官報資料版 平成11年6月2日




                  ▽中小企業白書のあらまし…………中小企業庁

                  ▽月例経済報告(五月報告)………経済企画庁











中小企業白書のあらまし


多様な存在としての中小企業像を提示


中小企業庁


 「平成十年度中小企業の動向に関する年次報告」及び「平成十一年度において講じようとする中小企業施策」(中小企業白書)は、中小企業基本法に基づいて、政府が国会に提出するものであり、今回で三十六回目となっている。
 本年は四月二十日に閣議決定後、国会に提出された。
 白書のあらましは、次のとおりである。

 「平成十年度中小企業の動向に関する年次報告」は、以下の四点を重点としている。
 第一に多様な存在としての中小企業像を提示している。中小企業は多様かつ変わりゆく存在であって、平均値のみでは議論し尽くせるものではなく、一律の格差のみに着目する発想では、現実の中小企業の姿は捉えきれないことを指摘している。
 第二に幅広い経営革新の重要性を指摘している。中小企業を取り巻く環境変化を好機としていくには、研究開発や新分野進出、企業経営の効率化を促す企業組織・企業間関係の見直し等が重要であり、そのような幅広い経営革新への取組は業績に好影響をもたらしていることを分析している。
 第三に創業活動と新分野進出の重要性を指摘している。新たな事業を興す、または新たな分野に進出するといった活動が新たな飛躍への道であり、同時に日本経済の活性化と産業構造の転換に資するものであることを示している。
 第四に中小企業の景気動向を分析している。中小企業の多様性を前提とすると、中小企業の業況、経営動向等についても一律に捉えられない面があるものの、我が国経済の低迷が長引く中で、中小企業の景況もおしなべて極めて厳しい状態で推移したことを示している。

