官報資料版 平成11年11月10日




                  ▽厚生白書のあらまし…………………厚 生 省

                  ▽毎月勤労統計調査(六月分)………労 働 省

                  ▽月例経済報告(十月報告)…………経済企画庁











厚生白書のあらまし


社会保障と国民生活


厚 生 省


T 主題は「社会保障」

 平成十一年版厚生白書が去る八月十日に閣議報告され、公表された。今回の白書は、「社会保障と国民生活」と題して、国民生活における社会保障の意義や役割を主題に取り上げている。
 我が国の社会保障は、第二次世界大戦後の半世紀の間に、戦後の復興と経済成長、人口の急増、産業構造の大転換、国土開発、人口移動、高齢化の進展など、経済社会や人口構造などのめまぐるしい変化を踏まえつつ、各時代における人々の努力により、社会保障に対する国民各層の様々な要求にこたえながら、その充実が図られてきた。
 そして今日では、社会保障は、人の誕生から亡くなるまでの一生涯にわたって、病気や負傷、障害、失業、介護、老齢など、生活上のリスク(不安)に対して、幅広く対応するものとなっている。言い換えると、社会保障は、私たちの生活に深く組み込まれ、安心して安定した日常生活を送る上で不可欠なものとなっている。
 一方で、近年、少子高齢化の進展や経済基調の変化等を反映して、社会保障の将来に対する不安感が大きくなっている状況が見受けられるが、社会保障の重要性を考えると、二十一世紀を目前に控えた現時点において、国民生活における社会保障の意義と役割を再認識して、社会保障の今後のあり方を考えるべき時期に至っているともいえるだろう。
 そこで、今回の白書では、まず、社会保障の目的と機能を明確にし、実際の国民生活や国民経済において、社会保障がどのような効果をもたらしているのかについて分析している。そして、第二次世界大戦後の約五十年間に、我が国の社会保障制度がどのように発展し、どのような水準に到達しているのかについて、簡潔に説明している。その上で、社会保障の将来に対して過度の不安を抱くことがないように、社会保障の負担に対する認識の持ち方、二十一世紀の高齢社会の見方を変える発想の転換、これからの社会保障を皆で支えていくために、社会保障制度の検討の際に必要な視点を提示している。

U 平成十一年版厚生白書の特徴

 今回の白書は、社会保障の目的や機能、社会保障制度の発展の歴史、社会保障と家計や経済との関係など、社会保障そのものについて本格的に分析した白書である。社会保障制度全般をテーマとして取り上げるのは、昭和六十三年以来、十年ぶりとなっている。
 内容面における特徴としては、まず、社会保障の給付と負担の状況について、従来のように国民経済レベルという観点からだけではなく、家計レベルや年齢階層別、ライフサイクルという観点からも分析を行っていることが挙げられる。(なお、分析を行うに際しては、家計の国際比較や勤労者の社会保険料の国際比較など、新たな情報も提示している。)
 次に、社会保障と経済の関係について、国民負担率をめぐる議論を始め、様々な議論があることを紹介するとともに、社会保障の経済効果について、その産業規模や雇用規模、地域経済に与える影響など、具体的な数値を挙げて解説していることが挙げられる。白書で社会保障の経済効果について多面的に分析したのは、今回が初めてとなる。
 第三に、我が国の社会保障の到達点を分かりやすく伝えるために、可能な限り国際比較データを活用しながら、図表を多く用いて解説していることが挙げられる。今回取り上げている国際比較データとしては、例えば、病床数、患者行動及び医療施設の利用状況や欧米主要国の社会保険制度、公的扶助制度、社会保障給付費などがある。

V 平成十一年版厚生白書の概要

 「社会保障と国民生活」というテーマ部分は第1部において記述しており、第2部では「主な厚生行政の動き」として、年金や介護、医療など、厚生行政の各分野における主な動きについて、幅広く紹介している。

 【第1部】社会保障と国民生活

第1章 社会保障の目的と機能について考える

○社会保障はどのようにして発展してきたか
 戦後から現在に至る社会保障の発展過程を、社会経済の変化や社会保障政策の変化等を踏まえて、おおむね四期に分けて、各時期のキーワードを整理しつつ解説している。
 (1) 戦後の緊急援護と基盤整備(昭和二十年代)
  ・戦後の混乱
  ・生活困窮者の緊急支援(救貧)
  ・引揚者対策
  ・栄養改善と生活改善
  ・伝染病予防
  ・社会保障行政の基盤整備
 (2) 国民皆保険・皆年金と社会保障制度の発展(昭和三十年代からオイルショックまで)
  ・高度経済成長と生活水準の向上
  ・社会保障制度の基本的な体系の整備
  ・社会保険中心(救貧から防貧へ)
  ・各種給付の改善充実
  ・福祉元年
 (3) 制度の見直し期(一九七〇年代後半から八〇年代)
  ・安定成長への移行
  ・社会保障費用の適正化
  ・給付と負担の公平
  ・安定的・効率的な制度基盤の確立
  ・ノーマライゼーション
 (4) 少子高齢社会に対応した制度構築(一九九〇年代)
  ・少子高齢化の進行と経済基調の変化
  ・サービスの普遍化
  ・公民の役割分担
  ・地方分権
  ・地域福祉の充実
  ・社会保障構造改革
○社会保障の定義は何か
 欧米諸国において「社会保障」という言葉の意味するところは、我が国と異なっている。また、我が国においても、社会保障制度の範囲・内容・対象者の変化、社会保障の給付水準の変化や規模の拡大、新しい手法の導入、サービス提供主体の拡大等を踏まえ、社会保障の定義が変化をみせてきている。最近の定義の例としては、社会保障制度審議会が、社会保障とは「国民の生活の安定が損なわれた場合に、国民に健やかで安心できる生活を保障することを目的として、公的責任で生活を支える給付を行うもの」と定義している。
○社会保障はどのような目的と機能を持っているか
 社会保障の定義の変遷等も念頭において、社会保障の主な目的を整理すると、次のとおりとなる(第1表参照)。
 (1)生活の保障・生活の安定
 (2)個人の自立支援
 (3)家庭機能の支援
 次に、社会保障の機能としては、主として、次のものが挙げられる。
 (1)社会的安全装置(社会的セーフティネット)
 (2)所得再分配
 (3)リスク分散
 (4)社会の安定及び経済の安定・成長
○社会保障は合理的かつ効率的な仕組み
 社会保障は、個々人では対応が困難な危険(リスク)に対して、社会全体で対応するものであり、個々人で対応するよりも、合理的かつ効率的な仕組みである。なぜなら、社会保障は、広く薄く負担することにより危険(リスク)に備え、病気にかかったり、稼得能力が減少する高齢期に至ったりした場合には、相当の給付が受けられるというものであり、これにより、個々人にとって、過剰な貯蓄が不要となったり、不安感が解消されたりするからである。
 社会保障制度の組み方は、社会保険方式と社会扶助方式に大別でき、それぞれ長所と短所をもっている。欧米諸国の制度を見ると、医療費保障や老後の所得保障については、社会保険方式を採用することが一般的であり、我が国においても、一九五〇年の社会保障制度審議会勧告において社会保険中心主義が提唱され、現に社会保険制度が社会保障制度の中核となっている。社会保険制度は、保険料負担の義務がある一方で給付の権利が生じるものであり、こうした義務と権利を認識した人々が、社会連帯の精神を基盤にしてともに支え合う仕組みという点で、成熟した現代社会にふさわしい制度である。

