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日・ASEAN包括的経済連携構想を考える懇談会
中間報告



平成14年10月16日

日・ASEAN包括的経済連携構想
を考える懇談会


目  次


.経済連携の意義

1−1東アジアに平和と安定が実現され、この地域が再び地域の成長センターとなることは、世界の平和と繁栄にとって非常に重要である
1−2平和で繁栄し人々の自由が確保される東アジア、そういう近隣圏をこの地域につくることは、日本にとって大きな戦略的利益となる
1−3東アジアが世界の成長センターとなることはわれわれ日本人の生活水準の維持、向上の鍵である
1−4地域連携は日本の改革のためにも重要である

.当面の進め方と連携のねらい

2−1日・ASEAN首脳会議で日本・アセアン経済連携へのコミットメントを政治宣言のかたちで確認し、連携構想具体化への道筋をつける
2−2東アジア全体の地域的経済統合を展望し、その一環として日本・アセアン包括的経済連携をとらえる

.個別分野

3−1自由貿易協定をつくって貿易の自由化を進める
 
3−1−1自由貿易協定はWTOルールと整合的なものとする
3−1−2関税撤廃の影響は実態に即して評価する
3−1−3経済安全保障の目的は国民の繁栄と福祉を守ることに ある
3−2経済統合深化のために制度等を整備する
 
3−2−1経済活動の効率を上げ資産を守る制度をつくる
3−2−2安全で円滑な輸送システムをつくる
3−2−3効率的な金融市場の育成と為替の安定をはかる
3−2−4人の移動をできるだけ自由に円滑にする
3−3知的交流、人的交流、環境協力を進める
 
3−3−1知的交流
3−3−2地域の理解と文化の交流
3−3−3初等中等協力への協力
3−3−4環境保全への協力

.まとめ

 (参考)

「日・ASEAN包括的経済連携構想を考える懇談会」の開催について

「日・ASEAN包括的経済連携構想を考える懇談会」メンバー

「日・ASEAN包括的経済連携構想を考える懇談会」開催実績


日・ASEAN包括的経済連携構想を考える懇談会
中間報告


 小泉内閣総理大臣は、平成14年1月14日、シンガポールにおいて 「ASEAN諸国訪問における政策演説」を行い、「日・ASEAN包括的経済連携構想」(以下、「連携構想」という)を提案した。これは、貿易、投資、その他の分野で大胆に障壁を取り外し、金融、情報通信技術、科学技術開発、知的交流・人材育成、中小企業育成、競争政策など、多くの分野における協力をさらに促進することによって、日本とアセアン全体の経済連携の実をあげようというものである。「日・ASEAN包括的経済連携構想を考える懇談会」(以下、「懇談会」という)は、これを受けて、「連携構想」のこれからのありかたについて広く議論するため、平成14年4月22日付、内閣官房長官決済によってその開催が決定された。
 懇談会は、内閣官房長官が主催し、8名の有識者(別記)により構成される。
 この中間報告は、会議に提供された資料、会議での討議にもとづき作成されたもので、「連携構想」についての懇談会の基本的な考え方、今後に向けての問題関心を、率直に、中間的に記したものである。

(別記)

伊豆見 元静岡県立大学国際関係学部教授
伊藤 隆敏東京大学先端科学技術研究センター教授
浦田 秀次郎早稲田大学社会科学部教授
北岡 伸一東京大学大学院法学政治学研究科教授
国分 良成慶應義塾大学法学部教授
白石 隆京都大学東南アジア研究センター教授
田中 明彦東京大学東洋文化研究所教授
深川由起子青山学院大学経済学部助教授
   


