IT21(情報通信21世紀計画)プロジェクト

「IT21の推進」プロジェクト平成12年度評価報告書




 ミレニアム・プロジェクト(新しい千年紀プロジェクト)は、平成11年12月、新しいミレニアム(千年紀)の始まりを目前に控え、人類の直面する課題に応え、新しい産業を生み出す大胆な技術革新に取り組むこととして始まった。具体的には、夢と活力に満ちた次世紀を迎えるために、今後の我が国経済社会にとって重要性や緊要性の高い情報化、高齢化、環境対応の三分野について、技術革新を中心とした産学官共同プロジェクトを構築し、明るい未来を切り開く核を作り上げるものである。
 ミレニアム・プロジェクトの情報化分野に該当する「IT21(情報通信技術21世紀)の推進」においては、かつての産業革命に匹敵する「デジタル革命」の時代を迎えつつあることを踏まえ、我が国としても、情報通信分野に対する積極的な研究開発投資こそが、我が国の経済を再生し、国際競争力を高めていくための重要な鍵であることを十分認識し、産学官の総力を挙げて、革新的な情報通信技術の開発を進めていくこととしている。
 本評価・助言会議は、「IT21の推進」プロジェクトについて評価・助言を行うために設置されているが、平成12年度事業について、各評価・助言委員からの意見を踏まえ、今般、中間評価として平成12年度評価報告書を取りまとめた。

I.「IT21の推進」プロジェクトの概要

1.目標

 2005年度までに、全ての国民が、場所を問わず、超高速のインターネットを自由自在に活用して、自分の望む情報の入手・処理・発信を安全・迅速・簡単に行えるインターネット&コンピューティング環境を創造する。
 このため、インターネットに関しては、現在のインターネットの1万倍の処理速度と3万倍の接続規模を有し、利用者を目的の情報に安全かつ的確に導くスーパーインターネットを実現するとともに、コンピューティングに関しては、キーボードといった特定のインターフェースに縛られることなく、安心して、誰もが、高度な情報処理とネットワーク接続を簡単に行える新世代コンピューティングを実現する。

2.個別分野の目標

 本プロジェクトは、「インターネット・ソフトウェア」「インターネット・ハードウェア」「コンピューティング・ソフトウェア」「コンピューティング・ハードウェア」の4つの分野に分かれ、さらに分野ごとに個別の技術開発テーマが設けられており、全体として1.の目標の達成を目指すこととしている。
 個別テーマごとには、以下に掲げる目標の実現を目指している。

(1) インターネット・ソフトウェア

  • ギガビットレベルの回線速度(現行の1000倍)の実現
  • 国民の誰もが1〜数台の情報通信端末をインターネットに接続できるネットワークの実現
  • 日本において数億を超える機器、世界レベルで兆を超える機器のインターネット接続を可能とするネットワークの実現
  • 情報家電を始め、あらゆる電子機器へ通信機能が付加され、インターネットに接続(現在の3万倍以上の接続規模を実現)

(2) インターネット・ハードウェア

  • ネットワークの全光化のための光ソリトン伝送の実現及び超高速光ルータの開発(現行の1万倍以上の伝送速度の実現)
  • 1兆〜1000兆分の1秒単位での光のON/OFF機能の実現
(3) コンピューティング・ソフトウェア
  • 若年者の利用と同等以上の環境が実現できる高齢者用インターフェイス・ソフトウェアの開発
  • コンピュータの実行処理性能を倍増させるコア・ソフトウェア技術の開発
  • ほぼ全ての録画番組を対象として、短時間(現在の15分の1程度)・低コスト(現状の4分の1以下)で自動的に字幕を付与できるシステムの実現のための技術の開発
  • 高齢者、障害者の居場所を10cm単位の精度(現在の1000倍)で検出する技術の開発
  • ソフトウェア・コンテンツ市場創造の鍵となる多機能オペレーティング等ソフトウェア、ソフトウェアの部品か技術、人工知能、論理的三次元画像処理技術等の開発
(4) コンピューティング・ハードウェア
  • 数千万分の1メートル以下(100ナノメートルレベル以下)の精度の半導体の極微細レーザー加工の実現
  • 超高集積LSIの総合設計効率を百倍向上する新技術の開発
  • 毎秒100ギガビットの信号処理を可能とする光・電気複合実装技術の開発
  • 数億分の1メートル(数ナノメートル)以下の精度の材料加工技術の開発
  • 記録密度100ギガバイト毎平方インチの光ディスクの実現を図るための信号処理、ディスク成形、高密度化技術の開発

