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観光立国懇談会報告書

−住んでよし、訪れてよしの国づくり−








2003年4月24日
観光立国懇談会


目  次


はじめに

I 観光立国の意義−今、なぜ観光立国か−
1.世界が変わる
(1)グローバリズムが促す大交流−小さくなる地球、近づき合う人々−
(2)大交流に遅れる日本−開かれた国を目指そう−
(3)高まる文化交流の役割−文化安全保障とソフト・パワーの充実−
(4)量から質へ。変わる成長パターン−人間重視の時代−
(5)日本における観光の変遷
(6)進化する観光−観光のもつ高い改革効果−

2.観光の革新−文化の磁力を高めて−
(1)「国の光を観る」−観光の原点−
(2)観光は住んでよし、訪れてよしの国づくり
(3)総合的な魅力の高揚する国家デザインの再構築を
(4)文化の磁力の充実
(5)観光の革新と21世紀日本の進路

II 観光立国実現への課題と戦略−日本ブランドの輝きを高めよう
1.観光立国への総合的な戦略展開−住んでよし、訪れてよしの国づくり−

2.日本の魅力の確立
(1)国の魅力とは何か
(2)日本の魅力はどこにあるか
(3)日本はその魅力を発揮しているか

3.日本ブランドの発信
(1)ブランド発信に総合戦略を
(2)マーケティング機能を強化しよう
(3)国と民間と地方の連携を高めよう
(4)アピールに迫力を
(5)情報通信手段の多様な活用を

4.魅力を活かす環境整備
(1)ハード・ソフトのインフラ整備を
(2)日本への入国手続の改善を
(3)外国人が一人歩きできるように
(4)観光産業の国際競争力を強めよう
(5)地域に根ざした魅力を高めよう
(6)人材を育てよう

終わりに

観光立国懇談会の開催について

参考
1.アンバランスな日本の国際観光交流
2.訪日外国人旅行者数及び日本人海外旅行者数の推移
3.外国人旅行者受入数国際ランキング(2001年)
4.州別、国・地域別訪日外国人旅行者の割合−アジアが6割を超える−
5.世界の国際観光客数と国際旅行観光収入(推移と予測)
6.今後の生活の力点
7.観光消費の我が国経済への貢献(推計)
8.全国民がもう1回国内宿泊旅行に出かけた場合の経済効果
9.世界各国の観光産業の規模・雇用
10.訪日前後の対日イメージ比較[全体/上位順]
11.世界の国際会議開催状況


はじめに

 小泉内閣総理大臣は、本年1月に行った第156回国会施政方針演説において、日本を訪れる外国人旅行者を2010年に倍増させることを目標とすることを打ち出した。
 これを受け、本懇談会は、我が国の観光立国としての基本的なあり方を検討するため、4回の懇談会に加え、数回にわたる有識者のみの会合及び起草委員会を開催し鋭意検討を重ねてきた。第1回以降、毎回幅広い観点から活発な議論が行われた。本報告書は、その議論の結果をとりまとめたものである。
 本報告書では、改めて観光の意義を問い直すとともに、我が国が観光立国を実現していく上での課題と戦略を提言している。
 本報告書を契機として、広範な国民的議論が行われ、観光に関係する様々な主体がそれぞれあるいは連携して、観光立国の実現に向けて第一歩を踏み出すことを強く期待したい。


I 観光立国の意義−今、なぜ観光立国か−

1.世界が変わる
(1)グローバリズムが促す大交流−小さくなる地球、近づき合う人々−

 東西冷戦が終結して、世界は、グローバリズムの定着に向けて大きく変わろうとしている。20世紀後半から徐々に進行してきたIT革命は、世界中の人々や企業を「時間」と「距離」を超越してネットワークで直結させ、大型ジェット機の出現は、20世紀初頭に50日かかった世界一周を約30時間で実現させることになった。グローバリズムは、世界市場で、モノ、カネ、技術、情報を自由に流通させるばかりか、人々をも世界的規模で行き交う条件を提供している。世界は、まさに大交流の時代を迎えている。それとともに、歴史や風土に培われた、土地ごと、国や地域ごとの生きる知恵や楽しさ、すなわちローカルな文化の特性、大切さも露わとなりつつある。
 世界の人々は、こうした環境にあって、国際観光に新しい価値を見出そうとしている。それは、単に観光資源を「見る」だけでなく、世界の多くの人々と近づき合い、新しい経験を積み、生活文化の新たな創造を助け、生きる知恵と楽しさを広げることができるからである。
 世界観光機関(WTO)によると、1970年における全世界の外国旅行者数は1億5900万人であったが、2000年には6億9700万人に増加した。そして、2010年には10億人に、2020年には16億人になると予測されている。国際観光はまさにグローバリズムの推進力としての威力を発揮しつつある。近い将来、音速旅客機が就航し、誰でもが利用可能な情報ネットワークが実現すれば、地球はますます小さくなり、より多くの人々がより親しく近づき合うことになる。

(2)大交流に遅れる日本−開かれた国を目指そう−
 大交流時代の到来にもかかわらず、日本は、世界に十分に開かれた国にはなっていない。外国から日本に来る旅行者は 約500万人で、国際ランキングでみると、世界で35位にとどまっている。それは、第1位のフランスへの旅行者7650万人と比べるとわずか16分の1であり、日本は、国際観光については、後進国の地位に甘んじている。
 そればかりか、投資交流をみても、日本への対内直接投資は、日本からの対外直接投資に比較して5分の1と極めてアンバランスであり、日本における外国人居住者数や海外からの留学生数でみても、主要国のなかで極めて低い水準にある。
 日本がグローバリズムの定着に貢献し、「大交流」の利点を享受しようと思うならば、世界に真に開かれた国となることが何よりも大切である。

