官報資料版 平成11年10月13日




                  ▽経済白書のあらまし…………………………経済企画庁

                  ▽普通世帯の消費動向調査(六月)…………経済企画庁

                  ▽月例経済報告(九月報告)…………………経済企画庁

                  ▽単身世帯収支調査結果の概況

                   ―平成十一年一〜六月期平均速報―………総 務 庁











経済白書のあらまし


―経済再生への挑戦―


経済企画庁


 平成十一年度「年次経済報告(経済白書)」は七月十六日に閣議に配布された。
 本報告は、通算五十三回目に当たり、「経済再生への挑戦」という副題を付けている。
 経済白書のあらましは次のとおりである。
 第一章では、景気動向や諸政策の効果などについて分析している。景気は、九九年六月現在、個人消費や設備投資など民間需要が低調なため厳しい状況にあるが、各種の政策の効果も出てきている。
 第二章では、雇用、設備、債務が過剰に至った背景や、いわゆるリストラの実態について検討し、今後のあるべき方向性について考察している。企業の体質改善は不可避な課題であるが、雇用面の副作用を小さくすることや、企業活動の前向きな再編が進むことが重要と考えられる。
 第三章では、新しいリスク秩序について検討している。含み益の減少などから、金融機関のリスク負担力が低下したことに加え、メインバンク制、終身雇用等の諸慣行も弱まり、家計、企業、金融機関等の行動が慎重になっている。前向きの経済活動を増やしていくためには、経済が全体として上手くリスクを分散・管理していけるよう金融面の環境を整備することや、教育や企業を取り巻く風土が前向きの挑戦を促進する方向に変化していくことが重要であると考えられる。
 こうした分析を踏まえ、本報告では、不況脱却の戦略として、副作用の少ない形で供給面の改革を進めることが必要であるとしている。以下、詳細を説明する。

第1章 政策効果に下支えされる日本経済

≪概観≫(第1節)
 景気は、九九年六月現在で民間需要の回復力が弱く依然として厳しい状況にある。九七年十〜十二月期以降、5四半期連続のマイナス成長の後、九九年一〜三月期には前期比プラス一・九%成長となるなど、政策効果に下支えされて明るい動きも見え始めている(第1図参照)。
 今回の不況では、三つの不況の環(悪循環)が生じて、景気後退が深刻化した。需要の減少が生産の減少を招いて所得が減少し、これが更に需要を減少させるという、通常の不況期にみられる不況の環が生じていただけでなく、金融システムと家計の不安を通じた不況の環も生じており、これが景気後退を一層深刻なものとした。
 九七年秋の大手金融機関の相次ぐ破綻を契機として、金融機関の財務内容に対する評価が厳しくなった。これに伴い、金融機関の自己資本不足を背景に金融機関の貸出態度が慎重となった影響などにより、中小企業を中心に設備投資が減退し、資産価格の下落から金融機関などで含み益が減少したり評価損が発生したりして、金融機関の自己資本の制約が一層強まり、金融システムを通じた不況の環が生じた。
 また、大手金融機関等の破綻が家計の雇用の安定や賃金の見通しについての不安を高めた。また、我が国財政の将来に対する悲観的認識が広まり、家計の不安が強まった可能性もある。将来所得の低下や将来所得の不確実性の高まりといった不安を家計が抱くようになり、家計の不安を通じた不況の環が生じた。
 しかし、金融システム安定化策、金融緩和政策、貸し渋り対策などにより、金融システムを通じた不況の環は改善してきている。公共投資や住宅減税などの政策効果、アジア向け輸出の底打ち、在庫調整などが進展し、生産・所得・需要の不況の環にも歯止めがかかっている。また、景気の下げ止まりや金融システム不安の後退、企業倒産件数の減少、株価の持ち直しを通じて家計不安を通じた不況の環も緩和してきている。こうした中、デフレスパイラル懸念も後退してきている。
 需要の減退に応じて企業は調整を進めてきたが、@残業や稼働率の調整が先行し雇用調整が遅れたことから、労働分配率が高まり企業の利益率が低下したこと、A含み益というバッファーが払底したこと、B市場が企業の収益性を厳しく評価したことから、設備、雇用、賃金の調整圧力が高まっている。個別の企業にとってみれば、収益性を重視して雇用や賃金の調整圧力を強めるのは合理的な行動であるとしても、消費の回復力が弱い中で、今後の雇用情勢によっては、家計不安を通じた悪循環に再び陥るリスクも否定できず、合成の誤謬(ごびゅう)―個別企業は立ち直ってもマクロ経済が悪化すること―の可能性が存在することにも留意すべきである。
≪リスク高まる企業と設備投資≫(第2節)
 九七年度後半以降に設備投資が減少した特徴的な要因としては、以下の三つが挙げられる。
 第一に、自己資本不足が金融機関の貸出を制約したことである。バブル崩壊後の企業業績の悪化・資産価格の下落→不良債権の増大→金融機関の自己資本の減少→貸出態度の慎重化→中小企業の資金制約→中小企業の設備投資を抑制、というメカニズムと金融機関の貸出態度の慎重化が、企業の資金繰りの悪化を通じ、企業倒産の増大にも影響した可能性がある。
 第二に、企業収益の減少が続いていることである。九八年度企業収益は製造業を中心に大幅に減少しており、規模別には九八年前半には中小企業の収益の落ち込みが著しかったが、後半以降は大企業の収益も大幅に減少した。
 第三に、期待成長率が低下していることである。期待成長率が低下している背景には、@景気低迷の長期化、A潜在生産能力の伸びの中長期的な低下が考えられる。
 政府の金融システム安定化策や貸し渋り対策等により、企業の資金繰りはやや改善している。九八年十月の中小企業安定化特別保証制度の創設後、企業の倒産件数は前年に比べて大幅に減少している。また、法人税制改革の効果により、法人課税の実効税率が低下し、資本コストの低下よりも収益の増加を通じて投資を促進させる効果が期待できる。
≪高まる雇用調整圧力≫(第3節)
 雇用情勢は急激に悪化している。雇用者数は九八年第2四半期以降、前年比で減少が続いている。特に中小企業の雇用吸収力の低下が著しい。有効求人倍率が過去最低の水準になっていることに加え、非自発的な理由による失業者が急速に増加し、失業率は過去最高の水準で推移している。雇用情勢が厳しさを増すとともに、企業の雇用過剰感も急速に上昇している。これはバブル期に余剰人員を抱え、その調整が遅れたため、企業の人件費負担が上昇したことが背景にある。
 九八年は第一次オイルショック後に匹敵する急速な雇用者数の調整が行われた。これまでは残業規制等の比較的緩やかな雇用調整の手段が主であったが、「希望退職者の募集・解雇」といった厳しい雇用調整を行う事業所の割合が上昇している。
 労働力需要の不足による失業とともに、構造的・摩擦的要因による失業者が増加している。年齢間のミスマッチが拡大しており、産業間・職業間の労働移動も現実的には困難である。景気の回復による労働力需要の喚起のみならず、これらの構造的問題を解決する必要もある。
≪家計支出の回復に向けて≫(第4節)
 これまでの不況期においては、消費は景気の落ち込みをある程度緩和する役割を果たしてきたが、今回の景気後退局面においては、景気下支え効果を発揮しなかった。消費の変動は所得の変動よりも小さく、不況期に所得が減少すると、消費性向が上昇して景気を下支えする効果(ラチェット効果)が働いていたが、九七年度、九八年度にはラチェット効果はほとんど働かなかった。