第2章 社会保障は国民生活上どのように機能しているか

○ライフサイクルからみた社会保障
 我が国の社会保障制度は、個人のライフサイクル(一生の過程)全般にわたって、病気やけが、障害、育児、失業、所得の喪失など、およそ社会的な援助を必要とする事態を網羅的にカバーするに至っている。
 ライフサイクルにおける社会保障を中心とした公共サービス(社会サービス)の給付と負担の概要をあらわすと第1図のようになる。社会保障を始め、各種公共サービスにより生活の利便や安定が確保され、一定の生活水準が保障されているのであり、社会保障の負担を論じる際には、こうした給付面にも十分目を向けて議論する必要がある(第1図参照)。
○家計レベルからみた社会保障
 世帯主の年齢階級別に社会保障の給付と負担の関係をみると、世帯主が六十歳未満の世帯では、税や社会保険料の負担が社会保障の給付を上回っており、給付の内容は、医療などの現物給付が多くなっている。一方、世帯主が六十歳以上の世帯では、社会保障の給付が税や社会保険料の負担を大きく上回っており、給付の内容も、公的年金・恩給などの現金給付が多くなっている。
 「所得再分配調査」を用いて、社会保障の機能の一つである所得再分配効果を分析すると、社会保障が世帯間の所得格差の改善に対して大きな貢献をしていることが分かる。また、世帯の属性別に所得再分配の状況をみると、所得階層別では、当初所得五百万円以上の世帯から五百万円未満の世帯へ、世帯の年齢階級別では、世帯主が六十歳未満の世帯から六十歳以上の世帯へという所得再分配が行われている。さらに、一定の前提を置いて年齢階級別の一人当たり再分配所得を試算すると、全年齢を一〇〇とした場合、四十〜四十四歳の八七に対し、六十五〜六十九歳では一一一、七十五〜七十九歳では一一七と、六十五歳以上では、全年齢平均を上回る結果となっている(第2図参照)。
 今後、高齢世代に対する医療保障や年金制度における給付と負担のあり方や、現役世代と高齢者世代との間における給付と負担の公平性等について検討する際には、この所得再分配調査の分析を踏まえて考えていく必要がある。
 「家計調査」によると、勤労者世帯における直接税・社会保険料の負担割合は、平均で一五・八%(一九九八年)の水準にある。家計における直接税・社会保険料負担は金額の上では増大してきているが、実収入も着実に増加し続けたことにより、実収入に占める割合は一九七七年の七・七%から三十五年かかって二倍程度にとどまっており、毎年の負担率の伸びは極めて緩やかである。
 家計における直接税や社会保険料の負担(対実支出比)を、各国で公表されている家計に関する調査を基に比較すると、我が国はアメリカと同程度であり、イギリスやドイツよりも低い状況となっている。また、モデルとなる世帯(夫婦と子ども二人のサラリーマン世帯、給与収入別)を設定してみても、我が国の税や社会保険料の負担は、欧米諸国に比べて低い状況にある。
 さらに、勤労者の社会保険料率の国際比較を行うと、民間保険中心のアメリカや、財源を税中心に負っているイギリスより高いが、ドイツ、フランス、スウェーデンに比べて低くなっている(第2表参照)。
○国民経済的な視点からみた社会保障
 社会保障給付費(一九九六年度)の内訳をみると、社会保険制度が全給付費の約九割を占めており、年金が五一・八%、医療が三七・三%、福祉その他が一一・〇%となっている。我が国の社会保障給付は欧米諸国と比較して、年金及び医療のウエイトが大きくなっている。また、主な対象者に着目してみると、高齢者関係給付費の割合が極めて大きく、社会保障給付費全体の六四%、四十三兆円となっている。高齢者関係給付費のほとんどは、年金保険や老人保健を通じてその相当程度が現役世代の保険料負担で賄われる仕組みとなっている。
 国民経済の中の社会保障の給付と負担をみると、一九九七年度では、所得税(十九兆円)や法人税(十三兆円)より大きな金額が社会保障(社会保険料)負担(雇主分二十七兆円、被保険者分二十六兆円)として負担されている。この社会保障負担を主な財源として、国や地方による一般の行政サービスに並ぶ規模の金額が、年金や医療、福祉その他として国民に給付されている(第3図参照)。
 一般に、社会保障に係る負担については、国民負担率(租税及び社会保障(社会保険料)負担の対国民所得比)の視点から議論されることが多くなっている。我が国の国民負担率は、一九七〇年度の二四・三%から一九九九年度の三六・六%へと、二十九年間で一・五倍となっており、その増大のかなりの部分は、社会保障負担の増大によっているが、同時に家計の可処分所得の上昇も確保されている。
 国民負担率については、社会保障関係費の増大により、財政の硬直化を招いたり国民経済の停滞を招く可能性や、将来の現役世代の負担が過重なものになる可能性が懸念されており、国民負担率を高齢化のピークにおいても五〇%以下にとどめるべきとの指摘がなされている。その一方で、公的負担を抑制すれば個人負担や企業負担が増大すること、国民負担率の高い国が必ずしも経済成長率が低いわけではないこと、国民負担率がそのまま家計における税や社会保険料の負担との誤解を招くおそれがあること等の指摘もある。
 このように国民負担率については、様々な指摘があり、それらを念頭において社会保障についての議論を行う必要がある。
○社会保障の経済効果
 社会保障は、経済の安定や成長を支えていく「繁栄の基礎条件」と位置づけられる。なお、社会保障の給付や負担の増大が経済に与える影響については、前述の国民負担率との関係をはじめ、これまで多方面から様々な指摘がなされているが、必ずしも定説は確立されていない。
 この点について、単純化しつつ整理をすると、次のとおりとなる。
 (1)国民負担率との関係
  前述のとおり。
 (2)負担面と労働供給との関係
  社会保険料等の増大により可処分所得が減少し、勤労意欲が弱まるという考え方に対し、社会保険料等の増大と勤労意欲との間には、明確な負の関係はないという見解。
 (3)給付面と労働供給との関係
  社会保障給付の増大が勤労意欲や貯蓄意欲を減退させるという考え方に対し、社会保障の存在が勤労者に安心感を与えているという見解。
 (4)高齢化の進展と資本蓄積との関係
  高齢化が進展すれば、社会全体の貯蓄が減少するという考え方に対し、高齢化の進展と社会全体の貯蓄率との間には、明確な負の関係はないという見解。
 産業としての社会保障をみると、一九九五年の「産業連関表」によれば、医療、保健衛生、社会保険、社会福祉の社会保障部門に医薬品や廃棄物処理等の関係部門を加えると、国内生産額は約五十八兆円と、全国内生産額の六・二%を占めており、他産業と比べてもかなりの規模に達している。また、社会保障部門の産業規模の年平均伸び率(一九九〇年から一九九五年にかけて)も、全産業ベースの伸び率と比べて高くなっている。
 産業連関表を用いて社会保障の経済効果を分析すると、社会保障部門の一次効果は一・七三五(社会保障部門の最終需要が一千億円増加した場合の直接の生産額の増加が約一千七百三十五億円になることを意味)であり、全産業平均(一・八五〇)に匹敵する水準となっている。さらに、社会保障部門の二次効果(消費を通じて間接的に現れる生産額の増加)を試算すると、六百六億円となり、一次効果と二次効果を合わせた経済効果は、最終需要が一千億円増加した場合で約二千三百四十一億円となっている。
 社会保障関係の分野で働いている人々の数をみると、一九九六年で、約四百四十六万人、全就業者数の十五人に一人を占めている。このうち、保健、医療、福祉分野という社会サービスの従事者数は、約三百十七万人、全就業者数の約四・九%を占めており、就業者数の伸び率も他の業種より高くなっている。
 社会保障が地域経済に与える効果としては、地域間の所得再分配機能がある。「所得再分配調査」によると、三大都市圏からその他の地域に対する所得再分配機能が働いていることが推測される。このほか、社会保障が地域経済に与える効果には、都道府県や市町村における生産額の増加、雇用創出効果なども考えられる。

