司法制度改革審議会

中  間  報  告




司法制度改革審議会

平成12年11月20日


目  次(抄)

1. はじめに
(1) 中間報告の目的
(2) これまでの審議経過

2.今般の司法制度改革の基本的理念と方向
(1) 21世紀の「この国のかたち」
(2) 司法に期待される役割
(3) 改革の眼目

3.人的基盤の拡充
(1) 法曹の質と量の拡充
(2) 弁護士制度の改革
(3) 裁判官制度の改革

4.制度的基盤の整備
(1) 利用しやすい司法制度
(2) 国民の期待に応える民事司法の在り方
(3) 国民の期待に応える刑事司法の在り方

5.国民の司法参加ー国民的基盤の確立ー
(1) 意義
(2) 参加拡充の在り方

6.おわりにー最終意見に向けてー

1.はじめに

(1) 中間報告の目的

 司法制度改革審議会(以下「審議会」と言う。)は、司法制度の利用者である国民の視点に立って、「21世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし、国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について調査審議する」(司法制度改革審議会設置法第2条第1項)ことを目的として、昨年7月、内閣の下に設置されたものである。

 当審議会においては、その発足以来、調査審議を進める中で、各委員が審議会に与えられた上記の目的を深く認識し、司法制度を利用する国民の立場に立ってそのニーズがどこにあるかといったことを常に念頭に置き、かつ、審議会に対して寄せられた国民の意見、要望等にも十分意を用いながら、真摯に検討を重ねてきた。

 そして、一通りの調査審議を終えるに至った今日、その結果を踏まえ、当審議会として意見の一致をみた改革の大きな方向性、今後の議論に当たっての改革の視点や具体的方策の検討の方向などをここに中間報告として取りまとめ、公表することにより、国民各位による忌憚のない意見、要望等を仰ぐこととした。

(2) これまでの審議経過

 当審議会においては、その発足以来、既に三十数回にわたる会議を重ねてきたほか、本年8月には3日間の集中審議を行うなど、精力的に調査審議を進めてきた。具体的には、次のとおりの調査審議を行った。

 昨年7月の当審議会の発足後、同年末にかけては、具体的論点についての調査審議に入る前に、各界の有識者や関係諸機関からのヒアリングを行い、各委員の問題意識を整理するとともに、21世紀の我が国社会の在り方や、その要請に応えて司法が果たすべき役割等についての意見交換、審議すべき論点の整理に向けた意見交換などを行った。その結果、当審議会として、本格的に調査審議の対象とする具体的論点の整理についての合意に至り、昨年12月、「司法制度改革に向けて−論点整理−」(以下「論点整理」と言う。)を取りまとめ、これを公表した。

 本年1月から4月にかけての調査審議においては、この「論点整理」を踏まえて、各論点を大括りにまとめたテーマ※ごとに、法律専門家の委員が各テーマについて制度の現状や問題点などに関するレポートを行い、それに基づいて意見交換を行う形で議論を重ねることとした。また、今後の調査審議を進めていく順序について、司法の機能の充実強化のためには、質・量ともに豊かな法曹をどのようにして得ていくかという観点から、司法の人的体制の充実の必要性や法曹養成制度の在り方等の問題を先に検討し、それについて一定の見通しないし方向性を得た上で、制度的基盤に係る諸課題についての議論を行っていくこととした。そして、人的基盤、すなわち制度の担い手に関する問題を検討する手掛かりとして、まずは代表的な制度を取り上げその現状や問題点を分析・整理することが適当であるとの判断から、最初に「国民が利用しやすい司法の実現」を民事司法を中心に審議し、そこでも人的体制の充実の必要性が確認され、以後、人的基盤に係る諸課題について順次議論を行った。その過程で、「法曹養成制度の在り方」についての調査審議においては、本年4月末、文部省に対して、大学関係者及び法曹三者の参画を得て、法科大学院(仮称)構想の具体的内容について専門的、技術的見地から検討を行うよう依頼した。

 ※ 各論点を大括りにまとめたテーマ…
 「国民がより利用しやすい司法の実現」、「国民の期待に応える民事司法の在り方」、「国民の期待に応える刑事司法の在り方」、「弁護士の在り方」、「法曹養成制度の在り方」、「国民の司法参加」、「法曹一元その他関連する問題」など。

 本年4月末から5月初旬にかけての連休期間には、委員が3班に分かれ米、英、独、仏の各国を訪問し、これらの国々における裁判官任用制度、陪審・参審制度、法曹養成制度等の実情や司法制度改革の動向などを中心に、それぞれの国の司法制度に関する調査を行った。

 本年5月から10月にかけての調査審議においては、再び「論点整理」を踏まえ、主として大括りにまとめたテーマごとに、これまでにレポートを行った法律専門家の委員のほかに、主として司法制度のユーザーの立場の委員がレポートを行い、それに基づいて意見交換を行う形で議論を重ねた。その過程で、本年10月、先に文部省に対して依頼した法科大学院(仮称)構想に係る検討の結果について、同省に設置された検討会議から報告を受け、それをも踏まえて、同構想について当審議会として更なる検討を行った。

 これらの調査審議に加えて、本年3月から7月にかけて、全国4都市において地方公聴会を開催し、また、地方の司法関係機関での実情視察を行い、これらに参加した各委員が、現在の司法制度について、国民の意見、要望等に実地に耳を傾けるとともに、その実情をつぶさに見聞するなど、司法制度を利用する国民の視点をより深く理解するための取組も、重要な調査審議の一環として行った。さらに、司法制度を実際に利用した経験を有する国民の意見を汲み取るために、本年4月から民事訴訟の利用者に対する意識調査を企画し、9月から10月にかけてこれを実施し、現在その分析を進めているところである。

 これらの調査審議の結果を踏まえて、本年10月以降、中間報告の取りまとめに向けた意見交換を行い、今般、その内容について合意を得るに至った。


2.今般の司法制度改革の基本的理念と方向

(1) 21世紀の「この国のかたち」

「この国のかたち」と法の支配

 明治新政府の誕生とともに近代国家の構築に向けて歩み出した我が国は、やがて大日本帝国憲法の制定、諸法典の編さんを行い、近代法治国家の体裁を整えて、20世紀、激動する国際社会に臨むことになった。我が国は、新たな文明に触発されつつ、着実にその国家的課題の達成に向けて歩みを進めたが、やがて混迷する時代環境に直面し、悲劇的な戦争への坂道を転げ落ちていくことになる。

 そして敗戦。連合国軍の進駐の下、瓦礫の山を前に、日本国民は、「天皇主権」から「国民主権」へ、「臣民の権利」から「個人の基本的人権」への大転換を図り、「法の支配」ないし「法の優位」をもって完結する日本国憲法(以下「憲法」と言う。)を制定し、統治構造と法制度の抜本的変革を試み、混乱と窮乏の中から再生の道を歩みはじめた。昭和22年8月4日、組織の一新を図り、行政裁判権と違憲立法審査権という新しい権限も託された裁判所の船出に当たって、三淵忠彦初代最高裁判所長官は、次のようなメッセージを読み上げた。

 「…裁判所は、真実に国民の裁判所になりきらねばならぬ。国民各自が、裁判所は国民の裁判所であると信じて、裁判所を信用し、信頼するのでなければ、裁判所の使命の達成は到底望み得ないのであります。…裁判官たるものは、法律の一隅にうずくまっていてはならず、眼界を広くし、視野を遠くし、政治のあり方、社会の動き、世態の変遷、人心の向き様に、深甚の注意を払って、これに応ずるだけの識見、力量を養わねばなりませぬ。」(三淵忠彦『世間と人間』〔朝日新聞社、昭和25年〕による。)

 民法典の編さんから100年、憲法制定から50年の今この時に当たって、司法に豊かな活力を吹き込むための根本的な制度改革が、行政改革等に続く「この国のかたち」の再構築の一つの支柱として課題設定されたのはなぜであろうか。それは、まさに、近代の幕開け以来、130年にわたってこの国が背負い続けてきた課題、すなわち、法の精神、法の支配がこの国の血肉と化し、「この国のかたち」となるために、一体何をなさなければならないのか、そして、憲法制定から50年を経た今、個人の尊重(憲法第13条)と国民主権(同前文、第1条)が真の意味において実現されるために何が必要とされているのか、これらの根本的課題を我々国民一人ひとりが改めて直視し、それに取り組むことなく、21世紀社会の展望を開くことが困難であることが痛感されているからにほかならない。

自由で公正な社会と個性の実現

 我々日本国民は、新しい憲法下の統治構造と法制度を背景に、比類のない飛躍的経済発展を遂げ、国際社会において経済大国として確固たる地位を占めるに至ったが、20世紀を終わろうとする今、膨大な財政赤字と経済的諸困難を抱え、ある種の社会的閉塞感にさいなまれているように思われる。こうした状況を招来した原因については、様々な見方があり得るであろう。しかしながら、憲法のよって立つ個人の尊重と国民主権の趣旨が必ずしも徹底せず、むしろ従前の統治客体意識と横並び的、集団主義的意識を背景に国家(行政)に過度に依存しがちな体質が持続する中で、様々な国家規制や因習が社会を覆い、社会が著しく画一化、固定化してしまったこと、そして、いわゆる各省割拠主義的な行政体制が持続する中で、内外の時代環境の変容に対応する柔軟かつ力強い国政の運用が阻害されてきたことに主要な原因があることは否定し難いであろう。

 この国の基層にあった集団への強い帰属意識とそこから醸成される使命感、連帯感が、戦後の復興と経済的繁栄という目標を実現する上で強力な推進力となったことは確かであろう。そして、我が国の従前の官僚制度や官民関係を含めた国家・社会システムは、所与の特定的目標の効率的実現を目指してひたすら邁進するときには優れた側面を持つとも言い得る。しかしながら、こうした国家・社会システムは、個性の発露である独創的な着想や新たな価値体系の創造、多様な価値観を有する人々の有意的共生を図り、未曾有の事態への対応力を備えつつ、冷戦構造の終焉や驚異的な情報技術革新等に伴って加速的にグローバル化の進展する国際社会にあって十分な存在感を発揮していく上で、決して第一級のものとは言い難い。そして、どのような制度や組織も肥大化し硬直化すれば、本来の目的を失って、自己保全を目的とした行動様式をとるようになり、制度や組織を支えてきた倫理感は失われていき、やがては、不透明かつ無責任な体制となり、重い閉塞感の中で国の活力が枯渇する事態になりかねないことに思いを致さなければならない。

 我が国は、このような危機感と問題意識に立って、この国が豊かな創造性とエネルギーを取り戻すために、政治改革、行政改革、地方分権推進、規制緩和等の経済構造改革等を構想・具体化し、既に実施に移しつつある。当審議会は、これら一連の諸改革の根底に流れる基本的な考え方を受けつぎ、「論点整理」において、「国民一人ひとりが、統治客体意識から脱却し、自律的でかつ社会的責任を負った統治主体として、互いに協力しながら自由で公正な社会の構築に参画していくことが、21世紀のこの国の発展を支える基盤であるという認識を共有する」ことを確認するとともに、「今般の司法制度改革はその最後のかなめとも言うべきものである」と位置付けたところである。

 それでは、何故に今般の司法制度改革が、「この国のかたち」の再構築に関わる一連の諸改革の「最後のかなめ」と位置付けるべきものなのであろうか。それは、これら一連の諸改革を憲法のよって立つ基本理念の一つである「法の支配」の下に有機的に結び合わせるために、司法制度改革が必要不可欠であるからにほかならない。

(2) 司法に期待される役割

日本国憲法における司法権

 憲法は、「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」(第76条第1項)と定める。明治憲法の場合と異なり、ここに言う「司法権」が行政裁判権を含むとの理解が当初から確立し、さらに、憲法は違憲立法審査権について明定している(第81条)。

 このような「司法権」を行使する裁判官につき、憲法は、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」(第76条第3項)として裁判官の職権行使の独立を定め、そのために必要な身分保障について詳細に規定する(第78条、第79条第6項、第80条第2項)とともに、最高裁判所に規則制定権(第77条)や下級裁判所裁判官の指名権(第80条第1項)を付与するなど、司法府の地位の強化(司法府の独立)のための措置を講じている。

 明治憲法との対比で更に注目されるのは、憲法が、「弁護人」(第34条、第37条第3項)ないし「弁護士」(第77条第1項)に言及し、司法の場にあって弁護士が重要な役割を果たす存在であることを措定していることである。

 憲法は、このような司法権が日本の国家社会において実際にどのような役割を果たすことを想定したのであろうか。我々が、21世紀の「この国のかたち」の再構築の一環として司法権の在り方を考えるとき、司法権にどのような役割を期待し、それを実現するために何をなすべきであろうか。

「公共性の空間」の再構築と司法の役割

 憲法に言う「司法権」とは、一般に、国民の権利、義務をめぐる具体的事件(争訟)について、適正な手続の下に、法を適用し宣言することによって、これを解決する作用であると解されてきた。国民主権の下にあっては、すべての国家作用は国民の意思に基づいて行われる理であり、裁判所も、権力分立の一翼を担い、国民主権の実現のための一環としての性格を持っている。しかし、国会と内閣は、国民の政治的統合を図りつつ、国民の政治的支持を背景に内外の諸課題に積極果敢に取り組み、法律の定立、執行をなすことを期待される(かかる意味において国会・内閣は「政治部門」と呼ばれる。)のに対し、裁判所(「司法部門」)は、そこに持ち込まれる具体的事件(争訟)を契機に、法の正しい解釈適用を通じて当該事件(争訟)を適正に解決し、もって法の維持・形成を図ることを期待される受動的存在であるという違いがある。

 政治部門にあっては、多数決原理を背景に政策をまとめ、最終的に法律という形で将来に向って規範を定立し執行することを通じて秩序形成を図ろうとするのに対し、司法部門にあっては、具体的事件(争訟)の提起を受けて、当事者の主張に最大限配慮しつつ、当該具体的事実関係と法原理に基づきこれを適正に解決することを通じて秩序形成を図ろうとするところに特徴がある。法の下においてはいかなる者も平等、対等であるという法の支配の理念は、すべての国民を平等・対等の地位に置き、公平な第三者が適正な手続を経て公正かつ透明な法的ルール、原理に基づいて判断を示すという司法の在り方において最も顕著に現れていると言える。それは、ただ一人の声であっても、真摯に語られる正義の言葉には、真剣に耳が傾けられなければならない、そして、そのことは、我々国民一人ひとりにとって、かけがえのない人生を懸命に生きる一個の人間としての尊厳と誇りに関わる問題であるという、憲法の最も基礎的原理である個人の尊重原理に直接つらなるものである。

 国民の権利、自由の主張は、単なる私的利益に係るものとだけ受け止められるべきではない。裁判過程などにおいて適正な権利、自由の主張がなされ、違法行為の是正や権利救済が図られることは、それ自体が公共的価値の実現という側面を有する。また、公正な手続の下での適正かつ迅速な刑罰権の実現を通じて、ルール違反行為に対して的確な対処がなされるということが、自由かつ公正な社会を維持していく上で不可欠であることは、論をまたない。そうであるとすれば、司法部門は、政治部門と並んで、まさに「公共性の空間」を支える柱として位置付けられるべきものである。身体にたとえて、政治部門が心臓と動脈に当たるとすれば、司法部門は静脈に当たると言えよう。

 行政改革会議の「最終報告」は、「『公共性の空間』は、決して中央の『官』の独占物ではない」ことを強調した。既に触れた政治改革、行政改革等の一連の改革は、自律的個人を基礎とし、国民が統治の主体として自ら責任を負う国柄へと転換する中で、豊かな「公共性の空間」を築き、心臓と動脈の余分な附着物を取り除き、その本来の機能の回復・強化を図ろうとするものである。この比喩によるならば、司法改革は、従前の静脈が過小でなかったかに根本的反省を加え、21世紀のあるべき「この国のかたち」として、その規模及び機能の拡大・強化を図ろうとするものであると言えよう。

 「この国のかたち」の再構築に当たって、動脈と静脈の機能的調和を図ることが強靭な身体にとって不可欠であることを我々は強く認識する必要がある。

「国民の社会生活上の医師」としての法曹の役割

 自律的個人を基礎とする社会にあっては、不透明な行政的事前規制が廃され、個人や企業等の活動の自由が拡大し、個人や企業等はより主体的、積極的にその社会経済的生活関係を形成していくことが期待されることになるが、その前提として必要なのは、予測可能で透明性が高く公正なルールの設定、ルール違反に対する的確なチェック、それによって害を被った者に対する適切な救済である。当審議会は、「論点整理」において、司法(法曹)を言わば「国民の社会生活上の医師」と位置付けたが、このような社会にあっては、司法(法曹)には、個人や企業等の諸活動に関連する種々の問題について、法的助言を含む適切な法的サービスを提供することにより紛争の発生を未然に防止するとともに、それらの活動が法的ルールに従って行われるよう指導・監視し、さらに、ひとたび紛争が発生した場合には、これを法的ルールの下で適正・迅速かつ実効的な解決・救済を図るという役割がより強く求められることになる。そして、潤いのある自己責任社会に必要とされるセーフティネットを整備する上で、また、活力のある政治部門の行き過ぎを是正する上で、人権保障を核とする憲法を頂点とする法秩序の維持、貫徹に直接的責任を負う司法(法曹)の役割が一層大きくなることが、改めて認識されなければならない。

