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「ウェルカム、ヤバーニ」

イラク復興業務支援隊長、1等陸佐 佐藤正久


 サマーワの地に来て1カ月を過ぎました。私以下、隊員はみんな元気に活
動しております。

 1カ月前、クウェートから車両隊列を組み、ラクダや羊の群を時折見かけ
るだけの一面の砂漠をサマーワに向かいました。

  イラクの子供たちは、日の丸をつけた自衛隊の車両に気づくと、遠くから
一斉に走って来て手を振ります。「ヤバーニ、ヤバーニ」と、明るい笑顔で
精一杯手を振ります。大人もそうです。すれ違う車や、歩道から大きな声を
出して、「ウェルカム、ヤバーニ。ウェルカム、ヤバーニ」と言っています。
人前で自己表現しないと思っていた黒装束のアラブの女性にも、手を振って
くれる人がいるのには驚きました。

  サマーワでは、県知事主催のセレモニー、部族長との夕食会等、数々の歓
迎行事で、自衛隊の到着を喜んでくれました。

  このように、精一杯の歓迎の意を示してくれるサマーワの人々ですが、そ
の生活は必ずしも豊かなものではありません。駆け足で来て手を振る子供た
ちの大半は、靴を履いていません。校舎や机はガタガタで、鉛筆やノートも
満足にありません。浄水場の老朽化が激しいために、断水している家庭が多
数あります。河の水や、瓶に貯めた水の上澄みを飲んでいます。一部に復興
の鎚音は感じられますが、失業者が多数いる状況です。

  反体制的であるということで前政権に破壊された村も見に行きました。村
は廃墟となっていました。そうした中でも、人々はたくましく生きていまし
た。そのうちの一軒でお茶をご馳走になりました。女の子が寄ってきて造花
をくれました。砂漠であるイラクでは造花は貴重な贈り物です。埃まみれで
したが、美しい花でした。

 私は隊長として、この子供達の未来のために精一杯人道復興支援業務に取
り組まなければいけないのだと感じています。私は、日本国民の善意の代理
者、実行者として、イラクの地にいることを改めて肝に銘じているところで
す。

※ サマーワの様子



「主婦が思いがけず会社を設立」

アトリエ沙羅有限会社代表取締役 粕谷尚子


 会社を作ろうなんて夢にも思っていませんでした。働いた経験も少ない主
婦の私にできる筈がないと思っていました。

 洋裁は子供の頃から大好きでしたが、結婚してからは子育てが中心で本格
的に仕事として取り組むようになったのは、50歳になってからでした。

 ジュン・アシダのアシダ・ブライドで7年間ウェディングドレスの制作に
携わりましたが、退職してから既に6年がたっていました。

 起業を思い立ったのは、一昨年、姪の結婚式のためにウェディングドレス
を縫ったことからでした。

 通りすがりの方が「こんな素敵なドレスを見たのは生まれて初めて!」と
いわれて感激の涙を流されたのです。それを見て私自身が感動し、私にも人
が感動するような仕事ができるんだとそのとき初めて気が付いたのです。

 仕事を通して喜びや感動を分かち合える。そのような事が私にもできるの
なら是非、会社としてスタートしたいとの思いが強くなってきました。

 その頃始めたインターネットで資本金が1円でも起業できるということを
知り、真剣に起業を考えるようになりました。メールマガジンやセミナーで
ビジネスの勉強をしている間にケンタッキーフライドチキンをつくったカー
ネルサンダースも64歳で初めてもらった年金を資金にして起業したことを
知り、大きな勇気をもらいました。

 ネットで手続きも全てしてもらえることを知り思い切ってスタートしまし
た。はじめの一歩を踏み出すときは、勇気が要りましたがその後は、信じら
れないくらい順調に手続きが済み心配したことを後悔するほどでした。

 資本金は10万円でスタートしましたが、半年後に100万円に増資をし、
現在1年半が経ちましたが、資本金を300万円にすることができました。

 昨年はパリコレクションにも参加することができ、パリの一流デザイナー
にも評価していただき、小泉総理の所信表明演説で紹介していただくという、
信じられないような状況になりました。

 起業のハードルを低くして誰にでも起業できるチャンスを与えていただき
ましたことを感謝しております。ありがとうございました。

※ プロフィール



「未来に寄せて」

児童養護施設山梨立正光生園施設長 深澤清美


 数日前、私が勤務する児童養護施設に28条ケース(虐待等で保護者から
離す必要があるにも関わらず保護者の同意が得られない場合で、家庭裁判所
の承認を得て親子分離するケース)の一時保護依頼がありましたが、とても
引き受けられる状況ではありません。

 二人の兄弟が、過日入所したばかりなのです。―――重い虐待ケースです。

 少子化なんて嘘のように児童相談所の一時保護所は子どもたちであふれ、
児童養護施設は満床。ケアワーカーは、まさにいっぱいいっぱいの限界状態
です。

 年間数十人の子どもの虐待死や新聞、TV等で報道されている虐待事件は、
氷山の一角であり、膨大な数の家庭内の危ない養育実態が、その水面下に隠
れています。そうした現実と日々、向かい合いながら、かなりの危機感を持
って、目の前にいる子どもたちと悪戦苦闘しています。

 入所したばかりの二人のうち、兄の方と初めての入浴をした時のことです。
遠慮がちに裸になった彼の右腕には、くっきりと盛り上がった火傷の跡が3
つありました。

 「これね、前はグチュグチュしてた。もう痛くない。」と言った彼でした
が、シャンプーを手伝おうとして髪に手を触れようとした瞬間、「痛い!」
と声をあげました。何ものをも寄せつけない凍りつくような声でした。

 頭に傷があったわけではありません。それは、彼が最も信頼し依存する親
から“大切にされなかった”という心の痛みではなかったかと思います。

 同じ湯船につかってはいても抱きしめることのできない距離を感じながら、
彼のこれまでの生活とこれからの彼との日々を思いました。腕のケロイドと
は折り合いをつけ始めているものの心のケロイドを癒す道のりは遠く、戦い
は始まったばかりです。

 「死んでやる」「こっち来るな」と悪態をつき、周囲の反応を試しながら
「汚ねえ」「ぶっ殺してやる」と暴言を吐き、心の傷の解体を始めています。
指導員をせきたててはグラウンドに出て一緒にボールを追いかけ、保育士の
膝に抱っこしていつまでも宿題を楽しむ姿もみかけるようになってきました。

 2002年の厚生労働省の報告によると、児童養護施設に入所する児童の
70%が虐待を経験しています。

 児童養護施設で暮らす子どもたちの姿は、そのまま現在の社会を映す鏡で
あり、日本の子どもの姿そのものであると言われます。日本の子どもたちの
ほとんどが心に傷を負っているのではないかとすら感じるこの頃です。

 私たちは、子どもを大切にしてきたのでしょうか。子どもたちの愛される
という権利を保障していけるでしょうか。一職員や施設長の思いで支えきれ
る事態ではないと切実に感じています。

 今、子どもたちの育ちにしっかりと焦点を当てた国家としての取り組みが、
何よりも優先してすすめられなければなりません。この国の未来は、目の前
の子どもたちなのですから。

※ プロフィール