II.平成12年度事業の実績と評価

A.評価の方針

 本プロジェクトは、「情報の入手・処理・発信を安全・迅速・簡単に行えるインターネット&コンピューティングの実現」というある程度広がりを持った目的のため、多岐にわたる領域の研究開発を進めていくとの位置付けであり、全体としての進捗状況とともに、各個別分野ごとの事業実績を踏まえて評価を行う必要がある。(なお、平成12年度は初年度に当たることから、年度内に得られた成果の評価よりも、実施状況や技術動向の変化に対応した各プロジェクトの今後の方向性に重点を置いて評価することとする。)
また、本報告書における評価が、今後のより望ましい事業実施につながるよう、全体の目的を効率的・効果的に達成するための目標設定や実施体制の在り方、各事業間の連携強化・成果の相互利用の促進に留意することとする。

B.平成12年度事業実績と総括的評価

 平成12年度は、事業の初年度として、プロジェクト実施体制の構築を行うとともに、あらかじめ定めた年次計画に基づき事業が進められた。その実績について、個別テーマごとに、別添の事業実施報告書のとおり報告が提出されており、以下、この事業実施報告書に基づいて評価を行うこととする。
 各分野ごとの目標設定、進捗状況は異なっているが、国際的な研究開発動向を把握し、日本の優位性を生かした特長あるプロジェクトであるかを見極め、今後の展開を検討することが重要であり、プロジェクト又は研究者相互の適切な連携を図ることで、研究開発の効率を高めるとともに、得られた成果が円滑に産業化、実用化されることが求められる。

C.分野別評価

 分野別の評価として、各委員からの意見に基づき、以下のとおり指摘する。

1.インターネット・ソフトウェア分野

<全般>
  •  各プロジェクトの進捗状況は概ね良好であり、具体的なプロトタイプの試作や注目すべき実験データが得られつつある。
  •  次世代インターネット、モバイルを含む情報家電インターネット及び次々世代のインターネット基盤技術という3本柱となっており、米国の後塵を拝したインターネットにおいて我が国がトップに立つための体制が立てられている。
  •  技術の実現時期は、次世代、情報家電、スーパーインターネットの順であり、国の支援するプロジェクトとしては、時間的経過とともにより後者に重点を移すべきである。
  •  単なるビットエラー改善、安全性を個別に研究するのみならず、EtoEでユーザに見えるシステム信頼性向上を図る努力や標準化等世界に広める努力を戦略的に行うべきである。

<個別の点>

  •  次世代インターネットの目標として掲げられた、安全、信頼性、超高速、大容量の4つのうち、安全と信頼性に関する研究開発は十分とは言えず、また、超高速、大容量の技術実現には、1〜2桁上の目標設定が必要である。
  •  常時接続ブロードバンドによるユビキタスネットワークを想定した研究者間同士の情報交換と各種デバイスの多様化、無線通信のグローバルな動向に注視することが不可欠である。
  •  相互接続性、安全・信頼性には、特に、力点を置くべき。また、米国等のIPv6の動きの早さに負けることがないよう着実かつ迅速に研究開発を進めるべき。
  •  次世代インターネットについて、KDD研究所とWIDEプロジェクトの共同であるが、具体的な体制と顔の見える研究成果を期待する。
  •  次世代インターネットについて、研究開発用ギガビットネットワークの利用環境にどのような効用ができたか、明確にされることを期待する。
  •  CABIN方式の問題点は画質の悪さであり、その解決について策が示されていない。この方式で目指すべき目標(サイズ、画質等)及びアプローチ(実現方式の研究を行う等)を明確にすべき。
  •  情報家電については、デジタル放送が実現されているので、放送局側のコンテンツや新しいサービス内容に対するシステム機能を明確にして、具体的な評価実験ができると思われる。
  •  スーパーインターネットの目標は当然の内容であるが、他の同類の研究・開発プロジェクトが多く、それらとの連携や競合関係を整理すべき。特に、米国では国家助成により、次々世代のネットワーク技術の重要プロジェクトがスタートしているので、今後の研究開発の重点化が望まれる。
  •  スーパーインターネット関連では、Bluetooth以外の方式も多々出始めているので、それらとの間の関係を整理すべき。
  •  コンテンツ流通に関しては、メタデータ流通が必須であり、この関係の研究を含めないと将来性が失われるのではないか。

2. インターネット・ハードウェア分野

<全般>
  •  各テーマの目標達成度は概ね良好であり、これらの研究の中から世界最高速度のDWDM伝送実験に対する貢献などの顕著な成果も出てきている。
  •  基礎研究開発としての伝送速度に関する目標は達成している。この技術の実用化に向けての課題を克服する必要がある。
  •  目標に具体性のないものが一部出るものの、設定された目標は概ね妥当であり、今後、その成果をどのように具現化するかを明確にすべき。