 国際社会を視野に入れるならば、司法(法曹)の役割の重要性が一段と強く認識される。グローバル化の進展に伴い主権国家の「垣根」が低くなり、地球の「風」が吹きさらす事態にあっては、政府(行政)のなし得ることには限度があり、個人や企業等が司法(法曹)の助力を得てそれぞれの社会経済生活関係を自律的に形成することがより強く求められることになろう。そして、我が国が、通商国家、科学技術立国として生きようとするならば、国内はもとより地球的規模の経済市場が公正かつ透明なルールを基礎として発展を続けることが不可欠であり、そのような内外のルールの形成、運用の様々な場面に我が国の司法(法曹)が積極的に関わっていくことが極めて重要であると考えられる。その観点からも、アジア等の発展途上国に対する法整備支援を引き続き推進していくことが求められる。

「国民が支える司法」の実現

 以上、見てきたように、司法(法曹)に期待されるところが極めて大きいとすれば、我々は、「裁判所は、真実に国民の裁判所になりきらねばならぬ」という三淵初代最高裁判所長官の言を今日的文脈の中で改めて問い直し、国民と司法(法曹)との新たな関係の構築に思いを致さなければならない。

 先に、政治部門の場合は、国民の直接的な権限の付託に基づく強い民主的正統性を背景に活動するのに対し、司法部門の場合は、国民からの権限の付託はより間接的であり(最高裁判所の裁判官の任命及び国民審査につき憲法第6条第2項、第79条第1項ないし第4項、下級裁判所の裁判官の任命につき第80条第1項参照)、むしろ、裁判官の職権行使の独立、司法府の独立の意義が重視されることを見た。しかし、このことは、決して司法部門が国民から超越した存在であるべきことを意味するものではない。司法が我が国の「公共性の空間」を支える柱であり、身体の静脈にもたとえ得るものであるとするならば、それは国民の広い支持と理解の上に立脚していなければならない。

 従来、この点に問題があったとすれば、それは次のような要因によるものではなかったかと考えられる。すなわち、第一に、我が国がいわゆる行政中心、中央の「官」中心に運営されてきたこと、第二に、日本の国民になお色濃く残る統治客体意識が特に司法との関係で強く、司法の国民的基盤が狭小にすぎたのではないかということ、第三に、司法を支える法曹(裁判官、検察官、弁護士)、とりわけ国民の日常生活に広く接し、そこに深く根を下ろしているはずの弁護士の総数が少なく、その結果、国民と司法をつなぐ接点が極めて限定されていたこと、第四に、法曹がそれぞれ職業的独自性を保持しつつ、司法を全体的に支えるための協調的連携に不十分なところがなかったかということ、そして、第五に、司法制度全体が国民にとって分かりやすくかつ利用しやすいものではなかったのではないかということである。

 そうであるとすれば、我々がなすべきことは自ずと明らかである。端的に言えば、法曹が、プロフェッションとして相互の信頼と一体感を保持しつつ厚い層をなして存在し、国家社会の様々な分野で幅広く活躍するように図るとともに、国民は、統治主体、権利主体として、司法の運営に有意的に参加し、プロフェッションたる法曹との豊かなコミュニケーションの場を形成し維持するように努めなければならないということであろう。21世紀のこの国の発展を支える基盤は、究極において、我々国民一人ひとりの創造的な活力と自由な個性の展開、そして他者への共感に深く根ざした責任感をおいてほかにない。そして、我が国の歴史を振り返るならば、「集団に埋没する個人」ないし統治客体意識は、決して日本の国民の固有不変の特性ではないことを肝に銘じ、司法の再構築に向けての具体的ステップを大胆に踏み出すべきである。

(3) 改革の眼目

改革の三つの柱―人的基盤の拡充、制度的基盤の整備、国民的基盤の確立―

 今般の司法制度改革の要諦は、我々が直面する前記の時代の課題と21世紀への展望を視野に入れつつ、法の支配の理念を基軸として、国民の期待に応え得る司法の人的、制度的基盤の抜本的拡充・強化を図ることにあると思われる。

 具体的には、その改革は、第一に、国民と司法とをつなぐ人的基盤(法曹)の拡充・強化を図ること、第二に、国民に分かりやすく利用しやすい司法制度を構築すること、第三に、司法をして統治主体たる国民の確かな基盤の上に立たしめること、を目指すものでなければならない。

人的基盤の拡充

 当審議会は、「論点整理」に基づき我が国司法の全般的問題状況を検討した後、いかなる制度もそれを活かすものは人であることに着目し、まず、第一の人的基盤(法曹)の拡充・強化の課題に取り組んだ。その結果、制度的基盤の強化が実を結び、そこで意図された成果を上げるためには、質・量ともに豊かな人材(法曹)を得なければならず、そのためには、「法科大学院」(仮称。以下同じ。)を含む法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、計画的にできるだけ早期に、年間3,000人程度の新規法曹の確保を目指す必要がある、との結論に達した。ここで既に前提とされているように、法曹人口の大幅増員にはそれにふさわしい法曹養成制度の整備が不可欠とされるが、この点に関しては、司法試験という「点」のみによる選抜ではなく、法科大学院を基幹的な高等専門教育機関とし、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備すべきものとした。

 このような養成過程を経た法曹が、法の支配の精神を浸透させていく木鐸(案内人)として、そして「国民の社会生活上の医師」として、司法制度の直接の担い手となるのみならず、より広く社会の様々な分野においても活躍することが期待される。殊に、法曹の中で圧倒的多数を占め、国民と司法の接点を担う弁護士は、その公共的役割を深く自覚し、広く社会で多様な機能を発揮していくことが期待されるのであり、そのためには、個々の弁護士がその専門職業的能力と倫理の保持・向上に努めるとともに、弁護士会も社会とのつながりを重視し、国民の意思を反映せしめる仕組みを工夫しつつ、その自律的機能の向上を図る必要がある。

 司法の中核を担う裁判官の在り方は、いわゆる法曹一元制の採用の是非の観点から種々論じられてきたところであるが、法曹の相互の信頼と一体感を基礎としつつ、21世紀日本社会における司法を担う高い質の裁判官を獲得し、これに独立性をもって司法権を行使させることができるようにすることが中心的課題であり、そのような見地から、裁判官の給源を多様化、多元化するとともに、裁判官の任命手続、人事制度に透明性や客観性を付与するための見直しを行うことが必要である。

制度的基盤の整備

 第二の国民に分かりやすく利用しやすい司法制度を構築するという課題に関しては、まず、司法が国民に分かりやすくかつ利用しやすいものとするための諸条件を早急に整える必要がある。明治憲法下で制定された、片仮名文語体の難解な法律を、国民に分かりやすい現代用語に改め、時代に即した内容とする作業を精力的に進めるとともに、何よりも、弁護士の提供する法的サービスへのアクセスの拡充、サービス内容の充実、裁判所へのアクセスの拡充、法律扶助制度の一層の拡充、司法に関する情報公開の推進による国民に対する説明責任(アカウンタビリティー)の強化等を図る必要がある。そして、民事司法を国民の期待に応え得るものとするために、民事手続を分かりやすくかつその充実・迅速化を図る方策を講じるとともに、社会経済の複雑・専門化、国際化が進む中で、昨今ニーズが高まっている知的財産権関係事件等の専門的知見を要する事件への的確な対応を可能とするため、専門性を強化する見地からの具体的方策を検討する必要がある。他方、国民の期待に応える刑事司法の在り方に関しては、適正手続の保障の下での事案の真相解明という目的を念頭に置きながら、一部長期化する裁判の実情をも踏まえ、審理の充実・迅速化のための人的態勢の整備及び手続的見直しを行うとともに、刑事司法の公正さを高めひいては審理の充実・迅速化にも寄与することとなる被疑者の公的弁護制度を確立することが重要であり、さらに、新たな時代における捜査・公判手続につき、国民の期待・信頼や国際的動向を踏まえながら、刑事司法の使命・役割に照らして適切な制度の在り方を検討する必要もあると考えられる。

 裁判所は、統治構造の中で三権の一翼を担い、司法権の行使を通じて、抑制・均衡の統治体系を維持し、国民の権利自由を保障するという重要な役割を持っている。行政訴訟制度や違憲立法審査制度の在り方について、従来、様々な議論がなされてきたところであるが、21世紀に向けて「この国のかたち」の再構築を図る中で、行政・立法に対する司法のチェック機能を充実する方策について検討する課題が残されていることを付言しておきたい。

国民的基盤の確立

 第三の司法の国民的基盤を確立するという課題については、国民主権の下で、あるべき法の支配ないし司法権の独立の意義を沈思しつつ、司法が国民の信頼と支持を十分得るかたちで運営されているかどうかを改めて問い直し、その国民的基盤を一層強化する方策を検討する必要がある。この課題は、21世紀においてますますその役割が増大するであろうプロフェッションについて、国民との豊かなコミュニケーションを確保する中で、いかにして良き社会の形成に向けてその質を高めていくかという一般的課題とも関連している。

 このような見地から、諸外国の陪審制・参審制等をも参考に、我が国にふさわしい国民の訴訟手続への参加につき、その形態を検討するとともに、裁判官の選任等を始めとして、裁判所、検察庁、弁護士会の運営等について国民の意見をより反映させる仕組みを整える必要がある。このためにも、情報公開の促進等により、司法の国民に対する透明性を向上させ、説明責任を明確化することが不可欠である。


3.人的基盤の拡充

(1) 法曹の質と量の拡充

 制度を活かすもの、それは疑いもなく人である。いかに理想的な制度ないし仕組みを描いたとしても、それを実際に担う人的基盤の整備を伴わなければ、その機能を十分に果たすことはできない。

 今後、国民生活の様々な場面において、法曹に対する需要がますます多様化、高度化することが予想される中で、前記2.の「今般の司法制度改革の基本的理念と方向」で述べたような役割が期待される21世紀の司法を支えるための人的基盤の整備としては、プロフェッションとしての法曹(裁判官、検察官、弁護士)の質と量を大幅に拡充することが不可欠である。

 まず、質的側面については、21世紀の司法を担う法曹に必要な資質としては、豊かな人間性や感受性、幅広い教養と専門的知識、柔軟な思考力、説得・交渉の能力等の基本的資質に加えて、社会や人間関係に対する洞察力、人権感覚、先端的法分野や外国法の知見、国際的視野と語学力等が一層求められるものと思われる。

 次に、量的側面については、我が国の法曹人口は、先進諸国との比較において、その総数においても、また司法試験、司法修習を経て誕生する新たな参入者数においても、極めて少ない状況にあり、その増加の必要性は早くから指摘されてきたところであり、この見地からも、法曹人口の大幅な増加を図る必要がある。

  ア 新たな法曹養成制度の構築

 問題は、21世紀の司法を支えるにふさわしい質・量ともに豊かな法曹をどのようにして養成するかである。

 このような視点から、当審議会は、関係者のヒアリングや司法研修所の視察、海外実情調査を行うとともに、特に後述のような新たな法曹養成制度整備の上で有力な方策と考えられた法科大学院の構想について、文部省に対し、大学関係者及び法曹三者の参画の下に、当審議会が提示した基本的考え方に留意しつつ、専門的技術的見地から具体案を検討することを依頼し、その報告(「法科大学院(仮称)構想に関する検討のまとめ−法科大学院(仮称)の制度設計に関する基本的事項−」)を受けて、それをも踏まえて検討した結果、以下のような判断に達した。

 すなわち、まず、現在の法曹養成制度が前記のような要請に十分に応え得るものとなっているかを考えてみると、現行の司法試験は開かれた制度としての長所を持つものの、合格者数が徐々に増加しているにもかかわらず依然として受験競争が厳しい状態にあり、受験者の受験技術優先の傾向が顕著となってきたこと、これ以上の合格者数増をその質を維持しつつ図ることには大きな困難が伴うこと等の問題点が認められ、その試験内容や試験方法の改善のみによってそれらの問題点を克服することには限界がある。

 一方、これまでの大学における法学教育は、基礎的教養教育の面でも法学専門教育の面でも必ずしも十分なものとは言えなかった上、学部段階では一定の法的素養を持つ者を社会の様々な分野に送り出すことを主たる目的とし、他方、大学院では研究者の養成を主たる目的としてきたこともあり、法律実務との乖離が指摘されるなど、プロフェッションとしての法曹を養成するという役割を適切に果たしてきたとは言い難いところがある。しかも、司法試験における競争の激化により、学生が受験予備校に大幅に依存する傾向が著しくなり、「ダブルスクール化」、「大学離れ」と言われる状況を招いており、法曹となるべき者の資質の確保に重大な影響を及ぼすに至っている。

 前者の問題点については、例えば、現行の司法試験による合格者数を端的に大幅に増加させるということも考えられなくはないが、これでは、前記のような現行の法曹養成制度に関する問題点が改善されないまま残るばかりか、むしろ事態はより深刻なものとなることが懸念される。

 また、大学における法学部教育を何らかの方法で法曹養成に資するよう抜本的に改善すれば問題は解決されるとの見方もあり得るかもしれないが、この考え方は、大学法学部が、法曹となる者の数をはるかに超える数(平成11年度においては4万7千人余り)の入学者を受け入れており、法的素養を備えた多数の人材を社会の多様な分野に送り出すという独自の意義と機能を担っていることを看過するものであり、現実的妥当性に乏しいように思われる。

 それらの点をも含めて考えると、前記のような現行制度の問題点を克服し、司法(法曹)が21世紀の我が国社会において期待される役割を十全に果たすための人的基盤を確立するためには、法曹人口の大幅な増加や弁護士改革など、法曹の在り方に関する基本的な問題との関連に十分に留意しつつ、司法試験という「点」のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備することが不可欠である。そして、その中核を成すものとして、大要、以下のような法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設けることが必要かつ有効であると考える。

   (ア) 法科大学院

    a. 目的、理念

     (a) 目的

 法科大学院は、司法が21世紀の我が国社会において期待される役割を十全に果たすための人的基盤を確立することを目的とし、司法試験、司法修習と連携した基幹的な高度専門教育機関とする。

     (b) 教育理念

 法科大学院における法曹養成教育の在り方は、理論的教育と実務的教育を架橋するものとして、公平性、開放性、多様性を旨としつつ、以下の基本的理念を統合的に実現するものでなければならない。

     (c) 制度設計の基本的考え方

 法科大学院の制度設計に当たっては、前記のような教育理念の実現を図るとともに、以下の点を基本とすべきである。

    b. 法科大学院制度の要点

     (a) 設置形態

 法科大学院は、法曹養成に特化した実践的な教育を行う学校教育法上の大学院とする。ただし、法科大学院の設置は既存の大学を拠点としなければならないわけではなく、例えば、弁護士会や地方自治体など大学以外の主体が学校法人を作り、法科大学院の設置基準を満たせば、法科大学院を設置し得ることは当然である。既存の大学を拠点とする法科大学院と、これらの新しいタイプの法科大学院が競争し、それぞれが理想とする多様な法曹を養成する柔軟なシステムが展開されることが望まれる。

 設置形態としては、法学部に基礎を持つ法科大学院のほかに、基礎を持たないもの(独立大学院)や複数の大学が連合して設置するもの(連合大学院)も制度的に認められるべきである。

 なお、大学が法科大学院を設置するに当たっては、従来の研究中心の考え方から真の教育重視への転換に向けて相当な自己変革の努力が求められることは言うまでもない。

     (b) 標準修業年限

 標準修業年限は3年とし、併せて、法科大学院において必要とされる法律学の基礎的な学識を有すると法科大学院が認める者(法学既修者。法学部出身者であると否とを問わない。)については、短縮型として2年での修了を認めることとする。

     (c) 入学者選抜

 入学者選抜は、公平性、開放性、多様性の確保を旨とし、入学試験のほか、学部における学業成績や学業以外の活動実績、社会人としての活動実績等を総合的に考慮して合否を判定する。もっとも、これらをどのような方法で評価し、また判定に当たってどの程度の比重を与えるかは、各法科大学院の教育理念に応じた自主的判断に委ねられるべきである。

 21世紀の法曹には、経済学や理数系、医学系など他の分野を学んだ者を幅広く受け入れていくことが必要である。社会人等としての経験を積んだ者を含め、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院には学部段階での専門分野を問わず広く受け入れ、また、社会人等にも広く門戸を開放する必要がある。そのため、他学部出身者や社会人等を一定割合以上入学させるなどの措置を講じる。

 出願資格については、通常の大学院入学資格が適用される。したがって、学部卒業が原則であるが、学部を卒業していない者であっても、各法科大学院が行う資格審査によって出願資格の認定が可能である。

