人権教育のための国連10年推進本部は、平成8年12月6日に「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画(中間まとめ)を公表し、さらに、同本部において中間まとめに対して各方面から寄せられた意見等に十分配慮しつつ検討を進め、平成9年7月4日「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画を取りまとめ、公表した。
政府においては、この国内行動計画に沿って関係省庁において関連施策を推進しているところであるが、このたび、昨年に引き続き、平成10年度における実施状況を中心として、国内行動計画の推進状況について取りまとめを行ったものである。
国内行動計画を取りまとめ、公表してから2年が経過したが、この間、国内行動計画に基づき関係省庁において所要の施策が着実に推進されているものと認識している。
1.推進本部の取組
(1)関係省庁の連携
人権教育の推進を関係省庁の緊密な連携・協力の下に、総合的かつ効果的に行うため、推進本部の副本部長省庁を中心として関係省庁会議を適宜開催し、取組状況等について意見交換等を行うとともに、国内行動計画関連施策について概算要求、予算措置の状況を取りまとめ公表した。
(2)研修等の充実
人権教育の推進に当たっては、人権にかかわりの深い特定の職業に従事する者に対する研修等の充実が重要であり、それぞれの省庁において関係職員に対する研修等の充実に努めているところである。これらの研修等のより効果的な実施を図っていくため、「人権教育にかかる研修等に関する関係省庁連絡会」において、研修等の効果的な実施に資するよう研修等の内容、教材等について情報交換等を行い、人権教育にかかる研修等の充実がなされるよう、検討を進めているところである。
(3)政府の取組状況についての情報提供等
推進本部では、国内行動計画を広く、地方公共団体、関係団体等に配付するとともに、インターネット上でも国民がアクセスできるよう官邸のホームページに掲載するなど、その周知を図ってきている。
また、平成10年は、世界人権宣言採択50周年、人権擁護委員制度創設50周年という記念すべきであったことから、平成10年12月を「世界人権宣言50周年・人権擁護委員制度50周年記念月間」とされ、12月10日に「世界人権宣言50周年・人権擁護委員制度50周年記念式典」が開催されたが、推進本部として人権思想のさらなる普及高揚を図る観点から後援を行った。
(4)都道府県の取組状況の調査
人権教育の推進に当たっては、地方公共団体が果たす役割が大きいことに鑑み、各都道府県における「人権教育のための国連10年」に関する推進体制、行動計画の策定状況等について調査を行った。
2.あらゆる場を通じた人権教育の推進
我が国社会においては、依然として様々な人権問題が存在しており、近年の国際化、ボーダーレス化が進展している状況下においては、各種の啓発と相まって人権に関する教育の一層の充実を図る必要がある。さらに社会の複雑化、個々人の権利意識の高揚、価値観の多様化等に伴い、従来あまり問題視されなかった分野においても各人の人権が強く認識されるようになってきたことから、新たな視点に立った人権教育・啓発の必要性も生じてきている。このような、現状に鑑み、関係省庁において平成10年度に実施した人権教育の取組状況は以下の通りとなっている。
(1)学校教育における人権教育の推進
学校教育における人権教育の推進については、基本的人権尊重の精神を高め、一人一人を大切にした教育を推進するという観点から、学校、家庭、地域社会が一体となった教育上の総合的な取組を推進し、人権意識を培うため、教育の在り方について幅広い観点から実践的な研究等を行うとともに、指導方法の改善を図ったほか、人権教育資料等を作成・配布するなど、人権教育の充実を図った。
(2)社会教育における人権教育の推進
