官報資料版 平成11年9月8日




                  ▽労働白書のあらまし………………労 働 省

                  ▽労働力調査(五月)………………総 務 庁

                  ▽月例経済報告(八月報告)………経済企画庁











労働白書のあらまし


―平成11年版 労働経済の分析―


労 働 省


 労働省は、「平成十一年版労働経済の分析」(平成十一年版労働白書)を、平成十一年七月二日に閣議配布し、公表した。
 本年の白書では、第T部「平成十年労働経済の推移と特徴」において、景気の動向等を反映して、厳しさを増していった労働経済の動向について、一九九八年(平成十年)を中心に分析した。 また、第U部「急速に変化する労働市場と新たな雇用の創出」においては、失業を中心とした労働市場の実態とその構造的変化について分析するとともに、雇用創出の状況を把握し、二十一世紀に向けて雇用構造の円滑な転換を進め、雇用の安定を図るための課題を検討した。
 その概要は以下のとおりである。

第T部 平成十年労働経済の推移と特徴

第一章 雇用・失業の動向

平成十年の雇用・失業情勢の特徴
 一九九八年の雇用・失業情勢は急速に深刻さを増した。この背景には、我が国経済が、バブル崩壊後の景気回復局面を経た後、一九九七年三月を景気の山として再び景気後退局面に入り、実質国内総生産(GDP)が戦後初めて五・四半期連続の減少となるなど、第一次石油危機に匹敵するインパクトが長期にわたり続いていることがある。
 雇用・失業情勢の特徴としては、@有効求人倍率は過去最低の水準に低下し、完全失業率がこれまでにない上昇幅で上昇するなど、年前半に労働力需給が急激に悪化したこと(第1図参照)、A景気低迷が続く中で、非自発的理由による離職失業者や求職者が大幅に増加し、失業期間の長期化もみられたこと、B雇用者数が初めて前年より減少したこと、これら三つの景気的な要因に加え、C構造的・摩擦的な失業も増加を続けたことが、失業率の水準を押し上げたこと、の四点が挙げられる。一九九九年に入っても、雇用・失業情勢は依然厳しく、完全失業率はさらに上昇し、三月には四・八%となった。
有効求人倍率は過去最低の水準に低下
 新規求人数(新規学卒者を除く)は年平均で前年比一一・九%減と四年ぶりに減少した。四半期別の動きを季節調整値でみると、一九九七年十〜十二月期以降は前期比四〜五%の減少を続けたが、一九九八年後半には前期比一%程度の減少と落ち着きをみせ、一九九九年一〜三月期には〇・三%増とわずかながら増加した。産業別には、すべての産業で求人が減少したが、製造業と建設業で落ち込みが大きい。特に、製造業は一九九七年四〜六月期以降、大幅な減少が続き、一九九八年十〜十二月期までに約四割も落ち込んだ。
 一方、新規求職者は一九九七年から増加基調にあったが、一九九八年に入り、景気低迷が長引く中で増加幅が大幅に拡大し、年平均で前年比一五・四%増となった。常用新規求職者の増加を自発的離職求職者、非自発的離職求職者、離職者以外の求職者に分けてそれぞれの寄与度をみると、いずれの寄与も増加しているが、非自発的離職求職者と離職者以外の求職者の増加寄与が大きい。雇用保険の受給者実人員も、一九七五年を上回る過去最高の水準となった。
 有効求人倍率(季節調整値)は、一九九八年一〜三月期に〇・六一倍と、前期差〇・〇七ポイントの急落となった後大幅に低下し、十〜十二月期には〇・四七倍となった(前掲第1図参照)。一九九八年平均では〇・五三倍と、一九九七年の〇・七二倍を大きく下回り、比較可能な一九六三年以降で最低の水準となった。その後一九九九年一〜三月期には〇・四九倍と、やや水準を戻している。
 新規学卒労働市場においても、大学新卒者の就職率が低下、高校新卒者の求人倍率が大幅に低下するなど、企業の採用意欲は一段と減退している。
製造業、建設業の雇用者数が大幅減少
 労働力人口は、前年差六万人増と増加幅が非常に縮小した。労働力率は一九九八年を通じて前年を下回る水準で推移し、年平均では六三・三%と前年差〇・四%ポイント低下した。就業者数は、一九九八年平均で六千五百十四万人(前年差四十三万人減)と、一九七五年以来の減少となり、減少幅は比較可能な一九五四年以降で最大となった。
 雇用者数は、一九九八年平均で五千三百六十八万人、前年差二十三万人減と、比較可能な一九五四年以降で初めて前年より減少した。これは、例年は新規入職者を中心に雇用者数が大幅に増える春先に、入職抑制が厳しく行われたことが大きく影響した。
 産業別にみると、建設業、製造業で雇用者が大幅に減少したほか、サービス業の伸びが大幅に鈍化した。製造業については、バブル崩壊後、雇用者数が減少基調にあり、一九九六〜九七年に生産の増加によりいったん下げ止まったが、バブル崩壊後の雇用調整が完全に終了しておらず、生産が力強い回復に至る前に、一九九七年十〜十二月期以降落ち込むのと同時に雇用者数の調整が再発し、これに景気要因が重なり、大幅な減少に転じたものとみられる。
 職業別には、ブルーカラー職種で大きく減少した。また、常用労働者の入職率・離職率をみると、ともに低下しているが、常用労働者数の減少は、主に年前半に厳しい入職抑制の動きが起こったため、入職率の低下により、離職超過幅が拡大して生じたものといえる。
二〜四月に急激に上昇した完全失業率
 完全失業率は一九九八年二〜四月にかけて、第一次石油危機後に匹敵する急激なペースで上昇し、四月には現行の統計調査開始以来、初めて四%を超え、年平均でも四・一%(前年差〇・七%ポイント上昇)となった。男性四・二%、女性四・〇%と、男女ともこれまでにない高さとなった。月別にみると、二〜四月にかけて急上昇した後、五月以降はいったん緩やかな上昇となったが、一九九九年二月以降、再び上昇幅が拡大し、三月には四・八%(男女とも四・八%)となった。
 一九九八年前半の完全失業率の急上昇の背景には、生産活動の減少、停滞等を背景に、一九九七年末から新規求人が大きく減少し、入職抑制が強く行われたこと、雇用調整実施事業所割合の上昇や、非自発的な離職率の上昇、倒産件数の増加等にみられるように、離職を余儀なくされる者が増加しており、製造業や建設業を中心に、離職求職者数が大幅に増加した結果、新たに失業者となる者が急増したこと、労働力需給の悪化により、一度失業するとなかなか再就職できない情勢となったことにより、完全失業者が大幅に増加したことが挙げられる。
 完全失業者の増加について求職理由別にみると、各属性とも大きく増加している。特に非自発的離職失業者が、一九九八年は前年差三十一万人増と大幅に増加しており、新たに失業へ流入する者の増加と同時に、失業状態も長期化している。自発的離職失業者も増加しているが、失業期間が長期化しているためであり、自発的離職から新たに失業へ流入する動きは鈍化している。
 世帯主との続き柄別に完全失業者数をみると、一九九八年は、世帯主、世帯主の配偶者を含め、いずれの続き柄においても大幅に上昇し、過去最高の水準となった。また、離職を余儀なくされる者の増加や再就職が困難なことを反映し、一九九八年は男女とも失業頻度が上昇し、失業継続期間が長期化している。
需要不足失業が大幅に増加
 UV分析を用いて完全失業率を構造的・摩擦的失業率と需要不足失業率に分けてみると、一九九八年平均の完全失業率四・一%のうち、構造的・摩擦的失業率が三・二%、需要不足失業率が〇・九%となっているが、一九九七年十〜十二月から一九九八年十〜十二月期にかけての完全失業率の上昇〇・九%ポイントのうち、需要不足失業率の上昇分が〇・六%ポイント程度を占めており、構造的・摩擦的失業が増加していることに加えて、一九九八年に需要不足失業率が急上昇したことが、失業率を四%台にまで上昇させたことを示している(第2図参照)。
障害者実雇用率は前年よりやや上昇
 一九九八年六月一日現在における障害者実雇用率は一・四八%と、前年(一・四七%)を上回り過去最高の水準となった。しかし、法定雇用率未達成企業の割合も四九・九%と、前年(四九・八%)より〇・一%ポイント上昇した。実雇用率を企業規模別にみると、三百人以上規模企業では前年に比べ上昇したが、三百人未満規模企業では一九九四年以降、実雇用率の低下が続いている。また、景気の低迷を受けて、障害者の解雇届出数も増加した。
外国人労働者の動向
 我が国における外国人労働者数は、合法・不法を合わせ一九九七年現在約六十六万人で、そのうち就労が認められている在留資格の外国人登録者数は過去最高の水準となり、就労目的の新規入国外国人は、一九九八年には前年に比べ八・五%増加した。就労する日系人等も一貫して増加している。他方、不法就労者も依然として高水準と推測される。また、一九九八年の外国人雇用状況報告結果によると、直接雇用の事業所数は前年に比べ七・九%増となり、産業別には製造業、サービス業、卸売・小売業、飲食店の三産業で全体の約九割を占めている。

