| ドクターヘリ調査検討委員会 平成12年6月9日 |
事故・急病や災害等の発生時に、消防機関・医療機関等からの要請に対し、直ちに医師等が同乗し、ヘリコプターで救急現場等に出動する事業(以下「ドクターヘリ事業」という。)は、搬送時間の短縮のみならず、救急医療に精通した医師が、救急現場等から直ちに救命医療を開始し、高度な救急医療機関に至るまで連続的に必要な医療を行うことにより、救命率の向上や後遺症の軽減に大きな成果をあげることが期待されている。
我が国におけるドクターヘリ事業については、厚生省の試行的事業や消防ヘリの活動などの取組が見られるところであるが、諸外国の状況に照らせば、立遅れの感は否めないところである。
当委員会では、ドクターヘリ事業の全国的な導入・展開を図るため、まず、運航体制や搭乗スタッフの在り方、救急現場や出動拠点における安全確保の在り方等について議論を重ねてきた。
その検討結果は以下のとおりであり、これにより技術面での大きな障壁は概ね解決されたものと考える。しかしながら、財源に関する問題をはじめ、地域の特性に応じた運航体制の在り方など、更に具体的な検討を必要とする問題も残されていることから、これらの
問題について、今後、関係省庁において積極的な検討が進められ、我が国においても、人命尊重の理念に沿ったドクターヘリ事業が実施されることを強く期待するものである。
○ ドクターヘリ事業を全国に導入・展開するに当たっては、地方公共団体の消防・防災ヘリに加え、ヘリコプター運航会社を積極的に活用することにより、安全かつ効率的に全国配備を進めることとする。
その際、ヘリコプター運航会社が主体となる運航には、安全確保のため、医療機関、運航者、消防機関等との間で必ず実施要領を設け、組織的な安全管理体制を構築するものとする。
○ ドクターヘリ事業の目的の一つは、事故等の発生後、最短の時間で治療を開始することにあることから、ヘリの常駐先(運航基地の場所)は、医師等の医療スタッフが即座に搭乗できる、救命救急センター等の医療機関とする。
ヘリに搭載する医療機器の管理や医薬品の補充等には、医療機関の協力が欠かせないことからも、ヘリの常駐先は医療機関とする必要がある。
なお、厚生省の試行的事業等においては、ヘリは医療機関への常駐の下で毎日のように出動し、効率的な運航がなされている。
○ 消防・防災ヘリを活用する場合には、ヘリは医療機関に常駐していないことから、当面、医師のピックアップ方式によらざるを得ないが、できる限り迅速に現場に出動できるようにするため、自治省消防庁がまとめた「ヘリコプターによる救急システムの推進に関する検討委員会報告書」(以下「消防庁報告書」という。)に基づき運航するよう各地方公共団体・消防機関に周知徹底する必要がある。また、ヘリに搭載する医療機器の管理や医薬品の補充等のための体制も、十分に整える必要がある。
○ ドクターヘリの運航をヘリコプター運航会社に委託する場合には、あらかじめ都道府県の衛生主管部局と消防・防災部局が協力して、既存の消防・防災ヘリの活動能力を検証し、活動範囲(地域)及び役割分担(補完体制等)を十分に調整しておく必要がある。
(2)出動基準
○ 救急事案を消防本部の指令室が覚知した時点で、指令課員等が、あらかじめ定められた判断基準(消防庁報告書基準等を参考)に基づいて、運航基地に、ドクターヘリの出動を要請することとする。
指令課員が判断に迷った場合は、治療開始時間の遅延とならないよう原則として出動を要請することととするが、出動指令を出した後で、患者の詳しい状況が判明し、出動不要と判断したときは、その時点で出動を撤回できることとする。
○ 消防本部の指令室が救急事案を覚知した段階では出動は不要と判断された場合であっても、救急現場に到着した救急隊員等がドクターヘリの出動が必要と判断したときは、直接、又は、消防本部の指令室を通じて、運航基地に出動を要請することとする。
○ また、救急現場に到着した警察官が、ドクターヘリの出動が必要と判断したときは、直接、運航基地にドクターヘリの出動を要請することとする。
○ 上記の出動要請に対し、運航基地の医師の判断により、ドクターヘリを出動させることとする。
