官報資料版 平成1011




                 ▽ 警察白書のあらまし…………………………………………警 察 庁

                 ▽ 景気予測調査(八月調査)…………………………………大 蔵 省

                 ▽ 税金365日 所得税の予定納税(第二期分)…………国 税 庁










警察白書のあらまし


ハイテク犯罪の現状と警察の取組み


警 察 庁


<第1章> ハイテク犯罪の現状と警察の取組み

 一九九八年(平成十年)五月十五日から十七日までの間、英国のバーミンガムで第二十四回主要国首脳会議(以下「バーミンガム・サミット」という。)が開催された。バーミンガム・サミットでは、「国際犯罪」が主要議題の一つに取り上げられ、中でも「ハイテク犯罪」に各国首脳の高い関心が集まった。
 ハイテク犯罪に関する各国首脳の討議結果は、八か国の共同による「コミュニケ」の中で、次のとおり取りまとめられている。
 「我々は、我々の閣僚により合意されたハイテク犯罪に関する十の原則及び十の行動計画を迅速に実施することに意見の一致をみた。我々は、適切なプライバシーの保護を維持しつつ、証拠として電子データを取得し、提示し、保存するための法的な枠組みについて、及びこれらの犯罪の証拠を国際的なパートナーと共有することについて合意するため、産業界との緊密な協力を呼びかける。これは、インターネット及び他の新たな技術の悪用を含む広範な種類の犯罪と闘うことに資する。」
 このように、ハイテク犯罪が国際的に重大な関心を集めるに至ったのは、政治、行政、経済、社会の重要な機能がコンピュータ・ネットワークへの依存度を強める中、これが犯罪の対象となった場合に甚大な被害が生ずるおそれがあり、しかも、そのような犯罪にインターネットが利用された場合には、世界各国が迅速に捜査に協力する必要があるなどの事情によるものである。
 既に、米国等では、政府機関のコンピュータ・システム等が犯罪の攻撃に遭う事例が頻発しているほか、インターネットを利用した国際犯罪の発生も報告されている。
 我が国においても、官民を挙げての情報化への取組みにより、間もなく高度情報通信社会を迎えようとしているが、一方において、ハイテク犯罪の多発という情報化の負の側面が顕在化しつつある。高度情報通信社会においては、だれもが容易にコンピュータ・ネットワークに参加することができることから、コンピュータ・ネットワークとのかかわりの中で犯罪が引き起こされ、だれもがハイテク犯罪の被害者になるおそれがあるということになる。
 このように、情報化の進展に伴い、ハイテク犯罪対策の推進が我が国の内外で急務となっている。情報通信をめぐる技術革新は「アナログ」から「デジタル」へと目覚ましい進展を遂げているが、この高度情報通信社会の特徴としては、コンピュータに精通するには極めて高度の専門的な知識、技能等が必要となること、コンピュータ・ネットワーク上では、電子データのやり取りだけを通して相手方を認識しなければならないこと、電子データは、必ずしも保存されているとは限らず、しかも改ざん、消去が容易であることなどが指摘される。
 このため、ハイテク犯罪を防止し、その捜査を的確に遂行するためには、このようなコンピュータ・ネットワークの特徴に対応した抜本的な対策が必要である。
 警察では、このような情勢を踏まえ、高度の技術力を備え、かつ、外国警察機関等からの捜査協力要請に二十四時間対応することができる「サイバーポリス」(電脳警察)とも呼ぶべき体制を確立するための取組みを進めるとともに、グローバル・スタンダードを満たすための法制の整備等に関係省庁と一体となって取り組むこととしている。

<第1節> ハイテク犯罪情勢

1 ハイテク犯罪等の現状と今後の脅威
 ハイテク犯罪とは、一九九七年(平成九年)六月に開催されたデンヴァー・サミットの「コミュニケ」において、「コンピュータ技術及び電気通信技術を悪用した犯罪」を意味する言葉として用いられており、国際的に定着した用語となっている。これを我が国に当てはめれば、刑法に規定されている電子計算機損壊等業務妨害罪をはじめとしたコンピュータ若しくは電磁的記録を対象とした犯罪又はそれ以外のコンピュータ・ネットワークをその手段として利用した犯罪ということができる。
 (1) ハイテク犯罪の認知・検挙状況
 平成九年中のハイテク犯罪の認知件数は二百六十三件であり、検挙件数は二百六十二件であった。最近五年間におけるハイテク犯罪の認知・検挙件数はこの五年間で八倍以上に急増している。ただし、その認知件数は氷山の一角であると考えられる。このほか、G7各国中、我が国においてのみ犯罪化されていない不正アクセス事案も多発している。
 [事例1] 農業協同組合職員(23)は、平成八年一月から九年二月までの間、合計十五回にわたり、オンラインシステムの端末を操作して、同組合の金融業務の事務処理に使用されている電子計算機に対し、組合員の定期貯金の解約申入れがあった旨、及び自己又は架空人名義の口座に定期貯金解約額相当額を増額する旨の情報を与えて、財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作り、不法に約三千四百万円の財産上の利益を得た。九年四月、電子計算機使用詐欺罪で検挙した(岩手)。
 [事例2] 自営業の男(35)ら二人は、プロバイダのサーバ・コンピュータ内に、容易に外すことのできるマスクによって処理したわいせつ映像を記憶・蔵置させて、アクセスしてきた不特定多数の者に有料でこれを再生閲覧させていた。平成九年六月、わいせつ図画公然陳列罪で検挙した(岡山)。
 (2) ハイテク犯罪の特徴
 ア 匿名性が高い
 コンピュータ・ネットワーク上では、相手方の顔や声を認識することができず、筆跡、指紋等の物理的な痕跡も残らない。相手方が本人であるかどうかの確認は、専らID・パスワード等の電子データに依存して行われる。
 このようなコンピュータ・ネットワーク上の匿名性に目を着け、正規の利用者のID・パスワードを盗用するなどの不正アクセスにより、その利用者になりすましてハイテク犯罪を実行する事例が多発している。
 [事例1] 会社役員(54)、銀行員(32)ら三人は、共謀の上、パスワードを探知し、平成六年十二月、電話回線に接続したパソコンを操作して、銀行のオンラインシステムを介して、同行の預金業務等のオンライン処理に使用する電子計算機に対し、実際には振込事実がないのにもかかわらず、他行の指定口座に十数億円の振込をした旨の虚偽の情報を与え、不法に資金を移動させて財産上不法の利益を得た。七年二月、電子計算機使用詐欺罪で検挙した(愛知)。
 [事例2] 男子高校生(16)は、プロバイダのセキュリティ・ホールを利用してシステム管理者としての権限を不正に取得し、平成十年一月、プロバイダのホームページのデータを削除した上、当該ホームページにあらかじめ入手していた当該プロバイダの顧客情報等を掲載するなどして、当該プロバイダの業務を妨害した。さらに、電子掲示板の改ざん等に気付き、防護措置を施したプロバイダの経営者に対し、同人の名誉等に害を加える旨を告知して脅迫し、防護措置の解除、管理者用のパスワードの提供等、義務なきことを行わせようとした。同年二月、電子計算機損壊等業務妨害罪、強要未遂罪により検挙した(警視庁)。
 イ 犯罪の痕跡が残りにくい
 コンピュータ・ネットワーク上の行為は、すべて電子データのやり取りであるため、その記録を保存するための措置を特に講じない限り、その痕跡は残らない。また、その記録が保存されている場合にも、改ざんや消去が容易である。
 [事例] 平成八年四月、大分市内のプロバイダのホスト・コンピュータが外部から不正に操作され、会員のパスワード約二千人分や個人のホームページ等のデータが消去されて、同プロバイダの業務が一時中断した、電子計算機損壊等業務妨害容疑事件が発生した。なお、同コンピュータはログを保存する措置をとっていたものの、セキュリティ・ホールを突かれ、その記録も消去されていた。十年五月現在、捜査中である(大分)。
 ウ 不特定多数の者に被害が及ぶ
 ホームページ、電子掲示板等は、個人が不特定多数の者に情報を発信するための簡便なメディアとして注目されているが、これが犯罪に悪用された場合には、広域にわたり不特定多数の者に被害を及ぼすこととなるほか、被害が瞬時かつ広域に及ぶこともある。
 [事例] 無職の男(24)は、パソコン通信を利用して音響機器販売名下に金員をだまし取ることを企て、平成八年三月から九月までの間、自ら不正に入手した他人のID・パスワードを使用し、同通信の電子掲示板に振込銀行口座と販売広告を掲載して購入希望者を募り、それに応じた被害者に対し、指定した銀行口座に現金を振込入金させるなどして、約百二十人から総額約一千百万円をだまし取った。同年十一月、詐欺罪で検挙した(埼玉)。
 エ 暗号による証拠の隠蔽が容易である
 暗号が犯罪に悪用された場合には、その捜査が著しく困難になるという問題が生ずる。
 [事例] 平成七年中に検挙された一連のオウム真理教関連事件においては、押収された光磁気ディスク、フロッピー・ディスク等に保存されていた犯罪にかかわる電磁的記録に、高度の暗号化等の処理が施されていたため、その解析作業は困難を極めた(滋賀)。
 オ 国境を越えることが容易である
 インターネット等のグローバルなコンピュータ・ネットワークを利用すれば、国境を越えた情報の伝達・交換を瞬時にして簡便に行うことができるため、ハイテク犯罪は、従来の人、物、金の移動を伴う犯罪に比べ、その国際的性格が顕著である。
 [事例] 会社役員(30)は、自宅において、インターネットを利用し、わいせつ映像を米国所在のプロバイダのサーバ・コンピュータに送信して同コンピュータの記憶装置に記憶・蔵置させ、そのわいせつ映像データにアクセスした不特定多数の者に閲覧させた。平成九年二月、わいせつ図画公然陳列罪で検挙した(大阪)。
 (3) ハイテク犯罪がもたらす今後の脅威
 ア 従来型の犯罪がハイテク犯罪へ移行
 今後、情報化の進展に伴い、より多くの犯罪がコンピュータ・ネットワークとかかわりを持つようになることが予想される。
 我が国では、企業のシステムに侵入し、プロバイダの経営者の名誉等に害を加える旨を告知して脅迫をした事件等が発生している。さらに、米国では、インターネット上のチャット・システム(遠隔の複数のコンピュータ同士で瞬時に文章を交換することにより、コンピュータ画面上で会話をするシステム)において、子供になりすました男が少女をおびき出し、誘拐する事件が発生している。
 イ 不正アクセスの横行
 我が国では、既に、他人のID・パスワードを不正に使用してその者になりすまし、パソコン通信を利用して部品販売名下に現金をだまし取った事例等が発生している。
 また、不正アクセスを助長するような他人のID・パスワードの販売等が行われる実態もうかがわれ、今後不正アクセスがますます増加することが懸念される。
 ウ 電子商取引と電子マネーに関するハイテク犯罪の多発
 今後、電子商取引の普及に伴い、電子マネー等の金銭的価値に直接結び付くような電子データがコンピュータ・ネットワーク上を流れるとともに、各企業のシステムがインターネットに接続されることになることから、不正アクセスによる経済的利益の獲得を目的としたハイテク犯罪が多発するおそれがある。
 また、電子マネーによりマネー・ローンダリングが助長されることも懸念される。
 エ 暗号の不正利用事案の多発
 電子商取引では、販売会社と顧客とのやり取りが専らコンピュータ・ネットワークを通じて行われるため、そのままでは、お互いに相手方がだれであるかを確認することが困難になる。
 そこで、暗号技術を利用し、コンピュータ・ネットワーク上で本人確認サービスを行う機関(認証機関)の設立が進んでいる。認証機関そのものは、電子商取引の健全な発展のため必要不可欠であるが、電子商取引における本人確認が専ら認証機関の行う業務に依存することになるため、その適正が確保されなければ、かえって不正に他人になりすますことを容易にし、犯罪を助長するおそれがある。
 オ サイバーテロの脅威
 米国では、国防総省(DoD)のコンピュータ・システムが一九九五年(平成七年)の一年間で約二十五万回の不正アクセスの攻撃を受け、そのうちの約六五%に当たる約十六万回が不正アクセスに成功した可能性があるとされている。
 我が国においても、今後、政府機関、ライフライン施設をはじめとする各種基幹システムのコンピュータ・ネットワーク化が進むにつれ、不正アクセスによりこれらのネットワークに侵入し、データを破壊、改ざんするなどの手段で国家機能等を不全に陥れるテロ(いわゆるサイバーテロ)が発生するおそれがある。