(3)高まる文化交流の役割−文化安全保障とソフト・パワーの充実−
 世界中の人々を大交流へと駆り立てる要因の一つは、異なる文化への興味や関心である。21世紀には、これまで人類が経験したことがないほどの大規模なスケールと多様なレベルで、多彩に文化交流が展開されるであろう。
 東西冷戦が終結し、イデオロギー対立の時代は過ぎ去ったが、グローバリゼーションの下で新たに文化の対立や文明の衝突が起きるのではないかという懸念が生じている。確かに多くの地域でみられる民族紛争や宗教上の対立をみると、異なる文化が出会うことによって、誤解や摩擦が生じることがあるが、その一方で異なる文化をもつ人々が交流を深めていけば、相互の理解は深まるばかりか、新しい文化が生み出される可能性が高まる。地球的規模で生じている大交流が異なる文化の価値を尊重する形で展開されるならば、世界における安全保障に大きく貢献するはずである。数年前、国連のアナン事務総長は「平和の創造」を提案し、予防的な安全保障の重要性を訴えたが、文化安全保障とそれを支える国際観光は、それに有力な基盤を与えるものである。
 21世紀の世界では、軍事力、生産力などのハード・パワーが他国に威力を与える時代から、知力、文化力、情報力などのソフト・パワーが他国に影響を与える時代へ移りつつある。大交流時代において、日本が観光立国を推進し、そのソフト・パワーの強化を図りつつ、文化交流に力を入れていけば、日本が世界の中で独自のプレゼンスを示し、グローバリズムの定着に貢献することができる。

(4)量から質へ。変わる成長パターン−人間重視の時代−
 20世紀後半には、世界は、目覚しい経済発展を遂げた。日本は、最近でこそ経済停滞に悩んでいるが、20世紀後半を通観してみると、高度成長を実現し、今なお、世界第2位の経済規模を維持している。高い生活水準を実現した今日、日本の人々は、経済上の量的拡大よりも、精神活動も含めて生活の質の充実を重視するようになっている。
 かつて仕事に生きがいを見いだしてきた日本人は、最近では、自由時間の有効活用を重視し、自らの趣味、文化への関心或いは社会への貢献を大切に考えるようになってきている。換言すれば、社会の成熟に伴って、経済重視の時代から人間重視の時代へと移りつつあるということもできよう。観光立国は、このような新しい成長パターンに応えるとともに、国内を外に開かれたものとし、文化的魅力の向上に人々の関心を高める上で大きな役割を果たすものである。

(5)日本における観光の変遷
 江戸時代の日本は、鎖国下で内需拡大、公共事業に力を入れることにより、当時の世界では最も先進的な観光システムの構築と内需拡大に成功した。旅を可能ならしめる装置として、五街道、脇街道、宿場、本陣、旅籠屋、門前町、宿坊などを整備し、参詣制度、師檀制度、講制度、湯治制度、旅宿組合制度、荷物飛脚問屋制度、出版制度なども効率的に機能した。人々は、お伊勢参り、四国八十八箇所廻り、立山登拝、西国三十三箇所廻り、湯治、花見・花火などの都市イベントその他を通して、身体と心の双方に安らぎと楽しみを得ていた。各地に名物料理や特産物・土産物が生まれて地場の商工業・商品経済が発達し、今日以上に先進的な観光産業が発達していたのである。
 明治時代になると、富国強兵と殖産興業に政策の重点が置かれ、勤勉と貯蓄が美徳とされ、観光の位置付けは低いものとなった。戦後、1960年代になると、高度経済成長が実現して、レジャーの大衆化が進展し、国内観光旅行が盛んとなった。さらに、1980年代以降は日本人の外国への観光旅行が急拡大していった。
 当時の日本人の典型的な観光旅行のパターンは、名所見物型パッケージ・ツアーが一般的であったが、1990年代に入ると、参加・体験型の観光旅行が注目されるようになった。そのような観光ニーズの変化に対応して、個人や少人数主体の旅行や、研修討論旅行、学術・ビジネス連繋観光や産業観光、エコツーリズム(生活環境観光)やグリーン・ツーリズム(農村観光)などが展開されるようになった。今後さらに、観光を通じて、さまざまな学びや遊びが行なわれるようになろう。

(6)進化する観光−観光のもつ高い改革効果−
 観光の進化は、世界的な傾向である。欧米はもとより、アジアの国々は、観光を自国の国力を高め、文化を諸外国に発信する有力な手段と捉え、また、国内のシステムを改革する契機にしようと位置付けている。同時に、観光は、経済に刺激を与え、教育を充実し、国民の国際性を高めることが広く国際的に認識されつつある。観光は、まさに国の将来、地域の未来を切り拓く有力な手段であるといっても過言ではない。
 日本では、とかく観光は「風景や名所を見物すること」などの限定的な意味で取り上げられることが多かった。しかし、観光は本来、さまざまな分野や主体がかかわる複雑系のシステムを前提にしており、総合的かつ複合的な視点で取り扱われるべき課題である。我々は、そうした進化した観光の機能に着目して観光システムを再考するべき時代を迎えている。

2.観光の革新−文化の磁力を高めて−
(1)「国の光を観る」−観光の原点−

 「観光」の語源は、中国の古典『易経』の「国の光を観る」にあるといわれている。『易経』は、一国の治世者はくまなく領地を旅して、民の暮らしを観るべしと説いている。民の暮らしは政治の反映であり、善い政治が行われていたならば、民は活き活きと暮らすことができ、他国に対して威勢光輝を示すことができるというわけである。つまり、「国の光を観る」という行為は「国の光を示す」という国事行為につながっていたのである。
 観光立国の推進に当たっては、まずはこうした「観光の原点」に立ち返ること、つまり「観光」概念の革新が必要になる。観光の原点は、ただ単に名所や風景などの「光を見る」ことだけではなく、一つの地域に住む人々がその地に住むことに誇りをもつことができ、幸せを感じられることによって、その地域が「光を示す」ことにある。そのように考えると、観光は、国づくりや地域づくり、町づくりと密接にかかわることが明らかになる。

