コンピュータ西暦2000年問題

コンピュータ西暦2000年問題に関する報告書要旨

(平成12年3月30日)

T.2000年問題のこれまでの結果

(1)コンピュータ西暦2000年問題は、20世紀終盤に本格化したコンピュータ社会が初めて経験する問題であり、対応を誤れば、高度情報通信社会に対する信任を揺るがしかねない問題とみられていた。
(2)現在までのところ、特に注意を要するとされた年末年始及び閏日を経て、短期的な不都合等をもたらす事象や外部への影響のない日付の誤表示等は報告されているものの、深刻な事態は発生していない。
(3)しかし、一方、仮に事前のシステム点検・修正等を広範に実施しなければ、外部に影響の生じる問題が、社会インフラ分野を含め大量に発生し、国民生活に少なからぬ影響が生じたとみられる。
(4)したがって、このように本問題に的確に対応できているのは、官民の関係者の努力と国民の冷静な対応の賜物ということができる。(以上「参考1」参照)

U.2000年問題に対する我が国の対応とその評価

 2000年問題への対応は、その広がりの大きさ等から広範な関係者の参画を得て、計画的、総合的に実施される必要があり、次のような視点から官民をあげた対応を行った。また、その過程において、政府は起こり得る事象について的確な評価を行うとともに、適切な規模の対応を行った。

1.未然防止のためのシステム点検
社会の隅々まで浸透しつつあるコンピュータにかかる問題であったため、特に我が国のような情報先進国においては、コンピュータの利用者や関連産業等の広範な参画のもと、システム点検や修正等の未然防止を徹底する必要があった。

[上記課題への対応]
@本問題に起因する社会的混乱を未然に防止するには、広範な分野のコンピュータ利用者によるシステムの点検・修正等を計画的に促進することが不可欠であったことから、政府は、小渕総理のイニシアティブで、98年9月に対応の基本となる行動計画を策定した。
Aこの計画に基づき、システム点検等について、
(ア)民間分野等における自主的な対応を、内閣及び各省庁が中心となって、総合的 に進める、
(イ)中でも、国民生活や経済に特に影響の大きい民間重要分野、中央省庁、地方公 共団体等に重点を置き、四半期毎にフォローアップする、
(ウ)システムに支障が発生した場合等の影響の度合を基準として、優先順位をつけ て効率的に点検を行うとの方針で、強力に推進した。
Bコンピュータ利用者と供給者双方の真摯な努力の中で、重要分野等を中心に取り組みが加速的に進み、この結果、2000年問題に起因して発生する可能性のあったトラブルは抑制され、かつ影響が限定されることとなった。

2.危機管理
システムの技術や利用形態の分析、点検等の進捗を踏まえて、発生し得る事象を的確に評価するとともに、テロ的行為等突発事象への柔軟な対応に配慮しながら、万一の場合に備えた危機管理を行う必要があった。

[上記課題への対応]
@コンピュータの利用者自らによる危機管理として、政府は、行動計画に基づき危機管理計画の策定等を促進し、関係主体において、これが着実に実施された。
Aまた、発生し得る事象について、民間重要分野等を中心とするシステム点検・修正等の進捗を踏まえ、かつ「組み込みチップ」等により大混乱が発生する等の説の信憑性をチェックした上で、「小規模或いは短期的な不都合等はあり得るが、社会インフラ等の分野で大きな混乱は発生しないと考える」という趣旨の評価を行い、99年10月末にこれを表明した。
Bこの評価において念頭においたシステムの修正漏れによる不都合やこの機に便乗したテロ的行為等の可能性に対応すべく、官民を挙げた情報連絡網の整備等の危機管理体制を敷いた。また、年末年始に向けた念のための準備に対する国民の関心の高まりを踏まえ、具体的指針を作成し、積極的に広報した。
C事後的には、2000年直後の状況を1時間弱で収集し、これを総理が内外に情報発信する等積極的な情報提供を行った。
Dこのような対応もあり、2000年問題に対し、国民は、事前事後を通じて冷静に対応した。

3.情報提供
2000年問題は、情報通信社会が初めて経験する問題であたため、国民各層の不安をでき得る限り軽減する必要があった。このため、問題の所在、未然防止対応、発生事象に係る事前評価、危機管理、要注意日における発生状況等多岐に亘る情報を国民各層に迅速かつ大量に提供する必要があった。

[上記課題への対応]
@情報提供については、政府は、99年末までの事前の対応として、
(ア)システム点検や危機管理計画を策定すべき主体への問題の周知徹底
(イ)官民等における対応の進捗に係る国民への情報の提供
(ウ)身の回りの2000年問題、Q&A集、質問箱等により分かり易い国民への情報提供
(エ)年末年始に向けた国民一人一人のレベルの備えとしての「国民の準備」など政府広報、官邸等のホームページ、マスメディアの協力等様々な媒体により、時宜に応じて行ってきた。
A特に、「国民の準備」については、
(ア)新聞、テレビ・スポット、ポスター等で総理が自ら呼び掛けを行う、
(イ)学校(冬休みのお知らせ)やコンビニエンスストア(店頭貼りだし)に配布す
る等新たな試みをを含め、積極的な情報提供等を行った。
Bこの結果、国民の理解等が進み、また国民も総じて冷静な対応を行うことが可能となったものと考える。
Cまた、政府だけでなく、関係団体やマスメディアが様々な視点からの情報提供を行ったことが、本問題についての国民の関心を高め、企業トップ等の対応を促進するとともに、豊富な判断材料を提供し、国民の冷静な反応のベースを形成したものと評価される。
Dただし、「組み込みチップが至るところで使用されているため、大混乱が生じる」 等その根拠に対する「詰め」が不十分な極端な議論が広くなされ、国民に不安を与えたとの懸念は残った。