2 欧米諸国のハイテク犯罪等
 欧米諸国においても、様々なハイテク犯罪が発生している。特に米国では、世界に先駆けてコンピュータ・ネットワークが整備され、行政機関や企業から家庭に至るまで広範囲にコンピュータ・ネットワークが利用されていることから、ハイテク犯罪情勢も深刻な問題となっており、軍事関係施設をはじめとする国家等の重要なシステムに対する不正侵入、データ破壊等の事案が多発している。
 [事例1] 空軍の研究施設であるローム研究所(ニュー・ヨーク州)は、一九九四年(平成六年)三月から四月までの間、英国のハッカーから百五十回以上の攻撃を受け、重要なデータ等が盗まれた。この事案では、このハッカーは南米諸国を経由するなどしてローム研究所を攻撃していたほか、ローム研究所を装い、航空宇宙局(NASA)等、他の政府機関のシステムも攻撃していた。
 [事例2] 一九九四年(平成六年)、米海軍兵学校のコンピュータ・システムが不正アクセスされ、データやプログラムが破壊、改ざんされたことなどにより、システムの利用ができなくなるなどの事態が発生した。
 [事例3] 一九九八年(平成十年)二月、米国国防総省のコンピュータ・システムに対する大規模な不正アクセス事案が発生した。司法省連邦捜査局(FBI)は、同月、カリフォルニア在住の少年ら二人の自宅を捜索したほか、イスラエル国家警察は、三月、イスラエル及び米国政府のコンピュータに不正アクセスしていたイスラエル人を検挙した。
 [事例4] 一九九四年(平成六年)、FBIの捜査により、ロシアから米国所在の大手銀行に不正アクセスが行われ、一千万ドル以上の大金が、アルゼンティン等からサン・フランシスコ、フィンランド、ロシア、スイス等に送金されていたことが判明した。
 [事例5] 一九九三年(平成五年)五月、米国メリーランド州で、行方不明となった少年(10)の捜査の過程において、同州在住の男ら二人が、コンピュータ・ネットワークを利用し、未成年者に対して性的行為を誘っていたことが判明した。

<第2節> ハイテク犯罪対策

1 ハイテク犯罪等に係る国際社会における取組み
 ハイテク犯罪対策については、国際犯罪対策、テロ対策、暗号政策等の様々な観点から、サミット、経済協力開発機構(OECD)等を中心に、活発な取組みが進められている。
 一九九七年(平成九年)には、サミット参加八か国による「P8国際組織犯罪上級専門家会合」(リヨングループ)に設けられたハイテク犯罪に関するサブグループにおいて協議が進められたほか、六月に開催されたデンヴァー・サミットにおいては、「国境を越えて介入するようなハイテク犯罪者についての捜査、訴追及び処罰」と「すべての政府がハイテク犯罪に対応する技術的及び法的能力を有することとなる体制」について、今後一年間特に力を入れて取り組むこととされた。
 また、十二月、米国ワシントンD.C.において、初めてサミット参加八か国による司法・内務閣僚級会合が開催され、捜査・訴追能力向上のための体制・法制の整備、二十四時間のコンタクト・ポイント(外国捜査機関との連絡窓口)の設置を含む捜査協力の在り方の改善及び産業界と連携して犯罪防止と捜査・証拠の収集が容易に行えるシステムの構築が盛り込まれた「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」が発表された。
 このほか、暗号政策に関しては、三月、OECDより、各国が暗号政策を立案するに当たっての指針を示した「暗号政策ガイドライン」が公表されたほか、デンヴァー・サミットにおいても、「暗号の使用に当たって、テロリズムと闘うための政府の合法的アクセスが、OECDガイドラインに沿って可能となるよう、すべての国に対し奨励すること」が「コミュニケ」でうたわれた。

