教育改革国民会議

資料5
第4回教育改革国民会議
平成12年5月11日

道徳教育における学校、家庭、社会の役割

多摩大学学長
 グレゴリー・クラーク

何が問題か。


  1.  外国の有識者は、日本の学校で子供たちの態度が急速に崩れてきていることに驚いている。学級崩壊や校内暴力が中産階級地域の学校にまで広がっており、日本が世界の最高から世界の最低へ転落するのに時間はかからない、という印象をもっている。

  2.  こうなった理由の一つは、日本の道徳が、おもに伝統や国民的感情(空気)に基づいているところにある。この道徳は、より原則的な、イデオロギー的(宗教も含めて)な道徳と比べて、具体性に欠けている。そのため外部からの攻撃に対して非常に弱く、現代社会のあまり好ましくない空気、とくにテレビから強い影響を受ける。

  3.  これまでは、家庭と学校の影響力が強かったため、こうした問題は解決できた。だが現代は状況が変わり、
      a)子供たちの成熟が早くなった。
      b)進学率が高まった結果、大学入学をゴールとする競争が激化し、家庭や学校に反 抗する多くの落ちこぼれを生んでいる。
      c)家庭、学校という組織が以前と比べて弱くなった。
      d)テレビ、漫画、ビデオ、ゲームなどの“悪い”影響の増大。

  4.  これに対して、一昔前の学校や家庭に見られたきびしい規律にもどろう、という意見がある。たしかに両者には改善すべき点は多い。しかし実際には、
      a)いまの学校では教師は弱く、未熟であることが多く、
      b)家庭では父親が不在がちであり、
      この二点は、政府が号令をかけて変えられるものではない。いずれにしろ、今日どんなりっぱな親でもテレビ、漫画、ビデオ、ゲームなどの“悪い”影響に太刀打ちする難しさを感じている。

  5.  もう一つの問題として、小家族、とくに少子化による“母子カプセル”現象がある。男子の場合はとくに、他の兄弟との接触から生まれるたくましさや経験を身に付ける機会が失われた。

  6.  北ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカでも、日本と同じような問題はある。青少年は、むしろ日本よりもっとひどい暴力的、ポルノ的なテレビやビデオの影響にさらされている。しかし生徒のモラルは、少なくとも中産階級以上の地域では、それほどひどい崩壊現象は見られない。 それはなぜか。

  7.  最も重要なポイントは、子供たちが幼いときから、家庭と学校以外に、さまざまな社会的活動に参加していることである。宗教関連もその一つだが、日本で考えられているほどその比重は大きくない。より重要なのは、コミュニティ・スポーツ、奉仕活動、ボランティア活動、ボーイスカウト、新聞を読むこと、などである。オーストラリアでは、警察がやっているインドアスポーツクラブ(柔道が中心だが)が、労働者階級の若者に良い影響を与えている。

  8.  その結果として、子供たちは、社会にはよい面と悪い面があることを、早くから学ぶ。そして多くの子どもが“よい面”が特に重要なのだということを学ぶに至る。

  9.  さらに子供たちは、社会にはルールがあることを自然に学ぶ。欧米の中産階級の子供たちが援助交際をすることは考えられない。下層階級の子供たちでも、日本の暴走族のような、完全に社会意識に欠けた行動はとらない。

  10.  日本の子供は、社会との接触がない結果、社会の“悪い面”からの影響だけを受けやすい。子供たちは家庭と学校という「箱」の中に閉じこめられている。社会のルールを知らない。陰湿ないじめも、この閉じこもった環境の結果といえる。

  11.  子供たちによい影響を与えられるのは、だれか? 未熟な教師や弱い親か、あるいはコミュニティや社会活動のために時間をさいている社会的責任をもったりっぱな大人か?

  12.  モラルの問題に加えて、日本の子供は、気力、創造力、自主性に欠けるといわれる。社会活動を通して視野を広げることは、これらの課題を克服するカギにもなる。

何をすべきか。

  1.  学校はもっと、教育という本来の機能に集中する。スポーツその他の活動は、むしろ地域社会が分担する。

  2.  青少年が、非常に魅力に富みチャレンジに満ちた日本の自然に、もっともっと親しむようなインセンティブを与える必要がある。日本では非常に弱いボーイスカウトの組織を強化することもその一つだろう。また各学校が、どれか未開発の山を“自分の山”と決めて、その山の世話をしながら山に親しむ、「一校一山」制度は有効だろう。

  3.  ロータリークラブほかの奉仕活動グループに、青少年を積極的に参加させる。

  4.  大学入学に際して、AO方式を拡大し、アメリカやイギリスのように奉仕やボランティアなどの活動により大きな比重を置く。

  5.  学外の社会活動に参加して、塾での受験勉強オンリーではなかった生徒に、大学に入ってから自分の能力を試し、正規入学を獲得する機会を与えるために、大学入学に「暫定入学制度」を導入する。

  6.  大学入学者選抜でペーパーテストの比重を軽減することを決定し、これに違反する大学は、私立大学の場合でも補助金を減らす権限を、文部省に与える。

  7.  高校生には、英語をとらない選択肢を与えるべきだ。受験英語は害あって益なし。高校生が広い分野の自己開発をするゆとりを損なっているものであるから。高度な語学教育は、“ゆとり”がありすぎる大学で行う。

  8.  大学入学を春でなく秋にすることによって、6ヶ月間、旅や他の活動で自分を磨く機会がもてる。

  9.  青年海外協力隊に加えて、青年「国内協力隊」制度を設ける。