8 農林水産業
【問題意識】
日本は恵まれた自然条件や「食」に対する根強い国民ニーズが存在している中で、食料自給率が傾向的に低下している上、先進主要国の中でも最低水準となっている。これは市場メカニズムが十分に機能せず、需要の変化に国内生産が対応してこなかったことも大きな要因である。
我が国の農業生産構造は、競争力のある大規模な先進農家や農業生産法人の萌芽は見られるが、兼業収入に依存する零細農家に農地が滞留している。
しかしながら、我が国農業の潜在成長力は大きく、効率的な生産活動を営む農業主体に農地が集積し、農産物の生産コストを減少させることで、国際競争力の向上は十分に可能であり、食料産業の活性化と農業の構造改革に向けこれまでの政策を速やかに見直すことが必要である。
1 農地利用規制
我が国農業では、生産性の低い零細農家の農地が大規模農家に集約されるという競争メカニズムが十分に働いてこなかった。これは、零細農家を中心に、資産保有意識が依然として強く、転用によるキャピタル・ゲインを期待していることが大きな要因としてあげられる。
農地の転用を制限している法律として、農振法(農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号))及び農地法(昭和27年法律第229号)がある。実際の運用は、農振法のゾーニングが、転用目的の個別案件に応じてその都度見直される場合が多い。
農地法・農振法の運用には、各市町村の農業委員会が大きな役割を果たしており、例えば、農地転用を行う場合は、農業委員会を経由して申請し、農業委員会が意見を付して許可権者たる都道府県知事に送付することとなっている。この農業委員会は、全国で約6万人に上る委員により組織されているが、農業者の選挙と、農協や議会の推薦で選出される地域関係者から構成されていること等から、農地転用に係る判断が地権者の意向を反映しやすいものとなっているとの指摘がある。また、特に農用地区域外の農地に対する転用規制の判断として甲種農地、第1〜第3種農地の区分は、転用事案が生じた場合にその都度判断されることになっており、規制手法としては不十分であるとの指摘もある。
なお、農地利用規制に加え、農地税制も零細農家による農地の資産的保有を助長している大きな要因と考えられる。一般に、農地の固定資産税評価額は、商業地、工業地よりかなり低く、相続税についても、課税評価額が著しく低いこと等から事実上相続税がかからないものと見られ、さらに、課税される場合でも納税猶予制度の適用がある。
2 農協への規制
農業協同組合(農協)は農家の自主的な相互扶助組織であり、その大多数は、農協系統と呼ばれる全国組織(JA)を形成している。その組織形態は、合併・組織統合により変遷しつつあるが、地域ごとに単位農協が設立され、都道府県及び全国段階に連合会がある。
事業内容は、本来の営農活動を支援する事業(共同購入・出荷、共同施設運営等)のほか、生活関連事業(スーパー、給油所、旅行代理業等)や信用・共済事業(貯金・融資、生損保等)と幅広い。非農家も准組合員として加入でき、その世帯数は316万戸にのぼる等、農村部では巨大な存在となっている。他方、運営に関わるのは農家である正組合員であるが、平成12年度現在の正組合員戸数は農業センサスにおける農家数を145万戸も上回っており、真に組合員資格を有する者のみが組合員となっているかどうか疑問がある。農協の運営は、各組合員間の平等を原則とするため、正組合員の一人一票制で意思決定が行われる。この結果、少数の大規模農家よりも多数の零細農家の利益が重視される傾向があり、零細農家はますます農協への依存度を高める一方、大規模な担い手農家の農協離れが問題となっている。
これまで農協は、農政との密接な連携の下に、我が国農業の展開に一定の役割を果たしてきたと考えるが、国・都道府県・市町村の各段階に対応した巨大組織に発展する一方、我が国農業は零細な生産構造から脱却できない深刻な状況を抱えており、これまでの農協の事業運営の在り方や農協に対する行政関与等、抜本的な見直しが必要になっている。
農協の部門別損益をみると、例えば、平成12年度の農協経営分析調査によると、一組合当たりの損益は全体では186百万円の黒字となっているが、信用部門223百万円、共済部門356百万円の収益が、購買・販売部門や利用部門等他の全ての赤字部門の損失、合計392百万円を補った結果である。このように、信用・共済事業の収益で経済事業など他の部門の赤字を補填している実態にあり、経営の健全性を損なっている
また、これまでの農政の運営は農協に大きく依存してきた。例えば、共同利用施設に係る補助金は主として農協が事業主体となっており、農家個人への補助金も農協を窓口とする場合が多い。また、事実上農協間競争が行われにくい状況を生み出し、結果として零細な生産構造の温存をもたらすとともに農業の構造改善が遅れた要因ともなっている。
さらに、独占禁止法の適用については、単独では大企業に対抗できない零細な事業者が組織する協同組合(連合会を含む)を不公正な取引方法等に相当する場合を除き適用除外としている。全国展開してきた経済事業等については不公正な取引方法で排除勧告や警告を受けた事例が発生しているが、適用除外となる具体的行為についてガイドラインも定められていない状況にある。
なお、生活関連事業、信用・共済事業で、員外利用が相当程度行われており、その実態について把握する必要があると考えられる。
3 農業経営の株式会社化等の一層の推進
現行の農地法では、農地の権利の法人による取得は、原則として農業生産法人についてのみ容認されている。