4.国際対応
2000年問題は、世界共通の課題であるとともに、ネットワーク社会において相互に影響を受ける性格の問題であったことから、各国における対応を国際的な連携の中で行うのが効率的であった。また、情報先進国の中でも我が国が地理的に特に早い時間に2000年を迎えるということもあり、我が国の事前対応と2000年直後の情報発信に国際的な関心が集まっており、これに適切に対応する必要があった。

[上記課題への対応]
@ 海外に対して、政府は、我が国の2000年問題への対応状況の情報提供やAPEC
 ・Y2K週間の開催による国際的対応の促進等を図った。さらにAPEC・Y2K・100日協力
イニシアティブ等に基づき発展途上国等への危機管理対応に係る情報提供等を行った。
Aまた、アジア・太平洋諸国において、事後的に不測の事態が発生した場合に対応 できるよう、国連の仕組みを活用し、技術的実態の把握、技術者の派遣等を行える よう準備した。
B日本の対応については、当初、海外での情報の不足もあり、米国等で、取り組みが遅れているとの報道があり、これが国内の不安を高めることがあったが、98年以降 の官民を挙げた我が国の積極的かつ集中的取り組みとそれが目に見える形で、対外的に周知されるに従い、そのような懸念は払拭された。
C実際の危機管理においても、我が国は、国際Y2K協力センター等を介して迅速、的確に情報発信を行った。
D以上のような我が国の事前事後の対応は、国際的な評価を受けた。

V.2000年問題から学ぶべきもの


 2000年問題からの教訓は、「この経験を今後の参考として活用すべきもの」と、「この経験では課題として残ったが、今後更に対応する必要があるもの」とに大別される。

【今後の参考とすべきもの】

1.国民各層による参画の重要性
@2000年問題は、社会インフラ分野のサービスからパーソナル・コンピュータ に至るまで広範なコンピュータ利用に伴う、国民の日常生活に直結した問題であったため、正確な理解が難しい技術的問題でありながら、国民全体が関心を持たざるを得なかった。
Aこのため、政府、地方公共団体、企業のみならず市民団体、マスメディア等あらゆる組織やグループが、システムの点検、危機管理等のほか、特に情報提供・交換に積極的に参画した。
Bこの結果、広範な対応が必要であったシステム点検等が加速的に進むとともに、様々な形態の情報交換等の中で、攪乱要素はあったものの、関連情報について一定の幅の認識が形成され、国民の冷静な対応が可能となるような素地となった。
C今後も情報化が進展する中で、同様の国民全体を巻き込むような問題が発生した場合には、一部の関係者だけでなく、広く国民各層の参画を得て、対応の効果をあげるよう工夫していく必要がある。

2.国民参画型の対応に不可欠な情報公開
@今回、政府は、本問題の所在、影響度、システム点検、危機管理等様々な関連情報について政府広報、ホームページ、マスメディアの協力等多様な媒体で積極的に情報提供した。また、民間重要分野や情報分野の関連団体等からも多くの情報が発信された。
Aかかる情報は、地方公共団体、民間企業、マスメディアのみならず、市民グループ 等を通じて大量に流通し、国民に豊富な判断材料を提供し、本問題への国民の参画を容易にしたものと考えられる。
Bこのように、今後も国民参画型の対応を行うためには、積極的な情報公開が前提条件となり、インターネット等多様な情報提供手段の活用を図りながら、対応すべきである。

3.強力な指導力の必要性
@2000年問題の対応の構造をみると、国民参画型であったと同時に、各主体或いは主体間の対応の中で、指導力がみられたということが注目される。
A政府の中では、98年秋以降、小渕総理のイニシアティブのもと、行動計画の策定、それに基づく事前対応の促進、積極的な情報提供、年末年始等の危機管理等が進められるとともに、関係大臣等が所管分野において指導力を発揮した。
Bまた、企業等組織においては、一部門等の対応では困難との認識のもと、トップマネージメントの指揮により、システム点検や危機管理が全組織ベースで行われた。
地域においても、地方公共団体の長等が事前対応や危機管理について、指導力を発揮した。
C重要民間分野等についても、医療、中小企業等すそ野の広い分野を始め、関係団体等のイニシアティブが顕著であった。
D以上のような様々な指導力により、2000年問題対応は加速的に進んだが、このような、対応に資金的、人的に大きな負担が伴う社会上、経済上の問題については、今回の対応が参考になるものと考えられる。