1 経済連携の意義

1−1 東アジアに平和と安定が実現され、この地域が再び世界の成長センターとなることは、世界の平和と繁栄にとって非常に重要である
 この十余年、世界は地域秩序再編のさなかにある。西ヨーロッパは二度と戦争をおこさないことを基本として市場統合と安全共同体の構築に向かい、1980年代末以降、ソ連帝国の崩壊と冷戦の終焉もあって、かつて分断されていた東西ヨーロッパも大きく統合へ向かっている。北アメリカにおいてもアメリカ合衆国を中心として「北米自由貿易地域」(NAFTA)が実現され、さらに南北アメリカを統合する米州自由貿易地域(FTAA)形成へ向けての交渉が2005年締結をめざしてはじまっている。こうした地域統合、地域連携の動きは、加盟国の排他的囲い込みをめざすものではない。地域連携は、国際経済・貿易のシステムが複雑化するなか、WTO(世界貿易機関)、IMF(国際通貨基金)などの国際機関では必ずしも対応しきれない地域の諸問題に地域協力によって対処し、世界的連携の拡大と深化に貢献しようというものである。グローバルな機関(たとえばIMFによる資金支援)を補完するものとして地域的な機関のはたしうる役割は大きいし、将来のグローバルな仕組み(たとえばWTO による広範な関税引き下げ)の組み立て部品として地域的に深化した仕組みをつくることには大きな意義がある。またこのグローバル化の時代、企業が世界的、地域的に展開し、人、モノ、カネ、情報がかつてない規模と速度で国境を越えて移動するなか、一九九七−九八年のアジア経済危機のような事態の再現を回避し、東アジアがグローバル化の波に必要以上に翻弄されることなく、逆にグローバル化の提供する機会をうまく捉え生かしていく、そしてそれによってわれわれの安全と繁栄と福祉を実現していくためにも、地域的な経済連携には大きな意義がある。
 日本、韓国から中国、台湾を経てアセアンの国々に至る東アジアの地域は、この20年、日本を中心とする地域的な経済発展によって、経済的に高い地域内統合度をもつようになった。また政治的にも、APEC(アジア太平洋経済協力)とASEM(アジア欧州会合)のかたちで、アジア・太平洋とアジア・欧州の二つの枠組みが誕生した。しかし、その共通集合である東アジアは、事実の上では地域的まとまりをもっているにもかかわらず、それを支える制度的メカニズムということでは、なお欧州、北米のような制度的まとまりをもっていない。経済連携によってそうした制度的メカニズムを整備する、そして東アジアの投資と貿易をさらに伸ばし、この地域を21世紀の世界の成長センターとすることは、地域の平和と繁栄のみならず、世界の平和と繁栄にとってもきわめて重要である。
 日本・アセアン経済連携は、そうした世界の成長センターとしての東アジアの実現に大きな意義をもっている。日本とアセアンの経済連携によって、日本からアセアンへの投資がより促進され、人材育成が加速化し、技術水準がさらに向上して、アセアン地域の経済成長率が押し上げられるだろう。そしてこれによってアセアン諸国の所得が上昇し、市場が拡大すれば、それは日本からの輸入を拡大させる。またアセアン地域の経済発展とともに、アセアンの生産技術が向上し、アセアンから日本および世界への消費財、中間財輸出が拡大する。こうしてアセアンは生産拠点として日本企業にとってますます重要なものとなり、われわれはまた消費者としてもその利益を享受することになる。
 経済連携はまた、貿易と投資の自由化を通して、国際的に競争力のない産業から国際的に競争力のある産業へと資源を移転させ、これによって、限られた資源で最大限の所得を得ることを可能とする。また競争を刺激し、研究開発投資を活発化することで、経済を活性化させる。日本経済は、かつて高度成長時代、そうした自由化の進展のなかで、市場メカニズムを通して、限られた資源が、労働集約的部門から物的資本集約的部門へ、そしてさらには高度な技術、洗練されたデザインなどを重要な要素とする知識集約的部門へと移転されてきた。日本経済の将来も、このような競争と市場メカニズムを通したさらなる構造転換なしには考えられない。


1−2 平和で繁栄し人々の自由が確保される東アジア、そういう近隣圏をこの地域につくることは、日本にとって大きな戦略的利益となる
 東アジアの人口は世界の人口の三分の一を占め、経済的な相互依存の進展によって、域内の結びつきは近年、急速に高まりつつある。またこの地域では、かつての植民地帝国時代、冷戦時代のような大対立はほぼ終わりを告げ、共存・協力の条件が整いつつある。さらにまた、かつて1980年代には日本の力が過大評価され、この地域でも日本の影響力拡大が警戒されたが、いまでは日本経済の活性化と日本の協力が東アジアの長期的な安定と繁栄にいかに重要であるか、あらためて認識されるようになっている。しかし、その一方で、この地域にはなお政治体制の異なる国々が併存し、安全保障上の問題も残っている。また東アジアにおいては域内諸国のあいだに経済水準の大きな格差があり、宗教的、民族的、文化的にもきわめて多様である。日本・アセアン経済連携は、このような特徴をもつこの地域に平和で繁栄し人々の自由が確保される近隣圏を構築する上できわめて重要な意義をもつ。


