官報資料版 平成11年8月25日




                  ▽交通安全白書のあらまし………総 務 庁











交通安全白書のあらまし


―交通事故の状況及び交通安全施策の現況―


総 務 庁


 交通安全対策基本法(昭四十五法一一〇)第十三条の規定に基づき、政府が国会に報告する「交通事故の状況及び交通安全施策の現況等に関する年次報告」(平成十一年版交通安全白書)が、六月四日の閣議決定を経て、第百四十五回国会に提出された。
 今回の白書は、昭和四十六年に第一回の報告がなされて以来二十九回目のものであり、その構成は次のとおりとなっている。
 本冊の「平成十年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況」では、陸上(道路及び鉄軌道)、海上及び航空の各交通分野ごとに、近年の交通事故の状況と、平成十年度中の交通安全施策の実施状況をまとめて記述している。中でも、道路交通においては、事故件数及び死傷者数が引き続き増加する中で、死者数が近年減少傾向で推移していることを踏まえて、その要因を分析した上で、今後の課題・問題点等について明らかにするため、「最近の道路交通事故死者数の減少傾向の要因分析」、「第六次交通安全基本計画の目標達成に向けて」として重点的に記述している。
 分冊の「平成十一年度において実施すべき交通安全施策に関する計画」では、陸上(道路及び鉄軌道)、海上及び航空の各交通分野ごとに、平成十一年度の交通安全施策の実施計画について記述している。
 本冊の概要は次のとおりである。

<第1編> 陸上交通

<第1部> 道路交通

<第1章> 道路交通事故の動向

 道路交通事故の長期的推移

 戦後、昭和二十年代後半から四十年代半ばごろまでは、モータリゼーションの急速な進展に対して交通安全施設が不足していたこと等により、道路交通事故死傷者数が著しく増大しており、二十六年から四十四年までに死者数で四千四百二十九人から一万六千二百五十七人へ、負傷者数で三万一千二百七十四人から九十六万七千人へと増加している。
 このため、交通安全の確保は焦眉の社会問題となり、その後、昭和四十五年に交通安全対策基本法が制定され、第一次交通安全基本計画(四十六年度〜五十年度)が策定されるなど、国を挙げての交通安全対策が進められた。
 同計画においては、特に歩行者対策を優先的に講じ、五十年における歩行中の交通事故死者数を同年の予測値約八千人の半数にすることを目標とした。その結果、五十年には目標を下回る三千七百三十二人にまで減少させることができた。
 第二次交通安全基本計画(五十一年度〜五十五年度)においては、年間交通事故死者数について、最悪の状況であった四十五年の一万六千七百六十五人を、昭和五十五年までに半減させることを目標とした。その結果、交通事故死者数を五十四年は八千四百六十六人、五十五年は八千七百六十人に抑え、同計画の目標をほぼ達成することができた。負傷者数についても、四十五年から五十四年までの間に、九十八万一千九十六人から五十九万六千二百八十二人に減少させることができた。
 しかし、その後、交通事故死者数は増勢に転じ、昭和五十七年には九千人を、六十三年には一万人を突破するという状況に至り、第三次(五十六年度〜六十年度)・第四次(六十一年度〜平成二年度)及び第五次(三年度〜七年度)の交通安全基本計画の目標を達成することはできなかった。
 このような状況において策定された第六次交通安全基本計画(八年度〜十二年度)においては、交通事故の実態に対応した、適切かつ効果的な交通安全対策を積極的に推進することにより、年間の交通事故死者数を平成九年までに一万人以下とし、さらに、十二年までに九千人以下とすることを目標としている。
 その結果、交通事故負傷者数が、車両保有台数、運転免許保有者数及び自動車走行キロ数の増加に伴って増加を続け、十年には九十九万六百七十五人と、史上最悪の記録を更新するという厳しい状況の中で、交通事故死者数については、八年には一万人を下回り、十年には九千二百十一人にまで減少させることができた(第1図参照)。
 交通事故死者数を人口十万人当たりでみると、昭和四十五年までは年とともに増加し、同年には十六・二人となったが、四十六年以降減少に転じ、五十四年には七・三人にまで減少した。その後、若干の増減を繰り返し、平成十年には七・三人となっている。また、自動車一万台当たりの交通事故死者数及び自動車一億走行キロ当たりの交通事故死者数については、昭和五十年代半ばまで順調に減少してきたが、その後は漸減傾向が続いている(第2図参照)。

