三か月ぶりの増加

 (三) 産 業

 主な産業別就業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○農林業…三百四十二万人で、二十四万人(六・六%)減、三か月連続で減少、減少幅は前月(十万人減)に比べ拡大
○建設業…六百五十九万人で、四十一万人(五・九%)減、平成九年十一月以降十か月連続で減少、減少幅は前月(四十七万人減)に比べ縮小
○製造業…一千三百八十八万人で、四十七万人(三・三%)減、平成九年六月以降十五か月連続で減少、減少幅は前月(四十八万人減)に比べ縮小
○運輸・通信業…三百九十五万人で、二十万人(四・八%)減、三か月連続で減少、減少幅は前月と同数
○卸売・小売業、飲食店…一千四百九十四万人で、三十万人(二・〇%)増、二か月連続で増加、増加幅は前月(八万人増)に比べ拡大
○サービス業…一千六百八十八万人で、四十三万人(二・六%)増、平成八年十月以降二十三か月連続で増加、増加幅は前月(三十七万人増)に比べ拡大
 また、主な産業別雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○建設業…五百四十六万人で、二十七万人(四・七%)減、三か月連続で減少、減少幅は前月(四十五万人減)に比べ縮小
○製造業…一千二百六十一万人で、四十万人(三・一%)減、平成九年六月以降十五か月連続で減少、減少幅は前月(四十九万人減)に比べ縮小
○運輸・通信業…三百七十七万人で、十六万人(四・一%)減、二か月連続で減少、減少幅は前月と同数
○卸売・小売業、飲食店…一千百九十六万人で、三十八万人(三・三%)増、二か月連続で増加、増加幅は前月(十四万人増)に比べ拡大
○サービス業…一千四百三十万人で、二十四万人(一・七%)増、昭和六十年七月以降増加が継続、増加幅は前月(三十一万人増)に比べ縮小

 (四) 従業者階級

 企業の従業者階級別非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○一〜二十九人規模…一千七百二十九万人で、三十七万人(二・一%)減少
○三十〜四百九十九人規模…一千七百七十九万人で、二万人(〇・一%)増加
○五百人以上規模…一千二百五十九万人で、九万人(〇・七%)増加

 (五) 就業時間

 八月末一週間の就業時間階級別の従業者数(就業者から休業者を除いた者)及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○一〜三十五時間未満…一千四百五十九万人で、九十万人(六・六%)増加
○三十五時間以上…四千九百四十二万人で、百五十万人(二・九%)減少
 また、非農林業の従業者一人当たりの平均週間就業時間は四二・四時間で、前年同月に比べ〇・七時間の減少となっている。

 (六) 転職希望者

 就業者(六千五百四十六万人)のうち、転職を希望している者(転職希望者)は五百九十八万人で、このうち実際に求職活動を行っている者は二百三十七万人となっており、前年同月に比べそれぞれ三十三万人(五・八%)増、十九万人(八・七%)増となっている。
 また、就業者に占める転職希望者の割合(転職希望者比率)は九・一%で、前年同月に比べ〇・五ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男女共に九・一%で、前年同月に比べ男性は〇・七ポイントの上昇、女性は〇・三ポイントの上昇となっている。

◇完全失業者

 (一) 完全失業者数

 完全失業者数は二百九十七万人で、前年同月に比べ六十六万人(二八・六%)増加し、比較可能な昭和二十八年以降で最多となっている。男女別にみると、男性は百七十八万人、女性は百十九万人で、前年同月に比べ男性は四十一万人(二九・九%)の増加、女性は二十五万人(二六・六%)の増加となっている。
 また、求職理由別完全失業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○非自発的な離職による者…九十一万人で、三十七万人増加
○自発的な離職による者…百十五万人で、十二万人増加
○学卒未就職者…十五万人で、三万人増加
○その他の者…六十八万人で、十五万人増加

 (二) 完全失業率(原数値)

 完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)は四・三%で、前年同月に比べ〇・九ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男性は四・四%、女性は四・二%で、前年同月に比べ男性は一・〇ポイントの上昇、女性は〇・八ポイントの上昇となっている。