1−3 東アジアが世界の成長センターとなることはわれわれ日本人の生活水準の維持、向上の鍵である
 日本はすでに過去十年余りにわたり景気の低迷、不良債権問題、政府債務増加、デフレ、企業業績不振、産業空洞化などに苦しんできた。またこれからは少子化、人口減少によって経済的に困難な状況がおこるかもしれない。そうしたなかで、東アジアの経済発展は、1990年代以降、日本経済の支えとなってきた。それは、多くの日本企業が、製造業を中心として、アセアンと中国に投資し、生産拠点、販売拠点を構築し、国際競争力を維持してきたからであり、また東アジアからの消費財、中間財の輸入によって、われわれが日本においてその生活水準を維持し、また産業の競争力を維持することができたからであった。経済連携のひとつの趣旨は、こうした現状をふまえて、公的制度を現に民間でおこっている国際連携に追いつかせることにあり、そしてそれによって地域連携をより望ましいかたちで、円滑に、進展させることにある。東アジアにおいては、日本企業、日本経済の存在にはなお非常に大きなものがあり、いま日本が自由化の方向に大きく動き出せば、これは東アジアの経済発展に大きな貢献となる。

1−4 地域連携は日本の改革のためにも重要である
 地域連携はまた、われわれが日本の政治経済社会システムを見直し、国内の既得権益、セクショナリズム、先例主義を克服して、改革を進める上でも大きな意義がある。このグローバル化の時代、世界は急速に変わりつつある。そうした時代に、われわれがこれまでと同様、安全と繁栄を享受しつづけるためには、日本は「世界の中の日本」、「アジアの中の日本」として、国際主義を旨として生きていくほかない。しかし、そのためには、国内システムの転換が要請される。いまわれわれのなすべきことは、そうした国内システムの改革であり、そのための施策である。そしてそのためには、政府関係機関は、個々の政策がその分野の利害だけでなく日本の国益全体にとって中長期的にどのような意味をもつのか、ただ主張するだけでなく、具体的根拠を提示し、挙証・説明しなければならない。たとえば、地域連携の推進、あるいは世界的な規模でのWTO自由化ラウンドに対しては、雇用を守る、あるいは国内産業を守るということで、保護が主張されることが多い。しかし、国際競争力を失った産業を保護すれば、資源は非効率分野に温存され、本来成長するはずの産業部門に資源が回らない。そのような活力に欠ける経済社会においては、将来性のある企業あるいは個人はより良い機会を求めて海外に行きかねない。その結果、産業の空洞化が進行し、雇用が失われ、所得が低下し、本来保護されるはずの産業もその頼みとする国内市場を失ってますます衰退していく。そうした政策では一見、保護によって確保されるかに見える雇用、所得よりも、これによって失われる潜在的な雇用機会、所得の方がずっと大きい。これに対し、自由化は、日本経済の潜在競争力を効率的に引き出すことができる。消費者のニーズが絶えず変化し多様化する中、消費者に訴える商品を不断に開発し開拓することなしには、現状の雇用も守れない。いま日本経済に必要とされているのは、高い技術と洗練されたデザインに支えられた工業製品、ブランドと品質で差別化された食品など、世界中の人々がほしいと思うものであり、そうした商品,サービスを生み出す力である。そうした力を日本が取り戻すこと、これが地域連携と自由化のねらいである。


