教育の情報化プロジェクト
ミレニアム・プロジェクト「教育の情報化」
評価・助言会議 平成12年度評価報告書
平成13年7月
ミレニアム・プロジェクト「教育の情報化」は、近年の著しい情報通信技術(IT)の発展に伴い、社会のあらゆる分野で情報化が急速に進み、それが世界的な趨勢ともなりつつあることから、教育の情報化は日本の教育における最重要課題であるという認識の下、総理直属のバーチャル・エージェンシー「教育の情報化プロジェクト」の報告を踏まえて平成11年12月に策定されたものである。
同プロジェクトにおいては、情報化の推進を通じて、「子どもたちが変わる」(「子どもたち」の論理的な思考力・創造力・表現力などの向上)、「授業が変わる」(「授業」の形態の根本的な変革)、「学校が変わる」(学校・家庭・地域間の連携をはじめ「学校」運営の在り方そのものの変革)という状況をつくり出すことを目指し、各施策を講じることとされている。
平成12年度のプロジェクトの開始以来、約1年が経過したので、同プロジェクトの初年度における各事業の実施状況について以下のとおり評価し、助言を行うこととする。
◎全体評価
コンピュータ整備・インターネット接続、校内LANの整備、教員研修の実施などプロジェクト全体を見渡すと、情報化された学校現場の未来を予感させるものであるが、地域間格差を生じさせないよう、プロジェクトの理念・趣旨を現場に伝達する必要がある。このため、広報活動等により現場での課題意識を喚起し、プロジェクトの理念・趣旨を徹底させ、その成果についての実態の把握に努めることが必要である。また、既存事業の成果等を活かしつつ、各事業をより有機的に連携させていく発想が必要である。その際、国と自治体とで十分連携を図っていくことが必要である。
また、プロジェクトの確実な実施を担保するため、プロジェクトの進捗状況について、インターネット普及状況や活用状況、さらに子ども、保護者、教員の反応を踏まえつつ評価していくことが必要である。
◎個別評価
1.公立学校のコンピュータ整備・インターネット接続
(1)実施状況の評価
公立学校のコンピュータ整備・インターネット接続については、特に平成17年度までの教室接続について、校内LANの整備、低廉な高速ネットワークインフラの整備等が目標であるため、各施策の総合的な推進が必要である。また、コンピュータ整備やインターネット接続については、その具体的な実施は地方自治体に委ねられていることから、地域の実状に応じた取組により、自治体間で整備状況にばらつきが生じている可能性もある。
(2)助言
- 検証態勢の整備
まず、本プロジェクトの趣旨に合致した形で整備が進むよう、広報活動を積極的に行う必要があると考えられる。また、整備目標に対する達成度を公表するなど、本プロジェクトの趣旨に合致した形で実施されているかを不断に検証していくことも必要である。さらに、本プロジェクトの実施について積極的な取組を推進する観点から、その推進に当たっては何らかの奨励方策を検討することも視野に入れるべきである。
- 整備コンピュータの質的問題
「わかる授業」を実現するという目的の実現を阻害しないよう、コンピュータ整備を進めるに当たっては、コンピュータの性能の実態を明らかにするとともに、買い取りや長期間のレンタル・リースではなく、インターネットの利用にも十分な最新のマルチメディア対応のコンピュータへの更新が速やかに行えるような整備を促す必要がある。
さらに、平成14年度から実施される新しい学習指導要領に対応して、普通教室においてコンピュータやインターネットを利用した授業ができるよう、各教室への校内LANの整備とコンピュータの配置を一層推進するとともに、また、例えば、教員用のコンピュータについては、ノート型のものを整備し、職員室と兼用できるようにするなどの工夫が必要である。
また、コンピュータ整備を進めるに当たっては、障害のある子どもたちや特別な支援を必要とする子どもたちへのアクセシビリティの確保に十分配慮するとともに、そのための障害に対応した情報機器等に関する情報の提供体制の整備を図ることが必要である。
- モバイル・インターネットの活用