 (三) 年齢階級別完全失業者数及び完全失業率(原数値)

 年齢階級別完全失業者数、完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 〔男〕
○十五〜二十四歳…三十七万人(六万人増)、八・五%(一・七ポイント上昇)
○二十五〜三十四歳…三十九万人(七万人増)、四・四%(〇・七ポイント上昇)
○三十五〜四十四歳…二十二万人(四万人増)、二・八%(〇・五ポイント上昇)
○四十五〜五十四歳…二十五万人(五万人増)、二・六%(〇・五ポイント上昇)
○五十五〜六十四歳…四十五万人(十四万人増)、六・七%(二・〇ポイント上昇)
 ・五十五〜五十九歳…十五万人(五万人増)、三・八%(一・二ポイント上昇)
 ・六十〜六十四歳…三十万人(九万人増)、一〇・九%(三・二ポイント上昇)
○六十五歳以上…八万人(三万人増)、二・六%(〇・九ポイント上昇)
 〔女〕
○十五〜二十四歳……二十八万人(三万人増)、六・八%(〇・八ポイント上昇)
○二十五〜三十四歳…四十万人(十万人増)、七・〇%(一・五ポイント上昇)
○三十五〜四十四歳…十八万人(二万人増)、三・五%(〇・四ポイント上昇)
○四十五〜五十四歳…十九万人(七万人増)、二・八%(一・一ポイント上昇)
○五十五〜六十四歳…十二万人(二万人増)、二・八%(〇・四ポイント上昇)
○六十五歳以上…一万人(増減なし)、〇・五%(増減なし)

 (四) 世帯主との続き柄別完全失業者数及び完全失業率(原数値)

 世帯主との続き柄別完全失業者数、完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○世帯主…八十六万人(二十一万人増)、三・二%(〇・八ポイント上昇)
○世帯主の配偶者…四十一万人(十五万人増)、二・八%(一・〇ポイント上昇)
○その他の家族…百二十七万人(二十四万人増)、六・九%(一・三ポイント上昇)
○単身世帯…四十二万人(五万人増)、五・二%(〇・五ポイント上昇)

 (五) 完全失業率(季節調整値)

 季節調整値でみた完全失業率は四・三%で、前月に比べ〇・二ポイント上昇し、今年の六月と同率で、比較可能な昭和二十八年以降で最高となっている。
 男女別にみると、男性は四・四%で前月に比べ〇・三ポイントの上昇、女性は四・三%で前月に比べ〇・一ポイントの上昇で、男女共に過去最高となっている。





目次へ戻る

月例経済報告(十月報告)