2 当面の進め方と連携のねらい

2−1 日・ASEAN首脳会議で日本・アセアン経済連携へのコミットメントを政治宣言のかたちで確認し、連携構想具体化への道筋をつける
 本年一月の小泉総理による日本・アセアン包括的経済連携構想の提案を受けて、日本とアセアンのあいだではすでに、日本とアセアン全体との経済連携の範囲などについて協議が行われるとともに、日本としては経済連携について協議する用意のあるアセアンのいずれの国とも二国間で経済連携協議をはじめることが合意された。そしてこれにもとづき、すでに日本とタイ、フィリピンのあいだでは協議がはじまっている。したがって、11月4、5日に予定される日本・アセアン首脳会議においては、小泉総理の提案した包括的連携構想についてのこれまでのフォローアップもふまえ、日本とアセアン10カ国の包括的経済連携へのコミットメントを確認し、構想が一月の時点から確かに一歩進んだことを具体的に示しつつ、以下のようなかたちでこれから先の道筋をつけるべきである。
 第一に、日本とアセアン10か国の首脳は、政治宣言によって、日本・アセアンの経済連携が日本、アセアン双方の利益となるものであること、その実現のために日本とアセアンは包括的経済連携構想にコミットすること、日本・アセアン包括的連携構想の目的は日本とアセアン全体の経済連携にあること、を確認する。
 第二に、政治宣言においては、連携構想具体化の枠組みとして、以下の基本的事項をもりこむ。(1)日本・アセアンの経済連携は対象分野の包括性が重要であり、財・サービス貿易、投資、人の移動などの分野で大胆に障壁を取り外し経済連携進展の実をあげるとともに、金融、情報通信技術、科学技術開発、知的交流・人材育成、中小企業育成、観光、放送などの分野で積極的に連携を強化すること、(2)経済連携実現の交渉はできるだけ迅速に進められるべきであり、すでに協定に署名されているシンガポールをのぞくアセアン九カ国との二国間経済連携協定については2006年末までにできるだけ多くの国と締結することを目標とすること。
 第三に、日本・アセアン包括的経済連携構想に提示される日本・アセアンの経済連携は、アセアン全体の経済統合の進展と軌を一にしてはじめて意味のあるものとなる。したがって、政治宣言においても、日本は、日本・アセアン経済連携の促進とともに、アセアン内の格差是正その他、さまざまの支援によって,アセアン経済統合進展・格差是正に貢献していくことを明らかにすると同時にアセアン各国の努力を促す。
 なお日本・アセアン経済連携構想は、現実的には、当面、二国間の包括的経済連携の積み重ねとして具体化されよう。この場合、二国間経済連携の積み重ねにおいては、以下の点に留意する。(1)二国間の経済連携を束ねて、将来、日本・アセアン経済連携へと発展させることができるよう、二国間の経済連携協定内容はできる限り共通のものとし、そうした協定内容では二国間経済連携にアセアン側の国の事情で困難のある場合には、スケジュールを段階的にしたり、必要な支援を行ったりする用意のあること、(2)その取り組みはアセアンのいずれの加盟国をも排除せず、かつその取り組みは他のアセアンの国々に対して透明である、(3)どの二国間の包括的経済連携も、WTOのGATT24条、GATS5条と整合性を保つこと、(4)農業分野をふくむすべての分野について日本が積極的にアセアンに対して市場を開放する姿勢をとること。

2−2 東アジア全体の地域的経済統合を展望し、その一環として日本・アセアン包括的経済連携をとらえる
 日本・アセアン経済連携は、世界の成長センターとしての東アジア、平和で繁栄し人々の自由が確保される東アジアをつくるための基礎作業のひとつであり、これは日韓経済連携と連動するものでなければならない。またこのような観点から、中国とアセアンの経済連携も歓迎されるべきものである。東アジア全体の地域的経済連携を展望し、そのなかに日本・アセアン経済連携を位置付けること、そしてその実現に向けて具体策を提示し実施していくこと、これが基本である。


3 個別分野

 日本・アセアン経済連携の実をあげるためには、モノ、サービス、カネ、人、情報が、国境を越えて自由に、円滑に移動できるような制度環境をつくる必要がある。その具体的な例としては、以下のような分野の連携が挙げられる。

3−1 自由貿易協定をつくって貿易の自由化を進める

3−1−1 自由貿易協定はWTOルールと整合的なものとする
 一般的に言えば、貿易と投資の自由化は世界規模で行われることで世界各国の利益が最大になる。しかし、WTOにおける自由化が期待したようには進みそうもない現状では、WTOルールに整合的な地域自由貿易協定は、加盟国間の自由化ばかりでなく、世界レベルでの自由化の推進役ともなりうるし、すでに世界中のほとんどの国が地域経済協定を結んでいる。WTOルールでは、地域自由貿易協定は、必ずしもすべての関税を撤廃する必要はないが、「実質的にすべて」の品目をカバーする必要があり、特定分野を除外してはならない。
 したがって、自由貿易協定をつくるにあたっては、例外品目の数はできるだけ少なくするよう努力すべきであり、かりに例外品目とする場合には、そのことの費用・効果を納得できるかたちで分析、評価しなければならない。あるいはもう少し具体的に言えば、ある品目の関税を撤廃した場合のその品目の国内生産者利益の減少と消費者利益の増加、そしてこれに対応して引き下げられる交渉相手国の関税の撤廃による国内生産者利益の増大をすべて比較して、日本にとっての利害得失を判断しなければならない。