第二章 賃金、労働時間、労働安全衛生の動向

賃金の動向
 一九九八年の賃金(事業所規模五人以上)は、雇用情勢の急激な悪化と企業利益の減少を背景に、一九九八年の春闘賃上げ率が過去最低となったことなどを受けて、所定内給与が統計調査の開始以来、最も低い伸びとなった。これに加え、所定外給与及び特別給与も大幅な減少に転じたため、現金給与総額は前年比一・三%減と、統計調査の開始以来初めて減少した。このため、実質賃金は、消費者物価が一九九七年の消費税率の引上げの影響の剥落(はくらく)等により安定したにもかかわらず、前年比二・〇%減となった。
 労働省労政局調べによる一九九八年の民間主要企業の春季賃上げ率をみると、二・六六%と、一九九七年の二・九〇%を下回り、比較可能な一九六五年以降で最も低い数字となった。また、民間主要企業の夏季一時金は前年比一・一一%増であったが、伸び率は一九九七年(二・八九%増)を下回り、年末一時金の伸び率は前年比一・八三%減と、一九九七年(二・七八%増)の増加から減少に転じた。
 なお「毎月勤労統計調査」により、中小企業も含めた賞与(事業所規模五人以上)をみると、夏季(二・一%減)、冬季(二・九%減)ともに減少したが、その大きな要因は経常利益の減少と労働力需給の悪化であり、冬季は、さらに消費者物価が一九九七年より安定したことも影響した。
引き続き減少した総実労働時間
 一九九八年の総実労働時間(事業所規模五人以上)は、前年比一・一%減(前年同一・四%減)と引き続き減少した。所定内労働時間は一九九七年と同様、小規模事業所ほど減少しているが、これは法定労働時間週四十時間労働制の達成事業所割合が増加したことによる。
大幅に減少した製造業の所定外労働時間
 一九九八年の所定外労働時間は、景気の低迷を背景に、製造業で大幅に減少したほか、建設業、卸売・小売業,飲食店でも減少幅が拡大したことから、一九九七年の増加から減少に転じたが、年後半は横ばい又はやや弱含み傾向で推移した。
死傷災害の動向
 一九九八年における労働災害の発生状況をみると、死傷者数(死亡及び休業四日以上)は十四万八千二百四十八人(前年比五・四%減)と、引き続き減少した。また、死亡者数は一千八百四十四人(前年比一一・三%減)となり、初めて二千人台を割り込んだ。

第三章 物価、勤労者家計の動向

物価の動向
 一九九八年の国内卸売物価は、前年比一・五%下落と、六年ぶりの上昇となった一九九七年(同〇・六%上昇)から再び下落に転じ、弱含みで推移した。消費者物価(総合)は、一〜三月期は前年同期比二・〇%の上昇となったが、その後は消費税率引上げの影響の剥落等により安定して推移し、前年比〇・六%上昇した。消費者物価の動きを、商品・サービス分類別でみてみると、生鮮商品以外のすべての分類が物価の安定に寄与している。
勤労者家計の動向
 一九九八年の勤労者世帯の家計収入(実収入)は、世帯主収入の大幅な減少から、前年比名目一・一%減少、同実質一・八%減少と、減少幅はいずれも現行の調査開始以来最大となった。また、可処分所得も、名目では現行の調査開始以来、初めての前年比〇・二%減少となった。
 家計収入の減少に加え、平均消費性向が前年比〇・七%ポイント低下し、七一・三%と、現行の調査開始以来最低の水準となったため、消費支出は名目前年比一・一%減と、現行の調査開始以来最大の減少、実質でも同一・八%減と、第一次石油危機に次ぐ減少と低調となった。
 また、一般に実質可処分所得が減少した時には、消費水準はすぐ下がらないため、平均消費性向が上昇する傾向にあるが、厳しい雇用・失業情勢を反映した雇用不安や、所得環境の悪化と将来の先行き不透明感の高まりを背景に、消費マインドが冷え込んだため、一九九八年は実質可処分所得の減少にもかかわらず、平均消費性向は大幅に低下した。
 三十〜四十歳台の中堅層では、雇用不安や将来の先行き不透明感を厳しく受け止め、平均消費性向が大幅に落ち込んだことから、実質消費支出が大幅な減少となった。

第四章 労使関係の動向

一九九九年春の労使交渉
 一九九九年春季労使交渉は、我が国経済は依然として極めて厳しい状況にあるが、各種の政策効果に下支えされて下げ止まりつつあり、雇用情勢については、雇用者数が減少し、完全失業率がこれまでにない高さに上昇しているという状況下で行われた。賃上げ額は、おおむね一九九七年を下回る内容となり、主要単産における大手企業の賃上げ額は、電機五百円(ベア・三十五歳ポイント回答)、自動車六千六百二十六円(定昇込み・平均賃金方式)だった。

第U部 急速に変化する労働市場と新たな雇用の創出

第一章 労働市場の実態

第一節 失業の実態と社会的コスト

世代によって異なる失業の様相
 バブル崩壊以後、各年齢層とも完全失業者は増加し、完全失業率は上昇している。若年層では、労働力需要は相対的に強いため、有効求人倍率は高水準であるが、自発的離職失業者の増加、パート・アルバイトの比率の高まり等により、完全失業率が高く、その上昇幅も大きい。四十五〜五十九歳の中年層は、完全失業率の水準が低く、相対的に安定しているが、一九九八年には大きく上昇した。
 この背景には、非自発的離職率の上昇に加え、再就職が困難なことがある。高年齢層では、定年退職など非自発的な離職が際だって多い一方で、それに見合う雇用需要が不足していることから、男性六十〜六十四歳層の完全失業率は、一九九八年には一〇・〇%に達している。中年層の男性の失業継続期間は長くなっている。
他産業へ転職しにくい製造業、建設業
 労働者の蓄積した技能をいかそうとする労働者・企業双方の意向もあって、労働移動は同一職業内、産業内移動が主体で、離職(失業)期間も他職業・他産業へ転職する方が長く、労働市場は職業別・産業別に緩やかに分断されている。産業間労働移動のなかでも、第三次産業間の移動は相対的に容易だが、製造業、建設業からの移動は困難度が高く、特に製造業は、バブル崩壊後、雇用需要の落ち込みが続いているため、離職率は低いが、いったん離職すると製造業への再就職は難しく、失業期間が長くなっている。
高まりはみられない長期失業率
 男性、正規の職員・従業員で長期失業者割合が高まっているが、女性、パート・アルバイト等の長期失業者割合の低いタイプの労働者が増加しているため、長期失業者割合はさほど高まっておらず、長期失業率は完全失業率の上昇とほぼ同じ動きをしている。
アメリカは失業期間が短期の者が多い
 アメリカと比較すると、日本は長期失業率が高く、アメリカは短期失業率が高い傾向にあるが、@景気により上下する長期失業率がアメリカでは低下、日本では上昇(景気局面の違い)、A短期失業率がアメリカで低下(アメリカの労働市場の効率性の改善の可能性)していることから、一九九八年十二月には、日米の失業率の水準が逆転した。求職理由別には、アメリカは非自発的離職失業者が約半数を占め、日本は自発的離職失業者が多い。
失業の社会的コスト
 失業の増加は社会に様々な影響をもたらす。マクロ的には、供給面では労働力が十分に活用されないことにより、経済が持つ潜在的な生産能力が発揮されなくなってしまうほか、需要面では、所得の減少、消費マインドへの影響の両方を通じて消費の減退をもたらす。
 失業世帯は、世帯主収入の大きな減少に対して、配偶者の収入等で支えるとともに、金融資産を取り崩すことで、消費水準の低下を抑えている。しかし、年齢階級別には五十歳台の失業世帯で消費を大きく切り下げている。一九九四年の失業世帯を一九八四年と比較すると、家計の実収入における配偶者等の収入の役割が大きくなったこと、選択的消費が増加して、消費に節約の余地が増加したこと、貯蓄が増加して、貯蓄の取り崩しが行いやすくなり、消費水準を大きく落とさないことが可能になったことから、家計が世帯主の失業から受けるショックは、十年前よりは小さくなっていると考えられる。
 失業・転職により、技能の損失が発生しており、中高年齢層で特に損失が大きいと考えられる。また、若年層の転職の繰り返しによる技能形成の機会の損失が懸念される。
 失業が財政面に与える影響としては、失業の増加による雇用保険の収支バランスの悪化、税収、社会保険料収入の減少等があげられる。
 失業により受ける心理的な影響も無視できないものと思われる。年齢階級別にみると、中高年齢層で失業による心理的な影響が大きいと考えられる。

