中央省庁等改革推進本部顧問会議

第6回議事概要

1 日 時  平成10年10月12日(月)8:00〜9:30
 
2 場 所  内閣総理大臣官邸大食堂
 
3 出席者
(講師)
江崎玲於奈博士(ノーベル物理学賞受賞者、前筑波大学学長、現(財)茨城県科学技術振興財団理事長)
 
(顧問)
今井敬座長、石原信雄顧問、小池唯夫顧問、西崎哲郎顧問、山口信夫顧問
 
(推進本部)
小渕恵三本部長(内閣総理大臣)、太田誠一副本部長(行政改革担当大臣/総務庁長官)、鈴木宗男本部長補佐(内閣官房副長官)、上杉光弘本部長補佐(内閣官房副長官)、古川貞二郎本部長補佐(内閣官房副長官)
 
(推進本部事務局)
河野昭事務局長他
 
4 議題
江崎玲於奈博士講演(21世紀におけるわが国の科学技術、研究体制のあるべき姿について)

5 会議経過

(1)冒頭、小渕内閣総理大臣から江崎博士に対し、顧問会議への出席に対する謝意表明とともに、現在中央省庁等改革推進本部においては、わが国の将来を見据え、活力と自信にあふれた社会を創造するため、新たな行政システムを創り上げるという大きな作業を進めているところであり、その中で、世界的視野からのご高見を賜ることは、今後の本部の議論に貴重な示唆をいただけるものと確信している、忌憚のないご意見を賜りたいとのあいさつがあった。

(2)江崎博士から、概要次の内容の講演があった。

 ・元カリフォルニア大学学長のクラーク・カーが、大学学長とは何者かについて、指導者なのか役職保持者なのか、教育者なのか世話人なのか、将来に向いた創造者なのか過去の遺産継承者なのか、創始者なのか意見の統一者なのか、権力の行使者なのか説得者なのか、通りを良くするポンプなのか通りを悪くするびんの口なのか、と論じている。前者をA級、後者をB級とすれば、日本の国立大学学長はA級になりにくい環境に置かれているが、今後はA級に移っていくことが日本の将来にとって重要。これは学長を大臣と置き換えても通用する話である。

 ・科学は自然界のルールを解明する知識であり、それを応用するのが技術であるが、この科学と技術が素晴らしい発展を遂げたのが20世紀の特徴。今世紀初頭に始まったノーベル賞は研究の競争を刺激して、この発展を一層促進させた。
 科学の進歩が新しい技術を生み、それらが経済発展、環境改善、保健医療の充実、インフラ整備、天災人災からの防備など、我々の生活の質の向上に大いに貢献してきた。大学における研究成果の企業化も盛んである。

 ・自然科学の分野は、宇宙、物質を探求する物理系科学と生命体を探求する生命科学(ライフサイエンス)とに大別される。我々はこれまで、どちらかと言えば自然界のルールの解明に努める傍観者だったが、今やこのルールの基本が理解できたので、今後は自然のドラマの中の積極的な参加者となり、人類の存続のための好ましい環境作りや持続可能な経済発展に英知を傾けるようになるだろう。また、コンピュータとグローバルな通信ネットワークの発達のおかげで、科学知識の技術への応用が迅速になることは疑いない。そして、物理系科学から生命科学への重点移動が行われるであろうが、日本においては未だ生命科学の分野が不十分である。

 ・筑波研究学園都市は、30年ほど前に閣議決定により整備が行われてきた科学と技術の世界最大級の研究開発拠点、強大な情報発信基地である。しかし、官庁間の縦割りや官民の隔たりといった問題は筑波にもある。これまでの成果をレビューし、こうした問題点を踏み越えるべく、来年「サイエンス・フロンティア・つくば ’99」を計画している。

 ・一口に研究といっても、経済的見返りは期待しない基礎(純粋)研究、応用を視野に入れた基礎研究、新基盤技術開発を目指す中期の応用研究、応用主体の短期の開発研究と様々なタイプがあるが、日本では特に第2の応用を視野に入れた基礎研究を活発化する必要がある。

 ・日本には科学知識を応用するためのノウハウを扱う技術者はいるが、自然を理解するための体系的研究による知識の創造を行う科学者は、米国に比してあまりにも少ない。また、科学における新分野の開拓にしても、技術面での新産業の開拓にしても、日本では新しいものの開拓が不十分である。

 ・全世界の研究開発投資約5千億ドルの内、米国が約2千億ドル(40%)を占め、日本は約800億ドル(16%)を占めているが、物理、化学、生理学医学、経済の分野をあわせたノーベル賞受賞者約500人の内、米国が約200人(40%)なのに対し日本はわずか5人(1%)しかいない。世界のハイテク市場におけるシェアでも、中国などが航空機産業等で伸びてきているのに対し、日本は近年衰退傾向にあるかとも見える。

 ・欧米と異なり日本の製薬会社は研究開発投資額が少ないが、これは日本の生命科学が弱いことの延長にあるのではないか。さらに、欧米ではサービス産業が研究開発投資を増やしているのに対し、日本ではほとんどゼロである。サービス部門の人員自体も、米国では急速に拡充されている。

 ・米国では大学の企業的色彩が強く、大学自身が特許をとり、それによってライセンス収入を得るといったことが盛んに行われている。米国の多くの大学では、週5日のうち1日は好きなことをやってよい、大学から支給される給料は9ヶ月分で残りの3ヶ月は何をしてもよいといった自由度があるが、日本の国立大学ではこうしたことは難しい。自分は筑波大学の学長になったとき、新聞の客員論説員も別の大学の客員教授もやめることを求められた。
 また、日本の審議会では、定められた法規の範囲内での改革論議が盛んであるが、米国では、如何に法規を変えるかが多く議論される。