3−1−2 関税撤廃の影響は実態に即して評価する
 自由貿易協定の交渉においては、農水産品も含め、検討に聖域を設けてはならない。関税撤廃で悪影響があると主張する場合には、そういう主張を行う者は、どの関税を撤廃すると何にどれだけ影響がでるのかを立証する責任がある。日本はすでにこれまでのWTOの交渉で関税率を相当引き下げており、関税率の多くは10%以下、品目によっては関税率1%というものもある。為替レートが10パーセント以上変動するなか、こうした関税をゼロにすることでどのような「実害」があるのか、実態に即して具体的に考え評価する必要がある。また関税の中には、関税を課されている品目の国内生産は少なく、むしろその品目と競合するとされる他の品目の生産を保護するという理由で関税の課されているものもある。しかし、消費者のニーズがこれほどにも多様化し、多くの商品がそれぞれ差別化をはかりながら販売されているなかで、異なった品目の商品が実際にどれほど競合するものか、実態に即して検討し判断しなければならない。重要なことは、自由貿易協定を機としてこれまで保護されてきた部門の生産性を向上させることであり、関税撤廃後、予想に反して輸入が急増し被害が認定されればセーフガードで対応することも考えつつ、前向きに自由貿易協定に取り組んでいかなければならない。

3−1−3 経済安全保障の目的は国民の繁栄と福祉を守ることにある
 経済安全保障の基本は、国民に安く安定的に安全な財を供給することにある。したがって、エネルギー安全保障においては、エネルギーをいかに安く、安定的に確保するかがその基本となり、供給先の多様化と備蓄、省エネルギーと石油代替エネルギーの開発などがエネルギー安全保障政策として実施されることになる。では「食料安全保障」はどうか。ここでもその基本はやはり、国民に安く安定的に安全な食料を供給することにあり、この目的達成のためには、国内産業保護ではなく、構造改革への取組みと合わせて、供給源の多様化と備蓄が政策手段となるはずである。また安全保障を考える際には、どのような脅威に対する安全保障かを考える必要があるが、これはエネルギー安全保障においては中東から日本への輸送路確保の問題であり、食料安全保障においては、一地域の天候、世界的な食料の需給状況の変化に大きく影響されない多角的で安定的な供給源をどう確保するかなどの問題である。さらに食の安全性については、消費者の視点に立った安全確保が重要であり、そのためには食品の安全性に関する情報を東アジアで共有するシステムの構築も重要であろう。

3−2 経済統合深化のために制度等を整備する

3−2−1 経済活動の効率を上げ資産を守る制度をつくる
 経済連携の実をあげるためには、自由貿易協定に加え、経済活動全体を視野に入れて、国境を越えた経済活動の費用を下げ、資産を守り、リスクを下げることが重要である。
 このためになされるべきことは非常に多い。たとえば、貿易の手続き費用を下げるためには、税関手続きの簡素化、貿易文書の電子化などが重要であろう。違法薬物対策、密輸密航対策などについても協力と制度整備が要請される。サービス貿易の障害削減、政府調達の透明化・情報提供強化、観光振興のための受け入れ体制整備なども重要である。また投資については、現地調達義務の撤廃、投資財産の保護、内国民待遇の確保、外資比率規制の撤廃などを考える必要があり、アセアン経済統合促進のための施策、域内開発機関の協力強化、対アセアン投資機会の拡充、ODA案件の戦略的見直しと自律的な民間主導の経済緊密化を基本とするアセアン「卒業」プログラムの策定なども重要である。東アジアのさらなる発展のためには、この地域の情報流通を拡大し、世界の情報拠点(ハブ)を構築することも重要である。また東アジア地域の各国における著作権制度の国際的調和、知的財産権審査・保護体制の整備、模倣品・海賊版の取り締り強化、規格標準の相互承認促進、著作権制度整備、技術契約をめぐるサービス拡充、貿易・投資の自由化の効果を損なわずこれを最大限に引き出すための、カルテルといった反競争的行為の規制などの競争政策における協力なども重要である。