 消費低迷の背景には消費者マインドの悪化が影響しているが、中でも期待所得の伸びの低下と雇用不安や高齢社会に向けた老後への不安などによる将来所得の不確実性の拡大が大きく影響している。
 九八年末からは、減税や公共投資等の政策効果が徐々に現れて景気が下げ止まり、自動車や家電などの耐久財消費や住宅投資に持ち直しの動きが見られている。また、消費者マインドの悪化にも歯止めがかかっている。
 消費の回復に向けては、現在所得の増加に加えて、将来所得が増加するという確信を持てるような施策が必要となっている。そのためには、規制緩和などの構造改革を進めて雇用機会を創出すること、国民の需要に適切に対応する安定した社会保障制度の構築を図り、高齢化社会における国民の不安を取り除くといった政策対応が求められている。
≪戻りつつあるアジア経済との好循環≫(第5節)
 円の対ドルレートは、九五年半ば以降円安基調で推移していたが、九八年八月以降反転し円高基調になっている。円高は輸出数量の減少と、輸入数量の増加をもたらし、輸出企業にとっては業種や企業規模により収益の下押し圧力になりやすく、また、輸入企業にとっては交易条件の面から、収益の改善要因となっている。
 九八年の経常収支黒字は過去最大となっており、対名目GDP比率も三・二%に上昇した。この要因としては、@輸出以上に輸入が大幅に減少したことによる貿易黒字の増加、A日本人出国者数の減少によるサービス収支の赤字幅の縮小、B証券投資収益の増加による所得収支の黒字幅の拡大が挙げられる。
 アジア通貨危機後、減少していたアジア向け輸出入は、持ち直しの動きがみられ、日本とアジアの分業関係は通貨危機の混乱を脱し好循環が戻りつつある。アジア日系企業の業況にも一部に回復の動きがみられる。なお、邦銀の不良債権処理は現地の金融システム改革の行方が影響し、引き続き要注意である。
≪おおむね横ばいで推移している生産≫(第6節)
 GDPに対する在庫の割合は一%程度であるが、景気後退局面においては、景気変動を増幅する効果もある。景気後退局面入り後(九七年四〜六月期)も、需要の大幅減により、在庫は減らなかった(九八年一〜三月期まで)。九八年四〜六月期以降、減産が本格化し、九九年一〜三月期まで在庫は四期連続で減少した。これは、企業が需要減の見通しを立てていたが、それを上回る大幅な需要の減少が生じたため、在庫が積み上がったことによる。
 在庫調整を困難にした需要(出荷)の減退の要因としては、@九七年中は輸出が出荷を下支えしたが、九八年は国内外向けともに減少し、九九年半ばには最終需要の動きを背景にほぼ下げ止まっている、A国内向け出荷減少の主要因としては、九七年は消費財であったが、九八年は資本財であった。
≪後退したデフレスパイラル懸念≫(第7節)
 デフレスパイラルとは、物価の下落によって企業の売上高が減少し、賃金などは短期的に下方硬直的であるために企業収益が減少し、企業行動が慎重化して設備や雇用の調整をもたらし、設備投資や個人消費などの需要の減少により物価が下落するという悪循環である。九八年は、需給ギャップの拡大が国内卸売物価等の下押し圧力となった。その後、九八年四月の総合経済対策、十月の緊急経済対策、九九年二月の金融緩和などの政策効果により、九九年第1四半期のGDP・GDPデフレータはともに上昇した。物価の下落は、交易条件の改善を通じて、むしろ企業収益を下支えしている。
 アンチ・デフレ政策とは、金融緩和によって、@期待物価上昇率を高めることにより実質金利を低下させ設備投資等を下支えするとともに、A資産価格の下落に歯止めをかけることで実質経済の悪化に歯止めをかける、というものである。この政策は、為替レートの減価を通じた輸出の促進や資産価格の上昇により設備投資や消費を刺激するなどの効果が期待されるが、予想以上のインフレが生じた場合のコストを考えると政策の効果を慎重に判断する必要がある。
≪景気を下支えする財政政策≫(第8節)
 極めて厳しい財政状況下で、「総合経済対策」「緊急経済対策」を受けた公共事業の切れ目ない施行がなされている。公的固定資本形成・公共工事着工などは堅調に推移しており、公共投資は景気を下支えしている。また、所得の低い地域の落ち込みも緩和している。
 地方財政の現状をみると、九七年度の決算規模(普通会計)は、歳入・歳出とも五十一年度以降初めて前年を下回った。公債費負担率は六年連続で上昇しており、第一次オイルショック以降で最も高水準となっている。また、九九年度の地方財政計画をみると、地方税が前年度比でマイナス八・三%となるなど、歳入面ではかなり厳しい状況であるが、行政経費の抑制を基本としつつ、当面の景気回復に配慮し、前年度比一・六%増となっている。
 九九年度においても、予算・支出ベースともに前年を一〇%超える伸びを確保することが決まっており、上半期における公共事業等の積極的な施行の促進が期待されている。契約については上半期に相当程度進むことが期待されており、公共工事には工期の長いものが相当含まれることから、下半期には事業の実施が進み、公共投資は堅調な推移が期待される。
≪金融市場の動向と金融政策≫(第9節)
 景気低迷の深刻化・長期化、金融システム不安の高まりと落ち着きなどを背景に資金の流れにも変化がみられた。日銀券、マネーサプライ(M+CD)、貸出の伸び率に大きな差が生じた。また、資金循環表をみると、これまでの「個人部門の資金余剰と、企業部門、公的部門、海外部門の資金不足が見合うパターン」から、九〇年代半ば以降は、「個人部門と企業部門の資金余剰と、公的部門と海外部門の資金不足が見合うパターン」に変わってきている。
 九八年九月、九九年二月と日本銀行は一段の金融緩和に踏み切り、実質ゼロ金利になった。二月以降、コール市場の残高は縮小しているが、市場が混乱しているわけではない。また、年末から年始にかけて長期金利が大きく上昇したが、国債発行増、金融市場の落ち着き(過度の安全資産選好の落ち着き)、実体面の下げ止まり期待などが背景にある。
 九九年三月末の七兆円を超える公的資金による資金増強により、邦銀に対する市場の警戒感は薄らぎ、ジャパンプレミアムはほぼ解消されている。各行とも、貸出を伸ばしながら収益性を改善していく計画であり、不良債権の処理が進展し、銀行の収益性・健全性が回復し、増資等で自己資本が回復すれば、貸出回復の下地になると考えられる。
≪変革を迫られる日本経済≫(第10節)
 多様な知恵の時代への移行に伴うハイリスク・ハイリターン化、市場化やグローバル化に伴うリスク管理の必要性の増大からリスクに挑戦することが、新しい時代の経済成長の条件となっている。
 一方で、「あえてリスクに挑戦しなくても、これまでどおりの生産と消費を行い、ゼロ成長で十分ではないか」というシナリオもあるが、このようなシナリオを採用すると、生産面では、日本の輸出品が陳腐化し、外国製品に比べて見劣りがするようになる。また消費面では、消費者の購入意欲をそそるような新製品は海外で開発されることになり、輸入が増える。従来型の製品に対する内需・外需ともに減少する。進歩のない経済は若い人に夢を与えられず、有為な人材が流出し、社会が停滞してしまうことになる。よってリスクに挑戦することなくしては、没落は避けられない。
 また、「もう買うものがないわけではない」。住宅、保育、介護、環境などの面での潜在的な需要が強いことを考えると、こうした分野での消費が進むような環境を整備していけば、より安心感とゆとりのある生活が実現できることが期待される。