社会教育における人権教育の推進については、青少年から高齢者に至る幅広い層を対象に、すべての人々の人権が真に尊重される社会の実現を目指し、あらゆる差別意識の解消を図り、人権に関わる問題の解決に資することができるよう、公民館をはじめとする社会教育施設等を拠点として行われる人権に関する学習機会の充実と、そのために重要な役割を果たす指導者の養成等を図るなど、社会教育における人権教育の充実に努めた。
(3)企業その他一般社会における人権教育等の推進
企業その他一般社会における人権教育等の推進については、人権思想のさらなる普及高揚を図る観点から、様々な啓発活動を実施した。具体的には、全国各地で、テレビ、ラジオ放送、新聞紙及び週刊誌等のマスメディアを利用した啓発活動や講演会、座談会及びシンポジウム等の開催、ポスター、啓発冊子の配付等を行うとともに、人権擁護委員等に対し、人権教育の指導者の育成を図るための研修を行うなど幅広い取組を実施した。
特に、平成10年は、世界人権宣言採択50周年、人権擁護委員制度50周年という記念すべき年であったことから、平成10年12月を「世界人権宣言50周年・人権擁護委員制度50周年記念月間」と定め、12月10日に東京国際フォーラムにおいて「世界人権宣言50周年・人権擁護委員制度50周年記念式典」を開催し、各都道府県内をキャンペーン車により巡回する世界人権宣言50周年記念キャンペーンを行ったほか、全国各地で様々な記念行事を実施した。
また、これまでの法務省の人権擁護機関、都道府県、市町村等の多様な主体によってそれぞれ独自に実施されてきた人権啓発活動について、平成10年度から人権啓発活動を実施する主体相互間の連携・協力体制を強化するための「人権啓発活動ネットワーク」の整備を開始した。
さらに、具体的な人権侵犯事件の調査処理を通じ関係者に人権思想を啓発した。なかでも、いわゆる神戸児童連続殺傷事件にかかる被疑者少年の供述調書や精神鑑定書とされるものが月刊誌等に掲載された事例については、出版社に対して反省と人権侵害の再発防止策の策定及び被害回復の措置を求める勧告を行うとともに、処理結果を報道機関等を通じ社会一般に対し公表し、大きな啓発効果を挙げた。
(4)特定の職業に従事する者に対する人権教育の推進
人権教育の推進に当たっては、人権にかかわりの深い特定の職業に従事する者に対して、人権教育に関する取組を強化する必要があることから、特定の職業に従事する者に対する研修等の充実を図った。
3.重要課題への対応
「人権教育のための国連10年」国内行動計画において重要課題としてかかげられた、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、アイヌの人々、外国人、HIV感染者等、刑を終えて出所した人々などの問題に対して、平成10年度において以下のように取り組んだところである。
(1)女性
「男女共同参画2000年プラン」に沿って、関係行政機関が連携を保ちつつ、総合的に諸施策を推進しているところである。特に、政策・方針決定過程への女性の参画の拡大、雇用における男女の均等取扱いの促進を図るとともに、職場におけるセクシュアルハラスメント防止対策、性犯罪被害者対策、多様な機会を通じた啓発・広報活動等に取り組んでいる。さらに、男女共同参画社会の形成を目指し青年男女を対象とした男女共同参画セミナーや、女性の生涯学習を推進するための学習機会の整備、専門的な指導者の養成等についても取り組んだ。
男女共同参画審議会は、内閣総理大臣に対し、平成10年11月に「男女共同参画社会基本法について−男女共同参画社会を形成するための基礎的条件づくり−」を、平成11年5月に「女性に対する暴力のない社会を目指して」をそれぞれ答申した。また、平成11年2月26日、第145回通常国会に、男女共同参画社会基本法案を提出した。同法は、同年6月15日に成立し、6月23日公布、同日施行された。
(2)子ども
世界人権宣言50周年・人権擁護委員制度50周年記念月間において「子どもの人権を守ろう」を強調事項に掲げ全国各地で様々な啓発活動を実施した。