2 バーミンガム・サミット
 (1) 国際犯罪とハイテク犯罪
 一九九八年(平成十年)五月十五日から十七日までの間、英国においてバーミンガム・サミットが開催され、サミットとしては初めて国際犯罪対策が主要議題として取り上げられた。
 この背景としては、第一に、グローバリゼーションの負の側面として、国境を越えて行われる犯罪が増大していること、第二に、そうした国際犯罪が、一般の市民生活の安全を脅かすだけでなく、不正に収益を蓄積することで、民主社会や市場経済といった制度的基盤を腐食するまでに大きな脅威となっていること、第三に、国際犯罪に対抗するためには、一国のみの取組みでは限界があり、犯罪対策に抜け道がないよう、各国が共同歩調をとって取組みを強化する必要があることが指摘される。
 特に、ハイテク犯罪については、国境を越えて瞬時に犯罪が行われ、金融、通信、国防システムといった枢要な社会基盤を攻撃しやすいこと等から、デンヴァー・サミットに引き続き、国際犯罪対策の最重要テーマの一つとして扱われた。
 国際犯罪に関する討議は、会議二日目の十六日午前中の首脳会合の中で行われ、冒頭、各国首脳を前にして英国警察がハイテク犯罪を例示しつつ、国際犯罪の脅威に関するプレゼンテーションを行うなど、サミットとしては異例の取り上げ方がなされた。
 さらに、この議題に関する「コミュニケ」、すなわち「薬物及び国際犯罪」に関する「コミュニケ」は、その日のうちに一般の「コミュニケ」と切り離される形で独立して発表されることとなった。ここでは、まず一九九七年(平成九年)十二月にワシントンD.C.で開催されたG8司法・内務閣僚級会合で合意された「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」を迅速に実施することが改めて確認され、ハイテク犯罪を捜査、訴追する能力の向上、法執行機関の体制整備、法制度の見直し、産業界との協力、国際捜査協力の強化等を進めることとされた。
 さらに、インターネットや国際電気通信を利用したハイテク犯罪に関する証拠を国際的に迅速に提供することができるよう、「証拠として電子データを取得し、提示し、保存するための法的な枠組みについて、及びこれらの犯罪の証拠を国際的なパートナーと共有することについて合意するため、産業界との緊密な協力を呼びかける。これは、インターネット及び他の新たな技術の悪用を含む広範な種類の犯罪と闘うことに資する」との声明が採択された。
 (2) 各国のハイテク犯罪対策に与えた意義
 バーミンガム・サミットの「コミュニケ」が各国のハイテク犯罪対策に与えた意義としては、おおむね以下のように考えられる。
 第一に、「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」を迅速に実施することが首脳間で合意されたことに加え、行動計画の進捗状況を次回サミットに報告するよう、各国閣僚に求めることとされたことである。これにより、今後ハイテク犯罪対策の国際的な枠組みづくりが、首脳・閣僚レベルの強いリーダーシップの下で進められていくことが期待されている。
 第二に、ハイテク犯罪のボーダーレス性ゆえに、その対策の枠組みを構築するに当たっては、国際調整が極めて重要であることを内外に示したことである。このようなG8主要国の強いイニシアティブは、メンバー国間のみならず広く世界に大きな影響を与えるものと考えられる。特に、ハイテク犯罪に係る法制度の整備、国際捜査共助制度の整備、産業界との協力といった、これまで各国固有の法制の中で完結していた国家の基盤的政策の立案作業が、主要国間の国際調整の下に行われるということは、マネー・ローンダリング分野に次ぐ画期的な出来事と言えるであろう。
 第三に、こうしたハイテク犯罪対策が、G8の政策平準化への取組みの重要な試金石になっていることである。今後、他の犯罪対策に関しても、ハイテク犯罪対策におけるのと同様の強力な国際調整によって推進されていくことが予想される。

3 ハイテク犯罪等に係る欧米諸国の取組み
 欧米のサミット主要国では、OECDの取組みや重大事件の発生等を契機として、内容は必ずしも一様ではないが、不正アクセス等コンピュータ・ネットワークを利用した不正行為に関する法制を整備しているほか、ハイテク犯罪捜査のための専従ユニットを設置するとともに、産業界との連携等を図っている。
 (1) 米 国
 米国では、連邦刑法等により、一定の不正アクセスの処罰に関する法制度が整備されている。
 捜査体制については、FBIにハイテク犯罪捜査を担当する専従捜査体制がとられているほか、財務省のシークレット・サービスにおいても、ハイテク犯罪に対する専従捜査体制が整備されている。
 (2) 英 国
 英国では、コンピュータ不正使用法により、一定の不正アクセスの処罰に関する法制度が整備されている。
 捜査体制については、ロンドン警視庁に、ハイテク犯罪の捜査を担当する専門の「ハイテク犯罪捜査班」、同部署を技術的に支援するための「技術支援班」が設置されている。
 (3) ドイツ
 ドイツでは、刑法により、一定の不正アクセスの処罰に関する法制度が整備されている。
 捜査体制については、連邦内務省の監督下にある連邦刑事庁のOA局34―2で、押収された電磁的記録媒体の分析等、州警察に対する捜査活動の支援等を行っているほか、州警察においても、ハイテク犯罪捜査を担当する専門部署等が設置されている。
 (4) フランス
 フランスでは、刑法により、一定の不正アクセスの処罰に関する法制度が整備されている。
 捜査体制については、内務省国家警察総局のほか、管区刑事局、パリ警視庁にハイテク犯罪担当部署が設置されている。
 (5) イタリア
 イタリアでは、刑法により、一定の不正アクセスの処罰に関する法制度が整備されている。
 捜査体制については、内務省国家警察総局に情報犯罪捜査を担当する部署が設置されている。
 (6) カナダ
 カナダでは、刑法により、一定の不正アクセスの処罰に関する法制度が整備されている。
 捜査体制については、王立カナダ騎馬警察(RCMP)が全土にわたり、連邦法の執行に当たっており、専門的技術を有する捜査官を国内各州等に配置し、運用している。