(2)観光は住んでよし、訪れてよしの国づくり
 観光立国の基本理念は、「住んでよし、訪れてよしの国づくり」を実現することにある。
 日本に住む全ての人々が、自らの地域社会や都市を愛し、誇りをもち、楽しく幸せに暮らしているならば、おのずとだれしもがその地を訪れたくなるものである。観光立国を契機にして、美しい日本の再生、都市の活性化、新しい地域文化の創造などをより積極的に推進することによって、「くらしといのちの輝き」を発揮することが可能になる。日本は長い年月をかけて独特の魅力を育ててきた。戦後における経済の高度成長、産業化の中で、多かれ少なかれ見失われ、あるいは減殺されてきた文化の魅力を再活性化させ、「光」の輝きに磨きをかけ直し、心と頭にいい旅を再び創造することが「観光の革新」の意味するところでもある。
 観光は、住む人々が地域の「光」をよりよく自覚することを可能にするだけでなく、訪れる人々にとっても地域の「光」をよりよく感じさせるものでなければならない。さらに全ての人々が身体的条件や経済的条件にかかわらず安心して楽しめる観光が世界的に推進されていることを考えて、日本もこの点に配慮した観光立国を促進する必要がある。従来の大量生産・大量販売型の観光に代わって、個々の観光客の主体性を尊重して、学びや癒しや遊びなど、それぞれなりの楽しみ方を可能にする「新しい型の観光」の促進も図らねばならない。さらに、地域の貴重な自然資源や文化資源を持続可能な方法で活用する「持続可能な観光」を念頭に、地域の人々が主導的に展開する「自律的観光」の実現化を図ることも重要である。
 観光システムの改革こそ、観光の革新のために不可欠な要素である。

(3)総合的な魅力の高揚する国家デザインの再構築を
 21世紀にふさわしい観光立国を実現するためには、国家デザインの再構築に裏打ちされなければならない。観光の意義は、政治、経済、生活、文化など、今日の魅力の総合的な発揮と密接にかかわっているからである。
 21世紀において、日本が目指すべき社会は、ダイナミックな経済力を持ち、自律性を高めた個人が、国籍を問わず人間性を尊重し合い、文化の革新力と多様性を充実させ、自然と環境を大切にし、国際社会と密接に交流し合うものと集約できよう。これは、産業立国、情報立国、文化立国、環境立国を総合的、有機的に展開し、この多彩な魅力を観光立国に高める国家デザインである、ということができる。
 日本では今後、少子化による人口減少と高齢化の進展が予測されている。それだけに交流人口を増やすことによって、地域の活性化を図ることが求められる。そうした観点から日本の各地・各都市で、観光振興を基軸にした地域づくりが盛んとなり出している。

(4)文化の磁力の充実
 日本は、明治維新以後における近代国家の形成にあたって、「欧米に追いつき、追い越せ」をスローガンに、鉄道、港湾、道路、鉱工業施設、通信施設などの基幹的な生産基盤の整備に重点を置いてきた。戦後においても、国土の均衡ある発展を目標に一貫して社会資本整備に力を入れてきた。ただ、これらは「経済優先の論理」に基づいて展開され、工業立国や貿易立国の推進には大いに役立ったが、観光立国や文化立国を図る際には必ずしも有効ではなかった。観光立国を実現するためには、観光を可能ならしめるような空港、港湾、鉄道、高速道路、ホテル、名所、博物館、劇場などの装置群を整備するとともに、旅行斡旋業、鉄道会社、観光協会、ガイドシステムなどの制度群の改善が必要である。
 地球的規模での大交流時代の到来や文化交流の高まりに対応するためには、日本の「文化の磁力」をさらに充実させることが決め手になる。そのためには、交響楽団、劇団、大学、博物館、留学生制度、アーティスト・イン・レジデンス制度などの文化資本の蓄積が重要となってくる。旅行者のみならず、文化人、芸術家、研究者が日本に集う条件を整備することも欠かせない。
 21世紀には、文化力や知力や情報力に根ざしたソフト・パワーを高めることによって他国からの信頼を集めるとともに、内外の人々や企業などを魅き付ける磁力の強化を国家的課題として推進することが必要である。

(5)観光の革新と21世紀日本の進路
 21世紀には地球的規模で大交流が生じ、多くの人々がより自由により広範に世界中を旅行することになる。異なる文化をもつ人々が交流を深めることにより、新しい文化が生みだされ、新しい産業が創出され、平和が維持されることにつながるのである。観光の革新を推進することで、日本全体の、そしてそれぞれの地方の「光」が輝きを増し、社会が活性化していくことになる。「世界に開かれた国」として、外国の人々が「訪れたい」、「学びたい」、「働きたい」、そして「住みたい」日本となることこそ、21世紀に日本が追求すべき国の価値である。


II 観光立国実現への課題と戦略−日本ブランドの輝きを高めよう

1.観光立国への総合的な戦略展開−住んでよし、訪れてよしの国づくり−
 21世紀には、国際観光は、グローバリゼーションの潮流にあって、交通手段と情報通信技術の飛躍的な進歩、それに人々の文化への関心の高揚に支えられて、ますます拡大していく傾向にある。世界は、各国がその魅力を競い合う時代になるといっても過言ではない。
 しかしながら、我が国についてみると、日本人の海外への旅行者数が約1,600万人(平成13年)であるのに対し、日本への外国人旅行者数が約500万人にとどまっており、極めてアンバランスな状態にある。外国人旅行者の受入数では、日本は、前述したとおり、世界第35位で、他のアジア諸国と比較しても、中国(世界第5位)、香港(同第14位)、タイ(同第20位)シンガポール(同第22位)、マカオ(同第27位)、インドネシア(同第31位)、韓国(同第32位)の後塵を拝している。
 日本は、海外からの来訪者を現在のレベルから2010年に倍増させることを目標としているが、それを達成するためには、政府を始め広く国民が観光への認識を深め、国の総力を挙げて、その目標に挑戦しなければならない。