4.危機管理における的確かつ豊富な情報提供の必要性
@2000年問題については、初めての経験であり、不確実性を完全には払拭できない問題であったため、今回の危機管理においては、特に発生し得る事象についての的確な情報提供が必要であった。すなわち、極端に深刻な予想に対しては、「未然防止策が進み、大きな混乱は発生しない」旨を伝えることにより、安心感を高める一方で、適度な警戒感は形成する必要があった。
Aこのようなバランスのとれた対応を招来するためには、国民の基本的な疑問に対する丁寧な情報提供や「国民の準備」の浸透を始め、多岐かつ豊富な情報提供が必要となった。また、年末年始等においては、国民に対しては、不安が高まらないよう、事前に整備した官民をあげた情報連絡網を活用し、収集した情報を迅速かつ的確に情報提供した。
B危機管理については、態様は一様ではないが、今回の対応でも確認されたように、
(ア)関係者に対しては、日頃から、危機管理意識の浸透を図りつつ、危機管理計画の策定等予防措置の整備を促す、
(イ)国民に対しては、あらかじめ、起こり得る事象の態様等について、不正確な情報の是正を含め、的確な関連情報を豊富かつ前広に提供し、その浸透を図る、
(ウ)緊急時等においては、事前に整備された体系的な連絡網や広報体制等により、迅速かつ的確な情報提供を行うといったことが対応の基本となると考えられる。

5.効果的な国際協力
@今後も地球規模の高度情報化の進展の中で、世界共通の問題が発生していくものと考えられるが、今回の経験から、このような問題については、国際的協力の枠組の中で解決することが極めて有効であることが立証された。
A例えば、サイバーテロ対策、ウィルス対策や電子商取引の問題等今後高度情報通信社会の構築に向けて取り組むべき課題については、政府のみならず、情報通信、金融、交通等専門家等を始め、情報交換や発展途上国への協力などを国際的な枠組みの中で解決していくことが一層期待される。
Bこの場合、情報の共有が、英語中心でなされることに十分配慮しなければならない。本問題に限らず、情報分野における情報発信については、英語が標準的に使用されているので、官民の如何を問わず、ホームページの情報や発表等において英語情報を大量かつ迅速に発信できるよう、対応していく必要がある。

【今後の課題として更に対応すべきもの】

6.インターネットの一層の活用
@2000年問題に関しては、我が国や諸外国の関係者による事前の対応状況、我が国の対応に対する海外の見解や報道振り、また、世界諸国における事後的な発生状況等様々な情報が、インターネットのメーリング・システム等を通じて、政府や専門家を含む様々なレベルのグループの間で、地球規模かつ即時に提供、共有され、極めて大きな効果を上げた。
A一方、2000年問題について不安を増大させるような風評、ウイルス等もインターネットを介し世界中に流れ、また年明け以降、政府関係機関等のホームページがハッカー(クラッカー)に攻撃される等インターネット時代の「影」の部分も生じた。
Bこのように、今後の政策遂行において、インターネット時代への対応は必須のものとなっているが、今回政府はホームページの活用や、メーリングリストの活用、更に関連インターネット情報の収集活用等を図ったものの、その活用は限定された。
Cしたがって、今後は、危機管理や広報をはじめ、新たなニーズに対応するため、インターネット等のコンピュータネットの一層の活用を念頭においたシステムの整備(例;新官邸の情報通信網の整備)、コンピュータ・セキュリティ対策の強化、人的、物的体制さらに法制面の整備を図っていく必要がある。

7.社会的に影響の大きい技術問題のブラックボックス化への対応
@2000年問題に対する対応の中で、組み込みチップによる影響等については、政府をはじめ、正確な情報の提供に努めたが、99年末に至るまで、根拠の乏しい情報が一部マスメディア、市民団体等で流布し、国民の不安を高める要素として残った。
Aその大きな原因は、例えば、マイクロ・コンピュータ搭載機器に内蔵されているチップの役割についての技術的な「詰め」が十分に行わずに、システム全体をいわばブラックボックスのまま、深刻な影響を予測する向きがあったこと等による。 B他方、かかる状況に対して、個別の機器に関する情報については、メーカー等から多くの情報が発信されたが、一般論としての組み込みチップ等について、コンピュータの専門家や技術者からの正確な知識、情報は多くは発信されず、かつ、発信されても、それが必ずしも正しく国民に伝わらなかった面がある。
このため、上記のような本来専門分野でない者による必要以上に深刻なコメントが影響力を持った。
C今後も情報、バイオ、原子力などの科学技術が、経済社会に与える影響は大きいものと予想されるが、このような中において、技術のブラックボックス化が、国民の不安感を増幅することのないようにする必要がある。
このため、政府としても、これまで以上に技術情報等の積極的提供に努めるとともに、例えば、技術系人材が社会への関わりを踏まえ、平易な言葉で技術を説明できるような、文科系人材がコンピュータ等基本的な科学技術についての基礎知識を修得できるような環境の整備について一層努力する必要がある。
Dまた、年始や閏日に発生した修正漏れによる不具合等により、多重的な危機管理対応の重要性が再認識された。