教育改革国民会議

教育改革国民会議 江崎座長挨拶


 

 教育改革国民会議の座長を務めることになりました江崎玲於奈でございます。会議の始まりに当たり、ご挨拶申し上げます。はじめ総理から座長への要請があったとき、一旦躊躇いたしましたが、考えてみますと私が今日あるのは、私が受けたよい教育のお陰ではないか、教育への貢献は責務のように感じましたのでこれをお受けした次第です。

 今世紀、科学・技術文明は素晴らしい発展を遂げ人類に大きな利益をもたらしましたが、その一方で、地球環境の汚染などの深刻な問題を惹起しました。二一世紀、われわれの文明は軌道修正を行いつつ、新たなフロンティアの開拓や未知への挑戦が活発に行われ、更なる発展を遂げることは疑いありません。

 甚だ単純に考えてわれわれの知性(mind)の能力は大きく二つに分けられます。一つは物事を解析し、理解し、判断し、公正に分別する能力(judicious mind)であり、もう一つは豊かな想像力と先見性のもとに新しいアイディアを創造する能力(creative mind)です。 この創造力こそ改革、進歩の原動力となって、人類文明を発展させ、今後も発展させるのです。もっとも、文明の維持にはもっぱら分別力が求められるでしょう。三権の内では、行政と司法は分別力、立法は特に創造力が求められるのではないでしょうか。
 このように二つの能力は相互に作用し合って、一層、力を発揮するのですが、ここで、創造力は個性的であり、未知への挑戦だとしますと、分別力は没個性の側面を持ち、既知のものを取り扱う、と言えます。
 ここで問題なのは、学校教育は主として分別力を養成することに努めておりました。今後、如何に創造力を育てるかが教育改革の大きな課題です。

 教育の問題は幅が広く、例えば、知識偏重型の教育、いじめ・不登校の問題、核家族化や子供数の減少、人口の都市集中の中で家庭や地域の教育力の低下など、様々な問題が指摘されております。また教育に寄せる思いや考え方は、非常に多様であると存じます。ここでは、現象論的ではなく、教育の基本にさかのぼった、根本からの議論が求められていると受け止めております。

 このような教育の問題に関しまして、多くの分野からの有識者のご参加を得て発足したこの教育改革国民会議において、様々な視点から率直な議論が積み重ねられ、全員の協力により、豊かな成果が上がりますよう、座長としても努力してまいる所存でございます。考えてみますと、この国民会議の成果は、われわれ全員の創造力にかかっていると言えるのではないでしょうか。 

 ところで科学者の創造力は二一世紀の中頃までに、どんな科学の夢を実現してくれるのでしょうか。先ず宇宙開拓が一層進むことは疑いありません。地球以外の生命体の存在が確認されるかもしれません。宇宙旅行も容易になるでしょう。われわれに最も近い恒星はケンタウロスのα星で、四・三光年の距離にあります。光速度の十分の一のロケットが出来ますと、四三年、往復八六年かかりますが、一寸長いでしょうか。しかし、われわれの遺伝子の秘密が解明されますと、老化現象を可成り遅らせることも可能になるに違いありません。
 また、脳の研究により、われわれの意識、心の働きが解明されるでしょう。そして脳機能に匹敵するペタフロップスのコンピュータ(現在の大型スーパーコンピュータはテラフロップス、即ち演算回数が毎秒一兆回ですが、ペタフロップスはこれの千倍です)が出来ますと、人間の知力を備えたロボットが誕生し、彼、あるいは彼女が、分別能力だけでなく、ひょっとすると素晴らしい創造能力を備えているかもしれません。その時にはこの国民会議は解散いたしますが、その時点までは会議に対する各位のご理解とご協力をお願いいたしまして私の挨拶とさせていただきます。