 まず第1に必要なことは、観光立国に向けて総合的な戦略を確立することである。それには、まず、「己を知る」心をもって、自らの魅力を謙虚に分析し、理解する必要がある。日本人自身が自分の住む土地を愛し、社会に誇りを持ってこそ、内外の観光客を魅きつけることができる。同時に、「他人に学ぶ」気持ちを忘れず、成功している国々の経験をつぶさに検討し、我々の観光立国への糧にしなければならない。
 国の魅力というのは、「訪れたい」、「学びたい」、「働きたい」という動機に表れる。土地の人が「くらしといのち」を輝かせ、生きる誇りと楽しさを実現し、「住んでよし」としているところは、同時によそ者にとっても「訪れてよし」のところである。このような、「住んでよし、訪れてよしの町づくり、国づくり」の総合戦略を構築しなければならない。

 第2に必要なことは、観光をめぐるコンテンツ、コミュニケーションそしてインフラの整備、充実に国を挙げて取り組む体制を整えることである。
 国の魅力を高める総合戦略を展開するには、そうした業務が多くの省庁にまたがることから、政府において内閣官房を始め、関係府省庁一体となって取り組む体制を整えるとともに、官民が協力し合い、在外公館や海外の関連機関が連携し、かつ、地方も参画して国を挙げてこの課題に取り組んでいく有機的なシステムを整備する必要がある。

 第3に、観光関係者はもとより、すべての日本人が来訪する海外の人々を暖かく「迎え入れる心」を持ち、観光客の立場に立って、環境を整えていくことである。日本人一人一人が来訪者に親しく接し、好印象を与えてこそ、来訪への有効な働きかけとなる。
 今日の日本の観光インフラは、外国人にとって決して親切に設計されているとはいい難い。日本の街は、外国人が一人歩きしにくい状況にある。町並みも決して美しいとは言い得ない。日本には十分に活用されていない潜在的に魅力のある施設もある。こうした点を総合的に改善しなければならない。

2.日本の魅力の確立
(1)国の魅力とは何か

 人々は、何に魅せられてその国を訪れようと思うかといえば、それは、そこに自国で体験できない価値を見出すからである。簡単に言えば、「あれを見てみたい」、「あれを味わってみたい」、「あれを買いたい」、「そこでこれを学びたい」、「あのような国になりたい」と思うことがその動機となる。

 国の魅力は、多様であり、複合的なものである。それは、大別すると、観光拠点の魅力とその背景にある国全体のもつ魅力に依存する。
 自然の景観、文化資産、楽しみの機会、都市機能などは、各国が宣伝に力を入れている観光拠点である。多くの人々は、大英博物館やルーブル美術館、スイスの山々やピラミッドに、一生に一度は行ってみたいという誘惑にかられる。

 人々は、同時にその国のもつ社会のダイナミズムに関心をもつ。
 経済成長、文化水準、生活スタイル、産業発展、技術進歩、都市環境、など複合的で生活に根ざした社会のコンテンツがそれである。最近、観光といってもただ「観る」だけでなく、産業交流、農業体験など「学ぶ」観光や文化に接する観光への関心が高まっている。都市も人々を魅きつける誘因となっている。ニューヨーク、ロンドン、ベルリン、北京、上海、シンガポールなどの再開発への関心は高い。

 要するに、国としての魅力は、その国のもつ空間が人々をひきつける価値があるか、その国で過ごす時間が価値あるものであるか、その国に社会を発展させる活力があるか、そしてその国の人々が生きる喜びを味わい、「くらしといのち」の知恵と誇りを抱き、外国人に対しても親しく接して生きる喜びを分かち合うかにかかっているといってよい。
 国の魅力は一朝一夕にできるものではない。年月をかけて観光資源のみならず、文化に、教育に、研究に投資を続けてこそ、その成果が魅力に結実するのである。フランスなどに多く観光客が訪れるのは、それを如実に物語っている。

(2)日本の魅力はどこにあるか
 日本は、その多様性とダイナミズムからみて、魅力の宝島と位置付けられよう。
 第1に、「自然との共生を図り、美を追求すること」にある。
 欧米は、自然の脅威から身を守るために、自然は征服すべきものとする思想が根強くあるが、日本では、自然を大切にし、それとの共生を図り、その中に美を求める傾向が息づいている。
 日本庭園は、その典型であり、庭園自体が自然の美と人工の粋の融合を図るばかりか、借景ともいうべき「月」、「山」、「川」、「風」、「鳥」などの周辺の環境との調和にも配慮が行き届いている。
 日本食は、最近、欧米でもブームになっているが、これは、健康的で、「生」の味覚と素材の新鮮さを活かして調理し、かつ、美しく盛り付けることが魅力の源泉となっている。
 日本は、伝統的に木を大切にし、住宅にしろ、生垣にしろ、生活の上で木の文化に親しんできた。奈良には、正倉院、東大寺など、奈良時代からの世界最古の美しい木造建築物が今なお健在である。
 地球環境問題が最近人類にとって深刻な課題となっているが、この価値意識は、その解決に貢献するものである。

 第2に、「伝統的なものと現代的なものが共存していること」にある。
 日本では、京都、奈良などの歴史的な文化遺産があり、「わび」とか「さび」とかといった「味わい」を大切にする。女性の母性や感性がいかんなく発揮された文学作品は、今も愛読されている。
 その一方で新しい文化の結晶が多く存在している。日本のアニメはアジアや欧米の若者のあこがれの的である。ダグラス・マックレイ(Douglas Mcgray)は、フォーリンポリシー誌に日本のグロス・ナショナル・クール(Gross National Cool)の発展を指摘し、ポップミュージック、電子製品、ファッション、アニメ、料理など新しい文化の隆盛をたたえている。
 また、日本には随所に伝統的な祭がある。それは、技術と芸術を結集して生活を讃えるものであり、そういった伝統行事は、今日においても、人々に新たな意欲を呼び、連帯の気をもたらす。