経 済 企 画 庁


 概 観

 我が国経済
 需要面をみると、個人消費は低調である。これは、収入が減少していることに加え、消費者の財布のひもが依然として固いからである。住宅建設は、マンションの不振もあって低水準が続いている。設備投資は、大幅に減少している。特に中小企業の減少が著しい。
 十年四〜六月期(速報)の実質国内総生産は、前期比〇・八%減(年率三・三%減)となり、うち内需寄与度はマイナス一・六%となった。
 産業面をみると、最終需要が低調なため、鉱工業生産は、減少傾向にある。在庫はこのところ減少しているものの、まだ高水準である。企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、中小企業を中心に一層厳しさが増している。
 雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加している。失業者数の増加によって、完全失業率はこれまでの最高水準に並んだ。
 輸出は、アジア向けが減少しているものの、欧米向けなどが好調なため、全体としては横ばい状態となっている。輸入は、減少テンポが弱まり、おおむね横ばい状態となっている。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、九月は、月初の百三十九円台から一時百三十一円台まで上昇したが、その後下落し百三十五円台から百三十六円台で推移した。
 物価の動向をみると、国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。また、消費者物価は、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、九月は低下した。長期金利は、九月は低下した。株式相場は、九月は下落した。マネーサプライ(M2+CD)は、八月は前年同月比三・九%増となった。
 海外経済
 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大しているものの、株価下落等により経済の先行きに対する不透明感がみられはじめている。実質GDPは、一〜三月期前期比年率五・五%増の後、四〜六月期は一時的な減速要因から同一・八%増となった。個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は、このところ伸びに鈍化がみられる。雇用は拡大している。物価は安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。九月二十九日の連邦公開市場委員会(FOMC)では、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準を〇・二五%ポイント引き下げ、五・二五%とした。九月の長期金利(三十年物国債)は、低下した。株価(ダウ平均)は、九月は上下しながらも、やや上昇した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツ、フランスでは、景気は拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポは緩やかになっている。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは拡大しており、イギリスでは鈍化している。失業率は、ドイツでは高水準ながらもやや低下しており、フランスでは横ばいで推移している。イギリスでは低水準で推移している。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスでは一時の騰勢は鈍化してきている。なお、九月二十七日にドイツで総選挙が行われ、社会民主党が第一党となった。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は、下落している。貿易収支は、輸入の減少から大幅な黒字である。韓国では、景気は後退している。失業率は、大幅に上昇している。物価は、騰勢は鈍化している。貿易収支は、輸入減少により大幅な黒字が続いている。
 国際金融市場の九月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、総じて減価した(モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)九月三十日一一〇・九、八月末比三・六%の減価)。内訳をみると、九月三十日現在、対円では八月末比二・八%減価、対マルクでは同四・七%減価した。
 国際商品市況の九月の動きをみると、月初に上昇した後、ほぼ横ばいで推移した。原油スポット価格(北海ブレント)は、ロシア情勢の悪化や産油国による減産合意の遵守などにより、強含みに推移した。

*     *     *

 我が国経済の最近の動向をみると、個人消費は低調である。これは、収入が減少していることに加え、消費者の財布のひもが依然として固いからである。住宅建設は、マンションの不振もあって低水準が続いている。設備投資は、大幅に減少している。特に中小企業の減少が著しい。
 輸出は、アジア向けが減少しているものの、欧米向けなどが好調なため、全体としては横ばい状態となっている。
 このように最終需要が低調なため、生産は減少傾向にある。在庫はこのところ減少しているものの、まだ高水準である。
 雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加している。失業者数の増加によって、完全失業率はこれまでの最高水準に並んだ。また、民間金融機関は貸出に慎重な態度を変えていない。
 こうしたなか、企業の業況感は一層悪化しており、金融市場などでも、経済の先行きに対する不透明感が更に高まっている。
 以上のように、景気は低迷状態が長引き、極めて厳しい状況にある。
 このような厳しい経済の現況に対応し、まず政府は、「総合経済対策」の実施に全力を挙げており、「公共事業等の施行促進の強化策について」を十月二日に決定した。金融面においては、金融システムの再生と安定を図るために、与野党間協議を踏まえつつ、金融再生関連法案及び早期健全化に関する法律案の一日も早い成立を目指している。また、八月には、「中小企業等貸し渋り対策大綱」を決定し、すでに実施している。さらに、経済戦略会議において、我が国の経済の再生と二十一世紀における豊かな経済社会の構築のための構想について検討を行っている。
 その上で、一刻も早い景気回復を図るため、平成十一年度に向け切れ目なく施策を実行できるように、事業規模で十兆円を超える第二次補正予算の編成及び六兆円を相当程度上回る恒久的な減税を実施する。
 また、景気回復のための効果的な具体策を早急に検討することとしている。
 さらに、アジア諸国への三百億ドルの資金支援など、世界経済に対する責務を意識した対策も積極的に進める方針である。
 これらが早い時期から我が国の家計や企業のマインドの喚起と世界経済の安定に役立つものと期待している。

