司法制度改革審議会

(別添1)

人的基盤の強化について

平成12年4月17日
法務大臣官房長 但 木 敬 一

第1 21世紀における司法の基盤整備の必要性

1 社会・経済構造の変革と司法の役割の増大 ○ 国際化・自由で活力ある社会の実現→事後監視・救済型社会への転換→公正かつ透明なルールの下で紛争が適正・迅速に解決される仕組みの確立が前提→司法の基盤整備必要
○ 自由で活力のある規制緩和・自己責任型社会を実現するための最終的担保としての刑事司法

2 行政改革と司法改革
 (行政改革会議最終報告)
「法の支配こそ,わが国が,規制緩和を推進し,行政の不透明な事前規制を廃して事後監視・救済型社会への転換を図り,国際社会の信頼を得て繁栄を追求していく上でも欠かすことのできない基盤をなすものである。政府においても,司法の人的及び制度的基盤の整備に向けての本格的検討を早急に開始する必要がある」


司法制度改革審議会の発足

3 審議会の「論点整理」
 「司法の運営を組織的に担う裁判所・検察庁について,それを支援する職員の増加等人的体制の充実を図ることが不可欠であり,その拡充の規模・手順等について検討すべきである」

第2 検察の人的体制強化の必要性

1 21世紀における検察の課題 (1) 行政改革・規制緩和の推進と検察 ○ 事前規制型経済システムから,透明なルールと自己責任原則に立脚した自由競争を基調とする経済システムへの転換
○ 独占禁止法違反,証券取引法違反,商法違反等を始めとする公正で自由な競争を阻害する犯罪等の増加
○ 社会のセーフティーネットとしての検察の役割が増大

(2) 社会構造の変化に伴う治安悪化と検察 ○ 家庭や地域社会の持つ犯罪抑止力の低下―凶悪犯罪,少年犯罪の増加
○ 社会経済の国際化―ビジネス化・ボーダーレス化した組織的犯罪の深刻化
○ 社会経済の高度情報化―ハイテク犯罪の増加
○ 治安の悪化(「安全神話」に重大なかげり)―検察の役割が増大

(3) 国民に身近で信頼される司法の実現と検察 ○ 犯罪被害者等の立場に十分配慮した検察権行使の必要性の高まり

2 検察の人的体制 ―定員の推移―

 昭和48年〜平成7年度平成8年〜同12年度
検   事定員増減なし
(1,173人)
172人増員
(1,173人→1,345人)
検事以外の
検察庁職員
160人増員
(9,939人→10,099人)
96人減員(△)
(10,099人→10,003人)

(注)昭和48年〜平成7年度,平成8年〜同12年度における各増減は,昭和47年度と平成7年度,同年度と平成12年度の各予算定員を比較したもの。

3 検察の人的体制の問題点

(1) 検察の人員不足 ○ 検察官・検察事務官の人員数がその業務量に比して圧倒的に不足
○ 経済検察の人的体制の弱体

(2) 大都市部の検察の恒常的人員不足 ○ 経済関係大規模事件の業務量の急増や捜査・公判の困難化
○ 全国の検察庁からの検察官等の応援派遣の常態化

(3) 地方検察の弱体化 ○ 地方中小規模地検における検事配置の極小化
○ 検事不配置支部の拡大

(4) 検事の活動のパートナーである検察事務官の不足が深刻化(検事の増員と検察事務官の減員)

(5) 人員不足の弊害

○ 経済事件捜査における検察のボトルネック化
○ 不十分な捜査,消極的な事件処理
○ 告訴・告発事件への対応の遅れ

4 検察体制の抜本的な充実強化が直ちに必要
 現状では,21世紀における検察の課題に対する対応は到底不可能

第3 国の行政機関職員定員の削減方針と検察

1 国の行政機関職員の定員削減 (1) 中央省庁等改革基本法及び「国の行政組織等の減量,効率化等に関する基本計画」に基づき,平成13年からの10年間で10%を超える計画削減を含め,25%の純減を目指して政府全体として最大限の努力が必要
(2) 既に国の行政機関の減量化は着実に進行中(平成12年度は,政府全体で4,765人,法務省で155人の純減)