<第一部> 構造変化の中の中小企業

 中小企業は、経済成長率の低下、長期的な所得水準の向上に伴う価値観やライフスタイルの変化、情報化を始めとする技術変化、既存産業の成熟化・サービス経済化等の産業構造変化、経済のグローバル化といった様々な環境変化に直面している。また、金融ビッグバン、規制緩和など、制度環境の変化も起こっている。こうした環境変化の中で、下請関係の流動化、開業率の低下、競争の激化等が進んでいる(第1図参照)。
 中小企業も昭和三十年代のいわゆる「二重構造論」当時とは大きく変化している。平均事業所規模は大きくなり、「過少・過多」という状況が解消する一方、最近の分社化・ダウンサイジング等の動きの中で、平均企業規模は小さくなっている。事業所レベルの規模の経済性は存在するものの、企業レベルの規模の経済性は希薄になりつつあり、意思決定や企業行動の機動性、柔軟性が重要になってきている。
 このような環境変化の中、既存の中小企業の様々な経営革新と、新規創業の活発化が期待されている。
 現行の中小企業基本法における中小企業の定義によると、我が国の中小企業は全企業の九九%、従業者の六〇%を占めており、中小企業が日本経済の中で占めるウエイトは非常に高い(第2図参照)。厳密な国際比較は困難だが、先進国の中で日本の中小企業比率は特に高い方であるわけではない。
 中小企業は多数であるのみならず、極めて多様であり、生産性、利益率、成長率などをみても、大企業に比べてばらつきが大きい。「中小企業」を一括りに捉えて平均値を「大企業」と比較するのではなく、多様な実態を見ていくことが必要である。
 労働生産性を平均値で比較すると、現在でも規模間で格差がみられるが、労働生産性のばらつきは規模の小さい企業(事業所)の方が大きく、そのばらつきは近年拡大している。
 企業規模による平均的賃金水準の格差もいまだにみられるものの、そこには企業規模以外の様々な人的属性、産業特性等が影響している。これらの影響をコントロールした「純粋の賃金格差」は見かけ上の賃金格差の六割程度であり、この「純粋の賃金格差」は近年縮小に向かっている(第3図参照)。今後、労働市場の需給調整機能や、個々の企業における能力賃金の傾向が強まる中、個々の労働者の属性の影響が今後相対的に高まっていく可能性がある。
 中小企業と大企業の資金調達構造には顕著な違いがみられる。中小企業による直接金融は少なく、借入に当たっては経営者による個人保証や土地担保の提供が一般的である。
 設備投資のキャッシュフローに対する感応度を比較すると、中小企業において特に大きい。ここでも、中小企業の資金調達においては、大企業以上の制約に直面していることが示されている。中小企業の中でも親会社のない(独立)企業、若い企業ほど金融・資本市場の制約が強い。
 研究開発活動の経営成果に対する効果は、中小企業の方が大企業よりも顕著であり、利益率への効果、新製品開発に結びつく度合いのいずれをみても、中小企業における研究開発の有効性が大企業よりも高い(第4図参照)。また、規模を問わず設備投資(資本装備率)よりも研究開発投資(研究開発集約度)の方が、利益率等を高める上で有効である。しかし、研究開発投資のキャッシュフローによる感応度が高い点も規模にかかわらずみられる特徴であり、研究開発における資金調達の困難さを示している。また、規模の小さい企業ほど利益率等のばらつきが大きい。平均値で比較すると、大企業の方が中小企業よりも利益率が高い傾向があるが、中小企業の中にも高収益企業、高成長企業が存在し、上位の企業だけみると中小企業も大企業に遜色のない業績をあげている(第5図参照)。
 成長志向の企業にとって、外部株主の導入や情報公開など、企業統治のあり方の工夫も重要である(第6図参照)。「企業の境界」の弱い変更ともいえる異業種交流や共同研究開発も、企業の業績に対してプラスの効果がみられる(第7図参照)。
 中小企業の比率はどの地域でも非常に大きく、全都道府県で九八%を超える。開業率、廃業率は地域によってかなり異なるが、サービス産業の比率が高い地域、事業所密度の高い地域で開業率が高い傾向にある。また、地域の雇用創出の面でも中小企業の役割は大きい。
 開業率の低下、開業率と廃業率の逆転が懸念されているが、これは「二重構造論」当時の「過小性」、「過多性」とは問題状況が逆転していることを示している。最近の開業率と廃業率の「逆転」は、小規模の個人事業所における開業率低下の影響が大きく、会社組織の企業の開業率は廃業率を上回っていたが、平成九年には会社においても逆転がみられる(第8図参照)。
 開業率の国際比較は、統計のベースの違いにより容易ではないが、統計上のベースをほぼ揃えて比較しても、日本の開業率は米国よりもずっと低い。他の主要国と比較しても同様の傾向がみられる。
 他方、廃業の動向をみると、規模の小さい企業ほど、若い企業ほど廃業率が高い傾向にある。廃業した事業所の生産性は、存続した事業所の生産性よりも低く、廃業には非効率な企業の撤退を通じた産業全体の効率性向上という意義もあることにも留意する必要がある。
 創業当初の厳しい時期を乗り越えた企業は、従業者数を次第に伸ばしていく。生存した場合の従業者規模の成長率は、規模の小さい企業ほど、また若い企業ほど高い。中小企業の中にも、このように成長を遂げて大企業になるものがある。中小企業がずっと中小企業であるわけではない。
 新規事業所の生産性は既存事業所に比べて当初は低いが、設立後数年間の生産性上昇率は非常に高く、次第に既存企業に近づいていく(第9図参照)。
 開業コーホート別の割合を時系列的に追っていくと、新規事業所は一定期間経過後にはかなり大きなウエイトを占める(第10図参照)。
 創業希望者は直近では増加している(第11図参照)。二十代後半が最も創業希望者が多い。国際比較をすると、日本は自営業者数が絶対数で減少している数少ない国の一つである。
 創業者の創業理由としては、「自己実現」が上位に挙げられている。実際の経営者の満足度は、自己実現に関しては満足度が高いが、年収や自分の時間の満足度は低い。また、当然のことながら、業績の良い企業の創業者ほど満足度が高い。
 創業に当たっての障害としては、資金面、人材の調達面等が大きい(第12図参照)。開業資金は自己資金や親戚・知人への依存度が高く、実際の資金が望ましい金額を下回る創業が圧倒的に多いが、最近にかけて資金的満足度には上昇がみられる。このほか、開業率低下の理由として、社会環境面の諸要因も指摘されている(第13図参照)。
 事業の成功・失敗には、経営者の「行動特性」が影響する。成功する創業者は必ずしも危険選好的とはいえず、むしろ計画性、柔軟性、自己責任感覚が重要である。また、過去の失敗経験は有益だったと考える経営者が多い。
 創業活動においては、様々な「触媒機能」が重要な役割を果たしている。日本のベンチャー・キャピタルは、現状ではその機能が資金供給面に偏っており、経営支援面でも触媒機能を発揮していくことが期待されている。
 創業後、単年度黒字に転換するまでの期間は二〜三年が多い。累損一掃までの期間はもう少し長くなるが、二〜三年程度の企業もかなりみられる。しかし、株式公開までの期間はかなり長い。
 後継者候補は同族内の場合が多く、また、実際に創業者の親族が後継者になった場合が多い。廃業の際の手段としては、営業譲渡を考えている企業もかなり存在する。