学校教育等においては、幼児児童生徒の人権に十分配慮し、一人一人を大切にした教育指導や学校運営が行われるよう、人権教育に関する調査研究等人権に関する学習活動を総合的に推進した。また、学校におけるカウンセリング等の機能の充実のため、「スクールカウンセラー」の活用、効果等に関する実践的な調査研究を行い、さらに、いじめ問題に関するインターネット等を利用した相談機関・行政資料・対処事例・取組事例の情報提供やいじめ問題の解決にための地域社会と一体となった取組を推進した。
都市部における子どもに対する虐待及び非行等の養育上の諸問題に対応するために、養護施設等の民間施設の専門性を活用して近隣地域の家庭から相談を受け、必要に応じて在宅支援を行うなどして、児童の権利擁護、健全育成、子どもの心の健康づくり等に関する事業を行った。また、平成10年度から地域に密着した相談・支援を行う児童家庭支援センターの設置を行った。
犯罪等の被害に遭った少年に対しては、都道府県における少年相談窓口の整備充実や、カウンセリング等による継続的支援活動を実施した。
(3)高齢者
高齢社会対策大綱に基づき高齢社会対策を総合的に推進しているところである。特に、本格的な高齢社会の到来に向けて、活力ある豊かな社会を形成するため、高齢者の学習機会の体系的整備と学習活動を通じた社会参加活動を総合的に促進するための条件整備を図り、10月を高年齢者雇用促進月間として定め、高齢者の雇用就業問題について事業主をはじめ広く国民全体の理解と協力を求めることを目的として啓発活動を実施した。
また、平成10年度百歳到達者に対し、内閣総理大臣より祝状等を贈呈するとともに、平成10年9月15日(敬老の日)から7日間を「敬老の日・老人保健福祉週間」と定め、国民一人一人が高齢者問題を身近なこととして理解するよう運動を行った
(4)障害者
障害者の「完全参加と平等」を実現し、障害者自らの社会的自立と社会参加への意欲ならびに国民の障害者問題に対する理解と認識をより一層高めることを目的として、障害者週間中に「障害者の日・記念の集い」や「障害者スポーツ交流」等様々な啓発活動を実施した。一方学校教育の場においては、障害のある子どもに対する理解認識の促進のため、指導資料等の作成・配付や地域や学校等の実情に応じた多様で継続的な交流教育を推進する事業を実施した。
(5)同和問題
「閣議決定(同和問題の早期解決に向けた今後の方策について平成8年7月26日)」に基づき、同和問題に関する差別意識の解消に向けた教育及び啓発に関する事業については、人権教育・人権啓発の事業に再構成して推進したところである。従来、差別意識の解消に取り組んできた地域改善対策啓発活動事業においては、人権思想の普及高揚事業に再構成し、様々な啓発活動を実施した。なお、世界人権宣言50周年・人権擁護委員制度50周年記念月間には「部落差別をなくそう」を強調事項に掲げ、啓発活動を展開した。また、平成9年度中におけるえせ同和行為実態把握のためのアンケート調査結果を公表した。教育に関する事業においては、教育総合推進地域事業等として、学校、家庭及び地域社会が一体となった教育上の総合的な取り組み等を推進した。また、事業者や雇用主等に対しても雇用主に対する指導・啓発事業等において指導や啓発活動等を実施した。さらに隣保館においても、地域社会全体の中で、福祉の向上や人権啓発の住民交流の拠点となる開かれたコミュニティーセンターとして総合的な活動の推進を図った。
(6)アイヌの人々
アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する国民に対する知識の普及及び啓発を図るため、「財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構」の行う事業に対して助成等を行った。また、生活館において、アイヌの人々の生活の改善向上・啓発等の活動の推進のための事業を実施した。
(7)外国人