無線通信によるインターネット接続は、教室外での授業や病気療養児に対する床上学習や補充指導等に効果的であり、周波数の有効活用も視野に入れながら、無線を教育に活用できるようなインフラ整備の検討やインターネットに関する技術開発を推進する必要がある。
- 調査内容の充実
今後、本プロジェクトの実施状況をより適切に評価するため、また、各学校や教育委員会が教育の情報化の推進状況を自ら比較・評価し、検討できるような情報を提供するため、現行の実施状況の調査内容を都道府県単位から市町村単位へ変更し、コンピュータ・インターネットの具体的な利用状況がイメージしやすいようにすべきである。
2.公立学校の校内LANの整備
(1)実施状況の評価
校内LANの整備については、平成12年度補正予算により、平成16年度までの整備目標を約2年程度前倒しして整備されているところである。これは本プロジェクトの最終目標の実現に大きく寄与するものであり、大いに評価されるべきものであるといえる。しかし、ネットワークの知識が乏しい教員にはその意義が理解されにくいという問題や、セキュリティ管理体制、学校の構造上の問題等校内LANの整備については解決すべき課題が多い。また、教室内の各端末から快適なインターネット接続を実現するためには、相当のコストがかかると考えられており、現在の地方自治体の財政状況等を考慮すると、目標年度内の達成には困難が伴う。一方、地域の人々と学校の教師や子どもたちが力を合わせて校内LAN等を自分たちで構築するネットデイ活動が各地で行われている。しかしながら、ネットデイ活動は、各地域で自発的に行われている活動であるが故に、地域のネットワーク全体との整合性や学校間敷設状況の格差の発生などの問題が生じることが考えられる。
(2)助言
- モデルケースの提示
校内LANの整備を進めていくためには、まず、その意義について教員に理解させるような広報活動が必要であるとともに、海外の先進国の取組事例等を含めた、各方面への絶えざる情報提供を行っていくことが必要である。また、ネットワーク接続構造やそのセキュリティ管理の在り方等を含めた校内LANのモデルを示すことが必要である。これにより、LAN敷設状況における学校ごとのばらつきの解消が図られることが期待される。
- ネットデイ活動との連携
ネットデイ活動については、教育の情報化のみならず開かれた学校づくりのために効果的であることから、行政の関わり方や活動に対する支援の在り方について引き続き検討する必要があろう。
3.私立学校のコンピュータ整備等
(1)実施状況の評価
平成12年度においては、特別教室用のコンピュータ整備・インターネット接続に係る経費のみを補助対象としていたところである。平成13年度において措置されているように、普通教室におけるコンピュータ整備のための補助は、学校で日常的にコンピュータを活用するという本プロジェクトの趣旨に沿ったものであり、非常に有効であるといえる。ただし、情報化を積極的に進めている学校とそうでない学校との間で差が生じているおそれがある。
(2)助言
新しい学習指導要領のもとでの各教科等や総合的な学習の時間において、コンピュータやインターネットを積極的に活用できるよう、校内環境についてのモデルプランを含めた指針を作る必要がある。また、情報化を積極的に推進する私立学校については、予算面での更なる補助等を検討することも必要である。さらに、物理的なネットワークの制約を受けない運用形態がとれる地域ネットワークの設計についても検討が必要であろう。その際、それぞれの私立学校の自立性が発揮できるよう配慮すること、経費負担の在り方について検討することが重要である。
4.教員研修の実施
(1)実施状況の評価
各都道府県教育委員会等における取組のほか、いくつかの民間団体等が懸命に努力しているのは高く評価できる。ただし、約90万人の教員について、平成13年度までにコンピュータを活用する能力を身に付け、半数が指導できるようにする目標を実現することは容易なことではないと考えられる。教育現場における意気込みが低いという指摘もある。
(2)助言