<第二部> 最近の中小企業の動向

 中小企業の業況は厳しい状況が続いた。生産・出荷は低迷してきたが、在庫調整はかなり進展している。
 中小企業の利益率は低下している。利払費は低下傾向にあり、人件費の削減も進んでいるが、売上高の低下が大きい。
 倒産(特に不況型倒産)は高水準で推移してきたが、年末になって急速に減少しており、貸し渋り対策の効果がみられる。
 中小企業の設備投資は大きく減少している。中小製造業の設備投資は従来も景気との強い連動がみられたが、今回の設備投資の低迷も景気低迷の影響が大きい。しかし、従来は景気とは独立の動きをみせていた小売業、サービス業の設備投資も、業況との連動が強まっているのが新たな特徴となっている。
 設備投資の減少の理由として挙げられるのは、やはり「売上高・利益見通しの不透明感」が多く、「資金調達の困難」はやや増加しているものの多くはない。中小企業の設備投資の低下の主要因は景気(業況)だが、資金調達環境も若干影響しているものと考えられる。
 中小企業においては、業況が雇用調整に与える影響は大企業に比べると小さい。しかし、従来、業況と雇用変動の関連性が希薄だった中小小売業、中小サービス業などでも九〇年代に入って業況との連動性が強まる傾向にあり、不況期の雇用の受け皿としての中小企業の雇用吸収力には翳(かげ)りがみられる。
 平成九年三月以降、中小企業の資金繰りは急速に悪化した。大企業では貸出条件面で厳しくなったが、中小企業では、そもそも借入が困難になった場合が多い。こうした中、貸し渋り対策としての公的金融・保証が活用されており、特に信用保証額は平成十年十〜十二月期において急増した(第14図参照)。
 金融機関の貸出姿勢は、企業規模だけではなく、借り手企業の業況、資金需要等、様々な要因に依存する。これらの要因の影響度合いを比較すると、業況、資金需要の影響力が強く、これらが同じならば企業規模の影響は大きくない。
 なお、金融・資本市場一般の分析結果と同様、親会社の有無、企業年齢なども若干の影響を持っている。
 情報化は規模が小さい企業ほど遅れているが、業況による差異も大きく、中小企業の中でも増益企業はコンピュータの導入に積極的である。情報化に伴う流通経路の短縮化の効果は好影響との意見は、大企業よりは少ないものの中小企業でも多く、中小企業の中でもコンピュータ導入企業だけみると、好影響との見方が大企業とほぼ同水準となっている。
 中小企業の間でも西暦二〇〇〇年問題への対応には進展がみられるが、他方で未対応の企業も少なくない(第15図参照)。
 規制緩和に対する評価は総じて肯定的であり、前向きの対応を考えている企業が多い。特に、業況の良い企業ほど規制緩和への対応について前向きな姿勢を示している。


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月例経済報告(五月報告)


経済企画庁


概 観

 我が国経済
需要面をみると、個人消費は、収入が低迷しているため、低調に推移している。住宅建設は、持ち直してきている。設備投資は、大幅な減少が続いている。中小企業の減少が著しく、大企業も製造業を中心に減少傾向にある。公共投資は、補正予算などの効果が本格化し、堅調な動きとなっている。
 産業面をみると、鉱工業生産は、最終需要が低調なため低い水準にあるものの、下げ止まりつつある。一方、在庫の調整が進み、在庫率は前年を下回る水準にまで低下してきた。企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、厳しい状態にあるが改善の動きがみられる。企業倒産件数は、信用保証制度の拡充の効果などから前年の水準を大幅に下回ってきた。
 雇用情勢は、厳しさを増している。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加して、完全失業率はこれまでにない高さに上昇した。
 輸出は、おおむね横ばい状態となっている。輸入は、足踏み状態を続けてきたが、緩やかな増加の動きがみられる。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、四月はおおむね百十八円台から百二十一円台で推移した。
 物価の動向をみると、国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。また、消費者物価は、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、四月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、四月は低下した。株式相場は、四月は上昇した。マネーサプライ(M+CD)は、三月は前年同月比三・七%増となった。また、民間金融機関の貸出が低調なことから、企業は貸出態度に対する懸念を持っている。

