「女性のためのアジア平和国民基金」に拠金を呼びかけます
戦争が終わってから、50年の歳月が流れました。
この戦争は、日本国民にも諸外国、とくにアジア諸国の人々にも、甚大
な惨禍をもたらしました。なかでも、十代の少女までも含む多くの女性を
強制的に「慰安婦」として軍に従わせたことは、女性の根源的な尊厳を踏
みにじる残酷な行為でした。こうした女性の方々が心身に負った深い傷は、
いかに私たちがお詫びしても癒やすことができるものではないでしょう。
しかし、私たちは、なんとか彼女たちの痛みを受け止め、その苦しみが少
しでも緩和されるよう、最大限の力を尽くしたい、そう思います。これは、
これらの方々に耐え難い犠牲を強いた日本が、どうしても今日はたさなけ
ればならない義務だと信じます。
政府は遅ればせながら、1993年8月4日の内閣官房長官談話と94年8月31
日の内閣総理大臣の談話で、これらの犠牲者の方々に深い反省とお詫びの
気持ちを表わしました。そしてこの6月14日に、その具体的行動を発表し
ました。(1)「慰安婦」制度の犠牲者への国民的な償いのための基金設置
への支援、(2)彼女たちの医療、福祉への政府の拠金、(3)政府による反省
とお詫びの表明、(4)本問題を歴史の教訓とするための歴史資料整備、と
いうのがその柱です。基金は、これらの方々への償いを示すため、国民の
みなさまから拠金を受けて彼女たちにこれをお届けすると共に、女性への
暴力の廃絶など今日的な問題への支援も行うものです。私たちは、政府に
よる謝罪と共に、全国民規模の拠金による「慰安婦」制度の犠牲者への償
いが今どうしても必要だ、という信念の下にこの基金の呼びかけ人となり
ました。
呼びかけ人の中には、政府による補償がどうしても必要だ、いやそれに
は法的にも実際的にも多くの障害があり早急な実現は困難だなど、意見の
ちがいもあります。しかし、私たちは次の一点ですべて一致しております。
それは、すでに年老いた犠牲者の方々への償いに残された時間はない、一
刻も早く行動を起こさなければならない、という気持ちです。
私たちは、「慰安婦」制度の犠牲者の名誉と尊厳の回復のために、歴史
の事実の解明に全力を尽くし、心のこもった謝罪をするよう、政府に強く
求めてまいります。同時に、彼女たちの福祉と医療に十分な予算を組み、
誠実に実施するよう、監視の目を光らせるつもりです。さらに、日本や世
界にまだ残る女性の尊厳の侵害を防止する政策を積極的にとるよう、求め
てまいります。
しかし、なによりも大切なのは、一人でも多くの日本国民が犠牲者の方
々の苦悩を受け止め、心からの償いの気持ちを示すことではないでしょう
か。戦時中から今日まで50年以上に及ぶ彼女たちの屈辱と苦痛は、とうて
い償いきれるものではないでしょう。それでも、私たち日本国民の一人一
人がそれを理解しようと努め、それに基づいた具体的な償いの行動をとり、
そうした心が彼女たちに届けば、癒し難い苦痛をやわらげるのに少しは役
立ってくれる、私たちはそう信じております。
「従軍慰安婦」をつくりだしたのは過去の日本の国家です。しかし、日
本という国は決して政府だけのものでなく、国民の一人一人が過去を引き
継ぎ、現在を生き、未来を創っていくものでしょう。戦後50年という時期
に全国民的な償いをはたすことは、現在を生きる私たち自身の、犠牲者の
方々への、国際社会への、そして将来の世代への責任であると信じます。
この国民基金を通して、一人でも多くの日本の方々が償いの気持ちを示
して下さるよう、切に参加と協力をお願い申し上げる次第です。

1995年7月18日

「女性のためのアジア平和国民基金」呼びかけ人
赤松 良子 芦田甚之助 衛藤 瀋吉 大来 寿子
大鷹 淑子 大沼 保昭 岡本 行夫 加藤 タキ
下村 満子 鈴木 健二 須之部量三 高橋 祥起
鶴見 俊輔 野田 愛子 野中 邦子 萩原 延壽
三木 睦子 宮崎 勇 山本 正 和田 春樹



ごあいさつ

(平成7年7月 内閣総理大臣 村山富市)