第二節 労働市場の構造的変化とその背景

失業の構造とUV分析
 失業は、景気動向で増減する需要不足失業と労働市場の構造で決定される構造的・摩擦的失業に分けることができる。UV分析によると、UV曲線は、一九七〇年代後半以降、バブル期にやや下方シフトした以外は、傾向的に右上方へシフトし、構造的・摩擦的失業率が中長期的に上昇し、特に第一次石油危機後とバブル崩壊後に大きく上昇している。
ミスマッチ失業の動向
 構造的・摩擦的失業率の上昇の要因として、労働力需給の構造変化によるミスマッチの拡大がまずあげられる。年齢間ミスマッチについては、一九八〇年代後半以降、バブル期にかけてミスマッチが縮小した後、バブル崩壊後は拡大しているが、これは、全体の労働力需給の動向と六十歳以上定年制の普及の影響による。
 今後については、六十歳以上定年がほぼいきわたったことから、六十歳台前半層の需給の状況が年齢間ミスマッチの鍵を握るほか、労働力需給バランスが悪い四十五歳以上の中年層の需給状況にも留意する必要がある。
 産業間ミスマッチを、サービス部門と加工部門の比率(前年比)による指標でみると、安定成長期への移行期に当たる一九七〇年代後半に大きく上昇した後、円高不況時の一時的な動きを除けば、一九九〇年代初めまで低い水準だったが、バブル崩壊後に再び大きく上昇している。
 また、高度成長期の方が構造変化は大きかったが、構造変化が発展部門の雇用増主導であったため、失業率は低かった。これに対し、安定成長期の構造変化は、需要縮小部門からの排出圧力の増大によるものが大きいため、ミスマッチ失業の増大につながっている。地域間ミスマッチは、特に、バブル崩壊後は格差が縮小傾向にある。
ミスマッチ以外の失業の動向
 ミスマッチ以外の構造的・摩擦的失業率の上昇要因として、就業意識については、若年層を中心に転職希望率が高まっており、特に若年層の自発的離職失業の増加の背景となっている。若年層の転職希望率の上昇には、就業形態の多様化に加え、特に自分を活かせる仕事を重視する者が増加し、正規社員の転職意識の高まりが影響している。また、就業形態の多様化(失業率の高いパートタイム労働者等の比率の上昇)は、特に若年層の失業率の上昇につながっている。さらに自営業主、家族就業者から失業者になる者は非常に少ないため、雇用者比率の上昇も失業率の上昇要因となっている。
構造的・摩擦的失業率の性格
 ミスマッチの拡大は、失業から就業への確率を低下させ、失業継続期間の長期化要因となり、摩擦的な失業の増加の背景にある意識の変化や就業形態の多様化等は、失業頻度の上昇要因となる。また、需要不足失業の増加は、失業継続期間、失業頻度の両方の上昇要因となる。失業継続期間は第一次石油危機の直後に上昇した後、横ばいないしやや低下気味であったのが、バブル崩壊後、再び上昇しており、失業頻度はバブル期以外は上昇傾向にある(第3図参照)。
景気循環と失業
 バブル期の年齢間ミスマッチの縮小のように、労働力需給が引き締まっている労働力不足の時期には、労働力供給が不足している層に対する需要が労働力需要が不足している層に対する需要に振り替わる代替需要が拡大し、ミスマッチが縮小する。
 労働力供給行動について、一九七〇年代後半以降、女性の就業意欲の高まりを背景に、女性の労働力率の需給感応度が低下し、逆に失業率が需給に感応的になっている。
 マクロ的にみて、生産の変動に対して、雇用より賃金や所定外労働時間、労働生産性の変動で調整を図る状況は、バブル崩壊後も、基本的に変化がみられていない。

第三節 経済変動と雇用

建設業及び製造業の減少
 これまで、我が国では、サービス業等の堅調な雇用需要に支えられ、第一次石油危機後も含め、雇用者数が暦年ベースで前年を下回ることはなかった。しかしながら、一九九八年には、製造業の大幅な減少に加え、不況期に雇用を吸収してきた建設業も減少したことから、前年を初めて下回った。
建設業の雇用創出力低下の背景
 建設業の雇用吸収力の低下には、需要の大幅な減退に加え、バブル崩壊後も続いていた雇用者数の増加の後だったため、労働生産性の水準が低かったことが大きい。建設需要の見通しに不透明感が強まっていることも影響している。
バブルの精算終了前に生産が減少
 製造業雇用者数の減少は、第一次石油危機後やバブル崩壊後と同様の動きであり、生産と雇用の関係(雇用弾性値)がこれまでと異なっているわけではない。
 製造業の雇用者数と労働生産性との関係をみると、労働生産性の水準がトレンドを下回ると雇用者数は減少に転じる。今回の急激かつ大幅な雇用者数の減少は、バブルの精算が終了しきれていない状況で再び生産の減少が始まったため、両者の影響が重複したものと考えられる。
不透明感の増大による雇用過剰感の高まり
 ただし、労働生産性の低下幅や企業収益の悪化の程度に比べ、雇用過剰感がかつてなく高まっている。将来の不透明感の高まりが、期待成長率を低下させ、雇用過剰感を一層強くしているものと考えられる。なお、グローバル化が進む資本市場の要請を背景として、雇用保蔵の早期解消を図る動きが強まっていることにも留意する必要がある。
速くなっている雇用調整
 中期的にみると、バブル崩壊後、生産の変動に対する企業の雇用調整行動はやや速まっている。製造業では、常雇の雇用調整速度の速まりに加え、雇用調整速度がかなり速い臨時・日雇比率の上昇も影響している。一方、サービス業ではむしろ遅くなっており、生産の増加に対する雇用増が慎重になっていることを示している(第4図参照)。
 また、企業は、経常利益が二期連続赤字になると大幅に雇用調整を実施するが、バブル崩壊以降、企業収益が赤字になった場合に、より迅速に雇用量を調整させつつある。
入職抑制中心の雇用調整
 製造業では、入職率により雇用変動の七割以上を説明できるのに対し、離職率の説明力は一割にも満たず、企業は入職抑制により雇用量を調整している。また、大企業でその傾向が強い。
 一貫して雇用者数の減少が続いている鉄鋼業では、入職抑制による雇用量の調整が限界に近づいているため、雇用量の調整は離職率によるところが大きくなっている。
 製造業の入職率は、一九九〇年代に入って一段と低下し、かなり低い水準にまで低下してきている。今後、産業構造調整が一層大きくなると見込まれる中で、より一層の入職抑制による対応は困難となる可能性があり、既存労働者の雇用に与える影響を注視していく必要がある。

第二章 雇用創出の状況

第一節 雇用構造の変化

経済構造の変化
 一九八〇年代後半以降、国際競争の激化、高付加価値化、サービス化に加えて、近年の情報ネットワーク化や規制緩和等の動きが、我が国経済の構造変化を促進している。
産業別雇用構造の変化
 一九八五年以降の産業別雇用構造の変化をみると、サービス業及び卸売・小売業,飲食店などの第三次産業の雇用者数は、バブル崩壊後も引き続き増加を続けている。特に、情報分野、対事業所サービス、医療・福祉分野、余暇関連分野などのサービス業、スーパーやコンビニエンス・ストアなどの卸売・小売業、飲食店において雇用が創出されている。
 企業規模別には、第三次産業を中心に中堅規模の比率が緩やかに上昇してきている。産業のサービス化が進む中で、サービス業や卸売・小売業、飲食店の経営主体が、個人業主や中小規模から中堅規模へ次第に変化しており、今後も、一定の規模を持って、効率的に事業を実施する中堅規模の企業における雇用創出が期待される。
地域別雇用構造の変化
 バブル期の雇用創出は大都市圏が中心であり、地方圏から大都市圏への雇用集中の動きがみられた。バブル崩壊後は、大都市圏の吸収力は低下し、地方圏はバブル崩壊後前半、公共工事下支え効果で雇用者数の増加が大きかったが、後半はその効果がなくなり、大都市圏との差は小さくなっている。

第二節 雇用創出の実態

新規企業設立と事業拡大の雇用創出はほぼ同じ
 雇用創出に大きな役割を果たす事業所の新設には、新規企業の設立によるものと既存企業の事業拡大によるものがある。前者の開業率は一九九二〜九六年の年平均で二・二%、後者は一・〇%であるが、前者の規模は後者の二分の一のため、雇用創出はほぼ同じである。雇用創出率をみると、後者による分が比較的安定的に推移しているが、前者による分は二・三%から一・五%に低下している(第5図参照)。また、新規企業設立の四分の三は独立企業、四分の一は子会社の設立によるものである。
一般労働者とパート労働者の代替は少ない
 既存事業所の雇用創出率は景気拡大局面と比較して大きく低下しているが、雇用喪失率はあまり変化しておらず、既存事業所の雇用の増減は、主に雇用創出率の変動による。また、一九九八年上半期には、一般労働者の減少とパートタイム労働者の増加が同時に起こっているが、事業所単位でみると、一般労働者からパート労働者への代替は少なく、一般労働者はパート労働者も減少している事業所で大きく減少している。
新規事業展開に必要な労働力は社内調達が中心
 企業の新規事業展開は、既存の技術・知識の応用、需要の急成長の見込み、既存事業の需要の伸びの低下等を背景に、本業に密接に関連した分野を中心に行われている。新規事業展開に必要な労働力は、新規学卒採用からの育成を含め内部調達によろうとしているが、「他社からのスカウト」の採用など、企業内には存在しない専門的な技術・知識・能力等を採り入れる姿勢も強めている。