 海外経済
主要国の経済動向をみると、アメリカでは、先行きにやや不透明感がみられるものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、九八年十〜十二月期前期比年率六・〇%増の後、一〜三月期は同四・五%増(暫定値)となった。個人消費、住宅投資、設備投資は増加している。鉱工業生産(総合)の伸びは鈍化している。雇用は拡大しているものの、製造業等では輸出減の影響もあり減少している。物価は安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、このところ拡大している。四月の長期金利(三十年物国債)は、上旬にやや低下する場面があったものの、全体としてはほぼ横ばいの推移となった。株価(ダウ平均)は、ほぼ一本調子で上昇した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気拡大のテンポは鈍化しており、フランスでは、景気拡大のテンポは緩やかになってきている。イギリスでは、景気は減速している。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは伸びが鈍化しており、イギリスでは製造業を中心に減少している。失業率は、ドイツでは、これまで低下してきたが、四月にはやや上昇した。フランスでは高水準ながらもやや低下しており、イギリスでは横ばいで推移している。物価は、安定している。
 東アジアをみると、中国では、景気は拡大しているが、輸出は減少傾向にある。物価は下落している。韓国では、景気は底入れしたとみられる。失業率は高水準ながらやや低下している。輸入は増加に転じている。
 国際金融市場の四月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、総じてほぼ横ばいで推移した。
 国際商品市況の四月の動きをみると、月初にやや弱含む場面がみられたが、その後は、一定のレンジ内で上下する展開となった。原油スポット価格(北海ブレント)は、上昇基調で推移し、月末にかけては騰勢を一段と強め、九七年十二月以来となる十六ドル/バレル台半ばの水準まで上昇した。

     *     *     *
 我が国経済の最近の動向をみると、個人消費は、収入が低迷しているため、低調に推移している。住宅建設は、持ち直してきている。設備投資は、大幅な減少が続いている。中小企業の減少が著しく、大企業も製造業を中心に減少傾向にある。公共投資は、補正予算などの効果が本格化し、堅調な動きとなっている。輸出は、おおむね横ばい状態となっている。
 生産は、最終需要が低調なため低い水準にあるものの、下げ止まりつつある。一方、在庫の調整が進み、在庫率は前年を下回る水準にまで低下してきた。
 雇用情勢は、厳しさを増している。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加して、完全失業率はこれまでにない高さに上昇した。
 民間金融機関の貸出が低調なことから、企業は貸出態度に対する懸念を持っているが、信用保証制度の拡充の効果などから、企業倒産は前年の水準を大幅に下回ってきた。一方、金融システム安定化策や金融緩和政策の効果が浸透し、一頃に比べて株価が持ち直すなど金融・資本市場も安定感を取り戻してきた。
 以上のように、景気は、民間需要が低調なため依然として極めて厳しい状況にあるが、各種の政策効果に下支えされて、下げ止まりつつある。
 このような厳しい経済状況の下、政府は、緊急経済対策の実施状況と今後の予定を取りまとめたところであり、今後とも、緊急経済対策を始めとする諸施策を強力に推進する。