 入学試験においては、法学既修者であると否とを問わず、全ての出願者について適性試験(法律学についての知識ではなく、法科大学院における履修の前提として要求される判断力、思考力、分析力、表現力等の資質を試すもの)を行い、法学既修者に対して修業年限の2年への短縮を認める法科大学院にあっては、法学既修者としての入学を希望する者には適性試験に加えて法律科目試験(法科大学院の基礎的な法律科目の履修を省略できる程度の基礎的な学識を備えているかどうかを判定するもの)を行うという方向で、各試験の在り方を検討する。適性試験や法律科目試験に加えて小論文や面接等を組み合わせるかどうか、組み合わせる場合の配点比率をどうするか等は、各法科大学院の自主的判断に委ねるべきである。

     (d) 教育内容

 必置科目や教員配置等についての基準を定めることにより、法曹養成のための教育内容の最低限の統一性と教育水準を確保しつつ、具体的な教科内容等については、各法科大学院の創意工夫による独自性、多様性を尊重することとする。

 法科大学院では、実務上生起する問題の合理的解決を念頭に置いた法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分(例えば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)をも併せて実施することとし、体系的な理論を基調として実務との架橋を強く意識した教育を行う。このような観点から、授業内容・方法、教材の選定・作成等について、研究者教員と実務経験を有する教員(実務家教員)との共同作業等の連携協力が必要である。

     (e) 教育方法

 法科大学院における教育方法(授業方式)としては、講義方式や少人数の演習方式、調査・レポート作成・口頭報告、教育補助教員による個別的学習指導等を適宜活用することとする。とりわけ少人数教育を基本とする。

 また、法科大学院での授業は一方的なものであってはならず、双方向的で密度の濃いものとし、セメスター制(一つの授業を学期ごとに完結させる制度)の採用等によりなるべく集中的に行うこととする。

 「点」から「プロセス」による法曹養成制度へと転換し、法科大学院を修了した者のうち相当程度の者が後述する新司法試験に合格するような制度とするためには、法科大学院では厳格な成績評価及び修了認定を行うことが不可欠であり、それらの実効性を担保する仕組みを具体的に講じなければならない。

     (f) 教員組織

 教員組織については、法科大学院は、少人数で密度の濃い教育を行うのにふさわしい数の専任教員を必要とする。

 また、法科大学院は、法曹養成に特化して法学教育を高度化し、理論的教育と実務的教育との架橋を図るものであるから、実務家教員の参加が不可欠である。実務家教員としては、狭義の法曹に限らず、適格を有する人材を幅広く求めるべきである。

 実務家教員の数及び比率については、法科大学院のカリキュラムの内容や新司法試験実施後の司法修習との役割分担等を考慮して、適正な基準を定める必要がある。

 また、実務家教員については、専任教員であっても、その任期や勤務形態について柔軟に基準を運用することを考えるべきである。さらに、実務家教員の任用を容易にするため、弁護士法や公務員法等に見られる兼職・兼業の制限等について所要の見直し及び整備を行う必要がある。

 研究者、実務家の別を問わず法科大学院での指導適格教員に関し、法科大学院での教員資格に関する基準は、教育実績や教育能力、実務家としての能力・経験を大幅に加味したものとすべきである。

 教員の採用は各法科大学院が行うこととなるが、教員候補者の教育能力、教育意欲及び教育実績を重視した採用に努めるとともに、教員の流動性及び多様性が高められるよう配慮することが望まれる。

 なお、以上のような教員組織に関する基準については、新制度への円滑な移行を可能にするため、柔軟で現実的な運用を適切に考慮するものとする。

     (g) 学位

 修了者に付与される学位については、国際的通用性をも勘案しつつ、法科大学院独自の学位(専門職学位)を新設することを検討すべきである。

    c. 公平性、開放性、多様性の確保

 地域を考慮した全国的な適正配置に配慮するとともに、夜間大学院等の多様な形態により、社会人等が容易に学ぶことができるよう法科大学院の公平性、開放性、多様性の確保に努めるべきである。通信制大学院についても、法科大学院の教育方法との関連で検討すべき課題は残っているが、高度情報通信技術の発展等を視野に入れつつ、積極的に対応する必要がある。

 資力が十分でない者が経済的理由から法科大学院に入学することが困難となることのないように、格別の配慮が必要であり、奨学金、教育ローン、授業料免除制度等の各種の支援制度が十分整備されるべきである。

 大学院レベルの少人数教育であることから、法科大学院の人的・物的諸条件を基準に合わせて整備するためには、その設立・運営に多額の費用を要することが予測される。司法の人的基盤の整備の一翼を担うという法科大学院の役割にかんがみれば、厳しい財政事情の中においても、国公私立を問わず、適切な評価の結果を踏まえつつ、公的資金による財政支援が不可欠である。

    d. 設立手続及び第三者評価(適格認定)

 法科大学院の設置認可は、関係者の自発的創意を基本としつつ、設置基準を満たしたものを認可することとし、広く参入を認める仕組みとする。ただし、その基準は、法曹養成の中核的機関としての使命にふさわしく厳格なものでなければならない。

 また、法科大学院における入学者選抜の公平性、開放性、多様性や法曹養成機関としての教育水準、成績評価・修了認定の厳格性を確保するため、適切な機構を設けて、第三者評価(適格認定)を継続的に実施する。

 法科大学院の第三者評価(適格認定)の仕組みは、新たな法曹養成制度の中核的機関としての水準の維持、向上を図るためのものであって、大学院としての設置認可や司法試験の受験資格の付与とは、密接に関連しつつも、独立した意義と機能を有するものであり、評価(適格認定)基準の策定や運用等に当たっては、それぞれの意義と機能を踏まえつつ、相互に有機的な連携を確保する必要がある。

    e. 関係者の責任

 法科大学院は、21世紀の司法を担う質の高い法曹を養成するという重大な役目を担うものであって、その実りある実現のためには、教員、教育内容や方法その他の人的・物的な面で、相当の労力、時間及び資金を投入しなければならない。大学関係者と法曹関係者の責任は極めて重く、それを十分自覚しつつ法科大学院の設置及び運営に当たることが切に求められる。

   (イ) 司法試験

    a. 受験資格

 法科大学院制度の導入に伴い、司法試験も、その修了を要件とする新たなものに切り替える。新司法試験の受験資格の付与は、適切な第三者評価の制度が整備されることを踏まえ、それによる適格認定を受けた法科大学院の修了を前提とすることが望ましい。

 ただし、やむを得ない事由により法科大学院への入学が困難な者に対しては、法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度を整備することの趣旨を損ねることのないよう配慮しつつ、別途、法曹資格取得を可能とする適切な例外措置を講じるべきである。

 新司法試験については、上記のような法科大学院制度及び新司法試験制度の趣旨から、3回程度の受験回数制限を課すべきである。

 なお、上記のように第三者評価機構による適格認定を受けた法科大学院の修了を新司法試験の受験資格付与の前提とする場合には、適格と認定されていた法科大学院について、その認定が取り消されることとなったときに、新司法試験の受験資格において、当該法科大学院の在学生に不測の不利益を与えないよう適切な配慮が必要である。

    b. 試験方式及び内容

 法科大学院において充実した教育が行われ、かつ厳格な成績評価や修了認定が行われることを前提として、新司法試験は、法科大学院の教育内容を踏まえたものとし、かつ、十分にその教育内容を修得した法科大学院の修了者に新司法試験実施後の司法修習を施せば、法曹としての活動を始めることが許される程度の知識、思考力、分析力、表現力等を備えているかどうかを判定するものとすべきである。

    c. 移行措置

 新制度への完全な切替えに至る移行措置として、現行司法試験の受験生に不当な不利益を与えないよう、新司法試験実施後も一定期間は、これと併行して現行司法試験を引き続き実施する。

 なお、現行司法試験におけるいわゆる合格枠制(丙案)の取扱いについても、移行措置期間内における現行司法試験の実施の在り方を検討する中で考慮すべきである。

   (ウ) 司法修習

    a. 修習の内容

 新司法試験実施後の司法修習は、修習生の増加に実効的に対応するとともに、法科大学院での教育内容をも踏まえ、実務修習を中核として位置付けつつ、修習内容を適切に工夫して実施する。

 なお、新司法試験実施後の司法修習のうちの集合修習(前期)と法科大学院における教育との役割分担の在り方については、今後、法科大学院の制度が整備され定着するのに応じ、随時見直していくことが望ましい。

    b. 司法研修所

 司法研修所の管理・運営については、法曹三者の協働関係を一層強化するとともに、法科大学院関係者や外部の有識者の声をも適切に反映させる仕組みを考えるべきである。

   (エ) 継続教育

 21世紀の司法を支えるにふさわしい資質と能力(倫理面も含む)を備えた法曹を養成・確保する上では、法曹の継続教育についても、総合的・体系的な構想の一環として位置付け、そのための整備を図ることが重要である。

 この点で、現に実務に携わる法曹も、法科大学院において、科目履修等の適宜の方法により、先端的・現代的分野や国際関連、学際的分野等を学ぶことは、最適な法的サービスを提供する上で必要な法知識を更新するとともに、視野や活動の範囲を広げるために意義のあることだと考えられ、関係者の自発的、積極的な取組が求められる。

 以上のような内容を骨格とする新たな法曹養成制度を可能な限り早期かつ円滑に実施に移すことのできるよう、当審議会としては、法科大学院の設置認可や第三者評価(適格認定)の基準の策定、新司法試験及び新司法試験実施後の司法修習の具体的な設計等を含む所要の措置について、関係機関において適切な連携を図りつつ、前記の文部省検討会議の報告書を参考としながら、当審議会の最終意見を待たず速やかに検討を進めることを期待する。特に、設置認可及び第三者評価(適格認定)のための基準については、法科大学院を設置しようとする大学等が公平な条件の下に十分な準備ができるよう、当審議会が内閣に最終意見を述べた後に遅滞無くその内容を公表し、周知を図ることとすべきである。

  イ 法曹人口の拡大

 我が国の法曹人口は、先進諸国との比較において、その総数においても、司法試験、司法修習を経て誕生する新たな参入者数においても、極めて少ない状況にあり、その増加の必要性は早くから指摘されてきた。昭和39年の臨時司法制度調査会の意見書は、「法曹人口が全体として相当不足していると認められるので、司法の運営の適正円滑と国民の法的生活の充実向上を図るため、質の低下を来さないよう留意しつつ、これが漸増を図ること」を求めた。この年は、司法試験の最終合格者数が戦後初めて500人を超えた年であったが、その後、その数は増えず、500人前後の数字が平成2年まで続いた。そして、平成3年からようやく増加に転じ、平成11年には1,000人に達した。法曹人口の総数は、平成11年の数字で20,730人となっている(ちなみに、国際比較をすると、法曹人口(1997)については、日本が約20,000人<法曹1人に対する国民の数は約6,300人>、アメリカが約941,000人<同約290人>、イギリスが約83,000人<同約710人>、ドイツが約111,000人<同約740人>、フランスが約36,000人<同約1,640人>であり、年間の新規法曹資格取得者数については、アメリカが約57,000人<1996-1997>、イギリスが約4,900人<バリスタ1996-1997、ソリシタ1998>、ドイツが約9,800人<1998>、フランスが約2,400人<1997>である。)。

 しかし、今後、国民生活の様々な場面における法曹需要は、量的に増大するとともに、質的にますます多様化、高度化することが予想される。その要因としては、経済・金融の国際化の進展や人権、環境問題等の地球的課題や国際犯罪等への対処、知的財産権、医療過誤、労働関係等の専門的知見を要する法的紛争の増加、「法の支配」を全国あまねく実現する前提となる弁護士人口の地域的偏在の是正(いわゆる「ゼロ・ワン地域」の解消)の必要性、社会経済や国民意識の変化を背景とする「国民の社会生活上の医師」としての法曹の役割の増大など、枚挙に暇がない。

 これらの諸要因への対応のためにも、法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題である。法曹三者は、司法試験合格者数を三者間の協議で決定することを当然とするかのごとき発想から脱却し、国民が必要とする質と量の法曹につき、その確保と向上に積極的に取り組まなければならない。

 このような観点から、当審議会としては、法曹人口については、法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、計画的にできるだけ早期に、年間3,000人程度の新規法曹の確保を目指す必要があると考える。

  ウ 裁判所、検察庁の人的体制の充実

 裁判所、検察庁の人的体制の現状を見ると、例えば、裁判官数が足りないことにより、裁判官の負担過多、大型事件等の長期化などの深刻な事態が生じている旨の指摘があり、他方、検察官数が足りないことにより、経済事件や告訴・告発事件に十分対応できないという弊害が生じたり、検事が扱うこととされている地方検察庁の事件のうち、比較的軽微な事案を中心としているとはいえ、その多数が副検事に委ねられ、かつ副検事が扱うこととされている区検察庁の事件を検察事務官が扱うという、いわゆる肩代わり現象が生じている旨の指摘もある。こうした指摘を踏まえれば、裁判官、検察官の増員の必要性については異論がないところと言える。

 また、変革していく社会のニーズに的確に対応し、制度的基盤の強化が結実し所期の成果を上げるためには、制度の直接の担い手となる法曹(裁判官、検察官、弁護士)とそれを支える裁判所書記官等の裁判所職員、検察事務官等の検察庁職員の質、能力の向上を一層推し進めていく必要がある。殊に、先端的かつ専門的分野に精通した人材を育成するなどの方策も積極的に進めなければならない。こうした質、能力の向上とともに、前記の人的体制の現状をも踏まえれば、制度の直接の担い手である法曹については、弁護士はもとより、裁判官及び検察官の大幅な増員を実現することが不可欠であり、さらに、これら法曹が社会のニーズに的確に対応することの実効性を確保するためには、前記関係職員についても適正な増加を図っていかなければならない。

 加えて、全体としての司法機能の拡充のためには、裁判結果の実現、すなわち民事裁判の執行に携わる裁判所関係職員及び刑事裁判の執行に携わる矯正、保護関係の法務省職員並びに行政事件訴訟を直接支える訟務関係の法務省職員について、その人的体制の充実・強化にも十分な配慮を払うことが必要である。

 国家公務員の総数についてはこれを削減することが行政改革の重要な課題であるが、司法制度改革は行政改革の基本理念にも沿うものであり、司法を支える人的基盤については、行政改革を円滑に実施する観点からも、その充実・強化を図っていくべきであって、前記の点を実現するために、他の行政分野とは異なる取扱いをする必要があると考える。

(2) 弁護士制度の改革

  ア 国民が求める弁護士像(その資質と能力)

 社会における弁護士の役割は、「国民の社会生活上の医師」たる法曹の一員として「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」(弁護士法第1条第1項)との使命に基づき、国民にとって「頼もしい権利の護り手」であるとともに「信頼し得る正義の担い手」として、高い質の法的サービスを提供することにある。

 弁護士がこのような役割を果たすためには、今後、その活動領域を大幅に拡大しながら、統治主体としての国民の社会生活上の諸活動の伴侶、企業の経済活動におけるパートナー、国家・社会の公的部門の担い手など、様々な姿で国民に奉仕することを通じて、一層身近で、親しみやすく、頼りがいがあって信頼できる存在であるべく、自らを厳しく鍛え上げていかなければならない。殊に、今後、国家・社会の公的な場への国民の旺盛な参加が期待されることを踏まえれば、参加を奨励し、実効化させて生き生きとこれを発展させるには、法律実務の専門家として国民に奉仕する存在であるとの発想を徹底させ、その有する専門的な知見を分かりやすい言葉と論理で語り、国民との間で実質的なコミュニケーションを形成し得る技能を飛躍的に向上させなければならない。

  イ 改革の視点と具体的方策の検討の方向性

 弁護士が、法曹の圧倒的多数を占め、国民と司法の接点を担っていること、代理人、弁護人として、裁判手続の内外において法的正義を実現すべき責務を負っていることにかんがみれば、弁護士制度の改革は、今次の司法制度改革、殊に人的基盤の拡充を図る諸改革の中でも、主要かつ基底的な課題であると言うことができる。

 当審議会は、より高い質の職務を遂行し得る資質・能力を持った弁護士が、我が国社会の高度化、多様化する法的需要に十分に対応して、その機能を十分に発揮できるようにするために、その量の拡充はもとより、弁護士制度に所要の改革を行う必要があると考える。

 改革の具体的な処方箋を作るに当たっては、これまで弁護士制度が日本社会全体の在り方との関係で歴史的にどのように位置付けられ、どのように機能してきたのか、今後いかにあるべきかという大局的視点と、そのために個々の制度をどのように改めていくかという視点とを、適切に交差させつつ、これを行わなければならない。

   (ア) 公益性に基づく社会的責務の実践等

 弁護士は、「信頼し得る正義の担い手」としての公益的役割に由来する社会的な責務を負っている。弁護士の公益性は、当事者主義訴訟構造の下で「頼もしい権利の護り手」としての精力的な訴訟活動を通じて正義の実現を図ることをもって具現化するのみならず、法廷外の諸種の職務活動にも及ぶ。公益性に基づく弁護士の社会的な責務は、弁護士が「公共性の空間」において正義の実現に責任を負うことであり(弁護士法第1条第1項)、その責務の具体的な内容やその実践の態様には様々なものがあり得る。