第2章 リストラの背景と実態

≪リストラの長期的背景≫(第1節)
 バブルの崩壊以降長期にわたって景気が低迷する中、政府は累次の経済対策などで景気の下支えを試みてきたが、民間需要の自律的回復はいまだ始まっていない。こうした中で、企業はいわゆるリストラの動きを強めている。リストラとは企業が、資本、労働、技術など各種の生産要素の組み合わせや業務内容を見直して、再編成することを意味している。多くの企業でいわゆるリストラが検討されるようになった背景には、以下のような日本的経営の行き詰まりがあると考えられる。
 株式持合い、金利の横並び、含み益の存在などを背景に、経営者は資本市場からの圧力を余り感じない形で企業の経営を行い、そうした下で経営目標としては企業の成長やシェア拡大が重視された。成長が見込まれ、競争圧力の少ない市場にあっては、当面の利益は少なくても早期に占有率を高めておくことが重要であり、また行政に実績重視・業界秩序尊重の色彩が強かった。こうした中で、追い付き型成長が終焉(しゅうえん)し、目標を失った資金は土地や株式などの資産を高騰させ、バブルが発生し、企業の非効率な部門が拡大した。
 バブルが崩壊し景気が低迷しても、企業の含み益や政府の経済対策に依存し、企業体質改善のテンポは緩やかなままであった。また、雇用のコストを固定費化させるような長期雇用慣行も体質改善が緩やかになる背景となった。
 本章では、こうした背景で生じた雇用・設備・債務の過剰について検討しているが、これらは相互に関係している。こうした中で、以下のような方向性が求められている。
 第一は、企業の体質改善である。これまでの資本効率を軽視し、規模拡大を志向する戦略は多くの面で限界に来ている。仮にこうした状況の下で、企業が含み益を使い続け、また政府の需要面の刺激策に頼り続ければ、一層急速な調整を迫られる。言わば籠城型のシナリオでは、兵糧が減少していく状況が企業の従業員や国民にも推察され、将来の不安が高まっていく。企業の体質を改善し、本来の意味での生産的な業務を増やすことで、希望と安心感が生まれていくことになろう。
 第二は、体質改善に伴う副作用を小さくすることである。中高年のホワイトカラーは人口構造、情報化、職業転換の面でも不利であり、リストラの影響を集中的に受けかねない。能力と適性にあった業務に就きやすい労働市場の整備が必要である。
 第三は、企業の前向きな再編努力の促進である。現在の需要に応じて雇用や設備を調整すれば、単純削減型のものとなり、経済全体では相乗効果をもって不況の一層の深刻化になりかねない。企業には、新規業務の実施や業務再編、合併や吸収など、前向きの形で効率を上げる努力が期待される。企業再編の制度的環境を整備し、前向きの挑戦と雇用や設備の再利用をファイナンスする資金の流れが必要である。
≪リストラ圧力の高まり≫(第2節)
 リストラ圧力の高まりの背景としては以下の四点が挙げられる。
 第一に、期待成長率が低下したことである。景気の自律的な回復のためには、これまで先送りにされてきた供給面の改革を副作用の少ない形で進め、企業の体質を改善し、企業の元気を回復させていくことが必要であるという認識が高まった。
 第二に、含み益が底を尽きつつあることである。これまでは含み益があったために、企業改革は新規雇用の削減など比較的マイルドなものであり、非効率な設備や雇用を有効に活用する努力の必要性に認識の遅れがみられた。しかし、バブル期のピーク時に比べ、含み益は三分の一に減少した。株式の含み益の減少は株式持合いを弱め、新市場の監視機能を強化していく効果を持つものと考えられる。
 第三に、自由化・国際化した資本市場からの圧力の高まりである。含み益の減少や株式持合いの減少は、経営者の裁量の余地を狭め、資本市場から企業の収益性が厳しく問われるようになってきた。
 第四は、人口構造の側面である。ベビーブーム世代が五十歳前後に達し、年功序列的賃金体系の下で、賃金面、ポスト面での処遇がいよいよ困難になってきたことが雇用削減の動きの背景にある。
 こうした中、近年、リストラの手法としてM&Aが注目されており、特に外資系企業によるM&Aが多数みられる。この場合、収益重視の観点から、非効率な部門は雇用を含めて整理し、その対抗上、他の企業も同様の効率化を図る可能性がある。
≪雇用面の動き≫(第3節)
 マクロ的にみた、いわゆる過剰雇用を、日銀の雇用人員判断D.I.から推計すると、九九年三月末時点では二百二十八万人と景気の後退に伴って大幅に増加している(第2図参照)。特にホワイトカラーの労働者は雇用調整が遅く、雇用調整に時間を要する構造となっている。
 雇用削減の急速な進展に伴って、長期雇用がなくなるのではないかといった懸念が生じている。九〇年代に成長率の低下に伴い、期待成長率も低下し、長期雇用労働者の雇用調整が必要になっている。期待成長率の低下、企業間格差の拡大などにより、従来の年功型賃金体系での処遇が困難になってきた。
 米国では情報化による雇用創出効果が労働代替効果を上回り、雇用の創出に大きく寄与しているが、(ロボット導入では米国に先んじた)日本では逆に下回っている。情報化は、ホワイトカラー層の雇用に影響を与えている。
 以上みてきたとおり、企業は依然として過剰な雇用を抱えており、その調整が今後も続くと見込まれる。国際競争の激化や不確実性の高まりの中で企業特殊的能力の重要性は低下し、会社人間化の弊害も現れてきている。企業特殊的な性格の強い事務労働者は、いったん離職すると離職期間が長くなっている。転職に要する期間が長いと賃金が低下する割合が高まっている。
 こうした中、転職意識には変化がみられ、特に若年層で転職希望率が高まっている。企業の雇用維持志向は依然として高いものの、悪化する業績との間でジレンマに陥っている。
 長期雇用の比率は今後低下すると見込まれるが、我が国においては長期雇用のメリットが大きく、長期雇用は引き続き大きな部分を占めると考えられる。企業には、必要に応じ、分割、合併、再編も含め、幅広い観点から従業員の活用方策を着実に進め、調整の痛みを可能な限り緩和していくことが求められる。
 労働移動の増大に対応して、労働者には普遍的能力の蓄積が、企業には企業活動の再編や企業内起業が、公的部門にはセイフティ・ネットの充実が求められている。
≪いわゆる過剰設備≫(第4節)
 近年、設備についても過剰感が高まっている。資本係数の推移などをみても、トレンドを大きく上回って上昇している動きをみせており、大幅な過剰設備の存在についての議論がなされている。
 過剰設備の大きさを推計すると、需給ギャップからみた過剰設備は九八年末で約三十五兆円であり、期待成長率や相対価格なども考慮した企業からみた過剰設備は同約四十一兆円となっている(第3図参照)。今後三年間の成長率が〇・八%(二・〇%)で、将来の期待成長率も同様の場合、設備投資が年率マイナス五・五%(七・一%)で推移すると、三年後には設備過剰感が最近の谷(九七年六月)程度の水準に低下すると考えられる。
 過剰設備の現状について、除却率からみると、足許は低い水準となっており、企業が設備過剰感を高める中で設備投資を抑制しており、設備の保有年数を長期化させていることによる。設備のビンテージ(設備の平均的な経過年数)も長期化しており、老朽化による生産性の低下、新たな技術の導入の遅れなどの可能性が懸念される。
 業種別に過剰設備の現状をみると、装置型業種で設備の老朽化が高まっている。バブル期の高い成長見通しのもとで投資が生産能力に結びつくまで時間がかかり、その間に需要が低迷して過剰設備が積み上がったことが考えられる。
≪企業債務≫(第5節)
 企業債務は、企業におけるリストラの必要性の一貫として強く認識されている。バブル期に膨れ上がった過剰債務は長期にわたって問題が指摘されているにもかかわらず、いまだに消化されていない。
 企業債務の実態をみると、売上高債務残高比率はバブル期に上昇し、その後、低下していない。特に、バブル期に不動産に大量の資金を投入した業種で顕著となっている。過剰債務による利払い負担は、人件費等のコスト削減だけで解決できる問題ではない。
 過剰債務の存在は、企業の経営を本来の状態とは異なった形に歪(ゆが)める可能性がある。新たな事業の構築、拡大、効率化、安定化といった健全な企業が本来行う前向きの業務だけでなく、資金繰りや不良資産の処理に奔走するといった、後ろ向きな仕事が企業にとってより重要な業務となってくる。企業が本来の健全な環境で業務に当たっていれば発生し得なかった非効率が生じることは、企業と銀行の負担の合計が時間とともに増加するという関係になっている。
 こうした問題を解消するためには、不採算な事業を切り離す必要性がある。これを実現するためには、財務内容の情報開示、金融仲介機能の回復・強化、債務の株式化が必要である。債務の株式化を進めるためには、三つの原則が考えられる。第一に債権の一部放棄を強制しないこと、第二に制度的に障害がある場合にはそれを取り除き、当事者の合意が円滑に実現しやすくすること、第三に今後のモラルハザードを防止するため、債権放棄を行う場合には、経営者だけでなく既存株主も含めて責任を明確化することである。
 企業の過剰債務は、金融機関からみれば過剰貸出である。企業の「債務のリストラ」の裏返しとして、銀行の「貸出のリストラ」も強く認識されている。不良債権の償却については、九二年度以降九七年度までで累計約四十六兆円(全国銀行ベース)が償却・引当てされた。諸外国でも同様の不良債権問題が発生したが、大きく異なったのはその後の処理のスピード等であり、「先送りのコスト」により様々な重大な弊害をもたらした。
 同時に、銀行数やその支店数や従業員数など銀行部門の経営資源についても過剰であるとの指摘もあり(いわゆるオーバーバンキング)、多くの銀行で経営資源の見直し・縮小、金融機関の提携・合併が急ピッチで進行中である。G5諸国で銀行のリストラ状況を比較すると、我が国の銀行は、不良債権処理等で収益が低下している一方で、雇用者数や金融機関数などでみた銀行部門の規模の縮小は、これまではほとんどみられていなかった。
≪企業の体質改善≫(第6節)
 雇用・設備・債務の三つの過剰はそれぞれに関連している。設備の過剰については、過剰設備の維持費のかなりの部分が人件費であり、雇用が別の方向で活用される途が開けば、設備の処理も進みやすくなる。債務の過剰と設備の過剰については、債務の重圧が経営者の行動を歪め過剰な設備の処理を遅らせることになる。
 これまでの考察をまとめると、いわゆるリストラの在り方については三つの考え方がある。
 第一に、企業の体質改善は不可避であることである。資本効率を軽視し、シェア重視、規模拡大を志向する戦略は多くの面で限界に来ている。非効率な生産要素の保蔵は景気回復にマイナスとなる。企業の含み益と政府の経済対策に依拠した籠城型のシナリオは将来、より急激な調整を必要とする。企業の体質改善、生産的な活動の増加を通じた希望と安心感の醸成が不可欠である。
 第二に、体質改善のための副作用を小さくすることである。中高年ホワイトカラーへのリストラのしわよせを回避し、能力にあった業務に就きやすい労働市場を整備し、職業能力開発や雇用保険などにおける配慮をすべきである。
 第三に、企業の前向きな再編努力とそれを引き出す環境整備である。需要にあわせた雇用・設備の削減のみでは経済全体が縮小するため、新規業務の実施や業務再編、合併や吸収など、資本設備も含めて前向きの形で効率を上げることが必要となっている。企業再編の制度的環境の整備、前向きの挑戦と雇用や設備の再利用をファイナンスするリスクマネーの必要性が高まっている。