1 国内需要
―個人消費は、収入が低迷しているため、低調に推移―

 個人消費は、収入が低迷しているため、低調に推移している。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で二月三・八%減の後、三月は一・九%減(前月比四・四%増)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比三・六%減、勤労者以外の世帯では同一・九%増となった。形態別にみると、財・サービス共に減少となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比一・三%減、勤労者世帯では同三・五%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で一月一・六%減となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で二月三・七%減の後、三月は四・三%減(前月比一・三%減)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で二月二・六%減の後、三月七・六%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で二月二・九%減の後、三月八・〇%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で四月は四・一%増となった。また、家電小売金額(日本電気大型店協会)は、前年同月比で三月は八・三%増となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、三月は前年同月比で国内旅行が一・七%減、海外旅行は三・二%増となった。
 当庁「消費動向調査」(三月調査)によると、消費者態度指数は、十二月に前期差二・〇ポイント上昇の後、三月には同三・三ポイントの上昇となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で二月〇・六%減の後、三月(速報)は〇・八%減(事業所規模三十人以上では同〇・一%減)となり、うち所定外給与は、三月(速報)は同二・一%減(事業所規模三十人以上では同二・〇%減)となった。実質賃金は、前年同月比で二月〇・六%減の後、三月(速報)は〇・四%減(事業所規模三十人以上では同〇・四%増)となった。
 住宅建設は、持ち直してきている。
 新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で二月三・二%増(前年同月比九・四%減)となった後、三月は八・八%増(前年同月比〇・〇%増)の十万八千戸(年率百三十万戸)となった。三月の着工床面積(季節調整値)は、前月比一二・三%増(前年同月比六・一%増)となった。三月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比一四・八%増(前年同月比一九・一%増)、貸家は同九・七%増(同一〇・二%減)、分譲住宅は同五・二%増(同八・四%減)となっている。
 設備投資は、大幅な減少が続いている。中小企業の減少が著しく、大企業も製造業を中心に減少傾向にある。
 当庁「法人企業動向調査」(三月調査)により設備投資の動向をみると、全産業の設備投資は、前期比で十年十〜十二月期(実績)〇・七%減(うち製造業一・〇%減、非製造業〇・三%減)の後、十一年一〜三月期(実績見込み)は九・〇%減(同八・九%減、同九・九%減)となっている。年度計画では、前年度比で十年度(実績見込み)六・二%減(うち製造業七・〇%減、非製造業五・八%減)の後、十一年度(計画)は一二・八%減(同一四・八%減、同一一・八%減)となっている。
 なお、十年十〜十二月の設備投資を、大蔵省「法人企業統計季報」(全産業)でみると前年同期比で一八・七%減(うち製造業一五・九%減、非製造業二〇・〇%減)となった。
 先行指標の動きをみると、当庁「機械受注統計調査」によれば、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前月比で一月は一・七%減(前年同期比二二・九%減)の後、二月は五・〇%増(同八・九%減)となり、基調は減少傾向となっている。
 民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、弱い動きが続いていたが、三月は前月比九・六%増(前年同月比一・二%増)となった。内訳をみると、製造業は前月比二六・〇%増(前年同月比二六・四%減)、非製造業は同六・〇%増(同八・二%増)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資は、補正予算などの効果が本格化し、堅調な動きとなっている。
 公共工事着工総工事費は、前年同月比で一月一三・九%増の後、二月は三三・五%増となった。公共工事請負金額は、前年同月比で二月三八・八%増の後、三月は八九・〇%増となった。官公庁からの建設工事受注額(五十社)は、前年同月比で二月二六・〇%増の後、三月は二七・七%増となった。

2 生産雇用
―厳しさを増している雇用情勢―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、生産・出荷は、最終需要が低調なため低い水準にあるものの、下げ止まりつつある。一方、在庫の調整が進み、在庫率は前年を下回る水準にまで低下してきた。
 鉱工業生産は、前月比で二月一・三%増の後、三月(速報)は、鉄鋼、パルプ・紙・紙加工品が減少したものの、電気機械、輸送機械等が増加したことから、二・二%増となった。また製造工業生産予測指数は、前月比で四月は輸送機械、電気機械等により三・二%減の後、五月は電気機械、輸送機械等により一・〇%増となっている。鉱工業出荷は、前月比で二月二・一%減の後、三月(速報)は、資本財、生産財等が増加したことから、二・九%増となった。鉱工業生産者製品在庫は、前月比で二月〇・三%増の後、三月(速報)は、窯業・土石製品、電気機械等が増加したものの、一般機械、石油・石炭製品等が減少したことから、〇・八%減となった。また、三月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数は一〇五・二と前月を四・九ポイント下回った。
 主な業種について最近の動きをみると、電気機械では、生産は三か月連続で増加し、在庫は三月は増加した。輸送機械では、生産は二か月連続で増加し、在庫は三月は横ばいとなった。鉄鋼では、生産は二か月連続で減少し、在庫は三月は減少した。
 雇用情勢は、厳しさを増している。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加して、完全失業率はこれまでにない高さに上昇した。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、二月〇・四九倍の後、三月〇・四九倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、二月〇・八八倍の後、三月〇・八八倍となった。雇用者数は、減少している。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、三月は前年同月比一・二%減(前年同月差六十二万人減)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、二月前年同月比〇・三%減(季節調整済前月比〇・〇%)の後、三月(速報)は同〇・一%減(同〇・一%増)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比〇・四%減)、産業別には製造業では同二・〇%減となった。三月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差十万人増の三百二十五万人、完全失業率(同)は、二月四・六%の後、三月四・八%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では二月前年同月比八・四%減(季節調整済前月比二・七%減)の後、三月(速報)は同五・四%減(同〇・四%増)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比六・二%減)。
 企業の動向をみると、企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、厳しい状態にあるが改善の動きがみられる。
 大企業の動向を前記「法人企業動向調査」(三月調査、季節調整値)でみると、十一年一〜三月期の売上高、経常利益の判断(ともに「増加」−「減少」)は、それぞれ、△一八、△二一と、いずれも「減少」が「増加」を上回った。また、十一年一〜三月期の企業経営者の景気判断(業界景気の判断、「上昇」−「下降」)は△二七と「下降」が「上昇」を上回った。
 また、中小企業の動向を中小企業金融公庫「中小企業動向調査」(三月調査、季節調整値)でみると、売上げD.I.(「増加」−「減少」)は、十一年一〜三月期は「減少」超幅が縮小し、純益率D.I.(「上昇」−「低下」)は、「低下」超幅が縮小した。業況判断D.I.(「好転」−「悪化」)は、十一年一〜三月期は「悪化」超幅が縮小した。
 企業倒産の状況をみると、件数は、信用保証制度の拡充の効果などから前年の水準を大幅に下回ってきた。
 銀行取引停止処分者件数は、三月は七百八十二件で前年同月比三九・二%減となった。業種別に件数の前年同月比をみると、製造業で四五・三%、建設業で四四・〇%の減少となった。