 平成十年中の道路交通事故の状況

1 概 況
 平成十年の交通事故(人身事故に限る。以下同じ。)の発生件数は八十万三千八百七十八件で、これによる死者数は九千二百十一人、負傷者数は九十九万六百七十五人であった。前年と比べると、死者数は四百二十九人(四・五%)減少したが、発生件数は二万三千四百七十九件(三・〇%)、負傷者数は三万一千七百五十人(三・三%)と、いずれも増加した。
 このように、交通事故による死者数は、三年連続して一万人を下回ったものの、発生件数は六年連続で最悪の記録を更新し、負傷者数も二十八年ぶりに過去最悪を更新するなど、依然厳しい状況にある。

2 道路交通死亡事故等の特徴
 平成十年の交通事故死者数は、前年に比較して、自動二輪車乗車中を除くすべての状態で減少したが、特に、若者(十六〜二十四歳)の自動車乗車中の死者数の減少が著しい。

(1) 年齢層別交通事故死者数及び負傷者数
@ 年齢層別死者数では、十六〜二十四歳の若者(一千七百九十人)及び六十五歳以上の高齢者(三千百七十四人)が多く、この二つの年齢層で全交通事故死者数の五三・九%を占めている。前年と比べると、十五歳以下(二十六人増)、三十〜三十九歳(二十五人増)、六十五歳以上(二十二人増)を除き減少しており、十六〜二十四歳(二百三十六人減)、六十〜六十四歳(百三十三人減)、そして五十〜五十九歳(六十一人減)が大きく減少している(第3図参照)。
A 年齢層別負傷者数では、十六〜二十四歳の若者(二十四万三千九十人)が最も多く、全負傷者数の二四・五%を占めている。前年と比べて大きく増加したのは、三十〜三十九歳(一万一千三百七十九人増)、五十〜五十九歳(九千百十五人増)、二十五〜二十九歳(七千四百九十六人増)、そして六十五歳以上の高齢者(四千五百七十四人増)である(第4図参照)。

(2) 状態別交通事故死者数及び負傷者数
@ 状態別死者数においては、自動車乗車中が最も多く、全死者数の四三・一%を占めている。前年と比べると、自動二輪車乗車中(二十七人増)を除くすべての状態で減少しており、特に、自動車乗車中(二百七十九人減)が大幅に減少している(第5図参照)。
A 状態別負傷者数においても、自動車乗車中が最も多く、全負傷者数の六一・〇%を占めている。前年と比べると、自動二輪車乗車中(一千九百人減)と歩行中(一千百八人減)を除いた状態で増加しており、特に自動車乗車中(三万一千七百五十四人増)が大きく増加している(第6図参照)。

(3) 若者及び高齢者の状態別交通事故死者数
@ 若者(十六歳〜二十四歳)
  自動車乗車中については、平成四年以降、減少傾向にあり、七年はいったん増加したが、その後三年連続して減少した。
  自動二輪車乗車中については、平成元年以降、減少傾向にあり、六年にいったん増加したが、その後は四年連続して減少した(第7図参照)。
A 高齢者(六十五歳以上)
  高齢運転者の増加を背景に、自動車乗車中が増加を続け、平成十年には、四年連続して自転車乗用中を上回り、歩行中に次ぐ多さとなった。
  最も多い歩行中は、平成七年に最多となっていたが、八年、九年と連続して減少したものの十年にはわずかながら増加した(第8図参照)。

(4) 自動車乗車中死傷者のシートベルト着用者率の推移
 自動車乗車中の死傷者について着用者率(死傷者に占めるシートベルトを着用していた者の割合)をみると、平成五年以降上昇している。着用者の致死率(交通事故死傷者数に占める死者数の割合)は、非着用者の致死率の約八分の一程度であり、シートベルト着用者率の向上が、自動車乗車中の交通事故死者の減少に結びついている(第9図参照)。

<第2章> 最近の道路交通事故死者数の減少傾向の要因分析

(1) 分析の概要
 最近の交通事故死者数は、平成五年以降減少傾向を示しており(ただし、七年にはいったん増加)、その減少要因を明らかにすることは、これまで死亡事故の減少に有効であったと考えられる対策を更に強力に進めるとともに、その他の対策についても、その在り方を検討しつつ、総合的な対策を講じていくために極めて重要である。
 交通事故の発生と被害の態様は千差万別であり、また、多数の要因が複合的に作用し合うことから、最近の死亡事故の減少要因について、十分な解明と簡明な説明を行うことは困難であることを前提にしつつも、以下の観点に立って、可能な限り要因の分析を行うことを試みた。
@ 長期間の経年のデータを基に分析した。
A 長期間の推移をみる場合には、人口動態の影響を無視できないため、年齢層別人口当たりの死者数、死亡事故件数等にも留意して、年齢層別に交通事故発生状況の変化を分析した。
B 第一当事者が自動車等に乗車中の死亡事故件数の推移を、第一当事者の年齢、車種、法令違反及び通行目的に着目し、さらにこれらの各要素を多重に組み合わせることにより分析し、事故の特徴を可能な限り多面的な視点から見いだすことを試みた。
C 近年の景気の低迷が、交通事故死者数の減少に影響を与えているのではないかとの見方があることを踏まえて、経済変動に関わる指標と交通事故件数との対比等により、その検証を試みた。