第3章 新しいリスク秩序の構築に向けて

≪これまでのリスク負担秩序≫(第1節)
 従来の日本的経済システムのリスク処理機能は以下のような三つの特徴を持っていた。第一に、暗黙のルールという、各種のルールが明示的なものではなく、長期的・継続反復的な取引慣行の下での信用に基づく期待という性格の強いものであった。第二に、ルールが明示的なものでなかったため、ルールが破られた場合に、期待が裏切られた当事者は損害を回収しにくいという、再構築が困難なものであった。第三に、成長期待と地価上昇に依存してきた。これまでは先進国のお手本を追うという点でリスクが小さかった。また、地価の上昇期待が強く、土地は担保や含み益の源泉として機能していた。さらに行政当局がかなりの調整力を持っていた。
 我が国では豊富な個人の金融資産が銀行へ預金の形で保有され、銀行はそれを貸し出して、企業の生産、投資活動に資してきた。しかし、銀行は企業の信用リスクに見合ったリターンを求めず、担保に依存してきた。八〇年代後半から銀行は中小企業向けの貸出を積極化したが、中小企業向けの貸出のウエイトが上昇した割には利鞘(りざや)はそれほど変化していない。リスクが顕在化したときには株式等の含み益をバッファーとして利用し、逆にいえばいざというときにバッファーとなる含み益があったからこそ、積極的に貸出に応じ、信用リスクを低下できたといえる。銀行の損失がかさみ、経営危機に陥った場合のこれまでの対応は、他の銀行から支援を受けたり、吸収・合併されるという形での問題処理が行われてきた。
 このように、リスクは長期的な信頼関係の中で関係者全体、あるいは社会全体で負担する形となっており、言わば「リスクの社会化」ともいえる状況が続いてきた。
 こうした中で、リスクを伴う新しい分野への挑戦のための資金は、大企業中心に生じていた含み益と、中小企業向けの土地担保融資の二つのルートから供給されてきたが、バブルの崩壊後、ともに著しく縮小している。
≪リスク秩序の崩壊≫(第2節)
 バブル崩壊後も土地神話は根強く残っており、この間、資産価格の実体経済に与える影響を結果的に過小評価し、資産価格の低下の背景にある不良債権問題の抜本的な先送りをしながら、需要拡大策で対応してきた。このツケが九七年末の一連の金融破綻となって現れ、「銀行や大手企業は潰れない」、「社債やコール市場のデフォルト(債務不履行)はない」、「いざというときにはメインバンクが助けてくれる」、「母体行は他の債権者に迷惑をかけない」といった、いわゆる「暗黙のルール」は次々と破綻した。
 「貸し渋り」の「暗黙のリスク負担ルール」へのインプリケーションとしては、以下のようなことが考えられる。中小企業にとって銀行借入以外に資金調達の手段が閉ざされていた。銀行借入は特段の事情がない限りロールオーバーされ、自己資本に近い位置付けとなっており、貸し渋りは中小企業からみれば、資本金の回収にも近いようなインパクトを有した可能性がある。また、メインバンクは、経営状態が悪化した場合には、役員を派遣するなどしてその企業の実質的な経営権を握り、責任をもって再建を図ることが暗黙のルールになっていた。いわゆる「状態依存的ガバナンス」である。
 日本的なリスク関連秩序が機能しなくなった要因としては、@キャッチアップの終了、A株価や地価等の資産価格の下落と含み益の払底、B金融・資本市場等の自由化・国際化ということになる。明示的でなかったルールが破られ始めたことから、不安が一気に広がり、信用収縮を通じて、不況が深刻化した。これまでの不況期は、リスクを取る行動は縮小しても関連秩序は保たれてきた。
≪これまでのリスク処理機能≫(第3節)
 リスクを伴う行動がなされるために必要なのは、リスクが十分に分散されていること、リスクに見合ったリターンが見込まれていることである。しかし、我が国では暗黙のリスク負担ルールがあったために、リスクに見合ったリターンが成立していなかった可能性がある。その背景には、主たる資金者の銀行が含み益をバッファーに不動産を担保にした貸出に安住してきたため、個別の企業や事業のリスク審査に基づくリターンの設定を行わなかったこと、社債についても発行企業の倒産の際に、受託銀行によって買い取られていたことがある。しかし、現在、社債の格付け間利回りは開いたままとなっており、リスクに見合ったリターンが形成されるようになったとの評価も可能である。
 我が国の金融部門のリスク分散機能が大きく立ち遅れた背景には、@横並び的行動がみられ、強い規制があった中で運用成績に関する競争が激しくなかったこと、A情報開示の進展やリスク評価能力の発達が遅れたこと、B土地担保の過信と偏重、C貸し倒れ損失が発生しても株式含み益の取り崩しで対応できた、ということがあったと考えられる。
 企業にとって社債による資金調達は潜在的には銀行借入に代替し得る有力な資金調達手段であるが、九五年までの東京における国内債の発行は、適債基準と財務制限条項ルールの二つのタイプの規制を受けていた。前者は、無担保社債の発行条件として、一定以上の格付け取得を課すものであり、後者は、無担保社債の元利払いの確実化のために財務内容を制限するものであった。これらの規制の下で、資本市場のリスク評価機能の発達が阻害され、ハイリスク・ハイリターン、ミドルリスク、ミドルリターンの投資手段が制限されることになった。
 社債依存度をアメリカ企業と比較すると、平均して我が国のほうが低いが、特に自己資本比率が低い企業での社債依存度の違いが相対的に大きい。
≪ベンチャー企業を巡る環境≫(第4節)
 ベンチャー企業を「極めて高い成長を達成する可能性を有するものの、その実現には不確実な要素が多く、事業に失敗する可能性も高い企業」と位置付ける。ベンチャー企業は、@急速な成長を実現し、付加価値や雇用を生み出す、A市場での競争を通じて既存企業のリストラを促す、B上述の効果がGDPを押し上げ、それが他の産業分野に好影響を及ぼすといった影響力を持つ。
 このようなベンチャー企業を成長させるには、生産要素、所有経営等の企業の構成要素がすべて流動的であること、投資家、事業家がリスクに見合った収益を期待できるシステムが存在すること、適切なリスクシェアとリスクが顕在化したときに発生するコストが最小化されていることが必要である。
 ベンチャー企業への資金供給については、三者が考えられる。まず銀行であるが、融資先の企業が成長した後、取引先となり続けるかは不確実であるため、成功報酬的な側面を持つ株式を通じた資金供給ルートを充実していく必要があると考えられる。そのためにはベンチャーキャピタルと店頭市場の存在が不可欠である。ベンチャーキャピタルは、日本はアメリカに比較して、投資原資の資金量のみならず育成ノウハウにおいて大きな差が存在しているため、ベンチャーキャピタル自身の投資能力の改善と、それを厳しく監視・要求する投資家の姿勢が不可欠である。また、店頭市場については、NASDAQは、企業成長を促進する市場として機能しているのに対し、日本の店頭市場ではこうした傾向はみられない(第4図参照)。
 ベンチャー企業を創設し得る企業家が埋もれることなく、より多く積極的に企業活動に向かうような環境を設けることが重要となる。そのためには過去の失敗の経験を生かせること、従業員、役員に対してもリスクに応じた収益を確保するシステム、失敗した企業家などに過大なコストが発生するシステムを改めること、投資家が適切にリスクを評価し、コントロールすることが必要となっている。
 そのための環境整備として、ストックオプションの導入、転職者に不利にならない人材市場、企業年金制度の導入、倒産法制の見直し、アメリカのシステムの研究と我が国経済への応用を図る必要性がある。
≪市場機能と政府の関与≫(第5節)
 市場経済はリスクをヘッジしたり分散したりする機能を持っている。デリバティブを利用することにより、金融機関や企業にとって各種のリスクを軽減することが可能となる。しかし、我が国の金融機関は、リスクを十分認識・分析するノウハウに乏しく、横並びの中で商品開発に遅れ、デリバティブの取り扱いでは欧米の金融機関に比べ出遅れたといわれている。
 欧米金融機関がデリバティブの取り扱いを強化した背景には、@金融自由化に伴い中長期的に利鞘が縮小傾向にあり、新たな金融サービスに収益源を求めようとしたこと、A自己資本比率規制により、バランスシート上のアセットを膨らませずに、オフバランス取引での収益を目指したこと、B情報処理や通信技術、金融工学の発達により、新金融商品の開発やリスクを分析する技術が発達してきたこと、がある。
 経済的リスクには、保険方式で対応することが可能なものがあり、年金、医療等について、公的システムの将来像をさらに予測しやすいものにすることは、関連の民間保険の設計を容易にし、その発達に寄与する。ひいては家計もこうしたリスクの分散が容易になり、安心して消費を増やすことになる。
 一方で、景気変動リスク、資産価値の変動リスク等のマクロ的リスクは、市場を通じて分散させることは基本的に困難であり、国がかなりの役割を果たしている。国のリスク負担が余りに大きくなると、その帰着が明らかでないことから、家計や企業が将来の負担に関して感じる不安が高まり、これが経済活動を萎縮させる可能性は否定できない。我が国の財政は巨額の財政赤字に加え、将来の年金関連債務など目に見えない負担やリスクを相当抱え込んでおり、リスク負担の限度に近づいている可能性がある。
≪新しいリスク負担システムに向けて≫(第6節)
 脱大量生産社会の潜在成長力は、経済が全体としていかに上手にリスクを分散させかつ管理していくかに依存している。時代の要請に見合った新しいシステムを経済の基盤として構築していくことが急務となっている。様々な新しい知恵を出し、市場化を試み、その中から育つものを育てる、という戦略的な試行錯誤が重要になっている。不動産担保、株式含み益、超過利潤など、これまで銀行のリスク対応力を支え、融資を主たる資金供給ルートにしてきた要因がなくなってきており、銀行融資を補完し得る資金調達ルートが育つ必要がある。
 我が国家計の安全資産選好は、家計の安全性を第一に考える資産選択行動の結果であるのか、供給サイドに様々なリスクとリターンを組み合わせた金融商品を提供する機能が不十分であるためなのか、である。
 第一に、金融機関の商品開発力の問題がある。日米では金融自由化への評価が異なる。アメリカでは、選択の幅は拡大したという答が多いが、日本は、金融機関が提供するサービス内容は変わらないという評価が多い(第5図参照)。
 第二に、土地資産の位置付けである。日本では、土地資産が個人資産の中で大きなウエイトを占めているが、土地をリスク資産に含め、株式、債券、土地とその他の資産との保有内訳を比較すると、日米でリスク資産比率に大きな差はみられない。
 第三に、金融資産の運用という面でも安全はタダではない。現にバブル崩壊の影響を大きく被っている。
 第四に、生産活動への資本提供はギャンブルではなく、生産活動への参画と支援である。
 第五に、政府は遅ればせながら、金融資本市場の条件整備を行っている。
 リスクへの挑戦を支援するためには、金融面と並んで、規制緩和などの事業活動の環境面の整備も重要であるが、教育や企業を取り巻くこれまでの風土も改められていく必要性がある。従来は、将来の安泰な官公庁や大企業への就職が重視されてきており、企業内ではコンセンサスが重視され、リスクへの挑戦に慎重になっていた。今後、自営業など、自らリスクを負っていく職業への社会的な評価が高くなっていくことや大学と実業界を連携させるための条件整備が重要である。