3 国際収支
―輸出は、おおむね横ばい状態―

 輸出は、おおむね横ばい状態となっている。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で二月八・六%減の後、三月は五・四%増(前年同月比一・〇%減)となった。この動きを品目別(金額ベース)にみると、電気機器、一般機械等が増加した。同じく地域別にみると、アジア、アメリカ等が増加した。
 輸入は、足踏み状態を続けてきたが、緩やかな増加の動きがみられる。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で一月四・三%増、航空機輸入等の特殊要因もあって二月八・二%増の後、三月四・七%減(前年同月比四・一%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、製品類(機械機器等)が増加した。同じく地域別にみると、アメリカ、アジア等が増加した。
 通関収支差(季節調整値)は、二月に八千五百八十億円の黒字の後、三月は一兆一千三十二億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。
 二月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、サービス収支の赤字幅が縮小したものの、貿易収支の黒字幅が縮小したため、その黒字幅は縮小し、六千百三十億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、所得収支の黒字幅が拡大し、経常移転収支の赤字幅が縮小したものの、貿易・サービス収支の黒字幅が縮小したため、その黒字幅は縮小し、一兆一千百九十八億円となった。投資収支(原数値)は、八千百八十九億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、九千百九十二億円の赤字となった。
 四月末の外貨準備高は、前月比五億ドル増加して二千二百三十一億ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、四月はおおむね百十八円台から百二十一円台で推移した。一方、対ユーロ円相場(インターバンク十七時時点)は、四月は月初の百二十七円台から百三十円台に下落したが、その後上昇し、月央から下旬にかけて百二十五円台から百二十七円台で推移した。

4 物 価
―国内卸売物価は、弱含みで推移―

 国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。
 四月の国内卸売物価は、石油・石炭製品(燃料油)等が上昇したものの、電力・都市ガス・水道(大口電力)等が下落したことから、前月比〇・三%の下落(前年同月比一・九%の下落)となった。輸出物価は、契約通貨ベースで上昇したことから、円ベースでは前月比〇・一%の上昇(前年同月比八・三%の下落)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで上昇したことから、円ベースでは前月比〇・九%の上昇(前年同月比九・九%の下落)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比〇・一%の下落(前年同月比三・五%の下落)となった。
 企業向けサービス価格は、三月は前年同月比一・一%の下落(前月比〇・二%の上昇)となった。
 商品市況(月末対比)は化学等は下落したものの、非鉄等の上昇により四月は上昇した。四月の動きを品目別にみると、純ベンゼン等は下落したものの、銅地金等が上昇した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で二月〇・一%の下落の後、三月は外食の上昇幅の拡大等の一方、一般生鮮商品の上昇幅の縮小等により〇・一%の下落(前月比〇・三%の上昇)となった。なお、総合は、前年同月比で二月〇・一%の下落の後、三月は〇・四%の下落(前月比〇・一%の上昇)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で三月〇・二%の下落の後、四月(中旬速報値)は、持家の帰属家賃が下落から上昇に転じたこと等の一方、個人サービスが上昇から下落に転じたこと等により〇・二%の下落(前月比〇・三%の上昇)となった。なお、総合は、前年同月比で三月〇・四%の下落の後、四月(中旬速報値)は〇・二%の下落(前月比〇・四%の上昇)となった。