4 我が国のハイテク犯罪対策の現状
 (1) 政策立案体制の確立
 警察庁では、長官官房に「ネットワーク・セキュリティ対策室」を設け、犯罪の予防・捜査の両面から総合的なコンピュータ・ネットワーク・セキュリティ対策を進める体制を整備した。
 また、電子商取引等の新たな社会的インフラに対する安全対策を確立するため、警察庁では、平成九年四月、生活安全局生活安全企画課に「セキュリティシステム対策室」を設置した。
 (2) 捜査力強化の取組み
 警察庁では、捜査力の強化を図るため、平成八年十月、特に高度な情報通信技術の専門家から構成される「コンピュータ犯罪捜査支援プロジェクト(現在のハイテク犯罪捜査支援プロジェクト)」をネットワーク・セキュリティ対策室に設けた。
 各都道府県警察においても、暗号化等の処理が施された電磁的記録を解読するなどの解析作業を行うため、高度な知識を有した専従の要員の確保や、必要な装備資機材の整備等に努めているほか、企業等におけるシステム・エンジニアとしての勤務経験を有する者等をハイテク犯罪捜査官として中途採用している。
 また、ハイテク犯罪は、一般の犯罪に比べ、被害者や関係者が多数に及びやすく、また、対応が複雑、困難であることから、各都道府県警察では、情報通信技術に関する専門的な知識を有する者を相談窓口に配置するなど、相談体制の充実・強化を図っている。
 (3) 国際的な捜査協力の強化
 警察庁では、長官官房国際部に、情報通信技術及び外国語に堪能な捜査官及び技官による「コンピュータ犯罪国際協力ユニット」を設け、外国の捜査機関から発信される緊急の協力要請に、二十四時間体制で対応することができるようにした。
 (4) 情報システム安全対策指針の策定
 警察庁においては、昨今の情報システムの構成や利用形態、ハイテク犯罪の手口等に関する状況の変化にかんがみ、平成九年九月、「情報システム安全対策指針」(平成九年国家公安委員会告示第九号)を公表した。
 この指針では、特に、不正アクセス、コンピュータ・ウイルス、サイバーテロ等の危険に着目した対策を掲げるとともに、ログの保存が犯罪被害の回復や犯罪の捜査を行うために必要であることについて指摘している。
 (5) 産業界との連携
 ハイテク犯罪については、産業界との連携の強化が不可欠である。警察庁では、平成九年には一般企業(東証一部上場企業)九百社及び大学百校を対象として、また、十年にはプロバイダ一千社を対象として自己の管理するコンピュータ・システムの安全対策に関する調査を実施した。
 これらの調査結果のうち主要なものは、次のとおりである。
 ア 被害経験
 不正アクセス、コンピュータ・ウイルス等による被害を受けた経験については、
 ○約四%の一般企業及び大学において、不正アクセスによる被害を受けた経験があること
 ○約一四%のプロバイダにおいて、メール爆弾の被害を経験しているほか、約五%のプロバイダにおいて、不正アクセスによる被害を受けた経験があること
などが明らかとなった。
 しかしながら、不正アクセスについては、ある程度の安全対策を実施していなければ、その被害自体に気付かないことも多いと考えられ、実際に不正アクセスによる被害を受けた企業等は、かなりの割合に上るのではないかと思われる。
 イ ログの保存
 ハイテク犯罪が発生した場合に、その事実を特定するとともに、犯人を追跡するためには、ログの記録、保存が必要であり、産業界の負担等にも配慮しつつ、それらを確保するための措置を検討する必要がある。
 ログの保存・記録については、
 ○約三〇%の一般企業及び大学において、ログが保存されていない
 ○九〇%以上のプロバイダにおいて、利用者名等に係るアクセス・ログが保存されている
など、一般企業等とプロバイダとの間で取組みに相当の差違があることがうかがわれる。
 ウ 法制化に向けた要望
 現在、我が国には不正アクセスそのものを規制する法令が存在しないという点については、八〇%以上の一般企業及び大学並びにプロバイダが「不正アクセスを法律によって取り締まる必要がある」とし、その理由として、「システムのセキュリティにはどうしても技術的な限界があるので」等を挙げている。
 (6) コンピュータ・ネットワーク上における違法・有害情報への対応
 急速な情報化の進展に伴い、インターネット上のホームページ等を利用して、性的な行為を表す場面等の映像を有料で見せる営業等が目立っていることにかんがみ、平成十年四月、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部が改正され、映像送信型性風俗特殊営業(注)や、プロバイダに関する規定が設けられた。
 (注) 専ら、性的好奇心をそそるため性的な行為を表す場面又は衣服を脱いだ人の姿態の映像を見せる営業で、電気通信設備を用いてその客に当該映像を伝達すること(放送又は有線放送に該当するものを除く。)により営むものをいう。

5 我が国の今後のハイテク犯罪対策
 我が国において、高度情報通信社会の本格的な到来を目前に控え、ハイテク犯罪対策の更なる推進は急務である。
 このような情勢を踏まえ、警察庁では、平成十年六月、ハイテク犯罪対策を推進するための「ハイテク犯罪対策重点推進プログラム」を策定、公表し、このプログラム等に基づき、関係省庁と一体となってグローバル・スタンダードを満たすための体制や法制の整備等に取り組むこととしている。
 「ハイテク犯罪対策重点推進プログラム」において、警察庁が今後推進することとしている施策の概要は、次のとおりである。
 (1) 体制の整備〜「サイバーポリス」(電脳警察)の創設
 警察庁では、国と都道府県を通じて、高度の技術力を備え、ハイテク犯罪やサイバーテロに的確に対応することができる、いわば「サイバーポリス」とも呼ぶべき体制を確立するための取組みを進めている。
 ア ナショナルセンターの設置
 ハイテク犯罪は、その手段として情報通信技術が駆使されるため、捜査活動には、情報通信に関する高度かつ最先端の技術的知識が要求される。
 また、ハイテク犯罪は、いわゆるサイバー・スペースを舞台として犯行が行われるため、その捜査を、一の都道府県警察限りで処理することが困難な場合が多く、警察庁において、都道府県警察の捜査活動を的確に調整する必要がある。さらに、コンピュータ・ネットワークの急速なグローバル化に伴い、ハイテク犯罪も国境を越えたものとなっており、各国間の緊密かつ迅速な協力の確保が不可欠である。
 そこで、情報通信、暗号等に関する高度かつ最先端の技術力を確保し、その技術力により都道府県警察を的確にリードすることができる能力を備えた「サイバーポリス」の中核となるナショナルセンターの警察庁への設置に向けて取り組むこととしている。
 イ 法執行力の強化
 ハイテク犯罪の多くに、広域的、国際的に活動するハッカー・グループの関与が認められることから、各都道府県警察においては、積極的な事件端緒情報の収集に努めるとともに、事件発生時における法執行力を強化するため、ハイテク犯罪の捜査やサイバーテロを未然に防止するための体制の整備が必要である。
 (2) 法制の整備
 ア 不正アクセス対策法制
 我が国を除くG7各国では、内容は必ずしも一様でないが、不正アクセスに関する法制の整備を図っており、我が国が国際ハイテク犯罪対策上の抜け道となるおそれが生じている。
 そこで、警察庁では、平成九年、学識経験者、関係事業者等の参加を得て、情報システム安全対策研究会に「不正アクセス対策法制分科会」を設け、調査研究を行った。その結果は、十年三月、「不正アクセス対策法制に関する調査研究報告書」として取りまとめられた。ここでは、不正アクセスの禁止・処罰、ID・パスワードの販売等の不正アクセスを助長する業務の規制、ログを保存するなどの捜査協力の確保等について、法的な措置を講ずることが必要であることなどが指摘されている。
 警察庁では、この報告書による提言を受け、関係省庁と一体となって、グローバル・スタンダードを満たすための法制の整備に取り組むこととしている。
 イ 暗号の不正利用を防止するための法制
 平成十年三月、(財)社会安全研究財団に設置された情報セキュリティビジョン策定委員会において報告書がまとめられ、法規制を含め、認証機関や鍵回復機関(注)の業務の適格性及び業務の適正を確保するための仕組みを導入するとともに、鍵回復のための枠組みの在り方について検討を行う必要があるとしている。
 警察庁においては、同報告書の提言を踏まえつつ、認証機関及び鍵回復機関の適格性及び業務の適正を確保する仕組みの導入等について、法制面を含め検討を行うこととしている。
 (注) 鍵回復機関とは、暗号の利用者から暗号化したメッセージを解読するための鍵をあらかじめ知らせてもらうなどの方法により、その利用者がその鍵を忘れてしまった場合等にこれを解読することができるように、その鍵を回復する機関をいう。
 (3) 産業界との連携の強化
 警察庁では、(社)経済団体連合会、日本経営者団体連盟等の経済関係団体をはじめ、産業界に対し、ハイテク犯罪対策への理解と協力を得るための広報啓発活動を展開しているが、バーミンガム・サミットの「コミュニケ」において、政府と産業界の連携の強化の必要性が特に強調されたことにかんがみ、被害者の相談に応じ、広報啓発、関係企業・団体との連携体制の構築等を行う「情報セキュリティ・アドバイザー」を都道府県警察に設置するとともに、「ACT2000」(Awareness of counter Cyber Terrorism and other high‐tech‐crime 2000)と名付けた施策を推進し、これに基づいて産業界との緊密な連携を確保することとしている。
 この施策は、
 ○産業界へのハイテク犯罪及びサイバーテロ対策に関する具体的助言・指導
 ○マスメディア等を通じたハイテク犯罪及びサイバーテロ対策に関する広報啓発
 ○ハイテク犯罪及びサイバーテロの捜査協力を確保するための産業界との対話の推進
を内容としている。
 (4) 国際捜査協力の枠組みづくり
 ハイテク犯罪については、犯罪にかかわる情報が瞬時のうちに国境を越えて伝送され、コピーされ、消去されることとなるため、各国捜査機関は、時差を越えた迅速な国際捜査協力を行うことが必要となる。
 また、その捜査の過程でインターネットに接続された端末から外国にあるホスト・コンピュータ中のデータを呼び出すこととなる場合等には、国内捜査が外国に及ぶ場合があり得ることから、各国間の国家主権の調整等が必要となる。
 警察庁では、関係省庁と連携しつつ、これらの問題を解決するための国際捜査協力の枠組みづくりについて、各国と協議することとしている。
 (5) その他
 警察庁では、電子マネーの改ざん、コピーが行われた場合における早期発見の仕組み、マネー・ローンダリング等を防止するための追跡可能性(トレーサビリティ)を確保する仕組み等について、関係省庁と連携しつつ、検討することとしている。
 また、コンピュータ・ネットワーク上における少年に有害な情報の中には、風営適正化法等の法令による規制の対象とならない場合もあるため、警察庁では、学識経験者等の参加を得た研究会を開催し、検討を進めている。
 さらに、今後、我が国では、サイバーテロが行われるおそれが高まるものと考えられることから、警察庁においては、関係機関等との連携を図りつつ、引き続き、サイバーテロの具体的な予防策、発生時における初動捜査の在り方等に関する研究、検討を推進することとしている。

