教育改革国民会議

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第3分科会の審議の報告


第3分科会委員 牛尾 治朗(ウシオ電機会長)
(主査)木村  孟(大学評価・学位授与機構長)
 草野 忠義(連合副会長)
 グレゴリー・クラーク(多摩大学学長)
(副主査) 黒田 玲子(東京大学教授)
 河野 俊二(東京海上火災保険株式会社取締役会長)
 田中 成明(京都大学教授)
 浜田  広(リコー会長)

平成12年7月26日


概要図

○問題意識

来るべき21世紀の世界は、生命科学等科学技術がさらに進歩し、一方で経済関係の一層の緊密化に加え、IT革命による世界的な情報ネットワークの成立によって、グローバル化がさらに進展すると考えられる。
 このような状況の中で、現在の我が国の教育システムには次のような問題が見られる。

 @戦後の高効率至上主義は、高等教育の大衆化路線と結びつき、国全体の平均値の向上に貢献したものの、社会に画一的なものの見方をもたらすことになった。この結果、我が国は新たな技術、ビジネスを創出する独創性、創造性に富んだ人材を十分に生み出せなくなっている。
 A戦前、高等教育を受けたエリートたちが大きな過ちを犯したという反省から、戦後、エリート教育は徹底的に罪悪視され、我が国ではノブレス・オブリジーを実行できるエリートやリーダーの育成が十分できなくなっている。
 B就職してもすぐ辞めてしまう、あるいは就職を望まないという風潮が広がりつつある。また、丁寧にきっちりと自分の仕事を仕上げようとする思い、責任感が失われたのか、あるいは本来日本人に備わっていたと言われる手先の器用さが失われつつあるのか、ささいなミスによる技術的トラブルが続発している。こうした現象の背後には、堅実かつ誠実に生きていくための基盤となる健全な職業観、勤労観の希薄化がある。

 以上の状況を踏まえ、第3分科会では「今後、我が国が必要とする人材をいかに育成するか」を基本テーマとして、
 @独創的、創造的な活動ができる人材の育成
 A高い専門性と広い教養を備えた、社会の各分野でリーダーとなる人材の育成
 B職業観、勤労観を備えた人材の育成
につき論議した。

○具体的提案

1:独創的、創造的な活動ができる人材の育成

(1)独創性、創造性の育成に関する問題意識
 独創性、創造性を育成するためには、基礎的な知識を身につけさせるとともに、一人一人の想像力、興味、好奇心を育み、考える力を養うような学習が可能となるシステムを構築しなければならない。

(2)具体的施策
 @初等中等教育のシステムの見直し
 子ども一人一人が持って生まれた才能を見出しそれを伸ばすため、次の見直しを行う。
・習熟度別学習、小人数教育
 小・中・高校の各段階において基礎学力の定着を図るために、習熟度別学習を推進し、学年の枠を越えて特定の教科を学べるシステムの導入を図る。この場合、小人数教育が不可欠である。
 なお、5歳児の幼稚園や保育園への就園率が高いことや子どもの身体的成長が早くなっていることから、義務教育の開始年齢を保護者の選択と学校の判断により1年程度早めることを可能にする。
・中高一貫教育の推進
 受験競争には学習意欲を刺激する面もあるが、18歳までに二度もある受験の弊害を減らし、この時期を、基礎的な知識を学び体験学習を通じて、創造性、独創性、職業観を育むための時期として位置づける観点から、中高一貫教育をより一層推進し、子どもの選択肢を広げる。6年間の一貫した教育によるメリットはきわめて大きい。中高一貫教育校が全体の半分ぐらいになるよう、思い切った支援策を講ずる。
・高校での学習達成度試験の導入
 高校については、学習達成度試験を全教科について行い、高校卒業までにどれだけ学習の成果が上がったかを測る。この学習達成度試験は、何度でもチャレンジできるよう、年複数回行う。また、学年を問わず受験できるようにする。
 学習達成度試験は、あくまで高校での学力向上の目安とするものであるが、大学側が入学選抜要件として活用することもできるようにする。このため、現行の大学入試センター試験を見直し、達成度試験に切り替えることが望ましい。
 高校は決して大学受験の予備校ではなく、幅広い学問分野や社会への理解を深め自分の適性を探る重要な段階であることを再確認すべきである。知識にのみ偏重することなく、体験活動も重視する学習活動を進める必要がある。