(2) 交通事故の発生状況についての分析結果
@ 年齢層別人口当たり(または年齢層別免許人口当たり)でみると、すべての年齢層について、近年、交通事故死者数(または死亡事故件数)の減少傾向がみられた。
  また、事故の発生状況を事故の状態別(交通事故により死亡又は負傷した人が自動車乗車中、自動二輪車乗車中、原動機付自転車乗車中、自転車乗用中又は歩行中のいずれの状態であったかの別)、事故類型別、法令違反別及び通行目的別によりみると、主なケースは三十九となるが、そのうちの三十三が次のア又はイに該当した。
 ア 交通事故死傷者数(又は人身事故件数)が増加傾向(又はほぼ横ばい)で推移する中、交通事故死者数(又は死亡事故件数)は近年減少している場合(十八ケース)
 イ 交通事故死傷者数(又は人身事故件数)及び交通事故死者数(又は死亡事故件数)のいずれもが近年減少している場合(十五ケース)
   しかも、イについては、死傷者数(又は人身事故件数)の減少率より死者数(又は死亡事故件数)の減少率の方が大きい場合が多く(十五ケースのうち十三ケース)、それらの多くは大きな被害をもたらす危険性の高い事故であった(十三ケースのうち十ケース)。
   さらに、これらの死者数(又は死亡事故件数)の減少傾向の始期をみると、時期(年)のずれはあるものの、ほとんどの場合、平成に入ってからのここ十年の間となっている。

(3) 若者の事故の動向
 若者が自動車等に乗車中に第一当事者となった死亡・重傷事故件数及び死亡事故件数が近年大きく減少しているのは、そもそも若者の免許人口が減少していることもあるが、自動二輪車乗車中の事故と、自動車でドライブ中の事故及び最高速度違反による事故が大きく減少していることによる(第10図参照)。
 さらに、これらの事故を除いた他の若者の事故について、免許人口当たりの死亡事故件数の推移及び死亡事故件数が人身事故件数に占める割合(死亡事故率)の推移をみても、近年、他の年齢層と同程度に減少・低下していることが分かる。
 なお、自動車でドライブ中の事故及び最高速度違反による事故が減少していることについては、若者の置かれている経済状況の変化に影響を受けていることをうかがわせるデータがみられた(十五歳から二十四歳までの年齢層の失業率の推移と、若者のドライブ中の最高速度違反による死亡・重傷事故の免許人口当たり件数の推移との間には、高い負の相関関係がみられた。)。

(4) 景気の影響の分析結果
 自家用乗用車及び貨物車(自家用及び事業用)の事故の件数の変動が、景気の影響を受けていることを示すデータは見いだせなかった。
@ 自家用乗用車については、買い物途中又は訪問途中の事故という、日常生活の中で発生する事故の増加にみられるように、自家用乗用車の利用が日常の生活の中で不可欠なものとなってきているため、景気の変動の影響を大きく受けていないと考えられる。
A 貨物車については、自家用貨物車、事業用貨物車のいずれについても、走行キロ当たり及び保有台数当たりでみた人身事故件数及び死亡事故件数が、ともに昭和五十五年以降、長期的に減少傾向をたどっていることによるものと考えられる。しかしながら、自家用貨物車と事業用貨物車のいずれの場合も、走行キロ当たり事故件数及び保有台数当たり事故件数の減少傾向は、平成四年を底として、それ以降は微増又は横ばいに転じており、この横ばい傾向が続くのであれば、今後は貨物車の事故件数も、経済の変動にある程度連動していく可能性があるものと考えられる(第11図参照)。