 第3に、「産業的な活力と文化的な香りが共存していること」にある。
 最近でこそ、日本の産業活動は停滞気味であるが、バブル期までは、「メイド・イン・ジャパン」といえば、優れた品質と産業の活力を象徴するブランドであった。一方、日本の産業は、匠の技に象徴されるようにモノづくりに優れた伝統があり、文化色豊かな陶器、漆器、織物などに外国人が目を見張るものがある。日本の伝統的な織物がアパレルファッションに利用されるケースもある。白桃やマスカットその他の日本の果物は工芸品に対する農芸品とも言うべき美しさをもっており、ことにアジアの人々のお土産として喜ばれている。
 そして、自動車を始め、ウォークマンやデジタルカメラなどの現代生活に欠かせない人気製品を生み出しており、その性能はもとより、優れたデザインには定評がある。CDやDVDなどは文化の伝達に貢献しているし、人間の感性に触れるロボットさえ提供している。御徒町の電子製品市場は、その道のファンの人気を集めている。

 第4に、「日本的なものと西洋的なものとが並存していること」にある。
 伝統的な建築物もあれば、優れた知的機能を備えた欧米に引けをとらない近代的な都市文化もある。歌舞伎や文楽など日本的な文化もあれば、現代演劇やモダンバレエ、クラシック音楽、オペラなども盛んである。世界のトップクラスのコンサート、オペラ、バレエあるいは絵画などを楽しむことができる。
 フランス、イタリア、中国、日本など世界の最高水準の料理が居ながらにして食べられる。健康に良い和菓子もあれば、ケーキ製作技術も世界の最高水準にある。

 第5に、「自然の景観に恵まれていること」にある。
 日本は約70%が山岳地帯であり、美しい山々や清らかな河川に恵まれている。また、約3.6万キロメートルに及ぶ海岸線があり、その多様な変化は魅力的である。雪山や温泉はアジアの人々のあこがれである。海洋スポーツや観光漁業は、発展の可能性が高く、日本の田園風景や農村地域は貴重な観光資源である。

 第6に、「社会の治安と規律が保たれていること」にある。
 日本の治安のよさは定評がある。女性が夜一人歩きできる都市は世界にそれ程多くない。このよさは、是非維持したいものである。
 ニューヨーク市が観光客を呼び戻し、活力を高めた背景には、ジュリアーニ市長の小さい犯罪も許さないという徹底した取り締まりの努力があった。
 しかし、残念なことに、日本では、最近、犯罪が増加傾向にある。それを防ぐには、ただ単に警察に任せるのではなく、国民全体が協力して社会の安全と規律を守る態度を維持しなければならない。外国人が多く来るようになると犯罪が増加するのではないかとの指摘があるが、国を挙げての対策も用意しておく必要があろう。
 また、世界で評価の高い日本の清潔さも維持していかなければならない。
 大切なことは、我々日本人がもう一度日本を学び直し、理解し、愛し、日本の魅力を発見し、創造して、日本の生き方に誇りを持つことである。そして、一人一人が「観光大使」の意識をもって外国人に日本を語れば、彼らも日本に対する興味を高めるはずである。

(3)日本はその魅力を発揮しているか
 日本には、このような潜在的な魅力があるにもかかわらず、それが海外の観光客に十分に認識されてきたとは言い難い。今後の努力の方策を探るためにその背景を考えてみたい。

 第1に、日本人自身が、日本の魅力を十分に認識しなくなっていた。
 日本人自身が自らの生活や文化に自信を持たなければ、それを海外に訴えることもできないし、外国人がそれに惹かれるわけがない。
 外国の多くの人は、自国の歴史、文化、伝統を自信をもって語れるが、日本人は、企業人にしろ、研究者にしろ、自らの専門分野は別として、歴史や文化を語れない人が多い。学校教育でも日本の魅力の源泉である歴史、文化の特質、生活スタイルなどを教えてこなかったツケが今現れているのであろう。

 第2に、日本は、その魅力を守り、維持することに努めてこなかった。むしろ、これを破壊することさえあった。
 日本は高度成長の過程で、製造業や貿易の振興に力を入れ、観光に資金と人材を投入することを軽視してきた。膨大な外貨収入が蓄積されたため、海外への旅行こそ推奨したが、海外からの観光客の誘致には消極的であった。
 観光拠点のコンテンツは、前述のように他国に引けを取らない水準にはあるが、現実には、高度成長の下で、美しい田園風景や水辺を破壊するケースが数多くあった。都市の再開発のために、河川の上に見苦しい形で高速道路を走らせ、伝統的な建築物を無造作に壊し、採石のために山をはげ山にしてしまった。
 日本の都市の景観は、他の先進国の主要都市に比べて決して美しいものではない。多くの地域で電柱が林立し、ペンシルビルが立ち並び、広告看板が目に付く。しかも、残された魅力を外国の人々にも分かり易く見せ、説明することもしてこなかった。
 外国人が一人で日本を旅行することはきわめて難しいし、コストがかかるといった不満も多い。地方公共団体では、地域起こしの一環として観光開発に力を入れているものもあるが、そうした努力に欠け、観光客の興味を高める周辺地域とそのネットワーク化や魅力の発信が不十分なものもある。
 このような努力不足が日本の魅力を活かしきれず、観光後進国の地位に甘んずる結果となったのである。

