内閣総理大臣演説等
日本新生公開政策会議
内閣総理大臣 冒頭スピーチ
平成12年12月7日
一.はじめに
本日は、多くの関係者の御尽力、御協力により、「日本新生」に関する政策会議が開催されますことを、大変嬉しく思っています。また、ただ今、竹中教授から午前中の会議の概要についてお話がありましたが、「日本新生」を実現するための改革について、様々な観点から、深く掘り下げた議論が行われている様子を伺って、この会議の成果に、改めて強い期待を抱いたところであります。
本日の会議は、経済の新生やIT問題を中心に議論をしていただく予定ですが、国内の有識者だけでなく、アメリカ、イギリス、中国(香港)、タイと、海外からも著名な有識者の皆様にも参加いただいております。我が国と世界の将来のために、意義ある成果を挙げていただきたいと心からお願い申し上げます。
「日本新生」という言葉は、この四月、小渕前総理が病に倒れ突然退陣することになり、その後、私が国会で首班指名を受け、最初の所信表明演説で使った言葉であります。「安心して夢を持って暮らせる国家」、「心の豊かな美しい国家」、「世界から信頼される国家」、そのような国家の実現を目指し、次なる時代への改革を躊躇しないで取り組んでいく、そういう施政の基本方針を表す言葉として「日本新生」と言ったのであります。
「日本新生」のための具体的な政策として、十月には「日本新生のための新発展政策」をとりまとめ、現在、その実現に向けて取り組んでいるところです。また、この私の構想を実現していくために、私が主催し、各界の有識者の方々をメンバーとする、様々な会議を設けています。「IT戦略会議」、「産業新生会議」、「教育改革国民会議」、「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」など、我が国が直面している様々な課題が検討されてきております。
このように、日本新生は、日本の経済社会全体を新しい多様な知恵の時代にふさわしい構造と発想に変えようとする大きな改革です。私は、この国の経済を抜本的に改革するという最重要な課題を、IT革命を突破口として速やかに成し遂げる考えであります。目下進行するIT革命を「産業革命に匹敵する歴史的な大改革」と位置づけるのは、このためであります。
二.経済新生の三つの段階
日本経済は一九九七年から九八年にかけて深刻な危機に直面しました。それは、短期的な波動の「景気後退」と、バブル崩壊以来の累積債務による金融危機や経営不振で生じた「バランスシート不況」、そして規格大量生産に向けてできあがった日本の経済構造や社会慣行が、新しい多様な知恵の時代に適合していなかったという「社会構造不況」との三つが重なり合って生じた「三重の不況」でありました。
私は、この深刻な不況から日本経済を新生させるためには、三つのプロセスを経ねばならないと考えています。すなわち、デフレスパイラルから脱却する緊急経済対策、積年の「負の遺産」を解消する「守りの再構築」、そして効率の高い構造を作り、新しい産業と職場を生み出す「攻めの再構築」であります。
第一の段階は九八年秋からの緊急経済対策等によって実行されました。
当時の小渕内閣は金融機関への公的資金注入や中小企業の倒産防止、公共事業の追加や大幅減税による需要の創出など、思い切った緊急経済対策を採り、デフレスパイラルに陥る危機から日本経済を救出しました。
この成果によって、景気は九九年四月頃を底に緩やかながら改善してきております。今、この十二月の時点では、日本の景気はやや不活発ですが、企業部門を中心に上昇傾向は続いており、遠からず家計部門にも明るい動きが広がっていくのではないかと考えております。
経済回復の第二の段階、「守りの再構築」の目標は、バブルの崩壊で生じた過剰設備、過剰雇用、過剰債務の「三つの過剰」を解消し、この国の金融システムと企業経営を健全化することであります。
この点でも政府は、銀行への公的資金投入を実現する一方で、金融業界への市場原理の導入を進め、国際的信用を回復しました。また、多くの企業が自主的努力によって過剰設備と過剰雇用の解消に努めた結果、企業収益は増加、九九年秋からは設備投資も拡大しております。政府は、こうした動きを一段と促進するため、九九年度においても公的需要を創出する積極財政を採るとともに、金融の自由化や企業法制の改正などの条件整備を行ってまいりました。私はこのような条件整備をさらに徹底するとともに、デフレ危機から脱出するための「緊急非常措置」の段階から脱却し、一日も早く「守りの再構築」を完成させたいと思っています。
経済新生の第三の段階は、日本に新しい産業と経済の仕組みを生み出す「攻めの再構築」であります。これには、技術の開発や人間能力の向上、新しいシステムの普及と制度慣習の改革など、供給力強化のための政策、つまりサプライサイド政策が必要であります。