3−2−2 安全で円滑な輸送システムをつくる
 日本・アセアンの経済緊密化のためには、域内輸送システムの整備も重要である。そのためには、海賊取り締りについての政府協力をはじめ、なすべきことは多い。東南アジアの海域は日本と中東を結ぶシーレーンの要所を占め、海上交通の安全確保は日本の経済安全保障にとっても重要である。
 また日本・アセアン経済連携、さらには東アジア経済連携において日本が中心的役割をはたしていくためには、東京が東アジアの交通においてハブの地位を回復しなければならない。そのひとつの鍵はいうまでもなく便利で使いやすい空港にある。しかし、成田国際空港の現状は便利で使いやすいとはとても言えない。たとえば、今日、東アジアの主要空港の多くは24時間発着可能となっているが、成田空港はそうはなっていない。また東京からのアクセスも決して良いとは言えない。早朝、深夜の羽田空港国際化を大幅に拡充することによってビジネス日帰り圏を東アジアに拡大するなど、この分野では各種規制や制限の見直し、発想の大胆な転換など、なすべきことは多い。
 国際的な物流増大に対応した港湾、空港の整備拡充も日本・アセアン経済連携に大きな意義をもつ。これは、物流コストの引き下げなしに、日本が東アジアの経済統合において中心的役割をはたし続けることができないことを考えれば明らかだろう。また物流機能の改善はアセアンの経済発展・経済統合にとっても非常に重要である。たとえば、メコン川流域の物流システム改善はベトナム、ラオス、カンボジアの経済発展に大きな意義をもっている。

3−2−3 効率的な金融市場の育成と為替の安定をはかる
 日本をはじめ、東アジア地域には豊富な貯蓄がある。この資金が域内の投資に円滑に効率的に回るよう、金融・資本市場を整備することは、日本・アセアンの経済連携にとって重要である。また日本がそうした東アジアの金融・資本市場の整備、連携の強化のために果たしうる役割も大きい。たとえば証券取引所間の提携の推進によって地域的な取引を活発化し、国際的な取引・決済を容易にできるようにすれば、これは金融・資本市場の統合に大きな意義をもつ。監督当局間の情報交換、有価証券の登録化(国債、社債、株式の売買を、紙の受け渡しで行うことをやめて、登録を書き換えるだけにすること)などの証券決済システムの整備、「日銀ネット」営業時間の延長、円決済の促進なども考える必要がある。
 また、東アジア地域における貿易・投資の一層の拡大のためには、為替レートの過度な変動を防ぐ仕組みをつくる必要がある。市場の基礎的条件と整合的でない為替レートの動きをチェックし、市場の失敗による通貨危機から経済を守るため、2000年、アセアンと日本、中国、韓国のあいだで、二国間の通貨スワップ取引のネットワーク構築についての合意(チェンマイ・イニシアティブ)が成立した。この合意にもとづき域内諸国と通貨スワップ協定を締結していくことには大きな意義があり、これを基礎に、マクロ経済情報の交換・政策協議を前提として、金融協力・為替協力を更に強化していくべきである。

3−2−4 人の移動をできるだけ自由に円滑にする
 このグローバル化の時代、世界の多くの国々は人材をめぐって競争し、人的資本集約型産業に経済の活路を見いだそうとしている。こうした事情は日本でも同じであり、政府は平成11年、「専門的、技術的分野の外国人労働者については、我が国の経済社会の活性化や一層の国際化を図る観点から、受け入れをより積極的に推進する」ことを閣議決定した。しかし、その一方、たとえば看護師については、日本の大学の看護学部に留学し日本の資格を取っても日本で業務に従事することが認められるのは研修期間だけであるなど、さまざまの規制が存在する。現行制度下、「専門的、技術的分野」で就労するとして日本に入国する人は現在、「興行」分野が最大となっているが、日本経済の活性化に必要とされる人材は「興行」以外にもいくらでもある。さまざまの規制を大胆に見直し、日本の経済社会が必要とする分野で東アジアの優秀な人的資源を活用するシステムをつくる必要がある。
 人の移動をできるだけ自由に円滑にすることは、産業の発展にとって非常に重要である。たとえば情報処理の技術者を確保するのに外国に行くしかないとなれば、情報処理産業は外国に流れてしまうだろう。正規の手続きによって専門性を承認された外国人の就労を認めることは、日本人の雇用を脅かすものではない。それどころか、その産業の発展を促し、さらなる雇用を生み出すことによって、産業の発展、経済の拡大、われわれの生活水準の向上をもたらす。資格の共同化と相互認証は、情報処理技術者、あるいは技術士、建築士の一部などですでにはじまっているが、これを一層積極的に推進すべきであり、さらに他分野にも拡げていくべきである。またこれに関連して、アセアン諸国の資格要件を日本の資格要件に揃えるための技術協力なども考える必要がある。工学関係の様々な資格、介護福祉士など、日本が必要とする専門的、技術的分野はいくらでもあり、日本としては、欧米、シンガポールの制度、受け入れた場合におこりうる問題点なども勘案しながら、そうした人材の受け入れを積極的に推進していくことが肝要である。