5 金融財政
―長期金利は低下―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、四月はおおむね横ばいで推移した。長期金利は、四月は低下した。株式相場は、四月は上昇した。マネーサプライ(M+CD)は、三月は前年同月比三・七%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレート、二、三か月物ともに、四月はおおむね横ばいで推移した。
 公社債市場をみると、国債流通利回りは、四月は低下した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、二月は短期は〇・〇四九%ポイント低下し、長期は〇・一五四%ポイント低下したことから、総合では前月比で〇・〇六七%ポイント低下し一・八一〇%となった。
 マネーサプライをみると、M+CD(月中平均残高)は、三月(速報)は前年同月比三・七%増となった。また、広義流動性は、三月(速報)は同三・七%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関(全国銀行)の貸出(月中平均残高)は、三月(速報)は前年同月比三・八%減(貸出債権流動化・償却要因等調整後一・〇%減)となった。四月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債がゼロとなった。また、国内公募事業債の起債実績は八千四十五億円となった。
 また、民間金融機関の貸出が低調なことから、企業は貸出態度に対する懸念を持っている。
 株式市場をみると、日経平均株価は、四月は上昇した。

6 海外経済
―原油価格、急上昇続く―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、先行きにやや不透明感がみられるものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、九八年十〜十二月期前期比年率六・〇%増の後、一〜三月期は同四・五%増(暫定値)となった。個人消費、住宅投資、設備投資は増加している。鉱工業生産(総合)の伸びは鈍化している。雇用は拡大しているものの、製造業等では輸出減の影響もあり減少している。雇用者数(非農業事業所)は三月前月差〇・七万人増の後、四月は同二十三・四万人増となった。失業率は四月四・三%となった。物価は安定している。三月の消費者物価は前年同月比一・七%の上昇、生産者物価(完成財総合)は同〇・八%の上昇となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、このところ拡大している。四月の長期金利(三十年物国債)は、上旬にやや低下する場面があったものの、全体としてはほぼ横ばいの推移となった。株価(ダウ平均)は、ほぼ一本調子で上昇した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気拡大のテンポは鈍化しており、フランスでは、景気拡大のテンポは緩やかになってきている。イギリスでは、景気は減速している。実質GDPは、ドイツ九八年十〜十二月期前期比年率〇・六%減、フランス同二・九%増(速報値)、イギリス一〜三月期同〇・四%増(速報値)となった。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは伸びが鈍化しており、イギリスでは製造業を中心に減少している(鉱工業生産は、ドイツ二月前月比三・三%減、フランス同〇・六%減、イギリス三月同〇・二%増)。失業率は、ドイツでは、これまで低下してきたが、四月にはやや上昇した。フランスでは高水準ながらもやや低下しており、イギリスでは横ばいで推移している(失業率は、ドイツ四月一〇・六%、フランス三月一一・五%、イギリス四・六%)。物価は、安定している(消費者物価上昇率は、ドイツ四月前年同月比〇・七%、フランス三月同〇・四%、イギリス同二・一%)。
 東アジアをみると、中国では、景気は拡大しているが、輸出は減少傾向にある。物価は下落している。韓国では、景気は底入れしたとみられる。失業率は高水準ながらやや低下している。輸入は増加に転じている。
 国際金融市場の四月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、総じてほぼ横ばいで推移した(モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)四月三十日現在一〇九・二、三月末比〇・四%の増価)。内訳をみると、四月三十日現在、対円では三月末比〇・四%増価、対ユーロでは同一・八%増価した。
 国際商品市況の四月の動きをみると、月初にやや弱含む場面がみられたが、その後は、一定のレンジ内で上下する展開となった。原油スポット価格(北海ブレント)は、上昇基調で推移し、月末にかけては騰勢を一段と強め、九七年十二月以来となる十六ドル/バレル台半ばの水準まで上昇した。





    <6月9日号の主な予定>

 ▽漁業白書のあらまし………水 産 庁 

 ▽家計収支(一月分)………総 務 庁 




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