 A大学入学試験の見直し
 小学生まではいきいきしているにも関わらず、中学校、高校、大学と進むにつれて日本の子どもはくすんでくるという指摘がなされている。これは、中学時代から大学受験を意識し、実験、体験、作文などを軽視し、暗記中心や紙の上だけの理解にとどまる教育がなされていることに大きな原因があると考えられる。大学受験のみを目的として早くから勉強する科目を絞り込み、興味の如何に関わらずそれしか勉強しなくなるということも、その背景にあろう。大学入学試験は、記憶力という一面的な資質のみを測るものであってはならず、問題を発見する力、問題の解決方法を見出す力、あるいは推理力や論理的に考える力など、人それぞれに備わっている資質を適切に評価するものでなければならない。このような観点から大学入試のあり方を見直す。
・大学入学の年齢制限の撤廃
 特に優秀な子どもでその大学の教育目標に合う者は飛び入学ができるよう、現在、原則18歳となっている大学入学年齢制限を撤廃する。
 また、高校生が大学入学前に大学の単位を取得できる制度の活用をさらに推進する。
・大学入学試験の多様化の推進
 大学入学試験については、各大学が大学の理念、目標に基づき、高校での学習達成度試験の結果の活用や大学独自の試験、面接、小論文などを課するなど、多様なものにすべきである。推薦入学やAO入試についても、さらに積極的に推進する。
 大学側には、入学者に希望する能力、資質等、選抜方針を明確にすることが求められる。
 また、グローバル化の進展に対応するとともに、高校卒業後の学生に社会体験をしたり自らの人生を考える機会を与える観点から、大学の9月入学を積極的に推進する。
・暫定入学制度の導入
 大学入学時の入学定員の規制を弾力化し、合格ラインに近接する一定の割合の受験生を暫定的に入学させ、1年間の勉学の成果によって改めて合否を判定し、定員まで学生数を減らす方式をとるなど、学生にチャレンジの機会を与える暫定入学制度を大学の選択で実施できるようにする。

2:高い専門性と広い教養を備えた、社会の各分野でリーダーとなる人材の育成

(1)リーダーの育成に関する問題意識
 政治、経済、環境、その他新しい分野で世界をリードしていく識見を持ったリーダーが我が国には必要であり、その育成が不可欠である。また、最先端の学術・科学技術の新しい地平を切り拓く人材の養成も必要である。
 これらリーダーとなる人材には、文系理系双方にまたがった幅広い教養が必須である。

(2)具体的施策
@大学と大学院の在り方の見直し
 諸外国ではドクターやMBAなどの資格を持った多数の専門家が活躍している。社会、経済がグローバル化している現在、これらの人々と伍していくためには、今以上にそのような高い専門性と教養を持った人材を育成する必要がある。また、18歳人口が減少し、大学進学率が上昇している中で、大学の機能自体が問われている。
・大学、大学院の再編成
 大学院へは学部の3年から進学することを一般的なものとし、学部では教養教育(リベラルアーツ教育)と専門基礎を中心に行うこととする。なお、学部で卒業する者は4年でさらに専門的な学習をし、社会に出てすぐに活躍できるよう産業界との連携・交流を図るインターンシップなどを積極的に実施する。
 大学院は、社会で必要とされる実践的な専門能力を身につけるためのプロフェッショナル・スクール(高度専門職業人教育型大学院)と、研究者養成のための大学院(研究者養成型大学院)とを設けることとする。
 大学院入学者選抜に当たっては、自大学出身者の囲い込みをやめ、他大学出身者、社会人なども公平に受け入れるよう完全オープン化を行う。
 また、修士号は特に優れた者であれば最短で1年、博士号は最短で3年で取得できるものとする。ただし、資格の授与は厳正に行わねばならない。
 一方、このようにして育成された大学院修了者が企業や官公庁で活躍したり、社会人が大学院に入学して学び直したりしやすいようにする。
 奨学金制度の充実を図る。

