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首相官邸 Prime Minister of Japan and His Cabinet
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平成23年12月28日インド世界問題評議会(ICWA)主催 野田総理講演『人と人の「絆」に基づく「戦略的グローバル・パートナーシップ」』

インド・ニューデリー

1.はじめに

 皆様こんにちは。ご紹介いただきました、日本国内閣総理大臣、野田佳彦でございます。本日は、ネルー首相の時代からインドを代表する「知」の創造と交流の場であった、由緒あるインド世界問題評議会が主催をされる会合で、来年、国交樹立後60周年を迎える日本とインドとの関係について、お話する機会をいただき、誠に光栄に存じます。

 しかも大変絶妙な時間帯にこの講演の舞台を作っていただきました。ランチを食べた後だと、たぶん、皆さん眠くなるでしょう。こうしてランチの前に、こうした時間帯でしっかり耳を傾けていただけるものと確信をしている次第であります。

 日印関係を「戦略的グローバル・パートナーシップ」という言葉で語るようになって、5年が経ちました。以来、両国はこのパートナーシップ関係を毎年拡充させております。21世紀に蒔かれた新たな交流の種を育んでいこうとする両国の意思は、全く揺るぎがありません。

 日本とインドの関係強化には、両国で党派を超えたコンセンサスがある。これは間違いございません。私の所属する党は民主党です。ほかにも政党はいっぱいありますが、いかなる政党もインドとの関係強化を望んでおります。

 日本国内では、年末に向けて多くの課題が山積しており、多忙な日々が続いております。それでも、私は、この地を本年中に訪れることに強いこだわりがございました。両国の首脳が毎年、相互に相手の国を訪問することを切れ目なく続けていくことは、両国にとって象徴的な意義があるのみならず、この1年の間に両国が積みあげてきた成果を確認するという実質的な意義があると考えるからです。

 民主主義。法の支配。あるいは、市場経済。日本とインドがそうした普遍的な価値を共有している、ということは、改めて論じるまでもありません。同様に、両国が「戦略的な利益」を共有していることについても、敢えて言葉を多くして語る必要はないでしょう。

 これからの10年に求められているのは、いかにして具体的な交流と協力を積み重ね、両国の関係を揺るぎないものにしていくのか、という点にあります。

 国際社会の中で、アジア地域の力が増大し、新たな秩序が生まれつつあります。今後、基本的価値と戦略的利益の共有に立脚した両国のパートナーシップを更に深化・成熟させ、広くアジア、ひいては国際社会に貢献していくことが、我々の使命であります。

 アジアの経済大国として、豊富な労働人口を有し、高い経済成長を続けるインドと、インドの持続的発展に貢献できる技術と経験、そして資金を有している日本。

 グローバルに繋がった世界経済は、チャンスとリスクが交錯しており、持続的な成長の実現には「戦略的」な対応が必要です。今こそ、両国の「相互補完性」を活かし、両国の閣僚級経済対話などの場を活用して、具体的な戦略を共同で作り上げていきたいと思います。

 

2.大震災と産業振興 -「人」と「人」の顔が見える交流

 私が両国間の関係を強化していくために、何よりも重要だと思うのは、人と人同士の顔が見える交流の、草の根レベルからの積み重ねであります。

 本年3月11日、我が国の東北地方を未曽有の大震災が襲いました。世界各国から、温かい支援の手が差し伸べられましたが、その中に、インド各層からの様々な支援の提供がなされたこと、そして、インド政府の「国家災害対応部隊」の雄姿があったことに対して、改めて日本国民を代表して感謝を申し上げます。

 アロック・アワスティ隊長以下46名の隊員は、部隊創設以来初の海外派遣だとは思えないほど、規律ある対応ぶりが被災地で際立っていました。

 3月末の寒風吹きすさぶ東北の寒さは、インドからの隊員の方々にとって辛いものだったはずであります。それでも、大津波によって甚大な被害を受けた宮城県女川町の港町にて、10m以上に積み重なるガレキの中から、隊員の皆さんは、住民の要望に耳を傾け、一つ一つ手作業で、懸命に犠牲者の御遺体や遺品の捜索を行われました。隊員の皆さんのひたむきな真心と笑顔は、悲しみに暮れる被災者の心に寄り添う存在として、どれだけの希望を与えてくれたのか、計り知れません。