ここでいうサプライサイド政策とは、一時的な需要拡大の政策を超えて、一国の経済が持っている本来の成長力を高める政策です。具体的には、規制改革による新規産業創出・競争促進と公共事業改革で、より効率的な社会を実現し、教育改革などを通じて人的資源を強化し、さらに科学技術開発などで技術進歩を高める政策であります。今日の世界の経済は、市場本来の活力を生かすことによって、成長力を高める大きなチャンスを有しています。アメリカでは情報革命によって成長力が〇・七%程度高まったとの報告もなされていますが、日本においても潜在的な成長力自体をさらに高めることを目指す所存です。これによって、構造改革を推進しつつ息の長い経済成長を実現し、真の経済再生が図られるものと考えます。
先に決定した「日本新生のための新発展政策」においては、そうした視点を踏まえ、IT革命の飛躍的推進、循環型社会の形成を目指す環境対策、活力と楽しみに満ちた未来社会を作る高齢化対策及び便利で住みやすい街を作る都市基盤整備の四つを重点分野として掲げ、補正予算における社会資本整備の三分の二をこの四分野に集中させました。
また、今月一日には、大きな環境変化に直面する我が国経済の新たな成長・発展を目指す「経済構造の変革と創造のための行動計画」を決定しており、今後は、本「行動計画」に沿って、内閣を挙げて経済構造改革を強力に推進していくこととしております。
三.IT革命への弾み
さて、サプライサイド政策の中核としてIT革命の飛躍的推進が挙げられます。これは、この国の未来を決定する重要事項であり、そこに需給両面から政策的な梃入れをすることで、日本経済を再生から新生へ、そして次の文明時代における主導的役割へと発展させることができると確信しております。
日本は戦後、エレクトロニクス産業を発展させ、世界第一の生産力と競争力を誇るほどになりました。しかし、情報通信ネットワークで結ばれたIT社会に進展する過程では、関連する諸分野の古い体質と既存のシステムへのこだわり、新しいシステムになじまない規制や高い料金などに阻まれ、欧米諸国やアジアの進んだ国に大きく立ち遅れてしまいました。私は、この現実を直視し、危機感をバネに国民とともにIT革命を一気に巻き起こしたい考えなのです。
先の臨時国会では「IT基本法」を制定し、全ての国民があまねくITの恵沢を享受し得る社会の構築を目指し、世界最高水準の高度情報通信ネットワークの整備、電子政府の実現や電子商取引ルールの整備など民間が最大限に活力を発揮できる環境の整備に向けた基本方針を定めました。今後は、重点的に講ずべき具体的政策を早急に決定し、大胆な規制改革と体制の変更、新技術開発普及等を進めてまいる所存であります。
高度情報通信ネットワークの普及とITの経済、社会全体への浸透は、人間の能力を高めると共に、人材の配置と資本資源の投入をより合理化し、この国の潜在成長力を高めることになると考えています。またそれを通じて、日本がグローバルな経済発展に貢献し、二十一世紀の人類のライフ・スタイルづくりに積極的な関与を行い得るものと確信しております。
四.新時代に臨む決断
ここで私は、新時代に臨む三つの決断を申し上げます。
まず第一は、前述の「守りの再構築」を躊躇することなく、速やかに、かつ徹底的に実行することです。
第二は、これからの政策決定において、サプライサイド政策を重視する立場に立ち、既成の利権や経緯、慣習にとらわれず、自由競争社会の形成に当たるということです。これからの少子高齢化の進行の中で、多様な知恵の時代に突入することを考えれば、日本は新しきを創ると共に古きを改革せねばなりません。規制の緩和と撤廃、公共事業の思い切った見直しも是非とも必要です。
第三は、全ての人間の価値を高めることにより、知識社会の形成に邁進するということです。全ての国民が自由に安価に情報通信網に接することによって、等しく知識を得、それぞれの能力と意欲を公正に発揮できることが求められます。弱きものも失敗者も人権と尊厳の守られる社会、楽しみは分かち合い、苦しみは担いあい、結果として全ての国民が夢と安心と今日の喜びを誇れる世の中を創るために全力を挙げるということです。
明年一月には、日本政府の機構が改まり、各官庁のまとまりが大きくなると共に、総理大臣の主導力を支える内閣府が発足し、内閣官房のスタッフが強化されます。内閣府には総理大臣を主宰者とし、経済閣僚や民間有識者などによる経済財政諮問会議が設けられ、経済運営や予算編成の基本方針、長期の経済社会の在り方などを議論する予定です。私は、このような場を活かして、日本が直面する様々な問題に積極的に取り組んでまいります。
五.むすび
私なりの問題意識を申し上げましたが、日本の、そして世界の諸賢人の方々に忌憚のない御議論をいただき、よき成果をお聞かせいただけますようお願い致します。
ありがとうございました。