おわりに

 我が国はキャッチアップ過程を既に終了し、逆に国際的に追われる立場になっている。豊かな社会の中で、新しい生活様式の発想・提案と、それに即した需要の発掘が重要になってきたが、これまでのシステムはそうした活動を支えにくいものであった。また、資産価格の下落(いわゆる「資産デフレ」)と実体経済の縮小とが相互作用的に生じ、大幅な信用収縮が発生し、各種の慣行も次々に崩壊していった。この結果、日本経済全体のリスク許容力が衰え、縮み志向が悪循環を招いており、雇用や資本再編の受皿となるべき前向きの挑戦の芽が余りみられない状況になっている。
 土地本位制ともいうべき土地に過度に依存した金融・経済システムは急速に崩壊してしまったが、ハードランディングに伴う大きな痛みを乗り越えれば、次のようなメリットを持つ、資産価格の上昇に頼らない新しい成長の可能性が開けてくる。
 (1)土地の効率的な利用の促進
 (2)含み益に頼らない持続的成長
 (3)国際的なシステムとの調和
 (4)勤労所得や危険負担に見合った所得
 (5)景気変動の安定化
 経済の国際化が進展した中では、豊かさに安住して守りに入っていては、先進国であり続けることはできない。採るべきリスクはむしろ大きくなっている。個人の不安を増大させることなく、どのように経済全体として前向きの挑戦の体制を整えるかが課題である。現在、国や公的な金融が相当のリスクの肩代わりを行っているが、こうした状況をいつまでも続けていくことはできない。
 企業の体質改善の先送りを支えてきた含み益は底を尽きつつある。今後とも改革を先送りするという籠城型のシナリオでは兵糧がもたない。政府の大規模な需要喚起策が金利上昇の一因となった可能性も否定できない。民間需要が回復しないと中期的な期待成長率は回復しにくい。家計も、含み益吐き出しや財政に依存した経済の先行きに対する不安を強めている。経済活動の中核である企業を、新しい利益を生み出す体質に早急に転換することが必要である。但し、縮み志向型・資源切り捨て型のリストラではなく、資源と創造力を活用する前向きのリストラを進めることが必要であり、緊急的に実施される総需要拡大政策に続けて、副作用の少ない形で供給面の改革を進め、企業部門の元気を回復させていくことがより本質的な課題となっている。
 副作用とは、雇用不安など個人の生活の安定性にかかわる問題と苦境にある企業や金融機関を公的に支援することが自己責任の原則を歪めかねないという、いわゆるモラル・ハザードの問題の二つがある。
 供給面の改革努力は基本的には企業自身によって行われるべきことであるが、その環境を整えるためには次の三つの課題を実現していかなくてはならない。
 第一に、資本市場の企業経営監視機能を強化する一方で、企業の体質改善の障害を小さくしていくことである。企業経営に関する情報開示を進めるとともに、家計を対象にした小口かつ信頼性の高いリスク商品が普及するような環境を整備したり、確定拠出型年金の普及を促進することが望まれる。
 また、流動的で安定感と厚みのある労働市場を整備することや、さらに再建(倒産)、分割、合併、交換など、事業の再編に対する制度的・手続的な障壁を少なくしたり、土地の利用規制を合理的なものとし、土地の有効活用を図っていくことである。
 第二に、特に雇用に重点をおいてセーフティ・ネットの整備など副作用を小さくすることである。個人の不安を少なくする方向で、官民の職業紹介機能を充実させること、職業能力開発を重視しつつ雇用保険を充実させること、NPOなどの活用も含め、アイデアや能力を新しい経済活動に結び付けていく環境を整備することが重要である。企業の疑似共同体としての機能の低下を補完する形で、地域社会などの共同体としての機能の回復を図ることも必要であろう。少子・高齢社会などに関する個人個人のリスクを適切に分散できるような環境を整備することも必要である。
 第三に、先進国にふさわしい前向きのリスクが十分に分散され、それが適切な対価で負担されるようなシステムを構築し、その中で新しい技術や新しい生活様式への挑戦が積極的に行われ、金融資産の収益率も高まっていくようにしていくことである。
 金融面では、土地担保に頼らない評価能力を育成し、横並びを脱し、ベンチャーキャピタルや不動産の証券化など、多様な金融サービスが本格的に供給される体制を構築することや、また、円の国際化など、巨額の金融資産を国際的に分散運用するための環境を整備することである。
 事業面では、非製造業を中心に一層の規制緩和を進め、起業に関する諸費用を軽減したりビジネスチャンスを拡大させることや、また、ストックオプション制度を導入したり創造性に対する評価・報酬を積極化させたりするなど、リスクに見合ったリターンが得られるようにすることを通じて、創造力を基盤に繁栄する企業を多く育てることも必要である。教育や企業の風土も前向きの挑戦により積極的なものになっていくことが望まれる。


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普通世帯の消費動向調査


―平成十一年六月実施調査結果―


経済企画庁


 消費動向調査は、家計消費の動向を迅速に把握し、景気動向判断の基礎資料とするために、全国の普通世帯(単身世帯及び外国人世帯を除いた約三千万世帯)を対象に、約五千世帯を抽出して、消費者の意識、主要耐久消費財等の購入状況、旅行の実績・予定、サービス等の支出予定について、四半期ごとに調査している。また、年度末に当たる三月調査時には、主要耐久消費財等の保有状況、住宅の総床面積についても併せて調査している。
 今回の報告は、平成十一年六月に実施した調査結果の概要である。

1 調査世帯の特性

 平成十一年六月の調査世帯の世帯主の平均年齢は五一・八歳(全世帯、以下同じ)、平均世帯人員は三・四人、うち就業者数は一・七人、平均持家率は七二・一%となっている。また、有効回答率は九九・九%(有効回答世帯数は五千三十九世帯)となっている。

2 消費者の意識

 (1) 消費者態度指数(季節調整値)の調査結果
 消費者意識指標七項目中五項目を総合した消費者態度指数は、「収入の増え方」に関する意識が改善し、「暮らし向き」に関する意識は横ばいとなったものの、「耐久消費財の買い時判断」、「雇用環境」、「物価の上がり方」に関する意識が悪化したため、三九・六(前期差〇・七ポイント低下)となり、三期ぶりで低下した(第1図参照)。
 (2) 各調査項目ごとの消費者意識指標(季節調整値)の調査結果
 各消費者意識指標について十一年六月の動向を前期差でみると、「収入の増え方」に関する意識(〇・四ポイント上昇)が改善し、「暮らし向き」に関する意識が横ばいとなったものの、「耐久消費財の買い時判断」に関する意識(一・六ポイント低下)、「雇用環境」に関する意識(〇・九ポイント低下)、「物価の上がり方」に関する意識(〇・八ポイント低下)が悪化を示した(第1表参照)。

3 サービス等の支出予定(季節調整値)

 十一年七〜九月期のサービス等の支出予定八項目の動きを「今より増やす予定と回答した世帯割合」から「今より減らす予定と回答した世帯割合」を控除した数値(サービス支出DI)でみると、以下のとおりである(第2図参照)。
 (1) 高額ファッション関連支出DIは、このところ低下傾向を示してきたが、前期がマイナス七・四%のところ、今期はマイナス九・七%となっている。
 (2) 学習塾等補習教育費DIは、他の支出DIと比較して高い水準にあり、前期が五・四%のところ、今期は四・七%となっている。
 (3) けいこ事等の月謝類DIは、他の支出DIと比較して高い水準にあり、前期が二・二%のところ、今期は一・六%となっている。
 (4) スポーツ活動費DIは、平成九年までは比較的高い水準を示してきたが、平成十年に入り低下し、前期が〇・五%のところ、今期はマイナス〇・一%となっている。
 (5) コンサート等の入場料DIは、平成九年までは比較的高い水準を示してきたが、平成十年に入り低下し、前期が〇・四%のところ、今期はマイナス〇・一%となっている。
 (6) 遊園地等娯楽費DIは、このところ低下傾向を示しており、前期がマイナス一一・四%のところ、今期はマイナス一三・〇%となっている。
 (7) レストラン等外食費DIは、このところ低下傾向を示しており、前期がマイナス一八・九%のところ、今期はマイナス一九・四%となっている。
 (8) 家事代行サービスDIは、おおむね安定した動きが続いており、前期がマイナス二・八%のところ、今期はマイナス二・五%となっている。