<第2章> 警察における被害者対策の推進

 近年、我が国においては、被害者やその遺族の受ける様々な被害の深刻な実態について、国民の関心が大きく高まってきている。また、欧米諸国においては、被害者支援のための様々な取組みが進められるなど、被害者対策は、国際的な潮流ともなっている。
 警察では、これまでも捜査等における被害者の心情への配慮に努めてきたほか、殺人事件の被害者等に対する給付金の支給、暴力団から被害を受けるおそれのある者の保護、悪質商法の被害者に対する相談活動等を行ってきた。しかし、被害者が十分な社会的支援を受けていない現状に注目が集まるにつれ、警察に期待される役割も大きなものとなってきている。
 こうしたことから、警察では、被害者の視点に立った総合的な被害者対策を行っている。

<第1節> 警察における被害者対策

1 警察における被害者対策の開始
 警察庁では、平成八年二月、被害者対策に関する基本方針を取りまとめた「被害者対策要綱」を制定し、これを受けた各都道府県警察では、組織を挙げて被害者対策に取り組んでいる。
 さらに、警察庁では、同年五月、長官官房給与厚生課に犯罪被害者対策室を設置し、各種施策の企画・調査のほか、被害者対策全般の取りまとめを行っている。

2 基本的な施策の推進
 (1) 被害者に対する情報提供等
 ア 「被害者の手引」の配布
 各都道府県警察では、被害者等が必要とする情報を早期かつ包括的に提供し、あわせて捜査活動についての協力を得るため、刑事手続、法律上の救済手続等に関する情報をパンフレットに取りまとめた「被害者の手引」を作成し、被害者等から事情聴取を行った捜査官等が、これを配布するとともに、その内容についての説明を行っている。
 イ 被害者連絡の実施
 警察では、被害者連絡制度を導入し、被害者が望む場合には、事件に関する情報を警察から連絡することとしている。連絡を行うのは、具体的には、捜査の進行状況のほか、被疑者を検挙した場合には、その旨及び被疑者の氏名・年齢、送致先検察庁等に関する事項である。
 ウ 地域警察官による被害者訪問・連絡活動
 交番等の地域警察官は、その受持ち区域に居住する被害者の再被害を予防し、その不安感を解消するため、被害者の要望に基づいて訪問・連絡活動を実施しており、平成九年中は、延べ三千五百六十回の訪問・連絡活動を行っている。
 エ 広報活動の推進
 各都道府県警察では、被害者が届出を行いやすいように配意しつつ、テレビ、ラジオ、新聞、ホームページ等の多種多様なメディアを通じて、警察本部等に設置している各種の被害相談電話や相談コーナーに関する広報を積極的に実施している。
 (2) 相談・カウンセリング体制の整備
 ア 被害者等のためのカウンセリング体制の整備
 警察では、より様々な被害者の精神的被害を軽減していくため、心理学等の専門的知識やカウンセリング技術を有する心理カウンセラーを配置するなど、被害者の相談・カウンセリング体制の整備を進めていくこととしている。
 平成九年十二月末現在、十五都道県で心理カウンセラーを採用しているほか、二十一府県において精神科医や民間のカウンセラーを委嘱している。
 イ 各種被害相談窓口の充実
 警察では、被害者等の利便を図るため、平成元年から都道府県警察に警察総合相談室の設置を進めるとともに、全国統一番号の相談専用電話「#(シャープ)九一一〇番」を設置し、電話による総合的な相談を受け付けている。また、性犯罪相談、少年相談、消費者被害相談等については、被害者のニーズに応じて、個別の相談窓口を設けている。
 (3) 被害回復
 ア 犯罪被害給付制度
 犯罪被害給付制度とは、通り魔殺人等の故意の犯罪行為により、不慮の死を遂げた被害者の遺族又は身体に重大な障害を負った被害者に対して、社会の連帯共助の精神に基づき、国が犯罪被害者等給付金を支給し、その精神的・経済的打撃の緩和を図ろうとするものである。
 給付金には、死亡した被害者の遺族に対して支給される「遺族給付金」と、重障害を受けた本人に対して支給される「障害給付金」との二種類があり、いずれも一時金として支給される。
 給付金の額は、被害者の年齢や勤労による収入額等に基づいて算定され、遺族給付金は最低額二百二十万円、最高額一千七十九万円、障害給付金は最低額二百三十万円、最高額一千二百七十三万円の間で決定される。
 イ 盗難被害品等の早期回復システムの確立
 警察では、古物営業法及び質屋営業法に基づく活動等を通じ、市場における盗難被害品等の売買の防止と速やかな発見を図り、その迅速な回復に取り組んでいる。
 (4) 捜査過程における被害者の負担の軽減
 ア 被害者の心情に配意した捜査活動の推進
 (ア) 捜査一般
 警察では、被害届を受理するに当たって、被害者等に更に精神的な苦痛を与えないように配意して事情聴取を行うほか、被害届の受理に関連して各種相談を受けたときは、誠意をもって対応し、必要な措置をとることとしている。
 また、被害者の自宅等に急行する場合においても、必要により私服の警察官が一般車両と見分けのつきにくい車両で赴くようにするなど、被害者等のプライバシーに配意した捜査を行っている。
 (イ) 遺族への対応
 殺人等により突然訪れた肉親の死は、遺族にとって計り知れない精神的な衝撃を与えるものであり、これらの遺族には他の犯罪の被害者とは異なる配意が必要である。このため、遺族への対応に当たっては、被害者の死亡を通知する際、言動に細心の注意を払うことなどに特に留意している。
 イ 施設の改善
 各都道府県警察においては、今後新築される警察署に被害者用の事情聴取室を設置することとしているほか、既存の警察署等であっても、応接セットを備えたり、照明や内装を改善したりするなどして、被害者が安心して事情聴取に応じられるよう、施設の改善に努めている。
 (5) 被害者の安全の確保
 ア 緊急時の通報装置の整備等
 被害者は、加害者から再び危害を加えられるのではないかという不安や恐怖感を抱いている。このため、警察では、暴力団犯罪の被害者を中心に、その保護措置、特に非常時に被害者の安全を確保するための緊急通報装置等の整備に努めている。
 イ 再被害の防止
 警察では、殺人予備、殺人未遂、性犯罪等の凶悪事件の検挙の都度、その発生経緯等を分析して再被害のおそれについて総合的に検討を加え、緊密な被害者連絡、関係警察署等の連携による防犯指導、警戒活動等の措置を継続的かつ組織的に実施することとしている。