 思えば、インドは、かつて我が国が苦しんでいる時、常に「傍ら」にいて下さいました。第二次大戦直後の荒廃を生き抜いていくのに、貴国から贈られた象の「インディラ」がどれだけ当時の子供たちの心に希望の灯りをともしたでしょうか。

 そして半世紀を経てまた、貴国の温かい手が差し伸べられたのを日本国民は確かに肌で感じました。それは、被災者に対する、「有形」の支援だけではなく、「復興に立ち上がろう」という勇気を与えてくれる力強いエールでございました。これこそ、かつて詩聖タゴールがうたった「悲しみを慰めるのではなく、悲しみに打ち勝つこと」であり、「乗り越えていく力」を授かったと言えるでしょう。

 人と人とが向き合い、温もりを抱きながら、真剣に心を通い合わせる。こうしたことの積み重ねが、国と国との信頼感を高め、両国の「絆」を深めていく基盤となる。そのことを改めて思い至らせてくれたのが、隊員の皆さんの真心のこもった活躍でありました。

 日本からも、そうしたインドの皆さんに対して「心」に響く交流を実践してきた先達がいます。ご列席の皆さんは、司馬正次(しば しょうじ) 教授のお名前をご存じでしょうか。

 我が国は、その主要産業である製造業について、産官学が連携して、インドの人材育成に貢献しています。司馬教授は、インドの経営幹部を育成する日本の支援プログラムを構想段階から引っ張ってこられた中心人物であります。

 日本経済は、戦後、奇跡の高度成長を遂げました。その背景には、インフラ整備や産業政策など様々な要因がありますが、経済を牽引してきたのは民間企業です。その民間企業の発展に最も大きな貢献を果たした要因は何だったのでしょうか。

 司馬教授は、「個人や一企業のためでなく、社会のためという大義のために働くことで、人に喜びや力を与えることができる」と説きました。教授のこの信念が、日本の支援プログラムの骨格を成しています。

 教授が指導するプログラムは、開始から4年間で400名以上の卒業生を輩出しました。現在インドで流通している「チョットクール」と呼ばれる簡易冷蔵庫は、このプログラムに参加されたゴドレジ社のサンドラマン副社長が開発されたものであり、プログラムで培った経営ノウハウが活かされています。高価で手に入らなかった冷蔵庫がより身近になり、農村地方を中心に広く流通し、人々の生活を大きく変えたと聞いております。

 高度成長を果たした「日本経済の奇跡」のベースにあるものは、「見えるもの」だけではありません。こうした日本の企業の「真髄」にあたるノウハウや哲学といった「見えないもの」が、司馬教授の取組を通じて、インドに伝承され、産業の振興に寄与していることを嬉しく思います。

 こうした、個々の地道な努力が幾重にも積み重なって、国同士の関係が築かれていることを忘れてはなりません。

 

3.より深く、より幅広い交流を

 ご列席の皆様、

 21世紀を通じて、両国の絆を深めていくためには、より多くの人々が、より幅広い形で交流を深めることが欠かせません。そういう観点から、私は、3つの分野での協力を強化していきたいと考えています。

 第一の分野は、草の根のレベルでの人的交流の拡大であります。

 特に、両国の将来を担う青少年同士が交流することが、両国の友好関係を骨組みのところで支えます。「21世紀東アジア青少年交流計画」の下で、2007年からこれまでに約2300人のインドの青少年を日本に招へいしました。

 我が国は、東日本大震災を受け、日本再生に関する理解を促進するために、「キズナ強化プロジェクト」として、約600人の日本とインドの青少年による相互交流を実施する予定です。