1 国内需要
―設備投資は、大幅に減少―

 実質国内総生産(平成二年基準、速報)の動向をみると、十年一〜三月期前期比一・三%減(年率五・二%減)の後、十年四〜六月期は同〇・八%減(同三・三%減)となった。内外需別にみると、国内需要の寄与度はマイナス一・六%となり、財貨・サービスの純輸出の寄与度はプラス〇・七%となった。需要項目別にみると、民間最終消費支出は前期比〇・八%減、民間企業設備投資は同五・五%減、民間住宅は同一・〇%減となった。また、財貨・サービスの輸出は前期比〇・四%減、財貨・サービスの輸入は同六・八%減となった。
 個人消費は、低調である。これは、収入が減少していることに加え、消費者の財布のひもが依然として固いからである。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で七月三・四%減の後、八月は二・四%減(前月比一・一%増)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比二・二%減、勤労者以外の世帯では同二・四%減となった。形態別にみると、半耐久財等は増加、サービス等は減少となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比一・九%減、勤労者世帯では同一・九%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で七月三・一%減となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で七月三・七%減の後、八月は四・三%減(前月比〇・四%増)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で七月四・一%減の後、八月四・三%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で七月一・四%減の後、八月三・七%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で九月は五・八%減となった。また、家電小売金額(日本電気大型店協会)は、前年同月比で八月は六・三%増となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、八月は前年同月比で国内旅行が二・一%減、海外旅行は五・二%減となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で七月二・五%減の後、八月(速報)は三・八%減(事業所規模三十人以上では同四・八%減)となり、うち所定外給与は、八月(速報)は同八・四%減(事業所規模三十人以上では同九・〇%減)となった。実質賃金は、前年同月比で七月二・二%減の後、八月(速報)は三・四%減(事業所規模三十人以上では同四・四%減)となった。なお、六〜八月合算の特別給与(速報)は、前年同期比五・〇%減(前年は同一・四%増)となった。また、民間主要企業の夏季一時金妥結額(労働省調べ)は前年比一・一一%増(前年は同二・八九%増)となった。
 住宅建設は、マンションの不振もあって低水準が続いている。
 新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で七月九・三%減(前年同月比一一・三%減)となった後、八月は七・二%増(前年同月比一一・四%減)の九万八千戸(年率百十八万戸)となった。八月の着工床面積(季節調整値)は、前月比一〇・四%増(前年同月比一〇・四%減)となった。八月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比八・二%増(前年同月比三・七%減)、貸家は同〇・一%減(同一三・三%減)、分譲住宅は同二五・四%増(同一六・八%減)となっている。
 設備投資は、大幅に減少している。特に中小企業の減少が著しい。
 日本銀行「企業短期経済観測調査」(九月調査)により設備投資の動向をみると、主要企業の十年度設備投資計画は、製造業で前年度比四・八%減(六月調査比二・三%下方修正)、非製造業で同一・〇%減(同〇・五%下方修正)となっており、全産業では同二・三%減(同一・一%下方修正)となった。また、中堅企業では、製造業で前年度比一〇・四%減(六月調査比二・三%下方修正)、非製造業で同一二・七%減(同〇・三%上方修正)となり、中小企業では製造業で同一七・一%減(同三・一%上方修正)、非製造業で同一六・五%減(同四・一%上方修正)となっている。
 なお、十年四〜六月期の設備投資を、大蔵省「法人企業統計季報」(全産業)でみると、前年同期比で一〇・六%減(うち製造業七・九%増、非製造業一九・〇%減)となった。
 先行指標の動きをみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前月比で六月は五・六%増(前年同月比一八・六%減)の後、七月は三・七%減(同二四・一%減)となり、基調は減少傾向となっている。
 民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、このところ弱い動きとなっており、八月は前月比一六・三%減(前年同月比一九・九%減)となった。内訳をみると、製造業は前月比二四・八%減(前年同月比三九・一%減)、非製造業は同一二・九%減(同一四・三%減)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資については、前倒し執行が促進されているものの、十年度当初予算額や九年度補正予算における積み増し額が前年度に比べて大きく減少していることもあって、着工総工事費は前年を下回る水準で推移している。
 公共工事着工総工事費は、前年同月比で六月七・五%減の後、七月は六・一%減となった。公共工事請負金額は前年同月比で七月一〇・七%減の後、八月は三・五%増となった。官公庁からの建設工事受注額(五十社)は前年同月比で七月七・一%減の後、八月は一四・七%減となった。実質公的固定資本形成は、十年一〜三月期に前期比一・九%減の後、十年四〜六月期は同〇・一%増となった。また、実質政府最終消費支出は、十年一〜三月期に前期比〇・六%減の後、十年四〜六月期は同〇・六%減となった。