第3章 我が国の社会保障制度はどのような水準に達しているか

○高い水準に到達した保健・医療
 保健医療施策の成果としては、主として次の点を代表例として挙げることができる。
 (1)世界最高水準の平均寿命(男性:七七・一九歳、女性:八三・八二歳、一九九七年)
 (2)高い保健医療水準(低い水準の乳児死亡率、死因別死亡率の低下、がんの治癒率の向上等)
 (3)健康寿命(痴呆や寝たきりにならない状態で生活できる期間)の延伸
 我が国の医療制度について、利用者側からみた長所としては、@国民の誰もが、公平に医療サービスを受けることができること、A一定の質が確保された医療を、比較的低い患者負担により受けることができること、B患者が自由に医療機関を選択できることの三点を挙げることができる。このうち、@及びAについては、医療関係者や医療機関等の医療提供体制の整備と、国民皆保険体制の確立という医療保険制度の充実が背景にある。Bについては、患者は基本的に医療機関を自由に選ぶことができ、どの医療機関でも受診が可能であるというフリーアクセスの仕組みをとっていることによる。
 医療サービスに関して国際比較を行うと、外来受診率が大変高くなっている一方で、人口一千人当たりの病床数が大変多く、入院在院日数が長くなっている(第3表参照)。
 また、受診のしやすさから、我が国の国民医療費は増大の一途をたどっており、一九九九年度には初めて三十兆円を超えるものと見込まれている。さらに、人口構成の高齢化の進展とともに、老人医療費の伸び率が、国民医療費の伸び率を大きく上回っており、一九九八年度見込みでは十兆六千億円と、国民医療費の三六・一%を占めるに至っている。これに伴い、老人保健拠出金の負担が年々増大し、各医療保険者の財政運営の圧迫要因になっている。
○所得保障の充実
 我が国の公的年金制度の特徴としては、@国民すべてが公的年金制度の対象となる国民皆年金体制であること、A基礎年金と上乗せ部分が組み合わされた制度であること、B物価スライド等により、実質的価値が維持された年金が終身にわたり給付されること、C段階保険料方式をとり、少なくとも五年に一度、財政再計算を行って、給付と負担の長期的な均衡を図っていることが挙げられる。
 一九九八年三月現在、国民の約五人に一人が何らかの年金の受給権を持っており、平均年金月額も、国民年金四万七千円、厚生年金十七万二千円、共済年金二十二万三千円となっている。「国民生活基礎調査」によると、一九九八年には、高齢者世帯の所得に占める公的年金・恩給の割合は約六二%(約百九十七万円)であり、しかも、公的年金・恩給を受給している高齢者世帯の五、六割程度が所得を公的年金・恩給のみに依存している。また、「家計調査」により、高齢夫婦無職世帯の平均的な家計をみると、実収入の約九一%を社会保障給付が占めており、消費支出及び非消費支出の約八六%を賄っている。
 厚生年金について、財政方式を完全な積立方式とし、民営化(廃止)すべきとの意見があるが、老後の所得保障が不安定になるという大きな問題がある。また、切替え時に生じる三百八十兆円もの「二重の負担」をどう解消するかといった問題もある。
 生活保護制度は、困窮に陥った国民の「最後のよりどころ」として、依然として重要な役割を担っている。その受給者数は、一九五〇年ごろの二百万人超から、高度経済成長や他の社会保障制度の創設・充実などにより、近年は九十万人程度にまで減少しているが、一九九六年度以降においては上昇傾向に転じつつある。また、生活保護受給世帯の内訳をみると、高齢者世帯が増加しており、特に女性の単身高齢者世帯が多くなっている。
 また、我が国の生活保護世帯に類似した欧米諸国の公的扶助制度を比較すると、制度の仕組みや対象者、扶助の内容、需給状況などは国ごとに異なっている。
○発展・拡大してきた社会福祉
 戦後五十有余年の間に、社会福祉制度は、多様な広がりと変化をみせてきた。特に福祉サービスのあり方をみると、全体として、@福祉サービスの一般化・普遍化、A利用者本位の仕組みとサービスの質の向上、B市町村中心の仕組み、C在宅サービスの充実と施設サービスの量的拡大、Dサービス供給体制の多元化、E保健・医療・福祉の連携の強化とサービスの総合化という方向で変化してきている。
 児童福祉施策の中で、第一に挙げられるのは、保育所の整備である。一九四七年の児童福祉法施行当時は、全国で一千四百七十六か所、入所児童数は十三万五千五百三人にすぎなかったが、一九九七年十月現在では、全国で二万二千三百八十七か所、入所児童数は百七十三万八千八百二人と、十倍以上に増加している。
 高齢者福祉については、一九六三年の老人福祉法の制定により、それまではごく一部の低所得者に限定されていた施策から、社会的支援を必要とする高齢者を幅広く対象とする施策へと転換が図られた。その後、一九八〇年代後半ごろからは、福祉サービスの充実や介護問題への対応が大きな課題となり、特に在宅サービスの強化の必要性が強調されるようになった。こうした状況を踏まえて、高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)が策定された。
 障害者福祉については、その対象となる障害者の範囲の拡大、福祉サービスの種類及び量的拡大、社会参加の推進、自立支援という方向で、施策の拡充が図られてきた。生活支援という面だけではなく、障害者の自立と社会参加を促進するという点に力が注がれてきたということは、児童福祉や高齢者福祉とは異なる側面を持っている。
 社会福祉事業の規模の拡大とともに、社会福祉法人のみならず、多様な事業主体が福祉サービス分野に参入しつつあり、サービスの量的拡大と健全な競争を通じたサービス内容の質的向上が期待される。
○社会保障制度は大勢の人々によって支えられている
 保健、医療、福祉という社会サービスの従事者を保健・医療関係者と福祉関係者とに分けてみると、保健・医療関係者は約百九十六万人、福祉関係者は約百四万人の規模となっている。保健・医療関係者では、看護婦(士)等が全体の六割を、福祉関係者では保育士が全体の約四分の一を占めている。
 社会保障関係業務の特性を整理すると、@対人サービスであり、かつ、労働集約的である、A地域に密着した生活支援のサービスである、B従事者の技量がサービスの質の向上に重要な役割を果たす、C国家試験による免許制度など、各種資格制度に基づいた専門職が中心である、D公的制度に基づくサービス供給が中心である、Eサービスを提供する技量とともに、豊かな人間性や強い倫理性を要求されるといった点が挙げられる。
 社会保障関係分野においては、人命や人の健康に関わる業務であることや、サービスの質の向上を図る等の観点から、業務の専門性や能力を客観的に評価し、社会的な信用を確保するために、国家試験による免許制度など、種々の資格が整備されてきている。
 社会サービス分野に従事する人々の確保や質の向上のためには、教育・養成施設の量的整備と教育水準の高度化が不可欠である。量的整備の面では、社会サービスに対する需要の高まりに応じて、教育施設の増大が図られている。また、看護業務や福祉業務の内容の高度化、複雑化、専門化の進展等から、看護職員や福祉関係者に関する養成課程の水準の向上が図られている。
 保健医療・福祉分野では、多様なサービスの確保やサービスの質の向上のために、民間企業は大きな役割を果たしており、その役割は増大してきている。また、近年では、ボランティア活動が活発になっている。一九九八年度では、ボランティアグループ数は約八万三千、活動者数は約六百二十万人にも上っている。活動内容については、家事や食事援助など在宅福祉サービスや、相談・訪問・交流活動、手話・朗読・点訳活動など、様々な領域にまたがっている。