 第3に、新しい魅力を創る努力が欠けている。観光客を二度、三度と招くには、新しい魅力を創り出す努力を継続しなければならない。
 国や観光拠点の魅力は、ただ単に現存するものを掘り起こし、維持するだけでは十分ではない。絶えず、新しいものを創造し、発信する必要がある。新しいイベント、新しい芸術、新しい都市、新しい技術、新しい産業に人は惹かれるものである。日本は産業発展には力を入れてきたが、文化や学問には、これまで、さして力を入れてこなかった。
 2005年に愛知県で計画されている万国博覧会が日本に外国人観光客を招き入れる重要な機会である。日本の技術のみならず、社会に息づく文化や日本人の豊かな感性を海外に発信する契機としなければならない。
 ここ10年、アジアにおける主要なイベントは中国に集中している。日本では、東京映画祭も最近では一時の熱気はないし、世界の若者があこがれるアニメの製作拠点があっても、それに世界の人々を呼び込む、優れた企画がない。日本の産業技術は世界に誇り得るものであるが、それを体系的に整理し、後世に伝え、あるいは海外の人々の関心を呼ぶ努力もしてこなかった。
 日本の産業技術のきめの細かさ、確かさは世界が認めるところである。これを実地に見学できる産業観光は、「ためになる楽しさ」を求めるこれからの旅にとって、一つの大きな柱となるはずである。日本の工場は道場だといわれるように、そこにはピンと張り詰めた緊張感があり、人はそこで、日本独特の優れた物づくりの心を知ることができる。産業観光が、日本製品なり日本企業なりに対する信頼感を生む効果は、極めて大きい。
 魅力は、創り出すものだということに思いを致さなければならない。
 第4に、経済社会の活力が停滞している。
 日本は1990年代後半には年率0.2%という低い経済成長にとどまり、失業率も5.2%になった。人々の間に停滞感が漂っている。規制改革も不良債権処理も進められているが、海外の人々の目には、日本は、「変わらない国」、「変わろうとしない国」と映る。それでは、海外からの投資も増えないし、コンベンションなども増えない。
 海外からの留学生は、2002年に約9万6千人に増加したが、それでも、世界全体(ユネスコの1997年の統計)の6%程度に過ぎない。教育改革の機を捉え、海外留学生に選ばれる大学となるよう改革しなければならない。
 観光が経済社会の総合的な魅力の発現にもかかっているとすれば、経済社会を活性化しないと魅力を弱めることとなる。

 このように、日本は、残念ながら、その優れた魅力をあえて減殺してきた。日本人が自信を回復し、内なる国際化を加速するためにも、こうした行動を改め、日本の魅力を維持し、創造し、発信していかなければならない。

3.日本ブランドの発信
(1)ブランド発信に総合戦略を

 日本ブランドの発信力を高めようと思うならば、その発信を戦略的に展開する必要がある。それには、海外での日本のイメージの調査と把握を手始めに、発信戦略の構築、そして効果的な発信行動を再編成する必要がある。

 外国のPR戦略は、大いに参考になる。英国は、ブレア首相の提唱によるブリティンTM(Trade Mark)運動を展開するに当たって、英国のイメージを徹底的に調査した。米国ではクリントン大統領時代にツーリズム・ストラテジー・カウンシルを設立し、その戦略を提案している。日本は、最近、経済こそ停滞しているが、世界に誇りえる文化を始め、戦略的に打ち出し得る魅力の源泉は豊かである。
 日本は、高度成長の過程で経済パフォーマンスが諸外国から賞賛されていたため、日本が国際的にどのように評価されているかにさして意を用いてこなかったが、日本の魅力についての諸外国の意識を確かめ、日本ブランドの高揚に向けて、何を強調して、いかなる方法で発信していくべきか、総合戦略を建て直していかなければならない。
 海外からの観光客を誘致するための国際観光振興会(JNTO)の2002年度の海外宣伝事業費は、わずか約5.9億円であり、これは2000年度におけるフランスの約10%、イギリスの約15%、香港の約13%、2002年度における韓国の約26%に過ぎない。これでは海外の来訪者を現在のレベルから2010年に倍増させるということには程遠い。関係予算を他の先進国並みに増額し、ブランド発信の充実に内閣を挙げて取り組む必要がある。その際、在外公館、観光に関係する政府関係機関(国際観光振興会(JNTO)をはじめ、国際交流基金、日本貿易振興会(JETRO)等)の海外機能、特に今後急速に観光への関心が高まる東アジア地域における機能を充実する必要がある。同時に、政府は、観光に関連する諸企業の協力を求めるとともに、内外の専門機能を活用して、効果的な発信を展開する必要がある。

(2)マーケティング機能を強化しよう
 観光を拡大するには、マーケティングが必要である。地域によって、人々によって、その関心が異なるからである。
 概して言えば、欧米の人々は伝統的な文化資源などに関心があるが、アジアの人々は雪山、景観、娯楽施設、温泉、買い物などを好む。所得階層や年齢層によってもニーズも違えば、求める価格層も異なる。ニーズやウォンツに応じて、きめ細かく、多様なサービスを提供するには、マーケティングが重要な鍵を握っている。文化的な感性の豊かな女性や将来の成長の担い手である若者の市場開拓には、特に配慮する必要がある。
 マーケティング機能は、まず、観光関連産業が担うべきものであるが、それを効果的に実施するため、政府は、政府関係機関や民間団体の支援体制を充実強化する必要がある。

(3)国と民間と地方の連携を高めよう
 日本のブランド力を高めるには、国及び民間そして地方が連携して効果的に発信する必要がある。国は全体の戦略を構築し、日本全体のイメージの向上と関係者の取組みを円滑化する環境の整備に焦点をあて、民間は関連企業が協調して観光拠点の情報発信とサービスの改善に努め、地方公共団体はその地域の特質を高め、その関連企業の取組みを円滑化する環境を整備することに努力する必要がある。