2 生産雇用
―依然として厳しい雇用情勢―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、生産・出荷は、減少傾向にある。在庫はこのところ減少しているものの、まだ高水準である。
 鉱工業生産は、前月比で七月〇・六%減の後、八月(速報)は、鉄鋼、パルプ・紙・紙加工品等が増加したものの、一般機械、電気機械等が減少したことから、〇・六%減となった。また製造工業生産予測指数は、前月比で九月は機械、軽工業等により三・〇%増の後、十月は機械、鉄鋼により一・〇%減となっている。鉱工業出荷は、前月比で七月〇・三%減の後、八月(速報)は、非耐久消費財が増加したものの、資本財、耐久消費財等が減少したことから、〇・九%減となった。鉱工業生産者製品在庫は、前月比で七月〇・七%減の後、八月(速報)は、石油・石炭製品、パルプ・紙・紙加工品等が増加したものの、輸送機械、一般機械等が減少したことから、〇・五%減となった。また、八月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数は一一三・二と前月を二・〇ポイント上回った。
 主な業種について最近の動きをみると、一般機械では、生産、在庫ともに二か月連続で減少した。電気機械では、生産は二か月連続で減少し、在庫は八月は減少した。鉄鋼では、生産、在庫ともに八月は増加した。
 農業生産の動向をみると、平成十年産水稲の全国作況指数(九月十五日現在)は、九八の「やや不良」となっている。
 雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加している。失業者数の増加によって、完全失業率はこれまでの最高水準に並んだ。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、七月〇・五〇倍の後、八月〇・五〇倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、七月〇・八四倍の後、八月〇・八八倍となった。雇用者数は、減少している。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、八月は前年同月比〇・三%減(前年同月差十八万人減)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、七月前年同月比〇・一%減(季節調整済前月比〇・二%減)の後、八月(速報)は同〇・二%減(同〇・一%減)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比〇・四%減)、産業別には製造業では同一・六%減となった。八月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差十七万人増の二百九十五万人、完全失業率(同)は、七月四・一%の後、八月四・三%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では七月前年同月比一八・二%減(季節調整済前月比〇・〇%)の後、八月(速報)は同一六・五%減(同一・二%増)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比一七・八%減)。
 前記「企業短期経済観測調査」(全国企業、九月調査)をみると、企業の雇用人員判断は、製造業、非製造業ともに過剰感に高まりがみられる。
 企業の動向をみると、企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、中小企業を中心に一層厳しさが増している。
 前記「企業短期経済観測調査」(九月調査)によると、主要企業(全産業)では、十年度上期の経常利益は前年同期比二七・九%の減益(除く電力・ガスでは同二八・三%の減益)の後、十年度下期には同八・九%の増益(除く電力・ガスでは同一一・三%の増益)が見込まれている。産業別にみると、製造業では十年度上期に前年同期比三二・六%の減益の後、十年度下期には同一三・〇%の増益が見込まれている。また、非製造業(除く電力・ガス)では十年度上期に前年同期比一八・八%の減益の後、十年度下期には同七・九%の増益が見込まれている。売上高経常利益率は、製造業では十年度上期に二・九二%になった後、十年度下期は三・九六%と見込まれている。また、非製造業(除く電力・ガス)では十年度上期に一・四〇%となった後、十年度下期は一・五二%と見込まれている。こうしたなかで、企業の業況判断をみると、製造業、非製造業ともに「悪い」超幅が拡大した。
 また、中小企業の動向を同調査(全国企業)でみると、製造業では、経常利益は十年度上期には前年同期比六九・〇%の減益の後、十年度下期には同〇・五%の減益が見込まれている。また、非製造業では、十年度上期に前年同期比一九・七%の減益の後、十年度下期には同七・六%の増益が見込まれている。こうしたなかで、企業の業況判断をみると、製造業、非製造業ともに「悪い」超幅が拡大した。
 企業倒産の状況をみると、件数は、高い水準で推移している。
 銀行取引停止処分者件数は、八月は一千二十九件で前年同月比七・九%増となった。業種別に件数の前年同月比をみると、製造業で三五・〇%、卸売業で二六・五%の増加となった。