 社会における弁護士の役割と機能が重くなればなるほど、弁護士が公益性に基づく社会的責務を果たすことへの社会的な期待も大きくなり、この期待に十分に応えることが弁護士に対する国民の信頼の源泉でもある。したがって、弁護士制度改革の主要な課題の一つとして、弁護士の公益的側面の機能の充実・強化を図る必要がある。

 このような認識を踏まえ、当審議会としては以下のように考える。

 弁護士の社会的責務の具体的な内容やその規範的な意義については、弁護士制度を含む司法制度全体及びこれに関連する諸制度の在り方などの検討を踏まえつつ、一層の明確化を図るべきであり、弁護士には、いわゆる「プロ・ボノ」活動(例えば、社会的弱者の権利擁護活動など)、国民の法的サービスへのアクセスの保障、公務への就任、後継者養成への関与などの積極的な実践と「信頼し得る正義の担い手」としての社会的責務を一層主体的に担うための意識改革を推し進めることが求められる。

 同時に、弁護士は、「頼もしい権利の護り手」であり、かつ「信頼し得る正義の担い手」であるべきことを自覚し、社会の広範かつ多様なニーズにより積極的かつ的確に対応するよう、自ら意識改革に取り組まなければならない。このような公益性に基づく社会的責務の実践を確保しこれを発展させるために、弁護士、弁護士会の主体的な努力が期待されるとともに、かかる弁護士の活動を促進、担保するための具体的な方策を検討すべきである。

   (イ) 弁護士の活動領域の拡大

 法の支配の理念の下、弁護士が社会の隅々に進出し、個人や法人の代理人、弁護人としての活動にとどまらず、公的機関、国際機関、非営利団体(NPO)、そして民間企業、労働組合などに所属して多様な機能を発揮し、その健全な運営に貢献することは、これからの我が国社会の在り方として望ましいものと考える。それは、単に利用者のニーズを充足するにとどまらず、これらの様々な領域で、法の求めるところのものが実効性をもって機能するようになる(「法の血肉化」)という積極的な意義を有するものである。このような弁護士の活動領域の拡大を進める見地から、弁護士法第30条による兼職等の制限についてはこれを自由化する方向で同条の見直しを行うべきである。同条の見直しに当たっては、同条第1項による公職就任の制限と同条第3項の営業等の許可制のそれぞれについて自由化の在り方を検討すべきである。

   (ウ) 弁護士倫理の強化と弁護士自治

 国民と司法の接点を担う弁護士の職務の質を確保、向上させることは、弁護士の職務の質に対する国民の信頼を強化し、ひいては司法(法曹)全体に対する国民の信頼を確固たるものにするために必要であり、これにより国民がより充実した法的サービスを享受できるようになると考える。このためには、弁護士倫理、弁護士倫理に関する教育、弁護士に関する苦情の処理、綱紀・懲戒に関する諸手続など、弁護士の職務の質に関する指導・監督その他の事務に係る弁護士会の自律的権能が実効的かつ厳正に行使されなければならず、このことは、弁護士会の国民に対する責務と言うべきである。

 さらに、これらの弁護士会の諸権能を自律的に行使する上で、手続の透明化、国民に対する説明責任の実行、それらの運営・運用への国民参加など国民の意思を反映させ、国民の信頼に応える必要があると言える。

 そのため、当審議会は、以下のような方向で所要の改革を行うべきであると考える。

(3) 裁判官制度の改革

  ア 当審議会の基本的認識

 司法の中核を担う裁判官の在り方は、いわゆる法曹一元制の採用の是非の観点から種々論じられてきたところであるが、当審議会は、本年8月の集中審議において議論を行った結果、「法曹一元という言葉は多義的であり、この言葉にとらわれることなく、『論点整理』にあるように、『法の支配の理念を共有する法曹が厚い層をなして存在し、相互の信頼と一体感を基礎としつつ、国家社会の様々な分野でそれぞれ固有の役割を自覚しながら幅広く活躍することが、司法を支える基盤となる』との基本的な考え方に立脚して、21世紀日本社会における司法を担う高い質の裁判官を獲得し、これに独立性をもって司法権を行使させるため、これを実現するにふさわしい、各種様々な方策を構築すべきこと」に異論はなく、「制度構築の方向性としては、裁判官の給源、任用方法、人事制度の在り方につき、給源の多様化、多元化を図ることとし、判事補制度を廃止する旨の意見もあったが、少なくとも同制度に必要な改革を施すなどして高い質の裁判官を安定的に供給できるための制度の整備を行うこと、国民の裁判官に対する信頼感を高める観点から、裁判官の任命に関する何らかの工夫を行うこと、裁判官の独立性に対する国民の信頼感を高める観点から、裁判官の人事制度に透明性や客観性を付与する何らかの工夫を行うこと」などについて、大方の意見の一致をみた。そこで、当審議会としては、国民が求める裁判官像を描き、そのような裁判官をいかにして確保していくべきかという広い視点に立って、様々な方策について検討することとした。

  イ 国民が求める裁判官像(その資質と能力)

 このようにして当審議会は、まず、国民が求める裁判官像(その資質と能力)について、虚心に立ち返って議論を重ねた。その結果、「人間味あふれる、思いやりのある、心の温かい裁判官」、「法廷で上から人を見下ろすのではなく、訴訟の当事者の話に熱心に耳を傾け、その心情を一生懸命理解しようと努力するような裁判官」、「何が事案の真相であるかを見抜く洞察力や、事実を的確に認識し、把握し、分析する力を持った裁判官」、「人の意見をよく聴き、広い視野と人権感覚を持って当事者の言い分をよく理解し、なおかつ、予断を持たずに公正な立場で間違いのない判断をしようと努力するような裁判官」など様々な意見が出された結果、少なくとも、裁判官は、その一人ひとりが、法律家としてふさわしい多様で豊かな知識、経験と人間性を備えていることが望ましいとの共通認識を得るに至った。

  ウ 改革の視点と具体的方策の検討の方向性

 当審議会においては、前記のような、法律家として多様で豊かな知識と経験に裏打ちされた資質と能力を備えた裁判官こそが、司法の中核に位置する裁判作用の主宰者として、国民が求める裁判官の姿であると考え、そのような裁判官を得るために、裁判官制度にどのような改革を行うべきかについて検討を行った結果、

 という諸課題について改革を行うべきことで、大方の意見の一致をみるところとなった。

 そして、これらの課題に対処するための具体的方策について、今後、以下のような方向で検討を進めていくこととした。

   (ア) 給源の多様化、多元化

 裁判官の給源の多様化、多元化を図るための具体的方策については、次の点に留意して、更に検討する。

 裁判所法は、判事の給源の多元性を予定しているが、その趣旨は、判事にふさわしい有能な人材を裁判所内に限らず広く法曹各界(法律学者を含む。)から迎えようとしたものにほかならない。

 しかしながら、運用の実際においては、判事補のほとんどがそのまま判事になって判事補が判事の主要な給源となり、しかも、従来、弁護士からの任官が進まないなど、これを是正する有効な方策を見いだすことも困難であった。このような、制度運用の経緯、現状を踏まえ、当審議会としては、国民が求める裁判官像を描き、そのような裁判官をいかにして安定的に確保していくべきかという広い視点に立ち、「給源の多様化、多元化」(裁判所法の趣旨)の実質化を図ることはもとより、更に進んで判事となる者一人ひとりが、それぞれ法律家として多様で豊かな知識、経験と人間性を備えていることが必要であり、判事の給源としての判事補制度の改革を含め、知識、経験等の多様化を制度的に担保する仕組みを構築することが今後検討すべき改革の方向であると考える。

 なお、特例判事補制度については、その問題点を踏まえ、見直しを検討することが必要である。

   (イ) 裁判官の任命手続の見直し

  裁判官の任命手続の見直しのための具体的方策については、国民の裁判官に対する信頼感を高める観点から、次の諸点を含め、更に検討する。

   (ウ) 裁判官の人事制度の見直し(透明性、客観性の確保)

 裁判官の人事制度の見直し(透明性、客観性の確保)のための具体的方策については、裁判官の独立性に対する国民の信頼感を高める観点から、次の点を含め、更に検討する。

 裁判官の人事評価や報酬、補職・配置等について、透明性、客観性を確保するための方策(例えば、評価のための基準の明確化や手続の整備等)


4.制度的基盤の整備

(1) 利用しやすい司法制度

  ア 弁護士へのアクセス拡充

 国民が利用者として容易に司法へアクセスすることができるようにするため制度的に工夫すべきことは多岐にわたるが、まず、何よりも、法曹の圧倒的多数を占め国民と司法の接点を担っている弁護士へのアクセスの拡充を図らなければならない。

 弁護士は、国民から第一次的に各種の法律問題に関する相談を受けて、それに対する解決の指針を示し、裁判等の手続を代理するなど、法曹の中でも最も国民に身近な存在として重要な役割を担っているが、利用者である国民の立場から見ると、現状では、弁護士に気軽に相談し利用できる状況にはなっておらず、また、社会経済の各領域にわたる多様な法的サービスのニーズに十分対応できる状態になく、司法への国民のアクセスを阻害する一因となっている。その背景には、弁護士人口の不足、弁護士の地域的偏在、弁護士報酬の予測困難性、弁護士の執務態勢や専門性の未発達、広告規制等による情報提供の不足等々の事情がある。

 あらゆる地域、分野のあらゆる人々の法的正義へのアクセスが実質的に保障されていることは、司法制度が国民のための存在であるための前提的要請である。国民の法的正義へのアクセスをあまねく保障すること、すなわち、弁護士へのアクセス障害の解消は、弁護士、弁護士会の社会的責務と言うべきである。

 そもそも、弁護士を利用しようとする者は、高度の専門性を有する弁護士の中から依頼事項にふさわしい弁護士を適切に選択し、ニーズに即した質の高い法的サービスの提供を容易に受けられることを望んでいる。身近で、親しみやすく、頼りがいがあって、信頼できる存在となるために、弁護士、弁護士会は、かかる需要に全力をあげて応えなければならない。

 このため、弁護士人口を大幅に増加させることが必要であるが、それだけでは解決できない問題、例えば、弁護士過疎、経済的理由によるアクセス障害、弁護士に関する情報の不足、依頼内容の高度化、専門化への対応の不十分性等の問題を解消するために、早急に必要な措置が講じられなければならない。

   (ア) 法律相談活動等の充実

 前記のように、利用者である国民の立場から見ると、現状では、弁護士に気軽に相談し利用できる状況にはなっておらず、弁護士過疎問題への対応の視点も含め、地域での法律相談活動等の充実を図ることが必要である。このため、法律相談センターや公設事務所の設置を進め、法律相談の充実を図るべきである。その際、弁護士、弁護士会の一層の自主的努力が期待されるとともに、地域への司法サービスを拡充する見地から、国又は自治体において一定の財政的負担を行うことも含め、これらの制度運営の在り方について検討すべきである。また、公設事務所の設置については、その目的、運営主体、運営方法等の在り方、法律扶助制度や被疑者・被告人の公的弁護制度等との関係などを検討すべきである。

   (イ) 弁護士費用(報酬)の透明化、合理化

 弁護士報酬について、利用者に分かりにくい、事前予測が困難である等の指摘があることを踏まえ、弁護士報酬の透明化、合理化を進めるための諸般の工夫が施されるべきである。具体的には、例えば、弁護士報酬規定について、これが競争制限的に作用するおそれのないよう十分留意しつつ、弁護士報酬の透明化、合理化の見地から、一層の見直しを行うべきである。また、弁護士の依頼者に対する報酬説明を充実、徹底する方策を検討すべきである。

   (ウ) 弁護士情報の公開

 当審議会は、弁護士へのアクセス拡充に資するとの見地から、平成12年10月に実現された弁護士広告の原則自由化を評価するとともに、その適正な運用のために、引き続き所要の取組を行うべきものと考える。さらに、第三者評価の導入の要否を含め、利用者に有益な弁護士の専門分野や実績等についても広告対象とする方向で、そのための具体的な方策を検討すべきである。また、弁護士及びその業務の在り方が国民・利用者の司法へのアクセスや司法機能の在り方を直接的に左右する面があることにかんがみ、弁護士会は、弁護士の専門分野等の情報提供その他弁護士に関わる情報の開示を一層強化すべきである。

  イ 法的サービスの内容の充実

   (ア) 弁護士業務の質の向上、執務態勢の強化

 弁護士は、その職務活動の質が、これからの我が国社会の変化、発展に相応しながら、利用者たる国民の求めるところを十分に満たし、かつ不断に向上していくように、自ら最大限の努力を傾注することが期待されている。

 また、弁護士の職務の質の向上とその執務態勢の強化を図るため、法律事務所の共同化・法人化、専門性の強化、協働化、総合事務所化等が積極的に進められなければならない。当審議会は、法律事務所の法人化に関し、既往の閣議決定等を踏まえ、平成12年度中に所要の立法措置が行われることを期待するとともに、以下のような方向での検討が必要であると考える。

   (イ) 隣接法律専門職種との関係/企業法務などとの関係

 弁護士と隣接法律専門職種との関係については、「論点整理」において「法の担い手として、法曹だけでなく、隣接法律専門職種等も視野に入れつつ、総合的に人的基盤の強化について検討する必要がある」旨指摘した。

 このため、当審議会において、5つの隣接法律専門職種について関係者のヒアリングを行ったところ、各関係者から、それぞれ、司法書士には簡易裁判所における訴訟代理権などを、弁理士には特許等の侵害訴訟における訴訟代理権などを、税理士には税務訴訟における出廷陳述権などを、行政書士には行政事件訴訟における出廷陳述権などを、そして社会保険労務士には労働社会保険関係訴訟における出廷陳述権などを与えるべきであるとの見解が表明された。

 当審議会としては、今後、弁護士人口の大幅な増加とその活動領域の拡大を図ることを前提としつつ、当面の国民の法的需要をいかに充足するかという課題と、将来、前記の弁護士制度の改革が現実化する段階での、弁護士と隣接法律専門職種との関係をどのようにするかという課題とを共に検討すべきであると考える。

 すなわち、今後、弁護士人口の大幅な増加とこれまでに述べた弁護士改革が現実化する将来においては、各法律専門職種の制度の趣旨や意義、及び法的サービスの利用者の利便とその権利保護の要請を踏まえ、総合的に司法の担い手の在り方を検討していく必要はあるものの、国民の権利擁護に不十分な現状を直ちに解消する必要性等にかんがみ、当面の法的需要をいかに充足するかという利用者の視点からの検討が急がれる。このため、各隣接法律専門職種を個別的にとらえて、それぞれの業務内容や業務の実情、業務の専門性、人口や地域的な配置状況、その固有の職務と法律事務との関連性に関する実情やその実績等を実証的に踏まえた上で、信頼性の高い能力担保制度を講じることを前提に、それによって担保される能力との関係で、訴訟手続への関与を含む一定の範囲・態様の法律事務の取扱いを認めることを前向きに検討すべきである。

 また、こうした検討と関連して、企業法務などとの関係についても検討すべきである。このような認識を踏まえ、更に以下のように考える。

   (ウ) 弁護士の国際化/外国法事務弁護士等との関係

 社会・経済の国際化の進展により、国際的な法的紛争が増大しつつあることに加え、我が国社会がルールを重視する透明で開かれたものとなることは国際的な要請でもある。そのことからも、司法制度改革は国際的視点を抜きに論ずることはできない。そして、我が国は、国際的ルールや法制度の国際的調和の動きなどに受動的に対応するにとどまるのではなく、いわば「顔の見える国」として、国際的ルールの形成・発展に積極的に参画することが求められている。

 現在、我が国が、世界に展開する個人や企業等の安全とその権利をいかにして保護していくのか、いかにして公正で活力ある世界市場を構築し、効果的な通商戦略をもって参入していくのか、さらに、人権問題や環境問題等の地球的課題や国際犯罪等の問題にどのように取り組んでいくべきなのかといった課題に直面する中で、我が国の法的プロフェッションたる司法(法曹)が、国民の権利の実現に寄与し、国際的ルールの形成、運用に様々な形で関わっていく必要性は大きい。

 個人の活動領域においても、また、企業の活動領域においても、今後、国際的な法律問題が量的に増大し、かつ、内容的にも複雑・多様化することは容易に予想されるところであり、国民の権利の実現に寄与し、国際的ルールの形成、運用に様々な形で関わっていくことのできる能力を持った弁護士を日本社会が潤沢に確保する必要性があることは明らかである。

 以上の認識を踏まえ、次のように考える。

  ウ 裁判所へのアクセスの拡充

 国民が司法に期待するものは、端的に何かと言えば、それは、国民が利用者として容易に司法へアクセスすることができ、国民に開かれたプロセスにより、多様なニーズに応じた適正・迅速かつ実効的な司法救済を得られるということであろう。そして、裁判所へのアクセスは、司法へのアクセスという課題の中核に位置する。

 民事裁判については、平成8年に広範囲にその内容が改められた現行民事訴訟法(平成8年法第109号、同10年1月施行。以下「新民事訴訟法」と言う。)により、少額訴訟等、裁判所へのアクセスを容易にする工夫がなされてきたが、なお、訴訟費用の負担の軽減、法律扶助制度の充実、裁判利用相談窓口の設置、裁判所の管轄・配置等、裁判所へのアクセスの拡充を図るべき課題は少なくない。