 海外からの観光客の情報ニーズは多様である。ただ単に観光施設やそれへのアクセスばかりでなく、広くその歴史や文化的背景を求めることが多い。そのニーズに応えるような関係者の連携が欠かせない。
 同時に、日本人全員が「観光大使」の気概をもって、日本の魅力を海外の人々に十分に伝えていくことを心掛けねばならない。これは海外で暮らす日本人に特に留意していただきたい点である。在外公館、政府機関や地方の出先機関、そして海外企業などは、日本の魅力のショールームなのである。

(4)アピールに迫力を
 日本ブランドを発信するに当たっては、訪日可能性のあるターゲットに焦点をあて、アピールの印象度の向上を図らなければならない。この点、日本は残念ながら貧弱であった。ブレア首相にしろ、シラク大統領にしろ、金大中前大統領にしろ、自らPRを買って出て、外国の人たちに来訪を呼びかけている。トップセールスはアピール度の向上に極めて有効である。

 日本は、海外の人には、とかく分かりにくい国と映る。組織の意思決定が集団的で、表現方法にあいまいさがあるからである。日本の魅力をアピールするためには、日本のアイデンティティーを確立した上で、その魅力を端的にパターン化し、システム化して、そのイメージを分かり易く表現する工夫が必要である。
 2005年に愛知県で計画されている万国博覧会は、日本の魅力を知らせる絶好の機会である。さらに、学校教育などにおいて、自分の国や地域の魅力、自分そのものを語れる知識とコミュニケーション力を高める必要がある。

(5)情報通信手段の多様な活用を
 最近、諸外国では、情報通信手段を積極的に活用している。例えば、ブリティッシュ・カウンシルのホームページにアクセスすると、一般的な英国の基本事情から、産業、教育、文化、技術に至るまで、多くの情報が入手でき、さらに観光については、その有力な対象、アクセス方法、そして滞在手段などが提供される。
 現状では、日本観光の外国向けのネットサイトはまだまだ貧弱である。官民挙げてその整備を図る必要がある。そのコンテンツとしては、国についての一般情報、生活上の基本情報、アクセス、宿、食、遊、学、体験、移動、イベント、土産物など生きた情報を日々更新し、さらに直接予約できる機能を持たせる必要がある。これは、英語は言うに及ばず、中国語、韓国語での表示が望ましい。
 各地域の観光案内所における外国語によるサービスや情報提供、宿泊施設など、サービス内容のデータベース化と情報開示も進めなければならない。

4.魅力を活かす環境整備
(1)ハード・ソフトのインフラ整備を

 観光立国を実現するためには、日本の魅力が如何なく発揮できるよう、ハード及びソフト両面のインフラを総合的に整備する必要がある。日本はそれが遅れていたために、必要以上に魅力が減殺されてしまっている。
 日本のハード面のインフラは宿泊施設、交通網などかなりの面で整備が進んできたが、それでも、空港が遠い、交通費が高い、インフォメーションセンターが不十分であるなどの不満の声が多い。海岸線、山林、休耕地、旅館、ゴルフ場など現に十分に活用されていない観光資源を有効活用すれば、魅力向上に役立つ。地中海周辺や南シナ海沿岸に観光客の人気が集まっている現実は、明るく開放感のある海岸線が、閉塞感のある今日、新たな魅力を発揮しつつあることを物語っている。本来美しく長い日本の海岸線を豊かな観光の資源として捉え直すことは極めて有効である。
 ソフト面となると、なお問題が多い。ビザや入国管理、外国語表示の制約はもとより、日本人の語学力の低さ、島国意識から来る外国人への消極的な態度も潜在的に問題である。外国人留学生や外国企業をもっと誘致すればこの点も改善していくであろう。
 観光立国を目指すには、観光のみならず、国際会議、イベント、企業誘致、留学、映画、映像、アニメ、ポップスなど関連産業をツーリズム産業として、戦略的に展開していく必要がある。

(2)日本への入国手続の改善を
 日本には、海外の人々が来訪するに当たっていくつかの考慮すべき点がある。その一つがビザ発給制度である。
 日本は欧米先進国など63カ国に対して、ビザを免除している。今後来訪者の増加が期待されるアジア地域では、シンガポール、パキスタン、バングラデシュ、ブルネイ及びマレーシアのみがビザ免除対象国となっている(ただし、パキスタン及びバングラデシュについては、ビザ免除を一時停止中であり、マレーシアについては、ビザ取得勧奨措置を実施中である。)。
 一方、アジア地域には、独自に日本人に対してビザ不要の措置をとっている国もある。日本では、治安の悪化、不法就労などの問題が指摘されているので、これらについて適切な対策を実施しつつ、査証発給手続の簡素化、迅速化等適切な対策を講じていくとともに、さらに、環境を整え、個別の国ごとに査証免除措置についても検討を進めていく必要がある。
 また、適切な対策を実施しながら、現在3地域に限定されている中国からの団体観光旅行のビザ発給対象地域に関する検討も進める必要がある。
 外国人の入国審査について、長時間を要するという不満が多い。審査官の要員上の制約があるが、玄関口で不愉快な思いをするようでは、日本への来訪者は増えない。その改善も図らねばならない。

(3)外国人が一人歩きできるように
 日本は、外国人が一人歩きできる環境を整備しなければならない。この問題を解決するためには、海外からの訪問者の視点で課題を洗い出し、早急に解決する必要がある。
 日本の現状をみると、外国人が関心を持つ関連情報の提供も不十分であり、インフォメーションサービスもお粗末である。欧米ではほとんどの主要観光地の駅周辺では地図や絵葉書を売っているが、日本の地方都市ではそれもない。看板や切符などの英語表示が不足しているし、地下鉄などの交通機関の利用方法について、英語によるわかり易い手引きも用意する必要がある。道路標識も初めて来る人にでも分かるように改善すべきである。
 主要都市におけるインフォメーションセンターの設置、外国語による観光ガイドブックの提供、切符の英語表示、公共交通機関における英語によるアナウンスの実施、主要観光地における英語によるサービスの提供、美術館や博物館等における英語による説明の実施などの改善を図る必要がある。
 諸外国の多くが実施しているように、外国人観光客交通機関の共通割引制度の導入も検討に値する。