4 旅行の実績・予定(季節調整値)

 (1) 国内旅行
 十一年四〜六月期に国内旅行(日帰り旅行を含む)をした世帯割合は、前期差で一・六ポイント上昇し三四・九%となった。旅行をした世帯当たりの平均人数は、前期差で〇・一人増加し二・九人となった。
 十一年七〜九月期に国内旅行をする予定の世帯割合は、十一年四〜六月期計画(以下「前期計画」)差で〇・八ポイント上昇し三一・三%、その平均人数は、前期計画差で〇・一人増加し二・九人となっている。
 (2) 海外旅行
 十一年四〜六月期に海外旅行をした世帯割合は、前期差で横ばいの四・九%となった。その平均人数は、前期差で〇・一人減少し一・六人となった。
 十一年七〜九月期に海外旅行をする予定の世帯割合は、前期計画差で〇・六ポイント低下し四・〇%、その平均人数は、前期計画差で〇・一人減少し一・八人となっている。

<参 考>

1 消費者意識指標(季節調整値)
  (レジャー時間、資産価値)

 十一年六月の「レジャー時間」に関する意識は、前期と同水準の四三・三となった。
 「資産価値」に関する意識は、前期差で〇・七ポイント低下し四一・一となった。

2 主要耐久消費財等の購入状況
  品目別購入世帯割合の動き(原数値)

 十一年四〜六月期実績は、二十八品目中十五品目の購入世帯割合が前年同期に比べて増加し、十品目が減少した。なお、三品目が横ばいとなった。
 十一年七〜九月期実績見込みは、二十八品目中九品目の購入世帯割合が前年同期に比べて増加し、十四品目が減少している。なお、五品目が横ばいとなっている(第2表参照)。

3 主要耐久消費財の買替え状況

 十一年四〜六月期に買替えをした世帯について買替え前に使用していたものの平均使用年数をみると、普及率の高い電気冷蔵庫、電気洗たく機などは九〜十二年となっており、その理由については、故障が多い。技術進歩の著しいワープロは平均使用年数が約六年となっており、買替え理由は、上位品目への移行が多い。また、「住居の変更」による買替えが多いものとしては、ルームエアコンがあげられる。


「里親を求める運動」の実施


 里親制度は、家庭に恵まれない児童のために、家庭的な環境を確保し、児童を心身ともに健やかに育てることを目的とするもので、我が国の養護児童対策の重要な柱となっています。
 この運動は、児童相談所、福祉事務所、市町村社会福祉協議会、児童委員が中心となり、関係機関(団体)の協力を得て、里親制度に関する広報活動の展開、児童養護施設等に入所している児童への短期間の家庭生活を体験させる事業の推進、里親組織の育成等を実施することにより、里親を求める運動を展開するものです。

     ◇     ◇     ◇

●里親月間

 平成十一年十月一日から三十一日までの一か月間
 *ただし、この運動の効果を上げるため、各地の実情に応じて上記期間を変更しても差し支えない。

●実施方法

・ポスター、里親制度を理解してもらうパンフレット等の配布およびテレビ新聞等各種報道機関による広報活動を実施。
・功労の顕著な里親に対する表彰等を含む里親大会等を開催。
・児童の養育技術を高めるため、里親に対する研修会、里親と児童福祉施設の職員との懇談会等を実施。
・児童養護施設等の協力を得て、各種の施設行事に里親等の積極的な参加を依頼。また、いわゆる「一日里親」等の施設入所児童に、家庭生活を体験させ各種プログラムを実施。
 (厚生省)

十月十八日は「統計の日」


 統計の重要性に対する国民一般の関心と理解を深め、統計調査に対する国民のより一層の協力を推進するため、「統計の日」を設けています。
 「統計の日」は、毎年十月十八日とし、この日を中心として、統計功労者の表彰、講演会、展示会の開催など、統計知識の普及のための行事を全国的に実施します。

●主な統計関係行事

・第四十七回統計グラフ全国コンクール
  全国の小学校の児童、中学校の生徒、高等学校以上の生徒・学生および一般から広く募集。その中から、特選および特別賞など入賞作品を選び表彰するとともに、入選作品の展示会を行います。
・第五十回全国統計大会
  平成十一年度は、十月二十八日(木)に長野県長野市で開催。都道府県、市区町村、統計調査員などの統計関係者が集まって、統計功労者に対する表彰などを行います。
・第二十回理論家と実務家による官庁統計シンポジウム
  平成十一年度は、十一月五日(金)に東京都新宿区のペアーレ新宿において、「高齢社会に対応した統計の整備と利用」をテーマに開催。統計業務に携わる行政機関や民間企業、学識者が集まって、官庁統計に関する今日的課題について意見交換を行います。

     ◇     ◇     ◇

統計調査にご協力ください!

 最近では、統計調査を円滑に実施するための環境が厳しくなってきています。しかし、統計調査は、国の施策をより効果的に実施するための基礎資料なのです。もちろん、調査を実施するに当たっては、皆さんのプライバシーはしっかりと守られ、それは法律にも定められています。
 私たち行政機関側も少しでも皆さんの負担が減るように努力していますので、統計調査にご協力よろしくお願いします。
 (総務庁)


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月例経済報告(九月報告)


経済企画庁


概 観

 我が国経済
需要面をみると、個人消費は、収入が低迷しているものの、緩やかに回復してきている。財布の中身は増えていないものの、ひもは緩み出している。住宅建設は、このところ大幅に増加してきた持家の着工が減少したが、全体としては前年を上回る水準を保っている。設備投資は、なお大幅な減少基調が続いている。公共投資は、着工の動きはこのところ低調だが、事業の実施が進んでいる。
 十一年四〜六月期(速報)の実質国内総生産は、前期比〇・二%増(年率〇・九%増)となり、うち内需寄与度はプラス〇・二%となった。
 産業面をみると、在庫は、調整が進み、在庫率は前年を下回る水準になっている。こうした中、鉱工業生産は、最終需要の動きを反映して低い水準でおおむね横ばいだが、持ち直しの兆しもみられる。企業収益は、持ち直してきた。また、企業の業況判断は、なお厳しいが改善傾向にある。企業倒産件数は、春先からやや増加しているものの、信用保証制度の拡充の効果などで前年の水準を下回っている。
 雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加して、完全失業率はこれまでの最高水準で推移している。
 輸出入は、対アジア輸出入の動向を反映して、緩やかに増加している。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、八月は中旬にかけて百十四円台から百十五円台で推移した後、九月上旬には百九円台まで上昇した。
 物価の動向をみると、国内卸売物価は、下げ止まっている。また、消費者物価は、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、八月から九月上旬にかけて横ばいで推移した。長期金利は、八月は一時上昇した後、九月上旬にかけて横ばいで推移した。株式相場は、八月は上旬に下落した後、中旬以降上昇し、月末から九月上旬にかけて下落した。マネーサプライ(M+CD)は、七月は前年同月比四・〇%増となった。また、企業金融のひっ迫感は緩和しているが、民間金融機関の貸出は依然低調である。
 海外経済
主要国の経済動向をみると、アメリカでは、先行きには不透明感もみられるものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、九九年一〜三月期前期比年率四・三%増の後、四〜六月期は同一・八%増(速報値)となった。個人消費、設備投資は増加している。住宅投資は一〜三月期の大幅増の反動もあり、伸びが鈍化している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大しているものの、製造業等では輸出減の影響もあり減少している。物価は総じて安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。連邦準備制度は、八月二十四日に、公定歩合を〇・二五%引き上げ四・七五%に、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準を〇・二五%引き上げ五・二五%にする金融政策の変更を発表した。八月の長期金利(三十年物国債)は、月前半に上昇したものの、後半には低下し、月を通じてはほぼ横ばいであった。株価(ダウ平均)は、中旬以降大きく上昇したものの月末に下落し、月を通じては小幅の上昇となった。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は緩やかに改善してきている。フランスでは、景気は緩やかな拡大を続けている。イギリスでは、景気は改善してきている。鉱工業生産は、ほぼ横ばいで推移している。失業率は、ドイツではこのところ横ばいで推移している。フランスでは高水準ながらもやや低下しており、イギリスでは低水準で推移している。物価は、安定している。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポはこのところ鈍化している。物価は下落している。韓国では、景気は急速に回復している。失業率は高水準ながらも低下している。
 国際金融市場の八月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、月を通じてはやや減価した。
 国際商品市況の八月の動きをみると、CRB商品先物指数は、月初から上昇基調で推移し、下旬にやや弱含んだものの、月末にかけては二百ポイント台目前の水準まで急上昇した。原油スポット価格(北海ブレンド)は、中旬までほぼ一本調子で上昇し、下旬には一時弱含む場面がみられたが、月末には再び二十一ドル台を回復した。