(5) 交通安全対策の効果
 交通事故の発生状況を多面的にみても、ほとんどの場合に、交通事故死者数及び死亡事故件数の減少傾向について同様の特徴が見いだされることから、仮に、ライフスタイルの変化等の社会的要因の影響があるとしても、それですべてを説明できるものではないと考えられる。
 したがって、交通事故そのものを抑止する対策の効果は十分な成果を上げているとは言えないにしても、大きな被害をもたらす危険性の高い事故を未然に防止する対策(大事故未然防止対策)と、事故の発生により被害が生じたとしても、その被害の程度を最小限にとどめるための対策(被害軽減対策)については、これらがあいまって効を奏して、近年の交通事故死者数の減少に寄与したのではないかと考えられる。
 すなわち、質及び量において充実・強化が図られてきているか、あるいは新たに講じられ、以後継続又は存続している以下の諸対策の効果が、それぞれの現出する時期は異なるとしても、十年ほど以前から、全ての年齢層にわたって(注)徐々に効果が現われはじめ、それらの複合的な効果が、平成五年以降の全国的な交通事故死者数の減少傾向という形に現れたのではないかと考えられる。
 (注) 高齢者の交通事故死者数は、近年では平成八年に減少したほかは、ほぼ一貫して増加傾向にある。しかし、人口当たりで高齢者の事故の発生状況をみると、他の年齢層とほぼ同様に近年は減少していることから、近年の高齢者の交通事故死者数の増加の要因は、もっぱら高齢者人口の増加にあると考えられる。
@ シートベルトの着用者率の向上
  平成四年に、関係省庁と関係民間団体で構成するシートベルト着用推進協議会を設置し、普及啓発活動を強力に進めるとともに、ステップ方式(広報啓発活動と指導取締を効果的に組み合わせ、繰り返し実施する方法)による着用促進運動を推進した。これに伴い、シートベルトの着用者率(自動車乗車中の死傷者のうち、シートベルトを着用していた者の割合)は上昇し、四年に六四・〇%であった着用者率が、十年には七九・七%まで上昇した。
A 交通安全施設等の整備、事故多発地点対策事業等
 ア 歩道、信号機等の交通安全施設等は、交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法(昭四十一法四五)に基づいて策定される長期計画に沿って計画的に整備拡充が図られており、平成十年における歩道、道路照明、信号機及び横断歩道の整備状況は、昭和五十五年と比較すると、それぞれ一・七倍、二・二倍、一・七倍及び一・八倍となっている。
 イ 幹線道路における事故が、特定の区間に集中していることにかんがみ、事故多発地点及びその周辺地域について、事故発生要因を分析し、これに応じた事故削減策を集中的に実施している。
   (財)交通事故総合分析センターが保存している交通事故統合データベース(道路交通データと交通事故データを統合したもの)を活用して、統計的かつ科学的な分析手法により、幹線道路における事故多発地点三千百九十六箇所(交差点部一千七百十三箇所、単路部一千四百八十三箇所)を全国一律の基準により抽出した。平成八年度から、都道府県公安委員会と道路管理者からなる事故多発地点対策推進協議会等において、当該地点の事故の発生要因を分析し、これに応じた交差点改良・道路照明・信号機の設置、交通規制の見直し等の事故削減策を集中的に実施している。
 ウ コミュニティ・ゾーン形成事業として、市街地の住居・商業系地区への通過交通の進入を抑え、暮らしの安全を確保するため、地域の人々の参加の下に策定される計画に基づき、都道府県公安委員会によるゾーン規制等の交通規制等と、道路管理者によるコミュニティ道路や歩車共存道路等の面的整備を組み合わせたコミュニティ・ゾーンの形成を推進している。
 エ 地域が一体となった取組を通じて交通の安全を確保するため、都道府県公安委員会と道路管理者とが連携し、地域の人々や道路利用者の主体的な参加の下に、交通安全総点検を推進し、その結果を道路交通環境の改善に反映している。
B 車両の安全性能の向上
 ア 道路運送車両の保安基準の強化は、車両の安全性能の向上を図るための対策の一つである。昭和五十五年以降に講じられた主な保安基準の改正の中で、死亡事故のうち近年減少傾向にある車両相互事故、車両単独事故等の被害軽減に寄与していると考えられるものは、衝突時の燃料漏れ防止規制の強化、シートベルトの性能向上と設置対象の拡大、フロントガラスの合わせガラス化、貨物車への大型後部突入防止装置の導入、乗用車等への前面衝突基準等の導入等がある。また、それらの事故の未然防止に寄与していると考えられるものとしては、ABSの一部大型車への備え付け、大型貨物車への大型後部反射器の備え付け、乗用車の高速ブレーキ基準の導入等がある。
 イ 平成七年度から、自動車ユーザー等に対して、乗用車の衝突安全性能等の比較試験結果及び安全装置の正しい使い方等の自動車安全情報の提供を行っており、これにより、技術開発が促進されるとともに、より安全な自動車が普及しつつある。
C 初心運転者対策の推進
  平成元年の道路交通法改正により、普通免許等を取得してから一年未満の初心運転者が、道路交通法規に違反する行為をし、一定の基準に該当することとなった場合には、初心運転者講習の受講の機会を与えるとともに、受講しなかった者に対しては、再試験を行うこととした(初心運転者講習は、少人数のグループを編成して行われ、路上訓練や運転シミュレーターを活用した危険の予測や回避の訓練を取り入れるなど、実践的な内容としている。)。
D 悪質・危険性の高い交通違反の取締りの強化
  交通秩序を維持することを通して交通事故の抑止を図るため、白バイ、パトカー、制服警察官による街頭活動を強化し、特に、交通事故が多発している幹線道路、交差点を重点に流動警ら、駐留警戒を実施して、死亡・重傷事故に直結する飲酒運転、無免許運転、著しい速度超過、信号無視、一時不停止、歩行者妨害等の悪質・危険な違反に重点を置いた交通違反取締り、指導・警告活動等を強力に推進した。
E 救助・救急医療体制の進展
 ア 重症及び複数の診療科領域にわたるすべての重篤な救急患者に対し、高度な救急医療を総合的に二十四時間体制で提供できることが要件となっている救命救急センターは、平成十年度末現在で百四十二か所整備されている。昭和六十三年度末と比較すると、四十一か所増加しており、各地域における第三次救急医療の向上が図られている。
 イ 平成三年に救急救命士法が制定・施行され、四年四月に第一回国家試験が施行された。救急救命士は医師の指示の下に、診察の補助として救急救命処置を行うことができる医療関係資格である。第一回の国家試験以来、毎年約二千人の救急救命士が誕生し、十年末現在の救急救命士免許取得者は一万五千三百一人である。また、消防機関に所属する救急隊員のうち、救急救命士の資格を有する者は十年七月一日現在で、六千九百二十人である。