第三節 雇用発展分野の特徴と課題

情報通信分野
 情報通信分野では、女性比率が低く、中高年齢層も少ない。正社員・正職員は産業計と比較して多い。また、若年層が多いため、平均勤続年数は短いが、入・離職率は低く、特に労働移動が活発化しているわけではない。労働条件は、賃金は高学歴を反映して高水準だが、所定外労働時間が長い。
 情報通信分野では、技術革新等に対処して労働者の専門的知識・技能の一層の高度化をいかに図るかが大きな課題である。また、人材の確保には長時間労働の解消も必要であり、さらに、少子化の進展の中で、中高年齢層、女性の活用も重要であろう。
医療・福祉分野
 医療・福祉分野では、女性比率は高く、特に若年層の割合が大きい。女性の非正社員・非正職員比率は全般に低いが、福祉分野では女性の中年層の非正規社員の比率も比較的高い。勤続年数は新規参入が多いためか総じて短い。また、賃金水準は、福祉分野の大卒が比較的低くなっている。平均労働時間は比較的短い。
 医療・福祉分野では、人材の確保が最大の課題であり、今後、社会保障関係の費用が増大する中で、労働条件の整備を図り人材を確保するためには、事業の効率化を進めていくことが重要であろう。
教育・余暇分野
 教育・余暇分野では、女性比率が比較的高く、学校教育、旅行業以外は正社員・正職員比率が低い。余暇分野では、娯楽業は若年層の割合が、宿泊業は中高年齢層の割合が比較的高い。また、平均勤続年数が短く、入・離職率も高く、労働移動は比較的活発といえる。労働条件は、教育分野は賃金水準が高く、平均労働時間も短いが、余暇分野では賃金水準が低く、平均労働時間も特に宿泊業において長い。
 余暇分野では、労働者の確保や定着の向上が課題となっており、労働条件の改善を図ることが必要である。また、中途採用者や非正規労働者についても、バランスのとれた人事管理が重要である。教育分野では、生涯学習ニーズが今後ますます高度化・多様化する中で、体系的・計画的な人材育成の必要性が一層高まってくるものと考えられる。
ビジネス支援分野
 ビジネス支援分野では、専門サービス業とその他の事業サービス業では状況が異なっている。ともに女性比率は低いが、専門サービス業では、正社員・正職員比率が高く、高学歴化が進んでおり、若年層の割合が高い。また、平均勤続年数は長く、定着性が高い。労働条件面では賃金水準は高く、週休二日制も進んでいる。一方、その他の事業サービス業は、非正社員・非正職員比率が高く、中高年齢層の割合が高い。また、平均勤続年数は短く、入・離職率も高い。労働条件についても、総体的に低い。
 ビジネス支援分野のうち、専門サービス業では、今後少子・高齢化が進む中で、中高年齢層の活用を図ることが重要となる。また、新技術への対応や教育訓練の充実等が課題となる。一方、その他の事業サービス業では、労働者の定着が課題であり、労働条件の改善が求められる。

第三章 雇用構造の転換

第一節 雇用構造の円滑な転換

産業構造は新規入職と退職により変化
 就業構造は、産業面、職業面ともに大きく変化している。産業別に就業者の構成比をみると、一九八五年から一九九五年の間に、第三次産業就業者の割合は四・五%上昇している。男性については、主に若年層の入職と高年齢層の退職により変化している(第6図参照)。女性については、結婚・出産を機に退職し、出産・育児が一段落した後に再入職するという就業行動をとる者が多いこと等から、男性より就業構造が大きく変化している。
職業構造には中年層の昇進も影響
 職業別に就業構造の変化をみると、一九八五年から一九九五年の間に、ホワイトカラーの割合は三・八%ポイント上昇している。男性については、主に新規入職と退職と中年層の昇進で変化してきた。女性については、結婚・出産による退職と再入職は、ホワイトカラー比率を引き下げているが、新規入職と退職の効果が大きいことから、ホワイトカラー比率は男性より大きく上昇した。このように、一九八五年から一九九五年の間に、就業構造は、@若年層の新規入職、A女性の結婚・出産退職とその後の再入職、B高年齢層の退職に加え、職業構造では、C男性中年層の管理職への昇進により変化したものといえる。
小さくなる新規入職効果
 今後は少子化が雇用面にも波及してくるため、新規入職の就業構造調整効果は大幅に小さくなる。二〇〇五年の産業・職業構造を推計すると、一九九五年以降の十年間の変化は、過去の十年間と比較して約二割縮小する。少子・高齢化が進むと、若年層の新規入職と高年齢層の退職のみでは十分な就業構造の変化が行われないため、在職者の産業・職業間の移動が重要な役割を果たすことになる。
パート・アルバイトの増加を中心に進んだ就業形態の多様化
 一九八七年から一九九七年の間にパート、アルバイトなどの雇用形態の雇用者は急激に増加し、パート・アルバイト比率(雇用者に占めるパート及びアルバイトの割合)が上昇した。特に、産業別には卸売・小売業、飲食店、職業別にはサービス職業で大きく上昇した。就業形態の多様化は、産業・職業構造の変化を背景としている面もあるが、製造業、ブルーカラーでも多様化が進んでおり、必ずしもそれだけが要因ではない。
構造転換に対応した能力開発の必要性
 我が国の企業は急激な構造転換の中で、本業の充実・強化、あるいは新規事業展開といった経営戦略の見直しを図っているが、こうした取組を行う場合に雇用面の課題となる点をみると、人材の確保、育成に係る課題が比較的高い割合となっており、企業は急激な構造転換に対応した人材育成を図る観点から、能力開発の必要性を強く認識していることがうかがわれる。
社外にも通用する能力と創造性、柔軟性が重要
 労働者は企業内部だけでなく、外部労働市場でも通用する職業能力(エンプロイアビリティ)の向上を望んでおり、企業は社外にも通用する高い専門性と創造性、柔軟性のある人材を求めている。
OJTを中心としつつ自己啓発の比重が増加
 職業能力開発の手法としては、OJTが中心となっているが、中核的な人材に対しては、自己啓発や体系的なOJTを重視している。
 能力開発の今後についてみると、OJTを中心としつつも自己啓発の比重が高まっているが、能力開発の在り方としては、個性、能力に応じた多様な選択肢と長期的な視点からの計画的な取組が求められている。

第二節 雇用政策の展開

雇用政策の変化
 第一次石油危機を契機として、我が国経済は安定成長へ移行した。こうした中、雇用の安定のための政策は、それまでの離職後の生活安定と再就職の促進を中心とした事後的施策から、失業の予防や雇用機会の増大等の事前的施策が重視されるようになり、雇用維持対策、ミスマッチ対策、雇用創出対策と、次第に政策範囲の拡大が図られてきた。
多様化する労働市場への対応
 労働市場政策については、女性の職場進出、高齢化の進展、経済構造の変化等の構造変化に対応して、労働市場のルールの整備と労働力需給調整機能の強化が図られてきた。
職業訓練から能力開発へ
 職業能力開発については、技術革新の進展、高齢化社会の到来等から、その重要性が増してきたため、職業訓練法から職業能力開発促進法へ改正された。近年においては特に、ホワイトカラーの能力開発が重要視されている。
セイフティネットとしての雇用保険失業給付
 雇用保険失業給付については、バブル崩壊後、受給者実人員が大幅に増加しているが、その効果については、消費の減少による景気の落ち込みを抑制するマクロ経済効果と、失業中の家計を下支えする効果がある。
公共職業訓練の効果
 公共職業訓練の効果について、東京都の調査により分析を行った結果、訓練の内容に対し満足度が高いと、仕事への定着率や就業継続希望率を高めるほか、収入への影響を与えることが分かる。
公共職業安定所の利用
 公共職業安定所(ハローワーク)についても、雇用情勢が厳しくなる中で求職者が増加しており、その役割が重要視されてきている。ハローワークの利用状況をみると、地域別では地方圏、年齢別では高年齢層の利用率が高い。また、ブルーカラーの利用率が高いが、近年は専門的・技術的・管理的職業従事者の利用が高まっている。
欧米諸国の雇用政策
 アメリカでは、公共雇用サービスの充実、民間の職業紹介機関との協力等を進めるとともに、インターネットの利用を進めている。イギリスでは、ニューディール政策によって、失業給付への依存に歯止めをかけるとともに、技能の向上を図っている。ドイツでは、前政権による解雇規制の緩和等の企業保護措置を見直すほか、雇用創出、ワークシェアリングを進めている。フランスでは、若年者に対し政府の直接雇用を行うとともに、ワークシェアリングを進めている。オランダでは、賃金の調整政策、パートタイム雇用の促進が特徴であるオランダモデルと呼ばれる政策が好調である。
雇用問題の解決に向けた国際的な取組
 雇用問題の解決が先進諸国共通の課題となっており、主要国首脳会議(サミット)で雇用問題に重点が置かれるとともに、雇用関係閣僚会合(雇用サミット)が開催されているほか、OECD、ILOなどの国際機関においても、様々な国際的な取組が行われている。こうした中で、雇用可能性の向上と新たな雇用の創出の実現は、各国が目指すべき共通の方向性の大きな柱となっている。