<個別の点>

  •  光化技術において今後強化すべきは、e-Japan構想の実現に向けて、「高速光アクセス技術の開発」及び4つの研究開発を総合して実証するトライアルのための環境の実現にある。これらの課題を早急に具体化する活動をスタートさせるべき。
  •  波長多重については、より多数の波長多重に取り組む必要があると考えられるので、現状の目標設定についての考え方を明らかにすべき。
  •  フォトニックネットワーク技術に関しては、米国やカナダにおいて、DARPA、NSF、CANNARIE等の重要なプロジェクトが進捗しており、フォトニックネットワークの実証実験用ネットワークを構築して研究を推進し、次世代インターネットのバックボーン及びアクセスネットワークで世界を先導しつつある。我が国のe-Japan構想の早期達成のためには、それらに匹敵する具体化に向けた取り組みを早期にスタートさせる必要がある。
  •  「次世代LEOに関する研究開発」は、過疎地あるいは移動体でのネットワーク環境のみならず、災害時等の通信の補完手段としても使えることから、一層の充実が望まれる。
  •  マルチメディア研究では、表現やデータ処理技術もさることながら、それらを利用するアプリケーションを想定してみることと、通信端末の技術進歩のタイムテーブルと同期して考えてみることが非常に重要であり、想定する技術と利用シナリオをチャート化することにより、優先度の判断もある程度可能となる。
  •  マルチメディアの高度化施策の目標は「伝達、入力、表示、並行送受信」と定義されているが、実施内容は、「処理、制作」技術が多い。
  •  デジタル放送のサービス内容との連携を見直しながら推進すべき。
  •  次世代高機能映像技術の研究開発に関しては、デジタル放送に特化することなく、より広範囲の高速インターネット通信をターゲットとして研究開発を行うべきである。

3. コンピューティング・ソフトウェア分野

<全般>
  •  全体として、事業の実施については、計画通り順調のようである。
  •  設定された目標に対する達成度は評価できる。特に、ソフトウェア開発の専門家による創造的なソフトウェアの開発体系は、従来の事業に比べて革新的な方法で遂行されており、高く評価できる。国際的な発展が期待できる成果が、さらに要求される。
  •  地方公共団体の構築したシステムの企画・運用・実施体制において、専門的人材の確保が肝要と思われる。長期的な対応策を検討する必要がある。

<個別の点>

  •  マルチメディア研究では、表現やデータ処理技術もさることながら、それらを利用するアプリケーションを想定してみることと、通信端末の技術進歩のタイムテーブルを同期して考えてみることが必要である。想定する技術と利用シナリオをチャート化することにより、優先度の判断もある程度可能となる。
  •  「未踏ソフトウェア等創造事業」は、次世代のITを担うスーパークリエータの発掘及び我が国におけるプロジェクト・マネージャ制度の確立に向けての重要な事業であり、より一層の拡充が望まれる。
  •  「アーキテクチャに関する研究開発」は、いずれも我が国として維持する必要がある重要基盤技術であり、これらの分野の人材の育成・確保に努力すべき。
  •  デジタルネットワーク基盤については、グリッドコンピューティングに関する見解を明確に盛り込み、この活動に貢献することが必要ではないか。
  •  高齢化の症状は、動物体把握能力の低下、認知色彩範囲の低下や高音が聞こえなくなるなど、具体的な情報が測定された例があり、このような症状を具体的に把握して研究目標を設定すべき。
  •  視聴覚障害者向け放送ソフト技術開発については、民間は投資しない領域であり、積極的に取り組むべきであるが、どの程度の到達点を目指すか(例えば、音声認識率100%を目指すのか)については、検討の余地あり。
  •  健常者でも情報機能の恩恵を得やすくなるよう、Secure OS、Dependable Computingなどをターゲットにしたプロジェクトが必要。

4.コンピューティング・ハードウェア分野

<全般>
  •  先端デバイス技術の開発には、高い専門性と継続性が必要であり、戦略的な研究開発体制が求められる。
  •  それぞれの分野では、ほぼ計画通りの達成度が認められる。
  •  国外の大学、研究機関との連携など、国際的な市場を視野に入れた戦略的な研究開発体制の確立が急務である。
  •  現プロジェクトは、全てデバイス開発技術であるが、コンピューティングを直接支える技術も必要。コンピューティングとして次世代のプロセッサ、中核機能等もターゲットに入れるべきではないか。
  •  安全性と信頼性に富んだ次世代プロセッサ方式、ルータチップ等を具体的に開発し、評価するプロジェクトを立てるべき。