   (ア) 利用者の費用負担の軽減

    a. 提訴手数料等

 まず、現行制度上、国民が裁判所に訴えを提起するに際しては、提訴手数料(申立手数料)を納付しなければならないが、その手数料の額は、訴訟の目的の価額(訴額)に応じて順次加算して算出するいわゆるスライド制によって定められている。この提訴手数料の額が訴訟の目的の価額に比し高額であることが国民の裁判所へのアクセスを阻害しているのではないか、したがって、スライド制を改め定額制とすべきか、あるいはスライド制を維持しつつその低額化を図るべきかが問題となる。

 そもそも、提訴手数料の納付を求める理由は、一般に、訴訟手続を利用する者にその受益に応じた手数料の負担を求めるという、受益者負担ないし負担の公平の観念に基づくものであり、また、副次的に濫訴を抑制する効果もあると言われる。スライド制は、訴額が高額になるほど受益もまた大きくなるとの趣旨によるものであり、それ自体は不合理とは言えないが、現行のスライド制の下における提訴手数料は、案件によってはかなり高額になることもあり、正当な訴えの提起を抑制する弊も生じていると考えられる。そこで、提訴手数料については、スライド制を維持しつつ、必要な範囲でその低額化を行うべきである。また、簡易裁判所の少額訴訟事件の提訴手数料については、国民がより利用しやすくするため、定額制の導入も考慮すべきである。

 なお、現行法上、民事訴訟に要した費用のうち、法が「訴訟費用」と定める範囲のものは、原則として訴訟の敗訴当事者が負担すべきものとされている。したがって、勝訴当事者は、その支出した訴訟費用の償還を敗訴当事者に請求し得るはずであるが、その手続が煩雑なため、実際にその請求をする例は少なく、結局、各自負担となっている。このことは、結果として、勝訴当事者に不当に費用の負担を課していることになると考えられる。このため、訴訟費用額確定手続を簡素化すべきである。

    b. 弁護士報酬の敗訴者負担制度

 訴訟当事者がその依頼した弁護士に支払う弁護士報酬は、現行制度上、原則として訴訟費用に含まれず、訴訟の勝敗に関わりなく、各自負担とされている(ただし、判例により、不法な訴えに応ずるため弁護士に委任し報酬を支払った場合、及び不法行為に基づく損害賠償請求権の行使のため弁護士に委任して訴えを提起することを余儀なくされた場合には、勝訴当事者が支払った弁護士報酬は、「相当と認められる額の範囲」で、損害の一部として相手方に請求できるものとされている。)。

 このような制度の下では、訴訟を必要以上に費用の掛かるものとさせ、また法によって認められた権利の内容が訴訟を通じて縮小されることとなるので、それが訴えの提起をためらわせる結果となるとともに、不当な訴え・上訴の提起、不当な応訴・抗争を誘発するおそれもあるということを理由として、かねて勝訴当事者の支払った弁護士報酬(少なくともその一部)を、敗訴者に負担させる方策を導入すべきであると指摘されてきた。

 他方、この弁護士報酬の敗訴者負担制度に対しては、敗訴した場合の費用の負担が重くなり、事件の種類によっては、かえって訴えの提起を萎縮させる結果となるおそれがあるとの指摘もある。特に、訴訟を通じて社会的に問題を提起し、立法府や行政府に政策の変更や制度の改革を迫る、いわゆる政策形成訴訟について、そのことが当てはまると言われている。

 以上の点を踏まえると、弁護士報酬の敗訴者負担制度は、弁護士報酬の高さから訴訟に踏み切れなかった当事者に訴訟を利用しやすくするものであることなどから、基本的に導入する方向で考えるべきである。ただし、同時に、敗訴者に負担させる金額は、勝訴者が実際に弁護士に支払った報酬額と同額ではなく、その一部に相当しかつ当事者に予測可能な合理的な金額とすべきである。また、労働訴訟、少額訴訟など敗訴者負担制度が不当に訴えの提起を萎縮させるおそれのある一定種類の訴訟は、その例外とすべきである。

 このような見地から、敗訴者に負担させるべき弁護士費用額の定め方、敗訴者負担の例外とすべき訴訟の範囲及び例外的取扱いの在り方等について検討すべきである。

    c. 訴訟費用保険

 いわゆる訴訟費用保険は、個人等があらかじめ保険料を払い込み、実際に法的紛争に巻き込まれた場合に、弁護士報酬を含む訴訟の費用等を保険金によって填補するものであるが、現在、我が国では、主として自動車保険等の賠償責任保険の領域である程度普及しているにとどまる。日本弁護士連合会は、かねてこのような訴訟費用保険の創設を提唱してきたが、このほど、これに賛同する損害保険会社による商品開発が進み、本年7月、事故被害者の損害賠償のために必要となる法律相談料、手続費用、弁護士報酬等を保険金で填補する「権利保護保険」の発売について、保険会社3社との間で協定を締結した。このような状況を踏まえ、当審議会としては、司法へのアクセスを容易にするための方策として、訴訟費用保険が普及することは有意義であると考え、引き続き、このような保険の開発・普及が推進されることを期待したい。 (イ) 裁判所の利便性の向上

    a. 裁判利用相談窓口(アクセス・ポイント)の拡充

 国民の裁判所へのアクセスを困難にしている原因の一つは、裁判やそれ以外の紛争処理手段(Alternative Dispute Resolution。以下「ADR」と言う。)など紛争解決手続に関する総合的情報を取得することができる相談窓口(アクセス・ポイント)が十分に用意されていないことにもあると考えられる。すなわち、司法が国民に分かりにくく遠い存在であるという一般的な受け止め方は、弁護士や裁判所の活動等に関する情報の不足によるところが少なくなく、司法に関する情報の公開、提供を推進し、ADRをも含む司法に関する情報に国民が容易にアクセスできるような仕組みを検討すべきである。

 このような認識を踏まえ、裁判所、各弁護士会、地方公共団体など、現在、既に相談窓口を設置している機関、団体においても、各窓口のネットワーク化を図るなど、その一層の充実に努めるべきであり、また、そのような窓口のない場合には、その早急な設置を図るべきである。具体策として、例えば、裁判所においては、自らの受付相談機能の拡充はもとより、国民が地方公共団体など裁判所外の相談窓口に行っても、裁判所の受付相談に関する情報、裁判手続に関する情報を入手できるように所要の措置をとり、また、地方公共団体においては、消費生活センターなどの相談窓口で、弁護士会の法律相談、法律扶助の仕組みのほか、各種ADRを含む司法に関する総合的な情報を提供し、あるいは地域弁護士会と提携して弁護士の紹介を行うなどの方策を実施するよう求めることを検討すべきである。

    b. 人事訴訟の家庭裁判所への移管

 家庭関係紛争事件のうち、離婚、婚姻の取消し、子の認知などのいわゆる人事訴訟事件については、現行法上は、訴えの提起に先立ち、原則として、まず、家庭裁判所に家事調停の申立てをし、調停によって紛争の解決を図るべきものとされているが、家事調停が不成立に終わり、改めて訴訟によって解決しようとするときは、地方裁判所に人事訴訟を提起すべきものとされている。そのため、一つの家庭関係紛争事件の解決が、家庭裁判所の調停手続と地方裁判所の人事訴訟手続とに分断され、その間の連携も図られていないことから、国民に不便であるとの指摘がされている。

 また、家庭関係紛争事件のうち、離婚の際の財産分与、子の監護者の指定・養育費の負担、婚姻費用の分担に関する争いなど(人事訴訟事件以外のもの)は、家事審判手続により家庭裁判所が審理・裁判するものとされている(いわゆる乙類審判事件)。しかし、それらのうちの一部のものは、離婚訴訟に付随している限り、地方裁判所において審理・裁判することもできるとされるなど、家庭裁判所と地方裁判所の管轄の配分は、著しく煩雑で、利用者たる国民に分かりにくい。

 さらに、家庭裁判所には、家庭裁判所調査官が配置され、その調査の結果が家庭裁判所での調停・審判を適切なものとするのに大きな貢献をしているが、地方裁判所には、その種の機関がなく、人事訴訟の審理・裁判に利用することができない。

 このような状況を踏まえ、人事訴訟事件を、親子関係存在確認訴訟など解釈上人事訴訟に属するとされているものを含めて、家庭裁判所の管轄に移管すべきである。また、離婚の原因である事実など人事訴訟の訴えの原因である事実によって生じた損害賠償の請求についても、人事訴訟と併合される限り、家庭裁判所の管轄とすべきである。以上のほか、人事訴訟事件以外の家庭関係紛争事件で、家庭裁判所の管轄に移管すべきものの有無、範囲については、今後検討すべきである。

    c. 簡易裁判所の事物管轄、少額訴訟の上限額の見直し

 簡易裁判所の事物管轄は、現行法では、訴額が90万円を超えない事件とされており、また少額訴訟手続の対象となるのは、そのうち訴額が30万円以下の金銭請求事件とされている。簡易裁判所の事物管轄を定める訴額の上限が90万円と定められたのは、昭和57年の裁判所法改正によるが、国民により身近な簡易裁判所の管轄事件の範囲を広げ、裁判所へのアクセスを容易にするとの観点から、簡易裁判所の事物管轄については、経済指標の動向などを考慮して、その訴額の上限を引き上げる方向で検討すべきである。

 また、新民事訴訟法によって創設された少額訴訟手続は、利用者から高い評価を受けているので、国民がこの手続をより多く利用し得るようにするため、少額訴訟手続の対象事件の範囲については、それを定める訴額の上限を引き上げるべきである。

    d. 裁判所の配置の在り方

 現在の簡易裁判所の配置は、昭和63年の法改正により定められたところに従い、事件数の少ない独立簡易裁判所などの隣接庁への統合、東京23区内、大阪市内などの大都市の複数簡易裁判所の一庁への統合、新たに人口が増加した地域への簡易裁判所の新設によって実現したものである。また地方・家庭裁判所支部の配置は、平成2年の最高裁判所規則の改正により定められた、同様の方針に従い実現したものである。

 こうした配置については、当事者である国民が裁判所へ行くのに長時間を要するのでは、裁判所へのアクセスの障害となるのではないか、との指摘がある一方、前記昭和63年の簡易裁判所の配置の見直し、平成2年の地方・家庭裁判所支部の配置の見直しは、将来の人口動態、交通事情の変化などをも考慮に入れて実施されたものであり、その後の実際の事情の変化を考慮しても、現在直ちにその見直しをする必要はないのではないかとの指摘もある。このような点を踏まえ、裁判所の配置は、人口動態、交通事情の変化、事件数の動向等を考慮しながら、不断の見直しを加えていくべきである。

    e. 裁判所等への情報技術(IT)の導入

 裁判所における情報技術(IT)の導入については、これまで、各裁判所においては、裁判官全員にパソコンを配付し、裁判所書記官についても多数のパソコンを配備して、裁判部単位でのコンピュータ・ネットワーク化、不動産執行・破産・調停・支払督促などの分野におけるパソコンによる事件処理システムの開発・導入に努めてきた。また、新民事訴訟法により、民事訴訟手続におけるテレビ会議システムの利用などの途が開かれ、活用されている。

 しかしながら、現在の情報技術の発展は目覚ましく、手続の効率化、迅速化及び利用者に対するサービスの増大という見地から、訴訟手続等における情報技術の積極的利用を一層推進する必要がある。このため、裁判所の訴訟手続、事務処理、情報提供などの各側面において、コンピュータによるデータベース、インターネット等の情報技術(IT)を更に積極的に導入し、活用すべきである。

 こうした見地から、情報技術の具体的利用場面(例えば、インターネットによる訴訟関係書類の提出・交換など)について検討すべきである。

    f. 開廷日・開廷時間の柔軟化

 裁判所における職務執行は、現在、令状事務等を除いて、法の定める休日には行われず、また、平日においても、一般に通常の勤務時間内において行われている。ただ、東京、大阪、名古屋、京都などの一部の家庭裁判所では、午後5時以後においても、各庁により一様ではないものの、家事審判、家事調停、家事相談、事件の受付を行っており、また、東京、大阪両簡易裁判所では、同様に、民事調停、受付相談を行っている。

 国民の裁判所へのアクセスを容易にするという観点からは、そのような現在行われている夜間サービスについて、関係各裁判所において、国民への周知を図るべきである。さらに、夜間サービスを他の裁判所にまで拡大すること、訴訟事件についても夜間開廷、休日開廷を実施することについて、現在の利用状況等をも見ながら、まず国民のニーズの程度などを把握し、その上で「国民が利用しやすい司法の実現」の視点から、裁判官及び他の裁判所職員の労働条件に一定の配慮をしつつ、積極的に検討すべきである。

   (ウ) その他

    a. 懲罰的損害賠償制度 

 我が国における不法行為に基づく損害賠償制度は、他人の違法な行為によって損害を受けた者がいる場合に、その被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものと考えられている。これに対して、他の一部の国においては、被害者の損害の補てんに加えて、特に悪性の強い行為をした加害者に対して制裁を課すことにより、将来における同様の行為を抑止する趣旨で、懲罰的に賠償金の支払を命ずることができるとする懲罰的損害賠償制度を認めている。

 同様の懲罰的損害賠償制度を我が国に導入すべきか否かについては、当審議会においても、前記の趣旨などからする積極論がある一方、我が国の法体系と適合しないことやその弊害を懸念する見地からの消極論が示されるなど、意見が分かれており、こうした制度の導入の必要性や問題点について、なお検討すべきである。

    b. クラスアクション制度、団体訴権制度

 我が国には、現在、米国のクラスアクションに相当する制度はなく、また、ドイツの不正競争防止法、約款法などに定められている団体訴権に相当する制度を認める法律も存在しない。ただ、新民事訴訟法は、従来から我が国にあった選定当事者の制度を拡充し、ある程度クラスアクションに類似する機能を果たし得るように改めた。

 消費者被害の場合のように、被害者が多数に及ぶが、各被害者の損害額は少額に止まる事件においては、各被害者が個別に訴えを提起することは経済的に採算がとれないところから、多数の被害者の損害の賠償を一括して請求するクラスアクションの制度は、訴えの提起を容易にする機能を有すると考えられる。

 また、団体訴権の制度は、ある者の違法な行為により消費者や地域住民など多数の者に少額又は拡散した被害が及ぶ場合に、被害者等の利益を保護することを目的とする団体に、その違法行為の差止請求訴訟を提起する固有の資格を与えるものであり、同じく訴えの提起を容易にする機能を有すると考えられる。

 しかし、当審議会では、そのようなクラスアクションや団体訴権の制度を我が国に導入すべきか否かについては、前記の趣旨などからする積極論がある一方、当面、新民事訴訟法の運用実績を見守るべきことやその弊害を懸念する見地からの消極論が示されるなど、意見が分かれており、こうした制度の導入の必要性、問題点等について、なお検討すべきである。

  エ 民事法律扶助の拡充

 法律扶助制度の拡充については、「論点整理」においても、「日本国憲法は、『何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない』(第32条)と規定している。この権利を実質的に保障するものとして、法律扶助制度を整備する必要がある。現在、民事法律扶助の運営体制の整備等につき政府で検討されている措置に関し、法律扶助制度の整備に向けての重要な第一歩と評価し、その早急な実現が図られることを期待する旨の会長談話を発表した(平成11年11月24日)ところであるが、法律扶助制度は国民により身近で利用しやすい司法制度を実現するための重要な一方策であるとの観点から、更に総合的・体系的に検討を深める必要があると思われる。」と指摘した。

 その後、政府の提出した「民事法律扶助法案」は、第147回国会において可決・成立し、本年4月28日、同年法律第55号として公布され、本年10月1日より施行された。これにより、民事法律扶助事業に法律上の根拠が与えられ、また国の責務として、その適正な運営を確保し、その健全な発展を図るべきものとされたことの意義は大きい。

 しかし、欧米諸国と比べるとき、民事法律扶助事業の対象事件の範囲、対象者の範囲等は限定的であり、予算規模も小さく、憲法第32条の「裁判を受ける権利」の実質的保障という観点からは、なお不十分と考えられる。

 また、刑事司法分野における被告人の国選弁護制度、被疑者弁護制度の在り方との関連をも踏まえて、運営主体等についても総合的に検討する必要がある。

 このような視点から、民事法律扶助制度をより一層充実させるべく、対象事件の範囲、対象者の範囲、利用者負担の在り方、運営主体の在り方等について、更に総合的・体系的に検討すべきである。

  オ 裁判外の紛争解決手段(ADR)の拡充・活性化

 社会で生起する紛争には、その大小、種類、様々あるが、事案の性格や当事者の事情に応じた多様なADRは、司法を国民に近いものとし、紛争の深刻化を防止する上で大きな意義を有する。そもそも、仲裁、調停、あっせん等に代表されるADRは、厳格な裁判手続と異なり、利用者の自主性を生かした解決、プライバシーや営業秘密を保持した非公開での解決、簡易かつ迅速な解決、法律上の権利義務の存否にとどまらない実情に沿った解決を図ることなど、柔軟な対応が可能である。また、多様な分野の専門家の知見を活かしたきめ細かな紛争解決や運営主体等の在り方によっては、より廉価な紛争解決が可能となる。