 ・日本の将来のためには、研究水準の引き上げ、能力主義の実施、新分野の開拓、バイオメディカルを含めた生命科学分野の強化、製造業よりもソフト産業の充実が必要であろう。リスクを取って未知への挑戦をするファーストランナーとなるべきであり、お手本を見習う組織プレー重視のセカンドランナーの習性を脱却しなければならない。

 ・指針を過去に求めるか未来に求めるかの選択があるが、ベンチャー等新しい分野で成功するためには、誰よりも早く将来を訪ねることが必要である。
 科学・技術の発展のためには鳥瞰のもとに計画を立て、実行することが必要である。日本の公務員も鋭い眼を持ってはいるが、いかんせん自分の担当分野しか見ておらず、縄張り競争で終わってしまう。

 ・電話を発明したベルの次の言葉で締めくくりたい。
 「時には踏みならされた道から離れ、森の中に入ってみなさい。そこでは、きっとあなたがこれまで見たことがない何か新しいものを見出すに違いありません。」

(3)以上の講演を受け、概略以下の質疑応答が行われた。

 ・日本の国立大学でカーのいうようなA級の学長になるのは大変なのではないか、博士もずいぶんご苦労されたのではないかとの発言があり、博士から、日本の国立大学では学長がA級になれないような仕組みになっているのが問題である、学長が選挙で選ばれるため、使用者と被用者の関係があいまいになっている、米国では学部長以上はマネージメントにあたり、教授の給料は契約で決まるようになっているとの発言があった。
 関連して、日本では私学も含め大学学長は選挙で選ばれるが、マネージメントをもっと厳しく、迎合することなく行うべしということかとの質問があり、博士から、そのとおりであり、米国ではこの大学をいかにすべきかという観点から「サーチ・コミッティ」が学長候補を人選し、理事長が本人にオファーする仕組みになっている、日本では大学間の競争も大学そのもののアイデンティティも乏しい、いい研究者は引き抜きの対象になるのでそれを防ぐために待遇を良くするのが普通だが日本の大学制度ではそうしたことはできないとの説明があった。

 ・まさに自由度を高める方途として独立行政法人化について検討されているが、国立大学をその対象にすべきか否かについて両論あるところ、この点についてどう考えるかとの質問があり、博士から、ゆくゆくはエージェンシー化するのだろうが、急な独法化は混乱を招くだけであり反対である、まず学長が然るべき方法で選考され、自分でマネージメントできる能力を身につけることが先決であり、独法化の前に一段階そのプロセスを経る必要があろうとの発言があった。
 更に、例えば東大や京大などで実験的に独法化してみるのはどうかとの質問に対し、博士から、仮に実験をするのであれば単科大学の方がやりやすいのではないか、いずれにせよ国立大学一般に独法化以前の問題が山積しているとの発言があった。

 ・博士が筑波大学学長の時代に「先端学際領域研究センター」を作られ、産官学の協力を促進し、外部評価や任期制も導入されたと承知しているが、現行の制度でもそうしたことはできるのであって、独法化のメリットはあるのではないかと思うがどうかとの質問があり、博士から、独法化以前に独立した生命体のような自律性を持つ必要があり、先端学際領域研究センターだけの独法化ならできるかもしれないが、仮に筑波大学全体をすぐに独法化しようとすれば混乱を招くだけであろうとの発言があった。

 ・以上のやりとりを受けて、国立大学も独法化できるように思い切った改革をする必要があると思うとの発言があり、博士から、まさに自分もそのような趣旨で述べているものであるとの発言があった。

 ・今回の改革により「総合科学技術会議」が設けられることになっているが、我が国は産業技術の戦略が足りない、同会議ではそのような戦略も考えるべきであると思うがどうかとの発言があり、博士から、日本では基礎研究と応用、開発の中間の産学を結び付ける戦略的研究分野が不十分でありその象徴的な例がバイオメディカルである、新しい分野に挑むことも重要であるとの発言があった。

 ・結局、公務員制度の改革が重要ということかとの発言があり、博士から、日本の公務員制度のネックは自由度の乏しさである、定型的な仕事ならば平等主義で良いと思うが、研究は絵画、音楽、スポーツと同じく才能がある者が行うものであるが日本ではその才能を選別する能力が欠けている、米国のリベラル・アーツのような自己発見の作業が日本の教育には欠けているのではないかとの発言があった。
 関連して、確かに現行制度では、不公平にならないようにという観点から各大学等への予算配分も行われることが多いが、今後は総合科学技術会議などでアクセントをつけていってはどうか、能力主義については公務員の職務形態の中では個々人の能力を評価しにくい面はあるが、研究公務員については個々に評価できるのではないかとの意見もあるとの発言があり、博士から、ぜひそうしていただきたい、また、年功序列の問題のみならず異分野間でも給料が同じというのも問題である、今後発展する新しい分野にいい人材がほしいにもかかわらず、これでは市場原理が働かず発展しないとの発言があった。

(4)行革担当大臣から、江崎博士に対し謝意の表明があり、また報告事項として、10月5日、今後作業が本格化するに当たり、推進本部の副本部長、本部長補佐の5者から自民党の5役等に対し今後の課題を説明し協力を依頼した、また同日、5者で集まり当面の課題を整理した、今後立案方針に基づき個別具体化の作業が本格化するが、顧問各位にはよろしくご指導願いたいとの発言があった。

(5)最後に事務局長から、立案方針の本部決定を受けて個別具体化の作業を各省庁とも相談しつつ進めているところであり、事務的に問題点等を整理の上、次回顧問会議で中間報告させていただきたいとの発言があった。

(6)次回顧問会議は10月30日(金)に開催することとされた。

以上
(文責 中央省庁等改革推進本部事務局)
ー速報のため事後修正の可能性ありー

(了)