- 研修成果の検証及び校内研修の在り方
研修効果を上げていくためには、研修成果を評価し、研修の在り方について検証していくことが必要である。その際、今後もITの教育への応用は継続的に進行することから、教員が自主的に新しい知識と技術を修得するよう、情報リテラシーや指導のために必要な能力の標準を示すことも一案である。また、研修の受講のみならず、コンピュータを活用した授業を実践することを促したり、一度の研修でその効果が上がらない場合には再研修の機会を設けるなどしてコンピュータを活用して指導できる教員の数を確実に増やしていくことが必要である。
また、各学校で1人の校内リーダーが指導をするのではなく、複数の校内リーダーを置き、協力して研修を行うことにより研修の効果を高めていくことも必要である。
- 研修機会の提供
約90万人の教員に対して十分な研修機会を効率的に提供していくためには、対面による集団研修のみならず、全国約1,700(平成13年5月末現在)の受信施設を持つ教育情報衛星通信ネットワーク(「エル・ネット」)等を活用した研修事業を引き続き推進していく必要がある。
- ヘルプデスク体制の整備
授業においてコンピュータを効果的に活用していくため、教員研修を着実に実施していくのみならず、教員に対してコンピュータを活用した授業の在り方に関する相談(ソフト面)やインターネット授業におけるトラブルや質問等(ハード面)に応じるヘルプデスク体制を整えていく必要がある。
5.学校教育用コンテンツの開発
(1)実施状況の評価
学校教育用コンテンツの開発事業については、既に非常に良質のコンテンツを提供しているものもある。ネットワーク提供型コンテンツ開発については、その一般的な開発の在り方が明確でない現状では、モデル的にコンテンツを開発していくことは非常に重要である。モデル的に開発されているコンテンツ一覧についても、非常に興味が持てるものであるといえる。また、学習資源デジタル化・ネットワーク化推進事業については、17のコンソーシアムを立ち上げたことは、同事業の着実な実施を示すものとして評価できるものである。その研究開発内容も興味深いものとなっており、17の案件は技術的にみても、コンテンツ利用予測からみても全体的に配慮されたものとなっているといえる。
ネットワーク上の様々な学習資源コンテンツの円滑な流通のための研究開発については、学校教育の世界では、コンテンツの送受信や配信等の流通技術については、ほとんど議論がなされていないといえる。今後、通信技術については、ユーザー側の視点に立って技術の有効性の実証を行うプロジェクトに特に重点を置いて進めて行くべきである。
(2)助言
- コンテンツ開発の在り方
今後とも教育用コンテンツの「世界標準化」の趨勢に配慮しつつコンテンツ開発を進めていく必要があるが、開発されたコンテンツを教育現場において有効に利用していくためには、技術的にその大前提として、各地域に拠点となるネットワークセンターごとに同一コンテンツを配置するなどして、大量のデータ送信によるネットワーク上の負荷を軽減するとともに、学校現場における端末側でのコンテンツ管理・操作の負担を軽減するため、コンテンツ・アプリケーションの管理をセンター側で行う、いわゆるASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)システムの導入を図るなどの工夫をする必要がある。その際、ASPシステムの基盤となるネットワーク技術の研究開発や、各地域で収集されるデータを整理統合し、共有するための仕様の共通化や分散型データベースの構築などの研究を平行して行う必要がある。
また、本事業の実施に当たっては、教育用のソフトウェア・コンテンツ市場における民間の主体的な取組を活かすものとするよう工夫する必要がある。そのため、本事業の成果を広く公開するとともに、教育情報ナショナルセンターのWebサイトに、民間企業のソフトウェアも含めた教育用ソフトウェア・コンテンツの集まっている場を設け、これらから比較検討しながらソフトウェア、コンテンツを選択できるようにすべきである。
- コンテンツの有効活用の在り方