<第3章> 第六次交通安全基本計画の目標達成に向けて

 今後とも交通事故死者数の減少が続くと予測することについては、以下の@からDに示すように問題・課題があるといえる。これらも踏まえて着実に努力を重ねていくことにより、依然増加傾向を示している人身事故件数そのものに歯止めを掛け、特に死亡事故の防止には格段の意を注ぐことによって、今後とも交通事故死者数の減少傾向を維持し、その結果として、「第六次交通安全基本計画」に掲げられている、平成十二年までに死者数を九千人以下とするという目標を達成する必要がある。
@ 今後の高齢者免許保有人口の増加率は、高齢者の人口増加率を上回ることが見込まれる。このため、少なくとも短期的には、近年急速に増えている男性高齢ドライバーが、自動車乗車中に第一当事者となる事故が引き続き増加傾向を示すだけでなく、現時点では男性高齢ドライバーの事故の約一割程度である女性高齢ドライバーが、自動車乗車中に第一当事者となる事故も急速に増加する可能性がある。さらに、高齢ドライバーが自動車乗車中に第一当事者になる事故は、他の年齢層のドライバーが第一当事者になる事故と比較して、その死亡事故率(人身事故件数に占める死亡事故件数の割合)が高いことから、今後高齢ドライバーによる死亡事故が急増することも考えられる。
A 安全運転義務違反による事故件数は、人身事故件数、死亡・重傷事故件数、死亡事故件数のいずれについても増加傾向を示している。これらを年齢層別の免許人口当たりでみても、年齢層によって差異はみられないことと、免許保有者数が全体としては依然として増加傾向にあることに照らせば、今後、安全運転義務違反が原因となる人身事故件数が増加し、ひいては死亡事故件数の増加につながることが危惧される。また、近年、携帯電話及びカーナビゲーションシステムが急速に普及しており、これが前方不注意などによる事故を増加させる要因となる可能性もある。
B 最高速度違反による事故や正面衝突事故はいったん事故が発生すれば被害が甚大になる危険性の高いものであり、車両の安全性の向上をもって被害の軽減が図られることには限界があると考えられる。したがって、このような事故を未然に防止するため、道路環境の整備、安全運転教育等の対策を一層充実・強化することが必要である。また、車両の安全性の向上が図られてきているとしても、安全性向上のPRがかえって危険な運転を助長し、重大事故の遠因とならないよう、車両の性能限界についての認識を深めさせる取組に一層の努力が必要である。
C 今後、経済状況の好転が死亡事故件数の増加に影響を与える可能性も否定しきれないと考えられる。
D 都道府県別に個別に死者数の推移をみると、全国の死者数が減少してきた傾向と必ずしも同じではない。このように都道府県ごとに地域差があるのは、それぞれの地域の人口構成、交通関係基盤施設の整備状況、住民の社会生活・交通行動、交通安全対策への取組等の違いや、複数人の死亡をもたらす大事故の突発的な発生等によるものと考えられる。したがって、各地域において、交通安全対策を進めていく上では、全国の交通事故状況と照らして、各地域の実態を十分に踏まえていくことが重要であると考えられる。