3−3 知的交流、人材育成、環境協力を進める

3−3−1 知的交流
 知的交流の目的は相互理解と相互信頼の上に知的コミュニティをつくることにある。日本・アセアンの連携において、こうした目的をもって、大学交流、学術交流、教育交流など、広い意味の知的交流を進めることは大きな意義をもっている。しかし、そのためには、そうした知的交流が日本からアセアン諸国への知的貢献というかたちではなく、文字通り、相互の交流として、日本人とアセアンの人たちのあいだの相互理解、相互信頼をもたらすものでなければならない。
 このような相互交流の推進のためには、たとえば、大学交流においては、日本の大学とアセアンの国々の大学のあいだで相互に講師を派遣すること、そのために日本・アセアンの大学がコンソーシアムを結成したり、日本の大学がアセアンの国々に交流拠点あるいは分校をつくることなども重要であろう。なおこれまで日本とアセアンの学術交流、研究交流においては自然科学分野の交流が圧倒的な比率を占めてきたが、相互理解、相互信頼にもとづく知的コミュニティの構築ということからすれば、社会科学、人文科学部門の交流も等しく重要である。
 また教育交流も重要である。日本・アセアンの教育交流の現状は、交流というよりアセアンから日本への直流というに近い。しかし、相互理解、相互信頼のためには、日本人学生のアセアン留学も等しく重要である。たとえば、日本の大学とアセアンの大学がコンソーシアムを結成し、単位の相互認定を行うようになれば、アセアンの大学に留学する日本人の学生も増えるだろうし、アセアンから日本の大学への留学生も増えるだろう。また情報通信技術を使ったインターネット・スクールあるいはe-ラーニングのようなシステムもこれからの教育交流、人材育成ネットワークの形成に大きな可能性をもっている。

3−3−2 地域の理解と文化の交流
 日本でもアセアンの国々でも、これまで日本・アセアン関係についての出版物はそれほど多くない。しかし、日本とアセアン諸国の関係についての出版は、この分野の研究を奨励するとともに、日本・アセアン関係について一般の人たちの理解にも大いに有用である。そうした研究支援、出版支援は比較的小さなコストで大きな効果を生む。同じことは、東アジアの政治、経済、文化、社会、歴史、文学などの作品を日本語ばかりでなく、東アジアの諸言語で出版することについても言える。
 また2003年が「日・アセアン交流年」となることに鑑み、文化交流活動をさらに活発に推進することも重要である。アセアンの国々では近年、マンガ、アニメ、ファッション、音楽(J-Pop)、その他、日本の大衆文化への関心が大いに高まっており、文化交流においてもそうした日本の大衆文化の紹介、そして日本におけるアセアンの国々の大衆文化、文学、歴史などの紹介が望ましい。

3−3−3 初等中等教育への協力
 初等中等教育の充実による人材育成は、アセアン諸国の経済発展にとっても、またアセアンに展開する日本企業にとっても、大きな意義をもっている。その意味で、アセアン各国の教育ニーズを正確に把握し、日本の教育経験を活用しつつ、日本人教員の派遣、相手国教育関係者の招聘、カリキュラム・教材の共同開発などによってアセアン諸国における初等中等教育の充実に協力することは重要であり、アセアン諸国に対する日本の経済協力、技術協力もこのような観点から見直し、中長期的に日本・アセアン地域連携の実をあげる必要がある。またアセアンの経済統合、とりわけベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアのアセアンへの統合において、実務的な人材の養成は大きな意義をもっており、日本としてもアセアン経済統合支援の一環として人材育成分野における協力を重視する必要がある。なお育成した人材に、日本企業、また日本国内の職場での活躍の場を提供することが、日本・アセアン双方にとって重要であることはいうまでもない。

