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吉川弘之氏プロフィール
[特別寄稿]

      「皇室典範に関する有識者会議」を終えて
         (皇室典範に関する有識者会議座長 吉川弘之)

 皇室典範に関する有識者会議の委員になることを依頼されたとき、検討の
対象は法律であっても、それは皇室制度に関わることであり、恐れ多いこと
だという念にとらわれないわけにはいかなかった。

 しかし、現在の皇室の構成からすれば、皇位継承制度の在り方について、
早急な検討が必要であることは理解できるところであり、総理からの依頼で
ある以上、一国民として断るわけにはいかない。

 有識者会議が依頼されたのは、将来にわたり皇位継承を安定的に維持する
ための検討を行うことであった。

 皇室制度はわが国の長い歴史において常に中心にあり、現在は、憲法に
「天皇は、日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴」とある。検討の対象
は、国家の基本にも関わるものであり、極めて重いものである。

 しかも、私たち国民が理解する「象徴」とは、国民一人一人の思想に依拠
して多様であり、制度に対する見方も、多様な思想、すなわち歴史観や国家
観によって様々であるはずである。

 この重く難しい課題を前にして、私たちは、まず、現在の制度を変えずに
安定的な継承を維持することが可能かどうかを詳細に検討した。その結果、
現在の皇位継承資格者の4つの要件、皇統に属すること、嫡出であること、
男系男子であること、皇族であること、をすべて満たす資格者を、今後安定
的に確保することは極めて困難という結論になった。

 いわゆる旧皇族の復帰等についても検討を行ったが、たとえそれを行った
としても中長期的な解決とはならず、また、国民の理解と支持、安定性、伝
統いずれの点でも問題があるとの結論に至った。

 それでは、どのようにして可能な案を考えていくのか。そのとき、私たち
は、様々な歴史観や国家観を踏まえながらも、その中の特定の立場に基づく
議論をすることは差し控えるという態度をとった。特定の立場を背景とした
考え方は、他の立場を否定することにもなってしまうからである。

 そこで、私たちは、憲法に戻り、その範囲内で可能な方法を探るという方
法をとることとした。そうして、明治及び現行の皇室典範についての検討の
経過も追う中で到達したのが、女子や女系の皇族への皇位継承資格の拡大で
ある。

 世襲による象徴天皇の制度は、古来の伝統を基礎としながら、戦後、昭和
天皇や今上陛下をはじめ、皇族の方々が、国民とともに、というお考えに立
たれ、ご公務や各種のご活動にたいへんなご努力を重ねてこられたことの賜
物である。

 これを、将来の世代に安定的に引き継いでいくことがなによりも大切だと
いう考え方に立ったとき、資格の拡大が必要であり、また、望ましいという
結論に達したものである。

 その内容については報告書に詳述したが、私にとって、それがある意味で
は明治以来の長い検討の末に到達したものだと理解はしつつも、古来の歴史
の変更であるという意味で、言葉には言い表せないほどの自問自答を繰り返
した末の提案だった。他の委員も同じ思いであったと思う。

 歴史にできるだけ忠実という条件と、未来を含めて国民の広範な支持を得
るという条件とを、同時に満たすという困難な条件を突きつけられた我々現
代人にとっては、避けることのできない自問自答であった。

 しかも、私たちは、特定の思想を前提にしない、その意味で中立的な立場
で検討するという条件を自らに課していたので、ときに重苦しささえ感じる
こともあった。

 有識者会議の提案の方向が固まるにつれ、各方面から、様々な思想や歴史
観を背景とするご意見をいただいた。それらに個別にお答えすることはでき
なかったが、このような検討の態度をとったことはぜひご理解をいただきた
いと思う。

 各会議の終了後には、毎回、原則として時間制限なしに記者会見を行った。
率直に言って、これは、私にとっては大変疲れるものであったが、会議の様
子をお伝えする上で必要なものであり、また、結果として非常に有意義なも
のであった。

 私としては、この記者会見の場で、皇位継承に関連する個別の問題を一つ
一つ検討しつつ、それら相互の関連を究明することを通してのみ、中立的な
提案を行うことができるということを繰り返し述べてきたつもりである。

 有識者会議の結論は、すべて報告書に書かれていて、ここに繰り返すこと
はしない。私たちとしては、その結論が、象徴天皇の制度を安定的に将来に
引き継ぐうえで最善のものと考えている。

 もとより、今後、国会等でもさらに多様な角度から議論が尽くされること
となろうが、できるだけ早期に安定的な皇位継承制度が定められること、そ
のために私たちの検討が役立つことを心から期待する。

※ 首相官邸ホームページ(皇室典範に関する有識者会議)
 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kousitu/index.html