<第4章> 平成十年度の主な施策等

 第六次交通安全基本計画(計画期間:平成八年度〜十二年度)に基づいて、特に以下の重点施策等を推進した。

(1) 交通安全施設等の重点的整備
 平成十年度は、交通安全施設等整備事業七箇年計画の第三年度として、次のような事業を実施した。
@ 歩行者等の事故防止のために、平坦性と快適な通行空間を十分確保した幅の広い歩道整備、住居系地区等において、ゾーン規制等の交通規制とコミュニティ道路等の面的整備を適切に組み合わせて行うコミュニティ・ゾーンの形成を図るほか、信号機の弱者感応化、歩行者感応化等の高性能化、道路照明灯、道路標識等を整備した。
A 通学路における事故防止のために、歩道等の整備を始め、信号機、立体横断施設、道路標識等を整備した。
B 幹線道路における事故が特定の区間に集中していることにかんがみ、事故多発地点について、事故の要因を分析し、これに応じた交差点改良、道路照明・信号機の設置、交通規制の見直し等の事故削減策を実施した。
C 車両の事故防止のために、交通の流れが円滑化されるよう、信号機の高度化改良、交差点等の改良や付加車線、中央帯、防護柵、道路反射鏡、対向車接近表示装置等を整備するとともに、夜間の事故防止のために、道路照明灯、高速走行抑止システム等を整備した。
D 新交通管理システム(UTMS)としての中央装置や交通情報提供装置を整備するなど、交通管制システム機能を充実・高度化した。

(2) 高度情報通信技術等を活用した道路交通システムの整備
 平成八年に関係五省庁が策定した「高度道路交通システム(ITS)推進に関する全体構想」に基づき、道路交通情報通信システム(VICS)のサービスの全国展開に向けた整備を推進するとともに、新交通管理システム(UTMS)構想に基づく公共車両優先システム(PTPS)の施行、ノンストップ自動料金収受システム(ETC)の実用化に向けて、東京湾アクアラインにおいて交通運用に関する試験運用を行った。

(3) 交通需要マネジメント施策等の推進
 「第三次渋滞対策プログラム」(平成十年度〜十四年度)において、交通容量の拡大策等と併せて、パーク・アンド・ライド、相乗り、フレックスタイムなど道路の利用の仕方に工夫を求め、輸送効率の向上や交通量の時間的・空間的平準化を図る「交通需要マネジメント(TDM)施策」を総合的に推進している。この施策を実施するための具体的取組として、全国十三都市を総合渋滞対策支援モデル事業実施都市として、施策の導入に向けた試行等への支援を行うとともに、試行結果の紹介や研修等を通じて、交通需要マネジメント施策の全国への普及・啓発を図っている。
 また、都市交通の円滑化、都市の快適・利便性等に資するため、交通容量の拡大等、TDM施策、マルチモーダル施策を組み合わせて実施する都市圏交通円滑化総合計画について、全国数都市圏において新たに策定・実施するための取組を支援している。
 さらに、人、まち、環境にやさしいバスを中心とした、安全で快適なまちづくりを目指すオムニバスタウン構想に基づいて、金沢市及び松江市をオムニバスタウンとして指定した。

(4) 交通安全教育指針の作成・公表
 道路交通法の一部改正により、公安委員会が住民に対する交通安全教育を行うよう努めなければならないと規定され、その交通安全教育を効果的かつ適切に行うための「交通安全教育指針」が作成され、公表された。

(5) 高齢者に対する交通安全教育等の推進
 高齢者の交通安全意識の向上を図っていくため、参加・体験・実践型の交通安全教育として「高齢者交通安全実践促進事業」を実施している。
 また、このような交通安全教育の推進役・指導者を育成するため、全国の市区町村の担当職員に対し、高齢者交通安全実践指導者養成ブロック研修を開催した。