第4章 社会保障は今後どのような方向に向かうのか

○社会保障制度の最近の動向と欧米諸国の取組
 一九九〇年代後半から、社会保障給付費用の増大、経済の低成長基調、国の財政状況の悪化、社会保障に対する需要の多様化などを背景として、成熟した社会・経済にふさわしい社会保障とするため、制度全般の見直しを行う社会保障構造改革が進められている。
 社会保障構造改革の方向としては、@制度横断的な再編成等による全体の効率化、A個人の自立を支援する利用者本位の仕組みの重視、B公私の適切な役割分担と民間活力の導入の促進、C全体としての公平・公正の確保、の四つが挙げられる。
 また、欧米諸国においても、高齢社会における社会保障給付の増大、経済基調の変化、高い失業率等の現状から、社会保障と経済・財政の調和が共通の課題となっており、社会保障制度をめぐる議論が盛んになっている。
○二十一世紀の社会保障の方向を展望する
 一九八〇年代から今日に至るまで、二十一世紀の本格的な高齢化社会の到来を見越して、社会保障分野において様々な対応が講じられ、その結果、高齢者関係の社会保障では、制度面及び内容面で相当の水準に到達してきている。しかし、その一方で高齢期や社会保障制度に対する不安を持つ人の割合が増えている。「平成十年度国民生活選好度調査」によると、二十歳以上の国民の七三%が老後に不安を抱いている。また、「一九九九年一月社会保障制度に関する調査」によると、社会保障制度の将来について、現役世代の約六割が「大いに不安を感じている」、約四割が「少し不安を感じている」と答えており、年齢別では、年齢が高くなるほど不安を感じている割合が高くなっている(第4図参照)。
 この背景としては、欧米先進諸国に比べて急激に進展する高齢化を踏まえ、これまで高齢社会の負担増、とりわけ給付面に対する負担の重さのみが強調されてきたことや、現役世代からみて、現行の老人医療等の制度が、高齢化の進展等による給付費増に伴い、現役世代の負担も増大する仕組みであることも反映していると考えられる。しかしながら、次のような点から、我が国の社会保障制度の将来に対して、過度の不安感を抱く必要はないものと考えられる。
 (1)現在の我が国の社会保障に対する負担は、欧米諸国と比べて、国民経済レベルでも家計レベルでも相対的に低い水準にあること
 (2)二十一世紀の高齢社会に対するイメージを変えることによって、過度の不安感がうすらいでいくこと
 (3)ある特定の世代のみに負担が集中することがないように、社会全体で公平に負担をしたり、世代間の給付と負担の均衡が図られるような仕組みの社会保障制度を構築すること
 今後、少子高齢化が進展していくため、医療費や年金給付費の増大に伴う負担の増大が予想されるが、これらは給付と負担のあり方について、国民全体のコンセンサス(合意)が得られるように、随時適切な見直しをしていくことにより、対応が可能である。「一九九九年一月社会保障制度に関する調査」によれば、社会保障について「現在の水準を維持していく必要があり、高齢化に伴う給付費増のため、必要最小限の増税や社会保険料の負担はやむを得ない」という「現状維持派」が五七・八%を占めている(第5図参照)。
 従来、高齢者を「弱者」として一律にとらえる見方があったが、「一九九九年一月社会保障制度に関する調査」によると、身体面では弱者と見る人が多数であるものの、経済面では弱者ではないとする人が多数となっている。高齢者は、健康水準や体力、価値観、人生経験、収入、資産、家庭環境など、個人差が大きくなっている。高齢者を、健康も所得水準も考え方も同じような集団として、ステレオタイプ(型にはまった画一的なイメージ)でみることは問題である。
 また、二〇一〇年以降は、「団塊の世代」が高齢世代の仲間入りをしてくるが、これらの世代が高齢世代の大部分を占めるようになると、高齢社会の姿を大きく変えていくことが予想される。新しい高齢世代は、多様なニーズ(需要)を持った大消費層であり、経済活動に新たなチャンスを与えるものとなろう。
 さらには、二十一世紀の日本社会は、人口構成上、高齢者がマイノリティ(少数)ではなくなる時代であり、年齢のみで世代間に区別をつけることが不合理なものについては、「エイジレス(年齢による区別がない)」の時代を迎えるだろう。
 最後に、これからの社会保障のあり方を考える上での五つの視点を提案する。
 (1)社会保障は安心できる生活のインフラストラクチャー(社会資本)
  社会保障制度を国民生活のインフラストラクチャーと位置づけ、今後とも社会保険料等の負担を有効に活用しつつ強化。
 (2)社会連帯意識の再構築
  高齢世代と現役世代間の給付と負担の不均衡を調整する制度の設計・運営により、社会保障を支える基本理念である社会連帯意識を再構築。
 (3)少子化や家族形態の変化に対応した社会保障制度の構築
  少子化や、二十一世紀前半には単独世帯がもっとも多くなる等の家族形態の変化に対応した仕組みの検討。
 (4)社会保障の総合化と厚生・労働行政の統合・連携の強化
  社会保障各制度間の総合調整と「厚生労働省」の誕生を契機にした厚生行政と労働行政の統合・連携の強化。
 (5)福祉の充実による地域の活性化
  介護保険制度の創設等を踏まえ、福祉の充実を中心としたまちづくりと、住民参加や行政広域化の推進。
 これらの視点を持ちながら、現行の社会保障制度について、経済社会の変化や国民生活の変化等に適切に対応できるように適宜見直しを行い、社会を構成する皆で支えあい、より良いものにしていく努力が重要である。

 【第2部】主な厚生行政の動き

第1章 二十一世紀に向けての年金制度改正

○公的年金制度をめぐる状況と改正の必要性
 公的年金制度の現状及び国民生活にとって不可欠な制度であることを説明するとともに、少子・高齢化の進展、経済基調の変化が進む中で、公的年金制度全体にわたる見直しを行い、公的年金の将来像を示すことの必要性を記述。
○平成十一年年金制度改正案
 年金審議会における議論、「五つの選択肢」の提示や「年金白書」の刊行等による情報公開、一九九八(平成十)年十月の年金審議会における意見書の取りまとめ、年金制度改正案(厚生省案)の公表等、年金制度改正に向けての経緯を記述。あわせて一九九九(平成十一)年七月に国会に提出された年金制度改正案(年金額の改定、裁定後の年金改定方式の変更、総報酬制の導入等)について解説。
○年金制度をめぐる他の動向
 企業年金制度について、厚生年金基金制度の現状の記述の後、確定拠出型年金制度の導入等の検討、年金基金の運用規制の見直しについて記述。年金の国際化への対応として、ドイツとの年金協定の締結、イギリス、アメリカとの協議等について紹介。

第2章 介護保険制度の円滑な施行に向けての準備

○介護保険制度の円滑な施行
 介護保険制度のねらい、制度の概要等について解説した後、介護保険制度の円滑な施行に向けた取組について記述。主な内容として、介護サービスの基盤体制の整備、要介護認定の実施(試行的事業)、政省令等の制定、市町村に対する財政面及び実施体制面からの支援、市町村及び都道府県における施行準備、介護支援専門員の養成等を記述。
○介護保険制度の創設と介護サービスの供給体制の整備
 新・高齢者保健福祉推進十か年戦略(新ゴールドプラン)の進捗状況について記述するとともに、多様な事業主体の参入、既存施設の有効活用等の地域の実情に応じた施策の展開や、介護保険導入を見据えた施策の展開等、新ゴールドプランの達成に向けた取組を紹介。

第3章 信頼できる安定した医療制度の確立

○医療制度を取り巻く最近の動き
 二十一世紀においても信頼できる安定した医療保険制度を堅持するためには、医療制度全般にわたる抜本的な改革が必要であることや、医療費の状況、医療保険財政の状況、医療提供体制の状況及び課題について記述。また、医療制度の抜本改革の検討に至る経緯を紹介し、現行の制度のもとで行われた国民健康保険法等の改正について解説。
○医療保険制度の抜本改革
 医療保険制度の抜本的改革の二〇〇〇(平成十二)年度からの実施を目指して、検討が進められていることを記述。検討されている事項は、@診療報酬体系の見直し、A薬価制度の見直し、B高齢者医療制度の見直し。また、外来の薬剤に対する患者一部負担について、医療保険制度の抜本的改革の応急的な処置として、高齢者の薬剤一部負担金を国が代わって支払う臨時特例措置について記述。
○新しい時代の医療サービス
 少子・高齢化の進展、疾病構造の変化等の中で、良質かつ効率的な医療の提供が重要な課題であることや、医療提供体制の見直しに関する審議、医療サービスを担う人材の養成確保と資質の向上に関する取組、救急医療対策、へき地医療対策、医療の質の評価について記述。
○臓器移植の推進と難病対策
 一九九七(平成九)年十月に施行された「臓器の移植に関する法律」の概要を紹介の後、本年二月、臓器移植法施行後初めての脳死した者からの臓器提供の事例や、臓器移植推進のための取組について記述。あわせて重症患者対策に重点を移した施策の展開等、難病対策への取組を紹介。
○政策医療の担い手たる国立病院・療養所
 国立病院・療養所は、今後政策医療を担うものとして期待されており、そのためには経営改善を実行し、効率的な経営体制の確立が必要であることを記述。また、行政改革の中、国立病院・療養所の再編成を推進し、独立行政法人化への準備を進める必要があることも記述。