3 被害者の特性に応じた施策の推進
 (1) 性犯罪の被害者
 警察では、性犯罪の被害者の精神的負担の軽減、性犯罪の被害の潜在化の防止を図るため、次のような各種施策を推進している。
 ア 性犯罪捜査指導官等の設置
 都道府県警察では、警察本部に「性犯罪捜査指導官」及び「性犯罪捜査指導係」を設置し、性犯罪の捜査の指導・調整、発生状況等の集約、専門捜査官の育成等を行っている。
 イ 女性の警察官による捜査
 各都道府県警察では、警察本部の性犯罪捜査指導係や主要警察署の性犯罪捜査を担当する係への女性の警察官の配置を進めるとともに、性犯罪が発生した場合に捜査に当たる性犯罪捜査員として、女性の警察官を指定している。
 ウ 性犯罪被害相談窓口の設置
 各都道府県警察では、性犯罪に係る被害や捜査に関する相談を受け付ける「性犯罪被害一一〇番」等の相談電話や、「性犯罪被害者相談コーナー」等の相談室を設置し、女性の警察官等が相談に応じている。
 エ 証拠採取における配慮
 性犯罪被害の場合、被害直後のショックやしゅう恥心から証拠採取を負担に感じる被害者も少なくない。各都道府県警察では、被害者にそのような負担をかけずに採取を行えるよう、採取要領を定めるほか、採取に必要な用具等を整備している。
 オ 交番における女性の安全対策の実施
 性犯罪の被害に遭いやすく、これに対する不安感の強い一人暮らしの女性等の安全対策を推進するため、地域の特性、犯罪発生状況等を勘案して「女性相談交番」を指定し、女性の警察官が性犯罪等に関する相談や被害の届出に対応している。
 カ 鉄道警察隊における女性被害相談所の設置
 列車内における性犯罪等についての女性からの相談、被害の届出に適切に対応するため、鉄道警察隊に「女性被害相談所」を設けている。
 (2) 犯罪等による少年の被害者
 警察では、平成八年の少年警察活動要綱の改正において、被害少年の保護活動を非行少年や不良行為少年の補導活動と並ぶ重要な活動として位置付け、次のような施策を積極的に推進している。
 ア カウンセリング等の継続的支援の実施
 各都道府県警察の少年警察部門には、少年の特性やその取扱いについての知識や技能を有する少年補導職員、少年相談専門職員が配置されており、これらの職員等がこれまで培ってきた経験を基に、個々の被害少年の特質を踏まえたきめ細かな支援を行っている。
 イ 支援体制の整備・充実
 都道府県警察では、支援の中心的な担い手である少年補導職員等が、被害少年の要望に的確に対応できるようにするため、その増員や拠点警察署を中心とした集中運用を行うとともに、被害少年対策係の設置を進めるなど、体制の整備に努めている。
 (3) 暴力団犯罪等の被害者
 ア 暴力団に関する相談への対応
 警察では、暴力団犯罪等の被害者から被害の届出を受理する専用電話を開設するなど、暴力団に関する相談の受理体制を整備し、相談者の不安感が払しょくされるように配意しつつ、相談に応じている。こうした相談に基づいて、事件検挙、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に基づく中止命令の発出等の措置を講じているほか、都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)等とも連携しつつ、事案の内容に応じた適切な対応に努めている。
 イ 暴力的要求行為の相手方に対する援助の措置
 警察では、中止命令等を発出した事案のうち、暴力的要求行為の相手方からの申出があり、その申出が相当と認められるときは、その相手方が被害回復交渉を行うことを求めている旨を当該暴力団員に対して連絡するなどの援助の措置をとり、暴力的要求行為の相手方の被害の回復を図っている。
 ウ 都道府県センターとの連携
 都道府県センターでは、警察その他の関係機関等との連携の下、暴力追放相談委員として委嘱された弁護士、少年指導委員、保護司、元警察職員等が、それぞれの専門的知識、経験をいかして暴力団員による不当な行為に関する相談に当たるとともに、暴力団員による不当な行為の被害者に対する見舞金の支給、暴力団員を相手取った民事訴訟の費用の貸付け等の事業を行っている。
 エ 暴力団犯罪の被害者等の安全の確保
 警察では、被害者との連絡を密にして必要な指導、助言を行うとともに、状況に応じて、緊急時の通報装置や監視カメラ等の装備資機材の活用、自宅や勤務先における身辺警戒やパトロールの強化等を行い、被害者への危害の未然防止に努めている。
 (4) 交通事故の被害者
 都道府県警察では、警察本部及び警察署において交通課員が被害者をはじめとする交通事故の当事者から相談を受けた場合は、調停、訴訟等による解決のための基本的な制度、手続等の一般的な事項について教示を行っている。

<第2節> 今後の被害者対策の方向性

 平成八年の被害者対策の組織的推進の開始以降、警察は、種々の施策を実施してきた。これらの施策の多くは、開始後まだ二年あまりしか経過していないため、今後は更に被害者の要望に沿ったものとなるよう、各種施策の検証を行いつつ、継続的かつ着実な推進に努めることが不可欠である。警察においては、次のような施策を重点として進めていくこととしている。
 ○各種施策の定着化
 ○被害者ニーズの把握等
 ○施設等の整備・改善
 ○関係機関・団体等との連携の強化

<第3章> 生活安全の確保と警察活動

 平成九年には、少年非行の凶悪化、一般市民を巻き添えにした発砲事件、少年による薬物乱用事犯等の激増、女子少年のテレホンクラブ等に係る性被害の増加をはじめ、市民生活の安全と平穏を脅かす様々な問題が発生した。また、超低金利状況下での悪質商法事犯、悪質な産業廃棄物事犯等が社会問題化した。
 警察では、これらの状況に的確に対応するため、地域住民、企業、自治体等との協働による地域安全活動の強化、地域の「生活安全センター」としての交番の基盤整備等に努め、地域住民に身近な犯罪、事故の予防活動、犯罪の検挙活動等を行うとともに、けん銃等の摘発及び供給の遮断、薬物乱用の防止、良好な風俗環境の保持、少年の非行防止、正常な経済活動の確保のための諸対策等を強力に推進することとしている。

<第4章> 犯罪情勢と捜査活動等

 平成九年の刑法犯認知件数は百八十九万件を超え、戦後最高を記録した。このような情勢において特に際立ったのは、少年を被疑者又は被害者とする殺人事件や、現金輸送車対象強盗事件等の重要凶悪事件の相次ぐ発生や、昨年に引き続いての、金融・不良債権関連事犯等の不正事案の顕在化であった。
 このような情勢に的確に対応するため、警察では、広域捜査力、専門捜査力、科学捜査力、国際捜査力のそれぞれの強化や、国民協力の確保等の諸施策を講じ、捜査力の充実・強化を推進している。

<第5章> 暴力団総合対策の推進

 暴力団対策法の施行を契機とした暴力団排除気運の高まりと取締りの一層の強化により、暴力団は、社会から孤立しつつある。しかしながら、金融・不良債権関連事犯や、企業を対象とした恐喝事件等を多数引き起こすなど、その資金獲得活動は、社会経済情勢の変化に対応して一層多様化、巧妙化しつつある。
 また、暴力団は、けん銃を使用した凶悪な犯罪や、薬物事犯を多数引き起こすなど、依然として市民社会にとって大きな脅威となっている。平成九年八月には、山口組「若頭」が射殺され、その後、これに関連するとみられる銃器発砲事件等が多数発生している。さらに、大手企業に係る一連の商法違反事件の検挙により、総会屋等と一部企業との関係が次々と明らかになったところである。
 このような情勢の下、警察は、暴力団を解散、壊滅に追い込むため、総力を挙げて、暴力団犯罪の取締りの徹底、暴力団対策法の効果的運用及び暴力団排除活動の推進を三本の柱とした暴力団総合対策を強力に推進している。

<第6章> 安全かつ快適な交通の確保

 現代社会は「くるま社会」であるといわれているように、自動車は人や物の移動手段として広く普及し、我が国の社会経済の発展に大きく貢献してきた。このように、自動車は、我々が日常生活を営んでいく上で、もはや欠かせないものとなっている。
 しかしながら、「くるま社会」の負の側面もまた見過ごしてはならない。例えば、平成九年中の交通事故死者数は九千六百四十人と、依然として一万人近くの尊い命が交通事故により失われており、これは、約五十五分に一人の割合で死亡した計算になる。また、交通事故発生件数については、七十八万三百九十九件と、五年連続過去最高を更新した。
 こうした事態に対処し、成熟した「くるま社会」の実現を目指すため、警察は、交通安全教育、交通指導・取締り、交通安全施設等の道路交通環境の整備をはじめとする様々な活動を推進していくこととしている。