ドクターヘリの出動が、結果的に軽症者に対するものとなったとしても、現場で患者の状態を医学的に正確に把握することは困難なことから、出動を要請した指令課員、救急隊員及び警察官、並びに出動が必要と判断した運航基地の医師の責任を追及することは適当でない。
○ 医療機関の医師が、より高次の医療機関における救急患者の治療のためにドクターヘリの出動が必要と判断し、運航基地に出動要請をしてきた場合には、出動させることとする。
○ 上記のような運用を行いつつ、症例を集めて事後評価を行うことによって、関係機関は、無駄の少ない効率的な出動体制を整えるよう常に弛まぬ努力を払う必要がある。
(3)航空法に基づく運航許可
○ 平成12年2月の航空法施行規則改正により、消防機関等からの依頼又は通報によるヘリコプター運航会社の運航によるドクターヘリの救急現場への緊急離着陸についても、消防・防災ヘリコプターによる捜索・救助の任務に適応される運航と同様な取扱いとなったことは、ヘリコプター運航会社の活用による全国配備を進める上で大きな前進と評価できる。
○ ドクターヘリの運航を委託されたヘリコプター運航会社は、医療機関等と協力し、安全運航のため、あらかじめ、できる限り場外離着陸場を確保しておくものとする。
また、対象地域内の関係機関ともあらかじめ十分に協議を行い、緊急離着陸時の安全を確保できるように協力体制を構築するものとする。
○ 将来的には、天候不良時等に運航を行う場合の運航効率の向上と安全運航に資するため、GPS(全地球的測位システム)を活用したヘリコプターの計器飛行方式による運航方式を検討することが望まれる。
(4)通信等の連携体制
○ 現場に出動した医療スタッフが、救急患者の治療に当たりながら、搬送先の救急救命センター等と直接連絡をとる必要があることから、地域内の医療機関との通信体制を確保するため、ドクターヘリには、一般電話回線とも交信可能な無線機器を搭載することとする。
○ ドクターヘリは現場の救急隊等と、患者情報の伝達や着陸場所の確認のために直接交信する必要があることから、ドクターヘリに消防無線等の搭載や、現場関係者とドクターヘリとの間の統一的な手信号をはじめとする連絡要領等の作成を検討するなど、通信体制を整備する必要がある。
なお、将来的には、警察、消防、道路管理者、医療機関等の間の共通無線を整備する必要がある。
○ ドクターヘリ事業が地域の社会システムとして円滑に定着していくよう、離着陸をはじめとするヘリの運航に伴う苦情への対応窓口を一本化するなど、関係機関の連携の下で、地域住民の理解を得る努力も積極的に行う必要がある。
(5)代替機
○ 救急医療は、毎日途切れることなくそのサービスを提供しなければならないことから、ドクターヘリに定期点検や一時的な修理が必要なときには直ちに代替機が確保できる体制が、必要不可欠である。
したがって、ドクターヘリの運航をヘリコプター運航会社に委託する場合には、当該運航会社の責務として、常に代替機を確保できる体制をとることを義務づけ、常時(当面は、夜間を除く時間帯のみ)、ドクターヘリを運航できるようにすることを原則とする。
また、消防・防災ヘリを活用する場合には、当該地方公共団体は、上記の原則を確保するため、隣接都道府県・都市間の協力体制を整えておく必要がある。
(6)大規模災害時の対応
○ 大規模災害発生時には、関係機関のヘリコプターを多数活用する必要があることから、ドクターヘリも都道府県の指揮下で活動することとする。また、当該地域内の医療機関は、日常使用している場外離着陸場の使用の可否を調査して都道府県に報告することとする。
○ ドクターヘリに搭乗する医療スタッフは、以下の要件を満たす者とし、あらかじめ、ヘリコプターの運航に関する事項、ヘリコプターを使用することで生じる医学的な影響に関する事項等について、必要な研修を受けることとする。
〔1〕医師は、現場での様々な患者に的確に対応するため、救命救急センター等の救急医療に精通した救急医であること。
〔2〕看護婦は、救命救急センター等の救急部門の専属看護婦であること。
〔3〕救急救命士は、救命救急センター等の救急医の下で、一定期間、救急医療の研修を受けた救急救命士上記の研修は、ドクターヘリの常駐先である救命救急センター等が実施することとし、具体的な事項としては、次のものが挙げられる。