第4章 社会福祉の基礎構造改革と障害保健福祉施策の見直し

○社会福祉の基礎構造改革
 国民の福祉に対する需要の増大、多様化に対応するため、社会福祉事業、社会福祉法人など社会福祉の基礎構造の強化・充実が必要であることを記述。社会福祉事業を取り巻く現状、社会福祉の基礎構造改革について、「社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ)」、「社会福祉基礎構造改革を進めるに当たって(追加意見)」等を紹介。また、施設整備業務等の再点検に関する実施状況について言及。
○障害者の保健福祉施策の見直し
 障害者プランに基づく施策の推進状況について紹介するとともに、今後の障害保健福祉施策の方向についての議論を記述。そして、精神保健福祉施策の見直しについて、その経緯および背景を述べた後、本年五月に成立した「精神保健および精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律」の概要を紹介。

第5章 少子化への対応と子育て支援施策の推進等

○少子化への対応
 少子化の現状と将来の見通しを述べるとともに、少子化の社会経済面への影響、少子化の要因や背景について記述。これまでの少子化への対応として、人口問題審議会報告書及び厚生白書による問題提起、少子化への対応を考える有識者会議における検討を紹介するとともに、有識者会議の提言の概要と、今後の取組についても紹介。
○子育て支援施策の推進
 子育て支援について、「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」、「緊急保育対策等五か年事業」に基づく施策が展開されていることを記述。特に、都市部を中心とした待機児童の解消、多様な保育サービスの推進の必要性について述べた後、その他の子育て支援策として、子育て支援基金、子育てに配慮した減税等について紹介。
○児童の健全育成対策等の推進
 児童の健全育成について、大型児童館の整備等の「地域社会」における児童・青少年の居場所作りを紹介。あわせて、児童自立支援対策(児童家庭支援センターの設置等)、児童虐待への取組、母子家庭施策等の充実、生殖補助医療技術や出生前診断等の母子保健の課題について記述。

第6章 健康と安全を守る取組と生活環境の整備

○健康危機管理への取組
 国民の生命・健康の安全を脅かす事態に対して健康被害の発生予防、拡大防止、治療のための対策を講じる健康危機管理の取組について、毒物を使用した事件への対応や、その後の諸施策を中心に概観。
○新たな感染症対策
 患者等の人権にも配慮しつつ、新しい時代に対応した感染症対策の推進を図るため、一九九八(平成十)年十月に制定された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の概要を解説するとともに、エイズ、結核、薬剤耐性菌などの新興・再興感染症への対応状況について記述。
○医薬品等の安全対策の推進
 血液製剤によるHIV感染問題における取組について、訴訟の提起と和解の成立に至る経緯、これらを踏まえた各種恒久的対策について記述。医薬品の有効性・安全性の確保に関する施策について、「医薬品の臨床試験の実施の基準」(GCP)の円滑な実施、承認審査体制の見直し、医薬分業の推進、血液事業のあり方の見直し等について記述。また、薬物乱用防止対策についても紹介。
○生涯にわたる健康づくりと地域保健
 国民の健康づくりを総合的に推進することを理念とした「二十一世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の計画策定について記述するとともに、生活習慣病対策の推進、たばこ対策、生涯を通じた女性の健康支援等を紹介。また、地域保健対策について言及。
○食品の安全性の確保と化学物質対策
 食品をめぐる新たな問題に適切に対応する指針として、昨年六月に取りまとめられた「今後の食品保健行政の進め方について」に言及するとともに、食中毒対策の強化等の食品の安全性の確保のための方策について紹介。また化学物質対策への取組として、ダイオキシン、内分泌かく乱化学物質への対策、国際的な化学物質への取組等について記述。
○安全でおいしい水の確保
 安全で良質な水道水を供給するための取組として、水道原水の水質保全、水道の水質管理等の対策を紹介。質の高い水道を目指した水道未普及地域の解消、高度浄水施設の整備促進、直結給水の推進などの施策及び地震・渇水に強い水道づくりについて紹介。さらに、給水装置に関する規制緩和、水質検査を行う機関の指定基準に係る規制緩和にも言及。
○大量に排出される廃棄物への取組
 廃棄物の処理をめぐり、様々な問題が発生している現在、廃棄物の排出をできるだけ抑え、極力リサイクルを推進する「循環型社会」を構築することが重要と強調。昨年十月の生活環境審議会への諮問の概要等を紹介し、廃棄物対策の総合的な検討が進んでいることを記述。
 さらに、改正廃棄物処理法の施行、最終処分場の処理施設の確保などの取組、廃棄物焼却施設からのダイオキシン類の排出抑制のための対策、容器包装リサイクル法の施行等によるリサイクルの推進、大都市圏の廃棄物対策(フェニックス計画)についても言及。

第7章 新たな厚生行政の展開に向けて

○厚生科学の推進
 国民の保健医療・福祉・生活衛生等に関わる科学研究である「厚生科学」を振興するための取組として、厚生科学研究費補助金、国立試験研究機関における研究について紹介するとともに、医薬品等の研究開発の振興について記述。
○情報化の推進
 情報処理や情報通信技術が進歩する中での情報化の意義について記述するとともに、政府及び厚生省における保健医療福祉分野での情報化や行政の情報化の推進状況について、国際的な取組を含めて紹介。また、コンピュータ西暦二〇〇〇年問題への厚生省における取組について記述。
○政策強調と国際協力等の推進
 我が国が提唱した「世界福祉構想」の具体化について、第三回OECD社会保障大臣会議における議論、OECD事務局の取組、太平洋島嶼諸国大臣会合、また、先進国との保健福祉協力、政策協調、WHOとの一層の連携など、保健医療分野の国際協力の動向の紹介の他、戦没者慰霊事業の推進、中国残留邦人への援護施策等についても記述。
○中央省庁の再編と厚生行政
 中央省庁の再編に向けた取組として、中央省庁等改革基本法に基づく取組を紹介するとともに、厚生行政に関する事項(新たな省の名称と任務、今後の組織のあり方等)について記述。


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賃金、労働時間、雇用の動き


毎月勤労統計調査 平成十一年六月分結果速報


労 働 省


 「毎月勤労統計調査」平成十一年六月分結果の主な特徴点は次のとおりである。

◇賃金の動き

 六月の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は四十七万五千九百四円、前年同月比は四・四%減であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十八万一千二百十七円、前年同月比〇・七%減であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十六万四千八十一円、前年同月比〇・八%減、所定外給与は一万七千百三十六円、前年同月比は〇・六%減となっている。
 また、特別に支払われた給与は十九万四千六百八十七円、前年同月比は九・三%減となっている。
 実質賃金は、四・〇%減であった。
 産業別にきまって支給する給与の動きを前年同月比によってみると、伸びの高い順に電気・ガス・熱供給・水道業一・八%増、金融・保険業〇・一%増、製造業前年同月と同水準、運輸・通信業〇・一%減、サービス業〇・七%減、卸売・小売業,飲食店一・一%減、建設業二・五%減、鉱業二・七%減、不動産業四・八%減であった。

◇労働時間の動き

 六月の調査産業計の常用労働者一人平均月間総実労働時間は百五十九・二時間、前年同月比一・八%減であった。
 総実労働時間のうち、所定内労働時間は百五十・一時間、前年同月比一・八%減、所定外労働時間は九・一時間、前年同月比二・一%減、季節調整値は二・〇%減であった。
 製造業の所定外労働時間は十一・八時間で、前年同月比は前年同月と同水準、季節調整値の前月比は一・〇%減であった。

◇雇用の動き

 六月の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・五%減、常用労働者のうち一般労働者では一・三%減、パートタイム労働者では三・六%増であった。
 常用労働者全体の雇用の動きを産業別に前年同月比によってみると、前年同月を上回ったものはサービス業一・八%増、建設業一・五%増、不動産業〇・四%増であった。前年同月を下回ったものは、卸売・小売業,飲食店一・一%減、電気・ガス・熱供給・水道業及び運輸・通信業一・二%減、製造業二・四%減、金融・保険業二・五%減、鉱業三・六%減であった。
 主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者二・八%減、パートタイム労働者は一・〇%増、卸売・小売業、飲食店では一般労働者四・〇%減、パートタイム労働者五・〇%増、サービス業では一般労働者一・三%増、パートタイム労働者三・四%増となっている。











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月例経済報告(十月報告)