A大学教育の充実
 大学へ入学したにもかかわらず、学生には専門的知識を身につける以前に、学習に取り組む姿勢が全く整っていない者も数多く見受けられる。大学も勉強をしていない学生でも安易に卒業させているという批判が以前からなされているが、全く改善されていない。
 したがって、教育より研究を重視するという大学人の一般的な考え方を払拭し、学生をしっかりと勉強させるような取り組みが必要である。
・教養教育の充実と小人数教育の実施
 学生が自らの位置づけを理解し、他者への思いやり、異質なものと自分自身の理解を深めるための教養教育を充実させるとともに社会奉仕活動への積極的な参加を促すことが重要である。また、レポートを課すなど、自ら調べ考えるようきめ細やかな授業を行うために小人数教育が必須である。TA(ティーチング・アシスタント)制度をさらに充実させ、これを積極的に利用する。併せて大学教員の教育する力の向上を図る。
 また、インターネット教育などITの活用も図る。
・ダブルメジャー制度の導入
 幅広い知識と理解力を身につけるために、また国際化の観点から語学教育の充実にも活用できるよう、分野の異なる複数の専攻科目(主専攻、副専攻)を選択するダブルメジャー制度を導入する。
・成績評価の厳格化
 学生の学習意欲を喚起し、自ら考える力を育てる観点から、日本版GPA制度の導入などによる厳格な成績評価を行い、水準に達しない学生は落第、退学させる。
 一方、現在、大学の最終年次がもっぱら就職活動に使われていることに鑑み、企業も採用活動の時期を遅らせるとともに、採用活動に際して成績表の提出を求めるなど大学での成績を踏まえた採用を行うよう強く求めたい。
 
※GPA制度:例えば成績をA=4、B=3、C=2、D=1、F=0と換算して単位で加重平均した数値を元に、一定の水準に達しない生徒に対しては、補習、退学などの措置を講ずる制度。

Bプロフェッショナル・スクールの整備
 企業との共同プロジェクトなどを通じた高度な技術的能力を有するエンジニアの育成や、ビジネス・スクール、ロー・スクール等の経営管理、法律実務、ファイナンス、教育、公共政策などの分野の専門家の養成を行うプロフェッショナル・スクール(高度専門職業人教育型大学院)を整備する。形態としては、1年制から3年制など教育内容に応じて様々なものがありうる。
 国家公務員や、教員については、原則としてマスター取得を要件とするなど、特に文科系大学院に対する需要の増大を図ることも重要である。

C研究者養成大学院の充実と優秀な若手研究者の養成
 世界のトップレベルの研究機関と伍していくためには資源の投入とインフラの整備が必要である。
 RA(リサーチ・アシスタント)制度の充実、奨学金制度の充実を図る。
 博士号を取得した者が、より定着性のある職業に就く前にポスドクとして研究を推進することは意義がある。ポスドク制度を質・量ともに充実し、重要なキャリアパスとして位置づけ、社会もそれを認知する必要がある。

3:職業観、勤労観を備えた人材の育成

(1)職業観、勤労観の育成に関する問題意識
 新卒者の就職状況が大変厳しい状況にある中で、定職に就かない者や就職してもすぐにやめてしまう者が増加している。これは「仕事探し・自分探し」という自己実現を重視する意識の強まりや、人材の流動化の現れとも見られる一方で、若年層における職業観、勤労観の希薄化とも考えられる。また近年、自分が今取り組んでいる仕事に対する職業人としての責任感、使命感の欠如が指摘されている。このような職業観や使命感などを育むことは、社会全体にとって必要なことである。

(2)具体的施策
@学校での職業体験学習の実施
 職業観や使命感は、「お話」を聞くだけでは絶対に身につかず、体験学習だけが実効を挙げ得る手段であるといっても過言ではない。各学校段階に応じて職業体験、職場見学などの体験学習を導入する。インターンシップを積極的に実施する。
 また、中学、高校、高等専門学校、大学等では進路指導の専門家(キャリア・アドバイザー)の活用を積極的に図る。

Aものづくり教育、職業教育の充実
 学校教育において、ものづくり教育、職業教育を充実する。実践的技術者の養成機関である高等専門学校における職業教育もさらに充実させる。高校生が幅広くものづくりに親しみ、自らの進路を考えることができるよう、高校の総合学科の設置を格段に促進する。
 専門高校や高等専門学校には、独自の位置づけがある。その特徴を活かし、さらに時代の変化に対応した改編を進める。また、希望者に道を開くため、大学への進学・編入の接続の円滑化を図る。
 大学、高専、専門学校などについては、雇用が流動化する中、社会人が高度な職業知識、技術を再び学ぶための機関としても活用できるよう整備する。

B企業、団体、官庁等との連携
 大学が養成する人材と企業の求める人材とのミスマッチ解消のため、両者がお互いの要望をぶつけ合う機会を設けるなど、学校と企業、団体、官庁等との連携をはかる。
 また、教育者として適性のある企業人が学校で「先生」となることを通じて、企業の活動の様子を子どもたちに伝えることも重要である。このために、教育委員会や経済団体がこうしたキャリアを持つ企業人の人材のデータベースを整備することが重要である。

再編成図