日本経済を活性化し、豊かな社会を実現していくためには、これまでの経済社会構造を見直し、市場における公正かつ自由な競争を積極的に促進することが必要であり、そのためには、基本的な競争ルールである独占禁止法のエンフォースメントの強化を図る必要がある。また、その機能・権限をつかさどる公正取引委員会については、市場参加者の声を十分に踏まえ、違反事件審査における事業者の秘密の保持の必要性等にも配慮しつつ、組織の中立性・独立性や審査の迅速性・透明性等を確実に担保する必要がある。ルールとそのエンフォースメントはまさに車の両輪であり、双方の改革により、我が国の経済社会を真に競争的なものにしていくための市場監視体制を構築していく必要がある。このことは、証券、電気通信、エネルギー等の特定の専門分野における市場監視についても同様であり、専門市場の監視体制は、このことを踏まえた上で、公正取引委員会と適切な連携を図っていく必要がある。
また、我が国の経済活動に公正かつ自由な競争をより一層導入していく上では、政府自らがその範を示すことが是非とも必要である。政府調達については、結果平等から機会平等への転換、より一層の透明性と効率性の確保という観点から必要な改革に取り組むべきである。
さらに、様々な業種や規模の企業が活力ある企業活動を行えるよう、持株会社や大規模会社の株式保有制限に関する規制や、親事業者と下請企業との間の規制等については、経済環境の変化に即応して、引き続き、適切な対応をする必要がある。
(1)独占禁止法違反事件に関する審査機能・体制の見直し・強化
- 平成13年度の公正取引委員会における独占禁止法違反事件の審査実績(不当廉売事案で迅速処理したものを除く。)を見ると、総審査件数124件のうち勧告等の法的措置に至ったものは、38件(約3割)に止まっている。また、こうした勧告等のほとんど(36件)が入札談合等(価格カルテルを含む。)であり、同委員会の役割に対する期待の大きい情報通信、エネルギー等の分野における勧告等がほとんどないこともあるため、不公正な取引方法や私的独占についての同委員会の取扱いは、十分とは言えないとの指摘もある。したがって、審査案件の発掘について民間からの直接の情報の吸い上げを含め、情報収集力を高める方策を検討するとともに、これらの事件を重点的に取り上げていく必要がある。
また、審査期間について見ると、同年度の法的措置事件に関する平均審査期間(立入検査から法的措置までの期間(休日を含む))は286日(約9か月半)となっている。これは、我が国の経済社会や個別市場における競争環境の変化のスピードからすれば、長いものとなっており、同委員会においては、事件審査に要する期間の短縮に努める必要がある。
さらに、同年度の総申告件数770件のうち審査処理されたものは87件(約1割)となっており、また、申告の受け付けや審査打切りの手続等に関連して、申告された案件について同委員会がどのように考えたのか説明が十分とは言えないなどの問題点が指摘されている。また、審査期間が長いことに加え、こうした審査における透明性の点についても、産業界等外部からの批判があることも事実である。
こうした中で、同委員会が、我が国の競争政策における中核的存在、いわば「市場の番人」として機能することが、我が国において健全な競争社会を実現する上で極めて重要である。しかしながら、現在、同委員会の職員数は607名であり、違反事件の審査部門の職員数はその約半数の294名に止まっている。また、このうち、受け入れられている弁護士等の外部人材は、25名である。
こうした同委員会の現状を見れば、同委員会は、このままでは、全ての産業や全ての取引についてカバーし、独占禁止法違反行為を摘発し、それを迅速に処理していくことは困難である。したがって、同委員会の人員の抜本的な拡充を図るとともに、これまで以上に多様な手段を講じつつ、同委員会の審査機能・体制を、早急かつ抜本的に強化していくことが必要である。
@ 民間等の外部人材の積極的な受入れ