2 司法改革の課題と行政改革の課題の関係に関する政府全体の方針が必要

3 具体的方策

(1) 他の分野への「しわ寄せ」は疑問(法務省だけを見ても,入管・人権等課題山積)
(2) 当審議会における太田元総務庁長官の示唆

第4 検察以外の司法機能を支える人的体制

1 矯正・保護の職員の役割 (1) 刑事裁判(刑)執行の役割
(2) 適正な刑事裁判手続を支える役割(被告人の身柄の確保,弁護人との接見交通の実現等)
(3) 必要な人員が確保されない場合の刑事司法への影響は重大   
(4) 犯罪者更生への努力により,良好な治安の維持に対する貢献

2 訟務の職員の役割

(1) 行政事件訴訟を直接支える役割
(2) 行政部内における「法の支配」拡充発展のために果たすべき役割の増大
(3) 国民と国家の紛争の迅速・適正な解決がより重要になる

(別添2)

裁判所の人的態勢の充実について

最高裁判所事務総局総務局長
中山隆夫

1 裁判所職員の定員の概要
  ○ 裁判所法,裁判所職員定員法等によって定められる。
  ○ いわゆる総定員法の対象とはされておらず,増員の都度,裁判所職員定員法の改正を要する。
  ○ 一般職の定員の官職別内訳は予算で定められる。
2 増員についての基本的な考え方
(1) 増員に当たり考慮すべき基本的な要因
 裁判所の仕事量をどのようにして捉えるか。
 @ 事件数による裁判所の仕事量の変動
  ○ 短期的にいえば,事件数の変動は,増員を考える上で最も大きな要因
 A 事務処理形態の変化に伴う負担の変化
  ○ 訴訟法等の制度的な変革(新民事訴訟法の制定,民事執行法,民事保全法の制定等)
  ○ 裁判所,当事者による運用の変化
    →当然のことながら,裁判所の仕事量に大きな影響を与える。
 B 事務処理態勢の変化に伴う負担の変化
  ○ 例えば,支部・簡裁の配置の見直しの影響
  ○ OA化の推進による仕事量の変化
 C 充員の可能性
 ○ 資格官職であり,厳格な任命要件が定められている裁判官等については充員の可能性をきちんと検証しておかなければならない。
(2) 毎年の増員要求の在り方
3 裁判所における臨司以降の増員状況
(1) 増員結果
  裁判官   544人(判事175人,判事補278人,簡裁判事91人)
  書記官  1514人
(2) 増員結果は十分なものであったか。
  ○ 事件数の変動と対照して検証することの困難性
  ○ 審理期間の変遷からのアプローチ
  ○ 裁判官の繁忙度からのアプローチ
  ○ バブル経済崩壊後の増員状況
4 今後の増員の方針
(1) 短期的な展望と方針
  ○ 民事訴訟事件を中心とした事件数の高水準
  ○ より一層迅速な裁判に対する強い期待
  ○ 大型事件,専門的事件等の審理の長期化
  ○ 書記官の役割拡充
  ○ 合議部における組織的試み
(2) 中長期的な方針
  ○ 本審議会の重要性

(別添3)

「国民の司法参加について」(論点整理)

平成12年4月17日
藤 田 耕 三

第1 司法改革における「国民の司法参加」の意義


 今般の司法改革の理念は、他律的な事前規制型社会から、自律的な事後救済型社会への転換に伴い、国民の間で起こる様々な紛争を公正かつ透明な法的ルールの下で適正かつ迅速に解決する仕組みを確立するとともに、主権者としての国民も司法機能の発揮に能動的に参加していくことが求められているという点にある。そこで、司法を国民により身近で開かれたものとし、また司法に国民の多元的な価値観や専門知識を取り入れるために、従来から機能している調停委員、司法委員、参与員及び検察審査会、保護司等の国民の司法参加制度の在り方について見直し、その機能の強化を図るとともに、欧米諸国で採用されている陪審・参審制度などについても、その歴史的・文化的な背景事情や制度的・実際的な諸条件に留意しつつ、導入の当否を検討すべきであるとされたのである(「司法制度改革に向けて」−論点整理−・p4,10)。