(4)観光産業の国際競争力を強めよう
 観光産業は、今後のリーディング産業の一つと位置付けられるべきものである。その発展を実現するためには、観光事業を産業として捉え、その国際競争力を強化しなければならない。それには、関係企業がアイデアを出し合い、サービスを競い合うよう、規制をできる限り緩和し、市場機能を高める必要がある。
 東アジア地域では、所得水準が上昇し、観光へのニーズが急速に高まることが予想されるが、同時に、観光資源の豊かな東アジアでの観光競争は烈しいものになると予想される。
 観光は必ずしも価格競争が決め手になるわけではないが、高い価値を提供できなければ、高価格がマイナスに作用することになる。観光産業が国際競争力を高めるためには、海外からの来訪者のニーズに合った多様なサービスを提供し、しかも価格帯が広く、幅広く選択できることが望ましい。
 日本の物価高は、海外で定評があるが、その中でもいろいろな選択方法があることを知らせることも必要である。適切な情報提供、ニーズに沿った多様なサービスの提供、心のこもった思いやり、それらが、観光産業の国際競争力の源泉である。

(5)地域に根ざした魅力を高めよう
 日本では、それぞれの地域が美しい自然景観や文化資産をもち、食文化や祭などの伝統行事を伝えているものが多い。しかしながら、地元の安くておいしい食を、おしゃれなレストラン等で外国人が味わう機会は、ことに地方の場合、極めて少ないといっていい。
 生活文化を軸にこれらを整備し、創造し、さらに、周辺の地域とのネットワーク化を進めることによってさらに魅力を高めることが必要であろう。地域の観光振興に先導的な役割を果たしている「観光カリスマ」にも、その期待が高まっている。それぞれの地域が魅力を競い合い、セールスポイントを高め、自律的な努力を促す意味を込めて、「一地域一観光」の国民運動を展開することを提案したい。
 都市の美観と魅力をさらに高める必要がある。今日、世界の人々の多くは、都市にあこがれる。日本の都市をより美しくするため、「街を美しくする」国民運動も展開する必要がある。とりわけ、散策に適した歴史的古都の整備は大きな課題である。
 農山漁村は、内外の人たちに日本の優れた農業技術等を伝え、体験し、楽しんでもらうとともに、都市と農村を双方向で行き交うライフスタイルを選択するといったこれからの生き方を、現代人に根本から考えさせてくれる。このような交流も積極的に進める必要がある。

(6)人材を育てよう
 観光は、知的文化産業であり、人間的な産業である。観光立国を実現し、観光産業の国際競争力を強化するには、それに相応しい能力を備えた人材が決め手である。政府及び民間を挙げてその育成に努める必要がある。
 同時に、専門の観光リーダーを育成するため、教育改革が進行する機を捉え、高等教育機関において観光関連の学部を新設すること、産官学の協力・連携体制を観光についても強化することも検討すべきである。


終わりに

 私たちはいま、歴史の大きな転換期を生きている。全身に大きな驚きと喜びと幸せを与えうる二十世紀型・大型の技術・工業製品が乏しくなり、それとともに景気の後退、低迷や先行き不透明感、不安感が全世界に強まりつつある。明日を進歩と発展に生きる時間の観念は、百年ぶりに後退した。
 そのような不安な時代に、人は旅をする。それは、かつてのような気晴らし、レクリエーションの旅ではない。生きる知恵と楽しさ、安心と感動を求めての、「ためになる楽しさ」の旅である。そのために、空間感覚を拡げて、風土や文化の異なる全世界の国々や地域を訪れる、大旅行、大交流の時代がやってきた。
 したがって、一方では、ジェット機、高速鉄道、ハイウェイなどを駆使しながらも、人は目的地で、徒歩での散策を楽しむ。歩きながら食べ物屋の匂いや味、生活用品・土産物の色や形やデザイン、街並みの美しさなど、「くらしといのち」の知恵と楽しさを味わい、人々の笑顔に安心する。すなわち、単なる名所旧跡ではなく、目耳鼻口手足にとってのいわば「人くさい楽しさと心地よさ」すなわち、地域や国の文化を歩きながら発見し、そこに心底の驚きや感動を覚えようとする。そのような「徒歩の時代」が、二十一世紀である。
 その意味で目的地には、歩くための「分かり易さ、美しさ、そして安心」が欲しい。そこには、「人と人、人と自然、人と歴史」のいい調和がなくてはならない。歴史的古都、歴史的建造物を含む地域の整備が求められるとともに、フランスのミシュランのようないいガイドブック、良質のインフォメーションセンター、地図、美しい絵葉書なども不可欠である。
 「人くさい楽しさと心地よさ」とともに、これからの旅に求められるのは、「ためになる楽しさ」である。全世界的に「知恵の手づまり」状況にある今日、楽しみながらビジネスチャンスや勉強にもつながる旅がしたいのが、現代人である。産業観光や農業・農村観光が、新たに脚光を浴びつつあるのはそのためである。「住んでよし、訪れてよし」の国づくりに向けて、産官学の連携強化、従来型を脱却した、観光産業の革新と知的レベルの画期的向上が、喫緊の課題として突きつけられている。
 明治から百三十余年、戦後から六十年近く経った今日、あらゆる困難を乗り越えて、観光立国を産業立国とともに車の両輪とすべき時がきた。世界の国々、世界の人々に愛され、親しまれる日本となるために、そして私たちの子供や孫たちが幸せに繁栄するために、である。本懇談会報告書の提言が、今後、各省庁間の緊密な協力の下に、アクション・プログラムとして具体化されることを切に望みたい。