第三節 今後の課題

構造変化と長期雇用慣行
 雇用・失業情勢は厳しい状況を続けているが、今後についても、その改善は通常景気の回復より遅れる上に、構造的・摩擦的失業率のさらなる上昇が懸念されており、人々の失業に対する不安はかつてないほど高まっている。
 長期雇用慣行は理念的には二つの側面を持っている。一つは高校、大学等を卒業して企業に就職し、そのまま一つの企業や企業グループの中で仕事を続けるというライフスタイルを意味し、もう一つは、雇用を長期的な戦略の下でとらえ、短期的な景気の波に対する調整弁としないという企業の方針を意味している。
 この二つの側面は互いに関連を有しているが、全く同じではない。例えば、前者は一律的な労働条件や能力開発と保守的な行動を生みやすいが、後者はそうしたこととは直接の因果関係はない。むしろ、雇用が保障されているということが、多様な発想と思い切ったチャレンジを可能にするとともに、技術革新や事業転換によって生じる新しい仕事に対する柔軟性や適応力を発揮させる側面がある。
長期雇用慣行の利点と欠点
 長期雇用慣行の仕組みは、社会的には、雇用の変動を小さくし経済全体の安定をもたらす一方で、産業構造の迅速な転換を阻害する恐れがある。また、企業、労働者双方にメリットとデメリットがある(第1表参照)。
 雇用安定のコストの観点からみると、長期雇用慣行主体の場合は、基本的には企業が雇用維持のコストを負担するが、外部労働市場中心の場合は、失業増加のコストを失業者と社会が負担することになる。経済全体のコストとしては、前者では、当面の雇用不安の高まり方は小さいが、収益の回復の遅れ等により景気回復が遅れ、結果的に雇用が悪化する可能性がある。また、入職抑制中心の雇用調整は、倒産等による失業者や労働市場への再参入者にとっては、就職が難しい状況が続く。
 一方、後者では、一時的に雇用不安が大きくなる可能性が高く、雇用不安が消費の減退を通じて、景気後退の悪循環を招く恐れがある。しかし、企業の事業再構築のスピードアップや、労働者が失業中に新しい職業能力を身につけて新規発展産業に再就職することにより、構造調整が促進される可能性がある。
長期雇用慣行の変化と雇用維持の考え方
 長期雇用慣行の動向をみると、安定成長期を通じて平均勤続年数は延びているが、年齢階級別コーホートでみると、団塊の世代及びその直後の世代までは強まり、その後はあまり変化していない。
 今後は緩やかに変化していくものと考えられる。まず、若年層の転職意識の変化や就業形態の多様化等が大きな影響を与える。さらに、少子化が進むため、構造変化をこれまでのように労働市場の入口と出口のみで十分に調整することは難しくなり、従来以上に転職の役割が高まることとなる。加えて、期待成長率の低下や経営面のグローバル化が、長期雇用慣行を弱める方向に働くことも考えられる。
 しかし、一方で、企業、労働者とも長期雇用慣行への支持は現在でも高い。また、チームワークが重要な仕事や積み重ねが必要な職業能力については、長期雇用慣行は今後も大いに有効である。特に従業員の雇用の安定・維持を重要視し、それを通じた従業員のモラールアップや、柔軟性の確保をてこにして企業の成長を図っていく考え方は、企業にとっても、我が国の経済社会全体にとっても、重要であり、安易な雇用調整は企業に対する信頼を低下させて、人材の確保に支障をきたすおそれがある。
 また、マクロの観点でみると、雇用システムは、その国の置かれた状況や国民性と密接に関連しており、この点で、我が国と、労働市場が流動化し、容易に雇用調整を行っているアメリカとが、全く同じ雇用システムとなる必然性はない。
長期雇用慣行の緩やかな変化への対応
 長期雇用慣行の緩やかな変化に対応して雇用の安定を図っていくためには、円滑な労働移動を支援することが重要である。
 そのためには、まず第一に、職業能力開発について、一つの企業の中でのみ機能を発揮するものではなく、エンプロイアビリティの向上を重視する必要がある。
 第二に、職業紹介のシステムについて、官民が互いに連携しつつ効率的・効果的な労働市場が整備されていくことが望まれる。また、失業を経ない労働移動を促進していくことが重要である。さらに、年金制度等について、転職に対する中立性の観点からの検討も必要となってくる。
 第三に、セイフティネットの整備が重要である。雇用におけるセイフティネットの基本となる雇用保険制度の整備を図るとともに、職業紹介制度を整備しつつ離職者に対する職業訓練を充実させることが重要である。
 第四は新規産業・企業の育成と企業の新規事業展開の促進による雇用の創出が重要であり、また、ミスマッチ失業を減少させるためにも、適度な経済成長の維持が重要である。
 第五に、様々なタイプの労働者についての労働市場の整備や雇用管理、労働条件の改善を進めることが重要である。
雇用維持努力の支援
 こうした長期雇用慣行の変化への対応は、いずれも中期的な視点からの対応であり、直ちに着手する必要があるが、すぐに効果を発揮するものではない。また、経済と生活の安定や労働生産性向上努力等の観点からみると、長期雇用慣行の変化は不況期ではなく、好況期に進むことが望ましい。これに加え、現下の厳しい雇用・失業情勢に対応するため、長期雇用慣行を踏まえた企業の雇用維持努力を支援することも不可欠である。その際に、特に対策の必要性が高い層への重点的な対応と構造変化を阻害しないことが重要である。
中年層への配慮が重要
 中年層は、元来、欧米でも安定性向が強く転職率は低い。我が国でも、これまでは失業率が低く雇用が安定していたが、現在はこれまでにない厳しい状況に置かれている。中年層の雇用不安を解消するためには、エンプロイアビリティの向上や、再就職しやすい労働市場の整備、新たな雇用の創出を着実に進めることはもちろんであるが、それだけでなく、中年層のこれまで培ってきた能力をいかす方策が必要であり、企業あるいは企業グループ等、それまでの職場・仕事とのつながりを保った形での活用が重要である。
 とはいえ、一つの企業や企業グループで引き続き働くのであっても、個別性、自律性を重視した働き方を要求され、能力開発もこれから長く続く職業生涯を見通して、個人個人が意識的に専門性、柔軟性を求めることが必要である。また、転職者についても、できる限りそれまでの能力・キャリアがいかせるかたちで再就職することが望ましい。こうしたことはホワイトカラーだけではなく、ブルーカラーについても大きな課題である。
職業能力開発の充実
 職業能力開発の課題としては、まず第一に、我が国全体としての職業能力開発投資の確保・増強が重要である。第二に、次々に変化しつつ高度化していく人材や能力へのニーズに対応した職業能力の開発が重要である。そのためには個人個人が職業生涯設計に基づいた自律的な努力をすることが重要である。第三の課題は、職業能力の体系及び評価の整備である。エンプロイアビリティの向上のためには、社内だけでなく社外にも通用しうる能力について、その体系や評価が示されている必要がある。
 また、目指す能力及び能力開発の成果を適正に評価できるシステムの整備が重要であり、労働者に対して自主的な能力開発に係るきめ細かな情報提供や、相談等を受けられる体制の充実が必要である。第四の課題は、若年層の職業能力開発である。適職選択の支援により不必要な転職の減少を図るとともに、転職してもキャリアが積み重なっていくことが重要である。

まとめ

 我が国経済は第一次石油危機以来の激動の時代にあり、労働市場も大きく変化している。こうした状況の中で、雇用の安定を図るために重要なことは、バランスと多様性の確保である。
 第一に、経済の構造調整と社会や生活の安定のバランスが重要である。もちろん、構造調整による経済の活性化なしに、社会や生活の安定はありえないが、それが目的となって安定がなおざりになっては、人々の生活が混乱するおそれがある。
 第二は、活力と公平のバランスである。我が国経済の発展にとって企業家精神が重要であり、才能ある人が能力を発揮し、それに応じた報酬を得る機会を与えられることが求められている。しかし、我が国の経済成長は、多くの人がそれぞれの役割を真しに果たすことによって支えられていることを無視すべきではない。
 第三に、短期的な視点と長期的な視点のバランスも重要である。短期的な視点のみに重点がいって、長期的な構造調整を阻害してしまうことは適当ではないが、長期的な必要性のみを強調して、現状の厳しさを看過すべきでもない。逆に企業にとっては、短期的な収益の維持は重要であるが、併せて長期的な視点からの人材の育成や、企業の成長に向けた取組が望まれる。
 また、以上のようなバランスを確保する上でも、年齢、産業・職業、就業形態等によって様々な性格を持つ労働市場・雇用に対して、多様な状況に応じたきめ細かな対応をとることが、雇用の安定を図る上で重要である。






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五月の雇用・失業の動向


―労働力調査 平成十一年五月結果の概要―


総 務 庁


◇就業状態別の動向

 平成十一年五月末の十五歳以上人口は一億七百七十八万人で、前年同月に比べ五十九万人(〇・六%)の増加となっている。これを就業状態別にみると、就業者は六千五百三十二万人、完全失業者は三百三十四万人、非労働力人口は三千八百九十三万人で、前年同月に比べそれぞれ六十五万人(一・〇%)減、四十一万人(一四・〇%)増、七十五万人(二・〇%)増となっている。
 また、十五〜六十四歳人口は八千六百七十八万人で、前年同月に比べ十万人(〇・一%)の減少となっている。これを就業状態別にみると、就業者は六千二十一万人、完全失業者は三百二十四万人、非労働力人口は二千三百十二万人で、前年同月に比べそれぞれ六十九万人(一・一%)減、四十一万人(一四・五%)増、七万人(〇・三%)増となっている。

◇労働力人口(労働力人口比率)

 労働力人口(就業者と完全失業者の合計)は六千八百六十六万人で、前年同月に比べ二十五万人(〇・四%)の減少となっている。男女別にみると、男性は四千五十万人、女性は二千八百十六万人で、前年同月に比べると、男性は十万人(〇・二%)の減少、女性は十五万人(〇・五%)の減少となっている。
 また、労働力人口比率(十五歳以上人口に占める労働力人口の割合)は六三・七%で、前年同月に比べ〇・六ポイントの低下と、十六か月連続の低下となっている。

◇就業者

 (1) 就業者

 就業者は六千五百三十二万人で、前年同月に比べ六十五万人(一・〇%)減と、十六か月連続の減少となっている。男女別にみると、男性は三千八百四十三万人、女性は二千六百八十九万人で、前年同月と比べると、男性は四十万人(一・〇%)減と、十七か月連続で減少、女性は二十五万人(〇・九%)減と、十二か月連続で減少となっている。