第2 陪審・参審制度

1 陪審・参審制度の意義
 陪審制度とは、市民から無作為に選ばれた陪審員が、職業裁判官から独立して、事実認定(刑事事件では有罪か無罪か)を行うもの(小陪審)である。なお、大陪審とは、刑事事件について起訴を相当とするに足りるだけの証拠があるかどうかを判断するものである。
 世界49カ国(香港を含む。)のうち、陪審制度を採用しているのは10カ国(香港を含む。)、参審制度を採用しているのは12カ国(モロッコ王国を含む。)、両制度とも採用しているのは9カ国、両制度とも採用していないのは18カ国(EUを含む。))である。なお、先進7カ国で見ると、陪審制度を採用しているのは、アメリカ、イギリス、カナダの3カ国、参審制度を採用しているのはドイツ、フランス、イタリアの3カ国、両制度とも採用していないのは我が国である。

2 アメリカの陪審制度
(1) 沿革
 現在もっとも本格的に陪審制度が行われているのはアメリカであり、かってのイギリスの植民地時代に、母国との利害の対立から同輩による陪審裁判によって植民者の利益を守るという機能を果たしたといわれている。現在においても、合衆国憲法及び各州憲法によって、一定範囲の民事・刑事事件について陪審裁判によることが保障されている。

(2) 陪審員の構成
 陪審(刑事における大陪審を除く。)は、市民から無作為抽出で選ばれた陪審員の合議体であり、刑事事件及び民事事件のトライアル(正式事実審理)において裁判官から独立して事実認定を担当する機関である。
 伝統的には、12人の陪審員で構成され、評決には全員一致が要件とされている。しかし、州によっては、一定の事件について12人未満の陪審員、特別多数決による評決を採用しているところもある。 

(3) 対象
 連邦裁判所については、刑事については「重大な犯罪」について陪審裁判を受ける権利が憲法上保障されている。しかし、被告人が裁判所の承認及び検察官の同意を得て陪審裁判を受ける権利を放棄すれば、裁判官による裁判が行われる。民事については訴額が20ドルを超えるコモンロー上の訴訟について陪審裁判が保障されている。一方当事者が請求することによって陪審裁判となる。
 州裁判所においては、陪審裁判を受ける連邦憲法上の権利は、刑事については保障されているが、民事については各州の憲法によって保障されている。
 実際に陪審裁判が行われる割合は、1997年10月1日から1998年9月30日までの間で、連邦裁判所で刑事5.2%、民事で1.7%であるが、これは、刑事では有罪答弁がされる事件が全事件の82.3%、民事ではトライアルの前であるプリトライアル段階及びプリトライアルの前の段階で82.3%の事件が終結していることと関係がある。

(4) 陪審員の資格及び選定
 連邦の陪審資格は、18歳以上の合衆国市民であること、英語を読み書き話す能力があること等の資格要件が定められているが、その選定は、選挙人名簿等から無作為抽出される。陪審候補者名簿から選ばれると、一裁判所あたり何百人かの候補者が特定の日に裁判所に呼び出され、待機することになる。ときには、事件が割り当てられるまで、数日から一週間裁判所に出頭しなければならないこともあるという。
 陪審員の選定手続については、具体的な事件で審理を担当する12人の陪審員が選定されるが、検察官、弁護人の双方が、理由付き忌避及び理由がない専断的忌避をすることができる。実際には、自分に有利な陪審員を確保することが訴訟の勝敗に直結するため、専門家によるアドバイスを得る場合もあり、重大事件では相当な日数を要することもあるという。
 陪審員に対する補償は、連邦裁判所では日当が40ドルとされているが、州裁判所ではまちまちである(5ドルの州もあれば40ドルの州もある。)。

(5) 事実審理
 連日開廷の集中審理が行われる。証拠調べは書面ではなく、証人尋問が中心となり、法律の素人である陪審員にもわかるように簡潔でわかりやすい尋問が心がけられるが、不当な偏見や予断を持たぬように複雑な証拠法が形成されている。