○ 上記のことを達成するため、ドクターヘリの常駐先である救急救命センター等の医療機関は、医師、看護婦の配置など、所要の体制の整備を図ることとする。
(2)チーム編成
○ 現場での医療活動を行うため、医師1名と看護婦1名、又は、医師1名と救急救命士1名のチーム編成を基本とする。
但し、患者の状況によっては医療スタッフを増員するほか、複数の患者が発生した場合も、必要に応じて医療スタッフの増員を行うこととする。
○ 医療活動のみならず救助活動をも必要とするような救急事案の場合には、救助隊員も加えたチーム編成とすることとする。
こうした場合に備え、あらかじめ、救助隊員も含めたチーム内の業務分担を明確にしておくこととする。
(3)操縦士・整備士
○ 操縦士・整備士は、あらかじめ、必要な医学的知識等について、ドクターヘリの常駐先である救命救急センター等が実施する研修を受けることとするほか、それぞれ、以下の要件を満たすこととする。
〔1〕操縦士は、かなりのストレスを受ける特殊な業務であるため、ドクターヘリの操縦士として必要な要件を満たす必要があることに照らし、ヘリコプター運航会社のドクターヘリ操縦士については、飛行時間に加えて、特定業務の飛行時間、特別な訓練等についての要件を満たす者であること。
なお、要件の具体的な内容は、厚生省の試行的事業において取りまとめることとする。
〔2〕操縦士及び整備士は、使用するヘリコプター内に装備されている医療機器の基本的な仕様や電磁波干渉等による影響についての知識を有している者であること。
なお、機体整備に際しては、感染防御等に留意しなければならないこととする。
(4)教育訓練等の資質向上
○ ドクターヘリの搭乗スタッフは、あらかじめ定められたマニュアルに基づき、各々の役割を熟知しておくようにするとともに、緊急時にも的確に対応できるよう、通常より実践的訓練を行うこととする。
○ 搭載医療機器や医薬品等の事前チェックを、毎回の業務開始前に行うとともに、安全運航のためのチーム訓練や、ヘリコプター事故に際しての脱出手順等の訓練を、定期的に行うこととする。
また、ドクターヘリが事故等に遭遇した場合の救急車の要請や、警察・運輸省への連絡に関する事項など、事故対処マニュアルを作成しておくこととする。
○ 各ドクターヘリの活動範囲(地域)ごとに、関係機関及び関係者が参加する合同訓練を実施し、安全かつ効率的なシステムの構築に向けて、定期的に検証を行うこととする。
○ 想定される救急現場への緊急離着陸について、安全確保のための搭乗員全員のマニュアルを作成し、これに基づき搭乗員全員で、安全を確保することとする。
(1)救急現場における離着陸場の確保
○ 救急医療のみならず、へき地医療や防災対策の確保の観点からも、各市町村に少なくとも1か所の、夜間照明施設が付設されているヘリポート又は場外離着陸場の整備を推進するとともに、ヘリポート及び場外離着陸場の施設内容・所在地について関係者に対し周知する必要がある。
○ ヘリコプターの離着陸が可能と思われる場所について、入念に事前調査を行い、管理者の協力が得られるよう、あらかじめ了解を得ておくこととする。
○ 事前調査が行われていない場所については、離着陸する場所の広さ、電線等の有無や飛散物等について、現場からの連絡により離陸前に安全を確認することが望ましいが、少なくとも着陸前には必ず確認を行うこととする。
○ 離着陸の最終判断は、パイロットが行うこととする。
○ 救急隊及び消防隊は、現場に先着している場合には、着陸場所における人の排除や、その他安全の確認を行うこととし、状況に応じて警察も、救急現場における離着陸について安全確認を行うこととする。
○ 状況に応じて、救急現場に着陸せずホイストを用い、現場への降下や患者の収容を行うこととする。
○ 救急現場へ医療スタッフを降下させ又は患者の収容を行う場合は、事前訓練を含む活動マニュアルを作成しておくものとする。
(2)医療機関からの転院
○ 救急患者を、救命救急センター等のより高次の医療機関へ転院させることが想定される医療機関は、転院搬送のために用いる場外離着陸場を、あらかじめ確保しておくこととする。