 (2) 従業上の地位

 就業者数を従業上の地位別にみると、雇用者は五千三百四十二万人、自営業主・家族従業者は一千百六十九万人となっている。前年同月に比べると、雇用者は三十万人(〇・六%)減と、十六か月連続で減少、自営業主・家族従業者は三十九万人(三・二%)減と、十六か月連続の減少となっている。
 雇用者のうち、非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○非農林業雇用者…五千三百八万人で、三十一万人(〇・六%)減、十六か月連続の減少
 ○常 雇…四千六百九十一万人で、七十万人(一・五%)減、十七か月連続減少
 ○臨時雇…四百九十九万人で、三十万人(六・四%)増、平成八年九月以降、増加が継続
 ○日 雇…百十九万人で、十万人(九・二%)増、三か月連続の増加

 (3) 産 業

 主な産業別就業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○農林業…三百六十二万人で、二十三万人(六・〇%)減、四か月連続で減少、減少幅は前月(七万人減)に比べ拡大
○建設業…六百五十三万人で、二十一万人(三・一%)減、十九か月連続で減少、減少幅は前月(四万人減)に比べ拡大
○製造業…一千三百四十三万人で、五十二万人(三・七%)減、二十四か月連続で減少、減少幅は前月(五十九万人減)に比べ縮小
○運輸・通信業…四百五万人で、二万人(〇・五%)減、五か月ぶりの減少
○卸売・小売業、飲食店…一千四百八十七万人で、七万人(〇・五%)増、三か月ぶりの増加
 また、主な産業別雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○建設業…五百四十五万人で、十六万人(二・九%)減、二か月ぶりの減少
○製造業…一千二百十五万人で、五十万人(四・〇%)減、二十四か月連続で減少、減少幅は前月(五十三万人減)に比べ縮小
○運輸・通信業…三百八十四万人で、三万人(〇・八%)減、五か月ぶりの減少
○卸売・小売業、飲食店…一千百九十五万人で、十四万人(一・二%)増、三か月ぶりの増加
○サービス業…一千四百五十四万人で、三十二万人(二・三%)増、四か月連続で増加、増加幅は前月(九万人増)に比べ拡大

 (4) 従業者階級

 企業の従業者階級別非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○一〜二十九人規模…一千七百四十四万人で、十三万人(〇・七%)減少
○三十〜四百九十九人規模…一千七百五十二万人で、十七万人(一・〇%)増加
○五百人以上規模…一千二百六十七万人で、三十万人(二・三%)減少

 (5) 就業時間

 五月末一週間の就業時間階級別の従業者数(就業者から休業者を除いたもの)及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○一〜三十五時間未満…一千三百六十一万人で、前年同月と同数
○三十五時間以上…五千五十九万人で、六十九万人(一・三%)減少
 また、非農林業の従業者一人当たりの平均週間就業時間は四三・一時間で、前年同月と同時間となっている。

 (6) 転職希望者

 就業者(六千五百三十二万人)のうち、転職を希望している者(転職希望者)は六百二十万人で、このうち実際に求職活動を行っているものは二百五十三万人となっており、前年同月に比べそれぞれ三十四万人(五・八%)増、二十九万人(一二・九%)増となっている。
 また、就業者に占める転職希望者の割合(転職希望者比率)は九・五%で、前年同月に比べ〇・六ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男性は九・三%、女性は九・七%で、前年同月に比べ男性は〇・六ポイントの上昇、女性は〇・六ポイントの上昇となっている。

◇完全失業者

 (1) 完全失業者数

 完全失業者数は三百三十四万人で、前年同月に比べ四十一万人(一四・〇%)増加となっている。男女別にみると、男性は二〇七万人、女性は百二十七万人で、男性は昭和二十八年以降で最多となっている。前年同月に比べると、男性は三十一万人(一七・六%)の増加、女性は十万人(八・五%)の増加となっている。
 また、求職理由別完全失業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○非自発的な離職によるもの…百六万人で、十九万人増加
○自発的な離職によるもの…百十八万人で、二十三万人増加
○学卒未就職者…二十四万人で、七万人増加
○その他の者…七十三万人で、八万人減少

 (2) 完全失業率(原数値)

 完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)は四・九%で、前年同月に比べ〇・六ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男性は五・一%、女性は四・五%で、前年同月に比べ男性は〇・八ポイント、女性は〇・四ポイントの上昇となっている。

 (3) 年齢階級別完全失業者数及び完全失業率(原数値)

 年齢階級別完全失業者数、完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
[男]
○十五〜二十四歳…四十七万人(九万人増)、一一・〇%(二・五ポイント上昇)
○二十五〜三十四歳…四十八万人(十万人増)、五・三%(一・〇ポイント上昇)
○三十五〜四十四歳…二十三万人(一万人増)、三・〇%(〇・二ポイント上昇)
○四十五〜五十四歳…三十三万人(五万人増)、三・五%(〇・六ポイント上昇)
○五十五〜六十四歳…四十八万人(五万人増)、七・〇%(〇・六ポイント上昇)
 ・五十五〜五十九歳…十八万人(五万人増)、四・四%(一・一ポイント上昇)
 ・六十〜六十四歳…三十万人(同数)、一一・〇%(〇・五ポイント上昇)
○六十五歳以上…八万人(同数)、二・五%(同率)
[女]
○十五〜二十四歳…三十四万人(同数)、八・三%(〇・三ポイント上昇)
○二十五〜三十四歳…三十八万人(六万人増)、六・五%(〇・七ポイント上昇)
○三十五〜四十四歳…二十万人(一万人増)、三・九%(〇・三ポイント上昇)
○四十五〜五十四歳…十九万人(一万人増)、二・八%(〇・二ポイント上昇)
○五十五〜六十四歳…十三万人(二万人増)、三・〇%(〇・四ポイント上昇)
○六十五歳以上…一万人(同数)、〇・五%(同率)

 (4) 世帯主との続き柄別完全失業者数及び完全失業率(原数値)

 世帯主との続き柄別完全失業者数、完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○世帯主…九十七万人(十二万人増)、三・六%(〇・五ポイント上昇)
○世帯主の配偶者…四十二万人(四万人増)、二・九%(〇・三ポイント上昇)
○その他の家族…百五十万人(二十四万人増)、八・〇%(一・三ポイント上昇)
○単身世帯…四十五万人(一万人増)、五・六%(〇・一ポイント上昇)

 (5) 完全失業率(季節調整値)

 季節調整値でみた完全失業率は四・六%で、前月に比べ〇・二ポイントの低下となっている。
 男女別にみると、男性は四・九%で、前月に比べ〇・一ポイントの低下となっている。女性は四・二%で、前月に比べ〇・三ポイントの低下となっている。


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月例経済報告(八月報告)


経済企画庁


概 観

 我が国経済 需要面をみると、個人消費は、収入が低迷しているため力強さはみられないものの、緩やかに回復してきている。住宅建設は、持ち直している。設備投資は、基調として大幅な減少傾向が続いている。公共投資は、総じて堅調に推移している。
 産業面をみると、在庫は、調整が進み、在庫率は前年を下回る水準で推移している。こうした中、鉱工業生産は、最終需要の動きを反映して低水準でおおむね横ばいで推移しているが、持ち直しの兆しもみられる。企業収益は、持ち直しの兆しがみられる。また、企業の業況判断は、厳しい状態にあるが改善傾向にある。企業倒産件数は、春先からやや増加しているものの、信用保証制度の拡充の効果などから前年の水準を大幅に下回っている。
 雇用情勢は、厳しさを増している。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加して、完全失業率はこれまでにない高さに上昇した。
 輸出は、アジア向けが回復傾向にあるが、全体としては横ばい状態にある。輸入は、緩やかな増加の動きがみられる。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、七月は月初の百二十円台から百二十二円台に下落した後、下旬にかけて百十五円台まで上昇した。
 物価の動向をみると、国内卸売物価は、このところ下げ止まりの動きがみられる。また、消費者物価は、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、七月は横ばいで推移した。長期金利は、七月はおおむね横ばいで推移した。株式相場は、七月は上旬から中旬にかけて上昇した後、下落した。マネーサプライ(M+CD)は、六月は前年同月比四・三%増となった。また、民間金融機関の貸出は依然低調であるが、企業金融のひっ迫感はやや緩和している。
 海外経済 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、先行きにやや不透明感がみられるものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、九九年一〜三月期前期比年率四・三%増の後、四〜六月期は同二・三%増(暫定値)となった。個人消費、設備投資は増加している。住宅投資は一〜三月期の大幅増の反動もあり、伸びが鈍化している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大しているものの、製造業等では輸出減の影響もあり減少している。物価は総じて安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。七月の長期金利(三十年物国債)は、中旬に低下したものの、下旬に上昇した。株価(ダウ平均)は、月初に上昇し高水準で推移したが、中旬以降下落した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は緩やかに減速しているものの、回復の動きもみられる。フランスでは、景気拡大のテンポは緩やかになっている。イギリスでは、景気は減速しているものの、回復の動きもみられる。鉱工業生産は、ドイツ、イギリスでは減少傾向にあるがそのテンポは緩やかになってきており、フランスではほぼ横ばいで推移している。失業率は、ドイツ、フランスでは、高水準ながらもやや低下しており、イギリスでは低水準で推移している。物価は、安定している。
 東アジアをみると、中国では、景気拡大のテンポはこのところ鈍化している。韓国では、景気回復の動きが続いている。
 国際金融市場の七月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、月前半は増価したものの、後半は大きく減価した。
 国際商品市況の七月の動きをみると、CRB商品先物指数は、月央まで下落基調で推移し、五か月振りに一八五ポイント割れを記録したが、その後は回復し月初の水準まで戻した。原油スポット価格(北海ブレント)は、中旬までほぼ一本調子で上昇し、下旬には一時弱含む場面がみられたが、十九ドル台で推移した。