(6) 高齢運転者対策の充実
 道路交通法の一部改正により、七十五歳以上の免許更新者は、実際の運転及び運転適性検査等を内容とする高齢者講習を受講することとした。
 また、七十五歳以上の者が運転する普通自動車が、高齢運転者標識をつけているときは、他の車両が幅寄せをしたり、割り込みをしたりすることが禁止された。

(7) シートベルト等着用の徹底
 シートベルト及びチャイルドシートの着用等の徹底を図るため、普及啓発活動や各種広報媒体を通じた積極的な広報活動を実施するとともに、教育・広報等と取締りを組み合わせたステップ方式による効果的な着用推進対策を実施した。
 また、国民の間にチャイルドシートの必要性についての理解が深まりつつあり、チャイルドシートも相当程度普及していることが判明したことから、チャイルドシートの使用義務化のための道路交通法の改正に着手した。

(8) 自動車運転中の携帯電話使用に関する広報啓発
 自動車運転中の携帯電話の使用による交通事故については、事故実態調査を踏まえ、「交通の方法に関する教則」により、運転中は携帯電話を使用しないこと、運転する前に電源を切るなどすることについて、運転者に対し指導・啓発を行った。
 また、「移動電話委員会」が設置され、全国の事業者が共同で、全国紙への共同広告、マナーブックの配布等のキャンペーンの実施及び利用マナーに関する意識調査の実施等、移動電話使用に関するマナーの啓発を行った。

(9) 交通安全総点検の実施
 交通安全は、人、道、車の調和を図ることによって確保されるものであり、利用する人の視点に立ってとらえるべき課題であることから、良好な道路交通環境をつくりあげるために、地域の人々や道路利用者の主体的な参加のもとに、「交通安全総点検」を全国四百五十二地区で実施した。

(10) 先進安全自動車(ASV)の開発支援・走行支援道路システム(AHS)の開発
 統合システムを搭載したASVを二十一世紀初頭において実用化することを目指して、ASV推進検討会を中心に研究開発を推進した。
 また、道路と車の協調により、ドライバーへの危険警告や運転補助を行うAHSについて、平成十二年度の実証実験、十四年度を目途とした一部技術の実用化を目標に研究開発を推進した。

<第2部> 鉄軌道交通

(1) 鉄軌道交通事故の動向
 踏切事故防止対策の推進、各種の運転保安設備の整備の充実、制御装置の改善、乗務員等の資質の向上など、総合的な安全対策を実施してきた結果、運転事故は、長期にわたり減少傾向が続いている。平成十年の運転事故件数は九百四十九件、運転事故による死者数は三百四十四人であった(第12図参照)。
 踏切事故(四百八十七件)は運転事故の過半数を占めているが、長期的には減少傾向にある。
 事故の類型別の発生件数では、踏切障害(五〇・七%)、人身障害(三七・一%)、道路障害(八・二%)と続いている。

(2) 鉄軌道交通事故に対する主な交通安全対策
@ 踏切事故防止対策
 ア 第六次踏切事故防止総合対策に基づいて、踏切道の立体交差化、構造改良及び保安設備等の整備を促進した。また、踏切道の統廃合についても併せて実施している。
 イ 自動車運転者や歩行者に対し、安全意識の向上等を図るための広報活動等を一層強化している。
A その他の交通安全対策
 ア 線路施設、信号保安設備等の整備を促進するとともに、乗務員の教育訓練の充実、基本動作の徹底、厳正な服務、確実な運転取扱い、適正な運行管理の徹底、自動列車停止装置(ATS)及び列車集中制御装置(CTC)の設置・改良等に関して所要の指導を行っている。
 イ 既存の鉄道構造物の耐震補強として、新幹線及び輸送量の多い線区で高架橋・橋台及び開削トンネルの中柱及び橋梁について実施し、九年度末では高架橋等で新幹線は九割弱、在来線では五割弱が完了した。
   また、新しい耐震設計基準がまとまったことから、同基準を鉄道事業者に周知した。

<第2編> 海上交通

(1) 海難の動向
 救助を必要とする海難に遭遇した船舶(要救助船舶)の隻数は、長期的には減少傾向にある(台風及び異常気象下のものを除く。)。
 一方、近年の海洋レジャー活動の活発化に伴い、プレジャーボート等の海難の全要救助船舶隻数に占める割合が高くなってきている。平成九年には漁船の海難を上回り、平成十年には四一・七%を占めるに至り、過去最多となった。
 要救助船舶の乗船者の死亡・行方不明者数は、近年二百人前後で推移してきているが、平成十年は百五十七人であった(第13図参照)。
 外国船舶の日本への入港が増加する中、要救助船舶八十五隻(千総トン以上の貨物船及びタンカーが対象)のうち、日本船舶四隻に対し外国船舶八十一隻と、外国船舶の占める割合が高くなっている。