 大人の方々はご存じないかもしれませんが、「忍者ハットリくん」や「ドラえもん」といった日本のアニメがインドでも子どもたちの間で人気を増していると聞きます。アニメや映画など文化面での交流の拡大は、両国民の相互理解に資する取組となるはずです。

 また、「百聞は一見にしかず」と言います。実際に日本に来ていただくことこそ、より多くの人が日本を知り、好きになっていただく上で最も効果的な方策です。インドの方々に、もっともっと日本へ観光に来ていただきたいと考えています。我が国の「新成長戦略」の柱の一つとなっている観光立国を、インドの皆さんの協力も得て、実現していきたいと考えています。

 第二の分野は、両国の貿易・投資関係の更なる拡大です。

 経済面での二国間の交流の活性化は、人と人のつながりを深くします。豊富な労働人口を有し、高い経済成長を続けるインドに対して、我が国は、インフラ整備を含め、インドの持続的発展に貢献できる技術と経験を有しています。これほど明快なウィン・ウィンの「相互補完性」を持つ二国間の経済関係はありません。

 本年8月に発効した「日・インド包括的経済連携協定」が、そのための大きな力となってくれることは間違いありません。

 既に、こうした経済連携の強化の動きに呼応して、インドを訪れる日本人ビジネスマンの数は飛躍的に拡大しており、インドに拠点を置く日本企業も800社を越えています。中小企業も含め、我が国の企業がインドへの投資先の選定を進めるため、熱いまなざしを送り続けています。

 インド企業による我が国への投資も歓迎します。また、復興を進める被災地についても、投資を通じて復興に共に参画していただければ幸いです。復興特区制度で5年間、法人税を無税にするなど、日本政府としても制度面でそうした取組を応援しています。

 我が国がもう一つ提供できるのは、インド国内でのインフラ整備のノウハウです。インフラは国家の経済成長の「動脈」です。日本は、南関東から北部九州までを結ぶ、太平洋ベルト地帯構想の下で、高度経済成長を達成した実績があります。

 こうした経験から、我が国は、「貨物専用鉄道計画」や「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想」などを支援しています。加えて、日本企業の進出が著しいインド南部のインフラ整備計画や、高い安全性を有する我が国の新幹線技術を活用したインドの高速鉄道計画への貢献は、両国が相互に裨益しうる協力として、我が国産業界も高い関心を持っています。

 デリーを始めとする地下鉄の建設にも、日本の都市交通・都市環境のノウハウが活用されていることは、皆さまご承知のとおりです。デリーメトロは、本年8月にフェーズ2全線が開通し、東京における地下鉄と同規模の地下鉄ネットワークとなりました。このプロジェクトにおいて、ヘルメットや安全靴の着用を義務づけるなど日本の工事現場の「安全第一」の意識がインドにも定着したことにも注目していただきたいと思います。

 さらに、私はここで、環境とエネルギーを巡る日本の「哲学」や「意識」についても、お伝えしたいと思っています。

 日本企業は、高度成長を達成した反面、一時期、大気汚染や水質汚濁という公害問題に悩みました。また、エネルギー資源の大半を海外に依存するため、二度にわたるオイルショックで大きな影響を受けました。

 しかし今、日本は、こうした負の経験を糧に、技術革新や法制度の整備を通じて、環境問題を克服し、その結果として、世界で最もエネルギー効率の高い国の一つとなっています。環境の汚染を防ぎ、そして節電に努めることは、「強制」ではなく、企業が当然に進めるべきこととして「哲学」のレベルで共有されています。

 その証左が、本年の大震災後、夏場の電力需給の逼迫に際して、小口の電力契約者である中小企業などが、政府の呼びかけに応え、昨年のピーク時と比べて約2割もの節電を進めたことです。

 低炭素型社会の構築を伴うグリーン経済への移行は、世界共通の課題であり、今後のエネルギー需要が急速に拡大するインドでも切実な問題となっていくはずです。様々な協力を模索していく必要がありますが、その前提として、環境を守り、エネルギーを大事に使う、という無形の「価値観」の浸透がグリーン経済を支える重要な要素であることを強調したいと思います。そのうえで、我が国は、インドとの間で、二国間オフセット・メカニズムや東アジア低炭素パートナーシップなどによる二国間・地域レベルでの協力を積極的に進めていきたいと考えています。