     *     *     *
 我が国経済の最近の動向をみると、個人消費は、収入が低迷しているため力強さはみられないものの、緩やかに回復してきている。住宅建設は、持ち直している。設備投資は、基調として大幅な減少傾向が続いている。公共投資は、総じて堅調に推移している。輸出は、アジア向けが回復傾向にあるが、全体としては横ばい状態にある。
 在庫は、調整が進み、在庫率は前年を下回る水準で推移している。こうした中、生産は、最終需要の動きを反映して低水準でおおむね横ばいで推移しているが、持ち直しの兆しもみられる。
 雇用情勢は、厳しさを増している。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加して、完全失業率はこれまでにない高さに上昇した。
 民間金融機関の貸出は依然低調であるが、企業金融のひっ迫感はやや緩和している。
 また、企業の景況感は、厳しい状態にあるが改善傾向にある。
 以上のように、景気は、民間需要の回復力が弱く厳しい状況にあるが、各種の政策効果の浸透などで、このところやや改善している。
 このような厳しい経済状況の下、政府は、緊急経済対策、緊急雇用対策及び産業競争力強化対策等の諸施策を強力に推進する。また、当面の財政運営に当たっては、今後の我が国経済の動向等を十分踏まえ、必要があれば、公共事業等予備費の活用、十五か月予算という考え方に立った平成十一年度第二次補正予算の編成も含め、機動的・弾力的な対応を行う。

1 国内需要
―個人消費は、力強さはみられないものの、緩やかに回復してきている―

 個人消費は、収入が低迷しているため力強さはみられないものの、緩やかに回復してきている。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で五月二・四%増の後、六月は〇・一%減(季節調整済前月比二・三%減)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比一・八%減、勤労者以外の世帯では同三・四%増となった。形態別にみると、耐久財等は減少、サービスは増加となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比〇・一%減、勤労者世帯では同二・三%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で五月〇・九%減となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で五月三・四%減の後、六月は二・二%減(季節調整済前月比〇・一%減)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は、前年同月比で五月二・五%減の後、六月二・〇%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で五月五・〇%減の後、六月三・六%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で七月は四・二%減となった。また、家電小売金額(日本電気大型店協会)は、前年同月比で六月は一一・二%増となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、六月は前年同月比で国内旅行が四・〇%減、海外旅行は八・五%減となった。
 当庁「消費動向調査」(六月調査)によると、消費者態度指数は、三月に前期差三・三ポイント上昇の後、六月には同〇・七ポイントの低下となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で五月〇・一%減の後、六月(速報)は四・四%減(事業所規模三十人以上では同五・一%減)となり、うち所定外給与は、六月(速報)は同〇・六%減(事業所規模三十人以上では同〇・九%減)となった。実質賃金は、前年同月比で五月〇・四%増の後、六月(速報)は四・〇%減(事業所規模三十人以上では同四・七%減)となった。なお、民間主要企業の春季賃上げ率(労働省調べ)は、二・二一%となり、昨年(二・六六%)を下回った。
 住宅建設は、持ち直している。
 新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で五月二・二%減(前年同月比〇・九%減)となった後、六月は六・五%増(前年同月比七・三%増)の十万九千戸(年率百三十一万戸)となった。六月の着工床面積(季節調整値)は、前月比七・六%増(前年同月比一五・八%増)となった。六月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比七・三%増(前年同月比二九・二%増)、貸家は同二・三%増(同八・二%減)、分譲住宅は同一二・八%増(同一・五%減)となっている。
 設備投資は、基調として大幅な減少傾向が続いている。
 日本銀行「企業短期経済観測調査」(六月調査)により設備投資の動向をみると、大企業の十一年度設備投資計画は、製造業で前年度比一一・〇%減(三月調査比一・五%上方修正)、非製造業で同六・一%減(同一・〇%上方修正)となっており、全産業では同七・九%減(同一・二%上方修正)となった。また、中堅企業では、製造業で前年度比一九・二%減(三月調査比三・一%上方修正)、非製造業で同七・二%減(同五・六%上方修正)となり、中小企業では製造業で同三二・九%減(同四・八%上方修正)、非製造業で二三・一%減(同六・〇%上方修正)となっている。
 なお、十一年一〜三月期の設備投資を、大蔵省「法人企業統計季報」(全産業)でみると前年同期比で一〇・五%減(うち製造業一九・一%減、非製造業五・八%減)となった。
 先行指標の動きをみると、当庁「機械受注統計調査」によれば、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、季節調整済前月比で四月は一三・八%減(前年同期比一四・五%減)の後、五月は三・八%増(同七・五%減)となり、基調は減少傾向となっている。
 民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、六月は季節調整済前月比四・六%増(前年同月比二三・八%減)となったが、低水準での推移となっている。内訳をみると、製造業は季節調整済前月比三〇・五%増(前年同月比二九・二%減)、非製造業は同一・六%増(同二二・七%減)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資は、総じて堅調に推移している。
 公共工事着工総工事費は、前年同月比で四月三一・九%増の後、五月は二・六%増となった。公共工事請負金額は、前年同月比で五月六・七%減の後、六月は二・七%減となった。官公庁からの建設工事受注額(五十社)は、前年同月比で五月は四・一%増の後、六月は一五・七%減となった。

2 生産雇用
―生産は、おおむね横ばいで推移しているが、持ち直しの兆しもみられる―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、在庫は、調整が進み、在庫率は前年を下回る水準で推移している。こうした中、生産・出荷は、最終需要の動きを反映して低水準でおおむね横ばいで推移しているが、持ち直しの兆しもみられる。
 鉱工業生産(季節調整値)は、前月比で五月一・〇%減の後、六月(速報)は、プラスチック製品が減少したものの、一般機械、輸送機械等が増加したことから、三・〇%増となった。また製造工業生産予測指数(季節調整値)は、前月比で七月は電気機械、鉄鋼等により〇・五%増の後、八月は電気機械、輸送機械等により三・七%増となっている。鉱工業出荷(季節調整値)は、前月比で五月〇・六%増の後、六月(速報)は、生産財、非耐久消費財等が増加したことから、三・一%増となった。鉱工業生産者製品在庫(季節調整値)は、前月比で五月〇・五%減の後、六月(速報)は、輸送機械、石油・石炭製品等が増加したものの、電気機械、鉄鋼等が減少したことから、〇・三%減となった。また、六月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数(季節調整値)は一〇三・二と前月を三・九ポイント下回った。
 主な業種について最近の動きをみると、一般機械では、生産は六月は増加し、在庫は六月は減少した。輸送機械では、生産は二か月連続で増加し、在庫は六月は増加した。化学では、生産は六月は増加し、在庫は四か月連続で減少した。
 第三次産業の動向を通商産業省「第三次産業活動指数」(五月調査、季節調整値)でみると、四月〇・九%減の後、五月は、金融・保険業が減少したものの、サービス業、運輸・通信業等が増加した結果、前月比一・四%増となった。
 雇用情勢は、厳しさを増している。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加して、完全失業率はこれまでにない高さに上昇した。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、五月〇・四六倍の後、六月〇・四六倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、五月〇・七九倍の後、六月〇・八二倍となった。雇用者数は、減少している。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、六月は前年同月比一・三%減(前年同月差七十万人減)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、五月前年同月比〇・四%減(季節調整済前月比〇・一%減)の後、六月(速報)は同〇・五%減(同〇・一%減)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比一・四%減)、産業別には製造業では同二・四%減となった。六月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差十四万人増の三百二十八万人、完全失業率(同)は、五月四・六%の後、六月四・九%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では五月前年同月比〇・一%増(季節調整済前月比二・九%増)の後、六月(速報)は同〇・〇%(同一・〇%減)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比一・五%減)。
 企業の動向をみると、企業収益は、持ち直しの兆しがみられる。また、企業の業況判断は、厳しい状態にあるが改善傾向にある。
 前記「全国企業短期経済観測調査」(六月調査)によると、大企業(全産業)では、経常利益は十年度下期には前年同期比一三・四%の減益の後、十一年度上期には同七・二%の減益が見込まれている。産業別にみると、製造業では十年度下期に前年同期比三三・〇%の減益の後、十一年度上期には、同一九・四%の減益が見込まれている。また、非製造業では十年度下期に前年同期比七・二%の増益の後、十一年度上期には同四・九%の増益が見込まれている。売上高経常利益率は、製造業では十年度下期に二・七一%となった後、十一年度上期は二・八五%と見込まれている。また、非製造業では十年度下期に二・二七%となった後、十一年度上期は二・一〇%と見込まれている。こうしたなかで、企業の業況判断をみると、製造業、非製造業ともに「悪い」超幅が縮小した。
 また、中小企業の動向を中小企業金融公庫「中小企業動向調査」(六月調査、季節調節値)でみると、売上D.I.(「増加」−「減少」)は、十一年四〜六月期は「減少」超幅が縮小し、純益率D.I.(「上昇」−「低下」)は、「低下」超幅が縮小した。業況判断D.I.(「好転」−「悪化」)は、十一年三月期は「悪化」超幅が縮小した。
 企業倒産の状況をみると、件数は、春先からやや増加しているものの、信用保証制度の拡充の効果などから前年の水準を大幅に下回っている。
 銀行取引停止処分者件数は、六月は八百七十七件で前年同月比二四・一%減となった。業種別に件数の前年同月比をみると、建設業で三〇・八%、製造業で二四・五%の減少となった。