他方、平成14年12月に成立した「構造改革特別区域法」において、以下の要件を満たすことを前提に、農業生産法人以外の法人による農地の権利取得を容認する農地法の特例措置が規定された。
| @ | 耕作放棄地や効率的な利用を図る農地が相当程度存在するものと地方公共団体が認めて設定した構造改革特別区域内であること |
| A | 地方公共団体等からの使用貸借権による権利又は賃借権の設定によること |
| B | 法人の業務執行役員のうち一人以上が農業常時従事者であること |
多様な競争の促進を通じ、農業の活性化とその健全な担い手の増加、農村における雇用機会の拡大等の農業構造改革に貢献するためには、この構造改革特区制度の推進と検証を併せて行いつつ、それ以外の方式でも農業経営の株式会社化等により経営形態の多様化を推進することが必要である。
【具体的施策】
1 農地利用規制の適正化等による優良農地の保全【平成14年度に検討を開始し、平成15年度中に措置】
いわゆる優良農地ほど、平坦で区画が整い、水はけがよいなど都市的利用について好条件を備えており潜在的な転用需要が大きい。このため、明確な土地利用計画に応じた厳格な転用規制がなくては、農地の虫食い的転用が避けられない。実際、無秩序な転用が行われている場合も相当程度みられ、国土の有効利用を妨げ、農業のみならず社会全体の不効率をもたらしている。一方で、耕作放棄を防止する制度は、農業経営基盤強化促進法等において相当程度に整備されてはいるが、農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)に基づく遊休農地に対する利用増進の勧告は、市町村の判断で見送られており、耕作放棄が実効的に解消されていない。このため、以下のような見直し等が求められる。
農地転用許可、農振農用地の線引きの運用の適正化を図るため、農地転用制度及び農振農用地の線引きの運用についての実態を把握するとともに、それを踏まえて、農地利用規制の適正化に向けて必要な措置を講ずるとともに、優良農地の保全の取組が強化される仕組みの構築について検討すべきである。
農地転用規制等に関する農業委員会の決定・運用のプロセスのなお一層の透明性を確保する観点から、情報公開の徹底を図るとともに、農地利用規制の適正化に向けた農業委員会の手続等の在り方について検討を行い所要の措置を講ずるべきである。
2 農協への規制
農協は、非常に広範な事業活動を行っているが、その経営は信用・共済事業の収益に大きく依存している。また、これまでの農政運営が農協に大きく依存してきたことの見直しの必要性等が指摘される中、その経営の在り方について抜本的な見直しが必要である。
また、独占禁止法の適用除外については、単協のみならず事業規模の大きい連合会についても同様の取扱いとなっているが、公正な競争を促進する観点からその検証が必要である。
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(1)農協の事業運営の見直し
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農協が、真に担い手たる農業者の利益を目指し、協同組織としての機能を最大限に発揮するため、その事業運営や経営の健全性の確保の在り方等について抜本的に見直しを促進するべきである。【平成14年度に検討を開始し基本的方向について結論、平成15年度以降逐次実施】
また、組合員制度の実態、員外利用率の状況等を調査し、法令違反等のある場合はこれを是正するよう指導するなど所要の措置を講ずるべきである。【平成14年度中に措置】
(2)農協系統事業の見直し【区分経理の配分基準の策定については、平成14年度中に措置、区分経理の徹底については平成15年度以降逐次実施、その他については平成14年度に検討を開始し基本的方向について結論、平成15年度以降逐次実施】
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農協系統の広範な事業・組織の在り方について、抜本見直しを行い、信用・共済事業がない状態でも経営が成り立ち、組合員たる農業者(特に担い手農家)のメリットを大きくするような運営体制を確立する。このような体制作りに資するため、まずは共通経費の合理的な配分基準を示す等区分経理の徹底を図るとともに、信用・共済事業の在り方、信用・共済事業を含めた分社化、他業態への事業譲渡等の組織再編が可能となる措置を検討すべきである。
(3)農協に対する行政関与【平成14年度中に検討を開始し基本的方向について結論、平成15年度以降逐次実施】
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補助事業の実施、各種施策の推進等、農協を通じた行政運営を網羅的に検証し、その適正化を図るべきである。
(4)公正な競争条件の確保
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協同組織に対する独占禁止法の適用除外に関する制度について検証し、公正な競争を阻害する問題があれば、その解消を図るべきである。【平成14年度に検討を開始し、平成15年度に基本的方向について結論、以降逐次実施】これと併せて、不公正な取引方法、不当な価格の引上げが行われないよう、独占禁止法違反の取締の強化を図るべきである。【平成14年度以降逐次実施】
また、農協間のサービス競争の促進を図るため、多様な組合の設立が容易となるような条件整備等の措置を講ずるべきである。【平成14年度に検討を開始し、基本的方向について結論、平成15年度以降逐次実施】
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