 しかしながら、我が国におけるADRの現状は、交通事故関係紛争や裁判所による民事・家事調停など一部の形態を除いて、必ずしも十分に機能しているとは言えない。また、経済活動の国際化等に伴い、国際商事紛争を迅速に解決する仕組みの整備について国連等において検討が進められており、我が国としても早急な取組が求められている。

 こうした状況を踏まえ、国民がより利用しやすい司法を実現するためには、まず司法の中核たる裁判機能について、これを拡充し、国民にとって一層利用しやすくしていくことに格別の努力を傾注すべきことは当然であるが、これに加えて、ADRが、国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充、活性化を図っていくべきである。

   (ア) ADRの拡充・活性化のための基盤整備

 ADRには、裁判所による調停手続、また裁判所外では、行政機関、民間団体、弁護士会など多様な運営主体による仲裁、調停、あっせん、相談などが存在するが、今後、各ADRそれぞれの特長を活かしつつその育成・充実を図るため、裁判所、関係省庁や関係機関が密接に連携して必要な基盤整備を推進すべきである。

 ADRの拡充・活性化のための具体的方策については、個々のADRの性格に応じた多面的な検討が必要であるが、各ADRにおおむね共通する横断的な対策として、ADRの適切な担い手の確保のための基盤整備、仲裁法制などADRに関する法制の早期整備、ADRを含む司法に関する総合的な情報提供、相談体制の整備等を行うべきである。また、ADRを法律扶助の対象とすることの是非をも検討すべきである。

 これに加えて、経済活動のグローバル化や国境を越えた電子商取引の急速な拡大に伴い、国際的な商事紛争を迅速に解決するため、我が国においても国際商事仲裁の拡充・活性化を図るべきである。その際、国連国際商取引委員会における国際仲裁法制統一化の作業の動向、国際仲裁法制の整備や国際商取引に関する各国の法制度の調和への動き、我が国経済の国際競争力への中長期的な影響、情報技術(IT)の急速な発展等をも十分考慮して、積極的に対応すべきである。

   (イ) ADRと裁判手続との連携強化

 さらに、ADRと裁判手続との間で、手続面、人材面、情報面などの各側面において連携を強化していくことが必要である。具体的には、手続面での連携強化の一環としては、事案によっては、ADRから裁判手続への円滑な移行、あるいはその逆の移行が相当な場合があると考えられることから、国民の裁判を受ける権利を実質的に損なわない範囲で、そのための手続整備を図っていくべきである。これに関連して、ADRに時効中断(又は停止)効を付与したり、ADRの結果に基づき強制執行の申立てをなし得ることをも検討すべきであるが、この場合、そのADR手続における適正手続保障の程度、要件の定め方等について十分に検討すべきである。

 人材面での連携強化の一環としては、裁判所とADRとの間、あるいはADR相互間での人材の相互交流や、知識やノウハウの共有化を促進すべきである。

 情報面での連携強化の一環としては、裁判所から、判例情報や事件進行のノウハウをADRへ積極的に提供すべきであり、前記のように、ADRを含む司法に関する総合的な情報提供、相談窓口を整備すべきである。

  カ 司法に関する情報公開の推進

 従来、裁判所において、先例的価値のある判例情報について、最高裁判所及び高等裁判所の判例集のほか、下級裁判所についても、知的財産権などの特定の分野についての判例集の編集刊行を行ってきたが、国民のニーズに応え、判例情報への迅速かつ容易なアクセスを可能にするため、平成9年に最高裁ホームページをインターネット上に開設し、現在、@最近の主要な最高裁の判決全文、A東京高地裁及び大阪高地裁を中心とした下級裁判所の知的財産権関係訴訟の判決全文を速報している。さらに、民間の判例雑誌、各種のデータベースという媒体によっても、下級裁判所を含めた判例情報の提供がなされている。個々の事件の判決へのアクセスについては、民事訴訟法上誰でも閲覧が可能であり、利害関係人であれば謄写も可能である。また、法務省及び日本弁護士連合会、単位弁護士会においても、それぞれホームページをインターネット上に開設するなどして、各種情報を提供している。

 判例情報を積極的に公開していくことは紛争防止や解決にとって重要であることは言うまでもなく、さらに、事件情報、ADRをも含む司法に関する情報を広く公開し、国民がより簡易な手段で入手できるようにすることは、国民がより利用しやすい司法を実現する見地から重要である。また、前記のように、弁護士費用の透明化や、専門分野その他弁護士に関わる情報の開示は、弁護士へのアクセスを拡充する上で重要である。

 さらに、後記のように、訴訟手続を始め、裁判官の選任等や、裁判所、検察庁、弁護士会の運営等について国民の意見をより適切に反映させる仕組みを整える必要があるが、その前提として、情報公開の推進により、司法の国民に対する透明性を向上させ、説明責任を明確化することが不可欠である。

 このような見地から、判例情報、事件情報、さらには、裁判官の任用や裁判所、検察庁、弁護士会の運営等を含む、司法全般に関する情報の公開を一層推進していくべきである。このうち、判例情報の公開の具体策としては、例えば、裁判所が、より広範な判例情報を、インターネットのホームページ等を活用して、即時的確に公開、提供していくべきである。

  キ 分かりやすい司法の実現

 司法の国民への「分かりやすさ」は、この「利用しやすい司法制度」の項目の中で述べた国民の「利用しやすさ」と一体不可分のものとして、一層の向上が図られるべきである。さらに、「分かりやすい司法制度」は、このような制度的基盤の問題にとどまらず、例えば、一般国民が容易に理解し納得できる裁判という意味で、弁護士制度改革や裁判官制度改革など司法制度の人的基盤の問題、後述する国民の司法参加の拡充などとも相まって、総合的に実現されることが望ましい。

 しかしながら、国民から見ると、これら「司法制度」の改革だけでは、「分かりやすい司法」を十分享受することはできない。制度的枠組みだけではなく、司法判断の基礎となる法令(ルール)の内容自体も、広く国民にとって分かりやすいものである必要があるからである。「論点整理」で指摘したように、「法は、いわば全国民の共有財産として、国民一人ひとりが様々な次元で関わり、活用できるものでなければならない」のであり、このことは、21世紀において、国民一人ひとりが自律的個人かつ統治主体として公正かつ透明な「ルール」を尊重する社会を目指していく上で、一層重要性を増していくのである。

   (ア) 基本法制の整備 

 ところが、我が国の基本的な法令の中には、民法の一部や商法など、依然として片仮名文語体や現代社会に適応しない用語を交えたもの、枝番号や条文引用の方法が著しく煩雑で不親切なものなどがあり、限られた法律専門家以外には容易に理解できないものとなっている。広く国民や内外の利用者にとって、基本法制が、裁判規範としてのみならず行為規範としても、可能な限り分かりやすく、一般にも参照が容易で、予測可能性の高いものであること、そして、内外の社会経済情勢に即した適切なものであることは極めて重要である。

 今日、我が国の基本法についての立法課題は、質的にも量的にも従前とはレベルの違う重要性を有するに至っている。これらはいずれも、内外の社会経済情勢の急激な変化に接し、事後監視型社会への転換を迎えた今後の我が国にとって緊急の手当が必要であり、また、国際的に共通の基盤を確保するという点でも重要な意義を有すると考えられる。

 こうした基本法の整備は、狭い意味での司法にとどまる問題ではなく、国会・行政を含め国を挙げて取り組むべき課題であり、当審議会の所掌を超えるところが多いが、当審議会としても、基本法を始めとする諸法令の改正を適時適切に進めるための立法体制(国会及び内閣における法案作成過程を含む)の整備について、関係諸機関において積極的かつ早期の対応がなされることを希望する。

   (イ) 司法教育の充実 

 「論点整理」において、国民一人ひとりが様々な次元で法に関わり、それを活用するとの視点から、「法の担い手として、法曹だけでなく(中略)、総合的に人的基盤の強化について検討する必要がある」と指摘したように、法や司法制度が法律専門家の独占物となることのないよう、「法の担い手」の裾野を広く国民に向かって広げていくことが重要である。

 法がこの国の血肉と化し、「この国のかたち」となるために、国民の司法参加や「国民の社会生活上の医師」としての法曹の役割等との関連をも念頭におきつつ、学校教育を始めとする様々な場面において、司法の仕組みや働きに関する国民の学習機会の充実を図るべきである。そのため、教育関係者のみならず、法曹関係者も積極的な役割を果たすことが求められる。

(2) 国民の期待に応える民事司法の在り方

  ア 民事司法に対する国民の期待

 国民が民事司法に期待するものは、端的に言えば、国民が利用者として容易に司法へアクセスすることができ、国民に分かりやすいプロセスにより、多様なニーズに応じた適正・迅速かつ実効的な司法救済を得られるということである。具体的には、何よりもまず民事訴訟を充実・迅速化すること、今後ますます増加することが予想される知的財産権に関する訴訟など専門的知見を要する事件への対応を強化すること、裁判の結果が確実に執行されるよう民事執行制度を強化することが課題となる。

  イ 民事訴訟の充実・迅速化

 民事裁判については、国民に利用しやすく、分かりやすいものとするために、新民事訴訟法が制定され、少額訴訟等、裁判所へのアクセスを容易にするための工夫がなされ、また、審理の充実・迅速化を図るための様々な工夫が施されてきた。そのような審理の充実・迅速化を図る方策としては、例えば、争点及び証拠の整理手続の整備、集中証拠調べの規定の新設、釈明制度の改正、随時提出主義から適時提出主義への転換、証拠収集手続の拡充(文書提出命令の拡充、当事者照会制度の導入等)などを挙げることができる。また、民事訴訟規則では、進行協議期日の新設のほか、大規模訴訟につき審理計画を定めるべきものとしたことが注目される。

 この結果、民事訴訟の審理期間は全体として短縮されてきているが、当事者が多数にわたる事件や専門性の高い事件などの中には、依然として長期間を要するものが見られる。

 そこで、これらの事件を中心として、なお一層の審理の充実・迅速化を図ることが、国民の期待に応える民事司法を実現するための主要な課題となる。そのためには、訴訟手続の在り方の見直しのみならず、弁護士の増加、その執務態勢の強化を図り、更に裁判官の増加を始めとする裁判所の人的・物的体制の強化等を図る必要がある。

   (ア) 計画審理

 新民事訴訟法による手続改革の結果、地裁第一審民事訴訟事件全体の平均審理期間は9.3か月に短縮されたが、事実に争いがなく、人証調べが行われなかった事件を除くと、平均審理期間は20.8か月に及んでいる(平成10年)。争点や取り調べるべき人証のより多い複雑な事件においては、審理期間は更に長期に及ぶものと考えられる。

 事実に争いがある事件の中の標準的事件(争点の数が2〜3個、取調べ人証の数が2〜3人程度)、更には複雑な事件を、司法の利用者たる国民の期待する合理的期間内に終結させるためには、訴訟の早い段階から審理の終期を見通し、手続の進行過程を計画的に定めた計画審理を実施することが有効と考えられる。また、計画審理は、訴訟に要する費用の負担と時間の予測可能性を高め、裁判を分かりやすくするとの観点からも有益である。

 問題は、計画審理を実効的に実施するには、いかなる方策をとるべきかである。具体的には、新民事訴訟規則が大規模訴訟について設けている審理計画を立てるべき旨の定めを、標準的事件についても法律又は規則で規定すること、また、審理計画を立てても遵守されなければ計画審理は実行されないから、審理計画を実効あらしめるために、当事者が準備のため早期に証拠を収集し得る手段を導入すること、訴訟の類型ごとに標準的審理期間を定めること、審理計画を遵守させるための裁判所の訴訟指揮権を強化することなどが提案されている。

 当審議会は、計画審理を実効的に実施するために、少なくとも、次のような方策を講じるべきであると考える。

 新民事訴訟法が講じている諸方策を活用し、運用として、標準的事件についても、手続の早い段階で、裁判所と両当事者との協議に基づき、審理の終期を見通した審理計画を定め、それに従って計画審理を実施するとの実務を定着させていくべきである。

 さらに、標準的事件について法律又は規則により審理計画を定めるための協議をすべきこととしたり、訴え提起前を含め準備のための早期の証拠収集を可能とするための手段を拡充すべきである。

 なお、簡易な訴訟を迅速に処理するとともに、裁判所の限られた人的・物的資源を複雑、高度な事件に集中させ、全体としての効率性を高めるとの観点から、地方裁判所において、訴額を基準として通常の訴訟手続とは別に簡易迅速な処理を可能にする裁判手続を導入するべきとの指摘もあるが、その必要性については、更に検討すべきである。

   (イ) 証拠収集手続の拡充

 計画審理により民事裁判の充実・迅速化を推進するには、早期に審理計画を定め、争点整理をする必要があるが、それには当事者が早期に証拠を収集する実効的手段が用意されなければならない。このことは、特に証拠が構造的に偏在している事件について妥当する。

 証拠収集手続の拡充は、新民事訴訟法制定作業の過程においても、中心的課題の一つであった。同法は、この課題に応えるため、相手方又は第三者の所持する文書の証拠としての利用を可能とする文書提出命令制度を拡充するとともに、米国の「質問書」の制度を参考として当事者照会の制度を新設した。また、文書提出命令制度の拡充に伴って、検証物提出命令制度も拡充されることとなった。これらによって、当事者が、旧法に比し、より実効的に証拠を収集できるようになったことは疑いない。しかしながら、文書提出義務には、証拠の所持者の権利にも配慮した例外があり、当事者照会制度には、回答義務違反に対する直接的な制裁の定めがない。また、早期の証拠収集手段である証拠保全手続は、改正されることなく、あらかじめ証拠調べをしておかないとその証拠の使用が困難となる事情のある場合に利用できるのみとなっている。なお、公文書の提出義務については、改正が留保され、実質的に旧法のままとなっている。

 米国は、ディスカバリー(証拠開示)と呼ばれる一連の証拠収集制度を有しており、我が国の新法の下での証拠収集手続に比べ、総体として見るとき、証拠収集手段としての広汎性、実効性の点では強力であると考えられるが、一方で、その弊害への懸念も指摘されている。

 そこで、計画審理の推進のため、証拠収集手続の更なる拡充、特に早期の手続段階における証拠収集手段の拡充を図るべきか(その際、証拠の所持者の側の権利の確保との適切な調和をどう考えるのかについても検討が必要)が問題となる。

 当審議会は、少なくとも、訴えの提起前の時期を含め、当事者が早期に証拠を収集するための手段を拡充すべきであると考える。米国のディスカバリーに相当する制度の導入の可否、その他の証拠収集手段の拡充改善の具体策については、更に検討すべきである。

  ウ 専門的知見を要する事件への対応強化

 科学技術の革新、社会・経済関係の高度化、国際化に伴って、民事紛争のうちにも、その解決のために専門的知見を要する事件(知的財産権関係事件、医療過誤事件、建築瑕疵事件、労働関係事件等)が、増加の一途をたどっている。これらの紛争に関わる民事訴訟においては、専門家の適切な協力を得られなければ、適正な判断を下すことができないばかりか、往々にして手続の遅滞を生じ、そのことが一般事件の迅速・適正な解決を妨げることにもなる。また、裁判外紛争解決手続においても、専門家の適切な関与が不可欠である。様々の形態における専門家の紛争解決手続への関与を確保し、充実した審理と迅速な手続をもって、これらの事件に対処することは、現代の民事司法の重要かつ喫緊の課題である。

 とりわけ、知的財産権関係事件に対する訴訟の充実・迅速化は、各国とも知的財産をめぐる国際的戦略の一部であり、訴訟手続に関する制度的整備と併せて、裁判所の執務体制の整備・強化、専門化した裁判官、弁護士等の人材の育成・増強など、知的財産権関係訴訟に関わる人的基盤の強化等をもって対応すべき課題である。

   (ア) 専門家の活用

    a. 鑑定制度の改善

 専門的知見を要する訴訟の充実・迅速化を図るには、まず裁判官に対する専門的知見の提供のための伝統的制度である鑑定の活用が不可欠であるが、実務上その事件に適切な鑑定人を見いだし、鑑定を引き受けてもらうことが困難であると言われる。また、鑑定を引き受けてもらえたとしても、鑑定に長期間を要し、それがしばしば訴訟の遅延の原因となっている。

 当審議会は、少なくとも、裁判所において、鑑定人の名簿を組織的に整備することに加え、専門家団体との継続的な連携を図るなど、鑑定人推薦のためのシステムを強化する方策をとるべきであると考える。これ以外の鑑定制度の改善のための具体策については、更に検討すべきである。

    b. 専門委員、専門参審制など専門家の関与

 専門的知見を要する訴訟では、手続の早い段階から専門家の関与を得ることが望ましいことから、争点整理のためにも、専門家が裁判官とともに審理に立ち会うことができる制度を導入すべきとの提言がなされている。しかし、専門家が裁判所の構成員あるいはこれに準ずる地位に就くと、事実認定あるいは法的判断に際し利用される専門知識が、当事者の知り得ない場面で裁判官に提供されるおそれもあり、審理の透明性が確保されないおそれがあるという意見もある。