冒頭のような審査実績、特に、公正取引委員会の役割に対する期待の大きい分野の実績などを踏まえると、同委員会は、既存の研修の内容を向上させるとともに、例えば、弁護士、エコノミスト等の民間の専門家や、出向元との関係にも一定の配慮をした上での他省庁からの出向者など、外部人材の専門性が生かせる分野については、非法執行部門も含め、その受入れを積極的に検討し、審査部門の強化を図るべきである。さらに、審査に関わる職員の専門性を向上させるため、同委員会は、外部との人材交流の一層の拡充を図るべきである。
A 審査部門の人員の充実等
公正取引委員会において、審査部門に重点を置いた一層の体制整備を進めるため、審査部門への人員の重点的配置等についても、迅速かつ計画的に行う必要がある。特に、違反事件の大型化、審判で争われる事例の増加等に対応するため、違反行為の監視体制の強化、事件処理の迅速化の観点から、審査部門の人員の抜本的な増強が必要である。このため、上記の外部人材の受入れと併せて、人員充実及び人員の重点的配置のための具体的な検討を速やかに行うとともに、審査部門内の機能・体制についても、より一層の審査の迅速化及び実績の向上に向けた検討を行うべきである。
B 審査の迅速化のための新たな目標の設定・公表と客観的な評価の実施
公正取引委員会の平成13年度の平均審査期間(286日)は、経済・産業の実態における変化のスピードと比べると長いものとなっている。
したがって、同委員会は、今後、審査の迅速化を図るため、人員の充実及びタスクフォースの活用等による専門性の向上を図るとともに、各事業分野における紛争処理機関等との性格の違いも踏まえつつ、一律の目標ではないにせよ、情報通信、エネルギー等の公益分野における新規参入案件などを中心に、国民の期待に沿った標準的な審査期間の目標を設定・公表し、その結果を評価することなどにより、迅速かつ効果的な事件の処理に努めるべきである。その際、こうした期間は一つの目安であって、たとえその期間を超えたとしても、関係人が措置の対象にならないわけではないことを明確にする必要がある。
また、今後、こうした迅速かつ効果的な処理を通じて、同委員会の審査実績を飛躍的に向上させるためには、審査に関する目標を策定・公表するとともに、定期的に、政策評価を実施し、その枠組み等を活用して、客観的な評価に努めるべきである。
その際、特に、情報通信、エネルギー等の公益事業分野については、実際の審査結果が、どのように新規参入や競争促進につながっているかなど、定性的・定量的な観点からの評価に努めるべきである。
C 警告・注意等の取扱いの改善
公正取引委員会が、独占禁止法違反のおそれがあるとして行う警告、注意といった取扱い(平成13年度は合計41件)については、行政側からの一方的な通知であり、事業者がそれを法的な手続の中で争うことができない等の問題がある。こうした手段は、競争制限行為を迅速に除去するために、一定の範囲で必要性が認められるものの、上記のような問題があることを踏まえ、同委員会においては、違反行為を排除する必要がある場合には、勧告等の法的措置により対応することを原則としつつ、これら事実上の行政指導や注意喚起については、その取扱いを必要最小限とし、かつ上記のような問題点についての改善が可能かどうかを検証し、可能な場合には改善を図るべきである。
D 審査打切りの概要の公表
審査打切り(平成13年度は8件)については、申告者に対し、その理由等について十分な説明がなされていないこと等も多いとの指摘もある。したがって、事案の関係人がその旨の公表を望む場合には、説明責任を果たす観点から、打切り案件のおおまかな概要の公表を行うべきである。
(2)企業結合に関する審査機能・体制の見直し・強化
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@ 民間等の外部人材の積極的な受入れ及び内部体制の見直し・強化
平成13年度の企業結合審査は、1,254件の届出に対し、僅か22名の体制によって対応しており、審査内容が不十分、かつ、審査期間が長期間になっているとの指摘も多い。したがって、審査能力・専門性を向上させるため、公正取引委員会は、審査人員を増加させるとともに、非法執行部門を含め、民間の専門家や、出向元との関係にも一定の配慮をした上での他省庁からの出向者など、専門性が生かせる分野について、積極的にこうした外部の人材を活用すべきである。また、企業結合審査部門への人員の重点的配置により、機能・体制の強化を図るべきである。