 原子力の平和利用に関しては、日インド間で原子力協定の交渉が進められており、その進展を注視しています。また、今月、東京電力福島原発の事故収束に関して、「冷温停止状態」の達成を発表いたしました。引き続き、政府として、インドをはじめとする国際社会に対して、事故の徹底検証から得られる知見と教訓を共有し、国際的な原子力安全の強化に貢献していきます。

 第三の分野は、「地域全体の安定」や「世界共通の課題の解決」のための協力強化です。

 両国はアジアの海洋国家として、シーレーンの安全を含む海上安全保障に死活的な利益を有する国です。既に、海賊対処のための自衛隊艦船のインド寄港や、両国間の様々な協議を実施してきており、また、ソマリア沖・アデン湾の海賊対処においては、両国は米国・中国を含む各国とも連携して活動しています。

 また、既に、日本とインドは多国間の海上訓練「マラバール」で共同の訓練を実施しておりますが、今後、海上自衛隊とインド海軍との二国間共同訓練も開始する予定です。こうした安全保障面での協力は、密接な人的な交流が基盤となって、様々なノウハウが共有されなければ、進められません。

 日本とインドは、世界に大きな影響を与えるグローバル・プレイヤーです。地域や世界が直面する課題に向き合い、共に人類の未来を切り開いていかなければならない立場にあります。先般の東アジア首脳会議は、米国及びロシアも新たに参加し、こうした地域の安全保障と世界の課題を議論するフォーラムとして大きな進化を遂げました。

 こうした場も活用しながら、日本とインドが、米国、中国、韓国、ロシア、ASEAN諸国といったアジア太平洋地域の国々とともに、政治・安全保障を含む様々な分野で、開かれた多層的なネットワークを強化していくことが重要です。

 このような取組を通じて、地域全体での貿易・技術・人的交流の活発化、特にインフラ整備等を通じた連結性の強化を進めていきたいと思います。

 また、先般立ち上がった日米印対話についても、これを歓迎し、地域の安定と繁栄や地球規模の課題に関する協力を進めていきたいと思います。

 他にも、話し合うべき課題は枚挙に暇がありません。ナーランダ大学再興構想を通じた、日本、インド、中国を初めとするアジア地域の知的交流の拡大や、南アジア地域協力連合の域内でのインフラ整備などを通じた連結性の強化に向けて両国が協力していくことが重要です。また、アフガニスタン支援、ミャンマーの民主化・国民和解、権力移行後の北朝鮮情勢などの 地域の諸課題への対処や、防災や国際テロ対策、気候変動、アフリカの開発・平和構築などの地球規模の課題についても、日印両国の協力を深めていきたいと思います。

 

4.むすびに

 個々人のグローバルなつながりが容易に深められる現代において、日本とインドの交流は、ここ10年で確かに大きく拡大しました。しかし、私の見立てでは、本来あってもよいはずの「理想の水準」から比べれば、まだまだ十分ではないように思います。

  ≪特別な思いのある誰か≫が牽引する関係から、≪国民同士誰も≫が自然体で深めていく関係へ。来年の国交樹立60周年を、この理想に向かって進んでいく機会として、積極的に活用したいと考えています。アワスティ隊長も、司馬教授も、両国の心のレベルでの深い交流を進めてくれました。日インド包括的経済連携協定(EPA)をはじめ、そのためのツールも揃いつつあります。

 60年前に我々の祖先が蒔いた友好の種は、数々の花を咲かせてきました。平和で、豊かで、安全な、よりよい人類の未来を構築するために、日本とインドが協力して、また新しい種を蒔く。ここにおられる方々は、まさにその先頭に立つべき方々です。次の時代に向けて、新しい種が力強く芽吹き、更に実り多い未来が訪れるよう、これからも手を携えていこうではありませんか。

 ご清聴どうもありがとうございました。

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