(6) 説示及び評議
 説示は、事実認定を行う陪審員に対して、裁判官が事件に必要とされる法律について説明する手続である。事実認定について裁判官が自分の心証を明らかにすると違法となり、上級審で破棄されるため、抽象的、一般的な説明しかしないとされる。
 陪審員による評議は、密室で外部から遮断されて行われる。陪審員は、評決に至るまで事件について第三者と話してはならず、新聞やテレビも見てはならないとされている。アメリカでは、イギリスのような厳格な報道規制は行われてはいない。
 評決は、全員一致の原則による。全員一致に至らなければ、もう一度陪審員選定からやり直すことになる。
 評決は、有罪、無罪の結論のみで、理由は示されない。有罪の場合には、裁判官が量刑の審理を行って、最終的な刑の宣告を行う。
 例外的にではあるが、裁判官は、一定の場合、例えば評決が明らかに証拠の判断を誤ったときや、陪審の認定した損害賠償額が明らかに過大または過小なときなどには、評決を取り消し、別の陪審を招集してトライアルをやり直すことができるとされる(ニュートライアル:再審理)。

(7) 上訴
 陪審員による事実認定に関しては、上訴することは許されない。一審の判決に対する上訴は、法律問題を理由とする場合に限られる。なお、検察側からの上訴は、全く認められないか、認められるとしても、ごく例外的である。

3 英国の陪審制度
(1) 沿革
 17世紀スチュアート王朝の時代に王の命令に盲従する裁判官に対して、強く抵抗して市民の自由と権利を擁護したことから市民の厚い信望を得たといわれる。

(2) 対象
 刑事陪審裁判は、刑事法院において、正式起訴犯罪(殺人、放火、強姦など)と、中間的犯罪(詐欺、窃盗など)のうち被告人が無罪答弁をした場合に行われる。大陪審は1933年に廃止された。
 民事陪審裁判は、県裁判所及び高等法院女王座部において、名誉毀損、悪意訴追など限定された事件だけに認められており、件数は高等法院においては1%未満、県裁判所においては0.1%未満しかない状況といわれる。

(3) 陪審員の資格及び選定
 年齢、選挙人登録、居住期間等の資格要件及び前科等の欠格事由が定められている。
 選定に際しては、理由付き忌避が認められているだけである。かっては無条件忌避が認められていたが、濫用が著しかったので廃止された。

(4) 説示及び評議
 英国の陪審裁判では、アメリカのそれとは異なり、裁判官が検討するべき争点を積極的に指摘し、証拠についても自らの評価を加えながらポイントを要約していく形で行われる。
 評議は、全員一致によるのが原則であるが、現在は例外が認められ、裁判官が事件の性質や複雑さを考慮して、相当と考える時間(少なくとも2時間以上)にわたって評議しても全員一致に至らなければ、多数決(12人のうち10人以上)による評決を認めることとされた。
 なお、かっては、陪審員は、評議に入った後は、評決が終わるまで必ずホテルに隔離されていたが、その後の法改正によって、裁判官の判断により、陪審員の帰宅を許可できるようになった。

(5) 上訴
 陪審員による事実認定に対して上訴することは許されない。

(6) 報道規制
 被疑者に対する無令状逮捕、逮捕状の発付あるいは正式起訴状の送達があると、以後、裁判手続が終了するまで、事件に関する報道は原則として禁止される。

4 ドイツの参審制度
(1) 沿革
 19世紀中頃、フランスの影響を受けて陪審制度が導入されたが、その後参審制度が考案され、併存した後、陪審裁判所は実質的に廃止され、参審裁判所がこれに代わった。

(2) 対象
 刑事事件については、区裁判所の2年以下の自由刑の事件等を除く軽罪事件、地方裁判所における区裁判所の裁判に対する控訴事件、重罪、重大事件について、参審裁判が行われる。被告人に選択権はなく、自白事件についても行われる。
 民事事件については、原則として職業裁判官のみによって裁判が行われるが、商事事件と農事事件については、職業裁判官の陪席裁判官として、非法律家の名誉職裁判官が関与する。
 労働裁判所、高等労働裁判所及び連邦労働裁判所では、職業裁判官1人(連邦労働裁判所では3人)に労使各1人の名誉職裁判官が加わる。