<第7章> 公安の維持

 平成九年は、「在ペルー日本国大使公邸占拠事件」で幕を開け、十一月には、「エジプトにおける観光客襲撃事件」の発生で、日本人観光客が巻き込まれて死傷者が出るなど、国際テロが我が国にとって現実の脅威となっていることを示す重大事案が発生した。
 一方、国内に目を向けると、オウム真理教は、破壊活動防止法に基づく解散指定請求の棄却後、再び活動を活発化させ、組織の再建を図った。右翼は、「歴史教科書問題」、「竹島問題」、「尖閣問題」等をとらえ、活発な活動を展開した。極左暴力集団は、一貫して「安保・沖縄闘争」を掲げ、労働者、市民等を巻き込んだ大衆運動を展開し、その過程で凶悪なテロ、ゲリラ事件を引き起こした。また、沖縄米軍基地をめぐる全国的な反基地運動は、「日米防衛協力のための指針」の見直しをめぐって更に盛り上がりをみせた。
 こうした情勢の中、十年二月には、長野オリンピック冬季競技大会が開催され、開会式等に数多くの国内外の要人が参列し、これに伴い大規模な警備が実施された。そのほか、金泳三・韓国大統領の来日に伴う警備をはじめ重要警備も相次いだ。警察では、このような情勢に的確に対応するため、各種テロ対策を最重点に諸対策を推進し、公安の維持に努めている。
 また、七年三月に発生した警察庁長官狙撃事件については、一刻も早く全容を解明するため、引き続き捜査を進めている。

<第8章> 災害、事故と警察活動

 平成九年は、台風、大雨、放射性物質漏出事故の発生等、様々な災害及び事故が発生した。警察では、これらの災害及び事故の発生に際して、直ちに体制を確立し、被災者の救助に当たるとともに、被害の未然防止と拡大防止に努めた。
 また、雑踏事故、水難、山岳遭難、レジャースポーツに伴う事故等に対しても、それぞれ関係機関・団体と連携して必要な諸対策を推進した。

<第9章> 国際化社会と警察活動

 近年の交通・通信手段等の飛躍的発展等に伴い、我が国と諸外国との交流はますます活発化しており、同時に、経済的利益を目的とした不法入国者数及び不法残留者数も多数に上っている。これに伴い、来日外国人による犯罪の多発、海外からの薬物、けん銃の流入等が顕著となり、特に、「蛇頭」をはじめとする外国人犯罪組織の存在は、我が国の治安に対する重大な脅威となっている。また、日本人の海外における犯罪及び我が国において罪を犯した者が国外へ逃亡する事案も依然として後を絶たない。
 これらの問題に対して、警察では、国際捜査力を強化するとともに、二十四時間対応可能な国際捜査協力体制を確保している。また、地域住民や関係行政機関との連携に努めている。
 さらに、諸外国に対して、警察分野に関する協力を目的とした各種セミナーの開催、技術専門家の派遣等を行っており、相手国の治安の向上等に貢献している。

<第10章> 公安委員会と警察活動のささえ

<第1節> 公安委員会制度

 公安委員会制度は、警察の民主的管理と政治的中立性の確保を図るために設けられたものであり、国には国家公安委員会が、都道府県には都道府県公安委員会(道にあっては、方面公安委員会を含む。)が、それぞれ設置されている。すなわち、公安委員会制度は、強い執行力を持つ警察行政について、その政治的中立性を確保し、かつ、その運営の独善化を防ぐためには、国民の良識を代表する者が警察の管理を行うことが適切であると考えられたことから設けられたものである。
 このような観点から、国民又は地域住民の代表者として、国会の両議院又は都道府県議会の同意等を得て任命される委員で構成される合議制の公安委員会が警察を管理するという制度が、国及び地方自治体の双方においてとられている。

<第2節> 警察活動のささえ

 我が国の警察組織は、都道府県の警察機関と国の警察機関から構成されている。まず、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、公共の安全と秩序の維持に当たるという警察の責務を遂行するため、都道府県を単位として、都道府県警察が置かれ、これら都道府県の警察機関をその所掌事務の範囲内で指揮監督する国の警察機関として、警察庁が置かれている。
 さらに、警察庁には、その地方機関として、管区警察局等が置かれている。
 警察では、警察職員の待遇の改善、警察装備の開発、情報通信システムの開発・導入、警察官の職務に協力援助した者等に対する救済、各シンクタンクにおける調査研究活動等に取り組み、警察活動のささえとなる諸活動の充実・強化に努めている。


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景気予測調査


―平成十年八月調査―


大 蔵 省


<はじめに>

 大蔵省では、企業経営の現状と見通しを調査し、景気の動向を的確に把握することを目的として、金融・保険業を除く資本金一千万円以上(電気業、ガス・水道業は資本金十億円以上)の営利法人約百十一万社のうち約一万一千社を対象として、四半期ごとに大蔵省景気予測調査を実施している。
 以下は、平成十年八月に実施した第六十二回調査結果の概要である。今回の調査では一万一千百五十六社を対象とし、九千百十社(回収率八二%)から回答を得ている。
 なお、本調査における大企業とは資本金十億円以上の企業を、中堅企業とは資本金一億円以上十億円未満の企業を、中小企業とは資本金一千万円以上一億円未満の企業をいう。

景 況第1表第1図参照

 十年七〜九月期の景況判断BSI(前期比「上昇」−「下降」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも引き続き「下降」超となっている。
 先行きを全産業でみると、いずれの規模においても「下降」超で推移する見通しとなっている。

売上高第2表参照

 十年度上期の売上高は、全産業合計で前年比三・五%の減収見込みとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも減収見込みとなっている。
 業種別に前年比でみると、製造業では、食料品などが増収となるものの、輸送用機械器具、一般機械器具などが減収となり、全体では四・九%の減収見込みとなっている。
 非製造業では、映画・娯楽などが増収となるものの、卸売・小売、建設などが減収となり、全体では二・九%の減収見込みとなっている。
 十年度下期の売上高は、全産業合計で前年比〇・九%の減収の見通しとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業は増収の見通し、中小企業は減収の見通しとなっている。
 業種別に前年比でみると、製造業では、電気機械器具などが増収となるものの、金属製品、精密機械器具などが減収となり、全体では〇・六%の減収の見通しとなっている。
 非製造業では、映画・娯楽などが増収となるものの、建設、不動産などが減収となり、全体では一・〇%の減収の見通しとなっている。
 十年度通期の売上高は、全産業合計で前年比二・一%の減収の見通しとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも減収の見通しとなっている。

経常損益第3表参照

 十年度上期の経常損益は、全産業合計で前年比一三・四%の減益見込みとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも減益見込みとなっている。
 業種別に前年比でみると、製造業では、食料品などが増益となるものの、電気機械器具、金属製品などが減益となり、全体では一五・三%の減益見込みとなっている。
 非製造業では、映画・娯楽などが増益となるものの、建設、卸売・小売などが減益となり、全体では一一・三%の減益見込みとなっている。
 十年度下期の経常損益は、全産業合計で前年比一四・五%の増益の見通しとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも増益の見通しとなっている。
 業種別に前年比でみると、製造業では、精密機械器具などが減益となるものの、電気機械器具、輸送用機械器具などが増益となり、全体では七・一%の増益の見通しとなっている。
 非製造業では、建設などが減益となるものの、卸売・小売、不動産などが増益となり、全体では一八・二%の増益の見通しとなっている。
 十年度通期の経常損益は、全産業合計で前年比〇・八%の減益の見通しとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中小企業は減益の見通し、中堅企業は増益の見通しとなっている。

中小企業の設備投資第4表参照

 設備投資については中小企業のみを調査対象としている。今回の調査における十年度の全産業の設備投資計画額を前年比でみると、土地購入費を含む場合(以下「含む」という)で四二・〇%減、除く場合(以下「除く」という)で四〇・〇%減の見通しとなっている。なお、前回調査時に比べ、「含む」で三・六%ポイントの上方修正、「除く」で三・九%ポイントの下方修正となっている。
 十年九月末時点の設備判断BSI(期末判断「不足」−「過大」社数構成比・季節調整済)をみると、全産業は「過大」超となっている。業種別では、製造業では「過大」超幅が拡大し、非製造業では引き続き「不足」超となっている。
 先行きについては、全産業は「過大」超で推移する見通しとなっている。業種別では、製造業は「過大」超で推移する見通しとなっており、非製造業は十二月末に「過大」超に転じる見通しとなっている。

中小企業の販売製(商)品在庫

 十年九月末時点の在庫判断BSI(期末判断「不足」−「過大」社数構成比・季節調整済)をみると、製造業、卸売業、小売業いずれも「過大」超となっている。
 先行きについては、製造業、卸売業、小売業いずれも「過大」超となっているものの、「過大」超幅が縮小する見通しとなっている。