3 国際収支
―輸入は、減少テンポが弱まり、おおむね横ばい状態―

 輸出は、アジア向けが減少しているものの、欧米向けなどが好調なため、全体としては横ばい状態となっている。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で七月三・三%増の後、八月は三・六%減(前年同月比四・三%減)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、輸送用機器、化学製品等が増加した。同じく地域別にみると、アメリカ、EU等が増加した。
 輸入は、減少テンポが弱まり、おおむね横ばい状態となっている。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で七月〇・〇%増の後、八月は二・九%減(前年同月比五・二%減)となった。この動きを品目別(金額ベース)にみると、原料品、鉱物性燃料等が減少した。同じく地域別にみると、中東、アジア、EU等が減少した。
 通関収支差(季節調整値)は、七月に一兆三千四百六億円の黒字の後、八月は一兆一千四百三十六億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。
 七月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、サービス収支の赤字幅が拡大したものの、貿易収支の黒字幅が拡大したため、その黒字幅は拡大し、八千四百八十七億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、経常移転収支の赤字幅が縮小し、貿易・サービス収支の黒字幅が拡大したものの、所得収支の黒字幅が縮小したため、その黒字幅は縮小し、一兆三千百三十三億円となった。投資収支(原数値)は、一千二百三十五億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、一千六百四億円の赤字となった。
 九月末の外貨準備高は、前月比二十七億ドル増加して二千百二十一億ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、九月は、月初の百三十九円台から一時百三十一円台まで上昇したが、その後下落し百三十五円台から百三十六円台で推移した。一方、対マルク相場(インターバンク十七時時点)は、九月は、月初の七十八円台から一時七十六円台まで上昇したが、その後下落し八十円台から八十一円台で推移した。

4 物 価
―国内卸売物価は、弱含みで推移―

 国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。
 八月の国内卸売物価は、加工食品(そう菜)等が上昇したものの、電気機器(電子計算機本体)等が下落したことから、前月比〇・一%の下落(前年同月比二・一%の下落)となった。また、前記「企業短期経済観測調査」(主要企業、九月調査)によると、製品需給バランスは緩んでいる。輸出物価は、契約通貨ベースで下落したものの、円安から円ベースでは前月比一・四%の上昇(前年同月比九・七%の上昇)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで下落したものの、円安から円ベースでは前月比一・二%の上昇(前年同月比三・三%の上昇)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比〇・二%の上昇(前年同月比〇・二%の下落)となった。
 九月上中旬の動きを前旬比でみると、国内卸売物価は上旬、中旬ともに保合い、輸出物価は上旬が三・一%の下落、中旬が〇・七%の下落、輸入物価は上旬が二・五%の下落、中旬が一・一%の下落、総合卸売物価は上旬が〇・六%の下落、中旬が〇・二%の下落となっている。
 企業向けサービス価格は、八月は前年同月比〇・四%の下落(前月比〇・二%の下落)となった。
 商品市況(月末対比)は「その他」等は上昇したものの、非鉄等の下落により九月は下落した。九月の動きを品目別にみると、天然ゴム等は上昇したものの、亜鉛地金等が下落した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で七月〇・一%の下落の後、八月は一般食料工業製品の下落幅の拡大等の一方、外食が下落から上昇に転じたこと等により〇・一%の下落(前月比〇・一%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で七月〇・一%の下落の後、八月は〇・三%の下落(前月比〇・一%の下落)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で八月〇・一%の上昇の後、九月(中旬速報値)は医療保険制度要因のはく落等により〇・三%の下落(前月比〇・四%の上昇)となった。なお、総合は、前年同月比で八月〇・一%の下落の後、九月(中旬速報値)は保合い(前月比〇・九%の上昇)となった。