(3) 参審員の資格及び選定
 参審員の資格については、国籍、年齢、前科、居住期間、職業等に関する資格要件、欠格事由等が定められている。
 参審員の任期は4年であって、市町村が割り当てられた人数の参審員候補者を搭載した名簿を作成し、各区、地方裁判所に推薦する。名簿作成に当たっては、議会で3分の2の同意を得る必要がある。そうして、各区裁判所の参審員選任委員会が参審員を選定し、参審員名簿に登載する。参審員は、年に一度、くじにより開廷日が割り当てられる。

(4) 審理及び評議
 ドイツの公判手続の特色は職権主義である。起訴されると、すべての捜査記録が裁判所に引き継がれ、裁判官は事前に記録を精査する。しかし、それはあくまで訴訟指揮の参考とするためであって、心証は公判廷での証拠調べによる。参審員は、事件について予断を持つことがないように、事前に捜査記録を見ない。
 直接主義が徹底されており、書証は原則として証拠にならない。
 参審員は、職業裁判官と同一の権限を有し、共同で職務を行う。評議に際しても、合議体の一員として、事実認定と量刑の双方に関与し、同等の評決権を有する。有罪判決には3分の2の多数が必要であり、参審員2人が反対する限り、職業裁判官だけで有罪にはできない。

(5) 上訴
 地方裁判所の第1審判決に対しては職業裁判官のみからなる連邦通常裁判所への上告のみが認められ、上告理由は法律問題に限られる。区裁判所の判決に対する控訴は、職業裁判官と参審員からなる地方裁判所に対して認められ、事実問題及び法律問題ともに上訴理由となる。

5 フランスの参審制度
(1) 沿革
 フランス革命を契機として、陪審制度が1791年の憲法で導入された。その後、1808年に起訴陪審が起訴を遅滞させ、犯罪を横行させて社会秩序を混乱させるとの理由で廃止された。判決陪審は、1941年には、陪審員の人数を12人から6人に減らすとともに(現在は9人)罪責についての評議も裁判官と共同で行うことに改められ、陪審裁判所の名称は維持されているが、実質的には参審制度に移行した。

(2) 対象
 フランスにおいては、犯罪は、重罪、軽罪及び違警罪に区分されるが、重罪を管轄する重罪院においてのみ、3人の職業裁判官と9人の参審員による参審裁判が行われている。
 労働事件については、労使各2人以上の非職業裁判官のみによる労働審判所が管轄し、2審の控訴院、3審の破棄院は、いずれも職業裁判官のみによって構成されている。
 商事裁判所は、非職業裁判官のみによって構成されているが、職業裁判官を関与させようとする動きがある。

(3) 参審員の資格及び選定
 参審員の資格については、国籍、年齢、住所その他の資格要件や欠格事由が定められている。
 各市町村において選挙人名簿に基づき、公開の抽選によって予備名簿を作成し、控訴院長らをメンバーとする年次名簿作成委員会が公開抽選により年次刑事参審名簿を作成する。そうして、各開廷期の前に、公開の抽選により参審員候補者を選出する。

(4) 審理及び評議
 重罪事件については、予審によって必要と思われるあらゆる証拠が収集され、公判前に十分に審理される。公判手続は職権主義であり、裁判長は、公判開廷前に記録を精査して審理計画を立てる。審理は、徹底した直接主義、口頭主義がとられ、供述調書は例外的な場合でなければ朗読することはできない。
 評議は、3人の裁判官と9人の参審員によって行われる。被告人に不利な評決は、少なくとも8票の多数によることが必要とされている。すなわち、参審員の過半数(9人中5人)が被告人が無罪であると考えれば、裁判官全員が有罪の意見でも被告人は無罪となる。

(5) 上訴
 重罪院の判決に対しては、事実問題について控訴することはできず、法律違反の場合に限り、破棄院に対して申し立てが許されるだけである。

6 我が国の陪審法について
(1) 沿革
 大正7年、原敬内閣が成立するとともに、陪審制度についての本格的な準備作業が始められた。その動機、背景についてはいろいろな見方があるが、当時の大正デモクラシ−を背景として、政党主導で推進されたものであった。大正12年陪審法が成立し、昭和3年施行されるに至った。