中小企業の仕入れ価格

 十年七〜九月期の仕入れ価格判断BSI(前期比「上昇」−「低下」社数構成比・季節調整済)をみると、製造業、卸売業は「低下」超幅が縮小し、小売業は「低下」超幅が拡大している。
 先行きについては、製造業、卸売業は「低下」超幅が縮小し、十一年一〜三月期に「上昇」超に転じる見通しとなっている。小売業は「低下」超で推移する見通しとなっている。

中小企業の販売価格

 十年七〜九月期の販売価格判断BSI(前期比「上昇」−「低下」社数構成比・季節調整済)をみると、製造業、卸売業、小売業、サービス業いずれも「低下」超となっている。
 先行きについては、製造業、卸売業、小売業、サービス業いずれも「低下」超で推移する見通しとなっている。

雇 用第5表参照

 十年九月末時点の従業員数判断BSI(期末判断「不足気味」−「過剰気味」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「過剰気味」超となっている。
 先行きについては、いずれの規模においても「過剰気味」超で推移する見通しとなっている。
 十年七〜九月期の臨時・パート数判断BSI(前期比「増加」−「減少」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「減少」超となっている。
 先行きについては、いずれの規模においても「減少」超で推移する見通しとなっている。
 十年七〜九月期の所定外労働時間判断BSI(前期比「増加」−「減少」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、いずれの規模においても「減少」超となっている。
 先行きについては、いずれの規模においても「減少」超の見通しとなっている。

企業金融第6表参照

 十年七〜九月期の金融機関の融資態度判断BSI(前期比「ゆるやか」−「きびしい」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも引き続き「きびしい」超となっている。
 先行きについては、いずれの規模においても「きびしい」超で推移する見通しとなっている。
 十年七〜九月期の資金繰り判断BSI(前期比「改善」−「悪化」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、いずれの規模においても引き続き「悪化」超となっている。
 先行きについては、いずれの規模においても「悪化」超で推移する見通しとなっている。
 十年九月末時点の金融機関からの設備資金借入判断BSI(前期比「増加」−「減少」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、いずれの規模においても「減少」超となっている。
 先行きについては、いずれの規模においても「減少」超で推移する見通しとなっている。

中期的な経営課題第2図参照

 中期的な経営課題(一社二項目以内回答)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「国内販売体制、営業力の強化」をあげる企業が最も多く、次いで、大企業、中堅企業では「新技術、新製品の開発、製品(サービス)の高付加価値化」、中小企業では「後継者、人材の確保、育成」の順となっている。
 業種別にみると、製造業では、いずれの規模においても「新技術、新製品の開発、製品(サービス)の高付加価値化」が最も多く、次いで、大企業、中堅企業では「国内工場・営業所の再編、生産・流通工程の見直し等によるコストの低減」、中小企業では「国内販売体制、営業力の強化」の順となっている。非製造業では、いずれの規模においても「国内販売体制、営業力の強化」をあげる企業が多い。
 所得税の予定納税第二期分の納税をお忘れなく。納税の期間は十一月一日(日)から十一月三十日(月)までです。
 納税する額は、予定納税が必要な方に税務署から「予定納税額の通知書」が郵送されており、これに記載されている第二期分の金額です。
 振替納税を利用している方は、納期限(十一月三十日)にあらかじめ指定された金融機関の口座から自動的に納付されますので、期日までに納税額に見合う預貯金をご準備ください。振替納税を利用されていない方は、納期限までに最寄りの金融機関などで納めてください。
 納期限までに納税されない場合には、完納する日までの間、未納となっている本税の額に対して年一四・六%(平成十一年一月三十一日までは年七・三%)の割合で延滞税がかかります。
 予定納税のあらましについて説明しましょう。


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税金365日


所得税の予定納税(第二期分)


国 税 庁


【予定納税の仕組み】

 所得税は、最終的には一年間の所得と税額を計算し、翌年の確定申告期間中(平成十年分については平成十一年二月十六日から三月十五日まで)に確定申告をして、その税額を納めることになっていますが、前年に一定の所得があった人については、税務署で前年の所得などを基にして計算した予定納税額(平成十年分については次のように計算します。)を通知し、それを七月(平成十年分については八月)と十一月に納めていただくことになっています。
 この制度を予定納税の制度といいます。
○一般の人の場合の予定納税額
 ・第一期分…予定納税基準額の3分の1相当額−予定納税特別減税額
           (赤字のときは0)
 ・第二期分…予定納税基準額の3分の1相当額(予定納税特別減税額のうち、第一期分の計算において引ききれなかった部分の金額があるときは、その部分の金額を差し引いた金額)
○特別農業所得者の場合の予定納税額
 ・第二期分…予定納税基準額の2分の1相当額−予定納税特別減税額
(注) 1 予定納税基準額は、平成九年分の申告納税額と同じ金額です。
     しかし、平成九年分の所得のうちに、譲渡所得や一時所得、雑所得、平均課税を受けた臨時所得、山林所得、退職所得、分離課税の株式等の譲渡による所得が含まれているときは、これらの所得金額を除いたところで、また、土地等の事業所得が含まれているときは、この所得金額を総所得金額に加えたところで、予定納税基準額を計算することになっています。
   2 平成九年分の所得が給与所得や配当所得など源泉徴収されている所得だけの場合であっても、これらの所得に基づいて予定納税基準額を計算することになっています。
   3 予定納税基準額が十五万円未満となる場合には、予定納税をする必要はありません。
   4 予定納税特別減税額は、三万八千円と扶養親族等(予定納税基準額の計算の基礎となった控除対象配偶者及び扶養親族をいいます。)の数を一万九千円に乗じて計算した金額との合計額をいいます。

【予定納税額の減額の申請】

1 予定納税額の減額を申請することができる場合
 次のような理由により、本年十月三十一日現在の状況で、本年分の年間所得や所得控除などを見積もって計算した税額(特別減税額がないものとして計算します。これを「申告納税見積額」といいます。)が、税務署から通知されている予定納税基準額より少なくなると見込まれる場合は、第二期分の予定納税額の減額を申請することができます。
 @ 廃業、休業、転業、失業のため、平成九年分より所得が減少すると見込まれるとき
 A 業況不振などのため、平成十年分の所得が平成九年分の所得より明らかに少なくなると見込まれるとき
 B 地震、風水害、火災などの災害や盗難、横領によって財産に損害を受けたため、平成九年分より所得が減少したり、雑損控除が受けられると見込まれるとき
 C 納税者やその家族のけがや病気などで多額の医療費を支払ったため、新たに医療費控除が受けられると見込まれるとき
 D 結婚や出産などのため、新たに配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除が受けられることになったとき
(注) 平成十年八月一日以後に風水害や火災などの災害に遭い、住宅や家財に損害を受けた場合において、その損害額が住宅や家財の価額の二分の一以上で、しかも、平成十年分の年間所得の見積額が一千万円以下であると見込まれるときは、災害減免法による減額申請をすることができます。
   この減額申請は、災害を受けた日から二か月以内にすることになっています。
2 申告納税見積額の計算方法
 この減額申請をする場合は、本年十月三十一日の現況で申告納税見積額を計算します。
 申告納税見積額の計算は、本年分の年間所得(譲渡所得や一時所得、雑所得などの臨時的な所得も含まれます。)や配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除などの所得控除、配当控除、住宅取得等特別控除などの税額控除、源泉徴収税額の見積額によります。
3 減額申請の手続き
 十一月十六日(月)までに「予定納税額の減額申請書」を税務署に提出してください。
4 減額申請に対する承認などの通知
 税務署では、予定納税額の減額申請書が提出されますと、その内容を調べて申請を認めるかどうかを検討し、その結果を書面でお知らせします。

【振替納税制度のご利用を】

 所得税の納税の方法に、振替納税の制度があります。これは金融機関の預貯金口座から振替によって納税を済ませるもので、この制度を利用すれば納税のための手数が少なく、また、うっかり納期限を忘れ滞納してしまうこともなくなり、大変便利です。振替納税のご利用をお勧めします。
 新たに振替納税を希望される場合は、預貯金先の金融機関又は税務署に「預貯金口座振替依頼書」を提出してください。


 
    <11月11日号の主な予定>
 
 ▽平成九年就業構造基本調査結果の概要………………総 務 庁 

 ▽毎月勤労統計調査………………………………………労 働 省 
 



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