 そこで、既存の鑑定、裁判所調査官などの制度のほか、専門家の審理への立会いを認める新たな制度を導入すべきか、仮に導入する場合に、裁判官の判断のために提供される資料を知り、これについて意見を述べるという当事者の権利を不当に害することがないようにするには、いかなる制度が考えられるかが問題となる。

 当審議会は、この点について、次のように考える。

 専門家の手続関与を認める制度としては、既存の制度のほか、専門参審制、専門委員(専門的司法委員)制度などが、一応考えられるが、そのうちいかなる専門訴訟にどの制度を導入することが適切か、既存の制度に加えて新たな制度を導入すべきかについては、それぞれ専門性の種類に応じて、個別に検討すべきである。

 専門委員制度については、専門委員は、中立的な専門的助言者として、争点整理など手続の必要な局面だけに関与し、当事者もその専門的意見を知り、これに対して自己の意見を述べ得る状況にあるから、裁判官の中立公平等に疑義の生じない場合には、その導入を図るべきである。

 なお、専門参審制については、裁判官の心証過程が不透明になるおそれがないか、当事者が裁判官の判断資料を知り意見を述べる権利を不当に侵害することにならないかなどにつき、更に検討すべきである。

    c. 弁護士、裁判官の専門化等

 専門的知見を要する事件を適正迅速に処理するためには、専門家の活用に加え、法曹の専門性強化も必要である。当審議会は、弁護士や裁判官の専門性を強化する見地からも、弁護士事務所の法人化・共同化、多様な学歴・経歴をもつ人材の受入れを可能とする法曹養成制度の改革や継続教育の充実が重要であると考える。

   (イ) 知的財産権関係事件への対応強化

 知的財産権関係事件への対応の強化は、前記のとおり、我が国においても知的財産に関する国際的戦略の一部をなすと考えられるところ、東京、大阪両地方裁判所は、かねてそれぞれ専門部を設け、この種の事件の処理に精通した裁判官、技術専門家である裁判所調査官を配置して、専門的処理体制を整備してきた。これを受けて、新民事訴訟法は、知的財産権関係訴訟につき、東京、大阪両地方裁判所にいわゆる競合管轄を認め、事件の両地方裁判所への集中化を図った。

 知的財産権関係事件への対応の重要性にかんがみ、両地方裁判所をこの種の訴訟の専属管轄裁判所とすることを含めて、この種の事件に対する更なる対応強化策が問題となる。

 当審議会は、少なくとも、知的財産権関係訴訟への対応を強化するため、知的財産の専門部を一層拡充し、専門化された裁判官や技術専門家である裁判所調査官を集中的に投入したり、専門委員又は専門参審制など専門家の手続関与を得る新たな制度を導入するなどして、専門的処理体制を一層強化し、実質的に「特許裁判所」の機能を果たさせるとともに、日本弁護士連合会及び弁理士会による工業所有権仲裁センターを拡充・活性化させるべきであると考える。

 なお、東京、大阪両地方裁判所の知的財産権関係訴訟についての管轄を専属管轄とすることについては、更に検討すべきである。

   (ウ) 労働関係事件への対応強化

 労働関係事件に関する国の代表的な紛争解決制度としては、労働委員会の救済命令制度と裁判所における民事訴訟とがあるが、これらは、現実に存在する労働関係事件のごく一部を処理しているにすぎないと言われている。それは、近年、労働関係事件のうち、個別労働関係事件が増加しているのに、労働委員会は個別労働関係事件を扱わず、また現在の裁判所は、諸外国の労働裁判所に見られるような、労働関係事件固有の組織、訴訟手続を持たないことに、その主要な原因の一つがあると指摘されている。

 集団的労働関係事件については、不当労働行為に対する労働委員会の救済命令に対し、使用者が取消しの訴えを提起するときは、その第一審管轄裁判所は地方裁判所であり、そのことは、中央労働委員会が再審査申立てにつき発した命令に対して、取消しの訴えが提起された場合にも変わりがないから、この場合には、事実上5審制を認めた結果になり、労働者の救済の確定が著しく遅れるとの問題点が指摘されている。

 そこで、個別労働関係事件については、訴訟に代わる裁判外紛争解決手続の要否、設けるとした場合のその在り方が、また集団的労働関係事件については、「事実上の5審制」の解消など、労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方が、問題となる。

 より抜本的には、労働関係事件に固有の裁判機関、訴訟手続の創設の提言もなされている。

 これらの問題点に対する対応の方向性については、更に検討すべきである。

   (エ) その他

 その他の専門的知見を要する事件(例えば、医療過誤事件、建築瑕疵事件)についても、前記(ア)で述べたように、当審議会は、鑑定制度の改善を図るとともに、手続の早期の段階から専門家の関与を得ることについては、裁判官の中立公平等に疑義が生じることがないかを検討しつつ、それぞれの事件の性質に応じて適切な方策を講じ、また裁判所の執務体制の整備等の対応強化策を検討すべきであると考える。

  エ 民事執行制度の強化−権利実現の実効性の確保

 判決等で認められた権利の実現のためには、しばしば強制執行による実現を必要とし、これが実効性を持たなければ、判決等は絵に描いた餅にすぎないことになる。

 金銭債権に基づく強制執行について直接強制のみを認めている現行法のもとでは、債権額が少ない場合に、強制執行によると、その債権額に不相応な時間と費用を要し、「費用倒れ」となる。また、金銭債権についての勝訴判決等を取得しても、債務者がどのような財産を有するかが分からず、債務者が故意に所有財産を隠匿する等のために強制執行を行うことができない場合もある。

 平成8年の民事執行法改正による引渡命令の相手方の拡大、平成10年の同法改正による執行官の調査権限の拡充、新たな保全処分の創設等により、濫用的な短期賃貸借は、競売手続上、より的確かつ迅速に排除することが可能となっている上、平成11年11月24日の最高裁大法廷判決が、抵当権の効力として、抵当不動産の不法占有者に対する妨害排除請求権の代位行使を認めるなど、抵当権者及び買受人がとり得る手段は広がっている。しかしながら、依然として短期賃貸借の濫用と認められる事例や、競売の対象となった不動産を占有し、売却を困難にして手続を遅延させたり、買受人に多額の立退料を要求する、いわゆる占有屋による執行妨害の事例などが指摘されている。

 当審議会は、このような問題点、指摘を踏まえ、少なくとも、権利実現の実効性を確保するという見地から、債務者の履行促進のための方策、債務者の財産を把握するための方策、占有屋等による不動産執行妨害への対策など民事執行制度を改善するための新たな方策を導入すべきであると考える。そのための具体的方策については、更に検討すべきである。

 また、権利実現の実効性の確保という見地からは、家事事件に関する審判・調停により定められた義務の履行の確保のための制度についても改善すべき点がある。家庭裁判所による履行勧告の制度には強制力はないが、扶養料や養育費等の金銭債務については家庭裁判所による履行命令の制度があり、これに従わない者は、過料に処せられる上、家庭裁判所による履行確保の方策とともに、家事審判に基づいて一般の強制執行を行うこともできる。しかし、これらの現行法上の方策によっては、扶養料等の履行を確保するのに十分でないとの指摘もある。

 当審議会は、家事事件に関する審判・調停により定められた義務の履行確保のための制度を実効化するべきであると考える。そのための具体的方策については、更に検討すべきである。

  オ 司法の行政に対するチェック機能の強化

 そもそも、裁判所は、統治構造の中で三権の一翼を担い、司法権の行使を通じて、抑制・均衡の統治体系を維持し、国民の権利、自由の保障を実現するという重要な役割を持つものであるが、21世紀の我が国社会で司法の比重が増大していくことや、行政訴訟制度の在り方について、従来、様々な批判や提言がなされてきたこと等を踏まえると、行政に対する司法のチェック機能を充実させることは重要である。そうした視点から、行政訴訟制度の改革が不可避であるが、その具体的方策については、更に検討すべきである。

(3) 国民の期待に応える刑事司法の在り方

  ア 刑事司法に対する国民の期待−その使命・役割−

   (ア) 実体的真実発見(事案の真相の解明)と適正手続の保障

 刑事司法の使命について、当審議会は、「論点整理」において、「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障を全うしつつ、的確に犯罪を認知・検挙し、公正な手続を通じて、事案の真相を明らかにし、適正かつ迅速に刑罰権の実現を図ることにより、社会の秩序を維持し、国民の安全な生活を確保することにある。」と表現した。刑事手続は、その性質上、必然的に被疑者・被告人その他の関係者の権利の制約、制限を伴うものである。それは、事案の真相を明らかにし、適正かつ迅速な刑罰権の実現を図ることを通じて、社会の秩序を維持し国民の安全な生活の確保に寄与するという目的の下で、かつ適正な手続を経ることにより(憲法第31条以下の刑事手続に関する諸規定)、はじめて正当化されるものである。すなわち、適正手続の保障の下で実体的真実の発見(事案の真相の解明)が求められているのであり、両者を相互に排斥し合うものとして位置付けたり、それを前提としていずれか一方のみを強調するような考え方は相当とは言えない。また、それらの要請を抽象的レベルでのみ捉えるだけで、直ちに具体的な制度の在り方が導き出されるものでもない。

 刑事司法には、前記のとおり、今後の自由かつ公正な社会を支えるため、公正な手続を通じて、ルール違反に対する的確なチェック、効果的な制裁を科すことが一層強く求められることとなる。そうした時代・社会の要請を見定めながら、刑事司法を支える具体的諸制度につき、現状の問題点を冷静かつ公正な視点から点検した上、被疑者・被告人の防御権の保障等憲法の人権保障の理念を踏まえ、国民の期待に応え得る適切な制度の在り方を検討するという姿勢を有することが最も必要なことと考えられる。

   (イ) 犯罪者の改善更生、被害者等の保護

 我が国の刑事司法は、これまで、犯罪者が社会復帰を果たし、再び犯罪を犯さないようにその改善更生を図っていく上でも、重要な役割を果たしてきた。それは、当該犯罪者自身の福利に役立つのみならず、社会の平穏な秩序を維持し、国民生活の安全を確保することにも寄与するものである。今後の社会においても、こうした役割は更に重要性を増すものと考えられ、犯罪者の矯正処遇、更生保護に関わる制度及び人的体制の充実には一層の意を用いていかなければならない。

 また、刑事司法においては、従来、被害者の権利保護という視点が乏しかった面があるが、近時、この問題に対する社会的関心が大きな高まりを見せ、被害者やその遺族に対する一層の配慮と保護の必要性が改めて認識され、そのための諸施策が講じられつつある(犯罪被害者対策関係省庁連絡会議の設置、いわゆる犯罪被害者保護に関する二法の成立など)。刑事手続の中で被害者等の保護・救済に十分な配慮をしていくことは、刑事司法に対する国民の信頼を得る上でも重要であり、こうした取組は歓迎されるべきことで、今後も一層の充実を図っていくことが必要である。そして、この問題に関しては、刑事司法の分野にとどまらず、被害者等への精神的、経済的ケアも含めて、幅広く社会的な支援体制の整備が必要となる。

  イ 刑事裁判の充実・迅速化

 刑事裁判の実情を見ると、通常の事件についてはおおむね迅速に審理がなされているものの、国民が注目する特異重大な事件にあっては、第一審の審理だけでも相当の長期間を要するものが珍しくなく、こうした刑事裁判の遅延は国民の刑事司法全体に対する信頼を傷つける一因ともなっていることから、刑事裁判の充実・迅速化を図るための方策を検討すべきである。

 その基本的な方向は、真に争いのある事件につき、当事者の十分な事前準備を前提に、集中審理の下、裁判所の適切な訴訟指揮を背景として、明確化された争点を中心に当事者が活発な主張立証活動を行い、効率的かつ効果的な公判審理の実現を図ること、そのための人的体制の整備及び手続的見直しを行うことである。

   (ア) 弁護体制等の整備

 集中審理を実現するためには、弁護人を含む関係当事者の人的体制を整備することが必要であり、具体的には以下の諸点に留意すべきである。

   (イ) 第一審の審理期間や公判期日の開廷間隔(上限)の法定について

 第一審の審理期間や公判期日の開廷間隔を法定化することは、審理の迅速化につながる有力な方策であるとの見方もある。しかしながら、その実効性に対する疑問や被告人側の防御権への影響についての懸念もあり、慎重に検討すべきである。

   (ウ) 争点整理手続の在り方

 審理の充実・迅速化のためには、早期に事件の争点を明確化することが不可欠であるが、第一回公判期日前の争点整理に関する現行法令の規定は、当事者の打合せを促す程度のものにとどまり、実効性に乏しいことなどから、必ずしも十分に機能していない。そうした現状を踏まえ、次のような方向で具体的な改善策を検討すべきである。

   (エ) 証拠開示(主に検察官による証拠開示について)

 検察官の取調べ請求予定外の証拠の被告人・弁護人側への開示については、これまで、最高裁判例の基準に従った運用がなされてきたが、その基準の内容や開示のためのルールが必ずしも明確でなかったこともあって、開示の要否をめぐって紛糾することがあり、円滑な審理を阻害する要因の一つになっていた。

 こうした現状を踏まえ、公判の充実・迅速化の観点から、以下のような方向で証拠開示を拡充していくべきである。

   (オ) 裁判所の訴訟指揮権の実効性を確保するための方策について

 裁判所が適正な訴訟運営のため必要な場合に適切かつ実効性のある形で訴訟指揮権を行使できることは重要なことであり、そのために、少なくとも、訴訟当事者(検察官、弁護人)と裁判所が、基本的な信頼関係の下に、互いに協力し支え合っていく姿勢を持つことが不可欠の前提であり、また、当事者の訴訟活動の質や裁判官の訴訟運営能力の向上を図っていく必要がある(ただし、具体的な方策として、例えば、法廷侮辱罪のような制裁措置を設けることについては、これを疑問視する意見が複数示された。)。

   (カ) 直接主義・口頭主義の実質化(公判の活性化)のための方策

 伝聞法則(他人から伝え聞いたことを内容とする証言を証拠とすることや公判外でなされた話を記録した文書などを公判での証言に代えて用いることを原則として禁止するもの)等の運用の現状については異なった捉え方があるが、運用を誤った結果として書証の取調べが裁判の中心を占めるようなことがあれば、公判審理における直接主義・口頭主義(裁判所自らが、公判廷で証拠や証人を直接調べて評価し、当事者の口頭弁論に基づいて裁判をするという原則)を後退させ伝聞法則の形骸化を招くこととなりかねない。

 この問題の核心は、争いのある事件につき、直接主義・口頭主義の精神を踏まえ公判廷での審理をどれだけ充実・活性化できるかというところにある。そうした争いのある事件につき、集中審理の下で、明確化された争点をめぐって当事者が活発に主張・立証を行い、それに基づいて裁判官が心証を得ていくというのが本来の公判の姿であり、それを念頭に置き、関連諸制度の在り方を検討しなければならない。

   (キ) 争いのある事件とない事件の区別(捜査・公判手続の合理化、効率化ないし重点化のために考えられる方策)

 争いのある事件とない事件を区別し、捜査・公判手続の合理化・効率化を図ることは、公判の充実・迅速化(メリハリの効いた審理)の点で意義が認められる。

 その具体的方策として、英米において採用されているような有罪答弁制度(アレインメント)を導入することには、被告人本人に事件を処分させることの当否や量刑手続の在り方との関係等の問題点があるとの指摘もあり、現行制度(略式請求手続、簡易公判手続)の見直しをも視野に入れつつ、更に検討すべきである。

  ウ 被疑者・被告人の公的弁護制度の在り方

   (ア) 公的費用による被疑者弁護制度について

    a. 導入の意義、必要性

 刑事司法の公正さの確保という点からは、被疑者・被告人の権利を適切に保護することが肝要であるが、そのために格別重要な意味を持つのが、弁護人の援助を受ける権利を実効的に担保することである。しかるに、資力が十分でないなどの理由で自ら弁護人を依頼することのできない者については、現行法では、起訴されて被告人となった以後に国選弁護人を付すことが認められているにとどまる。被疑者については、弁護士会の当番弁護士制度や法律扶助協会の任意の扶助事業によって、その空白を埋めるべく努力されてきたが、そのような形での対処には自ずと限界がある(関連して、少年事件の弁護士付添人についても、ほぼ同様の状況にある。)。これに加え、前述の充実・迅速な刑事裁判の実現を可能にする上でも、刑事弁護体制の整備が重要となる。このような観点から、少年事件をも視野に入れつつ、被疑者に対する公的弁護制度を導入し、被疑者・被告人の弁護体制を充実させる方向で、具体的な制度の在り方とその条件につき幅広く検討すべきである。

    b. 導入のための具体的制度の在り方

 具体的制度を設けるに当たっては、以下の内容を考え方の基本とすべきである。

   (イ) 少年審判手続における公的付添人制度

 少年事件の特殊性や公的弁護制度の対象に少年の被疑者を含んだ場合とのバランスなどを考慮すると、少年審判手続への公的付添人制度の導入について積極的に検討すべきである。なお、検討に当たっては、少年審判手続の構造や家裁調査官との役割分担、付添人の役割なども考慮される必要がある。