     *     *     *
 我が国経済の最近の動向をみると、個人消費は、収入が低迷しているものの、緩やかに回復してきている。財布の中身は増えていないものの、ひもは緩み出している。住宅建設は、このところ大幅に増加してきた持家の着工が減少したが、全体としては前年を上回る水準を保っている。設備投資は、なお大幅な減少基調が続いている。公共投資は、着工の動きはこのところ低調だが、事業の実施が進んでいる。輸出は、アジア向けが回復傾向にあるため、緩やかに増加している。
 在庫は、調整が進み、在庫率は前年を下回る水準になっている。こうした中、生産は、最終需要の動きを反映して低い水準でおおむね横ばいだが、持ち直しの兆しもみられる。
 雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加して、完全失業率はこれまでの最高水準で推移している。
 企業金融のひっ迫感は緩和しているが、民間金融機関の貸出は依然低調である。また、企業収益は、持ち直してきた。
 以上のように、景気は、民間需要の回復力が弱く、厳しい状況をなお脱していないが、各種の政策効果の浸透などで、やや改善している。
 政府は、緊急経済対策、緊急雇用対策及び産業競争力強化対策等の諸施策を強力に推進する。また、公需から民需へ円滑にバトンタッチが行われ、景気の腰折れを招くことなく、本格的な回復軌道につなげていくため、速やかに公共事業等予備費を使用することとし、具体的な検討を行うとともに、今後とも経済情勢を注視しつつ、十五か月予算という考え方に立った平成十一年度第二次補正予算の編成も含め、機動的・弾力的な対応を行う。

1 国内需要
―個人消費は、収入が低迷しているものの、緩やかに回復してきている―

 実質国内総生産(平成二年基準、速報)の動向をみると、十一年一〜三月期前期比二・〇%増(年率八・一%増)の後、十一年四〜六月期は同〇・二%増(同〇・九%増)となった。内外需別にみると、国内需要の寄与度はプラス〇・二%となり、財貨・サービスの純輸出の寄与度は〇・〇%となった。需要項目別にみると、民間最終消費支出は前期比〇・八%増、民間企業設備投資は同四・〇%減、民間住宅は同一六・一%増となった。また、財貨・サービスの輸出は前期比〇・九%増、財貨・サービスの輸入は同〇・七%増となった。
 個人消費は、収入が低迷しているものの、緩やかに回復してきている。財布の中身は増えていないものの、ひもは緩み出している。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で六月〇・一%減の後、七月は一・四%増(季節調整済前月比〇・七%増)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比二・六%増、勤労者以外の世帯では同一・三%減となった。形態別にみると、非耐久財は減少、サービス等は増加となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比一・一%増、勤労者世帯では同一・九%増となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で六月一・六%減となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で六月二・一%減の後、七月は二・五%減(季節調整済前月比〇・五%減)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で六月二・〇%減の後、七月二・〇%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で六月三・六%減の後、七月五・一%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で八月は六・八%増となった。また、家電小売金額(日本電気大型店協会)は、前年同月比で七月は六・七%増となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、七月は前年同月比で国内旅行が四・三%減、海外旅行は九・四%減となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で六月三・三%減の後、七月(速報)は一・三%減(事業所規模三十人以上では同〇・五%減)となり、うち所定外給与は、七月(速報)は同二・七%増(事業所規模三十人以上では同二・一%増)となった。実質賃金は、前年同月比で六月二・八%減の後、七月(速報)は一・二%減(事業所規模三十人以上では同〇・五%減)となった。
 住宅建設は、このところ大幅に増加してきた持家の着工が減少したが、全体としては前年を上回る水準を保っている。
 新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で六月六・五%増(前年同月比七・三%増)となった後、七月は一一・七%減(前年同月比一・九%増)の九万六千戸(年率百十五万戸)となった。七月の着工床面積(季節調整値)は、前月比一七・二%減(前年同月比四・八%増)となった。七月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比二三・六%減(前年同月比五・四%増)、貸家は同〇・四%減(同二・九%減)、分譲住宅は同九・八%減(同五・四%増)となっている。
 設備投資は、なお大幅な減少基調が続いている。
 当庁「法人企業動向調査」(十一年六月調査)により設備投資の動向をみると、全産業の設備投資は、季節調整済前期比で十一年一〜三月期(実績)六・五%減(うち製造業七・一%減、非製造業五・〇%減)の後、十一年四〜六月期(実績見込み)は、二・一%減(同四・八%減、同〇・七%減)となっている。暦年計画では、前年比で十年(実績)三・六%減(うち製造業〇・七%減、非製造業五・二%減)の後、十一年(計画)は八・六%減(同一〇・三%減、同七・七%減)となっている。
 なお、十一年四〜六月期の設備投資を、大蔵省「法人企業統計季報」(全産業)でみると前年同期比で一三・四%減(うち製造業二四・六%減、非製造業六・六%減)となった。
 先行指標の動きをみると、当庁「機械受注統計調査」によれば、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、季節調整済前月比で六月は六・三%増(前年同月比七・七%減)の後、七月は五・四%減(同七・五%減)となり、基調は減少傾向となっている。ただし、このところ製造業の動きには底堅さがみられる。
 なお、七〜九月期(見通し)の機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前期比で四・〇%増(前年同期比五・九%減)と見込まれている。
 民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、低水準で推移しており、七月は季節調整済前月比八・一%減(前年同月比二三・四%減)となった。内訳をみると、製造業は季節調整済前月比一〇・八%減(前年同月比三九・五%減)、非製造業は同一二・一%減(同一九・七%減)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資は、着工の動きはこのところ低調だが、事業の実施が進んでいる。
 公共工事着工総工事費は、前年同月比で六月七・八%減の後、七月は七・九%減となった。公共工事請負金額は、前年同月比で七月〇・九%減の後、八月は六・六%減となった。官公庁からの建設工事受注額(五十社)は、前年同月比で六月一五・七%減の後、七月は一七・四%減となった。実質公的固定資本形成は、十一年一〜三月期に季節調整済前期比一〇・三%増の後、十一年四〜六月期は同四・〇%減となった。また、実質政府最終消費支出は、十一年一〜三月期に季節調整済前期比〇・八%増の後、十一年四〜六月期は同〇・四%減となった。

2 生産雇用
―生産は、おおむね横ばいだが、持ち直しの兆しもみられる―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、在庫は、調整が進み、在庫率は前年を下回る水準になっている。こうした中、生産・出荷は、最終需要の動きを反映して低い水準でおおむね横ばいだが、持ち直しの兆しもみられる。
 鉱工業生産(季節調整値)は、前月比で六月三・二%増の後、七月(速報)は、鉄鋼、非鉄金属等が増加したものの、一般機械、化学等が減少したことから、〇・六%減となった。また製造工業生産予測指数(季節調整値)は、前月比で八月は輸送機械、電気機械等により四・七%増の後、九月は輸送機械、一般機械等により〇・二%増となっている。鉱工業出荷(季節調整値)は、前月比で六月三・六%増の後、七月(速報)は、耐久消費財、生産財等が減少したことから、一・〇%減となった。鉱工業生産者製品在庫(季節調整値)は、前月比で六月〇・三%減の後、七月(速報)は、電気機械、輸送機械等が増加したものの、石油・石炭製品、化学等が減少したことから、一・六%減となった。また、七月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数(季節調整値)は一〇一・三と前月を一・六ポイント下回った。
 主な業種について最近の動きをみると、一般機械では、生産は七月は減少し、在庫は二か月連続で減少した。輸送機械では、生産は三か月連続で増加し、在庫は二か月連続で増加した。化学では、生産は七月は減少し、在庫は五か月連続で減少した。
 第三次産業の動向を通商産業省「第三次産業活動指数」(六月調査、季節調整値)でみると、五月一・七%増の後、六月は、サービス業が減少したものの、卸売・小売業、飲食店、不動産業等が増加した結果、前月比〇・〇%となった。
 農業生産の動向をみると、平成十一年産水稲の全国作況指数(八月十五日現在)は、一〇三の「やや良」となっている。
 雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加して、完全失業率はこれまでの最高水準で推移している。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、六月〇・四六倍の後、七月〇・四六倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、六月〇・八二倍の後、七月〇・八七倍となった。雇用者数は、減少している。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、七月は前年同月比一・二%減(前年同月差六十三万人減)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、六月前年同月比〇・五%減(季節調整済前月比〇・一%減)の後、七月(速報)は同〇・四%減(同〇・〇%)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比一・三%減)、産業別には製造業では同二・三%減となった。七月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差二万人増の三百三十万人、完全失業率(同)は、六月四・九%の後、七月四・九%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では六月前年同月比〇・八%減(季節調整済前月比一・八%減)の後、七月(速報)は同一・八%増(同二・〇%増)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比一・五%増)。
 また、労働省「労働経済動向調査」(八月調査)によると、「残業規制」等の雇用調整を実施する事業所割合は、四〜六月期はやや低下したものの、引き続き高い水準となっている。
 企業の動向をみると、企業収益は、持ち直してきた。また、企業の業況判断は、なお厳しいが改善傾向にある。
 大企業の動向を前記「法人企業動向調査」(六月調査、季節調整値)でみると、十一年四〜六月期の売上高、経常利益の判断(ともに「増加」−「減少」)は、「減少」超幅が縮小した。また、十一年四〜六月期の企業経営者の景気判断(業界景気の判断、「上昇」−「下降」)は「下降」超幅が縮小した。
 また、中小企業の動向を中小企業金融公庫「中小企業動向調査」(六月調査、季節調整値)でみると、売上げD.I.(「増加」−「減少」)は、十一年四〜六月期は「減少」超幅が縮小し、純益率D.I.(「上昇」−「低下」)は、「低下」超幅が縮小した。業況判断D.I.(「好転」−「悪化」)は、十一年四〜六月期は「悪化」超幅が縮小した。
 企業倒産の状況をみると、件数は、春先からやや増加しているものの、信用保証制度の拡充の効果などで前年の水準を下回っている。
 銀行取引停止処分者件数は、七月は九百十件で前年同月比二五・七%減となった。業種別に件数の前年同月比をみると、製造業で二五・二%、卸売業で四四・六%の減少となった。