(2) 対象
 法定陪審事件は、法定刑が死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる事件であったが、被告人の辞退が認められた。請求陪審事件は、長期3年を超える有期の懲役若しくは禁錮に当たる事件等で、被告人の請求により陪審裁判が行われることとされていた。なお、治安維持法違反事件等一定の事件及び自白事件は、陪審事件から除外されていた。

(3) 陪審員の資格及び選定
 陪審員は、日本臣民で、30歳以上の男子とされ、居住期間、納税、読み書き等の要件が定められていた。
 陪審員の選定は、市町村長が地方裁判所長から割り当てられた人数を陪審資格者名簿から抽選で選定し、陪審員候補者名簿を作成する。地方裁判所長は、送付された陪審員候補者名簿の中から抽選で事件1件につき36人の陪審員を選定する。
 検察官及び被告人の双方から、忌避理由を陳述せずに一定人数を忌避することができた。

(4) 事実審理
 証拠調べは、原則として直接審理主義に基づくこととなっており、書面に証拠能力が与えられるのは例外的であった。

(5) 裁判長の説示及び評議
 裁判長は、犯罪の構成に関し、留意すべき法律上の論点、問題となるべき事実、証拠の要領について説示を行うこととされていたが、証拠の信用性、及び罪責の有無に関して意見を表示することはできないものとされていた。
 評議は隔離して行われ、公判が2日以上にわたるときは、宿舎に宿泊しなければならなかった。評決は、陪審員の過半数をもって決することとされていた。
 犯罪事実ありとの答申を受けた場合には、裁判所は量刑を審理した上で有罪判決を言い渡し、犯罪事実なしとの答申を受けた場合には、無罪判決となる。
 答申は裁判所を拘束せず、裁判所が陪審の答申を不当と認めるときは、その後の手続を中止し、新たな陪審の評議に付することができた。

(6) 上訴
 判決に対しては控訴はできず、適法に陪審を構成しなかった場合など法令違反を理由とする上告のみが許された。

(7) 経過
 昭和18年までに合計484件の陪審裁判がされたが、漸次件数が減少し、昭和13年以降には年間数件となった。折からの戦時体制もあり、昭和18年に陪審法の施行が停止され、現在に至っている。制度に対する評価や施行停止の背景については、いろいろな議論がある。

第3 陪審・参審制度に関する検討課題

1 合憲性
 陪審制についての違憲説は、憲法は、裁判所は裁判官のみによって構成されていることを予定しているし、また、裁判官は良心に従い、独立して職権を行うべきものとしているから、陪審の答申によって裁判官の判断が拘束されることは許されないとする。
 これに対し、陪審の答申に完全な拘束力を認めないものや、被告人に陪審を拒否する権利を認めるものであれば合憲とする制限合憲説や、陪審の答申に拘束力を認めるものでも、陪審の事実認定が適正となるよう裁判官がある種の役割を果たすようにするなどの条件の下に、あるいは無条件で合憲とする説もある。
 参審制についても、憲法が専門的裁判官(職業裁判官)のみを想定しているという意味での違憲説と、制限的合憲説、無条件合憲説がある。

2 連続開廷への対応
 陪審制を採用すれば、連続開廷による集中審理が必須となるが、これに対応できる態勢作りが可能かという問題である。

3 国民の信頼と協力
 陪審制が定着するためには、国民が制度を信頼し、かつ、その実施に支援協力を惜しまないということが不可欠であるが、それが期待できるかということである。

4 訴訟手続
 陪審制度を実施するとなると、現在の訴訟手続の枠内には収まらなくなることが予想される。手続法さらには実体法についても、どのような手当が必要かを検証することが必要となろう。

第4 陪審・参審制度の意義・問題点

1 陪審制度
(1) 意義
 国民の司法に対する積極的参加
 分かりやすい裁判の実現
 裁判の迅速化

(2) 問題点
 判断の不確実性
 判断過程のブラックボックス化
 国民の負担
 上訴制限
 報道規制

2 参審制度
(1) 意義
 陪審制度と共通
 専門的知識経験の活用

(2) 問題点
 評議の実効性
 国民の負担
 上訴制限

第5 現行司法参加制度の現状と改革

1 調停制度
 民事調停
 家事調停

2 司法委員

3 参与員制度

4 検察審査会

5 保護司

以 上