  エ 新たな時代における捜査・公判手続の在り方

 我が国の社会・経済が急速な変化を遂げつつある今日、犯罪の動向も複雑化、凶悪化、組織化、国際化の度合いを強めているが、従来の捜査・公判手続の在り方ないし手法ではこれに十分対応し切れず、刑事司法はその機能を十分発揮し難い状況に直面しつつある。そこで、刑事司法がその本来の使命を適切に果たせるよう、人権保障に関する国際的動向も踏まえつつ、新たな時代における捜査・公判手続の在り方を検討しなければならない。

   (ア) 新たな時代に対応し得る捜査・公判手続の在り方(具体的方策)

    a. 刑事免責制度等の新たな捜査手法の導入

     (a) 刑事免責制度の導入の是非

 刑事免責制度により供述を確保する捜査方法の導入は、組織的犯罪等への有効な対処方策であると認められる(組織の実態、資金源等についての供述を得る有効な手段となり得る。)。一方で、我が国の国民の法感情、公正感に合致するかなどの問題もあり、一概に結論を導くことは困難であって、今後、多角的な見地から検討がなされなければならない課題である。

     (b) 参考人の協力確保のための方策、参考人保護のための方策

 刑事司法にとって参考人の協力が欠かせないことは論をまたず、今後の社会の変化の中で参考人の協力を確保するための方策が一層重要となる。

 そのための方策として、捜査段階における参考人の出頭強制制度の導入なども提案されているが、そうした手法が果たして我が国になじむものかどうか定かでなく、現行法上の起訴前証人尋問制度の拡充という方法も視野に入れつつ、今後、種々の観点から十分な検討がなされるべき課題である。

 他方で、参考人の協力を確保する前提として、協力した参考人には適切な保護が与えられることが必要であり、参考人保護のための方策も併せて検討すべきである。

    b. 国際捜査・司法共助制度の拡充強化

 前述のとおり犯罪の国際化等が今後一層進展し、各国が協調して犯罪の予防及び撲滅へ効果的・効率的に取り組んでいく必要性がつとに指摘されていることを踏まえ、今後、適正手続の保障の下、国際捜査・司法共助制度の一層の拡充・強化を図っていくことが不可欠である。

   (イ) 被疑者・被告人の身柄拘束に関連する問題

    a. 被疑者・被告人の身柄拘束に関連して指摘されている問題点への対応

 被疑者・被告人の身柄拘束に関しては、代用監獄の在り方、起訴前保釈制度、被疑者と弁護人の接見交通の在り方、令状審査、保釈請求に対する判断の在り方など種々の問題の指摘がある(国際人権規約委員会の勧告等)。そうした指摘をどのように受け止めるかについては、現状についての評価の相違等に起因して様々な考え方があり得ることから、直ちに具体的結論を得ることは困難である。しかしながら、我が国の刑事司法が適正手続の保障の下での事案の真相解明を使命とする以上、被疑者・被告人の不適正な身柄拘束が防止・是正されなければならないことは当然である。それらの問題指摘の背景にある原因等を慎重に吟味しながら、今後とも、刑事手続全体の中で、制度面、運用面の双方において改革、改善のための検討を続けるべきである。

    b. 被疑者の取調べの適正を確保するための措置について

 被疑者の取調べは、それが適正に行われる限りは、真実の発見に寄与するとともに、実際に罪を犯した被疑者が真に自己の犯行を悔いて自白する場合には、その改善更生に役立つものである。

 しかしながら、他方において、被疑者の自白を過度に重視する余り、その取調べが適正さを欠く事例が実際に存在することも否定できない。我が国の刑事司法が適正手続の保障の下での事案の真相解明を使命とする以上、被疑者の取調べが適正を欠くことはあってはならず、それを防止するための方策は当然必要となる。

 その具体的な方策として、取調べ過程・状況の書面による記録を義務付けることは、最低限必要な措置と言え、記録の正確性、客観性を担保できるような制度的工夫が施されるよう、更なる検討をすべきである。

 さらに、それだけでは不十分であるとして、取調べ状況の録音、録画や弁護人の取調べへの立会いを認めるべきとの意見があったが、被疑者の取調べの機能の捉え方や重点の置き方の違いから、それらに消極的な意見もあり、結論を得るに至っていない。

 なお、こうした方策のいかんにかかわらず、前述の被疑者に対する公的弁護制度が確立され、被疑者と弁護人との接見が十分なされることにより、取調べの適正さの確保に資することになるという点は重要であり、その充実が図られるべきである。

   (ウ) 検察官の起訴独占、訴追裁量権の在り方

 検察官の起訴独占、検察官への訴追裁量権の付与は、全国的に統一かつ公平な公訴権の行使を確保し、また個々の被疑者の事情に応じた具体的妥当性のある処置を可能にするものであるが、他方において、国民の期待に応え得るよう、検察官による公訴権行使に民意を反映させていくことも重要である。その観点から現行の検察審査会制度の機能強化を検討することは意義のあることと考えられる。(他方、この問題は、国民の司法参加という観点からも重要な課題であることから、そこで改めて言及することとする。)。


5.国民の司法参加ー国民的基盤の確立ー

(1) 意義

  ア 司法参加拡充の必要性

 21世紀の我が国社会において、国民は、これまでの統治客体意識に伴う国家への過度の依存体質から脱却し、自らのうちに公共意識を醸成し、公共的事柄に対する能動的姿勢を強めていくことが求められており、国民主権に基づく統治構造の一翼を担う司法の分野においても、「公」を担う国民が、自律性と責任感を持ちつつ、広くその運用全般について、多様な形で参加(関与)できるよう司法参加を拡充する必要がある。

 また、司法ないし裁判の過程が法律専門家以外の国民に分かりにくいという指摘がなされているが、国民が法曹とともに司法の運営に広く関与するようになれば、司法と国民との接地面が太く広くなり、司法に対する国民の理解が進み、司法ないし裁判の過程が国民に分かりやすくなる。その結果、司法の国民的基盤はより強固なものとして確立される。このような観点からも司法参加を拡充する必要がある。

  イ 司法参加拡充の視点

 我が国において、昭和3年から同18年までの間、刑事訴訟事件の一部について陪審制度(ただし、陪審の答申は裁判所を拘束しない。)が実施されていた。現行司法参加制度を見ると、調停委員、司法委員、検察審査会等の制度があるものの、司法全体としては、国民が司法の運営に対し参加(関与)し得る場面はかなり限定的である上、参加(関与)の場面で国民に与えられている権限もまた限定的であると言える(なお、裁判所法第3条第3項参照)。

 これらの参加制度の改革を含め、司法参加の拡充の具体的な在り方については、以下に述べるように、裁判手続、裁判官の選任過程並びに裁判所、検察庁及び弁護士会の運営など様々な場面を念頭に置き、国民の司法参加に関する我が国のこれまでの経験や参加の対象となる手続等の性質をも踏まえつつ、適切な参加の仕組みを総合的・多面的に検討していく必要がある。

 これらの参加の場面において、法律専門家である法曹と参加(関与)する国民は、相互の信頼関係の下で、十分かつ適切なコミュニケーションをとりながら協働していくことが求められている。そのためには、国民が、公共的事柄へ能動的に参加し、そのための負担を受け入れるという意識改革をすることが不可欠となる。他方、国民の期待・信頼に応え得る法曹を育て、確保していくことも必要であり、参加拡充の在り方を考えるに当たっては、法曹養成制度の改革、弁護士改革、裁判官制度の改革との関係にも留意する必要がある。

(2) 参加拡充の在り方

  ア 裁判手続への参加

   (ア) 訴訟手続への新たな参加制度

 現在、我が国では、司法の中核をなす訴訟手続そのものへの参加はかなり限定的であり、当審議会も、「論点整理」において、「司法を国民により身近で開かれたものとし、また司法に国民の多元的な価値観や専門知識を取り入れるべく、欧米諸国で採用されているような陪審・参審制度などについても、その歴史的、文化的な背景事情や制度的、実際的な諸条件に留意しつつ、導入の当否を検討すべきである。」と指摘した。

 司法は、独立の保障の下に、法に従い、多数意思に基づいて行われる立法・行政をチェックし、国民の権利、自由を保護するという機能を有しており、政治部門とは、民意によるコントロールという点において、やや趣を異にする。

 しかし、国家への過度の依存体質から脱却し、公共的事柄に対する能動的姿勢を強めていくことが求められる国民が、裁判の過程に参加(関与)し、裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されるようになることによって、国民の司法に対する理解・支持が深まり、司法はより強固な国民的基盤(民主的正統性)を得ることができるようになる。このような意味において、訴訟手続への国民参加は国民主権の原理と関連する。「論点整理」が、司法を国民により身近で開かれたものとし、また司法に国民の多元的な価値観や専門知識を取り入れるべく、陪審・参審制度などについて導入の当否を検討すべきであるとしているのは、このような趣旨によるものである。

 したがって、訴訟手続への国民参加を考えるに当たっては、裁判の過程がより国民に開かれたものとなり、裁判内容に国民の健全な社会常識が反映されることによって、国民の司法に対する理解・支持が深まるようにするためにはどのような制度が望ましいかという観点が重要となる。

 他方、自律性と責任感をもって参加することが求められる国民の問題として見た場合、国民が、法曹とのコミュニケーションを通じて訴訟手続に参加していく中で、その主体性をいかにして確保していくかという観点もまた重要である。

 当審議会は、このような認識の下に、訴訟手続への新たな参加制度について審議した結果、現段階において、以下のとおり合意するに至った。

 陪審・参審制度にも見られるように、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、訴訟手続において裁判内容の決定に主体的、実質的に関与していくことは、司法をより身近で開かれたものとし、裁判内容に社会常識を反映させて、司法に対する信頼を確保するなどの見地からも、必要であると考える。

 今後、欧米諸国の陪審・参審制度をも参考にし、それぞれの制度に対して指摘されている種々の点を十分吟味した上、特定の国の制度にとらわれることなく、主として刑事訴訟事件の一定の事件を念頭に置き、我が国にふさわしいあるべき参加形態を検討する。

   (イ) 現行の参加制度の改革

 現行の裁判手続への参加(関与)の制度としては、民事調停、家事調停に対する民事調停委員、家事調停委員としての関与、家事審判に対する参与員としての関与、簡易裁判所における和解・裁判に対する司法委員としての補助的関与がある。

 これらの制度は、委員が最高裁判所規則で定める資格を有する一部の国民(例えば、民事・家事調停委員は、弁護士となる資格を有する者、民事・家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢40歳以上70歳未満の者の中から、最高裁判所が任命することとされている。)の中から選任されるという意味で、限定的な参加(関与)の制度ではあるが、法曹以外の国民もこれらの委員として民事・家事の裁判手続に関与し得る司法参加制度として、これまで相当の機能を果たしてきた。しかし、これらの委員として、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識経験を有する者を国民から幅広く得ることができていないのではないかといった問題点も指摘されている。

 このような指摘を踏まえ、国民の司法参加の拡充という観点から、これらの制度を更に充実強化するため(なお、その他の調停制度の拡充の方策については、前記4.(1)オの裁判外の紛争解決手段(ADR)の拡充・活性化を参照)、委員選任方法を含め、調停委員、司法委員及び参与員に、年齢、職業、知識、経験等において多様な人材を確保するための方策などを検討すべきである。

  イ 裁判官選任過程等への参加

 前記のとおり、国民の司法参加は、裁判手続への参加に限定されるわけではなく、裁判官選任過程への国民の参加(関与)という視点も必要である。今後、さらに、このような視点も踏まえ、前記3.(3)ウの裁判官制度の改革において、裁判官任命手続の見直しについての検討の中で言及したように、判事に任命されるべき者の指名過程に国民の意思を反映させるなど任命手続の見直しの具体策を検討する。

  ウ 裁判所、検察庁、弁護士会運営への参加

 司法が、国民にとって身近なものとなり、国民の信頼に支えられた強固な存在となるため、司法の中核に位置する裁判所についてはもちろん、弁護士会や検察庁を含め、司法全般の運営の在り方について、広く国民の声を聴取し反映させることは有意義なことである。

 現在でも、例えば、各家庭裁判所に、その運営について地域社会とのつながりを深め民意を反映していくという趣旨から、家庭裁判所委員会が設置されており、その委員として、法曹三者以外に地方公共団体の職員や学識経験者が選任され、委員会を構成している。また、弁護士会については、法曹三者以外に、学識経験者が、綱紀・懲戒委員会の参与員、委員として、弁護士の綱紀・懲戒手続に関与している。

 司法の国民的基盤を強化する等の見地から、これらの現行制度の充実を図ることはもとより、それ以外にも、裁判所、検察庁、弁護士会の運営について、広く国民の声を聴取し反映させることが可能となるような仕組みを検討すべきである。

  エ その他

   (ア) 検察審査会

 公訴権の実行に関し民意を反映せしめてその適正を図るために設けられた検察審査会の制度は、現在全国に設けられている201の審査会の構成員である検察審査員を選挙権を有する者の中から抽選により選定する点で、まさに国民の司法参加制度と評価できる。これまで、種々の問題点を指摘されながらも、現行の司法参加制度の一つとして、相当の機能を果たしてきたことは確かである。

 前記4.(3)エ(ウ)の検察官の起訴独占、訴追裁量権の在り方において述べたように、検察官による起訴独占、検察官への訴追裁量権の付与は、統一かつ公平な公訴権の行使を確保し、個々の事情に応じた具体的妥当性のある処置を可能にするものであるが、他方で、公訴権行使に民意を反映させていくことも重要である。

 そのような観点から、司法参加制度としての検察審査会制度の機能を更に拡充すべく、検察審査会の一定の議決に対し法的拘束力を付与する方向で、被疑者に対する適正手続の保障にも留意しつつ、検察審査会の組織、権限、手続の在り方や起訴、訴訟追行の主体等について検討すべきである。

   (イ) 保護司

 犯罪や非行を行った者の更生保護は刑事司法の延長線上に位置し、保護司が、保護観察官の補完的作用を担って、民間ボランティアとして無報酬で更生保護関係の事務に従事することも、広い意味では国民の司法参加制度として評価することができる。保護司は、現在も保護観察や矯正施設収容者の環境調整等の場面で相当の貢献をしているが、適任者を確保することの困難さ、高齢化等の問題点が指摘されている。

 国民の司法参加の拡充という観点からも、この制度を更に充実させるため、実費弁償の在り方を含め、国民の幅広い層から保護司の適任者を確保するための方策を検討すべきである。


6.おわりにー最終意見に向けてー

 冒頭に述べたとおり、当審議会は、今般、本報告により、これまでの調査審議の結果を取りまとめ、これを国民各位の前に提示し、その意見、要望等を仰ぐこととした。当審議会としては、できるだけ多くの国民が、本報告により、それぞれの生活、立場、経験などを通じて得られた実感を踏まえて、忌憚のない意見、要望等を寄せられることを期待しており、そうして寄せられた意見、要望等を参考にしながら、これまでにも増して充実した調査審議を進め、実り多い最終意見を取りまとめたいと考えている。

 本報告中には、例えば司法を担う人的基盤の拡充や基本法制の所要の整備など、当審議会として、確定的な意見の一致により、改革のための具体的な方策を指し示した事項も多く含まれている。少なくともそのような事項については、改革の全体が円滑かつ確実に推進されることを確保するためにも、内閣を中心とする関係諸機関(以下「内閣等」と言う。)において、積極的かつ早期に対応されることを要請する次第である。

 また、昨年末の「論点整理」においても触れたとおり、当審議会としては、最終意見において、改革案を提示するにとどまらず、改革実現のための具体的スケジュールや推進体制の在り方についても論及したいと考えているが、今般の改革は、内閣等の総力を結集してその推進に当たることとしなければ、容易には実現され得ない、時代を画する壮大なものとなることは議論を待たないところである。そのため、当審議会としては、改革が確実に推進されるよう、内閣等において、現段階から必要な準備を開始されることを希望する次第である。

 さらに、当審議会としては、これまで法曹三者を中心に進められてきた我が国の司法制度改革が社会・経済の変化等に柔軟に対応してきたとは言い難く、今後は、社会・経済状況の変化やそれに伴う新たな国民のニーズに的確かつ柔軟に対処し得るよう、司法制度の改革や運営の改善を迅速かつ適切に行っていく必要があるという認識に立ち、今般の改革の推進体制の在り方も含め、司法制度の現状を常に注視、評価し、必要な改革、改善を進めていくための責任ある体制の在り方についても、今後の審議の中で検討していきたいと考えている。

 今後、当審議会においては、本報告に対する国民各位の声に注意深く耳を傾けながら、残された論点項目や課題についても更に検討を深め、最終意見においては、新世紀の我が国の確固たる基盤となる司法制度の将来像を描き出し、これを内閣に提出したいと考えている。そのため、今後とも引き続き、司法制度改革に対する国民各界・各層の幅広い理解と、力強い協力、支援をお願いして、ここに本報告を公表するものである。