経済企画庁


 概 観

 我が国経済の最近の動向をみると、個人消費は、緩やかに回復してきたが、収入が低迷していることなどから、このところ足踏み状態にある。住宅建設は、マンションの着工が増加しており、前年を上回る水準で推移している。設備投資は、なお大幅な減少基調が続いている。公共投資は、着工の動きはこのところ低調だが、事業の実施が進んでいる。輸出は、アジア向けが回復傾向にあるため、緩やかに増加している。
 在庫は、調整が進み、在庫率は前年を下回る水準になっている。こうした中、生産は、持ち直しの動きがみられる。
 雇用情勢は、依然として厳しい。勤め先や事業の都合による失業者が依然多く、完全失業率は高水準で推移している。
 企業収益は、持ち直してきた。また、企業の業況判断は、なお厳しいが改善が進んでいる。
 以上のように、景気は、民間需要の回復力が弱く、厳しい状況をなお脱していないが、各種の政策効果の浸透などにより、緩やかな改善が続いている。
 政府は、将来の公需の鈍化等が景気減速をもたらしかねないとの懸念を払拭しつつ、公需から民需へのバトンタッチを円滑に行い、景気を本格的な回復軌道に乗せていくとともに、新たな発展基盤の確立を目指すため、今後の我が国の経済運営の指針ともなる総合的な経済対策を早急に策定し、平成十一年度第二次補正予算を編成する。

     ◇     ◇     ◇

 我が国経済
需要面をみると、個人消費は、緩やかに回復してきたが、収入が低迷していることなどから、このところ足踏み状態にある。住宅建設は、マンションの着工が増加しており、前年を上回る水準で推移している。設備投資は、なお大幅な減少基調が続いている。公共投資は、着工の動きはこのところ低調だが、事業の実施が進んでいる。
 産業面をみると、在庫は、調整が進み、在庫率は前年を下回る水準になっている。こうした中、鉱工業生産は、持ち直しの動きがみられる。企業収益は、持ち直してきた。また、企業の業況判断は、なお厳しいが改善が進んでいる。企業倒産件数は、春先からやや増加しているものの、信用保証制度の拡充の効果などで前年の水準を下回っている。
 雇用情勢は、依然として厳しい。勤め先や事業の都合による失業者が依然多く、完全失業率は高水準で推移している。
 輸出入は、対アジア輸出入の動向を反映して、緩やかに増加している。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、九月は百九円台から百十円台で推移した後、百四円台まで上昇したが、月末には百六円台に下落した。
 物価の動向をみると、国内卸売物価は、下げ止まっている。また、消費者物価は、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、九月は横ばいで推移した。長期金利は、九月は低下した。株式相場は、九月は一進一退で推移した。マネーサプライ(M+CD)は、八月は前年同月比三・五%増となった。また、企業金融のひっ迫感は緩和しているが、民間金融機関の貸出は依然低調である。
 海外経済
主要国の経済動向をみると、アメリカでは、先行きには不透明感もみられるものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、九九年一〜三月期前期比年率四・三%増の後、四〜六月期は同一・六%増となった。個人消費、設備投資は増加している。住宅投資は一〜三月期の大幅増の反動もあり、伸びが鈍化している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は一時的要因により減少した。物価は総じて安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。連邦準備制度は、十月五日の連邦公開市場理事会(FOMC)において、金融政策姿勢をそれまでの「中立」から「引締め」方向へ転換したことを発表した。九月の長期金利(三十年物国債)は、ほぼ横ばいで推移した。株価(ダウ平均)は、上旬にやや上昇したもののその後は下落し、月初と月末を比べると下落した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は緩やかに改善してきている。フランスでは、景気は緩やかな拡大を続けている。イギリスでは、景気は改善してきている。鉱工業生産は、ドイツでは増加に転じた。フランスではほぼ横ばいで推移しており、イギリスでは増加している。失業率は、ドイツではほぼ横ばいで推移している。フランスでは高水準ながらもやや低下しており、イギリスでは低水準で推移している。物価は、安定している。なお、イングランド銀行は、九月八日に政策金利を〇・二五%引き上げ、年五・二五%とした。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は下落している。韓国では、景気は急速に回復している。失業率は高水準ながらも低下している。
 国際金融市場の九月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、月を通じてはやや減価した。
 国際商品市況の九月の動きをみると、CRB商品先物指数は、月初から上昇基調で推移し、中旬にやや弱含む場面がみられたものの、月末にかけては二〇八ポイント台まで上昇した。原油スポット価格(北海ブレント)は、上旬から上昇基調で推移し、中旬にはやや弱含んだが、下旬には二十三ドル台まで上昇した。

1 国内需要
―個人消費は、緩やかに回復してきたが、このところ足踏み状態―

 個人消費は、緩やかに回復してきたが、収入が低迷していることなどから、このところ足踏み状態にある。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で七月一・四%増の後、八月は〇・一%増(季節調整済前月比一・一%減)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比一・一%減、勤労者以外の世帯では同二・三%増となった。形態別にみると、財は減少、サービスは増加となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比〇・一%増、勤労者世帯では同一・五%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で七月二・一%減となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で七月二・四%減の後、八月は一・四%減(季節調整済前月比〇・三%増)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で七月二・一%減の後、八月二・九%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で七月五・一%減の後、八月四・九%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で九月は三・三%増となった。また、家電小売金額(日本電気大型店協会)は、前年同月比で八月は二・五%増となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、八月は前年同月比で国内旅行が〇・七%増、海外旅行は〇・六%減となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で七月二・一%減の後、八月(速報)は一・一%減(事業所規模三十人以上では同〇・八%減)となり、うち所定外給与は、八月(速報)は同二・三%増(事業所規模三十人以上では同一・五%増)となった。実質賃金は、前年同月比で七月二・〇%減の後、八月(速報)は一・五%減(事業所規模三十人以上では同一・一%減)となった。なお、六〜八月合算の特別給与(速報)は、前年同期比七・一%減(前年は同三・九%減)となった。
 住宅建設は、マンションの着工が増加しており、前年を上回る水準で推移している。
 新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で七月一一・七%減(前年同月比一・九%増)となった後、八月は一〇・七%増(前年同月比八・四%増)の十万六千戸(年率百二十八万戸)となった。八月の着工床面積(季節調整値)は、前月比一二・九%増(前年同月比一一・五%増)となった。八月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比一一・一%増(前年同月比一二・九%増)、貸家は同二・七%増(同〇・三%増)、分譲住宅は同三一・四%増(同一六・七%増)となっている。
 設備投資は、なお大幅な減少基調が続いている。
 日本銀行「企業短期経済観測調査」(九月調査)により設備投資の動向をみると、大企業の十一年度設備投資計画は、製造業で前年度比九・八%減(六月調査比一・三%上方修正)、非製造業で同九・一%減(同三・二%下方修正)となっており、全産業では同九・四%減(同一・六%下方修正)となった。また、中堅企業では、製造業で前年度比一六・三%減(六月調査比三・五%上方修正)、非製造業で同五・一%減(同二・二%上方修正)となり、中小企業では製造業で同二九・一%減(同五・五%上方修正)、非製造業で二〇・四%減(同三・四%上方修正)となっている。
 なお、十一年四〜六月期の設備投資を、大蔵省「法人企業統計季報」(全産業)でみると前年同期比で一三・四%減(うち製造業二四・六%減、非製造業六・六%減)となった。
 先行指標の動きをみると、当庁「機械受注統計調査」によれば、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、季節調整済前月比で七月は五・四%減(前年同期比七・五%減)の後、八月は二・七%増(同四・一%減)となり、基調は減少傾向となっている。ただし、このところ製造業の動きには底堅さがみられる。なお、七〜九月期(見通し)の機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前期比で四・〇%増(前年同期比五・九%減)と見込まれている。
 民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、八月は季節調整済前月比一五・四%増(前年同月比一・七%減)となったが、低水準での推移となっている。内訳をみると、製造業は季節調整済前月比九・七%増(前年同月比一八・七%減)、非製造業は同一六・五%増(同一・八%増)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資は、着工の動きはこのところ低調だが、事業の実施が進んでいる。
 公共工事着工総工事費は、前年同月比で七月七・九%減の後、八月は七・四%減となった。公共工事請負金額は、前年同月比で八月六・六%減の後、九月は一五・三%減となった。官公庁からの建設工事受注額(五十社)は、前年同月比で七月一七・四%減の後、八月は七・一%減となった。