「女性のためのアジア平和国民基金」の発足にあたり、ごあいさつ申し
上げます。

今年は、内外の多くの人々が大きな苦しみと悲しみを経験した戦争が終
わってからちょうど50年になります。その間、私たちは、アジア近隣諸
国等との友好関係を一歩一歩深めるよう努めてまいりましたが、その一方
で、戦争の傷痕はこれらの国々に今なお深く残っています。
いわゆる従軍慰安婦の問題もそのひとつです。この問題は、旧日本軍が
関与して多くの女性の名誉と尊厳を深く傷つけたものであり、とうてい許
されるものではありません。私は、従軍慰安婦として心身にわたり癒しが
たい傷を負われたすべての方々に対して、深くおわびを申し上げたいと思
います。

このたび発足する「女性のためのアジア平和国民基金」は、政府と国民
がともに協力しながら、これらの方々に対する国民的な償いや医療、福祉
の事業の支援などに取り組もうというものです。呼びかけ人の方々の趣意
書にも明記されているとおり、政府としても、この基金が所期の目的を達
成できるよう、責任を持って最善の努力を行ってまいります。
同時に、二度とこのような問題が起こることのないよう、政府は、過去
の従軍慰安婦の歴史資料も整えて、歴史の教訓としてまいります。

また、世界の各地で、今なお、数多くの女性が、いわれなき暴力や非人
道的な扱いに苦しめられていますが、「女性のためのアジア平和国民基金」
は、女性をめぐるこのような今日的な問題の解決にも努めるものと理解し
ております。政府は、この面においても積極的な役割を果たしていきたい
と考えております。

私は、わが国がこれらのことを誠実に実施していくことが、わが国とア
ジア近隣諸国等との真の信頼関係を強化、発展させることに通じるものと
確信しております。
「女性のためのアジア平和国民基金」がその目的を達成できるよう政府
は最大限の協力を行う所存ですので、なにとぞ国民のみなさまお一人お一
人のご理解とご協力を賜りますよう、ひとえにお願い申し上げます。



「女性のためのアジア平和国民基金」

呼びかけ人・役員・運営審議会委員リスト
95(平成7)年7月18日現在

 
・呼びかけ人(敬称略、五十音順)      
赤松 良子 元文部大臣       
芦田甚之助 日本労働組合総連合会会長       
衛藤 瀋吉 東京大学名誉教授       
大来 寿子 大来元外相夫人       
大鷹 淑子 元参議院議員       
大沼 保昭 東京大学教授       
岡本 行夫 国際コンサルタント       
加藤 タキ コーディネーター       
下村 満子 ジャーナリスト       
鈴木 健二 熊本県立劇場館長       
須之部量三 元外務事務次官、元駐韓国大使       
高橋 祥起 政治評論家、徳島文理大教授       
鶴見 俊輔 評論家       
野田 愛子 弁護士       
野中 邦子 弁護士、全国人権擁護委員連合会女性問題委員長       
萩原 延壽 歴史家       
三木 睦子
宮崎 勇 大和総研理事長       
山本 正 日本国際交流センター理事長       
和田 春樹 東京大学教授

・役員(敬称略、五十音順)
理事長
原 文兵衛 前参議院議長
理事長代行
有馬真喜子 ジャーナリスト、国連婦人の地位委員会日本代表
理 事
榎本 庸夫 全日本自治団体労働組合副中央執行委員長       
金田 一郎 全国社会福祉協議会副会長       
金平 輝子 前東京都副知事       
下村 満子 ジャーナリスト       
堀田 力 弁護士、さわやか福祉財団理事長       
山口 達男 元シンガポール大使       
鷲尾 悦也 日本労働組合総連合会事務局長
監 事   
橋本 豊 公益法人協会副理事長

・運営審議会委員(敬称略、五十音順)

       
饗庭 孝典 杏林大学教授       
有馬真喜子 ジャーナリスト、国連婦人の地位委員会日本代表
岡本 行夫 国際コンサルタント       
高崎 宗司 津田塾大学教授       
中島 滋 全日本自治団体労働組合国際局長       
野中 邦子 弁護士、全国人権擁護委員連合会女性問題委員長
橋本ヒロ子 ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)事務局農村都市
開発部開発と女性課                     
林 陽子 弁護士       
横田 洋三 東京大学教授