○ 救急患者を受け入れた医療機関は、より高次の救急医療機関における治療のためにドクターヘリの出動要請を行った場合、上記の場外離着陸場に患者を搬送するとともに、ドクターヘリが離着陸できるよう安全の確認を行うこととする。
(3)交通規制等
○ 交通事故や大規模な事故の発生時に、ドクターヘリが道路で離着陸する場合には、警察官により、所要の交通規制等が行われる必要がある。なお、この際、必要に応じ道路管理者等の関係機関もこれに協力する。
(4)夜間の離着陸
○ ドクターヘリ事業の導入に当たっては、夜間を除く時間帯での離着陸から開始することとする。
一般のヘリコプターの夜間の離着陸については、現行においても、一定の基準を満たした照明施設が設置されていれば認められているが、運航条件が厳しいドクターヘリの夜間の運航については、その具体的な条件に関して、厚生省の試行的事業や東京消防庁の夜間訓練を参考に、厚生省、運輸省、建設省、自治省消防庁が協力して検討する必要がある。
(5)高速道路における緊急離着陸
○ 高速道路本線において緊急離着陸を行うためには交通を完全に遮断する必要があることから、まず、当面の取組みとして、離着陸が可能なSA(サービスエリア)、PA(パーキングエリア)を選定し、必要な条件整備を図った上、離着陸訓練を行うこととする。その際、内閣官房、警察庁、厚生省、建設省、自治省消防庁の連携によるヘリコプター離着陸合同訓練の場を活用することも検討することとする。
○ これとあわせ、ドクターヘリ事業の全国的な導入・展開に向けての取組みとして、上記の離着陸訓練の状況等も参考にしつつ、各地域(都道府県単位)において、離着陸が可能な本線部分、SA、PA等を調査し、関係機関と必要な調整を図った上、あらかじめ、緊急離着陸が可能な部分を確定しておくことも必要である。
○ 十分な着陸スペースが確保されない場合の対応として、二次災害を防止するための交通規制が実施されたときにはホイストを用いて現場への降下や患者の収容を行うことも、検討することとする。
(6)地上救急体制
○ ドクターヘリが出動する場合には、同時に救急車も出動することを原則とする。
○ 患者の搬送は、現場に到着した医師の判断により、ドクターヘリ又は救急車により行うこととする。
○ ドクターヘリの医師が救急車による患者搬送を選択した場合、救急車に同乗するか否かは、ドクターヘリの医師自らが判断することとする。
○ 救命救急センターや地域の二次救急医療機関など、搬送先となることが予定される医療機関は、あらかじめ、場外離着陸場を確保するとともに、院内の連絡体制等についても確立しておくこととする。
この場合、場外離着陸場については、ヘリコプターによる時間短縮効果が最大限に活かされるよう、できる限り迅速に患者を収容して治療を開始できる場所とする必要がある。
また、場外離着陸場を院内に設置する場合は、救急処置室までの患者搬送ルートを確保しておく必要がある。
○ 消防・防災ヘリの活用の場合にあっては、自治省消防庁が全般的な指導を行い、医療機関に関する調整については厚生省が行うこととするのが、適当である。
○ ヘリコプター運航会社への委託の場合にあっては、厚生省が地域の消防機関の協力を得て、全般的な調整を行うこととするのが、適当である。
○ 自治省消防庁と厚生省は、ドクターヘリ事業の全国的な導入・展開が円滑に進むよう相互に密接な連携を図り、一元的な対応が確保されるようにする必要がある。
(2)転院搬送等の広域調整
○ 消防・防災ヘリが主体の地域にあっては、あらかじめ定められた手続きにより、都道府県が調整することとする。
○ ヘリコプター運航会社への委託が主体の地域にあっては、状況に応じ消防機関の協力を得て、医療機関が相互に調整することとする。
なお、医療機関の間の調整が整わない場合には、厚生省が調整を行うこととする。
(3)その他検討事項
○ 必要な財源措置については、今後、検討する必要がある。
○ ドクターヘリ事業の全国的な導入・展開に当たっては、各地域(都道府県単位)ごとに、必要な体制や条件の整備について詳細な検討を行う「ドクターヘリ運航検討委員会(仮称)」を設けることなども、考慮する必要がある。
添付資料
○参考資料1:諸外国におけるドクターヘリコプターの現状(西川委員提供資料)
○参考資料2:厚生省ドクターヘリ試行的事業の実績(厚生省提供資料)