A 審査の迅速化のための目標の設定・公表
企業結合の事案の中には、審査に長い期間を要する事案も多いとの指摘もあることから、公正取引委員会は、国民の期待に沿った標準的な審査期間の目標を設定し、これを公表すべきである。
B 審査対象の重点化のための明確な基準の策定
今後の企業結合審査の効率性を高めるため、公正取引委員会は、更に審査の重点化を行うとともに、市場における予見可能性を高める観点から、事案の公表のより一層の充実を図るべきである。また、これらを含む過去の事例の蓄積を踏まえ、現行のガイドラインにおいて重点化に向けた明確な基準の策定・公表について検討すべきである。
C 企業結合案件に関する透明性の向上
審査の透明性を向上させるため、合併等を認めたもの、認めなかったもののうちできるだけ多くの案件について、事業者の秘密に関する部分を除き、支障のない限り、その理由を含め、公表内容のより一層の充実化を図るべきである。
公表に当たっては、予見可能性を高める観点から、どのような市場(一定の取引分野)をどのような基準(取引対象商品又は役務、地理的範囲)で画定したのか示すとともに、画定した市場における審査結果の内容、及び判断の根拠となる、市場シェア、順位、当事会社の競争状況(市場における競争者の数・集中度、参入、輸入、閉鎖性・排他性等)等の基準や、各合併等案件の市場の競争状況への影響をどう評価したかなどの判断の理由・基準等を示すべきである。また、当事会社が申し出た問題解消措置を前提として容認された事案については、当該問題解消措置に対してどのような評価を行ったかについても示すべきである。
D 事前相談の明確化・透明化
公正取引委員会が正式の届出の前に事前相談を受け付けていること(事前相談件数は年間約150件)等については、企業側にとっての利便性の向上に資する面もある一方で、そのプロセスが不透明で場合によっては不公平感を生み出しているとの指摘や、企業側の予見可能性の低下を通じて事前相談件数が増大するとの悪循環が生じているとの指摘もある。このような指摘に対応するため、同委員会は事前相談制度を明確化・透明化すべきである。
具体的には、事前相談のうちどのような案件を公表するかの基準を明示するとともに、同委員会が企業に求める提出資料リスト、審査期間等を明示・公表するなど、運用を明確化すべきである。
(1)証券取引分野における市場監視機能の強化等【平成15年度中に検討・結論】
- 我が国経済の再生・発展にとって、市場機能を中核とした金融システムを確立していくことが喫緊の課題となっており、その際、一般投資家を含め、市場参加者の裾野を広げていくことが重要であるが、現状は、証券市場について国民の十分な信頼を得られているとは言いにくい状況にある。また、金融・証券取引の分野におけるルールは事前型から事後型へシフトしつつあり、事後型ルールに対する法益が増大している。そこで、一般投資者の市場に対する信頼感を醸成するためには、ルールの一層の整備が必要であるとともに、ルールに違反した者にきちんとペナルティを課せられることが最低限必要であり、また、法益の増大にかんがみると、そのペナルティも強化される必要がある。これらの点を踏まえ、証券取引分野においても、証券市場監視を強化する観点からのエンフォースメント手段の強化・拡充及び複線化、並びに罰則規定の見直し等が必要である。また、資本市場の健全性と公正性をより一層確保できるよう、市場の監視取締体制について、十分な人員及び予算を確保することが必要である。また、行政上の制裁措置等や、不公正取引、ディスクロージャー等に係る資本市場の監視取締に必要な規則の制定については、市場により近い証券取引等監視委員会が一層重要な役割を果たすことが肝要であり、そうした方向性に沿って、更なる独立性向上の必要性も含め、市場の監視取締体制の在り方について検討を行い、結論を得るべきである。
@ 民事・行政的な制裁的負担を賦課する制度に係る検討等