5 金融財政
―短期金利は、低下―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、九月は低下した。長期金利は、九月は低下した。株式相場は、九月は下落した。マネーサプライ(M2+CD)は、八月は前年同月比三・九%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレート、二、三か月物ともに、九月は九月九日に日本銀行が金融市場調節方針を緩和したことを受けて低下した。
 公社債市場をみると、国債流通利回りは、九月は低下した。なお、国債指標銘柄流通利回り(東証終値)は九月十八日に〇・六七〇%となり、史上最低を更新した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、八月は短期は〇・〇一〇%ポイント低下し、長期は〇・〇七九%ポイント低下したことから、総合では前月比で〇・〇二九%ポイント低下し一・八七三%となった。
 マネーサプライ(M2+CD)の月中平均残高を前年同月比でみると、八月(速報)は三・九%増となった。また、広義流動性でみると、八月(速報)は三・五%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関の貸出平残(全国銀行)は、八月(速報)は前年同月比二・三%減となった。九月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債が百億円となった。また、九月の国内公募事業債の起債実績は八千五百九十五億円となった。
 前記「企業短期経済観測調査」(全国企業、九月調査)によると、資金繰り判断は「苦しい」超が続いており、金融機関の貸出態度も「厳しい」超が続いている。
 民間金融機関は貸出に慎重な態度を変えていない。
 株式市場をみると、日経平均株価は、九月は下落した。

6 海外経済
―アメリカ、利下げ―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大しているものの、株価下落等により経済の先行きに対する不透明感がみられはじめている。実質GDPは、一〜三月期前期比年率五・五%増の後、四〜六月期は一時的な減速要因から同一・八%増となった。個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は、このところ伸びに鈍化がみられる。雇用は拡大している。雇用者数(非農業事業所)は八月前月差三十万九千人増の後、九月は同六万九千人増となった。失業率は九月四・六%となった。物価は安定している。八月の消費者物価は前月比〇・二%の上昇、生産者物価(完成財総合)は同〇・四%の低下となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。九月二十九日の連邦公開市場委員会(FOMC)では、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準を〇・二五%ポイント引き下げ、五・二五%とした。九月の長期金利(三十年物国債)は、低下した。株価(ダウ平均)は、九月は上下しながらも、やや上昇した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツ、フランスでは、景気は拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポは緩やかになっている。四〜六月期の実質GDPは、ドイツでは、四月の付加価値税引上げの影響などから、前期比年率〇・四%増、フランス同二・八%増(速報値)、イギリス同二・〇%増(改定値)となった。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは拡大しており、イギリスでは鈍化している(鉱工業生産は、ドイツ七月前月比三・八%増、フランス六月同〇・三%減、イギリス八月同〇・三%減)。失業率は、ドイツでは高水準ながらもやや低下しており、フランスでは横ばいで推移している。イギリスでは低水準で推移している(失業率は、ドイツ九月一〇・七%、フランス八月一一・八%、イギリス同四・六%)。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスでは一時の騰勢は鈍化してきている(八月の消費者物価上昇率は、ドイツ前年同月比〇・八%、フランス同〇・七%、イギリス同三・三%)。なお、九月二十七日にドイツで総選挙が行われ、社会民主党が第一党となった。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は、下落している。貿易収支は、輸入の減少から大幅な黒字である。韓国では、景気は後退している。失業率は、大幅に上昇している。物価は、騰勢は鈍化している。貿易収支は、輸入減少により大幅な黒字が続いている。
 国際金融市場の九月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、総じて減価した(モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)九月三十日一一〇・九、八月末比三・六%の減価)。内訳をみると、九月三十日現在、対円では八月末比二・八%減価、対マルクでは同四・七%減価した。
 国際商品市況の九月の動きをみると、月初に上昇した後、ほぼ横ばいで推移した。原油スポット価格(北海ブレント)は、ロシア情勢の悪化や産油国による減産合意の遵守などにより、強含みに推移した。



 
    <11月4日号の主な予定>
 
 ▽警察白書のあらまし………………警 察 庁 

 ▽景気予測調査………………………大 蔵 省 
 



目次へ戻る