開発されたコンテンツの有効活用の在り方に関して、検討を進めることが必要である。特に、開発されたコンテンツの活用と著作権との関係については、開発当事者が教育現場での幅広い活用に配慮した著作権契約を開発段階から行うとともに、教育現場で行える利用行為の範囲について明確な表示を行うよう促す必要がある。また、コンテンツの使用について、教員の主体性を前提とした、効果的な評価体制を早急に作っていくことが必要である。
- 既存事業の成果の活用
開発されたコンテンツを継続的に配信するためには、ネットワークセンターが必要となるが、これには巨大な資金が必要となる。関連する事業で設置された各ネットワークセンターの有効活用について、国との接続の在り方を総合的に整理して指針等を提示する必要がある。これらの開発については、単なる開発実験に終わらせるのではなく、教育情報ナショナルセンターの活動に組み込んでいくことが必要である。
- 更なる技術の蓄積
ネットワーク上の様々な学習資源コンテンツの円滑な流通のための研究開発について、民間を含めた様々な立場からの技術を複合させながらコンテンツを作り上げる新しい発想が必要である。研究開発された成果を教育現場で実証実験し、さらに洗練された技術を蓄積していくことが必要である。また、開発成果を現場の教育関係者にわかる形でまとめていくことも期待される。
6.教育情報ナショナルセンター機能の整備(ポータルサイトに係る研究開発)
(1)実施状況の評価
全国的な視野から教育の情報化を推進する教育情報ナショナルセンター機能構築の構想は大変評価できるものであるといえる。
(2)助言
- 既存事業との連携
今後、官民を含めたコンソーシアムを構築し、既存事業で開発されたコンテンツやネットワークセンター等も有機的に統合し、事業の青写真を示していく必要がある。その際、教育情報ナショナルセンターは、あくまで支援センターであり、教育の情報化の在り方そのものを規定することがないように配慮する必要がある。また、フィルタリングやレイティング、ヘルプデスクに関する研究開発は、教育に活用できるかを実証し、その成果を教育情報ナショナルセンターに活用することが必要である。
- 運用を通じた改善
教育情報ナショナルセンターを構築する途上で、現場からの形成的評価を行うために、何らかの予算措置の検討も必要である。
- 特別支援教育支援の機能
教育情報ナショナルセンターの構築に当たっては、特別支援教育に関する情報が不足しがちであることを踏まえ、特別支援教育に関する情報提供について配慮する必要がある。
7.インターネットを活用したフェスティバルの開催
(1)実施状況の評価
本事業は、我が国の教育の情報化の進展状況を国際的な水準の視点から総合的に点検するとともに、その成果の国民への周知を図るため、国内外の子供たちの幅広い参加により、平成14年度に開催されることとされているものであり、今後、詳細について検討するべきものである。
(2)今後の展望
本フェスティバルでは、コンピュータがどれだけ教育の場に浸透し、その活用がいかに便利かということを実感してもらうことが重要であり、世界中の教員や子どもたちにテレビ会議等によりイベントに参加してもらうことも必要である。そのため、教育の情報化に向けた過去の様々な取組を総結集することも必要となる。また、本プロジェクトで開発したコンテンツのうち、実用化で最も業績をあげたものを表彰するといったことも、教育用コンテンツの開発・普及の促進を図る観点から有効であると考えられる。本フェスティバルは、平成14年度にのみ開催されることとなるが、単に一過性のお祭りにするのではなく、日常の教育に応用可能な教育効果を持つものとして企画していくといった視点も重要である。
平成11年12月のミレニアム・プロジェクトの策定以後、IT基本法の成立をはじめ、「e-Japan戦略」や「e-Japan重点計画」等が策定されるなどITを巡る状況は大きく変わりつつある。今後、本プロジェクトの推進に当たっては、これらの状況を踏まえつつ実施することが重要であり、「教育の情報化」のさらなる推進に向けた一層の取組を期待したい。