機動的に必要十分な市場における違法行為への対応を行うためには、厳格な構成要件が要求される刑事罰と市場における仲介機関等を主たる対象とする行政処分というエンフォースメント手段の実効性を検証した上で、不公正取引や不実開示等の証券取引法違反行為について、行政上の制裁として、米英等の民事制裁金や独禁法上の課徴金の制度等も参考にしつつ、民事・行政的な制裁的負担を賦課する制度の導入について検討を行うべきである。その際、適正手続の確保策についても併せて検討すべきである。
A 差止命令や是正命令等の積極的活用
証券取引等における詐欺的行為等に起因する被害の拡大の早期防止等、機動的な投資家保護の観点から、行政等の申立てに基づく裁判所による違反行為者に対する差止命令や是正命令等が活用されるような検討を行い、また、例えば、米国の差止命令・是正命令に類似する制度(行政限りでの差止命令・是正命令制度)についても、英米でのエンフォースメントの実態や、日米の法制の差異、我が国における違反行為の実情を十分精査した上、幅広い角度から検討すべきである。
B 証券会社の行為規制の見直し
証券会社の行為規制については、法令違反に対する抑止力として十分な実効性が確保されているかどうか検証し、必要に応じて、適切な対応を行うべきである。
C 帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に対する罰則の強化
法定帳簿は、顧客の投資判断には直接関係しないとはいえ、その虚偽記載は、行為の悪質性・重大性において、有価証券報告書等の虚偽記載と同等ではないかとの指摘もあり、他の法制における法定帳簿の取扱いとの整合性、証券取引法の他の罰則との整合性等を踏まえ、現行法令による抑止力の実効性について必要な検討を行うべきである。
D 民事責任規定の見直し
開示規制の違反に関する民事責任規定は、これまで十分に使われてきているとはいいがたく、その実効性を高める観点から、開示制度の運用の実態に留意しつつ、その見直しを検討すべきである。また、不公正取引については、相場操縦に関する規定と短期売買差益の返還規定を除いて民事責任の規定が設けられていないが、この分野におけるルールのエンフォースメントを確保する観点から、@民事上の救済手段との関係をどのように考えたらよいか、A相場操縦以外の行為については必ずしも市場における行為が必ずしも前提となっていないことについてどのように考えるか等に留意しつつ、具体的な民事責任の規定の導入の是非について検討すべきである。
E 有価証券の定義の見直し
現行の有価証券定義は限定列挙とされているが、投資家保護の観点から、包括的な定義規定を設けることに関し、定義規定の明確性の問題や証券取引法の規制内容に適した商品に限定できるかどうかといった問題も含め、検討すべきである。
(2)各事業分野におけるエンフォースメントの強化【平成14年度から逐次措置】
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@ 電気通信事業分野におけるエンフォースメントの強化
電気通信分野においては、平成13年に電気通信事業紛争処理委員会が設置され、紛争処理については一定の迅速性を持った対応がなされているところであるが、引き続き、市場参加者のより一層の信頼を得るべく、市場環境の変化に即応した競争ルールの見直しを図るとともに、情報収集、監視、紛争処理、制裁措置といったエンフォースメントの強化に一体的な取組を図るべきである。
A エネルギー分野におけるエンフォースメントの強化
電気事業分野及びガス事業分野においては、市場の開放により競争が促進され様々な紛争が生じることが予想されることから、公平性・中立性・透明性が確保された機動的な紛争処理を行う組織を整備するとともに、競争促進ルールのエンフォースメントの強化という観点から市場監視機能の強化を図るべきである。
B 公正取引委員会と各事業所管官庁との連携の推進
電気通信、エネルギー等の公益事業分野の競争促進の観点からは、公正取引委員会と各事業所管官庁の両者が協働して更なる連携の具体的方策を構築し、これによってエンフォースメントの一層の強化を図るべきである。すなわち、両者のエンフォースメントが重複し、市場に混乱が生じることがないようにするため、それぞれの具体的適用関係を明らかにし、適宜機動的に見直しを図るとともに、必要な場合には相互の連絡や情報提供がより円滑に行えるようにする等、所要の措置を講ずるべきである。