世界人権宣言50周年・人権擁護委員制度50周年記念月間において、「国際化時代にふさわしい人権意識を育てよう」を強調事項に掲げ、外国人に対する偏見・差別を除去するため、全国各地で様々な啓発活動を実施した。また、東京、大阪、名古屋、福岡、広島、高松の各法務局及び神戸、松山地方法務局に通訳を配置した「外国人のための人権相談所」を開設し、外国人のための人権相談体制を充実させている。さらに北朝鮮のミサイル問題を契機として発生した在日朝鮮人児童・生徒に対する嫌がらせ等の事象に関し、在日朝鮮人児童・生徒が多数利用する通学路、利用交通機関等において、差別の防止を呼びかけるリーフレットの配布やポスターの掲示を実施するとともに、これらの活動を通じて、在日朝鮮人児童・生徒に対し、嫌がらせ等を受けたときには、法務省の人権擁護機関に相談するよう呼びかけを行った。
(8)HIV感染者等
エイズに関する正しい知識の普及のため、エイズ予防ポスターの作成、「世界エイズデー」キャンペーン事業、保健所における青少年へのエイズ教育の実施等様々な啓発活動を実施した。また、学校教育においては、エイズ教育指導の充実のためエイズ教育担当者に対する都道府県研修会等の実施や、小学生用ポスター及び中・高校生用エイズ教育教材を作成し各都道府県に配布した。
また、職場におけるエイズに関する正しい知識の普及を図るため、基盤整備として産業保健従事者に対する講習会を開催した
ハンセン病に対する差別や偏見の解消に向けては、ハンセン病療養所と地域住民との社会交流事業の実施や啓発普及推進のためのシンポジウムの実施や、ポスター等を作成して配布した。
(9)刑を終えて出所した人
犯罪や非行を防止し、罪を犯した人や非行に陥った少年の更生を支えるため、地域住民の理解と参加を得て、第48回社会を明るくする運動を実施する中で刑を終えて出所した人に対する偏見・差別を除去し、これらの者の社会復帰に資するための啓発活動を実施した。
4.国際協力の推進
平成10年度においては、第53回国連総会で「人権教育のための国連10年行動計画」の実施に向けて各国の一層の貢献等を求める「人権教育/人権広報活動」決議案の共同提案国となり、同案は決議53/153として採択された。
また、国連に設けられた「人権分野における諮問サービス及び技術的援助のための自発的基金」をはじめとする人権関係基金に対する拠出を通じて人権教育関連のプロジェクトに寄与するとともに、二国間でもカンボジア等に対する人権教育関連の協力を継続した。
また、平成10年の11月には、児童と武力紛争に関する国連事務総長特別代表事務所、国際連合大学及び(財)日本ユニセフ協会との共催により、「児童と武力紛争」国際シンポジウムを開催し、同シンポジウムにはオララ・オトゥヌ特別代表を基調報告者として迎え、アジア太平洋地域等の諸国、国際機関及び関連NGOからの関係者等が出席した。
また、平成10年3月に来日した国連高等弁務官事務所の担当官と推進本部の関係官が会合の機会を持ち、人権教育のための国連10年の推進等に関し意見交換を行った。
5.その他
国内行動計画の実施に当たっては、人権擁護施策推進法に基づき法務省に設置された人権擁護推進審議会における検討結果を反映させることとされている。
人権擁護推進審議会は、平成9年5月に、第1回会議が開催され、法務大臣、文部大臣及び総務庁長官から「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」(諮問第1号)、法務大臣から「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について」(諮問第2号)、それぞれ諮問され、諮問第1号については、平成11年7月に開催された第29回会議において、答申がなされた。
答申においては、すべての人々の人権が尊重される平和で豊かな社会が実現されるためには、国民一人一人が人権尊重の理念について正しく理解することが重要であり、国を始めとする人権教育・啓発の実施主体のそれぞれの役割を明確にした上で、これらの実施主体がその役割に応じて相互に連携協力して人権教育・啓発を総合的かつ効果的に推進する必要があるとし、そのための諸施策を提言しており、今後の人権教育・啓発の在るべき姿と方策の方向性を示している。また、「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画の実施に当たって、本答申を踏まえた一層効果的な取組が行われることを期待すると述べられている。