2 生産雇用
―持ち直しの動きがみられる生産―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、在庫は、調整が進み、在庫率は前年を下回る水準になっている。こうした中、生産・出荷は、持ち直しの動きがみられる。
 鉱工業生産(季節調整値)は、前月比で七月〇・六%減の後、八月(速報)は、電気機械、輸送機械等が増加したことから、四・六%増となった。また製造工業生産予測指数(季節調整値)は、前月比で九月は電気機械、鉄鋼等により一・三%減の後、十月は輸送機械、一般機械等により〇・七%減となっている。鉱工業出荷(季節調整値)は、前月比で七月一・一%減の後、八月(速報)は、生産財、耐久消費財等が増加したことから、四・〇%増となった。鉱工業生産者製品在庫(季節調整値)は、前月比で七月一・三%減の後、八月(速報)は、電気機械、石油・石炭製品等が減少したものの、輸送機械、金属製品等が増加したことから、〇・二%増となった。また、八月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数(季節調整値)は九九・四と前月を二・三ポイント下回った。
 主な業種について最近の動きをみると、電気機械では、生産は四か月連続で増加し、在庫は八月は減少した。輸送機械では、生産は四か月連続で増加し、在庫は三か月連続で増加した。化学では、生産は八月は増加し、在庫は六か月連続で減少した。
 第三次産業の動向を通商産業省「第三次産業活動指数」(七月調査、季節調整値)でみると、六月〇・一%増の後、七月(速報)は、運輸・通信業、金融・保険業が増加したものの、不動産業、電気・ガス・熱供給・水道業等が減少した結果、前月比〇・三%減となった。
 農業生産の動向をみると、平成十一年産水稲の全国作況指数(九月十五日現在)は、一〇二の「やや良」となっている。
 雇用情勢は、依然として厳しい。勤め先や事業の都合による失業者が依然多く、完全失業率は高水準で推移している。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、七月〇・四六倍の後、八月〇・四六倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、七月〇・八七倍の後、八月〇・八一倍となった。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、七月前年同月比一・二%減(前年同月差六十三万人減)の後、八月は同〇・三%減(同十四万人減)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、七月前年同月比〇・四%減(季節調整済前月比〇・〇%)の後、八月(速報)は同〇・二%減(同〇・二%増)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比一・二%減)、産業別には製造業では同二・二%減となった。八月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差十三万人減の三百十七万人、完全失業率(同)は、七月四・九%の後、八月四・七%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では七月前年同月比二・六%増(季節調整済前月比二・八%増)の後、八月(速報)は同四・五%増(同二・四%増)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比四・〇%増)。
 前記「全国企業短期経済観測調査」(九月調査)によると、企業の雇用人員判断は、過剰感が若干低下したものの、依然として高い水準にある。
 企業の動向をみると、企業収益は、持ち直してきた。また、企業の業況判断は、なお厳しいが改善が進んでいる。
 前記「全国企業短期経済観測調査」(九月調査)によると、大企業(全産業)では、経常利益は十一年度上期には前年同期比五・三%の減益の後、十一年度下期には同二八・八%の増益が見込まれている。産業別にみると、製造業では十一年度上期に前年同期比一四・三%の減益の後、十一年度下期には、同六五・九%の増益が見込まれている。また、非製造業では十一年度上期に前年同期比三・六%の増益の後、十一年度下期には同四・四%の増益が見込まれている。売上高経常利益率は、製造業では十一年度上期に三・〇四%となった後、十一年度下期は四・三四%と見込まれている。また、非製造業では十一年度上期に二・〇八%となった後、十一年度下期は二・三三%と見込まれている。こうしたなかで、企業の業況判断をみると、製造業、非製造業ともに「悪い」超幅が縮小した。
 また、中小企業の動向を同調査でみると、製造業では、経常利益は十一年度上期には前年同期比九三・六%の増益の後、十一年度下期には同四四・四%の増益が見込まれている。また、非製造業では、十一年度上期に前年同期比五・〇%の増益の後、十一年度下期には同一八・一%の増益が見込まれている。こうしたなかで、企業の業況判断をみると、製造業、非製造業ともに「悪い」超幅が縮小した。
 企業倒産の状況をみると、件数は、春先からやや増加しているものの、信用保証制度の拡充の効果などで前年の水準を下回っている。
 銀行取引停止処分者件数は、八月は八百八十二件で前年同月比一四・三%減となった。業種別に件数の前年同月比をみると、製造業で一七・一%、建設業で四・四%の減少となった。

3 国際収支
―輸出は、アジア向けが回復傾向にあるため、緩やかに増加―

 輸出は、アジア向けが回復傾向にあるため、緩やかに増加している。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で七月〇・七%減の後、八月は一・七%増(前年同月比五・〇%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、電気機器、輸送用機器等が増加した。同じく地域別にみると、アジア、アメリカ等が増加した。
 輸入は、アジアからの輸入が増加基調にあり、緩やかに増加している。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で七月三・七%減の後、八月九・二%増(前年同月比一三・六%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、鉱物性燃料、製品類(機械機器)等が増加した。同じく地域別にみると、アジア、中東等が増加した。
 通関収支差(季節調整値)は、七月に一兆二千三百二十九億円の黒字の後、八月は九千五百五十五億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。
 八月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、貿易収支の黒字幅が縮小し、サービス収支の赤字幅が拡大したため、その黒字幅は縮小し、五千二百九十八億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、所得収支の黒字幅が拡大し、経常移転収支の赤字幅が縮小したものの、貿易・サービス収支の黒字幅が縮小したため、その黒字幅は縮小し、一兆一千二百四十億円となった。投資収支(原数値)は、一兆五千三百十七億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、一兆五千九百四億円の赤字となった。
 九月末の外貨準備高は、前月比百十億ドル増加して二千七百二十四億ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、九月は百九円台から百十円台で推移した後、百四円台まで上昇したが、月末には百六円台に下落した。一方、対ユーロ円相場(インターバンク十七時時点)は、九月は月初の百十六円台から百十八円台に下落した後、百八円台まで上昇したが、月末には百十二円台に下落した。

4 物価
―国内卸売物価は、下げ止まり―

 国内卸売物価は、下げ止まっている。
 九月の国内卸売物価は、スクラップ類(鉄くず)等が下落したものの、石油・石炭製品(燃料油)等が上昇したことから、前月比保合い(前年同月比一・三%の下落)となった。また、前記「全国企業短期経済観測調査」(大企業、九月調査)によると、製商品需給バランスは、依然緩んだ状態にあるものの、引き続き改善がみられる。輸出物価は、契約通貨ベースで上昇したものの、円高から円ベースでは前月比二・九%の下落(前年同月比一四・三%の下落)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで上昇したものの、円高から円ベースでは前月比一・八%の下落(前年同月比一〇・四%の下落)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比〇・五%の下落(前年同月比三・九%の下落)となった。
 企業向けサービス価格は、八月は前年同月比一・一%の下落(前月比〇・二%の下落)となった。
 商品市況(月末対比)は木材等は下落したものの、石油等の上昇により九月は上昇した。九月の動きを品目別にみると、合板等は下落したものの、C重油等が上昇した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で七月保合いの後、八月は一般生鮮商品が上昇から下落に転じたこと等の一方、その他工業製品の下落幅の縮小等により保合い(前月比〇・一%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で七月〇・一%の下落の後、八月は〇・三%の上昇(前月比〇・三%の上昇)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で八月〇・一%の下落の後、九月(中旬速報値)は、一般生鮮商品の下落幅の縮小等により保合い(前月比〇・五%の上昇)となった。なお、総合は、前年同月比で八月〇・三%の上昇の後、九月(中旬速報値)は〇・一%の下落(前月比〇・四%の上昇)となった。