3 国際収支
―輸出は、アジア向けが回復傾向にあるが、全体としては横ばい状態―

 輸出は、アジア向けが回復傾向にあるが、全体としては横ばい状態にある。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で五月四・〇%減の後、六月は七・四%増(前年同月比二・七%増)となった。この動きを品目別(金額ベース)にみると、電気機器等が増加した。同じく地域別にみると、アジア等が増加した。
 輸入は、緩やかな増加の動きがみられる。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で五月七・一%減の後、六月五・七%増(前年同月比六・六%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、鉱物性燃料、製品類(繊維製品)等が増加した。同じく地域別にみると、アジア、中東等が増加した。
 通関収支差(季節調整値)は、五月に一兆五百四十九億円の黒字の後、六月は一兆五百四十七億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。
 五月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、貿易収支の黒字幅が拡大するとともに、サービス収支の赤字幅が縮小したため、その黒字幅は拡大し、七千五百九億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、貿易・サービス収支及び所得収支の黒字幅が拡大するとともに、経常移転収支の赤字幅が縮小したため、その黒字幅は拡大し、一兆二千九百六十六億円となった。投資収支(原数値)は、九千五十七億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、一兆二千七百九十二億円の赤字となった。
 七月末の外貨準備高は、前月比百四十三億ドル増加して二千六百七億ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、七月は月初の百二十円台から百二十二円台に下落した後、下旬にかけて百十五円台まで上昇した。一方、対ユーロ円相場(インターバンク十七時時点)は、七月は月初の百二十五円台から百二十二円台まで上昇した後、月末には百二十三円台に下落した。

4 物 価

―国内卸売物価は、このところ下げ止まりの動き―

 国内卸売物価は、このところ下げ止まりの動きがみられる。
 七月の国内卸売物価は、電気機器(カーオーディオ)等が下落したものの、電力・都市ガス・水道(業務用電力)等が上昇したことから、前月比〇・二%の上昇(前年同月比一・五%の下落)となった。輸出物価は、契約通貨ベースで下落したことに加え、円高から円ベースでは前月比〇・六%の下落(前年同月比一一・六%の下落)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで上昇したことから、円ベースでは前月比〇・六%の上昇(前年同月比一〇・〇%の下落)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比〇・二%の上昇(前年同月比三・八%の下落)となった。
 企業向けサービス価格は、六月は前年同月比一・二%の下落(前月比保合い)となった。
 商品市況(月末対比)は石油等は上昇したものの、「その他」等の下落により七月は下落した。七月の動きを品目別にみると、C重油等は上昇したものの、天然ゴム等が下落した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で五月保合いの後、六月は一般食料工業製品の上昇幅の縮小等の一方、その他工業製品の下落幅の縮小等により保合い(前月比〇・一%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で五月〇・四%の下落の後、六月は〇・三%の下落(前月比〇・三%の下落)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で六月〇・一%の下落の後、七月(中旬速報値)は、外食が保合いから上昇となったこと等により保合い(前月比〇・三%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で六月〇・四%の下落の後、七月(中旬速報値)は保合い(前月比〇・四%の下落)となった。

5 金融財政
―株式相場は、上旬から中旬にかけて上昇した後、下落―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、七月は横ばいで推移した。長期金利は、七月はおおむね横ばいで推移した。株式相場は、七月は上旬から中旬にかけて上昇した後、下落した。M+CDは、六月は前年同月比四・三%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレート、二、三か月物ともに、七月は横ばいで推移した。
 公社債市場をみると、国債利回りは、七月はおおむね横ばいで推移した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、前月比でみると六月は短期は〇・〇〇三%ポイント上昇し、長期は〇・〇〇九%ポイント低下したことから、総合では〇・〇〇五%ポイント上昇し一・七二三%となった。
 マネーサプライをみると、M+CD(月中平均残高)は、六月(速報)は前年同月比四・三%増となった。また、広義流動性は、六月(速報)は同四・〇%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関(全国銀行)の貸出(月中平均残高)は、六月(速報)は前年同月比五・七%減(貸出債権流動化・償却要因等調整後一・二%減)となった。七月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債が五百五十億円となった。また、国内公募事業債の起債実績は五千九百八億円となった。
 民間金融機関の貸出は依然低調であるが、企業金融のひっ迫感はやや緩和している。
 株式市場をみると、日経平均株価は、七月は上旬から中旬にかけて上昇した後、下落した。

6 海外経済
―米ドル、減価―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、先行きにやや不透明感がみられるものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、九九年一〜三月期前期比年率四・三%増の後、四〜六月期は同二・三%増(暫定値)となった。個人消費、設備投資は増加している。住宅投資は一〜三月期の大幅増の反動もあり、伸びが鈍化している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大しているものの、製造業等では輸出減の影響もあり減少している。雇用者数(非農業事業所)は五月前月差〇・五万人減の後、六月は同二六・八万人増となった。失業率は六月四・三%となった。物価は総じて安定している。六月の消費者物価は前年同月比二・〇%の上昇、生産者物価(完成財総合)は同一・五%の上昇となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。七月の長期金利(三十年物国債)は、中旬に低下したものの、下旬に上昇した。株価(ダウ平均)は、月初に上昇し高水準で推移したが、中旬以降下落した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は緩やかに減速しているものの、回復の動きもみられる。フランスでは、景気拡大のテンポは緩やかになっている。イギリスでは、景気は減速しているものの、回復の動きもみられる。実質GDPは、ドイツ九九年一〜三月期前期比年率一・八%増、フランス同一・八%増、イギリス四〜六月期同一・八%増(速報値)となった。鉱工業生産は、ドイツ、イギリスでは減少傾向にあるがそのテンポが緩やかになってきており、フランスではほぼ横ばいで推移している(五月の鉱工業生産は、ドイツ前月比〇・一%増、フランス同〇・六%増、イギリス同〇・一%増)。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準ながらもやや低下しており、イギリスでは低水準で推移している(失業率は、ドイツ六月一〇・五%、フランス六月一一・三%、イギリス六月四・四%)。物価は、安定している(消費者物価上昇率は、ドイツ七月前年同月比〇・六%(速報値)、フランス六月同〇・三%、イギリス六月同一・三%)。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポはこのところ鈍化している。物価の下落幅は拡大傾向にある。韓国では、景気回復の動きが続いている。失業率は高水準ながらも低下している。
 国際金融市場の七月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、月前半は増価したものの、後半は大きく減価した。モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)をみると、七月三十日現在一〇八・五、六月末比二・三%の減価となっている。内訳をみると、七月三十日現在、対円では六月末比五・六%減価、対ユーロでは同三・四%減価となった。
 国際商品市況の七月の動きをみると、CRB商品先物指数は、月央まで下落基調で推移し、五か月振りに一八五ポイント割れを記録したが、その後は回復し月初の水準まで戻した。原油スポット価格(北海ブレント)は、中旬までほぼ一本調子で上昇し、下旬には一時弱含む場面がみられたが、十九ドル台で推移した。






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九月の気象

 九月になると北から南へ、山から里へと足早に秋がやってきます。北海道ではさわやかな秋晴れの日が多くなります。一方、本州付近では、夏の間日本を広く覆っていた太平洋高気圧の勢力が弱まると秋雨前線が停滞しやすくなり、残暑が終息したころ秋の長雨となる所が多くなります。
 また、九月は日本列島が台風の通り道に当たる季節でもあり、過去に大きな災害をもたらした台風の多くが襲来しています。
◇気温と日照
 気温の日別平年値をみると、気温の下がり方が一年のうちで大きいのは、九月から十一月にかけてとなっています。中でも九月は、八月下旬の緩やかな下がり幅が大きく変化する時期に当たります。気温の下がり方は、地方によって異なります。
◇台風と秋雨
 立春から数えて「二百十日(九月一日ごろ)」、あるいは「二百二十日」に当たる日は、台風を警戒する日とされています。台風の月別発生数や接近数は統計的には八月が最も多いのですが、九月の台風は勢力を保ったまま日本を縦断するようなコースをとることが多く、過去に大きな被害をもたらした台風は、いずれも九月に上陸または接近しています。
 日本付近に秋雨前線が停滞しているときには、台風の接近により前線活動が活発となることがあり、台風の中心がまだ南海上にある場合でも、大雨に対する注意が必要です。台風の接近前から雨が降り続いていた場合には、土砂災害が起きやすい状態になっていますので、各地の気象台が発表する最新の台風情報や注警報をご利用のうえ、一層の警戒をお願いします。
(気象庁)



    <9月16日号の主な予定>

 ▽首都圏白書のあらまし………………………………国 土 庁 

 ▽平成十年平均消費者物価地域差指数の概況………総 務 庁 




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