(2) 海上交通事故に対する主な交通安全対策
@ 港湾及び漁港の防波堤、航路、泊地、係留施設等の整備を進めるとともに、開発保全航路、避難港及び航路標識等の整備を推進している。
A 港湾及び漁港の耐震性を強化するため、耐震強化岸壁の整備、防災拠点の整備、輸送施設の整備等を行っている。
B 船舶のふくそうする海域においては、特別な交通ルールを定めるとともに、海上交通に関する情報提供と航行管制を一元的に行うシステムである海上交通情報機構等の整備・運用を行っている。
  また、海図・水路書誌等の整備及び水路通報、気象情報等の充実を図っている。
C 船舶の航行に関する安全管理体制を確立するための国際安全管理規則(ISMコード)が、海上人命安全条約(SOLAS条約)の改正により強制化されたことから、国内の関連規則の整備を行い、船舶の安全管理審査体制の整備充実を図っている。
D 航海士への無線従事者資格の義務付け等、船員の資質の向上を図るためのSTCW条約の改正を受けて、国内の関連法令の整備を行い、国内実施体制の整備を図っている。
E 外国船舶に対するポートステートコントロール(寄港国政府による外国船舶への立入検査等の監督)について、検査内容の拡充、専従監督要員(外国船舶監督官)の増員など、その充実強化を図っている。

<第3編> 航空交通

(1) 航空交通事故の動向
 近年、民間航空機の事故件数は、航空輸送が急速に拡大する中で、ほぼ横ばいの状況にある。平成十年の事故発生件数は三十五件、死傷者数は七十五人(うち死者数二十一人)となっている(第1表参照)。

(2) 航空交通事故に対する主な交通安全対策
@ 第七次空港整備七箇年計画(平成八〜十四年度)に基づき、空港、航空保安施設等の整備を計画的に推進している。
A 運輸多目的衛星(MTSAT:平成十一年九月打ち上げ予定)を用いた次世代航空保安システムについて、通信・航法・監視のための各施設にわたって開発及び整備を推進している。
B 空港、航空保安施設の整備と耐震性の強化については、既存施設の耐震強化(庁舎等の点検・改修等)及び管制施設の多重化(管制機能の代替・非常用レーダー等の整備)等を推進した。
C 航空機乗組員等の資質の向上、運行管理態勢の強化、航空機整備体制の充実等、定期航空の運航の安全対策の充実強化に取り組んでいる。
D 小型航空機の事故を防止するため、法令及び安全関係諸規程の遵守、無理のない飛行計画による運行の実施、的確な気象情報の把握、操縦士の社内教育訓練の充実等を内容とする事故防止の徹底を指導している。
E スカイレジャーについては、愛好者に対する安全知識の普及や技能の向上訓練等について、関連航空団体を指導するとともに、「優良スカイレジャーエリア認定制度」の推進等により、安全確保を図っている。

行方不明者捜索強化期間


●全国に特別相談所を開設
 警察では、行方不明者や家出人など行方が分からない人の所在確認や身元確認の相談を受け付けています。毎年、夏休みやお盆、お彼岸などを迎える時期を「行方不明者捜索強化期間」とし、全国各地に「特別相談所(行方不明者を捜す相談所)」を開設して、行方不明者の調査・相談を行っています。強化期間は、八月または九月のうちの一か月間で、各都道府県で実施されます。なお、相談などの費用は無料です。

     ◇     ◇     ◇

 行方不明者の家族の中には、相談する方法が分からず悩んでいる方や、警察への相談をためらっている方もいるかと思います。しかし、早い時期に警察に相談すれば、それだけ見つかりやすくなります。
 また、行方不明者の中には、犯罪事件の被害者となるケースもあります。犯罪に巻き込まれないためにも、行方の分からない人の早期発見が必要です。
 昨年の強化期間中に警察が受理した相談件数は、七千六百三十五件。そのうち二千五百四十五件は、行方不明者の所在や身元が確認されました。
     ◇     ◇     ◇

 相談の内容やプライバシーは厳重に守られます。相談されるときには、行方が分からない人の顔写真をお持ちください。また、行方不明になったときの服装や所持品、あるいは血液型など、本人に関する情報を提供してください。
*特別相談所の場所や開設時間など詳しいことは、各都道府県警察本部の鑑識課または最寄りの警察署、交番でお尋ねください。 (警察庁)



    <9月1日号の主な予定>

 ▽平成十一年度農業観測………農林水産省 




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