5 金融財政
―株式相場は、一進一退で推移―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、九月は横ばいで推移した。長期金利は、九月は低下した。株式相場は、九月は一進一退で推移した。M+CDは、八月は前年同月比三・五%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレートは、九月はおおむね横ばいで推移した。二、三か月物は、九月は横ばいで推移した。
 公社債市場をみると、国債利回りは、九月は低下した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、八月は短期は〇・〇〇九%ポイント上昇し、長期は〇・一〇一%ポイント低下したことから、総合では前月比で〇・〇二四%ポイント低下し一・七九五%となった。
 マネーサプライをみると、M+CD(月中平均残高)は、八月(速報)は前年同月比三・五%増となった。また、広義流動性は、八月(速報)は同三・五%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関(全国銀行)の貸出(月中平均残高)は、九月(速報)は前年同月比六・三%減(貸出債権流動化・償却要因等調整後一・六%減)となった。九月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債が一千七百六十億円となった。また、国内公募事業債の起債実績は六千九百九十七億円となった。
 前記「全国企業短期経済観測調査」(全国企業、九月調査)によると、資金繰り判断は「苦しい」超が続いており、金融機関の貸出態度も「厳しい」超が続いているが、改善の動きがみられる。
 以上のように、企業金融のひっ迫感は緩和しているが、民間金融機関の貸出は依然低調である。
 株式市場をみると、日経平均株価は、九月は一進一退で推移した。

6 海外経済
―原油価格、上昇基調で推移―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、先行きには不透明感もみられるものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、九九年一〜三月期前期比年率四・三%増の後、四〜六月期は同一・六%増となった。個人消費、設備投資は増加している。住宅投資は一〜三月期の大幅増の反動もあり、伸びが鈍化している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は一時的要因により減少した。雇用者数(非農業事業所)は八月前月差一〇・三万人増の後、九月は同〇・八万人減となった。失業率は九月四・二%となった。物価は総じて安定している。八月の消費者物価は前年同月比二・三%の上昇、八月の生産者物価(完成財総合)は同二・三%の上昇となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。連邦準備制度は、十月五日の連邦公開市場理事会(FOMC)において、金融政策姿勢をそれまでの「中立」から「引締め」方向へ転換したことを発表した。九月の長期金利(三十年物国債)は、ほぼ横ばいで推移した。株価(ダウ平均)は、上旬にやや上昇したもののその後は下落し、月初と月末を比べると下落した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気は緩やかに改善してきている。フランスでは、景気は緩やかな拡大を続けている。イギリスでは、景気は改善してきている。実質GDPは、ドイツ四〜六月期前期比年率〇・二%増(速報値)、フランス四〜六月期同二・五%増、イギリス四〜六月期同二・六%増となった。鉱工業生産は、ドイツでは増加に転じた。フランスではほぼ横ばいで推移しており、イギリスでは増加している(鉱工業生産は、ドイツ八月前月比一・一%増、フランス六月同〇・八%増、イギリス八月同〇・三%増)。失業率は、ドイツではほぼ横ばいで推移している。フランスでは高水準ながらもやや低下しており、イギリスでは低水準で推移している(失業率は、ドイツ九月一〇・六%、フランス八月一一・三%、イギリス八月四・二%)。物価は、安定している(消費者物価上昇率は、ドイツ九月前年同月比〇・七%、フランス八月同〇・五%、イギリス八月同一・一%)。なお、イングランド銀行は、九月八日に政策金利を〇・二五%引き上げ、年五・二五%とした。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は下落している。韓国では、景気は急速に回復している。失業率は高水準ながらも低下している。
 国際金融市場の九月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、月を通じてはやや減価した。モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)をみると、九月三十日現在一〇五・七、八月末比一・五%の減価となっている。内訳をみると、九月三十日現在、対円では八月末比三・〇%減価、対ユーロでは同一・一%減価した。
 国際商品市況の九月の動きをみると、CRB商品先物指数は、月初から上昇基調で推移し、中旬にやや弱含む場面がみられたものの、月末にかけては二〇八ポイント台まで上昇した。原油スポット価格(北海ブレント)は、上旬から上昇基調で推移し、中旬にはやや弱含んだが、下旬には二十三ドル台まで上昇した。
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サラリーマンの年末調整


 サラリーマンの給与についての所得税は、毎月の給料やボーナスから源泉徴収されることになっています。しかし、源泉徴収された所得税の一年間の合計額は、一年間の給与総額に対して納めなければならない税額(年税額)とは一致しないのが通常です。
 その主な理由としては、次の三つのことなどが挙げられます。
@結婚、出産、就職などのため年の中途で扶養親族の数に異動があっても、さかのぼって各月の源泉徴収額を修正しないこと
A生命保険料控除や損害保険料控除、配偶者特別控除などは、毎月の給料やボーナスの源泉徴収のときには考慮されていないこと
B毎月の給料やボーナスに適用される「給与所得の源泉徴収税額表」は、各月の給与の額が変わらないものとして作成されていますが、実際は年の中途で給与の額に変動があること
 このため、その年の最後の給料やボーナスが支払われるときに、その年それまでに源泉徴収された所得税の合計額と、一年間の給与総額に対する年税額との過不足額の精算が必要となります。この精算手続は通常年末に行われますので、「年末調整」と呼ばれています。この年末調整によって、所得税が納め過ぎの場合は還付され、不足の場合には徴収されます。
 大部分のサラリーマンは、年末調整によりその年の納税を完了することになりますので、年末調整はサラリーマンにとって、確定申告に代わる大切な手続きであるといえます。
 以下、年末調整を受ける際に注意する点や、サラリーマンでも確定申告しなければならない場合などについて説明します。

【年末調整を受ける際の注意点】

●扶養控除等の申告
 年末調整は、勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人のうち、給与の収入金額が二千万円以下の人について行うことになっていますから、給与を一か所から受けている人は扶養親族などがいない人でもこの申告書を提出する必要があります。
 また、配偶者控除や扶養控除が受けられる扶養親族などに異動があったときは、異動申告書を勤務先に提出することになっていますので、今年、結婚や出産、就職などにより扶養親族などに異動があった場合で、まだこの異動申告書を提出していない方は、年末調整に間に合うようにできるだけ早く提出してください。異動申告が確実に行われていないと、正しい年税額の計算ができないため、所得税が納め過ぎになったり、不足したりします。
●配偶者特別控除の申告
 配偶者特別控除とは、本人が生計を一にする配偶者を有する場合に、本人の所得金額から最高三十八万円を控除するというものです。この場合、配偶者に所得があるときは、その配偶者の合計金額に応じて控除額が調整される仕組みになっています。
(1) 控除を受けるために必要な書類
 年末調整によりこの控除を受けるためには、「給与所得者の配偶者特別控除申告書」に必要事項を記入して、勤務先に提出しなければなりません。
(2) 控除を受けられない場合
 次の場合には、この控除を受けることはできません。
@生計を一にする配偶者が、ほかの納税者の扶養親族とされている場合、青色事業専従者として給与の支払を受けている場合および白色事業専従者に該当する場合
A配偶者の合計所得金額が三十八万円の場合または七十六万円以上の場合
B控除を受けようとする所得者の合計所得金額が一千万円を超える場合
C配偶者が「給与所得者の配偶者特別控除申告書」を提出して、この控除を受けている場合(夫婦が双方でお互いに配偶者特別控除の適用を受けることはできません)
 このほか、「保険料控除申告書」「住宅取得等特別控除申告書」の提出が必要な場合があります。

【確定申告をしなければならない場合】

 大部分のサラリーマンは、年末調整によってその年の納税が完了することになりますので、改めて確定申告をする必要はありません。しかし、給与の収入金額が、二千万円を超える場合、給与を一か所から受けている人で給与所得および退職所得以外の所得金額の合計額が二十万円を超える場合、いわゆる災害減免法の規定により源泉所得税の徴収猶予や還付を受けている場合などは、確定申告をしなければならないことになっています。
 なお、平成十一年分の所得税の確定申告の期間は、平成十二年二月十六日(水)から三月十五日(水)までです。

【確定申告ができる場合】

 確定申告をする必要のないサラリーマンでも、次のような場合などには、確定申告をすると源泉徴収された所得税が還付されることがあります。
@マイホームをローンなどで取得した場合
A多額の医療費を支払った場合
B災害や盗難にあった場合
C年の中途で退職し、再就職していない場合

     ◇     ◇     ◇

 年末調整や確定申告などについて、詳しくはお近くの税務署にお尋ねください。
(国税庁)



    <11月17日号の主な予定>

 ▽海上保安白書のあらまし……………………………海上保安庁 

 ▽平成十年住宅・土地統計調査速報集計結果………総 務 庁 




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