3 国際収支
―輸出は、アジア向けが回復傾向にあるため、緩やかに増加―

 輸出は、アジア向けが回復傾向にあるため、緩やかに増加している。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で六月七・四%増の後、七月は〇・七%減(前年同月比一・二%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、電気機器、化学製品等が増加した。同じく地域別にみると、アジア、アメリカ等が増加した。
 輸入は、アジアからの輸入が増加基調にあり、緩やかに増加している。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で六月五・七%増の後、七月三・七%減(前年同月比三・九%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、鉱物性燃料、原料品等が増加した。同じく地域別にみると、アジア、中東等が増加した。
 通関収支差(季節調整値)は、六月に一兆五百四十七億円の黒字の後、七月は一兆二千三百二十九億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。
 七月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、貿易収支の黒字幅が拡大したものの、サービス収支の赤字幅が拡大したため、その黒字幅は縮小し、六千五百七十二億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、貿易・サービス収支及び所得収支の黒字幅が縮小するとともに、経常移転収支の赤字幅が拡大したため、その黒字幅は縮小し、一兆二千八億円となった。投資収支(原数値)は、六千八百十八億円の黒字となり、資本収支(原数値)は、六千三百二十三億円の黒字となった。
 八月末の外貨準備高は、前月比六億ドル増加して二千六百十三億ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、八月は中旬にかけて百十四円台から百十五円台で推移した後、九月上旬には百九円台まで上昇した。一方、対ユーロ円相場(インターバンク十七時時点)は、八月は月初の百二十一円台から百二十四円台に下落したが、その後上昇し、月末から九月上旬にかけて百十四円台から百十八円台で推移した。

4 物 価
―国内卸売物価は、下げ止まり―

 国内卸売物価は、下げ止まっている。
 八月の国内卸売物価は、電気機器(入出力装置)等が下落したものの、石油・石炭製品(C重油)等が上昇したことから、前月比〇・一%の上昇(前年同月比一・三%の下落)となった。輸出物価は、契約通貨ベースで上昇したものの、円高から円ベースでは前月比三・三%の下落(前年同月比一五・七%の下落)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで上昇したものの、円高から円ベースでは前月比一・七%の下落(前年同月比一二・六%の下落)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比〇・五%の下落(前年同月比四・四%の下落)となった。
 企業向けサービス価格は、七月は前年同月比一・一%の下落(前月比〇・一%の上昇)となった。
 商品市況(月末対比)は石油等は上昇したものの、繊維等の下落により八月は下落した。八月の動きを品目別にみると、灯油等は上昇したものの、生糸等が下落した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で六月保合いの後、七月は公共料金(広義)が上昇から下落に転じたこと等の一方、外食の上昇幅の拡大等により保合い(前月比〇・三%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で六月〇・三%の下落の後、七月は〇・一%の下落(前月比〇・四%の下落)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で七月〇・一%の下落の後、八月(中旬速報値)は、外食の上昇幅の縮小等の一方、繊維製品の下落幅の縮小等により〇・一%の下落(前月比保合い)となった。なお、総合は、前年同月比で七月〇・一%の下落の後、八月(中旬速報値)は〇・三%の上昇(前月比〇・三%の上昇)となった。

5 金融財政
―長期金利は、一時上昇したが、その後はほぼ横ばいで推移している―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、八月から九月上旬にかけて横ばいで推移した。長期金利は、八月はやや上昇した後、九月上旬にかけて横ばいで推移した。株式相場は、八月は上旬に下落した後、中旬以降上昇し、月末から九月上旬にかけて下落した。M+CDは、七月は前年同月比四・〇%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレート、二、三か月物ともに、八月から九月上旬にかけて横ばいで推移した。
 公社債市場をみると、国債利回りは、八月は一時上昇した後、九月上旬にかけて横ばいで推移した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、七月は短期は〇・〇八九%ポイント上昇し、長期は〇・一〇三%ポイント上昇したことから、総合では前月比で〇・〇九六%ポイント上昇し一・八一九%となった。
 マネーサプライをみると、M+CD(月中平均残高)は、七月(速報)は前年同月比四・〇%増となった。また、広義流動性は、七月(速報)は同三・七%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関(全国銀行)の貸出(月中平均残高)は、八月(速報)は前年同月比六・五%減(貸出債権流動化・償却要因等調整後一・八%減)となった。八月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債がゼロとなった。また、国内公募事業債の起債実績は三千九百九十億円となった。
 企業金融のひっ迫感は緩和しているが、民間金融機関の貸出は依然低調である。
 株式市場をみると、日経平均株価は、八月は上旬に下落した後、中旬以降上昇し、月末から九月上旬にかけて下落した。

6 海外経済
―欧州経済に改善の動き―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、先行きには不透明感もみられるものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、九九年一〜三月期前期比年率四・三%増の後、四〜六月期は同一・八%増(速報値)となった。個人消費、設備投資は増加している。住宅投資は一〜三月期の大幅増の反動もあり、伸びが鈍化している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大しているものの、製造業等では輸出減の影響もあり減少している。雇用者数(非農業事業所)は七月前月差三三・八万人増の後、八月は同一二・四万人増となった。失業率は八月四・二%となった。物価は総じて安定している。七月の消費者物価は前年同月比二・一%の上昇、八月の生産者物価(完成財総合)は同二・三%の上昇となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。連邦準備制度は、八月二十四日に、公定歩合を〇・二五%引き上げ四・七五%に、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準を〇・二五%引き上げ五・二五%にする金融政策の変更を発表した。八月の長期金利(三十年物国債)は、月前半に上昇したものの、後半には低下し、月を通じてはほぼ横ばいであった。株価(ダウ平均)は、中旬以降大きく上昇したものの月末に下落し、月を通じては小幅の上昇となった。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は緩やかに改善してきている。フランスでは、景気は緩やかな拡大を続けている。イギリスでは、景気は改善してきている。実質GDPは、ドイツ九九年四〜六月期前期比年率〇・二%増(速報値)、フランス四〜六月期同二・四%増(速報値)、イギリス四〜六月期同二・〇%増(改訂値)となった。鉱工業生産は、ほぼ横ばいで推移している(鉱工業生産は、ドイツ七月前月比一・〇%増、フランス六月同〇・八%増、イギリス七月同〇・三%増)。失業率は、ドイツではこのところ横ばいで推移している。フランスでは高水準ながらもやや低下しており、イギリスでは低水準で推移している(失業率は、ドイツ八月一〇・五%、フランス七月一一・二%、イギリス七月四・三%)。物価は、安定している(消費者物価上昇率は、ドイツ八月前年同月比〇・七%、フランス八月同〇・五%、イギリス七月同一・三%)。なお、イングランド銀行は、九月八日に政策金利を〇・二五%引き上げ、年五・二五%とした。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポはこのところ鈍化している。物価は下落している。韓国では、景気は急速に回復している。失業率は高水準ながらも低下している。
 国際金融市場の八月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、月を通じてはやや減価した。モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)をみると、八月三十一日現在一〇七・三、七月末比一・一%の減価となっている。内訳をみると、八月三十一日現在、対円では七月末比四・三%減価、対ユーロでは同一・三%増価した。
 国際商品市況の八月の動きをみると、CRB商品先物指数は、月初から上昇基調で推移し、下旬にやや弱含んだものの、月末にかけては二百ポイント台目前の水準まで急上昇した。原油スポット価格(北海ブレント)は、中旬までほぼ一本調子で上昇し、下旬には一時弱含む場面がみられたが、月末には再び二十一ドル台を回復した。


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単身世帯収支調査結果の概況


―平成十一年一〜六月期平均速報―


総 務 庁


1 単身全世帯の家計

 消費支出は、平成十年七〜十二月期に引き続き二期連続の実質増加となり、増加幅も拡大した(第1図第2図第1表参照)。

2 単身勤労者世帯の家計

 勤労者世帯の実収入は、実質増加となった。
 平均消費性向は、前年同期を上回った。
 消費支出は、実質増加となった(第2表参照)。

3 男女・年齢階級別の家計

 消費支出は、三十五歳未満で大幅な実質増加となった(第3表参照)。

4 財・サービス区別の消費支出
 (全国・単身全世帯)

(1) 財(商品)は、実質六・七%の増加。
  <耐久財> 実質五七・〇%の増加
  <半耐久財> 実質二・七%の増加
  <非耐久財> 実質〇・八%の増加
(2) サービスは、実質二・三%の増加。





     ◇     ◇     ◇

     ◇     ◇     ◇

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    <10月20日号の主な予定>

 ▽防衛白書のあらまし…………………防 衛 庁 

 ▽労働力調査(六月)…………………総 務 庁 

 ▽毎月勤労統計調査(五月分)………労 働 省 




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