3−3−4 環境保全への協力
 アセアンの国々はこれからも高い経済成長、人口増加の見込まれる地域である。したがって、この地域では、そうした高い経済成長、モノ・サービスの移動が、地域的経済連携の推進と相まって、環境悪化をもたらさないよう、適切な環境保全対策が要請される。しかし、これまでのところ、これらの国々では、排出基準、環境アセスメント、自然保護地域等の環境保全制度は、徐々に整備されてきているとはいえ、なお十分とは言い難い。したがって、日本としては、環境ODA等によって、アセアン各国の環境対策強化に協力していくことが重要であり、経済連携構想の推進に当たっても、その環境への影響に十分な注意を払うことが要請される。環境協力の推進は、環境産業の発展を通して、日本およびアセアン諸国の経済発展にも貢献する。
 適切な環境対策の実施はまた、公害ダンピング、ポリューション・ヘイブンといった問題を防止し、東アジア各国間の競争条件の平等化、さらには各国内において、外国企業にのみ排出基準の厳密な実施を求めるといった二重基準を廃し競争条件の平等化を確保するためにも重要である。
 今日、世界的にも、また開発途上国においても、地球温暖化等の地球環境問題への対応が課題となっている。アセアン諸国においても、生物多様性の減少や森林の破壊が進んでいるが、これらは地球規模の影響をもたらす問題である。経済成長に伴う温室効果ガスの排出の増加についても対応が必要である。また、この地域は煙害(haze)のように国境を越える環境問題を抱えている。日本は地球環境問題を外交の最重要課題の一つと位置付けており、アセアン諸国における環境問題への対応を支援することによって、地球環境保全に貢献することには大きな意義がある。特に、地球温暖化については、途上国の認識の向上、対処能力の強化、京都議定書に基づくクリーン開発メカニズム(CDM)などを含めた幅広い協力が必要である。


4 まとめ

 いまわれわれは時代の大きな転換点にある。われわれの未来は、守りの姿勢では、開けない。日本はこれからますます高齢化、少子化社会となっていく。そうしたなかで、われわれがこれまで享受してきたような安全と豊かさを維持していくには、世界の成長センター、東アジアの一員として、世界と東アジアの平和と安定と繁栄に貢献しつつ、世界の中の日本、東アジアの中の日本として、生きていかなければならない。そのためには、われわれは、日本の政治経済社会システムを大きく改革し、世界のだれもが住みたい、働きたい、子供を育てたい、教育を受けたいと思う、そういった日本をつくり、優秀な人材を引きつけ、日本の経済を活性化しなければならない。地域連携はこうした目的実現のための第一歩となるものであり、その具体化にあたっては、国内の既得権益、セクショナリズム、先例主義を克服し、日本政府一体となって、日本の国益とはなにかを常に念頭におきつつ、大胆に、かつ細心に、努力しなければならない。




「日・ASEAN包括的経済連携構想を考える懇談会」の開催について



平成14年4月22日内閣官房長官決裁
平成14年5月28日一部改正

  1. 趣旨
     小泉内閣総理大臣が平成14年1月14日にシンガポールにおいて行った「ASEAN諸国訪問における政策演説」の中で提案した「日・ASEAN包括的経済連携構想」の今後のあり方について幅広く議論するため、高い識見を有する人々の参集を求め、「日・ASEAN包括的経済連携構想を考える懇談会」(以下「懇談会」という。)を開催することとする。


  2. 構成
    (1) 懇談会は、別紙に掲げる有識者により構成し、内閣官房長官が開催する。
    (2) 内閣官房長官は、有識者の中から、懇談会の座長を依頼する。
    (3) 懇談会は、必要に応じ、関係者の出席を求めることができる。


  3. その他
     懇談会の庶務は、関係行政機関の協力を得て、内閣官房において処理する。




(別紙)


「日・ASEAN包括的経済連携構想を考える懇談会」メンバー



伊豆見 元静岡県立大学国際関係学部教授
伊藤 隆敏東京大学先端科学研究センター教授
浦田 秀次郎早稲田大学社会科学部教授
北岡 伸一東京大学大学院法学政治学研究科教授
国分 良成慶應義塾大学法学部教授
白石 隆京都大学東南アジア研究センター教授
田中 明彦東京大学東洋文化研究所教授
深川由起子青山学院大学経済学部助教授




「日・ASEAN包括的経済連携構想を考える懇談会」開催実績



第1回 平成14年4月24日
 ・日ASEAN経済連携構想
第2回 平成14年5月29日
 ・日ASEAN間の貿易関係
 ・自由貿易協定と農林水産業
第3回 平成14年6月17日
 ・東アジアビジネス圏
 ・ASEAN+3における地域金融協力
 ・銀行、証券、保険分野の協力
第4回 平成14年7月11日
 ・自由貿易等の経済連携と関税政策
 ・交通、観光、建設分野における取組
 ・ASEANとの経済連携と出入国管理
 ・人の移動
 ・日ASEAN間における教育、科学技術・学術、文化分野の連携
自由討議平成14年7月13日
第5回 平成14年10月16日
 ・「中間報告」とりまとめ